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特開2024-68355SiON膜付き基材、ポリシラザン含有液組成物、SiON膜付き基材の製造方法
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  • 特開-SiON膜付き基材、ポリシラザン含有液組成物、SiON膜付き基材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068355
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】SiON膜付き基材、ポリシラザン含有液組成物、SiON膜付き基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/318 20060101AFI20240513BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20240513BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
H01L21/318 C
H01L21/316 G
C04B41/87 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178735
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】辻内 直人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 将人
【テーマコード(参考)】
5F058
【Fターム(参考)】
5F058BB06
5F058BC11
5F058BF46
5F058BH02
5F058BJ05
5F058BJ06
(57)【要約】
【課題】基材の表面に形成された凹部内に、エッチング耐性に優れたSiON膜が十分に充填されたSiON膜付き基材、SiON膜を成膜する際に用いられるポリシラザン含有液組成物、および、SiON膜付き基材の製造方法を提供する。
【解決手段】表面に凹部12が形成された基材11と、少なくとも凹部12内に充填されたSiON膜15と、を備え、凹部12内におけるSiON膜15の充填率が90%以上とされるとともに、SiON膜15における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)が10mass%以上90mass%以下の範囲内とされていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部が形成された基材と、少なくとも前記凹部内に充填されたSiON膜と、を備え、
前記凹部内における前記SiON膜の充填率が90%以上とされるとともに、
前記SiON膜における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)が10mass%以上90mass%以下の範囲内とされていることを特徴とするSiON膜付き基材。
【請求項2】
前記基材が、Si,SiN,SiCのいずれかで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のSiON膜付き基材。
【請求項3】
ポリシラザンと、溶媒と、エーテル基を有するエーテル基含有添加剤と、を含み、前記エーテル基含有添加剤の含有量が5mass%以上80mass%以下の範囲内とされていることを特徴とするポリシラザン含有液組成物。
【請求項4】
表面に凹部が形成された基材と、少なくとも前記凹部内に充填されたSiON膜と、を備えた、SiON膜付き基材の製造方法であって、
請求項3に記載のポリシラザン含有液組成物を前記凹部内に塗布する塗布工程と、塗布した前記ポリシラザン含有液組成物を加熱処理して焼成する焼成工程と、を有することを特徴とするSiON膜付き基材の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程は、1次熱処理温度で保持する1次熱処理工程と、前記1次熱処理温度よりも高温の2次熱処理温度で保持する2次熱処理工程と、を含むことを特徴とする請求項4に記載のSiON膜付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に開口した凹部内にSiON膜が充填されたSiON膜付き基材、SiON膜を成膜する際に用いられるポリシラザン含有液組成物、SiON膜付き基材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置等の電子デバイスにおいて用いられる絶縁膜等として、窒化珪素膜や酸化珪素膜等の珪素化合物膜が用いられている。
このような珪素化合物膜の製造方法としては、例えば特許文献1,2に示すように、ポリシラザン塗膜を焼成する技術が提案されている。
【0003】
ここで、半導体装置等の電子デバイスにおいては、近年、高密度化および高集積化が進んでおり、微細なパターンで絶縁膜を形成することが求められている。
そこで、基材の表面に、予めトレンチ(溝)やホール等の各種形態の凹部が形成し、この凹部にシリコン化合物膜を充填させることで、微細パターンで絶縁膜を形成しても、十分な絶縁性を確保することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-194873号公報
【特許文献2】特開2005-347636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、基材の表面に形成されるパターンがさらに緻密化されており、基材の表面に形成されるトレンチやホール等の凹部の開口面積が小さく構成される傾向にある。
ここで、ポリシラザンは、撥水性であって基材に対して濡れにくいため、ポリシラザンを含有する液組成物を凹部内に塗布することができず、凹部内に珪素化合物膜を成膜することができないといった問題があった。
【0006】
また、上述のように、基材の表面に形成されるパターンが緻密化されており、さらに基材のエッチング処理をさらに効率良く実施することが求められていることから、基材に対して、厳しい条件でエッチング処理が行われることがある。このため、珪素化合物膜には、高いエッチング耐性が求められている。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、基材の表面に形成された凹部内に、エッチング耐性に優れたSiON膜が十分に充填されたSiON膜付き基材、SiON膜を成膜する際に用いられるポリシラザン含有液組成物、および、SiON膜付き基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。
ポリシラザン含有液組成物に、エーテル系添加剤を添加することにより、濡れ性が向上し、基材の表面に形成された凹部内に塗布することが可能となる。また、エーテル系添加剤を添加したポリシラザン含有液組成物を焼成した場合には、エーテル系添加剤から酸素が導入され、SiON膜が形成されることなる。ここで、SiON膜における酸素含有量によってエッチング耐性が変化することになる。
【0009】
本発明は、上述の知見を基にしてなされたものであって、本発明の態様1のSiON膜付き基材は、表面に凹部が形成された基材と、少なくとも前記凹部内に充填されたSiON膜と、を備え、前記凹部内における前記SiON膜の充填率が90%以上とされるとともに、前記SiON膜における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)が10mass%以上90mass%以下とされていることを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1のSiON膜付き基材によれば、基材の表面に形成された凹部内におけるSiON膜の充填率が90%以上とされているので、十分な絶縁性を確保することができる。
そして、前記SiON膜における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)が10mass%以上90mass%以下の範囲内とされているので、SiON膜がエッチング耐性に優れている。
【0011】
本発明の態様2のSiON膜付き基材は、態様1のSiON膜付き基材において、前記基材が、Si,SiN,SiCのいずれかで構成されていることを特徴としている。
本発明の態様2のSiON膜付き基材によれば、前記基材が、Si,SiN,SiCのいずれかで構成されているので、この基材の表面に形成された凹部内に、SiON膜を十分に充填することが可能となる。
【0012】
本発明の態様3のポリシラザン含有液組成物は、ポリシラザンと、溶媒と、エーテル基を有するエーテル基含有添加剤と、を含み、前記エーテル基含有添加剤の含有量が5mass%以上80mass%以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0013】
本発明の態様3のポリシラザン含有液組成物によれば、前記エーテル基含有添加剤を含んでいるので、濡れ性が向上し、基材の表面に形成された凹部内にポリシラザン含有液組成物を確実に塗布することができる。
また、前記エーテル基含有添加剤の含有量が5mass%以上80mass%以下の範囲内とされているので、焼成後に形成される前記SiON膜における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)を10mass%以上90mass%以下の範囲内とすることができる。
【0014】
本発明の態様4のSiON膜付き基材の製造方法は、表面に凹部が形成された基材と、少なくとも前記凹部内に充填されたSiON膜と、を備えた、SiON膜付き基材の製造方法であって、態様3のポリシラザン含有液組成物を前記凹部内に塗布する塗布工程と、塗布した前記ポリシラザン含有液組成物を加熱処理して焼成する焼成工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の態様4のSiON膜付き基材の製造方法によれば、態様3のポリシラザン含有液組成物を前記凹部内に塗布する塗布工程を有しているので、基材の表面に形成された凹部内にポリシラザン含有液組成物を確実に塗布することができるとともに、焼成後に形成される前記SiON膜における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)を10mass%以上90mass%以下の範囲内とすることができる。
【0016】
本発明の態様5のSiON膜付き基材の製造方法は、態様4のSiON膜付き基材の製造方法において、前記焼成工程が、1次熱処理温度で保持する1次熱処理工程と、前記1次熱処理温度よりも高温の2次熱処理温度で保持する2次熱処理工程と、を含むことを特徴としている。
本発明の態様5のSiON膜付き基材の製造方法によれば、塗布した前記ポリシラザン含有液組成物を加熱処理して焼成する焼成工程が、1次熱処理温度で保持する1次熱処理工程と、前記1次熱処理温度よりも高温の2次熱処理温度で保持する2次熱処理工程と、を含んでいるので、凹部内に塗布されたポリシラザン含有液組成物を確実に焼成することができ、前記凹部内における前記SiON膜の充填率をさらに向上ざせることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基材の表面に形成された凹部内に、エッチング耐性に優れたSiON膜が十分に充填されたSiON膜付き基材、SiON膜を成膜する際に用いられるポリシラザン含有液組成物、および、SiON膜付き基材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るSiON膜付き基材の概略説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係るSiON膜付き基材の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態であるSiON膜付き基材、ポリシラザン含有液組成物、SiON膜付き基材の製造方法について説明する。
【0020】
本実施形態であるSiON膜付き基材10は、図1に示すように、基材11とSiON膜15と、を備えている。
本実施形態においては、基材11の表面に開口した凹部12が形成されており、SiON膜15は、少なくとも凹部12の内部に充填されている。
【0021】
ここで、本実施形態においては、凹部12は、開口幅が10nm以上3μm以下、深さが5nm以上500nm以下のトレンチ(溝)とされている。
また、本実施形態においては、基材11は、例えば、Si、SiN、SiC等のシリコン系材料で構成されている。
【0022】
そして、本実施形態においては、凹部12におけるSiON膜15の充填率が90%以上とされている。
なお、凹部12におけるSiON膜15の充填率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0023】
また、SiON膜15における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)が10mass%以上90mass%以下の範囲内とされている。
なお、SiON膜15における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)は60mass%以下であることが好ましく、40mass%以下であることがより好ましい。
【0024】
ここで、本実施形態であるSiON膜15は、ポリシラザンを含有するポリシラザン含有液組成物を塗布し、塗布されたポリシラザン含有液組成物を焼成することにより形成される。
次に、上述のSiON膜15を形成する際に用いられる本実施形態であるポリシラザン含有液組成物について説明する。
【0025】
本実施形態であるポリシラザン含有液組成物においては、ポリシラザンと、溶媒と、エーテル基を有するエーテル基含有添加剤と、を含有している。なお、さらに安定化剤を含有していてもよい。
【0026】
そして、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物においては、エーテル基含有添加剤の含有量が5mass%以上80mass%以下の範囲内とされている。
なお、エーテル基含有添加剤の含有量は10mass%以上とされていることが好ましく、15mass%以上とされていることがさらに好ましい。一方、エーテル基含有添加剤の含有量は40mass%以下とされていることが好ましく、30mass%以下とされていることがさらに好ましい。
【0027】
また、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物においては、ポリシラザンの含有量は1mass%以上20mass%以下の範囲内であることが好ましい。
なお、ポリシラザンの含有量は2mass%以上とされていることがさらに好ましく、3mass%以上とされていることがより好ましい。一方、ポリシラザンの含有量は10mass%以下とされていることがさらに好ましく、8mass%以下とされていることがより好ましい。
【0028】
さらに、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物においては、溶剤の含有量は10mass%以上90mass%以下の範囲内であることが好ましい。
【0029】
さらに、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物においては、安定化剤の含有量は0mass%以上20mass%以下の範囲内であることが好ましい。すなわち、安定化剤を含有しなくてもよく、必要に応じて添加すればよい。
なお、安定化剤を添加する場合には、安定化剤の含有量は1mass%以上とされていることがさらに好ましく、2mass%以上とされていることがより好ましい。一方、安定化剤の含有量は10mass%以下とされていることがさらに好ましく、5mass%以下とされていることがより好ましい。
【0030】
ここで、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物において含有されるポリシラザンは、特に限定されるものではなく、例えば、ペルヒドロポリシラザン、ペルヒドロメチルポリシラザンなどを用いることができる。
【0031】
また、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物において用いられる溶剤としては、例えば、芳香族化合物(ベンゼン、トルエン等)、炭化水素化合物(オクタン等)、ミネラルスピリット、アミン化合物(ジブチルアミン、ペンチルアミン等)などが使用可能である。
【0032】
そして、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物において用いられるエーテル基含有添加剤としては、例えば、ジブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジペンチルエーテルなどが使用可能である。
【0033】
また、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物において用いられる安定化剤としては、例えば、アセチルアセトン、プロピレングリコールなどが使用可能である。
【0034】
上述した本実施形態であるポリシラザン含有液組成物においては、ポリシラザン、エーテル基含有添加剤、溶剤、必要に応じて安定化剤を秤量し、溶剤に、ポリシラザン、エーテル基含有添加剤、安定化剤を添加して混合することで製造される。
【0035】
次に、上述した本実施形態であるSiON膜付き基材10の製造方法について、図2のフロー図を参照して説明する。
【0036】
本実施形態であるSiON膜付き基材10の製造方法においては、図2に示すように、凹部12が形成された基材11の表面に、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物を塗布する塗布工程S01と、塗布したポリシラザン含有液組成物を加熱処理して焼成する焼成工程S03と、を有している。
【0037】
塗布工程S01においては、基材11の表面に形成された凹部12の内部に、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物を塗布する。このとき、塗布方法に特に制限はなく、スプレー法、ディップ法などを用いてもよいが、本実施形態においては、スピンコートによりポリシラザン含有液組成物を塗布する。
【0038】
乾燥工程S02においては、ポリシラザン含有液組成物が塗布された基材11を加熱し、ポリシラザン含有液組成物を乾燥させる。
【0039】
焼成工程S03においては、塗布したポリシラザン含有液組成物を加熱処理して焼成することにより、SiON膜15を形成する。
ここで、本実施形態においては、焼成工程S03は、1次熱処理温度で保持する1次熱処理工程と、1次熱処理温度よりも高温の2次熱処理温度で保持する2次熱処理工程と、を含んでおり、多段階の温度で保持する構成とされていることが好ましい。
【0040】
なお、1次熱処理温度は、50℃以上150℃以下の範囲内とすることが好ましく、1次熱処理温度での保持時間は1分以上5分以下の範囲内とすることが好ましい。
また、2次熱処理温度は、400℃以上700℃以下の範囲内とすることが好ましく、2次熱処理温度での保持時間は1分以上20分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0041】
また、焼成工程S03は、不活性ガス雰囲気や還元ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気で実施することが好ましい。非酸化雰囲気で焼成することにより、SiON膜15に含有される酸素がエーテル基含有添加剤に起因するものとなり、SiON膜15に含有される酸素含有量を精度良く制御することが可能となる。
【0042】
上述の各工程により、本実施形態であるSiON膜付き基材10が製造されることになる。
【0043】
以上のような構成とされた本実施形態であるSiON膜付き基材10によれば、基材11の表面に形成された凹部12内におけるSiON膜15の充填率が90%以上とされているので、十分な絶縁性を確保することができる。
そして、SiON膜15における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)が10mass%以上90mass%以下の範囲内とされているので、SiON膜15のエッチング耐性に優れている。
【0044】
本実施形態のSiON膜付き基材10においては、基材11が、Si,SiN,SiCのいずれかで構成されている場合には、基材11の表面に形成された凹部12内に、SiON膜15を十分に充填することが可能となる。
【0045】
本実施形態のポリシラザン含有液組成物によれば、エーテル基を有するエーテル基含有添加剤を含んでいるので、濡れ性が向上し、基材11の表面に形成された凹部12内にポリシラザン含有液組成物を確実に塗布することができる。
また、エーテル基含有添加剤の含有量が5mass%以上80mass%以下の範囲内とされているので、焼成後に形成されるSiON膜15における酸素含有量を10mass%以上90mass%以下の範囲内とすることができる。
【0046】
本実施形態のSiON膜付き基材の製造方法によれば、本実施形態であるポリシラザン含有液組成物を、基材11の凹部12内に塗布する塗布工程S01を有しているので、基材11の表面に形成された凹部12内にポリシラザン含有液組成物を確実に塗布することができるとともに、焼成後に形成されるSiON膜15における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)を10mass%以上90mass%以下の範囲内とすることができる。
【0047】
本実施形態のSiON膜付き基材の製造方法において、塗布したポリシラザン含有液組成物を加熱処理して焼成する焼成工程S03が、1次熱処理温度で保持する1次熱処理工程と、1次熱処理温度よりも高温の2次熱処理温度で保持する2次熱処理工程と、を含み、多段の熱処理とされているので、凹部12内に塗布されたポリシラザン含有液組成物を確実に焼成することができ、凹部12内におけるSiON膜15の充填率をさらに向上させることが可能となる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0049】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0050】
まず、Si製の基材を準備し、この基材の表面に凹部として、開口幅が100nm、深さが100nm、長さが5mmのトレンチ(溝)を形成した。
また、ポリシラザンと、エーテル基含有添加剤としてジブチルエーテルと、溶剤としてミネラルスピリット(シンナー系)とを準備し、表1に記載の割合で混合し、ポリシラザン含有液組成物を作製した。
【0051】
得られたポリシラザン含有液組成物を、凹部が形成された基材の表面に、スピンコート法によって塗布し、100℃のホットプレートで1分間加熱し、乾燥させた。
乾燥後の基材を、赤外線加熱炉に装入し、炉内をロータリポンプで真空引きした後に窒素ガスを導入し、炉内を窒素ガス雰囲気とした。そして、表1に示す条件で熱処理を実施した。
これにより、塗布したポリシラザン含有液組成物を焼成し、SiON膜付基材を製造した。
【0052】
得られたSiON膜付基材について、SiON膜における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)およびN/(O+N)、エッチングレート、凹部への充填率について、以下のように評価した。
【0053】
(SiON膜におけるO/(O+N)およびN/(O+N))
SiON膜の表面をアルゴンスパッタによって1分間削ったあと、XPSで測定し、そのピークの堆積比率をもって組成比を測定した。
【0054】
(エッチングレート)
攪拌している1mass%HF溶液中に、予めSiON膜の膜厚を測定したSiON膜付基材を浸漬した。所定時間浸漬後にSiON膜付基材を取り出し、浸漬後のSiON膜の膜厚を測定した。浸漬前後の膜厚変化と浸漬時間により、エッチングレートを算出した。なお、SiON膜の膜厚はエプソリメータを用いて測定した。
エッチングレートが20nm/分以下である場合を「〇」、エッチングレートが20nm/分を超える場合を「×」とした。
【0055】
(凹部への充填率)
任意の3本のトレンチにおいてSiON膜付基材の断面観察を行い、凹部内の充填率を測定した。充填率が90%以上である場合を「〇」、90%未満である場合を「×」とした。なお、充填率は以下の式(1)で求めた。
式(1):充填率(%)= [(S-S)/S]×100
但し、式(1)中、Sは膜の面積、Sは膜中の空孔部分の面積である。
【0056】
【表1】
【0057】
比較例1においては、ポリシラザン含有液組成物におけるエーテル基含有添加剤の含有量が3mass%とされており、ポリシラザン含有液組成物の濡れ性が不十分であり、凹部への充填率が90%未満となった。
比較例2においては、SiON膜における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)が99mass%であり、SiON膜のエッチングレートが20nm/分を超えており、耐エッチング性に劣っていた。
【0058】
これに対して、本発明例1-7においては、ポリシラザン含有液組成物におけるエーテル基含有添加剤の含有量が5mass%以上80mass%以下の範囲内とされ、成膜されたSiON膜における酸素の含有量Oと窒素の含有量Nとの比率O/(O+N)が10mass%以上90mass%以下の範囲内とされており、SiON膜のエッチングレートが20nm/分以下であり、耐エッチング性に優れていた。また、ポリシラザン含有液組成物の濡れ性が十分であり、凹部への充填率が90%以上となった。
【0059】
以上のことから、本発明例によれば、基材の表面に形成された凹部内に、エッチング耐性に優れたSiON膜が十分に充填されたSiON膜をSiON膜付き基材、SiON膜を成膜する際に用いられるポリシラザン含有液組成物、および、SiON膜付き基材の製造方法を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
10 SiON膜付き基材
11 基材
12 凹部
15 SiON膜
図1
図2