IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社マンダイクレーンの特許一覧

<>
  • 特開-杭把持爪 図1
  • 特開-杭把持爪 図2
  • 特開-杭把持爪 図3
  • 特開-杭把持爪 図4
  • 特開-杭把持爪 図5
  • 特開-杭把持爪 図6
  • 特開-杭把持爪 図7
  • 特開-杭把持爪 図8
  • 特開-杭把持爪 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006832
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】杭把持爪
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
E02D13/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022115084
(22)【出願日】2022-06-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】507000040
【氏名又は名称】有限会社マンダイクレーン
(72)【発明者】
【氏名】万代 充美
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050DA03
2D050DB04
2D050EE04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】既存杭引抜き装置に適用され、既設杭引抜作業における引抜能力の高度安定化、作業効率の向上に寄与し得る杭把持爪を提供する。
【解決手段】既設杭引抜装置Zのケーシング3の先端部に配置される杭把持爪10であって、該杭把持爪10は上記ケーシング3の周壁に連結されてその先端部10bが周壁側からケーシング3の中心側に向けて下振出状態で揺動可能とされ、先端部10bのケーシング中心側の平面部には、略円錐台状のビット11、又は該ビット11を該先端部10bの幅方向に所定間隔で複数個列設固定してなるビット群12,13,14を設ける。上記杭把持爪10による既設杭9の掛止時には、該杭把持爪10の各ビット11が既設杭9側に喰い込むことで該既設杭9と杭把持爪10の間の滑りの発生が防止され、既設杭9に対する掛止性能が格段に向上し、杭引抜作業が効率良く高い信頼性のもとで行われる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設杭を内包するように該既設杭の外周側に打ち込まれる円筒状のケーシングの先端部において、該ケーシングの中心を挟んで径方向に対向する二位置、又は該中心から放射状に対向する三位置にそれぞれ配置される杭把持爪であって、
該杭把持爪は、略帯板状形体を有し、その基端部が上記ケーシングの周壁に連結されてその先端部が該周壁側から上記ケーシングの中心側に向けて下振出状態で揺動可能とされ且つ上記ケーシング側に設けた駆動手段によって揺動方向に駆動される一方、
上記先端部のケーシング中心側の面は平面部とされ且つ該平面部には、略円錐台状のビット、又は該ビットを該先端部の幅方向に所定間隔で複数個列設固定してなるビット群が設けられていることを特徴とする杭把持爪。
【請求項2】
請求項1において、
上記ビット、又は上記ビット群が、上記先端部の長手方向に複数段に設けられていることを特徴とする杭把持爪。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記杭把持爪の上記平面部の少なくとも上記第1段のビット、又は第1段のビット群の周辺部分には、超硬粒子を有する補強部が設けられていることを特徴とする杭把持爪。
【請求項4】
請求項1,2又は3において、
上記杭把持爪の先端面は凹状曲面とされていることを特徴とする杭把持爪。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地中に埋設された既設杭を破壊することなく引き抜く既設杭引抜装置に適用される杭把持爪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば建物の建て替え工事に際して、その建物の基礎固めとして埋設されていた杭(即ち、既設杭)を破壊することなく地中から引き抜いて除去する既設杭引抜装置が提案されており、その一つに特許文献1に示される既設杭引抜装置がある。
【0003】
この既設杭引抜装置は、本件出願人の出願に係るものであって、既設杭より大きい内径をもつとともにその先端部に掘削刃を備えたケーシングの下部周面に、該周面を厚さ方向に貫通して内部に張り出し可能な杭把持爪を、該ケーシングの中心を挟んで径方向に対向する二位置に、あるいは該ケーシングの中心周りに放射状に対向する三位置にそれぞれ設け、この杭把持爪をケーシング上部側に配置して駆動装置の駆動力によって、ケーシング周壁側から中心側に揺動させるように構成されている。
【0004】
既設杭の引き抜き作業時には、上記ケーシングを、上記既設杭の回りに所定隙間をもって取り囲むようにして地中に打ち込む。そして、第1の方法では、上記ケーシングを、その先端部が既設杭の先端(下端)より僅かに深くなるまで打ち込み、この状態で上記杭把持爪を、ケーシング周壁側から中心側へ張り出させ、該杭把持爪を既設杭の先端部にその下側から係止させ、この状態で上記ケーシングを引き上げることで既設杭を引き抜く方法である。
【0005】
また、第2の方法は、上記ケーシングを、その先端部が上記既設杭の中間の所要位置に対応する深さまで打ち込み、この状態で上記杭把持爪をケーシング周壁側から中心側へ張り出させ、該杭把持爪を上記既設杭の周面に外周側から押し当ててこれら両者間に所要の摩擦力を発生させ、この状態で上記ケーシングを引き上げることで既設杭を引き抜く方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2018-235893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に示される引抜装置では、第1の方法で既設杭の引き抜きを行う場合には、上記杭把持爪の上記既設杭に対する係止効果が高いことから、別段に問題はないが、第2の方法で既設杭の引き抜きを行う場合には、上記杭把持爪を上記既設杭の外周面に強圧接触させてこれら両者間に働く摩擦力によって引抜力を確保する構成であることから、例えば、既設杭の引抜抵抗(主として、既設杭の外周面と周囲の土壌との間に作用する摩擦抵抗力)が大きくなって上記引抜力を超えると、上記既設杭の外周面と上記杭把持爪との間に滑りを生じることになる。即ち、杭周辺の土壌の性状とか、既設杭の外周面の平滑度(即ち、表面状態)によって、引抜能力が大きく左右され、安定的な引抜能力の確保が難しいという問題がある。
【0008】
そこで本願発明は、既存杭引抜き装置に適用され、既設杭引抜作業における引抜能力の高度安定化、作業効率の向上に寄与し得る杭把持爪を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0010】
本願の第1の発明では、既設杭を内包するように該既設杭の外周側に打ち込まれる円筒状のケーシングの先端部において、該ケーシングの中心を挟んで径方向に対向する二位置、又は該中心から放射状に対向する三位置にそれぞれ配置される杭把持爪において、該杭把持爪は、略帯板状形体を有し、その基端部が上記ケーシングの周壁に連結されてその先端部が該周壁側から上記ケーシングの中心側に向けて下振出状態で揺動可能とされ且つ上記ケーシング側に設けた駆動手段によって揺動方向に駆動される一方、上記先端部のケーシング中心側の面は平面部とされ且つ該平面部には、略円錐台状のビット、又は該ビットを該先端部の幅方向に所定間隔で複数個列設固定してなるビット群が設けられていることを特徴としている。
【0011】
本願の第2の発明では、上記第1の発明において、上記ビット、又は上記ビット群を、上記先端部の長手方向に複数段に設けたことを特徴としている。
【0012】
本願の第3の発明では、上記第1又は第2の発明において、上記杭把持爪の上記平面部の少なくとも上記第1段のビット、又は第1段のビット群の周辺部分には、超硬粒子を有する補強部を設けたことを特徴としている。
【0013】
本願の第4の発明では、上記第1、第2又は第3の発明において、上記杭把持爪の先端面を凹状曲面としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
(a)本願の第1の発明
本願の第一の発明に係る杭把持爪によれば、該杭把持爪の先端部に、略円錐台状のビット、又は該ビットを該先端部の幅方向に所定間隔で複数個列設固定してなるビット群が設けられていることから、該杭把持爪を用いて既設杭の中段部を把持する場合、該ビット、又はビット群の各ビットが既設杭の外周面に喰い込んで係止作用をなすことから、該既設杭の外周面と上記杭把持爪との間に滑りが生じるのが防止され、その結果、上記既設杭と上記杭把持爪の間に作用する摩擦力と、上記杭把持爪のビットによる係止力との相乗効果によって、上記既設杭に対して高い引抜力が付与され、既設杭引抜装置の既設杭に対する引抜能力が格段に向上するとともに、引抜作業の信頼性が向上することになる。
【0015】
(b)本願の第2の発明
本願の第2の発明では、上記第1の発明において、上記ビット、又は上記ビット群を、上記先端部の長手方向に複数段に設けたことから、該ビットによる係止作用及び滑り止め作用がさらに向上することから、上記(a)に記載の効果がより一層確実ならしめられる。
【0016】
(c)本願の第3の発明
本願の第3の発明では、上記第1又は第2の発明において、上記杭把持爪の上記平面部の少なくとも上記第1段のビット、又は第1段のビット群の周辺部分、即ち、最も負荷が掛かり易い部分に、超硬粒子を有する補強部を設けたことから、該各ビットの強度上の信頼性が向上し、延いては上記(a)又は(b)に記載の効果がより一層顕著となる。
【0017】
(d)本願の第4の発明
本願の第4の発明では、上記第1、第2又は第3の発明において、上記杭把持爪の先端面を凹状曲面としたので、該杭把持爪の先端面が上記既設杭の外周面に当接して上記各ビットの上記既設杭側への食い付きが阻害されるということが未然に防止され、延いては上記杭把持爪を使用しての既設杭引抜作業の信頼性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】 本願発明に係る杭把持爪が適用された既設杭引抜装置の全体外観図である。
図2】 本願発明の実施形態に係る杭把持爪の全体斜視図である。
図3】 上記杭把持爪の先端部の正面図である。
図4図3のA-A断面図である。
図5】 既設杭の外周面への杭把持爪の当接初期状態の平面図である。
図6図6のB-B矢視図である。
図7】 上記既設杭引抜装置の非作業時における杭把持爪の格納状態説明図である。
図8】 既設杭の先端部をその下方側から支持した状態での杭引抜作業の説明図である。
図9】 既設杭の中段部を杭把持爪によって挟持した状態での杭引抜作業の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本願発明に係る杭把持爪を、既設杭引抜装置Zに装備された実施形態として説明する。
【0020】
図1には、本願発明に係る杭把持爪10が装着されて既設杭9の引抜作業に供せられる既設杭引抜装置Zを示している。この既設杭引抜装置Zは、リーダ等の支持基台に吊下支持されるアースオーガ1の下側にスイベルジョイント2を介してケーシング3を連結して構成される。
【0021】
上記ケーシング3は、引抜対象の既設杭よりも所定寸法だけ大きい内径寸法(例えば、500mm~600mm程度)を有する管体で構成されるもので、所定長さの分割管体を所要長さとなるように軸方向に適宜連結一体化して構成され、その際上端の分割管体の上端部が上記スイベルジョイント2の下側に連結される。
【0022】
そして、このケーシング3は、上記アースオーガ1により回転させられながら、既設杭9を内包した状態でこれに沿って土中に打ち込まれて該既設杭9の周囲の土壌を縁切りするものである。そして、該ケーシング3の下端部には、図7にも示すように、下端周壁に取り付けられた複数の先端掘削刃6と、下端外周よりも径方向外側に突出状態で取り付けられた複数の外側掘削刃7が備えられている。
【0023】
そして、上記各先端掘削刃6によって上記既設杭9の外周に接した土壌が該外周から適宜離間した位置で切断され、縁切りが行われる。さらに、上記縁切り部分の外側部分が上記複数の外側掘削刃7によって所定幅の円環状に掘削され、該下部ケーシング13の下端外周に設けられた爪カバー16の進行隙間が形成される。
【0024】
さらに、上記ケーシング3には、該ケーシング3を既設杭9の周囲に打ち込んだ後、該既設杭9を該ケーシング3側に掛止させて該ケーシング3と共に上記既設杭9を引き上げる(引き抜く)ために、次述する本願発明の要旨たる杭把持爪10を備えて構成される掛止機構5が設けられている。
【0025】
上記掛止機構5は、図7図9にも示されるように、本発明の要旨たる後述の杭把持爪10を備えて構成される。
【0026】
ここで、上記杭把持爪10の構造等を説明する。この杭把持爪10は、図2図4に示すように、所定厚さ及び所定幅の帯状体で一体形成され、その基端部10aには幅方向に延びる軸孔10fが設けられている。また、その先端部10bは平坦面とされ、ここには超高材で円錐台状に形成された複数個のビット11が、その先端を平坦面から上方へ所定高さだけ突出させた状態で、最も先端面寄り位置には杭把持爪10の幅方向に所定間隔で4個(これらを第1ビット群12という)、その上側(基端部10a寄り側)には幅方向に所定間隔で3個(これを第2ビット群13という)、さらにその上側には幅方向に所定間隔で4個(これを第3ビット群14という)がそれぞれ設けられている。
【0027】
また、上記杭把持爪10の先端面10eは、基端部10a側に凹入する凹状曲面とし、該杭把持爪10がケーシング3の中心寄りに揺動してその先端面10eが既設杭9の外周面9aに接近する場合における過度の干渉を防止し、上記各ビット11の上記既設杭9の外周面9aへの喰い込み性能を確保している。
【0028】
さらに、図2及び図3に示すように、上記杭把持爪10の第1ビット群12の各ビット11の周辺部分には、超硬粒子を有する補強部が設けられている。
【0029】
以上のように構成された上記杭把持爪10の既設杭引抜装置Zへの組み込み状態が、図7図9に示されている。この実施形態では、上記杭把持爪10は、上記ケーシング3の中心を挟んで径方向に対向する二位置において、上記ケーシング3の周壁部分に形成された上記爪カバー16内に、その先端部10bを下側にし、且つ上記各ビット11の配置側の面をケーシング中心側に指向させた状態で配置されるとともに、その基端部10aが連結ピン31によって上記伝動材8の下端部に枢支されている。
【0030】
したがって、上記杭把持爪10は、上記ケーシング3の上端部に配置された油圧シリンダ等の駆動部4の駆動力が上記ケーシング3に沿って配置した伝動材8を介して伝達されることで上下方向(U-D方向)に移動されると同時に、該杭把持爪10の裏面側に形成されたカム受面33が上記爪カバー16の下方側に配置されたカム32と摺接係合することで、該杭把持爪10は上記連結ピン31を中心として下振出状態で上記ケーシング3の中心に接離する方向(F-R方向)に駆動される。
【0031】
そして、図7に示す状態が、上記ケーシング3の上記既設杭9の外周側への打ち込み作業の状態であって、この状態においては、上記左右一対の杭把持爪10は共に上記爪カバー16側に格納され、該ケーシング3の内周側への突出量が最小とされ、該ケーシング3の打ち込みが良好に行われる状態である。
【0032】
図8に示す状態は、上記ケーシング3を上記既設杭9の先端部9bよりも下方まで打ち込んで、該既設杭9をその下端部の下側から抱持状態で支持し、該ケーシング3の引き上げとともに該既設杭9を引き抜く作業状態である。この場合には、上記各杭把持爪10は大きくケーシング中心側に振り出されて、該各杭把持爪10に設けた上記杭把持爪10が上記既設杭9の下端部9bに喰い込んでこれら両者間の滑りを抑えた状態で、該各杭把持爪10を該既設杭9の下端部9bに掛止させた状態である。
【0033】
この時、上記杭把持爪10の各ビット11のうち、最初に第3ビット群14の各ビット11のうち、列設方向の内側に位置する2個のビット11が既設杭9の先端部9bに当接するため、例えば、他のビット群のビット11も同時に接触する場合に比して、ビット11の先端における接触面圧が大きく、該ビット11は滑りを生じることなく容易且つ確実に既設杭9の下端部9bに喰い込むことになる。この結果、上記掛止機構5による上記既設杭9に対する掛止性能が格段に向上し、上記既設杭9の引抜作業が効率良く高い信頼性の下で行われる。
【0034】
図9に示す状態は、上記ケーシング3を上記既設杭9の中段位置まで打ち込んで、上記掛止機構5の各杭把持爪10によって上既設杭9の中段部を掛止してこれを引き抜く作業状態を示している。この状態においては、上記各杭把持爪10の揺動角度が小さいので、特に上記既設杭9の滑りが発生し易い状態である。
【0035】
しかし、この実施形態のものでは、上記既設杭9の外周面9aに上記杭把持爪10の各ビット11が当接する場合、上記各ビット群の各ビット11が同時に当接するのではなく、第1ビット群12の列設方向中央の2個のビット11が最初に当接するので、例えば、他のビット11も同時に当接する場合に比して、ビット11の接触面圧が大きく、該ビット11は滑りを生じることなく容易且つ確実に既設杭9の外周面9aに喰い込むことになる。この結果、上記掛止機構5による上記既設杭9に対する掛止性能が格段に向上し、上記既設杭9の外周面9aを掛止しての杭引抜作業であるにも拘わらず、上記既設杭9の引抜作業が効率良く高い信頼性の下で行われる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本願発明に係る杭把持爪は、既設杭の引抜装置に広く利用できるものである。
【符号の説明】
【0037】
1 ・・アースオーガ
2 ・・スイベルジョイント
3 ・・ケーシング
4 ・・駆動部
5 ・・掛止機構
6 ・・先端掘削爪
7 ・・外側掘削爪
8 ・・伝動材
9 ・・既設杭
10 ・・杭把持爪
11 ・・ビット
12 ・・第1ビット群
13 ・・第2ビット群
14 ・・第3ビット群
15 ・・補強部
16 ・・爪カバー
31 ・・連結ピン
32 ・・カム
33 ・・カム受面
Z ・・既設杭引抜装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地中に埋設された既設杭を破壊することなく引き抜く既設杭引抜装置に適用される杭把持爪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば建物の建て替え工事に際して、その建物の基礎固めとして埋設されていた杭(即ち、既設杭)を破壊することなく地中から引き抜いて除去する既設杭引抜装置が提案されており、その一つに特許文献1に示される既設杭引抜装置がある。
【0003】
この既設杭引抜装置は、本件出願人の出願に係るものであって、既設杭より大きい内径をもつとともにその先端部に掘削刃を備えたケーシングの下部周面に、該周面を厚さ方向に貫通して内部に張り出し可能な杭把持爪を、該ケーシングの中心を挟んで径方向に対向する二位置に、あるいは該ケーシングの中心周りに放射状に対向する三位置にそれぞれ設け、この杭把持爪をケーシング上部側に配置して駆動装置の駆動力によって、ケーシング周壁側から中心側に揺動させるように構成されている。
【0004】
既設杭の引き抜き作業時には、上記ケーシングを、上記既設杭の回りに所定隙間をもって取り囲むようにして地中に打ち込む。そして、第1の方法では、上記ケーシングを、その先端部が既設杭の先端(下端)より僅かに深くなるまで打ち込み、この状態で上記杭把持爪を、ケーシング周壁側から中心側へ張り出させ、該杭把持爪を既設杭の先端部にその下側から係止させ、この状態で上記ケーシングを引き上げることで既設杭を引き抜く方法である。
【0005】
また、第2の方法は、上記ケーシングを、その先端部が上記既設杭の中間の所要位置に対応する深さまで打ち込み、この状態で上記杭把持爪をケーシング周壁側から中心側へ張り出させ、該杭把持爪を上記既設杭の周面に外周側から押し当ててこれら両者間に所要の摩擦力を発生させ、この状態で上記ケーシングを引き上げることで既設杭を引き抜く方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2018-235893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に示される引抜装置では、第1の方法で既設杭の引き抜きを行う場合には、上記杭把持爪の上記既設杭に対する係止効果が高いことから、別段に問題はないが、第2の方法で既設杭の引き抜きを行う場合には、上記杭把持爪を上記既設杭の外周面に強圧接触させてこれら両者間に働く摩擦力によって引抜力を確保する構成であることから、例えば、既設杭の引抜抵抗(主として、既設杭の外周面と周囲の土壌との間に作用する摩擦抵抗力)が大きくなって上記引抜力を超えると、上記既設杭の外周面と上記杭把持爪との間に滑りを生じることになる。即ち、杭周辺の土壌の性状とか、既設杭の外周面の平滑度(即ち、表面状態)によって、引抜能力が大きく左右され、安定的な引抜能力の確保が難しいという問題がある。
【0008】
そこで本願発明は、既存杭引抜き装置に適用され、既設杭引抜作業における引抜能力の高度安定化、作業効率の向上に寄与し得る杭把持爪を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0010】
本願の第1の発明では、既設杭を内包するように該既設杭の外周側に打ち込まれる円筒状のケーシングの先端部において、該ケーシングの中心を挟んで径方向に対向する二位置、又は該中心から放射状に対向する三位置にそれぞれ配置される杭把持爪において、該杭把持爪は、略帯板状形体を有し、その基端部が上記ケーシングの周壁に連結されてその先端部が該周壁側から上記ケーシングの中心側に向けて下振出状態で揺動可能とされ且つ上記ケーシング側に設けた駆動手段によって揺動方向に駆動される一方、上記先端部のケーシング中心側の面は平面部とされ且つ該平面部には、略円錐台状のビット、又は該ビットを該先端部の幅方向に所定間隔で複数個列設固定してなるビット群が、上記先端部の長手方向に複数段に設けられていることを特徴としている。
【0011】
本願の第2の発明では、上記第1の発明において、上記杭把持爪の上記平面部の少なくとも上記第1段のビット、又は第1段のビット群の周辺部分には、超硬粒子を有する補強部を設けたことを特徴としている。
【0012】
本願の第3の発明では、上記第1又は第2の発明において、上記杭把持爪の先端面を凹状曲面としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
(a)本願の第1の発明
本願の第1の発明に係る杭把持爪によれば、該杭把持爪の先端部に、略円錐台状のビット、又は該ビットを該先端部の幅方向に所定間隔で複数個列設固定してなるビット群が、上記先端部の長手方向に複数段に設けられていることから、該杭把持爪を用いて既設杭の中段部を把持する場合、該ビット、又はビット群の各ビットが既設杭の外周面に喰い込んで係止作用をなすことから、該既設杭の外周面と上記杭把持爪との間に滑りが生じるのが防止され、その結果、上記既設杭と上記杭把持爪の間に作用する摩擦力と、上記杭把持爪のビットによる係止力との相乗効果によって、上記既設杭に対して高い引抜力が付与され、既設杭引抜装置の既設杭に対する引抜能力が格段に向上するとともに、引抜作業の信頼性が向上することになる。
また、上記ビット、又は上記ビット群を、上記先端部の長手方向に複数段に設けたことから、該ビットによる係止作用及び滑り止め作用がさらに向上し、上記効果がより一層確実ならしめられる。
【0014】
(b)本願の第2の発明
本願の第2の発明では、上記第1の発明において、上記杭把持爪の上記平面部の少なくとも上記第1段のビット、又は第1段のビット群の周辺部分、即ち、最も負荷が掛かり易い部分に、超硬粒子を有する補強部を設けたことから、該各ビットの強度上の信頼性が向上し、延いては上記(a)に記載の効果がより一層顕著となる。
【0015】
(c)本願の第3の発明
本願の第3の発明では、上記第1又は第2の発明において、上記杭把持爪の先端面を凹状曲面としたので、該杭把持爪の先端面が上記既設杭の外周面に当接して上記各ビットの上記既設杭側への食い付きが阻害されるということが未然に防止され、延いては上記杭把持爪を使用しての既設杭引抜作業の信頼性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】 本願発明に係る杭把持爪が適用された既設杭引抜装置の全体外観図である。
図2】 本願発明の実施形態に係る杭把持爪の全体斜視図である。
図3】 上記杭把持爪の先端部の正面図である。
図4図3のA-A断面図である。
図5】 既設杭の外周面への杭把持爪の当接初期状態の平面図である。
図6図6のB-B矢視図である。
図7】 上記既設杭引抜装置の非作業時における杭把持爪の格納状態説明図である。
図8】 既設杭の先端部をその下方側から支持した状態での杭引抜作業の説明図である。
図9】 既設杭の中段部を杭把持爪によって挟持した状態での杭引抜作業の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本願発明に係る杭把持爪を、既設杭引抜装置Zに装備された実施形態として説明する。
【0018】
図1には、本願発明に係る杭把持爪10が装着されて既設杭9の引抜作業に供せられる既設杭引抜装置Zを示している。この既設杭引抜装置Zは、リーダ等の支持基台に吊下支持されるアースオーガ1の下側にスイベルジョイント2を介してケーシング3を連結して構成される。
【0019】
上記ケーシング3は、引抜対象の既設杭よりも所定寸法だけ大きい内径寸法(例えば、500mm~600mm程度)を有する管体で構成されるもので、所定長さの分割管体を所要長さとなるように軸方向に適宜連結一体化して構成され、その際上端の分割管体の上端部が上記スイベルジョイント2の下側に連結される。
【0020】
そして、このケーシング3は、上記アースオーガ1により回転させられながら、既設杭9を内包した状態でこれに沿って土中に打ち込まれて該既設杭9の周囲の土壌を縁切りするものである。そして、該ケーシング3の下端部には、図7にも示すように、下端周壁に取り付けられた複数の先端掘削刃6と、下端外周よりも径方向外側に突出状態で取り付けられた複数の外側掘削刃7が備えられている。
【0021】
そして、上記各先端掘削刃6によって上記既設杭9の外周に接した土壌が該外周から適宜離間した位置で切断され、縁切りが行われる。さらに、上記縁切り部分の外側部分が上記複数の外側掘削刃7によって所定幅の円環状に掘削され、該下部ケーシング13の下端外周に設けられた爪カバー16の進行隙間が形成される。
【0022】
さらに、上記ケーシング3には、該ケーシング3を既設杭9の周囲に打ち込んだ後、該既設杭9を該ケーシング3側に掛止させて該ケーシング3と共に上記既設杭9を引き上げる(引き抜く)ために、次述する本願発明の要旨たる杭把持爪10を備えて構成される掛止機構5が設けられている。
【0023】
上記掛止機構5は、図7図9にも示されるように、本発明の要旨たる後述の杭把持爪10を備えて構成される。
【0024】
ここで、上記杭把持爪10の構造等を説明する。この杭把持爪10は、図2図4に示すように、所定厚さ及び所定幅の帯状体で一体形成され、その基端部10aには幅方向に延びる軸孔10fが設けられている。また、その先端部10bは平坦面とされ、ここには超高材で円錐台状に形成された複数個のビット11が、その先端を平坦面から上方へ所定高さだけ突出させた状態で、最も先端面寄り位置には杭把持爪10の幅方向に所定間隔で4個(これらを第1ビット群12という)、その上側(基端部10a寄り側)には幅方向に所定間隔で3個(これを第2ビット群13という)、さらにその上側には幅方向に所定間隔で4個(これを第3ビット群14という)がそれぞれ設けられている。
【0025】
また、上記杭把持爪10の先端面10eは、基端部10a側に凹入する凹状曲面とし、該杭把持爪10がケーシング3の中心寄りに揺動してその先端面10eが既設杭9の外周面9aに接近する場合における過度の干渉を防止し、上記各ビット11の上記既設杭9の外周面9aへの喰い込み性能を確保している。
【0026】
さらに、図2及び図3に示すように、上記杭把持爪10の第1ビット群12の各ビット11の周辺部分には、超硬粒子を有する補強部が設けられている。
【0027】
以上のように構成された上記杭把持爪10の既設杭引抜装置Zへの組み込み状態が、図7図9に示されている。この実施形態では、上記杭把持爪10は、上記ケーシング3の中心を挟んで径方向に対向する二位置において、上記ケーシング3の周壁部分に形成された上記爪カバー16内に、その先端部10bを下側にし、且つ上記各ビット11の配置側の面をケーシング中心側に指向させた状態で配置されるとともに、その基端部10aが連結ピン31によって上記伝動材8の下端部に枢支されている。
【0028】
したがって、上記杭把持爪10は、上記ケーシング3の上端部に配置された油圧シリンダ等の駆動部4の駆動力が上記ケーシング3に沿って配置した伝動材8を介して伝達されることで上下方向(U-D方向)に移動されると同時に、該杭把持爪10の裏面側に形成されたカム受面33が上記爪カバー16の下方側に配置されたカム32と摺接係合することで、該杭把持爪10は上記連結ピン31を中心として下振出状態で上記ケーシング3の中心に接離する方向(F-R方向)に駆動される。
【0029】
そして、図7に示す状態が、上記ケーシング3の上記既設杭9の外周側への打ち込み作業の状態であって、この状態においては、上記左右一対の杭把持爪10は共に上記爪カバー16側に格納され、該ケーシング3の内周側への突出量が最小とされ、該ケーシング3の打ち込みが良好に行われる状態である。
【0030】
図8に示す状態は、上記ケーシング3を上記既設杭9の先端部9bよりも下方まで打ち込んで、該既設杭9をその下端部の下側から抱持状態で支持し、該ケーシング3の引き上げとともに該既設杭9を引き抜く作業状態である。この場合には、上記各杭把持爪10は大きくケーシング中心側に振り出されて、該各杭把持爪10に設けた上記ビット11が上記既設杭9の下端部9bに喰い込んでこれら両者間の滑りを抑えた状態で、該各杭把持爪10を該既設杭9の下端部9bに掛止させた状態である。
【0031】
この時、上記杭把持爪10の各ビット11のうち、最初に第3ビット群14の各ビット11のうち、列設方向の内側に位置する2個のビット11が既設杭9の先端部9bに当接するため、例えば、他のビット群のビット11も同時に接触する場合に比して、ビット11の先端における接触面圧が大きく、該ビット11は滑りを生じることなく容易且つ確実に既設杭9の下端部9bに喰い込むことになる。この結果、上記掛止機構5による上記既設杭9に対する掛止性能が格段に向上し、上記既設杭9の引抜作業が効率良く高い信頼性の下で行われる。
【0032】
図9に示す状態は、上記ケーシング3を上記既設杭9の中段位置まで打ち込んで、上記掛止機構5の各杭把持爪10によって上既設杭9の中段部を掛止してこれを引き抜く作業状態を示している。この状態においては、上記各杭把持爪10の揺動角度が小さいので、特に上記既設杭9の滑りが発生し易い状態である。
【0033】
しかし、この実施形態のものでは、上記既設杭9の外周面9aに上記杭把持爪10の各ビット11が当接する場合、上記各ビット群の各ビット11が同時に当接するのではなく、第1ビット群12の列設方向中央の2個のビット11が最初に当接するので、例えば、他のビット11も同時に当接する場合に比して、ビット11の接触面圧が大きく、該ビット11は滑りを生じることなく容易且つ確実に既設杭9の外周面9aに喰い込むことになる。この結果、上記掛止機構5による上記既設杭9に対する掛止性能が格段に向上し、上記既設杭9の外周面9aを掛止しての杭引抜作業であるにも拘わらず、上記既設杭9の引抜作業が効率良く高い信頼性の下で行われる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本願発明に係る杭把持爪は、既設杭の引抜装置に広く利用できるものである。
【符号の説明】
【0035】
1 ・・アースオーガ
2 ・・スイベルジョイント
3 ・・ケーシング
4 ・・駆動部
5 ・・掛止機構
6 ・・先端掘削爪
7 ・・外側掘削爪
8 ・・伝動材
9 ・・既設杭
10 ・・杭把持爪
11 ・・ビット
12 ・・第1ビット群
13 ・・第2ビット群
14 ・・第3ビット群
15 ・・補強部
16 ・・爪カバー
31 ・・連結ピン
32 ・・カム
33 ・・カム受面
Z ・・既設杭引抜装置
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設杭を内包するように該既設杭の外周側に打ち込まれる円筒状のケーシングの先端部において、該ケーシングの中心を挟んで径方向に対向する二位置、又は該中心から放射状に対向する三位置にそれぞれ配置される杭把持爪であって、
該杭把持爪は、略帯板状形体を有し、その基端部が上記ケーシングの周壁に連結されてその先端部が該周壁側から上記ケーシングの中心側に向けて下振出状態で揺動可能とされ且つ上記ケーシング側に設けた駆動手段によって揺動方向に駆動される一方、
上記先端部のケーシング中心側の面は平面部とされ且つ該平面部には、略円錐台状のビット、又は該ビットを該先端部の幅方向に所定間隔で複数個列設固定してなるビット群が、上記先端部の長手方向に複数段に設けられていることを特徴とする杭把持爪。
【請求項2】
請求項1において、
上記杭把持爪の上記平面部の少なくとも上記第1段のビット、又は第1段のビット群の周辺部分には、超硬粒子を有する補強部が設けられていることを特徴とする杭把持爪。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記杭把持爪の先端面は凹状曲面とされていることを特徴とする杭把持爪。