(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068542
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】急性腎障害の予後予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240513BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240513BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20240513BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/53 D
C07K16/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179073
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511288304
【氏名又は名称】宮崎 徹
(71)【出願人】
【識別番号】522125490
【氏名又は名称】西嶋 修平
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 修平
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 麻由
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕輔
【テーマコード(参考)】
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB03
2G045DA36
2G045FB03
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA71
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】 急性腎障害の予後を予測する方法を提供すること。
【解決手段】 被検体から採取された尿試料中の全長遊離AIM又は遊離AIMを検出する工程を含む、急性腎障害の予後を予測する方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体から採取された尿試料中の全長遊離AIM又は遊離AIMを検出する工程を含む、急性腎障害の予後を予測する方法。
【請求項2】
被検体から採取された尿試料中の全長遊離AIMを検出する工程を含む、急性腎障害の予後を予測する方法。
【請求項3】
急性腎障害の前記予後が、前記被検体が急性腎障害を発症したと判定された時から72時間以内に急性腎障害から回復するか又は非回復である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記尿試料が、急性腎障害の原因となる事象発生から48時間以内において採取された尿試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記事象が被検体に対する外科的処置である、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
全長遊離AIM又は遊離AIMの前記検出が、免疫学的測定法によって行われる、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
全長遊離AIM又は遊離AIMを検出するための物質を含む、急性腎障害の予後を予測するための試薬又はキット。
【請求項8】
全長遊離AIM又は遊離AIMを検出するための前記物質が、全長遊離AIMに特異的な抗体及び/又は遊離AIMに特異的な抗体である、請求項7に記載の試薬又はキット。
【請求項9】
尿中の全長遊離AIM又は遊離AIMを含む、急性腎障害の予後を予測するためのバイオマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿中の全長遊離AIM又は遊離AIMを指標とした、急性腎障害の予後を予測する方法、当該予後を予測するための試薬又はキットに関する。本発明はまた、尿中の全長遊離AIM又は遊離AIMを含む、急性腎障害の予後を予測するためのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage;CD5L、api6、Spαとも称する)は、組織マクロファージが特異的に産生する約50kDaの分泌型タンパク質として知られ(非特許文献1)、急性腎障害、脂肪肝、肝細胞癌、肥満、真菌性腹膜炎、多発性硬化症等、様々な疾患に対し抑制的な効果をもち、幅広い疾患に対する新規治療薬となる可能性が明らかにされている。
【0003】
AIMの構造は、システイン残基を多く含む特異的な配列であるSRCR(scavenger receptor cysteine-rich)ドメインがタンデムに3つつながれた構造をしており、それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0004】
AIMは、様々な分子と相互作用することが知られており、その結合パートナーとして様々な分子が報告されている。例えば、LTA(lipoteichoic acid)やLPS(lipopolysaccharide)等の菌類の病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns:PAMPs)と結合し、細菌を凝集させる能力を持つことが知られている(非特許文献2)。また、体内には、AIMを細胞表面に結合する、あるいは細胞内に取り込む細胞も多く存在しており、産生細胞であるマクロファージ自身への取り込みのほか、脂肪細胞ではスカベンジャー受容体CD36を介してエンドサイトーシスにより取り込まれ、脂肪分解を誘導することが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
また、AIMは、血液中ではIgMに結合することが知られている。近年では、AIMが尿に排出されずに血液中で安定的に存在するためには、AIMとIgMの結合が重要であることが報告されている。また、血清検体中においては、AIMの多くはIgM結合型AIMとして存在しており、単量体で存在することがほとんどないことが報告されている(非特許文献4、5)。その一方、AIMは、疾患発症時にIgMから解離、活性化して、疾患の治癒を促進することが明らかになっている(非特許文献4)。血中でIgMから解離した遊離AIMは、糸球体の濾過膜を通過し、近位尿細管へと移行する。遊離AIMは尿細管の中の死細胞塊に付着し、周囲の細胞の貪食を促進することで急性腎障害の治癒に貢献し、この時、遊離AIMは尿中に排出される。実際、急性腎障害患者では、血中遊離AIM及び尿中AIM濃度の顕著な増大が認められることが報告されている(非特許文献6)。
【0006】
このように、急性腎障害発症後の血中遊離AIM及び尿中AIMと急性腎障害との関連については示唆されていた。しかしながら、AIMと急性腎障害の予後との関連、すなわち、AIMを指標として、当該疾患の予後を予測できるかは、明らかにされていない。さらに、どのような形態のAIM(IgM結合型AIM、遊離AIM等)が、急性腎障害の予後と関連しているかについても明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Miyazaki T.et al.,J Exp Med 189:413-422,1999
【非特許文献2】Sarrias MR et al.,J Biol Chem 280:35391-35398,2005
【非特許文献3】Kurokawa J et al.,Cell Metab 11:479-492,2010
【非特許文献4】宮崎ら,日本臨牀71巻9号(2013-9),1681頁-1689頁
【非特許文献5】Arai S.et al.,ScienceDirect 3(4):1187-1198,2013
【非特許文献6】北田研人ら,日腎会誌 58(8):1234-1237,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、急性腎障害の予後と関連性の高いAIMの存在形態を解明し、それを指標として急性腎障害の予後の予測を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、AIMの各形態を識別し得るモノクローナル抗体を作製し、さらに、それらを用いた各種形態のAIMの検出系を構築した。
【0010】
なお、AIMの形態としては、IgM結合型AIM及び遊離AIMが、従前より知られている。しかしながら、本発明者らは、今回、
図1に示すとおり、前記モノクローナル抗体の作製等を通し、遊離AIMとして、更に、全長遊離AIMと、C末端側が切断されて分子量が小さくなった遊離AIM(Small AIM)との2形態の検出を可能とした。
【0011】
そして、手術後に急性腎障害(AKI)を発症した者において、その後、AKIから回復した者と、回復しなかった者とを対象とし、前記検出系を用い、尿中の、遊離AIM(全長遊離AIM及びSmall AIM)量、並びに、全長遊離AIM量を測定し、各種濃度値を得た。さらに、これらの濃度に基づき、全長遊離AIM/遊離AIM(比率)を算出した。
【0012】
その結果、術直後に採取した尿中の全長遊離AIMの量(濃度)、遊離AIMの量(濃度)及びその比率のいずれにおいても、急性腎障害から回復した回復AKIの症例と比較し、急性腎障害から回復しなかった非回復AKIの症例で有意に高値であった。一方、既存のAKI関連マーカー(NGAL(Neutrophil gelatinase-associated lipocalin)、L-FABP(Liver-type fatty acid-binding protein)、KIM-1(Kidney injury molecule-1))についても同様の解析を行ったが、このような有意な差は認められなかった。
【0013】
また、術前から術後2日目までの尿中の全長遊離AIMの濃度、遊離AIMの濃度及びその比率に関し、それらの推移を解析した。その結果、NGAL、L-FABP、KIM-1は、回復AKI、非回復AKI共に術直後に濃度上昇が認められたのに対し、遊離AIM、全長遊離AIMは、非回復AKIの症例で、術直後から顕著な濃度上昇が認められ、全長遊離AIM/遊離AIMは、回復AKIと比較して術直後から安定して高値を示した。特に、回復AKIにおけるこれら尿中遊離AIM、全長遊離AIMの濃度上昇は軽度であり、全長遊離AIM/遊離AIMでは数値が低く、非回復AKIの症例との推移の差は顕著であった。
【0014】
さらに、術前から術後2日目までの尿を測定した全長遊離AIMの濃度、遊離AIMの濃度及びその比率に関し、回復AKIの症例群で測定された中央値に対する非回復AKIの症例群で測定された中央値の比率(非回復AKI/回復AKI)を求め、それらの推移を解析した。その結果、尿中の遊離AIM及び全長遊離AIMに関し、非回復AKI/回復AKIの比率は、術後経過全般に亘って高値を示した。特に、全長遊離AIMは、術後早くから高値を示す傾向が見られ、術直後では顕著に高値を示した。一方、既存のAKI関連マーカーに関し、NGAL及びL-FABPについては、高値を示す傾向が遅く、術後早期の段階では非回復AKIと回復AKIにほとんど差がみられなかった。また、KIM-1については、術後経過全般に亘って非回復AKIと回復AKIとにおいて差がみられなかった。
【0015】
さらに、ROC曲線下の面積(AUC)を算出し、上記各種マーカーの予後予測能を評価した。その結果、尿中全長遊離AIM量及びその比率に関し、術後経過全般に亘って高い診断能を示した。特に、尿中全長遊離AIM量を指標とした場合、AUCは概して0.7以上と高かった。一方、既存のAKI関連マーカーを指標とした場合には、AUCが高くなるのが手術経過後遅い傾向にあるか、全体的にAUCが低かった。
【0016】
以上の結果から、尿中の遊離AIM等を指標とする場合には、術後の期間を問わず安定して精度高く、AKIの予後予測が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0018】
[1] 被検体から採取された尿試料中の全長遊離AIM又は遊離AIMを検出する工程を含む、急性腎障害の予後を予測する方法。
【0019】
[2] 被検体から採取された尿試料中の全長遊離AIMを検出する工程を含む、急性腎障害の予後を予測する方法。
【0020】
[3] 急性腎障害の前記予後が、前記被検体が急性腎障害を発症したと判定された時から72時間以内の急性腎障害から回復するか又は非回復である、[1]又は[2]に記載の方法。
【0021】
[4] 前記尿試料が、急性腎障害の原因となる事象発生から48時間以内に採取された尿試料である、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の方法。
【0022】
[5] 前記事象が被検体に対する外科的処置である、[1]~[4]のうちのいずれか1項に記載の方法。
【0023】
[6] 全長遊離AIM又は遊離AIMの前記検出が、免疫学的測定法によって行われる、[1]~[5]のうちのいずれか1項に記載の方法。
【0024】
[7] 全長遊離AIM又は遊離AIMを検出するための物質を含む、急性腎障害の予後を予測するための試薬又はキット。
【0025】
[8] 全長遊離AIM又は遊離AIMを検出するための前記物質が、全長遊離AIMに特異的な抗体及び/又は遊離AIMに特異的な抗体である、[7]に記載の試薬又はキット。
【0026】
[9] 尿中の全長遊離AIM又は遊離AIMを含む、急性腎障害の予後を予測するためのバイオマーカー。
【0027】
[10] 前記遊離AIM又は全長遊離AIMが、前記尿試料中における、遊離AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の比率である、[1]~[6]のうちのいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、尿試料中の遊離AIM又は全長遊離AIMを指標とすることによって、急性腎障害(AKI)の予後を予測することが可能となる。特に、用いる尿試料を、AKI発症の原因となる事象発生後(例えば、手術等の外科的処置を行った後)、いつ採取しても、採取時期にかかわらず、安定して、AKIの予後予測を高い精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】ゲル濾過クロマトグラフィーにより分画した全長AIM(rAIM)の濃度を市販のキットを用いたサンドイッチELISA法により検出した結果を示す図である。
【
図3】ゲル濾過クロマトグラフィーにより分画した血清中のAIMを、様々な抗体の組み合わせ(試薬1~4)を用いた生物発光酵素免疫測定法(BLEIA(登録商標)法)により検出した結果を示す図である。
【
図4】様々な抗体の組み合わせ(試薬1~4)を用いたBLEIA法により、全長AIM(rAIM)及びrSmall AIMを検出した結果を示す図である。
【
図5】回復AKI患者及び非回復AKI患者の術直後の尿における、遊離AIM濃度、全長遊離AIM濃度、全長遊離AIM/遊離AIM、NGAL濃度、L-FABP濃度、KIM-1濃度(いずれもクレアチニン補正値)を検出し、それらの中央値を算出した結果を示すグラフである。当該図において、エラーバーは標準偏差(SD)を示す。有意差検定はマン・ホイットニーのU検定で行った。各マーカーの濃度はクレアチニン補正値をもって示す。
【
図6A】回復AKI患者及び非回復AKI患者の尿における、遊離AIM濃度(クレアチニン補正値)の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図6B】回復AKI患者及び非回復AKI患者の尿における、全長遊離AIM濃度(クレアチニン補正値)の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図6C】回復AKI患者及び非回復AKI患者の尿における、全長遊離AIM/遊離AIMの中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図6D】回復AKI患者及び非回復AKI患者の尿における、NGAL濃度(クレアチニン補正値)の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図6E】回復AKI患者及び非回復AKI患者の尿における、L-FABP濃度(クレアチニン補正値)の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図6F】回復AKI患者及び非回復AKI患者の尿における、KIM-1濃度(クレアチニン補正値)の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図7A】術後6時間以降にAKIを発症し、その後回復したAKI患者及びその後回復しなかったAKI患者の尿における、遊離AIM濃度(クレアチニン補正値)の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図7B】術後6時間以降にAKIを発症し、その後回復したAKI患者及びその後回復しなかったAKI患者の尿における、全長遊離AIM濃度(クレアチニン補正値)の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図7C】術後6時間以降にAKIを発症し、その後回復したAKI患者及びその後回復しなかったAKI患者の尿における、全長遊離AIM/遊離AIMの中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図7D】術後6時間以降にAKIを発症し、その後回復したAKI患者及びその後回復しなかったAKI患者の尿における、NGAL濃度(クレアチニン補正値)の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図7E】術後6時間以降にAKIを発症し、その後回復したAKI患者及びその後回復しなかったAKI患者の尿における、L-FABP濃度(クレアチニン補正値)の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図7F】術後6時間以降にAKIを発症し、その後回復したAKI患者及びその後回復しなかったAKI患者の尿における、KIM-1濃度(クレアチニン補正値)の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図8A】回復AKI患者及び非回復AKI患者の血清における、遊離AIM濃度の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【
図8B】回復AKI患者及び非回復AKI患者の血清における、全長遊離AIM濃度の中央値の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、被検体から採取された尿試料中の全長遊離AIM又は遊離AIMを検出する工程を含む、急性腎障害の予後を予測する方法に関する。
【0031】
本発明における「AIM」は、組織マクロファージにより産生される、約40kDaの分泌型の血中タンパク質である。ヒト由来のAIMの典型的なアミノ酸配列を配列番号1に示す。なお、タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列は、その変異等により、自然界において(すなわち、非人工的に)変異し得る。したがって、本発明にかかるAIMは、前記典型的なアミノ酸配列に特定されることなく、それらアミノ酸配列の天然の変異体も含まれる。ヒト由来のAIMは、システインを多く含む3つのSRCRドメインを含んでおり、SRCR1ドメインは、配列番号1の24~124位に相当し、SRCR2ドメインは、配列番号1の138~238位に相当し、SRCR3ドメインは、配列番号1の244~346位に相当する。
【0032】
本発明において「遊離AIM」とは、IgMと結合していない状態で存在するAIMを意味し、IgMとの複合体の状態で存在する複合体AIM(以下、「IgM結合型AIM」と称する)との対比で用いられる。また、「全長遊離AIM」とは、遊離AIMのうち、完全長のアミノ酸配列を有するAIMを意味し、C末端側が切断されて分子量が小さくなった遊離AIMであるSmall AIMとの対比で用いられる。Small AIMは、例えば、配列番号1に示されるヒトAIMのアミノ酸配列における262位以下、1~262位を有する。Small AIMは遊離AIMに含まれ得る。
【0033】
本発明の方法において「検出」は、遊離AIM又は全長遊離AIMの存在の有無の検出のみならず、当該存在の程度の検出(例えば、定量)も含まれる。より具体的には、後述の実施例に示すように、尿試料における遊離AIMの濃度、尿試料における全長遊離AIMの濃度、尿試料における遊離AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の比率(全長遊離AIM/遊離AIM)が、好適な例として挙げられる。これらの中では、急性腎障害から回復した者と回復しなかった者の測定値における差が顕著であり、予測の精度を高めることができるという観点から、尿試料における全長遊離AIMの濃度、全長遊離AIM/遊離AIMを検出することが、より好ましく、尿試料における全長遊離AIMの濃度を検出することが、さらに好ましい。
【0034】
本発明においては、「被検体」としては、急性腎障害を発症している又は発症するおそれのあるヒトであれば特に制限はなく、男性であってもよく、女性であってもよい。また、子供、若者、中年、老人等、いずれの年代の個体であってもよいが、急性腎障害発症の原因となる事象を受ける前(受ける予定)のヒト、当該事象を受けている又は受けた直後のヒト、当該事象を受けた後のヒトが、好適な例として挙げられる。また、前記事象としては、例えば、手術(例えば、心臓血管手術)等の外科的処置、薬剤投与、外傷が挙げられる。
【0035】
かかる被検体から採取された「尿試料」としては、例えば、排尿(放尿)、又は尿管へのカテーテルの挿入による収集によって得ることができるが、低侵襲性の観点から、排尿により得ることが好ましい。尿試料は、尿を含む試料又は尿に由来する試料であればよく、後述の遊離AIM等の検出前に予備的な処理に供されている尿であってもよい。かかる予備的な処理としては、特に制限はないが、例えば、処理液(例えば、緩衝液、更には、キレート剤、界面活性剤等を添加した溶液)の添加、遠心処理、ろ過、攪拌、タンパク質の分画、タンパク質の抽出、タンパク質の沈殿、タンパク質の分解(ペプチドへの断片化)、加熱、凍結、冷蔵が挙げられる。また、かかる処理は複数組み合わせて尿に施してもよい。
【0036】
被検体から尿試料を採取する時期としては、特に制限はなく、例えば、前記事象の発生前、発生直後、発生後のいずれでも良いが、発生直後、発生後3時間以内、発生後6時間以内、発生後24時間以内(1日以内)及び発生後48時間以内(2日以内)のいずれかであることが好ましく、発生直後、発生後3時間以内、発生後24時間以内であることがより好ましく、発生後24時間未満(1日未満)であることがさらに好ましい。
【0037】
本発明が予後予測の対象とする「急性腎障害(Acute Kidney Injury;AKI)」は、腎臓の機能が数時間から数日の間に急激に低下する状態を意味し、また当該機能低下に伴う、体液貯留(溢水)、電解質バランスの異常(高カリウム血症等)、毒素の蓄積(高窒素血症)等も含み得る。より具体的には、例えば、下記KDIGO基準(AKI診療ガイドライン2016)(1)~(3)を満たす状態が挙げられる
(1)血清クレアチニン値が、48時間以内に0.3mg/dL以上上昇、
(2)血清クレアチニンの基礎値が、7日以内に1.5倍以上上昇、
(3)尿量が0.5mL/kg/時以下である状態が6時間以上持続。
【0038】
本発明にかかる「予後」とは、急性腎障害から回復するか、回復しないか(非回復)を意味する。本発明において「回復」は、急性腎障害の治癒又は軽快を意味する。また、その回復は、被検体が急性腎障害を発症していると判定(診断)された時から72時間以内(3日以内)であること好ましく、より具体的には、前記判定後の72時間以内に、血清クレアチニン(SCr)の濃度が最大値から0.3mg/dL以上又は25%以上減少し、72時間の時間枠の間にSCr濃度が持続的に減少した状態が挙げられる。一方、「非回復」は、急性腎障害の症状の憎悪又は維持を意味し、より具体的には、72時間以内に前記状態が認められなかったことが挙げられる(Pavan K.Bhatraju et al.,JAMA Netw Open.2020;3(4):e202682 参照)。
【0039】
また、急性腎障害に関しては、前記のようにその罹病期間が72時間を超え長くなる場合(短期予後不良の場合)、ひいては、腎臓機能の慢性的な低下(慢性腎臓病の発症、透析処置の必要等)、死亡率の上昇に至る可能性(長期予後不良となる可能性)が高いことが知られている(阿部雅紀 編著、AKI(急性腎障害)治療の実際、日本医事新報社、2018年10月25日発行、Delphine Daubin et al.,PLoS One 2017 Jan 13;12(1):e0169674 参照)。よって、本発明において予測される予後は、後述の実施例に示す短期のものに限られず、長期のもの(急性腎障害を発症してから5年以内に、腎臓機能の慢性的な低下(例えば、慢性腎臓病、末期腎不全の発症)や死亡が生じること)も含まれる。
【0040】
本発明の方法において各種形態のAIMの検出は、後述の実施例に示すとおり、抗体を用いた免疫学的方法によって行われ得るが、遊離AIM、全長遊離AIMを検出・定量できれば特に限定されるものではない。
【0041】
遊離AIMを免疫学的に検出するための抗体の態様として、遊離AIMに特異的な抗体が挙げられる。本発明において「遊離AIMに特異的」とは、実質的にIgM結合型AIMと交差反応しない、すなわち遊離AIMに対する反応性に対し、IgM結合型AIMに対する反応性が十分に低いことを意味する。十分に低い、とは、遊離AIMとの反応性に対するIgM結合型AIMとの反応性の比が20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0042】
これらの各種形態のAIMへの反応性は、例えば、評価対象となるモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法により評価することができる。サンドイッチELISA法において評価対象となるモノクローナル抗体と組み合わせる抗体としては、IgM結合型AIM、全長遊離AIM、Small AIMのすべての形態のAIMを認識できる限り特に制限はなく、ポリクローナル抗体(例えば、抗AIMポリクローナル抗体:Human CD5L Affinity Purified Polyclonal Ab(R&D社製、商品コード:AF2797))であっても、モノクローナル抗体であってもよい。組み合わせるモノクローナル抗体は、評価対象となるモノクローナル抗体とAIMへの結合において競合しないこと(すなわち、異なるエピトープを認識すること)が好ましい。サンドイッチELISA法は、例えば、先ず、評価対象となるモノクローナル抗体を固相化したプレート(固相化プレート)を作製し、固相化プレートに、対象となる形態のAIMを含む試料(ここでは遊離AIMを含む試料又はIgM結合型AIMを含む試料)を添加して反応させる。次いで、洗浄後ポリクローナル抗AIM抗体を添加して反応、洗浄後、さらに、標識した二次抗体を添加して反応、洗浄後、最後に、標識のシグナル強度を測定する。標識として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いた場合、発色基質を添加後、マイクロプレートリーダーを用いて、シグナルを測定することができる。測定の結果、例えば、遊離AIMへの反応性が100でIgM結合型AIMへの反応性が4の場合、評価対象となるモノクローナル抗体はIgM結合型AIMへの反応性が遊離AIMへの反応性の4%であるため、遊離AIM特異的抗体と判定することができる。
【0043】
本発明の遊離AIMに特異的な抗体の好ましい態様は、AIMの1~229位からなるポリペプチドには結合せず、AIMの1~259位からなるポリペプチドに結合するモノクローナル抗体である。当該モノクローナル抗体の認識部位は、典型的には、AIMのSRCR2ドメイン(138~238位)のC末端側の領域からSRCR3ドメイン(244~346位)のN末端側の領域である。特に好ましいモノクローナル抗体は、AIMの230~259位の領域、より好ましくは230~244位の領域を認識するモノクローナル抗体である。
【0044】
全長遊離AIMを免疫学的に検出するための抗体の第一の態様として、全長遊離AIMに特異的な抗体が挙げられる。以下、全長遊離AIMに特異的な抗体として、全長遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体を開示するが、これに限定されるものではなく、全長遊離AIMに特異的なポリクローナル抗体を用いてもよい。ここで「全長遊離AIMに特異的」とは、実質的にIgM結合型AIM及びSmall AIMと交差反応しない、すなわち遊離AIMに対する反応性に対し、IgM結合型AIMに対する反応性が十分に低く、かつ、全長AIMに対する反応性に対し、Small AIMに対する反応性が十分に低いことを意味する。「十分に低い」とは、遊離AIMとの反応性に対して、20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、かつ、全長AIMとの反応性に対して、20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下であることを指す。これらの各種形態のAIMへの反応性は、例えば、上述したように、評価対象となるモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法により評価することができる。サンドイッチELISA法において評価対象となるモノクローナル抗体と組み合わせる抗体としては、IgM結合型AIM、全長遊離AIM、Small AIMのすべての形態のAIMを認識できる限り特に制限はなく、ポリクローナル抗体(例えば、抗AIMポリクローナル抗体:Human CD5L Affinity Purified Polyclonal Ab(R&D社製、商品コード:AF2797))であっても、モノクローナル抗体であってもよい。組み合わせるモノクローナル抗体は、評価対象となるモノクローナル抗体とAIMへの結合において競合しないこと(すなわち、異なるエピトープを認識すること)が好ましい。
【0045】
全長遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体の一つの好ましい態様は、配列番号1に記載の263~347位からなるアミノ酸配列、好ましくは295~347位からなるアミノ酸配列に結合するモノクローナル抗体である。当該モノクローナル抗体は、典型的には、AIMのSRCR3ドメインの一部を認識する。
【0046】
本発明の方法においては、全長遊離AIMを免疫学的に検出するための抗体の第二の態様として、全長AIMに特異的な抗体と遊離AIMに特異的な抗体の組み合わせを用いる。以下、全長AIMに特異的な抗体、遊離AIMに特異的な抗体として、全長AIMに特異的なモノクローナル抗体、遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体を開示するが、これらに限定されるものではなく、全長AIMに特異的なポリクローナル抗体、遊離AIMに特異的なポリクローナル抗体を用いてもよい。ここで、「全長AIMに特異的」とは、実質的にSmall AIMに交差反応しない、すなわち、全長AIMに対する反応性に対し、Small AIMに対する反応性が十分に低いことを意味する。「十分に低い」とは、全長AIMとの反応性に対して、20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下であることを指す。当該全長AIMに特異的なモノクローナル抗体は、少なくとも全長遊離AIMに反応すればよく、さらにIgMに結合した全長AIMに反応してもよい。遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体は、IgMに結合していないAIMに特異的であればよく、実質的にIgM結合型AIMと交差反応しない、すなわち遊離AIMに対する反応性に対し、IgM結合型AIMに対する反応性が十分に低い抗体を意味する。遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体は、少なくとも全長遊離AIMに反応すればよく、さらにSmall AIMに反応してもよい。したがって、これらのモノクローナル抗体を組み合わせることにより、全長遊離AIMを特異的に検出することができる。
【0047】
本発明のモノクローナル抗体の作製は、一般的に知られている方法で行えばよい。例えば、本願実施例に記載のように、先ず、組換えAIM(rAIM)又はその一部を免疫原としてハイブリドーマを作製し、その中から、当該AIMに対して高い反応性を示すモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選抜し、さらに、選抜したハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体について、各種形態のAIMへの特異性の解析やエピトープ解析を行って、上記特徴を有するモノクローナル抗体を産生するクローンを同定すればよい。
【0048】
より具体的に、遊離AIMに特異的に結合するモノクローナル抗体は、免疫原として、AIMの特定の領域(例えば、SRCR2ドメインのC末端側の領域からSRCR3ドメインのN末端側の領域)の部分ペプチドを用いることによって、効率的に製造することができる。
【0049】
全長遊離AIMに特異的に結合するモノクローナル抗体は、AIM又は、配列番号1に記載の263~347位、好ましくは295~347位を含む断片で免疫してモノクローナル抗体を調製し、AIMの263~347位、好ましくは295~347位に結合するモノクローナル抗体を選択することにより、効率的に製造することができる。
【0050】
モノクローナル抗体を製造するための方法としては、ハイブリドーマ法、代表的には、ケーラー及びミルスタインの方法(Kohler&Milstein,Nature,256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(標的タンパク質、その部分ペプチド、又はこれらを発現する細胞等)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ラクダ、アルパカ、ニワトリ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球等である。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞又はリンパ球等に対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞及びミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、抗原に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。抗原に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
【0051】
また、目的とするモノクローナル抗体をコードするDNAが取得できれば、組換えDNA法によって作製することもできる。この方法は、上記抗体をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等)に導入し、組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P.J.Delves,Antibody Production:Essential Techniques,1997、WILEY、P.Shepherd and C.Dean,Monoclonal Antibodies,2000,OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M.et al.,Eur.J.Biochem.192:767-775,1990)。抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖又は軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖及び軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(国際公開第94/11523号参照)。組換え抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0052】
本発明のモノクローナル抗体は、完全な抗体のみならず、抗原を認識し得る限り、抗体断片であってもよい。抗体断片は、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、単鎖抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
遊離AIM又は全長遊離AIM(以下「遊離AIM等」とも総称する)を免疫学的に検出する方法としては、例えば、標識物質で標識された抗体を用いるイムノアッセイ(標識イムノアッセイ)が挙げられ、標識した検出用抗体や検出用抗体に対する標識抗体を用いる免疫学的測定法である。例えば、免疫比ろう法、免疫比濁法等による免疫凝集法(ラテックス凝集法、金コロイド凝集法等)、標識として酵素を用いる酵素免疫測定法(EIA法)、標識として放射性同位元素を用いる放射免疫測定法(RIA)、標識として化学発光性化合物を用いる化学発光免疫測定法(CLIA法)、標識として電気化学発光物質を用いる電気化学発光免疫測定法(ECLEIA法)、標識として蛍光物質を用いる蛍光免疫測定法、イムノクロマトグラフィー法、ウエスタンブロット法、イムノブロット法が挙げられるが、これらに制限されない。酵素免疫測定法としては、例えば、ELISA法、CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)や生物発光酵素免疫測定法が挙げられ、生物発光酵素免疫測定法としては、例えば、BLEIA(登録商標)法が挙げられる。
【0054】
免疫学的に検出する方法として標識イムノアッセイを適用する場合、固相に固定(結合)した抗原捕捉用抗体(固相化抗体)及び検出用抗体のうち少なくとも一方が上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体であればよく、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体に標識物質を結合させて標識し、遊離AIM等を直接的に検出するようにしてもよく、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体には標識物質を結合せず、標識物質が結合した二次抗体等を利用して遊離AIM等を間接的に検出するようにしてもよい。
【0055】
標識イムノアッセイにおいて、固相に固定(結合)した抗原捕捉用抗体(固相化抗体)及び標識した抗体(検出用抗体)の少なくとも一方に、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体を用いた場合、他の一方の抗体は、AIMに結合し得る抗体(抗AIM抗体)であればよく、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体以外の抗体を用いることもできる。他の一方の抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体と組み合わせるモノクローナル抗体は、当該遊離AIM等との結合において競合しないこと(すなわち、異なるエピトープを認識すること)が好ましい。
【0056】
標識イムノアッセイにおいて、抗原捕捉用抗体として上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体を用い、検出用抗体として他の抗体を用いる場合には、当該他の抗体を標識して用いることができる。また、当該他の抗体を標識しない場合には、同様に、標識された二次抗体等を利用するようにしてもよい。
【0057】
ここで「二次抗体」とは、抗原に直接結合する抗体(一次抗体)に対して反応性を示す抗体である。例えば、一次抗体をマウス抗体とした場合には、二次抗体として抗マウスIgG抗体を使用することができる。ウサギ、ヤギ、マウス等の様々な生物種に由来する抗体に対して、使用可能な標識二次抗体が市販されており、一次抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択して使用することができる。二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインA等を用いることも可能である。
【0058】
よって、上記のとおり、標識物質を結合させた上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体を用いて遊離AIM等を直接的に検出する方法以外に、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体には標識物質を結合せず、標識物質が結合した二次抗体等を利用して間接的に検出する方法を利用することもできる。
【0059】
標識物質としては、抗体に結合させて検出できるものであれば特に制限はないが、例えば、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、βガラクトシダーゼ(β-gal)、ホタルルシフェラーゼ等)、蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やローダミンイソチオシアネート(RITC))、蛍光タンパク質(アロフィコシアニン(APC)やフィコエリスリン(R-PE))、125I等の放射性同位元素、磁気粒子、ラテックス粒子(例えば、ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体)、金属コロイド粒子(例えば、金、銀、銅、鉄、白金、パラジウム等、又はこれらの混合物)、アビジン、ビオチン等が挙げられる。
【0060】
標識物質として酵素を用いた場合には、基質として、過酸化物及び/又は発色基質、蛍光基質、あるいは化学発光基質等を添加することにより、基質に応じて種々の検出を行うことができる。
【0061】
例えば、酵素として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いる場合、過酸化水素とともに基質として、o-フェニレンジアミン(発色)、テトラメチルベンチジン(TMBZ)(発色)、ルミノール(化学発光)等を用いてもよく、酵素として、アルカリホスファターゼ(ALP)を用いる場合、その基質は、p-ニトロフェニルホスファート(発色)、AMPPD(登録商標)(化学発光)等であってよい。酵素としてホタルルシフェラーゼを用いる場合、ATPとともに、基質としてホタル・ルシフェリン等を用いてもよく、酵素として特許第3466765号公報に記載のビオチン化ルシフェラーゼを、基質として特許第4379644号公報や特許第4503724号公報に記載のルシフェリンを使用してもよい。また、酵素がストレプトアビジンと結合して基質と反応して蛍光、発光又は発色を生じる場合、標識をビオチンとしてもよい。
【0062】
抗体と標識物質との結合方法としては、公知の方法で行うことができ、例えば、ビオチン-アビジン系を利用することもできる。この方法においては、例えば、ビオチン化した抗体に、アビジン化した標識物質を作用させ、ビオチンとアビジンの相互作用を利用して、抗体に標識物質を結合させる。
【0063】
また、遊離AIM等を免疫学的に検出する方法として、測定原理に、例えばサンドイッチ法を含む非競合的測定法や競合的測定法を利用することができる。
【0064】
また、試料中の遊離AIM等を免疫学的に検出する方法として、不溶性担体等を用い、B/F分離を行うヘテロジニアスな方法(例えば、サンドイッチ法)で測定することも、B/F分離を行わないホモジニアスな方法(例えば、免疫凝集法)で測定することも可能である。
【0065】
サンドイッチ法では、固相に固定(結合)した抗原捕捉用抗体で遊離AIM等を捕捉し、それを標識物質が結合した検出用抗体に認識させ、B/F分離(洗浄)後、標識物質自体、又は酵素等の標識物質に対する基質等を加えて発色等させることにより、試料中の遊離AIM等を検出する。本発明の方法における遊離AIM等の検出原理としては、高感度な検出システムを構築することができる点で、サンドイッチ法が好適である。
【0066】
また、イムノクロマトグラフィー法のように、標識物質が結合した検出用抗体で遊離AIM等を認識させ、B/F分離を行いつつ、固相に固定(結合)した抗原捕捉用抗体で遊離AIM等を捕捉し、標識物質の種類に応じた検出を行うようにしてもよい。
【0067】
また、BLEIA法のように、磁性粒子に抗原捕捉用抗体を結合させ、当該抗体と試料中の遊離AIM等を反応させ、B/F分離後、ビオチン化した検出用抗体と反応させ、B/F分離後、ルシフェラーゼで標識したアビジンを用いて免疫反応を行い、B/F分離後、ルシフェリンを添加し、ルシフェラーゼ複合体の酵素活性を生物発光で検出し、試料中の遊離AIM等を検出してもよい。
【0068】
また、免疫凝集法のように、液相中で、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体が固定(結合)された不溶性担体粒子(固相)を用い、当該不溶性担体粒子と遊離AIM等との免疫複合体の形成により不溶性担体粒子が凝集する性質を利用して、濁度の測定や目視、吸光度の測定により、不溶性担体粒子の凝集を検出してもよい。遊離AIM等の検出前にB/F分離の工程が不要であり、簡便かつ迅速に全長遊離AIMの検出が可能であるという利点を有することから、本発明の方法では免疫凝集法が好ましい。
【0069】
不溶性担体(固相)としては、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、ニトロセルロース、セファロース、ガラス、金属、セラミックス、又は磁性体等の材質より成る粒子、プレート、又は試験片等の形状の不溶性担体を用いることができる。特に、不溶性担体粒子としては、金属や磁性粒子等を用いることができるが、ラテックス粒子が好ましく、一般に、ポリスチレンラテックスが用いられる。
【0070】
抗体は、固相の表面に公知の技術、例えば物理吸着又は化学結合によって固定化することができる。捕捉用抗体は固相に直接固定してもよいが、間接的に固定してもよい。例えば、捕捉用抗体に結合する物質を固相に固定し、当該物質に捕捉用抗体を結合させることにより、捕捉用抗体を固相に間接的に固定することができる。捕捉用抗体に結合する物質としては、例えば、上記の二次抗体、プロテインG、プロテインA等が挙げられるが、これらに制限されない。また、捕捉用抗体がビオチン化されている場合には、アビジン化した固相を利用することができる。
【0071】
本発明の方法において、全長AIMに特異的なモノクローナル抗体と遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体の組み合わせを利用して全長遊離AIMを検出する場合には、一方を抗原捕捉用抗体とし、他の一方を検出用抗体とすればよい。
【0072】
得られた測定値からの遊離AIM等の定量は、一般的に、標準試料による測定値との比較により行うことができる。この場合、例えば、標準検体による測定値に基づいて作成された標準曲線(検量線)上のどの位置に、実際の測定値が位置づけられるかを調べることにより、試料中の遊離AIM等を定量することができる。
【0073】
また、このようにして検出される遊離AIM又は全長遊離AIMの量としては、絶対量のみならず、相対量であってもよい。相対量としては、例えば、検出に用いる測定方法又は測定装置に基づくタンパク質量比(所謂、任意単位(AU)で表される数値)が挙げられる。また、相対量としては、例えば、他のタンパク質の量を基準として算出した値を用いてもよい。かかる「他のタンパク質」としては、参照タンパク質も例示することができる。本発明にかかる「参照タンパク質」は、尿試料において安定して存在しており、また異なる尿試料間において、その1日総排泄量の差が小さい分子であればよく、例えば、内在性コントロール(内部標準)分子が挙げられ、より具体的には、クレアチニン(Cr)が挙げられる。なお、尿中クレアチニン濃度は、クレアチニンの産生が筋肉の量に依存することから、一個体に対して、その1日総排泄量はほぼ一定であると考えられている。尿中成分の検査においては、尿の濃淡誤差を回避するため、クレアチニン1g当りの量により、目的とする尿中成分の1日総排泄量を補正する手法が一般的に用いられており、これによりクレアチニン単位グラム当たりの尿中成分を比較することが可能になる。
【0074】
本発明の方法においては、このようにして検出された遊離AIM又は全長遊離AIMの量と、同タンパク質の基準量とを比較することによって、AKIの予後を予測してもよい。すなわち、本発明の方法は、下記態様もとり得る。
【0075】
(1)被検体から採取された尿試料中の全長遊離AIM又は遊離AIMを検出する工程と、
(2)工程(1)にて検出された全長遊離AIM又は遊離AIMの量を各々、全長遊離AIM又は遊離AIMの基準量と比較する工程と、
(3)工程(2)における比較の結果、工程(1)にて検出された遊離AIM又は全長遊離AIMの量が、対応する前記基準量よりも低い場合、前記被検体は、急性腎障害から回復すると判定し、対応する前記基準量よりも高い場合、前記被検体は、急性腎障害から回復しないと判定する工程を含む、急性腎障害の予後を予測する方法。
【0076】
より具体的な態様として、以下が挙げられる。
【0077】
(1)被検体から採取された尿試料中の全長遊離AIM又は遊離AIMの濃度を検出する工程と、
(2)工程(1)にて検出された全長遊離AIM又は遊離AIMの濃度を各々、全長遊離AIM又は遊離AIMの基準濃度と比較する工程と、
(3)工程(2)における比較の結果、工程(1)にて検出された遊離AIM又は全長遊離AIMの濃度が、対応する前記基準濃度よりも低い場合、前記被検体は、急性腎障害から回復すると判定し、対応する前記基準濃度よりも高い場合、前記被検体は、急性腎障害から回復しないと判定する工程を含む、急性腎障害の予後を予測する方法。
【0078】
また、より具体的な態様として、以下も挙げられる。
【0079】
(1)被検体から採取された尿試料中の遊離AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の比率を検出する工程と、
(2)工程(1)にて検出された遊離AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の比率を、遊離AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の基準比率と比較する工程と、
(3)工程(2)における比較の結果、工程(1)にて検出された遊離AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の比率が、前記基準比率よりも低い場合、前記被検体は、急性腎障害から回復すると判定し、対応する前記基準比率よりも高い場合、前記被検体は、急性腎障害から回復しないと判定する工程を含む、急性腎障害の予後を予測する方法。
【0080】
比較対象となる遊離AIM又は全長遊離AIMの「基準量(基準濃度、基準比率等)」としては特に制限はなく、当業者であれば、例えば、上記検出方法等を用いた際に、それを基準とすることにより、急性腎障害から回復するか否かを判断することのできる、所謂カットオフ値(閾値)として設定することができる。
【0081】
より具体的に、基準量としては、例えば、急性腎障害から回復するヒト群とそうでないヒト群とにおいて、遊離AIM又は全長遊離AIMの量を比較することにより決定される値(例えば、急性腎障害から回復しないヒト群における遊離AIM又は全長遊離AIMの量(中央値、平均値又は下限値)と、急性腎障害から回復するヒト群におけるそれ(中央値、平均値又は上限値)との間に設定される値)が挙げられる。また、その設定は、当業者であれば、上記検出方法に合った統計学的解析方法を適宜選択して行うことができる。統計学的解析方法としては、例えば、受信者動作特性解析(ROC解析)、t検定、分散分析(ANOVA)、クラスカル・ウォリス検定、ウィルコクソン検定、マン・ホイットニー検定、オッズ比、ハザード比、フィッシャーの正確検定、分類木と決定木解析(CART解析)が挙げられる。また、比較の際には、正規化された又は標準化かつ正規化されたデータを用いることもできる。
【0082】
また、そのようにして設定される、より具体的な例としては、後述の実施例に示すとおり、遊離AIM濃度(クレアチニン補正値)の基準量として、好ましくは0.85~
2.50μg/g・Cre、より好ましくは1.34~2.19μg/g・Creが挙げられる。全長遊離AIM濃度(クレアチニン補正値)の基準量として、好ましくは0.50~1.00μg/g・Cre、より好ましくは0.51~0.83μg/g・Creが挙げられる、全長遊離AIM/遊離AIMの基準量として、好ましくは0.50~1.10が挙げられ、より好ましくは0.57~0.85が挙げられる。
【0083】
また、かかる予後予測は、通常、医師(医師の指示を受けた者も含む)によって行われるが、上述の遊離AIM又は全長遊離AIMに関するデータは、医師による治療の要否、そのタイミング等の判断も含めた診断に役立つものである。よって、本発明の方法は、医師による予後予測のために遊離AIM又は全長遊離AIMに関するデータを収集する方法、当該データを医師に提示する方法、遊離AIM又は全長遊離AIMと対応する各基準量とを比較し分析する方法、医師による急性腎障害の予後予測を補助するための方法とも表現し得る。
【0084】
さらに、本発明には、急性腎障害から回復しないと判定された被検者に対して治療を施す又は医療介入する方法も含まれる。かかる治療又は医療介入としては、急性腎障害の回復を促進させるための方法、急性腎障害の症状の進行を遅らせるための方法、腎機能の低下を抑制するための方法が挙げられ、より具体的には、補液の投与、利尿薬の投与、栄養管理、循環管理、早期目標指向療法(EGDT)、血圧管理等が挙げられる。
【0085】
また、本発明は、遊離AIM又は全長遊離AIMを検出するための物質を含む、急性腎障害の予後を予測するための試薬を提供する。かかる物質としては、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体が挙げられる。
【0086】
本発明の試薬に含まれる抗体は、上記の通り、標識物質が結合したものであってもよく、固相に結合したものであってもよい。固相としては、上記不溶性担体が挙げられ、例えば、サンドイッチELISA法等のサンドイッチ法を検出原理とする場合には、上記抗体が結合したプレート、繊維状物質、粒子等が挙げられる。イムノクロマトグラフィーを検出原理とする場合には、上記抗体が標識試薬ゾーンに含まれる不溶性担体粒子(検出用抗体の場合)又は検出ゾーン(捕捉用抗体の場合)に結合したイムノクロマトデバイスが挙げられる。また、免疫凝集法を検出原理とする場合には、上記抗体が結合した不溶性担体粒子、例えばラテックス粒子が挙げられる。
【0087】
本発明の試薬においては、抗体成分の他、必要に応じて、滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、保存剤等、他の成分を含むことができる。
【0088】
また、本発明は、上記試薬を含む、急性腎障害の予後を予測するためのキットを提供する。本発明のキットは、必要に応じて、さらに、標準試料(各濃度の遊離AIM等を含む試薬)、対照試薬、試料の希釈液、希釈用カートリッジ、洗浄液等を組み合わせることができる。検出に酵素標識を利用する場合には、標識の検出に必要な基質や反応停止液等を含めることができる。間接的に遊離AIM等を検出する場合においては、一次抗体に結合する物質(二次抗体、プロテインA等)を標識したものを含めることができる。また、上記抗体をビオチン化している場合には、アビジン化した標識を含めることができる。本発明のキットには、さらに、当該キットの使用説明書を含めることができる。
【0089】
以上説明した実施態様は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。さらに、上記に開示された各要素は、上記内容に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物・均等方法をも含む趣旨である。例えば、本発明の方法に用いる抗体、本発明の試薬及びキットに含まれる抗体は、モノクローナル抗体に制限されるものではなく、ポリクローナル抗体も含む。
【実施例0090】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
(抗AIM抗体の作製)
抗原としてヒトリコンビナントAIM(以下、rAIMとも称する)(30~50μg)をマウスに3週間間隔で3~6回免疫した。免疫後の脾細胞とマウスミエローマ細胞とを融合し、融合された細胞を限外希釈法にてクローニングした。細胞をクローニングした後、免疫原を固相化したELISA法でスクリーニングし、rAIMと反応を示す抗体を産生する細胞を得た。抗体産生が確認された細胞を培養し、培養上清中に産生された抗体をプロテインA又はプロテインGを用いて精製し、抗体3クローン(以下、クローン1、クローン3、クローン81とも各々称する)を得た。
【0092】
なお、図には示さないが、クローン1は、AIMのSRCR2ドメインに反応する、遊離AIM(全長遊離AIM及びSmallAIM)に対する抗体である。なお、クローン1に関し、遊離AIMとの反応性に対するIgM結合型AIMとの反応性の比が10%以下であることを確認済である。クローン3は、AIMにおけるSRCR3ドメインの一部(配列番号1に示されるAIMの263~347位、特に295~347位)に反応する、全長遊離AIMに対する抗体である。なお、クローン3に関し、遊離AIMとの反応性に対するIgM結合型AIMとの反応性の比が10%以下であること、全長AIMとの反応性に対するSmallAIMとの反応性の比が10%以下であることを確認済である。クローン81は、AIMのSRCR1ドメインに反応する、AIM(IgM結合型AIM及び遊離AIM)に対する抗体である。
【0093】
(rAIM及びrSmall AIMの作製)
rAIMは、文献(生化学第84巻第7号,機能的なrAIMタンパク質の精製,588-591頁,2012)に記載の方法で作製し、全長AIMとして用いた。リコンビナントSmall AIM(rSmall AIM)は、配列番号1に示されるAIMの1~262位のアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現株を用いた点を除き、同文献に記載の方法で作製し、Small AIMとして用いた。
【0094】
(サンドイッチELISA法によるrAIMの測定)
rAIMをゲル濾過クロマトグラフィーによって溶出時間(溶出液量)ごとに分画し、反応性を測定した。
【0095】
(1)試料
rAIMを、緩衝液(0.05M リン酸緩衝液:pH7.0,塩化ナトリウム:0.3M)に溶解し、カラムに注入して、以下の条件にてゲルろ過クロマトグラフィーによる分画を行い、溶出時間8分から28分(溶出液量4-14mL)の0.5mL毎の分画を試料とした。
【0096】
ゲルろ過クロマトグラフィー条件
使用機器:SHIMADZU SPD-20AV
カラム:PHENOMENEX(登録商標) SEC-3000
移動相:0.05M リン酸緩衝液,0.3M NaCl,pH7.0
流量:0.5mL/min
分画:0.5mL/fraction。
【0097】
(2)測定方法
得られた試料について、Human AIM/CD5L Assay Kit(IBL,#27265)を用いてAIM濃度を測定した。
【0098】
(3)測定結果
測定結果を
図2に示す。rAIMは、20分(10mL)付近の分画試料においてメインピークが認められることが確認された。
【0099】
そして、各種AIMの量を特異的に検出するための測定系を、表1に示すとおり、上記抗体を組み合わせて構築し、それらの有効性を、上記リコンビナントタンパク質を用い、以下に示す方法にて検証した。
【0100】
【0101】
(生物発光酵素免疫測定法(以下、BLEIA法とも称する)による遊離AIMに対する特異性解析)
(1)試料
測定試料は、血清検体を緩衝液(0.05M リン酸緩衝液:pH7.0,塩化ナトリウム:0.3M)に溶解し、カラムに注入して、以下の条件にてゲルろ過クロマトグラフィーによる分画を行い得た。
【0102】
ゲルろ過クロマトグラフィー条件
使用機器:SHIMADZU SPD-20AV
カラム:PHENOMENEX(登録商標) SEC-3000
移動相:0.05M リン酸緩衝液,0.3M NaCl,pH7.0
流量:0.5mL/min
分画:0.5mL/fraction
溶出時間9分から25分(溶出液量4.5-12.5mL)の0.5mL毎の分画を試料とした。
【0103】
(2)遊離AIMに対する特異性解析
血清検体の分画試料を用いて、クローン1、クローン3、クローン81及び抗AIMポリクローナル抗体(Human CD5L Affinity Purified Polyclonal Ab(R&D社製、商品コード:AF2797))を、表1に記載の通り組み合わせて、BLEIA法で測定を行った。
【0104】
(3)測定方法(BLEIA法)
特開平10-239314号公報(抗体と酵素の双方にビオチンを結合)に記載の方法で行った。具体的に説明すると、先ず、各種固相用抗体を磁性粒子に固相化した各種抗体固相化磁性粒子、標識用抗体(クローン1又はクローン81)とビオチン化試薬を混合して得られるビオチン標識抗体、及びストレプトアビジン-ビオチン化ルシフェラーゼを作製した。そして、試薬1~4の抗体の組合せにおいて、それぞれ、ビオチン標識抗体溶液80μLと、試料100μLと、抗体固相化磁性粒子(1.5mg/mL)20μLを混合し、37℃で15分間反応させた。さらに、磁性粒子を含む反応溶液に、BL洗浄液(栄研化学)500μLを加え、BL洗浄液を除去した。続いて、ストレプトアビジン-ビオチン化ルシフェラーゼを80μL加えて、37℃で15分間反応させた。磁性粒子を含む反応溶液にBL洗浄液(栄研化学)500μLを加え、洗浄液を除去した。続いて、BL発光試薬セット(栄研化学)のBL発光試薬1 50μLとルシフェラーゼに対する基質液(ルシフェリン溶液)であるBL発光基質液 50μLを加え、発光強度を全自動生物化学発光免疫測定装置BLEIA-1200にて測定し、試料中のAIM濃度を算出した。
【0105】
(5)測定結果
測定結果を
図3に示す。試薬1~4のいずれにおいても、溶出時間(流量)が20分(10mL)付近の分画試料のピークのみが確認され、遊離AIMに特異的であることが明らかになった。
【0106】
次に、表1に示す試薬を用いた測定系が全長遊離AIM特異的であるか否かを、以下に示す方法によって検証した。
【0107】
<試料調製>
rAIMを全長AIMとして用い、rAIM及びリコンビナントSmall AIM(rSmall AIM)をPBSで希釈し、それぞれ10、5、2.5、1.25ng/mLの濃度になるよう調整し、希釈系列を調製した。
【0108】
そして、これら希釈系列を、表1に示す試薬1~試薬4を用いた上記BLEIA法にて解析した。
【0109】
その結果、
図4に示すとおり、試薬1~試薬4は共に、全長AIMに対して濃度依存的な反応性を示した。さらに、試薬1及び試薬3はrSmall AIMに対する濃度依存的な反応も認められた。一方、試薬2及び試薬4は、rSmall AIMに対する反応性が低かった。これらの結果及び
図3に示した結果から、試薬1及び試薬3は遊離AIM(全長遊離AIM及びSmall AIM)に反応する一方で、試薬2及び試薬4は全長遊離AIM特異的に反応することが明らかとなった。
【0110】
(実施例1) 尿中遊離AIM等の検出
<検体>
人工心肺を用いた心臓大血管手術が施行された患者について、術前、術直後、術後3時間、術後6時間、1日、2日後の尿検体を採取した。なお、「術前」とは、手術が開始される2週間前~直前までの期間のことを指す。KDIGO基準にしたがって、急性腎障害(AKI)発症者、非発症者と診断された患者検体102例を用いた。AKI発症者(AKI)は37例、非発症者(non AKI)は65例であった。これらのうち、AKI発症者を、罹患期間(回復/非回復)によって検体を分類し、一部検体を除外して患者検体32例について解析を行った。
【0111】
具体的には、「回復AKI」は、AKI診断後の72時間以内に、血清クレアチニン(SCr)の濃度が最大値から0.3mg/dL以上又は25%以上減少し、72時間の時間枠の間にSCr濃度が持続的に減少した症例とし、「非回復AKI」は、回復AKIの定義を満たさない全てのAKI症例(Pavan K.Bhatraju et al.,JAMA Netw Open.2020;3(4):e202682.参照)とした。術後48時間以降に発症した症例は解析から除外した。さらに、診断時のSCr濃度が不明である症例は解析から除外した。その結果、回復AKIの患者19例、非回復AKIの患者13例の計32例を、以下に示す解析に供した。
【0112】
<尿中遊離AIM等の検出>
上記の患者から上記のタイミングで採取した尿検体(試料)を、1%BSA溶液にて2倍希釈し、上記試薬1(遊離AIM検出用)及び試薬2(全長遊離AIM検出用)を用いた各BLEIA法に供し、各種AIMを検出した。さらに、各BLEIA法にて検出した各種AIM量を用い、濃度比を算出した。具体的には、全長遊離AIMの濃度を、遊離AIMの濃度で割り、全長遊離AIM/遊離AIMを算出した。なお、遊離AIMの量、全長遊離AIMの量、及び、全長遊離AIM/遊離AIMについては、「尿中の遊離AIM等」とも総称する。
【0113】
<尿中AKI関連マーカー濃度の測定>
尿中AKI関連マーカーとして、NGAL、L-FABP、KIM-1を選択した。これらの尿中濃度は、それぞれ以下の市販の測定試薬を用いて測定した。
【0114】
NGAL:Human Lipocalin-2/NGAL DuoSet ELISA(R&D Systems)、
L-FABP:High Sensitivity Human L-FABP ELISA Kit(CMIC)、
KIM-1:Human TIM-1/KIM-1/HAVCR DuoSet ELISA(R&D Systems)。
【0115】
なお、NGAL,KIM-1の発色にはo-phenylenediamine(FUJIFILM Wako Pure Chemical)を用い、2N H2SO4を加えて反応を停止した。各ウェルの吸光度は492nmの波長でマイクロプレートリーダーサンライズレインボーRC(Tecan)を用いて測定した。
【0116】
<尿クレアチニンによる補正>
採取した尿検体について、エクディア(登録商標)XL’栄研’CRE-V(栄研化学)を用い、臨床化学自動分析装置JCA-BM6070(日本電子)にてCr濃度を算出した。そして、上記各種形態の遊離AIM及び尿中AKI関連マーカーの濃度をCr濃度で補正した。
【0117】
(実施例1-1) 回復AKI患者及び非回復AKI患者における、術直後の尿中の遊離AIM等
実施例1に示すとおり、回復AKI患者及び非回復AKI患者の術直後の尿における、遊離AIM濃度、全長遊離AIM濃度、全長遊離AIM/遊離AIM、NGAL濃度、L-FABP濃度、KIM-1濃度を検出し(濃度についてはいずれもクレアチニン補正値)、それらの中央値を求めた。
【0118】
その結果、
図5に示すとおり、全長遊離AIMの濃度、遊離AIMの濃度及びそれらの比率のいずれにおいても、AKI回復患者と比較し、AKI非回復患者で有意に高値であった。一方、NGAL、L-FABP、KIM-1では有意差が認められなかった。よって、尿中の遊離AIM等のいずれも、AKIの予後を予測する上で有用であることが明らかになった。
【0119】
(実施例1-2) 尿中の遊離AIM等の術後経過
実施例1に示すとおり、回復AKI患者及び非回復AKI患者における、尿中遊離AIM濃度、全長遊離AIM濃度、全長遊離AIM/遊離AIM、NGAL濃度、L-FABP濃度、KIM-1濃度(濃度についてはいずれもクレアチニン補正値)を検出し、それらの中央値の術前から術後2日目までの推移を解析した。
【0120】
その結果、
図6D~6Fに示すとおり、NGAL、L-FABP、KIM-1は回復AKI、非回復AKI共に術直後に濃度上昇を認めた。一方、
図6A~6Cに示すとおり、遊離AIM、全長遊離AIMは、非回復AKI患者で、術直後から顕著な濃度上昇が認められ、全長遊離AIM/遊離AIM比率は、回復AKIと比較して術直後から安定して高値を示した。特に、回復AKIにおけるこれら尿中の遊離AIM、全長遊離AIMの濃度上昇は軽度であり、また、全長遊離AIM/遊離AIM(比率)の数値低下は大きく、非回復AKIとの推移の差が顕著であった。
【0121】
したがって、既存の尿中AKI関連マーカーと比較して、尿中の遊離AIM等は、回復AKIと非回復AKIとにおける差が大きく、AKIの回復・非回復の判別、すなわちAKIの予後予測において有用であることが明らかになった。
【0122】
(実施例1-3) 尿中の遊離AIM等における、回復AKI患者に対する非回復AKI患者の比率
実施例1に示すとおり、AKI患者における、尿中遊離AIM濃度(クレアチニン補正値)、全長遊離AIM濃度(クレアチニン補正値)、全長遊離AIM/遊離AIM、NGAL濃度、L-FABP濃度、KIM-1濃度を検出し、中央値の術前から術後2日目までの推移を解析した。そして、回復AKI患者におけるそれら中央値に対する、非回復AKI患者の中央値の比率(非回復AKIの中央値/回復AKIの中央値)を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0123】
【0124】
表2に示すとおり、尿中の遊離AIM及び全長遊離AIMに関し、前記比率は、術後経過全般に亘って高く(約2倍以上)、特に全長遊離AIMは顕著に高値を示した。さらに尿中の遊離AIM等に関し、前記比率は、術直後を含む術後の早い段階で高値となる傾向を示しており、特に全長遊離AIMではその傾向が顕著であった。また全長遊離AIM/遊離AIMにおいても術直後~術後6時間後で1.5以上と高い値を示した。このことから、尿中の遊離AIM等は術後の早い段階から経時的に安定した予後予測を可能とすることを示した。一方、既存のAKI関連マーカーに関し、NGAL及びL-FABPについては、術後1日目及び2日目において高値を示したものの、その他の期間においては回復AKIのそれらと同等の値を示した。また、KIM-1については、術後経過全般に亘って非回復AKIと回復AKIに差を認めなかった
【0125】
(実施例1-4) 尿中の遊離AIM等を指標とする、AKIの予後予測能
実施例1に示す方法にて得られた結果に基づき、各マーカーについて、回復AKI患者(19例)と非回復AKI患者(13例)とを比較し、ROC曲線を作成した。そして、当該曲線下の面積(AUC)を算出した。また、ROC曲線の左上隅から最も近い点をカットオフ値とし、感度・特異度を算出した。得られた結果を表3~7に示す。
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
表3~7に示すとおり、上記表2に示した結果同様、尿中の全長遊離AIM量及び全長遊離AIM/遊離AIMに関し、AUCは術後経過全般に亘って高値を示した。特に、尿中全長遊離AIM量を指標とした場合、AUCは概して0.7以上と高かった。一方、既存のAKI関連マーカーを指標とした場合には、上記表2に示した結果同様、高いAUCを示す期間が限られていた(例えば、NGALについては術後1日目及び2日目、L-FABPについては術後1日目のみ)。さらに、全長遊離AIM/遊離AIMに関し、術前からAUCが良好であった。よって、尿中の遊離AIM等を指標とする場合には、当該尿の採取時期を問わず、安定して精度高く、AKIの予後予測が可能となることが示された。
【0132】
(実施例2) 術後6時間以降に発症したAKI患者における、尿中の遊離AIM等
実施例1に記載の方法にて、術後6時間以降に発症したAKI患者に限定し、回復と非回復との比較解析を行った(回復AKIの患者は12例、非回復AKIの患者は10例であった)。各マーカーに関し、術前から術後2日目までの中央値の推移を
図7A~7Fに示す。さらに、回復AKI患者の中央値に対する非回復AKI患者の中央値の比率の推移を、表8に示す。
【0133】
【0134】
各マーカーについて、回復又は非回復のAKI患者を比較し、ROC曲線を作成した。さらに、AUCを算出した。また、ROC曲線の左上隅から最も近い点をカットオフ値とし、感度・特異度を算出した。得られた結果を表9~13に示す。
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
図7A~7F及び表8~13に示した結果から明らかなように、実施例1(実施例1-2~1-4等)と同様の傾向が認められた。すなわち、尿中の遊離AIM等(尿中の遊離AIM、全長遊離AIM、全長遊離AIM/遊離AIM)は、既存のAKI関連マーカーと比較しても、安定して高い精度をもってAKIの予後予測を可能にすることが明らかになった。尿中の全長遊離AIM、全長遊離AIM/遊離AIMは、AKIの発症前でもAUCが高く、特に術後6時間未満(術直後、術後3時間後)でもAUC0.7以上と高い値を示した。さらに、術前においても高いAUCを示した。したがって、術前及び発症前におけるAKIの予後予測が可能であるという優れた効果を示し、遊離AIMがAKIの予後予測の指標として有用であることを示した。
【0141】
(参考例) 血中遊離AIM等とAKIの予後との相関
上記尿中に代わり血中の遊離AIM等を指標とした場合の、AKIの予後予測について、以下に示す方法にて評価した。
(1)検体
実施例1に示す患者に関し、術前、術直後、術後6時間、1日、2日後の血液検体を採取・解析した。
(2)測定法
血液検体から調製した血清試料を、1%BSA溶液にて500倍希釈し、試薬3及び試薬4を用いてELISA法で測定した。
【0142】
<ELISA法>
固相用抗体50μLを96穴マイクロプレートの各ウェルに分注した後、洗浄し、各固相用抗体を固相化した。洗浄後、1%BSA溶液を加え、室温で2時間静置した。また、ビオチン標識試薬Biotin(AC5)2Slufo-osu(同仁化学研究所)を用いて、標識用抗体(クローン81)をビオチン化標識した。固相化プレートに標準液又は試料50μLを加えて室温にて1時間反応させた。続いてウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、ビオチン標識抗体50μLを加えて室温にて1時間反応させた。さらに、ウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、ストレプトアビジン-HRP50μLを添加し、室温にて90分反応させた。そして、ウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、発色基質としてo-フェニレンジアミン含有基質溶解液50μLを添加し反応させた後、2N硫酸50μLを反応停止液として添加した後、マイクロプレートリーダーを用いて測定波長492/650nmにて測定した。なお、用いた抗体の組み合わせは表1に示すとおりである。
【0143】
(3)結果
回復(19例)、非回復(13例)AKI患者における血清中の遊離AIM濃度、全長遊離AIM濃度の中央値の術前から術後2日後までの推移を
図8A及び8Bに示す。また、これら血清中の遊離AIM等について、回復又は非回復のAKI患者を比較して、ROC曲線を作成し、AUCを算出した。ROC曲線の左上隅から最も近い点をカットオフ値とし、感度・特異度を算出した。得られた結果を表14及び15に示す。
【0144】
【0145】
【0146】
図8A及び8Bに示すとおり、血中遊離AIM等は、尿中のそれらと異なり、回復AKIと非回復AKIとにおいて有意な差が認められなかった。さらに、表14及び15に示すとおり、血中遊離AIM等は、尿中のそれらと比較して、AKI予後予測には不向きであった。