IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-接着剤組成物 図1
  • 特開-接着剤組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068514
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20240513BHJP
   C08G 59/04 20060101ALI20240513BHJP
   C08G 59/06 20060101ALI20240513BHJP
   C09J 163/02 20060101ALI20240513BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
C09J163/00
C08G59/04
C08G59/06
C09J163/02
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179032
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真紀
(72)【発明者】
【氏名】田上 安宣
【テーマコード(参考)】
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
4J036AA05
4J036AB01
4J036AD01
4J036AD08
4J036AD14
4J036AD21
4J036AE07
4J036DB15
4J036DB17
4J036DB18
4J036DB20
4J036DB21
4J036DB22
4J036DB24
4J036DC38
4J036JA06
4J040EC031
4J040EC062
4J040HB22
4J040HC02
4J040KA14
4J040KA16
4J040KA26
4J040KA28
4J040KA29
4J040KA31
4J040KA35
4J040KA42
4J040LA01
4J040MA02
4J040MA10
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】RFIDタグの使用に耐えうるアルミニウム等の金属基材とPET等のプラスチック基材に対する接着性、塗膜の伸縮性、強酸性水溶液下での耐白化性を有する硬化物を形成可能な接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるジグリシジルエーテル(A)を1~80質量%と、ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)を20~99質量%からなる硬化性樹脂組成物100質量部に対し、酸無水物(C)を1~200質量部、塩基性硬化触媒(D)を0.01~10質量部含むことを特徴とする接着剤組成物。
【化1】
(式(1)中、nは2~100の実数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジグリシジルエーテル(A)を1~80質量%と、ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)を20~99質量%からなる硬化性樹脂組成物100質量部に対し、酸無水物(C)を1~200質量部、塩基性硬化触媒(D)を0.01~10質量部含むことを特徴とする接着剤組成物。
【化1】
(式(1)中、nは2~100の実数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFID(Radio Frequency Identification)タグはICカードやETCカード、物流管理などの用途で使用され、需要が高まりつつある。一般にRFIDタグの筐体は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのプラスチック基材に対し、低抵抗導体材料であるアルミニウム箔などの金属基材を貼り合わせ、金属基材において導線部分をフィルムなどで保護した後、酸などのエッチング処理によりICチップとの導線が形成される。プラスチック基材と金属基材の貼り合わせは、ポリウレタン系接着剤等のドライラミネート用接着剤を用いて実施される場合がある。しかし、ドライラミネート用接着剤を用いると、RFIDタグの製造段階において、プラスチック基材の表面上に回路パターン層が形成された半製品を積み重ねて保管した場合に、半製品同士が密着するブロッキング現象が発生する場合がある等の問題が生じていた。この改善を目的に、塩化ビニル-酢酸ビニル系接着剤であるホットメルト接着剤を用いることが提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、RFIDタグに関するものではなく、受光及び発光にかかわる素子に関するものであるが、特許文献2には、可撓性を有し、無色透明な硬化物を得ることが可能なエポキシ樹脂組成物が記載されており、この樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂として、ポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をそれぞれ所定範囲の比率で配合したものが記載されている。そのジグリシジルエーテルとしては、分子量は示されているものの、それ以外には、市販品名が示されているだけである。尚、この市販品は、いずれもポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテルと考えられる。
【0004】
ところで、RFIDタグの作製において使用される接着剤は、PETなどのプラスチック基材および低抵抗導体材料であるアルミニウムなどの金属基材への接着性が必要とされる。また、ICカードなど柔軟なプラスチック基板への適応において、接着剤(硬化物)の伸縮性が不足するとプラスチック基板の折り曲げ時に接着剤の塗膜破壊が生じてプラスチック基材からのアルミニウムなどの金属基材の導線の剥がれが生じるため硬化後の接着剤には伸縮性が求められる。また、酸エッチング処理において接着剤の酸性水溶液下での耐白化性が不足すると透明なプラスチック基材を用いた場合に接着剤の白化部分が意匠性を低下させるため、耐白化性が求められる。このように、RFIDタグの作製に使用される接着剤には、プラスチック基材及び金属基材への接着性(以下、単に接着性と称する場合がある。)、これら両基材からの剥離を抑制可能な伸縮性、強酸性水溶液に対する耐白化性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-46360号公報
【特許文献2】特開昭61-152723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のようなRFIDタグ用の接着剤に対する要求特性に関し、例えば特許文献1に記載のような塩化ビニル-酢酸ビニル系の接着剤や、ドライラミネート用接着剤として一般的なポリウレタン系接着剤について、本発明者が検討を実施したところ、(1)塩化ビニル-酢酸ビニル系の接着剤は、硬化した塗膜の伸縮性は良好であるもののアルミニウム基材への接着強度が十分ではなく、耐白化性も要求性能を満たすには十分とはいえない、(2)ポリウレタン系接着剤はアルミニウム基材への接着強度は良好であるものの、強酸性水溶液下では加水分解を生じて硬化した塗膜が白化するため耐白化性に懸念があり、また、硬化した塗膜の伸縮性も十分とはいえないことがわかった(後述する比較例参照)。尚、以下では、塗膜の伸縮性とは、硬化した塗膜(硬化膜)の伸縮性を意味する。
【0007】
特許文献2に記載の樹脂組成物に関しては、本発明者が検討を実施したところ、特許文献2に記載の市販品のようにポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル(ポリ1,2プロピレングリコールジグリシジルエーテル)を用いると、接着性は良好であるが、塗膜の伸縮性や強酸性水溶液下での耐白化性が不足し、RFIDタグへの適用が困難であることがわかった。
【0008】
以上のような従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、RFIDタグの使用に耐えうるアルミニウム等の金属基材とPET等のプラスチック基材に対する接着性、塗膜の伸縮性、強酸性水溶液下での耐白化性を有する硬化物を形成可能な接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を鑑み、本発明者が鋭意検討した結果、所定のジグリシジルエーテル(A)とビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)からなり、両者の含有割合が所定の範囲となる硬化性樹脂組成物、酸無水物(C)及び塩基性硬化触媒(D)を所定の割合で含む接着剤組成物が、アルミニウム等の金属基材とPET等のプラスチック基材に対する接着性、塗膜の伸縮性、強酸性水溶液下での耐白化性を有する硬化物を形成可能であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は下記[1]に関する。
[1]下記一般式(1)で表されるジグリシジルエーテル(A)を1~80質量%と、ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)を20~99質量%からなる硬化性樹脂組成物100質量部に対し、酸無水物(C)を1~200質量部、塩基性硬化触媒(D)を0.01~10質量部含むことを特徴とする接着剤組成物。
【0011】
【化1】
【0012】
(式(1)中、nは2~100の実数である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、RFIDタグの使用に耐えうるアルミニウム等の金属基材とPET等のプラスチック基材に対する接着性、塗膜の伸縮性、強酸性水溶液下での耐白化性を有する硬化物を形成可能である接着剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例及び比較例の接着性試験の評価において使用した引張試験用の試験板の概要を説明するための正面図である。
図2図1に示す引張試験用の試験板の側面を模式的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量の範囲など)を段階的に記載した場合、各下限値および上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~100、より好ましくは、20~90」という記載には、「10~90」、「20~100」、「10~20」または「90~100」という各範囲を包含し得る。また、記号「~」を用いて限定された数値範囲は「~」の両端(上限値および下限値)の数値を含むものとする。例えば、「2~5」は2以上5以下を表す。
【0016】
本発明の実施形態に係る接着剤組成物は、後述する一般式(1)で表されるジグリシジルエーテル(A)を1~80質量%と、ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)を20~99質量%からなる硬化性樹脂組成物100質量部に対し、酸無水物(C)を1~200質量部、塩基性硬化触媒(D)を0.01~10質量部を含む。以下、各構成について説明する。
【0017】
[硬化性樹脂組成物]
硬化性樹脂組成物は後述する一般式(1)で表されるジグリシジルエーテル(A)(以下、単に「ジグリシジルエーテル(A)」と称する場合がある。)を1~80質量%と、ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)を20~99質量%からなる。即ち、(A)成分と(B)成分の合計が100質量%である。
【0018】
<ジグリシジルエーテル(A)>
ジグリシジルエーテル(A)は、下記一般式(1)で表される。
【0019】
【化2】
【0020】
(式(1)中、nは2~100の実数である。)
【0021】
ジグリシジルエーテル(A)は、式(1)に示すように、オキシトリメチレン基を主鎖に含む。これにより、他の構成との相乗効果により、接着性、塗膜の伸縮性、強酸性水溶液下での耐白化性に優れる硬化物を形成可能な接着性組成物となると考えられる。本発明者の検討によると、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルやポリ1,2プロピレングリコールジグリシジルエーテルのように主鎖が炭素数2の短鎖のオキシアルキレン構造の繰り返し単位を有するものでは、接着性は良好であるが、塗膜の伸縮性や強酸性水溶液下での耐白化性が不足し、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテルのように主鎖が炭素数4の長鎖のオキシアルキレン構造の繰り返し単位を有するものでは、塗膜の伸縮性や強酸性水溶液下での耐白化性は良好であるものの接着性が不足するため、アルミニウム基材への接着性、塗膜の伸縮性、強酸性水溶液下での耐白化性を両立することは困難であることを確認している(後述する比較例参照)。
【0022】
硬化性樹脂組成物中のジグリシジルエーテル(A)の含有量は1~80質量%である。ジグリシジルエーテル(A)の含有量がこのような範囲であると、金属基材とプラスチック基材に対する接着性、強酸性溶液下での耐白化性、塗膜の伸縮性が良好になる。グリシジルエーテル(A)の硬化樹脂組成物中の含有量は接着性の観点から1~50質量%が好ましく、塗膜の伸縮性の観点から10~50質量%が好ましく、強酸性溶液下での耐白化性の観点から、20~50%が好ましい。
【0023】
ジグリシジルエーテル(A)の重量平均分子量は、特に限定なく、例えば、100~10000とすることができる。ハンドリングの観点から粘度の小さい100~3000が好ましく、接着性の観点から塗膜の強度が高い300~3000が好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができる。
【0024】
ジグリシジルエーテル(A)のエポキシ当量は、200~1500g/eq.が好ましく、200~1200g/eq.がより好ましい。ここでエポキシ当量とは、1当量のエポキシ基を含む化合物の質量を示しており、JIS K7236に準拠した方法で測定し、算出することが可能である。
【0025】
ジグリシジルエーテル(A)は、例えば所定のポリトリメチレングリコールへのエピクロロヒドリンの付加閉環反応によって得ることができる。
【0026】
具体的には、所定のポリトリメチレングリコールとエピクロロヒドリンを、硫酸、三フッ化ホウ素エチルエーテル、四塩化錫などの酸性触媒、または第四級アンモニウム塩類、第四級ボスホニウム塩類、クラウンエーテル類などの相関移動触媒の存在下で反応させることでクロルヒドリンエーテルの中間体を形成させたのち、次いで、このクロルヒドリンエーテル体を水酸化ナトリウム等の脱ハロゲン化水素剤と反応させて閉環する二段階法と呼ばれる方法などで、一般式(1)で示されるジグリシジルエーテル(A)を得ることができる。所定の重量平均分子量のポリトリメチレングリコールは、定法に従って調製することができるが、市販品を用いることもできる。
【0027】
ポリトリメチレングリコールは、重量平均分子量が2000程度までは加温することで液体であることから、無溶剤で行うこともできるが、溶剤を使用することで粘度を下げることができるため、撹拌機の性能にあわせて行うことも可能である。しかし、溶剤が入っている場合、最終生成物中に溶剤が若干残る可能性があるため無溶剤で実施することが好ましい。
【0028】
溶剤は、反応を阻害しないものでない限りは、特に制限されない。使用可能な溶剤としては、例えば、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素溶媒やノルマルヘキサンやシクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素溶媒;ジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;アセトン、エチルメチルケトン、4-メチル-2-ペンタノンなどのケトン系溶媒;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒;水などを挙げることができる。
【0029】
反応温度や反応時間は適宜決定すればよい。例えば、反応温度は高めれば反応を促進することができるが、高すぎると付加反応等によるゲル化が生じるおそれがある。そのため、具体的な反応温度としては20℃以上、120℃以下程度とすることができる。溶媒を用いる場合は、還流操作を行ってもよく、ディーンスターク装置を用いても良い。
【0030】
反応時間に関しては、反応が終了するまで行えばよく、具体的には1時間以上40時間程度とすることができる。反応の進行は、薄層クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどで追跡することができる。
【0031】
反応終了後には触媒残渣、塩類、不純物等が含まれているため、通常の後処理をすればよい。具体的には、ポリトリメチレングリコールジグリシジルエーテルと混和しない水や、トルエンなどの溶剤を加えたうえで、溶剤側へ不純物の抽出除去を行い精製した後、溶媒の留去を行えばよい。その他にもカラムクロマトグラフィーなどの一般的な精製法での除去も可能である。
【0032】
得られたポリトリメチレングリコールジグリシジルエーテルは、例えば、エポキシ当量、重量平均分子量などにより特定が可能である。
【0033】
<ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)>
ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)としては、例えば、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールAD型ジグリシジルエーテル、及びビスフェノールS型ジグリシジルエーテルなどが挙げられる。ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)は、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル又はビスフェノールF型ジグリシジルエーテルが好ましく、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルがより好ましい。これらは、必要に応じて、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)の重量平均分子量は、特に限定なく、例えば、100~4000とすることができる。ハンドリングの観点からは粘度の小さい100~2000が好ましく、接着性の観点から塗膜の強度が高い100~1000が好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができる。また、エポキシ当量は、100~2000g/eq.が好ましい。エポキシ当量は、JIS K7236に準拠した方法で測定し、算出することが可能である。
【0035】
硬化性樹脂組成物中のビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)の含有量は20~99質量%である。ビスフェノール系エポキシ樹脂(B)の量がこのような範囲であると、接着性が良好になる。ビスフェノール系エポキシ樹脂(B)の硬化性樹脂組成物中の含有量は、より良好な接着性の観点からは50~99質量%が好ましく、塗膜の伸縮性の観点からは50~90質量%が好ましく、酸性溶液下での耐白化性の観点から、50~80質量%が好ましい。
【0036】
ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)は、定法に従い合成することができるが、市販のものを使用することができる。
【0037】
[酸無水物(C)]
酸無水物(C)としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリストリメリレート、グリセロールトリストリメリレート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、クロレンド酸無水物、ポリアゼライン酸無水物などが挙げられる。酸無水物(C)は、これらの群から選ばれる1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いてもよい。硬化性の観点からは、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸から選択される1種又は2種が好ましい。
【0038】
接着剤組成物中の酸無水物(C)の含有量は、前述の硬化性樹脂組成物100質量部に対して1~200質量部である。接着性の観点からは、同組成物100質量部に対して10~200質量部が好ましい。酸無水物(C)の含有量が1質量部より少ないと塗膜の強度が低下して接着性が低下する傾向にある。強酸性溶液下の耐白化性の観点からは同組成物100質量部に対して10~100質量部が好ましい。塗膜の伸縮性の観点からは同組成物100質量部に対して10~90質量部が好ましい。
【0039】
[塩基性硬化触媒(D)]
塩基性硬化触媒(D)は、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(以下、DBU)、DBUのフェノール塩、DBUのオクチル塩(例えばDBUの2-エチルヘキサン酸塩等)、DBUのp-トルエンスルホン酸塩、DBUのギ酸塩、DBUのO-フタル酸塩、DBUのフェノール/ノボラック樹脂塩、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(以下、DBN)、DBNのフェノール塩、DBNのオクチル塩、DBNのp-トルエンスルホン酸塩、DBNのギ酸塩、DBNのフェノール/ノボラック樹脂塩等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。塩基性硬化触媒(D)は、硬化性の観点から、DBUのオクチル塩(例えばDBUの2-エチルヘキサン酸塩等)が好ましい。
【0040】
接着剤組成物中の塩基性硬化触媒(D)の含有量は、前述の硬化性樹脂組成物100質量部に対して0.01~10質量部である。塩基性硬化触媒(D)の含有量が0.01質量部より少ないと熱硬化時に塗膜が硬化せず接着性が低下する傾向にある。より良好な接着性の観点からは、同組成物100質量部に対して0.2~10質量部が好ましい。また、強酸性溶液下の耐白化性の観点からは、同組成物100質量部に対して0.1~5質量部が好ましい。
【0041】
本発明の実施形態では、接着剤組成物に対し、各種物性を調整する目的で、その他の成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。その他の成分の具体例としては、例えば、テルペン系、テルペンーフェノール系、クマロンインデン系、スチレン系、ロジン系、キシレン系、フェノール系、石油系などの接着性付与剤、メラミン樹脂、アミンーエポキシ樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料、可塑剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0042】
前述の接着剤組成物は、定法に従って前述の各成分を混合することで得ることができる。また、接着剤組成物を例えば加熱して硬化させることで接着剤として機能する硬化物が得られる。そして、前述の接着剤組成物は、接着性、塗膜の伸縮性、酸性水溶液下での耐白化性が良好な硬化物を形成可能なため、例えばRFIDタグ等のように、金属基材とプラスチック基材とを接合させた後、金属基材の一部を酸エッチング処理にて除去するような工程を経て製造され、意匠性が要求されるような各種部材の製造の際に使用される接着剤として好適である。
【0043】
前述のように接着剤組成物は、金属基材とプラスチック基材との接合に好適である。適用可能な金属基材としては、例えば、アルミニウム、銅、鋼、メッキされた鋼(例えば、ブリキなど)などの各種金属で形成された板などが挙げられる。適用可能なプラスチック基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレンなどの各種プラスチックで形成された板などが挙げられる。基材への接着剤組成物の塗布方法は、特に限定はなく、その特性に応じて適宜選択可能である。塗布方法としては、基材表面に接着剤組成物を均一な膜厚の塗膜となるように塗布できるものであればよく、例えば、バーコーターなどのフィルムアプリケーター、スプレーガンなどを用いて行う方法が挙げられる。接着剤組成物の塗布は、金属基材、プラスチック基材の何れか又は両方に行ってよいが、塗布面積の小さい方に行うのが好ましい。例えばRFIDなどの製造の際には、一部を除去することになる金属基材に塗布し、塗布面にプラスチック基材の所望の位置に貼り合わせるのが好ましい。また、金属基材とプラスチック基材とを接着剤組成物の塗膜を介して貼り合わせた後、例えば加熱処理を行って、接着剤組成物を硬化させ、両基材を接合させる。その後、例えばRFIDの製造の際には、定法に従い酸エッチング処理を行って、所望の形状になるように、金属基材及び硬化した接着性組成物の一部を除去する。前述のように、接着剤組成物は耐白化性が良好であるため、酸エッチング処理後も接着剤組成物の硬化物の白化が抑制され意匠性が確保される。接着性及び塗膜の伸縮性が良好であることも前述のとおりである。
【実施例0044】
以下に、実施例に基づき、本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0045】
(ジグリシジルエーテル(A)のエポキシ当量の測定)
後述する合成例1~4で得られたジグリシジルエーテル(A-1)~(A-4)3gをジメチルホルムアミドで希釈溶解させた後、ブロモフェノールブルー指示薬を加えた後に、0.2N水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、オキシラン酸素量からエポキシ当量を算出した。
【0046】
(ジグリシジルエーテル(A)の重量平均分子量の測定)
後述する合成例1~4で得られたジグリシジルエーテル(A-1)~(A-4)3について、テトラヒドロフランを展開溶媒とする、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ―、株式会社島津製作所製)により測定を行い、ポリエチレングリコール換算で重量平均分子量を求めた。
【0047】
(ジグリシジルエーテル(A)の合成)
[合成例1]
<ジグリシジルエーテル(A-1)の合成>
滴下漏斗、攪拌翼、温度計を付した5Lの4つ口フラスコに、ポリトリメチレングリコール[ALLESSA製、Velvetol H-500[分子量500]]500g、エピクロロヒドリン[ダイソー株式会社製、商品名:エピクロロヒドリン]530g、テトラメチルアンモニウムクロリド65%水溶液4.5gを仕込み、60℃まで昇温した。その後、48%水酸化ナトリウム水溶液187gを3時間かけて滴下した。その後、60℃で5時間加熱攪拌した。その後、50℃まで冷却し、水250gを添加して50℃で10分攪拌した後、5Lの分液ロートに移送し、50℃で30分静置し、分層後、水層を排出した。次に、水125gを添加して50℃で10分攪拌した後、5Lの分液ロートに移送し、50℃で30分静置し、分層後、水層を排出した。同操作を追加で2回繰り返した。得られた溶液を5Lのフラスコに戻し、80℃×50torr(6.7kPa)×6hで系内の水を留去し、ジグリシジルエーテル(A-1)を収率72%で得た。エポキシ当量は370g/eq.、重量平均分子量は650であった。
【0048】
[合成例2]
<ジグリシジルエーテル(A-2)の合成>
滴下漏斗、攪拌翼、温度計を付した5Lの4つ口フラスコに、ポリトリメチレングリコール[ALLESSA製、Velvetol H-250[分子量250]]250g、エピクロロヒドリン[ダイソー株式会社製、商品名:エピクロロヒドリン]530g、テトラメチルアンモニウムクロリド65%水溶液4.5gを仕込み、60℃まで昇温した。その後、48%水酸化ナトリウム水溶液187gを3時間かけて滴下した。その後、60℃で5時間加熱攪拌した。その後、50℃まで冷却し、水125gを添加して50℃で10分攪拌した後、5Lの分液ロートに移送し、50℃で30分静置し、分層後、水層を排出した。次に、水63gを添加して50℃で10分攪拌した後、5Lの分液ロートに移送し、50℃で30分静置し、分層後、水層を排出した。同操作を追加で2回繰り返した。得られた溶液を5Lのフラスコに戻し、80℃×50torr(6.7kPa)×6hで系内の水を留去し、ジグリシジルエーテル(A-2)を収率70%で得た。エポキシ当量は210g/eq.、重量平均分子量は400であった。
【0049】
[合成例3]
<ジグリシジルエーテル(A-3)の合成>
滴下漏斗、攪拌翼、温度計を付した5Lの4つ口フラスコに、ポリトリメチレングリコール[ALLESSA製、Velvetol H-1000[分子量1000]]1000g、エピクロロヒドリン[ダイソー株式会社製、商品名:エピクロロヒドリン]530g、テトラメチルアンモニウムクロリド65%水溶液4.5gを仕込み、60℃まで昇温した。その後、48%水酸化ナトリウム水溶液187gを3時間かけて滴下した。その後、60℃で5時間加熱攪拌した。その後、50℃まで冷却し、水500gを添加して50℃で10分攪拌した後、5Lの分液ロートに移送し、50℃で30分静置し、分層後、水層を排出した。次に、水250gを添加して50℃で10分攪拌した後、5Lの分液ロートに移送し、50℃で30分静置し、分層後、水層を排出した。同操作を追加で2回繰り返した。得られた溶液を5Lのフラスコに戻し、80℃×50torr(6.7kPa)×6hで系内の水を留去し、ジグリシジルエーテル(A-3)を収率69%で得た。エポキシ当量は600g/eq.、重量平均分子量は1150であった。
【0050】
<ジグリシジルエーテル(A-4)の合成>
滴下漏斗、攪拌翼、温度計を付した5Lの4つ口フラスコに、ポリトリメチレングリコール[ALLESSA製、Velvetol H-2000[分子量1000]]2000g、エピクロロヒドリン[ダイソー株式会社製、商品名:エピクロロヒドリン]530g、テトラメチルアンモニウムクロリド65%水溶液4.5gを仕込み、60℃まで昇温した。その後、48%水酸化ナトリウム水溶液187gを3時間かけて滴下した。その後、60℃で5時間加熱攪拌した。その後、50℃まで冷却し、水1000gを添加して50℃で10分攪拌した後、5Lの分液ロートに移送し、50℃で30分静置し、分層後、水層を排出した。次に、水500gを添加して50℃で10分攪拌した後、5Lの分液ロートに移送し、50℃で30分静置し、分層後、水層を排出した。同操作を追加で2回繰り返した。得られた溶液を5Lのフラスコに戻し、80℃×50torr(6.7kPa)×6hで系内の水を留去し、ジグリシジルエーテル(A-4)を収率69%で得た。エポキシ当量は1150g/eq.、重量平均分子量は2150であった。
【0051】
(接着性試験の評価)
アルミニウム板(厚さ1mm×縦50mm×横50mm)の縦方向の一方の末端部において横方向の概ね全長に亘る部分に、実施例1~10、比較例1~6の接着剤組成物を、フィルムアプリケーターを用いて厚みが100μmとなるように塗布した。その後、図1、2に示すように、アルミニウム板(図1、2の符号10)の接着剤組成物を塗布した部分に、PET板(厚さ1mm×縦50mm×横50mm)(図1、2の符号20)の縦方向の一方の末端部を、接着面積が縦5mm×横50mmとなるように、貼り合わせ、クリップで固定しながら、循環型乾燥オーブンにて130℃×90minで加熱することで、接着剤組成物を熱硬化させて硬化膜(図1、2の符号30)とし、引張試験用の試験板(図1、2の符号1)を得た。引張試験機に試験板の貼り合わせ部(図1、2の符号3)の端から20mmの挟み具固定位置(各板(10、20)の概ね中央部となる位置、図1の符号2)で、それぞれ掴み具で対称的に固定し、引張速度2mm/分の条件で引張せん断強度試験を実施した。以下の基準に基づいて耐熱接着性を評価した。
【0052】
(判定基準)
◎:引張せん断強度(kgf/cm)が120以上
○:引張せん断強度(kgf/cm)が100以上120未満
×:引張せん断強度(kgf/cm)が100未満
【0053】
(強酸性水溶液下での耐白化性試験の評価)
アルミニウム板(厚さ1mm×縦5cm×横5cm)上に実施例1~10、比較例1~6の接着剤組成物を、フィルムアプリケーターを用いて厚みが100μmとなるように塗布した後、循環型乾燥オーブンにて130℃×90minで加熱することで熱硬化させて、強酸性水溶液下での耐白化性試験用の試験板を得た。作製した試験片を30%塩酸水溶液に40℃で2時間浸漬したときの塗膜の白化の有無を目視で確認した。
【0054】
(判定基準)
◎:白化なし
〇:一部うすく白化している
△:一部白化している
×:全体が白化している
【0055】
(塗膜の伸縮性試験の評価)
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板(厚さ2mm×縦5cm×横4cm)上に実施例1~10、比較例1~6の接着剤組成物を、フィルムアプリケーターを用いて厚みが200μmとなるように塗布した後、循環型乾燥オーブンにて130℃×90minで加熱することで熱硬化させ、50℃×10分静置した後、硬化した塗膜(硬化膜)をPTFE板からはがし、試験用の硬化膜を得た。引張試験機に作成した硬化膜を縦方向に中心から2.0mmの位置で、それぞれ掴み具で対称的に固定し、引張速度2mm/分の条件でストロークの測定試験を実施した。以下の基準に基づいて塗膜の伸縮性を評価した。
【0056】
(判定基準)
◎:引張破断長さが17mm以上
○:引張破断長さが15mm以上17mm未満
×:引張破断長さが15mm未満
【0057】
(実施例1~10、比較例1~4)
表1、2に示す配合に従って各成分を蓋つきバイアル瓶に添加し、容器撹拌型プラネタリーミキサーにより2000rpmで1分間攪拌し、実施例1~10、比較例1~4の接着剤組成物を調製した。得られた各接着剤組成物に対し、上記の接着性試験および強酸性水溶液下での耐白化性試験、塗膜の伸縮性試験を実施した。
【0058】
実施例1~6及び比較例1~4で使用した表1、2中の各成分は以下のとおりである。
(1)ジグリシジルエーテル(A)
合成例1~4で得られたジグリシジルエーテル(A-1)~(A-4)
(2)ジグリシジルエーテル(A’)
・ジグリシジルエーテル(A’-1)
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、
共栄社化学株式会社製、エポライト400E、エポキシ当量:264~290g/eq.、粘度:60~110mPa・s(25℃)
・ジグリシジルエーテル(A’-2)
ポリプロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、
共栄社化学株式会社製、エポライト400P、エポキシ当量:300~330g/eq.、粘度:40~60mPa・s(25℃)
・ジグリシジルエーテル(A’-3)
ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、
四日市合成株式会社製、エポゴーセーPT、エポキシ当量:435g/eq.、粘度:192mPa・s(25℃)
(3)ビスフェノール型ジグリシジルエーテル(B)(表1、2中、「ジグリシジルエーテル(B))
・ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル
三菱ケミカル株式会社製、jER(登録商標)828、エポキシ当量:184~194、重量平均分子量:約370
(4)酸無水物(C)
・ヘキサヒドロ無水フタル酸及びメチルヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物
新日本理化株式会社製、リカシッドMH-700、ヘキサヒドロ無水フタル酸と4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物
(5)塩基性硬化触媒(D)
・DBUのオクチル塩
サンアプロ株式会社製、U-CAT SA102、DBUの2-エチルヘキサン酸塩
【0059】
(比較例5)
接着剤組成物として、塩化ビニル-酢酸ビニル系接着剤(セメダイン株式会社製、セメダイン201F)を用い、上記の接着性試験および強酸性水溶液下での耐白化性試験、塗膜の伸縮性試験を実施した。
【0060】
(比較例6)
接着剤組成物として、ポリウレタン系接着剤(株式会社スリーボンド製、PANDO ウレタン系強力接着剤プラスチック用)を用い、上記の接着性試験および強酸性水溶液下での耐白化性試験、塗膜の伸縮性試験を実施した。
【0061】
実施例1~6の配合および評価結果を表1に、比較例1~4の配合および比較例1~6の評価結果を表2に示す。尚、表1、2中、接着性試験及び塗膜の伸縮性試験の括弧内は、測定値を示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表1に示すように、所定のジグリシジルエーテル(A)を含み、所定の成分を所定の比率で含有する各実施例の接着剤組成物は、アルミニウム板とPET板との接着性、強酸性水溶液下での耐白化性、塗膜の伸縮性の評価が全て良好であった。これに対し、表2に示すように、所定のジグリシジルエーテル(A)を含まない比較例1~6の接着剤組成物では、アルミニウム板とPET板との接着性、強酸性水溶液下での耐白化性、塗膜の伸縮性の全ての評価が良好なものはなかった。したがって、前述の接着剤組成物は、例えばRFIDタグなどの製造において金属基材とプラスチック基材との接合に用いられる接着剤として好適である。
【符号の説明】
【0065】
1 引張試験用の試験板
2 挟み具固定位置
3 貼り合わせ部
10 アルミニウム板
20 ポリエチレンテレフタレート(PET)板
30 接着剤組成物の塗膜(硬化膜)
図1
図2