(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068530
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】車両の乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/0134 20060101AFI20240513BHJP
B60R 21/015 20060101ALI20240513BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240513BHJP
B60R 21/0136 20060101ALI20240513BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B60R21/0134 311
B60R21/015 311
B60R21/207
B60R21/0136 310
B60N2/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179056
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100182051
【弁理士】
【氏名又は名称】松川 直宏
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 育郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】吉川 満晴
【テーマコード(参考)】
3B087
3D054
【Fターム(参考)】
3B087CD05
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA04
3D054AA07
3D054AA21
3D054BB30
3D054DD13
3D054EE01
3D054EE02
3D054EE10
3D054EE20
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】車両の側突の際の乗員保護性能を向上させる。
【解決手段】乗員が着座するシート15を有する車両1の乗員保護装置40は、乗員が着座するシート15の座面を、座面についての車両1の車幅方向Wの外側部分を、座面の内側部分と比べて押し上げる押上機構49と、シート15に着座する乗員の少なくとも肩部を、車幅方向Wの外側から内側へ向けて押し込むことができる押込機構48と、車両1が側突することを、または側突する可能性があることを検出する車載センサ41~42と、制御部47と、を有する。制御部47は、車載センサ41~42により車両1が側突することがまたは側突する可能性があることが検出される場合に、押上機構49および押込機構48の双方を作動させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートを有する車両の乗員保護装置であって、
乗員が着座する前記シートの座面を、前記座面についての前記車両の車幅方向の外側部分を、前記座面の内側部分と比べて押し上げることができる押上機構と、
前記シートに着座する乗員の少なくとも肩部を、前記車幅方向の外側から内側へ向けて押し込むことができる押込機構と、
前記車両が側突することを、または側突する可能性があることを検出する車載センサと、
制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記車載センサにより前記車両が側突することがまたは側突する可能性があることが検出される場合に、前記押上機構および前記押込機構の双方を作動させる、
車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記押込機構を作動させた後に、前記押上機構を作動させる、
請求項1記載の、車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記押込機構は、
乗員が着座する前記シートの背部についての前記車幅方向の外側の縁に沿って設けられて、前記シートに着座する乗員へ向けて可動する可動体と、
前記可動体についての乗員の側において展開可能な袋体と、
を有し、
前記制御部は、
前記車載センサにより前記車両が側突する可能性があることが検出される場合に、前記可動体を、前記シートに着座する乗員へ向けて可動させ、
前記車載センサにより前記車両が側突することが検出される場合に、前記袋体を展開させる、
請求項2記載の、車両の乗員保護装置。
【請求項4】
前記押上機構は、
乗員が着座する前記シートの座部についての前記車両の車幅方向の外側部分を、前記座部の内側部分と比べて押し上げるアクチュエータ、を有し、
前記制御部は、
前記押上機構の前記アクチュエータを作動させることにより、乗員が着座する前記シートの座面を、前記座面についての前記車両の車幅方向の外側部分を、前記座面の内側部分と比べて押し上げる、
請求項3記載の、車両の乗員保護装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記押込機構の前記袋体を展開した後に、前記押上機構を作動させる、
請求項4記載の、車両の乗員保護装置。
【請求項6】
前記シートに着座している乗員の体格を検出する乗員センサ、を有し、
前記押込機構は、
前記可動体と前記袋体とを有する複数の押込モジュールが、乗員が着座する前記シートの背部についての前記車幅方向の外側の縁に沿って並べて設けられてなるものであり、
前記制御部は、
前記乗員センサの検出に基づいて前記シートに着座している乗員の体格を判断し、
判断した体格に応じて、前記押込機構の複数の前記押込モジュールの作動を制御して、前記シートに着座している乗員の肩部より上側の前記押込モジュールを作動させないようにする、
請求項5記載の、車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車といった車両では、車体の側面部に、他の車両などが衝突することがある。
このような側突が生じる場合、車両は、車体の側面部からシートまでの間隔として長い距離を確保することが難しいことから、シートに着座する乗員に対して、たとえば前突などと比べて直接的な影響が生じ易いと考えられる。
【0003】
特許文献1は、シートの座面に設けたエアバッグを展開することにより、座面についての車両の車幅方向の外側部分を、座面の内側部分と比べて押し上げることができる機構を開示している。
そして、特許文献1は、シートの座面の押し上げにより、着座している乗員を、車体の側面部から離れるように内側へ逃がすことができる、と説明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにシートの座面の外側部分を押し上げただけでは、シートの座面に着座している乗員の上体が全体的に内側へ向けて移動するようになる、とは考えにくい。併せてカーテンエアバッグやサイドエアバッグを展開したとしても、これらの車体の側面に沿って展開するエアバッグそのものが、車幅方向の内側へ向けて大きく展開するものではないため、現実的にシートの座面に着座している乗員の上体を内側へ向けて移動させる作用を生むものになるとは、考えにくい。
また、シートの座面に着座する乗員は、従来型のダミー人形のように、体格の全体が硬いものではない。たとえば、人間の腹部には、基本的に背骨が存在するだけである。
このような人体骨格を前提にする場合、特許文献1のようにシートの座面の外側部分を押し上げたとしても、骨盤部の外側部分が押し上げられるだけであり、骨盤部より上側の肩部や頭部については、骨盤部とともに押し上げられるとは考えにくい。肩部や頭部は、骨盤部の外側部分が押し上げられたとしても、重力や慣性力により直前の位置を維持しようとする、と考えられる。その結果、座面の外側部分が押し上げられたシートに着座する乗員では、押し上げられる骨盤部と変位しない肩部との間の腹部の外側部分が、圧迫されてしまう可能性がある。このような圧迫が生じている状態で側突による入力がさらにあると、シートに着座する乗員についての腹部の外側部分は、さらに圧迫されてしまう可能性もある。
【0006】
このように車両の乗員保護装置では、側突の際の乗員保護性能を向上させることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る車両の乗員保護装置は、乗員が着座するシートを有する車両の乗員保護装置であって、乗員が着座する前記シートの座面を、前記座面についての前記車両の車幅方向の外側部分を、前記座面の内側部分と比べて押し上げることができる押上機構と、前記シートに着座する乗員の少なくとも肩部を、前記車幅方向の外側から内側へ向けて押し込むことができる押込機構と、前記車両が側突することを、または側突する可能性があることを検出する車載センサと、制御部と、を有し、前記制御部は、前記車載センサにより前記車両が側突することがまたは側突する可能性があることが検出される場合に、前記押上機構および前記押込機構の双方を作動させる、ものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両の乗員保護装置は、乗員が着座するシートの座面を、座面についての車両の車幅方向の外側部分を、座面の内側部分と比べて押し上げることができる押上機構と、シートに着座する乗員の少なくとも肩部を、車幅方向の外側から内側へ向けて押し込むことができる押込機構と、を有する。そして、制御部は、車載センサにより車両が側突することがまたは側突する可能性があることが検出される場合に、押上機構および押込機構の双方を作動させる。
これにより、車両に側突が生じる場合には、シートに着座する乗員は、少なくとも肩部が押込機構により前記車幅方向の内側へ向けて押し込まれて姿勢が内側へ崩れている状態において、骨盤部の外側部分が押上機構により内側部分と比べて押し上げられることになる。シートの上で姿勢が内側へ崩れている乗員は、骨盤部より上側の上体の全体が、車幅方向の内側へ向けて倒れ込むようになり得る。これにより、自動車の側突位置から乗員を離すことができる。
しかも、本発明において、乗員の骨盤部より上側の上体は、側突の際にその全体がまとまって車幅方向の内側へ向けて倒れ込むことになる。このように上体の全体が内側へまとめて押し込まれて倒れるため、乗員の上体は、車幅方向において大きく折れ曲がることが起き難くなる。シートに着座する乗員は、上体が車幅方向において折れ曲がることに起因する腹部の圧迫が生じ難くなる。
その結果、本発明では、側突の際に、シートに着座する乗員を側突位置から離してその乗員に対する側突の直接的な影響を生じ難くし、かつ、その乗員の上体を全体的に内側へ押し込むことにより、上体全体の内側への良好な倒れ込みを実現して、上体の腹部などにおいて部分的な圧迫が生じることが起き難くできる。本発明では、側突の際の乗員保護性能を向上させることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係る自動車の走行状態の一例の説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の自動車に対して、他の自動車が側突する直前状態の説明図である。
【
図3】
図3は、
図2に続けて、
図1の自動車に対して他の自動車が側突した状態の説明図である。
【
図4】
図4は、
図1の自動車に設けられ、車両の乗員保護装置として機能する制御系の説明図である。
【
図6】
図6は、
図5の押込機構の1つの押込モジュールの横断面での説明図である。
【
図7】
図7は、
図5の押込機構の作動前の状態の説明図である。
【
図8】
図8は、
図5の押込機構の可動体の作動状態の説明図である。
【
図9】
図9は、
図5の押込機構の袋体の作動状態の説明図である。
【
図11】
図11は、
図5のCPUが制御部として実行する側突時乗員保護制御のフローチャートである。
【
図12】
図12は、シートの側突制御前の状態の模式的な説明図である。
【
図13】
図13は、シートの側突予測後の状態の模式的な説明図である。
【
図14】
図14は、シートの側突検出後の状態の模式的な説明図である。
【
図15】
図15は、押上機構のみを作動させる比較例での、シートの側突検出後の状態の説明図である。
【
図16】
図16は、シートと、それに着座可能な複数種類の乗員との説明図である。
【
図17】
図17は、本発明の第二実施形態に係る自動車の制御部が実行する側突のための作動設定制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0011】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る自動車1の走行状態の一例の説明図である。
自動車1は、車両の一例である。車両には、この他にもバス、トラック、などがある。
図1の自動車1は、図面の下から上へ向けて走行している。また、
図1には、図面の左から右へ向けて走行する他の自動車4が、示されている。
自動車1と、他の自動車4とは、このまま走行を続けると、破線で示す位置で、衝突する可能性がある。
この場合、自動車1のドライバ用シート11に着座するドライバ5、助手席用シート12に着座する乗員6、後席用シート13に着座する複数の乗員7,8といった乗員は、衝突後においても無事であることが望まれる。
【0012】
図2は、
図1の自動車1に対して、他の自動車4が側突する直前状態の説明図である。
図3は、
図2に続けて、
図1の自動車1に対して他の自動車4が側突した状態の説明図である。
乗員6は、助手席用シート12としてのシート15の座部16に着座している。乗員6の骨盤部34は、シート15の座部16の上に位置する。骨盤部34の上には、腹部33が位置する。腹部33の上には、肩部32が位置する。肩部32の上には、頭部31が位置する。乗員が他のシート15、たとえばドライバ用シート11や後席用シート13に着座する場合も同様の着座姿勢となる。
【0013】
図2および
図3に示すように、他の自動車4は、自動車1の車体2の左側面部3に突入して、
図1の自動車1に側突する。
このような側突が生じる場合、自動車1は、車体2の左側面部3から助手席用シート12までの間隔として長い距離を確保することが難しいことから、助手席用シート12に着座する乗員6に対して、たとえば前突などと比べて直接的な影響が生じ易いと考えられる。側突の際のクラッシュストロークは短い。
このため、自動車1では、車体2の左側面部3と、助手席用シート12との間において、カーテンエアバッグ25や、サイドエアバッグ26が展開する。このため、
図3に示すよう左側面部3が変形しても、助手席用シート12に着座する乗員6に対して変形した左側面部3が直接に当たり難くなる。乗員6は、左側面部3との直接的な当接から保護され得る。
ただし、助手席用シート12から車体2の左側面部3までの距離が短いことには変わりがない。自動車1には、助手席用シート12に着座する乗員6の傷害を抑制するために、側突の際の乗員保護性能を向上させることが求められる。
なお、
図2には、自動車1の車幅方向Wが併せて示されている。そして、助手席用シート12についての図面右側の車幅方向Wの外側に、左側面部3が位置している。以下、同様である。
【0014】
図4は、
図1の自動車1に設けられ、車両の乗員保護装置として機能する制御系40の説明図である。
図4の制御系40は、車外カメラ41、加速度センサ42、着座感圧センサ43、タイマ44、乗員監視装置45、押込機構48、押上機構49、メモリ50、および、これらが接続されるCPU47、を有する。
なお、これらの周辺部材は、CPU47を含む制御装置の内部バス、複数の制御装置が接続される車ネットワーク、などを通じて、CPU47と接続されてよい。また、自動車1の制御系40に設けられる複数の制御装置は、各々がCPUを有する。これら複数のCPUが、乗員保護のために協働してもよい。
また、
図4には、自動車1に設けられるシート15の一例として、助手席用シート12が示されている。シート15は、ドライバ用シート11であっても、後席用シート13であってもよい。シート15は、座部16、背部17、ヘッドレスト部18、で構成されている。
なお、
図4の制御系40は、自動車1に設けられる助手席用シート12以外の他のシートについての押込機構48および押上機構49を備えてよい。
【0015】
車外カメラ41は、自動車1の外を撮像するカメラである。車外カメラ41は、単眼カメラでも、複眼カメラでも、360度カメラでもよい。複眼カメラは、複数のカメラの配置に基づく視差により、撮像される他の自動車4などの対象物についての相対的な距離および方向を、高精度に演算することができる。また、単眼カメラや360度カメラは、撮像画像における対象物の撮像位置に基づいて、対象物についての相対的な距離および方向を演算することができる。このような車外カメラ41は、自動車1が側突する可能性があることを検出する車載センサとして機能し得る。
【0016】
加速度センサ42は、自動車1の加速度を検出する。加速度センサ42は、たとえば、自動車1の前後方向、左右の車幅方向W、および上下方向を検出する3軸のものでよい。加速度センサ42の3軸方向の加速度に基づいて、自動車1のピッチ、ロールおよびヨー方向の加速度を演算することができる。また、各方向の加速度を積分することにより、ピッチレート、ロールレート、およびヨーレートを演算することができる。このような加速度センサ42は、自動車1が側突することを検出する車載センサとして機能し得る。
【0017】
着座感圧センサ43は、たとえば自動車1に設けられる各シート15の座部16に設けられてよい。着座感圧センサ43は、それが設けられるシート15への乗員の着座の有無、乗員の体重に応じた値を検出可能である。
【0018】
タイマ44は、時間、時刻を計測する。
【0019】
乗員監視装置45には、乗員センサとしての車内カメラ46が接続される。
車内カメラ46は、自動車1において複数のシート15が設けられる車内を撮像する。車内カメラ46は、単眼カメラでも、複眼カメラでも、360度カメラでもよい。車内カメラ46は、自動車1に乗っている乗員を撮像できる。
そして、乗員監視装置45は、車内カメラ46の撮像画像に基づいて、たとえば、各シート15についての乗員の着座の有無、各乗員の識別、体格などを判断してよい。このような乗員監視装置45は、シート15に着座している乗員の体格を検出する乗員センサとして機能し得る。
【0020】
押込機構48は、シート15の背部17についての、自動車1の車幅方向Wの外側の縁に沿って設けられるサイドサポート部19に設けられる。押込機構48は、後述するように、少なくとも袋体63、およびインフレータ64、を有すればよい。インフレータ64が点火信号により発生する高圧ガスにより、袋体63が展開する。シート15の背部17のサイドサポート部19から展開する袋体63は、シート15に着座する乗員の少なくとも肩部32を、車幅方向Wの外側から内側へ向けて押し込むことができる。
【0021】
押上機構49は、後述するように、乗員が着座するシート15の座面を、座面についての自動車1の車幅方向Wの外側部分を、座面の内側部分と比べて押し上げるものであればよい。
【0022】
メモリ50は、CPU47が実行するプログラムおよびデータを記録する。メモリ50は、たとえば半導体メモリ、HDD、SSD、などで構成されてよい。
【0023】
CPU47は、メモリ50に記録されているプログラムを読み込んで実行する。これにより、CPU47は、乗員保護装置の制御部として機能する。
乗員保護装置の制御部としてのCPU47は、
図1から
図3のような側突の際に、により自動車1が側突することがまたは側突する可能性があることが検出される場合に、押上機構49および押込機構48の双方を作動させる、ことができる。
【0024】
図5は、
図4の押込機構48の一例の説明図である。
図6は、
図5の押込機構48の1つの押込モジュールの横断面での説明図である。
図5において、シート15の背部17についての車幅方向Wの外側のサイドサポート部19は、上部191、中部192、下部193、に分けて設けられている。サイドサポート部19の上部191、中部192、下部193は、シート15の背部17についての車幅方向Wの外側の縁に沿って、上から順番に並べられている。
【0025】
図5の押込機構48は、上段の押込モジュール51、中段の押込モジュール52、下段の押込モジュール53、を有する。押込機構48は、4つ以上の押込モジュール、または2つ以下の押込モジュールで構成されてよい。
これら3つの押込モジュール51~53は、サイドサポート部19を構成する上部191、中部192、および下部193の各々に設けられる。これにより、3つの押込モジュール51~53は、シート15の背部17についての車幅方向Wの外側のサイドサポート部19において、上下に並べて設けられる。
なお、
図5の図面において、シート15の背部17と、サイドサポート部19とは、平面状に展開されている状態で模式的に示されている。
そして、各押込モジュール51(52,53)は、可動体62、袋体63、インフレータ64、可動軸61、モータ65、ギア部材66、を有する。
【0026】
可動体62は、サイドサポート部19の上部191、中部192、または下部193に埋設される略矩形の板状の剛体である。略矩形の板状の可動体62には、袋体63を収容するための凹部が形成される。
略矩形の板状の可動体62の一端には、可動軸61が挿入される貫通孔が形成される。また、略矩形の板状の可動体62の一端側には、インフレータ64が固定される。インフレータ64は、袋体63と連結される。
略矩形の板状の可動体62に隣接する位置には、モータ65が設けられる。モータ65は、制御部としてのCPU47に接続される。モータ65と可動軸61とは、ギア部材66により駆動力を伝達可能に連結される。
【0027】
そして、複数の押込モジュール51~53の可動軸61、モータ65、およびギア部材66は、シート15の背部17の上下方向に沿って並べて設けられる。これらの部材は、シート15の背部17の不図示のシートフレームに固定されてよい。これにより、可動体62と袋体63とを有する複数の押込モジュール51~53は、乗員が着座するシート15の背部17についての車幅方向Wの外側の縁に沿って並べて設けられることになる。
また、複数の押込モジュール51~53は、
図6に例示するように、シート15の背部17のサイドサポート部19の上部191、中部192、または下部193に設けられるウレタン材68の内部に格納されている。ウレタン材68についての一面には、スリットによる破断部69が形成される。スリットによる破断部69は、
図5に示すように、複数の押込モジュール51~53の袋体63と重なるように、サイドサポート部19の上部191、中部192、または下部193においてその上下方向へ沿って延在している。展開する袋体63は、その周囲が略矩形の板状の可動体62により囲われているため、破断部69を破断するように展開し始めることができる。
【0028】
図7は、
図5の押込機構48の作動前の状態の説明図である。
図7に示すように、側突が発生していない通常時において、車幅方向Wの外側のサイドサポート部19は、車幅方向Wの内側のサイドサポート部20と同様の斜めの角度で、シート15の背部17から前へ突出する。これにより、複数のサイドサポート部19,20は、シート15に着座する乗員6の上体の内側および外側に位置して、乗員6の上体が車幅方向Wへずれ難くなるようにサポートすることができる。
【0029】
図8は、
図5の押込機構48の可動体62の作動状態の説明図である。
押込機構48の略矩形の板状の可動体62は、制御部の制御の下でモータ65が作動すると、可動軸61の周囲で回動して、
図7の通常時での位置から前へ突出するように移動する。これにより、略矩形の板状の可動体62は、シート15に着座している乗員6の上体の外側の展開位置へ移動する。また、略矩形の板状の可動体62に収容されている袋体63は、可動体62と乗員6の上体との間に位置する。
【0030】
図9は、
図5の押込機構48の袋体63の作動状態の説明図である。
押込機構48の袋体63は、制御部の制御の下でインフレータ64が高圧ガスを発生すると、乗員6の上体の外側の可動体62から、乗員6へ向けて展開する。乗員6の肩部32などの上体は、展開する袋体63により車幅方向Wの内側へ向けて押されて、移動することができる。
【0031】
このように押込機構48の複数の押込モジュール51~53の可動体62は、乗員6が着座するシート15の背部17についての車幅方向Wの外側の縁に沿って設けられるサイドサポート部19に設けられて、シート15に着座する乗員6へ向けて可逆可能に可動することができる。
また、押込機構48の複数の押込モジュール51~53の袋体63は、可動体62についての乗員6の側において展開して、乗員6の肩部32などの上体を車幅方向Wの内側へ向けて押して移動させることができる。
【0032】
図10は、
図5の押上機構49の縦断面での説明図である。
図10には、シート15の座部16とともに、シート15の座部16についての車幅方向Wの外側部分を車体2に取り付けるための外側のレール22、外側のレール22上を移動するスライダ24、が示されている。
図10の押上機構49は、シート15の座部16と、スライダ24との間に介在している。
そして、押上機構49は、駆動コイル71、駆動コイル71の中心に設けられる軸部材72、スイッチ73、を有する。
【0033】
駆動コイル71は、たとえば銅線を中空のコイル状に巻いたものでよい。
軸部材72は、駆動コイル71の中心に上下動可能に配置される。
スイッチ73は、駆動コイル71と自動車1のバッテリ74とを接続する閉ループ回路に設けられる。スイッチ73は、制御部の制御の下で開閉してよい。
スイッチ73か開いている場合、駆動コイル71は磁力を発生しない。この場合、
図10に示すように、軸部材72は、スライダ24の上に載っている。
スイッチ73か閉じると、駆動コイル71は磁力を発生する。軸部材72は、上へ向けて移動することができる。
なお、制御部によるスイッチ73の開閉周期などにより、駆動コイル71が軸部材72を上へ向けて移動させる力は、制御可能である。軸部材72は、同図に示すように、最小位置まで押し上がったり、中位置まで押し上がったり、最大位置まで押し上がったり、することができる。シート15の座部16の車幅方向Wの外側部分は、軸部材72の押上量にしたがって、シート15の座部16の車幅方向Wの内側部分より上へ押し上げられ得る。座部16の傾きは、軸部材72の押上量により変化する。
また、
図4に示すように、シート15の座部16についての車幅方向Wの内側部分を車体2に取り付けるための内側のレール21上を移動する内側のスライダ23は、たとえばリンク部材などを用いてシート15の座部16に対して回動可能に連結されてもよい。これにより、シート15の座部16についての外側部分は、内側部分より上へ押し上げられ易くなる。
このように押上機構49は、乗員が着座するシート15の座部16についての自動車1の車幅方向Wの外側部分を、座部16の内側部分と比べて可逆可能に押し上げる電磁気的なアクチュエータ(71~72)、を有する。
ここで、内側のレール21と外側のレール22とは、車体2の床面10において車体2の前後方向に沿って延在している。
【0034】
図11は、
図5のCPU47が制御部として実行する側突時乗員保護制御のフローチャートである。
図5のCPU47は、たとえば自動車1に乗員が乗車している場合に、
図11の側突時乗員保護制御を、繰り返しに実行してよい。
【0035】
ステップST1において、CPU47は、自動車1の各部から、情報を取得する。ここで取得する情報には、少なくとも車外カメラ41の撮像画像が含まれるとよい。
【0036】
ステップST2において、CPU47は、側突の可能性を判断することにより、側突を予測する。ステップST1において車外カメラ41の撮像画像を取得している場合、CPU47は、車外カメラ41の撮像画像において、自車に対して側突する可能性がある他の自動車4などがあるか否かを判断すればよい。そして、自車に対して側突する可能性がある他の自動車4などがない場合、CPU47は、本制御を終了する。自車に対して側突する可能性がある他の自動車4などがある場合、CPU47は、処理をステップST3へ進める。
【0037】
ステップST3において、CPU47は、押込機構48を作動させて、押込機構48の可動体62を展開位置へ移動させる。これにより、CPU47は、制御部として、車載センサである車外カメラ41により自動車1が側突する可能性があることが検出される場合に、押込機構48の可動体62を、シート15に着座する乗員へ向けて可逆可能に作動させることができる。
【0038】
ステップST4において、CPU47は、自動車1の各部から、最新の情報を取得する。ここで取得する情報には、少なくとも加速度センサ42の検出値と、車外カメラ41の撮像画像とが含まれるとよい。
【0039】
ステップST5において、CPU47は、側突を検出しているか否かを判断する。ステップST4において加速度センサ42の検出値を取得している場合、CPU47は、加速度センサ42の車幅方向Wの検出値が、側突を判断するための閾値以上であるか否かを判断する。加速度センサ42の車幅方向Wの検出値が側突の閾値以上である場合、CPU47は、側突を検出しているものとして、処理をステップST6へ進める。加速度センサ42の車幅方向Wの検出値が側突の閾値以上でない場合、CPU47は、側突を検出していないものとして、処理をステップST8へ進める。
【0040】
ステップST6において、CPU47は、押込機構48を作動させて、押込機構48の袋体63を展開する。これにより、CPU47は、制御部して、車載センサである加速度センサ42により自動車1が側突することが検出される場合に、押込機構48の袋体63を展開するように作動させることができる。
【0041】
ステップST7において、CPU47は、押上機構49を作動させる。これにより、乗員が着座するシート15の座面は、座面についての自動車1の車幅方向Wの外側部分が、座面の内側部分と比べて押し上がる。このように、CPU47は、制御部として、車載センサである加速度センサ42により自動車1が側突することが検出される場合に、押込機構48および押上機構49の双方を作動させることができる。CPU47は、押込機構48をその袋体63を展開するように作動させた後に、押上機構49を作動させることができる。
なお、ステップST6で展開を開始させている押込機構48の袋体63は、インフレータ64へ点火信号が出力されてから、シート15に着座する乗員をその姿勢が内側へ崩れるように押し込むまでに、一定の時間が必要である。このため、本実施形態では、CPU47は、ステップST6での押込機構48の袋体63の展開開始制御の後に、ステップST7での押上機構49によるシート152の座部16の押し上げを作動させている。これにより、シート15に着座する乗員が、その姿勢を内側へ崩している状態において、シート152の座部16の外側部分を高く押し上げることができる。
ただし、これらの作動タイミングの関係性は、微妙である。シート15に着座する乗員姿勢が内側へ倒れるように崩れ始めていない状態で、シート152の座部16の外側部分を高く押し上げると、乗員の上体が内側へ倒れ込まなくなる可能性が高まる。その一方で、側突に備えるために乗員の上体を内側へ倒れ込ませるため、これらの時間間隔を十分に長くすることも難しい。側突に備えるために、乗員の上体は、できるだけ早期に内側へ倒れ込ませることが望ましい。
このため、CPU47は、たとえばステップST6の処理の実行後の経過時間をタイマ44により計測させて、タイマ44により所定の閾値時間が計測されたら、ステップST7において、押上機構49によるシート152の座部16の押し上げを開始するようにするとよい。
その後、CPU47は、本制御を終了する。
【0042】
ステップST8において、CPU47は、側突を回避しているか否かを判断する。ステップST4において車外カメラ41の撮像画像を取得している場合、CPU47は、車外カメラ41の撮像画像において、自車に対して側突する可能性があった他の自動車4について側突の可能性が残っているか否かを判断すればよい。他の自動車4が側突する可能性がある場合、ドライバは、たとえば自車である自動車1を減速停止操作したり、他の自動車4から逃げるように操舵したりする。また、他の自動車4も同様に、減速停止したり、自車である自動車1から逃げるように進路を変更したり、することがある。これらの操舵や走行がなされた場合、自車である自動車1への他の自動車4の側突は回避し得る。車外カメラ41の撮像画像には、その変化した状況が撮像され得る。そして、自車に対して側突する可能性が残っている場合、CPU47は、処理をステップST4へ戻す。CPU47は、ステップST8において側突が回避できると判断するまで、ステップST4、ステップST5およびステップST8の処理を繰り返す。自車に対して側突する可能性がなくなると、CPU47は、処理をステップST9へ進める。
【0043】
ステップST9において、CPU47は、押込機構48を作動させて、可動体62を通常時の位置へ戻す。これにより、側突が生じない自動車1は、走行を継続することができる。
その後、CPU47は、本制御を終了する。
【0044】
図12は、シート15の側突制御前の状態の模式的な説明図である。
図13は、シート15の側突予測後の状態の模式的な説明図である。
図14は、シート15の側突検出後の状態の模式的な説明図である。
CPU47が
図11のステップST2において側突を予測してステップST3において可動体62を展開位置へ移動させる前には、シート15は、
図12の状態にある。
その後、CPU47がステップST3において押込機構48の可動体62を展開位置へ移動させ、さらにステップST6において押込機構48の袋体63を展開すると、シート15は、
図13の状態になる。シート15に着座する乗員6の上体は、全体的に車幅方向Wの内側へ向けて押されて、全体的に内側へ傾いている。
その後、CPU47がステップST7において押上機構49を作動させると、シート15は、
図14の状態になる。シート15の座面の車幅方向Wの外側部分が内側部分より押し上げられることにより、全体的に内側へ傾いている乗員6の上体は、
図14において実線矢印で示すように、その全体が内側へ倒れ込むように移動し得る。
その結果、乗員6の上体は、その全体が、他の自動車4が突入する左側面部3から離れるように移動し得る。乗員6の上体は、他の自動車4が突入する左側面部3から離れることにより、側突の影響を受け難くなる。側突中の乗員6をスムースに内側へ移動させることにより、乗員6への側突の影響を低減できる。
また、シート15に着座する乗員6は、基本的に側突の際には自ら左側面部3から離れようとするものであるため、このような内側への動きに対して違和感を得ることはない。乗員6が望むように、左側面部3から離れさせることができる。
しかも、特段の図示をしていないが、シート15に着座する乗員6は、三点式シートベルトを用いていることが多い。このような場合であっても、乗員6が望むように、乗員6の上体の全体を左側面部3から離れさせることができる。
【0045】
なお、
図5に示すように押込機構48は、複数の押込モジュール51~53を有する。複数の押込モジュール51~53は、各々の袋体63を展開する。この複数の袋体63は、その全体が
図13および
図14に示すような斜め面一となる輪郭形状に展開するとよい。これにより、内側へ押し込まれる乗員5の上体は、上体の外側の側面部分が複数の袋体63により全体的に押されて、倒れ込む際において車幅方向Wへ屈曲し難くなる。
【0046】
図15は、押上機構49のみを作動させる比較例での、シート15の側突検出後の状態の説明図である。
事前に押込機構48によりシート15に着座する乗員6の肩部32などを内側へ押し込まずに、シート15の座面に設けた押上機構49を作動させると、乗員6の上体は、
図15に示すように車幅方向Wにおいて折れ曲がり易くなる。
シート15の座面に着座する乗員6は、従来型のダミー人形のように、体の全体が硬いものではない。たとえば、人間の腹部33には、基本的に背骨が存在するだけである。腹部33は、車幅方向Wにおいて折れ曲がり易い。
このような人体骨格を前提にする場合、単にシート15の座面の外側部分を押し上げたとしても、シート15に着座している乗員6の骨盤部34の外側部分が押し上げられるだけである。図中に破線矢印で示すように、乗員6の上体は、内側へ向けて倒れ難い。シート15に着座している乗員の骨盤部34より上側の肩部32や頭部31については、骨盤部34とともに押し上げられ難い。シート15に着座している乗員6の肩部32や頭部31は、骨盤部34の外側部分が押し上げられたとしても、重力やそれまでの慣性力により直前の位置を維持しようとする。
その結果、座面の外側部分が押し上げられたシート15に着座する乗員6では、
図15に示すように、押し上げられる骨盤部34と変位しない肩部32との間の腹部33の外側部分35が屈曲して圧迫が生じてしまう可能性がある。このような圧迫が生じている状態で側突による衝撃がさらに入力されると、シート15に着座する乗員についての既に圧迫されている腹部33の外側部分35は、さらに圧迫されてしまう可能性がある。
【0047】
以上のように、本実施形態では、乗員が着座するシート15の座面を、座面についての自動車1の車幅方向Wの外側部分を、座面の内側部分と比べて押し上げることができる押上機構49と、シート15に着座する乗員の少なくとも肩部32を、車幅方向Wの外側から内側へ向けて押し込むことができる押込機構48と、を有する。
そして、制御部としてのCPU47は、車載センサにより自動車1が側突することがまたは側突する可能性があることが検出される場合に、押上機構49および押込機構48の双方を作動させる。CPU47は、たとえば、押込機構48を作動させた後に、押上機構49を作動させる。
これにより、自動車1に側突が生じる場合には、シート15に着座する乗員は、少なくとも肩部32が押込機構48により車幅方向Wの内側へ向けて押し込まれて姿勢が内側へ崩れている状態において、骨盤部34の外側部分が押上機構49により内側部分と比べて押し上げられることになる。シート15の上で姿勢が内側へ崩れている乗員は、骨盤部34より上側の上体の全体が、車幅方向Wの内側へ向けて倒れ込むようになり得る。そして、乗員の骨盤部34より上側の上体は、側突の際にその全体がまとまって車幅方向Wの内側へ向けて倒れ込むことにより、車幅方向Wにおいて大きく折れ曲がることが起き難くなる。シート15に着座する乗員は、その腹部33に圧迫が生じないように、上体を全体的に内側へ倒れ込むことができる。乗員の骨盤部34より上側の上体は、側突の際に車幅方向Wにおいて大きく折れ曲がることにより危惧され得る上体での部分的な圧迫が生じ難くなる。
その結果、本実施形態では、側突の際に、シート15に着座する乗員に対して側突の直接的な影響を生じ難くし、かつ、上体全体での内側への倒れ込みを良好に実現して上体での部分的な圧迫を生じ難くすることができる。本実施形態では、側突の際の乗員保護性能を向上させることが期待できる。本実施形態では、側突時の乗員の腹部33の圧迫を効果的に抑制することにより腹部33の臓器を守りつつ、乗員の上位の着座姿勢を維持したまま内側へスムースに逃がして側突の影響を効果的に抑えることができる。本実施形態では、乗員保護機能を向上できる。
【0048】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。以下においては、主に、上述した実施形態との相違点について説明する。上述した実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
図16は、シート15と、それに着座可能な複数種類の乗員との説明図である。
自動車1のシート15には、
図16に例示するように、体格が大きい成人男子81、体格が小さい子供83、それらの間の体格の成人女子82、などが着座することができる。
そして、同図での横並びにより図解するように、シート15に成人男子81が着座した場合でのたとえば肩部32から座面までの高さは、成人女子82や子供83が着座する場合とは異なる。成人女子82と子供83との間でも同様に異なる。
【0050】
そして、上述する実施形態で説明しているように、押込機構48は、その押し込みにより、シート15に着座している乗員の上体を全体的に押す必要がある。
その一方で、シート15に着座している乗員の頭部31については、押さないことが望まれる。乗員の頭部31を直接的に押してしまうと、乗員の首部に負担が生じる可能性がある。
シート15の着座した状態において、成人男子81の肩部32の高さ位置は、成人女子82の頭部31の高さ位置や、子供の頭部31の高さ位置と同等になり得る。
また、シート15の着座した状態において、成人女子82の肩部32の高さ位置や、子供の頭部31の高さ位置と同等になり得る。
【0051】
このため、本実施形態では、シート15に着座している乗員の体格に応じて、押込機構48の複数の押込モジュール51~53についての作動を、設定により切り替える。
また、押込機構48の複数の押込モジュール51~53は、これらの体格の違いに対応するように、各々の設置高さが決められている。
具体的には、下段の押込モジュール53の上端は、シート15に着座している子供83の肩部32の高さに合わせている。このような下段の押込モジュール53は、シート15に着座している子供83の上体を全体的に押し込むことができる。
中段の押込モジュール52の下端は、下段の押込モジュール53の上端より上側に位置する。中段の押込モジュール52の上端は、シート15に着座している成人女子82の肩部32の高さに合わせている。このような中段の押込モジュール52は、下段の押込モジュール53とともに作動することにより、シート15に着座している成人女子82の上体を全体的に押し込むことができる。
上段の押込モジュール51の下端は、中段の押込モジュール52の上端より上側に位置する。上段の押込モジュール51の上端は、シート15に着座している成人男子81の肩部32の高さに合わせている。このような上段の押込モジュール51は、下段の押込モジュール53および中段の押込モジュール52とともに作動することにより、シート15に着座している成人男子81の上体を全体的に押し込むことができる。
【0052】
また、シート15に着座している乗員を内側へ押す押込量は、同図のシート15に重なる破線で示すように、乗員の体格などに応じて変化させることが望ましいと考えられる。
たとえばシート15に成人男子81が着座している場合、その体重が大きいために、強く大きく最大に押し込む必要がある、と考えられる。また、成人男子81の肩幅は、大きい。
これに対し、シート15に子供83が着座している場合、その体重が小さいために、弱く必要最小限で押し込む必要がある、と考えられる。また、子供83の肩幅は、小さい。
また、シート15に成人女子82が着座している場合、中程度の力で、中程度に押し込む必要がある、と考えられる。また、成人女子82の肩幅は、中程度である。
【0053】
これらの推定から、シート15に成人男子81が着座している場合、押込機構の複数の袋体63は、3本の破線の中の最も内側にある最大位置(MAX)の破線の位置まで強い力で展開することが望ましいと考えられる。この場合、押込機構48の下段の押込モジュール53は、その可動体62の移動と袋体63の展開とにより、最大位置(MAX)の破線に到達するように動作する。中段の押込モジュール52は、その可動体62の移動と袋体63の展開とにより、最大位置(MAX)の破線に到達するように動作する。上段の押込モジュール51は、その可動体62の移動と袋体63の展開とにより、最大位置(MAX)の破線に到達するように動作する。押込機構48は、複数の押込モジュール51~53による3つの袋体63を異形で展開することにより、最大位置(MAX)の破線に沿う支持面を構成する。ここで、異形で展開する3つの袋体63は、
図13の押込機構48の形状が得られるように展開してよい。
これにより、押込機構48は、シート15に着差している成人男子81の上体を、上段から下段にかけての長い支持面により内側へ押して傾けることができる。成人男子81は、肩から下側の部分においてのみ、内側へ向けて押されることになる。
【0054】
これに対し、シート15に成人女子82が着座している場合、押込機構の複数の袋体63は、3本の破線の中の真ん中の中位置(MID)の破線にまで中程度の力で展開することが望ましいと考えられる。この場合、押込機構48の下段の押込モジュール53は、その可動体62の移動と袋体63の展開とにより、中位置(MID)の破線に到達するように動作する。中段の押込モジュール52は、その可動体62の移動と袋体63の展開とにより、中位置(MID)の破線に到達するように動作する。上段の押込モジュール51は、動作しない。押込機構48は、複数の押込モジュール52~53による2つの袋体63を異形で展開することにより、中位置(MID)の破線に沿う支持面を構成する。ここで、異形で展開する2つの袋体63は、
図13の押込機構48の形状に相似した形状が得られるように展開してよい。
これにより、押込機構48は、シート15に着差している成人女子82の上体を、中断から下段にかけての中程度の支持面により内側へ押して傾けることができる。成人女子82は、肩から下側の部分においてのみ、内側へ向けて押されることになる。また、サイドサポート部19が上部191、中部192、および下部193に分けて設けられていることから、成人女子82の頭部に対して、サイドサポート部19が当たるようなことも起き難い。
【0055】
また、シート15に子供83が着座している場合、押込機構の複数の袋体63は、3本の破線の最も外側の最小位置(MIN)の破線にまで低い力で展開することが望ましいと考えられる。この場合、押込機構48の下段の押込モジュール53は、その可動体62の移動と袋体63の展開とにより、最小位置(MIN)の破線に到達するように動作する。中段の押込モジュール52と、上段の押込モジュール51とは、動作しない。押込機構48は、下段の押込モジュール53による1つの袋体63を異形で展開することにより、最小位置(MIN)の破線に沿う支持面を構成する。押込機構48は、シート15に着差している子供83の上体を、下段における短い支持面により内側へ押して傾けることができる。ここで、異形で展開する1つの袋体63は、
図13の押込機構48の形状に相似した形状が得られるように展開してよい。
これにより、子供83は、肩から下側の部分においてのみ、内側へ向けて押されることになる。また、サイドサポート部19が上部191、中部192、および下部193に分けて設けられていることから、子供83の頭部に対して、サイドサポート部19が当たるようなことも起き難い。
【0056】
図17は、本発明の第二実施形態に係る自動車1の制御部が実行する側突のための作動設定制御のフローチャートである。
図5のCPU47は、
図17の作動設定制御を繰り返しに実行してよい。CPU47は、たとえば自動車1に新たな乗員が乗車するたびに、
図17の作動設定制御を繰り返しに実行してよい。
【0057】
ステップST21において、CPU47は、自動車1に新たな乗員が乗車したか否かを判断する。CPU47は、車外カメラ41の撮像画像や、着座感圧センサ43の検出値などを取得し、これらの情報に生じている乗車による変化に基づいて、自動車1に新たな乗員が乗車したか否かを判断してよい。そして、自動車1に新たな乗員が乗車していない場合、CPU47は、本制御を終了する。自動車1に新たな乗員が乗車している場合、CPU47は、処理をステップST22へ進める。
【0058】
ステップST22において、CPU47は、新たな乗車した乗員の体格情報を取得する。CPU47は、車外カメラ41の撮像画像や、着座感圧センサ43の検出値などを、新たな乗車した乗員の体格情報として取得してよい。
【0059】
ステップST23において、CPU47は、新たな乗車した乗員の体格が、成人男子81の体格であるか否かを判断する。CPU47は、車外カメラ41の撮像画像における乗員のサイズや着座感圧センサ43の検出値を、それらについての成人男子81の閾値と比較して、新たな乗車した乗員の体格が、成人男子81の体格であるか否かを判断してよい。そして、成人男子81の体格である場合、CPU47は、処理をステップST24へ進める。成人男子81の体格でない場合、CPU47は、処理をステップST27へ進める。
【0060】
ステップST24において、CPU47は、成人男子81に対する押込設定のために、押込機構48の複数のモジュールをすべて作動させる設定を実行する。
【0061】
ステップST25において、CPU47は、成人男子81に対する押込設定のために、押込機構48の複数の袋体63を、最大の展開量で展開させる設定を実行する。
【0062】
ステップST26において、CPU47は、成人男子81に対する押込設定のために、押上機構49によるシート15の座部16の外側部分の押上量を、
図10の最大にする設定を実行する。
その後、CPU47は、本制御を終了する。
【0063】
ステップST27において、CPU47は、新たな乗車した乗員の体格が、成人女子82の体格であるか否かを判断する。CPU47は、車外カメラ41の撮像画像における乗員のサイズや着座感圧センサ43の検出値を、それらについての成人女子82の閾値と比較して、新たな乗車した乗員の体格が、成人女子82の体格であるか否かを判断してよい。そして、成人女子82の体格である場合、CPU47は、処理をステップST28へ進める。成人女子82の体格でない場合、すなわち子供83の体格である場合、CPU47は、処理をステップST31へ進める。
【0064】
ステップST28において、CPU47は、成人女子82に対する押込設定のために、押込機構48の複数のモジュールの中の中段および下段のみを作動させる設定を実行する。
【0065】
ステップST29において、CPU47は、成人女子82に対する押込設定のために、押込機構48の複数の袋体63を、中の展開量で展開させる設定を実行する。
【0066】
ステップST30において、CPU47は、成人女子82に対する押込設定のために、押上機構49によるシート15の座部16の外側部分の押上量を、
図10の中にする設定を実行する。
その後、CPU47は、本制御を終了する。
【0067】
ステップST31において、CPU47は、子供83に対する押込設定のために、押込機構48の複数のモジュールの中の下段のみを作動させる設定を実行する。
【0068】
ステップST32において、CPU47は、子供83に対する押込設定のために、押込機構48の複数の袋体63を、低の展開量で展開させる設定を実行する。
【0069】
ステップST33において、CPU47は、子供83に対する押込設定のために、押上機構49によるシート15の座部16の外側部分の押上量を、
図10の最低にする設定を実行する。
その後、CPU47は、本制御を終了する。
【0070】
これらの設定情報は、メモリ50に記録されてよい。
そして、CPU47は、
図11の側突時乗員保護制御において、押込機構48および押上機構49を作動させる際に、メモリ50から設定情報を読み込み、メモリ50に記録されている設定で、押込機構48および押上機構49を作動させる。
【0071】
以上のように、本実施形態では、CPU47は、制御部として、乗員センサとしての車外カメラ41の撮像画像や、着座感圧センサ43の検出値などに基づいて、シート15に着座している乗員の体格を判断する。そして、CPU47は、判断した体格に応じて、押込機構48の複数の押込モジュール51~53の作動を制御し、押上機構49の作動を制御する。たとえば判断した体格が子供83のように小さい場合には、判断した体格がたとえば成人男子81のように大きいと比べて、CPU47は、複数の押込モジュール51~53の作動を抑えて、シート15に着座している乗員の肩部32より上側の押込モジュールを作動させないようにする。
これにより、たとえばシート15に成人女子82や子供83が着座している場合において、それらの乗員の頭部31へ向けて押込機構48の一部の押込モジュールが作動しないにできる。CPU47は、シート15に着座している成人女子82や子供83の首部への影響を抑制しつつ、それらの乗員についても、成人男子81が着座している場合と同様に適切な強さおよび適切な押込量で、乗員の上体を全体的に内側へ押し込むことができる。また、CPU47は、体格に応じた高さへシート15を適切に傾けることかできる。
シート15に着座している成人女子82や子供83についても、その上体を全体的に内側へ傾けることにより、車幅方向Wでの上体の屈曲を抑えて、腹部33の臓器を良好に守ることが可能になる。
特に、本実施形態では、サイドサポート部19が上部191、中部192、および下部193に対応して設けられる3つの押込モジュール51~53の中で、成人女子82の頭部や子供83の頭部に当たる可能性がある高さの押込モジュールについては、作動させない。このように乗員の体形に応じて押込機構48の作動範囲の高さを変化させることにより、成人女子82や子供83に負担をかけ難くすることができる。
また、本実施形態では、押込機構48の3つの押込モジュール51~53の袋体63は、1つの支持面を構成するように異形で展開する。これにより、押込機構48の複数の袋体63は、体形が異なる複数の乗員に対して、各々の上体の全体を良好に支持することができる。
【0072】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0073】
たとえば上述する実施形態では、主に、助手席用シート12をシート15の例として、押込機構48および押上機構49を設けた場合について説明している。
この他にもたとえば、押込機構48および押上機構49は、
図1のドライバ用シート11、後席用シート13にも設けてよい。
ドライバ用シート11の場合、押込機構48および押上機構49は、
図4の助手席用シート12の場合とは車幅方向Wにおいて逆側に設けられる。
後席用シート13には、複数の乗員が着座可能なベンチシートが採用されることがある。この場合、押込機構48および押上機構49は、ベンチシートにおいて各乗員が着座する着座位置ごとに、複数組で設けられてよい。
また、ベンチシートでは、座部16と背部17とが車体2に対して別々に取り付けられていることがある。この場合、押上機構49は、ベンチシートの座部16のみを、着座位置ごとに押し上げてよい。
【0074】
上述した実施形態では、押込機構48は、3つの押込モジュール51~53を有する。また、サイドサポート部19は、
図5および
図6に示すように、押込モジュールの各々と対応させて、上部191、中部192、下部193に縦三段に分割されている。
この他にもたとえば、押込機構48の押込モジュールおよびサイドサポート部19は、2つずつで設けられても、4つ以上で設けられてもよい。
また、サイドサポート部19は、押込モジュールより少ない数で分割されてもよい。あるいは、サイドサポート部19は、縦方向で分割されてもよい。これらの場合、サイドサポート部19についての1つの分割部分に対して、複数の押込モジュールが設けられることになる。サイドサポート部19の内部に設けられるウレタン材68は、押込モジュールの数で分割されるとよい。また、サイドサポート部19の表面意匠を構成するカバーは、伸縮性がある布材で構成するとよい。これにより、複数の押込モジュールは、その一部のみを動作させて、上述した実施形態に似た押し倒し性能を発揮することが期待できる。ただし、好ましくは、サイドサポート部19は、押込モジュールの各々と対応させて、押込モジュールごとに分割されるとよい。この場合、サイドサポート部19は、押込モジュールの動作と良好に対応することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…自動車(車両)、2…車体、3…左側面部、4…他の自動車、5…ドライバ、6~8…乗員、10…床面、11…ドライバ用シート、12…助手席用シート、13…後席用シート、15…シート、16…座部、17…背部、18…ヘッドレスト部、19…外側のサイドサポート部、20…内側のサイドサポート部、21…内側のレール、22…外側のレール、23…内側のスライダ、24…外側のスライダ、25…カーテンエアバッグ、26…サイドエアバッグ、31…頭部、32…肩部、33…腹部、34…骨盤部、35…腹部の外側部分、40…制御系(車両の乗員保護装置)、41…車外カメラ(車載センサ)、42…加速度センサ(車載センサ)、43…着座感圧センサ(乗員センサ)、44…タイマ、45…乗員監視装置、46…車内カメラ(乗員センサ)、47…CPU(制御部)、48…押込機構、49…押上機構、50…メモリ、51…上段の押込モジュール、52…中段の押込モジュール、53…下段の押込モジュール、61…可動軸、62…可動体、63…袋体、64…インフレータ、65…モータ、66…ギア部材、68…ウレタン材、69…破断部、71…駆動コイル(アクチュエータ)、72…軸部材(アクチュエータ)、73…スイッチ、74…バッテリ、81…成人男子、82…成人女子、83…子供