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特開2024-684細胞多様性と複雑な組織構造を保持したがん組織の治療剤
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  • 特開-細胞多様性と複雑な組織構造を保持したがん組織の治療剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000684
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】細胞多様性と複雑な組織構造を保持したがん組織の治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/337 20060101AFI20231226BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231226BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20231226BHJP
   A61K 36/03 20060101ALI20231226BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20231226BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20231226BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231226BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20231226BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231226BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20231226BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20231226BHJP
   A23L 33/11 20160101ALI20231226BHJP
   C07D 303/02 20060101ALN20231226BHJP
【FI】
A61K31/337
A61P35/00
A61P1/18
A61K36/03
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/08
A61K9/06
A61K9/70 405
A23L33/11
C07D303/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099523
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】594045089
【氏名又は名称】オリザ油化株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505116781
【氏名又は名称】学校法人東日本学園
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 将
(72)【発明者】
【氏名】下田 博司
(72)【発明者】
【氏名】村井 弘道
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018MD08
4B018MD67
4B018ME08
4B018MF01
4C076AA06
4C076AA11
4C076AA30
4C076AA36
4C076AA53
4C076AA72
4C076BB01
4C076BB31
4C076CC16
4C076CC27
4C076FF01
4C076FF11
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA28
4C086MA32
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB26
4C088AA13
4C088AC15
4C088BA08
4C088BA11
4C088BA32
4C088CA03
4C088MA02
4C088MA16
4C088MA28
4C088MA32
4C088MA35
4C088MA37
4C088MA41
4C088MA43
4C088MA52
4C088MA55
4C088NA14
4C088ZA66
4C088ZB26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】膵がん等の治療や予防に有効な、副作用の少ないhHCT治療剤を提供する。
【解決手段】フコキサンチンを用いたhHCT治療剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコキサンチンを有効成分とする細胞多様性(不均一性)と複雑な組織構造を保持したがん組織(Human heterogenous cancer tissue, hHCT)治療剤。
【請求項2】
膵がんを治療、予防するものである請求項第1項記載のhHCT治療剤。
【請求項3】
経口投与形態である請求項第1項または第2項のhHCT治療剤。
【請求項4】
非経口投与形態である請求項第1項または第2項のhHCT治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、hHCT治療剤に関し、更に詳細には、膵がん等の治療や予防に有効なhHCT治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、Human heterogenous cancer tissue (hHCT)とは、がん患者に見られる細胞群の多様性又は各細胞の性状の多様性(不均一性)、及び異常な組織構造を形成する悪性組織や複雑に入り組んだ線維による組織構造を保持したがん組織を指す。
【0003】
膵がんは、代表的な難治性がんの一つである。世界185カ国における36種のがんについて調査したGLOBOCAN2020によると、膵がんの新規発症者数は約50万人、新規死亡者数は約47万人であった。我が国においては、2018年度の新規発症者数は約4.2万人、新規死亡者数は約3.6万人であった。例年、世界と日本は共に、新規罹患者数と同程度の死亡数であることから、膵がんと診断された患者の大部分が亡くなっていることが推測される。多くの膵がん患者では、医師に膵がんと診断された時点で進行期であることが多く、手術不能あるいは化学療法不能な例が極めて多い。膵がんの5年生存率は10%程度と全がんの中で最も予後不良である。
【0004】
膵がんと診断確定後、悪性度の分類によって、外科的治療法、化学療法、化学放射線療法が選択される。その後、ステント療法、バイパス療法、支持・緩和療法、外科的治療法に移る。
【0005】
このうち、切除不能進行膵がんの化学療法としては、ゲムシタビン塩酸塩単独療法が標準療法とされている。その他、S-1単独療法、FOLFIRINOX(オキサリプラチン、イリノテカン塩酸塩、フルオロウラシル、レボホリナートカルシウム併用)療法、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法、ゲムシタビン塩酸塩+エルロチニブ塩酸塩併用療法等がある。
【0006】
上記に挙げたがん治療剤は、ほぼすべて、膵がん患者に対する効果と副作用のバランスを考慮しなくてはならない。副作用の観点から、一次療法として使用しない場合もある。
【0007】
そこで、新規の副作用の少ないhHCT治療剤が求められているが、臨床研究で良好な成績を収めた副作用の少ないhHCT治療剤はほとんど無い。
【0008】
そこで本発明者らは、食品由来成分の一つであるフコキサンチンの強い抗がん作用に着目した。フコキサンチンは、マウスの皮膚がん、十二指腸がん、大腸がん、肝臓がん、膵がんの発がん予防効果が報告されている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。しかしながら、上記の報告はすべて、自然発症、化学誘発、あるいは同種同所移植による発がんモデルマウスにおけるフコキサンチンのがん予防効果を示したものであって、臨床応用上重要なhHCTに対する治療効果を調べていない。
【0009】
フコキサンチン及びフコキサンチンの活性代謝物フコキサンチノール(FxOH)によるウイルス関連悪性腫瘍への効果が報告されている(特許文献2)。しかしながら、この知見は、樹立した細胞株に対する増殖抑制効果及びアポトーシス誘導効果を示したものである。さらに、フコキサンチンのフェオフルバイト複合体による発がんウイルス活性化抑制効果が認められている(特許文献3)。しかしながら、この知見は、フコキサンチンのフェオフルバイト複合体によるウイルス活性阻害効果を示したものであり、フコキサンチンそのものの効果を調べていない。また、これらの2つの研究は、hHCTの治療効果は調べていない。
【0010】
【特許文献1】特開平10-158156号公報
【特許文献2】特開2008-19174号公報
【特許文献3】特開2012-219051号公報
【非特許文献1】H. Nishino, M. Murakoshi, H Tokuda and Y Satomi, “Cancer prevention by carotenoids”, Arch. Biochem. Biophys., 483, 165-168 (2009).
【非特許文献2】M. Terasaki, S. Ono, S. Hashimoto, A. Kubota, H. Kojima, T. Ohta, T. Tanaka, H. Maeda, K. Miyashita and M. Mutoh, “Suppression of C-C chemokine receptor 1 is a key regulation for colon cancer chemoprevention in AOM/DSS mice by fucoxanthin”, J. Nutr. Biochem., 99, 108871 (2022).
【非特許文献3】W. Murase, Y. Kamakura, S. Kawakami, A. Yasuda, M. Wagatsuma, A. Kubota, H. Kojima, T. Ohta, M. Takahashi, M. Mutoh, T. Tanaka, H. Maeda, K. Miyashita and M. Terasaki, “Fucoxanthin prevents pancreatic tumorigenesis in C57BL/6J mice that received allogenic and orthotopic transplants of cancer cells”, Int. J. Mol. Sci., 22, 13620 (2021).
【非特許文献4】M. Terasaki, H. Maeda, K. Miyashita, T. Tanaka, S. Miyamto and M. Mutoh, “A marine bio-functional lipid, fucoxanthinol, attenuates human colorectal cancer stem-like cell tumorigenicity and sphere formation”, J. Clin. Biochem. Nutr., 61, 25-32 (2017).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者や他の研究者は、フコキサンチンによる発がんモデルマウスにおける抗がん効果とその作用機序について、多くの特許や知見を発表してきた。それらの知見から、本発明者は、フコキサンチンは臨床腫瘍にも効果をもたらすと考えた。現在、新規抗がん剤の治療効果を調べる上で、世界で最も信頼性の高いhHCTモデルは、患者のがん組織を移植したマウスモデル(Patient-derived xenograft, PDX)である。本発明では、PDXマウスにフコキサンチンを経口投与し、hHCT治療効果を達成し、本発明を成すに至った。
即ち、本発明は、新規な成分を有効成分とするhHCT治療効果を見出し、これを治療する臨床上有用性の高いhHCT治療剤を開発することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための技術的特徴を以下のとおりである。
1.フコキサンチンを有効成分とするhHCT治療剤。
2.上記hHCT治療剤は膵がんのhHCTを治療するものであることを特徴とする上記1.のhHCT治療剤。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ヒト膵がん組織接種PDXマウスにおけるフコキサンチン投与による体重及び腫瘍増大へ及ぼす効果を示した図。Group 1(フコキサンチン投与群(n=9))、Group 2(コントロール群(n=9))。Aは体重推移、Bは推定腫瘍体積を示したものである。Group 1と2の間の統計値は、Wilcoxon rank sum testを用いて計算した(* P < 0.05)。
図2】ヒト膵がん組織接種PDXマウスにおける病理解析図。Well > moderately, 高分化 > 中分化腺がんの図。Moderately, 中分化腺がんの図。Poorly > moderately, 低分化 > 中分化腺がんの図。Poorly, 低分化腺がんの図。
図3】ヒト膵がん組織接種PDXマウスの腫瘍組織におけるフコキサンチン投与によるトランスクリプトーム変質を示した図。Group 1(フコキサンチン投与群(n=4))、Group 2(コントロール群(n=4))。AはPCA plot、BはHierarchical clustering、CはVolcano plot、Dは、Group 2に対して、Group 1で有意に増減した遺伝子数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明のhHCT抑制剤は、hHCTの抑制にフコキサンチンを用いることを特徴とする。
本発明は、フコキサンチンを有効成分とすることを特徴とする。
フコキサンチン(Fucoxanthin)は、その化学式が下記の通り知られた既知の物質であり、純度の高いものは橙色の柱状結晶構造を有する。
【化1】
上記フコキサンチンを得る方法は特に限定されないが、天然物から抽出することが好ましい。より安定なフコキサンチンを得ることができるからである。
また、天然物からフコキサンチンを得る場合、その原料は特に限定されないが、例えば、褐藻類、微細藻類等が挙げられる。尚、これらは、何れか一方のみを用いても良いし、両方を併用しても良い。
【0015】
上記「海藻類」は特に限定されないが、例えば、コンブ、ワカメ、アラメ、ホンダワラ、アカモク、ヒジキ等を用いることが好ましい。これらはフコキサンチンを比較的多量に含有するものであり、かつ資源としても潤沢に存在し、工業的に原料として資するものであるからである。尚、これらは1種のみ用いても良いし、2種以上併用しても良い。
上記「褐藻類」としては、例えば、コンブ科(Laminariaceae)、ツルモ科(Chordaceae)等のコンブ目(Laminariales)、ヒバマタ科(Fucaceae)、ホンダワラ科(Sargassaceae)等のヒバマタ目(Fucales)、ナガマツモ科(Chordaceae)、モズク科(Spermatochnaceae)等のナガマツモ目(Chordariales)に属する褐藻類等がより好ましいがこれらに限定されない。尚、これらは1種のみ用いても良いし、2種以上併用しても良い。
また、微細藻類は例えば、Phaeodactylum tricornutumを用いることができる。
尚、上記褐藻類、微細藻類は、これらのうちのすべての抽出物を用いても良いし、少なくともいずれかの抽出物を用いても良い。
【0016】
上記褐藻類、微細藻類からフコキサンチンを得る抽出方法は特に限定されないが、たとえば、極性溶媒抽出、超臨界抽出等が挙げられる。尚、これらのうちの何れか一方のみを行っても良いし、これらの両方を行っても良い。また、この抽出は、それぞれの方法を1回だけ行っても良いし、2回以上行っても良い。
【0017】
ここで、極性溶媒抽出にて抽出する場合、用いる極性溶媒は特に限定されないが、たとえば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、酢酸、酢酸エチル、エーテル、ヘキサン等が挙げられる。これらのうち、水、メタノール、エタノールが好ましい。有効成分を効率よく抽出できるからである。尚、これらは1種のみ用いても良いし、2種以上併用しても良い。
【0018】
抽出溶媒として水を使用する場合には、抽出温度20~100℃、好ましくは40~70℃程度で行うとよい。これは、抽出温度が低すぎると、有効成分が抽出されにくいためである。抽出用の水の種類は、特に限定されず、水道水、蒸留水、ミネラル水、アルカリイオン水等を使用することができる。
【0019】
抽出溶媒としてエタノール又は含水エタノールを使用する場合、エタノール濃度30wt%以上、好ましくは50wt%以上(100wt%も含む)であることが好ましい。30wt%未満の場合、有効成分の抽出量が低下しやすくなるからである。また、抽出温度は、0~95℃、好ましくは20~80℃程度で行うとよい。なお、含水エタノール抽出は、有効成分の含有率を向上させるため、種々の濃度で繰り返すとよい。
【0020】
また、極性溶媒にて抽出する場合、その抽出方法は特に限定されず、例えば、連続抽出、浸漬抽出、向流抽出等任意の方法を採用することができ、室温ないし還流加熱下において任意の装置を使用することができる。尚、上述した方法にて抽出を行う場合、これらのうちの1つのみを行っても良いし、これらの方法を組み合わせても良い。また、これらの抽出は、1回のみ行っても良いし、2回以上行っても良い。
【0021】
具体的な方法としては、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料を投入し、攪拌しながら有効成分を溶出させる。例えば、抽出溶媒として水、含水エタノール又はエタノールを用いる場合には、抽出原料の5~100倍量程度(重量比)の極性溶媒を使用し、1分~150時間程度抽出を行う。溶媒中に有効成分を溶出させた後、ろ過して抽出残渣を除くことによって、抽出液を得る。その後、常法に従って抽出液に希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施し、高濃度のフコキサンチンを含有する抽出物を得る。
なお、精製方法としては、例えば、活性炭処理、樹脂吸着処理、イオン交換樹脂、液-液向流分配等の方法が挙げられる。
【0022】
更に、超臨界抽出により抽出を行う場合、このときに用いる超臨界流体は特に限定されないが、たとえば、二酸化炭素及び窒素等が挙げられる。尚、これらは1種のみを用いても良いし、2種類以上併用しても良い。また、これらのうち特に二酸化炭素が好ましい。より容易に有効成分を抽出することができるからである。また、このときの抽出方法は、公知の方法にて行えばよい。その後、常法に従って抽出液に希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施し、高濃度のフコキサンチンを含有する抽出物を得る。
【0023】
また、フコキサンチンは、市販品であってもよく、例えば、オリザ油化株式会社製の「フコキサンチン‐5KW」を用いてもよい。
【0024】
フコキサンチンを経口摂取すると、腸管の吸収過程で速やかにアセチル基が加水分解され、フコキサンチノール(FxOH)となり、血中を循環して様々な臓器に蓄積することが分かっている。FxOHの抗がん作用は認められている(非特許文献4)。すなわち、本願発明のhHCT治療は、FxOHを用いて抑制しても良い。
【0025】
フコキサンチンを、食品又は医薬品に添加してhHCTを抑制しても良い。
【0026】
本発明のhHCT抑制剤は、薬品(医薬品および医薬部外品を含む。)の素材として用いてもよい。薬品製剤用の原料に、本発明のhHCT抑制剤を適宜配合して製造することができる。本発明のhHCT抑制剤に配合しうる製剤原料としては、例えば、賦形剤(ブドウ糖、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等)、結合剤(蒸留水、生理食塩水、エタノール水、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(アルギン酸ナトリウム、カンテン、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖、アラビアゴム末、ゼラチン、エタノール等)、崩壊抑制剤(白糖、ステアリン、カカオ脂、水素添加油等)、吸収促進剤(第四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等)、吸着剤(グリセリン、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、硅酸等)、滑沢剤(精製タルク、ステアリン酸塩、ポリエチレングリコール等)などが挙げられる。
【0027】
本発明によるhHCT抑制剤の投与方法は、一般的には、錠剤、丸剤、軟・硬カプセル剤、細粒剤、散剤、顆粒剤、液剤等の形態で経口投与することができるが、非経口投与であってもよい。非経口剤として投与する場合は、溶液の状態、または分散剤、懸濁剤、安定剤などを添加した状態で、ハップ剤、ローション剤、軟膏剤、チンキ剤、クリーム剤などの剤形で適用することができる。
【0028】
投与量は、投与方法、病状、患者の年齢等によって変化し得るが、大人では、通常、1日当たり有効成分として1~5000mg、子供では通常0.5~2500mg程度投与することができる。
hHCT抑制剤の配合比は、剤型によって適宜変更することが可能であるが、通常、経口または粘膜吸収により投与される場合は約0.3~15.0wt%、非経口投与による場合は、0.01~10wt%程度にするとよい。なお、投与量は種々の条件で異なるので、前記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要のある場合もある。
【0029】
本発明のhHCT抑制剤は、各種飲食品の素材として使用することができる。飲食品としては、例えば、食用油(サラダ油、菓子類(ガム、キャンディー、キャラメル、チョコレート、クッキー、スナック、ゼリー、グミ、錠菓等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、乳製品(ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト等)、調味料(味噌、醤油等)、スープ類、飲料(ジュース、コーヒー、紅茶、茶、炭酸飲料、スポーツ飲料等)をはじめとする一般食品や、健康食品(錠剤、カプセル等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)が挙げられる。これらの飲食品に本発明のhHCT抑制剤を適宜配合するとよい。
【0030】
これら飲食品には、その種類に応じて種々の成分を配合することができ、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L-アスコルビン酸、dl-α-トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等の食品素材を使用することができる。さらに、健康維持機能をもった本hHCT抑制剤には、他の抗酸化物質や健康食品素材など、例えば、還元型アスコルビン酸(ビタミンC)、ビタミンE、還元型グルタチン、トコトリエノール、ビタミンA誘導体、リコピン、β-クリプトキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、フコキサンチン、尿酸、ユビキノン、コエンザイムQ10、葉酸、ニンニクエキス、アリシン、セサミン、リグナン類、カテキン、イソフラボン、カルコン、タンニン類、フラボノイド類、クマリン、イソクマリン類、ブルーベリーエキス、健康食品素材)V.(ビタミン)A、V.B1、V.B2、V.B6、V.B12、V.C、V.D、V.E、V.P、コリン、ナイアシン、パントテン酸、葉酸カルシウム、EPA、オリゴ糖、食物繊維、スクアレン、大豆レシチン、タウリン、ドナリエラ、プロテイン、オクタコサノール、DHA、卵黄レシチン、リノール酸、ラクトフェリン、マグネシウム、亜鉛、クロム、セレン、カリウム、ヘム鉄、カキ肉エキス、キトサン、キチンオリゴ糖、コラーゲン、コンドロイチン、エラスチン、ウコン、カンゾウ、クコシ、ケイヒ、サンザシ、生姜、霊芝、シジミエキス、スッポン、カンゾウ、クコシ、ケイヒ、セイヨウ、サンザシ、生姜、霊芝、オオバコ、カミツレ、カモミール、セイヨウタンポポ、ハイビスカス、ハチミツ、ボーレン、ローヤルゼリー、ライム、ラベンダー、ローズヒップ、ローズマリー、セージ、ビフィズス菌、フェーカリス菌、ラクリス、小麦胚芽油、ゴマ油、シソ油、大豆油、中鎖脂肪酸、アガリクス、イチョウ葉エキス、コンドロイチン、玄米胚芽エキス、レイシ、タマネギ、DHA、EPA、DPA、甜茶、冬虫夏草、ニンニク、蜂の子、パパイヤ、プーアル、プロポリス、メグスリの木、ヤブシタケ、ロイヤルゼリー、ノコギリヤシ、ヒアルロン酸、ギャバ、ハープシールオイル、サメ軟骨、グルコサミン、レシチン、ホスファチジルセリン、田七ニンジン、桑葉、大豆抽出物、エキナセア、エゾウコギ、大麦抽出物、オリーブ葉、オリーブ実、ギムネマ、バナバ、サラシア、ガルシニア、キトサン、セントジョーンズワート、ナツメ、ニンジン、パッションフラワー、ブロッコリー、プラセンタ、ハトムギ、ブドウ種子、ピーナッツ種皮、ビルベリー、ブラックコホシュ、マリアアザミ、月桂樹、セージ、ローズマリー、ラフマ、黒酢、ゴーヤー、マカ、紅花、亜麻、ウーロン茶、花棘、カフェイン、カプサイシン、キシロオリゴ糖、グルコサミン、ソバ、シトラス、食物繊維、プロテイン、プルーン、スピルリナ、大麦若葉、核酸、酵母、椎茸、梅肉、アミノ酸、深海鮫抽出物、ノニ、カキ肉、スッポン、シャンピニオン、オオバコ、アセロラ、パイナップル、バナナ、モモ、アンズ、メロン、イチゴ、ラズベリー、オレンジ、フコイダン、メシマコブ、クランベリー、亜鉛、鉄、シルクペプチド、グリシン、ナイアシン、チェストツリー、セラミド、L-システイン、赤ワイン果汁、ミレット、ホーステール、ビオチン、センテラアジアティカ、ハスカップ、ピクノジェノール、フキ、ルバーブ、クローブ、プーアル、クエン酸、ビール酵母、メリロート、ブラックジンガー、ショウガ、ガジュツ、ナットウキナーゼ、ベニコウジ、トコトリエノール、ラクトフェリン、韃靼ソバ、ココア、ドクダミ、キウイ、ヒハツ、ハスの葉、パフィア、スターフルーツなども配合することができる。
【0031】
具体的な製法としては、フコキサンチンを粉末セルロースとともにスプレードライまたは凍結乾燥し、これを粉末、顆粒、打錠または溶液にすることで容易に飲食品(インスタント食品等)に含有させることができる。
また、フコキサンチンを、例えば、油脂、エタノール、グリセリンあるいはこれらの混合物に溶解して液状にし、飲料に添加するか、固形食品に添加することが可能である。必要に応じてアラビアガム、デキストリン等のバインダーと混合して粉末状あるいは顆粒状にし、飲料に添加するか固形食品に添加することも可能である。
【0032】
本発明のhHCT抑制剤を飲食品に適用する場合の添加量としては、病気予防や健康維持が主な目的であるので、飲食品に対して有効成分の含量が合計1~20wt%以下であるのが好ましい。
【実施例0033】
以下、実施例を挙げ、本発明の詳細を記載するが、本発明はそれら実施例に何ら制限されるものではない。
【0034】
<hHCT増大抑制試験例>
膵がん患者のがん組織(hHCT)の病理学的特徴を表1に示した。本組織は、転移や再発の無いT4N1M1及びstage IVに分類される原発の膵臓腺がんであった。本組織を5週齢、メスの免疫不全CB17.Cg-PrkdscidLystbg-j/CrlCrlj (SCID-Beige)の皮下に生体移植針を用いて接種し、長期飼育した(PDXマウス)。その後、PDXマウスの背部で増大したhHCTを細かく裁断し、新規のSCID-Beigeマウスの皮下に接種することにより、試験用のPDXマウスを作製した(計18匹)。フコキサンチンオイル懸濁液を通常餌料に0.3%の濃度で混合し、これをフコキサンチン餌料とした。コントロール餌料は、フコキサンチンの懸濁に用いたオイルと等量のオイルを通常餌料に混合して準備した。hHCTを接種した日を0日目とし、フコキサンチン餌料とコントロール餌料を自由摂取で27日間与えた(フコキサンチン投与群, group 1, n=9; コントロール群, group 2, n=9)。飼育期間中、体重と推定腫瘍体積(長径 x 短径2/2)を経時的に測定した。イソフルラン麻酔による屠殺後、腫瘍の一部は病理解析用に用いた。また、別の腫瘍の一部は遺伝子発現解析に用いた。腫瘍からtotal RNAを抽出し、cDNAへ変換した。cDNAをフラグメントとラベル化をした後、ヒト用Genechipへハイブリダイズした。その後、Genechipを専用スキャナーを用いてスキャンし、TACソフトウェアを用いてGroup 1と2間における有意に変動した遺伝子発現を解析した。
ここで、フコキサンチンオイルとしてオリザ油化株式会社製Fucoxanthin-5KWを用いた。
【0035】
【表1】
【0036】
<実験結果>
飼育期間中及び屠殺後の解剖では、マウスに副作用の徴候は観察されなかった。Group 1と2の間には、体重推移に有意差は認められなかったが、Group 1の推定腫瘍堆積は、Group 2と比べ、徐々に増大抑制傾向が認められ、屠殺直前において、有意な腫瘍増大抑制効果が認められた(図1A及び図1B)。PDXマウスより採取した腫瘍組織を病理解析した結果、Group 1の腫瘍組織は、Group 2と比べ、有意な分化誘導効果が認められた(図2及び表2)。また、腫瘍組織のトランスクリプトームを解析したところ、55遺伝子の有意な増減が認められた(図3A-D)。各遺伝子について調べた結果、Group 1の腫瘍は、Group 2と比べ、増殖や炎症に関連するDES、ANKRD23、DCHS2、TTN、SMOC1、TESC、MRAS、RASSF9の発現減少が認められた(表3及び表4)。
これらの結果から、フコキサンチンの投与は、分化誘導効果や幾つかの分子の抑制制御を介して、hHCTに治療効果をもたらすことが確認された。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0040】
実施例で示すように、フコキサンチンは、明瞭なhHCT治療効果(腫瘍増大抑制効果・分化誘導効果・トランスクリプトーム変質効果)を示し、かつ、副作用は観察されなかった。
【0041】
従って、本発明の細胞多様性と複雑な組織構造を保持したがん組織に対する治療剤は、実用性のある食品由来成分によるhHCT治療剤として用いることができることが確認された。


図1
図2
図3