(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068511
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】エラグ酸組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/37 20060101AFI20240513BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240513BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240513BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240513BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240513BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
A61K31/37
A61P19/08
A61K47/26
A61K9/19
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179028
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高村 亮宏
(72)【発明者】
【氏名】岩下 真純
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 浩二郎
(72)【発明者】
【氏名】菊川 亮
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD07
4B018MD08
4B018MD19
4B018MD42
4B018MF02
4B018MF06
4B117LC04
4B117LC13
4B117LK06
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4B117LP03
4B117LP20
4C076AA29
4C076AA30
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4C076DD51
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4C076FF15
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4C076GG06
4C086AA01
4C086AA02
4C086CA01
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA02
4C086ZA96
(57)【要約】
【課題】エラグ酸の水への溶解濃度が高いエラグ酸組成物の製造方法の提供。
【解決手段】次の工程(A)、(B)及び(C):
(A)エラグ酸とメチルヘスペリジンを、塩基性水溶液に溶解させる工程、
(B)工程(A)で得られた溶解液のpHを中性域に調整する工程、
(C)工程(B)の後、溶解液を凍結乾燥する工程
を含む、エラグ酸組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(A)、(B)及び(C):
(A)エラグ酸とメチルヘスペリジンを、塩基性水溶液に溶解させる工程、
(B)工程(A)で得られた溶解液のpHを中性域に調整する工程、
(C)工程(B)の後、溶解液を凍結乾燥する工程
を含む、エラグ酸組成物の製造方法。
【請求項2】
前記塩基性水溶液が塩基性アミノ酸を含む水溶液である請求項1記載のエラグ酸組成物の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性水溶液が1~80%(w/v)の塩基性物質を含む水溶液である請求項1又は2記載のエラグ酸組成物の製造方法。
【請求項4】
工程(A)で得られた溶解液において、エラグ酸に対するメチルヘスペリジンの質量比[メチルヘスペリジン/エラグ酸]が0.5~10である請求項1~3のいずれか1項記載のエラグ酸組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法により得られる、エラグ酸組成物。
【請求項6】
請求項5記載のエラグ酸組成物を含有する医薬品、医薬部外品又は化粧品。
【請求項7】
請求項5記載のエラグ酸組成物を含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラグ酸組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エラグ酸は、ザクロ、イチゴ、ラズベリー等の植物に含まれているポリフェノール構造を有する化合物である。エラグ酸は、美白効果を始め、抗酸化効果、軟骨破壊酵素の阻害効果等の生理機能を有することが報告され、様々な製品への利用が試みられている。
しかしながら、エラグ酸は極めて難水溶解性であり、原体そのものの生理機能を飲食品・医薬品等で有効活用することは難しい。
【0003】
そこで、エラグ酸を水に可溶化させる技術が検討され、例えば、(A)難水溶性ポリフェノール類と(B)水溶性ポリフェノール類の混合物を、(1)(A)難水溶性ポリフェノール類又は(B)水溶性ポリフェノール類の最も低い融点又はガラス転移点以上の温度に加熱し、加熱処理液を得る工程と、(2)得られた加熱処理液を冷却し、固化させる工程、を含む、ポリフェノール組成物の製造方法(特許文献1)、エラグ酸を含有する原料とペクチン等の水溶性食物繊維とをアルカリ性条件下で混合し、次いでその混合物のpHを低下させる調整を行うことにより得られる分散性エラグ酸含有組成物の製造方法(特許文献2)、エラグ酸をL-リジンの存在下で水に可溶化させた後、エラグ酸リジン塩をペクチンに担持させてエラグ酸の溶出性を改善したペクチンフィルムを製造する方法(非特許文献1)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-125461号公報
【特許文献2】特開2017-131163号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Molecules 2021, 26, 433
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法は、100℃以上の高い温度での加熱が必要で、工業的生産においては耐圧設備が必要になる等の改善点がある。また、特許文献2からはエラグ酸の水への溶解量は明らかではないが、非特許文献1の方法で得られるペクチンフィルムはエラグ酸の水への溶解濃度が低く、これらのようにエラグ酸の可溶化にペクチンを利用する方法ではエラグ酸の水への溶解量は十分ではないという問題があった。
従って、本発明は、エラグ酸の水への溶解濃度が高いエラグ酸組成物を製造する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、エラグ酸とメチルヘスペリジンを塩基性水溶液に溶解し、得られた溶解液のpHを低下させた後、凍結乾燥することにより、エラグ酸の水への溶解濃度が大幅に高まり、水溶性に優れたエラグ酸組成物が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(4)に係るものである。
(1)次の工程(A)、(B)及び(C):
(A)エラグ酸とメチルヘスペリジンを、塩基性水溶液に溶解させる工程、
(B)工程(A)で得られた溶解液のpHを中性域に調整する工程、
(C)工程(B)の後、溶解液を凍結乾燥する工程
を含む、エラグ酸組成物の製造方法。
(2)(1)の製造方法により得られる、エラグ酸組成物。
(3)(2)のエラグ酸組成物を含有する医薬品、医薬部外品又は化粧品。
(4)(2)のエラグ酸組成物を含有する飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エラグ酸の溶解濃度が高く、水溶性に優れるエラグ酸組成物を提供することができる。本発明のエラグ酸組成物を用いることにより、エラグ酸の生理機能を増強すること等が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のエラグ酸組成物の製造方法は、エラグ酸とメチルヘスペリジンを、塩基性水溶液に溶解させる工程(A)と、工程(A)で得られた溶解液のpHを中性域に調整する工程(B)と、工程(B)の後、溶解液を凍結乾燥する工程(C)を有する。
【0011】
〔工程(A)〕
本発明の工程(A)は、エラグ酸とメチルヘスペリジンを、塩基性水溶液に溶解させる工程である。
本明細書において、エラグ酸は、分子式C14H6O8で表されるポリフェノール構造を有する化合物である。植物中に含まれるエラグ酸は、その多くがエラジタンニンと呼ばれる糖が結合した状態で存在していることが知られている。本発明では、このような糖が結合した状態のものではなく、遊離の状態で存在しているエラグ酸を用いるのが好ましい。
エラグ酸は、例えば、二水和物等の水和物であってもよい。
本発明において用いられるエラグ酸は、公知の合成法により化学的に合成してもよいし、天然物から抽出してもよいし、市販品を用いてもよい。市販のエラグ酸としては、例えばザクロエラグ酸(サビンサジャパンコーポレーション)、エラグ酸二水和物(和光純薬工業(株))、エラグ酸(関東化学(株))等が挙げられる。
天然物からエラグ酸を抽出する方法としては、例えば、エラグ酸を含有する天然物の乾燥品を、酸性亜硫酸塩法によって蒸解した後、アルカリ水溶液に浸漬し、浸漬液を分取後、得られた浸漬液に酸を添加してエラグ酸を含む沈殿物を補集し、精製する方法が挙げられる。
エラグ酸の純度は特に限定されず、例えば、エラグ酸組成物とした際に所望の薬理効果が発揮できる程度の純度であればよい。
【0012】
メチルヘスペリジンは、ヘスペリジン(下記式(2)においてRが水素原子である化合物)をジメチル硫酸等のメチル化剤でメチル化することによって製造される数種類のメチル化生成物の混合物であり、主に、カルコン型化合物(1)及びフラバノン型化合物(2)が含まれることが知られており、その構成成分として、例えば以下に示す構造のものが挙げられる(例えば、日本食品化学学会誌,12(2),2005,71-75参照)。
【0013】
【0014】
(式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す)
【0015】
「メチルヘスペリジン」は、わが国において、医薬品添加物名、食品添加物名、化粧品原料名として採用されており、医薬品添加物及び食品添加物としてのメチルヘスペリジンは、主に、化合物(3)及び(4)の混合物として取り扱われている。
【0016】
【0017】
(式中、Glは、グルコース残基、Rhは、ラムノース残基を表す。また、Gl-2は、グルコース残基の2位((3-1)の場合、3位も含む)、Rh-2は、ラムノース残基の2位を表す。)
また、化粧品原料としてのヘスペリジンメチルカルコンは、(5)で示される化合物として取り扱われている。なお、カルコン型化合物を多く含む組成の場合、ヘスペリジンメチルカルコンとも呼ばれる。
【0018】
【0019】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
【0020】
本発明において用いられるメチルヘスペリジンは、上記で示したカルコン型化合物(1)とフラバノン型化合物(2)の両方を含むものでもよいし、また、それぞれの片方のみを含むものでもよい。
本発明において、より好適なメチルヘスペリジンとしては、化合物(3)と化合物(4)の混合物が挙げられる。
メチルヘスペリジンは、公知の方法、例えば、ヘスペリジンを水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、そのアルカリ溶液に対応量のジメチル硫酸を作用させ、反応液を硫酸で中和し、n-ブチルアルコールで抽出し、溶媒を留去したのち、イソプロピルアルコールで再結晶することにより製造できるが(崎浴、日本化學雑誌、79、733-6(1958))、その製造法はこれに限るものではない。
メチルヘスペリジンとして市販のメチルヘスペリジン含有製剤を使用してもよく、例えば、「メチルヘスペリジン」(東京化成工業(株))、「ヘスペリジンメチルカルコン」(Sigma社)、「メチルヘスペリジン」(浜理薬品工業(株))、「メチルヘスペリジン」(昭和電工(株))、「メチルヘスペリジン」(アルプス薬品工業(株))が挙げられる。
【0021】
塩基性水溶液は塩基性物質を含む水溶液である。塩基性水溶液に用いられる塩基性物質としては、例えば、無機又は有機の塩基性物質、塩基性アミノ酸等が挙げられる。
無機の塩基性物質としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが挙げられる。また、アンモニアを用いてもよい。
有機の塩基性物質としては、例えば、ジエチルエタノールアミン等の有機アミン等が挙げられる。
塩基性アミノ酸としては、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、これらの塩基性塩等が挙げられる。塩基性アミノ酸は、L-体、D-体、DL-体、及びそれらの混合物のいずれであってもよいが、生理機能の観点から、好ましくはL-体である。
これらは1種又は2種以上を併用することができる。
なかでも、エラグ酸の水への溶解性を向上させる点、室温下でもエラグ酸の析出を抑え、水への高い溶解濃度を長時間維持する点から、好ましくはアルカリ金属の水酸化物、塩基性アミノ酸であり、より好ましくは塩基性アミノ酸であり、更に好ましくはリジンである。
【0022】
塩基性水溶液における塩基性物質の濃度は、エラグ酸の水への溶解性を向上させる点から、好ましくは1%(w/v)以上、より好ましくは3%(w/v)以上、更に好ましくは10%(w/v)以上であり、また、水溶液の粘性増大による撹拌性の低下を回避する点から、好ましくは80%(w/v)以下、より好ましくは40%(w/v)以下、更に好ましくは20%(w/v)以下である。
【0023】
エラグ酸とメチルヘスペリジンの塩基性水溶液への溶解方法は、特に限定されず任意の順序で溶解できるが、エラグ酸組成物中のエラグ酸の含有量を高める点から、エラグ酸を溶解させた後に、メチルヘスペリジンを溶解させることが好ましい。エラグ酸とメチルヘスペリジン予め混合した後、溶解させてもよい。
エラグ酸とメチルヘスペリジンを塩基性水溶液に溶解させる際の温度は0℃~90℃で十分であり、かかる温度条件で溶解すれば常圧で処理が可能であり特殊な装置を必要としない点で好ましい。溶解温度の下限は、エラグ酸の溶解性を高める点より、5℃以上が好ましく、10℃以上が更に好ましい。また、溶解温度の上限は、エネルギー効率の点から、85℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、75℃以下が更に好ましく、70℃以下が更に好ましく、60℃以下が更に好ましい。
【0024】
エラグ酸とメチルヘスペリジンを塩基性水溶液に溶解させて得られる溶解液中のエラグ酸の含有量は、エラグ酸組成物中のエラグ酸の含有量を高める点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、また、エラグ酸の溶け残りを回避する点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0025】
また、溶解液中のメチルヘスペリジンの含有量は、エラグ酸の水への溶解性の点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、また、エラグ酸組成物中のエラグ酸の含有量を高める点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0026】
また、本発明において、溶解液におけるエラグ酸に対するメチルヘスペリジンの質量比[メチルヘスペリジン/エラグ酸]は、エラグ酸の水への溶解性を向上させる点、保存後にも効果を維持する点から、好ましくは0.5以上、好ましくは1以上、更に好ましくは2以上、より更に好ましくは4以上であり、また、エラグ酸組成物中のエラグ酸の含有量を高める点から、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。
【0027】
エラグ酸とメチルヘスペリジンを塩基性水溶液に溶解させて得られる溶解液のpH(25℃)は、エラグ酸の水への溶解性を向上させる点から、好ましくは7.6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは9以上であり、また、強塩基性条件における加水分解を回避する点から、好ましくは13以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは11以下である。
なお、本明細書において、pHは、25℃に温度調整をしてpHメータ(HORIBA製F-92、9680S-10D)により測定するものとする。
【0028】
〔工程(B)〕
本工程は、工程(A)で得られた溶解液のpHを中性域に調整する工程である。
溶解液のpH調整には、酸性物質を使用することができる。酸性物質としては、無機酸、有機酸等が挙げられる。
無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。
有機酸としては、例えば、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸等が挙げられる。
これらは1種又は2種以上を併用することができる。
なかでも、医薬品、医薬部外品、食品用途で使用できる点から、好ましくは塩酸、クエン酸である。
【0029】
pH調整後の溶解液のpHは、塩基性条件における加水分解を回避して保存安定性を高める点から、8以下であって、好ましくは7.5以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6.8以下であり、また、エラグ酸の析出を回避する点から、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは6以上である。
【0030】
〔工程(C)〕
本工程は、工程(B)の後、溶解液を凍結乾燥する工程である。
凍結乾燥は、pH調整後の溶解液を液体窒素やクールバス、冷凍庫等で凍結し、必要に応じて粉砕し、篩別した後、真空で水分を昇華させて、乾燥することができる。溶解液の凍結温度は-70~0℃が好ましく、-50~-20℃がより好ましい。乾燥中の絶対圧力は0.1~1000Paが好ましく、0.5~100Paがより好ましく、1~10Paが更に好ましい。
凍結乾燥後、必要に応じて、分級、造粒、粉砕等を行ってもよい。
【0031】
斯くして得られる本発明のエラグ酸組成物は、エラグ酸の溶解濃度が高く、水溶性に極めて優れる。
例えば後記実施例に示すように、エラグ酸の溶解性(例えば、エラグ酸組成物を溶出試験第2液に添加して360分撹拌した場合のエラグ酸溶解濃度)は、最大溶出濃度(Cmax)が10.6mM以上、及び、溶出試験開始後0-6hにおける曲線下面積(AUC)が1637mM・h以上と極めて高い。本発明の製造方法により非晶質のエラグ酸組成物が得られたことで、エラグ酸の過飽和溶解が実現したことにより、本効果が実現したものと推定される。
【0032】
本発明の製造方法で得られるエラグ酸組成物は、様々な飲食品や医薬品、医薬部外品、化粧品等に使用することができる。とりわけ、使用時に水系溶媒に溶解される製品に利用するのが有用である。
例えば、飲食品としては、インスタント飲料、パン類、麺類、クッキー等の菓子類、スナック類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、粉末コーヒー等のインスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、調味料、栄養補助食品等の液状、固形状又は半固形状の飲食品が挙げられ、好ましくは使用時に水又は加熱水に溶解させ喫食する固形状のインスタント飲食品が挙げられる。また、医薬品又は医薬部外品としては、錠剤(チュアブル錠等)、カプセル剤、粉末剤等の剤型が挙げられる。また、化粧品としては、石鹸などの洗浄料、美白用化粧料等が好適に挙げられる。
上記飲食品、医薬品、医薬部外品又は化粧品に配合されるエラグ酸組成物の量は、機能発現及び製品サイズの観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上が好ましい。一方、呈味の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下が好ましい。
なお、当該製剤中のエラグ酸組成物の存在状態は、溶解状態であっても、分散状態であってもよく、その存在状態は問わない。
【0033】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の製造方法及び組成物を開示する。
【0034】
<1>次の工程(A)、(B)及び(C):
(A)エラグ酸とメチルヘスペリジンを、塩基性水溶液に溶解させる工程、
(B)工程(A)で得られた溶解液のpHを中性域に調整する工程、
(C)工程(B)の後、溶解液を凍結乾燥する工程
を含む、エラグ酸組成物の製造方法。
【0035】
<2>前記塩基性水溶液が、好ましくは無機又は有機の塩基性物質、及び塩基性アミノ酸から選ばれる1種以上の塩基性物質、より好ましくはアルカリ金属の水酸化物、及び塩基性アミノ酸から選ばれる1種以上の塩基性物質、更に好ましくは塩基性アミノ酸、より更に好ましくはリジンを含む水溶液である<1>記載のエラグ酸組成物の製造方法。
<3>前記塩基性水溶液における塩基性物質の濃度が、好ましくは1%(w/v)以上、より好ましくは3%(w/v)以上、更に好ましくは10%(w/v)以上であり、また、好ましくは80%(w/v)以下、より好ましくは40%(w/v)以下、更に好ましくは20%(w/v)以下であり、また、好ましくは1~80%(w/v)、より好ましくは3~40%(w/v)、更に好ましくは10~20%(w/v)である<1>又は<2>記載のエラグ酸組成物の製造方法。
<4>工程(A)で得られた溶解液において、エラグ酸に対するメチルヘスペリジンの質量比[メチルヘスペリジン/エラグ酸]が、好ましくは0.5以上、好ましくは1以上、更に好ましくは2以上、より更に好ましくは4以上であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下であり、また、好ましくは0.5~10、より好ましくは1~8、更に好ましくは2~8、より更に好ましくは4~6である<1>~<3>のいずれかに記載のエラグ酸組成物の製造方法。
<5>エラグ酸とメチルヘスペリジンを塩基性水溶液に溶解させて得られる溶解液のpHが、好ましくは7.6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは9以上であり、また、好ましくは13以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは11以下であり、また、好ましくは7.6~13、より好ましくは8~12、更に好ましくは9~11である<1>~<4>のいずれかに記載のエラグ酸組成物の製造方法。
<6>工程(A)で得られた溶解液のpHを、好ましくは無機酸、及び有機酸から選ばれる1種以上の酸性物質、より好ましくは塩酸、クエン酸又はこれらの組み合わせを用いて中性域に調整する<1>~<5>のいずれかに記載のエラグ酸組成物の製造方法。
<7>pH調整後の溶解液のpHが、好ましくは8以下、より好ましくは7.5以下、更に好ましくは7以下、より更に好ましくは6.8以下であり、また、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは6以上であり、また、好ましくは4~8、より好ましくは5~7.5、更に好ましくは5~7、より更に好ましくは6~6.8である<1>~<6>のいずれかに記載のエラグ酸組成物の製造方法。
<8><1>~<7>のいずれかの製造方法により得られる、エラグ酸組成物。
<9><8>記載のエラグ酸組成物を含有する医薬品、医薬部外品又は化粧品。
<10><8>記載のエラグ酸組成物を含有する飲食品。
【実施例0036】
以下の実施例において、エラグ酸をEA、メチルヘスペリジンをMeHes、L―リジンをLys、クエン酸をCAとも表記する。
【0037】
実施例1
下記に記載の方法に従って、エラグ酸組成物(組成質量比EA:MeHes:Lys:CA=1:6:3:1.25)を得た。
(1)室温下、撹拌条件にて、1500mgのLys(富士フイルム和光純薬製、L(+)-リジン含有量95.0質量%)を超純水50mLに溶解し、3%[w/v]Lys水溶液を得た。この溶液に500mgのEA(富士フイルム和光純薬製、エラグ酸含有量98.0質量%)と3000mgのMeHes(浜理薬品工業製、メチルヘスペリジン含有量100質量%)を順に加え、EAとMeHesを溶解させた。この溶解液のpHは9.9であった。pHは、pHメータ(HORIBA製 F-92 9680S-10D)を用いて、試料を25℃に温度調整をして測定した。
【0038】
(2)上記(1)で得た溶解液に25%[w/v]CA水溶液を滴下し、溶液のpHを6.8に調整した。このとき加えたCA水溶液量を記録し、CA添加質量を算出した。
【0039】
(3)上記(2)でpH調整した溶解液を-40℃にて20分冷却し、凍結させた後、凍結乾燥機(EYELA FDU-2110)に接続し、凍結乾燥させた。
【0040】
得られたエラグ酸組成物を水に添加した際のEA溶解性を評価するため、次の〔溶出試験〕を実施した。
〔溶出試験〕
EA純分が82mgとなるように、917mgのエラグ酸組成物を50mL蓋付きバイアルにとり、長さ2cmのスターラーチップと溶出試験第2液[日本薬局方準拠リン酸緩衝液pH6.8]を30mL加え、室温下、50rpmで撹拌した。試験液を加えた時点を0分とし、各2,6,10,15,25,40,60,90,120,180,240,300,360分経過時点での溶液を150μL採取した。0.45μmメンブレンフィルター(PES、Agilent)を用いて、採取した溶液を即座に濾過した。濾液中のEA濃度をEA水溶解濃度とした。ジメチルホルムアミド-水混合液[2:8,v/v]を用いて、濾液を1/10から1/2500に適宜希釈して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析に供し、EA濃度を測定した。EAのジメチルホルムアミド溶液をジメチルホルムアミド-水混合液[2:8,v/v]を用いて適期希釈した溶液を用いて検量線を作成し、外部標準法によって濃度検定した。分析カラムにCapcell Core C18(2.1mm×100mm,2.7μm,大阪ソーダ)を用い、流速を0.5mL/min、カラム温度を40℃、UV検出波長を254nmに設定して分析した。溶離液には、A液に0.1%[v/v]ギ酸水溶液を、B液にアセトニトリルを用い、2液のグラジエントの系で分析した。グラジエント条件は、下記のとおりである。
【0041】
【0042】
横軸に溶出試験開始後の経過時間[h]、縦軸にEA溶解濃度[mM]をプロットし、最大溶出濃度(Cmax)[mM]、及び、溶出試験開始後0-6hにおける曲線下面積(AUC)[mM・h]を算出した。
結果を表2に示す。表2のとおり、EA溶解濃度のCmaxは12.8mM、AUCは3810mM・hであり、極めて高かった。
【0043】
実施例2
室温下、撹拌条件にて、1500mgのArg(富士フイルム和光純薬製、L(+)-アルギニン含有量98.0質量%)を超純水50mLに溶解し、3%[w/v]Arg水溶液を得た。この溶液に500mgのEAと3000mgのMeHesを順に加え、EAとMeHesを溶解させた。この溶解液のpHは9.8であった。
以降の操作は実施例1の(2)以降に従い、エラグ酸組成物(組成質量比EA:MeHes:Arg:CA=1:6:3:0.85)を得た。
EA純分が82mgとなるように885mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例1に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは11.6mM、AUCは1637mM・hだった(表2)。
【0044】
実施例3
室温下、撹拌条件にて、500mgのEAを水800mLに加え、懸濁液を得た。この懸濁液に5M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液(富士フイルム和光純薬製)を滴下し、EAを溶解させた。滴下したこの溶液にNaOH水溶液の液量と濃度から計算すると、加えたNaOHの重量は95mgだった。この溶液に3000mgのMeHesを加え、溶解させた。このときの溶液のpHは9.8であった。
以降の操作は実施例1の(2)以降に従い、エラグ酸組成物(組成質量比EA:MeHes:NaOH:CA=1:6:0.19:0.25)を得た。
EA純分が82mgとなるように607mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例1に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは10.6mM、AUCは2831mM・hだった(表2)。
【0045】
比較例1
82mgのEAを使用し、操作は実施例1に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは0.5mM、AUCは27mM・hだった(表2)。
実施例1~3と比較例1を比較すると、実施例1~3によって水へのEAの溶出性能が向上することがわかる。特に塩基性物質としてLysを用いるとAUCが高く水への高い溶解濃度が長時間維持されるため、塩基性物質はLysが最適であることがわかる。
【0046】
比較例2
実施例1の(1)にて、MeHesを添加せず、3%[w/v]Lys水溶液50mLに、500mgのEAを溶解した。以降の操作は実施例1の(2)以降に従い、エラグ酸組成物(組成質量比EA:Lys:CA=1:3:1)を得た。
EA純分が82mgとなるように408mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例1に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは2.8mM、AUCは295mM・hだった(表2)。
実施例1と比較例2を比較することで、エラグ酸組成物からMeHesを除くと、当該組成物におけるEAの水への溶出性能が低下することがわかる。
【0047】
比較例3
実施例2にて、MeHesを添加せず、3%[w/v]Arg水溶液50mLに、500mgのEAを溶解した。以降の操作は実施例1の(2)以降に従い、エラグ酸組成物(組成質量比EA:Arg:CA=1:3:0.85)を得た。
EA純分が82mgとなるように396mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例1に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは1.0mM、AUCは147mM・hだった(表2)。
実施例2と比較例3を比較することで、エラグ酸組成物からMeHesを除くと、当該組成物におけるEAの水への溶出性能が低下することがわかる。
【0048】
比較例4
500mgのEA、3000mgのMeHes、1500mgのLys、625mgのCAを固体粉末状のまま単純混合し、単純混合のエラグ酸組成物(組成質量比EA:MeHes:Lys:CA=1:6:3:1.25)を得た。
EA純分が82mgとなるように917mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例1に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは6.8mM、AUCは1599mM・hだった(表2)。
実施例1と比較例4を比較することで、エラグ酸組成物を調製する際、各成分を塩基性水溶液に溶解し、均一に混合してから凍結乾燥する工程を経ることによって、当該組成物におけるEAの水への溶出性能が向上することがわかる。
【0049】
比較例5
500mgのEA、3000mgのMeHes、1500mgのArg、425mgのCAを固体粉末状のまま単純混合し、単純混合のエラグ酸組成物(組成質量比EA:MeHes:Arg:CA=1:6:3:1.25)を得た。
EA純分が82mgとなるように885mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例1に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは3.5mM、AUCは642mM・hだった(表2)。
実施例2と比較例5を比較することで、エラグ酸組成物を調製する際、各成分を塩基性水溶液に溶解し、均一に混合してから凍結乾燥する工程を経ることによって、当該組成物におけるEAの水への溶出性能が向上することがわかる。
【0050】
比較例6
室温下、撹拌条件にて、1500mgのLysを超純水50mLに溶解し、3%[w/v]Lys水溶液を得た。この溶液に500mgのEAと3000mgのペクチン(Cargill AYD30T、エステル化率71%、重量平均分子量18万)を順に加え、EAとMeHesを溶解させた。このときの溶液のpHは9.1だった。
以降の操作は実施例1の(2)以降に従い、エラグ酸組成物(組成質量比EA:ペクチン:Lys:CA=1:6:3:0.45)を得た。
EA純分が82mgとなるように852mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例1に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは2.2mM、AUCは128mM・hだった(表2)。
実施例1と比較例6を比較することで、エラグ酸組成物のキャリア成分としてペクチンを用いるよりもMeHesを用いる方が、エラグ酸組成物におけるEAの水への溶出性能が向上することがわかる。
【0051】
実施例4
実施例1にて得られたエラグ酸組成物を2718mg(EA純分242mg)蓋付きバイアルにとり、長さ2cmのスターラーチップと溶出試験第2液[日本薬局方準拠リン酸緩衝液pH6.8]を20mL加え、室温下、50rpmで撹拌した。以降の操作は実施例1に従い、前記〔溶出試験〕を実施した。
結果を表3に示す。表3のとおり、EA溶解濃度のCmaxは25.6mM、AUCは7650mM・hだった。
【0052】
実施例5
実施例1の(2)にて、25%[w/v]CA水溶液に代わり、塩酸(HCl)水溶液[1M]を滴下し、溶解液のpHを6.8に調整した。このとき加えたHCl水溶液量を記録し、HCl添加質量を算出した。以降の操作は実施例1に従い、エラグ酸組成物(組成質量比EA:MeHes:Lys:HCl=1:6:3:0.52)を得た。
EA純分が242mgとなるように2542mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例4に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは27.2mM、AUCは8072mM・hだった(表3)。
実施例4と実施例5を比較することで、酸性物質としてCAとHClのどちらも好適であることがわかる。
【0053】
実施例6
実施例1の(1)にて、10%[w/v]Lys水溶液10mL[Lys 1000mg]に500mgのEAと1000mgのMeHesを順に加え、EAとMeHesを溶解させた。このときの溶液のpHは10.09だった。
以降の操作は実施例1に従い、エラグ酸組成物(組成質量比EA:MeHes:Lys:CA=1:2:2:0.56)を得た。
EA純分が242mgとなるように1343mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例4に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは12.9mM、AUCは3198mM・hだった(表3)。
【0054】
実施例7
実施例6にて、1000mgのMeHesに代わり、2000mgのMeHesを添加し、EAとMeHesを溶解させた。このときの溶液のpHは10.26だった。
以降の操作は実施例1に従ってエラグ酸組成物(組成質量比EA:MeHes:Lys:CA=1:4:2:0.56)を得た。
EA純分が242mgとなるように1827mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例4に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは16.8mM、AUCは4448mM・hだった(表3)。
【0055】
実施例8
実施例6にて、1000mgのMeHesに代わり、3000mgのMeHesを添加し、EAとMeHesを溶解させた。このときの溶解液のpHは10.40だった。
以降の操作は実施例1に従ってエラグ酸組成物(組成質量比EA:MeHes:Lys:CA=1:6:2:0.56)を得た。
EA純分が242mgとなるように2310mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例4に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは22.0mM、AUCは4476mM・hだった(表3)。
【0056】
実施例9
実施例6にて、1000mgのMeHesに代わり、4000mgのMeHesを添加し、EAとMeHesを溶解させた。このときの溶解液のpHは10.65だった。
以降の操作は実施例1に従ってエラグ酸組成物(組成質量比EA:MeHes:Lys:CA=1:8:2:0.56)を得た。
EA純分が242mgとなるように2792mgのエラグ酸組成物を用いて、以降の操作は実施例4に従い、前記〔溶出試験〕に供した。EA溶解濃度のCmaxは20.4mM、AUCは5616mM・hだった(表3)。
実施例6~9を比較することで、エラグ酸組成物中のEAに対するMeHes重量比が増すほどEA溶解濃度のAUCが向上することがわかる。一方で、EA-MeHesの混合重量比が1:6を超えると、〔溶出試験〕を実施した時のエラグ酸組成物の濡れ性低下が確認され、Cmaxも低下した。よって、EA-MeHesの混合重量比は1:6が最適とわかる。
【0057】
【0058】