(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068519
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】固体触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/89 20060101AFI20240513BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240513BHJP
C10G 1/10 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B01J23/89 M ZAB
B01J35/10 301G
C10G1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179037
(22)【出願日】2022-11-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年9月30日に発行された第9回高分子学会グリーンケミストリー研究会シンポジウム 第23回プラスチックリサイクル化学研究会研究討論会 合同発表会 講演要旨集 (2)令和4年10月1日に第9回高分子学会グリーンケミストリー研究会シンポジウム 第23回プラスチックリサイクル化学研究会研究討論会 合同発表会で発表したポスター
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衣田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】田村 正純
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA11
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA04A
4G169BA05A
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4G169BC43B
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4G169FB44
4G169FC08
4H129AA01
4H129BA04
4H129BB05
4H129BC16
4H129KA12
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4H129KD06X
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4H129KD30X
4H129KD44X
4H129KD44Y
4H129NA21
4H129NA24
4H129NA37
4H129NA43
(57)【要約】
【課題】分解生成物への転化率が高く、かつ、有用化学品原料として得られる油状物の選択率が高く、異性化が抑制された分解生成物を得ることができる、固体触媒、及び、該固体触媒を用いる油状物の製造方法を提供する。
【解決手段】〔1〕ルテニウムと、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる1種以上の金属Mと、を担体に共担持した固体触媒であり、該担体が、比表面積が10~1000m2/gの金属酸化物である、固体触媒、及び、〔2〕前記〔1〕に記載の固体触媒を、融点又は軟化点が250℃以下のプラスチックに接触させた混合物を反応系内に供給し、該反応系内に水素を供給し、該プラスチックを150℃以上にて熱分解して油状物を得る工程を含む、油状物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウムと、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる1種以上の金属Mと、を担体に共担持した固体触媒であり、
該担体が、比表面積が10m2/g以上1000m2/g以下の金属酸化物である、固体触媒。
【請求項2】
金属酸化物が、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム及び酸化ジルコニウムの複合酸化物、γ-アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、並びに結晶性アルミノケイ酸塩からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の固体触媒。
【請求項3】
前記ルテニウムと前記金属Mとの担持質量比[Ru/金属M]が0.01以上15以下である、請求項1又は2に記載の固体触媒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の固体触媒を、融点又は軟化点が250℃以下のプラスチックに接触させた混合物を反応系内に供給し、該反応系内に水素を供給し、該プラスチックを150℃以上にて熱分解して油状物を得る工程を含む、油状物の製造方法。
【請求項5】
前記プラスチックが重合性二重結合を有するモノマーを重合してなる樹脂である、請求項4に記載の油状物の製造方法。
【請求項6】
前記重合性二重結合を有するモノマーを重合してなる樹脂がポリオレフィン樹脂である、請求項5に記載の油状物の製造方法。
【請求項7】
前記油状物が、炭素数8以上45以下の有機化合物である、請求項4~6のいずれか1項に記載の油状物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体触媒、及び、該固体触媒を用いてプラスチック(とりわけ、廃プラスチック)から油状物を得る油状物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチックのケミカルリサイクルは、異種素材や不純物を含むプラスチックを分解して、様々な有用化学品原料に変換して活用することが可能であり、資源循環を促進して、省資源につながる技術として期待されている。
このような廃プラスチックのケミカルリサイクルとして、廃プラスチックを熱分解して油化し、有用化学品原料として再利用する熱分解油化法の開発が進められ、廃プラスチックの油化に適した触媒の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、反応終了後の回収や再生が容易であり、触媒反応時の反応温度を低くすることができる固体触媒及びその製造方法、油状物の製造方法の提供を目的として、金属酸化物からなる担体と、該担体に担持されたルテニウムと、を含み、比表面積が、10m2/g以上1000m2/g以下である固体触媒、及び、該固体触媒を、融点が250℃以下のプラスチックに接触させて、前記プラスチックを100℃以上で水素下で熱処理する工程を有する油状物の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常の熱分解油化法では、分解生成物の異性化率が高い。そのため、分解生成物の異性化を抑制することができる熱分解油化法の開発が望まれている。また、廃プラスチックから高選択的に有用化学品原料に変換するには、プラスチックの化学結合を選択的に切断することができる触媒が求められる。
特許文献1の技術では、反応終了後の回収や再生が容易となり、触媒反応時の反応温度を低くすることができるものの、プラスチックからの分解生成物への転化率及び有用化学品原料として得られる油状物の選択率については改善の余地があることが判明した。
本発明は、分解生成物への転化率が高く、かつ、有用化学品原料として得られる油状物の選択率が高く、異性化が抑制された分解生成物を得ることができる、固体触媒、及び、該固体触媒を用いる油状物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ルテニウムと、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる1種以上の金属と、を担体に共担持した固体触媒であり、該担体が、比表面積が所定の範囲の金属酸化物であることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1]ルテニウムと、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる1種以上の金属Mと、を担体に共担持した固体触媒であり、
該担体が、比表面積が10m2/g以上1000m2/g以下の金属酸化物である、固体触媒。
[2]前記[1]に記載の固体触媒を、融点又は軟化点が250℃以下のプラスチックに接触させた混合物を反応系内に供給し、該反応系内に水素を供給し、該プラスチックを150℃以上にて熱分解して油状物を得る工程を含む、油状物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、分解生成物への転化率が高く、かつ、有用化学品原料として得られる油状物の選択率が高く、異性化が抑制された分解生成物を得ることができる、固体触媒、及び、該固体触媒を用いる油状物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[固体触媒]
本発明の固体触媒は、ルテニウムと、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる1種以上の金属Mと、を担体に共担持した固体触媒であり、該担体が、比表面積が10m2/g以上1000m2/g以下の金属酸化物である。
【0009】
本発明によれば、分解生成物への転化率が高く、かつ、有用化学品原料として得られる油状物の選択率が高く、異性化が抑制された分解生成物を得ることができるという効果を奏することができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の固体触媒は、担体として金属酸化物に担持されたルテニウムと金属Mとの協奏作用により、高い転化率及び選択率を両立することができると考えられる。また、本発明によれば、熱分解と同時に水素がプラスチック骨格の切断部分に付加するため、分解生成物の異性化を抑制することができ、例えば、ポリエチレンを熱分解する場合、直鎖状の分解生成物の生成率を高くすることができ、有用化学品原料として得られる油状物の選択率をより向上させることができると考えられる。これにより、分解生成物の精製の際に、有用化学品原料の分離及び回収が容易になる。
【0010】
<担持金属>
本発明に係る担持金属は、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、第1の担持金属としてルテニウムと、第2の担持金属としてモリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選ばれる1種以上の金属Mからなる。
【0011】
ルテニウムの担持量は、該固体触媒に対して(すなわち、固体触媒の全質量100質量%のうち)、固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率を向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、より更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは0.3質量%以上、より更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは0.7質量%以上であり、そして、油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、及び直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点、並びに触媒コストを低減する観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは3質量%以下である。本発明の固体触媒において、ルテニウムの担持量は、理論仕込み量から算出される。
【0012】
ルテニウムと共に担体に共担持される金属Mは、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくはニッケル及び銅からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは銅である。
【0013】
金属Mの担持量は、該固体触媒に対して(すなわち、固体触媒の全質量100質量%のうち)、油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、及び直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、より更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは0.2質量%以上、より更に好ましくは0.3質量%以上、より更に好ましくは0.4質量%以上、より更に好ましくは0.5質量%以上であり、そして、固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率を向上させる観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。本発明の固体触媒において、金属Mの担持量は、理論仕込み量から算出される。
【0014】
ルテニウム及び金属Mの担持量の合計は、該固体触媒に対して(すなわち、固体触媒の全質量100質量%のうち)、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.06質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは0.2質量%以上、より更に好ましくは0.4質量%以上、より更に好ましくは0.8質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上であり、そして、前記と同様の観点、及び触媒コストを低減する観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは7質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。本発明の固体触媒において、ルテニウム及び金属Mの担持量の合計は、理論仕込み量から算出される。
【0015】
前記ルテニウムと前記金属Mとの担持質量比[Ru/金属M]は、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.10以上、更に好ましくは0.20以上、より更に好ましくは0.25以上であり、そして、前記と同様の観点、及び触媒コストを低減する観点から、好ましくは15以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8.0以下、より更に好ましくは6.0以下、より更に好ましくは4.0以下、より更に好ましくは3.0以下、より更に好ましくは2.0以下である。本発明の固体触媒において、担持質量比[Ru/金属M]は、理論仕込み量から算出される。
【0016】
<担体>
本発明に係る担体は、金属を効率的に担持し、固体触媒の強度を維持して、触媒活性を発揮させる観点から、比表面積が10m2/g以上1000m2/g以下の金属酸化物である。
前記金属酸化物としては、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは酸化セリウム(CeO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化セリウム(CeO2)及び酸化ジルコニウム(ZrO2)の複合酸化物、γ-アルミナ(γ-Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ケイ素(SiO2)、並びに結晶性アルミノケイ酸塩からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは酸化セリウム(CeO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、並びに酸化セリウム(CeO2)及び酸化ジルコニウム(ZrO2)の複合酸化物からなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは酸化セリウム(CeO2)及び酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる群から選ばれる1種以上である。
前記金属酸化物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
前記金属酸化物の比表面積は、金属を効率的に担持し、固体触媒の強度を維持して、触媒活性を発揮させる観点から、好ましくは15m2/g以上、より好ましくは20m2/g以上、更に好ましくは25m2/g以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは700m2/g以下、より好ましくは500m2/g以下、更に好ましくは300m2/g以下、より更に好ましくは200m2/g以下、より更に好ましくは150m2/g以下、より更に好ましくは110m2/g以下である。
前記金属酸化物の比表面積は、BET法で求めたBET比表面積であり、実施例に記載の方法により測定される。
【0018】
(固体触媒の調製)
本発明の固体触媒は、金属酸化物を大気雰囲気下で焼成した後、焼成した金属酸化物とルテニウム前駆体及び金属M前駆体との混合物を窒素雰囲気下で熱処理する工程を含む方法により調製することが好ましい。
【0019】
前記金属酸化物としては、前述の担体として例示した金属酸化物が好ましく用いられる。前記金属酸化物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記金属酸化物の焼成温度は、金属酸化物の比表面積を調整し、固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率を向上させる観点から、好ましくは500℃以上であり、そして、固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1300℃以下、更に好ましくは1000℃以下である。
前記金属酸化物の焼成する時間は、金属酸化物の結晶性を高め、固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、固体触媒の調製の効率性の観点から、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下である。
金属酸化物を焼成する方法としては、特に限定されないが、例えば、焼成炉で焼成する方法、管形流通装置で焼成する方法等が挙げられる。
【0020】
焼成した金属酸化物にルテニウム及び金属Mを担持させる方法は、特に限定されないが、例えば、焼成した金属酸化物にルテニウム前駆体溶液及び金属Mの前駆体溶液を含侵させて得られる混合物を加熱及び乾燥して金属酸化物とルテニウム前駆体及び金属M前駆体との混合物を得た後、更に金属酸化物とルテニウム前駆体及び金属M前駆体との混合物を窒素雰囲気下で熱処理する方法が挙げられる。
焼成した金属酸化物にルテニウム前駆体溶液及び金属Mの前駆体溶液を含浸させる方法としては、焼成した金属酸化物を、ルテニウム前駆体溶液及び金属Mの前駆体溶液と混合及び含浸させる方法;焼成した金属酸化物に、ルテニウム前駆体溶液及び金属Mの前駆体溶液のいずれか一方の前駆体溶液を含浸させた後、他方の前駆体溶液を含浸させる方法等が挙げられる。
ルテニウム前駆体溶液としては、Ru(NO)(NO3)x(OH)3-xが挙げられる。
ルテニウム前駆体溶液中のルテニウムの含有量は、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
金属Mの前駆体溶液としては、金属Mの硝酸塩溶液が挙げられる。
金属Mの前駆体溶液中の金属Mの含有量は、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0021】
金属酸化物にルテニウム前駆体溶液及び金属Mの前駆体溶液を含侵させて得られる混合物を乾燥させる際の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気下で行うことができる。
金属酸化物にルテニウム前駆体溶液及び金属Mの前駆体溶液を含侵させて得られる混合物を乾燥させる際の温度は、固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率を向上させる観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、そして、固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは120℃以下である。
金属酸化物にルテニウム前駆体溶液及び金属Mの前駆体溶液を含侵させて得られる混合物を乾燥させる際の時間は、触媒形成を十分なものとし固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは6時間以上、より好ましくは10時間以上であり、そして、固体触媒の調製の効率性の観点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは18時間以下である。
【0022】
金属酸化物とルテニウム前駆体及び金属M前駆体との混合物を熱処理する温度は、固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率を向上させる観点から、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、更に好ましくは280℃以上であり、そして、固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは1000℃以下、より好ましくは800℃以下、更に好ましくは500℃以下である。
金属酸化物とルテニウム前駆体及び金属M前駆体との混合物を熱処理する時間は、触媒形成を十分なものとし固体触媒の活性を向上させて、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、固体触媒の調製の効率性の観点から、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下である。
金属酸化物にルテニウム前駆体溶液及び金属Mの前駆体溶液を含侵させて得られる混合物を乾燥する方法、並びに金属酸化物とルテニウム前駆体及び金属M前駆体との混合物を熱処理する方法としては、特に限定されないが、例えば、乾燥においては一般的な送風乾燥機等で乾燥する方法;熱処理においては焼成炉で熱処理する方法、管形流通装置で熱処理する方法等が挙げられる。
【0023】
[油状物の製造方法]
本発明の油状物の製造方法は、前記固体触媒を、融点又は軟化点が250℃以下のプラスチックに接触させた混合物を反応系内に供給し、該反応系内に水素を供給し、該プラスチックを熱分解して油状物を得る工程を含む。
【0024】
本発明の製造方法において、熱分解に供するプラスチックは、融点又は軟化点が250℃以下のものであれば、特に限定されない。
ここで、「融点又は軟化点が250℃以下のプラスチック」とは、250℃で液体状であるプラスチックを意味する。
また、本発明の製造方法において、熱分解に供するプラスチックが廃プラスチックである場合には、固体触媒と混合する前に廃プラスチックの粉砕や異物除去を行ってもよい。
プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、廃プラスチックから有用化学品原料への変換の観点からは、廃プラスチックに含まれる重合性二重結合を有するモノマーを重合してなる樹脂が好ましく挙げられる。かかる重合性二重結合を有するモノマーを重合してなる樹脂としては、好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン(PS);及びポリ塩化ビニル(PVC)からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはポリオレフィン樹脂である。
【0025】
ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン樹脂;ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等のポリプロピレン樹脂;及びポリエチレン/ポリプロピレン共重合体からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィン樹脂は、有用性が高い化学品原料を得ることができる観点から、ポリエチレン樹脂がより好ましい。
【0026】
ポリオレフィン樹脂の数平均分子量(Mn)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは1,300以上、更に好ましくは1,500以上であり、そして、好ましくは30,000以下、より好ましくは20,000以下、更に好ましくは10,000以下である。ポリオレフィン樹脂の数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
ポリオレフィン樹脂のメルトインデックス(MI)は、好ましくは0.1g/10min以上、より好ましくは0.5g/10min以上、更に好ましくは0.7g/10min以上であり、そして、好ましくは50g/10min以下、より好ましくは30g/10min以下、更に好ましくは20g/10min以下である。
ポリオレフィン樹脂のメルトインデックス(MI)は、ASTM D 1238に準拠した測定法により求めることができ、樹脂温度190℃、荷重2.16kgにおいて測定した値を用いることができる。
【0027】
本発明の製造方法において、固体触媒の使用量は、プラスチック100質量部に対して、十分な触媒活性を発揮させ、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、より更に好ましくは1質量部以上、より更に好ましくは2質量部以上であり、そして、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点、並びに触媒コストを低減する観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、更に好ましくは5質量部以下、より更に好ましくは4質量部以下である。
【0028】
本発明の製造方法において、熱分解処理する際の水素圧は、好ましくは30MPa以下、より好ましくは20MPa以下、更に好ましくは10MPa以下、より更に好ましくは6MPa以下であり、そして、好ましくは2MPa以上、より好ましくは3MPa以上、更に好ましくは4MPa以上である。
【0029】
本発明の製造方法において、熱分解処理する際の反応温度は、十分な触媒活性を発揮させ、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは150℃以上、より更に好ましくは160℃以上、より更に好ましくは180℃以上、より更に好ましくは200℃以上であり、そして、エネルギー負荷を低減する観点から、好ましくは250℃以下である。
【0030】
本発明の製造方法において、熱分解処理する際の反応時間は、十分な触媒活性を発揮させ、分解生成物への転化率及び油状物の選択率を向上させる観点、分解物の異性化を抑制する観点、並びに直鎖状の分解生成物の生成率を向上させる観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは3時間以上、より更に好ましくは6時間以上であり、そして、エネルギー負荷を低減する観点から、好ましくは100時間以下、より好ましくは72時間以下、更に好ましくは36時間以下、より更に好ましくは24時間以下である。
【0031】
熱分解処理開始から24時間以内における、分解生成物への転化率は、好ましくは60mol%以上、より好ましくは70mol%以上、更に好ましくは80mol%以上、より更に好ましくは90mol%以上である。
転化率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
本発明の製造方法によれば、ガス成分として炭素数1以上4以下の有機化合物の生成を抑制し、油状物として炭素数5以上45以下の有機化合物の選択率を向上させることができる。油状物としては、炭素数8以上45以下の有機化合物であることが好ましい。
炭素数8以上45以下の有機化合物は、前記油状物から蒸留精製して得ることができ、有用化学品原料に用いることができる。例えば、炭素数8以上20以下の有機化合物は、界面活性剤原料として有用であり、炭素数18以上30以下の有機化合物は添加剤として用いられるワックスとして有用であり、炭素数15以上45以下の有機化合物は潤滑基油として有用である。
本発明の製造方法により得られるこれらの有機化合物は、化学品原料としての有用性の観点から、炭化水素系有機化合物であることが好ましい。
【0033】
本発明における分解生成物総量中のガス成分(炭素数1以上4以下の有機化合物)の選択率は、好ましくは10mol%以下、より好ましくは8mol%以下、更に好ましくは6mol%以下である。
本発明における分解生成物総量中の炭素数8以上20以下の有機化合物の選択率は、好ましくは30mol%以上、より好ましくは35mol%以上、更に好ましくは40mol%以上であり、そして、好ましくは80mol%以下、より好ましくは75mol%以下、更に好ましくは70mol%以下である。
本発明における分解生成物総量中の炭素数18以上30以下の有機化合物の選択率は、好ましくは20mol%以上、より好ましくは25mol%以上、更に好ましくは30mol%以上であり、そして、好ましくは65mol%以下、より好ましくは60mol%以下、更に好ましくは55mol%以下である。
本発明における分解生成物総量中の炭素数15以上45以下の有機化合物の選択率は、好ましくは30mol%以上、より好ましくは35mol%以上、更に好ましくは40mol%以上であり、そして、好ましくは85mol%以下、より好ましくは80mol%以下、更に好ましくは75mol%以下である。
ガス成分及び各種有機化合物の選択率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0034】
本発明の製造方法によれば、分解生成物の異性化を抑制することができるため、例えば、ポリオレフィン樹脂を熱分解する場合、直鎖状の分解生成物の生成率が高い油状物を得ることができる。
本発明における分解生成物総量中の直鎖状の分解生成物の生成率は、好ましくは60mol%以上、より好ましくは65mol%以上、更に好ましくは70mol%以上、より更に好ましくは75mol%以上、より更に好ましくは80mol%以上であり、そして、製造容易性の観点から、100mol%以下、好ましくは99mol%以下、より好ましくは97mol%以下である。
直鎖状の分解生成物の生成率は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【実施例0035】
測定は、以下の方法により行った。
[金属酸化物の比表面積]
金属酸化物の比表面積は、全自動比表面積測定装置「Gemini VII 2360」(株式会社島津製作所製)を用いて、BET法により測定した。
【0036】
(固体触媒の調製)
調製例1
酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末「RC-100」(第一稀元素化学工業株式会社製)を、大気雰囲気下600℃にて3時間焼成した。焼成した酸化ジルコニウムの比表面積は46.9m2/gであった。
担体として焼成した酸化ジルコニウム0.940gを、ルテニウム(Ru)前駆体溶液としてニトロシル硝酸ルテニウム水溶液(ルテニウム含有量1.5質量%)1.333g、及び銅(Cu)前駆体溶液として硝酸銅水溶液(銅含有量1.5質量%)2.667gと混合及び含浸させ、得られた混合物を大気雰囲気下110℃にて12時間乾燥させた後、更に窒素雰囲気下300℃にて1時間熱処理することにより、ルテニウムの担持量が2質量%、銅の担持量が4質量%である固体触媒(Ru-Cu/ZrO2)(以下、「固体触媒1」と表記する)を得た。
【0037】
調製例2
焼成した酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末を0.950g、ルテニウム(Ru)前駆体溶液を0.667g、及び銅(Cu)前駆体溶液を2.667gに変更した以外は調製例1と同様にして、ルテニウムの担持量が1質量%、銅の担持量が4質量%である固体触媒(Ru-Cu/ZrO2)(以下、「固体触媒2」と表記する)を得た。
【0038】
調製例3
焼成した酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末を0.985g、ルテニウム(Ru)前駆体溶液を0.667g、及び銅(Cu)前駆体溶液を0.333gにした以外は調製例1と同様に行い、ルテニウムの担持量が1質量%、銅の担持量が0.5質量%である固体触媒(Ru-Cu/ZrO2)(以下、「固体触媒3」と表記する)を得た。
【0039】
調製例4
酸化セリウム(CeO2)粉末「Type-A」(第一稀元素化学工業株式会社製)を、大気雰囲気下600℃にて3時間焼成した。焼成した酸化セリウムの比表面積は102.8m2/gであった。
担体として焼成した酸化セリウム0.950gを、ルテニウム(Ru)前駆体溶液としてニトロシル硝酸ルテニウム水溶液(ルテニウム含有量1.5%)1.667g、及び銅(Cu)前駆体溶液として硝酸銅水溶液(銅含有量1.5%)を1.667gと混合及び含浸させ、得られた混合物を大気雰囲気下110℃にて12時間乾燥させた後、更に窒素雰囲気下300℃にて1時間熱処理することにより、ルテニウムの担持量が2.5質量%、銅の担持量が2.5質量%である固体触媒(Ru-Cu/CeO2)(以下、「固体触媒4」と表記する)を得た。
【0040】
調製例5
酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末「RC-100」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下600℃にて3時間焼成した。焼成した酸化ジルコニウムの比表面積は46.9m2/gであった。
担体として焼成した酸化ジルコニウム0.950gを、ルテニウム(Ru)前駆体溶液としてニトロシル硝酸ルテニウム水溶液(ルテニウム含有量1.5質量%)1.667g、及びニッケル(Ni)前駆体溶液として硝酸ニッケル水溶液(ニッケル含有量1.5質量%)1.667gと混合及び含浸させ、得られた混合物を大気雰囲気下110℃にて12時間乾燥させた後、更に窒素雰囲気下300℃にて1時間熱処理することにより、ルテニウムの担持量が2.5質量%、ニッケルの担持量が2.5質量%である固体触媒(Ru-Ni/ZrO2)(以下、「固体触媒5」と表記する)を得た。
【0041】
調製例6
酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末「RC-100」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下700℃にて3時間焼成した。焼成した酸化ジルコニウムの比表面積は31.7m2/gであった。
担体として焼成した酸化ジルコニウムを変更した以外は調製例2と同様にして、ルテニウムの担持量が1質量%、銅の担持量が4質量%である固体触媒(Ru-Cu/ZrO2)(以下、「固体触媒6」と表記する)を得た。
【0042】
調製例7
酸化セリウム(CeO2)粉末「Type-A」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下800℃にて3時間焼成した。焼成した酸化セリウムの比表面積を48.7m2/gであった。
担体として焼成した酸化セリウムを変更した以外は調製例2と同様にして、ルテニウムの担持量が1質量%、銅の担持量が4質量%である固体触媒(Ru-Cu/CeO2)(以下、「固体触媒7」と表記する)を得た。
【0043】
調製例8
酸化セリウム(CeO2)粉末「Type-A」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下900℃にて3時間焼成した。焼成した酸化セリウムの比表面積は30.2m2/gであった。
担体として焼成した酸化セリウムを変更した以外は調製例2と同様にして、ルテニウムの担持量が1質量%、銅の担持量が4質量%である固体触媒(Ru-Cu/CeO2)(以下、「固体触媒8」と表記する)を得た。
【0044】
調製例9
焼成した酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末を0.9945g、ルテニウム(Ru)前駆体溶液を0.3333g、及び銅(Cu)前駆体溶液を0.0333gに変更した以外は調製例1と同様にして、ルテニウムの担持量が0.5質量%、銅の担持量が0.05質量%である固体触媒(Ru-Cu/ZrO2)(以下、「固体触媒9」と表記する)を得た。
【0045】
比較調製例1
酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末「RC-100」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下600℃にて3時間焼成し、焼成した酸化ジルコニウムを固体触媒(ZrO2)(以下、「固体触媒C1」と表記する)とした。焼成した酸化ジルコニウムの比表面積は46.9m2/gであった。
【0046】
比較調製例2
酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末「RC-100」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下600℃にて3時間焼成した。焼成した酸化ジルコニウムの比表面積は46.9m2/gであった。
担体として焼成した酸化ジルコニウム0.960gを、銅(Cu)前駆体溶液として硝酸銅水溶液(銅含有量1.5質量%)2.667gと混合及び含浸させ、得られた混合物を大気雰囲気下110℃にて12時間乾燥させた後、更に窒素雰囲気下300℃にて1時間熱処理することにより、銅の担持量が4質量%である固体触媒(Cu/ZrO2)(以下、「固体触媒C2」と表記する)を得た。
【0047】
比較調製例3
酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末「RC-100」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下600℃にて3時間焼成した。焼成した酸化ジルコニウムの比表面積は46.9m2/gであった。
担体として焼成した酸化ジルコニウム0.990gを、ルテニウム(Ru)前駆体溶液としてニトロシル硝酸ルテニウム水溶液(ルテニウム含有量1.5質量%)0.667gと混合及び含浸させ、得られた混合物を大気雰囲気下110℃にて12時間乾燥させた後、更に窒素雰囲気下300℃にて1時間熱処理することにより、ルテニウムの担持量が1質量%である固体触媒(Ru/ZrO2)(以下、「固体触媒C3」と表記する)を得た。
【0048】
比較調製例4
酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末「RC-100」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下600℃にて3時間焼成した。焼成した酸化ジルコニウムの比表面積は46.9m2/gであった。
担体として焼成した酸化ジルコニウム0.960gを、ニッケル(Ni)前駆体溶液として硝酸ニッケル水溶液(ニッケル含有量1.5質量%)2.667gと混合及び含浸させ、得られた混合物を大気雰囲気下110℃にて12時間乾燥させた後、更に窒素雰囲気下300℃にて1時間熱処理することにより、ニッケルの担持量が4質量%である固体触媒(Ni/ZrO2)(以下、「固体触媒C4」と表記する)を得た。
【0049】
比較調製例5
酸化セリウム(CeO2)粉末「Type-A」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下600℃にて3時間焼成した。焼成した酸化セリウムの比表面積は102.8m2/gであった。
担体として焼成した酸化セリウム0.960gを、銅(Cu)前駆体溶液として硝酸銅水溶液(銅含有量1.5質量%)2.667gと混合及び含浸させ、得られた混合物を大気雰囲気下110℃にて12時間乾燥させた後、更に窒素雰囲気下300℃にて1時間熱処理することにより、銅の担持量が4質量%である固体触媒(Cu/CeO2)(以下、「固体触媒C5」と表記する)を得た。
【0050】
比較調製例6
酸化セリウム(CeO2)粉末「Type-A」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下600℃にて3時間焼成した。焼成した酸化セリウムを固体触媒(CeO2)(以下、「固体触媒C6」と表記する)とした。焼成した酸化セリウムの比表面積は102.8m2/gであった。
【0051】
比較調製例7
酸化セリウム(CeO2)粉末「Type-A」(第一稀元素化学工業株式会社製)を大気雰囲気下600℃にて3時間焼成した。この時焼成した酸化セリウムの比表面積は102.8m2/gであった。
担体として焼成した酸化セリウム0.950gを、ルテニウム(Ru)前駆体溶液としてニトロシル硝酸ルテニウム水溶液(ルテニウム含有量1.5質量%)3.333gと混合及び含浸させ、得られた混合物を大気雰囲気下110℃にて12時間乾燥させた後、更に窒素雰囲気下300℃にて1時間熱処理することにより、ルテニウムの担持量が5質量%である固体触媒(Ru/CeO2)(以下、「固体触媒C7」と表記する)を得た。
【0052】
【0053】
実施例1
調製例1で得られた固体触媒1 100mg、低密度ポリエチレン(シグマアルドリッチ社製、数平均分子量Mn:1,700)(以下、「LDPE」と表記する)3.4g、及びガラス製スターラーチップを、撹拌及び温度調節機能を備えたオートクレーブ内に投入した。
次いで、オートクレーブ内を水素で3回置換した後、オートクレーブの内圧が3MPaとなるように、オートクレーブ内に水素を導入し、オートクレーブを密閉した。
次いで、オートクレーブ内の温度を240℃まで1時間かけて昇温した後、オートクレーブ内の温度を240℃に維持したまま、ガラス製スターラーチップを回転数450rpmで回転させて固体触媒と低密度ポリエチレンとを撹拌しながら、8時間反応させた。反応開始時点のオートクレーブ内の圧力は5MPaであった。
その後、氷水により、オートクレーブ内の温度を室温まで急速冷却した。
冷却後のオートクレーブから、ガスバッグにガス成分(気相)を全量取り出した。その後、ガスを収容したガスバッグ内に、内部標準としてジクロロメタン40μLを導入した。また、冷却後のオートクレーブに、内部標準として9,10-ジヒドロアントラセン100mg及びメシチレンを投入し、油状物(液相)を回収した。
回収したガス成分(気相)及び油状物(液相)を、ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化型検出器(GC-FID)「GC-2014」(株式会社島津製作所製)を用いて、分析した。さらに、冷却後のオートクレーブから、減圧濾過により、固体を回収し、その固体の質量を計測し、導入固体触媒の質量を差し引いた質量を回収固体量として、下記式(1)より転化率(反応率)を計算した。また、ガスクロマトグラフによる分析結果より、分解生成物の総量、並びに、分解生成物としてガス成分(以下、「C1-C4」と表記する)、炭素数8以上20以下の有機化合物(以下、「C8-C20」と表記する)、炭素数18以上30以下の有機化合物(以下、「C18-C30」と表記する)、及び炭素数15以上45以下の有機化合物(以下、「C15-C45」と表記する)の生成量より、分解生成物の総量中の各種分解生成物の選択率を下記式(2)より計算した。さらに、ガスクロマトグラフによる分析結果より、ノルマル体(直鎖状の分解生成物)の生成率を下記式(3)より計算した。結果を表2に示す。
転化率(mol%-C)=[〔導入基質量(mol-C)-回収固体量(mol-C)〕/導入基質量(mol-C)]×100 (1)
ここで、式(1)中の「導入基質」とは、固体触媒を用いて分解するプラスチックを意味する。例えば、実施例1では、低密度ポリエチレンのことである。
選択率(mol%-C)=[各種分解生成物の生成量(mol-C)/分解生成物の総量(mol-C)]×100 (2)
直鎖状の分解生成物の生成率(mol%-C)=[直鎖状の分解生成物の生成量(mol-C)/分解生成物の総量(mol-C)]×100 (3)
【0054】
実施例2~15、比較例1~7
実施例1において、用いる固体触媒及び樹脂、並びに熱分解処理条件を表2に示すように変更したこと以外は同様にして反応を行い、反応終了後のガス成分及び油状物の分析を行い、前記式(1)~(3)より転化率、各種分解生成物の選択率、及び直鎖状の分解生成物の生成率を計算した。結果を表2に示す。
なお、実施例7及び実施例8で熱分解処理に供した樹脂は、それぞれ直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(シグマアルドリッチ社製、190℃,2.16kgでのメルトインデックス(MI):1g/10min)及び高密度ポリエチレン(HDPE)(シグマアルドリッチ社製、190℃,2.16kgでのメルトインデックス(MI):12g/10min)を用いた。
また、実施例6及び比較例4において、固体触媒5及びC4をそれぞれ樹脂の熱分解処理に使用する際には、水素ガス30mL/min流通下700℃で1時間の予備還元処理を行った後、水素ガス流通下室温まで冷却し、次いで、2%-酸素/窒素の混合ガスを30mL/min流通下30分間安定化処理したものを用いた。
【0055】
【0056】
表2より、実施例1~15は、比較例1~7に比べて、分解生成物への転化率が高く、ガス成分の選択率が低いことから油状物の選択率が高く、界面活性剤原料に用いられる炭素数8以上20以下の有機化合物、添加剤としてのワックスに用いられる炭素数18以上30以下の有機化合物、及び潤滑基油に用いられる炭素数15以上45以下の有機化合物の選択率が高いことが分かる。また、実施例1~15は、直鎖状の分解生成物の生成率が高いことから、分解生成物の異性化が抑制されていることが分かる。
本発明によれば、分解生成物への転化率が高く、かつ、有用化学品原料として用いることができる油状物の選択率が高く、また、分解生成物の異性化を抑制することができるため、例えば、廃プラスチックとしてポリエチレン樹脂を用いる場合には、直鎖状の分解生成物の生成率を向上させることができ、融点又は軟化点が250℃以下である廃プラスチックの熱分解油化において、有用な固体触媒及び該固体触媒を用いる油状物の製造方法を提供することができる。