(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068456
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位を含むポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/62 20220101AFI20240513BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20240513BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20240513BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20240513BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240513BHJP
【FI】
C12P7/62 ZBP
C08L67/04
C12N1/21
C12N15/54
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178923
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】柘植 丈治
(72)【発明者】
【氏名】マルグプ ミリザティ
(72)【発明者】
【氏名】山本 智義
(72)【発明者】
【氏名】小澤 優
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4B064AD83
4B064CA02
4B064CA19
4B064DA16
4B065AA10Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AA41X
4B065AA41Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA12
4B065CA60
4J002CF181
4J002GA01
4J002GB01
4J002GG01
4J002GG02
4J200AA04
4J200AA13
4J200BA12
4J200CA01
4J200DA02
4J200DA03
4J200DA17
4J200DA22
4J200EA07
4J200EA18
4J200EA19
(57)【要約】
【課題】(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を構成単位とするPHAを提供すること。
【解決手段】炭素源と、前駆物質としての(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸との存在下に、微生物にポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子が導入された形質転換体を培養し、得られた培養物から(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位を含むポリマーを採取する工程を含む、(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位を含むポリマーの製造方法;(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマー、又は(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマー;及び、(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位のホモポリマー。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源と、前駆物質としての(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸との存在下に、微生物にポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子が導入された形質転換体を培養し、得られた培養物から(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を構成単位として含むポリマーを採取する工程を含む、(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を構成単位として含むポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を構成単位として含むポリマーが、(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位のホモポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を構成単位として含むポリマーが、(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とのコポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆物質としての(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を培養液1Lあたり0.1~0.8gの範囲で添加して、それぞれ、(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマー、又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマーを光学純度100%eeで製造する、請求項3に記載の方法であって、前記コポリマー中の、前記(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の分率又は前記(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の分率が8モル%以下である、方法。
【請求項5】
前記前駆物質としての(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を培養液1Lあたり0.9~2.0gの範囲で添加して、(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマーを光学純度100%eeで製造する、請求項3に記載の方法であって、前記コポリマー中の、前記(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の分率が35~65モル%の範囲である、方法。
【請求項6】
前記前駆物質としての(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を培養液1Lあたり0.9~2.0gの範囲で添加する、請求項3に記載の方法であって、前記コポリマー中の3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位が(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位とが混合した形態にあり、前記前駆物質の添加量の増加に伴い、前記混合形態中の(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の割合が増加する、方法。
【請求項7】
前記前駆物質としての(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を培養液1Lあたり2.1~7.0gの範囲で添加して、(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位のホモポリマーを光学純度99%ee以上で製造する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記前駆物質としての(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を培養液1Lあたり2.1~7.0gの範囲で添加する、請求項2に記載の方法であって、前記ホモポリマー中の3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位が(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位とが混合した形態にあり、前記前駆物質の添加量の増加に伴い、前記混合形態中の(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の割合が増加する、方法。
【請求項9】
前記ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子が、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)由来のポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子であって、前記アエロモナス・キャビエ由来のポリヒドロキシアルカン酸重合酵素がN末端から149番目のアスパラギンのセリンへの置換、及び/又は171番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記微生物が、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、ラルストニア(Ralstonia)属菌、及びシュードモナス(Pseuomonas)属菌からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマー、又は(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマー。
【請求項12】
前記コポリマー中の、前記(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の分率又は前記(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の分率が8モル%以下である、請求項11に記載のコポリマー。
【請求項13】
(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマーであって、光学純度が100%eeである、請求項11に記載のホモポリマー。
【請求項14】
(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位のホモポリマー。
【請求項15】
光学純度が99%ee以上である、請求項14に記載のホモポリマー。
【請求項16】
メソダイアド又はアイソタクチック構造を有する、請求項14に記載のホモポリマー。
【請求項17】
3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマーであって、3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の(S)-エナンチオマーが過剰であり、エナンチオマー過剰率が14~40%eeである、コポリマー。
【請求項18】
3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位のホモポリマーであって、(S)-エナンチオマーが過剰であり、エナンチオマー過剰率が20~66%eeである、ホモポリマー。
【請求項19】
請求項11~18のいずれか1項に記載のコポリマー又はホモポリマーを含む組成物。
【請求項20】
請求項11~18のいずれか1項に記載のコポリマー又はホモポリマーを含むプラスチック材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位を含むポリマーの製造方法、(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸と3-ヒドロキシブタン酸とからなるコポリマー、又は(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸と3-ヒドロキシブタン酸とからなるコポリマー、(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸のホモポリマー、及び、(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸のホモポリマーに関する。本発明はまた、前記ホモポリマー又はコポリマーを含む組成物、及び前記ホモポリマー又はコポリマーを含むプラスチック材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は微生物が細胞内に蓄積するバイオポリエステルである。近年では、生分解性プラスチック素材としてのみならず、バイオマス由来のプラスチック素材として注目されている。
【0003】
ポリエステルの加工工程において、ポリエステルの結晶化速度の高さは加工時間の短縮につながるため、非常に重要である。最も一般的なPHAである、3-ヒドロキシブタン酸(3HB)を構成単位とするホモポリマー(P(3HB))は、高結晶性であるために硬くて脆く、実用性に乏しい。また、溶融時にポリマーが低分子量化してしまうなど成型加工時の劣化が問題となり、工業生産には向いていない。この物性を改善する手段の一つとして、3HBと他のモノマーとの共重合体が種々開発されてきた(非特許文献1~4)。
【0004】
ところで、α炭素に側鎖を有するヒドロキシアルカン酸は、低温での溶融性など優れた加工特性を付与できる点から、非常に魅力的なポリマー単位である。
3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸(3H2MP)は、そのα炭素にメチル基を有するため、α炭素上にキラル中心が存在する。したがって、PHA材料として、(R)-3H2MP又は(S)-3H2MPのうちの一方のエナンチオマーを含むPHA(すなわち、キラルPHA)も製造可能である。
【0005】
これまで、3H2MPを構成単位とするPHAとして、炭素源として3H2MPを用い、アルカリゲネス属細菌を培養することにより3H2MP単位を含むポリマーの製造が試みられたが、得られたポリマーは約10モル%の3H2MP単位を含むターポリマー又はテトラポリマーであった(非特許文献5)。最近になって、コマモナス・エスピー(Comamonas sp.)を用いて、3H2MPから3H2MPホモポリマー(P(3H2MP))が乾燥菌体の最大37重量%で製造できることが報告されたが(非特許文献6)、P(3H2MP)のキラリティーについては不明であった。
【0006】
また、乳酸は3H2MPと同じα炭素にキラル中心を有するが、そのポリマーであるポリL-乳酸(PLLA)とポリD-乳酸(PDLA)は、PLLAとPDLAとの存在比に依って、結晶性、熱安定性、機械的強度などの材料特性が変化することが知られている(非特許文献7)。
【0007】
このように、(R)-3H2MP単位又は(S)-3H2MP単位は、新たな材料特性を有するPHA材料としての可能性を有することが期待されるところ、これまでそのような報告は存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tsuge T, Yano K, Imazu SI et al., Macromol Biosci 2005; 5: 112-7. DOI: 10.1002/mabi.200400152
【非特許文献2】Mizuno K, Ohta A, Hyakutake M et al., Polym Degrad Stab 2010; 95: 1335-9. DOI: 10.1016/j.polymdegradstab.2010.01.033
【非特許文献3】Furutate S, Kamoi J, Nomura CT et al., NPG Asia Mater 2021; 13: 1-11. DOI: 10.1038/s41427-021-00296-x
【非特許文献4】Mierzati M, Mizuno S, Tsuge T., Polym Degrad Stab 2020; 178: 109193. DOI: 10.1016/j.polymdegradstab.2020.109193.
【非特許文献5】D. O. I. YOSHIHARU and K. SHIRO, 1995 [Online]. Available: https://lens.org/183-171-147-994-58
【非特許文献6】C. M. Vermeer, L. J. Bons, and R. Kleerebezem, Appl. Microbiol. Biotechnol., vol. 106, no. 2, pp. 605-618, 2022
【非特許文献7】L. Han, Q. Xie, J. Bao, G. Shan, Y. Bao, and P. Pan, Polym. Chem., vol. 8, no. 6, pp. 1006-1016, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、(R)-3H2MP又は(S)-3H2MPを構成単位として含むPHAを製造することを目的とする。また、当該PHAを構成する3H2MPのエナンチオマーの種類又はその存在比によってポリマーの材料特性がどのように変化するかを探索し、優れた材料特性を有するポリマーを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、斯かる実状に鑑み鋭意検討した結果、前駆物質としてのエナンチオマーである(R)-又は(S)-3H2MP、及び炭素源の存在下に、微生物にポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子が導入された形質転換体を培養することにより、(R)-又は(S)-3H2MPを構成単位として含むポリマーが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。特に、添加する前駆物質の濃度によって、得られるポリマーのキラリティーが制御可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を提供する。
(1)炭素源と、前駆物質としての(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸との存在下に、微生物にポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子が導入された形質転換体を培養し、得られた培養物から(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を構成単位として含むポリマーを採取する工程を含む、(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を構成単位として含むポリマーの製造方法。
(2)前記(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を構成単位として含むポリマーが、(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位のホモポリマーである、(1)に記載の方法。
(3)前記(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を構成単位として含むポリマーが、(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とのコポリマーである、(1)に記載の方法。
(4)前記前駆物質としての(R)-(-)又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を培養液1Lあたり0.1~0.8gの範囲で添加して、それぞれ、(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマー、又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマーを光学純度100%eeで製造する、(3)に記載の方法であって、前記コポリマー中の、前記(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の分率又は前記(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の分率が8モル%以下である、方法。
(5)前記前駆物質としての(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を培養液1Lあたり0.9~2.0gの範囲で添加して、(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマーを光学純度100%eeで製造する、(3)に記載の方法であって、前記コポリマー中の、前記(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の分率が35~65モル%の範囲である、方法。
(6)前記前駆物質としての(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を培養液1Lあたり0.9~2.0gの範囲で添加する、(3)に記載の方法であって、前記コポリマー中の3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位が(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位とが混合した形態にあり、前記前駆物質の添加量の増加に伴い、前記混合形態中の(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の割合が増加する、方法。
(6)前記前駆物質としての(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を培養液1Lあたり2.1~7.0gの範囲で添加して、(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位のホモポリマーを光学純度99%ee以上で製造する、(2)に記載の方法。
(8)前記前駆物質としての(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を培養液1Lあたり2.1~7.0gの範囲で添加する、(2)に記載の方法であって、前記ホモポリマー中の3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位が(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位とが混合した形態にあり、前記前駆物質の添加量の増加に伴い、前記混合形態中の(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の割合が増加する、方法。
(9)前記ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子が、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)由来のポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子であって、前記アエロモナス・キャビエ由来のポリヒドロキシアルカン酸重合酵素がN末端から149番目のアスパラギンのセリンへの置換、及び/又は171番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換を含む、(1)~(8)のいずれか1に記載の方法。
(10)前記微生物が、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、ラルストニア(Ralstonia)属菌、及びシュードモナス(Pseuomonas)属菌からなる群から選択される、(1)に記載の方法。
(11)(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマー、又は(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマー。
(12)前記コポリマー中の、前記(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の分率又は前記(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の分率が8モル%以下である、(11)に記載のコポリマー。
(13)(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマーであって、光学純度が100%eeである、(11)に記載のホモポリマー。
(14)(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位のホモポリマー。
(15)光学純度が99%ee以上である、(14)に記載のホモポリマー。
(16)メソダイアド又はアイソタクチック構造を有する、(14)に記載のホモポリマー。
(17)3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位と3-ヒドロキシブタン酸単位とからなるコポリマーであって、3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸単位の(S)-エナンチオマーが過剰であり、エナンチオマー過剰率が14~40%eeである、コポリマー。
(18)3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸のホモポリマーであって、(S)-エナンチオマーが過剰であり、エナンチオマー過剰率が20~66%eeである、ホモポリマー。
(19)(11)~(18)のいずれか1に記載のコポリマー又はホモポリマーを含む組成物。
(20)(11)~(18)のいずれか1に記載のコポリマー又はホモポリマーを含むプラスチック材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、(R)-3H2MP又は(S)-3H2MPを構成単位として含むキラルなコポリマーP(3HB-co-3H2MP)、及び(R)-3H2MP又は(S)-3H2MPを構成単位とするキラルなホモポリマーP(3H2MP)を製造することができる。また、ポリマーを構成する3H2MPのエナンチオマーの種類又はその存在比を変化させることによって種々の材料特性を有するポリマーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、3H2MP単位を含むPHAの合成経路を示す図である。破線で囲まれたブロックは、PHA合成の重要な酵素を有する組換えE.coli LSBJを用いる生合成経路を示す。「phaA」は3-ケトチオラーゼを、「phaB」はNADPH依存的アセトアセチル-CoAレダクターゼを、「PCT」はプロピオニル-CoAトランスフェラーゼを、「PhaC」はPHA重合酵素をそれぞれ示す。左下の細かい破線で囲まれたブロックは、メチル3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸の化学的加水分解を示す。
【
図2】
図2は、PHAの400MHz
1HNMRスペクトルを示す図である。AはP(3HB)、BはP(3H2MP)(試料「3-Rac」)を、CはP(3HB-co-5mol% 3H2MP)(試料「1-Rac」)をそれぞれ示す。
【
図3】
図3は、PHAの100MHz
13CNMRスペクトルを示す図である。AはP(3H2MP)(試料「3-Rac」)を、BはP(3HB-co-5mol% 3H2MP)(試料「1-Rac」)をそれぞれ示す。
【
図4】
図4は、PHA又は標準物質のGC-MSスペクトルを示す図である。Aは、m/z88でのメチル(R)-3H2MP及びメチル(S)-3H2MP標準物質の保持時間を、Bは表1に記載の全試料についての(R)-3H2MP、(S)-3H2Mの保持時間及びピーク強度を示す。
【
図5】
図5は、PHA組成中の3H2MPの含有量の増加に伴う、PHA中の3H2MPエナンチオマー比の変化を示す図である。Aは、前駆物質として(R)-3H2MPを用いた時の結果を、Bは前駆物質として(S)-3H2MPを用いた時の結果を、Cは前駆物質として2つのエナンチオマーの混合物を用いた時の結果をそれぞれ示す。
【
図6】
図6は、500MHz
13Cスペクトルでの、PHAのメチル領域(約14ppm)、メチン領域(約40ppm)及びカルボニル領域(約174ppm)の拡大を示す図である。AはP(3H2MP)(%S:%R=60:40)(試料「3-R」;20%ee)を、BはP(3H2MP)(%S:%R=99:1)(試料「3-S」;98%ee)を、CはP(3H2MP)(%S:%R=83:17)(試料「3-Rac」;60%ee)をそれぞれ示す。「m」はメソダイアドを、「mm」はアイソタクチックトリアドを、「r」はラセモダイアドを、「rr」はシンジオタクチックトリアドをそれぞれ示す。
【
図7】
図7は、PHAのDSCサーモグラムを示す図である。AはDSCの第1の加熱ステップを、BはDSCの第2の加熱ステップをそれぞれ示す。
【
図8】
図8は、P(3HB-co-5 mol% 3H2MP)(試料「1-Rac」)、P(3HB-co-21 mol% 3H2MP)(試料「1-Rac-1」)、P(3H2MP)(%S:%R=99:1)(試料「3-S」)、及びP(3H2MP)(%S:%R=83:17)(試料「3-Rac」)のTGA曲線を示す図である。
【
図9】
図9は、PHAの応力-ひずみ曲線を示す図である。AはP(3HB-co-5 mol%3H2MP)(試料「1-Rac」)、及びP(3HB-co-21 mol%3H2MP)(試料「1-Rac-1」)を、BはP(3H2MP)(%S:%R=99:1)(試料「3-S」)、及びP(3H2MP)(%S:%R=83:17)(試料「3-Rac」)をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、具体的な実施態様に即して本発明を詳細に説明する。但し、本発明は決して以下の実施態様に束縛されるものではなく、適宜変更を加えて実施することが可能である。
【0015】
本発明において、3-ヒドロキシブタン酸を「3HB」、3HBを構成単位とするホモポリマーを「P(3HB)」、3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を「3H2MP」、3H2MPを構成単位とするホモポリマーを「P(3H2MP)」、3HB単位と3H2MP単位とのコポリマーを「P(3HB-co-3H2MP)」と表記する。例えば、P(3HB-co-5mol% 3H2MP)とは、3H2MPを5mol%で含むコポリマーを意味する。
【0016】
また、本発明において、3H2MPの2つのエナンチオマーとは、(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸(適宜、「(R)-3H2MP」又は「(R)-エナンチオマー」と表記)、又は(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸(適宜、「(S)-3H2MP」又は「(S)-エナンチオマー」と表記)を指す。
「混合物」とは、(R)-3H2MPと(S)-3H2MPとの存在比にかかわらず、これらのエナンチオマーの混合物を指し、「Rac」で表示される。「混合物」には、(R)-3H2MPと(S)-3H2MPとが等量存在するラセミ体も含まれる。更に、「混合物」は、場合により、P(3H2MP)又はP(3HB-co-3H2MP)において、3H2MP単位がエナンチオマーの混合物であるポリマーを指す。
「キラルホモポリマーP(3H2MP)」又は「キラルコポリマーP(3HB-co-3H2MP)」とは、3H2MP単位がいずれかのエナンチオマーであり、エナンチオマー過剰率が100%eeであるものを指す。
【0017】
本発明において「前駆物質」とは、(R)-3H2MP、(S)-3H2MP、又はそれらの混合物を指す。
【0018】
本発明の第1の実施形態は、炭素源と、前駆物質としての(R)-又は(S)-3H2MPとの存在下に、微生物にポリヒドロキシアルカン酸重合酵素遺伝子が導入された形質転換体を培養し、得られた培養物から(R)-又は(S)-3H2MPを構成単位とするポリマーを採取する工程を含む、(R)-又は(S)-3H2MPを構成単位とするポリマーの製造方法に関する。
(R)-又は(S)-3H2MPを構成単位とするポリマーには、(R)-3H2MPのホモポリマー、(S)-3H2MPのホモポリマー、又は(R)-3H2MP単位もしくは(S)-3H2MP単位と3HB単位とのコポリマーが含まれる。
【0019】
本発明のPHAの合成経路を
図1に示す。
グルコース等の炭素源はピルビン酸、次いでアセチル-CoAに変換された後、このアセチル-CoAはβ-ケトチオラーゼ(PhaA)により2量化(PhaA)され、アセトアセチルCoAレダクターゼ(PhaB)によって還元されて、3HB-CoAに変換される(
図1の破線で囲まれたブロック)。一方、3H2MPは、例えば3H2MPのメチルエステルの化学的な加水分解などにより容易に得られる(
図1の細かい破線で囲まれたブロック)。3H2MPのメチルエステルの加水分解物はプロピオニル-CoAトランスフェラーゼによって3H2MP-CoAに変換される。
3HB-CoA生成経路で供給されたモノマー(3HB-CoA)及び3H2MB-CoA生成経路で供給されたモノマー(3H2MP-CoA)は、PHA重合酵素(PhaC)の基質として利用され、コポリマーP(3HB-co-3H2MP)が合成され(以下、適宜「製造方法1」、「製造方法1-1」と表記)、モノマー(3H2MP-CoA)からホモポリマーP(3H2MP)が合成される(以下、適宜「製造方法2」と表記)(
図1の破線で囲まれたブロック)。
【0020】
前駆物質である(R)-又は(S)-3H2MPは、約0.1~約10.0g/L、約0.1~約7.0g/Lの範囲で添加することが好ましい。
製造方法1では、例えば培養液1Lあたり0.1~0.8gの範囲で(R)-3H2MP又は(S)-3H2MPを添加することができる。この場合、(R)-3H2MP単位と3HB単位とから実質的になるコポリマー、又は(S)-3H2MP単位と3HB単位とから実質的になるコポリマーをいずれも実質的に光学純度100%eeで合成することができる。前記コポリマー組成中の、(R)-3H2MP単位の分率又は(S)-3H2MP単位の分率は約8モル%以下である。
本明細書において「実質的になる」とは、上記コポリマー中の、3H2MP単位及び3HB単位以外の3-ヒドロキシアルカン酸単位の分率が実質的にゼロであることを意味する。例えば、3H2MP単位及び3HB単位以外の3-ヒドロキシアルカン酸単位の分率は、好ましくは10%未満、好ましくは7%未満、好ましくは5%未満、好ましくは3%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満である。以下、「実質的になる」なる語を省略する場合があるが、「3H2MP単位と3HB単位とからなるコポリマー」とは上記の意味を有する。
また、本明細書において「実質的に光学純度100%ee」とは、その光学純度が目的とする用途において要求される水準を満足していればよく、必ずしも100%eeである必要はない。例えば、少なくとも90%ee、好ましくは少なくとも95%ee、好ましくは少なくとも98%ee、好ましくは少なくとも99%ee、好ましくは少なくとも99.5%ee、より好ましくは少なくとも99.9%eeである。
【0021】
製造方法1-1では、培養液1Lあたり0.9~2.0gの範囲で(S)-3H2MPを添加することができる。この場合、(S)-3H2MP単位と3HB単位とから実質的になるコポリマーを実質的に光学純度100%eeで合成することができる。前記コポリマー組成中の、(S)-3H2MP単位の分率は約35~約65モル%の範囲である。
本明細書において「実質的になる」とは、上記ホモポリマー中の、3H2MP単位以外の3-ヒドロキシアルカン酸単位の分率が実質的にゼロであることを意味する。例えば、3H2MP単位以外の3-ヒドロキシアルカン酸単位の分率は、好ましくは10%未満、好ましくは7%未満、好ましくは5%未満、好ましくは3%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満である。以下、「実質的になる」なる語を省略する場合があるが、「3H2MP単位からなるホモポリマー」、「3H2MP単位のホモポリマー」とは上記の意味を有する。
また、本明細書において「実質的に光学純度100%ee」とは、上記の通りである。
【0022】
また、製造方法1-1では、培養液1Lあたり0.9~2.0gの範囲で(R)-3H2MPを添加することもできる。この場合には、得られたコポリマーの3H2MP単位は、(R)-エナンチオマーと(S)-エナンチオマーとが混合した形態にある。また、(R)-3H2MPの添加量を当該範囲で増加させるに伴い、前記混合形態中の(S)-エナンチオマーの割合が増加する。
【0023】
製造方法2では、培養液1Lあたり2.1~7.0gの範囲で(S)-3H2MPを添加して、(S)-3H2MPのホモポリマーを光学純度99%ee以上で合成することができる。「光学純度99%ee以上」とは、例えば、好ましくは少なくとも99.5%ee、好ましくは少なくとも99.5%ee、より好ましくは少なくとも99.9%eeである。
【0024】
また、製造方法2では、培養液1Lあたり2.1~7.0gの範囲で(R)-3H2MPを添加することもできる。この場合には、得られたホモポリマーの(R)-エナンチオマーと(S)-エナンチオマーとが混合した形態にある。また、(R)-3H2MPの添加量を当該範囲で増加させるに伴い、前記混合形態中の(S)-エナンチオマーの割合が増加する。
【0025】
製造方法1-1、2において、(R)-3H2MPの添加量の増加に伴い、(S)-エナンチオマーの割合が増加する理由として、いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、E.coli LSBJの代謝経路において、バリン代謝中間体であるメタクリリル-CoAから(S)-3H2MP-CoAへの代謝、及び(S)-3H2MP-CoAからメタクリリル-CoAへの代謝は、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAヒドロリアーゼ(3HIBCH)によって相互に起こる(R. J. A. Wanders, at al., J. Inherit. Metab. Dis., vol. 35, no. 1, pp. 5-12, 2012)のに対して、3HIBCHによるメタクリリル-CoAから(R)-3H2MP-CoAへの代謝は比較的活性が弱く、そのため、メタクリリル-CoAの加水分解物はほとんど(S)-3H2MP-CoAとなるためであると考えられる。
【0026】
前記前駆物質は、一般に、細胞に対して毒性が高いために、細胞成長を阻害し、微生物におけるPHA蓄積を低下させる。このような前駆物質によって誘発される毒性のリスクを排除又は低減するために、上記の量を数回に分けて断続的に添加することが好ましい。また、前駆物質の初回の添加は、実質的な細胞成長が達成された数時間後に培養培地に行うことが好ましい(Furutate S, Kamoi J, Nomura CT et al., NPG Asia Mater 2021; 13: 1-11. DOI: 10.1038/s41427-021-00296-x)。
【0027】
PHA重合酵素遺伝子が導入された形質転換体は、宿主中で目的の遺伝子を発現するための広宿主域ベクターに、PHA重合酵素遺伝子及び公知のモノマー供給遺伝子を挿入して得られるプラスミドを宿主細胞に導入することによって得られる。
【0028】
PHA重合酵素遺伝子としては、例えば、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)61-3株、シュードモナス・スツッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・エスピー A33、アロクロマティウム・ビノサム(Allochromatium vinosum)、バシルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バシルス・セレウス(Bacillus cereus)、バシルス・エスピー(Bacillus sp.)INT005、ランプロシスティス・ロゼオペルシシナ(Lamprocystis roseopersicina)、ノカルディア・コラリナ(Nocardia corallina)、ロドバクター・シャエロイデス(Rhodobactor shaeroides)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)NCIMB 40126、チオカプサ・フェニギー(Thiocapsa pfennigii)、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)、及びアエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)から選ばれる微生物に由来するものが挙げられる。これらの中で、アエロモナス・キャビエ由来のPHA重合酵素は、3HBとC4~C6の(R)-3-ヒドロキシアルカン酸とのコポリマーを蓄積する能力を有する点で、特に好ましい。
【0029】
また、PHA重合酵素遺伝子としては、上記のPHA重合酵素の変異体をコードする遺伝子でもよい。かかる変異体は、野生型のPHA重合酵素のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されてなるアミノ酸配列からなり、かつPHA重合活性を有するタンパク質である。かかる変異体は、野生型のPHA重合酵素のアミノ酸配列に対して85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、更に好ましくは99%以上の配列同一性を有する。かかる変異体を用いることにより、PHAの生産量が増加する。例えば、本発明に用いられるPHA重合酵素変異体としては、アエロモナス・キャビエ由来のPHA重合酵素(PhaC)のN末端から149番目のアスパラギンからセリンへの置換、及び/又はPhaCの171番目のアスパラギン酸からグリシンへの置換を含む変異体が挙げられ、これら2つの変異を含む二重変異体(phaCAcNSDG)が好ましい。
なお、プレジオモナス・シゲロイデス(Plesiomonas shigelloides)由来のPHA重合酵素(アクセッション番号:WP_116546999)又はその改変体も、アエロモナス・キャビエ由来のPHA重合酵素の変異体と同等に好ましく使用することができる。
【0030】
更に、PHA重合酵素遺伝子の上流には、フェイシン(phasin)(適宜、「PhaP」と表記)と呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子が導入される(例えば、特開2013-42697号参照)。フェイシンは、細菌の細胞内でPHA顆粒に共局在することが知られており、PHA顆粒の形成、安定化などに関わると考えられている。
【0031】
フェイシンとしては、N末端から20番目までのアミノ酸領域において1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されてなるアミノ酸配列を有する変異体も好ましく用いられる。例えば、フェイシンのN末端から4番目のアスパラギン酸をアスパラギンに置換してなる変異体が挙げられる(例えば、特開2013-42697号参照)。フェイシンの変異体は、同様にPHAの生産性を向上させる。本発明におけるフェイシン遺伝子は、本発明における形質転換微生物の宿主とは異なる生物種由来のフェイシン遺伝子であれば特に限定されない。当該フェイシン遺伝子としては、ラルストニア(Ralstonia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、ワウテルシア(Woutersia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アエロモナス(Aeromonas)属、シュードモナス(Pseudomonas)属に類する生物に由来するフェイシン遺伝子や、それらの変異体などが挙げられ、好ましくは、アエロモナス属の微生物に由来するフェイシン遺伝子、又はその変異体、より好ましくは、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)に由来するフェイシン遺伝子、又はその変異体である。当該変異体としては、1以上のアミノ酸残基が欠失、付加、挿入、又は置換されたフェイシンをコードする塩基配列などを用いることができる。かかる変異体は、野生型のフェイシンのアミノ酸配列に対して85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、更に好ましくは99%以上の配列同一性を有する。
【0032】
宿主中で目的の遺伝子を発現するための広宿主域ベクターとしては、プロモーター、リボゾーム結合部位、遺伝子クローニング部位、ターミネーターなどを有する公知のベクターを用いることができる。例えば、移動能を有するmob領域を持つベクターpBBR1MCS-2、pJRD215、pLA2917が挙げられる。
【0033】
公知のモノマー供給遺伝子としては、例えば、ラルニトニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)由来のphbA、phbB、phaA、phaB(Peoples, O. P. and Sinskey, A. J., J. Biol. Chem. 264: 15293-15297 (1989))、アエロモナス・キャビエ由来のphaJ(Fukui, T. and Doi, Y., J. Bacteriol. 179: 4821-4830 (1997))などが挙げられる。
【0034】
本発明で使用される宿主微生物は、糖類や油脂類を炭素源として使用した場合の増殖性が良好で、菌株の安定性が高く、菌体と培養液との分離が比較的容易なものであれば特に制限されないが、例えば、エシュリキア(Escherichia)属、ラルストニア(Ralstonia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アエロモナス(Aeromonas)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、セラチア(Serratia)属、又はビブリオ(Vibrio)属の微生物が好ましい。より好ましくは、エシュリキア(Escherichia)属である。エシュリキア属の微生物としは、例えばエシェリキア・コリ(Escherichia coli)である。
【0035】
炭素源としては、例えば、糖類、カルボン酸、油脂類などを用いることができる。糖類としては、グルコース、フルクトース、ガクトース、キシロース、アラビノース、サッカロース、マルトース、でんぷん、でんぷん加水分解物などが挙げられる。カルボン酸としては、酢酸、乳酸などが挙げられる。油脂類としては、植物油が好ましく、例えば大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、又はこられの分別油、例えばパームWオレイン油(パーム油を2回無溶媒分別した低沸点画分)、パーム核油オレイン(パーム核油を1回無溶媒分別した低沸点画分)、又はこれらの油脂やその画分を化学的もしくは生化学的に処理した合成油、あるいはこれらの混合油が挙げられる。
【0036】
炭素源としてグルコースを用いる場合、グルコースの高い濃度は、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)によって誘導されるPHA生合成遺伝子の異化抑制を引き起こす可能性があるため(Furutate S, Kamoi J, Nomura CT et al., NPG Asia Mater 2021; 13 : 1-11. DOI: 10.1038/s41427-021-00296-x)、グルコース濃度は細胞成長のみを促進するために最小限に維持することが好ましい。例えば、グルコースの添加量は、約1~約20g/Lの範囲が好ましい。また、細胞に対する予期せぬ影響を除くか又はより少なくするために、これらの量を数回に分けて断続的に添加することが好ましい。
【0037】
前記製造方法1では、例えば、0.1~0.8g/Lの(R)-3H2MP又は(S)-3H2MPに対して、グルコースの添加量は約16~約20g/Lの範囲が好ましい。前記製造方法1-1では、例えば、0.9~2.0g/Lの(R)-3H2MP又は(S)-3H2MPに対して、グルコースの添加量は約10~約15g/Lの範囲が好ましい。前記製造方法2では、例えば、2.1~7.0g/Lの(R)-3H2MP又は(S)-3H2MPに対して、グルコースの添加量は約3~約9g/Lの範囲が好ましい。
【0038】
培養温度は、菌の生育可能な温度、好ましくは15~40℃、特に好ましくは20~40℃、更に好ましくは28~34℃である。培養時間は、特に限定されないが、例えばバッチ培養では1~7日間が好ましく、また連続培養も可能である。培養培地は、本発明の宿主が利用できるものである限り特に限定されない。炭素源に加えて、窒素源、無機塩類、その他の有機栄養源などを含有する培地を使用することができる。
窒素源としては、例えばアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムなどのアンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、酵母エキスなどが挙げられる。
【0039】
無機塩類としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸水素マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。
その他の有機栄養源としては、例えばグリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリンなどのアミノ酸類;ビタミンB1、ビタミンB12、ビオチン、ニコチン酸アミド、パントテン酸、ビタミンCなどのビタミン類などが挙げられる。
【0040】
本発明のPHAの菌体からの回収は、例えば、次の方法によって行うことができる。培養終了後、遠心分離器などで培養液から菌体を分離し、その菌体を蒸留水、メタノールなどにより洗浄した後、乾燥させた後、この乾燥菌体から、クロロホルムなどの有機溶媒を用いてポリマーを抽出する。次いで、このポリマーを含む有機溶媒溶液から、濾過などによって菌体成分を除去し、その濾液にメタノール、へキサンなどの貧溶媒を加えてポリマーを沈殿させる。沈殿した共重合体から、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させ、ポリマーを回収することができる。得られたポリマーの分析は、例えば、ガスクロマトグラフ法、核磁気共鳴法などにより行うことができる。
【0041】
本発明の第2の実施形態は、3HB単位と(S)-3H2MP単位とからなるコポリマーP(3HB-co-3H2MP)、又は3HB単位と(R)-3H2MP単位とからなるコポリマー(3HB-co-3H2MP)である。当該コポリマーは、例えば前記製造方法1によって製造され、3HB単位に富む。各コポリマー中の、(R)-3H2MP単位の分率又は(S)-3H2MP単位の分率は約8モル%以下である。また、各ポリマーは100%eeの光学純度を有する。また、3HB単位と(S)-3H2MP単位とからなるコポリマーP(3HB-co-3H2MP)は、例えば前記製造方法1-1によっても製造することができる。
製造方法1、1-1で得られたポリマーの数平均分子量(Mn)は、例えば、1×105~10×105程度、使用目的によっては1×105~8×105程度である。
【0042】
本発明の第3の実施形態は、(S)-3H2MP単位のホモポリマーである。当該ホモポリマーは光学純度が99%ee以上であり、実質的に(R)-3H2MP単位を含まない。また、高度なメソダイアド構造、又はアイソタクチック構造を有する。そのため、顕著な結晶挙動を示し、高い降伏強度を有する。
製造方法2で得られたポリマーの数平均分子量は、例えば、例えば、1×105~10×105程度、使用目的によっては1×105~8×105程度である。
【0043】
本発明の第5の実施形態は、(S)-3H2MPと(R)-3H2MPとの混合物を前駆物質として得られる、コポリマーP(3HB-co-3H2MP)、又はホモポリマーP(3H2MP)である。
前駆物質としての(S)-3H2MPと(R)-3H2MPとの混合物中の、エナンチオマー比は特に限定されないが、例えば、(S)-エナンチオマーとR-エナンチオマーとの比は、約1:9~約9:1、約2:8~約8:2、約3:7~約7:3、又は、約4:6~約6:4の範囲である。
前記混合物を前駆物質として得られるコポリマーP(3HB-co-3H2MP)としては、例えば、3H2MP単位を約5~約37%の分率で含むコポリマーである。当該コポリマーでは、3H2MPの(S)-エナンチオマーが過剰であり、そのエナンチオマー過剰率は、例えば、約14~約40%ee、好ましくは約20~約40%ee、好ましくは約25~約40%ee、好ましくは約30~約40%ee、より好ましくは約30~約36%eeである。かかるコポリマーP(3HB-co-3H2MP)の一例である、後記実施例に示す試料「1-Rac」及び試料「1-Rac-1」は、ポリマー構造中により多くの非晶質領域を有するため、結晶化度が低い。そのため、高い展延性及び破断伸びを示す。
また、(S)-エナンチオマーが過剰で、そのエナンチオマー過剰率が上記の約14~約40%eeの範囲であれば、得られたコポリマーは、ポリマー全体として多くの非晶質領域を有するため、結晶化度が低くなり、高い展延性及び破断伸びを示す蓋然性が高いと考えられる。
なお、かかるコポリマーP(3HB-co-3H2MP)は、製造方法1で合成することができる。
【0044】
前記混合物を前駆物質として得られるホモポリマーP(3H2MP)としては、例えば、3H2MPの(S)-エナンチオマーが過剰であるホモポリマーである。そのエナンチオマー過剰率は、約20~約66%ee、好ましくは約30~約66%ee、好ましくは約35~約66%ee、好ましくは約40~約66%ee、好ましくは約45~約66%ee、好ましくは約50~約66%ee、好ましくは約55~約66%ee、より好ましくは約60~約66%eeである。かかるホモポリマーP(3H2MP)の一例である、後記実施例に示す試料「3-Rac」は、アイソタクチックに富む構造を有するものの、高度なアイソタクチック構造を有するキラルホモポリマーP(3H2MP)(例えば、試料「3-S」)と比べて低い結晶挙動を有するため、高い展延性及び破断伸びを有する。特に、試料「3-S」と比べて約2倍の破断伸びを示す。また、試料「3-Rac」は、試料「3-S」と共に、低ガラス転移温度かつ高熱安定性を有し、このことは、タクチシティの制御と共に、ホモポリマーP(3H2MP)の広い加工領域を期待させる。
また、(S)-エナンチオマーが過剰で、そのエナンチオマー過剰率が上記の約20~約66%eeの範囲であれば、得られたホモポリマーは、ポリマー全体として多くの非晶質領域を有するため、結晶化度が低くなり、高い展延性及び破断伸びを示す蓋然性が高いと考えられる。
なお、かかるホモポリマーP(3H2MP)は、製造方法2で合成することができる。
【0045】
本発明の第6の実施形態は、第2の実施形態~第5の実施形態で得られたコポリマー又はホモポリマーを含む組成物である。本発明の組成物は、添加剤として、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料・顔料などの着色剤、可塑剤、滑剤、無機充填剤、帯電防止剤、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、難燃剤等を必要に応じて含有することができる。また、本発明の第6の実施形態は、第2の実施形態~第5の実施形態で得られたコポリマー又はホモポリマーを含むプラスチック材料である。第2の実施形態~第5の実施形態で得られたコポリマー又はホモポリマーは、比較的硬質から軟質までの幅広い硬度を有するバイオプラスチックであり、各種容器、包装材、農園芸用のフィルム、医療材料などに用いることができる。
【0046】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0047】
[材料及び調製方法]
(1)前駆物質
3gのメチル(R)-(-)-3-ヒドロキシ-2-プロピオン酸(メチル(R)-3H2MP)及びメチル(S)-(+)-3-ヒドロキシ-2-プロピオン酸(メチル(S)-3H2MP)(東京化成工業株式会社)を15mLのメタノールに溶解し、氷浴中の当該メタノール溶液に2mol当量のNaOHを加えた。次いで、当該溶液を撹拌し、白色粉末様の3-ヒドロキシ-2-プロピオン酸ナトリウム塩が沈殿するまで40℃の水浴中で加熱し、次いで室温で乾燥させた。使用時に、当該乾燥粉末を逆浸透膜でろ過した水(RO水)に溶解し、溶液のpHを1mol/LのHClで7~7.4に調整した。等量の(R)-3H2MPナトリウム塩及び(S)-3H2MPナトリウム塩を、ラセミ3H2MP前駆物質のために混合した。
【0048】
(2)細菌株
PHAの生合成における反復単位のより高い制御を可能にする、E.coli LSBJ(E. coli LS5218のfadB fadJノックアウト変異株[fadR601, atoC(Con)](Tappel RC, Wang Q, Nomura CT, J Biosci Bioeng 2012; 113 :480-6. DOI: 10.1016/j.jbiosc.2011.12.004))をPHA生合成のための宿主として使用した。
【0049】
(3)プラスミド
コポリマーP(3HB-co-3H2MP)製造のために、プラスミドpBBR1P(D4N)CJAcABReNSDG及びプラスミドpTTQ19-PCTを使用した。また、ホモポリマーP(3H2MP)製造のために、プラスミドpBBR1P(D4N)CAcNSDG及びプラスミドpTTQ19-PCTを使用した。
(a)pBBR1P(D4N)CJAcABReNSDG
pBBR1P(D4N)CJAcABReNSDGは、広宿主範囲プラスミドpBBR1MCS-2(Kovach ME, Elzer PH, Hill DS et al., Gene 1995; 166: 175-6. DOI: 10.1016/0378-1119(95)00584-1)に、phaPCJオペロンの発現後に高いPHA収量を与えるアエロモナス・キャビエ(A. caviae)由来のD4N点変異を有するPHA顆粒結合タンパク質遺伝子(phaPAc);P(3HB)型コポリマーにおけるコモノマー単位の取り込みを強化するためのN149S及びD171G点変異を有するPHA重合酵素遺伝子(phaCAcNSDG);(R)特異的エノイル-CoAヒドラターゼ遺伝子(phaJAc);並びにラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)H16由来の3-ケトチオラーゼ遺伝子(phaARe)及びラルストニア・ユートロファH16由来のアセトアセチル-CoAレダクターゼ遺伝子(phaBRe)を導入して作製した。phaPには4位のアスパラギン酸(D)がアスパラギン(N)に、phaCには149位のアスパラギン(N)がセリン(S)に、171位のアスパラギン酸(D)がグリシン(G)に変異している(Ushimaru et al., J. Gen. Appl. Microbiol. 2015, 61, 63)
(b)pTTQ19-PCT
pct遺伝子を含むNhe I-Mun I断片を、PCR法によってpTVpctC1STQKABReから増幅し、次いで、当該断片をpTTQ19のXba I-EcoR I部位に挿入することによって、pTTQ19-PCTを作製した(Furutate et al., J. Polym. Res. 2017, 24: 221)。当該pTTQ19-PCTは、Megasphaera elsdenii由来のプロピオン酸CoAトランスフェラーゼ(pct)遺伝子を有している(同文献)。
(c)pBBR1P(D4N)CAcNSDG
pBBR1P(D4N)CJAcABReSDG(Saika et al., J. Biosci. Bioeng. 2014, 117, 670)のphaJ及びphaABを含まない領域をPCR法により増幅し、7kbの増幅断片を平滑末端化及びリン酸化し、自己環状化させることでpBBR1P(D4N)CAcNSDGを作製した。
【0050】
(4)培養条件
組換えE.coli LSBJを、20mLのLuria-Bertani(LB)培地(Bacto trypton(Difco Laboratories, Detroit, MI, USA)10g、酵母エキス(Difco Laboratories)5g、NaCl 10gを脱イオン水1Lに溶かして、121℃で20分間オートクレーブして調製した。抗生物質(カナマイシン:終濃度50μg/mL、及びカルベニシリン:終濃度50μg/mLを含む。)で、30℃で18時間インキュベートし、種培養物を得た。
【0051】
(i)P(3HB-co-3H2MP)製造
500mLの振盪フラスコ中の100mL(終体積)のM9改変培地(Na2HPO4・12H2O 17.1g、KH2PO4 3g、NaCl 0.5g、1M MgSO4・7H2O 2mL、1M CaCl2 0.1mL、2.5g/L Bacto-yeastエキスを脱イオン水1Lに溶かして、121℃で20分間オートクレーブして調製した)に、カナマイシン50mg/L及びカルベニシリン50mg/Lを添加し、1mLの種培養物を加えた。ここに、20g/Lグルコース及び0.5g/L又は1g/Lの3H2MPを添加し、1mMイソプロピルΒ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加してPHA生合成遺伝子の発現を誘導した。培養は130rpm、30℃で72時間行った。全試料を3回培養した。
(ii)P(3HB-co-3H2MP)製造
500mLの振盪フラスコ中の100mL(終体積)のM9改変培地に、カナマイシン50mg/L及びカルベニシリン50mg/Lを添加し、5mLの種培養物を加えた。4時間の培養後、1mMイソプロピルΒ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加した。ここに、5g/Lグルコース及び0.03g/Lの(R)-3HB及び0.4g/Lの3H2MPを4、28及び52時間で添加した。
(iii)P(3H2MP)製造
1.25g/Lのグルコース及び2g/Lの3H2MP前駆物質を4、28及び52時間で添加した。振盪フラスコ培養は、130rpm、30℃で76時間行った。全試料を3回培養した。
【0052】
超音波抽出法によって、乾燥細胞重量及びポリマー含有量を決定した(H. Arikawa, et al., J. Biosci. Bioeng., vol. 124, no. 2, pp. 250-254, 2017)。10mLの培養物を2本の50mLファルコンチューブに別々に添加し、チューブ及び培養物の重量を測定した。このチューブに30mLのメタノールを添加し、培地残渣を除去し、高速冷凍マイクロ遠心分離機(MX-307,東京セイコーインスツルメンツ社)を使用して、9000rpm(7300相対遠心力(RCF))で5分間遠心分離した。細胞ペレットを10mLのRO水及び30mLのメタノールに再懸濁し、凍結乾燥前に更に2回遠心分離した。ポリマー含有チューブに30mLのメタノールを加え、9000rpmで5分間遠心分離した。細胞ペレットを20mLのRO水及び10mLの10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に再懸濁した。得られた溶液を出力レベル4(15W)で4分間連続的に超音波処理し、9000rpm(7300RCF)で5分間遠心分離した。次いで、細胞ペレットを10mLのメタノールに再懸濁し、ボルテックスして細胞を完全に破壊した。この工程を2回繰り返した後、9000rpm(7300RCF)で5分間遠心分離し、72時間凍結乾燥した。
【0053】
[PHA抽出及びPHAキャストフィルムの調製]
クロロホルム(1mgのPHAに対して、2mlのクロロホルム)を用いて、室温で3日間、凍結乾燥した細胞からPHAを抽出した。細胞残渣を濾過し、得られたポリマー溶液を冷ヘキサン中での再沈殿により精製した。次いで、ポリマーをNo.1濾紙(アドバンテック社製)によって回収した。
【0054】
すべてのPHAキャストフィルムを材料特性分析のために調製した。約200mgの精製PHAをある量のクロロホルムに溶解し、0.45μmポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルターで濾過した。次いで,溶液をペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)ペトリ皿に添加し、溶媒が完全に蒸発するまでドラフトチャンバー中で蒸発させた後、室温で4週間エージングした。
【0055】
[PHAの構造及び物性の分析法]
(1)核磁気共鳴(NMR)
約10~15mgの精製されたPHA試料を1mLの重水素化クロロホルム(CDCl3)に溶解し、測定試料とした。核磁気共鳴分光装置(BioSpin Avance III 400A(Bruker)及びBioSpin Avance III HD 500)を使用した。PHAのタクチシティ研究のため、500MHz 13C-NMR分光分析を行った。
なお、PHAのモノマー組成は、NMRスぺクトルにおけるメチン領域のピーク面積間の比を計算することによって決定した。
【0056】
(2)ガスクロマトグラフィー(GC)
PHA試料の絶対キラル構成分析は、ガスクロマトグラフ(GC-MS, QC2010, 株式会社島津製作所)を用いて行った。β-DEX 120カラム(溶融シリカキャピラリーカラム;長さ30m;内径0.25mm;膜厚0.25μm;Supelco)を、別々のキラルモノマーに適用した。温度プログラムは、85℃で15分間の恒温オーブン温度から始まり、10℃/分の加熱速度で200℃まで温度を上昇させ、最後に200℃で5分間保持してカラム内の化学物質残存物を除去した。メチル(R)-3H2MP及びメチル(S)-3H2MPを標準として用い、2~3mgのPHA試料を15%(v/v)硫酸/メタノール中、100℃で8時間メタノール化した。
【0057】
エナンチオマー分率は、m/z88でのMS分光法における各エナンチオマーのピーク面積を計算することによって決定した。また、エナンチオマー過剰率(ee)は下記式に従って計算した。
【0058】
【0059】
(式中、Frは(R)-3H2MPのモル分率を、Fsは(S)-3H2MPのモル分率をそれぞれ表し;Fr+Fs=1である。)
【0060】
(3)示差走査熱量(DSC)
融解及び結晶化挙動は、ヘリウム雰囲気下で示差走査熱量測定(DSC)8500(Perkin-Elmer, Waltham, MA, USA)を用いて分析した。約5~10mgのPHA試料を秤量し、アルミパンに密封した。温度プログラムは、-50℃で2分間保持した後、20℃/分の加熱速度で200℃に昇温(第1加熱工程)、200℃で1分間保持、500℃/分の冷却速度で-50℃に急激に低下、-50℃で1分間保持、20℃/分の加熱速度で200℃に昇温(第2加熱工程)した。最初の融解温度(Tm)及び融解エンタルピー(ΔHm)を第1の加熱工程から決定し、ガラス転移温度(Tg)及び低温結晶化温度(Tcc)を第2の加熱工程から決定した。
【0061】
(4)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
菌体から精製したポリマーの数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)(Mw:重量平均分子量)を求めた。標準物質としてポリスチレンを使用しているため、本発明で求めた分子量はポリスチレン換算分子量である。用いた5種類のポリスチレンの分子量は、3,790、30,300、219,000、756,000及び4,230,000である。
GPC試料は、約2~3mgの精製ポリマーを5mLバイアルに秤量し,1mg/mLとなるようにクロロホルムに溶解し、孔径0.45μmのMillex-FH PVDFフィルター(ミリポア社製)を取り付けたシリンジでろ過して調製した。
GPC測定には、島津製作所製のShimadzu 10A GPCシステムを使用し、カラムにはShodex社製のK-806M及びK-802を用いた。移動層にはクロロホルムを用い、総液流量は0.8mL/分、カラム温度は40℃に設定し、試料注入量は50μLとした。データの解析にはCLASS-VP用GPC(株式会社島津製作所)を用いた。ポリスチレンスタンダードから検量線を引き、これと試料データとを照合することによりポリスチレン換算分子量及び分子量分布を算出した。
【0062】
(5)熱重量分析-示差熱分析(TG-DTA)
PHA試料の熱安定性はTG-DTA(DTG-60,株式会社島津製作所)を用いて分析した。約8~10mgのPHA試料を窒素雰囲気下で、温度プログラムは室温から開始し、10℃/分の加熱速度で500℃まで上昇させた。
【0063】
(6)引張試験
PHA試料の機械的性質は緊張試験機(EZ-S 500N,株式会社島津製作所)によって解析した。ダンベル形状のPHA試料を、スーパーダンベルカッター(SDMP-1000, ISO 37-4/ISO 527-2-5B)を用いて約0.1mmの膜厚で切断した。引張り速度は5mm/分であった。引張強度、降伏強度、ヤング率及び破断伸びは、試験結果の応力-歪み曲線から決定した。
【0064】
実施例1 3H2MPを構成単位として含むPHAの生合成
P(3HB-co-3H2MP)及びP(3H2MP)は、異なる濃度のグルコース及び前駆物質3H2MPを、異なるプラスミドのセットを有する組換えE.coli LSBJに供給することによって合成した。P(3HB-co-3H2MP)合成のためには、プラスミドpBBR1P(D4N)CJAcABReNSDG及びプラスミドpTTQ19-PCTを使用し、P(3H2MP)合成のためには、プラスミドpBBR1P(D4N)CAcNSDG及びプラスミドpTTQ19-PCTを使用した。前駆物質3H2MPは、(R)-3H2MP、(S)-3H2MP、又は(R)-3H2MPと(S)-3H2MPとの混合物を用いた。結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1より、前記(i)の合成条件下では、5~8mol%の3H2MP単位を含むP(3HB-co-3H2MP)が得られ、細胞増殖速度及びポリマー含有量は全試料についてほぼ同じであった。また、前駆物質の混合物(試料「1-Rac-1」)を添加した場合には、21mol%の3H2MP単位を含むP(3HB-co-3H2MP)が得られた。
一方、グルコース添加量を抑えた前記(ii)の合成条件下では、3H2MP単位に富むP(3HB-co-3H2MP)(37~50mol% 3H2MP)が得られた。細胞増殖及びポリマー収率は、全試料についてほぼ同じであり、(R)-3HBの導入によって引き起こされ得る顕著な変化がないことを示している。
【0067】
実施例2 PHAの化学構造
図2に、P(3HB)、P(3H2MP)、及びP(3HB-co-5mol% 3H2MP)(試料「1-Rac」)の400MHz
1H-NMRスペクトルを示す。コポリマー試料のモノマー組成比の計算のためにシグナル2及び4を選択した。また、上記試料の100MHz
13C-NMRスペクトルを
図3に示す。
【0068】
3H2MP単位のα‐炭素にキラル中心が存在するため、(R)-又は(S)-3H2MPを前駆物質として合成されたPHAはキラル特性を示すと予想された。メチル(R)-3H2MP及びメチル(S)-3H2MPを標準物質として使用し、キラル分離カラムを備えたGCによって合成されたPHAを分析した(
図4)。
図4のAには、メチル(R)-3H2MP及びメチル(S)-3H2MPのGC-MSスペクトルを示す。メチル3H2MPのフラグメンテーションパターンに基づいてm/z88のベーススペクトルを設定することにより、メチル(R)-3H2MPは11.9分の保持時間、メチル(S)-3H2MPは12.4分の保持時間を示し、このことは2つのエナンチオマーがMSスペクトルで明確に分離できることを示している。
図4のBには、表1に記載の全試料についての(R)-3H2MP及び(S)-3H2MPの保持時間及びピーク強度を示す。試料の純度に起因するピークの僅かなシフトにより保持時間が僅かに変化した。最左カラムの、(R)-及び(S)-3H2MPは100%のアイソタクチシティを示し、(R)-3H2MPと(S)-3H2MPとの混合物((Rac)-3H2MP)は1:1に近いR:S比を有する。
【0069】
前駆物質として(R)-3H2MP又は(Rac)-3H2MPを用いて合成したPHAでは、PHA中の3H2MPの組成比の増大に伴って、(R)-3H2MPの割合はそれぞれ100%から40%に、43%から17%に直線的に減少する傾向が見られた(表2、
図5)。一方、前駆物質として(S)-3H2MPを用いた場合には、全てのP(3HB-co-3H2MP)試料中に100%の(S)-3H2MP単位が存在し、P(3H2MP)試料中に99%の(S)-3H2MP単位が存在し、キラリティーの変化を示さなかった(表2、
図5)。
【0070】
【0071】
また、P(3H2MP)のタクチシティを500MHz
13C-NMR分光法で解析し(
図6)、メチル領域(約14ppm)、メチン領域(約40ppm)、及びカルボニル領域(約174ppm)を、GC-MSデータ及び文献(N. Ajellal et al., Macromolecules, vol. 42, no. 4, pp. 987-993, 2009;J. Kiriratnikom, et al., Front. Chem., vol. 7, p. 301, 2019)に従って、ダイアド及びトライアドに割り当てた。試料「3-S」は、上記の全ての領域において、極めて高いメソダイアド(m)配列又はアイソタクチックトリアド(mm)配列を示した(
図6のB)。試料「3-R」及び「3-Rac」についても、ダイアド配列とトライアド配列との間の比を除いて、同様のパターンが得られた。試料「3-R」は、シンジオタクチックに富む配列(m又はmm)を有するポリマーであるのに対して、試料「3-Rac」はアイソタクチックに富むポリマーであることが分かった(
図6のA及びC)。
図6において、「メソダイアド」は2つの同一の配向単位から成り、「アイソタクチックトリアド」は2つの隣接するメソダイアドから成る。「ラセモダイアド」は2つの反対の配向単位から成り、「シンジオタクチックトリアド」は2つの隣接するラセモダイアドから成る。
【0072】
実施例3 PHAの分子量及び熱特性
GPCを用いてPHA試料の分子量を測定した(表2)。全試料の重量平均分子量(Mw)は3.4×104~84.6×104まで変化した。試料「3-R」はMwの最低値を有し、前駆物質を変える以外は同一条件下で合成された試料「3-S」及び「3-Rac」と比べて僅か10分の1であった。この結果は、PHA重合酵素(phaCAcNSDG)による(R)-3H2MP-CoAの取込みが、(S)-3H2MP-CoAと比較して相対的に低いことを示す。
【0073】
DSCを用いてPHA試料の熱特性を測定した(表3)。
【0074】
【0075】
第1の加熱工程に関して,室温で4週間のエージング後の全試料の晶析履歴を測定した。試料「3-R」を除いて、全試料が結晶化挙動を示した。P(3HB-co-3H2MP)の試料は、モノマー組成及びキラリティーに関わらず、約155℃と約170℃の融点(T
m2とT
m3)を示した(
図7)。2つの融点はラメラ結晶の二次結晶化に関連し、155℃付近の最初のピークはポリマーの最初の結晶化に対応し、170℃でのピークは加熱過程中の3HB結晶の再形成に対応する(H. Mitomo, et al., Polym. J., vol. 19, no. 11, pp. 1241-1253, 1987;S. Kusaka, et al., J. Macromol. Sci. Part A Pure Appl. Chem., vol. 35, no. 2, pp. 319-335, 1998)。
【0076】
3HBに富むP(3HB-co-3H2MP)の融解エンタルピー(ΔHm)は、3H2MPの組成比の増加と共に減少し、低い結晶化度をもたらした。このことは、大量のコモノマー単位(3H2MP)が3HBポリマーマトリックスに導入された場合に結晶構造を形成することが困難であることを示唆している。
また、融点Tm2とTm3に加えて、50℃付近に小エンタルピーを持つTm1が現れた。これは、エージング過程でP(3H2MP)の結晶が形成されたことを示す。P(3H2MP)に関しては、3H2MP単位のキラリティーがポリマーの結晶化度に重要な役割を果たした。
試料「3-S」は、試料「3-Rac」の50℃及び68℃の融点と比較して、114℃及び119℃のより高い融点を示した。これは、試料「3-S」が試料「3-R」を超える比較的高い結晶挙動を有することを示すものである。一方、ランダムに分布した(R)-3H2MP及び(S)-3H2MP単位から構成される試料「3-R」は非晶質であった。
【0077】
全試料のガラス転移温度Tgは、P(3HB-co-3H2MP)中の3H2MP単位の組成比が高くなるにつれて低下した。このことは、同様の主鎖構造を有するPHAのTgに対応しており、主鎖構造が側鎖よりもTgに対してより有意な影響を有することを示している(M. Mierzati, et al., Polym. Degrad. Stab., vol. 178, p. 109193, 2020)。全てのP(3H2MP)試料について-23℃の最低Tgが観察され、ポリマーのタクチシティはTgに影響を与えないことが明らかとなった。
【0078】
試料「1-Rac」(5mol% 3H2MP)、試料「1-Rac-1」(21mol% 3H2MP)、試料「3-S」(100mol% 3H2MP)、及び試料「3-Rac」(100mol% 3H2MP)の熱安定性をTG分析により決定した。データを表3に、熱分解曲線を
図8に示す。PHA中の3H2MP分率の増加によって、試料はより強い熱安定性を示し、試料「3-S」及び「3-Rac」は、いずれも313℃の5%重量減量温度(T
d5)を示した。これらの試料は、熱処理後にほぼ100%の重量減少に達した。このことは熱処理後に固体残渣がなく、主にガスであったことを示している。
【0079】
実施例4 PHAの機械的特性
PHAの機械的特性を引張試験により測定した(表4)。全試料のうち、ダンベル形状のフィルムに切断することができた試料「3-S」、「3-Rac」、及び3HBに富む試料「1-Rac」、「1-Rac-1」のみを分析した。他の試料は、柔らかく脆いために、ダンベル形状のフィルムに切断することができなかった。
【0080】
【0081】
応力-歪み曲線を
図9に示す。
図9のAは、試料「1-Rac」(5mol% 3H2MP)と試料「1-Rac-1」(21mol% 3H2MP)との比較を示す。両PHAコポリマーにおいて5~21mol%の3H2MP単位の組み込みは、ポリマーの展延性を十分に増強し、破断伸びは引張強度を維持しながら25%~764%であった。この結果はポリマーの結晶化度に依る。3H2MP単位の分率の増加はポリマー構造中により多くの非晶質領域をもたらし、よってポリマーをより弾性にした。
図9のBは、アイソタクチックホモポリマー試料「3-S」とアタクチックホモポリマー試料「3-Rac」との比較を示す。結晶性の低い試料「3-Rac」は880%の高い破断伸びを示し、これは試料「3-S」のほぼ2倍であった。また、試料「3-S」と試料「3-Rac」とは同じ引張強度を有するものの、試料「3-S」の降伏強度は試料「3-Rac」よりも遥かに高かった。ポリマーの変形は、ランダムに整列した非晶質相がその分子形成を再配列し始める時に起こるので、より多い結晶相を有するポリマーはより高い抵抗力を有することになる。
本発明によって製造された、(R)-3H2MP又は(S)-3H2MPを構成単位として含むキラルなコポリマーP(3HB-co-3H2MP)、及び(R)-3H2MP又は(S)-3H2MPを構成単位とするキラルなホモポリマーP(3H2MP)含む様々なPHAは、種々の材料特性を有し、バイオプラスチック材料として有用である。