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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068332
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
   B62K 25/04 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
B62K25/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178691
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】中村 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中原 重徳
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃慶
(72)【発明者】
【氏名】村田 真章
【テーマコード(参考)】
3D014
【Fターム(参考)】
3D014DD02
3D014DE04
3D014DE22
3D014DF02
3D014DF22
3D014DF32
(57)【要約】
【課題】電子制御式サスペンションを備え、走行用の駆動装置を始動する前に姿勢の変更または移動が容易な鞍乗型車両を提供すること。
【解決手段】自動二輪車1は、電子制御式サスペンションであるフロントフォーク20およびリアサスペンション30と、バッテリ62と、バッテリ62の電力の供給をON/OFFするメインスイッチ64と、車速センサ66と、エンジン6が作動しているか否かを検出する作動検出装置68と、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力を制御する制御装置60とを備える。制御装置60は、メインスイッチ64がON、かつ、車速が第1閾値以下、かつ、エンジン6が作動していないことが検出されたときに、フロントフォーク20およびリアサスペンション30に電力を供給することによりフロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力を比較的小さな第1の値に制御する。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと、
前記車体フレームに支持された走行用の駆動装置と、
前記車体フレームに支持された車輪と、
前記車体フレームと前記車輪との間に設けられた電子制御式サスペンションと、
電力を供給する電源と、
前記電源の電力の供給をON/OFFするメインスイッチと、
車速を検出する車速検出装置と、
前記駆動装置が作動しているか否かを検出する作動検出装置と、
前記電子制御式サスペンションの減衰力を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記メインスイッチがON、かつ、前記車速検出装置により検出される車速が予め定められた第1閾値以下、かつ、前記作動検出装置により前記駆動装置が作動していないことが検出されたときに、前記電子制御式サスペンションに電力を供給することにより前記電子制御式サスペンションの減衰力を第1の値に制御し、
前記メインスイッチがON、かつ、前記車速検出装置により検出される車速が前記第1閾値以下、かつ、前記作動検出装置により前記駆動装置が作動していることが検出されたときに、前記電子制御式サスペンションの減衰力を前記第1の値よりも大きな第2の値に制御するように構成されている、鞍乗型車両。
【請求項2】
前記制御装置は、前記メインスイッチがON、かつ、前記車速検出装置により検出される車速が前記第1閾値よりも大きく、かつ、前記作動検出装置により前記駆動装置が作動していないことが検出されたときに、前記電子制御式サスペンションの減衰力を前記第1の値よりも大きな第3の値に制御するように構成されている、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項3】
前記第3の値は前記第2の値よりも大きい、請求項2に記載の鞍乗型車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記メインスイッチがON、かつ、前記車速検出装置により検出される車速が前記第1閾値よりも大きくかつ前記第1閾値よりも大きな第2閾値以下、かつ、前記作動検出装置により前記駆動装置が作動していることが検出されたときに、前記電子制御式サスペンションの減衰力を前記第1の値よりも大きな第4の値に制御するように構成されている、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項5】
前記第4の値は、前記車速検出装置により検出される車速が前記第1閾値よりも大きくかつ前記第2閾値以下の範囲において、前記車速が大きいほど小さくなるように設定されている、請求項4に記載の鞍乗型車両。
【請求項6】
前記第3の値は前記第4の値よりも大きい、請求項4に記載の鞍乗型車両。
【請求項7】
前記制御装置は、前記メインスイッチがON、かつ、前記車速検出装置により検出される車速が前記第2閾値よりも大きく、かつ、前記作動検出装置により前記駆動装置が作動していることが検出されたときに、前記電子制御式サスペンションの減衰力を前記第4の値よりも小さな第5の値に制御するように構成されている、請求項4に記載の鞍乗型車両。
【請求項8】
前記第1閾値は0~10km/hの速度である、請求項1~7のいずれか一つに記載の鞍乗型車両。
【請求項9】
前記第2閾値は10~20km/hの速度である、請求項4~7のいずれか一つに記載の鞍乗型車両。
【請求項10】
前記駆動装置は、内燃機関であり、
前記作動検出装置は、前記内燃機関の回転速度を検出する回転速度センサを有している、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項11】
前記車輪は、前輪であり、
前記電子制御式サスペンションは、電子制御式のフロントサスペンションであり、
電力が供給されているときの前記フロントサスペンションの伸長時の減衰力は、電力が供給されていないときの前記フロントサスペンションの伸長時の減衰力よりも小さく、
電力が供給されているときの前記フロントサスペンションの収縮時の減衰力は、電力が供給されていないときの前記フロントサスペンションの収縮時の減衰力よりも小さい、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項12】
前記車輪は、後輪であり、
前記電子制御式サスペンションは、電子制御式のリアサスペンションであり、
電力が供給されているときの前記リアサスペンションの伸長時の減衰力は、電力が供給されていないときの前記リアサスペンションの伸長時の減衰力よりも小さく、
電力が供給されているときの前記リアサスペンションの収縮時の減衰力は、電力が供給されていないときの前記リアサスペンションの収縮時の減衰力よりも小さい、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰力を調整可能な電子制御式サスペンションを備えた鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子制御によって減衰力を調整可能な電子制御式サスペンションを備えた鞍乗型車両が知られている。例えば特開2010-179876号公報には、電子制御式サスペンションからなるフロントフォークおよびリアサスペンションを備えた自動二輪車が開示されている。
【0003】
電子制御式サスペンションに電力が供給されないときには、電子制御式サスペンションの減衰力は比較的大きい。電子制御式サスペンションに電気信号を供給することにより、電子制御式サスペンションの減衰力を小さくすることができ、減衰力の調整が可能となる。例えば、自動二輪車の運転状態に応じて電子制御式サスペンションの減衰力を調整することにより、自動二輪車の乗り心地を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-179876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乗員が自動二輪車を運転するときには、先ずメインスイッチをONし、その後、エンジンを始動させる。エンジン始動後は、アクセルグリップを操作することによってエンジンの出力を増加させ、走行を開始する。従来の一般的な自動二輪車では、電子制御式サスペンションへの電力供給は、エンジンの始動と同時に開始されていた。そのため、メインスイッチをONした後、エンジンが始動するまで、電子制御式サスペンションの減衰力は大きかった。
【0006】
ところで、乗員は、エンジン始動前に、自動二輪車のサイドスタンドを解除し、車体を傾斜した姿勢から垂直な姿勢にする動作を行う場合がある。この場合、電子制御式サスペンションの減衰力が大きいと、車体を垂直な姿勢にする動作が行いにくい。また、乗員は、エンジン始動前に、駐車していた自動二輪車を乗車に適した広い場所に移動させる場合がある。その場合、乗員は、自動二輪車の側方に立つと共にハンドルを握りながら、自動二輪車を駐車場所から引いて移動させたり、乗車場所まで押して移動させたりする。この際、電子制御式サスペンションの減衰力が大きいと、自動二輪車を移動させる動作が行いにくい。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電子制御式サスペンションを備え、走行用の駆動装置を始動する前の姿勢の変更または移動が容易な鞍乗型車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される鞍乗型車両は、車体フレームと、前記車体フレームに支持された走行用の駆動装置と、前記車体フレームに支持された車輪と、前記車体フレームと前記車輪との間に設けられた電子制御式サスペンションと、電力を供給する電源と、前記電源の電力の供給をON/OFFするメインスイッチと、車速を検出する車速検出装置と、前記駆動装置が作動しているか否かを検出する作動検出装置と、前記電子制御式サスペンションの減衰力を制御する制御装置と、を備える。前記制御装置は、前記メインスイッチがON、かつ、前記車速検出装置により検出される車速が予め定められた第1閾値以下、かつ、前記作動検出装置により前記駆動装置が作動していないことが検出されたときに、前記電子制御式サスペンションに電力を供給することにより前記電子制御式サスペンションの減衰力を第1の値に制御するように構成されている。前記制御装置は、前記メインスイッチがON、かつ、前記車速検出装置により検出される車速が前記第1閾値以下、かつ、前記作動検出装置により前記駆動装置が作動していることが検出されたときに、前記電子制御式サスペンションの減衰力を前記第1の値よりも大きな第2の値に制御するように構成されている。
【0009】
上記鞍乗型車両によれば、メインスイッチがONされると、駆動装置が作動していないにも拘わらず、車速が第1閾値以下の場合には、電子制御式サスペンションに電力が供給され、電子制御式サスペンションの減衰力が第1の値に制御される。第1の値は第2の値(駆動装置が作動しているときの減衰力)よりも小さく、比較的小さな値である。そのため、電子制御式サスペンションの減衰力は、比較的小さくなる。よって、乗員は、メインスイッチをONした後、駆動装置を始動する前に、鞍乗型車両を傾斜した姿勢から垂直な姿勢にする動作を容易に行うことができる。また、鞍乗型車両を押したり引いたりすることが容易となるので、乗車前に鞍乗型車両を容易に移動させることができる。駆動装置を作動させると、電子制御式サスペンションの減衰力は第2の値に制御され、比較的大きくなる。そのため、乗員は鞍乗型車両の姿勢を容易に保つことができ、安定して走行を開始することができる。また、走行中の鞍乗型車両を停止させるときに、停止直前の鞍乗型車両の姿勢を容易に保つことができ、安定して停止させることができる。
【0010】
前記制御装置は、前記メインスイッチがON、かつ、前記車速検出装置により検出される車速が前記第1閾値よりも大きく、かつ、前記作動検出装置により前記駆動装置が作動していないことが検出されたときに、前記電子制御式サスペンションの減衰力を前記第1の値よりも大きな第3の値に制御するように構成されていてもよい。
【0011】
このことにより、第1閾値よりも大きな車速で走行しているときに駆動装置が停止してしまった場合、電子制御式サスペンションの減衰力は比較的大きな第3の値に保たれる。そのため、駆動装置の停止と共に電子制御式サスペンションの動作が急に柔らかくなることは防止される。よって、鞍乗型車両の走行中に駆動装置が停止した場合に、乗り心地の低下を抑制することができる。
【0012】
前記第2の値と前記第3の値との大小関係は特に限定されない。前記第3の値は前記第2の値よりも大きくてもよい。このことにより、鞍乗型車両の走行中に駆動装置が停止した場合、走行安定性が高く、良好な乗り心地が確保される。
【0013】
前記制御装置は、前記メインスイッチがON、かつ、前記車速検出装置により検出される車速が前記第1閾値よりも大きくかつ前記第1閾値よりも大きな第2閾値以下、かつ、前記作動検出装置により前記駆動装置が作動していることが検出されたときに、前記電子制御式サスペンションの減衰力を前記第1の値よりも大きな第4の値に制御するように構成されていてもよい。
【0014】
このことにより、鞍乗型車両の走行停止前の減速途中(例えば赤信号による停止の直前)において、車速が第2閾値以下になったときに、電子制御式サスペンションの減衰力が小さくなってしまうことを防止することができる。乗員は、走行停止前の減速途中において、鞍乗型車両を安定して走行させることができる。
【0015】
前記第4の値は定数であってもよいが、車速に基づいて変化する変数であってもよい。前記第4の値は、前記車速検出装置により検出される車速が前記第1閾値よりも大きくかつ前記第2閾値以下の範囲において、前記車速が大きいほど小さくなるように設定されていてもよい。
【0016】
前記第3の値と前記第4の値との大小関係は特に限定されない。前記第3の値は前記第4の値よりも大きくてもよい。
【0017】
前記制御装置は、前記メインスイッチがON、かつ、前記車速検出装置により検出される車速が前記第2閾値よりも大きく、かつ、前記作動検出装置により前記駆動装置が作動していることが検出されたときに、前記電子制御式サスペンションの減衰力を前記第4の値よりも小さな第5の値に制御するように構成されていてもよい。
【0018】
このことにより、鞍乗型車両が第2閾値よりも大きな速度で走行しているときは、第2閾値以下の速度で走行しているときよりも、電子制御式サスペンションの減衰力は小さくなる。鞍乗型車両が比較的高速で走行しているときには、電子制御式サスペンションの減衰力は小さく制御される。そのため、鞍乗型車両が比較的高速で走行しているときに、路面から受ける衝撃をより吸収しやすくなり、乗り心地が向上する。
【0019】
前記第1閾値は特に限定されないが、0~10km/hの速度であってもよい。
【0020】
前記第2閾値は特に限定されないが、10~20km/hの速度であってもよい。
【0021】
前記駆動装置は内燃機関であってもよい。前記作動検出装置は、前記内燃機関の回転速度を検出する回転速度センサを有していてもよい。
【0022】
このことにより、内燃機関の回転速度に基づいて、内燃機関が作動しているか否かを検出することができる。
【0023】
前記車輪は前輪であり、前記電子制御式サスペンションは電子制御式のフロントサスペンションであってもよい。電力が供給されているときの前記フロントサスペンションの伸長時の減衰力は、電力が供給されていないときの前記フロントサスペンションの伸長時の減衰力よりも小さく、電力が供給されているときの前記フロントサスペンションの収縮時の減衰力は、電力が供給されていないときの前記フロントサスペンションの収縮時の減衰力よりも小さくてもよい。
【0024】
このことにより、メインスイッチがONされると、フロントサスペンションの伸長時および収縮時の両方の減衰力が小さくなるので、車体を傾斜した姿勢から垂直な姿勢にする動作、および、鞍乗型車両を押したり引いたりする動作が容易となる。
【0025】
前記車輪は後輪であり、前記電子制御式サスペンションは電子制御式のリアサスペンションであってもよい。電力が供給されているときの前記リアサスペンションの伸長時の減衰力は、電力が供給されていないときの前記リアサスペンションの伸長時の減衰力よりも小さく、電力が供給されているときの前記リアサスペンションの収縮時の減衰力は、電力が供給されていないときの前記リアサスペンションの収縮時の減衰力よりも小さくてもよい。
【0026】
このことにより、メインスイッチがONされると、リアサスペンションの伸長時および収縮時の両方の減衰力が小さくなるので、車体を傾斜した姿勢から垂直な姿勢にする動作、および、鞍乗型車両を押したり引いたりする動作が容易となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、電子制御式サスペンションを備え、走行用の駆動装置を始動する前の姿勢の変更または移動が容易な鞍乗型車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施形態に係る自動二輪車の側面図である。
図2図2は、フロントフォークの構成図である。
図3図3は、リアサスペンションの構成図である。
図4図4は、制御システムの構成図である。
図5図5は、車速とフロントフォークの減衰力との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、鞍乗型車両の一実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る鞍乗型車両は自動二輪車1である。
【0030】
自動二輪車1は、車体フレーム10と、車体フレーム10に支持されたシート2と、車体フレーム10に支持された内燃機関(以下、エンジンという)6と、車体フレーム10に支持された前輪8および後輪9と、車体フレーム10と前輪8との間に設けられたフロントフォーク20と、車体フレーム10と後輪9との間に設けられたリアサスペンション30と、制御装置60(図4参照)とを備えている。
【0031】
車体フレーム10は、ヘッドパイプ11と、ヘッドパイプ11から後方に延びるメインフレーム12と、メインフレーム12から後方に延びるシートフレーム13とを備えている。シート2はシートフレーム13に支持されている。
【0032】
ヘッドパイプ11にはステアリングシャフト15が回転可能に挿入されている。ステアリングシャフト15の上端部には、ハンドル16が取り付けられている。ステアリングシャフト15の上端部には、アッパーブラケット17が固定されている。ステアリングシャフト15の下端部には、アンダーブラケット18が固定されている。
【0033】
エンジン6は、走行用の駆動装置の一例である。ただし、駆動装置はエンジン6に限定されない。駆動装置は電動モータを備えていてもよい。駆動装置は、内燃機関および電動モータの両方を備えていてもよい。
【0034】
前輪8は、フロントフォーク20を介して車体フレーム10のヘッドパイプ11に支持されている。後輪9は、リアアーム19を介して車体フレーム10のメインフレーム12に支持されている。リアアーム19の前端部は、図示しないピボット軸により、メインフレーム12に揺動可能に接続されている。リアアーム19の後端部は、後輪9に接続されている。後輪9は、チェーン等の動力伝達部材(図示せず)によりエンジン6に接続されている。後輪9は駆動輪であり、エンジン6の駆動力を受けて回転する。
【0035】
フロントフォーク20は、電子制御式サスペンションの一例である。なお、電子制御式サスペンションとは、電子制御により減衰力特性が調整されるサスペンションをいう。図2に示すように、フロントフォーク20は、アッパーブラケット17およびアンダーブラケット18に固定されている。フロントフォーク20は、左チューブ20Lおよび右チューブ20Rを備えている。
【0036】
左チューブ20Lおよび右チューブ20Rのそれぞれは、アウターチューブ25とインナーチューブ26とを備えている。アウターチューブ25は、アッパーブラケット17およびアンダーブラケット18に取り付けられている。インナーチューブ26の下端部は、アクスルブラケット29を介して前輪8の車軸8Aに連結されている。インナーチューブ26はアウターチューブ25の内部にスライド可能に挿入されている。インナーチューブ26がアウターチューブ25に対してスライドすることにより、フロントフォーク20は伸縮する。本実施形態では、インナーチューブ26がアウターチューブ25に対して下方に移動すると、フロントフォーク20は伸長する。インナーチューブ26がアウターチューブ25に対して上方に移動すると、フロントフォーク20は収縮する。下方、上方は、それぞれフロントフォーク20の伸長方向、収縮方向に対応する。
【0037】
右チューブ20Rは、電子制御されるオイル式のショックアブソーバ40を備えている。ショックアブソーバ40は、インナーチューブ26と、ロッド27と、ピストン28と、制御弁アッセンブリ41とを備えている。ロッド27は、アウターチューブ25に変位不能に固定されている。ピストン28は、ロッド27の下端部に接続されている。ピストン28はインナーチューブ26の内部に配置されている。インナーチューブ26の内部空間は、ピストン28によって、油室44と油室45とに区画されている。
【0038】
制御弁アッセンブリ41は、油室44および油室45に接続されている。制御弁アッセンブリ41は、油路46~47と、チェックバルブ50および51と、電子制御式のピストンバルブ52および53とを備えている。チェックバルブ50は、油路46と油路48との間に配置されている。チェックバルブ50は、油路48から油路46への油の流れを許容し、油路46から油路48への油の流れを規制する。チェックバルブ51は、油路47と油路48との間に配置されている。チェックバルブ51は、油路48から油路47への油の流れを許容し、油路47から油路48への油の流れを規制する。ピストンバルブ52は、油路46と油路48とを接続している。ピストンバルブ52は、油路46から油路48への油の流れを許容し、油路48から油路46への油の流れを規制する。ピストンバルブ53は、油路47と油路48とを接続している。ピストンバルブ53は、油路47から油路48への油の流れを許容し、油路48から油路47への油の流れを規制する。ピストンバルブ52および53は、例えばソレノイドバルブによって構成されている。
【0039】
油がピストンバルブ52を流れるときに、油は流動抵抗を受ける。ピストンバルブ52が発生させる流動抵抗は、制御装置60によって制御される。制御装置60がピストンバルブ52の流動抵抗を大きくすると、油は油路46から油路48へ流れるときに、より多くの抵抗を受ける。これにより、油室45から制限弁アッセンブリ41を通じて油室44に油が流れにくくなるので、フロントフォーク20の伸長方向の減衰力が大きくなる。逆に、制御装置60がピストンバルブ52の流動抵抗を小さくすると、フロントフォーク20の伸長方向の減衰力は小さくなる。
【0040】
油がピストンバルブ53を流れるときに、油は流動抵抗を受ける。ピストンバルブ53が発生させる流動抵抗は、制御装置60によって制御される。制御装置60がピストンバルブ53の流動抵抗を大きくすると、油は油路47から油路48へ流れるときに、より多くの抵抗を受ける。これにより、油室44から制限弁アッセンブリ41を通じて油室45に油が流れにくくなるので、フロントフォーク20の収縮方向の減衰力が大きくなる。逆に、制御装置60がピストンバルブ53の流動抵抗を小さくすると、フロントフォーク20の収縮方向の減衰力は小さくなる。
【0041】
図1に示すように、リアサスペンション30の上端部32は、メインフレーム12に固定されたブラケット12aに接続されている。リアサスペンション30の下端部33は、リアアーム19に固定された連結部材14に接続されている。リアサスペンション30は、車体フレーム10および後輪9に間接的に接続されている。
【0042】
リアサスペンション30は、電子制御式サスペンションの他の一例である。図3に示すように、リアサスペンション30は、電子制御されるオイル式のショックアブソーバ40Bを備えている。ショックアブソーバ40Bは、シリンダ37と、シリンダ37内に摺動可能に配置されたピストン36と、ピストン36から延びるロッド31とを備えている。シリンダ37の内部空間は、ピストン36により、油室34と油室35とに区画されている。ピストン36が下方に移動すると、リアサスペンション30は伸長する。ピストン36が上方に移動すると、リアサスペンション30は収縮する。下方、上方は、それぞれリアサスペンション30の伸長方向、収縮方向に対応する。
【0043】
リアサスペンション30は、フロントフォーク20の制御弁アッセンブリ41と同様の制御弁アッセンブリ41を備えている。以下では、フロントフォーク20の制御弁アッセンブリ41と同様の部分には同様の符号を付し、それらの説明は省略することとする。リアサスペンション30では、制御弁アッセンブリ41の油路46は、油室34に接続されている。制御弁アッセンブリ41の油路47は、油室35に接続されている。
【0044】
制御装置60がピストンバルブ52の流動抵抗を大きくすると、油室34から制限弁アッセンブリ41を通じて油室35に油が流れにくくなるので、リアサスペンション30の収縮方向の減衰力が大きくなる。逆に、制御装置60がピストンバルブ52の流動抵抗を小さくすると、リアサスペンション30の収縮方向の減衰力は小さくなる。
【0045】
制御装置60がピストンバルブ53の流動抵抗を増加させると、油室35から制限弁アッセンブリ41を通じて油室34に油が流れにくくなるので、リアサスペンション30の伸長方向の減衰力が大きくなる。逆に、制御装置60がピストンバルブ53の流動抵抗を小さくすると、リアサスペンション30の伸長方向の減衰力は小さくなる。
【0046】
図4は、自動二輪車1が備える制御システムの構成図である。自動二輪車1は、電力を供給する電源の一例としてのバッテリ62と、メインスイッチ64と、車速センサ66と、エンジン6が作動しているか否かを検出する作動検出装置68とを備えている。なお、エンジン6は、図示しない発電機を有している。エンジン6が作動しているときは、上記発電機も電源として機能する。
【0047】
制御装置60は、電子制御装置(Electronic Control Unit)であって、図示しないCPU、RAM、およびROM等を有するマイクロコンピュータによって構成されている。制御装置60は、メインスイッチ64を介してバッテリ62に接続されている。メインスイッチ64がONされると、バッテリ62から制御装置60に電力が供給される。メインスイッチ64がOFFされると、バッテリ62から制御装置60に対する電力供給が遮断される。
【0048】
制御装置60には、車速センサ66および作動検出装置68が接続されている。本実施形態では、作動検出装置68は、エンジン6のクランク軸の回転速度を検出する回転速度センサ68a(図1参照)によって構成されている。クランク軸の回転速度が零よりも大きいことに基づいて、エンジン6が作動していることが検出される。ただし、作動検出装置68はエンジン6の作動を検出できる装置であれば足り、その形態は何ら限定されない。作動検出装置68は、例えば、エンジン6のインジェクターまたは点火装置の作動を検出する装置であってもよい。
【0049】
制御装置60は、フロントフォーク20およびリアサスペンション30に接続されており、フロントフォーク20およびリアサスペンション30を制御する。詳しくは、制御装置60は、フロントフォーク20およびリアサスペンション30のピストンバルブ52およびピストンバルブ53に接続されており(図2および図3参照)、ピストンバルブ52およびピストンバルブ53の流動抵抗を調整する。これにより、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力の特性が調整される。制御装置60は、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の伸長方向および収縮方向の減衰力を制御する。
【0050】
本実施形態では、ピストンバルブ52およびピストンバルブ53に電力が供給されていない場合、ピストンバルブ52およびピストンバルブ53における油の流動抵抗は最大となる。ピストンバルブ52およびピストンバルブ53に供給される電力量が大きくなるほど、ピストンバルブ52およびピストンバルブ53における油の流動抵抗は小さくなる。フロントフォーク20およびリアサスペンション30に電力が供給されていない場合、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力は最大となり、フロントフォーク20およびリアサスペンション30に供給される電力量が大きくなるほど、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力は小さくなる。制御装置60は、電力が供給されているときのフロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力を、電力が供給されていないときのフロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力よりも小さくする制御を実行可能に構成されている。
【0051】
詳しくは、フロントフォーク20に電力が供給されたときにピストン28が下方に移動するときのフロントフォーク20の減衰力は、フロントフォーク20に電力が供給されていないときにピストン28が下方に移動するときのフロントフォーク20の減衰力よりも小さい。フロントフォーク20に電力が供給されたときにピストン28が上方に移動するときのフロントフォーク20の減衰力は、フロントフォーク20に電力が供給されていないときにピストン28が上方に移動するときのフロントフォーク20の減衰力よりも小さい。このように、フロントフォーク20に電力が供給されると、フロントフォーク20の伸長方向および収縮方向の減衰力はいずれも小さくなる。
【0052】
リアサスペンション30に電力が供給されたときにピストン36が下方に移動するときのリアサスペンション30の減衰力は、リアサスペンション30に電力が供給されていないときにピストン36が下方に移動するときのリアサスペンション30の減衰力よりも小さい。リアサスペンション30に電力が供給されたときにピストン36が上方に移動するときのリアサスペンション30の減衰力は、リアサスペンション30に電力が供給されていないときにピストン36が上方に移動するときのリアサスペンション30の減衰力よりも小さい。このように、リアサスペンション30に電力が供給されると、リアサスペンション30の伸長方向および収縮方向の減衰力はいずれも小さくなる。
【0053】
以上が自動二輪車1の構成である。次に、制御装置60が実行する制御について説明する。
【0054】
乗員は、自動二輪車1に乗車する前(詳しくは、シート2に跨がる前)に、自動二輪車1のサイドスタンド(図示せず)を解除し、自動二輪車1を傾斜した姿勢から垂直な姿勢にする動作を行う場合がある。また、自動二輪車1に乗車する前に、自動二輪車1を駐車場所から引いて移動させる動作を行ったり、乗車場所まで押して移動させる動作を行うことがある。フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力が大きいと、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の伸長動作および収縮動作は硬くなるので、フロントフォーク20およびリアサスペンション30は外部からの力によって伸長させにくく、収縮させにくい。よって、乗員はそれらの動作を容易に行いにくい。すなわち、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力が大きいと、乗員は自動二輪車1の姿勢の変更または移動を容易に行うことができない。
【0055】
図5は、車速Vとフロントフォーク20の減衰力(以下、単に減衰力という)Dとの関係を表すグラフである。図示は省略するが、車速Vとリアサスペンション30の減衰力Dとの関係も同様である。本実施形態では、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dは、フロントフォーク20およびリアサスペンション30に電力が供給されないときに最大値Dmaxとなる。ここでは減衰力Dは、最大値Dmaxに対する割合として定義されている。図5の実線は、メインスイッチ64がON、かつ、エンジン6が作動しているときの車速Vと減衰力Dとの関係を表している。図5の破線は、メインスイッチ64がON、かつ、エンジン6が作動していないときの車速Vと減衰力Dとの関係を表している。
【0056】
本実施形態によれば、制御装置60は、メインスイッチ64がON、かつ、車速センサ66により検出される車速が5km/h以下、かつ、エンジン6が作動していないことが作動検出装置68により検出されたときに、フロントフォーク20およびリアサスペンション30に電力を供給する。これにより、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力は、電力が供給されていないときのフロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力よりも小さくなる。ここでは、制御装置60は、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dを、最大値Dmaxよりも小さな第1の値D1に制御する(図5の破線K1参照)。第1の値は何ら限定されないが、例えば、最大値の10%の値である。これにより、乗員は、自動二輪車1に乗車する前に、自動二輪車1の姿勢の変更または移動を容易に行うことができる。なお、上記の5km/hという値は、第1閾値の一例である。第1閾値は、乗員が自動二輪車1を押して移動させるときの車速の最大値であることが好ましいが、その値は特に限定されない。第1閾値は、例えば、0~10km/hの範囲内の任意の値であってもよい。
【0057】
乗員がエンジン6を始動させると、自動二輪車1は走行可能となる。自動二輪車1の走行中は、自動二輪車1の姿勢が安定することが好ましい。自動二輪車1の速度が零または比較的低速の場合には、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力を比較的大きく保つことにより、自動二輪車1の姿勢を安定させることができる。本実施形態によれば、制御装置60は、メインスイッチ64がON、かつ、車速センサ66により検出される車速が5km/h以下、かつ、エンジン6が作動していることが作動検出装置68により検出されたときに、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dを第1の値D1よりも大きな第2の値D2に制御する(図5の実線K2参照)。第2の値は特に限定されないが、例えば、最大値Dmaxの70%の値である。これにより、乗員は、エンジン6の始動後に自動二輪車1の姿勢を容易に安定化することができ、安定した姿勢で自動二輪車1の走行を開始することができる。
【0058】
ところで、メインスイッチ64がON、かつ、エンジン6が作動していないことが検出された場合に、車速Vに拘わらずフロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dを第1の値D1に制御することが考えられる。このことによっても、乗車前に自動二輪車1の姿勢の変更または移動を容易に行うことが可能である。ただし、自動二輪車1の走行中に、何らかの不具合によってエンジン6が停止してしまう場合があり得る。その場合、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力が急に小さくなると、乗り心地が低下する。そこで本実施形態によれば、制御装置60は、メインスイッチ64がON、かつ、車速センサ66により検出される車速が5km/hよりも大きく、かつ、エンジン6が作動していないことが作動検出装置68により検出されたときに、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dを第1の値D1よりも大きな第3の値D3に制御する(図5の破線K3参照)。これにより、走行中にエンジン6が停止したとしても、車速Vが5km/h以下でなければ、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力は高くなる。そのため、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力が急に小さくなることが回避される。
【0059】
ここでは、制御装置60は、メインスイッチ64がON、かつ、車速センサ66により検出される車速が5km/hよりも大きく、かつ、エンジン6が作動していないことが作動検出装置68により検出されたときに、フロントフォーク20およびリアサスペンション30に対する電力供給を停止する。そのため、第3の値D3は、減衰力Dの最大値Dmaxと一致する。本明細書では、フロントフォーク20およびリアサスペンション30に電力を供給しないことも、制御装置60によるフロントフォーク20およびリアサスペンション30の制御に含まれる。なお、第3の値D3は最大値Dmaxと一致していなくてもよく、最大値Dmaxよりも小さくてもよい。
【0060】
また、本実施形態によれば、制御装置60は、メインスイッチ64がON、かつ、車速センサ66により検出される車速が15km/h以下、かつ、エンジン6が作動していることが作動検出装置68により検出されたときに、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dを第1の値D1よりも大きな第4の値D4に制御する(図5の実線K4参照)。第4の値D4は定数であってもよいが、本実施形態では車速Vに基づいて変化する変数に設定されている。ここでは、第4の値D4は、車速Vが5~15km/hの範囲において、車速Vが大きいほど小さくなるように設定されている。これにより、乗員は、低速で走行するときに自動二輪車1を好適に運転しやすくなる。なお、上記の15km/hという値は第2閾値の一例であるが、第2閾値は特に限定されない。第2閾値は第1閾値よりも大きければよい。第2閾値は、例えば、10~20km/hの範囲内の任意の値であってもよい。
【0061】
自動二輪車1が比較的高速で走行しているときは、路面から受ける衝撃を吸収しやすいように、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力を比較的小さくすることが好ましい。本実施形態によれば、制御装置60は、メインスイッチ64がON、かつ、車速センサ66により検出される車速が15km/hよりも大きく、かつ、エンジン6が作動していることが作動検出装置68により検出されたときに、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dを第4の値D4よりも小さな第5の値D5に制御する(図5の実線K5参照)。これにより、路面からの衝撃をより効果的に吸収することができ、自動二輪車1の乗り心地が向上する。第5の値D5は特に限定されないが、例えば、最大値Dmaxの15%である。第5の値D5は第1の値D1と等しくてもよく、異なっていてもよい。
【0062】
なお、自動二輪車1が減速している途中で車速Vが15km/h以下に低下すると、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dは、第5の値D5から第4の値D4に増加する。車速Vが更に低下して5km/h以下になると、減衰力Dは第4の値D4から第2の値D2に増加する。そのため、例えば、赤信号の手前で自動二輪車1が停止する場合、減速の途中でフロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力が急に小さくなることが避けられる。よって、自動二輪車1の停止直前の姿勢を安定化させることができる。
【0063】
次に、本実施形態に係る自動二輪車1が奏する様々な効果について説明する。
【0064】
本実施形態に係る自動二輪車1によれば、メインスイッチ64がONされると、エンジン6が作動していないにも拘わらず、車速が5km/h以下の場合には、フロントフォーク20およびリアサスペンション30に電力が供給され、減衰力Dが第1の値D1に制御される。それにより、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力が小さくなる。フロントフォーク20およびリアサスペンション30は、伸長させやすくなり、収縮させやすくなる。そのため、乗員は、メインスイッチ64をONした後、エンジン6を始動する前に、自動二輪車1を傾斜した姿勢から垂直な姿勢にする動作を容易に行うことができる。また、自動二輪車1を押したり引いたりすることが容易となるので、乗車前に自動二輪車1を容易に移動させることができる。
【0065】
エンジン6を作動させると、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dは第2の値D2に制御され、比較的大きくなる。エンジン6の始動前はフロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dが比較的小さいが、エンジン6の始動後はフロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力は比較的大きくなる。エンジン6の始動後は、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の伸長動作および収縮動作が硬くなるので、自動二輪車1の姿勢を容易に安定化させることができる。乗員は、安定した姿勢で自動二輪車1の走行を開始することができる。また、走行中の自動二輪車1を停止させるときに、停止直前の自動二輪車1の姿勢を容易に保つことができ、安定して停止させることができる。
【0066】
ところで、乗員がキルスイッチ(図示せず)を押した場合、またはエンジンストールが生じた場合など、自動二輪車1の走行中にエンジン6が停止する場合がある。自動二輪車1の走行中にエンジン6が停止した場合、走行中であるにも拘わらず、メインスイッチ64がON、かつ、エンジン6が作動していない状態となる。しかし、本実施形態によれば、車速が5km/hよりも大きければ、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dは第3の値D3に保たれ、第1の値D1に低下しない。走行中にエンジン6が停止したとしても、5km/hよりも大きな速度で走行している限り、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の伸長動作および収縮動作は軟らかくならない。そのため、走行中にエンジン6が停止したとしても、車速が5km/h以下になるまで、自動二輪車1の姿勢を安定して保つことができる。乗り心地の低下を抑制することができる。
【0067】
本実施形態によれば、制御装置60は、メインスイッチ64がON、かつ、車速が5km/hよりも大きく15km/h以下、かつ、エンジン6が作動しているときは、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dを第4の値D4に制御する。本実施形態によれば、走行停止前の減速途中(例えば赤信号による停止の直前)において、車速が15km/h以下になったときに、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dが小さくなってしまうことを防止することができる。乗員は、走行停止前の減速途中において、自動二輪車1を安定して走行させることができる。
【0068】
本実施形態によれば、制御装置60は、メインスイッチ64がON、かつ、車速が15km/hよりも大きく、かつ、エンジン6が作動しているときには、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の減衰力Dを第5の値D5に制御する。このことにより、自動二輪車1が15km/hよりも大きな速度で走行しているときは、15km/h以下の速度で走行しているときよりも、フロントフォーク20およびリアサスペンション30減衰力Dは小さくなる。自動二輪車1が比較的高速で走行しているときには、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の伸長方向および収縮方向の動作は比較的柔らかくなる。そのため、自動二輪車1が比較的高速で走行しているときに、路面から受ける衝撃をより吸収しやすくなり、乗り心地が向上する。
【0069】
フロントフォーク20は、電力が供給されると、電力が供給されていないときに比べて、伸長時の減衰力および収縮時の減衰力のいずれか一方のみが小さくなってもよい。しかし、本実施形態によれば、フロントフォーク20に電力が供給されると、フロントフォーク20の伸長時および収縮時の両方の減衰力が小さくなる。そのため、自動二輪車1を傾斜した姿勢から垂直な姿勢にする動作、および、自動二輪車1を押したり引いたりする動作がより一層容易となる。
【0070】
リアサスペンション30は、電力が供給されると、電力が供給されていないときに比べて、伸長時の減衰力および収縮時の減衰力のいずれか一方のみが小さくなってもよい。しかし、本実施形態によれば、リアサスペンション30に電力が供給されると、リアサスペンション30の伸長時および収縮時の両方の減衰力が小さくなる。そのため、自動二輪車1を傾斜した姿勢から垂直な姿勢にする動作、および、自動二輪車1を押したり引いたりする動作がより一層容易となる。
【0071】
以上、一実施形態について説明したが、前記実施形態は例示に過ぎない。他にも様々な実施形態が可能である。
【0072】
前記実施形態では、制御装置60は、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の両方の減衰力を制御することとしたが、いずれか一方のみの減衰力を制御することも可能である。例えば、前記実施形態では、メインスイッチ64がONされると、車速が5km/以下かつエンジン6が作動していないときに、フロントフォーク20およびリアサスペンション30の両方の減衰力を小さくすることとした。しかし、メインスイッチ64がON、かつ、車速が5km/以下、かつ、エンジン6が作動していないときに、フロントフォーク20およびリアサスペンション30のいずれか一方のみの減衰力を小さくするようにしてもよい。
【0073】
フロントフォーク20は電子制御式のフロントサスペンションの例であるが、フロントサスペンションはフロントフォーク20に限定されない。フロントサスペンションは、テレスコピック式の機構を備えるものに限らず、テレレバー式の機構を備えるものであってもよい。
【0074】
鞍乗型車両とは、乗員が跨がって乗車する車両のことである。鞍乗型車両は自動二輪車1に限定されない。鞍乗型車両は、例えば、自動三輪車、ATV(All Terrain vehicle)、スノーモービルであってもよい。
【0075】
ここに用いられた用語及び表現は、説明のために用いられたものであって限定的に解釈するために用いられたものではない。ここに示されかつ述べられた特徴事項の如何なる均等物をも排除するものではなく、本発明のクレームされた範囲内における各種変形をも許容するものであると認識されなければならない。本発明は、多くの異なった形態で具現化され得るものである。この開示は本発明の原理の実施形態を提供するものと見なされるべきである。それらの実施形態は、本発明をここに記載しかつ/又は図示した好ましい実施形態に限定することを意図するものではないという了解のもとで、実施形態がここに記載されている。ここに記載した実施形態に限定されるものではない。本発明は、この開示に基づいて当業者によって認識され得る、均等な要素、修正、削除、組み合わせ、改良及び/又は変更を含むあらゆる実施形態をも包含する。クレームの限定事項はそのクレームで用いられた用語に基づいて広く解釈されるべきであり、本明細書あるいは本願のプロセキューション中に記載された実施形態に限定されるべきではない。
【符号の説明】
【0076】
1…自動二輪車(鞍乗型車両)、6…内燃機関(駆動装置)、8…前輪(車輪)、9…後輪(車輪)、10…車体フレーム、20…フロントフォーク(電子制御式サスペンション)、30…リアサスペンション(電子制御式サスペンション)、60…制御装置、62…バッテリ(電源)、64…メインスイッチ、66…車速センサ(車速検出装置)、68…作動検出装置、68a…回転速度センサ
図1
図2
図3
図4
図5