(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068532
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】積層フィルム、積層フィルムの製造方法および樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240513BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179059
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】平間 進
(72)【発明者】
【氏名】金子 知正
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 良祐
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
【Fターム(参考)】
4F100AA25B
4F100AB18B
4F100AK01B
4F100AK07
4F100AK24B
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AL01B
4F100BA02
4F100EH46
4F100EJ08
4F100EJ37
4F100EJ54
4F100EJ86
4F100JK06
4F100JL01
4F100JN01
4F206AA21
4F206AD05
4F206AD08
4F206AD20
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB13
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】基材層の伸びに対する追随性に優れた被覆層を有する積層フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の積層フィルム10は、(メタ)アクリル樹脂を含む基材層11と、下記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含み、かつ、基材層11の少なくとも片側に設けられた被覆層12と、を備える。式(1)中、Xは金属原子または金属酸化物を表す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル樹脂を含む基材層と、
下記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含み、かつ、前記基材層の少なくとも片側に設けられた被覆層と、
を備えた、積層フィルム。
【化1】
(式(1)中、Xは金属原子または金属酸化物を表す。)
【請求項2】
前記金属原子は亜鉛を含み、
前記金属酸化物は亜鉛酸化物を含む、
請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記基材層および前記被覆層は延伸された層である、
請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル樹脂は、主鎖に環構造を有する、
請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項5】
(メタ)アクリル樹脂を含む基材層の少なくとも片側に重合性組成物を塗布することと、
前記重合性組成物における重合反応を進行させて被覆層を形成することと、
を含み、
前記重合性組成物は、下記式(2)で表される陰イオンを含む、
積層フィルムの製造方法。
【化2】
【請求項6】
前記基材層および前記被覆層を延伸することをさらに含む、
請求項5に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の積層フィルムを用いてフィルムインサート成形を行うことを含む、
樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム、積層フィルムの製造方法および樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードコート層のような硬い被覆層を基材フィルムの上に設けた積層フィルムが知られている。このような積層フィルムは、ディスプレイの表面の保護、物品の加飾などに使用されている。
【0003】
特許文献1は、アクリル樹脂製の基材フィルムおよびハードコート層を有する光学フィルムを開示する。
【0004】
特許文献2は、多官能アクリレートを含むハードコート組成物を開示する。ハードコート組成物を透明基材に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を乾燥させることによって、透明基材およびハードコート層を有するハードコートフィルムが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/190172号
【特許文献2】特開2015-021015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の積層フィルムでは、基材フィルムの延伸後にハードコート層のような硬い被覆層が形成される。特許文献1の実施例1には、延伸フィルムである基材フィルムにUV硬化性樹脂を含む組成物Aを塗布・硬化してハードコート層を形成することが記載されている。基材フィルムにハードコート層を形成してから積層フィルムを延伸すると、ハードコート層が基材フィルムの延伸に十分に追随できないことがある。具体的には、ハードコート層が基材フィルムから剥離したり、ハードコート層が割れたりして、積層フィルムが白濁することがある。特許文献1に記載の順序を選択すれば、このような不具合を回避できる。
【0007】
しかし、延伸された基材フィルムの面積は、未延伸の基材フィルムの面積に比べて大きい。そのため、被覆層を形成するための樹脂組成物を延伸された基材フィルムに塗布し、硬化させることは容易ではない。
【0008】
また、積層フィルムを用いたフィルムインサート成形によって物品の加飾が行われる場合、被覆層が基材フィルムの伸びに十分に追随できないことが原因で被覆層が基材フィルムから剥離したり被覆層が割れたりして、物品の外観不良が起こることがある。
【0009】
本発明の目的は、基材層の伸びに対する追随性に優れた被覆層を有する積層フィルムを提供することにある。併せて、本発明は、積層フィルムの製造方法、および、積層フィルムを用いた樹脂成形品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(メタ)アクリル樹脂を含む基材層と、
下記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含み、かつ、前記基材層の少なくとも片側に設けられた被覆層と、
を備えた、積層フィルムを提供する。
【化1】
(式(1)中、Xは金属原子または金属酸化物を表す。)
【0011】
別の側面において、本発明は、
(メタ)アクリル樹脂を含む基材層の少なくとも片側に重合性組成物を塗布することと、
前記重合性組成物における重合反応を進行させて被覆層を形成することと、
を含み、
前記重合性組成物は、下記式(2)で表される陰イオンを含む、
積層フィルムの製造方法を提供する。
【化2】
【0012】
さらに別の側面において、本発明は、
上記本発明の積層フィルムを用いてフィルムインサート成形を行うことを含む、
樹脂成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材層の伸びに対する追随性に優れた被覆層を有する積層フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層フィルムの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。予め断っておくが、本明細書において、重合体と樹脂とは同義である。樹脂組成物は少なくとも1つの樹脂を含む混合物を指す。「(メタ)アクリル」の用語はアクリルとメタクリルとの両方を包含する。数値範囲を示す「○~△」という記載は「○以上△以下」と同義である。
【0016】
<積層フィルム10>
図1は、本発明の一実施形態に係る積層フィルム10の概略断面図である。積層フィルム10は、基材層11および被覆層12を備えている。被覆層12は、基材層11の片側に設けられた層である。被覆層12は、基材層11の表面に直接設けられている。被覆層12は、基材層11よりも耐擦傷性に優れている。
【0017】
[基材層11]
基材層11は、(メタ)アクリル樹脂を含む層である。
【0018】
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位(a1)を有する。(メタ)アクリル樹脂における構造単位(a1)の含有率は、通常、10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1万~50万であり、より好ましくは5万~30万である。
【0019】
構造単位(a1)は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキシル、および(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチルの各単量体に由来する構造単位である。(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸メチルに由来する構造単位を有することが好ましい。(メタ)アクリル樹脂は、2種以上の構造単位(a1)を有していてもよい。
【0020】
(メタ)アクリル樹脂は、構造単位(a1)に加えて、環構造を含む構造単位(a2)を有していてもよい。(メタ)アクリル樹脂は、構造単位(a2)を有することにより、主鎖に環構造を有する。
【0021】
構造単位(a2)に含まれる環構造は、例えば、ラクトン環構造、N-置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造、グルタルイミド構造、および無水グルタル酸構造である。(メタ)アクリル樹脂は、2種以上の構造単位(a2)を有していてもよい。
【0022】
N-置換マレイミド構造または無水マレイン酸構造を以下の式(4)に示す。
【0023】
【0024】
式(4)のR1およびR2は、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。X1は、酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のとき、R3は存在しない。X1が窒素原子のとき、R3は、水素原子、炭素数1~6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、置換基を有していてもよいフェニル基、または置換基を有していてもよいベンジル基である。
【0025】
X1が窒素原子のとき、式(4)の構造はN-置換マレイミド構造である。N-置換マレイミド構造を含む構造単位(a2)は、例えば、N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミドなどの単量体の重合に由来する。N-置換マレイミド構造を主鎖に有する(メタ)アクリル樹脂は、例えば、N-置換マレイミドと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合により形成できる。
【0026】
X1が酸素原子のとき、式(4)の構造は無水マレイン酸構造である。無水マレイン酸構造を主鎖に有する(メタ)アクリル樹脂は、例えば、無水マレイン酸と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合により形成できる。
【0027】
グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造を以下の式(5)に示す。
【0028】
【0029】
式(5)のR4およびR5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のとき、R6は存在しない。X2が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1~6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、置換基を有していてもよいフェニル基、または置換基を有していてもよいベンジル基である。
【0030】
X2が酸素原子のとき、式(5)の構造は無水グルタル酸構造である。無水グルタル酸構造を主鎖に有する(メタ)アクリル樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0031】
X2が窒素原子のとき、式(5)の構造はグルタルイミド構造である。グルタルイミド構造を主鎖に有する(メタ)アクリル樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体をイミド化剤によりイミド化して形成できる。イミド化剤の例は、メチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、およびベンジルアミンである。
【0032】
ラクトン環構造を以下の式(6)に示す。
【0033】
【0034】
式(6)のR7、R8およびR9は、互いに独立して、水素原子または炭素数1~20の有機残基である。有機残基は、酸素原子を含んでいてもよい。有機残基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1~20のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~20の芳香族炭化水素基;ならびに、上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基、および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の1つ以上が水酸基、カルボキシル基、エーテル基、およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基である。
【0035】
ラクトン環構造は、式(6)で表されるδ-ラクトンに限られず、下記式(7)で表されるγ-ラクトンであってもよい。
【0036】
【0037】
式(7)のR10、R11、R12およびR13は、互いに独立して、水素原子または炭素数1~20の有機残基である。有機残基は、酸素原子を含んでいてもよい。有機残基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1~20のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~20の芳香族炭化水素基;ならびに、上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基、および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の1つ以上が水酸基、カルボキシル基、エーテル基、およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基である。
【0038】
ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル樹脂は、例えば、メタクリル酸メチルと2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとの共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0039】
(メタ)アクリル樹脂において、構造単位(a2)の含有率は、例えば、1~90質量%、2~80質量%、3~70質量%、または5~50質量%である。主鎖に位置する環構造は、(メタ)アクリル樹脂の耐熱性の向上に寄与しうる。耐熱性の指標の一例は、ガラス転移温度である。(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度は、例えば、110℃以上、115℃以上、120℃以上、125℃以上、130℃以上、または135℃以上である。
【0040】
(メタ)アクリル樹脂は、構造単位(a1)、および構造単位(a2)に加えて、その他の構造単位(a3)を1種以上有していてもよい。構造単位(a3)の例は、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、α-ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン、酢酸ビニル、2-ヒドロキシメチル-1-ブテン、メチルビニルケトン、N-ビニルピロリドンなどのビニルモノマーの重合により形成される単位や、N-ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位、およびビニルチオフェン単位である。
【0041】
(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、例えば、3000~1000000、10000~800000、30000~500000、または50000~300000である。(メタ)アクリル樹脂のMwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により、スチレン換算による値として評価できる。
【0042】
(メタ)アクリル樹脂は、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、リビングラジカル重合、アニオン重合などの公知の重合法により形成できる。
【0043】
基材層11における(メタ)アクリル樹脂の含有率は、30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上である。
【0044】
(メタ)アクリル樹脂は、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。
【0045】
基材層11は、2種以上の樹脂を含んでいてもよい。例えば、異なる環構造を有する2種またはそれ以上の(メタ)アクリル樹脂が基材層11に含まれていてもよく、環構造を有さない(メタ)アクリル樹脂と環構造を有する(メタ)アクリル樹脂とが基材層11に含まれていてもよい。さらに、基材層11は、(メタ)アクリル樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。(メタ)アクリル樹脂以外の樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂(例えば脂肪族骨格(脂環族骨格、非脂環式の脂肪族骨格)を有するもの、芳香族骨格を有するもの、および、これらの混合物)、ジエンおよび/またはオレフィン由来の構造単位を有する重合体、SEBSなどのスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物などが挙げられる。
【0046】
基材層11は、紫外線吸収剤、近紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラー、相溶化剤、安定化剤などの添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、被覆層12に含まれていてもよい。
【0047】
[被覆層12]
被覆層12は、下記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含む層である。式(1)中、Xは金属原子または金属酸化物を表す。
【0048】
【0049】
式(1)で表される構造単位を有する重合体は、アイオノマーと呼ばれる化合物に属する。重合体の分子鎖はXで架橋されている。Xによる架橋構造はイオン結合性である。重合体を加熱すると、Xによる架橋構造の結合力が弱まる。架橋構造の結合力が弱まると、分子鎖と分子鎖との相対移動が容易になり、被覆層12が基材層11に容易に追従できる。重合体を室温に戻すと、Xによる架橋構造の結合力が再び高まる。そして、被覆層12が再び硬化する。このようなメカニズムによって、延伸、フィルムインサート成形などの各種工程において被覆層12が基材層11から剥離しにくく、被覆層12が割れにくい。また、式(1)の構造単位を有する重合体によれば、透明度が高く、かつ、耐擦傷性に優れた積層フィルム10が得られる。
【0050】
Xは金属原子または金属酸化物である。金属原子または金属酸化物の例は、積層フィルム10の製造方法とともに後述する通りである。金属原子または金属酸化物の中でも、亜鉛または亜鉛酸化物を好適に用いることができる。亜鉛または亜鉛酸化物によれば、透明度の高い積層フィルム10が得られる。
【0051】
式(1)で表される構造単位を有する重合体は、以下の製造方法で説明するように、共重合体であってもよい。
【0052】
次に、積層フィルム10の製造方法の一例について説明する。
【0053】
積層フィルム10は、(メタ)アクリル樹脂を含む基材層11の表面に重合性組成物を塗布し、その後、重合性組成物における重合反応を進行させて被覆層12を形成して製造される。
【0054】
基材層11は、例えば、未延伸フィルムである。未延伸フィルムである基材層11の上に被覆層12を形成し、その後、基材層11および被覆層12を一体的に延伸してもよい。これにより、延伸フィルムとしての積層フィルム10が得られる。基材層11および被覆層12は延伸された層でありうる。本実施形態によれば、被覆層12が基材層11に十分に追随できるので、透明度が高い積層タイプの延伸フィルムが得られる。なお、被覆層12が延伸されている場合は、偏光ラマン分光法によって、被覆層12が延伸されていることを特定しうる。
【0055】
未延伸の基材層11の面積は、延伸後の基材層11の面積よりも小さいので、未延伸の基材層11の上に被覆層12を形成することは、延伸後の基材層11の上に被覆層12を形成することに比べて容易である。重合性組成物を基材層11に塗布するための設備の小型化も可能である。基材層11を所定方向に一軸延伸し、一軸延伸された基材層11の上に被覆層12を形成し、その後、所定方向に交差する方向に基材層11および被覆層12を一体的に延伸してもよい。「所定方向」は、例えば、MD(machine direction)方向またはTD(transverse direction)方向である。所定方向がMD方向であるとき、所定方向に交差する方向がTD方向でありうる。所定方向がTD方向であるとき、所定方向に交差する方向がMD方向でありうる。別の延伸方法としては、未延伸の基材層11の上に被覆層12を形成してから、所定方向と所定方向に交差する方向とに順次、基材層11および被覆層12を一体的に延伸してもよい。もしくは、未延伸の基材層11の上に被覆層12を形成してから、所定方向と所定方向に交差する方向とに同時に、基材層11および被覆層12を一体的に延伸してもよい。
【0056】
<重合性組成物>
重合性組成物は、下記式(2)で表される陰イオンを含む。式(2)で表される陰イオンは、塩の状態で重合性組成物に含まれていてもよい。下記式(2)で表される陰イオンの環化反応によって、式(1)で表される構造単位が形成される。
【0057】
【0058】
重合性組成物は、ラジカル重合性化合物(D)、式(2)で表される陰イオンを含む塩(E)、および、式(3)で表される化合物(F)を含む。
【0059】
[ラジカル重合性化合物(D)]
ラジカル重合性化合物(D)(以下、単に「重合性化合物(D)」と称する場合もある)はアイオノマーの骨格を形成するための成分である。重合性化合物(D)は、水と非混和性であってもよい。ここで「水と非混和性」に関しては、水と等質量で混合した場合に均一化できるか否かで判定する。重合する温度・圧力において均一かどうかで判定すればよく、簡易的には常温常圧で均一かどうかを判定すればよく、また混合する時の温度・圧力は常温常圧でなくともよい。ここで、判定する際の温度と圧力は、20℃、101.3kPaであることが最も好ましい。
【0060】
重合性化合物(D)は、ラジカル重合性基を有する化合物であり、重合により直鎖状高分子を形成する単官能型と、共有結合性の架橋体を形成する多官能型とに分類できる。ラジカル重合性基としてはラジカル重合可能な不飽和結合であればよく、好ましくは炭素-炭素二重結合であり、より好ましくは官能基が結合し活性化された炭素-炭素二重結合が好ましい。
【0061】
活性化された炭素-炭素二重結合としては、例えば、カルボニル基が結合している炭素-炭素二重結合、シアノ基が結合している炭素-炭素二重結合、窒素原子が結合している炭素-炭素二重結合、芳香環が結合している炭素-炭素二重結合、酸素原子が結合している炭素-炭素二重結合、炭素-炭素二重結合が結合し共役化している炭素-炭素二重結合、ハロゲン原子が結合している炭素-炭素二重結合などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの中では、カルボニル基が結合している炭素-炭素二重結合、シアノ基が結合している炭素-炭素二重結合、窒素原子が結合している炭素-炭素二重結合、芳香環が結合している炭素-炭素二重結合が好ましく、カルボニル基が結合している炭素-炭素二重結合、芳香環が結合している炭素-炭素二重結合がより好ましい。
【0062】
カルボニル基が結合している炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、N置換マレイミド類、マレイン酸エステル類、フマル酸エステル類、イタコン酸エステル類など;シアノ基が結合している炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、2-シアノアクリル酸エステル類など;窒素原子が結合している炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、N-ビニルアミド類、ビニルアミン類など;芳香環が結合している炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、芳香族ビニル類など;酸素原子が結合している炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、ビニルエステル類、ビニルエーテル類など;炭素-炭素二重結合が結合し共役化している炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、1,3-ジエン類など;が挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの中では、重合活性および合成可能な構造の多様性の観点からは(メタ)アクリル酸エステル類、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸エステル類が好ましく、重合活性および効果的に低極性構造を導入できる観点からは芳香族ビニル類が好ましい。
【0063】
以下に、重合性化合物(D)として(メタ)アクリル酸エステル類、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸エステル類、芳香族ビニル類に属する化合物について具体的に例示するが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0064】
単官能型の(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸sec-アミル、(メタ)アクリル酸tert-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどのアルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3,5,5-トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニルなどの脂環式エステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニルなどの芳香族エステル;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルなどのエーテル構造含有エステル;(メタ)アクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルなどのエステル部位の水素原子の一部あるいは全てがフッ素原子で置換されたエステル;(メタ)アクリル酸トリメチルシリルメチル、(メタ)アクリル酸3-[トリス(トリメチルシリルオキシ)シリル]プロピルなどのエステル部位の水素原子の一部あるいは全てがシリル基またはシリルオキシ基で置換されたエステル;などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0065】
多官能型の(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAアルキレンオキシドジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールのエステル;(メタ)アクリル酸2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルなどのビニルエーテル基を有するアルコールのエステル;ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー/ポリマー、エポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマー/ポリマー、ポリエステル(メタ)アクリレート系オリゴマー/ポリマーなどの(メタ)アクリル酸エステル構造を有するオリゴマー/ポリマー;などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0066】
単官能型の2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸エステル類としては、例えば、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸メチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸エチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸n-プロピル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸イソプロピル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸n-ブチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸sec-ブチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸tert-ブチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸n-アミル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸sec-アミル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸tert-アミル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸n-ヘキシル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸2-エチルヘキシル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸イソデシル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸トリデシル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸ラウリル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸ステアリルなどのアルキルエステル類;2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシルメチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸3,5,5-トリメチルシクロヘキシル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸イソボルニル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸アダマンチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸トリシクロデカニルなどの脂環式エステル;2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸ベンジル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸フェニルなどの芳香族エステル;2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸2-メトキシエチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸2-エトキシエチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸テトラヒドロフルフリル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸グリシジル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルなどのエーテル構造含有エステル;2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルなどのエステル部位の水素原子の一部あるいは全てがフッ素原子で置換されたエステル;2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸トリメチルシリルメチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸3-[トリス(トリメチルシリルオキシ)シリル]プロピルなどのエステル部位の水素原子の一部あるいは全てがシリル基またはシリルオキシ基で置換されたエステル;などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0067】
多官能型の2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸エステル類としては、例えば、エチレングリコールジ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)、プロピレングリコールジ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)、ブチレングリコールジ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)、ヘキサンジオールジ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)、シクロヘキサンジメタノールジ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)、ビスフェノールAアルキレンオキシドジ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)、トリメチロールプロパントリ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)、ペンタエリスリトールテトラ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)、ジペンタエリスリトールペンタ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)、ジペンタエリスリトールヘキサ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)などの多価アルコールのエステル;2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸2-ビニロキシエチル、2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルなどのビニルエーテル基を有するアルコールのエステル;ウレタン(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)系オリゴマー/ポリマー、エポキシ(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)系オリゴマー/ポリマー、ポリエステル(2-(メタ)アリルオキシメチルアクリレート)系オリゴマー/ポリマーなどの2-(メタ)アリルオキシメチルアクリル酸エステル構造を有するオリゴマー/ポリマー;などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0068】
単官能型あるいは多官能型の芳香族ビニル類としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではなく、芳香環が結合している炭素-炭素二重結合を有するものを使用できる。
【0069】
重合性化合物(D)は、目的および用途に応じてそれぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0070】
[式(2)で表される陰イオンを含む塩(E)]
下記式(2)で表される陰イオンを含む塩(E)(以下、単に「重合性塩(E)」と称する場合もある)は、イオンXによる架橋構造を形成するための成分である。
【0071】
【0072】
式(2)で表される陰イオンは、2-アリルオキシメチルアクリル酸イオンである。
【0073】
重合性塩(E)を構成する陽イオン(イオンX)は、金属イオンあるいは金属酸化物イオンを含んでいればよい。イオンは複数種含まれていてもよく、他のイオンとしては無機の陽イオンでも有機の陽イオンでもよく、目的や用途に応じて適宜選択すればよい。
【0074】
無機の陽イオンとしては金属イオンあるいは金属酸化物イオンが挙げられ、具体的に示すと例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの周期表1族元素の陽イオン;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどの周期表2族元素の陽イオン;ランタン、ジルコニウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅などの遷移金属元素あるいはこれら遷移金属の酸化物の陽イオン;亜鉛、アルミニウム、錫、鉛、ビスマスなどの周期表12~15族の典型金属元素あるいはこれら典型金属の酸化物の陽イオン;などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではなく、2種以上の金属あるいは金属酸化物のイオンの組み合わせでもよい。本実施形態の重合性組成物を無色のものにできる観点から、カルボン酸金属塩の金属イオン部分としては、典型金属元素、周期表3族および周期表4族に属する金属あるいは金属酸化物のイオンが好ましく、入手性、毒性の観点も加味すると、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウムの陽イオンがさらに好ましく、特に亜鉛または亜鉛酸化物の陽イオンが好ましい。
【0075】
有機の陽イオンとしては、周期表15族の非金属元素を含む陽イオンが挙げられる。周期表15族の非金属元素として、窒素、リン、ヒ素が挙げられる。好ましくは、窒素原子が陽イオン化されたイオン(アンモニウムイオン、プロトン化されたアミン、4級アンモニウムイオン)、リン原子が陽イオン化されたイオン(ホスホニウムイオン、プロトン化されたホスフィン、4級アンモニウムイオン)が挙げられるが、生体安全性や入手性の観点から窒素原子が陽イオン化されたイオンが好ましい。
【0076】
プロトン化されたアミンについて、プロトン化される前のアミン名で具体的に示すと例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、ヘキサメチレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3,6,9,12-テトラオキサ-テトラデカン-1,14ジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、3-アミノメチル-3,5,6-トリメチルシクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、2,5(または2,6)-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6(または2,7)-ビス(アミノメチル)ビシクロ[3,2,1]オクタン、2,5(または2,6)-ビス(アミノメチル)-7-ジメチルビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)アダマンタン、m-キシリレンジアミン、p-フェニレンジアミン、ビス(4-アミノフェニル)メタン、1,4(または2,6または2,7)-ビス(アミノメチル)ナフタレン、ピペラジン、アミノエチルピペラジン、ビスアミノプロピルピペラジン、2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン、ポリエチレンイミンなど、窒素原子部分の構造として1~3級、アミンの価数として1価および2価以上の各種アミンを挙げることができるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0077】
4級アンモニウムイオンについては、具体的には例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、ベンジルトリメチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0078】
重合性塩(E)を構成する陰イオンは、2-アリルオキシメチルアクリル酸イオンのみで構成されていてもよく、2-アリルオキシメチルアクリル酸イオン以外の陰イオンを含んでいてもよい。2-アリルオキシメチルアクリル酸イオン以外の陰イオンとしては特に制限はないが、重合性化合物(D)や有機溶媒に対する溶解性の観点からカルボン酸イオンが好ましい。
【0079】
カルボン酸イオンをカルボン酸名で具体的に示すと例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0080】
[式(3)で表される化合物(F)]
式(3)で表される化合物(F)(以下、単に「化合物(F)」と称する場合もある)は、2-アリルオキシメチルアクリル酸である。
【0081】
【0082】
重合性組成物は、重合性化合物(D)100質量部に対して、重合性塩(E)における陰イオンを1質量部から120質量部含むことが好ましく、より好ましくは2から110質量部、さらに好ましくは3から100質量部であり、より具体的には20から50質量部の範囲であってもよい。化合物(F)は、重合性塩(E)に含まれる2-アリルオキシメチルアクリル酸イオンと2-アリルオキシメチルアクリル酸(F)との合計モル量に対して1から99モル%であることが好ましく、より好ましくは5から97モル%、さらに好ましくは10から95モル%、最も好ましくは50から80モル%である。
【0083】
[その他の成分]
重合性組成物は、その使用目的、用途などに応じて、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、ラジカル重合抑制剤、ラジカル重合開始剤、溶媒、水と混和性のラジカル重合性化合物、ラジカル重合性以外の反応性基を有する化合物、熱可塑樹脂、有機あるいは無機の微粒子、フィラー、染料、顔料、分散剤、紫外線吸収剤、近紫外線吸収剤、レベリング剤、表面調整剤、帯電防止剤、密着性向上剤、カップリング剤、離型剤、粘度調整剤などが挙げられるが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0084】
その他の成分のうち主なものを以下に具体的に示すが、本実施形態はかかる例示に限定されるものではない。
【0085】
ラジカル重合抑制剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生する光ラジカル開始剤と、加熱によりラジカルを発生する熱ラジカル開始剤とに分類でき、用途や目的に応じて選択すればよく、光ラジカル開始剤と熱ラジカル開始剤を併用してもよい。溶媒としては、粘度調整、塗膜の厚さの調整、樹脂を溶解する、親水成分を複合する、などの観点から、有機溶媒あるいは水が適量で含まれていてもよい。水と混和性のラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の塩、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、モノ(メタ)アクリル酸グリセロール、(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0086】
<重合反応>
基材層11に重合性組成物を塗布して塗布膜を形成したのち、塗布膜に含まれた単量体の重合反応をラジカル発生条件下で進行させる。これにより、被覆層12が形成される。
【0087】
ラジカル発生方法としては、塗布膜を加熱する方法、塗布膜に活性エネルギー線を照射する方法などが挙げられる。加熱と活性エネルギー線の照射とを組合せてもよい。いずれにしても、事前に塗布膜にラジカル重合開始剤を添加しておくことが好ましい。
【0088】
加熱温度はラジカル重合開始剤の有無や種類、含有量、用途に応じて適宜選択すればよいが、熱ラジカル開始剤を用いる場合は、40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。
【0089】
上記活性エネルギー線としては、例えば、ガンマ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、電子線、中性子線、陽子線などが挙げられる。光ラジカル開始剤を用いない場合は、ガンマ線、X線、電子線などが好ましく、光ラジカル開始剤を用いる場合には、紫外線、可視光線などが好ましい。
【0090】
重合性組成物から得られる重合体は、例えば、重合性化合物(D)に由来する構造単位(d)と、重合性塩(E)に由来する構造単位(e)と、化合物(F)に由来する構造単位(f)とを含む。重合体は、更に別の構造単位(g)を含んでもよい。重合体に含まれる構造単位(d)、構造単位(e)における陰イオン、および構造単位(f)の組成比の好ましい形態は、重合性組成物における重合性化合物(D)、重合性塩(E)における陰イオン、および化合物(F)の組成比の好ましい形態と同様である。
【0091】
ここで、「構造単位(d)」は、「重合性化合物(D)」がラジカル重合して得られる構造単位と同一である限り、特に限定されない。すなわち、「構造単位(d)」は、「重合性化合物(D)」が実際にラジカル重合して形成された構造単位である必要は無く、合成的な手法などで形成された構造単位であってもよい。「構造単位(e)」および「構造単位(f)」についても同様である。
【0092】
なお、「重合性化合物(D)」、「重合性塩(E)」、および「化合物(F)」がラジカル重合して得られた構造単位としては、例えば、それぞれ(i)「重合性化合物(D)」、「重合性塩(E)」、および「化合物(F)」の炭素炭素二重結合の少なくとも一つが炭素炭素単結合に置き換わった構造単位や、(ii)「重合性化合物(D)」、「重合性塩(E)」、および「化合物(F)」が環化重合して形成された構造単位などが例示されるが、これらに限定されない。
【0093】
次に、積層フィルム10の用途について説明する。積層フィルム10は、延伸フィルムであってもよく、延伸されていないフィルムであってもよい。積層フィルム10が延伸フィルムである場合、積層フィルム10は、例えば、加飾フィルム、光学フィルム、保護フィルム(例えば偏光子保護フィルムなど、他の部材と一体となって用いられるフィルム)、カバーフィルム(例えば、乗用車の内装材・外装材(車載ディスプレイの前面板、メーターカバー等)など、他の部材の外側に張り付けられてその部材を保護するフィルム)として使用されうる。
【0094】
積層フィルム10は、樹脂成形品の表面の加飾に適している。例えば、積層フィルム10を用いてフィルムインサート成形を行うことができる。延伸されていないフィルムである積層フィルム10は、フィルムインサート成形の用途に適している。フィルムインサート成形による樹脂成形品の製造は、例えば、以下のような工程を含む。まず、積層フィルム10を金型に供給して積層フィルム10を所定形状に成形する。積層フィルム10は加熱され、金型に沿って伸ばされる。このとき、被覆層12が基材層11に十分に追随できるので、本実施形態の積層フィルム10によれば白濁が起こりにくい。積層フィルム10を所定形状に成形したのち、積層フィルム10のトリミングを行って形を整える。次に、積層フィルム10を樹脂成形品の成形用金型にインサートし、金型に樹脂を注入する。これにより、積層フィルム10を表面に有する樹脂成形品が得られる。
【0095】
本実施形態の積層フィルム10が十分な耐熱性を有する場合、例えば、環構造を有する(メタ)アクリル樹脂が基材層11に用いられている場合、耐熱性が要求される樹脂成形品の表面の加飾に本実施形態の積層フィルム10を用いることも可能である。そのような樹脂成形品としては、自動車の内装品などが挙げられる。
【実施例0096】
まず、積層フィルムの評価方法を記載する。
【0097】
(1)重量平均分子量(Mw)
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
【0098】
-システム:東ソー社製GPCシステム HLC-8220
-測定側カラムの構成
ガードカラム:東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ-L
分離カラム :東ソー社製、TSKgel SuperHZM-M 2本直列接続
-リファレンスカラム:東ソー社製、TSKgel SuperH-RC
-展開溶媒 :クロロホルム(富士フィルム和光純薬社製、特級)
-展開溶媒の流量 :0.6mL/分
-標準サンプル :TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS-オリゴマーキット)
-カラム温度 :40℃
【0099】
(2)ガラス転移温度
ガラス転移温度は、日本産業規格(JIS) K 7121の規定に準拠して測定した。示差走査熱量計(リガク社製、Thermo plus EVO DSC-8230)を用い、約10mgのサンプルを窒素ガス雰囲気下で常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法によりガラス転移温度を求めた。リファレンスには、α-アルミナを用いた。
【0100】
(3)積層フィルムの厚さ
積層フィルムの全厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定した。基材層および被覆層の厚さは、積層フィルムの断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、FE-SEM S-4800)で観察して測定した。測定条件は、加速電圧20kV、エミッション電流5μAまたは10μA、W.D.=8mmであった。
【0101】
(4)ヘイズ値
積層フィルムのヘイズ値は、濁度計(日本電色工業社製、NDH-5000)を用いて、JIS K 7136の規定に準拠して測定した。
【0102】
[樹脂組成物1Aの製造]
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、メタクリル酸メチル229.6質量部、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシメチル33質量部、トルエン248.6質量部、およびn-ドデシルメルカプタン0.19質量部を仕込み、反応容器に窒素ガスを通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス(登録商標)570)0.25質量部を添加した。続けて、t-アミルパーオキシイソノナノエート0.51質量部とスチレン12.4質量部とを2時間かけて滴下した。これらを滴下している間、混合液を約105~110℃で還流し、溶液重合を進行させた。滴下終了後、同温度でさらに4時間の熟成を行った。
【0103】
得られた重合体溶液に、リン酸ステアリル(SC有機化学社製、商品名:Phoslex A-18)0.21質量部を加え、約90~110℃の還流下において1.5時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。
【0104】
得られた重合体溶液を、240℃に加熱した多管式熱交換器に通して環化縮合反応を完結させた。その後、重合体溶液を、ベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、35.1質量部/時(樹脂量換算)の処理速度で導入した。上記ベントタイプスクリュー二軸押出機は、バレル温度が250℃であり、1個のリアベント、4個のフォアベント(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、および第3ベントと第4ベントとの間に位置するサイドフィーダーを備え、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルタ(濾過精度5μm)が配置されている。重合体溶液の導入に際して、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.15質量部/時の投入速度で第2ベントの下流から、イオン交換水を0.54質量部/時の投入速度で第1および第3ベントの下流から、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、それぞれ4.3質量部の酸化防止剤(BASFジャパン社製、商品名:イルガノックス1010、ADEKA社製、商品名:アデカスタブ(登録商標)LAO-412S)と、失活剤として14質量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業社製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛)とを、トルエン144質量部に溶解させた溶液を用いた。
【0105】
脱揮完了後、押出機内に残された溶融状態にある樹脂組成物を当該押出機の先端からポリマーフィルタで濾過しながら排出した。その後、押出機の先端に備わっているダイスを通過させ、冷却水を満たした水槽で冷却することにより、上記樹脂組成物のストランドを得た。上記冷却水は、孔径1μmのフィルタ(オルガノ社製、製品名:ミクロポアフィルタ1EU)で濾過し、30±10℃の範囲内の温度に保持されていたものである。冷却後のストランドを切断機(ペレタイザ)に導入することで、ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物1Aを得た。樹脂組成物1Aの重量平均分子量は14.9万、ガラス転移温度は122℃であった。また、(メタ)アクリル樹脂におけるラクトン環構造の含有率は19.6%であった。
【0106】
[樹脂組成物2Aの製造]
主鎖にグルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル樹脂(ダイセル・エボニック社製、商品名:プレキシイミド8813、Tg132℃)を樹脂組成物2Aとして用意した。
【0107】
[樹脂組成物3Aの製造]
主鎖にN-置換マレイミド構造を有する(メタ)アクリル樹脂(日本触媒社製、商品名:ポリイミレックスPML203、Tg139℃)を樹脂組成物3Aとして用意した。
【0108】
[樹脂組成物4Aの製造]
PMMA-水素添加スチレン共重合体(三菱瓦斯化学社製、商品名:Optimas7500)を樹脂組成物4Aとして用意した。
【0109】
[基材層1Fおよび3Fの製造]
樹脂組成物1Aのペレットを80℃の熱風オーブンで8時間乾燥させた。その後、乾燥したペレット1Aを、濾過精度5μmのリーフディスク型ポリマーフィルタを備える単軸押出機に投入し、270℃の条件で溶融押出しして溶融フィルムを製膜した。溶融フィルムを、120℃に調整された第1冷却ロール、95℃に調整された第2冷却ロール、および複数のパスロールに順次通した後、粘着剤付きのポリエチレン製保護フィルムを貼り合わせて巻き取った。これにより、基材層1Fを得た。保護フィルムを除いた基材層1Fの厚みは140μmであった。樹脂組成物1Aに代えて樹脂組成物3Aを用い、基材フィルム3Fを得た。
【0110】
[基材層2Fおよび4Fの製造]
樹脂組成物2Aのペレットを80℃の熱風オーブンで8時間乾燥させた。その後、乾燥したペレット2Aを、手動式加熱プレス機(井元製作所社製、IMC-180C型)を用いて、230℃および2分間の条件で溶融プレス成形することで、140μmのフィルムを得た。得られたフィルムに粘着剤付きポリエチレン製の保護フィルムを貼り合わせてラミネーターに通し、保護フィルム付きの基材層2Fを得た。樹脂組成物2Aに代えて樹脂組成物4Aを用い、基材層4Fを得た。
【0111】
[塗布液1Cの調製]
攪拌子を入れたナスフラスコに、酸化亜鉛0.12g(0.0015mol)、メタノール3.0g、2-アリルオキシメチルアクリル酸1.49g(0.0105mol)をこの順に入れ、50℃で4時間攪拌して均一溶液を調製した。酸化亜鉛に由来するZn2+が2分子の2-アリルオキシメチルアクリル酸に結合するので、2-アリルオキシメチルアクリル酸の29モル%が亜鉛で中和されたと言える。均一溶液を室温に戻し、アクリル酸シクロヘキシル3.57gを添加して、室温のまま真空ポンプで減圧してメタノールを除去した後、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.15gを添加し、攪拌混合した。これにより、均一かつ透明な重合性組成物である塗布液1Cを得た。
【0112】
[塗布液2Cの調製]
攪拌子を入れたナスフラスコに、1,4-ブタンジオールジアクリレート1.2g、アクリル酸2-エチルヘキシル1.2g、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.07gを入れ、攪拌混合した。これにより、重合性組成物である塗布液2Cを得た。
【0113】
[塗布液3Cの調製]
攪拌子を入れたナスフラスコに、1,4-ブタンジオールジアクリレート1.5g、N-ビニルピロリドン3.5g、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.15gを入れ、攪拌混合した。これにより、重合性組成物である塗布液3Cを得た。
【0114】
[塗布液4Cの調製]
アクリル酸シクロヘキシルの代わりにアクリル酸ベンジルを用いたこと以外は塗布液1Cの調製と同様にして、重合性組成物である塗布液4Cを得た。
【0115】
[実施例1]
(密着性)
バーコーターNo.2を用いて、基材層1F上に塗布液1Cを塗布して塗布膜を形成した。塗布膜を乾燥させた後、ベルトコンベア式UV照射装置(高圧水銀ランプ、照度200mW/cm2)を用い、積算光量0.6J/cm2で塗布膜を硬化させて硬化層を形成した。
【0116】
基材層1Fに対する硬化層の密着性を、日本産業規格(JIS) K 5600-5-6(クロスカット法)に準拠して評価した。すなわち、全てのマス目(10×10マス=100マス)のうち、剥がれまたは破損が生じずに残存したマス目の数で評価したところ、100であった。
【0117】
(延伸追随性の評価試験)
保護フィルム付きの基材層1Fを15cm×7cmの寸法にカットし、弱粘着性スプレーのりで保護フィルム側を鉄板(15cm×7cm)に貼りつけた。次に、基材層1F上に粘着テープ(厚さ50μm)をコの字型に貼り合わせた。粘着テープが存在しない部分に塗布液1Cを載せて塗布層を形成した。2mm厚のポリプロピレン板を貼りつけたガラス板(15cm×7cm)を用い、ポリプロピレン板が内側になるように基材層1Fをガラス板と鉄板との間に挟み、気泡を抜きながらクリップで止めた。
【0118】
ベルトコンベア式UV照射装置(高圧水銀ランプ、照度200mW/cm2)を用いてガラス板側から積算光量2J/cm2となるように塗布層にUVを照射した後、ガラス板および鉄板をはずし、粘着テープが存在する部分を基材層1Fごとカットすることにより、片面に被覆層を有する短冊状の積層フィルムを得た。この積層フィルムのヘイズを測定した。
【0119】
オーブン付き引張試験機を用い、短冊状の積層フィルムを延伸した。延伸条件は以下の通りである。
【0120】
掴み具間の距離:60mm
引張速度 :300mm/min
オーブン温度 :基材層のTg+10℃(すなわち132℃)
延伸倍率 :2倍(すなわち伸びが100%)
【0121】
延伸後、オーブンを取り外して積層フィルムを室温に戻した後、掴み具から積層フィルムを取り外した。得られた積層フィルムは透明であり、基材層と被覆層との間に剥がれは見られなかった。そして、この積層フィルムのヘイズを測定した。
【0122】
延伸前後における積層フィルムのヘイズを比較し、延伸前後におけるヘイズの変化量(Δヘイズ)を調べた。Δヘイズは0.10%であり、被覆層の割れは抑制されていた。
【0123】
[実施例2~8、比較例1~8]
基材層と塗布液との組み合わせを変更して実施例2~8および比較例1~8の積層フィルムを作製した。基材層と塗布液との組み合わせを表1に示す。実施例および比較例の積層フィルムの密着性および延伸追随性を表1に示す。密着性の欄には、密着性の評価試験における「残存したマス目の数」を示す。延伸追随性の欄には、延伸追随性の評価試験における「Δヘイズの値」および「被覆層と基材層との間の剥離の有無」を示す。
【0124】
【0125】
実施例1~8の積層フィルムは密着性に優れていた。また、延伸時に基材層と被覆層とが剥離しなかったことに加え、被覆層の割れに伴う白化は見られなかった(Δヘイズが0.20%以下であった)。このことから、被覆層が基材層の延伸に十分追随していたと思われる。
【0126】
比較例1~4の積層フィルムにおいて、被覆層は多官能アクリレートとビニル単量体との共重合体で形成されていた。比較例1~4の積層フィルムは、延伸前の段階において基材層と被覆層との密着性が不十分であった。そのため、延伸追随性を調べるための試験を行わなかった。
【0127】
比較例5~8の積層フィルムにおいて、被覆層は比較例1~4と同様に多官能アクリレートで形成されていた。比較例5~8では、被覆層と基材層との間の密着性を改善すべく共重合の単量体にN-ビニルピロリドンを使用した。被覆層は、基材層に密着したものの、基材層の延伸に追随できなかったため、顕著に白濁した(Δヘイズが50%以上であった)。
【0128】
[変形例]
上述した実施形態および実施例においては、被覆層は基材層の片側に設けられた層であったが、これに限られない。被覆層は基材層の両側に設けられていてもよい。すなわち、被覆層は基材層の少なくとも片側に設けられていればよい。
【0129】
上述した実施形態および実施例においては、被覆層は基材層の表面に直接設けられた層であったが、これに限られない。被覆層と基材層との間、もしくは、基材層の両側のうち被覆層が設けられていない側には、接着層や接着層とは異なる層が1層以上設けられていてもよい。
【0130】
接着層となる接着剤の具体例は、ポリアルキレンイミンを側鎖に有する1級アミノ基含有アクリル系ポリマー(例えばアミノエチル化アクリルポリマー)や、ポリアルキレンイミン(ポリエチレンイミンやその誘導体など)を含むものである。接着剤は架橋剤(エポキシ系架橋剤やイソシアネート系架橋剤など)を含んでいてもよい。このような接着剤からなる接着層は、基材層および被覆層と一体となって延伸可能である。
【0131】
接着層とは異なる層の具体例は、ポリカーボネート系樹脂(例えば脂肪族骨格(脂環族骨格、非脂環式の脂肪族骨格)を有するもの、芳香族骨格を有するもの、および、これらの混合物)を含む層、シクロオレフィン系樹脂を含む層、セルロース系樹脂を含む層などであってもよい。このような層は、基材層および被覆層と一体となって延伸可能である。