(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006853
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】予測装置および予測方法
(51)【国際特許分類】
G16C 20/30 20190101AFI20240110BHJP
G16C 20/70 20190101ALI20240110BHJP
G16C 60/00 20190101ALI20240110BHJP
【FI】
G16C20/30
G16C20/70
G16C60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144739
(22)【出願日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2022104972
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】野田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 久尚
(72)【発明者】
【氏名】廣島 雅人
(72)【発明者】
【氏名】杉田 丈也
(72)【発明者】
【氏名】松井 直樹
(57)【要約】
【課題】無機化合物の特定の物性値を高精度に予測する予測装置および予測方法を実現する。
【解決手段】予測装置1は、第1無機化合物の入力情報(31)を取得する入力取得部(11)と、学習済モデル(213)を用いて、入力情報(31)から第1無機化合物の特定の物性値(410)を予測する予測部(13)と、を備え、学習済モデル(213)は、物性値が既知である第2無機化合物の参照情報(32)と、物性値との関係性を学習処理されており、入力情報(31)および参照情報(32)は、それぞれ無機化合物の元素を示す元素情報(310)と、元素の比率を示す組成情報(311)と、無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報(312)と、を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の物性値が未知である第1無機化合物の入力情報を取得する入力取得部と、
学習済モデルを用いて、前記入力情報から前記第1無機化合物の前記物性値を予測する予測部と、を備え、
前記学習済モデルは、前記物性値が既知である第2無機化合物の参照情報と、前記物性値との関係性を学習処理されており、
前記入力情報および前記参照情報は、それぞれ無機化合物の元素を示す元素情報と、前記元素の比率を示す組成情報と、前記無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報と、を有している、予測装置。
【請求項2】
前記予測部は、前記入力情報から前記第1無機化合物に含まれる各元素の前記第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第1貢献度を予測可能である、請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
前記予測部は、前記入力情報から第1構造情報が示す構造が影響する前記第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第2貢献度を予測可能である、請求項2に記載の予測装置。
【請求項4】
前記予測部は、前記第1貢献度と、前記第2貢献度とに基づいて、前記第1無機化合物の物性値を算出する、請求項3に記載の予測装置。
【請求項5】
前記入力情報は、前記単位格子の各軸の長さを示す第2構造情報を有している、請求項1に記載の予測装置。
【請求項6】
前記入力情報は、前記単位格子の各稜間の角度を示す第3構造情報を有している、請求項1に記載の予測装置。
【請求項7】
前記予測部は、前記第1無機化合物に含まれる各元素のうち、所定の周期に含まれる少なくとも1つの元素の前記第1貢献度および前記第2貢献度から、前記所定の周期に含まれる少なくとも1つの元素の前記第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第3貢献度を算出する、請求項3に記載の予測装置。
【請求項8】
最適な前記第1無機化合物を予測する、最適条件予測部をさらに備える、請求項1に記載の予測装置。
【請求項9】
前記第1構造情報と、前記第1無機化合物の物性値に影響を与える電子の数とを2軸として、前記第3貢献度の分布を示すヒートマップを作成する作成部をさらに備える、請求項7に記載の予測装置。
【請求項10】
前記作成部は、前記ヒートマップにおける前記第3貢献度が高い領域について前記第1構造情報における前記電子の数と、前記第3貢献度との相関を示す図をさらに作成する、請求項9に記載の予測装置。
【請求項11】
前記作成部は、所定の前記第3貢献度を示す前記第1構造情報と、前記電子の数とを有する無機化合物のリストをさらに作成する、請求項9に記載の予測装置。
【請求項12】
特定の物性値が未知である第1無機化合物の入力情報を取得する入力取得ステップと、
学習済モデルを用いて、前記入力情報から前記第1無機化合物の前記物性値を予測する予測ステップと、を含み、
前記学習済モデルは、前記物性値が既知である第2無機化合物の参照情報と、前記物性値との関係性を学習処理されており、
前記入力情報および前記参照情報は、それぞれ無機化合物の元素を示す元素情報と、前記元素の比率を示す組成情報と、前記無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報と、を有している、予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化合物の物性を予測する予測装置および予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料開発において、開発前に材料の物性を精度高く推測できることが求められている。例えば、特許文献1では、材料の組成式および構造情報を取得して、材料の特性値を予測する技術が開示されている。また、非特許文献1では、無機化合物の元素ごとの貢献度を算出して、無機化合物の物性値を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Anthony Yu-Tung Wang, npj Computational Materials (2021),77.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一態様は、無機化合物の特定の物性値を高精度に予測する予測装置および予測方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る予測装置は、特定の物性値が未知である第1無機化合物の入力情報を取得する入力取得部と、学習済モデルを用いて、前記入力情報から前記第1無機化合物の前記物性値を予測する予測部と、を備え、前記学習済モデルは、前記物性値が既知である第2無機化合物の参照情報と、前記物性値との関係性を学習処理されており、前記入力情報および前記参照情報は、それぞれ無機化合物の元素を示す元素情報と、前記元素の比率を示す組成情報と、前記無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報と、を有している。
【0007】
本開示の一態様に係る予測方法は、特定の物性値が未知である第1無機化合物の入力情報を取得する入力取得ステップと、学習済モデルを用いて、前記入力情報から前記第1無機化合物の前記物性値を予測する予測ステップと、を含み、前記学習済モデルは、前記物性値が既知である第2無機化合物の参照情報と、前記物性値との関係性を学習処理されており、前記入力情報および前記参照情報は、それぞれ無機化合物の元素を示す元素情報と、前記元素の比率を示す組成情報と、前記無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報と、を有している。
【0008】
本開示の各態様に係る予測装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記予測装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記予測装置をコンピュータにて実現させる予測装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本開示の範疇に入る。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、無機化合物の特定の物性値を高精度に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る予測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】入力情報のデータ構造の一例を示す図である。
【
図3】出力情報のデータ構造の一例を示す図である。
【
図4】学習済モデルに基づき予測処理を行う予測部の機能ブロック図である。
【
図5】学習済モデルを用いて行われる処理の一部を説明するための概略図である。
【
図6】学習済モデルを用いて行われる処理の一部を説明するための概略図である。
【
図10】予測装置が実行する予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図11】本開示の変形例に係る予測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図13】実施例の訓練データに係る磁気モーメントの実測値と予測値との相関を示すグラフである。
【
図14】実施例の検証データに係る磁気モーメントの実測値と予測値との相関を示すグラフである。
【
図15】比較例の訓練データに係る磁気モーメントの実測値と予測値との相関を示すグラフである。
【
図16】比較例の検証データに係る磁気モーメントの実測値と予測値との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態1>
〔予測装置の概要〕
従来、目標の物性値を有する新規の材料を開発するためには、研究者の経験および勘に頼っていた。本発明の発明者らは、無機化合物の元素情報と、組成情報と、無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報と、物性値との関係性を予測装置に学習させることにより、未知の無機化合物の特定の物性値を予測する方法を確立した。
【0012】
本開示の予測装置は、例えば、新規材料の研究および開発が行われる研究施設などにおいて使用されうる。本開示の予測装置は、入力情報として、無機化合物の元素を示す元素情報と、元素の比率を示す組成情報とに加えて、無機化合物の結晶構造の単位格子、対称性および並進性を示す第1構造情報を使用する。これによって、予測装置は、無機化合物の特定の物性値を精度高く予測することができる。
【0013】
予測装置は、入力情報として、無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報を採用することにより、結晶構造が物性値に対して支配的な無機化合物についても、物性値を精度高く予測することができる。
【0014】
また、第1構造情報として、無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す情報を採用することにより、情報を入力する際に、無機化合物の各原子の空間的配置を詳細に設定せずとも、ユーザが簡便に構造情報を入力することができる。また、既知化合物だけなく、未知の化合物の物性を予測する際においても、ユーザが構造情報のデータセットを用意しやすいという効果がある。
【0015】
〔予測装置1の構成〕
次に、予測装置1の構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、予測装置1の構成例を示すブロック図である。
【0016】
予測装置1は、入力情報31として、無機化合物の元素を示す元素情報と、元素の比率を示す組成情報と、無機化合物の結晶構造の単位格子、対称性および並進性を示す第1構造情報を取得し、無機化合物の特定の物性値を予測するコンピュータである。
【0017】
図1に示すように、予測装置1は、予測装置1の各部を統括的に制御する制御部10、および制御部10が使用する各種データを記憶する記憶部20、外部機器と通信を行う通信部30を備えている。
【0018】
記憶部20には、学習済モデル213、第1無機化合物データベース210、および第2無機化合物データベース211が格納されている。
【0019】
学習済モデル213は、物性値が既知である第2無機化合物の参照情報32と、特定の物性値との関係性を学習処理されているモデルである。参照情報32は、第2無機化合物である無機化合物の元素を示す元素情報と、元素の比率を示す組成情報と、第2無機化合物である無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報とを有している。元素情報、組成情報、第1構造情報、物性値の詳細については後述する。
【0020】
第1無機化合物データベース210は、物性値が未知である第1無機化合物である無機化合物の元素情報、組成情報、第1構造情報などがそれぞれ対応づけられて格納されているデータベースである。ここで、単位格子ごとに物性値が異なる場合、単位格子ごとに「未知」または「既知」が決定される。例えば、「物性値が未知である」とは、化学式としては既知の無機化合物であっても、単位格子に基づく物性値が知られていないことに相当する。
【0021】
第2無機化合物データベース211は、物性値が既知である第2無機化合物の参照情報32が格納されているデータベースである。参照情報32は、具体的には、第2無機化合物の元素情報、組成情報、第1構造情報と、物性値とがそれぞれ対応づけられている情報である。また、第2無機化合物データベース211には、後述する第2構造情報および第3構造情報をさらに含んでいてもよい。
【0022】
本実施形態においては、予測装置1が、第1無機化合物データベース210および第2無機化合物データベース211を備える態様であるが、これに限定されない。第1無機化合物データベース210および第2無機化合物データベース211は外部のサーバに格納されていてもよく、予測装置1が、該サーバに格納されている各データベースにアクセスする態様であってもよい。この場合、第1無機化合物データベース210と、第2無機化合物データベース211とは、同じサーバに格納されていてもよく、それぞれのデータベースが異なるサーバに格納されていてもよい。また、記憶部20には、予測装置1の各種制御を行うための制御プログラムが格納されていてもよい。
【0023】
<制御部10>
制御部10は、入力取得部11、予測部13、作成部14および学習部15を備える。以下、制御部10が備える各構成について説明する。
【0024】
(学習部15)
学習部15は、学習済モデル213を生成する。学習済モデル213は、教師データとして、物性値が既知である第2無機化合物の参照情報32、すなわち元素情報、組成情報、および第1構造情報と、物性値とのデータセットを用いて、生成される。教師データは、例えば、上述した記憶部20に格納されていてもよい。具体的には、教師データは第2無機化合物データベース211に格納されていてもよい。この場合、教師データは、後述する入力取得部11を介して、第2無機化合物データベース211から取得されてよい。また、教師データは、外部機器から入力取得部11を介して取得されてもよい。元素情報、組成情報、第1構造情報、物性値の詳細については後述する。また、学習部15は、学習済モデル213のハイパーパラメータセットを適宜変更してもよい。
【0025】
(入力取得部11)
入力取得部11は、特定の物性値が未知である第1無機化合物の入力情報31を取得する。入力取得部11は、予測装置1以外の外部機器から入力情報31を取得してもよい。
【0026】
また、1回の入力につき、1つの無機化合物についての入力情報31が入力されてもよいし、1回の入力につき、複数の無機化合物についての入力情報31が入力されてもよい。入力情報31は、第1無機化合物データベース210から取得されてもよい。
【0027】
図2は、入力情報31のデータ構造の一例を示す図である。入力情報31は、元素情報310、組成情報311、第1構造情報312を含む。また、入力情報31は、第2構造情報313、および第3構造情報314を含んでいてもよい。
【0028】
元素情報310は、無機化合物に含まれる元素の種類を示す情報である。例えば、
図2において、元素情報310には、無機化合物BaTiO
3について、BaTiO
3が含む元素「Ba」、元素「Ti」、および元素「O」を含む態様が示されている。
【0029】
組成情報311は、無機化合物に含まれる元素の比率を示す情報である。例えば、
図2において、無機化合物BaTiO
3の組成情報311は、元素Baと、元素Tiと、元素Oとの比率が、1:1:3であることを示す「Ba:Ti:O=1:1:3」である。
【0030】
第1構造情報312は、無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す情報である。
【0031】
無機化合物の結晶構造の単位格子は、無機化合物の結晶に含まれる最小の単位であり、例えば、公知の単位格子を使用することができる。具体的には、7種類の結晶系(立方晶系、正方晶系、直方晶系、六方晶系、三方晶系、単斜晶系、三斜晶系)と、4種類の格子系(単純(P)、体心(I)、面心(F)、底心(C))とを考慮した、14種類のブラベ格子が採用される。
【0032】
結晶構造の並進性および対称性は、結晶の中心を起点とした空間群で示される情報である。結晶構造の並進性は、具体的に並進、らせん、映進の対称要素を含み、対称性は、具体的に回転、回反、反転、鏡映の並進を伴わない対象要素を含む。
【0033】
第1構造情報312は、単位格子、対称性および並進性の組み合わせによって、230個の三次元空間群が結論される。具体的には、14種類のブラベ格子、32種類の点群および並進操作の組み合わせによって230種類の三次元空間が結論される。すなわち、無機化合物の第1構造情報312は、230個の三次元空間群のうちいずれか1つが割り当てられることになる。第1構造情報312としては、国際表記で決定されている空間群の記号、または対応する番号が入力されてもよい。
図2において、一例として、無機化合物BaTiO
3の空間群番号「221」が第1構造情報312として入力されている。以降、第1構造情報を、「空間群」とも称する。
【0034】
入力情報31は、単位格子の各軸の長さを示す第2構造情報313をさらに有していてもよい。単位格子の各軸の長さは、例えば、Å(オングストローム)またはnm(ナノメートル)で表わされてもよい。
【0035】
図2において、第2構造情報313は、単位格子の各軸の長さが同じであり、かつ、各軸の長さが3Åであることを示す「a=b=c=3」という情報である。
【0036】
このように、無機化合物の物性の予測に、第2構造情報313をさらに用いることにより、予測装置1は、高精度に物性を予測することができる。
【0037】
また、入力情報は、単位格子の各稜間の角度を示す第3構造情報314をさらに有していてもよい。
【0038】
図2において、第3構造情報314は、単位格子の軸aと軸bとの間の角度α、軸bと軸cとの間の角度β、軸cと軸aとの間の角度γとが全て等しく、各角度が90°であることを示す「α=β=γ=90°」という情報である。
【0039】
このように、無機化合物の物性の予測に、第3構造情報314をさらに用いることにより、予測装置1は、より高精度に物性を予測することができる。
【0040】
(予測部13)
予測部13は、学習済モデル213を用いて、入力情報31から無機化合物の特定の物性値を予測する。
【0041】
無機化合物の特定の物性値としては、例えば、磁気モーメント、1分子の形成エネルギー、1原子当たりの形成エネルギー、バンドギャップ、密度、熱力学的凸包からの安定性、単位構成の体積などが挙げられる。
【0042】
学習済モデル213は、物性値が既知である第2無機化合物の参照情報32(元素情報、組成情報、および第1構造情報)と、物性値との関係性を学習処理されているモデルである。学習済モデル213の詳細については後述する。
【0043】
予測部13は、入力情報31から第1無機化合物に含まれる各元素の第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第1貢献度を予測してもよい。
【0044】
無機化合物に含まれる元素は、無機化合物の物性値へ影響を及ぼす。また、無機化合物に含まれる複数の元素は、全てが同じように物性値へ影響を及ぼすわけではなく、元素の種類によって物性値へ及ぼす影響の度合いは異なる。第1貢献度は、このように、各元素の無機化合物の物性値への影響の度合い、すなわち物性値への寄与の大きさを示す情報である。
【0045】
第1貢献度は、第1無機化合物に含まれる元素ごとに算出された値であってもよく、第1無機化合物に含まれる全元素の貢献度の合計値であってもよい。第1貢献度は、例えば、数値で表わされる。第1貢献度の数値が大きい程、その第1貢献度を示す元素が第1無機化合物の物性値へ与える影響の度合いが大きいと言える。
【0046】
予測部13が第1貢献度を予測可能であることにより、第1無機化合物に含まれるどの元素が、その第1無機化合物の物性値に大きく影響しているかをユーザが知ることができる。
【0047】
予測部13は、入力情報31から構造情報が示す構造が影響する第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第2貢献度を予測してもよい。
【0048】
無機化合物の構造情報は、無機化合物の物性値へ影響を及ぼす。例えば、無機化合物に含まれる元素の種類が同じ場合であっても、構造情報が異なれば物性値が異なることも生じ得る。第2貢献度は、このように、構造情報の無機化合物の物性値への影響の度合い、すなわち物性値への寄与の大きさを示す情報である。
【0049】
第2貢献度は、例えば、数値で表わされる。第2貢献度の数値が大きい程、その第2貢献度を示す構造情報が無機化合物の物性値へ与える影響の度合いが大きいと言える。第2貢献度と、前述した第1貢献度とは、例えば、互いに比較することができる。そのため、例えば、ある元素が物性値へ与える影響の度合いよりも、無機化合物の構造が物性値へ与える影響の度合いの方が大きい場合、「第2貢献度>第1貢献度」であってもよい。この場合、例えば、ユーザが、この無機化合物の物性値のコントロール(例えば、大きくしたい)を試みるときに、無機化合物の構造の設計を重視すればよいという指針を得ることができる。
【0050】
図3は、
図2で示した無機化合物BaTiO
3についての入力情報31が入力された場合に予測部13が出力する出力情報41の一例を示す図である。出力情報41には、第1貢献度411、第2貢献度412および物性値410が含まれている。また、第1貢献度411は、無機化合物BaTiO
3の元素ごとの貢献度を示している。第1貢献度411、第2貢献度412および物性値は、それぞれ数値で表わされていてよい。
【0051】
予測部13は、後述する、第1無機化合物に含まれる各元素の第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第1貢献度と、構造情報が示す構造が影響する第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第2貢献度とに基づいて物性値を予測してもよい。予測部13は、具体的に、各元素の第1貢献度と、第2貢献度との平均を算出することで、第1無機化合物の物性値を算出してもよい。これによれば、予測装置1は、第1無機化合物の物性値を高精度に予測することができる。
【0052】
予測部13は、第1無機化合物に含まれる各元素のうち、所定の周期に含まれる少なくとも1つの元素の第1貢献度および第2貢献度から、第3貢献度を算出してもよい。第3貢献度は、所定の周期に含まれる少なくとも1つの元素の第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す。第3貢献度は、第1無機化合物が所定の構造を取る場合に、その第1無機化合物に含まれる少なくとも1種類の元素に着目したときの、該元素が無機化合物の物性値へどの程度寄与しているかを表わす指標である。
【0053】
第1貢献度は、元素ごとに算出された無機化合物の物性値への影響の度合いであり、第1貢献度には、無機化合物の構造情報は考慮されていない。しかし、無機化合物の元素がどのような構造に配されるかによって、その元素が無機化合物の物性値へ及ぼす影響の度合いは変わり得る。そのため、第3貢献度が算出されることにより、無機化合物の元素が所定の構造に配された場合に、その元素が無機化合物の物性値へ及ぼす影響の度合いをユーザが知ることができる。
【0054】
所定の構造とは、入力情報31に含まれる構造情報が示す構造である。この場合、構造情報は、第1構造情報312のみであってもよいし、第1構造情報312、第2構造情報313および第3構造情報314を有していてもよい。
【0055】
所定の周期とは、特に限定されないが、例えば、第4周期、第5周期の元素である。
【0056】
[学習済モデル]
上述のように、予測部13の物性値を予測する機能は、予測部13が学習済モデル213に入力情報31を入力することによって実現される。
【0057】
以下、学習済モデル213について説明する。
図4は、学習済モデル213に基づき予測処理を行う予測部13の機能ブロック図の一例を示す。ここで、元素情報310、および組成情報311にそれぞれ所定の処理を行った後の情報については、単に「元素情報」、「組成情報」とも称する。また、第1構造情報312、第2構造情報313、および第3構造情報314にそれぞれ所定の処理を行った後の情報については、単に「構造情報」とも称する。
【0058】
学習済モデル213は、第1変換部2130、第1NN部2131、第2変換部2132、加算部2133、ベクトル変換部2134、スケーリング部2135、構造情報統合部2136、第2NN部2137、統合部2138、関係性学習部2139、第3NN部2140、および算出部2141を備える。
【0059】
第1変換部2130は、入力された元素情報310を固有の配列に変換する。具体的には、第1変換部2130は、無機化合物を構成する元素の原子番号を、元素情報の埋め込み表現に変換する。一例として、第1変換部2130は、水素原子の原子番号「1」という情報を、[0.0571、-0.2255、・・・]のような固有の配列に変換する。第1変換部2130は、元素情報310に対して、一例として、Mat2vec embedding処理が使用される。
【0060】
第1NN部2131は、ニューラルネットワークを通して、第1変換部2130において変換された固有の配列を有する元素情報の次元数を所定の次元数に変換する。第1NN部2131に用いられるニューラルネットワークは、例えば、入力層と、出力層との間に中間層を有しないニューラルネットワークであってよく、入力層と、出力層との間は、所定の重みパラメータW1によって重みづけがされていてよい。言い換えれば、重みW1はモデル学習時に学習されるパラメータである。
【0061】
第2変換部2132は、入力された組成情報311を特定の長さの配列に変換する。一例として、Positional encoding処理が使用される。
【0062】
加算部2133は、元素情報と、組成情報とを足し合わせ、元素情報に組成情報が加味された情報を生成する。一例として、第2変換部2132は、Mn(マンガン)という元素情報を、無機化合物の組成比を加えた「Mn2」という情報に変換する。
【0063】
ベクトル変換部2134は、入力された第1構造情報312をベクトル化し、さらに固定長のベクトルに変換する。具体的には、第1構造情報312である空間群番号をOne-hotベクトル化した情報を、固定長のベクトルに変換している。空間群番号は、所定の空間群に振られた番号であって、空間群番号自体に意味はないが、この空間群番号を示す数字について、それぞれ類似する空間群を示す情報には類似する配列に、類似しない空間群を示す情報には全く異なる配列に変換する。
【0064】
スケーリング部2135は、入力された第2構造情報313および第3構造情報314を標準化する処理を行う。上述の空間群番号を示す第1構造情報312は、単なる数値を示すのに対し、第2構造情報313である単位格子の各軸の長さ、および第3構造情報314である単位格子の各稜間の角度は、それぞれ一次元配列である。一例として、第3構造情報314の単位格子の各稜間の角度は、[90、90、90]のような一次元配列で示される。そのため、第2構造情報313および第3構造情報314に対しては、第1構造情報312とは異なり、スケーリング部2135による標準化の処理が行われる。
【0065】
構造情報統合部2136は、ベクトル変換処理後の第1構造情報と、標準化された第2構造情報および標準化された第3構造情報とを統合する。
【0066】
第2NN部2137は、ニューラルネットワークを通して、構造情報統合部2136において統合された構造情報の次元数を、所定の次元数に変換する。第2NN部2137に用いられるニューラルネットワークは、例えば、入力層と、出力層との間に中間層を有しないニューラルネットワークであってよく、入力層と、出力層との間は、所定の重みパラメータW2によって重みづけがされていてよい。言い換えれば、重みW2はモデル学習時に学習されるパラメータである。
【0067】
図5は、第1構造情報312、第2構造情報313、および第3構造情報314の入力から、第2NN部2137による処理を模式的に示した図である。
図5においては、一例として、無機化合物「MnO
2」の情報が入力された場合を説明する。例えば、第1構造情報312として入力された空間群番号「166」という数値は、ベクトル変換部2134によって、所定のベクトル(第1構造情報m1)に変換され、さらに固定長のベクトル(第1構造情報m2)に変換される。また、第2構造情報313として入力された単位格子の各軸の長さ[2.93、2.93、2.93]、および第3構造情報314として入力された単位格子の各稜間の角度[77.0、77.0、60.0]は、スケーリング部2135によって、標準化される。標準化された第2構造情報と、第3構造情報とは、結合されて所定の配列を示す情報(構造情報m3)となってもよい。ベクトル変換後の第1構造情報m2と、標準化後の構造情報m3とは、構造情報統合部2136において統合される。また、統合された構造情報m4は、第2NN部2137において、所定の次元数の情報(構造情報m5)となる。
【0068】
図4に戻り、第2NN部2137において、統合された構造情報は、統合部2138において元素情報と、組成情報とが加算された情報にさらに統合される。
【0069】
図6は、第1NN部2131において変換された元素情報m6、第2変換部2132において変換された組成情報m7、および構造情報統合部2136において統合された構造情報m5が統合される処理を模式的に示した図である。例えば、変換後の元素情報m6と、変換後の組成情報m7とは、加算部2133において加算され、元素情報m8となる。元素情報m8は、統合部2138において、第1~第3構造情報が統合された構造情報m5にさらに統合され、統合情報m9となる。統合情報m9は、次に説明する関係性学習部2139に入力される。
【0070】
図4に戻り、関係性学習部2139は、元素情報、組成情報、構造情報が統合された統合情報m9について、各元素、構造情報間で内積を取ることにより、各元素と、構造情報との相互の関係性を学習する。関係性学習部2139が行う処理によって、無機化合物の物性値において、どの要素が物性値に影響を与えているかが明らかになる。関係性学習部2139は、公知のattention機構を使用し得る。例えば、Multi-head Attentionが使用される。
【0071】
第3NN部2140は、ニューラルネットワークを通して、関係性学習部2139において処理後の情報を所定の次元数の情報に変換する。
【0072】
算出部2141は、第3NN部2140が出力した情報に対して、シグモイド関数を適用することによって、各元素の貢献度を算出する。また、算出部2141は、全元素の貢献度の平均を求めることによって、物性値を算出し、出力情報41を出力する。
【0073】
(作成部14)
作成部14は、予測部13が予測し出力した出力情報41に基づく表示情報42を作成する。ここで、表示情報42は、特に限定されないが、例えば、予測部13が予測した結果に基づく画像、グラフ、数値、リストなどであってよい。また、表示情報42は、ユーザに提示するためのGUI(Graphical User Interface画面)であってもよい。また、作成部14は、所定のGUIを作成するために必要なデータを、例えば、第2無機化合物データべース211から取得してもよい。以下では、作成部14が作成する表示情報42の具体的な例について説明する。
【0074】
作成部14は、表示情報42として、第1構造情報312と、第1無機化合物の物性値に影響を与える電子の数とを2軸として、第3貢献度の分布を示すヒートマップを作成してもよい。作成部14は、第1構造情報312に加えて、第2構造情報313および第3構造情報314を入力情報とした構造情報を使用してもよい。第1無機化合物の物性値に影響を与える電子の数は、特に限定されないが、例えば、第1無機化合物に含まれる、所定の周期に含まれる少なくとも1つの元素の最外殻電子数である。
【0075】
図7は、作成部14が作成したヒートマップの一例である。
図7のヒートマップ141は、横軸に空間群(空間群番号)、縦軸に最外殻電子数を示す。空間群は230種類で示され、最外殻電子数は、0~12個の範囲で示され、各空間群と各最外殻電子数とに対応する第3貢献度が色の勾配によって示されている。第3貢献度は、0から200までの範囲で示され、ヒートマップ141において、相対的に色の薄い領域は第3貢献度が高い。ヒートマップ141においては、空間群番号160および空間群番号166に分類されている無機化合物の元素の第3貢献度が比較的高いことが分かる。このように、作成部14が空間群と、最外殻電子数とに対応する第3貢献度の分布を示すヒートマップを作成することにより、例えば、表示装置2などを介して、ユーザが視覚的に第3貢献度の大小を知ることができる。具体的に、ユーザは、最外殻電子がいくつの場合にその元素の第3貢献度が高いのか、どの空間群に属している場合にその元素の第3貢献度が高いのかを視覚的に識別することができる。
【0076】
また、作成部14は、表示情報42として、作成部14が作成したヒートマップにおける第3貢献度が高い領域について、第1構造情報312における、無機化合物の物性値に影響を与える電子の数と、第3貢献度との相関を示す図をさらに作成してもよい。電子の数と、第3貢献度との相関を示す図とは、具体的には、グラフであってよい。
【0077】
図8は、電子の数と、第3貢献度との相関を示すグラフの一例である。
図8のグラフ142は、一例として、
図7のヒートマップ141から、第3貢献度が高い領域である、空間群番号166に属するデータについて、電子の数と、第3貢献度との相関を示す。グラフ142は、縦軸に第3貢献度、横軸に空間群番号166における電子の数との相関を示す。また、グラフ142は、第3貢献度と、電子の数との相関に加え、第2無機化合物データベース211から抽出されたデータ数を示してもよい。
【0078】
データ数は、第2無機化合物データベース211から抽出された一部のデータの数である。さらに具体的には、データ数は、第2無機化合物データベース211に含まれる無機化合物のうち、空間群番号166の構造をとり、0~10の最外殻電子を含む元素を有する化合物の数である。すなわち、グラフ142によれば、ユーザは、第3貢献度の高い元素を有する化合物が、第2無機化合物データベース211にいくつ含まれているかを知ることができる。
【0079】
また、作成部14は、電子の数と、第3貢献度との相関図に、第3貢献度のプロットに基づく近似曲線を追加してもよい。
図8において、点線で示す曲線が、近似曲線である。これによれば、例えば、近似曲線から、第3貢献度が最大となる電子数をユーザが理解し易い表示情報となる。また、作成部14は、近似曲線で極大値を示す点に対応する電子数、すなわち、第3貢献度が最大と見積もられる電子数の化合物を第2無機化合物データベース211から抽出してもよい。
【0080】
また、作成部14は、表示情報42として、第3貢献度を示す第1構造情報312と、無機化合物の物性値に影響を与える電子の数とを有する無機化合物のリストをさらに作成してもよい。
【0081】
図9は、第3貢献度を示す第1構造情報(空間群)312と、無機化合物の物性値に影響を与える電子の数(最外殻電子数)とを有する無機化合物のリストの一例である。
図9のリスト143は、複数の無機化合物のデータを含む、第2無機化合物データベース211から、空間群番号160、かつ最外殻電子数5の元素を含む無機化合物を抽出して表示したリストである。IDは、抽出された各無機化合物に付されている識別番号である。
【0082】
リスト143には、一例として、同じIDが付された、組成が同じである無機化合物が含まれている(No.3とNo.4)。これらは、無機化合物の組成は同じであるが、対象とされた元素が異なることを示している。すなわち、No.3は、Fe(鉄)の第3貢献度を示し、No.4は、Co(コバルト)の第3貢献度を示している。これによれば、第3貢献度413が高い無機化合物、および無機化合物に含まれる元素をユーザが視覚的に識別することができる。
【0083】
作成部14において作成された表示情報42は、例えば、外部の表示装置2に出力され、表示装置2において表示されてもよいし、予測装置1が表示部(不図示)を備える場合は、予測装置1の表示部に出力されてもよい。これによれば、ユーザは、作成部14が作成した表示情報42を見て、予測装置1が予測した結果を視覚的に識別することができる。
【0084】
〔予測装置1における予測処理の流れ〕
次に、予測装置1における予測処理の流れについて、
図10を用いて説明する。
図10は、予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0085】
まず、入力取得部11が特定の物性値が未知である第1無機化合物の入力情報31を取得する(ステップS1:入力ステップ)。入力情報31は、無機化合物の元素を示す元素情報と、元素の比率を示す組成情報と、無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報312とを有している。
【0086】
予測部13は、学習済モデルを用いて、入力情報31から第1無機化合物の特定の物性値を予測する。具体的には、予測部13は、変換後の入力情報から無機化合物に含まれる各元素の第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第1貢献度を予測する(ステップS2)。そして、予測部13は、構造情報が示す構造が影響する第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第2貢献度を予測する(ステップS3)。予測部13は、第1貢献度と、第2貢献度とに基づいて、第1無機化合物の物性値を予測する(ステップS4)。学習済モデルは、物性値が既知である第2無機化合物の、元素情報、組成情報、および第1構造情報312と、前記物性値の関係性を学習処理されている。
【0087】
また、予測部13は、第1無機化合物に含まれる各元素のうち、所定の周期に含まれる少なくとも1つの元素の第1貢献度および第2貢献度から、少なくとも1つの元素の第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第3貢献度を算出する(ステップS5:算出ステップ)。
【0088】
作成部14は、予測部13によって算出された第3貢献度に関する表示情報42として画像またはリストを作成する(ステップS6:作成ステップ)。
【0089】
作成部14は、例えば、予測装置1の外部装置である表示装置2に、作成した表示情報42を出力し(ステップS7:出力ステップ)、処理は終了となる。
【0090】
このように、予測装置1に係る予測処理は、入力情報31取得する入力取得ステップと、学習済モデルを用いて、入力情報から第1無機化合物の特定の物性値を予測する予測ステップと、を含む。
【0091】
この予測方法を採用することにより、予測装置1は、第1無機化合物の特定の物性値を精度高く予測することができる。また、入力情報31として、第1無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報312が入力されることにより、予測装置1は、結晶構造が物性値に対して支配的な第1無機化合物についても、物性値を精度高く予測することができる。
【0092】
また、第1構造情報312として、第1無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す情報を採用することにより、情報を入力する際に、第1無機化合物の各原子の空間的配置を詳細に設定せずとも、ユーザが簡便に構造情報を入力することができる。また、既知化合物だけなく、未知の化合物の物性を予測する際においても、ユーザが構造情報のデータセットを用意しやすいという効果がある。
【0093】
本実施形態の予測処理においては、予測部13は物性値を予測した後に、第3貢献度をさらに算出し、作成部14において表示情報が作成されたが、この形態に限らず、予測部13は、物性値のみを予測して、その結果を表示装置2に出力してもよい。
【0094】
また、予測部13が予測した予測結果は、作成部14に供されずに、通信部30を介して外部機器へ送信されてもよい。この場合、外部機器において、上述した表示情報42が作成されてもよい。
【0095】
<変形例>
本開示の変形例について、以下に説明する。説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0096】
実施形態1においては、入力取得部11は、無機化合物の元素を示す元素情報310と、元素の比率を示す組成情報311と、第1構造情報312とを第1無機化合物データベース210から取得する例について説明した。本変形例では、最適な第1無機化合物を予測する最適条件予測部17を備える例について説明する。最適条件予測部17は、第1無機化合物の少なくとも1つの最適条件を予測することができる。本変形例において、第1無機化合物は、例えば、1つ以上の変数を含む式で表され得、最適条件予測部17は、当該変数の最適条件を予測する。なお、予測される最適条件は、構造情報であってもよい。入力取得部11は、最適条件予測部17から、入力情報31として、最適条件として予測される条件を取得する。本変形例では、具体例として、上記変数が元素情報310および組成情報311である場合について説明する。
【0097】
〔予測装置1Aの構成〕
図11は、本変形例に係る予測装置1Aの構成例を示すブロック図である。
【0098】
図11に示すように、予測装置1Aは、予測装置1Aの各部を統括的に制御する制御部10A、および制御部10Aが使用する各種データを記憶する記憶部20A、外部機器と通信を行う通信部30を備えている。
【0099】
記憶部20Aには、学習済モデル213、第1無機化合物データベース210、第2無機化合物データベース211に加え、統計モデル214、および探索空間データベース220が格納されている。
【0100】
統計モデル214には、学習済モデル213を用いて予測部13が物性値を予測した場合に、どのような値が出力されるかについての確率の分布を示すモデルである。統計モデル214は、予測部13によって更新されてよい。
【0101】
探索空間データベース220には、後述する探索空間決定部16が探索空間を決定するための添加金属の種類と金属の添加量との複数の組み合わせが格納されている。
【0102】
本変形例においては、予測装置1Aが、第1無機化合物データベース210および第2無機化合物データベース211、統計モデル214、および探索空間データベース220を備える態様について説明するが、これに限定されない。例えば、第1無機化合物データベース210、第2無機化合物データベース211、統計モデル214、および探索空間データベース220は、外部のサーバに格納されていてもよく、予測装置1Aは、該サーバに格納されている各データベースにアクセスしてもよい。この場合、第1無機化合物データベース210と、第2無機化合物データベース211と、統計モデル214と、探索空間データベース220とは、同じサーバに格納されていてもよく、それぞれのデータベースが異なるサーバに格納されていてもよい。また、記憶部20Aには、予測装置1Aの各種制御を行うための制御プログラムが格納されていてもよい。
【0103】
<制御部10A>
制御部10Aは、探索空間決定部16、最適条件予測部17、入力取得部11、予測部13A、作成部14および学習部15を備える。以下、制御部10Aが備える各構成について説明する。
【0104】
(探索空間決定部16)
探索空間決定部16は、最適条件予測部17が、最適な第1無機化合物を予測するための探索空間を決定する。より具体的には、探索空間決定部16は、最適条件予測部17が第1無機化合物を表す式における変数の最適条件を予測する際の探索空間を決定する。具体例として、探索空間決定部16は、最適条件予測部17が、元素情報310および組成情報311の最適条件を予測する際の探索空間を決定する。すなわち、探索空間決定部16は、最適条件予測部17が元素情報310および組成情報311を予測する際の探索空間を規定するための、元素の種類の候補、および組成比の範囲を特定する。一例として、磁性材料の中でも有望な磁性材料として知られている「FeCo」を元素情報310が含む場合、第1無機化合物は、FeCOに添加する金属の種類(M)および金属の添加量(x)を変数として、M_xFe_(1-x/2)Co_(1-x/2)の式で表すことができる。探索空間決定部16は、FeCOに添加する金属の種類(M)の候補、および金属の添加量(x)の範囲を決定する。探索空間決定部16は、探索空間データベース220から、添加金属の種類の候補と、金属の添加量の範囲とを抽出してもよい。探索空間決定部16は、一例として、探索空間として、添加金属M:[Sc-Auの遷移金属元素]、添加量x=[0-1](M_xFe_(1-x/2)Co_(1-x/2))であると決定する。添加量xは、無機化合物の組成式の組成比を決定する因子である。
【0105】
探索空間決定部16には、予め第1構造情報312が入力されていてもよい。すなわち、探索空間決定部16は、第1構造情報312が予め考慮された状態において、探索空間を決定してもよい。また、後述する最適条件予測部17が、元素情報310および組成情報311の最適条件を予測した後において、入力取得部11に、第1構造情報312が、第1無機化合物データベース210から入力されてもよい。
【0106】
(最適条件予測部17)
最適条件予測部17は、最適な前記第1無機化合物を予測する。より具体的には、最適条件予測部17は、探索空間決定部16において規定された探索空間から、第1無機化合物を表す式における変数の最適条件を予測する。具体例として、最適条件予測部17は、元素情報310および組成情報311の最適条件を予測する。最適条件予測部17には、探索空間決定部16で決定された探索空間が入力される。最適条件予測部17は、記憶部20Aに格納されている統計モデル214に基づいて、探索空間の中から、元素情報310および組成情報311の最適条件を予測する。最適条件予測部17は、具体的には、上述した添加金属の種類Mおよび金属の添加量xの最適条件を予測する。
【0107】
最適条件予測部17は、ベイズ最適化を用いて、入力された元素情報310の一部と、組成情報311の一部とに基づいて、元素情報310および組成情報311の最適条件を予測する。
【0108】
ベイズ最適化は、入力と、それに対応した出力との関係性を統計モデルによって表現し、統計モデルより導出される評価指標である獲得関数をもとに、次に思考すべき最適な入力条件を決定していくアルゴリズムである。本変形例において、統計モデル214は、上述したように、学習済モデル213を用いて予測部13が物性値を予測した場合に、どのような値が出力されるかについての確率の分布を示す。
【0109】
このように、最適条件予測部17は、ベイズ最適化を用いて、添加金属の種類Mおよび金属の添加量xの最適条件を予測する。元素情報310と、組成情報311とは、一義的に決定される。
【0110】
(入力取得部11)
入力取得部11は、入力情報31として、最適条件予測部17において予測された条件に基づく元素情報310と、組成情報311とを取得する。上述したように、元素情報310と、組成情報311と併せて第1構造情報312も最適条件予測部17から取得されてもよいし、第1構造情報312は、第1無機化合物データベース210から別途取得されてもよい。
【0111】
(予測部13A)
予測部13Aは、実施形態1の予測部13と同様に、学習済モデル213を用いて、入力情報31から無機化合物の特定の物性値を予測する。また、予測部13Aは、予測された物性値に基づいて、統計モデル214を更新してもよい。この後、更新された統計モデル214を用いて、最適条件予測部17がさらに、最適条件として予測される、添加金属の種類Mと、金属の添加量xとを決定してもよい。
【0112】
最適条件予測部17、入力取得部11、および予測部13Aが行う一連の処理は、所定の回数、繰り返されてもよい。予測部13Aは、当該繰り返しによって予測された複数の物性値を比較することにより、最適条件を決定してもよい。最適条件予測部17による最適化処理、入力取得部11による入力処理、および予測部13Aによる予測処理が繰り返される度に、予測部13Aによって統計モデル214は更新される。所定の回数は、予め決定されていてよい。
【0113】
(作成部14)
作成部14は、予測部13Aが予測し出力した出力情報に基づく表示情報を作成する。本変形例において、作成部14は、予測部13Aが1つの物性値を出力するごとに表示情報を作成してもよいし、最適化処理から予測処理までの一連の処理が所定の回数行われた後に表示情報を作成してもよい。
【0114】
図12は、作成部14が作成する添加する金属の種類(M)と、金属の添加量(x)との相関を磁性値と共に示すグラフ144である。磁性値は、例えば、各プロットの色の違いによって表現されてもよく、濃淡によって表現されてもよい。グラフ144においては、一例として、プロットの濃淡が濃いほど磁性値は低く、プロットの濃淡が淡いほど磁性値は高くなる。このように、作成部14が、金属の種類(M)と、金属の添加量(x)との相関を磁性値と共に示すことにより、ユーザが、どの金属をどれだけ添加すれば高磁性の材料を得ることができるかの予測結果を視覚的に認識することができる。あるいは、作成部14は、予測部13Aが決定した最適条件に基づき出力した出力情報41に基づく表示情報42を作成してもよい。
【0115】
このように、予測装置1Aが最適条件予測部17を備えることにより、入力取得部11には、最適化された元素情報310および組成情報311が入力される。また、予測部13Aは、最適化された元素情報310、最適化された組成情報311、および第1構造情報312に基づいて物性値を予測する。これによれば、最適化されていない元素情報310および組成情報311が入力される場合よりも、予測部13Aが最適な物性値を出力するまでに繰り返し得る予測処理の回数が小さくなる。すなわち、予測に係る時間を短くすることができる。
【0116】
本変形例においては、予測装置1Aが最適条件予測部17を備えている例について説明したが、元素情報310および組成情報311の最適条件を予測する最適条件予測装置が、実施形態1の予測装置1の外部にある態様であってもよい。この場合、予測装置1は、最適条件予測装置から元素情報310および組成情報311を取得してもよい。また、最適条件予測装置の記憶部が統計モデルおよび探索空間データベースを備えており、予測装置1が予測した結果を取得して、統計モデルが更新されてもよい。
【0117】
〔ソフトウェアによる実現例〕
予測装置1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0118】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0119】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0120】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本開示の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0121】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る予測装置1は、特定の物性値が未知である第1無機化合物の入力情報31を取得する入力取得部11と、学習済モデル213を用いて、入力情報31から第1無機化合物の特定の物性値410を予測する予測部13と、を備え、学習済モデル213は、物性値が既知である第2無機化合物の参照情報32と、物性値との関係性を学習処理されており、入力情報31および参照情報32は、それぞれ無機化合物の元素を示す元素情報と、前記元素の比率を示す組成情報と、前記無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報312と、を有している。
【0122】
本開示の態様2に係る予測装置1は、前記態様1において、予測部13が、入力情報31から第1無機化合物に含まれる各元素の第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第1貢献度411を予測可能であってよい。
【0123】
本開示の態様3に係る予測装置1は、前記態様2において、予測部13が、入力情報31から第1構造情報312が示す構造が影響する第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第2貢献度412を予測可能であってよい。
【0124】
本開示の態様4に係る予測装置1は、前記態様3において、予測部13は、第1貢献度411と、第2貢献度412とに基づいて、第1無機化合物の物性値410を算出してもよい。
【0125】
本開示の態様5に係る予測装置1は、前記態様1~4の何れかにおいて、入力情報31が、単位格子の各軸の長さを示す第2構造情報313を有していてもよい。
【0126】
本開示の態様6に係る予測装置1は、前記態様1~5の何れかにおいて、入力情報31が、単位格子の各稜間の角度を示す第3構造情報314を有していてもよい。
【0127】
本開示の態様7に係る予測装置1は、前記態様3または4において、予測部13が、第1無機化合物に含まれる各元素のうち、所定の周期に含まれる少なくとも1つの元素の第1貢献度411および第2貢献度412から、所定の周期に含まれる少なくとも1つの元素の第1無機化合物の物性値への影響の度合いを示す第3貢献度413を算出してもよい。
【0128】
本開示の態様8に係る予測装置1Aは、前記態様1~7の何れかにおいて、最適な第1無機化合物を予測する、最適条件予測部17をさらに備えてもよい。
【0129】
本開示の態様9に係る予測装置1は、前記態様7において、第1構造情報312と、第1無機化合物の物性値410に影響を与える電子の数とを2軸として、第3貢献度の分布を示すヒートマップ141を作成する作成部14をさらに備えてもよい。
【0130】
本開示の態様10に係る予測装置1は、前記態様9において、作成部14が、ヒートマップ141における第3貢献度413が高い領域について第1構造情報312における電子の数と、第3貢献度413との相関を示す図をさらに作成してもよい。
【0131】
本開示の態様11に係る予測装置1は、前記態様9または10において、作成部14が、所定の第3貢献度413を示す第1構造情報312と、電子の数とを有する無機化合物のリスト143をさらに作成してもよい。
【0132】
本開示の態様12に係る予測方法は、特定の物性値が未知である第1無機化合物の入力情報31を取得する入力取得ステップ(S1)と、学習済モデル213を用いて、入力情報31から第1無機化合物の特定の物性値410を予測する予測ステップ(S4)と、含み、前記学習済モデルは、前記物性値が既知である第2無機化合物の参照情報32と、前記物性値との関係性を学習処理されており、入力情報31および参照情報32は、それぞれ無機化合物の元素を示す元素情報と、前記元素の比率を示す組成情報と、前記無機化合物の結晶構造の単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報312と、を有している。
【実施例0133】
本開示の一実施例について以下に説明する。実施例として、予測装置1を用い、入力情報として(1)元素情報、(2)組成情報、(3)単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報を使用した。予測する物性は、磁気モーメントである。また、学習済モデル213の訓練、検証およびテストのためのデータセットは、(1)元素情報、(2)組成情報、(3)単位格子ならびに並進性および対称性を示す情報と、(4)磁気モーメントとがセットになっているデータを使用した。
図13および
図14は実施例のグラフである。
【0134】
また、比較例としては、入力情報として(1)元素情報、(2)組成情報のみを使用し、学習済モデルの訓練、検証およびテストのためのデータセットとしては、(1)元素情報、(2)組成情報と、(4)磁気モーメントとがセットになっているデータを使用した。
図15および
図16は実施例のグラフである。
【0135】
実施例は、入力情報として、単位格子ならびに並進性および対称性を示す第1構造情報を用いる点で、比較例とは異なる。
【0136】
実施例および比較例ともに、予測装置1は、データセットを35,000個ずつ使用し、35,000個のデータセットを、訓練データ(training data)と、検証データ(validation data)とテストデータ(test data)とにランダム分割して、70%を訓練用、15%を評価用、15%をテスト用に用いた。訓練データは、学習済モデル213に学習を指せるためのデータ、検証データは、学習過程における学習済モデル213の精度を検証するためのデータ、テストデータは、構築した最終的な学習済モデル213の精度を検証するためのデータである。訓練データを使用して学習済モデル213を作成した。
図13および
図15の「Training data」で示すデータは、訓練データであり、
図14および
図16の「Test data」で示すデータはテストデータである。
図13~
図16は全て磁気モーメントの実測値に対する予測値を、1~250μ
B/nm
3の範囲においてプロットしたグラフである。
【0137】
図13~
図16のグラフ内の実線は、磁気モーメントの予測値(predicted)と、磁気モーメントの実測値(calculated)とが一致する場合に得られる真の回帰直線を示す。決定係数R
2は、真の回帰直線との相関を示す。決定係数R
2は1に近い程、真の回帰直線に近くなる、すなわち予測装置の予測精度が高いと言える。mseで示す値は、平均二乗誤差(mse:Mean Squared Error)を示し、各データに対して、予測値と実測値の差を二乗した値を計算し、その総和をデータ数で割った値である。maeで示す値は、平均絶対誤差(mae:Mean Absolute Error)を示し、各データに対して、予測値と実測値の差の絶対値を計算し、その総和をデータ数で割った値である。mseおよびmaeは、いずれも、値が小さいほど、予測値と実測値との誤差が小さい。すなわち、mseおよびmaeの値が小さい程、予測装置の予測精度が高いと言える。
【0138】
<結果>
(1)実施例
実施例の訓練データにおいて、決定係数R
2は0.85、mseは146.78、maeは7.54であった(
図13)。また、実施例のテストデータにおいて、決定係数R
2は0.75、mseは258.93、maeは9.26であった(
図14)。
【0139】
(2)比較例
比較例の訓練データにおいて、決定係数R
2は0.61、mseは383.49、maeは10.99であった(
図15)。また、比較例のテストデータにおいて、決定係数R
2は0.53、mseは454.49、maeは12.37であった(
図16)。
【0140】
決定係数R2の値から、実施例の予測装置1で予測された予測値は、実測値とよい相関を示していることが分かった。また、訓練データに含まれていないテストデータについても、訓練データと同様の精度で物性が予測できており、予測装置1が良好な性能を有することが示された。
【0141】
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。