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特開2024-68494クランプ装置並びにその制御方法及び制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068494
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】クランプ装置並びにその制御方法及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
H01L21/60 301J
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178998
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】内田 洋平
【テーマコード(参考)】
5F044
【Fターム(参考)】
5F044BB15
(57)【要約】
【課題】一対のアーム部の開閉状態の判定精度の向上を図る。
【解決手段】ワイヤクランプ装置70は、一対のアーム部72a,72bと、ピエゾ素子80を有する駆動部76と、駆動電圧をピエゾ素子80に供給可能に構成された供給部であって、交流成分の周波数を一対のアーム部72a,72bの共振周波数frに設定した状態で直流成分の電圧を上昇又は降下させる供給部90aと、駆動されたピエゾ素子80から出力される出力信号を検出する検出部90bと、出力信号における共振周波数の高調波成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定する判定部90cとを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物をクランプする一対のアーム部と、
前記一対のアーム部を開閉させるピエゾ素子を有する駆動部と、
周波数可変の交流成分及び電圧可変の直流成分が重畳された駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記ピエゾ素子に供給可能に構成された供給部であって、前記交流成分の周波数を前記一対のアーム部の共振周波数に設定した状態で前記直流成分の電圧を上昇又は降下させる供給部と、
駆動された前記ピエゾ素子から出力される出力信号を検出する検出部と、
前記出力信号における前記共振周波数の高調波成分の発生状況に基づいて、前記一対のアーム部の開閉状態を判定する判定部と
を備える、クランプ装置。
【請求項2】
前記一対のアーム部における開状態と閉状態とが切り替わる際の前記直流成分の電圧を基準電圧として登録する登録部と、
前記基準電圧に基づいて、前記ピエゾ素子に印加する使用電圧をキャリブレーションするキャリブレーション部と
をさらに備える、
請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記出力信号として、前記ピエゾ素子から出力される出力電流を検出する、
請求項2に記載のクランプ装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記出力電流をフーリエ変換することによって、前記出力信号における前記共振周波数の高調波成分の強度を算出する、
請求項3に記載のクランプ装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記出力信号における前記共振周波数の基本波成分に対する高調波成分の強度比を算出する、
請求項4に記載のクランプ装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記直流成分の電圧変化に対する前記強度比の変化率を算出する、
請求項5に記載のクランプ装置。
【請求項7】
前記登録部は、前記直流成分の電圧を第1の電圧から第2の電圧へと変化させたときの前記強度比の変化率が閾値を上回ったときに、前記第1の電圧を基準電圧として登録する、
請求項6に記載のクランプ装置。
【請求項8】
前記登録部は、
閉状態において前記一対のアーム部が互いに接触する場合において、
前記一対のアーム部が閉状態から開状態へと切り替わる際の前記直流成分の電圧を、前記一対のアーム部の開き始めの基準電圧として登録し、
前記一対のアーム部が開状態から閉状態へと切り替わる際の前記直流成分の電圧を、前記一対のアーム部の閉じ終わりの基準電圧として登録する、
請求項2に記載のクランプ装置。
【請求項9】
前記登録部は、
閉状態において前記一対のアーム部が前記被処理物よりも寸法精度が高い校正治具をクランプする場合において、
前記一対のアーム部が閉状態から開状態へと切り替わる際の前記直流成分の電圧を、前記一対のアーム部の開き始めの基準電圧として登録し、
前記一対のアーム部が開状態から閉状態へと切り替わる際の前記直流成分の電圧を、前記一対のアーム部の閉じ終わりの基準電圧として登録する、
請求項2に記載のクランプ装置。
【請求項10】
前記登録部は、
閉状態において前記一対のアーム部が前記被処理物をクランプする場合において、
前記一対のアーム部が閉状態から開状態へと切り替わる際の前記直流成分の電圧を、前記一対のアーム部の開き始めの基準電圧として登録し、
前記一対のアーム部が開状態から閉状態へと切り替わる際の前記直流成分の電圧を、前記一対のアーム部の閉じ終わりの基準電圧として登録する、
請求項2に記載のクランプ装置。
【請求項11】
前記登録部は、
閉状態において前記一対のアーム部が互いに接触する場合において、前記一対のアーム部における開状態と閉状態とが切り替わる際の前記直流成分の電圧を第1基準電圧として登録し、
閉状態において前記一対のアーム部が前記被処理物よりも寸法精度が高い校正治具又は前記被処理物をクランプする場合において、前記一対のアーム部における開状態と閉状態とが切り替わる際の前記直流成分の電圧を第2基準電圧として登録し、
前記第1基準電圧と前記第2基準電圧との電圧差分、及び、前記一対のアーム部の開閉方向における前記校正治具又は前記被処理物の寸法に基づき、前記ピエゾ素子に印加する電圧に対する前記一対のアーム部の開閉量の変化率を算出して登録し、
前記キャリブレーション部は、前記開閉量の変化率に基づいて、前記ピエゾ素子に印加する使用電圧をキャリブレーションする、
請求項2に記載のクランプ装置。
【請求項12】
前記共振周波数の高調波成分は、複数の高調波の成分を含む、
請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項13】
前記供給部は、前記直流成分の電圧を前記一対のアーム部が開状態となる電圧に設定した状態で前記交流成分の周波数を上昇又は降下させ、
前記判定部は、前記出力信号における前記一対のアーム部の衝突に起因した成分の発生状況に基づいて、前記一対のアーム部の共振状態を判定し、
前記登録部は、前記一対のアーム部の共振状態が最も強くなった際の前記交流成分の周波数を、前記一対のアーム部の共振周波数として登録する、
請求項2に記載のクランプ装置。
【請求項14】
被処理物をクランプする一対のアーム部と、
前記一対のアーム部を開閉させるピエゾ素子を有する駆動部と、
周波数可変の交流成分及び電圧可変の直流成分が重畳された駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記ピエゾ素子に供給可能に構成された供給部と
を備えるクランプ装置の制御方法であって、
前記交流成分の周波数を前記一対のアーム部の共振周波数に設定した状態で前記直流成分の電圧を上昇又は降下させることと、
駆動された前記ピエゾ素子から出力される出力信号を検出することと、
前記出力信号における前記共振周波数の高調波成分の発生状況に基づいて、前記一対のアーム部の開閉状態を判定することと
を含む、制御方法。
【請求項15】
被処理物をクランプする一対のアーム部と、
前記一対のアーム部を開閉させるピエゾ素子を有する駆動部と、
周波数可変の交流成分及び電圧可変の直流成分が重畳された駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記ピエゾ素子に供給可能に構成された供給部と
を備えるクランプ装置を動作させる制御プログラムであって、
コンピュータに、
前記交流成分の周波数を前記一対のアーム部の共振周波数に設定した状態で前記直流成分の電圧を上昇又は降下させることと、
駆動された前記ピエゾ素子から出力される出力信号を検出させることと、
前記出力信号における前記共振周波数の高調波成分の発生状況に基づいて、前記一対のアーム部の開閉状態を判定させることと
を実行させる、制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、クランプ装置並びにその制御方法及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
クランプ装置は、例えば、被処理物をクランプする一対のアーム部と、一対のアーム部を開閉させるピエゾ素子を有する駆動部と、電圧をピエゾ素子に供給する供給部とを備えている。例えば、一対のアーム部のクランプ動作のテスト又はキャリブレーションなどを実施する場合、クランプ装置には、一対のアーム部の開閉状態を判定する機能が求められる場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、一対のアーム部を開閉方向に振動させる所定の周波数を印加してピエゾ素子を駆動させる工程と、一対のアーム部が開閉方向に振動しているときのピエゾ素子から出力される出力電流に基づいて、一対のアーム部の先端部が衝突したか否かを検出する工程と、検出結果に基づいて、一対のアーム部における閉状態の基準電圧を算出する工程と、基準電圧に基づいて、ピエゾ素子に印加する駆動電圧をキャリブレーションする工程とを含む、キャリブレーション方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/038135号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のキャリブレーション方法においては、一対のアーム部の開閉状態の判定が、振動し易さ、振動の伝わり易さ、及び出力電流の検出し易さなどの機差に影響される場合がある。
【0006】
本願発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、一対のアーム部の開閉状態の判定精度の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の一態様に係るクランプ装置は、被処理物をクランプする一対のアーム部と、一対のアーム部を開閉させるピエゾ素子を有する駆動部と、周波数可変の交流成分及び電圧可変の直流成分が重畳された駆動電圧を生成し、駆動電圧をピエゾ素子に供給可能に構成された供給部であって、交流成分の周波数を一対のアーム部の共振周波数に設定した状態で直流成分の電圧を上昇又は降下させる供給部と、駆動されたピエゾ素子から出力される出力信号を検出する検出部と、出力信号における共振周波数の高調波成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部の開閉状態を判定する判定部とを備える。
【0008】
上記態様によれば、出力信号における高調波成分の発生状況に基づいて一対のアーム部の開閉状態を判定するため、開閉状態の判定において、振動し易さ、振動の伝わり易さ、及び出力信号の検出し易さなどの機差の影響を低減することができる。
【0009】
上記の一態様として、クランプ装置は、一対のアーム部における開状態と閉状態とが切り替わる際の直流成分の電圧を基準電圧として登録する登録部と、基準電圧に基づいて、ピエゾ素子に印加する使用電圧をキャリブレーションするキャリブレーション部とをさらに備えてもよい。
【0010】
上記態様によれば、精度の高い開閉状態の判定結果に基づいて、精度の高いキャリブレーションをすることができるため、クランプ装置の開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。
【0011】
上記の一態様として、検出部は、出力信号として、ピエゾ素子から出力される出力電流を検出してもよい。
【0012】
上記態様によれば、一対のアーム部からの出力電流は出力電圧の時間微分を用いて表すことができるため、出力電圧としては検出し難い大きさの変化であっても、出力電流としては検出可能な大きさの変化となる場合がある。したがって、検出部の検出精度を向上させ、キャリブレーションの精度を向上させることができる。
【0013】
上記の一態様として、判定部は、出力電流をフーリエ変換することによって、出力信号における共振周波数の高調波成分の強度を算出してもよい。
【0014】
上記態様によれば、出力信号に含まれる成分を周波数に基づいて分離し、各成分の強度を比較することができる。
【0015】
上記の一態様として、判定部は、出力信号における共振周波数の基本波成分に対する高調波成分の強度比を算出してもよい。
【0016】
上記態様によれば、ノイズの影響を受け易い高調波成分よりも比較し易い強度比に基づいて開閉状態を判定することができ、判定精度を向上させることができる。
【0017】
上記の一態様として、判定部は、直流成分の電圧変化に対する強度比の変化率を算出してもよい。
【0018】
上記態様によれば、ノイズの影響を受け易い強度比よりも比較し易い強度比の変化率に基づいて開閉状態を判定することができ、判定精度を向上させることができる。
【0019】
上記の一態様として、登録部は、直流成分の電圧を第1の電圧から第2の電圧へと変化させたときの強度比の変化率が閾値を上回ったときに、第1の電圧を基準電圧として登録してもよい。
【0020】
上記態様によれば、一対のアーム部が開状態と閉状態とが切り替わったとき、強度比の変化率が大きく変化するため、強度比の変化率が閾値を超えたときの第1の電圧を基準電圧とすることができる。
【0021】
上記の一態様として、登録部は、閉状態において一対のアーム部が互いに接触する場合において、一対のアーム部が閉状態から開状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部の開き始めの基準電圧として登録し、一対のアーム部が開状態から閉状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部の閉じ終わりの基準電圧として登録してもよい。
【0022】
上記態様によれば、開き始めの基準電圧及び閉じ終わりの基準電圧の両方を登録することで、一対のアーム部の開くときの使用電圧及び閉じるときの使用電圧の両方をキャリブレーションし、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。
【0023】
上記の一態様として、登録部は、閉状態において一対のアーム部が被処理物よりも寸法精度が高い校正治具をクランプする場合において、一対のアーム部が閉状態から開状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部の開き始めの基準電圧として登録し、一対のアーム部が開状態から閉状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部の閉じ終わりの基準電圧として登録してもよい。
【0024】
上記態様によれば、校正治具をクランプする場合における開き始めの基準電圧及び閉じ終わりの基準電圧の両方を登録することで、一対のアーム部を開くときの使用電圧及び閉じるときの使用電圧の両方をキャリブレーションし、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。基準電圧を求めるときに被処理物よりも寸法精度が高い校正治具をクランプすることで、被処理物をクランプする場合に比べてキャリブレーションの精度を向上させることができる。
【0025】
上記の一態様として、登録部は、閉状態において一対のアーム部が被処理物をクランプする場合において、一対のアーム部が閉状態から開状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部の開き始めの基準電圧として登録し、一対のアーム部が開状態から閉状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部の閉じ終わりの基準電圧として登録してもよい。
【0026】
上記態様によれば、被処理物をクランプする場合における開き始めの基準電圧及び閉じ終わりの基準電圧の両方を登録することで、一対のアーム部を開くときの使用電圧及び閉じるときの使用電圧の両方をキャリブレーションし、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。基準電圧を求めるときに被処理物をクランプすることで、校正治具をクランプする場合に比べて、クランプ装置の構成及びキャリブレーション作業を簡略化することができる。
【0027】
上記の一態様として、登録部は、閉状態において一対のアーム部が互いに接触する場合において、一対のアーム部における開状態と閉状態とが切り替わる際の直流成分の電圧を第1基準電圧として登録し、閉状態において一対のアーム部が被処理物よりも寸法精度が高い校正治具又は被処理物をクランプする場合において、一対のアーム部における開状態と閉状態とが切り替わる際の直流成分の電圧を第2基準電圧として登録し、第1基準電圧と第2基準電圧との電圧差分、及び、一対のアーム部の開閉方向における校正治具又は被処理物の寸法に基づき、ピエゾ素子に印加する電圧に対する一対のアーム部の開閉量の変化率を算出して登録し、キャリブレーション部は、開閉量の変化率に基づいて、ピエゾ素子に印加する使用電圧をキャリブレーションしてもよい。
【0028】
上記態様によれば、使用電圧に対する一対のアーム部の開閉量についてもキャリブレーションすることによって、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。
【0029】
上記の一態様として、共振周波数の高調波成分は、複数の高調波の成分を含んでもよい。
【0030】
上記態様によれば、高調波成分に基づく一対のアーム部の開閉状態の判定精度が向上するため、キャリブレーションの精度が向上し、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。
【0031】
上記の一態様として、供給部は、直流成分の電圧を一対のアーム部が開状態となる電圧に設定した状態で交流成分の周波数を上昇又は降下させ、判定部は、出力信号における一対のアーム部の衝突に起因した成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部の共振状態を判定し、登録部は、一対のアーム部の共振状態が最も強くなった際の交流成分の周波数を、一対のアーム部の共振周波数として登録してもよい。
【0032】
上記態様によれば、機差や経時変化によって共振周波数が変動している場合であっても、一対のアーム部の共振周波数をキャリブレーションの実行前に求めることができるため、キャリブレーションの精度が向上し、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。
【0033】
本発明の他の一態様に係る制御方法は、被処理物をクランプする一対のアーム部と、一対のアーム部を開閉させるピエゾ素子を有する駆動部と、周波数可変の交流成分及び電圧可変の直流成分が重畳された駆動電圧を生成し、駆動電圧をピエゾ素子に供給可能に構成された供給部とを備えるクランプ装置の制御方法であって、交流成分の周波数を一対のアーム部の共振周波数に設定した状態で直流成分の電圧を上昇又は降下させることと、駆動されたピエゾ素子から出力される出力信号を検出することと、出力信号における共振周波数の高調波成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部の開閉状態を判定することとを含む。
【0034】
上記構成によれば、出力信号における高調波成分の発生状況に基づいて一対のアーム部の開閉状態を判定するため、開閉状態の判定において、振動し易さ、振動の伝わり易さ、及び出力信号の検出し易さなどの機差の影響を低減することができる。
【0035】
本発明の他の一態様に係る制御プログラムは、被処理物をクランプする一対のアーム部と、一対のアーム部を開閉させるピエゾ素子を有する駆動部と、周波数可変の交流成分及び電圧可変の直流成分が重畳された駆動電圧を生成し、駆動電圧をピエゾ素子に供給可能に構成された供給部とを備えるクランプ装置を動作させる制御プログラムであって、コンピュータに、交流成分の周波数を一対のアーム部の共振周波数に設定した状態で直流成分の電圧を上昇又は降下させることと、駆動されたピエゾ素子から出力される出力信号を検出させることと、出力信号における共振周波数の高調波成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部の開閉状態を判定させることとを実行させる。
【0036】
上記構成によれば、出力信号における高調波成分の発生状況に基づいて一対のアーム部の開閉状態を判定するため、開閉状態の判定において、振動し易さ、振動の伝わり易さ、及び出力信号の検出し易さなどの機差の影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、一対のアーム部の開閉状態の判定精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施形態に係るワイヤボンディング装置の全体概要を示す図である。
図2図1のワイヤボンディング装置のうちボンディングアームの頂面図である。
図3図1のワイヤボンディング装置のうちボンディングアームの底面図である。
図4図1のワイヤクランプ装置の斜視図である。
図5】共振周波数を登録する方法を示すフローチャートである。
図6】アーム部の先端部が衝突したときの出力電流をフーリエ変換したグラフである。
図7】本発明の実施形態に係るワイヤクランプ装置のキャリブレーション方法の一部を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態に係るワイヤクランプ装置のキャリブレーション方法の一部を示すフローチャートである。
図9】アーム部が開き始めにおいて開状態となる直前の出力電流をフーリエ変換したグラフである。
図10】アーム部が開き始めにおいて開状態となった直後の出力電流をフーリエ変換したグラフである。
図11】本発明の実施形態に係るワイヤクランプ装置のキャリブレーション方法の一部を示すフローチャートである。
図12】本発明の実施形態に係るワイヤクランプ装置のキャリブレーション方法の一部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の構成要素は同一又は類似の符号で表している。図面は例示であり、各部の寸法や形状は模式的なものであり、本願発明の技術的範囲を当該実施の形態に限定して解するべきではない。
【0040】
<ワイヤボンディング装置>
まず、図1乃至図4を参照しつつ、本願発明の一実施形態に係るワイヤボンディング装置1の構成について説明する。図1は、本実施形態に係るワイヤボンディング装置の全体概略を示した図である。図2は、図1のワイヤボンディング装置のうちボンディングアームの頂面図である。図3は、図1のワイヤボンディング装置のうちボンディングアームの底面図である。図4図1のワイヤクランプ装置の斜視図である。
【0041】
図1に示すように、ワイヤボンディング装置1は、XY駆動機構10、Z駆動機構12、ボンディングアーム20、超音波ホーン30、ボンディングツール40、荷重センサ50、超音波振動子60、ワイヤクランプ装置70及びワイヤボンディング制御部90を備える。
【0042】
XY駆動機構10はXY軸方向(ボンディング面に平行な方向)に摺動可能に構成されており、XY駆動機構(リニアモータ)10には、ボンディングアーム20をZ軸方向(ボンディング面に垂直な方向)に揺動可能なZ駆動機構(リニアモータ)12が設けられている。
【0043】
ボンディングアーム20は、支軸14に支持され、XY駆動機構10に対して揺動自在に構成されている。ボンディングアーム20は、XY駆動機構10から、ボンディング対象であるワーク(例えば半導体ダイ又は基板)18が置かれたボンディングステージ16に延出するように略直方体に形成されている。支軸14は、例えば、ワーク18の作業面(ボンディング面)と略同じ高さにある。ボンディングアーム20は、XY駆動機構10に取り付けられるアーム基端部22と、アーム基端部22の先端側に位置して超音波ホーン30が取り付けられるアーム先端部24と、アーム基端部22とアーム先端部24とを連結して可撓性を有する連結部23とを備える。この連結部23は、ボンディングアーム20の頂面21aから底面21bの方向へ延出した所定幅のスリット25a、25b、及び、ボンディングアーム20の底面21bから頂面21aの方向へ延出した所定幅のスリット25cによって構成されている。このように、連結部23が各スリット25a、25b、25cによって局部的に薄肉部として構成されているため、アーム先端部24はアーム基端部22に対して撓むように構成されている。
【0044】
図1及び図3に示すように、ボンディングアーム20の底面21b側には、超音波ホーン30が収容される凹部26が形成されている。超音波ホーン30は、ボンディングアーム20の凹部26に収容された状態で、アーム先端部24にホーン固定ネジ32によって取り付けられている。この超音波ホーン30は、凹部26から突出した先端部においてボンディングツール40を保持しており、凹部26には超音波振動を発生する超音波振動子60が設けられている。超音波振動子60によって超音波振動が発生し、これが超音波ホーン30によってボンディングツール40に伝達され、ボンディングツール40を介してボンディング対象に超音波振動を付与することができる。超音波振動子60は、例えば、ピエゾ振動子である。
【0045】
また、図1及び図2に示すように、ボンディングアーム20の頂面21a側には、頂面21aから底面21bに向かって順番にスリット25a及び25bが形成されている。上部のスリット25aは、下部のスリット25bよりも幅広に形成されている。そして、この幅広に形成された上部のスリット25aに、荷重センサ50が設けられている。荷重センサ50は、予圧用ネジ52によってアーム先端部24に固定されている。荷重センサ50は、アーム基端部22とアーム先端部24との間に挟みこまれるように配置されている。すなわち、荷重センサ50は、超音波ホーン30の長手方向の中心軸からボンディング対象に対する接離方向にオフセットして、ボンディングアーム20の回転中心とアーム先端部24における超音波ホーン30の取付面(すなわち、アーム先端部24におけるボンディングツール40側の先端面)との間に取り付けられている。そして、上記のように、ボンディングツール40を保持する超音波ホーン30がアーム先端部24に取り付けられているため、ボンディング対象からの反力によりボンディングツール40の先端に荷重が加わると、アーム基端部22に対してアーム先端部24が撓み、荷重センサ50において荷重を検出することが可能となっている。荷重センサ50は、例えば、ピエゾ素子荷重センサである。
【0046】
ボンディングツール40は、ワイヤ42を挿通するためのものであり、例えば挿通穴41が設けられたキャピラリである。この場合、ボンディングツール40の挿通穴41にボンディングに使用するワイヤ42が挿通され、その先端からワイヤ42の一部を繰り出し可能に構成されている。また、ボンディングツール40の先端には、ワイヤ42を押圧するための押圧部が設けられている。押圧部は、ボンディングツール40の挿通穴41の軸方向の周りに回転対称の形状を有しており、挿通穴41の周囲の下面に押圧面を有している。
【0047】
ボンディングツール40は、バネ力等によって交換可能に超音波ホーン30に取り付けられている。また、ボンディングツール40の上方には、ワイヤクランプ装置70が設けられ、ワイヤクランプ装置70は所定のタイミングでワイヤ42を拘束又は解放するよう構成されている。ワイヤクランプ装置70のさらに上方には、ワイヤテンショナ46が設けられ、ワイヤテンショナ46はワイヤ42を挿通し、ボンディング中のワイヤ42に適度なテンションを付与するよう構成されている。
【0048】
ワイヤ42の材料は、加工の容易さと電気抵抗の低さなどから適宜選択され、例えば、金(Au)、銅(Cu)又は銀(Ag)等が用いられる。なお、ワイヤ42は、ボンディングツール40の先端から延出したフリーエアーボール43がワーク18の第1ボンド点にボンディングされる。
【0049】
ここで、図4を参照して、本実施形態に係るワイヤクランプ装置70の詳細について説明する。ワイヤクランプ装置70は、被処理物をクランプするクランプ装置の一例に相当する。ワイヤクランプ装置70において、被処理物はワイヤである。ワイヤクランプ装置70は、一対のアーム部72a,72bと、ワイヤボンディング装置1の本体に取り付けられる駆動部76とを備える。一対のアーム部72a,72bは、ワイヤ42をクランプするための先端部73a,73bと、基端部74a,74bとを有し、先端部73a,73bから基端部74a,74bに向かってワイヤ軸方向と略直交する方向に延在している。先端部73a,73bにおける互いに対向する面には、ワイヤ42が接触されるクランプ片71a,71bが設けられている。また、駆動部76には、一対のアーム部72a,72bの先端部73a,73bを開閉させるピエゾ素子80が設けられている。ピエゾ素子80は、ワイヤボンディング制御部90(具体的には供給部90a)から駆動電圧が供給されることによって一対のアーム部72a,72bの開閉動作が制御される。駆動部76における一対のアーム部72a,72bとは反対側の端部は、ワイヤボンディング装置1の本体に固定されている。なお、図1において、ワイヤクランプ装置70は、一対のアーム部72a,72bの延在方向を先端部73a,73b側から見た状態が示されている。
【0050】
一対のアーム部72a,72bは、その基端部74a,74bにおいて、複数の連結部77a,77b,78a,78bを介して駆動部76に連結されている。具体的には、一対のアーム部72a,72bをワイヤ軸方向の上方から見たとき、一対の連結部78a,78bは、一対のアーム部72a,72bの両外側に設けられ、また、一対の連結部77a,77bは、一対の連結部78a,78bに挟まれた位置に設けられている。これらの連結部は、弾性変形可能なくびれ部として構成されている。また、一対の連結部77a,77bは作用部79によって互いに連結されている。このような構成において、ピエゾ素子80が駆動部76と作用部79との間にその両端部が固定された状態で設けられている。駆動電圧を印加することによりピエゾ素子80が一対のアーム部72a,72bの延在方向に伸縮することによって、各連結部77a,77b,78a,78bが、一対のアーム部72a,72bの先端部73a,73bを開閉させるように弾性変形する。なお、各連結部77a,77b,78a,78bは先端部73a,73bが閉じる方向にばね性を有している。
【0051】
ピエゾ素子80は、例えば、駆動部76と作用部79との間を結ぶ方向に複数層のピエゾ素子が積層された積層型圧電アクチュエータである。
【0052】
一対のアーム部72a,72b(クランプ片71a,71b、先端部73a,73b及び基端部74a,74b)は、例えば導電性材料によって構成されている。
【0053】
次にワイヤクランプ装置70の動作について説明する。ピエゾ素子80に電圧を印加しない状態では、一対のアーム部72a,72bの先端部73a,73bは閉じる方向に所定の荷重が加わっている。そして、ピエゾ素子80に駆動電圧を印加すると、電歪又は磁歪効果によりピエゾ素子80は一対のアーム部72a,72bの延在方向(言い換えれば、駆動部76と作用部79との間を結ぶ方向)に伸び、これにより作用部79が一対のアーム部72a,72bの方向へ移動させられ、こうして連結部77a,77b,78a,78bが外側方向にたわみ、先端部73a,73bは開いた状態となる。このときの先端部73a,73bの移動量は、作用部79から連結部までの長さと連結部から先端部73a,73bまでの長さの比に応じて、ピエゾ素子80の伸び量が拡大されたものに相当する。ここで、一対のアーム部72a,72bの開閉量を、開閉方向におけるクランプ片71a,71bの互いの距離としたとき、先端部73a,73bの移動量は、一対のアーム部72a,72bの開閉量の変化量に相当する。
【0054】
さらに詳述すると、ピエゾ素子80に印加される駆動電圧をゼロの状態から増加させると、先端部73a,73bによるワイヤクランプ荷重は、ピエゾ素子80に印加される電圧値に比例して小さくなり、電圧値が基準電圧値となったとき先端部73a,73bのクランプ片71a,71bが、ワイヤクランプ荷重がゼロの状態で互いに接触した状態となる。さらに電圧値を増加させると、先端部73a,73bは互いに離れる方向に開いた状態となる。先端部73a,73bが互いに接触した状態を一対のアーム部72a,72bの「閉状態」とし、先端部73a,73bが互いに離れた状態を一対のアーム部72a,72bの「開状態」とする。
【0055】
図1に戻り、本実施形態に係るワイヤボンディング装置1についてさらに説明する。ワイヤボンディング制御部90は、XY駆動機構10、Z駆動機構12、超音波ホーン30(超音波振動子60)、荷重センサ50及びワイヤクランプ装置70などの各構成との間で信号の送受信が可能なように接続されており、ワイヤボンディング制御部90によってこれらの構成の動作を制御することにより、ワイヤボンディングのための必要な処理を行うことができるようになっている。
【0056】
また、ワイヤボンディング制御部90には、制御情報を入力するための操作部92と、制御情報を出力するための表示部94が接続されている。これにより作業者が表示部94によって画面を認識しながら操作部92によって必要な制御情報を入力することができるようになっている。なお、ワイヤボンディング制御部90は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリなどを備えるコンピュータ装置であり、メモリには予めワイヤボンディングに必要な処理を行うためのボンディングプログラムや、ワイヤボンディング制御部90における後述する各構成要素が処理した各種データなどが格納される。ワイヤボンディング制御部90は、後述するワイヤクランプ装置のキャリブレーションを行うにあたって必要な動作を制御するように構成されている。例えば、ワイヤボンディング制御部90は、メモリに格納されたプログラムをCPUに実行させることによって、キャリブレーションのための各動作を実行する。
【0057】
本実施形態に係るワイヤボンディング制御部90は、供給部90aと、検出部90bと、判定部90cと、登録部90dと、キャリブレーション部90eとを備える。
【0058】
供給部90aは、直流又は脈流の電圧を生成し、ピエゾ素子80に供給する。具体的には、供給部90aは、ワイヤボンディング処理において、ピエゾ素子80に使用電圧として直流電圧を供給し、ワイヤクランプ装置70のキャリブレーション処理において、ピエゾ素子80に駆動電圧として直流成分及び交流成分が重畳された脈流を供給する。ピエゾ素子80に脈流を供給することによって、直流成分によって一対のアーム部72a,72bの先端部73a,73bをワイヤクランプ荷重とは反対方向(開かせる方向)に荷重を加えるとともに、脈流の交流成分によって一対のアーム部72a,72bの先端部73a,73bを開閉方向に振動させる。ここで、脈流の直流成分の電圧は、一対のアーム部72a,72bの開状態と閉状態とを切替可能な範囲で可変である。また、脈流の交流成分の周波数は、一対のアーム部72a,72bの固有角振動数に基づいて決定される共振周波数frを含む範囲で可変である。例えば、供給部90aは、キャリブレーション処理の一場面において、直流成分の電圧を段階的又は連続的に上昇又は降下させる。また、供給部90aは、キャリブレーション処理の一場面において、交流成分の周波数を段階的又は連続的に上昇又は降下させる。
【0059】
検出部90bは、供給部90aによってピエゾ素子80が駆動されることによって一対のアーム部72a,72bが開閉方向に振動しているとき、ピエゾ素子80からの出力電流を検出する。出力電流は、駆動されたピエゾ素子80から出力される出力信号の一例である。一対のアーム部72a,72bが開閉方向に振動するとピエゾ素子80に電位差が生じる。この電位差は、一対のアーム部72a,72bが互いに衝突するか否かによって変化する。また、この電位差は、一対のアーム部72a,72bが共振状態か否かによっても変化する。検出部90bは、このようなピエゾ素子80の電位差の変化に基づく出力電流の変化を検出する。検出部90bは、検出した出力電流に関するデータをワイヤボンディング制御部90のメモリに格納する。
【0060】
判定部90cは、メモリに格納された出力電流に関するデータを取得し、出力電流における共振周波数frの高調波成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定する。一対のアーム部72a,72bが開状態のときに共振周波数frの交流電圧がピエゾ素子80に印加されると、出力電流として、共振周波数frの基本波成分の他に高調波成分が検出される。出力電流に含まれる共振周波数frの高調波成分は、一対のアーム部72a,72bが閉状態となると、非常に小さく又は略ゼロとなる。これを利用して、判定部90cは、一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定する。
【0061】
具体的には、供給部90aにおいて駆動電圧の交流成分の周波数を共振周波数frに設定した状態で直流成分の電圧を変化させることで、判定部90cにおいて出力電流における高調波成分の有無及び強度に基づいて、一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定させる。
【0062】
このとき、判定部90cは、出力電流をフーリエ変換し、共振周波数frの基本波成分の強度、及び、共振周波数frの高調波成分の強度を算出する。ここで、共振周波数frの高調波成分は、共振周波数frの二次高調波f2を含む複数の高次高調波を含んでもよく、例えば二次高調波f2、三次高調波f3及び四次高調波f4の成分を含んでいる。さらに、判定部90cは、共振周波数frの基本波成分に対する高調波成分の強度比を算出し、駆動電圧における直流成分の電圧変化に対する強度比の変化率を算出する。そして、判定部90cは、強度比の変化率が閾値を上回ったときに、一対のアーム部72a,72bの開状態と閉状態とが切り替わったと判定する。
【0063】
高調波成分の強度は基本波成分の強度に比べて小さいため、判定部90cは、電圧変化に対する強度比の変化率に基づいて判定することで判定精度を高めている。但し、判定部90cは、一対のアーム部72a,72bの開閉状態の判定が可能であれば、基本波成分に対する高調波成分の強度比に基づいて判定してもよく、高調波成分の強度に基づいて判定してもよい。
【0064】
一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定するステップにおいて用いられる共振周波数frを特定するために、判定部は、一対のアーム部72a,72bの共振状態を判定してもよい。例えば、判定部90cは、検出部90bにおいて検出された出力電流における、一対のアーム部72a,72bの衝突に起因した成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部72a,72bの共振状態を判定する。開状態の一対のアーム部72a,72bが振動して互いに衝突する場合、出力電流には、一対のアーム部72a,72bの駆動電圧の交流成分に起因した成分の他に、一対のアーム部72a,72bの互いの衝突に起因した成分(以下、「衝突成分」とする。)が含まれる。これを利用して、判定部90cは、一対のアーム部72a,72bの共振状態を判定する。
【0065】
具体的には、供給部90aにおいて、一対のアーム部72a,72bが共振状態で振動するときには互いに衝突し、且つ、非共振状態で振動するときには衝突しないように、駆動電圧の直流成分及び交流成分の電圧を設定した状態で、駆動電圧の交流成分の周波数を変化させる。そして、判定部90cにおいて、出力電流における衝突成分の有無及び強度に基づいて、一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定させる。
【0066】
このとき、判定部90cは、出力電流をフーリエ変換し、衝突成分の強度を算出する。ここで、衝突成分の周波数fxは、共振周波数frの基本波よりも高く、例えば共振周波数frの5倍程度の高さである。衝突成分の強度は、共振周波数frの基本波成分の強度よりも小さく、共振周波数frの高調波成分の強度よりも大きい。例えば、判定部90cは、衝突成分の強度が閾値を上回ったときに、一対のアーム部72a,72bが共振状態で振動していると判定する。
【0067】
登録部90dは、判定部90cにおける一対のアーム部72a,72bの開閉状態についての判定結果に基づき、一対のアーム部72a,72bにおける開状態と閉状態とが切り替わる際の、駆動電圧の直流成分の電圧を基準電圧として登録する。ここで、閉状態において一対のアーム部72a,72bが互いに接触する場合の基準電圧とは、ワイヤクランプ荷重が実質的にゼロの状態で互いに接触した状態(荷重ゼロポイント)に相当する直流電圧である。また、閉状態において一対のアーム部72a,72bがワイヤ又はワイヤよりも寸法精度が高い校正治具をクランプする場合の基準電圧とは、ワイヤクランプ荷重が実質的にゼロの状態で一対のアーム部72a,72bがワイヤ又は校正治具をクランプした状態(荷重ゼロポイント)に相当する直流電圧である。このような基準電圧は、例えば、一対のアーム部72a,72bが開状態から閉状態へ切り替わるときの基準電圧であってもよいし、一対のアーム部72a,72bが閉状態から開状態へと切り替わるときの基準電圧であってもよい。なお、以下において、開状態から閉状態へ切り替わるときを「閉じ終わり」とし、閉状態から開状態へと切り替わるときを「開き始め」とする。
【0068】
登録部90dは、閉状態において一対のアーム部72a,72bが互いに接触する場合の閉じ終わりの基準電圧及び開き始めの基準電圧、並びに、一対のアーム部72a,72bがワイヤ又は校正治具をクランプする場合の閉じ終わりの基準電圧及び開き始めの基準電圧の少なくとも1つを登録する。一対のアーム部72a,72bに印加される電圧と開閉量との関係はヒステリシスを示す。すなわち、閉じ終わりの基準電圧及び開き始めの基準電圧は互いに異なる値となるので、登録部90dは、閉じ終わりの基準電圧及び開き始めの基準電圧の両方を登録するのが望ましい。登録部90dは、上記基準電圧に加えて、ピエゾ素子80に印加する電圧に対する一対のアーム部72a,72bの開閉量の変化率を算出して登録する。登録部90dが登録するデータは、ワイヤボンディング制御部90のメモリに格納される。なお、登録部90dにおける基準電圧及び開閉量の変化率の算出例は後述する。
【0069】
キャリブレーション部90eは、登録部90dによって登録された基準電圧及び開閉量の変化率に関するデータをメモリから読み出し、ワイヤボンディング処理においてピエゾ素子80に印加する使用電圧(直流電圧)をキャリブレーションする。この場合、キャリブレーション部90eは、既に設定されている使用電圧の数値を補正してもよいし、あるいは、ピエゾ素子80に印加すべき使用電圧を新規に設定してもよい。こうして、キャリブレーション部90eによってキャリブレーションされた使用電圧は、ワイヤボンディング制御部90のメモリに格納される。そして、供給部90aは、ワイヤボンディング処理において、当該メモリに格納されたキャリブレーションされた使用電圧を読み出し、当該使用電圧に基づいてピエゾ素子80を駆動させることができる。
【0070】
<キャリブレーション方法>
次に、図5図12を参照しつつ、本実施形態に係るワイヤクランプ装置70を用いたキャリブレーション方法について説明する。図5は、共振周波数を登録する方法を示すフローチャートである。図6は、アーム部の先端部が衝突したときの出力電流をフーリエ変換したグラフである。図7,8は、本発明の実施形態に係るワイヤクランプ装置のキャリブレーション方法の一部を示すフローチャートである。図7,8は、一対のアーム部72a,72bの開き始めにおける、基準電圧及び開閉量の変化率を登録する方法を示すフローチャートである。図9は、アーム部が開き始めにおいて開状態となる直前の出力電流をフーリエ変換したグラフである。図10は、アーム部が開き始めにおいて開状態となった直後の出力電流をフーリエ変換したグラフである。図11,12は、本発明の実施形態に係るワイヤクランプ装置のキャリブレーション方法の一部を示すフローチャートである。図11,12は、一対のアーム部72a,72bの閉じ終わりにおける、基準電圧及び開閉量の変化率を登録する方法を示すフローチャートである。なお、図6図9及び図10に示すグラフは、出力電流を電流検出回路によって100kSPSでサンプリングして得たデータを、FFT(Fast Fourier Transform)処理したものであり、横軸は周波数、縦軸は強度を示している。
【0071】
本実施形態に係るキャリブレーション方法は上記ワイヤボンディング装置1を用いて行うことができる。また、本実施形態に係るワイヤクランプ装置70のキャリブレーション方法は、ワイヤボンディング終了時(すなわち次のワイヤボンディング開始前)や、ワイヤボンディングのためのティーチング時等に行うことができる。
【0072】
本発明の一態様に係るキャリブレーション方法には、一対のアーム部72a,72bの共振周波数frが用いられる。したがって、共振周波数frが機差や経時変化によって変動する場合、共振周波数frをキャリブレーションの直前に登録することが望ましい。このため、まずは、図5を参照しつつ、一対のアーム部72a,72bの共振周波数frを登録する方法について説明する。ここでは、図6に示すように、周波数fxにおける衝突成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部72a,72bが共振周波数frで振動しているか否かを判定する。なお、共振周波数frが判明している場合には、共振周波数frを登録する工程を省略してもよい。
【0073】
まず、駆動電圧において、直流成分の電圧を一対のアーム部72a,72bが開状態となる電圧に設定し、交流成分の周波数を任意に設定する(S11)。このとき、駆動電圧の交流成分の電圧は、一対のアーム部72a,72bが共振状態で振動するときには互いに衝突し、且つ、非共振状態で振動するときには衝突しない大きさに設定される。例えば、直流成分の電圧を138Vに設定し、交流成分の電圧を10Vに設定する。
【0074】
次に、駆動電圧における交流成分の周波数を変化させる(S12)。供給部90aは、想定される共振周波数frを含む周波数範囲で交流成分の周波数を変化させる。例えば、供給部90aは、交流成分の周波数を1.7kHzから2.7kHzまで0.05kHz刻みで上昇させる。そして、各周波数における出力電流を検出する(S13)。
【0075】
次に、出力電流に基づき、各周波数における共振状態を判定する(S14)。共振状態は、図6に示す衝突成分の周波数fxの強度に基づいて判定する。衝突成分の周波数fxが閾値を上回った場合に、一対のアーム部72a,72bが共振状態であると判定する。そして、共振状態が最も強くなった際の駆動電圧における交流成分の周波数を共振周波数frとして登録する(S15)。言い換えると、衝突成分の周波数fxが最も強くなった際の交流成分の周波数が、共振周波数frとして登録される。なお、ステップS14において共振状態であると判定した交流成分の周波数が1つだけであった場合は、ステップS15においてその交流成分の周波数を共振周波数frとして登録する。共振周波数frは、登録部90dによって、ワイヤボンディング制御部90のメモリに格納される。共振周波数frは、例えば2.45kHzである。
【0076】
次に、図7を参照しつつ、一対のアーム部72a,72bが何もクランプしない場合における、開き始めの基準電圧を登録する方法について説明する。ここでは、図9及び図10に示すように、共振周波数frの交流成分を含む駆動電圧を印加した場合における、共振周波数frの二次高調波の周波数f2(f2≒fr×2)付近、三次高調波の周波数f3(f3≒fr×3)付近、及び四次高調波の周波数f4(f4≒fr×4)付近における高調波成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部72a,72bが開状態なのか閉状態なのかを判定する。
【0077】
まず、駆動電圧における交流成分の周波数を共振周波数frに設定し、直流成分の電圧を一対のアーム部72a,72bが閉状態となる電圧に設定する(S21)。ここで用いられる共振周波数frは、ステップS15において登録されたものである。供給部90aは、メモリから共振周波数frを読み取り、交流成分の周波数を設定する。供給部90aは、直流成分の電圧を想定される基準電圧よりも小さく設定する。例えば、直流成分の電圧を40Vに設定し、交流成分の電圧を8Vに設定する。
【0078】
次に、出力電流を検出し、共振周波数frの基本波成分に対する高調波成分の強度比を算出する(S22)。検出部90bにおいて電流検出回路によって検出した出力電流をフーリエ変換し、共振周波数frの1倍(基本波)、2倍(二次高調波f2)、3倍(三次高調波f3)、4倍(四次高調波f4)付近のピーク強度を算出する。高調波成分の強度は、二次高調波、三次高調波、四次高調波の強度の和とする。高調波成分の強度を基本波成分の強度で除算し、強度比を算出する。
【0079】
なお、高調波成分の強度に含まれる高調波の次数は上記に限定されるものではない。二次~四次の高調波のうちいずれかの強度が含まれなくてもよく、五次以上の高調波の強度が含まれてもよい。また、高調波成分の強度は、一種類の次数の高調波の強度であってもよい。
【0080】
次に、駆動電圧における直流成分の電圧を一段階上昇させる(S23)。直流成分の電圧の上昇量が小さ過ぎると、高調波成分の強度の変化が小さ過ぎて基準電圧の判定精度が低下し、直流成分の電圧の上昇量が大きすぎると、基準電圧の誤差が大きくなる。このため、ステップS23において供給部90aが上昇させる直流成分の電圧の変化量は、1V程度であることが望ましい。但し、直流成分の電圧の上昇量は上記に限定されるものではなく、0.5V程度であってもよく、1.5V程度であってもよい。
【0081】
次に、出力電流を検出し、共振周波数frの基本波成分に対する高調波成分の強度比を算出する(S24)。ステップS22と同様に、高調波成分の強度を基本波成分の強度で除算し、強度比を算出する。
【0082】
次に、強度比の変化率が閾値を上回っているか否かを判定する(S25)。ステップS24で算出した強度比を、ステップS22で算出した強度比で除算し、強度比の変化率を算出する。この強度比の変化率が閾値を上回る場合、一対のアーム部72a,72bが閉状態から開状態へと切り替わったと判定する。この閾値は、例えば事前に設定された値であり、例えば10%以上60%以下の任意の値に設定される。
【0083】
なお、強度比の変化率の閾値は、キャリブレーション中に決定される値であってもよい。例えば、閾値は、一対のアーム部72a,72bが確実に閉状態となっている状態において、直流成分の電圧を任意の段階数上昇させたときの、強度比の変化率の平均値、最大値又は中央値を基に決定されてもよい。例えば、閾値は、上記強度比の変化率の平均値、最大値又は中央値の2倍又は3倍などの倍数に設定されてもよい。
【0084】
強度比の変化率が閾値を上回っていない場合(S25 NO)、ステップS23に戻り、駆動電圧における直流成分の電圧をさらに一段階上昇させ、ステップS24において、共振周波数frの基本波成分に対する高調波成分の強度比を算出する。そして、ステップS25において、直流成分の電圧の変化前後における強度比の変化率を算出し、閾値を上回っているか否かを判定する。こうして、直流成分の電圧を1V刻みで上昇させたときの強度比の変化率の算出を繰り返し、強度比の変化率が閾値を上回ったと判定した場合(S25 YES)、この判定結果に基づいて、上昇させる前の直流成分の電圧を、開き始めの基準電圧として登録する(S26)。
【0085】
図9に示す例において、直流成分の電圧は66Vであり、二次高調波f2、三次高調波f3及び四次高調波f4を含む高調波成分の基本波成分に対する強度比は、3.777%程度である。また、直流成分の電圧を65Vから66Vへと上昇させたときの強度比の変化率は、-3.038%程度である。図10に示す例において、直流成分の電圧は67Vであり、高調波成分の基本波成分に対する強度比は6.138%程度である。直流成分の電圧を66Vから67Vへと上昇させたときの強度比の変化率は、62.496%程度である。このように、一対のアーム部72a,72bが閉状態から開状態へ切り替わると、強度比の変化率は、1つ前の変化率に比べて非常に大きくなる。ちなみに、直流成分の電圧が40Vのときの強度比は2.935%程度、41Vのときの強度比は3.199%程度、直流成分の電圧を40Vから41Vへと上昇させたときの強度比の変化率は8.988%程度である。一対のアーム部72a,72bが閉状態となる範囲では、強度比は小さくためノイズ等の影響を受け易く、強度比の変化率は正負いずれの値もとり得るが、一対のアーム部72a,72bが閉状態から開状態へと切り替わった際の強度比の変化率は、大きな正の値となる。
【0086】
次に、図8を参照しつつ、一対のアーム部72a,72bが校正治具をクランプする場合における、開き始めの基準電圧及び開閉量の変化率を登録する方法について説明する。なお、ステップS21~S26で既に説明した作業と同様の作業については、適宜説明を省略する。
【0087】
まず、校正治具を一対のアーム部72a,72bの間にセットし(S31)、校正治具をクランプする場合における、開き始めの基準電圧を登録する(S32)。ステップS32では、ステップS21~S26を実行する。
【0088】
次に、校正治具の有無に起因した、開き始めの基準電圧の電圧差分を算出する(S33)。一対のアーム部72a,72bが何もクランプしない場合と、校正治具をクランプする場合とでは、開き始めの基準電圧が異なる。これは、校正治具をクランプする場合、一対のアーム部72a,72bの開閉方向における校正治具の寸法の分だけ、閉状態の一対のアーム部72a,72bが互いに離間するためである。校正治具をクランプする場合の開き始めの基準電圧は、何もクランプしない場合の開き始めの基準電圧よりも大きい。したがって、ステップS32で登録された校正治具をクランプする場合の開き始めの基準電圧から、ステップS26で登録された何もクランプしない場合の開き始めの基準電圧を減算することで、開き始めの基準電圧の電圧差分を算出する。
【0089】
次に、一対のアーム部72a,72bの開き始めにおける、印加電圧に対する一対のアーム部72a,72bの開閉量の変化率を算出する(S34)。ステップS33で算出した電圧差分は、一対のアーム部72a,72bの開閉量を、開閉方向における校正治具の寸法の分変化させるときに、ピエゾ素子80に追加される印加電圧に相当する。ここで、一対のアーム部72a,72bの開閉量は、開閉方向におけるクランプ片71a,71bの互いの距離である。印加電圧に対する一対のアーム部72a,72bの開閉量の変化率は、開閉方向における校正治具の寸法を、ステップS33で算出した電圧差分によって除算することで算出される。
【0090】
次に、開き始めにおける、一対のアーム部72a,72bの開閉量の変化率を登録する(S35)。ステップS34において算出した開閉量の変化率を、ワイヤボンディング制御部90のメモリに格納する。
【0091】
次に、図11を参照しつつ、一対のアーム部72a,72bが何もクランプしない場合における、閉じ終わりの基準電圧を登録する方法について説明する。なお、ステップS21~S26で既に説明した内容と同様の内容については、適宜説明を省略する。
【0092】
まず、駆動電圧における交流成分の周波数を共振周波数frに設定し、直流成分の電圧を一対のアーム部72a,72bが開状態となる電圧に設定する(S41)。ステップS41におけるステップS21との相違点は、駆動電圧の直流成分の電圧を、一対のアーム部72a,72bが閉状態ではなく開状態となる電圧に設定することである。例えば、直流成分の電圧を100Vに設定し、交流成分の電圧を5Vに設定する。
【0093】
次に、出力電流を検出し、共振周波数frの基本波成分に対する高調波成分の強度比を算出する(S42)。ステップS42は、ステップS22と同様である。
【0094】
次に、駆動電圧における直流成分の電圧を一段階降下させる(S43)。ステップS43におけるステップS23との相違点は、直流成分の電圧を上昇ではなく降下させる点である。ステップS43における直流成分の電圧の変化量はステップS23と同様であり、例えば1V程度である
【0095】
次に、出力電流を検出し、共振周波数frの基本波成分に対する高調波成分の強度比を算出する(S44)。ステップS44は、ステップS24と同様である。
【0096】
次に、強度比の変化率が閾値を上回っているか否かを判定し(S45)、この判定結果に基づいて、降下させる前の直流成分の電圧を、閉じ終わりの基準電圧として登録する(S46)。ステップS45におけるステップS25との相違点は、設定される閾値が異なる点であり、ステップS45における閾値は例えばゼロに設定される。
【0097】
具体的には、一対のアーム部72a,72bが開状態から閉状態に近づく過程において高調波成分の強度は小さくなるため、電圧降下に伴う強度比の変化率は負の値となる。しかし、閉状態に切り替わった直後は、一対のアーム部72a,72bの開閉状態が変化したことによって入力と反応のバランスが変化するため、強度比の変化率は正の値となる。一対のアーム部72a,72bが閉状態となった後は、強度比の変化率は正の値と負の値とをランダムに繰り返す。一例として、直流成分の電圧が57Vのときの強度比は6.383%程度、直流成分の電圧を58Vから57Vへと降下させたときの強度比の変化率は-13.314%程度である。直流成分の電圧が56Vのときの強度比は5.303%程度、直流成分の電圧を57Vから56Vへと降下させたときの強度比の変化率は-16.933%程度である。直流成分の電圧が52Vのときの強度比は3.540%程度、直流成分の電圧を53Vから52Vへと降下させたときの強度比の変化率は-22.834%程度である。直流成分の電圧が51Vのときの強度比は3.591%程度、直流成分の電圧を52Vから51Vへと降下させたときの強度比の変化率は1.420%程度である。上記の場合、直流成分の電圧が52Vのときには一対のアーム部72a,72bが閉じ終わっており、これ以上強度比は減少しなくなったため、直流成分の電圧を52Vから51Vへと降下させても強度比は減少しなかった。したがって、強度比の変化率が正の値となったときの、降下させる前の電圧である52Vを、閉じ終わりの基準電圧として登録する。
【0098】
なお、閉じ終わりにおける強度比の変化率の閾値は、ゼロに限定されるものではない。例えば、上記範囲で強度比の変化率が変化するのであれば、閾値は、-10%以上1%以下の任意の値に設定されてもよい。また、閉じ終わりの一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定するステップでは、強度比の変化率の絶対値が閾値を下回っているか否かに基づいて、開閉状態を判定してもよい。具体的には、強度比の変化率の絶対値が閾値よりも大きいときは、一対のアーム部72a,72bが開状態であると判定し、強度比の変化率の絶対値が閾値よりも小さいときは、一対のアーム部72a,72bが閉状態であると判定してもよい。これは、一対のアーム部72a,72bが開状態において閉状態に近付くとき、強度比の変化率は大きいが、一対のアーム部72a,72bが閉状態となると強度比は略変化しない、すなわち強度比の変化率が小さくなるためである。
【0099】
次に、図12を参照しつつ、一対のアーム部72a,72bが校正治具をクランプする場合における、閉じ終わりの基準電圧及び開閉量の変化率を登録する方法について説明する。なお、ステップS31~S35で既に説明した作業と同様の作業については、適宜説明を省略する。
【0100】
まず、校正治具を一対のアーム部72a,72bの間にセットし(S51)、校正治具をクランプする場合における、閉じ終わりの基準電圧を登録する(S52)。ステップS52では、ステップS41~S46を実行する。
【0101】
次に、校正治具の有無に起因した、閉じ終わりの基準電圧の電圧差分を算出する(S53)。ステップS52で登録された校正治具をクランプする場合の閉じ終わりの基準電圧から、ステップS46で登録された何もクランプしない場合の閉じ終わりの基準電圧を減算することで、閉じ終わりの基準電圧の電圧差分を算出する。
【0102】
次に、一対のアーム部72a,72bの閉じ終わりにおける、印加電圧に対する一対のアーム部72a,72bの開閉量の変化率を算出する(S54)。ステップS54は、ステップS34と同様である。
【0103】
次に、閉じ終わりにおける、一対のアーム部72a,72bの開閉量の変化率を登録する(S55)。ステップS55は、ステップS35と同様である。
【0104】
最後に、使用電圧をキャリブレーションする(S36)。登録された、一対のアーム部72a,72bの開き始めの基準電圧及び開き始めの開閉量の変化率、並びに、閉じ終わりの基準電圧及び閉じ終わりの開閉量の変化率を基に、使用電圧をキャリブレーションする。使用電圧がキャリブレーションされたワイヤクランプ装置70を用いて、ワイヤボンディング処理を実行することで、使用電圧に対応するワイヤクランプ装置70の一対のアーム部72a,72bの開閉動作を正確に把握することができる。このため、高精度かつ安定したワイヤボンディング処理を行うことができる。
【0105】
本キャリブレーション方法は、例えば、ワイヤ径が異なるワイヤボンディングを行う場合や、温度環境が異なるワイヤボンディングを行う場合など、ワイヤボンディング処理の態様が異なるたびに行うことが好ましい。これによって、それぞれの状況に対応するワイヤクランプ装置70の開き易さに応じてキャリブレーションすることができるため、とりわけ効果的である。
【0106】
なお、ステップS31~S35及びステップS51~S55において、校正治具の代わりに、キャリブレーション後にワイヤボンディングを行う予定のワイヤ42を用いてもよい。
【0107】
以下に、本発明の実施形態の一部又は全部を付記する。なお、本発明は以下の付記に限定されるものではない。
【0108】
[付記1]
ワイヤ42をクランプする一対のアーム部72a,72bと、一対のアーム部72a,72bを開閉させるピエゾ素子80を有する駆動部76と、周波数可変の交流成分及び電圧可変の直流成分が重畳された駆動電圧を生成し、駆動電圧をピエゾ素子80に供給可能に構成された供給部90aであって、交流成分の周波数を一対のアーム部72a,72bの共振周波数に設定した状態で直流成分の電圧を上昇又は降下させる供給部90aと、駆動されたピエゾ素子80から出力される出力信号を検出する検出部90bと、出力信号における共振周波数の高調波成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定する判定部90cとを備える、クランプ装置70。
【0109】
[付記1]によれば、出力信号における高調波成分の発生状況に基づいて一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定するため、開閉状態の判定において、振動し易さ、振動の伝わり易さ、及び出力信号の検出し易さなどの機差の影響を低減することができる。
【0110】
[付記2]
一対のアーム部72a,72bにおける開状態と閉状態とが切り替わる際の直流成分の電圧を基準電圧として登録する登録部90dと、基準電圧に基づいて、ピエゾ素子80に印加する使用電圧をキャリブレーションするキャリブレーション部90eとをさらに備える、[付記1]に記載のクランプ装置。
【0111】
[付記2]の態様によれば、精度の高い開閉状態の判定結果に基づいて、精度の高いキャリブレーションをすることができるため、クランプ装置70の開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。
【0112】
[付記3]
検出部90bは、出力信号として、ピエゾ素子80から出力される出力電流を検出する、[付記2]に記載のクランプ装置70。。
【0113】
[付記3]の態様によれば、一対のアーム部72a,72bからの出力電流は出力電圧の時間微分を用いて表すことができるため、出力電圧としては検出し難い大きさの変化であっても、出力電流としては検出可能な大きさの変化となる場合がある。したがって、検出部90bの検出精度を向上させ、キャリブレーションの精度を向上させることができる。
【0114】
[付記4]
判定部90cは、出力電流をフーリエ変換することによって、出力信号における共振周波数の高調波成分の強度を算出する、[付記3]に記載のクランプ装置70。
【0115】
[付記4]の態様によれば、出力信号に含まれる成分を周波数に基づいて分離し、各成分の強度を比較することができる。
【0116】
[付記5]
判定部90cは、出力信号における共振周波数の基本波成分に対する高調波成分の強度比を算出する、[付記4]に記載のクランプ装置70。
【0117】
[付記5]の態様によれば、ノイズの影響を受け易い高調波成分よりも比較し易い強度比に基づいて開閉状態を判定することができ、判定精度を向上させることができる。
【0118】
[付記6]
判定部90cは、直流成分の電圧変化に対する強度比の変化率を算出する、[付記5]に記載のクランプ装置70。
【0119】
[付記6]の態様によれば、ノイズの影響を受け易い強度比よりも比較し易い強度比の変化率に基づいて開閉状態を判定することができ、判定精度を向上させることができる。
【0120】
[付記7]
登録部90dは、直流成分の電圧を第1の電圧から第2の電圧へと変化させたときの強度比の変化率が閾値を上回ったときに、第1の電圧を基準電圧として登録する、[付記6]に記載のクランプ装置70。
【0121】
[付記7]の態様によれば、一対のアーム部72a,72bが開状態と閉状態とが切り替わったとき、強度比の変化率が大きく変化するため、強度比の変化率が閾値を超えたときの第1の電圧を基準電圧とすることができる。
【0122】
[付記8]
登録部90dは、閉状態において一対のアーム部72a,72bが互いに接触する場合において、一対のアーム部72a,72bが閉状態から開状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部72a,72bの開き始めの基準電圧として登録し、一対のアーム部72a,72bが開状態から閉状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部72a,72bの閉じ終わりの基準電圧として登録する、[付記2]から[付記7]のいずれか1つに記載のクランプ装置70。
【0123】
[付記8]の態様によれば、開き始めの基準電圧及び閉じ終わりの基準電圧の両方を登録することで、一対のアーム部72a,72bの開くときの使用電圧及び閉じるときの使用電圧の両方をキャリブレーションし、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。
【0124】
[付記9]
登録部90dは、閉状態において一対のアーム部72a,72bがワイヤ42よりも寸法精度が高い校正治具をクランプする場合において、一対のアーム部72a,72bが閉状態から開状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部72a,72bの開き始めの基準電圧として登録し、一対のアーム部72a,72bが開状態から閉状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部72a,72bの閉じ終わりの基準電圧として登録する、[付記2]から[付記7]のいずれか1つに記載のクランプ装置70。
【0125】
[付記9]の態様によれば、校正治具をクランプする場合における開き始めの基準電圧及び閉じ終わりの基準電圧の両方を登録することで、一対のアーム部72a,72bを開くときの使用電圧及び閉じるときの使用電圧の両方をキャリブレーションし、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。基準電圧を求めるときにワイヤ42よりも寸法精度が高い校正治具をクランプすることで、ワイヤ42をクランプする場合に比べてキャリブレーションの精度を向上させることができる。
【0126】
[付記10]
登録部90dは、閉状態において一対のアーム部72a,72bがワイヤ42をクランプする場合において、一対のアーム部72a,72bが閉状態から開状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部72a,72bの開き始めの基準電圧として登録し、一対のアーム部72a,72bが開状態から閉状態へと切り替わる際の直流成分の電圧を、一対のアーム部72a,72bの閉じ終わりの基準電圧として登録する、[付記2]から[付記7]のいずれか1つに記載のクランプ装置70。
【0127】
[付記10]の態様によれば、ワイヤ42をクランプする場合における開き始めの基準電圧及び閉じ終わりの基準電圧の両方を登録することで、一対のアーム部72a,72bを開くときの使用電圧及び閉じるときの使用電圧の両方をキャリブレーションし、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。基準電圧を求めるときに被処理物をクランプすることで、校正治具をクランプする場合に比べて、クランプ装置の構成及びキャリブレーション作業を簡略化することができる。
【0128】
[付記11]
登録部90dは、閉状態において一対のアーム部72a,72bが互いに接触する場合において、一対のアーム部72a,72bにおける開状態と閉状態とが切り替わる際の直流成分の電圧を第1基準電圧として登録し、閉状態において一対のアーム部72a,72bがワイヤ42よりも寸法精度が高い校正治具又はワイヤ42をクランプする場合において、一対のアーム部72a,72bにおける開状態と閉状態とが切り替わる際の直流成分の電圧を第2基準電圧として登録し、第1基準電圧と第2基準電圧との電圧差分、及び、一対のアーム部72a,72bの開閉方向における校正治具又はワイヤ42の寸法に基づき、ピエゾ素子80に印加する電圧に対する一対のアーム部72a,72bの開閉量の変化率を算出して登録し、キャリブレーション部90eは、開閉量の変化率に基づいて、ピエゾ素子80に印加する使用電圧をキャリブレーションする、[付記2]から[付記7]のいずれか1つに記載のクランプ装置70。
【0129】
[付記11]の態様によれば、使用電圧に対する一対のアーム部72a,72bの開閉量についてもキャリブレーションすることによって、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。
【0130】
[付記12]
共振周波数の高調波成分は、複数の高調波の成分を含む、[付記1]から[付記11]のいずれか1つに記載のクランプ装置70。
【0131】
[付記12]の態様によれば、高調波成分に基づく一対のアーム部72a,72bの開閉状態の判定精度が向上するため、キャリブレーションの精度が向上し、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。
【0132】
[付記13]
供給部90aは、直流成分の電圧を一対のアーム部72a,72bが開状態となる電圧に設定した状態で交流成分の周波数を上昇又は降下させ、判定部90cは、出力信号における一対のアーム部72a,72bの衝突に起因した成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部72a,72bの共振状態を判定し、登録部90dは、一対のアーム部72a,72bの共振状態が最も強くなった際の交流成分の周波数を、一対のアーム部72a,72bの共振周波数として登録する、[付記1]から[付記12]のいずれか1つに記載のクランプ装置70。
【0133】
[付記13]の態様によれば、機差や経時変化によって共振周波数が変動している場合であっても、一対のアーム部72a,72bの共振周波数をキャリブレーションの実行前に求めることができるため、キャリブレーションの精度が向上し、さらなる開閉動作の精度向上及び安定化を図ることができる。
【0134】
[付記14]
ワイヤ42をクランプする一対のアーム部72a,72bと、一対のアーム部72a,72bを開閉させるピエゾ素子80を有する駆動部76と、周波数可変の交流成分及び電圧可変の直流成分が重畳された駆動電圧を生成し、駆動電圧をピエゾ素子80に供給可能に構成された供給部90aとを備えるワイヤクランプ装置70の制御方法であって、交流成分の周波数を一対のアーム部72a,72bの共振周波数に設定した状態で直流成分の電圧を上昇又は降下させることと、駆動されたピエゾ素子80から出力される出力信号を検出することと、出力信号における共振周波数の高調波成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定することとを含む、制御方法。
【0135】
[付記14]の態様によれば、出力信号における高調波成分の発生状況に基づいて一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定するため、開閉状態の判定において、振動し易さ、振動の伝わり易さ、及び出力信号の検出し易さなどの機差の影響を低減することができる。
【0136】
[付記15]
ワイヤ42をクランプする一対のアーム部72a,72bと、一対のアーム部72a,72bを開閉させるピエゾ素子80を有する駆動部76と、周波数可変の交流成分及び電圧可変の直流成分が重畳された駆動電圧を生成し、駆動電圧をピエゾ素子80に供給可能に構成された供給部90aとを備えるワイヤクランプ装置70を動作させる制御プログラムであって、コンピュータに、交流成分の周波数を一対のアーム部72a,72bの共振周波数に設定した状態で直流成分の電圧を上昇又は降下させることと、駆動されたピエゾ素子80から出力される出力信号を検出させることと、出力信号における共振周波数の高調波成分の発生状況に基づいて、一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定させることとを実行させる、制御プログラム。
【0137】
[付記15]の態様によれば、出力信号における高調波成分の発生状況に基づいて一対のアーム部72a,72bの開閉状態を判定するため、開閉状態の判定において、振動し易さ、振動の伝わり易さ、及び出力信号の検出し易さなどの機差の影響を低減することができる。
【0138】
以上説明したように、本願発明の一態様によれば、一対のアーム部の開閉状態の判定精度の向上を図ることができる。
【0139】
以上説明した実施形態は、本願発明の理解を容易にするためのものであり、本願発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0140】
1…ワイヤボンディング装置
70…ワイヤクランプ装置
72a,72b…アーム部
73a,73b…先端部
74a,74b…基端部
76…駆動部
90…ワイヤボンディング制御部
90a…供給部
90b…検出部
90c…判定部
90d…登録部
90e…キャリブレーション部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12