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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068472
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240513BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178966
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】林 圭一
(72)【発明者】
【氏名】小島 昌人
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA22
5H050GA29
(57)【要約】
【課題】塗布工程の再開後に初めて乾燥炉に搬送された塗液が過乾燥となることを抑制できる電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】電極の製造方法は、塗布工程Pr1と、乾燥工程と、を含む。乾燥工程は、第1の乾燥工程と、第2の乾燥工程Pr22と、を含む。第1の乾燥工程は、乾燥炉40の乾燥強度が所定の乾燥強度となる熱風の風量及び温度で当該乾燥炉40を動作して実行される。第2の乾燥工程Pr22は、乾燥炉40の乾燥強度が所定の乾燥強度よりも低い乾燥強度となる熱風の風量及び温度で当該乾燥炉40を動作して実行される。塗布工程Pr1を中断した後に塗布工程Pr1を再開してから所定の時点までの期間において、第2の乾燥工程Pr22を行う。所定の時点の後、第1の乾燥工程を行う。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の基体が巻き付けられた原反と、前記原反から送り出された前記基体に活物質を含有する塗液を塗布する塗布部と、前記基体に塗布された前記塗液を熱風により乾燥させる乾燥炉と、前記乾燥炉を通過した前記基体を巻き取る巻取ロールと、を含む電極製造装置が用いられ、
前記塗布部により前記塗液を前記基体に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程後に前記塗液が塗布された前記基体を前記乾燥炉に連続的に搬送しつつ、前記乾燥炉により前記塗液を乾燥させる乾燥工程と、を含む電極の製造方法であって、
前記乾燥工程は、
前記乾燥炉の乾燥強度が所定の乾燥強度となる前記熱風の風量及び温度で前記乾燥炉を動作して実行される第1の乾燥工程と、
前記乾燥炉の乾燥強度が前記所定の乾燥強度よりも低い乾燥強度となる前記熱風の風量及び温度で前記乾燥炉を動作して実行される第2の乾燥工程と、を含み、
前記第1の乾燥工程を行っている間に前記塗布工程を中断したとき、前記所定の乾燥強度が維持されるように前記乾燥炉を動作させ、
前記塗布工程を中断した後に前記塗布工程を再開してから所定の時点までの期間において、前記第2の乾燥工程を行い、
前記所定の時点の後、前記第1の乾燥工程を行うことを特徴とする電極の製造方法。
【請求項2】
前記所定の時点は、前記塗布工程の再開後に初めて前記乾燥炉に搬送された前記塗液が前記乾燥炉を通過した後の時点である、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記第2の乾燥工程では、前記乾燥炉における前記熱風の風量を下げることで前記乾燥強度を下げる、請求項1又は請求項2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程は前記原反の交換を行う時に中断され、
前記基体の量が少ない方の前記原反を旧原反とし、前記基体の量が多い方の前記原反を新原反とすると、
前記原反の交換は、前記巻取ロールによる前記基体の巻き取りを継続しつつ前記旧原反における前記基体の終端と前記新原反における前記基体の始端とを張り合わせることを含み、
前記終端と前記始端とが張り合わされた部分が前記塗布部を通過するまでに前記塗布工程を中断するとともに、前記終端と前記始端とが張り合わされた部分が前記乾燥炉を通過した後に前記塗布工程を再開する、請求項1又は請求項2に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電極の製造方法が記載されている。
上記の電極の製造方法では、送りロールと、コータと、乾燥炉と、巻取ロールと、を含む電極製造装置が用いられている。送りロールには、帯状の金属箔が巻き付けられている。送りロールは、金属箔が巻き付けられた原反である。コータは、送りロールから送り出された金属箔に活物質を含有する塗液を塗布する塗布部である。乾燥炉は、金属箔に塗布された塗液を熱風により乾燥させる。巻取ロールは、乾燥炉を通過した金属箔を巻き取る。
【0003】
電極の製造方法は、塗布工程と、乾燥工程と、を含む。塗布工程は、コータにより塗液を金属箔に塗布する工程である。乾燥工程は、塗布工程後に塗液が塗布された金属箔を乾燥炉に連続的に搬送しつつ、乾燥炉により金属箔に塗布された塗液を乾燥させる工程である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-102696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電極の製造を継続すると、いずれ原反の交換やコータへの塗液の補充等により、塗布工程を中断する場合がある。塗布工程を中断しているときに乾燥炉の内部に塗液が塗布された金属箔が存在していない場合がある。この場合、乾燥炉の動作を停止させたいが、乾燥炉の再稼働までに時間がかかることがある。このため、塗布工程を中断しているときに乾燥炉の内部に塗液が塗布された金属箔が存在していない場合であっても、乾燥炉を継続動作させることが好ましい。
【0006】
ところで、乾燥炉を継続動作させつつ塗布工程を中断したときに乾燥炉の内部に塗液が塗布された金属箔が存在しない場合、乾燥炉の内部に塗液が塗布された金属箔が存在する場合と比較して、乾燥炉の温度が高くなる。すると、塗布工程を再開したとき、塗布工程の再開直後に乾燥炉に搬送される金属箔に塗布された塗液が過乾燥となる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する電極の製造方法は、帯状の基体が巻き付けられた原反と、前記原反から送り出された前記基体に活物質を含有する塗液を塗布する塗布部と、前記基体に塗布された前記塗液を熱風により乾燥させる乾燥炉と、前記乾燥炉を通過した前記基体を巻き取る巻取ロールと、を含む電極製造装置が用いられ、前記塗布部により前記塗液を前記基体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程後に前記塗液が塗布された前記基体を前記乾燥炉に連続的に搬送しつつ、前記乾燥炉により前記塗液を乾燥させる乾燥工程と、を含む電極の製造方法であって、前記乾燥工程は、前記乾燥炉の乾燥強度が所定の乾燥強度となる前記熱風の風量及び温度で前記乾燥炉を動作して実行される第1の乾燥工程と、前記乾燥炉の乾燥強度が前記所定の乾燥強度よりも低い乾燥強度となる前記熱風の風量及び温度で前記乾燥炉を動作して実行される第2の乾燥工程と、を含み、前記第1の乾燥工程を行っている間に前記塗布工程を中断したとき、前記所定の乾燥強度が維持されるように前記乾燥炉を動作させ、前記塗布工程を中断した後に前記塗布工程を再開してから所定の時点までの期間において、前記第2の乾燥工程を行い、前記所定の時点の後、前記第1の乾燥工程を行う。
【0008】
上記の電極の製造方法によれば、塗布工程を再開してから所定の時点までの期間において、第2の乾燥工程を行った後、再度第1の乾燥工程を行う。つまり、塗布工程を再開後に初めて乾燥炉に搬送される塗液を乾燥させるときの乾燥炉の乾燥強度を一時的に低下させることができる。よって、塗布工程を中断しているときに乾燥炉の温度が高くなったとしても、塗布工程の再開後に初めて乾燥炉に搬送された塗液が過乾燥となることを抑制できる。
【0009】
上記の電極の製造方法において、前記所定の時点は、前記塗布工程の再開後に初めて前記乾燥炉に搬送された前記塗液が前記乾燥炉を通過した後の時点であるとよい。
上記の電極の製造方法によれば、塗布工程の再開後に初めて乾燥炉に搬送された塗液が乾燥炉の中に存在する間、常に第2の乾燥工程が行われる。よって、塗布工程の再開後に初めて乾燥炉に搬送された塗液が乾燥炉を通過するまでの間は乾燥炉の乾燥強度を低下した状態に維持できる。よって、塗布工程の再開後に初めて乾燥炉に搬送された塗液が過乾燥となることをより確実に抑制できる。
【0010】
上記の電極の製造方法において、前記第2の乾燥工程では、前記乾燥炉における前記熱風の風量を下げることで前記乾燥強度を下げるとよい。
塗液の乾燥状態は、乾燥炉の乾燥強度、つまり、乾燥炉における熱風の風量及び温度により決まる。熱風の温度を調整する時間よりも熱風の風量を調整する時間の方が短い。このため、上記の電極の製造方法では、第2の乾燥工程で乾燥炉の乾燥強度を下げるために、乾燥炉における熱風の風量を下げる手法を選択したことにより、塗液の乾燥状態に瞬時に影響を与えることができる。よって、塗液の過乾燥をより抑制できる。
【0011】
上記の電極の製造方法において、前記塗布工程は前記原反の交換を行うときに中断され、前記基体の量が少ない方の前記原反を旧原反とし、前記基体の量が多い方の前記原反を新原反とすると、前記原反の交換は、前記巻取ロールによる前記基体の巻き取りを継続しつつ前記旧原反における前記基体の終端と前記新原反における前記基体の始端とを張り合わせることを含み、前記終端と前記始端とが張り合わされた部分が前記塗布部を通過するまでに前記塗布工程を中断するとともに、前記終端と前記始端とが張り合わされた部分が前記乾燥炉を通過した後に前記塗布工程を再開するとよい。
【0012】
上記の電極の製造方法によれば、旧原反における基体の終端と新原反における基体の始端とを張り合わせた状態で巻取ロールによる基体の巻き取りが継続される。このため、基体が常に乾燥炉を通過した状態を維持できる。つまり、旧原反における基体の終端が巻取ロールに巻き取られた後に、新原反における基体の始端を改めて乾燥炉に通過させるといった手間を省くことができる。よって、原反を交換するときに乾燥炉に対する基体の取り回しを効率良く実施できるため、電極の製造を好適に実施できる。
【0013】
また、旧原反における基体の終端と新原反における基体の始端とを張り合わせた部分は、電極に用いられずに廃棄される。旧原反における基体の終端と新原反における基体の始端とを張り合わせた部分が塗布部を通過するまでに塗布工程が中断される。そして、旧原反における基体の終端と新原反における基体の始端とを張り合わせた部分が乾燥炉を通過した後に塗布工程を再開する。このため、集電体のうち廃棄される部分に塗液が無駄に塗布されることを抑制することにより塗液のコスト低減を実現できる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、塗布工程の再開後に初めて乾燥炉に搬送された塗液が過乾燥となることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電極の製造方法を示す概略図である。
図2】原反の交換を示す概略図である。
図3】塗布工程を再開したときを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、電極の製造方法を具体化した実施形態を図1図3にしたがって説明する。
<電極製造装置>
図1に示すように、電極の製造方法では、電極製造装置10が用いられる。電極製造装置10は、原反20と、塗布部30と、4つの乾燥炉40と、巻取ロール50と、を含む。原反20は、帯状の集電体100が巻き付けられている。集電体100は、基体の一例である。集電体100は、第1面101及び第2面102を有している。集電体100は、原反20から巻取ロール50に向けて搬送されている。集電体100が搬送される方向を搬送方向Aとする。
【0017】
塗布部30は、集電体100の第1面101に対向している。塗布部30は、搬送方向Aにおいて原反20よりも下流に配置されている。塗布部30は、原反20から送り出された集電体100に塗液31を塗布する装置である。塗液31は、正極活物質又は負極活物質を含有している。よって、塗液31は、活物質を含有している。塗布部30は、集電体100に対する塗液31の吐出量を調整している。塗布部30には、塗液31が充填されている、もしくは塗液31が図示しない供給装置から供給されている。本実施形態では、塗布部30は、搬送方向Aに搬送される集電体100の第1面101に間欠的に塗液31を塗布している。
【0018】
本実施形態で製造される電極が、例えばリチウムイオン電池に使用される正極である場合、塗液31は、リチウムイオンなどの電荷担体を吸蔵及び放出し得る正極活物質を含む正極活物質を含む。正極活物質としては、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物、ポリアニオン系化合物など、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なものを採用すればよい。また、二種以上の正極活物質を併用してもよい。
【0019】
本実施形態で製造される電極が、例えばリチウムイオン電池に使用される負極である場合、塗液31は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はなく使用可能である。例えば、負極活物質としてLi、又は、炭素、金属化合物、リチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。炭素としては天然黒鉛、人造黒鉛、あるいはハードカーボン(難黒鉛化性炭素)又はソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)を挙げることができる。人造黒鉛としては、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ等が挙げられる。リチウムと合金化可能な元素の例としては、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。
【0020】
本実施形態で採用される集電体100は、例えば、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、集電体100に塗布された塗液31により形成される活物質層に電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。集電体100の材料は、例えば、金属材料、導電性樹脂材料又は導電性無機材料等である。導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。集電体100は、複数の層を備えていてもよい。この場合、集電体100の各層は、上記の金属材料及び/又は導電性樹脂材料を含んでいてもよい。なお、本実施形態で製造される電極は、リチウムイオン電池以外の電池に使用される電極であってもよい。この場合、塗液31に含有される活物質は、上記に限らず適宜変更してもよい。
【0021】
4つの乾燥炉40は、搬送方向Aにおいて原反20と巻取ロール50との間に配置されている。4つの乾燥炉40は、搬送方向Aにおいて塗布部30よりも下流に配置されている。4つの乾燥炉40は、搬送方向Aに並んでいる。4つの乾燥炉40には、塗布部30により塗液31が塗布された集電体100が連続的に搬送される。
【0022】
4つの乾燥炉40は、箱状の炉本体41と、熱風生成部42と、を有している。4つの乾燥炉40の各々の炉本体41は、集電体100が通過できるように搬送方向Aに開口している。熱風生成部42は、熱生成部42aと、ファン42bとを含む。熱生成部42aは、例えば熱源であるボイラー及び熱交換器を含む。熱生成部42aは、ボイラー内で水を蒸発させたときに生成される水蒸気の熱を、熱交換器を介してファン42bの周囲の空気に供給する。なお、熱生成部42aは、ファン42bの周囲の空気に熱を供給できる構成であれば適宜変更してもよい。
【0023】
ファン42bは、炉本体41内で搬送方向Aと逆方向Bに流れる風を発生させる。ファン42bは、熱生成部42aにより生成された熱を吸収した周辺の空気を炉本体41の内部に送る。つまり、ファン42bは、炉本体41の内部に熱風を送る。炉本体41の内部に塗液31が塗布された集電体100が通過している場合、塗液31は、炉本体41に送られた熱風により乾燥させられる。4つの乾燥炉40は、集電体100に塗布された塗液31を熱風により乾燥させる。炉本体41に送られた熱風は、ファン42bにより再び熱風生成部42へと引き込まれる。つまり、熱風生成部42により生成された熱風は、炉本体41の内部を循環している。
【0024】
4つの乾燥炉40により塗液31が乾燥させることにより集電体100の第1面101には、塗布膜32が形成される。4つの乾燥炉40を通過した集電体100には、塗布膜32が形成されている。つまり、塗液31を塗布した集電体100が4つの乾燥炉40を通過することにより電極が形成される。そして、巻取ロール50が4つの乾燥炉40を通過した集電体100を巻き取る。巻取ロール50には、電極が巻き取られる。
【0025】
4つの乾燥炉40において、熱風の風量及び温度はそれぞれ同じに設定されてもよいし、異なるように設定されてもよい。本実施形態においては、搬送方向Aにおいて最も下流に位置する乾燥炉40を除く3つの乾燥炉40における熱風の風量及び温度は、互いに同じに設定されている。そして、搬送方向Aにおいて最も下流に位置する乾燥炉40における熱風の風量及び温度は、他の3つの乾燥炉40における熱風の風量及び温度よりも低くなるように設定されている。最も下流に位置する乾燥炉40の熱風の風量及び温度を調整することにより、塗液31が過乾燥とならない程度に乾燥されることを可能としている。
【0026】
<電極の製造方法>
図1に示すように、電極の製造方法は、塗布工程Pr1と、乾燥工程Pr2と、を有している。塗布工程Pr1は、塗布部30により塗液31を集電体100に塗布する工程である。乾燥工程Pr2は、塗布工程Pr1後に実施される工程である。乾燥工程Pr2は、塗布工程Pr1後に塗液31が塗布された集電体100を乾燥炉40に連続的に搬送しつつ、乾燥炉40により塗液31を乾燥させる工程である。
【0027】
乾燥工程Pr2は、第1の乾燥工程Pr21と、第2の乾燥工程Pr22と、を含む。第1の乾燥工程Pr21は、乾燥炉40のそれぞれにおける乾燥強度が所定の乾燥強度となる熱風の風量及び温度で乾燥炉40のそれぞれを動作して実行される。乾燥炉40における乾燥強度とは、乾燥炉40の内部に存在する塗液31の乾燥しやすさを示す指標である。乾燥炉40における乾燥強度は、乾燥炉40における熱風の風量及び温度により決まる。本実施形態における所定の乾燥強度とは、塗布工程Pr1を継続して実行しているときに、塗液31が好適に乾燥するように全ての乾燥炉40のそれぞれにおいて設定された乾燥強度である。前述の通り、本実施形態においては最も下流に位置する乾燥炉40を除く3つの乾燥炉40における所定の乾燥強度が、最も下流に位置する乾燥炉40における所定の乾燥強度よりも高くなるよう設定される。第2の乾燥工程Pr22は、乾燥炉40のそれぞれにおける乾燥強度が所定の乾燥強度よりも低い乾燥強度となる熱風の風量及び温度で乾燥炉40のそれぞれを動作して実行される。なお、電極の製造方法は、例えば、乾燥炉40を通過した集電体100を冷却する冷却工程が含まれていてもよい。電極の製造方法は、塗布工程Pr1と、乾燥工程Pr2と、が含まれていればよい。
【0028】
<塗布工程の中断について>
電極の製造を継続すると、例えば、原反20の交換や塗布部30への塗液31の補充等により、電極の製造が再開できる準備が整うまで塗布工程Pr1を中断する場合がある。塗布工程Pr1を中断した直後は、乾燥されていない塗液31が集電体100上に存在する。このため、全ての乾燥炉40を継続動作させることにより乾燥工程Pr2を継続しつつ巻取ロール50による集電体100の巻き取りも継続され得る。
【0029】
なお、塗布工程Pr1を中断することは、単に塗布部30から塗液31を吐出させないことではない。本実施形態では、塗液31を集電体100に間欠的に塗布するために一時的に塗液31が塗布されない停止期間がある。塗布工程Pr1を中断することは、電極の製造が再開できる準備が整うまでの期間であって、停止期間よりも長く塗布部30から塗液31を吐出させないことである。
【0030】
<原反の交換と塗布工程について>
本実施形態において、塗布工程Pr1は、原反20の交換を行うときに中断される。以下、図2及び図3を用いて原反20を交換する場合の動作を説明する。原反20を交換するときにおいて、集電体100の量が少ない方の原反20を旧原反201とし、集電体100の量が多い方の原反20を新原反202とする。
【0031】
図2に示すように、原反20の交換は、巻取ロール50による集電体100の巻き取りを継続しつつ旧原反201における集電体100の終端100bと新原反202における集電体100の始端100aとを張り合わせることを含む。始端100a及び終端100bは、集電体100の長辺方向の端である。始端100aとは、原反20から集電体100を送り出すときに最初に送り出される集電体100の端である。終端100bとは、原反20から集電体100を送り出していくにつれて最後に送り出される集電体100の端である。旧原反201における集電体100の終端100bと新原反202における集電体100の始端100aとは、例えば両面テープにより張り付けられる。
【0032】
塗布工程Pr1は、旧原反201における集電体100の終端100bと新原反202における集電体100の始端100aとを張り合わせた部分が塗布部30を通過するまでに中断される。
【0033】
全ての乾燥炉40は、乾燥工程Pr2において塗布工程Pr1が中断される前に継続して電極の製造がなされている間は第1の乾燥工程Pr21を行う。塗布工程Pr1が中断されたとしても、全ての乾燥炉40は、第1の乾燥工程Pr21を継続して行う。つまり、第1の乾燥工程Pr21は、第1の乾燥工程Pr21を行っている間に塗布工程Pr1を中断したとき、所定の乾燥強度が維持されるように乾燥炉40のそれぞれを動作させる工程である。なお、塗布工程Pr1が中断しているとき、巻取ロール50による集電体100の巻き取りが継続されるため、乾燥炉40による塗液31の乾燥と、全ての乾燥炉40に対する新原反202の集電体100の取り回しと、が同時に実施される。
【0034】
図3に示すように、巻取ロール50による集電体100の巻き取りを継続すると、旧原反201に巻き付けられていた集電体100の終端100bと、新原反202における集電体100の始端100aとを張り合わされた部分が全ての乾燥炉40を通過する。旧原反201に巻き付けられていた集電体100の終端100bと、新原反202における集電体100の始端100aとを張り合わされた部分が全ての乾燥炉40を通過するまでの期間は、例えば1分程度である。本実施形態では、旧原反201に巻き付けられていた集電体100の終端100bと、新原反202における集電体100の始端100aとを張り合わされた部分が全ての乾燥炉40を通過した後に塗布工程Pr1を再開する。そして、旧原反201における集電体100の終端100bと、新原反202における集電体100の始端100aとが張り合わされた部分は、切り取られて廃棄される。そして、新原反202における集電体100の始端100aを切り取った箇所は、新しい巻取ロール50である新巻取ロールに張り付けられる。
【0035】
<塗布工程の再開後について>
全ての乾燥炉40を継続動作させつつ塗布工程Pr1を中断しているとき、巻取ロール50による集電体100の巻き取りが継続されることにより、いずれ乾燥炉40の内部に塗液31が塗布された集電体100が存在しなくなる。すなわち、塗液31が塗布されていない集電体100のみが乾燥炉40の内部に存在する状態となる。すると、乾燥炉40の熱を塗液31が吸収しないため、全ての乾燥炉40の温度は、乾燥炉40の内部に塗液31が塗布された集電体100が存在する場合の乾燥炉40の温度と比較して高くなることがある。このため、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31が過乾燥となる虞がある。
【0036】
その点、本実施形態では、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31の過乾燥を抑制できる手法を採用している。本実施形態では、塗布工程Pr1を中断した後に塗布工程Pr1を再開してから所定の時点までの期間において、全ての乾燥炉40が第2の乾燥工程Pr22を実行する。
【0037】
塗布工程Pr1を再開してから所定の時点までの期間は、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31が全ての乾燥炉40を通過した時点で十分に乾燥されており、且つ塗布膜32が集電体100から剥がれないことを予め実験的に確認したうえで設定される。
【0038】
所定の時点は、塗液31の乾燥経路の長さ等に応じて適宜変更される。所定の時点は、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31が全ての乾燥炉40を通過した時点、又はそれよりも後の時点であってもよい。所定の時点は、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31が乾燥炉40の内部に位置する任意の時点であってもよい。すなわち、所定の時点は、少なくとも塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31が乾燥炉40に入った後の時点に設定され得る。また所定の時点は、搬送方向Aにおいて最も下流に位置する乾燥炉40の温度が塗布工程Pr1を中断する前と同じ温度に下がるまでの時間を基準として決定されてもよい。要するに、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31が集電体100から剥がれない程度に十分に乾燥できるのであれば、所定の時点は、任意である。
【0039】
本実施形態においては、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送された塗液31が全ての乾燥炉40を通過した後の時点を所定の時点として設定している。
第2の乾燥工程Pr22では、全ての乾燥炉40における熱風の風量を下げることで、乾燥炉40のそれぞれにおける乾燥強度を下げる。つまり、塗布工程Pr1を再開したとき、乾燥炉40のそれぞれにおけるファン42bの出力を、第1の乾燥工程Pr21を実行しているときの乾燥炉40のそれぞれのファン42bの出力よりも下げる。本実施形態においては、乾燥炉40のそれぞれのファン42bは、塗布工程Pr1が再開したときに塗布部30から出力される信号を契機に、その出力を下げることで熱風の風量を下げる。このため、乾燥炉40において、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31に吹き付けられる熱風の勢いが弱まる。すると、塗液31が熱風から吸収する熱量が少なくなる。そして、塗液31に含まれる水分が揮発しにくくなるため、塗液31の乾燥しにくくなる。これにより、塗布工程Pr1の再開直後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31の過乾燥を抑制している。
【0040】
全ての乾燥炉40は、塗布工程Pr1が再開してから所定の時点までの期間において、第2の乾燥工程Pr22を実行した後、再び第1の乾燥工程Pr21を行う。つまり、全ての乾燥炉40は、所定の時点後、第1の乾燥工程Pr21を行う。所定の時点は、全ての乾燥炉40における熱風の風量を塗布工程Pr1の再開直前の水準と同等に戻す時点と同義である。すなわち、乾燥炉40のそれぞれは、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31の過乾燥を抑制するために第2の乾燥工程Pr22を行うことにより一時的に乾燥強度を低下させる。
【0041】
<塗布工程の再開前後のファンの出力と塗布膜の剥がれとの関係性>
表1に示すように、電極の製造において塗布工程Pr1の再開前後において全ての乾燥炉40における熱風の風量を変更しなかった場合に形成された電極を比較例とする。そして、電極の製造において、本実施形態により形成された電極を実施例とする。なお、比較例及び実施例の製造において、塗布工程Pr1の再開前におけるファン42bの出力は同じである。表1に記載された塗布工程Pr1の再開後におけるファン42bの出力を示す数値は、塗布工程Pr1の再開前におけるファン42bの出力を「100」とした場合の数値である。
【0042】
本願発明者らは、比較例及び実施例の各々の塗布膜32の集電体100からの剥がれを確認するため、JIS K 5600-5-1にて規定される円筒形マンドレル法による折り曲げ試験を実施した。マンドレルの直径は、20mmのものを用いた。その結果を表1に示す。比較例における塗布膜32の剥がれは、「×(剥がれ有り)」となった一方で、実施例における塗布膜32の剥がれは、「○(剥がれ無し)」となった。要するに、上記の試験結果は、塗布工程Pr1を再開したとき、全ての乾燥炉40における熱風の風量を下げることにより、塗液31の過乾燥が抑制されるため、塗布膜32の集電体100に対する接着力が維持されることを示している。
【0043】
【表1】
【0044】
[本実施形態の作用及び効果]
本実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)塗布工程Pr1を再開してから所定の時点までの期間において、第2の乾燥工程Pr22を行った後、再度第1の乾燥工程Pr21を行う。つまり、塗布工程Pr1を再開後に初めて乾燥炉40に搬送される塗液31を乾燥させるときの乾燥炉40の乾燥強度を一時的に低下させることができる。よって、塗布工程Pr1を中断しているときに乾燥炉40の温度が高くなったとしても、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送された塗液31が過乾燥となることを抑制できる。
【0045】
(2)所定の時点は、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送された塗液31が全ての乾燥炉40を通過した後の時点である。このため、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送された塗液31が乾燥炉40の中に存在する間、常に第2の乾燥工程Pr22が行われる。よって、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送された塗液31が乾燥炉40を通過するまでの間は、乾燥炉40の熱風の風量を下げることにより、乾燥炉40の乾燥強度を低下した状態に維持できる。よって、塗布工程Pr1の再開後に初めて乾燥炉40に搬送された塗液31が過乾燥となることをより確実に抑制できる。
【0046】
(3)第2の乾燥工程Pr22では、乾燥炉40における熱風の風量を下げることで乾燥炉40の乾燥強度を下げている。熱風の温度を調整する時間よりも熱風の風量を調整する時間の方が短い。
【0047】
このため、本実施形態では、第2の乾燥工程Pr22で乾燥炉40の乾燥強度を下げるために、乾燥炉40における熱風の風量を下げる手法を選択したことにより、塗液31の乾燥状態に瞬時に影響を与えることができる。よって、塗液31の過乾燥をより抑制できる。
【0048】
(4)旧原反201における集電体100の終端100bと新原反202における集電体100の始端100aとを張り合わせた状態で巻取ロール50による集電体100の巻き取りが継続される。このため、集電体100が常に全ての乾燥炉40を通過した状態を維持できる。つまり、旧原反201における集電体100の終端100bが巻取ロール50に巻き取られた後に、新原反202における集電体100の始端100aを改めて全ての乾燥炉40に通過させるといった手間を省くことができる。よって、原反20を交換するときに全ての乾燥炉40に対する集電体100の取り回しを効率良く実施できるため、電極の製造を好適に実施できる。
【0049】
(5)旧原反201における集電体100の終端100bと新原反202における集電体100の始端100aとを張り合わせた部分は、電極に用いられずに廃棄される。旧原反201における集電体100の終端100bと新原反202における集電体100の始端100aとを張り合わせた部分が塗布部30を通過するまでに塗布工程Pr1が中断される。そして、旧原反201における集電体100の終端100bと新原反202における集電体100の始端100aとを張り合わせた部分が乾燥炉40を通過した後に塗布工程Pr1を再開する。このため、集電体100のうち廃棄される部分に塗液31が無駄に塗布されることを抑制することにより塗液31のコスト低減を実現できる。
【0050】
[変更例]
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施できる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0051】
○ 原反20の交換時において、旧原反201における集電体100の終端100bと、新原反202における集電体100の始端100aとを張り合わせなくてもよい。新原反202における集電体100の始端100aは、旧原反201に巻き付けられていた集電体100が全て巻取ロール50に巻き取られた後に、全ての乾燥炉40を通過させるようにしてもよい。このとき、塗布工程Pr1は、旧原反201における集電体100の終端100bが塗布部30を通過するまでに中断されればよい。
【0052】
○ 塗布工程Pr1は、塗布部30への塗液31の補充するとき中断されてもよい。
○ 第2の乾燥工程Pr22では、乾燥炉40における熱風の風量及び温度の両者を下げることで、乾燥炉40の乾燥強度を下げてもよい。このように変更する場合、乾燥炉40の熱生成部42aは、塗布工程Pr1が再開したときに塗布部30から出力される信号を契機に、例えば、熱生成部42aの熱源であるボイラーの出力を下げることで熱風の温度を下げるとよい。
【0053】
○ 第2の乾燥工程Pr22では、乾燥炉40における熱風の温度のみを下げることで、当該乾燥炉40の乾燥強度を下げてもよい。
○ 全ての乾燥炉40において、乾燥工程Pr2として、第1の乾燥工程Pr21と、第2の乾燥工程Pr22と、を実行していたが、これに限らない。複数の乾燥炉40のうち、少なくとも1つの乾燥炉40において、乾燥工程Pr2として、第1の乾燥工程Pr21と、第2の乾燥工程Pr22と、を実行すればよい。
【0054】
○ 乾燥炉40の数は、5つ以上であってもよいし、3つ以下であってもよい。
○ 電極製造装置10は、原反20や巻取ロール50だけに限らず、集電体100の搬送方向Aへの搬送を補助する支持ロールを備えていてもよい。
【0055】
○ 塗布膜32の集電体100からの剥がれを確認する試験として、巻取ロール50や上記支持ロールのうちで最も小さい直径を有するロールに、想定される最も大きい抱き角で塗布膜32が形成された集電体100を巻き掛ける試験を追加してもよい。
【0056】
○ 塗布部30は、搬送方向Aに搬送される集電体100の第1面101に連続的に塗液31を塗布してもよい。
○ 原反20には、集電体100が巻き付けられていたが、例えば、第2面102に既に塗布膜が形成された集電体100が巻き付けられていてもよい。この場合、第2面102に既に塗布膜が形成された集電体100は、基体の一例ある。例えば、集電体100の第1面101に正極活物質を含有する塗布膜を形成するとともに、集電体100の第2面102に負極活物質を含有する塗布膜を形成すれば、本変更例によりバイポーラ電極を製造できる。
【符号の説明】
【0057】
10…電極製造装置、20…原反、30…塗布部、31…塗液、40…乾燥炉、50…巻取ロール、100…基体としての集電体、100a…集電体の始端、100b…集電体の終端、201…旧原反、202…新原反、Pr1…塗布工程、Pr2…乾燥工程、Pr21…第1の乾燥工程、Pr22…第2の乾燥工程。
図1
図2
図3