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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068434
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】情報処理装置及び情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20240513BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178879
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 文
(72)【発明者】
【氏名】伊勢田 元
(72)【発明者】
【氏名】中川 浩明
(72)【発明者】
【氏名】宮田 弘樹
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC11
5L050CC11
(57)【要約】
【課題】より精度よく、対象生物の生息域を推定することができる情報処理装置及び情報処理プログラムを得る。
【解決手段】情報処理装置10は、各々対象区域における、対象生物の発生に寄与する環境情報、及び対象生物の移動に寄与する移動情報を取得する取得部11Aと、環境情報を用いて、対象区域内の予め定められた地点における対象生物の発生量及び発生確率の少なくとも一方を含む発生情報を導出する導出部11Bと、移動情報を用いて、発生情報が示す発生量及び発生確率の少なくとも一方で発生した対象生物の上記予め定められた地点を起点とした生息域を推定する推定部11Cと、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々対象区域における、対象生物の発生に寄与する環境情報、及び前記対象生物の移動に寄与する移動情報を取得する取得部と、
前記環境情報を用いて、前記対象区域内の予め定められた地点における前記対象生物の発生量及び発生確率の少なくとも一方を含む発生情報を導出する導出部と、
前記移動情報を用いて、前記発生情報が示す発生量及び発生確率の少なくとも一方で発生した前記対象生物の前記予め定められた地点を起点とした生息域を推定する推定部と、
を備えた情報処理装置。
【請求項2】
前記推定部によって推定された前記生息域を示す生息域情報を、対応する地図に重畳させた状態で提示する提示部、
を更に備えた請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記環境情報は、土地の利用分類を示す土地利用情報、及び気象観測によって得られた気象観測情報の少なくとも一方を含み、
前記移動情報は、前記対象区域における風速及び風向の少なくとも一方を含む風況情報、前記対象区域に存在する人工光源による発光位置及び発光量の少なくとも一方を示す人工光源情報、及び前記対象区域に存在する建物の外形形状を示す建物情報の少なくとも1つを含む、
請求項1又は請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
各々対象区域における、対象生物の発生に寄与する環境情報、及び前記対象生物の移動に寄与する移動情報を取得し、
前記環境情報を用いて、前記対象区域内の予め定められた地点における前記対象生物の発生量及び発生確率の少なくとも一方を含む発生情報を導出し、
前記移動情報を用いて、前記発生情報が示す発生量及び発生確率の少なくとも一方で発生した前記対象生物の前記予め定められた地点を起点とした生息域を推定する、
処理をコンピュータに実行させるための情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物によるリスクを評価するために適用することのできる技術として、以下の技術があった。
【0003】
特許文献1には、有害生物対策案を講じるべき敷地内の環境要因に対応して、適正な品質レベル及びコストをもって、必要かつ十分な有害生物対策案の決定を行うことを可能とすることを目的とした敷地環境衛生提示方法が開示されている。
【0004】
この敷地環境衛生提示方法は、複数の環境要因毎に、発生又は生息する可能性があると予測される有害生物を、予めコンピュータに入力して記憶させる有害生物予測記憶工程と、上記環境要因毎に設定された、有害生物が発生又は生息する可能性を示す発生・生息リスクポイントと、有害生物が敷地内の建物に侵入する可能性を示す侵入リスクポイントとを、予めコンピュータに入力して記憶させるリスクポイント記憶工程と、将来踏査される敷地に於ける環境要因の上記発生・生息リスクポイントと上記侵入リスクポイントの合計値に対応するリスク評価を、予めコンピュータに入力して記憶させるリスク評価記憶工程と、上記環境要因毎に立案した有害生物対策案を、予めコンピュータに入力して記憶させる対策案記憶工程と、を備えている。
【0005】
また、この敷地環境衛生提示方法は、敷地を踏査して存在が確認された環境要因を、該敷地を平面的に見て複数に区分けした踏査単位区域毎に、コンピュータに入力する環境要因入力工程と、該敷地に存在する環境要因の上記発生・生息リスクポイントと上記侵入リスクポイントの合計値に対応するリスク評価を、上記リスク評価記憶工程にて記憶したデータから抽出して決定するリスク評価決定工程と、上記敷地に存在する環境要因によって、該敷地内に発生又は生息する可能性のある有害生物を、上記有害生物予測記憶工程にて記憶したデータから抽出して特定する有害生物特定工程と、上記敷地の各環境要因に講じる有害生物対策案を、上記対策案記憶工程にて記憶したデータから抽出して決定する対策案決定工程と、を備えている。
【0006】
また、特許文献2には、病害虫が発生しやすい箇所を好適に推定することを可能とすることを目的とした病害虫発生推定装置が開示されている。
【0007】
この病害虫発生推定装置は、環境因子に関する病害虫の発生条件を参照する参照手段と、農作物を栽培する所定空間内の各箇所での少なくとも1種類以上の環境因子に基づき、当該環境因子に関する前記病害虫の発生条件を前記参照手段により参照することで、前記所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を推定する病害虫発生箇所推定手段と、を備えている。
【0008】
また、特許文献3には、対象とする施設の具体例に即して実効性のある防除対策を講じることができるようにすることを目的とした有害生物防除情報処理システムが開示されている。
【0009】
この有害生物防除情報処理システムは、有害生物の名称や特徴の情報をデータベースとして記憶する第1の記憶手段と、調査対象の施設における前記有害生物の防除診断情報を作成する第1の処理手段と、前記第1の処理手段の処理結果に基づき前記有害生物の防除対策情報を作成する第2の処理手段と、前記有害生物の防除診断情報および前記有害生物の防除対策情報を出力する出力手段と、を備えている。
【0010】
そして、この有害生物防除情報処理システムは、前記第1の処理手段が、前記第1の記憶手段に記憶されている前記データベースの情報に、前記調査対象の施設における取り扱い物品および敷地や建屋の内外の諸環境の情報に基づいて作成された前記有害生物の発生・侵入のリスク指数を加味して、前記有害生物の防除診断情報を作成することを特徴とする。
【0011】
更に、特許文献4には、農作物に対する病害虫の発生を的確に予察し、その結果を関係者が効果的に利活用できるようにすることを目的とした病害虫発生予察システムが開示されている。
【0012】
この病害虫発生予察システムは、少なくとも1つの地点の現在の気象情報と、少なくとも1つの病害虫の気象的な発生環境とを格納した記憶装置と、前記記憶装置内の各地点の前記現在の気象情報と各病害虫の発生環境とに基づいて各地点に関連する地域における病害虫の発生可能性を予察し出力する予察手段を有する処理装置と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2018-068119号公報
【特許文献2】特開2015-119646号公報
【特許文献3】特開2008-299380号公報
【特許文献4】特開平11-287871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、対象生物の生息域の拡大状況を把握するためには、当該対象生物の発生状況のみならず、風向や風速、土地利用分類の組成、その組成からの距離、光、匂い、音、温度、CO濃度、障害物、及びそれらの複合要因等といった対象生物の移動に寄与する情報である移動情報を考慮する必要がある。
【0015】
しかしながら、特許文献1~特許文献4の各文献に開示されている技術では、移動情報については考慮されていない。このため、上記各文献に開示されている技術では、必ずしも、対象生物の生息域を精度よく推定することができるとは限らない、という問題点があった。
【0016】
本開示は、以上の事情を鑑みて成されたものであり、より精度よく、対象生物の生息域を推定することができる情報処理装置及び情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載の本発明に係る情報処理装置は、各々対象区域における、対象生物の発生に寄与する環境情報、及び前記対象生物の移動に寄与する移動情報を取得する取得部と、前記環境情報を用いて、前記対象区域内の予め定められた地点における前記対象生物の発生量及び発生確率の少なくとも一方を含む発生情報を導出する導出部と、前記移動情報を用いて、前記発生情報が示す発生量及び発生確率の少なくとも一方で発生した前記対象生物の前記予め定められた地点を起点とした生息域を推定する推定部と、を備える。
【0018】
請求項1に記載の本発明に係る情報処理装置によれば、各々対象区域における、対象生物の発生に寄与する環境情報、及び対象生物の移動に寄与する移動情報を取得し、環境情報を用いて、対象区域内の予め定められた地点における対象生物の発生量及び発生確率の少なくとも一方を含む発生情報を導出し、移動情報を用いて、発生情報が示す発生量及び発生確率の少なくとも一方で発生した対象生物の上記予め定められた地点を起点とした生息域を推定することで、より精度よく、対象生物の生息域を推定することができる。
【0019】
請求項2に記載の本発明に係る情報処理装置は、請求項1に記載の情報処理装置であって、前記推定部によって推定された前記生息域を示す生息域情報を、対応する地図に重畳させた状態で提示する提示部、を更に備える。
【0020】
請求項2に記載の本発明に係る情報処理装置によれば、推定した生息域を示す生息域情報を、対応する地図に重畳させた状態で提示することで、推定した生息域をユーザに対して直感的に把握させることができる。
【0021】
請求項3に記載の本発明に係る情報処理装置は、請求項1又は請求項2に記載の情報処理装置であって、前記環境情報が、土地の利用分類を示す土地利用情報、及び気象観測によって得られた気象観測情報の少なくとも一方を含み、前記移動情報が、前記対象区域における風速及び風向の少なくとも一方を含む風況情報、前記対象区域に存在する人工光源による発光位置及び発光量の少なくとも一方を示す人工光源情報、及び前記対象区域に存在する建物の外形形状を示す建物情報の少なくとも1つを含むものである。
【0022】
請求項3に記載の本発明に係る情報処理装置によれば、環境情報が、土地の利用分類を示す土地利用情報、及び気象観測によって得られた気象観測情報の少なくとも一方を含み、移動情報が、対象区域における風速及び風向の少なくとも一方を含む風況情報、対象区域に存在する人工光源による発光位置及び発光量の少なくとも一方を示す人工光源情報、及び対象区域に存在する建物の外形形状を示す建物情報の少なくとも1つを含むものとすることで、適用した情報に応じて、より精度よく、対象生物の生息域を推定することができる。
【0023】
請求項4に記載の本発明に係る情報処理プログラムは、各々対象区域における、対象生物の発生に寄与する環境情報、及び前記対象生物の移動に寄与する移動情報を取得し、前記環境情報を用いて、前記対象区域内の予め定められた地点における前記対象生物の発生量及び発生確率の少なくとも一方を含む発生情報を導出し、前記移動情報を用いて、前記発生情報が示す発生量及び発生確率の少なくとも一方で発生した前記対象生物の前記予め定められた地点を起点とした生息域を推定する、処理をコンピュータに実行させる。
【0024】
請求項4に記載の本発明に係る情報処理プログラムによれば、各々対象区域における、対象生物の発生に寄与する環境情報、及び対象生物の移動に寄与する移動情報を取得し、環境情報を用いて、対象区域内の予め定められた地点における対象生物の発生量及び発生確率の少なくとも一方を含む発生情報を導出し、移動情報を用いて、発生情報が示す発生量及び発生確率の少なくとも一方で発生した対象生物の上記予め定められた地点を起点とした生息域を推定することで、より精度よく、対象生物の生息域を推定することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、より精度よく、対象生物の生息域を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態に係る情報処理システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る情報処理装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図4】実施形態に係る実験用ライトトラップの一例を示す斜視図である。
図5】実施形態に係る環境情報の説明に供する図であり、実験対象区域の土地利用分類の組成に水田を含む場合における、対象となる生物分類群の捕獲数と、その生物の移動特性を考慮した任意の距離内にある水田の面積との関係の一例を示すグラフである。
図6】実施形態に係る環境情報の説明に供する図であり、実験対象区域の土地利用分類の組成に森林を含む場合における、対象となる生物分類群の捕獲数と、その生物の移動特性を考慮した任意の距離内にある森林の面積との関係の一例を示すグラフである。
図7】実施形態に係る環境情報の説明に供する図であり、実験対象区域の土地利用分類の組成に緑地、水田、および宅地を含む場合における、対象となる生物分類群の捕獲数と、その生物の移動特性を考慮した任意の距離内にある緑地面積、水田の面積、及び宅地面積との関係の一例を示すグラフである。
図8】実施形態に係る環境情報と移動情報の説明に供する図であり、ユスリカ科の発生源となる土地利用分類を含む区域内における、対象となる区域の各方向別のユスリカ科の捕獲数の差異の一例を示すグラフ、及び対象とする区域における計測状況を示す平面図である。
図9】実施形態に係る環境情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図10】実施形態に係る移動情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図11】実施形態に係るグリッド線の一例を示す平面図である。
図12】実施形態に係る建物情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図13】実施形態に係る生物情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図14】実施形態に係る回帰式データベースの構成の一例を示す模式図である。
図15】実施形態に係る情報処理の一例を示すフローチャートである。
図16】実施形態に係る初期情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
図17】実施形態に係るリスク提示画面の構成の一例を示す正面図である。
図18】実施形態に係る対策提示画面の構成の一例を示す正面図である。
図19】他の実施形態に係る生物情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図20】他の実施形態に係る対策提示画面の構成の一例を示す正面図である。
図21】他の実施形態に係る初期情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
図22】他の実施形態に係るリスク提示画面の構成の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。なお、ここでは、本開示の技術における対象生物として、ユスリカ科、タマバエ科等の害虫を適用した場合について説明する。但し、本開示の技術における対象生物の適用対象は害虫に限るものではなく、害虫を除く昆虫等の虫や鳥類等といった、発生の後に移動する生物全般が本開示の技術における対象生物の適用対象となり得る。
【0028】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る情報処理システム1の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る情報処理システム1の構成の一例を示すブロック図である。
【0029】
図1に示すように、本実施形態に係る情報処理システム1は、本システムの中心的な役割を担う情報処理装置10と、情報蓄積装置90と、を含む。本実施形態に係る情報処理装置10は、対象生物の移動による生息域を推定するものである。また、本実施形態に係る情報蓄積装置90は、情報処理システム1で取り扱う各種情報を蓄積するものである。
【0030】
本実施形態に係る情報蓄積装置90は不揮発性の記憶部92を備えている。記憶部92はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部92には、環境情報データベース92A、移動情報データベース92B、建物情報データベース92C、生物情報データベース92D、及び回帰式データベース92Eが記憶されている。これらの各データベースについては、詳細を後述する。
【0031】
情報処理装置10と、情報蓄積装置90とは、ネットワークNを介して接続されており、情報処理装置10は、情報蓄積装置90とネットワークNを介して相互に通信可能とされている。なお、本実施形態では、ネットワークNとしてLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等の企業内の通信回線を適用しているが、この形態に限定されるものではない。ネットワークNとして、例えば、インターネット、電話回線等の公共の通信回線を適用してもよく、これらの企業内の通信回線及び公共の通信回線を組み合わせて適用してもよい。また、本実施形態では、ネットワークNとして有線の通信回線を適用しているが、この形態に限定されるものではなく、無線の通信回線を適用してもよく、有線及び無線の各通信回線を組み合わせて適用してもよい。なお、情報処理装置10及び情報蓄積装置90の例としては、パーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の各種コンピュータが挙げられる。
【0032】
次に、図2を参照して、本実施形態に係る情報処理装置10のハードウェア構成を説明する。図2は、本実施形態に係る情報処理装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0033】
本実施形態に係る情報処理装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16及び通信インタフェース(I/F)部18を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16及び通信I/F部18はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0034】
記憶部13はHDD、SSD、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、情報処理プログラム13Aが記憶されている。情報処理プログラム13Aは、当該プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの当該プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶(インストール)される。CPU11は、情報処理プログラム13Aを記憶部13から適宜読み出してメモリ12に展開し、情報処理プログラム13Aが有するプロセスを順次実行する。
【0035】
次に、図3を参照して、本実施形態に係る情報処理装置10の機能的な構成について説明する。図3は、本実施形態に係る情報処理装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0036】
図3に示すように、本実施形態に係る情報処理装置10は、取得部11A、導出部11B、推定部11C、及び提示部11Dを含む。情報処理装置10のCPU11が情報処理プログラム13Aを実行することで、取得部11A、導出部11B、推定部11C、及び提示部11Dとして機能する。
【0037】
本実施形態に係る取得部11Aは、各々対象区域における、対象生物の発生に寄与する環境情報、及び対象生物の移動に寄与する移動情報を取得する。
【0038】
本実施形態では、環境情報として、土地の利用分類を示す土地利用情報、及び気象観測によって得られた気象観測情報の双方を適用しているが、これに限るものではない。例えば、土地利用情報及び気象観測情報の何れか一方のみを、環境情報として適用する形態としてもよい。また、本実施形態では、移動情報として、対象区域における風速及び風向の双方を含む風況情報、対象区域に存在する人工光源による発光位置及び発光量の双方を含む人工光源情報、対象区域に存在する建物の外形形状を示す建物情報の3種類の情報を適用している。しかしながら、移動情報は当該3種類の情報の全てを含むものに限るものではなく、例えば、上記3種類の情報のうちの何れか1種類、又は2種類の組み合わせを、移動情報として適用する形態としてもよい。
【0039】
また、移動情報として、上記3種類の情報に加えて、対象生物の移動距離に関する距離情報、対象生物を誘引する匂いに関する匂い情報、及び対象生物の移動の障害となる障害物情報の少なくとも1種類を適用する形態としてもよい。また、移動情報に、土地利用分類の組成、その組成からの距離、音、温度、CO濃度、及びそれらの複合要因を含める形態としてもよい。
【0040】
なお、上記匂い、音、及びCO濃度は、リモートセンシングではなく、現地で測定することが多い。基本的には、コンター図のように「勾配」で表現することができる情報は空間特性を持っているので、これを利用することができる。また、匂いに誘引されるのはハエ類であり、蚊は温度やCO濃度に誘引される。更に、蛾は、所定波長の音を忌避して、逆に離れていく性質を有している。
【0041】
一方、本実施形態に係る導出部11Bは、環境情報を用いて、対象区域内の予め定められた地点における対象生物の発生量を示す発生情報を導出する。
【0042】
このように、本実施形態では、発生情報として対象生物の発生量を示す情報を適用しているが、これに限るものではない。例えば、対象生物の発生確率を示す情報を発生情報として適用する形態としてもよいし、これらの発生量及び発生確率の双方を発生情報として適用する形態としてもよい。
【0043】
また、本実施形態に係る推定部11Cは、移動情報を用いて、発生情報が示す発生量で発生した対象生物の上記予め定められた地点を起点とした生息域を推定する。そして、本実施形態に係る提示部11Dは、推定部11Cによって推定された生息域を示す生息域情報を、対応する地図に重畳させた状態で提示する。
【0044】
なお、本実施形態では、提示部11Dによる提示として、表示部15による表示による提示を適用しているが、これに限るものではない。例えば、スピーカ等の音声生成装置による音声による提示や、プリンタ等の画像形成装置による印刷による提示を、提示部11Dによる提示として適用する形態としてもよい。
【0045】
次に、図4図8を参照して、本実施形態に係る情報処理装置10による対象生物の生息域の推定の原理について説明する。
【0046】
本開示の技術の発明者らは、ユスリカ科、タマバエ科等の各種の害虫を対象として、予め定められた区域(以下、「実験対象区域」という。)内の各位置において人工光源を用いて害虫の捕獲数を計測する実験を行った。なお、図4には、この際に用いた、人工光源30A及びハエ取り紙30Bを有する実験用ライトトラップ30の一例が示されている。
【0047】
図5には、この実験によって得られた、実験対象区域の土地利用分類の組成に水田を含む場合における、対象となる生物分類群の捕獲数と、その生物の移動特性を考慮した任意の距離内にある水田の面積との関係の一例を示すグラフが示されている。また、図6には、この実験によって得られた、実験対象区域の土地利用分類の組成に森林を含む場合における、対象となる生物分類群の捕獲数と、その生物の移動特性を考慮した任意の距離内にある森林の面積との関係の一例を示すグラフが示されている。更に、図7には、この実験によって得られた、実験対象区域の土地利用分類の組成に緑地、水田、および宅地を含む場合における、対象となる生物分類群の捕獲数と、その生物の移動特性を考慮した任意の距離内にある緑地面積、水田の面積、及び宅地面積の各々との関係の一例を示すグラフが示されている。
【0048】
図5図6に示すように、ユスリカ科については水田の面積と捕獲数との相関が高い一方、タマバエ科については森林の面積と捕獲数との相関が高く、対応する土地利用分類の面積が広くなるほど捕獲数が多くなる傾向が見られた。
【0049】
これに対し、図7に示すように、クロバネキノコバエ科については、各土地利用分類の各々の面積と捕獲数との間の相関は余り高くないものの、土地利用分類の各々毎に異なる傾向が見られ、各々の要素を合成した主成分として扱うことで、高い相関を示すことが示唆されている。
【0050】
以上のことから、土地利用分類の種類と、害虫の発生量との間には有意な関係があることが判明した。このため、本実施形態では、土地の利用分類を示す土地利用情報を環境情報として適用している。また、害虫の発生数と、気温、湿度等といった気象観測情報との間に相関があることは、広く知られていることであるため、本実施形態では、気象観測情報も環境情報として適用している。
【0051】
一方、図8には、ユスリカ科の発生源となる土地利用分類を含む区域内における、対象とする区域の各方向別のユスリカ科の捕獲数の差異の一例を示すグラフ、及び対象とする区域における計測状況を示す平面図が示されている。
【0052】
図8に示すように、ユスリカ科の捕獲数は、調査地点を中心とした各位置において、北側と南側とで捕獲数に大きな違いが見られ、また、別の調査場所における西側と東側とでも捕獲数に大きな違いが見られた。また、この区域における公園を中心とした各方向では、風向、風速等の風況状況、人工光源の配置位置や明るさの状況、及び障害物となる地物の配置状況が大きく異なっていた。
【0053】
そこで、本実施形態では、上述した風況情報、人工光源情報、及び建物情報を移動情報として適用している。
【0054】
次に、図9を参照して、本実施形態に係る環境情報データベース92Aについて説明する。図9は、本実施形態に係る環境情報データベース92Aの構成の一例を示す模式図である。本実施形態に係る環境情報データベース92Aは、対象区域に存在する、対象生物の発生源における上述した環境情報を記憶するためのものである。
【0055】
図9に示すように、本実施形態に係る環境情報データベース92Aは、対象区域ID(Identification)、分類種、及び環境情報の各情報が関連付けられて記憶される。
【0056】
上記対象区域IDは、本実施形態に係る情報処理システム1が対象としている対象区域を個別に識別するために、対象区域の各々毎に異なるものとして予め付与された情報である。また、上記分類種は、本実施形態に係る情報処理システム1が対応している害虫の分類種を示す情報である。
【0057】
また、上記環境情報は、対応する対象区域に存在する、対応する分類種の害虫の発生源における環境情報そのものを示す情報であり、当該環境情報に土地利用情報及び気象観測情報が含まれる点は上述した通りである。なお、本実施形態では、土地利用情報における土地利用分類を示す情報として、「水田」、「森林」等といった土地利用分類そのものを示す文字情報は適用しない。本実施形態では、例えば、「水田」であれば「1」を適用し、「森林」であれば「2」を適用するといったように、土地利用分類の各々を数値で表すものとしている。これは、後述する回帰式に対して、説明変数として土地利用分類を示す情報を入力可能とするためである。
【0058】
ここで、本実施形態では、図9に示すように、土地利用情報における、対応する土地利用分類が示す水田、森林といった対象を表す情報として、他の土地利用分類との境界線の長さを示す境界長、及び当該対象の中心位置を示す位置情報を適用している。なお、本実施形態では、当該位置情報として、図11を参照して後述する2次元座標系の位置を示す情報を適用しているが、これに限るものでないことは言うまでもない。
【0059】
ところで、本実施形態に係る情報処理システム1では、情報処理システム1が対応している害虫の分類種毎に生息域を推定するものとされている。そして、本実施形態に係る情報処理システム1では、対応する分類種の害虫による被害が最も多くなる時期(本実施形態では、月単位の時期であり、以下「対象時期」という。)及び時間帯(本実施形態では、1時間単位の時間帯であり、以下「対象時間帯」という。)を対象として、生息域を推定するものとされている。例えば、ユスリカ科の場合、その被害が6月の16時~18時の時間帯に最も多くなるため、これらの月及び時間帯が上記対象時期及び対象時間帯として適用される。
【0060】
そこで、本実施形態では、上記気象観測情報として、対象時期の期間で、かつ、対象時間帯における情報を登録する。なお、本実施形態では、当該対象時期の期間で、かつ、対象時間帯における情報として、当該対象時期の期間で、かつ、対象時間帯における平均値を適用しているが、これに限るものではない。例えば、当該対象時期の期間で、かつ、対象時間帯における中央値や、最大値等を、上記対象時期の期間で、かつ、対象時間帯における情報として適用する形態としてもよい。
【0061】
次に、図10を参照して、本実施形態に係る移動情報データベース92Bについて説明する。図10は、本実施形態に係る移動情報データベース92Bの構成の一例を示す模式図である。本実施形態に係る移動情報データベース92Bは、上述した移動情報を記憶するためのものである。
【0062】
図10に示すように、本実施形態に係る移動情報データベース92Bは、対象区域ID、分類種、位置情報、及び移動情報の各情報が関連付けられて記憶される。
【0063】
上記対象区域ID及び分類種は、各々、環境情報データベース92Aにおける対象区域ID及び分類種と同一の情報である。
【0064】
ところで、本実施形態では、一例として図11に示すように、対象区域50をグリッド線50Aにより平面視矩形状の複数の領域に区分する一方、グリッド線50Aの交点の位置を、移動情報の対象とする位置として規定している。
【0065】
上記位置情報は、この対象とする位置を示す情報であり、本実施形態では、対象区域50における予め定められた位置(本実施形態では、平面視左下角点の位置)を原点とした2次元座標系の位置を示す情報を適用している。但し、この形態に限るものではなく、対象区域50を高さ方向も含む3次元方向にボクセルによって区分する一方、各ボクセル間の接点の3次元位置座標を示す情報を、上記位置情報として適用する形態としてもよい。
【0066】
一方、上記移動情報は、対応する分類種の害虫に関する、対応する位置における移動情報を示す情報であり、当該移動情報に風況情報、人工光源情報、及び建物情報が含まれる点は上述した通りである。なお、本実施形態では、風況情報における風向を示す情報も、上記土地利用分類を示す情報と同様に、「南南東」、「南東」等といった風向そのものを示す文字情報は適用しない。本実施形態では、例えば、「南南東」であれば「1」を適用し、「南東」であれば「2」を適用するといったように、風向の各々を数値で表すものとしている。これも、後述する回帰式に対して、説明変数として風向を示す情報を入力可能とするためである。
【0067】
本実施形態では、上記移動情報としても、上記気象観測情報と同様に、対象時期の期間で、かつ、対象時間帯における情報を登録する。
【0068】
なお、本実施形態では、環境情報及び移動情報の各情報として、インターネット等を介して有償や無償で利用することができる情報を直接適用しているが、これに限るものではない。例えば、インターネット等を介して取得した、衛星画像、土地利用図、標準気象データ、3次元都市モデル等を分析して、環境情報及び移動情報の少なくとも一方を導出する形態としてもよい。この際の分析には、例えば、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)のソフトウェア等を利用することができる。また、情報処理システム1の提供者等が、環境情報及び移動情報の少なくとも一方を、計測や調査によって直接取得する形態としてもよい。
【0069】
次に、図12を参照して、本実施形態に係る建物情報データベース92Cについて説明する。図12は、本実施形態に係る建物情報データベース92Cの構成の一例を示す模式図である。
【0070】
本実施形態に係る情報処理システム1では、情報処理装置10により、対象生物の生息域を推定することに加えて、当該対象生物による、対象区域に建設する予定となっている建物に対するリスクの評価及び当該評価に応じた対策を提案するものとされている。本実施形態に係る建物情報データベース92Cは、この際の建設予定とされている建物に関する情報を記憶するためのものである。
【0071】
図12に示すように、本実施形態に係る建物情報データベース92Cは、対象区域ID、及び対象建物情報の各情報が関連付けられて記憶される。
【0072】
上記対象区域IDは、環境情報データベース92Aにおける対象区域IDと同一の情報である。また、上記対象建物情報は、対応する対象区域に建設予定とされている建物の形状を示す情報である。
【0073】
本実施形態では、対象建物情報として、3次元CAD(Computer Aided Design)システムによって作成された、建設予定とされている建物の3次元CAD情報を適用しているが、これに限るものではない。例えば、BIM(Building Information Modeling)システムによって作成されたモデルを対象建物情報として適用する形態としてもよい。また、錯綜を回避するために、本実施形態では、1つの対象区域に対して1つの建物のみを建設する場合について説明するが、これに限るものではない。例えば、1つの対象区域に対して複数の建物を建設する形態としてもよい。
【0074】
次に、図13を参照して、本実施形態に係る生物情報データベース92Dについて説明する。図13は、本実施形態に係る生物情報データベース92Dの構成の一例を示す模式図である。
【0075】
本実施形態に係る情報処理システム1では、情報処理装置10により、対象生物の生息域の推定を、予め作成された回帰式を用いて行うものとされている。本実施形態に係る生物情報データベース92Dは、上記回帰式を作成するうえで必要となる情報を記憶するためのものである。
【0076】
図13に示すように、本実施形態に係る生物情報データベース92Dは、分類種、対象期間、及び捕獲数情報の各情報が関連付けられて記憶される。
【0077】
上記分類種は、環境情報データベース92Aにおける分類種と同一の情報である。また、上記対象期間は、上述した対象時期及び対象時間帯を示す情報である。
【0078】
更に、上記捕獲数情報は、対応する分類種の害虫の、対応する対象期間における捕獲数を示す情報であり、上述した環境情報が示す環境条件、及び上述した移動情報が示す移動条件の2つの条件の各々毎の対応する害虫の捕獲数を示す情報である。
【0079】
即ち、本実施形態では、上記環境条件として、土地利用情報が示す土地利用状況と、気象観測情報が示す気象状況と、を組み合わせた条件が適用されている。また、本実施形態では、上記移動条件として、風況情報が示す風況と、人工光源情報が示す人工光源の状況と、建物情報が示す障害物となる建物の状況と、を組み合わせた条件が適用されている。そして、本実施形態に係る捕獲数情報は、これらの組み合わせた条件下における、対応する害虫の捕獲数を示す情報とされている。
【0080】
ここで、本実施形態では、移動条件として、対応する区域に対して上述したグリッド線50Aを配置することを想定し、グリッド線50Aの交点の位置の各々毎に、移動条件及び捕獲数を登録する。
【0081】
なお、本実施形態では、捕獲数情報として、日本国内の各地において、対応する分類種の害虫について、対応する条件下で、上述した実験用ライトトラップ30等を用いて実際に捕獲された数を適用しているが、これに限るものではない。例えば、上述した環境情報及び移動情報と同様に、インターネット等で公開されている情報から捕獲数情報を取得する形態としてもよい。
【0082】
次に、図14を参照して、本実施形態に係る回帰式データベース92Eについて説明する。図14は、本実施形態に係る回帰式データベース92Eの構成の一例を示す模式図である。本実施形態に係る回帰式データベース92Eは、上述した回帰式を示す情報を記憶するためのものである。
【0083】
図14に示すように、本実施形態に係る回帰式データベース92Eは、分類種、対象期間、及び回帰式の各情報が関連付けられて記憶される。
【0084】
上記分類種及び対象期間は、各々、生物情報データベース92Dの分類種及び対象期間と同一の情報である。また、上記回帰式は、対応する分類種の害虫の、対応する対象期間における発生数及び生息域を示す情報を導出する回帰式そのものを示す情報である。
【0085】
図14に示すように、本実施形態では、回帰式として、発生源における発生数を導出するためのものと、当該発生源において、導出した発生数だけ発生した害虫の生息域を示す情報を導出するためのものと、の2種類のものを作成している。
【0086】
本実施形態では、生物情報データベース92Dに登録された環境条件に対応する捕獲数を目的変数とし、対応する環境条件を説明変数とする。そして、本実施形態では、当該捕獲数に最も回帰する回帰係数を求めることで、害虫の発生数を導出する回帰式を、害虫の分類種毎で、かつ、対象期間毎に導出する。また、本実施形態では、生物情報データベース92Dに登録された移動条件に対応する捕獲数を目的変数とする。また、本実施形態では、当該移動条件、対応するグリッド線50Aの交点の位置を示す位置情報、対応する環境条件に対応する捕獲数、及び当該環境条件に含まれる発生源の位置を示す位置情報を説明変数とする。そして、本実施形態では、上記移動条件に対応する捕獲数に最も回帰する回帰係数を求めることで、発生源において発生した害虫の移動数(生息域)を導出する回帰式を、害虫の分類種毎で、かつ、対象期間毎に導出する。
【0087】
なお、この際に適用する回帰式の数式の種類に特に制限はなく、一次式や二次以上の高次式、単項式や多項式の別を問わないことは言うまでもない。また、図14に示す例では、分類種毎に1つずつ、害虫の発生数を導出する回帰式、及び発生した害虫の生息域を導出する回帰式を作成する場合について例示しているが、これに限るものではない。例えば、これらの回帰式を分類種毎に複数作成する形態としてもよい。
【0088】
次に、図15図18を参照して、情報処理の実行時における、本実施形態に係る情報処理装置10の作用を説明する。図15は、本実施形態に係る情報処理の一例を示すフローチャートである。
【0089】
情報処理装置10のCPU11が情報処理プログラム13Aを実行することによって、図15に示す情報処理が実行される。図15に示す情報処理は、情報処理装置10のユーザにより、情報処理プログラム13Aの実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に実行される。なお、錯綜を回避するために、以下では、環境情報データベース92A、移動情報データベース92B、建物情報データベース92C、及び回帰式データベース92Eの各データベースが構築済みである場合について説明する。
【0090】
図15のステップ100で、CPU11は、予め定められた構成とされた初期情報入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ102で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0091】
図16には、本実施形態に係る初期情報入力画面の構成の一例が示されている。図16に示すように、本実施形態に係る初期情報入力画面では、処理の対象とする区域(以下、「処理対象区域」という。)、及び処理の対象とする害虫の分類種(以下、「処理対象分類種」という。)の入力を促す旨のメッセージが表示される。また、本実施形態に係る初期情報入力画面では、処理対象区域を示す情報を指定するための指定領域15A、及び処理対象分類種を示す情報を指定するための指定領域15Bが表示される。なお、本実施形態では、指定領域15A及び指定領域15Bに、情報処理システム1が対象とする、対応する情報がプルダウンメニュー形式で表示され、当該プルダウンメニューから処理対象とする情報を選択指定するものとされている。しかしながら、これに限るものではなく、例えば、処理対象区域及び処理対象分類種を直接入力する形態としてもよい。
【0092】
一例として図16に示す初期情報入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を用いて、所望の処理対象区域及び処理対象分類種を対応する指定領域で指定した後、当該画面に表示されている終了ボタン15Fを指定する。ユーザによって終了ボタン15Fが指定されると、ステップ102が肯定判定となってステップ104に移行する。
【0093】
ステップ104で、CPU11は、ユーザによって指定された処理対象分類種に対応する発生数導出用の回帰式(以下、「発生数導出用回帰式」という。)、及び生息域導出用の回帰式(以下、「生息域導出用回帰式」という。)を回帰式データベース92Eから読み出す。ステップ106で、CPU11は、ユーザによって指定された処理対象区域及び処理対象分類種に対応する全ての環境情報を環境情報データベース92Aから読み出す。また、ステップ106で、CPU11は、ユーザによって指定された処理対象区域及び処理対象分類種に対応する全ての位置情報及び移動情報を移動情報データベース92Bから読み出す。
【0094】
ステップ108で、CPU11は、読み出した発生数導出用回帰式に、読み出した環境情報の各値を代入することで、処理対象区域の発生源における、処理対象分類種の害虫の発生数の予測値を導出する。また、ステップ108で、CPU11は、読み出した生息域導出用回帰式に、発生数導出用回帰式によって導出した発生数の予測値、読み出した位置情報と移動情報、及び対応する環境情報に含まれる発生源の位置を示す位置情報の各々を代入する。これにより、上述したグリッド線50Aの交点の位置毎の処理対象分類種の害虫の存在数を、当該交点における予測値として導出する。なお、ここで導出したグリッド線50Aの交点の各々における害虫の存在数は、対応する害虫の生息域を表す情報となるため、当該交点の各々における存在数を、以下では「生息域情報」という。
【0095】
なお、処理対象区域に処理対象分類種の害虫の発生源が複数存在する場合、CPU11は、当該複数の発生源の各々毎に生息域情報を導出し、導出した発生源毎の生息域情報を同一の位置毎に加算する。
【0096】
ステップ110で、CPU11は、ステップ108の処理によって導出した生息域情報を用いて、予め定められた構成とされたリスク提示画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ112で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0097】
図17には、本実施形態に係るリスク提示画面の構成の一例が示されている。なお、図17では、対象生物の発生源が1箇所である場合について例示している。
【0098】
図17に示すように、本実施形態に係るリスク提示画面では、導出した生息域情報が示す、グリッド線50Aの各交点における害虫の数が多いほど濃くなるように、対応する地図に生息域情報が示すリスク情報15Cが重畳されて表示される。このリスク情報15Cは、処理対象区域における、処理対象分類種の害虫によるリスクの高さを示す情報となる。従って、ユーザは、リスク提示画面を参照することで、処理対象区域の各位置、及び各位置からの各方位における、処理対象分類種の害虫によるリスクの高さを直感的に把握することができる。
【0099】
一例として図17に示すリスク提示画面が表示部15に表示されると、ユーザは、当該画面での表示内容を把握した後、対応する害虫に対する対策を知りたい場合は、入力部14を用いて、当該画面に表示されている対策表示ボタン15Eを指定する。また、ユーザは、表示されているリスク提示画面を消去したい場合は、入力部14を用いて、当該画面に表示されている終了ボタン15Fを指定する。
【0100】
そこで、ステップ114で、CPU11は、ユーザによって終了ボタン15Fが指定されたか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ122に移行する一方、否定判定となった場合はステップ116に移行する。
【0101】
ステップ116で、CPU11は、ユーザによって入力された処理対象区域に対応する対象建物情報を建物情報データベース92Cから読み出す。ステップ118で、CPU11は、読み出した対象建物情報を用いて、予め定められた構成とされた対策提示画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ120で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0102】
図18には、本実施形態に係る対策提示画面の構成の一例が示されている。なお、図18では、対象生物の発生源が2箇所である場合について例示している。
【0103】
図18に示すように、本実施形態に係る対策提示画面では、対象建物情報が示す、処理対象区域に建設予定としている建物の平面図が表示される。そして、本実施形態に係る対策提示画面では、導出した生息域情報が示すリスクを抑制するための対策として、処理対象分類種の害虫の侵入を抑制することができるものとして導出した、推奨する開口部の設置エリアを示す対策情報15Dが表示される。従って、ユーザは、対策提示画面を参照することで、処理対象区域に建設予定としている建物に対する対策を直感的に把握することができる。
【0104】
一例として図18に示す対策提示画面が表示部15に表示されると、ユーザは、当該画面での表示内容を把握した後、当該画面に表示されている終了ボタン15Fを指定する。ユーザによって終了ボタン15Fが指定されると、ステップ120が肯定判定となってステップ122に移行する。
【0105】
ステップ122で、CPU11は、本情報処理を終了するタイミングとして予め定められた終了タイミングが到来したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ100に戻る一方、肯定判定となった場合は本情報処理を終了する。なお、本実施形態では、上記終了タイミングとして、ユーザによって情報処理プログラム13Aの実行を終了する指示入力が入力部14を介して行われたタイミングを適用しているが、これに限るものでないことは言うまでもない。
【0106】
以上説明したように、本実施形態によれば、各々対象区域における、対象生物の発生に寄与する環境情報、及び対象生物の移動に寄与する移動情報を取得し、環境情報を用いて、対象区域内の予め定められた地点(発生源)における対象生物の発生量及び発生確率の少なくとも一方を含む発生情報を導出し、移動情報を用いて、発生情報が示す発生量及び発生確率の少なくとも一方で発生した対象生物の上記予め定められた地点を起点とした生息域を推定している。従って、移動情報を用いない場合に比較して、より精度よく、対象生物の生息域を推定することができる。
【0107】
また、本実施形態によれば、推定した生息域を示す生息域情報を、対応する地図に重畳させた状態で提示している。従って、推定した生息域をユーザに対して直感的に把握させることができる。
【0108】
更に、本実施形態によれば、環境情報が、土地の利用分類を示す土地利用情報、及び気象観測によって得られた気象観測情報の少なくとも一方を含み、移動情報が、対象区域における風速及び風向の少なくとも一方を含む風況情報、対象区域に存在する人工光源による発光位置及び発光量の少なくとも一方を示す人工光源情報、及び対象区域に存在する建物の外形形状を示す建物情報の少なくとも1つを含むものとしている。従って、適用した情報に応じて、より精度よく、対象生物の生息域を推定することができる。
【0109】
なお、上記実施形態では、発生数導出用回帰式及び生息域導出用回帰式の各回帰式によって対象生物の発生量及び生息域を推定する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、AI(Artificial Intelligence、人工知能)によるモデルを用いて対象生物の発生量及び生息域を導出する形態としてもよい。
【0110】
具体的には、対応する回帰式の説明変数を入力情報とし、目的変数を出力情報(正解情報)として機械学習することで、当該回帰式に対応するモデルを作成する形態が例示される。この場合のモデルとしては、多層パーセプトロン、CNN(Convolutional Neural Network、畳み込みニューラルネットワーク)等の各種AIによるモデルを適用することができる。
【0111】
また、上記実施形態では、回帰式を、対応する分類種の害虫による被害が最も多くなる時期に対応するものとし、表示する対策提示画面も、当該被害が最も多くなる時期に対応するものとした場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、回帰式を、年間を通した任意の期間に対応するものとして作成し、対策提示画面も、指定された任意の期間に対応するものとして表示する形態としてもよい。
【0112】
図19には、この形態における生物情報データベース92Dの構成の一例が示されている。
【0113】
図19に示すように、この形態における生物情報データベース92Dでは、捕獲数情報が、対応する対象期間を示す情報と共に蓄積される。なお、ここでいう「対象期間」は、上記実施形態に係る対象期間、即ち、対応する分類種の害虫による被害が最も多くなる期間とは異なり、実際に計測を行った任意の時期及び時間帯である。従って、この生物情報データベース92Dを用いることで、任意の対象期間に対応した回帰式を作成することができる。
【0114】
この場合の回帰式の作成方法としては、1年間を予め定められた時間帯毎(例えば、1時間毎)に区分して、当該区分毎で、かつ、害虫の分類群又は分類種毎に回帰式を作成する方法を例示することができる。また、この場合の回帰式の作成方法としては、説明変数に、推定対象とする期間を数値化した情報を含めることで、害虫の分類群又は分類種毎に1つずつ回帰式を作成する方法等も例示することができる。
【0115】
また、図19に示す例では、環境条件と移動条件との組み合わせ毎に捕獲数を蓄積するものとされており、これによって得られる回帰式は、発生源において発生した害虫の移動先における数を直接推定するものとされる。但し、これに限るものではなく、例えば、上記実施形態と同様に、環境条件及び移動条件の各々毎に捕獲数を蓄積するものとしておき、環境条件及び移動条件の各々毎に回帰式を作成する形態としてもよい。
【0116】
図20には、この形態における対策提示画面の構成の一例が示されている。
【0117】
図20に示すように、この対策提示画面では、対策を講じたい害虫の分類種、期間、及び時間帯の各条件が指定可能とされており、ユーザによって指定された条件に対応する、上記実施形態に係るものと同様の対策情報15Dが表示される。この際、図20に示すように、対策情報15Dに対して、指定された害虫の生息域情報が示す、一例として図17に示したものと同様のリスク情報15Cを重畳して表示する形態としてもよい。
【0118】
なお、図20に示した例では、分類種として全ての分類群が指定され、期間として全ての期間が指定され、時間帯として9時から17時までの時間帯が指定されている。従って、この場合、これらの条件に対応するリスク情報15C及び対策情報15Dが対策提示画面に表示される。この場合、指定された条件に合致する全ての回帰式を適用して生息域を推定し、推定した生息域を重畳させることで当該条件に対応する生息域を導出する。
【0119】
また、上記実施形態では、一例として図16に示すように、初期情報入力画面として、処理対象とする区域と分類種が入力可能とされたものを適用する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、一例として図21に示すように、地図上で処理対象とする区域が指定可能とされた初期情報入力画面を適用する形態としてもよい。また、この形態において、図21に示すように、処理対象とする区域を入力することができる住所検索欄15Gを設ける形態を適用してもよい。
【0120】
また、上記実施形態では、一例として図17に示すように、リスク提示画面として、リスク情報15Cのみを表示するものを適用する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、一例として図22に示すように、リスク情報15Cに対して、建設予定とされている建物を指定可能とし、指定された建物に対する、各種害虫の到達確率の推定値を示す到達確率情報15Hを表示する形態としてもよい。また、この形態において、詳細表示ボタン15Jを表示し、当該詳細表示ボタン15Jがユーザによって指定された場合に、図18図20に例示した対策提示画面を表示する形態を適用してもよい。なお、この場合、回帰式における目的変数として上記到達確率を適用することになる。
【0121】
また、上記実施形態では、移動情報の対象とする位置と、移動条件及び捕獲数を登録する位置との各位置として、一例として図11に示すグリッド線50Aの交点の位置を適用した場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、グリッド線50Aで区分される各区分領域の中心の位置を、上記各位置として適用する形態としてもよい。
【0122】
また、上記実施形態では、推定した対象生物によるリスクの対策として、建設予定としている建物の開口部の位置を推奨する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、推定した生息域を用いて、対象生物による影響を抑制することができる、建設予定としている建物の位置や向きを推奨する形態としてもよいし、当該建物の開口部に対する対象生物の防御法を提示する形態としてもよい。
【0123】
また、上記実施形態では、一度の情報処理により、単一の分類種のみの害虫を対象として生息域を推定する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、一度の情報処理により、複数の分類種の害虫を対象として生息域を推定する形態としてもよい。
【0124】
また、上記実施形態では、回帰式を独自に作成する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、生息域を推定するための回帰式として、「信州大学:平林, 1991, 諏訪湖地域における"迷惑昆虫"ユスリカの大発生とその防除対策 第1報:アカムシユスリカ(Tokunagayusurika akamusi)成虫の大量飛来」に開示されている回帰式を適用する形態としてもよい。また、例えば、生息域を推定するための回帰式として、「熊本大学:米島ら,2015, 土地被覆データにもとづく疾病媒介蚊の生息分布域の分析 ─琵琶湖東沿岸地域を対象に─」に開示されている回帰式を適用する形態としてもよい。
【0125】
また、上記実施形態では、本発明の情報処理装置を、情報処理装置10及び情報蓄積装置90の各装置を用いて構成した場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、情報処理装置10及び情報蓄積装置90を一体化した単一の装置で本発明の情報処理装置を構成する形態としてもよい。
【0126】
また、上記実施形態において、例えば、取得部11A、導出部11B、推定部11C、及び提示部11Dの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0127】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0128】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0129】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0130】
1 情報処理システム
10 情報処理装置
11 CPU
11A 取得部
11B 導出部
11C 推定部
11D 提示部
12 メモリ
13 記憶部
13A 情報処理プログラム
14 入力部
15 表示部
15A~15B 指定領域
15C リスク情報
15D 対策情報
15E 対策表示ボタン
15F 終了ボタン
15G 住所検索欄
15H 到達確率情報
15J 詳細表示ボタン
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 通信I/F部
30 実験用ライトトラップ
30A 人工光源
30B ハエ取り紙
50 対象区域
50A グリッド線
90 情報蓄積装置
92 記憶部
92A 環境情報データベース
92B 移動情報データベース
92C 建物情報データベース
92D 生物情報データベース
92E 回帰式データベース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22