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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068590
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】回転翼航空機
(51)【国際特許分類】
   B64C 27/08 20230101AFI20240513BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20240513BHJP
   B64D 27/24 20240101ALI20240513BHJP
【FI】
B64C27/08
B64C39/02
B64D27/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179159
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健佑
(72)【発明者】
【氏名】田尻 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】袋瀬 健
(57)【要約】
【課題】マルチコプタ、ドローン或いは空飛ぶクルマ等の回転翼航空機を小型軽量化することである。
【解決手段】胴体に複数のロータを設けた回転翼航空機において、前記複数のロータの下方にコアンダ効果を引き起こす円形翼であって、上面が上方に向かって凸形状となるように湾曲している環状の曲面を有する前記円形翼をそれぞれ配置し、前記複数のロータの回転による前記第1の揚力、複数の前記円形翼のコアンダ効果による前記第2の揚力及び複数の前記円形翼の上面に沿って空気の噴流がそれぞれ下向きに偏向されることによる第3の揚力を発生させるようにした。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体に複数のロータを設けた回転翼航空機において、
前記複数のロータの下方にコアンダ効果を引き起こす円形翼であって、上面が上方に向かって凸形状となるように湾曲している環状の曲面を有する前記円形翼をそれぞれ配置し、
前記複数のロータの回転による前記第1の揚力、複数の前記円形翼のコアンダ効果による前記第2の揚力及び複数の前記円形翼の上面に沿って空気の噴流がそれぞれ下向きに偏向されることによる第3の揚力を発生させるようにした回転翼航空機。
【請求項2】
前記複数の円形翼の前記上面の少なくとも一部であって前記環状の曲面を含む前記少なくとも一部を、それぞれ前記上面との間に空気の流路が形成されるように隙間を空けてカウルで覆い、前記カウルに空気を前記流路に引き込むための吸気口を形成した請求項1記載の回転翼航空機。
【請求項3】
前記複数の円形翼の前記上面からそれぞれ前記流路に突出する舵面を設けた請求項2記載の回転翼航空機。
【請求項4】
前記複数の円形翼の少なくとも2つの下方にそれぞれ車輪及びバッテリの少なくとも一方を配置した請求項1記載の回転翼航空機。
【請求項5】
前記複数の円形翼の少なくとも2つの下方にそれぞれ車輪及びバッテリを配置することによって前記回転翼航空機の重心を前記各ロータよりも下方にし、かつ前記車輪よりも前記胴体側に前記バッテリを配置した請求項1記載の回転翼航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転翼航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転翼航空機の一種としてマルチコプタが知られている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4参照)。メインロータとテールロータを有するヘリコプタに対して、マルチコプタは3つ以上のロータを有する回転翼航空機であり、4つのロータを有するクワッドコプタや6つのロータを有するヘキサコプタが代表的である。ヘリコプタやマルチコプタ等の無人航空機(UAV:Unmanned aerial vehicle)はドローンと呼ばれるのに対して、マルチコプタからなる有人航空機は空飛ぶクルマとも呼ばれる。
【0003】
マルチコプタは、垂直方向に離着陸できるため垂直離着陸機(VTOL:Vertical Take-Off and Landing aircraft)に分類される。典型的なマルチコプタは、各ロータが電動モータで回転する電動式の回転翼航空機であるため、電動のVTOLを意味するeVTOLとも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-008563号公報
【特許文献2】特開2020-111124号公報
【特許文献3】特開2020-138713号公報
【特許文献4】国際公開第2021/095395号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、マルチコプタ、ドローン或いは空飛ぶクルマ等の回転翼航空機を小型軽量化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る回転翼航空機は、胴体に複数のロータを設けた回転翼航空機において、前記複数のロータの下方にコアンダ効果を引き起こす円形翼であって、上面が上方に向かって凸形状となるように湾曲している環状の曲面を有する前記円形翼をそれぞれ配置し、前記複数のロータの回転による前記第1の揚力、複数の前記円形翼のコアンダ効果による前記第2の揚力及び複数の前記円形翼の上面に沿って空気の噴流がそれぞれ下向きに偏向されることによる第3の揚力を発生させるようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の第1の実施形態に係る回転翼航空機の概略構成例を示す斜視図。
図2図1に示す回転翼航空機のロータを含む部分における詳細構成例を示す縦断面図。
図3図2に示すロータを含む部分の上面図。
図4】ロータのみで揚力を発生させる従来の回転翼航空機における問題を説明する図。
図5図2に示すようにロータと円形翼の双方で揚力を発生させる回転翼航空機の効果を説明する図。
図6】本発明の第2の実施形態に係る回転翼航空機が有する円形翼の構成を示す縦断面図。
図7図6に示す円形翼の下面図。
図8】本発明の第3の実施形態に係る回転翼航空機が有する円形翼の構成を示す縦断面図。
図9図8に示す円形翼の上面図。
図10】本発明の第4の実施形態に係る回転翼航空機の構成例を示す部分断面図。
図11】ロータを機体上方に配置した従来の回転翼航空機における問題点を説明する図。
図12】ロータを機体下方に配置した従来の回転翼航空機における問題点を説明する図。
図13図10に示す回転翼航空機の効果を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態に係る回転翼航空機について添付図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る回転翼航空機1の概略構成例を示す斜視図である。
【0010】
回転翼航空機1は、胴体2に複数のロータ3を設けて構成される。ロータ3は、ファン又はプロペラと呼ばれる場合もある。図1は、回転翼航空機1が4つのロータ3を有するマルチコプタである場合の例を示しているがロータ3の数は任意である。回転翼航空機1は、ドローンとも呼ばれるUAV、空飛ぶクルマとも呼ばれる有人航空機及びOPV(Optionally Piloted Vehicle)のいずれであっても良い。OPVはパイロットが搭乗して操縦することも可能な無人航空機であり、有人航空機と無人航空機のハイブリッド航空機である。
【0011】
回転翼航空機1は、複数のロータ3の回転数等を制御することによって垂直離着陸、推力の発生及び姿勢制御を行うことができる。このため、回転翼航空機1は、VTOLに分類することができる。
【0012】
図2図1に示す回転翼航空機1のロータ3を含む部分における詳細構成例を示す縦断面図であり。図3図2に示すロータ3を含む部分の上面図である。
【0013】
各ロータ3は、回転シャフト10に任意の数の複数のブレード11を固定して構成される。各ロータ3の回転シャフト10は、電動モータ12の出力シャフトと一体化され、電動モータ12の動力によって回転させることができる。すなわち、回転翼航空機1は、電動式のVTOLであり、eVTOLに分類することができる。
【0014】
尚、図2には、ブレード11のピッチ角を固定とし、電動モータ12の制御によってブレード11の回転数のみを制御できるロータ3が図示されているが、電動アクチュエータを取付けてブレード11のピッチ角を制御できるようにしても良い。但し、図2に例示されるようにブレード11のピッチ角を固定とすれば、ロータ3の構成を簡易にすることができる。
【0015】
ロータ3の外周は円筒状のカバー13で保護することができる。換言すれば、円筒状のカバー13で形成されるダクトの内側にロータ3を配置することができる。尚、円筒状のダクトで覆われたファンはダクテッドファンと呼ばれる。
【0016】
また、各ロータ3の下方には円形翼14がそれぞれ配置される。各円形翼14の上面は、コアンダ効果を引き起こす形状となっている。より具体的には、円形翼14の上面は、ロータ3の回転により引き込まれる空気によってコアンダ効果が生じるように上方に向かって凸形状となるように湾曲している環状の曲面を有する。コアンダ効果は粘性流体の噴流が周りの流体を引き込むことによって、凸形状の壁面を引き寄せる力が生じる現象である。
【0017】
このため、ロータ3のみならず、円形翼14によっても揚力を得ることができる。すなわち、回転翼航空機1には、揚力を発生させるための複数のロータ3に加えて、コアンダ効果によって揚力を発生させる複数の円形翼14が設けられる。
【0018】
円形翼14の下面の形状は任意であるが、円形翼14の下面側には揚力を得るための空気の流れが形成されない。従って、円形翼14の重量を軽減する観点から図2に示すように円形翼14は板状とすることが合理的である。より具体的には円形翼14を、図2に示すように上方に向かって凸形状となるように湾曲させた円形のディスクで構成することができる。
【0019】
ロータ3を回転させるための電動モータ12は、筐体が円形翼14の上面側に突出さないように下面側に突出させて円形翼14に固定することができる。すなわち、ロータ3の回転シャフト10と一体化される電動モータ12の出力シャフトのみを円形翼14の上面側に突出させることができる。これにより、円形翼14の上面に形成される空気の流れが乱れることを防止することができる。
【0020】
また、コアンダ効果による揚力を効果的に得るためには円形翼14の上面に沿って放射状に環状の曲面に向かう空気の流れを形成することが好ましい。従って、ロータ3の中心軸と、円形翼14の中心軸が同一直線上となるようにロータ3と円形翼14を配置することが適切である。ロータ3の回転によって引き込んだ空気を円形翼14の上面に導くためには、ロータ3のカバー13と円形翼14の上面との間に空気を流すための隙間を形成することが必要となる。このため、円形翼14の上面に長さ方向が放射状となるように複数のリブ15を固定し、リブ15にロータ3のカバー13を固定することができる。リブ15の横断面の形状は、ハット型やI字型など任意の形状とすることができる。
【0021】
各円形翼14の上面に沿って望ましい空気の流れを形成するためには、円形翼14の上面に沿う空気の流路16と、流路16への空気の取込口を形成しつつ、円形翼14の上面を覆うことが望ましい。そこで、各円形翼14の上面の少なくとも一部を、それぞれ上面との間に空気の流路16が形成されるように隙間を空けてカウル17で覆い、カウル17に周囲の空気を流路16に引き込むための吸気口18を形成することが実用的である。
【0022】
尚、カウルは、航空機等のエンジンや胴体を覆う整流用の部品であり、板状のカウルはカウルプレートと呼ばれる。円形翼14の湾曲する上面を覆うカウル17は、円形翼14の湾曲する上面の形状に合わせて上方に向かって凸形状となるように湾曲した部分を有するカウルプレートで構成することが現実的である。
【0023】
カウル17についても、ロータ3のカバー13と同様にリブ15を介して円形翼14の上面に固定することができる。また、強度を確保するために適切な位置にリブ15を配置し、カウル17とリブ15からなる支持構造19でロータ3と円形翼14を胴体2に固定することができる。尚、ロータ3と円形翼14を胴体2に固定する支持構造19は、棒状のアームで構成しても良い。その場合には、円形翼14を覆うカウル17と、胴体2を形成するカウル17を別々に設け、円形翼14を覆うカウル17の形状を円形翼14と同様に逆お椀型又はドーム状としても良い。
【0024】
ロータ3のカバー13で形成されるダクトは、円形翼14の上面に向かう空気の流路を形成するとともに、円形翼14の上面に沿う空気の流路15への空気の取込口として機能する。このため、ロータ3のカバー13と干渉しないようにカバー13の周囲にカウル17を配置することができる。ブレード11の長さが短い場合には、コアンダ効果を生じさせる円形翼14の環状の曲面がカバー13の外側となる。このため、コアンダ効果を生じさせる円形翼14の環状の曲面を含む上面の部分を、吸気口18を有するカウル17で覆うことができる。
【0025】
カウル17に形成される吸気口18は、例えば図3に示すように同心円状に配置される断続的な円弧状の複数のスリットとすることができる。図3に示す例では、放射状に配置されるリブ15の間にロータ3及び円形翼14の半径方向に2本ずつスリットが吸気口18としてカウル17に形成されている。尚、スリットに代えて、或いはスリットに加えて貫通孔を吸気口18としてカウル17に形成しても良い。
【0026】
このような吸気口18をカウル17に形成することによって、カウル17の外側にある空気を、円形翼14の上面に沿う空気の流路16に引き込むことができる。吸気口18の位置、形状、サイズ及び数等の条件は、適量の空気を流路16に引き込む一方、引き込んだ空気が流路16から漏れ出ないように試験やシミュレーション等によって決定することが適切である。
【0027】
上述した円形翼14付きのロータ3を用いると、3種類の揚力を発生させることができる。第1の揚力は、複数のロータ3の回転によって得られる揚力である。すなわち、ロータ3に空気が引き込まれることによって第1の揚力が発生する。第2の揚力は、複数の円形翼14のコアンダ効果による揚力である。すなわち、ロータ3の回転によって円形翼14の上面に沿う流路15に空気を送り込むと空気が放射状に加速され、コアンダ効果によりカウル17の吸気口18から空気が引き込まれる。これにより、第2の揚力が円形翼14の上面において円形翼14に発生する。更に第3の揚力として、複数の円形翼14の上面に沿って空気の噴流がそれぞれ下向きに偏向されることによる揚力が円形翼14の端部において生じる。
【0028】
(効果)
以上の回転翼航空機1は、ロータ3の下方に揚力を発生させる円形翼14を配置したものである。このため、回転翼航空機1によれば、円形翼14で揚力を発生できることからロータ3を小型化することができる。その結果、回転翼航空機1の軽量化を図り、航続距離を延ばすことができる。
【0029】
図4はロータ20のみで揚力を発生させる従来の回転翼航空機21における問題を説明する図である。
【0030】
図4に示すようにロータ20のみで揚力を発生させる従来の回転翼航空機21の場合には、ロータ20の揚力のみで機体重量を受けられるように大きなロータ20を回転翼航空機21に搭載することが必要となる。この場合、ロータ20及び電動モータ22の重量が増加するのみならず、ロータ20と電動モータ22を支持するアーム23の長さが長くなる。このため、アーム23にかかる位置ごとの曲げモーメントの相対値を表すグラフに示すように、ロータ20の回転シャフト24に集中荷重として生じる揚力によってアーム23にかかる曲げモーメントが大きくなる。その結果、空力要求を満たすために制約が大きくなるという問題がある。
【0031】
加えて、ロータ20のみで揚力を発生させる従来の回転翼航空機21の場合には、ロータ20を回転させるためのトルクに加えてロータ20で得られた揚力をロータ20の回転シャフト24と一体化される電動モータ22の出力シャフトで伝達することが必要となる。このため、電動モータ22の消費電力及び重量が増加してしまうという問題がある。
【0032】
このような背景からUAVよりも重量が大きく大型化が要求される空飛ぶクルマを、ロータ20のみで揚力を発生させる従来の回転翼航空機21で構成しようとすると、航続距離が短くなり、かつ大型化が困難になるという問題がある。
【0033】
図5図2に示すようにロータ3と円形翼14の双方で揚力を発生させる回転翼航空機1の効果を説明する図である。
【0034】
図5に示すようにロータ3と円形翼14の双方で揚力を発生させる場合には、ロータ3を小型化できるのみならず、揚力分布を円形翼14の上面に分散させることができる。すなわち、揚力を集中荷重とせずに分布荷重とすることができる。その結果、位置ごとの曲げモーメントの相対値を表すグラフに示すように、ロータ3を支持する円形翼14にかかる曲げモーメントを低減することができる。しかも、円形翼14の下面側に空力的な制約が無い。
【0035】
また、円形翼14で揚力が生じる分、電動モータ12の出力シャフトで伝達される揚力が減少する。その結果、電動モータ12のサイズ、重量及び消費電力を低減できるだけでなく、電動モータ12を支持するための構造重量も低減することができる。
【0036】
ロータ3と円形翼14の双方で揚力を発生させる回転翼航空機1では、上述した効果の他、安全性と静粛性を向上できるという効果が得られる。すなわち、ロータ3の周囲をカバー13で囲う一方、円形翼14の上面をカウル17で遮蔽することによって、外部に露出する部分を小型化されたロータ3の上面のみとすることができる。特に、ロータ3の下面は円形翼14で遮蔽されており、人や物が下方からロータ3に接触する恐れが無い。このため、安全性を確保することができる。加えて、騒音の防止にも繋がる。また、静粛性を一層向上させるために吸音材等をロータ3のカバー13、円形翼14及びカウル17等に取付けることも容易となる。
【0037】
(第2の実施形態)
図6は本発明の第2の実施形態に係る回転翼航空機1Aが有する円形翼14の構成を示す縦断面図であり、図7図6に示す円形翼14の下面図である。
【0038】
図6及び図7に示された第2の実施形態における回転翼航空機1Aでは、円形翼14の下面側をリブ30で補強した点が第1の実施形態における回転翼航空機1と相違する。第2の実施形態における回転翼航空機1Aの他の構成及び作用については第1の実施形態における回転翼航空機1と実質的に異ならないため円形翼14を含む一部のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0039】
ロータ3及び円形翼14で発生させる揚力はロータ3及び円形翼14の半径方向に分布するが、分布する揚力によって円形翼14には曲げモーメントが生じる。これに対して、円形翼14を湾曲させた円形のプレートのみで構成すると、円形翼14の強度が不十分となる可能性がある。
【0040】
そのような場合には、図6及び図7に示すように円形翼14の下面側にリブ30を設けて円形翼14の強度を確保することができる。図6及び図7に示す例では円形翼14の半径方向を長さ方向とする4本のリブ30が電動モータ12の周囲に放射状に配置されているが、リブ30の数及び配置は任意である。また、リブ30の横断面の形状は、ハット型やI字型など任意の形状とすることができる。
【0041】
以上の第2の実施形態によれば、ロータ3及び円形翼14で、より大きな揚力を発生させることが可能となる。その結果、回転翼航空機1Aの大型化が可能となる。
【0042】
(第3の実施形態)
図8は本発明の第3の実施形態に係る回転翼航空機1Bが有する円形翼14の構成を示す縦断面図であり、図9図8に示す円形翼14の上面図である。
【0043】
図8及び図9に示された第3の実施形態における回転翼航空機1Bでは、円形翼14の上面に舵面40を設けた点が第1の実施形態における回転翼航空機1及び第2の実施形態における回転翼航空機1Aと相違する。第3の実施形態における回転翼航空機1Bの他の構成及び作用については第1の実施形態における回転翼航空機1及び第2の実施形態における回転翼航空機1Aと実質的に異ならないため円形翼14を含む一部のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0044】
図8及び図9に示すように、各円形翼14の上面には舵面40を取付けることができる。図8及び図9に示す例では、ロータ3のカバー13の内側において円形翼14の上面から突出する複数のフィン41と、カウル17の内側において円形翼14の上面から流路16に突出する複数のフィン41が、それぞれ舵面40としてロータ3及び円形翼14の中心軸を中心として放射状に配置されている。円形翼14の上面に対する各フィン41の傾斜角度は、電動アクチュエータによって可変制御することができる。
【0045】
尚、図8及び図9には円形翼14の半径方向を長さ方向とするフィン41を円形翼14の上面に設けた例が示されているが、円形翼14の円周方向又は接線方向など円形翼14の半径方向と交差する方向を長さ方向とするフィン41を円形翼14の上面に設けても良い。また、第2の実施形態のように円形翼14の下面側にリブ30を設けて円形翼14の強度を補強しても良い。
【0046】
以上の第3の実施形態によれば、ロータ3の制御に加えて舵面40の制御によって回転翼航空機1Bの推力偏向等を行うことができる。このため、ロータ3のピッチ角が固定であっても、回転翼航空機1Bの姿勢制御が容易となる。その結果、可変ピッチロータを不要とし、ロータ3の構造を単純化することができる。また、各舵面40は電動モータ12の出力シャフトで支持されない円形翼14の上面に配置されるため、電動モータ12の消費電力及びロータ3を支持するための構造重量の増加を回避することができる。
【0047】
(第4の実施形態)
図10は本発明の第4の実施形態に係る回転翼航空機1Cの構成例を示す部分断面図である。
【0048】
図10に示された第4の実施形態における回転翼航空機1Cでは、円形翼14の下方に車輪50及びバッテリ51を配置した点が第1乃至第3の実施形態における回転翼航空機1、1A、1Bと相違する。第4の実施形態における回転翼航空機1Cの他の構成及び作用については第1乃至第3の実施形態における回転翼航空機1、1A、1Bと実質的に異ならないため回転翼航空機1Cの一部のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0049】
円形翼14の直下は物を配置するためのスペースとして活用することができる。そこで、円形翼14の下方に床を形成するためのプレート52を連結し、プレート52の上に重量物を載置することができる。つまり、円形翼14の下方にプレート52を連結することによって重量物の収納ボックスを形成することができる。
【0050】
図10に示す例では、ロータ3及び収納ボックスを形成する円形翼14がカウル17とリブ15で構成される支持構造19で胴体2に連結されている。すなわち、ロータ3及び円形翼14が支持構造43で支持されている。もちろん、フレームやアーム等の任意の支持構造でロータ3及び円形翼14を支持することができる。
【0051】
回転翼航空機1Cの代表的な重量物としては、車輪50とバッテリ51が挙げられる。そこで、各円形翼14の下方にそれぞれ車輪50及びバッテリ51の少なくとも一方を配置することができる。もちろん、ペイロード等の機器を円形翼14の下方に配置しても良い。バッテリ51が複数のロータ3に共通である場合には、バッテリ51については客室の床下など胴体2内に配置するようにしても良い。
【0052】
また、車輪50の数が4つであり、円形翼14を設けたロータ3の数が6つである場合のように、円形翼14の数よりも車輪50の数の方が少ない場合や、一部の円形翼14の下方が車輪50の位置として適切でない場合には、下方が車輪50の位置として適切な一部の円形翼14の下方に車輪50を配置することができる。従って、複数の円形翼14のうち少なくとも2つの円形翼14の下方にそれぞれ車輪50及びバッテリ51の少なくとも一方を配置することができる。
【0053】
図10に例示されるように複数の円形翼14のうち少なくとも2つの円形翼14の下方にそれぞれ車輪50及びバッテリ51の双方を配置する場合には、車輪50よりも胴体2側にそれぞれバッテリ51を配置することが望ましい。これは、対をなす2つの車輪50の間隔を広くすることによって、回転翼航空機1Cの地上走行時における安定性を向上できるためである。
【0054】
また、典型的な空飛ぶクルマに備えられるバッテリは、低重心化を図るために乗員が搭乗する客室の床下に配置されるが、客室の床下にバッテリを配置しない場合にはバッテリを配置するための床下のスペースが不要となる。このため、床の位置を低くし、乗員の重量を含めた空飛ぶクルマの重心を下げることができる。
【0055】
そこで、バッテリ51を円形翼14の直下に配置する一方、客室の床下にバッテリ51を配置するためのスペースを設けないことによって、乗員を含めた回転翼航空機1Cの重心を各ロータ3よりも下方にすることができる。これにより、回転翼航空機1Cの飛行時における安定性を向上することができる。
【0056】
(効果)
以上の第4の実施形態は、円形翼14の下方を車輪50やバッテリ51等を配置するためのスペースとして有効利用するようにしたものである。このため、第4の実施形態によれば、以下に詳述するように、従来の回転翼航空機と比較して、回転翼航空機1Cの低重心化、整備容易性の向上、軽量化及び安定性の向上を図ることができる。
【0057】
従来の空飛ぶクルマ等の回転翼航空機は、ロータを機体の上方に配置するタイプと、ロータを機体の下方に配置するタイプに大別される。
【0058】
図11はロータ20を機体上方に配置した従来の回転翼航空機21Aにおける問題点を説明する図である。
【0059】
図11に示すように大きなロータ20の回転シャフト24を電動モータ22で回転させ、かつ電動モータ22をアーム23で支持する従来のロータ20を機体の上方に配置すると、ロータ20の支持構造25Aと、車輪26の支持構造25Bが別々に必要となる。このため、回転翼航空機21Aの重量の増加に繋がるのみならず、各支持構造25A、25Bにかかる位置ごとの曲げモーメントの相対値を表すグラフに示すように、回転翼航空機21Aの飛行時と着陸時に各支持構造25A、25Bに別々に曲げモーメントが生じる。
【0060】
従って、各支持構造25A、25Bについて、それぞれ曲げモーメントに応じた強度設計することが必要となる。しかも、回転翼航空機21Aの飛行時と着陸時との間において支持構造25A、25Bにそれぞれ作用する曲げモーメントに大きな差が生じる。このため、各支持構造25A、25Bの強度の面において効率が悪い。
【0061】
加えて、ロータ20の下方には、空力制約によって車輪26及びバッテリ27等の機器を配置することができない。その結果、車輪26の間隔を長くすることができず、地上走行時における回転翼航空機21Aの安定性が低下するのみならず。客室の床下に配置にバッテリ27を配置することが必要になることから、床の高さとともに乗員を含む回転翼航空機21Aの重心が高くなる。また、ロータ20が機体の上方にあることからロータ20の整備容易性が低い。
【0062】
図12はロータ20を機体下方に配置した従来の回転翼航空機21Bにおける問題点を説明する図である。
【0063】
図12に示すように大きなロータ20の回転シャフト24を電動モータ22で回転させ、かつ電動モータ22をアーム23で支持する従来のロータ20を機体の下方に配置する場合においても、ロータ20を機体の上方に配置する場合と同様に、ロータ20の下方には、空力制約によって車輪26及びバッテリ27等の機器を配置することができない。その結果、車輪26の間隔を長くすることができず、地上走行時における回転翼航空機21Bの安定性が低下する。
【0064】
また、バッテリ27を客室の床下に配置しなければならず、床の高さとともに乗員の重心が高くなる。その結果、乗員を含む回転翼航空機21Bの重心がロータ20よりも上方となり、回転翼航空機21Bの飛行時における安定性が低下する。
【0065】
加えて、車輪26とロータ20を共通の支持構造25で支持できるものの、支持構造25にかかる位置ごとの曲げモーメントの相対値を表すグラフに示すように、回転翼航空機21Bの飛行時と着陸時との間において支持構造25に作用する曲げモーメントに大きな差が生じる。このため、支持構造25の強度の面において効率が悪い。
【0066】
図13図10に示す回転翼航空機1Cの効果を説明する図である。
【0067】
図13に示すようにロータ3及び円形翼14の下方に車輪50とバッテリ51を配置した回転翼航空機1Cの場合には、床下にバッテリ51を配置するためのスペースが不要となる。このため、乗員の座席の位置を低くすることによって、乗員を含む回転翼航空機1Cの重心をロータ3よりも低くすることができる。これにより、回転翼航空機1Cの飛行時における安定性を向上することができる。一方、バッテリ51の有無を問わず車輪50の間隔を従来よりも広くできるため、回転翼航空機1Cの地上走行時における安定性も向上することができる。
【0068】
また、回転翼航空機1Cの飛行時には、ロータ3と円形翼14で発生させる揚力を打消す方向にバッテリ51及び車輪50の重力が作用する。一方、回転翼航空機1Cの着陸時には、地上から車輪50に作用する垂直抗力を打消す方向にロータ3及び車輪50の重力が作用する。
【0069】
その結果、回転翼航空機1Cの飛行時及び着陸時にロータ3及び円形翼14の支持構造19に作用する荷重と曲げモーメントを低減することができる。このため、車輪50とロータ3を共通の支持構造19で支持できるだけでなく、支持構造19自体の強度を低減できるので、回転翼航空機1Cの重量の軽減に繋がる。また、支持構造19及びプレート52を含む円形翼14にかかる位置ごとの曲げモーメントの相対値を表すグラフに示すように、回転翼航空機1Cの飛行時と着陸時との間において、支持構造19及びプレート52を含む円形翼14に作用する曲げモーメントに生じる差が小さくなる。このため、支持構造19の強度の面において効率が良い。
【0070】
上述した効果の他、ロータ3、電動モータ12、バッテリ51及び車輪50等の整備対象となる機器及び装置を胴体2の外部において下方に集約することができる。このため、回転翼航空機1Cの整備に要する労力を低減できる。
【0071】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0072】
1、1A、1B、1C 回転翼航空機
2 胴体
3 ロータ
10 回転シャフト
11 ブレード
12 電動モータ
13 カバー
14 円形翼
15 リブ
16 流路
17 カウル
18 吸気口
19 支持構造
20 ロータ
21、21A、21B 回転翼航空機
22 電動モータ
23 アーム
24 回転シャフト
25、25A、25B 支持構造
26 車輪
27 バッテリ
30 リブ
40 舵面
41 フィン
50 車輪
51 バッテリ
52 プレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13