(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068314
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】スラグ除去装置及び、スラグの除去方法
(51)【国際特許分類】
B23K 7/06 20060101AFI20240513BHJP
B22D 11/12 20060101ALI20240513BHJP
B23K 7/10 20060101ALI20240513BHJP
B21B 45/08 20060101ALN20240513BHJP
【FI】
B23K7/06 G
B22D11/12 Z
B23K7/10 N
B21B45/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178663
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】守屋 優樹
(72)【発明者】
【氏名】植島 好紀
(57)【要約】
【課題】 スラブがスカーフィングされることによって生成された溶削スラグの除去効率を向上させることが可能なスラグ除去装置を提供する。
【解決手段】
スラブをスカーフィングすることによって生成された溶削スラグを除去するスラグ除去装置は、前記スラブに向けてジェット水を噴射する噴射口が形成されているジェット水ノズルと、前記ジェット水が前記スラブの表面に対してなす角度範囲を取得する角度範囲取得手段と、前記角度範囲取得手段が取得した前記角度範囲に基づいて、前記ジェット水ノズルから噴射される前記ジェット水の噴射方向を調整する角度調整手段と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブをスカーフィングすることによって生成された溶削スラグを除去するスラグ除去装置であって、
前記スラブに向けてジェット水を噴射する噴射口が形成されているジェット水ノズルと、
前記ジェット水が前記スラブの表面に対してなす角度範囲を取得する角度範囲取得手段と、
前記角度範囲取得手段が取得した前記角度範囲に基づいて、前記ジェット水ノズルから噴射される前記ジェット水の噴射方向を調整する角度調整手段と、
を有するスラグ除去装置。
【請求項2】
前記角度調整手段は、
前記ジェット水ノズルの高さ位置を調整する昇降部と、
前記昇降部に取り付けられ、前記ジェット水ノズルの軸方向を調整する回動部と、
を有する請求項1に記載のスラグ除去装置。
【請求項3】
前記回動部は、
前記ジェット水ノズルの軸に垂直方向に沿って延びるトラニオン軸と、
前記トラニオン軸を軸回りに回動可能に支持するトラニオン支持部と、
前記トラニオン軸の各々に設けられかつ、前記トラニオン軸の前記軸回りに沿って歯が形成された第1の歯車と、
前記トラニオン支持部の各々に設けられかつ、前記第1の歯車と歯合する第2の歯車と、
前記第1の歯車及び、前記第2の歯車の歯合位置を固定する固定部と、
を有する請求項2に記載のスラグ除去装置。
【請求項4】
前記ジェット水ノズルの上方への回動を規制する規制手段を有する、
請求項1~3のいずれかに記載のスラグ除去装置。
【請求項5】
前記角度範囲は、前記スラブの巾、前記ジェット水ノズルの前記噴射口から前記スラブまでの水平方向の距離である第1の距離、前記噴射口から前記スラブまでの垂直方向の距離である第2の距離、前記噴射口の下端から上端までの垂直方向の距離である第3の距離、前記噴射口の上端側から噴射される前記ジェット水の第1の流速、前記噴射口の下端側から噴射される前記ジェット水の第2の流速、前記第2の流速で噴射される前記ジェット水が前記噴射口の上端側から前記スラブのジェット水ノズルの近位側に位置する上縁部に到達するまでに要する第1到達時間、前記第1の流速で噴射される前記ジェット水が前記スラブから前記噴射口の上端までの垂直方向の距離の落下に要する第2到達時間を含む複数の要素に基づいて設定される、請求項1~3のいずれかに記載のスラグ除去装置。
【請求項6】
前記角度範囲は、以下の式を満たす角度θを含む、請求項5に記載のスラグ除去装置。
t1=L/V下cosθ
H=Ltanθ+1/2・gt12
H+D=(V上sinθ)・t2+1/2・gt22
L+W=(V上cosθ)・t2
V上:第1の流速
V下:第2の流速
t1:第1到達時間
t2:第2到達時間
W:スラブの巾
L:第1の距離
H:第2の距離
D:第3の距離
【請求項7】
前記角度範囲は、前記スラブの巾、前記ジェット水ノズルの前記噴射口から前記スラブまでの水平方向の距離である第1の距離、前記噴射口から前記スラブまでの垂直方向の距離である第2の距離、前記噴射口の下端から上端までの垂直方向の距離である第3の距離、前記噴射口の上端側から噴射される前記ジェット水の第1の流速、前記噴射口の下端側から噴射される前記ジェット水の第2の流速、前記第2の流速で噴射される前記ジェット水が前記噴射口の上端側から前記スラブのジェット水ノズルの近位側に位置する上縁部に到達するまでに要する第1到達時間、前記第1の流速で噴射される前記ジェット水が前記スラブから前記噴射口の上端までの垂直方向の距離の落下に要する第2到達時間を含む複数の要素に基づいて設定される、請求項4に記載のスラグ除去装置。
【請求項8】
前記角度範囲は、以下の式を満たす角度θを含む、請求項7に記載のスラグ除去装置。
t1=L/V下cosθ
H=Ltanθ+1/2・gt12
H+D=(V上sinθ)・t2+1/2・gt22
L+W=(V上cosθ)・t2
V上:第1の流速
V下:第2の流速
t1:第1到達時間
t2:第2到達時間
W:スラブの巾
L:第1の距離
H:第2の距離
D:第3の距離
【請求項9】
スラブがスカーフィングされることによって生成された溶削スラグを除去するスラグの除去方法であって、
ジェット水が前記スラブの表面に対してなす角度範囲を取得する角度範囲取得工程と、
前記角度範囲取得工程において取得された前記角度範囲に基づいて、ジェット水ノズルの噴射口の軸方向を調整する角度調整工程と、
前記ジェット水ノズルから前記ジェット水を噴射し、前記スラブの表面の溶削スラグを除去する除去工程と、
を含むスラグの除去方法。
【請求項10】
前記角度範囲は、前記スラブの巾、前記ジェット水ノズルの前記噴射口から前記スラブまでの水平方向の距離である第1の距離、前記噴射口から前記スラブまでの垂直方向の距離である第2の距離、前記噴射口の下端から上端までの垂直方向の距離である第3の距離、前記噴射口の上端側から噴射される前記ジェット水の第1の流速、前記噴射口の下端側から噴射される前記ジェット水の第2の流速、前記第2の流速で噴射される前記ジェット水が前記噴射口の上端側から前記スラブのジェット水ノズルの近位側に位置する上縁部に到達するまでに要する第1到達時間、前記第1の流速で噴射される前記ジェット水が前記スラブから前記噴射口の上端までの垂直方向の距離の落下に要する第2到達時間を含む複数の要素に基づいて設定される、請求項9に記載のスラグの除去方法。
【請求項11】
前記角度範囲は、以下の式を満たす角度θを含む、請求項10に記載のスラグの除去方法。
t1=L/V下cosθ
H=Ltanθ+1/2・gt12
H+D=(V上sinθ)・t2+1/2・gt22
L+W=(V上cosθ)・t2
V上:第1の流速
V下:第2の流速
t1:第1到達時間
t2:第2到達時間
W:スラブの巾
L:第1の距離
H:第2の距離
D:第3の距離
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブがスカーフィングされることによって生成された溶削スラグを除去するスラグ除去装置及び、スラグの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スカーフィング作業によってスラブの表面に生じた疵や不純物は、スラブ製品の品質に悪影響を及ぼすため、燃焼ガスと酸素によって溶削される。溶削の際に生じた溶削ノロは、スラブの表面に残留することで残留ノロとなる。溶削ノロ及び残留ノロは、併せて溶削スラグとも呼ばれる。
【0003】
溶削スラグは、ジェット水により吹き飛ばされてスラブから除去される。しかし、ジェット水による処理が不十分で、高温の状態の溶削スラグがスラブの表面に残留したまま水と接触すると、水蒸気が発生して設備の稼働に影響を及ぼすトラブルが生じる恐れがある。
【0004】
従来では、ジェット水による処理を高めるためにジェット水ノズルの高さを調整することが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようにジェット水ノズルの高さ位置を調整しても、スラブの表面に平行な真横からジェット水を噴射した場合、噴射されたジェット水の大部分がスラブの表面と接触せずにその上空を通過する恐れがある。また、ジェット水ノズルのスラブの表面に対する角度が大きすぎると、ジェット水は、スラブの巾方向に一様にジェット水を接触させることが困難となる。その結果、スラブの表面の溶削スラグが十分に除去されない問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、スラブがスカーフィングされることによって生成された溶削スラグの除去効率を向上させることが可能なスラグ除去装置及び、スラグの除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]
スラブをスカーフィングすることによって生成された溶削スラグを除去するスラグ除去装置であって、
前記スラブに向けてジェット水を噴射する噴射口が形成されているジェット水ノズルと、
前記ジェット水が前記スラブの表面に対してなす角度範囲を取得する角度範囲取得手段と、
前記角度範囲取得手段が取得した前記角度範囲に基づいて、前記ジェット水ノズルから噴射される前記ジェット水の噴射方向を調整する角度調整手段と、
を有するスラグ除去装置。
[2]
前記角度調整手段は、
前記ジェット水ノズルの高さ位置を調整する昇降部と、
前記昇降部に取り付けられ、前記ジェット水ノズルの軸方向を調整する回動部と、
を有する[1]に記載のスラグ除去装置。
[3]
前記回動部は、
前記ジェット水ノズルの軸に垂直方向に沿って延びるトラニオン軸と、
前記トラニオン軸を軸回りに回動可能に支持するトラニオン支持部と、
前記トラニオン軸の各々に設けられかつ、前記トラニオン軸の前記軸回りに沿って歯が形成された第1の歯車と、
前記トラニオン支持部の各々に設けられかつ、前記第1の歯車と歯合する第2の歯車と、
前記第1の歯車及び、前記第2の歯車の歯合位置を固定する固定部と、
を有する[2]に記載のスラグ除去装置。
[4]
前記ジェット水ノズルの上方への回動を規制する規制手段を有する、
[1]~[3]のいずれかに記載のスラグ除去装置。
[5]
前記角度範囲は、前記スラブの巾、前記ジェット水ノズルの前記噴射口から前記スラブまでの水平方向の距離である第1の距離、前記噴射口から前記スラブまでの垂直方向の距離である第2の距離、前記噴射口の下端から上端までの垂直方向の距離である第3の距離、前記噴射口の上端側から噴射される前記ジェット水の第1の流速、前記噴射口の下端側から噴射される前記ジェット水の第2の流速、前記第2の流速で噴射される前記ジェット水が前記噴射口の上端側から前記スラブのジェット水ノズルの近位側に位置する上縁部に到達するまでに要する第1到達時間、前記第1の流速で噴射される前記ジェット水が前記スラブから前記噴射口の上端までの垂直方向の距離の落下に要する第2到達時間を含む複数の要素に基づいて設定される、[1]~[4]のいずれかに記載のスラグ除去装置。
[6]
前記角度範囲は、以下の式を満たす角度θを含む、[5]に記載のスラグ除去装置。
t1=L/V下cosθ
H=Ltanθ+1/2・gt12
H+D=(V上sinθ)・t2+1/2・gt22
L+W=(V上cosθ)・t2
V上:第1の流速
V下:第2の流速
t1:第1到達時間
t2:第2到達時間
W:スラブの巾
L:第1の距離
H:第2の距離
D:第3の距離
[7]
スラブがスカーフィングされることによって生成された溶削スラグを除去するスラグの除去方法であって、
ジェット水が前記スラブの表面に対してなす角度範囲を取得する角度範囲取得工程と、
前記角度範囲取得工程において取得された前記角度範囲に基づいて、ジェット水ノズルの噴射口の軸方向を調整する角度調整工程と、
前記ジェット水ノズルから前記ジェット水を噴射し、前記スラブの表面の溶削スラグを除去する除去工程と、
を含むスラグの除去方法。
[8]
前記角度範囲は、前記スラブの巾、前記ジェット水ノズルの前記噴射口から前記スラブまでの水平方向の距離である第1の距離、前記噴射口から前記スラブまでの垂直方向の距離である第2の距離、前記噴射口の下端から上端までの垂直方向の距離である第3の距離、前記噴射口の上端側から噴射される前記ジェット水の第1の流速、前記噴射口の下端側から噴射される前記ジェット水の第2の流速、前記第2の流速で噴射される前記ジェット水が前記噴射口の上端側から前記スラブのジェット水ノズルの近位側に位置する上縁部に到達するまでに要する第1到達時間、前記第1の流速で噴射される前記ジェット水が前記スラブから前記噴射口の上端までの垂直方向の距離の落下に要する第2到達時間を含む複数の要素に基づいて設定される、[7]に記載のスラグの除去方法。
[9]
前記角度範囲は、以下の式を満たす角度θを含む、[8]に記載のスラグの除去方法。
t1=L/V下cosθ
H=Ltanθ+1/2・gt12
H+D=(V上sinθ)・t2+1/2・gt22
L+W=(V上cosθ)・t2
V上:第1の流速
V下:第2の流速
t1:第1到達時間
t2:第2到達時間
W:スラブの巾
L:第1の距離
H:第2の距離
D:第3の距離
【発明の効果】
【0010】
本発明のスラグ除去装置によれば、角度範囲取得手段が取得した角度範囲に基づいて、ジェット水ノズルの噴射口ジェット水の噴射方向を調整する。これにより、ジェット水を溶削スラグに適切な角度で当てることが可能となる。したがって、スラブがスカーフィングされることによって生成された溶削スラグの除去効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】スカーフィング設備の構成を示す説明図である。
【
図2】スカーフィング装置の構成を示す説明図である。
【
図8】ジェット水ノズルのスラブの表面に対してなす角度と、スラブに接触する水の割合と、の関係を示したグラフである。
【
図9】ジェット水ノズルのスラブの表面に対してなす角度と、スラブに接触する水の割合と、の関係をスラブの巾ごとに示したグラフである。
【
図10】ジェット水ノズルのスラブの表面に対してなす角度が適切な場合にジェット水が噴射された態様を示す説明図である。
【
図11】各年度における水蒸気によるトラブルの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、スカーフィング設備100を示している。
図1に示すように、スカーフィング設備100は、スラブ10をスカーフィングするスカーフィング装置20、スラブ10をスカーフィング装置20に搬送する搬送ロール30及び、スカーフィング装置20の近傍の搬送ロール30を覆うフード40を有する。また、スカーフィング設備100は、スラブ10に向けてジェット水を噴射するジェット水装置50を有する。
【0013】
スカーフィング装置20としては、例えば、燃焼ガスによりスラブ10の被溶削部分を予熱した後、鉄と酸素の酸化燃焼反応を利用してスラブ10を溶削する、ガススカーフィング装置を用いることができる。
【0014】
搬送ロール30は、スラブ10の搬送方向に沿って所定の間隔で設けられている。搬送ロール30の各々は、円筒状に形成されているローラである。搬送ロール30の各々には、軸回りに回動させる駆動モータ31が接続されている。搬送ロール30は、図中の矢印の方向にスラブ10を搬送する。搬送ロール30の各々は、正転、逆転を含む回転自在に設けられているとよい。尚、駆動モータ31の回転速度を制御することにより、スラブ10の搬送速度が制御される。
【0015】
フード40は、スカーフィング設備100の外部に接続されているダクト(図示せず)を有する換気用の天蓋である。フード40は、例えば、スカーフィング装置20による溶削や、ジェット水の噴射等によって発生した蒸気、水蒸気、煙、臭気などをスカーフィング設備100の外部に排出する。
【0016】
ジェット水装置50は、スカーフィング装置20の近傍に設置されている。ジェット水装置50は、ジェット水を噴射するジェット水ノズル51を有する。ジェット水装置50は、ジェット水ノズル51からジェット水を噴射することで、スラブ10の表面が溶削されたときに発生する溶削ノロ及び残留ノロ(以下、溶削スラグとも称する)を吹き飛ばす。ジェット水装置50は、スラブ10をスカーフィングすることによって生成された溶削スラグを除去するスラグ除去装置として機能する。
【0017】
図2は、スカーフィング装置20の概要を示している。
図2に示すように、スカーフィング装置20は、溶削ガスを噴出する火口21及び、火口21を上下方向に昇降させる昇降シリンダ22を有する。火口21は、例えば、昇降シリンダ22によってスラブ10の表面に接触するまで下降した後に溶削ガスを噴出する。尚、スラブ10の溶削量は、火口21の構造、火口21から噴出されるガスの噴出角度、当該ガスの噴出量、当該ガスと酸素との比率、当該ガスの圧力等に応じて変更することができる。
【0018】
図3は、ジェット水装置50の側面図である。
図3に示すように、ジェット水装置50は、ジェット水ノズル51の高さ位置を調整する昇降部52と、昇降部52に取り付けられ、ジェット水ノズル51の軸方向を調整する回動部53と、ジェット水装置50の稼働を制御する制御部58と、を有する。昇降部52と、回動部53と、はジェット水ノズル51から噴射されるジェット水の噴射方向を調整する角度調整手段として機能する。
【0019】
昇降部52は、昇降シリンダ52a、昇降用リンク52b、昇降シリンダ52a及び昇降用リンク52bを接続するカムアーム52cを有する。
【0020】
昇降シリンダ52aは、シャフトが設けられている一端がフレーム52dに接続され、シャフトの収容部が形成されている他端がカムアーム52cに接続されている。
【0021】
カムアーム52cは、プレート状に形成されている。カムアーム52cは、フレーム52dに軸支された回動軸を有する。カムアーム52cの一端は、昇降シリンダ52aに接続され、他端は、昇降用リンク52bに接続されている。
【0022】
昇降用リンク52bは、カムアーム52cが接続されている脚部52eと、脚部52eの先端側を接続する天板部52fと、を有する。天板部52fには、ジェット水ノズル51が載置されている。
【0023】
このように、ジェット水ノズル51は、昇降シリンダ52aと昇降用リンク52bによって支持されている。ジェット水ノズル51は、昇降シリンダ52aが伸縮することにより、カムアーム52cを介して昇降用リンク52bが変位し、上下方向に移動する。
【0024】
回動部53は、ジェット水ノズル51の軸AXに垂直な方向に沿って延びるトラニオン軸53aと、トラニオン軸53aを軸回りに回動可能に支持するトラニオン支持部53bと、を有する。
【0025】
トラニオン軸53aは、円筒状に形成されている。トラニオン軸53aの各々には、その軸回りに沿って歯が形成された第1の歯車53cが設けられている。
【0026】
トラニオン支持部53bは、天板部52fの表面に対して垂直方向に延びる柱状部材である。トラニオン支持部53bは、その先端側において第1の歯車53cと歯合する第2の歯車53dを有する。
【0027】
回動部53は、第1の歯車53c及び、第2の歯車53dの歯合位置を固定する固定部としてのスクリュージャッキ53eを有する。本実施形態においては、スクリュージャッキ53eは、第2の歯車53dと嵌合することにより、第2の歯車53dを所定位置に固定するようにしている。
【0028】
また、ジェット水装置50は、ジェット水ノズル51の上方への回動を規制する規制手段としての押圧シリンダ54を有する。押圧シリンダ54は、シャフトが配されている一端がジェット水ノズル51の先端側に固定されている。押圧シリンダ54は、シャフトを収容する収容部を有する他端側がフレームの所定位置(図示せず)に固定されている。このため、ジェット水ノズル51がジェット水を噴射すると、押圧シリンダ54は、ジェット水ノズル51を一定荷重で下方に押圧する。すなわち、当該押圧シリンダ54がジェット水ノズル51を押圧することで、ジェット水の噴射することによる反力の作用を抑えることができる。
【0029】
図4は、ジェット水ノズル51の正面図である。
図4に示すように、ジェット水ノズル51は、その中央に噴射口55が形成されている。噴射口55は、正面から見て円状に開口して形成されている。噴射口55は、その最下点から最上点までの垂直方向の距離である第3の距離Dを有する。また、噴射口55は、上段の開口領域OP1及び、下段の開口領域OP2を有する。
【0030】
上段の開口領域OP1は、第3の距離Dの中間点から上方側に位置する噴射口55の領域である。上段の開口領域OP1は、ジェット水装置50からみてスラブ10の遠位側の領域に主にジェット水を噴射する。
【0031】
下段の開口領域OP2は、第3の距離Dの中間点から下方側に位置する噴射口55の領域である。下段の開口領域OP2は、ジェット水装置50からみてスラブ10の近位側の領域に主にジェット水を噴射する。
【0032】
図5は、ジェット水装置50の機能ブロックを示している。ジェット水装置50は、角度範囲取得手段58aが取得した角度範囲に基づいて、ジェット水ノズル51から噴射されるジェット水の噴射方向を調整する角度調整手段57を有する。
【0033】
角度調整手段57は、上述のジェット水ノズル51の高さ位置を調整する昇降部52と、昇降部52に取り付けられ、ジェット水ノズル51の軸方向を調整する回動部53と、を有する。
【0034】
制御部58は、ジェット水ノズル51のスラブ10に対する角度を設定するための情報を格納した設定情報データベース(以下、データベースをDBとも称する)56を有する。
【0035】
設定情報DB56は、例えば、スカーフィング設備100に導入されるスラブ10の巾、ジェット水ノズル51の噴射口55からスラブ10までの水平方向の距離である第1の距離、噴射口55からスラブ10までの垂直方向の距離である第2の距離、噴射口55の下端から上端までの垂直方向の距離である第3の距離、噴射口55の上端側(上段の開口領域OP1)から噴射されるジェット水の第1の流速、噴射口55の下端側(下段の開口領域OP2)から噴射されるジェット水の第2の流速、第2の流速で噴射されるジェット水が噴射口55の上端側からスラブ10のジェット水ノズル51側に位置する端面に到達するまでに要する第1到達時間、第1の流速で噴射されるジェット水がスラブ10から噴射口55の上端までの垂直方向の距離の落下に要する第2到達時間等の複数の要素が格納されている。設定情報DB56は、これらの複数の要素に基づいて設定される、ジェット水がスラブ10の表面に対してなす角度範囲が格納されている。
【0036】
制御部58は、設定情報DB56に格納された角度範囲を取得する角度範囲取得手段58aを有する。角度範囲取得手段58aは、取得した角度範囲を角度調整手段57に送信し、当該角度範囲にジェット水ノズル51の姿勢を調整させる。制御部58は、ジェット水ノズル51から噴射されるジェット水の噴射及び停止の切り替え、当該ジェット水の水圧等を制御する噴射制御手段58bを有する。
【0037】
図6は、スラグの除去方法の処理フローを示している。
図6に示すように、スラグの除去方法は、ジェット水ノズル51から噴射されるジェット水のスラブ10の表面に対してなす角度範囲が設定される(ステップS01)。設定された角度範囲は設定情報DB56に記憶される。
【0038】
角度範囲取得手段58aは、設定情報DB56から読み出すことにより、角度範囲を取得する(ステップS02)。角度範囲取得手段58aは、ステップS02の角度範囲取得工程で取得した角度範囲を角度調整手段57に送信する。
【0039】
角度調整手段57は、角度範囲を受信すると、昇降部52及び、回動部53を調整することにより、当該角度範囲にジェット水ノズル51の姿勢を調整する(ステップS03)。
【0040】
ステップS03の角度範囲調整工程は、スラブ10がスカーフィング装置20に到着し、溶削が開始される前に行われる。
【0041】
ジェット水ノズル51の姿勢の調整は、まず、ジェット水ノズル51の高さ方向の調整が行われる。高さ方向の調整は、スラブ10のジェット水ノズル51の近位側に位置する上縁部にジェット水ノズル51が位置するように設定する。ジェット水ノズル51の高さ調整は、昇降シリンダ52aと昇降用リンク52bが協働することで行われる。具体的には、昇降シリンダ52aの稼働に応じたジェット水ノズル51の高さ位置のデータが設定情報DB56に記憶されている。角度調整手段57は、当該データを参照して各部を動作させることによってジェット水ノズル51の高さ方向の調整をする。
【0042】
次いで、回動部53によってジェット水ノズル51の角度の調整が行われる。具体的には、第1の歯車53cと第2の歯車53dとの回動に応じたジェット水ノズル51の角度のデータが設定情報DB56に記憶されている。角度調整手段57は、当該データを参照して各部を動作させることによってジェット水ノズル51の角度を調整する。
【0043】
噴射制御手段58bは、ステップS03の角度範囲調整工程が終了すると、ジェット水ノズル51からジェット水を噴射させ、スラブ10の表面の溶削スラグを除去する(ステップS04)。
【0044】
ステップS01の角度範囲設定工程においては、例えば、スカーフィング設備100に導入されるスラブ10の巾、ジェット水ノズル51の噴射口55からスラブ10までの水平方向の距離である第1の距離、噴射口55からスラブ10までの垂直方向の距離である第2の距離、噴射口55の下端から上端までの垂直方向の距離である第3の距離、噴射口55の上端側から噴射されるジェット水の第1の流速、噴射口55の下端側から噴射されるジェット水の第2の流速、第2の流速で噴射されるジェット水が噴射口55の上端側からスラブ10のジェット水ノズル51側に位置する端面に到達するまでに要する第1到達時間、第1の流速で噴射されるジェット水がスラブ10から噴射口55の上端までの垂直方向の距離の落下に要する第2到達時間等の複数の要素に基づいて設定される。
【0045】
具体的には、下記の式(1)~(4)を満たすように、角度θが決定される。角度θの設定は、角度範囲取得手段58aが行ってもよい。また、角度θの設定は、スラブ除去装置以外の例えば、サーバ装置等によって予め行い、設定情報DB56に格納されるようにしてもよい。
t1=L/V下cosθ (1)
H=Ltanθ+1/2・gt12 (2)
H+D=(V上sinθ)・t2+1/2・gt22 (3)
L+W=(V上cosθ)・t2 (4)
【0046】
図7は、式(1)~(4)に用いられるパラメータを図に表した説明図である。
図7にも示すように、各式のパラメータは以下の通りである。
V上:第1の流速
V下:第2の流速
t1:第1到達時間
t2:第2到達時間
W:スラブ10の巾(取り扱うスラブ10毎に異なる)
L:第1の距離
H:第2の距離
D:第3の距離
【0047】
尚、第1の流速V上及び、第2の流速V下は、ジェット水ノズル51に設けられている流量計(図示せず)によって測定することができる。第1到達時間t1及び、第2到達時間t2は、第1の流速V上、第2の流速V下、第1の距離L、第2の距離H及び、第3の距離Dを用いて算出することができる。
【0048】
図8は、ジェット水ノズル51のスラブ10の表面に対してなす角度と、スラブ10に接触する水の割合と、の関係を示すグラフである。
図8に示すように、上記の式に適合する角度θは、当該グラフ上において点線で表される。
図8のグラフにおいては、角度θである1.5度において、スラブ10に接触する水の割合が100%となる。
【0049】
当該点線と、スラブ10の巾等によって定まるスラブ10に接触する水の割合と角度のグラフと、の関係を用いて、予め定めたスラブ10に接触する水の割合となる角度範囲が導き出される。尚、スラブ10の巾等によって定まるスラブ10に接触する水の割合と角度のグラフは、例えば、スラブ10に見立てたモデルを用いて実験することによって求められる。例えば、スラブ10に接触する水の割合が50~100%となる角度範囲を予め定めた角度範囲とすることができる。
図8に示す例においては、予め定めた角度範囲は、凡そ0.8~1.5度とすることができる。このように、ジェット水ノズル51のスラブ10の表面に対してなす角度に応じて、スラブ10に接触する水の割合が異なる。スラブ10に接触する水の割合を高くなる角度範囲に調整して、ジェット水を噴射させることにより、溶削スラグの除去効率を高めることが可能となる。
【0050】
尚、図中のノズル角度が1.5度を超えると、スラブ10の奥側(ジェット水ノズル51からみて遠位側)にジェット水が当たらない傾向がある。また、スラブ10に接触するジェット水の割合が50%を下回ると、溶削スラグの除去効率が低下し、水蒸気が発生して設備の稼働に影響を及ぼすトラブルが生じる可能性が高まる傾向がある。
【0051】
尚、角度範囲の設定は、角度範囲取得手段58aが行って設定情報DB56に格納されるようにしてもよい。また、角度θの設定は、スラブ除去装置以外の例えば、サーバ装置等によって予め行い、設定情報DB56に格納されるようにしてもよい。
【0052】
図9は、ジェット水ノズル51のスラブ10の表面に対してなす角度と、スラブ10に接触する水の割合と、の関係をスラブ10の巾ごとに示したグラフである。
図9に示すように、スラブ10の巾が650mmの場合、スラブ10に接触する水の割合が100%になる角度は4.5度である。スラブ10の巾が1100mmの場合、スラブ10に接触する水の割合が100%になる角度は2.5度である。スラブ10の巾が1700mmの場合、スラブ10に接触する水の割合が100%になる角度は1.5度である。このように、スラブ10の巾が広がるに従って、スラブ10に接触する水の割合が100%になる角度が小さくなる傾向がある。また、ジェット水ノズル51のスラブ10の表面に対してなす望ましい角度はスラブ10の巾毎に異なる。
【0053】
図10は、ジェット水ノズル51のスラブ10の表面に対してなす角度が適切な場合に、ジェット水が噴射された態様を示している。
図10に示すように、ジェット水ノズル51のスラブ10の表面に対してなす角度が適切な場合、スラブ10の巾方向に対して一様にジェット水が接触する。このように、ジェット水ノズル51のスラブ10の表面に対してなす角度を適切に調整した上でジェット水を噴射することで、溶削スラグを効率的に除去することが可能になる。
【0054】
スラブ10に接触する水の割合が高くなるように当該角度を調整することにより、溶削ノロや残留ノロを含む溶削スラグの除去効率が高めることができる。上記のように求めた角度θを含む角度範囲を用いてジェット水ノズル51の角度を調整して、ジェット水を噴射することにより、スラブ10の表面の溶削スラグを効率的に除去することができる。
【0055】
以上のように、本発明のスラブスカーフィング設備によれば、角度範囲取得手段58aによって取得された角度範囲に基づいて、ジェット水ノズル51から噴射されるジェット水の噴射方向を調整する角度調整手段57を有する。これにより、適切な角度でジェット水を噴射させることができる。
【0056】
具体的には、角度調整手段57の昇降部52により、ジェット水ノズル51の高さ方向を調整することができ、回動部53により、ジェット水ノズル51の軸AXの方向の角度を調整することができる。また、回動部53は、トラニオン軸53aと、トラニオン支持部53bと、を有することにより、ジェット水ノズル51を自由に回転させることが可能となる。
【0057】
回動部53は、第1の歯車53c及び、第2の歯車53dの歯合位置を固定する固定部としてのスクリュージャッキ53e、押圧シリンダ54を有することにより、ジェット水ノズル51から噴射されるジェット水の噴射方向を固定することができる。すなわち、ジェット水の反力によりジェット水ノズル51が上反りすることを防止することができる。
【0058】
このように、ジェット水ノズル51の角度を適切な所定角度に調整することで、ジェット水ノズル51が噴射するジェット水によってスラブ10の表面の溶削スラグを適切に除去することが可能になる。
【0059】
尚、本実施形態においては、回動部53は、トラニオン軸53aと、トラニオン支持部53bと、第1の歯車53c、第2の歯車53d、スクリュージャッキ53eによって構成した。回動部53は、これらの部材に以外を用いて構成してもよい。例えば、第1の歯車53c及び、第2の歯車53dをチェーンやベルト等の連結手段で連結して実施してもよい。また、ジェット水ノズル51の回動の軌跡に沿った形成されたレールと、当該レールと嵌合する嵌合部材をジェット水ノズル51に設け、嵌合部材をレール上の所定位置で固定するようにして実施してもよい。
【0060】
また、本実施形態においては、ジェット水がスラブ10の表面に対してなす角度範囲は、スラブの巾W、第1の距離L、第2の距離H、第3の距離D、第1の流速V上、第2の流速V下、第1到達時間t1、第2到達時間t2を含む複数の要素に基づいて設定されかつ、式(1)~(4)を満たす角度θを含むように設定された。角度範囲は、このような態様によって得られたものには限られない。角度範囲は、例えば、スラブ10に見立てたモデルにジェット水を噴射し、得られた実測値を用いて得られるようにしてもよい。
【0061】
さらに、設定情報DB56は、スラブ除去装置以外の例えば、サーバ装置等に設けられるようにしてもよい。
【実施例0062】
スラブスカーフィング設備においてジェット水で溶削スラグを除去する際に、ジェット水がスラブに対してなす角度の影響を調査した。具体的には、2018年下期以前は、ジェット水がスラブに対してなす角度を0度として実施した。2019年上期より、ジェット水がスラブに対してなす角度として、上記式(1)~(4)のいずれも満たす角度から設定された角度範囲を取得し、当該角度範囲内の角度θを用いた。具体的には、2019年上期以後、表1に記載した各パラメータを用いて行った。
【0063】
【0064】
図11は、水蒸気によるトラブルの傾向を示すグラフである。
図11に示すように、2019年上期以降は、2018年下期以前に比べ水蒸気によるトラブルの発生が激減した。その結果、月毎の設備のトラブルにより影響を受けた時間を2018年下期の80%以下に低減させることができた。