(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068583
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240513BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240513BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240513BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20240513BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
H01L29/78 658H
H01L29/78 653A
H01L29/78 655B
H01L29/78 655D
H01L29/78 657D
H01L29/91 J
H01L29/91 C
H01L29/91 F
H01L29/78 652T
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179140
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大島 佑介
(72)【発明者】
【氏名】吉村 尚
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 博
(72)【発明者】
【氏名】谷口 竣太郎
(57)【要約】
【課題】半導体基板の炭素濃度等の初期特性に応じて、半導体基板に不純物をドーピングした場合に形成される格子欠陥の密度が変動してしまう。
【解決手段】ドーピング領域を形成するプロセス条件と、ドーピング領域の欠陥評価値との関係を示す相関情報を取得し、評価用基板に、設定した第1プロセス条件でドーピング領域を形成し、ドーピング領域を形成した後の評価用基板の欠陥評価値の測定値を取得し、相関情報において、第1プロセス条件に対応する欠陥評価値を参照値として取得し、欠陥評価値の測定値および参照値を比較し、製造用基板を用いて半導体装置を製造する工程におけるプロセス条件を調整する半導体装置の製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
初期特性を有する半導体基板にドーパントを注入してドーピング領域を形成するプロセス条件と、前記ドーピング領域に形成される欠陥密度を評価した欠陥評価値との関係を示す相関情報を取得し、
前記半導体装置を形成する前記半導体基板である製造用基板に対して、同質の前記初期特性を有する前記半導体基板である評価用基板に、設定した第1プロセス条件で前記ドーピング領域を形成し、
前記ドーピング領域を形成した後の前記評価用基板の前記欠陥評価値の測定値を取得し、
前記相関情報において、前記第1プロセス条件に対応する前記欠陥評価値を参照値として取得し、前記欠陥評価値の前記測定値および前記参照値を比較し、
前記測定値および前記参照値の比較結果に基づいて、前記製造用基板を用いて前記半導体装置を製造する工程における前記プロセス条件を調整する
半導体装置の製造方法。
【請求項2】
設定された前記プロセス条件で前記半導体基板に前記ドーピング領域を形成した場合の、前記半導体基板の前記初期特性と前記欠陥評価値との関係を示す第1情報と、
前記ドーピング領域を形成した後の前記半導体基板の特性が設定された特性値となる場合の、前記半導体基板の前記初期特性と前記プロセス条件との関係を示す第2情報と
を取得し、
前記第1情報および前記第2情報から前記相関情報を生成する
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記プロセス条件が異なる複数のサンプルについて、前記半導体基板の前記初期特性と、前記ドーピング領域を形成した後の前記半導体基板の前記特性値との関係を示す第3情報を取得し、
前記第3情報において、前記特性値が設定された範囲内となるサンプルを複数抽出し、複数の前記サンプルにおける前記初期特性および前記プロセス条件から前記第2情報を生成する
請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記半導体基板の前記特性値の複数の種類のそれぞれに対して前記第3情報を取得し、
いずれかの前記第3情報を選択して、前記第2情報を生成する
請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1情報および前記第2情報における前記初期特性は、前記半導体基板に含まれる不純物の濃度である
請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記初期特性は、前記半導体基板に含まれる炭素および酸素の少なくとも一方の濃度である
請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記初期特性は、前記半導体基板における炭素濃度および酸素濃度の和である
請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記ドーピング領域を形成した後の前記評価用基板の前記欠陥評価値の測定値を、非接触の測定により取得する
請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記非接触の測定は、サーマウェーブ測定である
請求項8に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記ドーピング領域を形成した後の前記評価用基板の前記欠陥評価値の前記測定値を、異なる複数のタイミングで取得し、前記複数のタイミングにおける前記測定値に基づいて、前記製造用基板を用いて前記半導体装置を製造する工程における前記プロセス条件を調整する
請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記プロセス条件は、前記ドーパントのドーズ量および加速エネルギーの少なくとも一方を含む
請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記プロセス条件は、前記ドーパントの注入装置および前記半導体基板のアニール条件の少なくとも一方を更に含む
請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記ドーパントの種類は、H、He、Ar、P、B、BF2、Asのうちの少なくとも一つを含む
請求項1から7の何れか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記半導体基板の前記初期特性は、前記半導体基板に含まれる炭素、酸素およびバルクドーパントの少なくとも一つの濃度を含む
請求項1から4の何れか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記ドーパントを注入して、前記評価用基板をアニールした後の前記欠陥評価値の前記測定値を取得する
請求項1から7の何れか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記第1プロセス条件は、前記製造用基板を用いて前記半導体装置を製造する工程における前記プロセス条件の初期設定値であり、
前記欠陥評価値の前記測定値と前記参照値との差異が設定された許容範囲内の場合には、前記製造用基板を用いて前記半導体装置を製造する工程における前記プロセス条件を前記初期設定値から変更しない
請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板にプロトン等のイオンを注入する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。また、半導体基板の欠陥を検出する技術が知られている(例えば特許文献2参照)。
特許文献1 US2016/0141399
特許文献2 特開平5-074730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
半導体基板の炭素濃度等の初期特性に応じて、半導体基板に不純物をドーピングした場合に形成される格子欠陥の密度が変動してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、半導体装置の製造方法を提供する。上記の製造方法においては、初期特性を有する半導体基板にドーパントを注入してドーピング領域を形成するプロセス条件と、前記ドーピング領域に形成される欠陥密度を評価した欠陥評価値との関係を示す相関情報を取得してよい。上記いずれかの製造方法では、前記半導体装置を形成する前記半導体基板である製造用基板に対して、同質の前記初期特性を有する前記半導体基板である評価用基板に、設定した第1プロセス条件で前記ドーピング領域を形成してよい。上記いずれかの製造方法では、前記ドーピング領域を形成した後の前記評価用基板の前記欠陥評価値の測定値を取得してよい。上記いずれかの製造方法では、前記相関情報において、前記第1プロセス条件に対応する前記欠陥評価値を参照値として取得し、前記欠陥評価値の前記測定値および前記参照値を比較してよい。上記いずれかの製造方法では、前記測定値および前記参照値の比較結果に基づいて、前記製造用基板を用いて前記半導体装置を製造する工程における前記プロセス条件を調整してよい。
【0005】
上記いずれかの製造方法では、設定された前記プロセス条件で前記半導体基板に前記ドーピング領域を形成した場合の、前記半導体基板の前記初期特性と前記欠陥評価値との関係を示す第1情報と、前記ドーピング領域を形成した後の前記半導体基板の特性が設定された特性値となる場合の、前記半導体基板の前記初期特性と前記プロセス条件との関係を示す第2情報とを取得してよい。上記いずれかの製造方法では、前記第1情報および前記第2情報から前記相関情報を生成してよい。
【0006】
上記いずれかの製造方法では、前記プロセス条件が異なる複数のサンプルについて、前記半導体基板の前記初期特性と、前記ドーピング領域を形成した後の前記半導体基板の前記特性値との関係を示す第3情報を取得してよい。上記いずれかの製造方法では、前記第3情報において、前記特性値が設定された範囲内となる前記サンプルを複数抽出し、複数の前記サンプルにおける前記初期特性および前記プロセス条件から前記第2情報を生成してよい。
【0007】
上記いずれかの製造方法では、前記半導体基板の前記特性値の複数の種類のそれぞれに対して前記第3情報を取得してよい。上記いずれかの製造方法では、いずれかの前記第3情報を選択して、前記第2情報を生成してよい。
【0008】
上記いずれかの製造方法では、前記第1情報および前記第2情報における前記初期特性は、前記半導体基板に含まれる不純物の濃度であってよい。
【0009】
上記いずれかの製造方法では、前記初期特性は、前記半導体基板に含まれる炭素および酸素の少なくとも一方の濃度であってよい。
【0010】
上記いずれかの製造方法では、前記初期特性は、前記半導体基板における炭素濃度および酸素濃度の和であってよい。
【0011】
上記いずれかの製造方法では、前記ドーピング領域を形成した後の前記評価用基板の前記欠陥評価値の測定値を、非接触の測定により取得してよい。
【0012】
上記いずれかの製造方法では、前記非接触の測定は、サーマウェーブ測定であってよい。
【0013】
上記いずれかの製造方法では、前記ドーピング領域を形成した後の前記評価用基板の前記欠陥評価値の前記測定値を、異なる複数のタイミングで取得し、前記複数のタイミングにおける前記測定値に基づいて、前記製造用基板を用いて前記半導体装置を製造する工程における前記プロセス条件を調整してよい。
【0014】
上記いずれかの製造方法では、前記プロセス条件は、前記ドーパントのドーズ量および加速エネルギーの少なくとも一方を含んでよい。
【0015】
上記いずれかの製造方法では、前記プロセス条件は、前記ドーパントの注入装置および前記半導体基板のアニール条件の少なくとも一方を含んでよい。
【0016】
上記いずれかの製造方法では、前記ドーパントの種類は、H、He、Ar、P、B、BF2、Asのうちの少なくとも一つを含んでよい。
【0017】
上記いずれかの製造方法では、前記半導体基板の前記初期特性は、前記半導体基板に含まれる炭素、酸素およびバルクドーパントの少なくとも一つの濃度を含んでよい。
【0018】
上記いずれかの製造方法では、前記ドーパントを注入して、前記評価用基板をアニールした後の前記欠陥評価値の前記測定値を取得してよい。
【0019】
上記いずれかの製造方法では、前記第1プロセス条件は、前記製造用基板を用いて前記半導体装置を製造する工程における前記プロセス条件の初期設定値であってよい。上記いずれかの製造方法では、前記欠陥評価値の前記測定値と前記参照値との差異が設定された許容範囲内の場合には、前記製造用基板を用いて前記半導体装置を製造する工程における前記プロセス条件を前記初期設定値から変更しなくてよい。
【0020】
上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一つの実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】相関情報取得段階S102の一例を説明する図である。
【
図3】注入段階S104の一例を説明する図である。
【
図4】ドーパントイオンが注入された後の、評価用基板130内の状態を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図4に示した評価用基板130のキャリア濃度の深さ方向の分布例を示す図である。
【
図6】注入段階S104の続きを説明する図である。
【
図7】アニール後の評価用基板130内の状態を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図7に示した評価用基板130のキャリア濃度の深さ方向の分布例を示す図である。
【
図9】測定値取得段階S106の一例を説明する図である。
【
図10】比較段階S108および調整段階S110の一例を示す図である。
【
図11】相関情報(または近似線120)を生成するのに用いる第1情報161の一例を示す図である。
【
図12】相関情報(または近似線120)を生成するのに用いる第2情報162の一例を示す図である。
【
図13】第2情報162を生成するのに用いる第3情報の一例を示す図である。
【
図14】第2情報162を生成するのに用いる第3情報の一例を示す図である。
【
図15】ドーピング領域132の他の例を示す図である。
【
図16】半導体インゴット160の一例を示す図である。
【
図17】製造段階S112において製造する半導体装置100の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0023】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
【0024】
半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の上面までの領域を、上面側と称する場合がある。同様に、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の下面までの領域を、下面側と称する場合がある。
【0025】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0026】
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタのいずれかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
【0027】
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をND、アクセプタ濃度をNAとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はND-NAとなる。本明細書では、ネット・ドーピング濃度を単にドーピング濃度と記載する場合がある。
【0028】
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。水素ドナーは、少なくとも空孔(V)および水素(H)が結合したドナーであってもよい。あるいは、シリコン半導体中の格子間シリコン(Si-i)と水素とが結合した格子間Si-H、格子間炭素(Ci)と格子間酸素(Oi)および水素とが結合したCiOi-Hも、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥、CiOi-Hまたは格子間Si-Hを水素ドナーと称する場合がある。
【0029】
本明細書において半導体基板は、N型のバルク・ドナーが全体に分布している。バルク・ドナーは、半導体基板の元となるインゴットの製造時に、インゴット内に略一様に含まれたドーパントによるドナーである。本例のバルク・ドナーは、水素以外の元素である。バルク・ドナーのドーパントは、例えばリン、アンチモン、ヒ素、セレンまたは硫黄であるが、これに限定されない。本例のバルク・ドナーは、リンである。バルク・ドナーは、P型の領域にも含まれている。半導体基板は、半導体のインゴットから切り出したウエハであってよく、ウエハを個片化したチップであってもよい。半導体のインゴットは、チョクラルスキー法(CZ法)、磁場印加型チョクラルスキー法(MCZ法)、フロートゾーン法(FZ法)のいずれかで製造されてもよい。本例におけるインゴットは、MCZ法で製造されている。MCZ法で製造された基板に含まれる酸素濃度は1×1017~7×1017/cm3である。FZ法で製造された基板に含まれる酸素濃度は1×1015~5×1016/cm3である。酸素濃度が高い方が水素ドナーを生成しやすい傾向がある。バルク・ドナー濃度は、半導体基板の全体に分布しているバルク・ドナーの化学濃度を用いてよく、当該化学濃度の90%から100%の間の値であってもよい。また、半導体基板は、リン等のドーパントを含まないノンドープ基板を用いてもよい。その場合、ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(D0)は例えば1×1010/cm3以上、5×1012/cm3以下である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(D0)は、好ましくは1×1011/cm3以上である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(D0)は、好ましくは5×1012/cm3以下である。尚、本発明における各濃度は、室温における値でよい。室温における値は、一例として300K(ケルビン)(約26.9℃)のときの値を用いてよい。
【0030】
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。本明細書の単位系は、特に断りがなければSI単位系である。長さの単位をcmで表示することがあるが、諸計算はメートル(m)に換算してから行ってよい。
【0031】
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の原子密度を指す。化学濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア濃度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア濃度を、アクセプタ濃度としてもよい。本明細書では、N型領域のドーピング濃度をドナー濃度と称する場合があり、P型領域のドーピング濃度をアクセプタ濃度と称する場合がある。
【0032】
ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。本明細書において、単位体積当りの濃度表示にatоms/cm3、または、/cm3を用いる。この単位は、半導体基板内のドナーまたはアクセプタ濃度、または、化学濃度に用いられる。atоms表記は省略してもよい。
【0033】
SR法により計測されるキャリア濃度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。
【0034】
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度の0.1%から10%程度である。
【0035】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示すフローチャートである。半導体装置は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子を有してよい。本例の半導体装置は、半導体基板の上面および下面の間で主電流が流れる縦型デバイスであるが、半導体装置は、半導体基板の上面に沿って主電流が流れる横型デバイスであってもよい。本例の半導体基板は、半導体インゴットから切り出された円盤状のウエハであるが、半導体基板はウエハでなくともよい。半導体基板は、ウエハから切り出されたチップ状の基板であってもよい。
【0036】
半導体装置の製造においては、半導体基板の初期特性が、製造工程を経た半導体基板の特性に影響を与える場合がある。半導体基板の初期特性とは、半導体装置の製造工程に投入される前の半導体基板の特性を指す。半導体基板の初期特性とは、例えば半導体基板に含まれる不純物の濃度である。半導体基板の初期特性は、半導体基板の全体に含まれる不純物の濃度であってもよい。
【0037】
製造工程を経た半導体基板の特性とは、仕上がりの半導体素子の構造上の特性であってよく、電気的な特性であってもよい。構造上の特性とは、例えば所定の領域に存在する格子欠陥の密度である。電気的な特性とは、例えばダイオード素子の順方向電圧Vf、IGBTの飽和電圧Vce(sat)、これらの素子のもれ電流、非破壊で得られる最大印加電圧値あるいは最大印加電流値などである。ただし構造上の特性および電気的な特性は、上述した例に限定されない。仕上がりの半導体素子の電気的な特性とは、複数の半導体チップが半導体基板のウエハ上に形成されて分割されていない状態における電気的な特性であってよく、半導体基板のウエハをダイシング等により個々の半導体チップの分割した後の、それぞれの半導体チップの電気的な特性であってよい。
【0038】
本明細書では、半導体基板の全体に含まれる不純物をバルク・ドーパント、バルク・ドナーまたはバルク・アクセプタと称する場合がある。一例として、半導体基板はシリコン基板であり、バルク・ドーパントはリン(P)、ボロン(B)、アンチモン(Sb)または砒素(As)のうちのいずれかの元素であってよい。極性(導電型)の異なる2種類のバルク・ドーパントを有してもよい。例えば主たるバルク・ドーパントをリンとし、極性が反転しない程度に、リンの濃度よりも低濃度のボロンを、副バルク・ドーパントとして有してよい。
【0039】
半導体基板の初期特性が、半導体素子の特性に影響を与える例として、半導体基板の一部の領域にプロトン等の水素イオンを注入して、局所的なドーピング領域を形成する場合を説明する。半導体基板に水素イオンを注入してアニールすると、VOH欠陥または格子間Si-H、CiOi-Hの水素ドナーが形成される。ドーピング領域に形成すべき水素ドナーの濃度(/cm3)の目標値に応じて、水素イオンのドーズ量(/cm2)が設定される。しかし、形成される水素ドナーの濃度は、半導体基板の炭素または酸素の濃度により変動してしまう。このため、ドーピング領域におけるキャリア濃度が目標値からずれてしまい、半導体素子の特性に影響を与えてしまう。半導体基板の初期特性としては、バックサイドポリシリコンコート法の適用の有無、または、バックサイドダメージ法の適用の有無等が例示できる。バックサイドポリシリコンコート法は、半導体基板(ウエハ)のいずれかの主面に、ポリシリコンを堆積させる方法である。ポリシリコン層を形成することで、半導体基板の重金属等の不純物を捕獲するゲッタリング効果を比較的に長い期間に渡って維持できる。バックサイドダメージ法は、半導体基板のいずれかの主面にサンドブラスト法等によって均一に分布した歪みを形成することで、上述したゲッタリング効果を生じさせる。これらの方法の適用の有無に応じて、半導体基板の耐圧が変動する。これらの方法が適用されているか否かの情報は、半導体基板の製造者から取得してよい。
【0040】
本例の製造方法では、評価用の半導体基板である評価用基板を用いる。評価用基板は、半導体装置を形成する半導体基板である製造用基板に対して同質の初期特性を有する半導体基板である。一例として、同一の半導体インゴットから切り出された2つの半導体基板の初期特性は同質とみなしてよい。また初期特性の測定値の差異が所定範囲内である場合に、2つの半導体基板の初期特性を同質として扱ってもよい。また半導体基板の製造者が提供する半導体基板の初期特性の仕様値の差異が所定範囲内である場合に、2つの半導体基板の初期特性を同質として扱ってもよい。これらの差異は、例えば20%以下であってよく、10%以下であってもよい。
【0041】
本例の製造方法は、相関情報取得段階S102、注入段階S104、測定値取得段階S106、比較段階S108、調整段階S110および製造段階S112を備える。相関情報取得段階S102、比較段階S108および調整段階S110における一部または全部の処理はコンピュータ等の演算処理装置が行ってよい。注入段階S104、測定値取得段階S106および製造段階S112の一部または全部の処理は、半導体製造装置または測定装置が行ってよい。
【0042】
図2は、相関情報取得段階S102の一例を説明する図である。相関情報取得段階S102では、相関情報を取得する。相関情報は、半導体基板にドーパントを注入してドーピング領域を形成するときのプロセス条件と、当該ドーピング領域に形成される欠陥密度を評価した欠陥評価値との関係を示す情報である。本例の欠陥評価値は、欠陥密度が高いほど高い値を示す。
【0043】
プロセス条件は、注入するドーパントイオンの種類、ドーパントイオンのドーズ量、ドーパントイオンの加速エネルギー、および、ドーパントイオンの注入装置の種類の少なくとも一つを含む。注入装置の種類は、例えばドーパントイオンを発生させる方式で分類されてよく、ドーパントイオンを加速する方式で分類されてよく、注入装置の製造者で分類されてよく、注入装置の性能値で分類されてもよい。注入装置の性能値とは、例えば加速エネルギーの上限値または下限値のように、注入装置の性能を示す値である。
【0044】
欠陥評価値は、半導体基板の単位体積当たりの欠陥密度(/cm3)の値であってよく、欠陥密度の値に応じて変動する間接的な値であってもよい。一例として欠陥評価値は、半導体基板の上面に形成したドーピング領域における欠陥密度を、サーマウェーブ法で評価した値である。サーマウェーブ法では、半導体基板の測定対象位置に励起レーザー光を照射した状態で、測定対象位置に測定レーザー光を照射し、測定レーザー光の反射光を検出する。励起レーザー光を照射することで、測定対象位置には電子が励起される。励起された電子が測定対象位置における格子欠陥と再結合することで、熱振動が発生する。熱振動により、測定対象位置の表面における反射率が変化する。熱振動の大きさは測定対象位置の欠陥密度により変動するので、測定対象位置における欠陥密度に応じて、測定レーザー光の反射光の強度が変化する。従って、反射光の強度から、測定対象位置における欠陥密度が推定できる。欠陥評価値は、サーマウェーブ法で検出される反射光の強度であってよく、反射光の強度に対して所定の演算を行った値であってもよい。
【0045】
相関情報は、半導体基板の初期特性の種類毎に設定されていてよく、初期特性の範囲毎に設定されていてもよい。例えば相関情報は、半導体基板に含まれる不純物の種類毎に、且つ、各不純物の濃度範囲毎に設定されてよい。相関情報取得段階S102では、製造用基板および評価用基板の初期特性に対応する相関情報を取得する。
【0046】
それぞれの相関情報は、実測値から生成されてよい。
図2の例では、黒丸のプロットが実測値を示している。相関情報は、実測値のプロットを直線または曲線で近似した近似線120の式であってよい。ただし相関情報は、数式でなくともよい。相関情報は、複数の欠陥評価値と複数のプロセス条件との対応関係を示すテーブルであってよく、他の形式で欠陥評価値とプロセス条件との関係を示していてもよい。
【0047】
図2の例では、プロセス条件が1つのパラメータを含む場合の、相関情報を示している。この場合、相関情報は1つの線で規定できる。他の例では、プロセス条件は複数のパラメータを含んでもよい。この場合、相関情報は、複数のパラメータの値の組み合わせ毎に、1つの欠陥評価値を対応付けた情報であってよい。
【0048】
例えば、半導体基板の初期特性は、半導体基板に含まれる不純物の種類Xi(ただしiは1からjの整数であり、jは不純物の種類の数に相当する)、および、不純物の化学濃度Ci(ただしiは1からkの整数)を含む。また、プロセス条件は、注入するドーパントイオンの種類Yi(ただしiは1からlの整数であり、lはドーパントイオンの種類の数に相当する)、ドーパントイオンのドーズ量Di(ただしiは1からnの整数)、ドーパントイオンの加速エネルギーEi(ただしiは1からoの整数)、ドーパントイオンを注入した後の半導体基板のアニール条件Ai(ただしiは1からpの整数)、および、ドーパントイオンの注入装置の種類Mi(ただしiは1からqの整数であり、qは注入装置の種類の数に相当する)を含む。
【0049】
半導体基板に含まれる不純物の種類Xiは、炭素、酸素およびバルク・ドーパントの少なくとも一つを含んでよい。バルク・ドーパントは、P、B、SbおよびAsの少なくとも一つを含んでよい。不純物の化学濃度Ciは、炭素、酸素およびバルク・ドーパントの少なくとも一つの化学濃度を含んでよい。注入するドーパントイオンの種類Yiは、H、He、Ar、P、B、BF2、Asのうちの少なくとも一つを含んでよい。ドーパントイオンのドーズ量Diは、H、He、Ar、P、B、BF2、Asのうちの少なくとも一つのドーズ量を含んでよい。半導体基板のアニール条件Aiは、アニール温度およびアニール時間の少なくとも一方を含む。アニール条件Aiは、アニール温度A1i(ただしiは1からrの整数)およびアニール時間A2i(ただしiは1からsの整数)の2つのパラメータを含んでよい。
【0050】
不純物の化学濃度のように、連続的な数値を取り得るパラメータについては、不純物の化学濃度の各値Ciに対しては、それぞれ所定の範囲Liが設定される。不純物の化学濃度が範囲Li内に存在するサンプルについては、対応する化学濃度Ciに属するものとして扱う。ドーパントイオンのドーズ量Di、ドーパントイオンの加速エネルギーEi、アニール温度A1iおよびアニール時間A2iについても同様である。
【0051】
本例の相関情報取得段階S102では、複数のパラメータ(Xi、Ci、Yi、Di、Ei、A1i、A2i、Mi)の値の組み合わせ毎に、1つの欠陥評価値と半導体素子の特性が対応付けられた相関情報を取得する。本例の相関情報は、半導体基板の初期特性およびプロセス条件が定まれば、欠陥評価値の基準値が一義的に決定でき、基準値によって得られる半導体基板の特性が対応する標準情報、または、標準情報群である。一例として相関情報は、複数のパラメータ(Xi、Ci、Yi、Di、Ei、A1i、A2i、Mi)の値の全ての組み合わせを示す、j×k×l×n×o×q×r×s個のセルを有するマトリクスを取得してよい。当該マトリクスの各セルには、1つの欠陥評価値と1つの半導体素子の特性が対応付けられている。当該マトリクスの一部のセルに欠陥評価値の実測値が対応付けられ、一部のセルには欠陥評価値の実測値が対応付けられていなくてもよい。欠陥評価値の実測値が対応付けられていないセルに対しては、他のセルの欠陥評価値の実測値から算出した欠陥評価値の推定値を対応付けてもよい。例えば他のセルの欠陥評価値の実測値を内挿または外挿することで、一部のセルの欠陥評価値の推定値を生成してよく、
図2に示すように所定の式で欠陥評価値の測定値の集合を近似することで、一部のセルの欠陥評価値の推定値を生成してもよい。
【0052】
相関情報のマトリクスが含むパラメータは、上述した(Xi、Ci、Yi、Di、Ei、A1i、A2i、Mi)のうちの1つまたは複数の任意のパラメータであってもよい。半導体基板の初期特性には、半導体基板の主成分の元素の種類が含まれてもよい。例えば半導体基板の初期特性には、半導体基板がシリコン基板、炭化珪素基板、窒化ガリウム基板、またはその他の基板の何れであるのかを示す情報が含まれてよい。一例として半導体基板はシリコン基板である。
【0053】
図3は、注入段階S104の一例を説明する図である。注入段階S104においては、評価用基板130の主面131に対して、設定した第1プロセス条件でドーパントイオンを注入する。第1プロセス条件は、ドーパントイオンの種類Yi、ドーパントイオンのドーズ量Di、ドーパントイオンの加速エネルギーEi、半導体基板のアニール条件Ai、および、ドーパントイオンの注入装置の種類Miのうちの少なくとも一つを含んでよい。一例としてドーパントイオンの種類は水素イオン(プロトン)である。第1プロセス条件は、製造用基板を用いた半導体装置の製造工程で設定しようとしているプロセス条件の初期設定値であってよく、他のプロセス条件であってもよい。
【0054】
図4は、ドーパントイオンが注入された後の、評価用基板130内の状態を模式的に示す断面図である。
図4においては、評価用基板130内のシリコン原子140および水素原子142を模式的に示している。本例の評価用基板130は、ドーパントイオンが注入された後に、アニールされていない状態である。
【0055】
評価用基板130の主面131からドーパントイオンが注入されると、主面131の近傍におけるシリコン原子140の配列に乱れが生じ、格子欠陥が形成される。また水素原子142も結晶格子中の不純物として存在する。
【0056】
図5は、
図4に示した評価用基板130のキャリア濃度の深さ方向の分布例を示す図である。
図5の横軸は、主面131を基準位置とした、深さ方向の位置を示している。
図5の縦軸は、キャリア濃度を示す対数軸である。
図5においては、バルク・ドーパントによるキャリア濃度をBDとする。
【0057】
図4において説明したように、評価用基板130の主面131の近傍には格子欠陥が形成されるので、主面131の近傍におけるキャリア濃度が低下する。格子欠陥の密度が高い領域ほど、キャリア濃度が低下している。ただし、同一のプロセス条件であっても、評価用基板130の初期特性(例えば酸素濃度または炭素濃度等)に応じて、評価用基板130に形成される格子欠陥密度が変化する。格子欠陥によっては、例えば初期特性における酸素または炭素と結合する。このため、生成される格子欠陥密度が初期特性に依存して変化する。例えば、半導体基板中の格子サイトの原子がシリコンから炭素に変わる、または、格子間に炭素が侵入しているといったことで、基板中の炭素と、注入されたイオン(ヘリウム、水素など)との衝突確率が変化し、局所的な格子欠陥の密度が変わることがある。このため、
図5の特性143および特性144に示すように、同一のプロセス条件でドーパントイオンを注入した場合でも、評価用基板130の初期特性に応じてキャリア濃度分布が変化してしまう。このため、評価用基板130に形成される半導体素子の特性も、評価用基板130の初期特性に応じて変動してしまう。
【0058】
図6は、注入段階S104の続きを説明する図である。本例の注入段階S104では、評価用基板130にドーパントイオンを注入した後に、第1プロセス条件に含まれるアニール条件Aiで、評価用基板130をアニールする。一例として、注入段階S104におけるアニール温度は350℃から420℃、アニール時間は1時間から10時間であるが、アニール条件はこれに限定されない。注入段階S104では、半導体基板のアニールを行わなくてもよい。本明細書では、主面131においてドーパントイオンが注入された領域をドーピング領域132と称する。ドーピング領域132は、アニール前の領域を指してよく、アニール後の領域を指してもよい。
【0059】
図7は、アニール後の評価用基板130内の状態を模式的に示す断面図である。半導体基板をアニールすることで、主面131の近傍におけるシリコン原子140および水素原子142が格子整合している。水素原子142および格子欠陥は、上述したVOH欠陥、CiOi-H欠陥または格子間Si-Hの水素ドナーの一部となる。
【0060】
図8は、
図7に示した評価用基板130のキャリア濃度の深さ方向の分布例を示す図である。
図7において説明したように、評価用基板130の主面131の近傍には水素ドナーが形成されるので、主面131の近傍におけるキャリア濃度が増大する。水素イオンの平均飛程の近傍における深さ位置で、キャリア濃度が極大値となっている。ただし、同一のプロセス条件であっても、評価用基板130の初期特性(例えば酸素濃度または炭素濃度等)に応じて、評価用基板130に形成される水素ドナー濃度が変化する。このため、
図8の特性151および特性152に示すように、同一のプロセス条件でドーパントイオンを注入した場合でも、評価用基板130の初期特性に応じてキャリア濃度分布が変化してしまう。このため、評価用基板130に形成される半導体素子の特性も、評価用基板130の初期特性に応じて変動してしまう。なお、評価用基板130の初期特性(例えば酸素濃度または炭素濃度等)に応じて、評価用基板130に形成される水素ドナー濃度が変化するので、水素ドナー化せずに残存する格子欠陥の密度が変動する。
【0061】
図9は、測定値取得段階S106の一例を説明する図である。測定値取得段階S106では、ドーピング領域132を形成した後の評価用基板130の欠陥評価値の測定値を取得する。測定値取得段階S106は、アニールしていない評価用基板130を測定してよく、アニール後の評価用基板130を測定してもよい。
【0062】
測定値取得段階S106では、ドーピング領域132における欠陥評価値の測定値を、非接触の測定により取得する。つまり測定値取得段階S106では、評価用基板130にプローブピン等を接触させずに、欠陥評価値を測定する。これにより、プローブピン等が接触することで形成される格子欠陥の影響を排除して、欠陥評価値を測定できる。また、プローブピン等を接触させる電極を評価用基板130に設けなくてよいので、電極形成時に生じる格子欠陥の影響を排除して、欠陥評価値を測定できる。測定値取得段階S106では、評価用基板130に電流を印加せず、また、電圧を印加しないで欠陥評価値を測定してよい。
【0063】
本例の測定値取得段階S106では、サーマウェーブ測定で欠陥評価値を測定する。サーマウェーブ測定では、光源134からドーピング領域132に測定レーザー光を照射し、測定部136により反射レーザー光を測定する。サーマウェーブ測定では、ドーピング領域132に励起レーザー光を照射する励起光源を更に用いてよい。励起レーザー光と、測定レーザー光は、同一の位置に照射してよい。サーマウェーブ測定では、水素ドナー化していない格子欠陥の密度が測定できる。また、測定値取得段階S106では、相関情報における欠陥評価値の測定値と同一の測定条件で、ドーピング領域132の欠陥評価値を測定することが好ましい。上述したように、欠陥評価値は、測定部136が検出した所定の波長の光の強度値であってよく、当該強度値に所定の演算を施した値であってもよい。当該演算は、当該強度値を格子欠陥の密度に換算する演算であってよい。
【0064】
図3から
図9の例では、評価用基板130に水素イオンを注入したときの格子欠陥密度の変動を説明したが、評価用基板130に他のドーパントイオンを注入したときも同様に、評価用基板130の炭素濃度等に応じて格子欠陥密度が変動する。例えば半導体装置においては、ヘリウムイオン等を注入して局所的な格子欠陥を形成し、キャリアのライフタイムを調整する場合がある。
図4の例と同様に、ヘリウムイオンを注入することで主面131の近傍に格子欠陥が形成される。また評価用基板130をアニールすることで、格子欠陥の一部が消滅する。評価用基板130において格子欠陥の形成されやすさ、および、格子欠陥の消滅しやすさは、評価用基板130の炭素濃度等の初期特性に応じて変動する。
【0065】
図10は、比較段階S108および調整段階S110の一例を示す図である。比較段階S108では、相関情報(
図10では近似線120)において、第1プロセス条件P1に対応する欠陥評価値を参照値Vr1として取得する。上述したように、第1プロセス条件は、製造用基板を用いた半導体装置の製造工程で設定しようとしているプロセス条件の初期設定値であってよく、他のプロセス条件であってもよい。
【0066】
比較段階S108では、測定値取得段階S106で取得した欠陥評価値の測定値Vm1と、参照値Vr1とを比較する。比較段階S108では、相関情報において測定値Vm1に対応するプロセス条件Pmを検出し、プロセス条件Pmと第1プロセス条件P1との差分ΔPを算出してよい。
【0067】
調整段階S110では、測定値Vm1および参照値Vr1の比較結果に基づいて、製造用基板を用いて半導体装置を製造する工程におけるプロセス条件を調整する。例えば調整段階S110では、調整後のプロセス条件で半導体装置を製造した場合に、当該半導体装置における欠陥評価値が、相関情報においてプロセス条件の初期設定値に対応する欠陥評価値と同等となるように、プロセス条件を調整する。
【0068】
調整段階S110では、第1プロセス条件P1と差分ΔPとを用いて所定の演算を行って、調整後のプロセス条件Psを算出してよい。所定の演算は、近似線120の式を用いた演算であってよく、半導体装置の製造者の経験則等に基づいて予め定められた演算であってもよい。例えば近似線120が直線であり、プロセス条件の初期設定値が第1プロセス条件P1であるとする。欠陥評価値Vm1が参照値Vr1よりも低い場合、参照値Vr1に該当するプロセス条件P1でプロセス処理を行うと、半導体素子の特性が、プロセス条件P1で得られる特性からずれることになる。そこで、プロセス条件を調整する。この場合、調整段階S110では、第1プロセス条件P1に、差分ΔPを加減算した値(本例では加算した値)を、調整後のプロセス条件Psの値としてよい。これにより、半導体素子の特性がプロセス条件P1で得られる特性とすることができる。調整段階S110では、プロセス条件PsとPmとの平均値が第1プロセス条件P1と一致するように、プロセス条件Psを設定してよい。これにより、半導体基板の酸素濃度および炭素濃度等の初期特性に応じた格子欠陥の形成度合いの変動を、プロセス条件を調整することで相殺できる。
【0069】
プロセス条件が複数のパラメータを含んでいる場合、調整段階S110において、いずれか1つまたは複数のパラメータを選択して、当該パラメータを調整してよい。調整段階S110では、ドーパントイオンのドーズ量Di、アニール温度A1iおよびアニール時間A2iのいずれか1つまたは複数を選択して調整してよい。プロセス条件に含まれるそれぞれのパラメータには、調整可能な数値範囲が設定されていてよい。調整可能な数値範囲は、半導体装置の製造者により設定されてよい。調整段階S110では、それぞれの数値範囲で各パラメータを調整したときの、欠陥評価値の変動幅が大きいパラメータから順番に調整対象として選択してよい。調整段階S110では、欠陥評価値の変動幅がより大きい第1パラメータを調整しても、欠陥評価値の測定値Vm1および参照値Vr1との差分を相殺できない場合に、次に欠陥評価値の変動幅が大きい第2パラメータを調整してよい。
【0070】
製造段階S112では、調整後のプロセス条件Psを用いて、半導体装置を製造する。製造段階S112では、製造用基板を用いて半導体装置を製造する。一例として製造用基板と評価用基板は異なる基板であるが、製造用基板の一部の領域を、評価用基板として用いてもよい。例えば製造用基板において半導体装置を形成しない領域を、評価用基板(またはドーピング領域132)として用いてよい。半導体装置に用いる複数の製造用基板のうち、1つの製造用基板に評価用基板の領域を設けてよく、複数の製造用基板に評価用基板の領域を設けてもよい。これにより、製造用基板と評価用基板の初期特性を一致させることができる。
【0071】
図11は、相関情報(または近似線120)を生成するのに用いる第1情報161の一例を示す図である。第1情報161は、設定されたプロセス条件で半導体基板にドーピング領域132を形成した場合の、半導体基板の初期特性(
図11の例では炭素濃度)と、欠陥評価値との関係を示す情報である。
図11における第1情報161は、設定されたプロセス条件でドーピング領域132を形成した多数のサンプルの初期特性および欠陥評価値の測定結果を、直線等で近似した情報であってよい。第1情報161は、
図11に示すような近似線の式であってよく、テーブルであってもよい。
【0072】
当該設定されたプロセス条件は、第1プロセス条件P1と同一であってよい。他の例では、当該設定されたプロセス条件は、第1プロセス条件P1とは異なる条件であってもよい。当該設定されたプロセス条件は、第1プロセス条件P1との差異が、予め定められた範囲内である条件であってもよい。
【0073】
図12は、相関情報(または近似線120)を生成するのに用いる第2情報162の一例を示す図である。第2情報162は、ドーピング領域132を形成した後の半導体基板の特性が、設定された特性値となる場合の、半導体基板の初期特性(
図11の例では炭素濃度)とプロセス条件(
図11の例ではヘリウムドーズ量)との関係を示す情報である。半導体基板の特性とは、電気的な特性であってよい。半導体基板の特性とは、半導体基板にドーピング領域132を含むダイオードを形成した場合の、所定の条件下における順方向電圧Vfであってよく、所定の条件下におけるリーク電流の大きさであってよく、所定の条件下における耐圧であってもよい。半導体基板の特性とは、半導体基板にドーピング領域132を含むトランジスタ(例えばIGBT)を形成した場合の、所定の条件下におけるコレクタエミッタ間電圧Vceであってよく、所定の条件下におけるリーク電流の大きさであってよく、所定の条件下における耐圧であってもよい。
【0074】
第2情報162は、多様な初期特性の半導体基板を用いて、且つ、多様なプロセス条件を用いて生成した多数のサンプルから生成してよい。多数のサンプルから、所定の電気特性を示したサンプル群を抽出し、当該サンプル群に含まれる各サンプルの初期特性およびプロセス条件の組み合わせから、第2情報162を生成してよい。第2情報162は、
図12に示すような近似線の式であってよく、テーブルであってもよい。第1情報161および第2情報162は、同一のサンプルの測定結果から生成してよく、異なるサンプルの測定結果から生成してもよい。
【0075】
本例の相関情報取得段階S102では、第1情報161および第2情報162を取得し、第1情報161および第2情報162から相関情報(または近似線120)を生成してよい。第1情報161は、半導体基板の初期特性と欠陥評価値との関係を示しており、第2情報162は、半導体基板の初期特性とプロセス条件との関係を示している。従って、第1情報161および第2情報162に共通に含まれる半導体基板の初期特性を媒介して、欠陥評価値とプロセス条件との関係を推定できる。より具体的には、第1情報161および第2情報162において、半導体基板の初期特性(例えば炭素濃度および酸素濃度の少なくとも一方)が共通の値となる欠陥評価値とプロセス条件(例えばヘリウムドーズ量)を抽出することで、欠陥評価値とプロセス条件との関係を推定できる。第1情報161および第2情報162において、半導体基板の初期特性の値は、実測値を用いてよく、半導体基板の製造者等が提供する仕様値を用いてもよい。また、炭素濃度等の初期特性が異なる半導体基板を生成して、第1情報161および第2情報162を測定してもよい。ただし相関情報は、第1情報161および第2情報162から生成したものに限定されない。
【0076】
図13は、第2情報162を生成するのに用いる第3情報の一例を示す図である。第3情報は、プロセス条件(
図13の例ではヘリウムドーズ量)が異なる複数のサンプルについて、半導体基板の初期特性(
図13の例では炭素濃度)と、ドーピング領域132を形成した後の半導体基板の特性値(
図13の例では順方向電圧Vf)との関係を示す情報である。
図13では、ある一つのプロセス条件(ヘリウムドーズ量が所定値A(ions/cm
2))における、半導体基板の初期特性と特性値との関係を示す第3情報Aを示している。半導体基板の初期特性は、実測値であってよく、仕様値であってもよい。半導体基板の特性値は実測値であってよい。
【0077】
半導体基板の初期特性と、半導体基板の特性値とは、相関を有する。
図13の例では、近似直線163で示すように、半導体基板の炭素濃度が高いほど、ドーピング領域132を電流経路に含むダイオードの順方向電圧は上昇している。つまり、半導体基板の炭素濃度が高いほど、ドーピング領域132における格子欠陥の密度が高くなり、順方向電圧が上昇する。
【0078】
図14は、第2情報162を生成するのに用いる第3情報の一例を示す図である。
図14では、
図13の例とは異なる一つのプロセス条件(ヘリウムドーズ量が所定値Aよりも大きい値の所定値B(ions/cm
2))における、半導体基板の初期特性と特性値との関係を示す第3情報Bを示している。相関情報取得段階S102では、第3情報(例えば第3情報Aおよび第3情報B)を取得し、第3情報から第2情報を生成してよい。
【0079】
例えば相関情報取得段階S102において、第3情報Aおよび第3情報Bに対して共通の特性値(例えばVf=所定値C)を設定する。そして、共通の特性値Cとの差異が所定値以下(または差異が0)である範囲164内の複数のサンプルを、第3情報Aおよび第3情報Bから抽出する。抽出したサンプルにおける半導体基板の初期特性(例えば炭素濃度)およびプロセス条件(例えばヘリウムドーズ量)の組み合わせをプロットして近似線を算出することで、
図12において説明した第2情報162を取得できる。ただし第2情報162は、第3情報から生成したものに限定されない。
図11から
図14において説明した処理により、
図2において説明した相関情報(または近似線120)を取得できる。
【0080】
図13および
図14の例では、第3情報は、2つのプロセス条件のサンプルから生成している。他の例では、第3情報は、3つ以上のプロセス条件のサンプルから生成してもよい。
【0081】
図13および
図14の例では、半導体基板の1つの特性値(例えば順方向電圧Vfの値)を用いている。他の例では、相関情報取得段階S102では、半導体基板の特性値の複数の種類のそれぞれに対して、第3情報(例えば第3情報Aおよび第3情報B)を取得してよい。例えば相関情報取得段階S102では、半導体基板の順方向電圧Vf、リーク電流、耐圧、コレクタエミッタ間電圧Vceのうちの少なくとも2つについて、それぞれ第3情報を取得してよい。相関情報取得段階S102では、いずれかの特性値に対応する第3情報を選択して、第2情報162を生成してよい。例えば相関情報取得段階S102では、半導体基板の複数の特性値のうち、最も重視する特性値に対応する第3情報を選択してよい。最も重視する特性値は、半導体装置の使用者から指定されてよく、半導体装置の製造者が選択してもよい。
【0082】
図1から
図14の例においては、半導体基板の初期特性として、単一の不純物の濃度の値を用いる例を説明した。例えば半導体基板の初期特性は、半導体基板に含まれる炭素および酸素の少なくとも一方の濃度である。他の例では、半導体基板の初期特性は、複数の不純物の濃度の和であってもよい。半導体基板の初期特性は、半導体基板の酸素濃度および炭素濃度の和であってもよい。ドーピング領域132に形成される格子欠陥の密度は、酸素濃度および炭素濃度のように、複数の不純物の濃度に影響され得る。このため、複数の不純物の濃度の和を初期特性として用いることで、簡易な処理で精度よくプロセス条件を調整できる。
【0083】
測定値取得段階S106では、ドーピング領域132を形成した後の評価用基板130の欠陥評価値の測定値を、異なる複数のタイミングで取得してもよい。例えば測定値取得段階S106では、注入段階S104におけるアニール処理の開始前と終了後の両方のタイミングで欠陥評価値を測定してよい。または、アニール処理の途中で欠陥評価値を測定してもよい。
【0084】
調整段階S110では、複数のタイミングで取得した測定値に基づいて、製造用基板を用いて半導体装置を製造する工程におけるプロセス条件を調整してよい。調整段階S110では、それぞれのタイミングで取得した測定値に基づいて、異なるプロセス条件を調整してよい。例えば調整段階S110では、アニール処理の開始前で測定した欠陥評価値に基づいて、不純物のドーズ量を調整してよい。また、アニール処理の開始後で測定した欠陥評価値に基づいて、アニール条件を調整してよい。
【0085】
調整段階S110では、複数のタイミングで取得した測定値の間の変化量に基づいて、製造用基板を用いて半導体装置を製造する工程におけるプロセス条件を調整してもよい。例えば調整段階S110では、アニール処理中の複数のタイミングで取得した測定値の間の変化量を取得してよい。当該変化量から、アニール時間の長さと、欠陥評価値の測定値との関係を取得できる。調整段階S110では、当該変化量を用いて、アニール時間の長さを調整してよい。
【0086】
図1から
図14において説明した第1プロセス条件は、製造用基板を用いて半導体装置を製造する工程におけるプロセス条件の初期設定値であってよい。比較段階S108において、欠陥評価値の測定値と参照値との差異が設定された許容範囲内の場合には、調整段階S110では、製造用基板を用いて半導体装置を製造する工程におけるプロセス条件を初期設定値から変更しなくてもよい。
【0087】
図15は、ドーピング領域132の他の例を示す図である。
図1から
図14の例においては、ドーピング領域132は評価用基板130に形成されている。本例のドーピング領域132は、製造用基板150の一部の領域に形成される。つまり本例の製造用基板150の一部の領域は、評価用基板130として機能する。ドーピング領域132は、半導体チップが形成される領域の外側に配置されてよい。
【0088】
本例においては、製造用基板150に形成したドーピング領域132を測定して、製造用基板150に半導体素子を形成する製造工程におけるプロセス条件を調整する。具体的には、製造用基板150の一部の領域を用いて、
図1等において説明したS102~S110の工程を行う。その後、当該製造用基板150を用いて製造工程S112を行う。
【0089】
図16は、半導体インゴット160の一例を示す図である。半導体インゴット160からは、複数の半導体基板が切り出される。複数の半導体基板のうち、いずれかの半導体基板を評価用基板130としてよい。他の半導体基板を製造用基板150として用いてよい。一例として、評価用基板130からの距離D1が所定値以下の製造用基板150のプロセス条件を、評価用基板130を用いて調整してよい。距離D1は、各基板の主面と垂直な方向における距離である。距離D1は、インゴットの長さの半分以下であってよく、70%以下であってよく、80%以下であってよく、90%以下であってよい。
【0090】
図17は、製造段階S112において製造する半導体装置100の一例を示す断面図である。本例の半導体装置100は、トランジスタ部70およびダイオード部80が共通の製造用基板150に形成された逆導通IGBT(RC-IGBT)であるが、半導体装置100の構造は
図17の例に限定されない。
【0091】
本例の半導体装置100は、当該断面において、製造用基板150、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。本例の製造用基板150はシリコン基板であるが、シリコン以外の半導体基板であってもよい。製造用基板150の上面21および下面23は、主面131の一例である。
【0092】
層間絶縁膜38は、製造用基板150の上面に設けられている。層間絶縁膜38は、ホウ素またはリン等の不純物が添加されたシリケートガラス等の絶縁膜、熱酸化膜、および、その他の絶縁膜の少なくとも一層を含む膜である。層間絶縁膜38にはコンタクトホール54が設けられている。
【0093】
エミッタ電極52は、層間絶縁膜38の上方に設けられる。エミッタ電極52は、層間絶縁膜38のコンタクトホール54を通って、製造用基板150の上面21と接触している。コレクタ電極24は、製造用基板150の下面23に設けられる。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成されている。本明細書において、エミッタ電極52とコレクタ電極24とを結ぶ方向を深さ方向と称する。
【0094】
製造用基板150は、N型またはN-型のドリフト領域18を有する。ドリフト領域18は、トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれに設けられている。
【0095】
トランジスタ部70のメサ部60には、N+型のエミッタ領域12およびP-型のベース領域14が、製造用基板150の上面21側から順番に設けられている。ベース領域14の下方にはドリフト領域18が設けられている。
【0096】
エミッタ領域12は製造用基板150の上面21に露出しており、且つ、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。エミッタ領域12は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高い。
【0097】
ベース領域14は、エミッタ領域12の下方に設けられている。本例のベース領域14は、エミッタ領域12と接して設けられている。ベース領域14は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。
【0098】
ダイオード部80のメサ部61には、製造用基板150の上面21に接して、P-型のベース領域14が設けられている。ベース領域14の下方には、ドリフト領域18が設けられている。
【0099】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれにおいて、ドリフト領域18の下にはN+型のバッファ領域20が設けられてよい。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高い濃度ピークを有してよい。
【0100】
バッファ領域20は、製造用基板150の深さ方向において、2つ以上の濃度ピークを有してよい。バッファ領域20の濃度ピークは、例えば水素(プロトン)またはリンの化学濃度ピークと同一の深さ位置に設けられていてよい。バッファ領域20は、ベース領域14の下端から広がる空乏層が、P+型のコレクタ領域22およびN+型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0101】
トランジスタ部70において、バッファ領域20の下には、P+型のコレクタ領域22が設けられる。コレクタ領域22のアクセプタ濃度は、ベース領域14のアクセプタ濃度より高い。コレクタ領域22のアクセプタは、例えばボロンである。
【0102】
ダイオード部80において、バッファ領域20の下には、N+型のカソード領域82が設けられる。カソード領域82のドナー濃度は、ドリフト領域18のドナー濃度より高い。カソード領域82のドナーは、例えば水素またはリンである。なお、各領域のドナーおよびアクセプタとなる元素は、上述した例に限定されない。コレクタ領域22およびカソード領域82は、製造用基板150の下面23に露出しており、コレクタ電極24と接続している。コレクタ電極24は、製造用基板150の下面23全体と接触してよい。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成される。
【0103】
製造用基板150の上面21側には、1以上のゲートトレンチ部40、および、1以上のダミートレンチ部30が設けられる。各トレンチ部は、製造用基板150の上面21から、ベース領域14を貫通して、ベース領域14の下方まで設けられている。エミッタ領域12およびコンタクト領域15の少なくともいずれかが設けられている領域においては、各トレンチ部はこれらのドーピング領域も貫通している。
【0104】
本例のトランジスタ部70には、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30が設けられている。本例のダイオード部80には、ダミートレンチ部30が設けられ、ゲートトレンチ部40が設けられていない。
【0105】
ゲートトレンチ部40は、製造用基板150の上面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられる。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と製造用基板150とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。
【0106】
ゲート導電部44は、深さ方向において、ベース領域14よりも長く設けられてよい。当該断面におけるゲートトレンチ部40は、製造用基板150の上面21において層間絶縁膜38により覆われる。ゲート導電部44は、ゲート配線に電気的に接続されている。ゲート導電部44に所定のゲート電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する界面の表層に電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0107】
ダミートレンチ部30は、当該断面において、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、製造用基板150の上面21に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー導電部34は、エミッタ電極52に電気的に接続されている。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられる。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と製造用基板150とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。例えばダミー導電部34は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ダミー導電部34は、深さ方向においてゲート導電部44と同一の長さを有してよい。本例のゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、製造用基板150の上面21において層間絶縁膜38により覆われている。
【0108】
ダイオード部80には、格子欠陥19が形成されてよい。格子欠陥19は、例えばヘリウム等の不純物を、製造用基板150に局所的に注入することで形成できる。格子欠陥19を設けることで、キャリアライフタイムを短くできる。このため、ダイオード部80の逆回復時間を短くでき、逆回復損失を低減できる。
【0109】
図1から
図16において説明した調整段階S110においては、格子欠陥19を形成する工程におけるプロセス条件(例えばヘリウムイオンのドーズ量、アニール時間等)を調整してよい。調整段階S110においては、バッファ領域20を形成する工程におけるプロセス条件(例えば水素イオンのドーズ量、アニール時間等)を調整してもよい。調整段階S110においては、他の領域を形成する工程におけるプロセス条件を調整してもよい。
【0110】
本例によれば、製造用基板150の初期特性(例えば酸素および炭素の濃度)のばらつきによる特性の変動を、プロセス条件の調整により相殺できる。例えば格子欠陥19の密度の変動を抑制できるので、順方向電圧Vf、リーク電流の大きさ、または、コレクタエミッタ間電圧Vceの変動を抑制できる。またバッファ領域20のドナー濃度および格子欠陥密度の変動を抑制できるので、リーク電流の大きさ、または、耐圧の変動を抑制できる。
【0111】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0112】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0113】
12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、18・・・ドリフト領域、19・・・格子欠陥、20・・・バッファ領域、21・・・上面、22・・・コレクタ領域、23・・・下面、24・・・コレクタ電極、30・・・ダミートレンチ部、32・・・ダミー絶縁膜、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、40・・・ゲートトレンチ部、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、60、61・・・メサ部、70・・・トランジスタ部、80・・・ダイオード部、82・・・カソード領域、100・・・半導体装置、120・・・近似線、130・・・評価用基板、131・・・主面、132・・・ドーピング領域、134・・・光源、136・・・測定部、140・・・シリコン原子、142・・・水素原子、143、144、151、152・・・特性、150・・・製造用基板、160・・・半導体インゴット、161・・・第1情報、162・・・第2情報、163・・・近似直線、164・・・範囲
【手続補正書】
【提出日】2023-09-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0037
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0037】
製造工程を経た半導体基板の特性とは、仕上がりの半導体素子の構造上の特性であってよく、電気的な特性であってもよい。構造上の特性とは、例えば所定の領域に存在する格子欠陥の密度である。電気的な特性とは、例えばダイオード素子の順方向電圧Vf、IGBTの飽和電圧Vce(sat)、これらの素子のもれ電流、非破壊で得られる最大印加電圧値あるいは最大印加電流値などである。ただし構造上の特性および電気的な特性は、上述した例に限定されない。仕上がりの半導体素子の電気的な特性とは、複数の半導体チップが半導体基板のウエハ上に形成されて分割されていない状態における電気的な特性であってよく、半導体基板のウエハをダイシング等により個々の半導体チップに分割した後の、それぞれの半導体チップの電気的な特性であってよい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0073
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0073】
図12は、相関情報(または近似線120)を生成するのに用いる第2情報162の一例を示す図である。第2情報162は、ドーピング領域132を形成した後の半導体基板の特性が、設定された特性値となる場合の、半導体基板の初期特性(図
12の例では炭素濃度)とプロセス条件(図
12の例ではヘリウムドーズ量)との関係を示す情報である。半導体基板の特性とは、電気的な特性であってよい。半導体基板の特性とは、半導体基板にドーピング領域132を含むダイオードを形成した場合の、所定の条件下における順方向電圧Vfであってよく、所定の条件下におけるリーク電流の大きさであってよく、所定の条件下における耐圧であってもよい。半導体基板の特性とは、半導体基板にドーピング領域132を含むトランジスタ(例えばIGBT)を形成した場合の、所定の条件下におけるコレクタエミッタ間電圧Vceであってよく、所定の条件下におけるリーク電流の大きさであってよく、所定の条件下における耐圧であってもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0088
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0088】
本例においては、製造用基板150に形成したドーピング領域132を測定して、製造用基板150に半導体素子を形成する製造工程におけるプロセス条件を調整する。具体的には、製造用基板150の一部の領域を用いて、
図1等において説明したS102~S110の工程を行う。その後、当該製造用基板150を用いて製造
段階S112を行う。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0095
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0095】
トランジスタ部70のメサ部60には、N+型のエミッタ領域12およびP型のベース領域14が、製造用基板150の上面21側から順番に設けられている。ベース領域14の下方にはドリフト領域18が設けられている。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0098
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0098】
ダイオード部80のメサ部61には、製造用基板150の上面21に接して、P型のベース領域14が設けられている。ベース領域14の下方には、ドリフト領域18が設けられている。