IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ミライズテクノロジーズの特許一覧

<>
  • 特開-半導体装置の製造方法 図1
  • 特開-半導体装置の製造方法 図2
  • 特開-半導体装置の製造方法 図3
  • 特開-半導体装置の製造方法 図4
  • 特開-半導体装置の製造方法 図5
  • 特開-半導体装置の製造方法 図6
  • 特開-半導体装置の製造方法 図7
  • 特開-半導体装置の製造方法 図8
  • 特開-半導体装置の製造方法 図9
  • 特開-半導体装置の製造方法 図10
  • 特開-半導体装置の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068391
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240513BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240513BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
H01L29/78 658A
H01L29/78 653C
H01L29/78 652J
H01L29/78 652M
H01L29/78 652K
H01L29/78 658F
H01L29/78 652T
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178803
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】霜野 貴也
(72)【発明者】
【氏名】金原 啓道
(57)【要約】
【課題】 トレンチの側面へのドーパントの注入を防止しながら、トレンチの底面の広い範囲にドーパントを注入する。
【解決手段】
半導体装置の製造方法であって、ウエハに設けられたトレンチの第1側面に不活性イオンを注入する工程であって、前記トレンチの幅方向に沿う断面において、不活性イオンの注入方向の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度が、前記第2側面の上端と前記第1側面の下端とを結ぶ直線の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度よりも大きい状態で前記第1側面に不活性イオンを注入する工程と、前記トレンチの第2側面に不活性イオンを注入する工程と、前記半導体基板を加熱することによって前記第1側面と前記第2側面に酸化膜を成長させる工程と、前記底面にドーパントを注入する工程、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
半導体基板(12)を含むウエハであって、前記ウエハの表面にトレンチ(14、62)が設けられており、前記トレンチが第1側面(14a、62a)と第2側面(14b、62b)と前記第1側面と前記第2側面の間に配置された底面(14c)を有し、前記底面が前記半導体基板内に位置している前記ウエハを準備する工程と、
前記第1側面に不活性イオンを注入する工程であって、前記トレンチの幅方向に沿う断面において、不活性イオンの注入方向の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度(θ92、θ192)が、前記第2側面の上端と前記第1側面の下端とを結ぶ直線の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度(θ94、θ194)よりも大きい状態で前記第1側面に不活性イオンを注入する工程と、
前記第2側面に不活性イオンを注入する工程であって、前記トレンチの幅方向に沿う前記断面において、不活性イオンの注入方向の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度(θ82、θ182)が、前記第1側面の上端と前記第2側面の下端とを結ぶ直線の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度(θ84、θ184)よりも大きい状態で前記第2側面に不活性イオンを注入する工程と、
前記半導体基板を加熱することによって前記第1側面と前記第2側面に酸化膜(64)を成長させる工程と、
前記底面にドーパントを注入する工程、
を有する製造方法。
【請求項2】
前記ウエハを準備する前記工程が、
前記半導体基板の表面にマスク層(60)を形成する工程と、
前記マスク層を貫通して前記半導体基板に達するように前記トレンチを形成する工程、
を有し、
前記マスク層が存在する状態で、前記第1側面に不活性イオンを注入する前記工程、前記第2側面に不活性イオンを注入する前記工程、前記酸化膜を成長させる前記工程、及び、ドーパントを注入する前記工程を実施する、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ウエハを準備する前記工程が、
前記半導体基板の表面にマスク層を形成する工程と、
前記マスク層を貫通して前記半導体基板に達するように前記トレンチを形成する工程と、
前記マスク層を除去する工程、
を有し、
前記第1側面に不活性イオンを注入する前記工程、及び、前記第2側面に不活性イオンを注入する前記工程では、前記半導体基板の前記表面に不活性イオンを注入し、
前記酸化膜を成長させる前記工程では、前記第1側面と前記第2側面と前記半導体基板の前記表面に前記酸化膜を成長させ、
前記半導体基板の前記表面に前記酸化膜が存在する状態で、ドーパントを注入する前記工程を実施する、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記半導体基板が、p型のボディ層(44)を有しており、
前記トレンチが、前記ボディ層を貫通しており、
前記第1側面に不活性イオンを注入する前記工程では、前記トレンチの幅方向に沿う前記断面において、不活性イオンの注入方向の前記ウエハの前記表面に対する前記傾斜角度が、前記断面において前記第2側面の上端と前記第1側面における前記ボディ層の下端とを結ぶ直線の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度(θ96、θ196)よりも小さい状態で前記第1側面に不活性イオンを注入し、
前記第2側面に不活性イオンを注入する前記工程では、前記トレンチの幅方向に沿う前記断面において、不活性イオンの注入方向の前記ウエハの前記表面に対する前記傾斜角度が、前記断面において前記第1側面の上端と前記第2側面における前記ボディ層の下端とを結ぶ直線の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度(θ86、θ186)よりも小さい状態で前記第2側面に不活性イオンを注入する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
特許文献1には、トレンチの底面にドーパントをイオン注入することによってトレンチの下部に拡散層を形成する技術が開示されている。この技術では、イオン注入の前にトレンチの内面に酸化膜を形成する。次に、トレンチの底面を覆う酸化膜をエッチングにより除去する。トレンチの両側面には酸化膜を残存させる。次に、トレンチの底面にドーパントをイオン注入することによって、トレンチの下部に拡散層を形成する。トレンチの両側面は酸化膜に覆われているので、トレンチの両側面へのドーパントの注入が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-207061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、トレンチの両側面を覆う酸化膜によってトレンチの底面の端部へのドーパントの注入が阻害される。このため、トレンチの底面の中央部にしかドーパントを注入することができない。例えば、トレンチの底面の幅が0.5μmであり、両側面を覆う酸化膜の厚みが0.1μmの場合には、トレンチの底面の中央部の幅0.3μmの範囲にしかドーパントを注入することができない。このため、この技術では、トレンチの底面よりも幅が狭い拡散領域しか形成することができない。本明細書では、トレンチの側面へのドーパントの注入を防止しながら、トレンチの底面の広い範囲にドーパントを注入する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、ウエハ準備工程、第1不活性イオン注入工程、第2不活性イオン注入工程、酸化膜成長工程、及び、ドーパント注入工程を有する。前記ウエハ準備工程では、半導体基板を含むウエハを準備する。前記ウエハの表面にトレンチが設けられている。前記トレンチが、第1側面と第2側面と前記第1側面と前記第2側面の間に配置された底面を有する。前記底面が、前記半導体基板内に位置している。前記第1不活性イオン注入工程では、前記第1側面に不活性イオンを注入する。前記第1不活性イオン注入工程では、前記トレンチの幅方向に沿う断面において、不活性イオンの注入方向の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度が、前記第2側面の上端と前記第1側面の下端とを結ぶ直線の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度よりも大きい状態で前記第1側面に不活性イオンを注入する。前記第2不活性イオン注入工程では、前記第2側面に不活性イオンを注入する。前記第2不活性イオン注入工程では、前記トレンチの幅方向に沿う前記断面において、不活性イオンの注入方向の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度が、前記第1側面の上端と前記第2側面の下端とを結ぶ直線の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度よりも大きい状態で前記第2側面に不活性イオンを注入する。前記酸化膜成長工程では、前記半導体基板を加熱することによって前記第1側面と前記第2側面に酸化膜を成長させる。前記ドーパント注入工程では、前記底面にドーパントを注入する。
【0006】
なお、前記ウエハは、半導体基板のみによって構成されていてもよいし、半導体基板とその表面に設けられた他の層(例えば、絶縁層、導体層、マスク層など)を有していてもよい。また、前記トレンチは、半導体基板の表面に設けられていてもよいし、半導体基板の表面に設けられた前記他の層の表面に設けられていてもよい。トレンチが前記他の層の表面に設けられている場合、トレンチは前記他の層を貫通して前記半導体基板に達していることで前記トレンチの底面が前記半導体基板内に位置している。また、トレンチの側面と底面が曲面により接続されている場合には、半導体基板の表面に対する当該曲面の接線の傾斜角度が45度となる位置がトレンチの側面の下端である。また、前記不活性イオンは、半導体基板内でアクセプタとドナーのいずれとしても機能しないイオン(すなわち、無極性のイオン)を意味する。前記不活性イオンは、例えば、アルゴンイオン、ネオンイオン等である。また、本明細書において、ウエハの表面に対する傾斜角度は、ウエハの表面に立てた垂線と対象物(例えば、注入方向または直線)の間の角度を意味する。したがって、傾斜角度が0度であることは、対象物が垂線に対して平行(すなわち、ウエハの表面に対して垂直)であることを意味する。
【0007】
この製造方法では、第1不活性イオン注入工程と第2不活性イオン注入工程において第1側面と第2側面に不活性イオンが注入されることでこれらの側面に結晶欠陥が生成される。第1不活性イオン注入工程では、不活性イオンの注入方向の傾斜角度が上記のように設定されていることで、第1側面の下端近傍への不活性イオンの注入が防止される。また、第2不活性イオン注入工程では、不活性イオンの注入方向の傾斜角度が上記のように設定されていることで、第2側面の下端近傍への不活性イオンの注入が防止される。次に、酸化膜成長工程において、半導体基板が加熱される。不活性イオンの注入範囲では、結晶欠陥密度が高いので、酸化膜が速く成長する。したがって、第1側面及び第2側面のうちの不活性イオンの注入範囲では、トレンチの底面よりも速く酸化膜が成長する。また、第1側面及び第2側面のうちの下端近傍の範囲には不活性イオンが注入されていないので、第1側面及び第2側面のうちの下端近傍の範囲では酸化膜の成長速度が遅い。したがって、酸化膜成長工程では、第1側面及び第2側面のうちの下端近傍の範囲とトレンチの底面に厚く酸化膜を成長させることなく、第1側面及び第2側面のうちの不活性イオンの注入範囲に十分な厚さの酸化膜を形成することができる。次に、ドーパント注入工程において、トレンチの底面にドーパントが注入される。第1側面及び第2側面のうちの下端近傍の範囲に厚い酸化膜が存在しないので、トレンチの底面の広い範囲にドーパントを注入することができる。また、酸化膜によっておおわれている範囲では第1側面及び第2側面へのドーパントの注入が防止される。このように、この製造方法によれば、トレンチの側面へのドーパントの注入を防止しながら、トレンチの底面の広い範囲にドーパントを注入できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】半導体装置10の断面図。
図2】実施例1の製造方法の説明図。
図3】実施例1の製造方法の説明図。
図4】実施例1の製造方法の説明図。
図5】実施例1の製造方法の説明図。
図6】実施例1の製造方法の説明図。
図7】実施例1の製造方法の説明図。
図8】実施例2の製造方法の説明図。
図9】実施例2の製造方法の説明図。
図10】実施例2の製造方法の説明図。
図11】実施例2の製造方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記ウエハを準備する前記工程が、前記半導体基板の表面にマスク層を形成する工程と、前記マスク層を貫通して前記半導体基板に達するように前記トレンチを形成する工程、を有していてもよい。前記マスク層が存在する状態で、前記第1側面に不活性イオンを注入する前記工程、前記第2側面に不活性イオンを注入する前記工程、前記酸化膜を成長させる前記工程、及び、ドーパントを注入する前記工程を実施してもよい。
【0010】
また、本明細書が開示する他の一例の製造方法では、前記ウエハを準備する前記工程が、前記半導体基板の表面にマスク層を形成する工程と、前記マスク層を貫通して前記半導体基板に達するように前記トレンチを形成する工程と、前記マスク層を除去する工程、を有していてもよい。前記第1側面に不活性イオンを注入する前記工程、及び、前記第2側面に不活性イオンを注入する前記工程では、前記半導体基板の前記表面に不活性イオンを注入してもよい。前記酸化膜を成長させる前記工程では、前記第1側面と前記第2側面と前記半導体基板の前記表面に前記酸化膜を成長させてもよい。前記半導体基板の前記表面に前記酸化膜が存在する状態で、ドーパントを注入する前記工程を実施してもよい。
【0011】
これらのいずれの構成でも、半導体基板の表面へのドーパントの注入を防止できる。
【0012】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記半導体基板が、p型のボディ層を有していてもよい。また、前記トレンチが、前記ボディ層を貫通していてもよい。前記第1側面に不活性イオンを注入する前記工程では、前記トレンチの幅方向に沿う前記断面において、不活性イオンの注入方向の前記ウエハの前記表面に対する前記傾斜角度が、前記断面において前記第2側面の上端と前記第1側面における前記ボディ層の下端とを結ぶ直線の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度よりも小さい状態で前記第1側面に不活性イオンを注入してもよい。前記第2側面に不活性イオンを注入する前記工程では、前記トレンチの幅方向に沿う前記断面において、不活性イオンの注入方向の前記ウエハの前記表面に対する前記傾斜角度が、前記断面において前記第1側面の上端と前記第2側面における前記ボディ層の下端とを結ぶ直線の前記ウエハの前記表面に対する傾斜角度よりも小さい状態で前記第2側面に不活性イオンを注入してもよい。
【0013】
この製造方法によれば、ボディ層から分離された状態でトレンチの下部に拡散層を形成することができる。
【0014】
図1に示す半導体装置10は、半導体基板12を有している。半導体基板12は、SiCにより構成されている。以下では、半導体基板12の上面12aに平行な一方向をx方向といい、上面12aに平行かつx方向に直交する方向をy方向といい、半導体基板12の厚み方向をz方向という。図1は、x方向及びz方向に沿う断面を表している。半導体基板12の上面12aには、複数のトレンチ14が設けられている。各トレンチ14は、上面12aにおいてy方向に直線状に伸びている。すなわち、x方向は、トレンチ14に対して直交する方向であり、トレンチ14の幅方向である。各トレンチ14は、上面12aにおいてx方向に間隔を空けて配置されている。各トレンチ14の内面は、ゲート絶縁膜16によって覆われている。各トレンチ14内にゲート電極18が配置されている。各ゲート電極18は、ゲート絶縁膜16によって半導体基板12から絶縁されている。各ゲート電極18の上面は、層間絶縁膜20によって覆われている。半導体基板12の上部にソース電極22が配置されている。ソース電極22は、層間絶縁膜20によってゲート電極18から絶縁されている。半導体基板12の下面12bには、ドレイン電極24が設けられている。
【0015】
半導体基板12は、ソース領域40、コンタクト領域42、ボディ領域44、ドリフト領域46、ドレイン領域48、及び、ディープ領域50を有している。
【0016】
ソース領域40は、高いn型不純物濃度を有するn型領域である。ソース領域40は、ソース電極22とゲート絶縁膜16に接している。コンタクト領域42は、高いp型不純物濃度を有するp型領域である。コンタクト領域42は、ソース電極22に接している。ボディ領域44は、コンタクト領域42よりも低いp型不純物濃度を有するp型領域である。ボディ領域44は、ソース領域40とコンタクト領域42に対して下側から接している。ボディ領域44は、ソース領域40の下側でゲート絶縁膜16に接している。ドリフト領域46は、ソース領域40よりも低いn型不純物濃度を有するn型領域である。ドリフト領域46は、ボディ領域44に対して下側から接している。ドリフト領域46は、ボディ領域44の下側でゲート絶縁膜16に接している。ドレイン領域48は、ドリフト領域46よりも高いn型不純物濃度を有するn型領域である。ドレイン領域48は、ドリフト領域46に対して下側から接している。ドレイン領域48は、ドレイン電極24に接している。各ディープ領域50は、各トレンチ14の下部に配置されている。ディープ領域50は、トレンチ14の底面においてゲート絶縁膜16に接している。ディープ領域50の幅は、トレンチ14の底面の幅とほぼ等しい。ディープ領域50の周囲は、ドリフト領域46に囲まれている。
【0017】
ソース領域40、コンタクト領域42、ボディ領域44、ドリフト領域46、ドレイン領域48、ディープ領域50、ゲート電極18及びゲート絶縁膜16によって、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field effect transistor)が構成されている。ゲート電極18にゲート閾値以上の電位を印加すると、ボディ領域44内にチャネルが形成され、MOSFETがオンする。ゲート電極18の電位をゲート閾値未満の電位に引き下げると、チャネルが消失し、MOSFETがオフする。MOSFETがオフすると、ボディ領域44からドリフト領域46に空乏層が広がる。このとき、ディープ領域50からドリフト領域46へも空乏層が広がる。ディープ領域50からドリフト領域46へ広がる空乏層によって、トレンチ14の下端部を覆うゲート絶縁膜16に高電界が加わることが防止される。特に、ディープ領域50の幅がトレンチ14の底面の幅と略等しいので、ディープ領域50がトレンチ14の底面のほぼ全域でゲート絶縁膜16に接している。したがって、トレンチ14の下端部のゲート絶縁膜16を好適に保護することができる。
【0018】
次に、半導体装置10の製造方法について説明する。なお、実施例1、2の製造方法は、ディープ領域50の形成工程に特徴を有するので、以下ではディープ領域50の形成工程について説明する。
【実施例0019】
実施例1の製造方法は、ウエハ準備工程、第1不活性イオン注入工程、第2不活性イオン注入工程、酸化膜成長工程、及び、ドーパント注入工程を有する。
【0020】
ウエハ準備工程では、図2に示すように、ソース領域40、コンタクト領域42、ボディ領域44、及び、ドリフト領域46が設けられた半導体基板12の上面12aにマスク層60を形成する。以下では、半導体基板12とマスク層60を合わせてウエハという場合がある。次に、マスク層60に開口部60aを形成する。次に、図3に示すように、マスク層60を介して半導体基板12をエッチングすることによって、半導体基板12にトレンチ14を形成する。以下では、マスク層60に設けられた開口部60aと半導体基板12に設けられたトレンチ14を合わせて、トレンチ62という。トレンチ62は、マスク層60の上面(すなわち、ウエハの上面)に設けられており、マスク層60を貫通して半導体基板12に達している。したがって、トレンチ62の底面(すなわち、トレンチ14の底面14c)は半導体基板12内に位置している。以下では、トレンチ62の一方の側面を第1側面62aといい、トレンチ62の他方の側面を第2側面62bという。第1側面62aは第2側面62bに対向している。
【0021】
次に、第1不活性イオン注入工程を実施する。第1不活性イオン注入工程では、図4に示すように、トレンチ62の第1側面62aにアルゴンイオンを注入する。アルゴンイオンは、不活性イオンである。ここでは、アルゴンイオンの注入方向92をウエハの上面に対して傾斜させた状態で第1側面62aにアルゴンイオンを注入する。
【0022】
図4の角度θ92は、ウエハの上面(すなわち、マスク層60の上面)に立てた垂線90とアルゴンイオンの注入方向92の間の角度である。角度θ92は、ウエハの上面に対するアルゴンイオンの注入方向92の傾斜角度である。
【0023】
図4の直線94は、第2側面62bの上端と第1側面62aの下端とを接続する直線である。また、図4の角度θ94は、ウエハの上面に対する直線94の傾斜角度である。
【0024】
図4の直線96は、第2側面62bの上端と第1側面62aにおけるボディ領域44の下端とを接続する直線である。また、図4の角度θ96は、ウエハの上面に対する直線96の傾斜角度である。
【0025】
図4に示すように、アルゴンイオンの注入方向92の傾斜角度θ92は、直線94の傾斜角度θ94よりも大きい。したがって、第2側面62bの陰となることにより、第1側面62aのうちの下端近傍の範囲62aLにはアルゴンイオンが注入されない。また、トレンチ62の底面14cにもアルゴンイオンが注入されない。また、図4に示すように、アルゴンイオンの注入方向92の傾斜角度θ92は、直線96の傾斜角度θ96よりも小さい。したがって、第1側面62aの上端からボディ領域44の下端よりも下側の部分(すなわち、ドリフト領域46の表層部)までの範囲62aUにアルゴンイオンが注入される。したがって、範囲62aU内の第1側面62aに結晶欠陥が形成される。
【0026】
次に、第2不活性イオン注入工程を実施する。第2不活性イオン注入工程では、図5に示すように、トレンチ62の第2側面62bにアルゴンイオンを注入する。ここでは、アルゴンイオンの注入方向82を半導体基板12の上面12aに対して傾斜させた状態で第2側面62bにアルゴンイオンを注入する。
【0027】
図5の垂線80は、ウエハの上面に立てた垂線である。図5の角度θ82は、ウエハの上面に対するアルゴンイオンの注入方向82の傾斜角度である。図5の直線84は、第1側面62aの上端と第2側面62bの下端とを接続する直線である。また、図5の角度θ84は、ウエハの上面に対する直線84の傾斜角度である。図5の直線86は、第1側面62aの上端と第2側面62bにおけるボディ領域44の下端とを接続する直線である。また、図5の角度θ86は、ウエハの上面に対する直線86の傾斜角度である。
【0028】
図5に示すように、アルゴンイオンの注入方向82の傾斜角度θ82は、直線84の傾斜角度θ84よりも大きい。したがって、第2側面62bのうちの下端近傍の範囲62bLにはアルゴンイオンが注入されない。また、トレンチ62の底面14cにもアルゴンイオンが注入されない。また、図5に示すように、アルゴンイオンの注入方向82の傾斜角度θ82は、直線86の傾斜角度θ86よりも小さい。したがって、第2側面62bの上端からボディ領域44の下端よりも下側の部分(すなわち、ドリフト領域46の表層部)までの範囲62bUにアルゴンイオンが注入される。したがって、範囲62bU内の第2側面62bに結晶欠陥が形成される。
【0029】
次に、酸化膜成長工程を実施する。酸化膜成長工程では、ウエハを加熱することによってトレンチ14の内面を酸化させる。これにより、図6に示すように、トレンチ14内に酸化膜64を成長させる。アルゴンイオンが注入された範囲62aU、62bUでは、アルゴンイオンが注入されていない範囲62aL、62bL及び底面14cよりも速く酸化膜64が成長する。したがって、範囲62aU、62bUに範囲62aL、62bL及び底面14cよりも遥かに厚い酸化膜64が形成される。なお、範囲62aL、62bL及び底面14cに形成される酸化膜は極めて薄いので、図6では、範囲62aL、62bL及び底面14cに形成される酸化膜の図示を省略している。このように、各側面62a、62bにおいて範囲62aU、62bUに厚く酸化膜64が形成される一方で、各側面62a、62bにおいて底面14c近傍の範囲62aL、62bLにはほとんど酸化膜が形成されない。
【0030】
次に、ドーパント注入工程を実施する。ドーパント注入工程では、図7に示すように、トレンチ62の底面14cにp型のドーパントをイオン注入する。ここでは、ドーパントの注入方向をウエハの上面に対して傾斜させないでドーパントを注入する。ドーパントの注入後にウエハを熱処理する。これにより、底面14cに注入されたドーパントが活性化し、ディープ領域50が形成される。各側面62a、62bにおいて底面14c近傍の範囲62aL、62bLに厚い酸化膜が形成されていないので、ドーパント注入工程では底面14cのほぼ全域にドーパントが注入される。したがって、底面14cと略同じ幅のディープ領域50を形成することができる。また、厚い酸化膜64によって覆われた範囲62aU、62bUでは、酸化膜64によって側面62a、62bへのドーパントの注入が防止される。したがって、範囲62aU、62bU内にはディープ領域50が形成されない。側面62a、62bのうちのドリフト領域46の表層部にディープ領域50が形成されないので、ディープ領域50がボディ領域44と繋がることを防止できる。
【0031】
また、ドーパント注入工程では、マスク層60によって半導体基板12の上面12aへのドーパントの注入が防止される。すなわち、実施例1によれば、トレンチ14形成用のエッチングマスクを、ドーパント注入工程におけるマスクとして利用することができる。
【0032】
ドーパント注入工程の後に、マスク層60と酸化膜64を除去する。その後、ゲート絶縁膜16、ゲート電極18、層間絶縁膜20、ソース電極22、ドレイン電極24等を形成することで、半導体装置10が完成する。
【実施例0033】
実施例2の製造方法は、ウエハ準備工程、第1不活性イオン注入工程、第2不活性イオン注入工程、酸化膜成長工程、及び、ドーパント注入工程を有する。
【0034】
実施例2でも、実施例1と同様にウエハ準備工程を実施する。すなわち、図2、3に示すように、ウエハにトレンチ62を形成する。実施例2では、実施例1とは異なり、トレンチ62の形成後にマスク層60を除去する。したがって、マスク層60の除去後は、ウエハは半導体基板12単体により構成されている。以下では、トレンチ14の一方の側面を第1側面14aといい、トレンチ14の他方の側面を第2側面14bという。第1側面14aは第2側面14bに対向している。
【0035】
次に、第1不活性イオン注入工程を実施する。第1不活性イオン注入工程では、図8に示すように、トレンチ14の第1側面14aにアルゴンイオンを注入する。ここでは、アルゴンイオンの注入方向192を半導体基板12の上面12a(すなわち、ウエハの上面)に対して傾斜させた状態で第1側面14aにアルゴンイオンを注入する。
【0036】
図8の垂線190は、上面12aに立てた垂線である。図8の角度θ192は、アルゴンイオンの注入方向192の上面12aに対する傾斜角度である。図8の直線194は、第2側面14bの上端と第1側面14aの下端とを接続する直線である。また、図8の角度θ194は、直線194の上面12aに対する傾斜角度である。図8の直線196は、第2側面14bの上端と第1側面14aにおけるボディ領域44の下端とを接続する直線である。また、図8の角度θ196は、直線196の上面12aに対する傾斜角度である。
【0037】
図8に示すように、アルゴンイオンの注入方向192の傾斜角度θ192は、直線194の傾斜角度θ194よりも大きい。したがって、第1側面14aのうちの下端近傍の範囲14aLにはアルゴンイオンが注入されない。また、トレンチ14の底面14cにもアルゴンイオンが注入されない。また、図8に示すように、アルゴンイオンの注入方向192の傾斜角度θ192は、直線196の傾斜角度θ196よりも小さい。したがって、第1側面14aの上端からボディ領域44の下端よりも下側の部分(すなわち、ドリフト領域46の表層部)までの範囲14aUにアルゴンイオンが注入される。したがって、範囲14aU内の第1側面14aに結晶欠陥が形成される。
【0038】
また、実施例2の第1不活性イオン注入工程では、半導体基板12の上面12aにもアルゴンイオンが注入されて結晶欠陥が形成される。
【0039】
次に、第2不活性イオン注入工程を実施する。第2不活性イオン注入工程では、図9に示すように、トレンチ14の第2側面14bにアルゴンイオンを注入する。ここでは、アルゴンイオンの注入方向182を半導体基板12の上面12aに対して傾斜させた状態で第2側面14bにアルゴンイオンを注入する。
【0040】
図9の垂線180は、上面12aに立てた垂線である。図9の角度θ182は、アルゴンイオンの注入方向182の上面12aに対する傾斜角度である。図9の直線184は、第1側面14aの上端と第2側面14bの下端とを接続する直線である。また、図9の角度θ184は、直線184の上面12aに対する傾斜角度である。図9の直線186は、第1側面14aの上端と第2側面14bにおけるボディ領域44の下端とを接続する直線である。また、図9の角度θ186は、直線186の上面12aに対する傾斜角度である。
【0041】
図9に示すように、アルゴンイオンの注入方向182の傾斜角度θ182は、直線184の傾斜角度θ184よりも大きい。したがって、第2側面14bのうちの下端近傍の範囲14bLにはアルゴンイオンが注入されない。また、トレンチ14の底面14cにもアルゴンイオンが注入されない。また、図9に示すように、アルゴンイオンの注入方向182の傾斜角度θ182は、直線186の傾斜角度θ186よりも小さい。したがって、第2側面14bの上端からボディ領域44の下端よりも下側の部分(すなわち、ドリフト領域46の表層部)までの範囲14bUにアルゴンイオンが注入される。したがって、範囲14bU内で第2側面14bに結晶欠陥が形成される。
【0042】
また、実施例2の第2不活性イオン注入工程では、半導体基板12の上面12aにもアルゴンイオンが注入されて結晶欠陥が形成される。
【0043】
次に、酸化膜成長工程を実施する。酸化膜成長工程では、ウエハを加熱することによってトレンチ14の内面を酸化させる。これにより、図10に示すように、トレンチ14内に酸化膜64を成長させる。範囲14aU、14bUに範囲14aL、14bL及び底面14cよりも遥かに厚い酸化膜64が形成される。なお、範囲14aL、14bL及び底面14cに形成される酸化膜は極めて薄いので、図10では、範囲14aL、14bL及び底面14cに形成される酸化膜の図示を省略している。このように、各側面14a、14bにおいて上端からボディ領域44の下端よりも下側までの範囲14aU、14bUに厚く酸化膜64が形成される一方で、各側面14a、14bにおいて底面14c近傍の範囲14aL、14bLにはほとんど酸化膜が形成されない。
【0044】
また、実施例2の酸化膜成長工程では、半導体基板12の上面12aにも熱い酸化膜64が成長する。
【0045】
次に、ドーパント注入工程を実施する。ドーパント注入工程では、図11に示すように、トレンチ14の底面14cにp型のドーパントをイオン注入する。ここでは、ドーパントの注入方向をウエハの上面に対して傾斜させないでドーパントを注入する。ドーパントの注入後にウエハを熱処理する。これにより、底面14cに注入されたドーパントが活性化し、ディープ領域50が形成される。各側面14a、14bにおいて底面14c近傍の範囲14aL、14bLに厚い酸化膜が形成されていないので、ドーパント注入工程では底面14cのほぼ全域にドーパントが注入される。したがって、底面14cと略同じ幅のディープ領域50を形成することができる。また、厚い酸化膜64によって覆われた範囲14aU、14bUでは、酸化膜64によって側面14a、14bへのドーパントの注入が防止される。したがって、範囲14aU、14bU内にはディープ領域50が形成されない。側面14a、14bのうちのドリフト領域46の表層部にディープ領域50が形成されないので、ディープ領域50がボディ領域44と繋がることを防止できる。
【0046】
また、ドーパント注入工程では、酸化膜64によって半導体基板12の上面12aへのドーパントの注入が防止される。
【0047】
ドーパント注入工程の後に、酸化膜64を除去する。その後、ゲート絶縁膜16、ゲート電極18、層間絶縁膜20、ソース電極22、ドレイン電極24等を形成することで、半導体装置10が完成する。
【0048】
なお、上述した実施例では、半導体基板12がSiCにより構成されていたが、半導体基板12がSi等の他の半導体によって構成されていてもよい。
【0049】
また、上述した実施例では、MOSFETの製造方法について説明したが、他の半導体装置の製造方法において本明細書に開示の技術を適用してもよい。この場合、トレンチの底面に注入するドーパントは、n型であってもp型であってもよい。
【0050】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0051】
12:半導体基板、14:トレンチ、14a:第1側面、14b:第2側面、60:マスク層、62:トレンチ、62a:第1側面、62b:第2側面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11