(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068373
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】遮断器制御装置および遮断器制御方法
(51)【国際特許分類】
H02H 3/093 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
H02H3/093
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178763
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】山内 淳
【テーマコード(参考)】
5G004
【Fターム(参考)】
5G004AA01
5G004AB01
5G004BA01
5G004BA03
5G004CA07
5G004DC01
(57)【要約】
【課題】簡易かつ低費用で事故電流の増加に対応可能な遮断器制御装置を提供する。
【解決手段】交流電力系統の短絡事故を含む系統事故の発生を検出して、遮断器21、22、23を作動させる演算部31と、系統事故における直流分を含む事故電流が遮断器21、22、23の定格容量を超える場合に、事故電流の直流分が低下して事故電流が遮断器21、22、23の定格容量以下になるまで演算部31による作動を待機させる時限部32と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力系統の短絡事故を含む系統事故の発生を検出する事故検出手段と、
前記事故検出手段で前記系統事故の発生が検出されると、遮断器を作動させる作動手段と、
前記系統事故における直流分を含む事故電流が前記遮断器の定格容量を超える場合に、前記事故電流の直流分が低下して前記事故電流が前記定格容量以下になるまで前記作動手段による作動を待機させる待機手段と、
を備えることを特徴とする遮断器制御装置。
【請求項2】
前記事故検出手段と前記作動手段は、保護継電装置で構成され、
前記待機手段は、外付けのタイマーで構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の遮断器制御装置。
【請求項3】
交流電力系統の短絡事故を含む系統事故の発生を検出する事故検出ステップと、
前記事故検出ステップで前記系統事故の発生が検出されると、遮断器を作動させる作動ステップと、
を備え、前記作動ステップは、前記系統事故における直流分を含む事故電流が前記遮断器の定格容量を超える場合に、前記事故電流の直流分が低下して前記事故電流が前記定格容量以下になるまで待機した後に、前記遮断器を作動させる、
ことを特徴とする遮断器制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮断器の作動を制御するための遮断器制御装置および遮断器制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に短絡事故や地絡事故などが生じ、その事故電流が遮断器の定格遮断電流・定格容量を超過すると遮断ができなくなるおそれがある。このため、電力系統の大容量化に伴って事故電流が遮断器の定格容量を超過すると想定される場合、従来、大容量・特別仕様の遮断器に取り替えたり、電力系統を切り替えて(例えば、ループ切断して)事故電流・短絡容量を軽減したりする対策が採られていた。
【0003】
しかしながら、大容量・特別仕様の遮断器に取り替える場合、遮断器自体の機器費用や工事費が高額となるばかりでなく、工期が長くなって系統運用が困難となる。また、電力系統を切り替える場合、系統運用が煩雑になるとともに、系統信頼度が低下するおそれがあった。一方、遮断器の交換時に母線の停止を避けて工期を短縮化できる、という技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電力系統には多数の遮断器が配設されており、事故電流が遮断器の定格容量を超過すると想定されるケースに対して、すべての遮断器を取り替えたり電力系統を切り替えたりすると、膨大な費用がかかるばかりでなく、工期の長期化や系統運用の煩雑化によって系統信頼度が大きく低下するおそれがある。このため、事故電流の増加に対して簡易かつ低費用で対応可能な方策が求められていた。
【0006】
そこで本発明は、簡易かつ低費用で事故電流の増加に対応可能な遮断器制御装置および遮断器制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、交流電力系統の短絡事故を含む系統事故の発生を検出する事故検出手段と、前記事故検出手段で前記系統事故の発生が検出されると、遮断器を作動させる作動手段と、前記系統事故における直流分を含む事故電流が前記遮断器の定格容量を超える場合に、前記事故電流の直流分が低下して前記事故電流が前記定格容量以下になるまで前記作動手段による作動を待機させる待機手段と、を備えることを特徴とする遮断器制御装置である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の遮断器制御装置において、前記事故検出手段と前記作動手段は、保護継電装置で構成され、前記待機手段は、外付けのタイマーで構成されている、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、交流電力系統の短絡事故を含む系統事故の発生を検出する事故検出ステップと、前記事故検出ステップで前記系統事故の発生が検出されると、遮断器を作動させる作動ステップと、を備え、前記作動ステップは、前記系統事故における直流分を含む事故電流が前記遮断器の定格容量を超える場合に、前記事故電流の直流分が低下して前記事故電流が前記定格容量以下になるまで待機した後に、前記遮断器を作動させる、ことを特徴とする遮断器制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1および3に記載の発明によれば、系統事故時の事故電流が遮断器の定格容量を超える場合であっても、事故電流の直流分が低下して事故電流が遮断器の定格容量以下になるまで待って、遮断器が作動・遮断される。つまり、事故電流が増加して遮断器の定格容量を超えても、遮断器を適正に作動させることができ、遮断器を大容量・特別仕様のものに取り替えたり電力系統を切り替えたりする必要がない。しかも、事故電流が遮断器の定格容量以下になるまで待機するだけでよいため、簡易かつ低費用で事故電流の増加(電力系統の大容量化)に対応することが可能となる。
【0011】
請求項2の発明は、事故検出手段と作動手段が保護継電装置で構成されているため、既製・既存の保護継電装置を利用して本遮断器制御装置を容易・簡易かつ低費用で構築することが可能となる。また、待機手段が外付けのタイマーで構成されているため、タイマーを外付け(後付け)するだけで、本遮断器制御装置を容易・簡易かつ低費用で構築することが可能となる。すなわち、保護継電装置の保護盤・制御盤を取り替えたりする必要がないため、容易・簡易かつ低費用で構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明の実施の形態に係る遮断器制御装置を含む電力系統の一部を示す図である。
【
図2】
図1の遮断器制御装置を構成する保護継電装置を示す概略構成図である。
【
図3】事故電流とその直流分の時間的変化を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0014】
図1は、この発明の実施の形態に係る遮断器制御装置3、4、5を含む電力系統の一部を示す図である。この遮断器制御装置3、4、5は、遮断器21、22、23を制御するための装置であり、後述するように、主として、既製・既存の保護継電装置で構成されている。すなわち、既に設置、運用されている保護継電装置を活用して、遮断器制御装置3、4、5が構成されている。
【0015】
ここで、この実施の形態では、次のような電力系統の一部を例にして説明するが、どのような電力系統にも本遮断器制御装置3、4、5を適用することが可能である。
【0016】
すなわち、母線L0間に母線用遮断器21が配設され、この母線用遮断器21を開閉制御する母線用の遮断器制御装置3が配設されている。また、母線L0に対して2つのハウストランス6が、それぞれトランス用遮断器22を介して接続され、トランス用遮断器22を開閉制御するトランス用の遮断器制御装置4がそれぞれ配設されている。さらに、母線L0に対して2つのシャントリアクトル(分岐リアクトル)7が、1つのシャント用遮断器23を介して接続され、シャント用遮断器23を開閉制御するシャント用の遮断器制御装置5が配設されている。
【0017】
母線用の遮断器制御装置3は、母線保護継電装置・BP(保護継電装置)で構成され、トランス用の遮断器制御装置4とシャント用の遮断器制御装置5は、過電流継電装置・OC(短絡継電装置・保護継電装置)で構成されている。このように、いずれの遮断器制御装置3、4、5も保護継電装置で構成されており、このような保護継電装置は、既製・既存の保護継電装置と同等の構成であり、
図2に示すように、主として、演算部(事故検出手段、作動手段)31と、時限部(待機手段)32と、を備えるが、後述するように、時限部32が既製・既存の保護継電装置と構成が異なる。
【0018】
すなわち、演算部31は、交流電力系統の短絡事故を含む系統事故の発生を検出すると、遮断器21、22、23を作動・遮断させる。具体的には、電流計33で計測された自端の電流値I1と相手端の電流I2を演算部31に取り込み、所定のリレー演算処理を行ない、送電線(母線L0を含む)Lの異常・系統事故を検出すると、トリップ信号TSを出力する。そして、このトリップ信号TSが遮断器21、22、23に入力されることで、遮断器21、22、23が作動・遮断する。
【0019】
また、時限部32は、演算部31から遮断器21、22、23へのトリップ信号TSの入力タイミング(遮断タイミング)を調整・制限するタイマーである。この実施の形態では、主として、系統事故における直流分を含む事故電流が遮断器21、22、23の定格容量を超える場合に、事故電流の直流分が低下して事故電流が定格容量以下になるまでトリップ信号TSの入力(演算部31による作動)を待機させる。
【0020】
すなわち、一般に事故電流には、交流分のほかに直流分を含む場合があり、事故電流が遮断器21、22、23の定格遮断電流・定格容量を超過すると(あるいは、直流分が大きいと)、遮断器21、22、23による遮断が適正にできなくなる、あるいは、遮断性能が低下するおそれがある。一方、事故電流の直流分は、
図3に示すように、時間の経過とともに減衰する。このため、事故電流の直流分が低下して事故電流が遮断器21、22、23の定格容量以下になるまで(適正な遮断ができるまで)待って、トリップ信号TSを遮断器21、22、23に入力する。
【0021】
具体的には、予め、系統事故が発生した直後における直流分を含む事故電流値が算出、計測等され、遮断器21、22、23の定格容量を超えるか否かが確認されている。この実施の形態では、事故発生直後の事故電流値が遮断器21、22、23の定格容量を超えるものとする。
【0022】
そして、系統事故が発生した場合の事故電流値および直流分の減衰特性(時間的変化)が算出、計測等され、系統事故が発生してからどのくらいの待機時間だけ待てば、事故電流値が遮断器21、22、23の定格容量以下に低下して適正な遮断ができるかが算出、決定されている。ここで、待機時間が長すぎることで、系統運用や事故対応などに支障(例えば、停電範囲の拡大)が生じないように、待機時間が算出、決定される。さらに、火力機・発電機から遠い系統では、時間の経過とともに直流分の減衰が早くなることなども考慮して、待機時間が算出、決定される。
【0023】
このようにして、遮断器21、22、23のそれぞれに対して待機時間が算出、決定されている。そして、その待機時間だけ時限部32で待って、トリップ信号TSを遮断器21、22、23に入力するようになっている。
【0024】
ここで、母線用の遮断器制御装置3を構成する既製・既存の母線保護継電装置は、時限を変更可能であるため、整定変更で時限部32の時限を上記の待機時間に調整することで、系統事故発生から待機時間だけ待ってトリップ信号TSを母線用遮断器21に入力する。
【0025】
また、トランス用の遮断器制御装置4を構成する既製・既存の過電流継電装置は、系統事故発生時に瞬時にトリップ信号TSをトランス用遮断器22に入力する瞬時要素と、系統事故発生から所定時間後にトリップ信号TSをトランス用遮断器22に入力する時限要素を備える。そして、時限要素の所定時間が上記の待機時間以上であるため、整定変更で瞬時要素をロックする(瞬時に遮断しないようにする)ことで、時限部32の時限要素のみによって、系統事故発生から待機時間以上待ってトリップ信号TSをトランス用遮断器22に入力する。
【0026】
一方、シャント用の遮断器制御装置5を構成する既製・既存の過電流継電装置51は、トランス用の遮断器制御装置4と同様に瞬時要素と時限要素を備えるが、整定変更で瞬時要素をロックできない仕様となっている。このため、時限部32に代って(加えて)、外付けのタイマー52が過電流継電装置51とシャント用遮断器23との間に配設されている。この外付けのタイマー52の時限は、上記の待機時間に設定され、過電流継電装置51から出力されたトリップ信号TSを待機時間だけ待って、シャント用遮断器23に入力する。
【0027】
このように、既製・既存の母線保護継電装置を整定変更して母線用の遮断器制御装置3が構成され、同様に、既製・既存の過電流継電装置を整定変更してトランス用の遮断器制御装置4が構成されている。一方、既製・既存の過電流継電装置51に外付けのタイマー52を備えることで、シャント用の遮断器制御装置5が構成されている。つまり、既製・既存の保護継電装置を活用して、遮断器制御装置3、4、5が構成されている。
【0028】
次に、このような構成の遮断器制御装置3、4、5の動作、遮断器制御装置3、4、5による遮断器制御方法について説明する。
【0029】
まず、交流電力系統において短絡事故を含む系統事故が発生すると、遮断器制御装置3、4、5の各演算部31で系統事故の発生を検出する(事故検出ステップ)。そして、各演算部31から時限部32または外付けのタイマー52を介して、遮断器21、22、23に対してトリップ信号TSを出力することで、遮断器21、22、23を作動・遮断させる(作動ステップ)。このとき、事故発生直後の事故電流値が遮断器21、22、23の定格容量を超えるため、遮断器制御装置3、4の各時限部32および遮断器制御装置5の外付けのタイマー52で、事故電流の直流分が低下して事故電流値が定格容量以下になるまで待機した後に、遮断器21、22、23に対してトリップ信号TSを入力し、遮断器21、22、23を作動させるものである。
【0030】
以上のように、この遮断器制御装置3、4、5および遮断器制御方法によれば、系統事故時の事故電流が遮断器21、22、23の定格容量を超える場合であっても、事故電流の直流分が低下して事故電流が遮断器21、22、23の定格容量以下になるまで待って、遮断器21、22、23が作動・遮断される。つまり、事故電流が増加して遮断器21、22、23の定格容量を超えても、遮断器21、22、23を適正に作動させることができ、遮断器21、22、23を大容量・特別仕様のものに取り替えたり電力系統を切り替えたりする必要がない。しかも、事故電流が遮断器21、22、23の定格容量以下になるまで待機するだけでよいため、簡易かつ低費用で事故電流の増加(電力系統の大容量化)に対応することが可能となる。
【0031】
また、事故検出手段と作動手段が保護継電装置で構成されているため、既製・既存の保護継電装置を利用して本遮断器制御装置3、4、5を容易・簡易かつ低費用で構築することが可能となる。特に、既製・既存の母線保護継電装置を整定変更するだけで、母線用の遮断器制御装置3を構成することができ、同様に、既製・既存の過電流継電装置を整定変更するだけで、トランス用の遮断器制御装置4を構成することができる。
【0032】
一方、既製・既存の過電流継電装置51に外付けのタイマー52を備えるだけで、シャント用の遮断器制御装置5を構成することができる。すなわち、待機手段が外付けのタイマー52で構成されているため、タイマーを外付け(後付け)するだけで、シャント用の遮断器制御装置5を容易・簡易かつ低費用で構築することが可能となる。このため、過電流継電装置51の保護盤・制御盤を取り替えたりする必要がないため、容易・簡易かつ低費用で構築することが可能となる。
【0033】
このように、例えば、遮断器21、22、23を大容量・特別仕様のものに取り替える場合、費用が数億円で、工期が二十数カ月必要であるのに対して、既存の保護継電装置を活用した本遮断器制御装置3、4、5および本遮断器制御方法によれば、費用を数百万円、工期を十カ月程度に抑えることが可能となる。
【0034】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、既製・既存の過電流継電装置51に外付けのタイマー52を備えることで、シャント用の遮断器制御装置5を構成しているが、既製・既存の過電流継電装置51において整定変更で瞬時要素をロック等できる場合には、瞬時要素をロック等することで、シャント用の遮断器制御装置5を構成してもよい。すなわち、既製・既存の保護継電装置の機能をできるだけ活用して、上記のような待機時間だけ待ってシャント用遮断器23を遮断できればよい。
【符号の説明】
【0035】
21 母線用遮断器
22 トランス用遮断器
23 シャント用遮断器
3 母線用の遮断器制御装置(保護継電装置)
31 演算部(事故検出手段、作動手段)
32 時限部(待機手段)
4 トランス用の遮断器制御装置(保護継電装置)
5 シャント用の遮断器制御装置
51 過電流継電装置(保護継電装置)
52 外付けのタイマー
6 ハウストランス
7 シャントリアクトル
TS トリップ信号