(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068565
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
A61B5/055 382
A61B5/055 372
A61B5/055 376
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179107
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公輔
(72)【発明者】
【氏名】神波 一穂
(72)【発明者】
【氏名】倉谷 厚志
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA02
4C096AB13
4C096AB44
4C096AC01
4C096AD06
4C096AD07
4C096AD12
4C096AD13
4C096AD14
4C096AD16
4C096BA01
4C096BA05
4C096BA10
4C096BA18
4C096BB02
4C096BB03
4C096DA01
4C096DB01
4C096DB07
4C096DC35
4C096DE06
(57)【要約】
【課題】SE系パルスシーケンスを用いたMRIにおいて、血流の速度や向きに関わらず、フローアーチファクトを抑制しフローアーチファクトのない画像を取得する。
【解決手段】SE系パルスシーケンスの180度パルスの前後に一対の傾斜磁場パルスを印加し、一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせて複数回の撮像を行う。複数回の撮像で得た計測データを傾斜磁場パルスの強度の軸方向すなわち速度エンコード方向にフーリエ変換して画像再構成する。これにより組織に含まれる静止組織及び静止していない成分の速度毎に画像を分離することができ、速度ゼロのスピンの画像即ちフローアーチファクトのない静止組織の画像が得られる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の所定断面を励起する高周波パルス及び傾斜磁場パルスの印加を行い、前記所定断面から発生する核磁気共鳴信号を収集する計測部と、前記計測部がスピンエコー系パルスシーケンスにより画像再構成用計測データの収集を行うよう前記計測部を制御する計測制御部と、前記計測部が収集した核磁気共鳴信号からなる計測データを用いて前記検査対象の画像を再構成する画像生成部と、を備え、
前記計測制御部は、前記スピンエコー系パルスシーケンスに含まれる180度パルスの前後に一対の傾斜磁場パルスを追加するとともに、当該一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせて、当該強度を、前記検査対象に含まれる非静止部の速度をエンコードする情報として含む画像再構成用計測データを収集する制御を行い、
前記画像生成部は、前記画像再構成用計測データを前記速度のエンコード方向にフーリエ変換し、画像を再構成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像生成部は、速度がゼロである画像を静止組織の画像として再構成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、少なくとも一つの傾斜磁場軸に対し、前記一対の傾斜磁場パルスを追加することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測部が用いる前記スピンエコー系パルスシーケンスは、1つスライスから計測データを取得する2次元パルスシーケンスであり、
前記計測制御部は、スライス選択方向の傾斜磁場軸に対し、前記一対の傾斜磁場パルスを追加することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測部が用いる前記スピンエコー系パルスシーケンスは、スライス方向のエンコード傾斜磁場を含む3次元パルスシーケンスであり、
前記計測制御部は、3つの傾斜磁場軸に対し、前記一対の傾斜磁場パルスを追加することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像生成部は、速度エンコード軸を含む前記画像再構成用計測データを多次元フーリエ変換することにより画像を再構成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせて複数回の計測を行う際に、各計測の位相エンコードを間引き、当該複数回の計測全体で画像再構成に必要な位相エンコードを収集することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像生成部は、前記画像再構成用計測データにフーリエ変換を施すフーリエ変換部と、前記フーリエ変換後の画像データを用いて逐次再構成による画像生成を行う圧縮センシング部と、を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、前記スピンエコー系パルスシーケンスの傾斜磁場パルスを制御し、位相エンコード及び速度エンコードの少なくとも一方を疎とし、
前記画像生成部は、位相エンコード及び速度エンコードの少なくとも一方が疎である画像再構成用データをフーリエ変換した後、前記圧縮センシングにより画像再構成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記速度エンコードのエンコード数は、5以下であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記一対の傾斜磁場パルスを追加する傾斜磁場の軸について、ユーザ指定を受け付けるUI部をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
検査対象に印加する高周波磁場を発生する高周波磁場発生部と、前記検査対象が置かれた空間に3軸方向の傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生部と、前記検査対象から発生する核磁気共鳴信号を収集する計測部と、前記計測部が収集した核磁気共鳴信号からなる計測データから画像を生成する画像生成部と、を備えた磁気共鳴イメージング装置の制御方法であって、
パルスシーケンスとして、90度パルス及び180度パルスの印加を含み前記検査対象の所定断面からスピンエコーを計測するスピンエコー系パルスシーケンスを用い、
前記傾斜磁場の3軸のうち少なくとも1軸について、前記180度パルスの前後に一対の傾斜磁場パルスを印加するとともに、当該一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせて、当該強度を、前記検査対象に含まれる非静止部の速度をエンコードする情報として含む画像再構成用計測データを収集し、
前記画像再構成用計測データを前記速度のエンコード方向にフーリエ変換し、画像を再構成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載の磁気共鳴イメージング装置の制御方法であって、
再構成する画像は、速度がゼロである静止組織の画像を含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【請求項14】
請求項12に記載の磁気共鳴イメージング装置の制御方法であって、
前記一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせて、複数回の画像再構成用計測データを収集する計測において、各回の計測で位相エンコードを間引き、当該複数回の計測全体で画像再構成に必要な位相エンコードを収集することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置と言う)に係り、特に、MRI装置において核磁気共鳴信号を計測するためのパルスシーケンスの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置では、核磁気共鳴により検査対象から発生する核磁気共鳴信号を収集し、検査対象を画像化する。核磁気共鳴信号は、検査対象の組織を構成する原子の原子核スピン(通常プロトン)を励起するRFパルス及び核磁気共鳴信号に位置情報を付加するための傾斜磁場パルスなどの印加強度や印加順序を決めたパルスシーケンスを動作させることで収集される。
【0003】
MRI装置で用いるパルスシーケンスの典型的な一つが、励起パルス(90度パルス)と180度パルスとを用いて、スピンエコー(エコー信号)として発生する核磁気共鳴信号を計測するスピンエコー(SE)系のパルスシーケンスであり、多くのMR画像の取得に利用されている。
【0004】
SE系パルスシーケンスを用いた撮像では、撮像断面を流れる血液に含まれる原子核スピンが、流れの速度に依存して、撮像断面内の静止組織からの原子核スピンとは異なる位相変化を生じ、これにより、再構成画像に位相エンコード方向に沿ってフローアーチファクトを発生する。このようなフローアーチファクトを抑制する手法として、一般に、エコー信号を収集する時点で、流体のスピンの位相変化をキャンセルするフローコンペンセーションパルスを追加する手法や、撮像対象領域外の近傍領域のスピンを予め飽和させて信号を抑制するプリサチュレーションパルスを印加する手法などが広く用いられている。
【0005】
また特許文献1には、SE系パルスシーケンスに含まれる90度パルスと180度パルスのいずれか一方の励起厚を厚くすることにより、一つの断面で励起された血液等が次の断面に流入して次の断面の画像形成に干渉するのを防止し、フローアーチファクトを低減する技術も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許第107536609号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし撮像断面に流れる血液は、動脈血、静脈血かによって速度も流れる方向も異なり、また血管の太さによっても速度が異なるため、上述した従来技術では両者による影響(フローアーチファクト)を共に十分に抑制することができない。例えば、フローコンペンセーションパルス(或いはクラッシャーパルス)等の強度を調整しても、動脈の血流は抑制しきれず、アーチファクトの原因となっている。
【0008】
本発明は、血流の速度や向きに依存することなく、フローアーチファクトを抑制する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明では、計測データに対し、非静止組織の速度をエンコードする情報を付加し、速度のエンコード軸に対しフーリエ変換することで速度ごとに分離された画像の取得を可能とする。これにより血液などの流体からの信号を含まない、速度ゼロの組織即ち静止組織からの信号で再構成された画像を取得することができる。
【0010】
即ち、本発明のMRI装置は、検査対象の所定断面を励起する高周波パルス及び傾斜磁場パルスの印加を行い、所定断面から発生する核磁気共鳴信号を収集する計測部と、計測部がスピンエコー系パルスシーケンスにより画像再構成用計測データの収集を行うよう計測部を制御する計測制御部と、計測部が収集した核磁気共鳴信号からなる計測データを用いて前記検査対象の画像を再構成する画像生成部と、を備える。計測制御部は、スピンエコー系パルスシーケンスに含まれる180度パルスの前後に一対の傾斜磁場パルスを追加するとともに、当該一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせて、当該強度を、検査対象に含まれる非静止部の速度をエンコードする情報として含む画像再構成用計測データを収集する制御を行い、画像生成部は、画像再構成用計測データを前記速度のエンコード方向にフーリエ変換し、画像を再構成する。
【0011】
また本発明は、検査対象に印加する高周波磁場を発生する高周波磁場発生部と、前記検査対象が置かれた空間に3軸方向の傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生部と、前記検査対象から発生する核磁気共鳴信号を収集する計測部と、前記計測部が収集した核磁気共鳴信号からなる計測データから画像を生成する画像生成部と、を備えた磁気共鳴イメージング装置の制御方法を提供する。
【0012】
制御は次のように行う。パルスシーケンスとして、90度パルス及び180度パルスの印加を含み検査対象の所定断面からスピンエコーを計測するスピンエコー系パルスシーケンスを用い、傾斜磁場の3軸のうち少なくとも1軸について、前記180度パルスの前後に一対の傾斜磁場パルスを印加するとともに、当該一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせて、当該強度を、前記検査対象に含まれる非静止物の速度をエンコードする情報として含む画像再構成用計測データを収集し、画像再構成用計測データを前記速度のエンコード方向にフーリエ変換し、画像を再構成する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一対の傾斜磁場パルスを追加し、その強度を異ならせて計測を行うことで、計測データに、速度をエンコードする情報を付与することができ、速度を持つ非静止組織からの信号を排除した静止組織の画像、すなわちフローアーチファクトのない画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施形態1のMRI装置の計算機の機能ブロック図。
【
図3】実施形態1のMRI装置の動作を示すフロー図。
【
図4】実施形態1の2D-SE系シーケンスの一例を示す図。
【
図5】(A)、(B)は、実施形態1及びその変形例1のk空間データを説明する図。
【
図6】傾斜磁場強度を異ならせた計測で得た計測データから生成した画像を示す図。
【
図7】
図6の画像の信号強度と傾斜磁場パルス強度との関係を示すグラフ。
【
図8】
図6の画像を速度エンコード方向にフーリエ変換した後の画像を示す図。
【
図10】実施形態1の変形例1の3D-SE系シーケンスの一例を示す図。
【
図11】(A)、(B)は、それぞれ、実施形態1の変形例2のk空間サンプリング例を示す図。
【
図12】実施形態2の画像生成部の機能ブロック図。
【
図13】実施形態2のMRI装置の動作を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のMRI装置の実施形態を説明する。
最初に、本発明が適用されるMRI装置の概要を説明する。MRI装置10は、
図1に示すように、計測部100として、静磁場発生磁石102と、静磁場に磁場勾配を与える傾斜磁場コイル103と、静磁場空間内の被検体150に高周波磁場を照射するRF送信コイル104と、被検体150から発生する核磁気共鳴信号を受信するRF受信コイル105と、RF送信コイル104に高周波パルス電流を供給するRF送信部106と、RF受信コイル105が受信したNMR信号を検出し信号処理を行う信号処理部108と、傾斜磁場コイル103に電流を供給する傾斜磁場電源109と、を備えている。被検体150は、寝台101に寝かせられた状態で、静磁場発生磁石102が発生する静磁場空間に配置される。
【0016】
またMRI装置は、制御・演算系として、RF送信部107、信号処理部108及び傾斜磁場電源109の動作を制御する計測制御部110と、CPU211、メモリ212及び内部記憶装置(不図示)などを備えた計算機200と、計算機200に接続された外部記憶装置214と、表示装置や入力装置などを含むユーザーインターフェイス(UI)部215と、を備える。計算機200は、またネットワークIF(不図示)を介してインターネット、インタラネット等の外部ネットワークに接続されていてもよい。
【0017】
静磁場発生磁石102は、永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源を備え、発生する静磁場の方向によって垂直磁場方式、水平磁場方式などがある。本発明はいずれの方式の静磁場発生磁石にも適用することができる。
【0018】
傾斜磁場コイル103は、MRI装置の実空間座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルに、傾斜磁場電源109からパルス状電流が供給されることによって、所望の方向に傾斜磁場パルスを印加することができる。傾斜磁場の印加により、NMR信号に位置情報が付与される。具体的には、例えば二次元断面(スライス)の撮像の場合、スライス方向に傾斜磁場を印加することにより、スライス位置が決まる。このスライス位置を励起した状態で、スライス面と直交する2方向のうち1方向を位相エンコード方向、他の方向を読み出し方向とし、各方向の傾斜磁場パルスを印加することで、発生するNMR信号を各方向にエンコードすることができる。なおNMR信号は通常RFパルス或いは傾斜磁場パルスのエコー信号として収集されるので、以下、NMR信号をエコー信号ともいう。
【0019】
RF送信コイル104は、RF送信部106から供給された高周波パルス電流によりパルス状の誘導磁場(RFパルス)を発生する。これにより被検体150の組織を構成する原子の原子核スピンが励起されてNMR信号を生じる。RF受信コイル105は、この被検体150からのエコー信号を検出し、信号処理部108に送る。信号処理部108は、エコー信号を直交検波するとともにA/D変換し、時系列のデジタルデータとし、画像再構成用の計測データを生成する。
【0020】
RFパルス及び各軸の傾斜磁場パルスの強度やタイミング、及び信号収集(サンプリング)のタイミングなどは、撮像毎にパルスシーケンスとして予め定められており、計測制御部110に設定されている。計測制御部110は設定されたパルスシーケンスと、UI部215を介してユーザが設定した撮像条件や撮像パラメータとを用いて撮像に用いるパルスシーケンスを計算し、この撮像シーケンスに従って、RF送信部106、傾斜磁場電源109、及び信号処理部108を制御する。これによって、被検体150の画像再構成に必要な計測データを収集することができる。
【0021】
本実施形態のMRI装置では、パルスシーケンスとしてSE系のパルスシーケンスが計測制御部110に設定されている。計測制御部110は設定されたSE系パルスシーケンスに、エコー信号に速度情報を付与するための傾斜磁場パルスを付加し、この傾斜磁場パルスの強度を異ならせた計測を繰り返すように、計測部100を制御する。
【0022】
計算機200は、計測部100及び計測制御部110を含む装置全体を制御する全体制御部として機能するとともに、計測データを用いた画像再構成等の種々の演算を行う演算部として機能する。このため計算機200は、計測データをフーリエ変換して画像を再構成する画像生成部、画像生成部の演算に必要なデータや処理途中のデータなどを格納するためのメモリ212や内部記憶部を備える。
【0023】
画像生成部は、傾斜磁場パルスが追加されたSE系パルスシーケンスを用いて、傾斜磁場パルスの強度を変えながら計測を繰り返すことによって得られた計測データを用いて、計測対象である被検体組織において速度ゼロであるスピンからの信号のみの画像、即ち静止組織の画像を生成する。
【0024】
計算機200は、画像生成部の処理結果である画像や演算結果などを、UI部215のディスプレイに表示させたり、外部記憶装置214に保存したり、必要に応じてネットワークを介して転送したりする。ユーザはUI部215を介して、撮像パラメータの設定のほか、計算機200の処理に必要な命令や指示を送ることができる。
【0025】
本実施形態のMRI装置10の計測部100は、計測制御部110の制御のもと、SE系パルスシーケンスを用いて撮像を行う。この際、計測制御部110は、パルスシーケンスに含まれる180度パルスの前後に一対の傾斜磁場パルスを追加し、この一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせて複数回の撮像を行うよう計測部100を制御する。一対の傾斜磁場パルスは、スライス軸(Gs)、位相エンコード軸(Gp)、及び読み出し軸(Gr)の3つの軸のうち少なくとも一つの軸に追加される。
【0026】
SE系パルスシーケンスでは、エコー信号を計測する時点(TE)において、撮像断面内で励起されたスピンの位相は、元の位相に戻るように各軸の傾斜磁場が印加されるが、一対の傾斜磁場パルスを印加することで、撮像断面内に存在する静止組織ではスピンの位相がもとに戻るのに対し、血液等流体(非静止組織)のスピンは受けた傾斜磁場に依存して位相が変化し、この変化は流体の速度(傾斜磁場パルスを印加軸に沿った速度)に依存する。このような傾斜磁場パルス印加の履歴を受けた後に計測される信号は、静止組織のスピンと種々の速度のスピンからの総和として得られるが、傾斜磁場パルスの強度が異なる計測毎に、傾斜磁場パルス強度の情報が付与されている。つまり強度の異なる計測でそれぞれ得られる計測データを傾斜磁場パルスの強度の軸に沿って並べたときに、強度の軸は、位相エンコード軸と同様に、エンコード軸としてとらえることができる。この軸を本明細書では速度エンコード軸(kv軸)と呼ぶ。
【0027】
本実施形態の画像生成部220は、一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせて取得した複数の計測データを、速度エンコードが付与された計測データとし、速度エンコード軸方向にフーリエ変換する。これにより速度が分離された画像が得られる。即ち、速度を持つ組織の信号を含まない、つまりフローアーチファクトのない、速度ゼロの組織の画像が得られる。
【0028】
このように本発明は、180度パルスの前後に一対の傾斜磁場パルスを印加する、一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせて複数回の撮像を行う、複数回の撮像で得た計測データを傾斜磁場パルスの強度の軸方向すなわち速度エンコード方向にフーリエ変換して画像再構成する、という制御を行うことにより、フローアーチファクトのない画像の取得を可能にする。
【0029】
以下、具体的なパルスシーケンスと、画像再構成手法の具体的な実施形態を説明する。以下の実施形態において、MRI装置の全体を示す
図1は共通であり、適宜、
図1を参照して説明を行う。
【0030】
<実施形態1>
【0031】
本実施形態の計算機200の概要を
図2に示す。図示するように、本実施形態のMRI装置では、計算機200の機能として、装置全体を制御する制御部210と画像生成部220とが含まれ、画像生成部220は、計測部100が計測した計測データに対しフーリエ変換を施し、実空間データを生成するフーリエ変換部221と、後述する速度エンコード方向(kv方向)のフーリエ変換を行うkv方向フーリエ変換部222とを含む。
【0032】
以下、
図2及び
図3のフローを参照して、本実施形態の計測制御の流れを説明する。
【0033】
[撮像:S31]
計測部110は、撮像に用いるパルスシーケンスが決まると、送信部、傾斜磁場発生部及び受信部を含む各部を動作させて撮像を開始する。本実施形態では、
図4に示すようなSE系パルスシーケンス400を用いる。
【0034】
このパルスシーケンスは、一つの傾斜磁場軸に一対の傾斜磁場パルスが追加されていることを除いて一般的な2D-SE系パルスシーケンスと同じである。
【0035】
即ち、まず励起用のRFパルス(90度パルス)401を印加し、所定時間(TE/2)経過後に磁化を反転させる180度パルス402を印加して、エコー時間(TE)でピークとなるスピンエコー(エコー信号450)を発生させる。90度パルス401と180度パルス402を印加する際に、同時に励起する断面を選択するためのスライス傾斜磁場パルス411、412をそれぞれ印加する。その後、位相エンコード方向の傾斜磁場パルス420を印加して、エコー信号に位相エンコード方向の位置情報を付与した後、リードアウト方向の傾斜磁場パルス432を印加して所定時間エコー信号450を収集する。傾斜磁場パルス431はディフェイズ傾斜磁場である。
【0036】
180度パルス402の印加前後に、一対の傾斜磁場パルス441、442が追加される。
図4では一例としてスライス軸に傾斜磁場パルス441、442を印加した場合を示しているが、一対の傾斜磁場パルス441、442を印加する軸は、3つの傾斜磁場軸のうちいずれでもよく、また1軸でもそれ以上でもよい。
【0037】
一対の傾斜磁場パルス441、442は極性及び大きさが同じで、180度パルス402の前と後に印加されるので、動きがない組織のスピンは、傾斜磁場パルス441の印加により変化(ディフェイズ)した位相が傾斜磁場パルス442の印加によりもとに戻り(リフェイズ)、これら傾斜磁場パルス印加の影響を受けない。一方、流体等のスピンでは、ディフェイズとリフェイズに差を生じ、その差は流体の速度に依存して異なる。即ち、速度vで移動するスピンの、エコー時間までの位相の変化φ(v)は式(1A)で表される。式中、G(t)は傾斜磁場強度、x(t)はx方向の位置を表し、tは時間、γはラーモア周波数を表す。
【0038】
【数1】
x(t)は初期位置をx0とすると、x0=x0+vtで表されるので式(1A)は、式(1B)となる。静止部分は位相の変化がなく、静止部分の位相変化であるG(t)x0はゼロであるので、式(1B)はさらに式(1C)となる。式(1C)のG(t)積分をkvで表すと、式(1C)は式(1D)で表される。つまり、速度vで移動する流体の位相変化(v)は、速度の一次関数である。
【0039】
計測部110は、このようなシーケンス400を、位相エンコード方向の傾斜磁場パルス420の印加強度を変化させながら所定の繰り返し時間TRで繰り返し、画像再構成に必要な数のエコー信号を収集する。この繰り返しで得たエコー信号は、k空間(kx-ky空間)に配置される。
【0040】
計測部110は、傾斜磁場パルス441、442の強度を異ならせて、上記と同様の計測を行い、傾斜磁場パルス441、442の強度の条件が異なるk空間データを得る。傾斜磁場パルスの強度を異ならせた計測を複数回実施する。これにより、
図5(A)に示すように、傾斜磁場パルスの強度を軸とする方向(kv方向)に並ぶ複数のk空間データからなる計測データ500Aが得られる。
【0041】
なお傾斜磁場パルスの強度を異ならせる計測の回数は、特に限定されないが、例えば3回以上とすることが好ましい。計測時間が長くなるのを防ぐためには5回以下とすることが好ましい。
【0042】
[画像再構成:S32、S33]
画像生成部220は、計測データ500Aを用いて画像再構成を行う。このため、本実施形態では、まずフーリエ変換部221が、計測データ500Aの各k空間データを2D-フーリエ変換し、画像データを生成する(S32)。この処理は一般的なフーリエ変換を用いた画像再構成と同じである。
【0043】
こうして得た画像データの一例を
図6に示す。
図6に示す5つの画像は、脳の断面を撮影した画像であり、傾斜磁場パルスの強度を異ならせた計測で得られた画像である。これらの画像では、脳表近くに付した〇で示す位置にある動脈の信号が、脳実質の中央付近に付した〇で示す位置にフローアーチファクトとして現れている。但し、アーチファクトとして現れる信号の強度は、画像によって(傾斜磁場パルスの強度によって)異なり、
図7に示すように振動するような挙動を示している。つまり傾斜磁場パルスの強度を調整することによって、ある程度アーチファクトを抑制することが可能であるが、調整の仕方によっては逆にアーチファクトが増大する。
【0044】
各画像の信号は、計測スライスの組織内に存在する静止組織のスピン及び種々の速度を持つ血流等のスピンからの信号の総和として得られるものであり、次式(2A)で表すことができる。ここで式(2A)の「φ」を前出の式(1D)の右辺で置き換えると、式(2A)は式(2B)となる。
【0045】
【数2】
式(2B)は、vとkvがフーリエ変換の関係にあることを示している。
【0046】
kv方向フーリエ変換部222は、フーリエ変換部221で変換後の画像データをkv方向にフーリエ変換する。これにより、v毎の画像を生成することができる。
図8に、
図6の各画像をkv方向にフーリエ変換した画像を示す。
図8の左端の画像が速度0の画像、即ち静止組織の画像である。なお
図8において、左端の画像と、右側の4つの画像とでは、速度を持つスピンの信号をわかりやすくするために、スケールを変えて表示している。このように、全計測で得た画像データはkv方向にフーリエ変換することで、速度ゼロに信号が集中し、他の画像は信号がほぼ0の画像となる。
【0047】
[画像表示:S34]
計算機200は、画像生成部220が生成した速度ゼロの画像をUI部215のディスプレイ等の表示装置に表示する。或いは他の装置や外部記憶装置214に転送する。
【0048】
本実施形態によれば、SE系パルスシーケンスの180度パルスの前後に一対の傾斜磁場パルスを追加し、この傾斜磁場パルスの強度を異ならせた計測を複数回行い、得られた計測データを傾斜磁場パルスの強度の軸方向にフーリエ変換することで、速度ごとに画像を分離することができ、速度ゼロの画像を生成することができる。
【0049】
<実施形態1の変形例>
実施形態1では、一対の傾斜磁場パルスをスライス軸について追加した場合を示したが、一対の傾斜磁場パルスを追加する軸は、それ以外の軸、位相エンコード軸或いは読み出し軸であってもよい。一対の傾斜磁場パルスを追加した軸におけるスピンの速度毎の画像が分離されるので、撮像対象の部位やスライス方向を考慮して適宜選択できる。また1つの軸だけでなく、2つ或いは3つの軸について傾斜磁場を追加することも可能である。
【0050】
このためにUI部215を介して、傾斜磁場パルスを追加する軸のユーザ指定を受け付ける構成としてもよい。
図9にUI部215のディスプレイに表示される画面例を示す。この例では、例えば、TR、TE、R-factor(間引き率)などを設定する撮像パラメータ設定用画面において、速度エンコードの要否をユーザが指定するためのGUIを設けるとともに、速度エンコード「要」が選択された場合には、傾斜磁場を異ならせた計測の回数を入力するブロックや、傾斜磁場の印加軸を指定するブロックなどが表示される。さらに、傾斜磁場の強度に関する情報や、位相エンコード等の間引きに関する情報を入力するためのGUIを追加してもよい。このようなGUIを介して、ユーザは計測回数や印加軸について任意に設定することが可能である。
【0051】
また実施形態1では、複数のk空間データからなる計測データ(
図5:500A)に対し、フーリエ変換部221の処理とkv方向フーリエ変換部22の処理の2段階で画像再構成する場合を説明したが、一度に3D-フーリエ変換を行い、速度毎に分離した画像を得ることも可能である。
【0052】
さらに以下のような変形例が可能である。
<変形例1:パルスシーケンスの変形例>
さらに実施形態1では、2D-SE系パルスシーケンスを用いたが、
図10に示すような3D-SE系パルスシーケンス400Bを用いた3D撮像を行うことも可能である。図中、
図4のパルスシーケンスと同じ要素は同じ符号で示している。3D-SE系パルスシーケンスは、スライス方向(GS)についてもエンコード傾斜磁場413を追加するパルスシーケンスである。図示する例では、3つの傾斜磁場軸、GR、GP、GS、についてそれぞれ、180度パルス402の前後に、一対の傾斜磁場パルス441、442を追加している。各軸の傾斜磁場パルスの強度は同じでもよいし、異ならせてもよい。各軸の傾斜磁場パルスの強度を異ならせた計測を複数回行い、
図5(B)に示すような3D-k空間データ500Bを得る。
図5(B)では一つの3D-k空間データのみを示しているが、計測の回数と同数の3D-空間データが得られる。
【0053】
画像生成部220は、まずフーリエ変換部221が3D-k空間データを例えば3Dフーリエ変換して画像空間データとした後、さらにkv方向フーリエ変換部222が各画像空間データをkv方向にフーリエ変換することで、速度方向に分離した画像を生成する。kv方向のフーリエ変換も、3つのkv軸のそれぞれについて行ってもよいし、一度に3D-フーリエ変換してもよい。
【0054】
このように複数の軸について傾斜磁場パルスを追加した場合には、種々の方向に流れる種々の速度の血管からのフローアーチファクトを排除した画像を得ることができる。
【0055】
<変形例2:サンプリングの変形例>
実施形態1では、傾斜磁場パルスの強度を異ならせた計測のそれぞれについて、位相エンコードについてはフルサンプリングする場合を説明したが、kvエンコードごとに、即ち、一対の傾斜磁場パルスの強度を異ならせた複数回の計測の計測毎に、位相エンコードを間引くことも可能である。位相エンコードを間引いて収集した計測データからの画像再構成手法は、いくつかあるが、本変形例では実施形態1と同様の処理を行うために、複数回の計測全体で画像再構成に必要な位相エンコードを収集するようにサンプリングを行う。
【0056】
本変形例のサンプリング例を
図11に示す。
図11はkv-ky空間を示し、一例としてkvのエンコード数が5である場合を示している。また図中、白い部分が計測するデータ、黒い部分が計測されないデータである。図示するように、各kvにおいて、位相エンコードは間引かれているが、5つのkv全体ではすべての位相エンコードデータが収集される。すなわち計測全体でのサンプリング数は所定の位相エンコード数となり、撮像時間の延長はない。このような計測で得られた計測データは、計測毎のkx-kyデータは不十分なデータ、間引かれたデータ、であるが、実施形態1と同様に、kx-ky方向にフーリエ変換し、さらにkv方向にフーリエ変換すると、
図8の右側の画像のように信号は速度ゼロに集中し、折り返しがなく且つフローアーチファクトを含まない画像となる。
【0057】
なお
図11の(A)では、位相エンコード方向にランダムにアンダーサンプリングした例を示しているが、本変形例ではランダムであることは必須ではなく、例えば
図11(B)に示すように、4エンコードに間引くなど任意の間引き方法を採用することが可能である。
【0058】
本変形例によれば、計測が複数回になるのに伴う計測時間の増加を、位相エンコードを間引くことにより相殺することができ、計測時間の長時間化を招くことなく本発明を適用したフローアーチファクト除去を実現できる。
【0059】
<実施形態2>
実施形態1では、画像再構成の手段としてフーリエ変換を用いたが、圧縮センシングと呼ばれる逐次再構成を採用することも可能である。圧縮センシングは、計測データのスパース性を利用して、スパース空間への変換とスパース変換後のL1ノルム最小化を繰り返すことでデータを復元する手法であり、復元したk空間データが実際に計測したk空間データからかけ離れないという制限を置いて画像を再構成する。
【0060】
血流など、静止していない成分は、静止組織内にわずか存在するだけなので疎な画像となる。本実施形態では、静止していない成分が疎であることを利用して圧縮センシングを行うことが特徴である。
【0061】
以下、本実施形態の計測制御の流れを、
図12及び
図13を参照して説明する。
図12は、画像生成部220の機能ブロック図、
図13は計測の流れを示すフローであり、実施形態1で用いた
図2、
図3と同じ機能の要素は同じ符号で示している。
【0062】
図12に示すように、本実施形態の画像生成部220は、kv方向フーリエ変換部222の代わりに圧縮センシング部223を備える。本実施形態においても、実施形態1と同様に、計測部100が、
図4或いは
図10に示す、一対の傾斜磁場パルス441、442を含む2D或いは3DのSE系パルスシーケンス400を実行するとともに、一対の傾斜磁場パルス441、442の強度を異ならせた複数回の計測を行って、
図5(A)或いは
図5(B)に示す計測データを取得する(S31)。
【0063】
但し、本実施形態では、ky-kv空間におけるサンプリングをランダムとする。kyは位相エンコード軸であり、位相エンコードを適宜間引くことでランダムなサンプリングとなる。またランダムにするために、傾斜磁場パルスの強度を異ならせた複数回の計測毎に、間引く位相エンコードを異ならせてもよい。この際、ky軸の低周波領域のデータは適宜残るように間引く。
図11(A)はランダムなサンプリングの例である。ここでは位相エンコードは通常のエンコード数よりも少ない数しか示していないが、通常は256、512などである。また傾斜磁場パルスの強度が異なる計測が5回(kvが5)の場合を示しており、計測毎に位相エンコード方向の異なるサンプリング点を間引き、結果としてky-kv空間でランダムなサンプリングとなるようにしている。
【0064】
画像生成部220は、まずフーリエ変換部221が計測データをkx、ky、kv方向にフーリエ変換し、画像データとする(S320)。全計測で得た画像データはkv方向にフーリエ変換することで、速度ゼロに信号が集中し、他の画像は信号がほぼ0の画像となる。
【0065】
次いで圧縮センシング部223が、この速度ゼロの画像に対し、次式(3)で表される最適化問題を解くことで画像を復元する(S330)。
【数3】
式中、yは実際に計測したk空間の点、Iは、kx、ky、kv方向にフーリエ変換済みの画像データである。
【0066】
圧縮センシングにより得られた速度ゼロの画像は、実施形態1と同様にフローアーチファクトを含まない画像であり、且つ圧縮センシングを施すことで少ないサンプリング数の計測データから、間引かずにサンプリングした画像と同様の画質の良い画像となる。
【0067】
本実施形態によれば、圧縮センシングを組み合わせることで、サンプリング数を減らすことができ、傾斜磁場パルスの強度を異ならせて複数の計測を行うことにより計測時間が長くなるのを緩和し、本発明の実効性を向上することができる。なお実施形態1の変形例は、そのまま実施形態2にも適用することができ、それらも本発明に包含される。
【0068】
以上、本発明のMRI装置とその制御方法の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態やその変形例に限定されることなく、公知の要素の追加や変更を加えることが可能である。例えば、本発明は、フローアーチファクトのない画像を提供するものであるが、計測データを、組織に含まれる静止していない成分の速度に応じて分離する技術を提供するものであり、流体の速度毎に分離した画像を生成することも本発明に包含される。
【符号の説明】
【0069】
100:計測部、110:計測制御部、200:計算機、220:画像生成部、221:フーリエ変換部、222:kv方向フーリエ変換部、223:圧縮センシング部