(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068363
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】燃料フィルタ
(51)【国際特許分類】
F02M 55/00 20060101AFI20240513BHJP
F02M 37/34 20190101ALI20240513BHJP
【FI】
F02M55/00 C
F02M37/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178749
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】奥原 伸二
(72)【発明者】
【氏名】徳山 健司
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA01
3G066AA07
3G066BA32
3G066CC01
3G066CD11
3G066CE22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】捕捉する異物の形状によらず安定したフィルタ性能が保たれ、かつ、従来よりも安価に製造可能な燃料フィルタを提供する。
【解決手段】燃料フィルタ53は、内部を燃料が通過するハウジング3と、ハウジング3内に配置された、中空の円板形状をなす複数のフィルタ部材10と、ハウジング3内に配置され、フィルタ部材10を固定する固定部材20と、を備えた燃料フィルタ53であって、フィルタ部材10は、平面部分がハウジング3の長手方向を向き、向かい合う平面部分が密着する様に配置され、フィルタ部材10は、外周面13と中空部12との間を燃料が通過可能な溝として形成された第1溝部を平面部分に備え、固定部材20は、ハウジング3の長手方向に燃料が通過可能な溝として形成された第2溝部を外周面に備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を燃料が通過するハウジング(3)と、
前記ハウジング(3)内に配置された、中空の円板形状をなす複数のフィルタ部材(10)と、
前記ハウジング(3)内に配置され、前記フィルタ部材(10)を固定する固定部材(20)と、
を備えた燃料フィルタ(53)であって、
前記フィルタ部材(10)は、平面部分(14)が前記ハウジング(3)の長手方向を向き、向かい合う前記平面部分(14)が密着する様に配置され、
前記フィルタ部材(10)は、外周面(13)と中空部(12)との間を燃料が通過可能な溝として形成された第1溝部(11)を前記平面部分(14)に備え、
前記固定部材(20)は、前記ハウジング(3)の長手方向に前記燃料が通過可能な溝として形成された第2溝部(21)を外周面に備える、
燃料フィルタ(53)。
【請求項2】
前記第1溝部(11)は、前記フィルタ部材(10)の両面それぞれにおいて複数形成されている、請求項1に記載の燃料フィルタ(53)。
【請求項3】
前記ハウジング(3)は、上流側フィルタ室(6a)と、下流側フィルタ室(6b)と、前記上流側フィルタ室(6a)と前記下流側フィルタ室(6b)とを隔てる壁部(7)と、を含み、
前記壁部(7)は、前記上流側フィルタ室(6a)と前記下流側フィルタ室(6b)とを連通する連通路(7a)を含み、
前記フィルタ部材(10)は、前記上流側フィルタ室(6a)内に配置される上流側フィルタ部材(10a)と、前記下流側フィルタ室(6b)内に配置される下流側フィルタ部材(10b)と、を含み、
前記固定部材(20)は、前記上流側フィルタ部材(10a)を固定する上流側固定部材(20a)と、前記下流側フィルタ部材(10b)を固定する下流側固定部材(20b)と、を含み、
前記燃料が、前記上流側フィルタ部材(10a)の平面部分(14a)に形成された溝である上流側第1溝部(11a)を、前記上流側フィルタ部材(10a)の外周面(13a)から前記上流側フィルタ部材(10a)の中空部(12a)へ通過し、前記下流側フィルタ部材(10b)の平面部分(14b)に形成された溝である下流側第1溝部(11b)を、前記下流側フィルタ部材(10b)の中空部(12b)から前記下流側フィルタ部材(10b)の外周面(13b)へ通過する様構成されてなる、
請求項2に記載の燃料フィルタ(53a)。
【請求項4】
前記下流側第1溝部(11b)の断面積は、前記上流側第1溝部(11a)の断面積よりも小さい、請求項3に記載の燃料フィルタ(53a)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料中の異物を捕捉する燃料フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングと、ハウジングの中へ圧入されるフィルタ本体とを備え、ハウジングの内周面とフィルタ本体の外周面との間の微小な間隙を燃料が通過する様構成された燃料フィルタが公知である。本構成の燃料フィルタは、燃料中に異物が含まれていた場合、ハウジングの内周面とフィルタ本体の外周面との間の間隙においてこれを捕捉する。例えば引用文献1には、この様な構成の燃料フィルタが、内燃機関へ燃料を供給する燃料噴射弁における燃料入口に使用されることが開示されている。
【0003】
上述した構成の燃料フィルタを
図8に示す。
図8は、従来の燃料フィルタ90の斜視図である。燃料フィルタ90は、ハウジング91と、フィルタ本体92とを備える。理解を容易とするため、
図8において、ハウジング91は、長手方向軸線を含む平面における断面になっており、フィルタ本体92は、断面になっていない。
図9は、
図8におけるハウジング91の切断面を正面として示した図である。
図10は、
図9のY-Yにおける断面図である。
【0004】
フィルタ本体92は、ハウジング91の中空部に圧入されている。フィルタ本体92は、一端から軸方向へ所定長さにわたり形成される切欠き部である、複数の第1切欠き部93と、他端から軸方向へ所定長さにわたり形成される切欠き部である、複数の第2切欠き部94とを備える。第1切欠き部93と第2切欠き部94とは、軸方向視において、円周方向の位相が互い違いとなり、交わることがない様に形成される。
【0005】
図8に示される様に、燃料は、第1切欠き部93から燃料フィルタ90へ導入され、第2切欠き部94から排出される(
図8の矢印参照)。すなわち、燃料は、第1切欠き部93から第2切欠き部94へ移動する。その際、燃料は、ハウジング91の内周面とフィルタ本体92の外周面との間隙として形成されるフィルタ部95(
図10参照)を通過する。フィルタ部95は、燃料中に異物が含まれていた場合、当該異物を捕捉する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-125707号公報(
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料中の異物の形状が比較的球体に近い場合、異物の直径がフィルタ部95の間隙よりも大きければ、その異物はフィルタ部95を通過することができない。しかしながら、燃料中の異物の形状が、例えば薄膜状であった場合、ある方向における異物の大きさがフィルタ部95の間隙よりも大きくても、薄膜の厚みがフィルタ部95の間隙よりも薄い場合、当該異物がフィルタ部95を通過してしまう可能性があった。
【0008】
また、フィルタ部95の軸方向長さは、フィルタ部95の間隙に対して比較的長い。すなわち、比較的長い領域にわたり、フィルタ部95に所定の間隙が形成される必要があるため、フィルタ本体92とハウジング91の加工に対し、高い精度が求められていた。
【0009】
本発明は、上記のような課題を背景としてなされたものであり、捕捉する異物の形状によらず安定したフィルタ性能が保たれ、かつ、従来よりも安価に製造可能な燃料フィルタを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、内部を燃料が通過するハウジング3と、前記ハウジング3内に配置された、中空の円板形状をなす複数のフィルタ部材10と、前記ハウジング3内に配置され、前記フィルタ部材10を固定する固定部材20と、を備えた燃料フィルタ53であって、前記フィルタ部材10は、平面部分14が前記ハウジング3の長手方向を向き、向かい合う前記平面部分14が密着する様に配置され、前記フィルタ部材10は、外周面13と中空部12との間を燃料が通過可能な溝として形成された第1溝部11を前記平面部分14に備え、前記固定部材20は、前記ハウジング3の長手方向に前記燃料が通過可能な溝として形成された第2溝部21を外周面に備える、燃料フィルタ53が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、捕捉する異物の形状によらず安定したフィルタ性能が保たれ、かつ、従来よりも、安価に製造可能な燃料フィルタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る燃料フィルタ53が燃料噴射弁51の燃料入口に使用された例を示す図である。
【
図2】本発明に係る燃料フィルタ53の斜視図である。
【
図3】本発明に係る燃料フィルタ53の、長手方向軸線を含む平面における断面図である。
【
図4】本発明に係るフィルタ部材10を、平面部分14を正面として見た図である。
【
図5】
図4にAで示される方向からフィルタ部材10を見た図である。
【
図6】
図5においてBで示された部分の拡大図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態に係る燃料フィルタ53aを示す断面図である。
【
図9】従来の燃料フィルタ90における、
図10のハウジング91の切断面を正面として示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しつつ説明する。尚、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。また、それぞれの図中、同じ符号が付されているものは同一の要素を示しており、適宜説明が省略されている。また、各図において、詳細部分の図示が適宜簡略化または省略されている。また、重複する説明については、適宜簡略化または省略されている。
【0014】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態について、適宜図面を参照しつつ説明する。
図1は、一例として、本発明に係る燃料フィルタ53が、燃料噴射弁51の燃料入口に使用された形態を示す。
【0015】
図1に示される燃料噴射弁51は、図示されないディーゼルエンジンに燃料を噴射する、従来公知の蓄圧式燃料噴射制御装置を構成する。燃料噴射弁51は、本体52と、燃料フィルタ53と、電磁弁56と、ノズル55と、を含む。
【0016】
燃料フィルタ53は、本体側ネジ部8bが本体52に螺合されることにより、燃料噴射弁51に装着される。当該螺合は、燃料フィルタ53の外周部であって、長手方向中央付近に形成された、軸方向断面が六角形をなす六角部9を工具で締め込むことによりなされる。燃料噴射弁51は、燃料フィルタ53に形成された配管側ネジ部8aに接続される燃料配管を介して、コモンレールから燃料供給を受ける。すなわち、燃料フィルタ53は、コモンレールにつながる燃料配管と燃料噴射弁51の本体52とを接続するコネクタとしての機能も持つ。
【0017】
燃料噴射弁51は、図示されないノズルニードルを内部に備える。燃料フィルタ53の燃料入口4より燃料噴射弁51内に導入された燃料の圧力は、ノズルニードルの上端部及び下端部へ作用する。ノズルニードルの上端部においては、燃料の圧力がノズルニードルをノズル55側へ押圧する。ノズルニードルの下端部においては、燃料の圧力がノズルニードルを電磁弁56側へ押圧する。電磁弁56への通電がなされていない時、ノズルニードルのノズル55側端面がノズル55に形成されたシート部に着座し、ノズル55に形成された噴孔を閉塞する。電磁弁56への通電がなされると、電磁弁56が開弁し、ノズルニードルをノズル55側へ押圧する燃料の圧力が逃がされることにより、ノズルニードルが上昇し、ノズル55に形成された噴孔から燃料が噴射される。蓄圧式燃料噴射制御装置、及び、蓄圧式燃料噴射制御装置に使用される燃料噴射弁51は、従来公知であるため、これ以上の説明を省略する。
【0018】
図2は、本実施の形態に係る燃料フィルタ53の斜視図である。燃料フィルタ53は、ハウジング3と、フィルタ部材10と、固定部材20と、を備える。
図2においては、理解を容易とするため、ハウジング3と、フィルタ部材10の一部とが、燃料フィルタ53の長手方向軸線を含む平面における断面として示されている。
図3は、本実施の形態に係る燃料フィルタ53の、長手方向軸線を含む平面における断面図である。
【0019】
ハウジング3は、中空円筒状に形成される。ハウジング3の中空部の一端側には、燃料が流入する燃料入口4が形成されている。ハウジング3の中空部の他端側には、燃料が流出する燃料出口5が形成されている。ハウジング3の中空部における、燃料入口4と燃料出口5との間には、フィルタ部材10と固定部材20とを収容するフィルタ室6が形成されている。
図3に示される様に、フィルタ室6の内径は、燃料入口4の内径よりも小さく、かつ、燃料出口5の内径よりも大きく形成されている。
【0020】
ハウジング3における、燃料入口4付近の外周面には、燃料配管を接続するための配管側ネジ部8aが形成されている。ハウジング3における、燃料出口5付近の外周面には、燃料噴射弁51の本体52に螺合される、本体側ネジ部8bが形成されている。ハウジング3の外周面における、配管側ネジ部8aと本体側ネジ部8bとの間には、燃料フィルタ53を燃料噴射弁51の本体52に組付ける際に、工具を係合可能な、軸方向断面が六角形をなす六角部9が形成されている。
【0021】
ただし、ハウジング3の外周面は、燃料フィルタ53が使用される製品や使用条件等に合わせ、適宜変更することが可能である。
【0022】
フィルタ部材10は、中空の円板形状をなし、複数使用される。複数のフィルタ部材10は、ハウジング3の燃料入口4側からフィルタ室6内に挿入され、円板形状の平面部分14(
図4参照)がハウジング3の軸方向を向く様に重ねられた状態で、フィルタ室6内に配置される。
図3に示される様に、ハウジング3の燃料出口5は、フィルタ部材10の外径よりも小さく形成されている。よって、フィルタ部材10がフィルタ室6内に配置されたとき、燃料出口5に一番近いフィルタ部材10の燃料出口5側の平面部分14は、ハウジング3における、フィルタ室6と燃料出口5との境界をなす平面に当接する。
【0023】
フィルタ室6の内周面とフィルタ部材10の外周面13(
図4参照)との間隙は、特に限定されるものではないが、フィルタ部材10がスムーズにフィルタ室6内を移動でき、かつ、フィルタ部材10の円周方向へのがたつきが小さくなる程度に設定されることが好ましい。例えば、フィルタ室6の内周面とフィルタ部材10の外周面13との間隙は、数十マイクロメートル程度とすることができる。
【0024】
固定部材20は、円柱状に形成されている。固定部材20は、ハウジング3の長手方向に燃料が通過可能な溝として形成される第2溝部21を、外周面に複数備えている。固定部材20は、フィルタ室6にフィルタ部材10が配置された後、燃料入口4側からフィルタ室6に圧入されることで、フィルタ部材10を固定する。
【0025】
次に、本実施の形態に係るフィルタ部材10の詳細について、
図4から
図6を参照しつつ説明する。
図4はフィルタ部材10を、平面部分14を正面として見た図である。
図5は、
図4にAで示される方向からフィルタ部材10を見た図である。
【0026】
フィルタ部材10は、アルミニウム等の金属により形成され、上述の様に、中空部12を備える円板形状をなす。
図4、
図5に示される様に、フィルタ部材10の平面部分14には、外周面13と中空部12とをつなぐ溝として形成される、第1溝部11が形成されている。第1溝部11は、フィルタ部材10がハウジング3のフィルタ室6内に配置された際、フィルタ室6の内周面とフィルタ部材10の外周面13との間に形成される空間と、フィルタ部材10の中空部12との間を、燃料が通過可能な溝として形成される。第1溝部11は、外周面13を形成する円筒面の中心軸から放射状に外周面13側へ延びる様に、複数形成されている。
【0027】
図6は、
図5においてBで示された部分の拡大図である。第1溝部11は、断面が半円形状をなし、該半円形状の直線部分が平面部分14と重なる様形成されている。フィルタ部材10は、プレス加工により製造される。よって、第1溝部11の断面形状は、プレス加工による製造が可能であれば、半円形状以外の形状であっても構わない。
【0028】
上述した燃料フィルタ53において、燃料は以下の様に燃料フィルタ53を通過する。すなわち、燃料は、ハウジング3の燃料入口4、固定部材20の第2溝部21とハウジング3のフィルタ室6の内周面とにより形成された流路、フィルタ部材10の外周面13とハウジング3のフィルタ室6の内周面との間の空間、フィルタ部材10の第1溝部11と、該第1溝部11と向かい合う隣のフィルタ部材10とにより形成された流路、フィルタ部材10の中空部12、をこの順で経由し、燃料出口5から燃料フィルタ53の外部へ流出する(
図2の矢印参照)。
【0029】
本実施の形態に係る燃料フィルタ53を組み立てる際には、種々の方法が考えられるが、例えば、以下の様な方法を採ることができる。まず、燃料入口4が上向きとなる様にハウジング3を立てた状態で、燃料出口5側から、フィルタ部材10の中空部12よりも直径の細い円柱状の治具を、先端部が燃料入口4から突出する様に挿入する。次いで、当該治具がフィルタ部材10の中空部12を貫通する様に複数のフィルタ部材10を配置し、その後、治具を燃料出口5から抜く。
【0030】
複数のフィルタ部材10をハウジング3のフィルタ室6内へ配置した後、固定部材20を、燃料入口4側からフィルタ室6内に圧入する。固定部材20の圧入により、複数のフィルタ部材10の向かい合う平面部分14どうしが密着する様に、フィルタ部材10がフィルタ室6内に固定される。
【0031】
本実施の形態においては、第1溝部11は、フィルタ部材10の両側の平面部分14に形成され、かつ、両側の平面部分14の形状が同一となる様に形成されている。この様に第1溝部11が形成されることで、複数のフィルタ部材10をハウジング3内に配置する際に、フィルタ部材の表裏を考慮する必要がなくなり、燃料フィルタ53の組立工程が容易となる。尚、両側の平面部分14の形状が同一であれば、
図6に示される様に、第1溝部11の円周方向の位相がずれていても構わない。
【0032】
また、本実施の形態においては、第1溝部11は、外周面13を形成する円筒面の中心軸から放射状に外周面13側へ延びる様に、複数形成されている。しかしながら、第1溝部11は、外周面13と中空部12とをつなぐ溝として形成されていればよく、外周面13の中心軸から放射状に形成されていなくとも構わない。換言すれば、第1溝部11の延長線上に、外周面13を形成する円筒形状の中心軸がなくとも構わない。
【0033】
また、本実施の形態においては、第1溝部11は直線状に形成されているが、曲線として形成されていても構わない。
【0034】
第1溝部11により形成される流路の断面積は、要求される燃料フィルタの性能によって、任意に設定可能である。また、個々のフィルタ部材10における第1溝部11の数、及び、燃料フィルタ53に配置されるフィルタ部材10の数も任意に設定可能である。例えば、第1溝部11の数、及び、フィルタ部材10の数は、燃料フィルタ53に要求される、フィルタの上流と下流の間の圧力損失や、燃料フィルタに導入される燃料の圧力等に基づき、適宜設定される。
【0035】
また、本発明によれば、フィルタ部材10をプレス加工により製造可能であることから、燃料フィルタ53を従来よりも安価に製造することができる。また、本発明における燃料フィルタ53は、フィルタ部材10に溝として形成された第1溝部11を燃料が通過する際に異物を捕捉するため、異物の形状によらず安定したフィルタ性能を保つことが可能である。また、本発明によれば、第1溝部11の形状と数、及び、使用されるフィルタ部材10の数を任意に設定可能であるため、要求されるフィルタ性能に合わせた燃料フィルタ53の設計が容易となる。
【0036】
また、使用されるフィルタ部材10の数を変更する場合、フィルタ部材10の厚みも変更し、燃料フィルタ53の長手方向におけるフィルタ部材10が占める長さが変わらない様にすることで、1種類のハウジング3を使用しつつ、様々なフィルタ特性を持つ燃料フィルタ53を得ることが可能である。
【0037】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について
図7を参照しつつ説明する。第2の実施の形態については、第1の実施の形態と異なる部分について説明し、第1の実施の形態と同一の部分については適宜説明を省略する。
【0038】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る燃料フィルタ53aを示す断面図である。第2の実施の形態に係る燃料フィルタ53aは、ハウジング3と、上流側フィルタ部材10aと、上流側固定部材20aと、下流側フィルタ部材10bと、下流側固定部材20bと、を備える。
【0039】
ハウジング3は、中空円筒状に形成される。ハウジング3の中空部の一端側には、燃料が流入する燃料入口4が形成されている。ハウジング3の中空部の他端側には、燃料が流出する燃料出口5が形成されている。ハウジング3の中空部における、燃料入口4と燃料出口5との間には、燃料入口4側に上流側フィルタ室6aが形成され、燃料出口5側に下流側フィルタ室6bが形成されている。
【0040】
ハウジング3における、上流側フィルタ室6aと下流側フィルタ室6bとの間には、上流側フィルタ室6aと下流側フィルタ室6bとを隔てる壁部7が形成されている。壁部7には、上流側フィルタ室6aと下流側フィルタ室6bとを連通する連通路7aが形成されている。上流側フィルタ室6aと下流側フィルタ室6bとは、同一の形状をなす。連通路7aの内径は、上流側フィルタ室6a及び下流側フィルタ室6bの内径よりも小さく形成されている。
【0041】
上流側フィルタ室6aは、上流側フィルタ部材10aと上流側固定部材20aとを収容する。下流側フィルタ室6bは、下流側フィルタ部材10bと下流側固定部材20bとを収容する。
【0042】
本実施の形態においても、ハウジング3における、燃料入口4付近の外周面には配管側ネジ部8aが形成され、燃料出口5付近の外周面には本体側ネジ部8bが形成され、また、配管側ネジ部8aと本体側ネジ部8bとの間の外周面には六角部9が形成されている。
【0043】
ただし、ハウジング3の外周面は、燃料フィルタ53が使用される製品や使用条件等に合わせ、適宜変更することが可能である。
【0044】
上流側フィルタ部材10a及び下流側フィルタ部材10bは、中空の円板形状をなし、複数使用される。上流側フィルタ部材10aは、ハウジング3の燃料入口4側から上流側フィルタ室6a内に挿入され、円板形状の平面部分14aがハウジング3の軸方向を向く様に重ねられた状態で上流側フィルタ室6a内に配置される。
図7に示される様に、上流側フィルタ部材10aが上流側フィルタ室6a内に配置されたとき、連通路7aに一番近い上流側フィルタ部材10aの連通路7a側の平面部分14aは、ハウジング3における、上流側フィルタ室6aと連通路7aとの境界をなす平面に当接する。
【0045】
下流側フィルタ部材10bは、ハウジング3の燃料出口5側から下流側フィルタ室6b内に挿入され、円板形状の平面部分14bがハウジング3の軸方向を向く様に重ねられた状態で下流側フィルタ室6b内に配置される。
図7に示される様に、下流側フィルタ部材10bが下流側フィルタ室6b内に配置されたとき、連通路7aに一番近い下流側フィルタ部材10bの連通路7a側の平面部分14bは、ハウジング3における、下流側フィルタ室6bと連通路7aとの境界をなす平面に当接する。
【0046】
また、上流側フィルタ室6aの内周面と上流側フィルタ部材10aの外周面13aとの間隙の特徴、及び、下流側フィルタ室6bの内周面と下流側フィルタ部材10bの外周面13bとの間隙の特徴については、第1の実施の形態と同様である。
【0047】
上流側固定部材20a及び下流側固定部材20bは、第1の実施の形態の固定部材20同様、円柱状に形成されている。上流側固定部材20aは、外周面に、燃料が通過可能な軸方向の溝として形成される上流側第2溝部21aを複数備えている。また、下流側固定部材20bは、外周面に、燃料が通過可能な軸方向の溝として形成される下流側第2溝部21bを複数備えている。
【0048】
上流側固定部材20aは、上流側フィルタ室6aに上流側フィルタ部材10aが配置された後、燃料入口4側から上流側フィルタ室6aに圧入されることで、上流側フィルタ部材10aを固定する。下流側固定部材20bは、下流側フィルタ室6bに下流側フィルタ部材10bが配置された後、燃料出口5側から下流側フィルタ室6bに圧入されることで、下流側フィルタ部材10bを固定する。
【0049】
次に、本実施の形態に係る、上流側フィルタ部材10a及び下流側フィルタ部材10bの詳細について説明する。上流側フィルタ部材10a及び下流側フィルタ部材10bとしては、第1の実施の形態に係るフィルタ部材10が使用可能である。
【0050】
すなわち、上流側フィルタ部材10a及び下流側フィルタ部材10bは、共にプレス加工により製造される。また、上流側フィルタ部材10aは中空部12aを備える円板形状をなし、下流側フィルタ部材10bは中空部12bを備える円板形状をなす。上流側フィルタ部材10aの両側の平面部分14aには、外周面13aと中空部12aとをつなぐ、燃料が通過可能な溝である、上流側第1溝部11aが形成されている。下流側フィルタ部材10bの両側の平面部分14bには、外周面13bと中空部12bとをつなぐ、燃料が通過可能な溝である、下流側第1溝部11bが形成されている。
【0051】
上流側第1溝部11a及び下流側第1溝部11bの断面形状、あるいは配置等の条件については、第1の実施の形態に係る第1溝部11と同様とすることができる。ただし、本実施の形態においては、下流側第1溝部11bにより形成される流路の断面積は、上流側第1溝部11aにより形成される流路の断面積よりも小さく形成されている。
【0052】
上述した燃料フィルタ53aにおいて、燃料は以下の様な順で燃料フィルタ53aを通過する。すなわち、燃料は、ハウジング3の燃料入口4、上流側固定部材20aの上流側第2溝部21aとハウジング3の上流側フィルタ室6aの内周面とにより形成された流路、上流側フィルタ部材10aの外周面13aとハウジング3の上流側フィルタ室6aの内周面との間の空間、上流側フィルタ部材10aの上流側第1溝部11aと、該上流側第1溝部11aと向かい合う隣の上流側フィルタ部材10aとにより形成された流路、上流側フィルタ部材10aの中空部12a、連通路7a、下流側フィルタ部材10bの中空部12b、下流側フィルタ部材10bの下流側第1溝部11bと、該下流側第1溝部11bと向かい合う隣の下流側フィルタ部材10bとにより形成された流路、下流側フィルタ部材10bの外周面13bとハウジング3の下流側フィルタ室6bの内周面との間の空間、下流側固定部材20bの下流側第2溝部21bとハウジング3の下流側フィルタ室6bの内周面とにより形成された流路、をこの順で経由し、燃料出口5から、燃料フィルタ53aの外部へ流出する(
図7の矢印参照)。
【0053】
上述の様に、本実施の形態においては、下流側第1溝部11bにより形成される流路の断面積は、上流側第1溝部11aにより形成される流路の断面積よりも小さく形成されている。よって、上流側フィルタ部材10aにより比較的大きな燃料中の異物を捕捉し、下流側フィルタ部材10bにより比較的小さな燃料中の異物を捕捉することが可能となる。この様な構成とすることにより、燃料フィルタ53aの詰まりが発生しにくくなると共に、燃料フィルタ53aの寿命を延ばすことができる。
【0054】
本実施の形態に係る燃料フィルタ53aを組み立てる際には、種々の方法が考えられるが、例えば、以下の様な方法を採ることができる。まず、燃料入口4が上向きとなる様にハウジング3を立てた状態で、燃料出口5側から、連通路7a及び上流側フィルタ部材10aの中空部12aよりも直径の細い円柱状の治具を、先端部が燃料入口4から突出する様に挿入する。次いで、当該治具が上流側フィルタ部材10aの中空部12aを貫通する様に複数の上流側フィルタ部材10aを上流側フィルタ室6aに配置し、その後、治具を燃料出口5から抜く。
【0055】
複数の上流側フィルタ部材10aをハウジング3の上流側フィルタ室6a内へ配置した後、上流側固定部材20aを、燃料入口4側から上流側フィルタ室6a内に圧入する。上流側固定部材20aの圧入により、複数の上流側フィルタ部材10aの向かい合う平面部分14aどうしが密着する様に、上流側フィルタ部材10aが上流側フィルタ室6a内に固定される。
【0056】
次いで、燃料出口5が上向きとなる様にハウジング3を立てた状態で、燃料出口5側から、下流側フィルタ部材10bの中空部12b、連通路7a、及び、上流側フィルタ部材10aの中空部12aよりも直径の細い円柱状の治具を、先端部が上流側固定部材20aに当接する様に挿入し、次いで、当該治具が下流側フィルタ部材10bの中空部12bを貫通する様に複数の下流側フィルタ部材10bを下流側フィルタ室6bに配置し、その後、治具を燃料出口5から抜く。
【0057】
複数の下流側フィルタ部材10bをハウジング3の下流側フィルタ室6b内へ配置した後、下流側固定部材20bを、燃料出口5側から下流側フィルタ室6b内に圧入する。下流側固定部材20bの圧入により、複数の下流側フィルタ部材10bの向かい合う平面部分14bどうしが密着する様に、下流側フィルタ部材10bが下流側フィルタ室6b内に固定される。
【0058】
本実施の形態においては、上流側第1溝部11aは、上流側フィルタ部材10aの両側の平面部分14aに形成され、かつ、両側の平面部分14aの形状が同一となる様に形成されている。この様に上流側第1溝部11aが形成されることで、複数の上流側フィルタ部材10aをハウジング3内に配置する際に、フィルタ部材の表裏を考慮する必要がなくなり、燃料フィルタ53aの組立工程が容易となる。尚、両側の平面部分14aの形状が同一であれば、
図6に示される様に、上流側第1溝部11aの円周方向の位相がずれていても構わない。下流側フィルタ部材10bにおいても同様である。
【0059】
また、本実施の形態における、上流側第1溝部11a及び下流側第1溝部11bは、下流側第1溝部11bの断面積が上流側第1溝部11aよりも小さいという条件以外は、その数や形状等について、第1の実施の形態における第1溝部11と同様の自由度を持つ。
【0060】
また、本実施の形態によれば、上流側フィルタ部材10a及び下流側フィルタ部材10bをプレス加工により製造可能であることから、燃料フィルタ53aを従来よりも安価に製造することができる。また、本発明における燃料フィルタ53aは、上流側フィルタ部材10aに溝として形成された上流側第1溝部11a、及び、下流側フィルタ部材10bに溝として形成された下流側第1溝部11bを燃料が通過する際に異物を捕捉するため、異物の形状によらず安定したフィルタ性能を保つことが可能である。また、本発明によれば、上流側第1溝部11a及び下流側第1溝部11bの形状と数、及び、使用される上流側フィルタ部材10a及び下流側フィルタ部材10bの数を任意に設定可能であるため、要求されるフィルタ性能に合わせた燃料フィルタ53の設計が容易となる。
【0061】
尚、使用される上流側フィルタ部材10aの数を変更する場合、上流側フィルタ部材10aの厚みも変更し、燃料フィルタ53aの長手方向における上流側フィルタ部材10aが占める長さが変わらない様にするとよい。また、使用される下流側フィルタ部材10bの数を変更する場合、下流側フィルタ部材10bの厚みも変更し、燃料フィルタ53aの長手方向における下流側フィルタ部材10bが占める長さが変わらない様にするとよい。この様な構成とすることにより、1種類のハウジング3を使用しつつ、様々なフィルタ特性を持つ燃料フィルタ53aを得ることが可能である。
【0062】
以上、説明した様に、本発明によれば、捕捉する異物の形状によらず安定したフィルタ性能が保たれ、かつ、従来よりも、安価に製造可能な燃料フィルタを得ることができる。
【0063】
尚、本発明に係る燃料フィルタ53(53a)は、
図1に示される燃料噴射弁51のみならず、コモンレール、コモンレールへ燃料を圧送する高圧燃料ポンプ、燃料タンク内の燃料を汲み上げる低圧燃料ポンプ等、蓄圧式燃料噴射制御装置を構成する他の装置に使用することも可能である。また、本発明に係る燃料フィルタ53(53a)は、蓄圧式燃料噴射制御装置以外の、ディーゼルエンジンへ燃料を供給する燃料ポンプ等に使用することも可能である。また、本発明に係る燃料フィルタ53(53a)は、燃料が通過する位置に装着することが可能であり、ガソリン、灯油、重油等が使用される種々の装置に使用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
3:ハウジング、6:フィルタ室、6a:上流側フィルタ室、6b:下流側フィルタ室、7:壁部、7a:連通路、10:フィルタ部材、10a:上流側フィルタ部材、10b:下流側フィルタ部材、11:第1溝部、11a:上流側第1溝部、11b:下流側第1溝部、12(12a、12b):中空部、13(13a、13b):外周面、14(14a、14b):平面部分、20:固定部材、20a:上流側固定部材、20b:下流側固定部材、53(53a):燃料フィルタ