(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068614
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】高所作業安全管理システム
(51)【国際特許分類】
E04G 21/32 20060101AFI20240513BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20240513BHJP
G01P 15/00 20060101ALI20240513BHJP
G01C 5/06 20060101ALI20240513BHJP
A62B 35/00 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
E04G21/32 Z
G08B21/02
E04G21/32 D
G01P15/00 Z
G01C5/06
A62B35/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084183
(22)【出願日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2022178839
(32)【優先日】2022-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591080678
【氏名又は名称】株式会社中電工
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大地 秀二
(72)【発明者】
【氏名】加村 敦
【テーマコード(参考)】
2E184
5C086
【Fターム(参考)】
2E184JA03
2E184KA11
2E184MA09
5C086AA22
5C086CA01
5C086CA16
5C086CA21
5C086CA25
5C086FA01
(57)【要約】
【課題】例えば脚立や立馬等を使用して高所作業を行う場合を正確に判定し、必要に応じて警告できるようにする。
【解決手段】高所作業安全管理システム1は、フック状態検出センサ20と、作業者に装着された加速度センサ51と、高所作業が不安全状態であることを報知する報知部55とを備えている。作業者が高所に到達するまでに変化する複数の加速度データによって学習された学習済みモデルに、加速度センサ51から順次出力された加速度の測定データを入力して作業者が高所に到達したか否かを判定し、作業者が高所に到達し、かつ、フックが落下防止用部材にかけられた状態でないことが検出された場合には、不安全状態であることを報知するように報知部55を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安全帯を装着して高所作業を行う作業者を管理する高所作業安全管理システムにおいて、
前記安全帯のフックに設けられ、作業者の落下を防止する落下防止用部材に前記フックがかけられた状態であるか否かを検出するフック状態検出センサと、
作業者に装着された加速度センサと、
作業者による高所作業が不安全状態であることを報知する報知部と、
作業者が前記高所作業を行う高所に到達するまでに変化する複数の加速度データによって学習された学習済みモデルに、前記加速度センサから順次出力された加速度の測定データを入力して作業者が前記高所に到達したか否かを判定する判定部と、
前記判定部により作業者が前記高所に到達したと判定された場合で、かつ、前記フック状態検出センサにより、前記フックが前記落下防止用部材にかけられた状態でないことが検出された場合には、不安全状態であることを報知するように前記報知部を制御する制御部とを備えていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
作業者に装着され、作業者の周囲の大気圧を検出して大気圧値を順次出力する大気圧センサと、
前記大気圧センサから時系列に出力された各大気圧値と、当該大気圧値が検出された時に前記加速度センサから出力された加速度の測定データとがそれぞれ関連付けられた状態で記憶される記憶部と、
前記記憶部で記憶された大気圧値を大きい順または小さい順に並び替えるソート処理を実行するとともに、当該ソート処理によって並び替えられた大気圧値に対応するように加速度の測定データを並び替えるデータ処理部とを備え、
前記データ処理部によって並び替えられた加速度データを前記学習済みモデルに入力するように構成されていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項3】
請求項2に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記データ処理部は、同じ大気圧値が複数存在している場合には一の大気圧値を残して他の大気圧値を削除するとともに、削除した大気圧値に対応する加速度の測定データを削除することを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項4】
請求項3に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記データ処理部は、最大大気圧値から最小大気圧値までの大気圧変化量を所定の数で分割するリサンプリング処理を実行し、前記大気圧センサから出力された複数の大気圧値のうち、リサンプリング処理後の各分割点における大気圧値に最も近い大気圧値を複数特定し、特定した複数の大気圧値に基づいて、リサンプリング処理後の各分割点における大気圧値が測定された時間を算出するとともに、当該時間における加速度を算出し、
前記判定部は、前記加速度の測定データと前記データ処理部が算出した加速度の算出データとを前記学習済みモデルに入力して作業者が高所に到達したか否かを判定するように構成されていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項5】
請求項4に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記学習済みモデルは、作業者が第1の高所に到達するまでに変化する複数の加速度データと、作業者が第2の高所に到達するまでに変化する複数の加速度データとによって学習されていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項6】
請求項5に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記第1の高所は、脚立の上であり、
前記第2の高所は、立馬の上であることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば各種建築物の建築作業や維持管理、保守点検作業等で使用される高所作業安全管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、エレベータの保守点検作業で使用される保守点検支援システムが開示されている。特許文献1の保守点検支援システムは、保守員が所持する携帯端末を備えており、この携帯端末には気圧センサが内蔵されている。この保守点検支援システムによれば、気圧センサが検出した大気圧の値と、予め設定されている基準階での大気圧の値との差によって携帯端末の位置と基準階との高度の差を求め、高度の差が所定の値以下であれば、乗りかごを基準階に移動させて表示装置に保守点検作業を実施することを予告するメッセージを表示装置に表示させるように構成されている。
【0003】
また、特許文献2には、高所作業推定装置が開示されている。この高所作業推定装置も、作業者が所持する携帯端末を備えている。携帯端末には、気圧センサと加速度センサが内蔵されている。高所作業推定装置は、気圧センサによって作業者の存在する場所の気圧の情報を示す気圧情報を取得し、取得した気圧情報と基準気圧との差分が所定の閾値を超過した場合、作業者が高所にいると判定し、閾値を超過しない場合、作業者は高所にいないと判定する。さらに、高所作業推定装置は、加速度センサで取得された加速度情報に基づいて作業者が作業を実施しているか否かを判定する。そして、作業者が高所におり、かつ、作業を実施している場合にのみ、携帯端末や監督者端末にアラートや振動等の警告が出力されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-165521号公報
【特許文献2】特許第6684863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、各種建築物の建築作業や維持管理、保守点検作業等においては、高所作業が必要な場面が多く存在する。一般に、作業者は安全帯を身に付けているが、高所作業時にフックをかけていなければ万一の場合の墜落事故を未然に防止することはできない。
【0006】
この点、特許文献1では、保守員が所持する携帯端末に内蔵された気圧センサによって携帯端末の位置と基準階との高度の差を検出しているが、その検出結果は、単に乗りかごの移動や保守点検作業を実施することを予告するメッセージを表示装置に表示させる制御に使用されているだけであり、墜落事故を防止するために使用されるものではなかった。
【0007】
また、特許文献2では、作業者が高所におり、かつ、作業を実施している場合にのみ、警告を出力するので、安全帯のフックを手摺り等にかけて正しく高所作業を行っていても、いちいち警告が出力されることになり、警告が煩わしく感じることが考えられる。加えて、特許文献2では、作業者が動いていない場合には加速度が0になるので作業を行っていないと判定し、その結果、高所にいたとしても警告が出力されないことになる。しかしながら、作業者が作業を行っていなかったとしても高所にいれば安全帯のフックをかけておかなければならず、このような場合、特許文献2の装置では対応できなかった。
【0008】
また、特許文献1、2では、気圧センサによって作業者の作業高さを推定しているが、その推定結果が正確でなければ、不要な警告がなされる、または必要な時に必要な警告がなされないといった不具合の発生要因となり得る。具体的には、例えば、エレベータで昇降している場合、階段の上り下り、立ち上がり、かがむ動作等を行ったとしても危険性がないので、警告は不要であるが、各動作が危険なものであるかそうでないかを気圧センサで正確に判断することは難しい。
【0009】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、例えば脚立や立馬等を使用して高所作業を行う場合を正確に判定し、必要に応じて適切に警告できるようにして作業者の安全を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本開示の一態様では、安全帯を装着して高所作業を行う作業者を管理する高所作業安全管理システムを前提とすることができる。高所作業安全管理システムは、前記安全帯のフックに設けられ、作業者の落下を防止する落下防止用部材に前記フックがかけられた状態であるか否かを検出するフック状態検出センサと、作業者に装着された加速度センサと、作業者による高所作業が不安全状態であることを報知する報知部と、作業者が前記高所作業を行う高所に到達するまでに変化する複数の加速度データによって学習された学習済みモデルに、前記加速度センサから順次出力された加速度の測定データを入力して作業者が前記高所に到達したか否かを判定する判定部と、前記判定部により作業者が前記高所に到達したと判定された場合で、かつ、前記フック状態検出センサにより、前記フックが前記落下防止用部材にかけられた状態でないことが検出された場合には、不安全状態であることを報知するように前記報知部を制御する制御部とを備えている。
【0011】
この構成によれば、加速度センサが作業者に装着されているので、作業者の動きの変化や速さの変化が加速度として間接的に取得される。この加速度センサから順次出力された加速度の測定データが学習済みモデルに入力される。学習済みモデルは、実際に高所作業を行う際、高所に到達するまでに変化する複数の加速度データによって学習されているので、入力された加速度データが、高所作業を行う高所に到達するデータであるか、それ以外のデータであるかの判定が可能になる。作業者が高所作業を行うべく高所に到達したと判定部によって判定されながら、安全帯のフックが例えば手摺りやロープのような落下防止用部材にかけられた状態でない場合は、作業者による高所作業が不安全状態であると言える。この場合に、制御部は、作業者による高所作業が不安全状態であることを報知部に報知させ、例えば監督者や管理者等にそのことを知らせることができる。これにより、不安全状態を改めるように作業者に注意できる。また、不安全状態であることを報知部によって作業者自身に知らせることもでき、この場合も不安全状態を改めさせて安全に高所作業を行うことができる。
【0012】
また、高所作業安全管理システムは、作業者に装着され、作業者の周囲の大気圧を検出して大気圧値を順次出力する大気圧センサと、前記大気圧センサから時系列に出力された各大気圧値と、当該大気圧値が検出された時に前記加速度センサから出力された加速度の測定データとがそれぞれ関連付けられた状態で記憶される記憶部と、前記記憶部で記憶された大気圧値を大きい順または小さい順に並び替えるソート処理を実行するとともに、当該ソート処理によって並び替えられた大気圧値に対応するように加速度の測定データを並び替えるデータ処理部とを備えていてもよい。この場合、前記データ処理部によって並び替えられた加速度データを前記学習済みモデルに入力することができる。
【0013】
また、前記データ処理部は、同じ大気圧値が複数存在している場合には一の大気圧値を残して他の大気圧値を削除するとともに、削除した大気圧値に対応する加速度の測定データを削除することもできる。これにより、重複するデータが学習済みモデルに入力されないようにすることができる。
【0014】
また、前記データ処理部は、最大大気圧値から最小大気圧値までの大気圧変化量を所定の数で分割するリサンプリング処理を実行し、前記大気圧センサから出力された複数の大気圧値のうち、リサンプリング処理後の各分割点における大気圧値に最も近い大気圧値を複数特定し、特定した複数の大気圧値に基づいて、リサンプリング処理後の各分割点における大気圧値が測定された時間を算出するとともに、当該時間における加速度を算出することもできる。この場合、前記判定部は、前記加速度の測定データと前記データ処理部が算出した加速度の算出データとを前記学習済みモデルに入力して作業者が高所に到達したか否かを判定してもよい。これにより、測定データの数が多くても、所望の数のデータに再構築することができ、学習済みモデルでの判定精度が向上する。
【0015】
また、学習済みモデルは、作業者が第1の高所に到達するまでに変化する複数の加速度データと、作業者が第2の高所に到達するまでに変化する複数の加速度データとによって学習されていてもよく、この場合、前記第1の高所は、脚立の上とし、前記第2の高所は、立馬の上としてもよい。この構成によれば、作業者が脚立の上にいるか、及び立馬の上にいるかを、学習済みモデルによって精度良く判定できる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、作業者に装着された加速度センサから順次出力された加速度の測定データを学習済みモデルに入力して作業者が高所に到達したか否かを判定可能にし、作業者が高所に到達したと判定された場合で、かつ、安全帯のフックが落下防止用部材にかけられた状態でないことが検出された場合には、報知部が不安全状態であることを報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る高所作業安全管理システムが使用される作業現場を示す図である。
【
図2】上記高所作業安全管理システムの概略構成図である。
【
図5】測定順に並べた大気圧値及び加速度の測定データを示す表である。
【
図6】
図5に示す表のデータに基づいて作成されたグラフである。
【
図7】重複する大気圧値及び対応する加速度の測定データを削除し、ソート処理を実行した後の表である。
【
図8】
図7に示す表のデータに基づいて作成されたグラフである。
【
図9】リサンプリング後の大気圧値を示す表及びグラフである。
【
図10】リサンプリング大気圧値とソート処理後大気圧値とを示す表である。
【
図11】
図10に示す表のデータに基づいて作成されたグラフである。
【
図12】リサンプリングされたデータに基づいて作成されたグラフである。
【
図13】大気圧、変化点及び加速度の時系列データを示すグラフである。
【
図14】リングバッファによるデータの保存構造を説明する図である。
【
図15】脚立を登る場合にリングバッファを用いて大気圧変動区間を抽出し、ソート処理する例を説明するグラフである。
【
図16】
図15に示す例に係り、データの削除、リサンプリング処理、出力データを説明するグラフである。
【
図17】階段を登る場合にリングバッファを用いて大気圧変動区間を抽出し、ソート処理する例を説明するグラフである。
【
図18】
図17に示す例に係り、データの削除、リサンプリング処理、出力データを説明するグラフである。
【
図19】高所作業安全管理システムの処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る高所作業安全管理システム1(
図2に示す)が使用される作業現場を示す図である。作業現場は、例えば各種建築物の建築作業や維持管理、保守点検作業等が行われる現場である。本実施形態に係る高所作業安全管理システム1が対象とする作業現場は、複数階を有する建築物や仮設足場等である。このような作業現場における各種建築作業には、例えば屋内外の配管作業や配線作業等が含まれる。このような各種作業現場では、脚立や立馬に上がっての作業、足場に上がっての作業、機械の上に登っての作業、高い作業台上での作業等、いわゆる高所作業が伴うことがある。高所作業とは、例えば床や地面の高さを基準高さとした場合、基準高さから例えば1.5mまたは2.0m以上高い所(所定以上高い所)での作業と定義することができ、労働安全衛生法の定義にしたがってもよい。
【0020】
図1に示すように、作業現場には、作業者Aが歩行したり、各種作業を行ったりするための作業床100と、落下防止用部材101とが設けられている。作業床100は、高所作業を行うための床であり、基準高さから所定以上高い所に配置されている。作業床100は、例えば脚立の上の板や立馬の上の板、足場板で構成されていてもよいし、作業台で構成されていてもよい。落下防止用部材101は、作業者Aの作業床100からの落下を防止するための部材であり、例えば手摺りや横に張り渡されたロープ等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、各種構造物の一部であってもよい。
【0021】
作業者Aは、高所作業に備えて安全帯200を装着している。この実施形態では、安全帯200がフルハーネスタイプのものである場合について説明する。安全帯200は、作業者Aの腰に巻き付ける腰ベルト201、大腿部に巻き付ける脚ベルト202、腰ベルト201から肩まで延びる肩ベルト203と、腰ベルト201から左右にそれぞれ延びるランヤード204の先端部に取り付けられたフック205とを備えている。尚、本発明は、フルハーネスタイプの安全帯200以外の安全帯、例えば脚ベルト202や肩ベルト203の無い安全帯にも適用することができる。また、フック205は、1つだけ設けられていてもよい。
【0022】
図2は、高所作業安全管理システム1の一構成例を示しており、高所作業安全管理システム1の概略構成図である。高所作業安全管理システム1は、作業者Aに装着される第1子機2及び第2子機5と、第1子機2及び第2子機5から離れて設置される親機3と、管理者端末4とを備えている。第1子機2及び第2子機5はペアであり、同じペアの第1子機2及び第2子機5が作業者Aに装着される。
【0023】
第1子機2と第2子機5とは、LPWA(Low Power Wide Area)の近距離無線通信によって通信可能に構成されている。また、第1子機2及び第2子機5と親機3とは、LPWAの近距離無線通信によって通信可能に構成されている。第1子機2と第2子機5との通信形態、第1子機2及び第2子機5と親機3との通信形態は、上記近距離無線通信に限られるものではなく、インターネット回線やローカルエリアネットワーク回線等による通信形態であってもよい。また、親機3と管理者端末4とは、例えばインターネット回線やローカルエリアネットワーク回線等を介して接続することができるが、これもLPWAの近距離無線通信によって通信可能に構成されていてもよい。通信手段の詳細については後述する。また、図示しないが、親機3の機能を第1子機2または第2子機5に持たせてもよく、この場合、親機3を省略することができる。また、管理者端末4の機能を親機3に持たせてもよく、この場合、管理者端末4を省略することができる。
【0024】
高所作業安全管理システム1は、安全帯200を装着して高所に上がり、高所作業を行う作業者Aを管理するシステムである。作業者Aの管理とは、作業者Aが不安全な高所作業を行っているか否かを判定し、安全であれば特に報知等することなく、作業を継続させ、不安全であれば例えば管理者や作業者A自身に報知し、不安全であることを知らせて改善させることである。本高所作業安全管理システム1を使用することで、作業者Aの管理が可能になる。以下、高所作業安全管理システム1の詳細について説明する。
【0025】
(第1子機2及び第2子機5の構成)
1人の作業者Aに最低1つの第1子機2が装着されるが、
図1に示すように2丁掛けのランヤード204を備えている場合には、1人の作業者Aに2つの第1子機2が装着されることになる。また、作業者Aが複数人いる場合には、ID等によって区別された複数の第1子機2が存在することになり、複数の第1子機2が高所作業安全管理システム1の一部を構成する。
【0026】
第1子機2は、安全帯200に設けることができ、第1子機2と安全帯200とは一体化されている。よって、作業者Aが安全帯200を装着すると、第1子機2も作業者Aに装着されることになるので、第1子機2の装着忘れを防止できる。
【0027】
第1子機2はランヤード204の先端部またはフック205に設けることができる。第1子機2をフック205に設ける場合には、第1子機2がフック205と一体化されている。第1子機2は、フック205の基端部であるランヤード204が連結される部分に内蔵することもできる。尚、第1子機2は、後述するフック状態検出センサ20以外の部分が安全帯200の腰ベルト201に取り付けられていてもよいし、安全帯200を介することなく、作業者Aに取り付けられていてもよい。
【0028】
第2子機5は、1人の作業者Aに1つの装着されている。作業者Aが複数人いる場合には、第2子機5が複数存在することになり、ID等によって区別された複数の第2子機5が高所作業安全管理システム1の一部を構成する。第2子機5は、作業者Aのヘルメット等に装着される。第2子機5を安全帯200やベルト等に装着してもよい。また、第1子機2と第2子機5とを一体化して1つの子機としてもよい。
【0029】
図3は、第1子機2及び第2子機5の詳細構造を示すブロック図である。この図に示すように、第1子機2は、フック状態検出センサ20と、第1子機側送信部21と、第2子機側受信部22と、第1子機側コンピュータ(第1子機側制御部)23と、電池24とを備えている。電池24は、フック状態検出センサ20、第1子機側送信部21、第1子機側受信部22、第1子機側コンピュータ23等に電力を供給するものであり、一次電池であってもよいし、二次電池であってもよい。
【0030】
また、第2子機5は、大気圧センサ50と、加速度センサ51と、第2子機側送信部52と、第2子機側受信部53と、第2子機側コンピュータ(第2子機側制御部)54と、ブザー55と、電池56とを備えている。電池56は、大気圧センサ50、加速度センサ51、第2子機側送信部52、第2子機側受信部53、第2子機側コンピュータ54及びブザー55等に電力を供給するものであり、一次電池であってもよいし、二次電池であってもよい。ブザー55は、第1子機2に設けられていてもよいし、第1子機2及び第2子機5とは別体とされていてもよい。
【0031】
図2に示すように、フック状態検出センサ20は、フック205の内周部、即ちフック205における落下防止用部材101(
図1に示す)と接触する部分に設けられており、当該フック205が落下防止用部材101にかけられた状態であるか否かを検出するためのセンサである。フック205を落下防止用部材101にかけると、フック205の自重によってフック状態検出センサ20が落下防止用部材101に接触する。このフック状態検出センサ20は、落下防止用部材101との接触によって非導通状態(OFF状態)から導通状態(ON状態)に切り替わる周知のスイッチ等で構成することができる。また、フック状態検出センサ20は、所定以上の圧力が作用したことを検出する感圧センサ等で構成することもできる。フック状態検出センサ20から延びる信号線(図示せず)は子機側コンピュータ23に接続されており、フック状態検出センサ20による検出結果は、第1子機側コンピュータ23に入力される。
【0032】
第1子機側コンピュータ23に入力されたフック状態検出センサ20による検出結果は、第1子機側送信部21から送信されて第2子機側受信部53で受信される。第2子機側受信部53で受信されたフック状態検出センサ20による検出結果は、第2子機側コンピュータ54に入力される。尚、フック状態検出センサ20による検出結果は、第1子機側送信部21から親機3に送信してもよい。
【0033】
フック状態検出センサ20による検出結果には、フック205が落下防止用部材101にかけられていないOFF状態と、フック205が落下防止用部材101にかけられているON状態とが含まれている。フック状態検出センサ20による検出結果は、フック状態検出センサ20のON及びOFF信号であってもよいし、フック205が落下防止用部材101にかけられていないことを示す信号及びフック205が落下防止用部材101にかけられていることを示す信号であってもよい。
【0034】
大気圧センサ50は、第2子機5に設けられているので作業者Aに装着されることになり、作業者Aの周囲の大気圧を検出するセンサである。大気圧センサ50は、従来から周知の気圧センサで構成されている。この実施形態では、大気圧センサ50がヘルメットに装着されているが、ヘルメットと作業者Aとは高さ方向には離れることはなく、一般的に作業者Aと同じ高さにヘルメットが配置されることから、大気圧センサ50によって検出された大気圧は、作業者Aがいる高さの大気圧と等しくなる。大気圧センサ50を作業者Aの安全帯200や腰ベルト201等に取り付けている場合も、作業者Aがいる高さの大気圧を大気圧センサ50によって順次検出できる。大気圧センサ50は、作業者Aの安全を考えた場合には大気圧の検出サイクルが短い方が好ましいが、本例では例えば10msecに1回程度のサイクルで大気圧を検出し、検出値(大気圧値)をすぐに順次出力する。大気圧センサ50は、第2子機側コンピュータ54に接続されており、大気圧センサ50による検出値は第2子機側コンピュータ54に入力される。
【0035】
加速度センサ51は、大気圧センサ50と同様に作業者Aに装着されており、水平かつ直交する2方向(X方向、Y方向)と、X方向及びY方向に直交するZ方向の加速度と、X方向に延びる軸(X軸)回りの加速度と、Y方向に延びる軸(Y軸)回りの加速度と、Z方向に延びる軸(Z軸)回りの加速度とを検出する。加速度センサ51には角速度を検出可能なジャイロが含まれていてもよい。大気圧センサ50が作業者Aの頭部に装着されているので、加速度センサ51で検出された加速度の測定データは、作業者Aの頭部の加速度と略同じになる。尚、加速度センサ51は、作業者Aの例えばベルト等に装着されていてもよい。
【0036】
加速度センサ51による加速度の検出サイクル(測定サイクル)は、大気圧センサ50による大気圧の検出サイクルと同じに設定されている。加速度センサ51は、検出値である加速度の測定データを順次出力する。加速度センサ51は、第2子機側コンピュータ54に接続されており、加速度の測定データは第2子機側コンピュータ54に入力される。
【0037】
第2子機側送信部52は、大気圧センサ50から出力された大気圧の検出値と、フック状態検出センサ20による検出結果(フック状態の検出結果)と、加速度センサ51から出力された加速度の測定データとを送信する。第2子機側コンピュータ54に入力された大気圧の検出値と、フック状態の検出結果と、加速度の測定データとを入力された時点で外部へ送信してもよいし、一旦蓄積した後、第2子機側コンピュータ54による指示に従って外部へ送信してもよい。例えば、大気圧の検出値と、フック状態の検出結果と、加速度の測定データとが第2子機側コンピュータ54に入力される度に、第2子機側コンピュータ54は大気圧の検出値、フック状態の検出結果、加速度の測定データを第2子機側送信部52から外部へ送信させることができる。
【0038】
大気圧の検出値、フック状態の検出結果及び加速度センサ51により検出された加速度の測定データには、どの子機2、5(ペアとなっている子機2、5)で検出されたものあるかを識別するための識別情報(ID情報)が付与されており、一の識別情報が付与された大気圧の検出値と、一の識別情報が付与されたフック状態の検出結果と、一の識別情報が付与された加速度の測定データが外部へ送信される。識別情報としては、例えばペアとなっている子機2、5に固有のID番号や、ペアとなっている子機2、5ごとに管理者が事前に付与した互いに異なる番号、記号等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、各種の識別情報を含むことができる。
【0039】
ペアとなっている子機2、5で検出された大気圧の検出値、フック状態の検出結果及び加速度の測定データには、同一の識別情報が付与されている。また、大気圧の検出値、フック状態の検出結果及び加速度の測定データに付与される識別情報と、作業者Aとは関連付けておくことができ、どの作業者Aがどのペアの子機2、5を装着しているかを装着情報として管理者が保有しておく。この装着情報は管理者端末4に記憶させておくこともできる。
【0040】
第1子機側送信部21、第1子機側受信部22、第1子機側コンピュータ23及び電池24のうち、全てまたは一部がフック205に内蔵されている。尚、第1子機側送信部21、第1子機側受信部22、第1子機側コンピュータ23及び電池24のうち、全てまたは一部が、既存のフック205に取付可能に構成されていてもよい。
【0041】
第1子機側送信部21、第1子機側受信部22、第2子機側送信部52、第2子機側受信部53は、近距離無線通信、インターネット回線やローカルエリアネットワーク回線との無線通信が可能な通信モジュールで構成されている。第1子機側送信部21、第1子機側受信部22、第2子機側送信部52、第2子機側受信部53の具体例としては、例えば、従来から周知のWi-SUN FAN、LoRaモジュール、SigfoxモジュールやNB-IoTモジュール等の低電力広域ネットワークモジュール等を挙げることもできる。これにより、第1子機側送信部21から送信されたデータは第2子機側受信部53で受信すること、及び第2子機側送信部52から送信されたデータは第1子機側受信部22で受信することが可能になる。つまり、第1子機2と第2子機5との間で相互に通信できる。
【0042】
第2子機5のブザー55は、本発明の報知部に相当する機器である。詳細は後述するが、親機3の判定部32b(
図4に示す)により作業者Aが高所に到達したと判定された場合で、かつ、フック状態検出センサ20により、フック205が落下防止用部材101にかけられた状態でないことが検出された場合には、作業者Aが不安全状態であり、作業者Aが不安全状態であることをブザー55が報知する。報知部は、ブザー55以外の機器で構成されていてもよく、例えば振動を発生する加振器、光を発生する発光器、ヘルメットを叩くように構成された機器等であってもよい。
【0043】
(親機3の構成)
親機3は、例えば高所作業が行われる現場やその近傍、または現場から離れた事務所等に設置される据置型の装置である。親機3は、親機側送信部30、親機側受信部31、親機側コンピュータ32及び記憶部33を備えており、例えばパーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータで構成されていてもよいし、高所作業安全管理システム専用のコンピュータ等で構成されていてもよい。
【0044】
親機側送信部30及び親機側受信部31は、第1子機2及び第2子機5の通信形態に対応しており、上述した近距離無線通信、インターネット回線やローカルエリアネットワーク回線等によって通信可能になっている。親機側送信部30及び親機側受信部31は、第1子機2の第1子機側送信部21及び第2子機側受信部22との通信が可能になっているとともに、第2子機5の第2子機側送信部52及び第2子機側受信部53との通信が可能になっている。
【0045】
第2子機5の第2子機側送信部52から送信された大気圧の検出値、フック状態検出センサ20による検出結果及び加速度センサ51により検出された加速度の測定データは、親機3の親機側受信部31で受信される。親機側受信部31で受信された大気圧の検出値、フック状態の検出結果及び加速度センサ51により検出された加速度の測定データは、親機側コンピュータ(制御部)32に入力された後、記憶部33に記憶される。
【0046】
すなわち、記憶部33は、例えばソリッドステートドライブやハードディスクドライブ等で構成されており、親機側コンピュータ32によりデータの記憶、読み出しが制御される。記憶部33に各データを記憶する際には、識別情報が判別され、同一の識別情報が付与された大気圧の検出値、フック状態の検出結果及び加速度の測定データが一のファイルとなるようにして記憶される。さらに、このとき、大気圧センサ50から時系列に出力された各大気圧値と、当該大気圧値が検出された時に加速度センサ51から出力された加速度の測定データとがそれぞれ関連付けられた状態で記憶される。つまり、第1の時点で大気圧センサ50から出力された大気圧値と、第1の時点で加速度センサ51から出力された加速度の測定データとが関連付けられており、また、第1の時点から時間が経過した第2の時点で大気圧センサ50から出力された大気圧値と、第2の時点で加速度センサ51から出力された加速度の測定データとが関連付けられている。例えば、第1の時点の大気圧値を特定できれば、第1の時点の加速度の測定データを取得することができ、また、反対に、第1の時点の加速度の測定データを特定できれば、第1の時点の大気圧値を取得することができる。
【0047】
親機側コンピュータ32により、データ処理部32a及び判定部32bが構成されている。データ処理部32a及び判定部32bは、ハードウェアのみで構成されていてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで構成されていてもよい。
【0048】
データ処理部32aは、記憶部33に記憶されている一のファイルの大気圧の検出値及び加速度の測定データを取得する。
図5は、測定順、即ち時系列に並べた大気圧値及び加速度の測定データを示す表であり、記憶部33から取得されたデータが記載されている。表中の加速度には、X方向加速度、Y方向加速度、Z方向加速度が含まれている。表の右端の欄に時間(msec)が示されており、本例では10msec周期で大気圧値及び加速度の測定データを取得している。データ数は334個であり、したがって3,330msec間(取得期間)のデータとなっている。
【0049】
取得期間は、任意に設定することができる。作業者Aの動作が速い場合には取得期間が短くなる一方、作業者Aの動作が遅い場合には取得期間が長くなる。取得期間の始点及び終点は、大気圧センサ50から出力された大気圧値によって判定する。大気圧センサ50から出力された大気圧値が低下し始めた時点を取得期間の始点とし、その後、大気圧センサ50から出力された大気圧値の変化が収まった時点を取得期間の終点とする。例えば、作業者Aが活動している期間は継続して各データを測定しておくことで、作業者Aが高所に到達する動作を複数回行った場合に複数回の動作を検出し、それぞれについて高所に到達したか否かを判定することができる。
【0050】
図6は、
図5に示すデータを時系列(
図5の表に記載されている順番)でグラフ化したものである。尚、
図5及び
図6に示す測定データは、例えば脚立や立馬の下にいる作業者Aが脚立や立馬を登って高所に到達するまでのデータである。よって、
図6に示すように、大気圧が時間の経過にしたがって低くなっている。
【0051】
データ処理部32aは、記憶部33から取得した大気圧の中に、同じ大気圧値が複数存在している場合には一の大気圧値を残して他の大気圧値を削除するとともに、削除した大気圧値に対応する加速度の測定データを削除する。具体的には、作業者Aが脚立や立馬を登っている際には、大気圧が常に低下していくわけではなく、作業者Aの姿勢の変化等に起因して、時間が経過しているにも関わらず、同じ大気圧値を示すデータが存在し得る。このようなデータを重複データという。データ処理部32aは、重複データの有無を検索し、検索の結果、例えば同じ大気圧値が3つ存在していたとすると、そのうち、測定時が最も古い大気圧値を有効な大気圧値とし、比較的新しい2つの大気圧値を無効データとして削除する。さらに、削除した2つの大気圧値と同じタイミングで測定された加速度の測定データ(2つ)も無効データとして削除する。
【0052】
図7は、重複する大気圧値を削除し、かつ、削除した大気圧値に対応する加速度の測定データを削除した後の表を示している。この例では、データ数が329個に減少している。329個のデータを現時点での有効データとする。また、
図7に示す表は、ソート処理を実行した後のものである。具体的には、データ処理部32aは、記憶部33で記憶された大気圧値を大きい順に並び替えるソート処理を実行するとともに、ソート処理によって並び替えられた大気圧値に対応するように加速度の測定データを並び替える。
図7に示す表の最上部に最も大きな大気圧値と、その大気圧値と同じタイミングで測定された加速度の測定データとが配置され、表の下に行くほど大気圧値が小さくなるようにソートされている。つまり、行の並び替え処理を実行する。ソート処理後のデータに基づいて作成されたグラフを
図8に示す。尚、ソート処理は、大気圧値を小さい順に並び替える処理であってもよい。
【0053】
図4に示すデータ処理部32aは、最大大気圧値から最小大気圧値までの大気圧変化量を所定の数で分割するリサンプリング処理を実行する。例えば、最大大気圧値(Pmax)が101200.0Paであり、最小大気圧値(Pmin)が101184.7943Paであった場合に大気圧変化量(Pdif)は以下の式で求めることができる。
【0054】
Pdif=Pmax-Pmin
=101200.0-101184.7943=15.2057Pa
【0055】
現時点での有効データ数は表7で説明したように329個であるが、これを256個の大気圧値にリサンプリングする。リサンプリング数は256個に限られるものではなく、任意の数に設定することができ、これを分割数と呼ぶこともできる。
【0056】
リサンプリング大気圧変化量=Pdif/(256-1)
=15.2057/255
=0.05963Pa
【0057】
これにより、
図9の表に示すようにリサンプリング後の大気圧値(リサンプリング大気圧値)が算出され、算出されたリサンプリング大気圧値を
図9のグラフに示すようにプロットする。このグラフに示すように、最大大気圧値101200.0Paから0.05963Pa刻みで大気圧値がプロットされることになる。つまり、最大大気圧値と最小大気圧値との間は、リサンプリング処理によって複数に分割される。
【0058】
図10の表は、左側にリサンプリング大気圧値を示し、右側にソート処理後大気圧値(実際の測定データ)を示した表である。リサンプリング大気圧値は上述した計算によって算出した値であるため、実際の測定データとは異なる値が存在する。また、リサンプリング数が256であり、有効データとされた測定データ数が329個であることから、リサンプリング大気圧値の数は、ソート処理後大気圧値の数よりも少ない。
図10の表に示すように、リサンプリング大気圧値及びソート処理後大気圧値を大きい順に並べると、リサンプリング大気圧値がソート処理後大気圧値の間に配置されることがある。
【0059】
図11は、
図10に示す表のデータに基づいて作成されたグラフである。白丸でプロットされている点は、リサンプリング大気圧値を示しており、黒丸でプロットされている点は、ソート処理後大気圧値を示している。ここで、枠100で囲まれた箇所に着目する。ある分割点(点P)を算出したいリサンプリング大気圧値とすると、点Pに最も近い2つのソート処理後大気圧値から、リサンプリング大気圧値になる時間tを算出する。すなわち、データ処理部32aは、大気圧センサ50から出力された複数の大気圧値のうち、リサンプリング処理後の各分割点における大気圧値に最も近い大気圧値を複数特定し、特定した複数の大気圧値に基づいて、リサンプリング処理後の各分割点における大気圧値が測定された時間tを算出する。さらに、データ処理部32aは、時間tにおける加速度を算出する。
【0060】
以下、具体的に説明する。点Pに最も近い2つのソート処理後大気圧値を通る近似直線は、1次関数y=ax+b(傾き:a,切片b)で表すことができる。この近似線を求める処理が正規化処理に相当する。
【0061】
y…P’[N]
a…(P[tm]-P[tm+1])/(tm-tm+1)
x…T
b…P[tm]
T=(P’[N]-P[tm])×(tm-tm+1)/(P[tm]-P[tm+1])
その時の加速度は、同様に
A’[N]=(A[tm]-A[tm+1])/(tm-tm+1)×T+A[tm]
で算出することができる。
【0062】
図12は、リサンプリングされたデータに基づいて作成されたグラフである。リサンプリングすることで、大気圧値を示すグラフは直線に近い形状になる。また、リサンプリングすることで、元の有効データ数がいくつであっても、分割数に対応した数にすることができる。
【0063】
次に、
図4に示す判定部32bについて説明する。判定部32bは、学習済みモデルに、加速度センサ51から順次出力された加速度の測定データを入力して作業者が高所に到達したか否かを判定する部分である。学習済みモデルは、従来からあるニューラルネットワークの1つであるオートエンコーダで構成されており、例えば入力されたデータを圧縮した後、重要となる特徴量のみ残し、その後、再度元の次元に復元処理をするアルゴリズムを実行する。学習済みモデルは、いわゆるディープラーニングで構成されている。
【0064】
学習済みモデルは、作業者が高所作業を行う高所に到達するまでに変化する複数の加速度データによって学習されている。例えば、脚立の下にいる作業者が脚立を登って脚立の上(高所)に到達するまでに取得される加速度データは時間の経過に伴って変化し、この加速度データを多数用意し、オートエンコーダに入力することで、脚立を登って脚立の上に到達する動作の判定が可能な学習済みモデルが得られる。また、立馬の下にいる作業者が立馬を登って立馬の上(高所)に到達するまでに取得される加速度データも時間の経過に伴って変化し、この加速度データを多数用意し、オートエンコーダに入力することで、立馬を登って高所に到達する動作の判定が可能な学習済みモデルが得られる。つまり、学習済みモデルは、作業者が脚立の上(第1の高所)に到達するまでに変化する複数の加速度データと、作業者が立馬の上(第2の高所)に到達するまでに変化する複数の加速度データとによって学習されている。モデルの学習時には、データ処理部32aによってソート処理、重複データの削除処理、リサンプリング処理を実行した後の加速度データを使用する。モデルの学習は、高所作業安全管理システム1の運用前に実行されている。
【0065】
高所作業安全管理システム1の運用時、判定部32bは、データ処理部32aによって並び替えられた加速度データを学習済みモデルに入力するように構成されている。このときに入力される加速度データは、データ処理部32aによってソート処理、重複データの削除処理、リサンプリング処理を実行した後のものである。つまり、判定部32bは、データ処理部32aが算出したデータを学習済みモデルに入力して作業者Aが高所に到達したか否かを判定する。
【0066】
親機側コンピュータ32は、判定部32bにより作業者が高所に到達したと判定された場合で、かつ、フック205が落下防止用部材101にかけられた状態でないことが検出された場合には、不安全状態であることを報知するようにブザー55を制御する。具体的には、ブザー55を鳴らす制御信号を親機側コンピュータ32が生成して親機側送信部30から第2子機5の第2子機側受信部53に送信する。第2子機側受信部53が制御信号を受信すると、第2子機側コンピュータ32に送られて第2子機側コンピュータ32からブザー55に出力される。
【0067】
(管理者端末4の構成)
管理者端末4は、管理者が携帯する情報端末で構成されている。管理者端末4としては、例えばスマートフォン、タブレット型端末、ノート型パーソナルコンピュータ等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、例えばデスクトップ型パーソナルコンピュータで構成されていてもよい。管理者は、例えば作業現場を管理する者、監督する監督者等であり、必ずしも作業現場にいる必要はなく、例えば管理事務所等にいてもよい。
【0068】
図2に示すように、管理者端末4は、表示部40と、操作部41と、スピーカ42と、管理者側受信部43と、管理者側コンピュータ(管理者側制御部)44と、電池45とを備えている。表示部40、操作部41及びスピーカ42は、管理者側コンピュータ44に接続されている。また、電池45は、第1子機2の電池24と同じもので構成することができる。
【0069】
表示部40は、管理者端末4の筐体46に設けられており、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等で構成されている。操作部41は、例えばタッチ操作可能な感圧式タッチパネルや、ボタン、スイッチ等で構成されている。感圧式タッチパネルの場合、表示部40と重ねて設けることができる。スピーカ42は、各種音声を発することができるものである。
【0070】
管理者側受信部43は、親機側送信部30と通信可能な通信モジュールであり、具体的には親機側送信部30と同規格の通信モジュールで構成されている。管理者側受信部43は、親機側送信部30から送信された報知信号を受信する。
【0071】
管理者側コンピュータ44は、操作部41の操作及び管理者側受信部43で受信された報知信号の入力を受け付けるとともに、表示部40及びスピーカ42を制御する部分である。具体的には、管理者側コンピュータ44は、管理者側受信部43で受信された報知信号の入力を受け付けると、作業者Aによる高所作業が不安全状態であることを表示部40に報知させる。表示部40による報知例としては、表示部40に例えば「高所作業中にフックをかけていない」といった文章による表示形態や、不安全状態であることを示す記号やマークを表示する形態等を挙げることができる。また、管理者側コンピュータ44は、管理者側受信部43で受信された報知信号の入力を受け付けると、作業者Aによる高所作業が不安全状態であることを報知部としてのスピーカ42に報知させる。スピーカ42による報知例としては、スピーカ42に例えば「高所作業中にフックをかけていない」といった音声による形態や、各種警報音(アラーム音)を発生させる形態等を挙げることができる。上記表示部40及びスピーカ42は、作業者Aによる高所作業が不安全状態であることを報知する報知部の例である。表示部40及びスピーカ42の一方のみ設けられていてもよい。また、報知部は、例えば所定の振動を発生する振動発生器で構成されていてもよい。
【0072】
以上の構成により、作業者Aが高所にいると判定し、かつ、フック205が落下防止用部材101にかけられた状態でないことが検出された場合には、親機側送信部30が報知信号を管理者端末4に送信する。これにより、管理者端末4の表示部40及びスピーカ42を制御して、作業者Aが不安全状態であることを報知させることができる。
【0073】
(処理手順)
図13は、作業者Aが脚立を登る場合に大気圧センサ50で検出された大気圧、その大気圧の変化点及び加速度センサ51で検出された加速度(X方向、Y方向及びZ方向)の時系列データ(計測データ)を示すグラフである。このグラフに示すように、作業者Aが脚立等を登り始めると大気圧の変動が所定以上となり、大気圧変動を起こしているところ(範囲D)を親機側コンピュータ32が判定する。範囲Dの判定後、親機側コンピュータ32は、範囲Dの加速度データを抽出する。抽出した加速度データに基づいてデータ処理部32aが上述したようにリサンプリング処理する。以後の処理は上述したとおりである。
【0074】
本実施形態では、大気圧及び加速度データ(ジャイロから出力されたデータも含まれる)を時系列に保存するための記憶部33として、
図14に示すようなリングバッファを用いることができる。このリングバッファは、例えば768個の保存領域([0]から[767])を有しており、10msec周期でデータをサンプリングしてサンプリング結果を[0]から順に[767]まで保存していく。この場合、768個×10msec=7,680msec、即ち最大7,680msec(7.68秒)分のデータを保存することができる。
図14中、[StartPoint]が、大気圧変動し始めたポイント(登り始めのポイント)であり、[EndPoint]が、大気圧変動の終了したポイント(登り終わりのポイント)であるとすると、リングバッファの[StartPoint]に相当する領域から[EndPoint]に相当する領域までを大気圧変動区間(
図13に示す範囲D)として、その範囲の加速度データ、大気圧データを親機側コンピュータ32が抽出する。
【0075】
図15は、脚立を登る場合にリングバッファを用いて大気圧変動区間を抽出し、ソート処理する例を説明するグラフである。枠線300で囲む範囲が大気圧変動区間である。この大気圧変動区間のデータを抽出した後、大気圧値を大きい順に並び替えるソート処理を実行するとともに、ソート処理によって並び替えられた大気圧値に対応するように加速度の測定データを並び替える。
【0076】
その後、
図16に示すように、同じ大気圧値が複数存在している場合には一の大気圧値を残して他の大気圧値を削除するとともに、削除した大気圧値に対応する加速度の測定データを削除する。そして、リサンプリング処理を実行した後、正規化処理することで出力データを得ることができる。出力データが学習済みモデルに入力される。
【0077】
図17及び
図18は、作業者Aが階段を登る場合のデータ例を示している。階段を登る場合も出力データを学習済みモデルに入力して判定させることができる。
【0078】
図19は、高所作業安全管理システム1の処理フローを示す図である。本フローは、高所作業安全管理システム1が動作を始めたときに開始される。スタート後のステップSA1は、大気圧センサ50、加速度センサ51による測定処理が所定の周期で実行される。ステップSA2では、大気圧センサ50、加速度センサ51によって測定されたデータをリングバッファに保存する。ステップSA3では、警報フラグがONであるか否かを判定する。初回のフローでは警報フラグがOFFになっているので、ステップSA4に進む。ステップSA4では、現在の大気圧値と、Xサイクル前の大気圧値とを比較する。比較の結果、現在の大気圧値と、Xサイクル前の大気圧値との差がしきい値以上であり、上記大気圧変動が始まったと判定される場合には、ステップSA5に進み、一方、現在の大気圧値と、Xサイクル前の大気圧値との差がしきい値より小さいと判定される場合には、ステップSA11に進む。
【0079】
ステップSA5では、大気圧変動ステイタスを判定し、大気圧が変化中である場合にはステップSA1に進み、大気圧が変化していない場合(変動していない場合)にはステップSA6に進む。初回のフローではステップSA6に進むことになる。ステップSA6では、
図14に示すように[StartPoint]を保存する。ステップSA7では、大気圧変動ステイタスを変化中(変動中)とする。
【0080】
ステップSA3で警報フラグがONであると判定された場合にはステップSA8でフック状態検出センサ20の検出結果に基づいて判定を行い、フック205が落下防止用部材101にかけられていない場合にはステップSA4に進む。一方、フック205が落下防止用部材101にかけられている場合には、ステップSA9に進む。
【0081】
ステップSA9では警報を発報する必要がないので、警報発報をOFFにする。ステップSA10では、警報発報フラグをOFFにし、その後、ステップSA4に進む。
【0082】
ステップSA11では、ステップSA5と同様に大気圧変動ステイタスを判定し、大気圧が変化中である場合にはステップSA12に進み、大気圧が変化していない場合にはステップSA1に進む。ステップSA12では、
図14に示すように[EndPoint]を保存する。
【0083】
ステップSA13では、大気圧変動ステイタスを「変化していない」とする。ステップSA14では、リングバッファの[StartPoint]に相当する領域から[EndPoint]に相当する領域までの大気圧変動区間の加速度データ、大気圧データを親機側コンピュータ32が抽出する。ステップSA15では、大気圧値を大きい順に並び替えるソート処理を実行する。ステップSA16では、同じ大気圧値が複数存在している場合には一の大気圧値を残して他の大気圧値を削除する。ステップSA17では、リサンプリング処理を実行する。ステップSA18では、正規化処理を実行する。尚、ステップSA15とSA16は省略してもよい。
【0084】
ステップSA19では、ステップSA18の正規化処理で得られたデータを学習済みモデルに入力し、判定処理を実行する。ステップSA20では、脚立・立馬のF値(F-measure)を判定する。F値がしきい値よりも小さく、脚立・立馬の登り動作をおこなっていないと学習済みモデルによって判定された場合には、ステップSA1に進む。一方、F値がしきい値以上であり、脚立・立馬の登り動作をおこなっていると学習済みモデルによって判定された場合には、ステップSA21に進む。尚、ステップSA19とSA20がオートエンコーダの場合、近似度の判定となる。
【0085】
ステップSA21では、フック状態検出センサ20の検出結果に基づいて判定を行い、フック205が落下防止用部材101にかけられていない場合にはステップSA22に進み、警報を発報する。具体的には、作業者Aが不安全状態であることをブザー55が報知し、ステップSA23では警報発報フラグをONにした後、ステップSA1に進む。一方、フック205が落下防止用部材101にかけられている場合には、ステップSA21からステップSA1に進む。
【0086】
例えば、リングバッファの[StartPoint]から[EndPoint]の配列数が512個(5.120秒分のセンサ値)の場合、512個から256個にデータ数を間引いてもよい。
【0087】
また、リングバッファの[StartPoint]から[EndPoint]の配列数が128個(1.280秒分のセンサ値)の場合、128個から256個にデータ数を増やすことで、全て同じ長さの波形データとして学習・機械学習判定を実施できる。
【0088】
作業者Aがエレベータで移動する場合や螺旋階段を登る場合、リングバッファ1024個でセンサ値を保存できる最大10,240msec(10.24秒)を超えることも想定されるが、脚立・立馬を昇降するのに通常10秒を超えることはありえないので、リングバッファ配列数を超えるようなケースについては、判定を除外してもよい。
【0089】
本システムは電池駆動するような省電力マイコンを使用したシステムなので、メモリ数も少ないため、リングバッファも極力少なくすることを想定した設計とするのが好ましい。
【0090】
また、本実施形態では、センササンプリング周期を10msecとしているが、サンプリング周期は、例えば5msec等としてもよい。5msec周期で測定した場合、リサンプリングするサイズを256から512とすることで、より高精度な測定による学習・機械学習判定が行えることとなるが、リングバッファに保存できるデータは最大2.56秒分となる。システム要件によりバッファサイズ等の設定を行うことができる。
【0091】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施形態では、第2子機5の加速度センサ51が作業者Aに装着されているので、作業者Aの動きの変化や速さの変化が加速度センサ51によって加速度として間接的に取得される。この加速度センサ51から順次出力された加速度の測定データは、判定部32bが学習済みモデルに入力する。学習済みモデルは、実際に高所作業を行う際、高所に到達するまでに変化する複数の加速度データによって学習されているので、運用時に入力された加速度データが、高所作業を行う高所に到達するデータであるか、それ以外のデータであるかの判定が可能になる。作業者Aが高所作業を行うべく高所に到達したと判定部32bによって判定されながら、安全帯200のフック205が例えば手摺りやロープのような落下防止用部材101にかけられた状態でない場合は、作業者Aによる高所作業が不安全状態であると言える。この場合に、作業者Aによる高所作業が不安全状態であることをブザー55やスピーカ42に報知させ、例えば監督者や管理者等にそのことを知らせることができる。これにより、不安全状態を改めるように作業者Aに注意できる。また、不安全状態であることをブザー55によって作業者A自身に知らせることもでき、この場合も不安全状態を改めさせて安全に高所作業を行うことができる。
【0092】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上説明したように、本開示に係る例えば各種建築物の建築作業や維持管理、保守点検作業等で使用される高所作業安全管理システムとして利用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 高所作業安全管理システム
20 フック状態検出センサ
32 親機側コンピュータ(制御部)
32a データ処理部
32b 判定部
50 大気圧センサ
51 加速度センサ
55 ブザー(報知部)