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特開2024-68341ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068341
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/53 20060101AFI20240513BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
D21H17/53
G06F3/041 460
G06F3/041 495
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178711
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091546
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 正美
(74)【代理人】
【識別番号】100206379
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 正
(72)【発明者】
【氏名】金田 剛典
(72)【発明者】
【氏名】掛 晃幸
(72)【発明者】
【氏名】小野 恭平
(72)【発明者】
【氏名】江前 敏晴
(72)【発明者】
【氏名】コチャポーン サングンパイ
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA03
4L055AC06
4L055AF09
4L055AG34
4L055AG82
4L055AG87
4L055AG99
4L055AH17
4L055AH50
4L055BE20
4L055EA20
4L055EA25
4L055EA27
4L055FA11
4L055GA08
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】プラスチック廃棄物の問題を解決することができると共に、鉛筆などの筆記具で用紙などの筆記媒体に筆記入力したときと同様の書き味を得ることができるペン入力装置用シートを製造する方法を提供する。
【解決手段】電子ペンにより指示された指示位置を検出するペン入力装置の、電子ペンの芯体と接触するペンペン入力装置用シートの製法である。所定濃度のパルプ懸濁液の所定量に、有機溶剤を溶媒とした所定濃度の生分解性プラスチックの溶液を加えて撹拌する第1の工程と、第1の工程で調製された溶液を用いて抄紙する第2の工程と、第2の工程で得られた前記の紙を熱プレスする第3の工程とを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ペンにより指示された指示位置を検出するペン入力装置の、前記電子ペンの芯体と接触するペン入力装置用シートであって、
パルプに、生分解性プラスチックが混合され、抄紙物として構成されている
ことを特徴とするペン入力装置用シート。
【請求項2】
前記生分解性プラスチックは、ポリカプロラクトンである
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項3】
前記抄紙物は熱プレスされている
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項4】
所定の荷重が印加された状態の前記電子ペンの前記芯体を、所定の速度で移動させた場合に、前記芯体との間の摩擦係数の平均が、用紙上において、前記所定の荷重が印加された状態の鉛筆を前記所定の速度で移動させて筆記入力した場合の前記鉛筆と前記用紙との間の摩擦係数の平均値に等しい、または近似している
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項5】
電子ペンにより指示された指示位置を検出するペン入力装置の、前記電子ペンの芯体と接触するペンペン入力装置用シートの製法であって、
所定濃度のパルプ懸濁液の所定量に、有機溶剤を溶媒とした所定濃度の生分解性プラスチックの溶液を加えて撹拌する第1の工程と、
前記第1の工程で調製された溶液を用いて抄紙する第2の工程と、
前記第2の工程で得られた抄紙物を熱プレスする第3の工程と、
を有することを特徴とするペン入力装置用シートの製法。
【請求項6】
前記生分解性プラスチックは、ポリカプロラクトンである
ことを特徴とする請求項5に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項7】
前記有機溶剤はアセトンであり、前記アセトンを溶媒とした前記ポリカプロラクトンの濃度は、6%である
ことを特徴とする請求項5に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項8】
前記有機溶剤はアセトンであり、前記アセトンを溶媒とした前記ポリカプロラクトンの濃度は、12%である
ことを特徴とする請求項5に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項9】
前記生分解性プラスチックは、無水マレイン酸で親水性を持たせる
ことを特徴とする請求項5に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項10】
前記熱プレスの温度は、40~60°Cである
ことを特徴とする請求項5に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項11】
前記熱プレスの温度は、60~90°Cである
ことを特徴とする請求項5に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項12】
前記生分解性プラスチックの溶液の濃度と、前記熱プレスの温度及び/又は加熱時間を調整することで、前記ペンペン入力装置用シートの摩擦係数の変化特性として、所望のものを得るようにする
ことを特徴とする請求項5に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項13】
前記生分解性プラスチックの溶液の濃度と、前記熱プレスの温度及び/又は加熱時間を調整することで、前記ペン入力装置用シート上において、所定の荷重が印加された状態の前記電子ペンの前記芯体を、所定の速度で移動させた場合に、前記芯体と前記ペン入力装置用シートとの間の摩擦係数の平均が、用紙上において、前記所定の荷重が印加された状態の鉛筆を前記所定の速度で移動させて筆記入力した場合の前記鉛筆と前記用紙との間の摩擦係数の平均値に等しくなるようにする、または近似するようにする
ことを特徴とする請求項5に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項14】
前記第3の工程の前に、前記第2の工程で得られた前記抄紙物をウェットプレス後、所定時間乾燥させる工程を行う
ことを特徴とする請求項5に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項15】
前記第1の工程では、所定濃度の湿潤紙力増強剤の溶液を、さらに添加する
ことを特徴とする請求項5に記載のペン入力装置用シートの製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ペンと、この電子ペンにより指示された指示位置を検出する位置検出装置とからなるペン入力装置に用いる、電子ペンのペン先と接触するペン入力装置用シートに関する。また、この発明は、ペン入力装置用シートの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、スマートフォンと呼ばれる高機能携帯電話端末や、パッド型端末などの小型の電子機器の入力装置として、ペン入力装置が用いられるようになっている。ペン入力装置は、電子ペンと、この電子ペンにより指示された指示位置を検出する位置検出装置とからなる。このような小型の電子機器用のペン入力装置に使用される電子ペンは、細型化が進み、そのペン先は、市販のボールペンのペン先と同様の径のものも多くなってきている。
【0003】
このような背景もあって、電子ペンが、例えば、紙に対して鉛筆やボールペンで書くような書き味で入力することができるようにすることが求められるようになっている。この目的のため、従来から、ペン入力装置のペン指示入力面上に、上記のような書き味を現出するように工夫されたシート(ペン入力装置用シート)を貼付することが行われている。このシートは、紙で構成した場合には、耐久性に難があるため、プラスチック材料(合成樹脂材料)で構成されている。
【0004】
例えば特許文献1(特開2014-137640号公報)や特許文献2(特開2014-149817号公報)には、シート表面の凹凸形状を制御することで書き味を調整するようにしたペン入力装置用シート(フィルム)が提案されている。また、特許文献3(特開2006-119772号公報)には、シート表面に軟質樹脂のコーティングを施すことで書き味を現出するようにしたペン入力装置用シート(フィルム)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-137640号公報
【特許文献2】特開2014-149817号公報
【特許文献3】特開2006-119772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載のペン入力装置用シートの表面の凹凸形状を制御することで書き味を調整する手法では、ペンで紙に筆記した際の紙の凹みによる感触(書き味または筆圧感)を再現することができないという問題がある。
【0007】
なお、書き味または筆圧感とは、紙へ筆記具で記入した時の引っかかり具合をいう。特に漢字などにおいては、画数が多く、一筆ごとのメリハリを明確にしなければならない。そのため、書き始めの始点と書き終わりの終点の明確さが必要である。特に書き終わりとして、跳ね・止め・払いが有るが、その時の引っかかり具合によって、書き味は大きく異なる。
【0008】
また、特許文献3に記載の表面に軟質樹脂のコーティングを行う手法では、軟質樹脂層の厚みが「好ましくは5~200μm、より好ましくは5~100μmであり、特に好ましくは10~50μm」とされており、筆圧によるペン入力装置用シート(フィルム)の沈み量も、当該軟質樹脂層の厚さ未満の小さい値となる。このため、筆圧によるペン入力装置用シート(フィルム)の沈み量によって生じるペン引っかかり抑制効果が少なくなり、素材の摩擦力により抵抗感を発生させるために重ねた紙に対するような書き味は得られないという問題がある。
【0009】
また、特許文献3には、軟質樹脂に再塗布不可能なコーティングを行う手法も開示されているが、この手法では、軟質樹脂に対応した強固なコーティングのための費用が掛かりコスト高となると共に、耐久性に難があり、筆記箇所のコーティングが剥落する問題がある。
【0010】
また、特許文献3に記載のペン入力装置用シートでは軟質樹脂層をPET(Polyethylene Terephthalate)フィルムなどの比較的硬質なフィルムの下に設けるという手法も開示されている。しかし、この手法の場合には、応力が分散して軟質樹脂層に作用するため、弱い筆圧では軟質樹脂層が無いフィルムと同様の筆記感となり、筆圧を高めても集中的に沈みが発生するのではなく、なだらかに全体が撓むような変位となるために、紙に書くときのような良好な筆記感を得られない恐れがあった。
【0011】
さらに、従来のペン入力装置用シートは、全体が、分解し難いプラスチック材料(合成樹脂材料)で構成されているため、いわゆるプラスチック廃棄物の問題を有する。
【0012】
この発明は、以上の問題点を軽減することができるようにしたペン入力装置用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、
電子ペンにより指示された指示位置を検出するペン入力装置の、前記電子ペンの芯体と接触するペン入力装置用シートであって、
パルプに、生分解性プラスチックが混合され、抄紙物として構成されている
ことを特徴とするペン入力装置用シートを提供する。
【0014】
上述の構成の入力装置用シートによれば、紙の原材料であるパルプに、生分解性プラスチックが混合され、抄紙物として構成されるので、電子ペンにより紙に筆記した際の感触(書き味または筆圧感)を再現することが容易にできると共に、プラスチック廃棄物の問題を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態を用いるペン入力装置の一例を説明するための図である。
図2】この発明によるペン入力装置用シートの製法の実施形態を説明するためのフローチャートを示す図である。
図3】この発明によるペン入力装置用シートの製法の実施形態を説明するために用いる図である。
図4】この発明によるペン入力装置用シートの製法の実施形態を説明するために用いる図である。
図5】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態の摩擦係数の変化特性を説明するための図である。
図6】この発明によるペン入力装置用シートの他の実施形態の摩擦係数の変化特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明による入力装置用シートの実施形態及びその製法の実施形態を、図を参照しながら説明する。
【0017】
[ペン入力装置の構成例]
この発明によるペン入力装置用シートの実施形態を説明する前に、この発明が適用されるペン入力装置の一例の構成例について説明する。
【0018】
図1は、ペン入力装置の一例としてのペンタブレット端末1の一例を示すものである。この例のペンタブレット端末1は、薄型板状の端末筐体1K内に、電磁誘導方式の位置検出装置2を備えている。このペンタブレット端末1の端末筐体1Kの表面側には、位置検出装置2の位置検出センサの位置検出領域と重なるようにペン指示入力領域面1Sが形成されている。
【0019】
そして、この例のペンタブレット端末1は、位置検出装置2の位置検出センサに対して電磁誘導方式に位置指示を行う電子ペン3を備える。この例の電子ペン3は、円筒状形状の筐体3Kの中空部内に、図示は省略するが、軸芯方向の貫通孔を有する磁性体コア、例えばフェライトコアに巻回されたコイルと、このコイルと共に共振回路を構成するコンデンサが搭載されたプリント基板と、筆圧検出部とが収納されている。電子ペン3の共振回路は、位置検出装置2の位置検出センサと電磁誘導結合する。
【0020】
この例の電子ペン3は、共振回路で位置検出装置2の位置検出センサとの間で電磁誘導結合により信号のインタラクションを行う。位置検出装置2が、この電磁誘導結合による信号のインタラクションに基づいて、電子ペン3により指示されたペン指示入力領域面1S上における位置の座標を検出する。
【0021】
また、この例の電子ペン3おいては、芯体3aがフェライトコアの貫通孔を挿通して、筆圧検出部に嵌合されている。芯体3aは、樹脂、例えばPOM(Polyoxymethylene)で構成されている。筆圧検出部は、芯体3aに印可される圧力(筆圧)を、静電容量の変化、インダクタンス値の変化、抵抗変化などとして検出する。そして、電子ペン3では、検出した筆圧を、共振回路の周波数(位相)の変化として、位置検出装置2に電磁誘導結合により送り、あるいは、近距離無線通信方式の通信部を用いて位置検出装置2に送信する。位置検出装置2では、電磁誘導結合により受信した共振周波数(位相)の変化を検出することで筆圧を検出し、あるいは無線通信により受信した情報から筆圧情報を抽出することで筆圧を検出する。
【0022】
使用者は、電子ペン3の芯体3aの先端部(ペン先)を、ペン入力装置用シート100に接触させ、ペン先に所定の筆圧を印加させた状態で、ペン入力装置用シート100上で線を描くなどの入力操作を行う。位置検出装置2は、電子ペン3によるペン入力装置用シート100上での位置指示入力を検出すると共に、当該位置指示入力時における電子ペン3の筆圧を検出する。
【0023】
[ペン入力装置用シート100の製法の実施形態の説明]
この実施形態のペン入力装置用シート100は、所定濃度のパルプ懸濁液の所定量に、有機溶剤を溶媒とした所定濃度の生分解性プラスチックの溶液を添加して撹拌した後、抄紙を行い、得られた抄紙物を熱プレスすることで製造される。
【0024】
この実施形態のペン入力装置用シートの製法においては、生分解性プラスチックの添加量と、熱プレスの温度と、プレス時間を調整することで、例えば所定の信号の硬さ鉛筆で用紙に筆記入力したときの書き味と同様の書き味など、所望の特性が得られるシートを提供することができるようにしている。
【0025】
この実施形態のペン入力装置用シート100の製法の流れを、図2を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態のペン入力装置用シート100の製法の例では、有機溶剤の例としてアセトンを用い、生分解性プラスチックの例としてポリカプロラクトン(以下、PCLと称する)を用いた。
【0026】
<紙料調製>
この紙料調製は、抄紙を行う紙材料を調製する工程であり、図2において、所定濃度のパルプの懸濁液を調製(準備)するパルプ懸濁液調製工程(ステップS1)と、所定濃度の生分解性プラスチック溶液を調製(準備)する生分解性プラスチック溶液調製工程(ステップS2)と、調製した生分解性プラスチック溶液を、調製したパルプ懸濁液に添加して撹拌する添加撹拌工程(ステップS3)とからなる。
【0027】
ステップS1は、次の手順で行われる。先ず、広葉樹漂白クラフトパルプを採取し、所定時間、例えば一晩水に浸漬する。当該所定時間、水に浸漬したパルプを、標準離解機などの離解手段で、所定時間、例えば5分間離解する。次に、離解したパルプを、所定粗さの網、例えば100メッシュの網で受けた後、水を絞り、所定濃度、例えば12%濃度となるようにする。次に、この所定濃度のパルプを、叩解手段、この例ではPFIミルに入れ、所定回数、例えば5000回叩解した後、水を加えて、この例では0.15%濃度のパルプ懸濁液を調製する。
【0028】
次に、ステップS2においては、所定濃度の生分解性プラスチック溶液、この例ではPCLアセトン溶液を調製する。ここで、PCLアセトン溶液とは、PCLを溶媒であるアセトンに溶解した溶液を意味している。そして、以下の説明においては、鉛筆で用紙に筆記入力したときの書き味と同様の書き味を得るようにするために選定した所定濃度として6%と、12%のPCLアセトン溶液を用いるようにする。
【0029】
例えば、5g(グラム)のPCLを、100mL(ミリリットル){79g(グラム) }のアセトンに入れ、所定時間、例えば24時間ゆっくり撹拌して溶解し、濃度が6%のPCL溶液を得る。あるいは、同様にして、10g(グラム)のPCLを、100mL(ミリリットル){79g(グラム) }のアセトンに入れ、所定時間、例えば24時間ゆっくり撹拌して溶解し、濃度が12%のPCL溶液を得る。
【0030】
この場合に、パルプとプラスチックとの接着性の低いことを考慮して、アセトンなどの溶媒に溶解するPCLなどの生分解性プラスチックの樹脂素材を、無水マレイン酸で親水性を持たせ化学結合させるようにする。これにより、生分解性プラスチック材料が溶媒に溶解し易くするようにする。なお、この無水マレイン酸を用いて、親水性を良くする処理は必須ではなく、省略してもよい。また、親水性を良くするためには、無水マレイン酸に限らず、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸、オキサゾラインなどを用いてもよい。
【0031】
次に、ステップS3においては、ステップS1で調製して得たパルプ懸濁液の所定量に、ステップS2で調製して得たPCL溶液の所定量を添加して撹拌する。例えば800mLのパルプ懸濁液に、10mLの6%濃度又は12%濃度のPCLアセトン溶液を添加して撹拌する。
【0032】
さらに、この実施形態では、ステップS3では、PCLアセトン溶液に加えて、湿潤紙力増強剤も添加して撹拌する。湿潤紙力増強剤としては、この例では、所定濃度、例えば1%のPAE(ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン)溶液を添加する。
【0033】
<抄紙化>
以上のようにして、ステップS1~ステップS3においてパルプ懸濁液にPCLアセトン溶液及びPAE溶液を添加し、撹拌して調製した紙材料を用いて、この例では標準手抄き抄紙機で抄紙を行う(ステップS4)。そして、調製した抄紙物(抄紙後の結果物)をウェットプレスした後、所定時間、例えば24時間乾燥させる(ステップS5)。
【0034】
<熱プレス>
ステップS5での乾燥後、調製した抄紙物を所定温度で、所定時間、熱プレスして、ペン入力装置用シート100を調製する(ステップS6)。この場合に、熱プレスの温度及びプレス時間を調整することで、調製したペン入力装置用シート上において電子ペンで筆記入力をしたときに、鉛筆で、用紙に筆記入力をしたときと同様の書き味が得られるようにする。
【0035】
この例では、温度40~60℃の範囲内の例えば温度50℃で10分間、熱プレスした場合と、温度60~90℃の範囲内の例えば温度80℃で10分間、熱プレスした場合とを行った。
【0036】
以上の工程で、この実施形態のペン入力装置用シート100が調製される。この例では、上述したように、6%濃度のPCLアセトン溶液を用いて調製したものはシート100A、また、12%濃度のPCLアセトン溶液を用いて調製したものはシート100Bと称することとする。そして、シート100Aのうち、50℃で熱プレスしたものはシート100A1と称し、80℃で熱プレスしたものはシート100A2と称する。また、シート100Bのうち、50℃で熱プレスしたものはシート100B1と称し、80℃で熱プレスしたものはシート100B2と称することとする。
【0037】
図3に、シート100A及びシート100Bの調製に用いられたパルプ及び添加物の成分表を示す。この表において、数値の横の括弧内の数値は、パルプや添加物の固体重量(単位はg(グラム))を示している。なお、6%及び12%のPCLアセトン溶液においては、共に密度は0.790g/cm3と仮定した。また、PAE水溶液の密度は1g/cm3と仮定した。
【0038】
[実施形態のシート100A又は100Bの特性の説明]
次に、以上のようにして調製したこの実施形態のシート100A又は100Bの特性について説明する。
【0039】
書き味は、鉛筆の芯先と用紙との間の摩擦係数及び電子ペンの芯体の先端とシート100A及び100Bとの間の摩擦係数が関与するものであると考えられる。そこで、鉛筆で用紙に筆記したときの摩擦係数と、上述の実施形態で調製された入力装置用シート100A及び100B上で、電子ペンで筆記入力したときの摩擦係数とを測定して、比較することにする。
【0040】
この例では、芯の硬さがHBの鉛筆で用紙に筆記入力したときの摩擦係数と、例えばPOMで構成された芯体3aを備える電子ペン3で、従来の入力装置用シート及びこの実施形態の入力装置用シート100A(シート100A1及びシート100A2)及び100B(シート100B1及びシート100B2)上で筆記入力したときの摩擦係数とを測定した。この測定においては、鉛筆と電子ペン3とは同条件の下で筆記入力をするものとしている。条件としては、鉛筆の芯先又は電子ペン3の芯体3aには、例えば80~120gfの所定の荷重(筆圧)を印可した状態で、例えば10~30mm/秒の所定の速度で、用紙上及び入力装置用シート100A及び100B上を移動させることとする。なお、電子ペン3の芯体3aに印加される筆圧は、当該電子ペン3が備える筆圧検出部で検出可能である。
【0041】
図4は、この例の場合の測定条件と、紙や種々の入力装置用シートについて得られた摩擦係数(平均値)との関係を示す表を示す図である。この図4の例においては、鉛筆の芯先又は電子ペン3の芯体3aに印可される荷重(筆圧)は100gfとし、用紙上及び入力装置用シート100A及び100B上における鉛筆の芯先及び電子ペン3の芯体3aの移動速度は20mm/秒として、摩擦係数の測定を行った。
【0042】
この図4の表から、前記電子ペンの前記芯体に80~120gfの荷重が印加された状態で、10~30mm/秒の速度で前記電子ペンの前記芯体を移動させた場合に、前記ペン入力装置用シートと前記芯体との間の摩擦係数の平均が0.2~0.4の範囲となることを伺い知ることができる。
【0043】
次に、シート100A及びシート100Bの摩擦係数の変化特性を、紙上で鉛筆で筆記入力したときの変化特性及び従来のペン入力装置用シート上で電子ペンで筆記入力したときの変化特性との相違を考慮しながら、図5及び図6の摩擦係数の測定結果に基づいて説明する。なお、図5及び図6においては、横軸に鉛筆の芯先又は電子ペン3の芯体3aの移動距離を割り当て、縦軸に各移動距離における摩擦係数の大きさを割り当てて、測定結果を表した。なお、図4の摩擦係数の平均値は、図5及び図6において、摩擦係数の変化特性が安定な区間(図5及び図6で2本の縦線の間の区間)のデータを用いて算出したものである。
【0044】
先ず、シートAの摩擦係数の変化特性について考察する。図5(A)は、紙上において芯の硬さHBの鉛筆で筆記入力したときの摩擦係数の変化特性201を示し、また、図5(B)は、従来のプラスチック材料のみからなるペン入力装置用シートの一例(以下、従来のペン入力装置用シートという)上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の変化特性202を示している。この図5(A)及び図5(B)に示す摩擦係数の変化特性201及び202から、紙上でHBの鉛筆で筆記入力したときの摩擦係数の平均値は、図4の表に示すように0.31であり、一方、従来のペン入力装置用シート上で電子ペン3により筆記入力したときの摩擦係数の平均値は、図4の表に示すように0.17であることが確認された。
【0045】
そして、図5(A)及び図5(B)に示す摩擦係数の変化特性201及び202から、従来のペン入力装置用シート上で電子ペン3により筆記入力したときの摩擦係数は、平均値が、紙上でHBの鉛筆で筆記入力したときの摩擦係数の平均値の約1/2であり、しかも、変化の振幅が小さいものであることが確認できる。したがって、従来のペン入力装置用シート上で電子ペン3により筆記入力したときには、用紙上で鉛筆により筆記入力をした場合の書き味と異なり、凹凸の殆どない滑らかな面で滑るような書き味となっていることが分かる。
【0046】
次に、図5(C)は、この実施形態のシート100A1上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の変化特性203を示している。この図5(C)に示す摩擦係数の変化特性203から、シート100A1上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の平均値は、図4の表に示すように0.31であることが確認された。すなわち、シート100A1上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の平均値は、紙上でHBの鉛筆で筆記入力したときの摩擦係数の平均値と等しくなった。
【0047】
そして、図5(A)及び図5(C)の摩擦係数の変化特性201及び203から、シート100A1上で電子ペン3により筆記入力したときの摩擦係数の変化の振幅は、紙上でHBの鉛筆で筆記入力したときの摩擦係数の変化の振幅よりも若干大きいことが確認できた。
【0048】
以上のことから、シート100A1上で電子ペン3により筆記入力したときには、HBの鉛筆により用紙上で筆記入力をしたときの用紙の凹みによる感触(書き味または筆圧感)と同等の感触が得られると期待できる。つまり、シート100A1上で電子ペン3により筆記入力したときには、HBの鉛筆により用紙上で筆記入力をしたときの書き味を再現することできると期待できる。
【0049】
次に、図5(D)は、この実施形態のシート100A2上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の変化特性204を示している。この図5(D)に示す摩擦係数の変化特性204から、シート100A2上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の平均値は、図4の表に示すように0.26であることが確認された。すなわち、シート100A2上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の平均値は、紙上でHBの鉛筆で筆記入力したときの摩擦係数の平均値(=0.31)よりは若干小さくなる。
【0050】
そして、図5(D)の摩擦係数の変化特性204から、シート100A2上で電子ペン3により筆記入力したときの摩擦係数の変化は、紙上でHBの鉛筆で筆記入力したときの摩擦係数の変化とほぼ同様となること分かる。しかし、図5(C)のシート100A1の摩擦係数203と比較すると、図5(D)のシート100A2の摩擦係数の変化特性204は、摩擦係数の振幅が若干小さくなっていることが分かる。
【0051】
以上のことから、シート100A2上で電子ペン3により筆記入力したときにも、鉛筆により用紙上で筆記入力をしたときの用紙の凹みによる感触(書き味または筆圧感)が得られるが、シート100A1に比べて、若干滑らかな感触となることが分かる。
【0052】
次に、シートBの摩擦係数の変化特性について考察する。図6(A)は、紙上において芯の硬さHBの鉛筆で筆記入力したときの摩擦係数の変化特性201を示し、また、図6(B)は、従来のプラスチック材料のみからなるペン入力装置用シートの一例(以下、従来のペン入力装置用シートという)上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の変化特性202を示している。これらは、図5(A)及び(B)に示したものと同一であって、図6において、シート100Bの摩擦係数の変化特性との相違を分かり易くするために図6(A)及び(B)として示した。
【0053】
図6(C)は、この実施形態のシート100B1上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の変化特性205を示している。この図6(C)に示す摩擦係数の変化特性205から、シート100B1上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の平均値は、図4の表に示すように0.33であることが確認された。すなわち、シート100B1上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の平均値は、紙上でHBの鉛筆で筆記入力したときの摩擦係数の平均値とほぼ等しいことが確認された。
【0054】
また、図6(A)及び(C)の摩擦係数の変化特性201及び205から、シート100B1上で電子ペン3により筆記入力したときの摩擦係数の変化の振幅は、紙上でHBの鉛筆で筆記入力したときの摩擦係数の変化の振幅よりも大きくなることが確認された。
【0055】
したがって、この図6(C)の摩擦係数の変化特性を参酌すると、シート100B1上で電子ペン3により筆記入力したときには、用紙の凹みによる感触(書き味または筆圧感)が、HBの鉛筆により用紙上で筆記入力をしたときよりも大きくなり、シート100A1に比べて、よりザラザラ感が強い入力面(描画面)の上で筆記入力をしている感触が得られるようになることが感得される。
【0056】
次に、図6(D)は、この実施形態のシート100B2上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の変化特性206を示している。この図6(D)に示す摩擦係数の変化特性206からは、シート100B2上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の平均値は、シート100A2上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときの摩擦係数の平均値と等しく、図4の表に示すように0.26であること、また、その摩擦係数の変化の振幅が、シート100B1上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときに比較して、小さくなることが分かる。
【0057】
したがって、以上のことから、シート100B2上においてPOM芯の電子ペン3で筆記入力したときには、シート100B1上で電子ペン3により筆記入力したときと比べて、ザラザラ感が小さくなると共に、摩擦係数の平均値が小さくなることで、若干滑らかな感触が得られるようになる。
【0058】
以上の測定結果から、図5(C)に示したように、この実施形態のシート100A1によれば、電子ペン3により筆記入力をしたときには、HBの鉛筆により用紙上で筆記入力をしたときの摩擦係数の変化特性と同等の摩擦係数の変化特性が得られ、HBの鉛筆により用紙上で筆記入力をしたときの書き味を再現することできることが確認される。
【0059】
そして、以上の図4の表並びに図5(C)、図5(D)及び図6(C)、図6(D)に示したシート100A1、100A2、100B1、100B2の摩擦係数の測定結果から、熱プレスの時間が同一(上述の実施形態では10分)である場合に熱プレスの温度が高くなると、摩擦係数の変化の振幅は小さくなると共に、摩擦係数の平均値が小さくなることが分かる。このことから、加えられる熱量が温度と時間に比例することを考慮すると、熱プレスの温度及び/又は熱プレスの時間を変更制御することにより、ペン入力装置用シート100の電子ペン3との間の摩擦係数の平均値及び振幅を制御することができることが分かる。
【0060】
また、図5(C)及び(D)と、図6(C及び(D)とを比較参照することで、パルプに添加するPCL溶液の濃度が大きくなると、摩擦係数の変化の振幅は大きくなることが分かる。この場合に、パルプに添加するPCL溶液の濃度が変化しても、摩擦係数の平均値は殆ど変化が無いことも分かる。このことから、パルプに添加するPCL溶液の濃度を変更制御することにより、ペン入力装置用シート100の電子ペン3との間の摩擦係数の振幅を制御することができることが分かる。
【0061】
そして、上述のように、パルプに添加するPCL溶液の濃度を6%とし、熱プレスの時間を10分、熱プレスの温度を50℃と選定することで、シート100A1を調製することができ、図5(C)に示した、HBの鉛筆により用紙上で筆記入力をしたときの摩擦係数の変化特性と同等の摩擦係数の変化特性を得ることができる。
【0062】
そして、例えば、この図5(C)の摩擦係数の変化特性よりも、若干滑らかな摩擦係数の変化特性のシートを得たい場合には、熱プレスの温度を高くする、あるいは熱プレスの時間を長くする、または、PCL溶液の濃度を低くする、ようにすればよい。
【0063】
また、例えば、図5(C)の摩擦係数の変化特性よりも、摩擦係数の変化の振幅を大きくするような変化特性を得たい場合には、熱プレスの温度を低くする、あるいは熱プレスの時間を短くする、または、PCL溶液の濃度を高くする、ようにすればよい。
【0064】
すなわち、この発明によるペン入力装置用シートの製法を実行する者は、当該者が希望するペン入力装置用シートの特性に応じて、パルプに添加する所定量の生分解性プラスチックの濃度を選定し、熱プレスの温度及び/又は熱プレスの時間を選定することで、その希望する特性の入力装置用シートを得ることができる。
【0065】
なお、この実施形態のペン入力装置用シートは、例えば図1に示したペンタブレット装置1に用いる場合には、ペン指示入力領域面1S上に、例えば接着材により接着することで取り付けることができる。
【0066】
また、ペン入力装置用シートをペンタブレットのペン指示入力領域面1Sに対して剥離可能として交換可能の構成とする場合には、当該ペン入力装置用シートのペン指示入力領域面1Sの対向面側の4隅や四角枠の形状に、接着しても容易に剥離可能となる材料が塗布されたビニールフィルム等を設けるようにしてもよい。
【0067】
[実施形態のペン入力装置用シートの効果及びその製法の効果]
以上のようにして調製されたシートA及びシートBは、パルプに生分解性プラスチックが添加されたものであるので、紙のみからなるシートよりも堅牢であり、ペン入力装置用シートとして好適である。そして、得られたシートは、鉛筆で用紙に筆記入力したときの書き味等、種々の書き味が再現されたシートであり、有用である。
【0068】
また、この実施形態のペン入力装置用シートの製法によれば、パルプに、所定量の生分解性プラスチックの例としてのPCLが添加されて抄紙され、熱プレスされることで、電子ペンにより当該入力装置用シート100A又は100B上で筆記入力したときに、鉛筆で用紙に筆記入力したときの書き味等、種々の書き味を、再現することができる。そして、生分解性プラスチックの添加量と、熱プレスの温度と、プレス時間を調整することで、鉛筆で用紙に筆記入力したときの書き味と同様の書き味が得られるシートを提供することができる。
【0069】
[他の実施形態又は変形例]
なお、上述の実施形態では、パルプに添加する生分解プラスチック材料としてPCLを用いたが、PCLに限られるものではないことは言うまでもない。例えばバイオマス原料由来の生分解性プラスチックであっても勿論良い。ただし、実施形態で用いたPCLは石油由来の材料からなる化学合成系生分解性プラスチックであるが、当該PCLを分解する細菌が発見されており、非常に有用な材料である。
【0070】
また、湿潤紙力増強剤も、PAEに限られるものではないことは言うまでもない。また、有機溶媒もアセトンに限られるものではないことは言うまでもない。
【0071】
また、目標とする特性について、鉛筆で紙に筆記入力する場合の特性のみについて説明したが、筆記具としては鉛筆に限られるものではなく、種々の文房具でよく、また、筆記媒体も用紙に限らず、種々のものを対象としてもよい。
【0072】
また、電子ペンは、電磁誘導方式の電子ペンの場合について説明したので、芯体は樹脂の場合としたが、電子ペンは電磁誘導方式のものに限らず、アクティブ静電容量方式などの静電容量方式の電子ペンであってもよく、その場合に、芯体は導電金属などであってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…ペンタブレット、3…電子ペン、100,100A,100B,100A1,100A2,100B1,100B2…ペン入力装置用シート、201,202,203,204,205…摩擦係数の変化特性
図1
図2
図3
図4
図5
図6