(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068616
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】窒素酸化物除去用触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 31/38 20060101AFI20240513BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B01J31/38 A ZAB
B01D53/86 222
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023102919
(22)【出願日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】10-2022-0148259
(32)【優先日】2022-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年6月24日にhttps://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0926337322006130?via%3Dihubに掲載
(71)【出願人】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(71)【出願人】
【識別番号】510273880
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】ドヒ・キム
(72)【発明者】
【氏名】セウォン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】インハク・ソン
(72)【発明者】
【氏名】クァンヨン・リー
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA06
4D148AB02
4D148BA03X
4D148BA06X
4D148BA07X
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4D148BB01
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4G169AA02
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4G169BA07A
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4G169BE01A
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4G169BE32A
4G169BE32B
4G169BE33C
4G169CA08
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4G169EA02Y
4G169EC28
4G169ED07
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4G169FB14
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4G169FB30
4G169FB80
4G169FC02
4G169ZA04A
4G169ZA04B
4G169ZD09
4G169ZD10
4G169ZE10
(57)【要約】
【課題】本発明は窒素酸化物除去用触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の実施例による窒素酸化物除去用触媒は、金属触媒とゼオライトを混合した後グラインディングして製造され、前記ゼオライトはその表面に形成された炭素層を有する。本発明の実施例による窒素酸化物除去用触媒の製造方法、ゼオライト表面に炭素層を形成するステップ及び前記炭素層が形成されたゼオライトを金属触媒と混合した後グラインディングするステップを含む。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒とゼオライトを混合した後グラインディングして製造され、
前記ゼオライトは、その表面に形成された炭素層を有することを特徴とする窒素酸化物除去用触媒。
【請求項2】
前記金属触媒はバナジウム(V)を含み、
前記ゼオライトはYゼオライトを含むことを特徴とする、請求項1に記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項3】
前記炭素層は、有機シラン化合物を前記ゼオライトの表面にある水酸基と反応させて形成されることを特徴とする、請求項1に記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項4】
前記有機シラン化合物はオクタデシルトリクロロシランを含むことを特徴とする、請求項3に記載の窒素酸化物除去用触媒。
【請求項5】
ゼオライト表面に炭素層を形成するステップ、及び
前記炭素層が形成されたゼオライトを金属触媒と混合した後グラインディングするステップを含む窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記金属触媒はバナジウム(V)を含み、
前記ゼオライトはYゼオライトを含むことを特徴とする、請求項5に記載の窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記炭素層を形成するステップは、
前記ゼオライトに有機シラン化合物を提供するステップを含み、
前記有機シラン化合物は、前記ゼオライトの表面にある水酸基と反応することを特徴とする、請求項5に記載の窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記有機シラン化合物はオクタデシルトリクロロシランを含むことを特徴とする、請求項7に記載の窒素酸化物除去用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物除去用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NH3を用いた窒素酸化物(Nox)の選択的触媒還元(NH3-SCR)は、産業排出物から有害なNOx種を除去するための技術である。SCR触媒のうち、V2O5-WO3/TiO2は、排ガスの硫黄成分によって化学的に毒されない唯一の触媒である。しかしながら、このようなV系触媒も実際の条件では250℃以下の低温で細孔中のアンモニウム二硫酸(ABS)の縮合による物理的中毒により失活し、SCR触媒の低温活性を低下させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、優れた性能を有する窒素酸化物除去用触媒を提供する。
本発明は、前記窒素酸化物除去用触媒の製造方法を提供する。
本発明の他の目的は以下の詳細な説明及び添付図面から明確になるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の実施例による窒素酸化物除去用触媒は、金属触媒とゼオライトを混合した後グラインディングして製造され、前記ゼオライトは、その表面に形成された炭素層を有する。
【0005】
本発明の実施例による窒素酸化物除去用触媒の製造方法は、ゼオライト表面に炭素層を形成するステップ及び前記炭素層が形成されたゼオライトを金属触媒と混合した後グラインディングするステップを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施例による窒素酸化物除去用触媒は優れた性能を有することができる。例えば、前記窒素酸化物除去用触媒は、触媒活性(SCR活性)が低下することを防止しながら、優れた耐硫黄性(SO2抵抗性)を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】ABS形成によって22時間不活性化されたVWTi触媒およびVWTi+Y触媒の220℃でのNH
3-SCR活性を示す。
【
図2】標準NH
3-SCR反応中の温度によるVWTi触媒およびVWTi+Y触媒の定常状態のNOx転換率を示す。
【
図3】VWTi+Y触媒におけるVWTi対Yゼオライトの質量比が触媒活性に及ぼす影響を示す。
【
図4】グラインディングをしていない場合と機械的グラインディングをした場合の、VWTi+Y-5.1触媒の固体状態の
29Si NMRスペクトルを示す。
【
図5】グラインディングをしていない場合と機械的グラインディングをした場合の、VWTi+Y-5.1触媒の固体状態の
27Al NMRスペクトルを示す。
【
図6】グラインディングをしていない場合と機械的グラインディングをした場合の、VWTi+Y-5.1触媒の固体状態の
51V NMRスペクトルを示す。
【
図7】グラインディング後のVWTi+Y-12触媒およびVWTi+Y-5.1触媒のTEMイメージおよびEDSライン走査スペクトルを示す。
【
図8】VWTi+Y-5.1触媒及びVWTi+Y-12触媒について機械的グラインディング効果を比較したH
2-TPR結果を示す。
【
図9】Al含浸VWTi触媒のH
2-TPR結果を示す。
【
図10】乾式および湿式反応条件下でのVWTi触媒およびVWTi+Y-5.1触媒の動力学分析の結果を示す。
【
図11】本発明の一実施例による窒素酸化物除去用触媒の製造方法を説明するための図である。
【
図12】VWTi触媒およびVWTi+OTSY-5.1触媒の
51V固体状態のNMRスペクトルを示す。
【
図13】VWTi触媒およびVWTi+OTSY-5.1触媒のH
2-TPR結果を示す。
【
図14】VWTi+OTSY-5.1触媒及びこの触媒の焼成形態(VWTi+SY-5.1)に対する標準NH
3-SCR反応中の温度による定常状態のNOx転換率を示す。
【
図15】触媒にABSを形成し、44時間不活性化の間、220℃でのNH
3-SCR反応における NOx転換率を示す。
【
図16】VWTi触媒およびVWTi+OTSY-5.1触媒にABSを形成し、44時間不活性化の間、180℃でのNH
3-SCR反応におけるNOx転換率を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明の目的、特徴、利点は以下の実施例から容易に理解できるであろう。本発明は、ここで説明される実施例に限定されず、他の形態に具体化されることもできる。ここで紹介される実施例は、開示された内容が徹底的で完全なものとなるように、かつ本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想が十分に伝達されるようにするために提供されるものである。よって、以下の実施例により本発明が限定されてはならない。
【0009】
図面において、要素の大きさ、または要素間の相対的な大きさは、本発明に対するさらに明確な理解のために多少誇張して示されうる。また、図示した要素の形状が製造工程上の変異などによって多少変更できるであろう。したがって、本明細書で開示した実施例は、特別な記載がない限り、図示した形状に限定されてはならず、ある程度の変形を含むものと理解されるべきである。
【0010】
本発明の実施例による窒素酸化物除去用触媒は、金属触媒とゼオライトを混合した後グラインディング(研削)して製造され、前記ゼオライトは、その表面に形成された炭素層を有する。
前記金属触媒はバナジウム(V)を含み、前記ゼオライトはYゼオライトを含む。
前記炭素層は、有機シラン化合物を前記ゼオライトの表面にある水酸基と反応させて形成される。前記有機シラン化合物はオクタデシルトリクロロシランを含む。
本発明の実施例による窒素酸化物除去用触媒の製造方法は、ゼオライト表面に炭素層を形成するステップ及び前記炭素層が形成されたゼオライトを金属触媒と混合した後グラインディングするステップを含む。
前記金属触媒はバナジウム(V)を含み、前記ゼオライトはYゼオライトを含む。
前記炭素層を形成するステップは、前記ゼオライトに有機シラン化合物を提供するステップを含み、前記有機シラン化合物は、前記ゼオライトの表面にある水酸基と反応する。前記有機シラン化合物はオクタデシルトリクロロシランを含む。
【0011】
[窒素酸化物除去用触媒の製造例]
本発明の実施例に係る窒素酸化物除去用触媒と比較例の触媒は、以下の方法で製造した。
【0012】
5wt.%のV2O5を含有するV2O5/WO3-T12触媒(VWTi触媒)は、湿式含浸法によって製造することができる。0.647gのアンモニウムメタバナデート(99%)と0.6gのシュウ酸を250mLの蒸留水に溶解して酸性バナジウム前駆体溶液を調製する。WO3-TiO2支持体をバナジウム前駆体溶液に添加し、30分間激しく混合する。黄色のコロイド溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて80℃で乾燥し、オーブンで、105℃で乾燥する。得られた粉末を500℃の電子炉で4時間焼成する。
【0013】
VWTi+Yゼオライトハイブリッド触媒は、VWTi触媒とYゼオライト(FAU構造、Si:Al2=5.1または12)を10分間陶磁器モルタルで粉砕し、混合して製造する。VWTi対Yゼオライトの比は質量比で2:1、16:1、64:1である。
【0014】
Al-VWTi触媒を製造するのに必要な量のAl(NO3)3・9H2Oを蒸留水に溶解し、次いで初期湿式含浸法を用いてVWTi触媒に蒸着させる。Al対Vのモル比は0.5、1、2である。含浸後、試料を500℃の静的空気中で1時間か焼する。
【0015】
オクタデシルトリクロロシラン(OTS)でコーティングされたYゼオライト(OTSY)を製造するために、まずY-5.1ゼオライト(1g、Si:Al2=5.1)を20mLのトルエンに分散させ、10分間超音波処理する。0.591mLのオクタデシルトリクロロシラン(OTS)を50mLのトルエン溶媒に溶解させる。分散したY-5.1ゼオライトをOTS-トルエン溶液に添加し、30℃で24時間撹拌する。懸濁液を濾紙で濾過し、エタノールで数回洗浄する。得られた白色粉末を105℃のオーブンで一晩乾燥してOTSY-5.1ゼオライトを形成する。
【0016】
OTSY-ゼオライトとの比較のために使用されたヒドロカーボン修飾Yゼオライト複合体を製造するためにデンプン粉末を使用した。0.18gのデンプンと1mLのNH4OHを蒸留水(250mL)に加え、90℃で4時間膨潤させる。Yゼオライト2.5gを加え、1時間撹拌した後、ロータリーエバポレーターを用いて乾燥させる。得られた複合体(デンプン-Y)を105℃のオーブンで一晩乾燥させる。元素分析によれば、OTSY-5.1ゼオライト(2.8wt.%)およびデンプン-Y-5.1(2.2wt.%)の炭素量は類似する。
【0017】
[触媒反応システム]
NH3-SCR反応のための様々な触媒の触媒活性は、0.25インチ管状石英反応器で測定した。全ての触媒をペレット化し、圧力降下を防止し、データ再現性を確保するために180-250μmに篩い分けした。シミュレーションされた反応供給物は、N2(他の反応供給物を除く残り)、NO(500ppm)、NH3(600ppm)、O2(10%)、CO2(5%)、H2O(10%、脱イオン化)、およびSO2(30または100ppm)を含んだ。反応供給物のGHSV(gas hourly space velocity)は150,000mL/h・gcatであった。GHSVは、機械的に混合されたハイブリッド触媒(0.08gVWTi+Y-ゼオライト0.04g)の場合、VWTi触媒(0.08g)の重量に基づいて設定された。総流速は200mL/minに固定した。NOx濃度はNOx化学発光分析器を用いて記録し、NOx変換率は以下の式を用いて計算した。
【0018】
【0019】
SO2およびH2Oの存在下でABS不活性化をシミュレーションするために、触媒を上記の反応条件で180または220℃で30または100ppmのSO2に22時間または44時間曝露した。ABS形成に対する触媒不活性化は、SO2濃度が上昇し、反応温度が低下するにつれて増加する。ABS種を分解して触媒を再生する場合、触媒を10%O2、5%CO2、および10%H2O残量で、N2で、350℃で2時間加熱した。
【0020】
図1はABS形成によって22時間不活性化されたVWTi触媒およびVWTi+Y触媒の220℃でのNH
3-SCR活性を示す。VWTi+Y触媒におけるVWTi対Yゼオライトの質量比は2:1である。VWTi触媒とYゼオライトとの機械的混合およびグラインディングによってよく混合された触媒が形成される。2つの異なる粒子、すなわちゼオライトとTiO
2はサイズが異なるので容易に区別することができる。ゼオライトは数百ナノメートルのサイズを有するが、TiO
2粒子は数十ナノメートルと非常に小さい。反応供給物は、N
2(他の反応供給物を除く残り)、NO(500ppm)、NH
3(600ppm)、O
2(10%)、CO
2(5%)、H
2O(10%)、およびSO
2(30ppm)を含む。前記反応供給物のGHSVは150,000mL/g・hである。
【0021】
図1を参照すると、VWTi触媒は、ABSがある低温(220℃)で不活性化された触媒活性を示す。初期NOx転換率は65%であったが、22時間後に約40%に徐々に減少した。約12のSi:Al
2比を有するYゼオライトとVWTiとを混合することにより製造されたVWTi+Y触媒の初期活性はVWTi触媒と類似したが、VWTi+Y触媒内のゼオライト粒子のABSトラッピング能力によりABS不活性化がはるかに遅く進んだ。
【0022】
Alが豊富なYゼオライト(Si:Al2=約5.1:1)とVWTiを混合して製造されたVWTi+Y触媒は全く異なる挙動を示した。初期活性は65%から45%に大きく低下したが、この初期活性はNOx転換率の低下なしに22時間維持された。VWTi+Y触媒の優れた耐硫黄性は、Alに富むゼオライトが一般ゼオライトと比較してVWTi表面でABSをより効率的に吸収できることを示す。Y-5.1ゼオライト(Si:Al2=約5.1:1)とY-12ゼオライト(Si:Al2=約12:1)の粒径はほぼ同じであり、ゼオライトとVWTi粒子との物理的接触面積に差がないのを意味する。したがって、Y-5.1ゼオライトとY-12ゼオライトの唯一の違いは、ABSの移動を促進するAl種の酸性サイト(acidic sites)である。
【0023】
図2は標準NH
3-SCR反応中の温度によるVWTi触媒およびVWTi+Y触媒の定常状態のNOx転換率を示す。VWTi+Y-5.1触媒の初期活性低下の原因を特定するために、触媒の定常状態活性を広い温度範囲で比較した。
図3はVWTi+Y触媒におけるVWTi対Yゼオライトの質量比が触媒活性に及ぼす影響を示す。グラインディングによる触媒不活性化が、Alが豊富なゼオライトによるものかどうかを決定するために、VWTi対Yゼオライトの混合比を変更した。反応供給物は、N
2(他の反応供給物を除く残り)、NO(500ppm)、NH
3(600ppm)、O
2(10%)、CO
2(5%)、およびH
2O(10%)を含み、前記反応供給物のGHSVは150,000mL/g・hである。
【0024】
図2を参照すると、Y-5.1ゼオライトの機械的混合は全温度範囲(150~350℃)でVWTi触媒の活性にわずかな低下をもたらしたが、Y-12ゼオライトの混合はSCR性能にほとんど影響を与えなかった。
【0025】
図3を参照すると、VWTi+Y-12触媒の場合、64:1の質量比で触媒の初期活性がわずかに減少したが、VWTi対Y-ゼオライトの混合比にかかわらず、ある程度初期触媒活性は維持された。しかしながら、Y-5.1ゼオライトをより多く添加するほど、NOx転換率は徐々に減少し、SO
2抵抗は絶えず増加した。VWTiと混合したAlが豊富なY-ゼオライトの量が触媒活性とABSトラッピング能力に同時に大きな影響を与え、ゼオライトのAl種が耐硫黄性を提供しながらも初期触媒活性低下の原因として現れた。
【0026】
図4から
図6は、それぞれグラインディングをしていない場合と機械的グラインディングをした場合のVWTi+Y-5.1触媒の固体状態
29Si、
27Al、および
51V NMRスペクトルを示す。VWTi対Y-5.1ゼオライトの質量比は2:1であり、グラインディングされていないVWTi+Y-5.1触媒はガラス瓶から2つの材料をハンドシェイクで軽く混合して製造した。物理的混合後に異常な触媒不活性化の原因を調べるために、Alが富むY-5.1およびVWTiを粉砕した後、材料の物理化学的変化を様々な特性評価方法によって分析した。
【0027】
図4から
図6を参照すると、
29Si-NMRスペクトルは-107ppmでピーク強度の減少を示した。これはSi-O基の四面体配位構造に相当するが、-90および-95ppmの化学シフトにおけるピークの増加は、3つまたは2つのAlで囲まれたSi-O基に起因する。
27Al-NMRスペクトルは、エキストラ-フレームワークAl(0ppm)におけるAl
VIに対応するピークの増加と、エキストラ-フレームワークAl(EFAl)に対応するAl
Vピークの強度のわずかな減少を示し、これは4配位EFAlの減少と6配位EFAl種の増加を示す。この変化は、周囲条件下でもグラインディング中に一部のEFAl種のフレームワークAl種に再度切り替えられることを意味し、触媒に機械的力を加えると、フレームワークAlの構造的再配列またはゼオライトケージでEFAl種の移動を誘導することができることを示す。
【0028】
機械的グラインディングはAl種だけでなくV種の配位環境に大きな影響を与えた。TiO2表面で高分散して孤立したモノマーVOx種(-535および-572ppm)のピークは、グラインディング後にほぼ消失し、グラインディング後にオリゴマーVOxまたはナノサイズのV2O5に対応する-614ppmのピークのみが残った。ゼオライト構造における分散したVOx種の同時減少とAl種の変化を観察すると、機械的グラインディングがVとAl種間の相互作用を誘導し、TiO2表面から移動性Al種の分離したVOx種への拡散によるものであることを確認することができる。また、低温でのNH3脱着量はグラインディング後減少したが、高温で酸性サイトの数は増加した。
【0029】
図7はグラインディング後のVWTi+Y-12触媒およびVWTi+Y-5.1触媒のTEMイメージおよびEDSライン走査スペクトルを示す。VWTi対Yゼオライトの質量比は2:1である。
【0030】
図7を参照すると、VWTi粒子の一部が機械的混合後にかなりの量のAlを含有し、これはEFAl移動およびグラインディング工程の結果として孤立したVサイトとのその後の相互作用の可能性を示す。
【0031】
図8はVWTi+Y-5.1触媒及びVWTi+Y-12触媒について機械的グラインディング効果を比較したH
2-TPR結果を示し、
図9はAl含浸VWTi触媒のH
2-TPR結果を示す。
【0032】
図8を参照すると、VWTi+Y-5.1触媒における機械的相互作用によるAl種の変化は、孤立したVサイトの酸化還元挙動の変化をもたらした。H
2-TPRプロファイルで分散したVOxおよびWOx種の還元に割り当てられた370~620℃の全還元ピークは、グラインディング後より高い温度に移動した。Y-5.1ゼオライトの使用は、Y-12ゼオライトと比較して混合触媒の還元温度でより明確な変化をもたらした。孤立したVOx種の還元性における重要な変化は、Al-O結合を形成することによってV-O-Tiの還元を阻害するAl種との化学的相互作用によってのみ説明することができる。
【0033】
図9を参照すると、VOxの還元性に対するAl種の潜在的な影響を確認するために、VWTi触媒にAl(NO
3)
3溶液を含浸させてAlの移動(マイグレーション)をシミュレーションし、H
2-TPR結果の変化を観察した。Alが含浸されたVWTi触媒において同様の傾向が観察されて、450℃未満の還元ピークは減少したが、500℃以上のピークはAlが含浸するにつれて増加した。これらの結果は、ゼオライトに由来する拡散されたAl種がグラインディング工程によってTiO
2に対するVOx種の還元性に影響を与えることを示す。
【0034】
図10は乾式および湿式反応条件下でのVWTi触媒およびVWTi+Y-5.1触媒の動力学分析の結果を示す。SCR反応におけるVOx-Al相互作用が反応経路に及ぼす影響を調べるために、触媒の動力学分析を行った。VWTi+Y-5.1触媒におけるVWTi対Y-5.1ゼオライトの質量比は2:1である。
【0035】
図10を参照すると、湿式供給物があるVWTi触媒の活性化エネルギー(Ea)は、標準SCR条件で約60kJ/molと測定された。しかし、Y-5.1ゼオライトと一緒にグラインディングした後、活性化エネルギーは約69kJ/molに増加した。同様に、乾式条件下でのVWTiの活性化エネルギーは52kJ/molであり、一方、VWTi+Y-5.1触媒の活性化エネルギーは64kJ/molに増加して水の有無にかかわらず活性化エネルギーが増加した。活性化エネルギーの増加によって表される反応力学の変化は、反応の活性サイトの調節によってのみ説明することができる。
【0036】
Al-含浸されたVWTi触媒の活性化エネルギーは、VWTi+Y-5.1触媒と同様に、VWTi触媒の活性化エネルギーよりも高かった(72kJ/mol)。したがって、VとAlの間の相互作用はSCR反応でより高い活性化エネルギーを引き起こし、これはグラインディング後の触媒不活性化の主な原因である。TiO2の表面VOx種は反応条件下で動的であり、これはVOx分散の変化がグラインディング後不活性化を引き起こす可能性があることを意味する。これを確認するために、様々なVロード(loading)を有するVWTi触媒の動力学分析が湿式条件下で行われ、活性化エネルギーはVロードに関係なく52~60kJ/molであることが示された。したがって、VWTi+Y-5.1触媒の活性化エネルギーの増加は、V分散の変化ではなくAl種との相互作用に起因する。
【0037】
図11は本発明の一実施例による窒素酸化物除去用触媒の製造方法を説明するための図である。
【0038】
図11を参照すると、VWTiとYゼオライトを混合する前に、Yゼオライトを炭素層でコーティングする。オクタデシルトリクロロシラン(OTS)をトルエン溶媒に溶解してOTS-トルエン溶液を形成し、Yゼオライトを上記OTS-トルエン溶液に添加すると、OTSがYゼオライトの水酸基と反応してHClが形成され、YゼオライトはOTSでコーティングされてYゼオライト表面にOTS層(炭素層)が形成される。OTS層を有するYゼオライト(OTSY)とVWTiとを混合した後、グラインディングしてVWTi+OTSY-5.1触媒を製造することができる。
【0039】
図12はVWTi触媒およびVWTi+OTSY-5.1触媒の
51V固体状態のNMRスペクトルを示し、
図13はVWTi触媒およびVWTi+OTSY-5.1触媒のH
2-TPR結果を示す。
【0040】
図12及び
図13を参照すると、炭素層でコーティングされたVWTi+OTSY-5.1触媒は、グラインディングの前後に同様の
51V NMRピーク強度を示した。また、H
2-TPRプロファイルは、グラインディング後のVWTiの還元性の減少も示さなかった。これらの結果は、孤立されたVOxがAl種の相互作用なしに保存されることを示す。
【0041】
図14はVWTi+OTSY-5.1触媒及びこの触媒の焼成形態(VWTi+SY-5.1)に対する標準NH
3-SCR反応中の温度による定常状態のNOx転換率を示す。VWTi+OTSY-5.1触媒におけるVWTi対OTSY-5.1ゼオライトの質量比は2:1である。
【0042】
図14を参照すると、VWTi+Y-5.1触媒と比較して、VWTi+OTSY-5.1触媒は、100~300℃で不活性化なしに初期触媒活性を維持した。これは、ゼオライト粒子の外面の薄い炭素層が物理的障壁として効果的に作用し、Al種の拡散を防止することによってTiO
2表面の孤立した活性VOxサイトを保護することを示す。この触媒についてSCR反応を500℃まで行った後、反応器を室温に冷却し、同じ条件で再試験した。二次SCR試験では、ほとんどの炭素層が酸化によって除去されるため、VWTiとゼオライト粒子との間に直接接触がなければならない。OTSY-5.1触媒の元素分析は、500℃で酸化後に少量の炭素層しか残っていないことを示した。ゼオライトとVWTi粒子との間の直接的な接触があったにもかかわらず、SCR活性は、二次SCR試験において何の変化もなく完全に維持されており、これは機械的グラインディング工程がなければ移動性EFAl種による化学的不活性化が起こらないことを示す。これはAl種(ほとんどEFAl)が隣接する粒子に移動することが化学ポテンシャルの差ではなく機械的力によって生じることを意味する。比較のために炭素コーティングされたOTSY-5.1を500℃で予め酸化してSY-5.1を作製し、VWTi+SY-5.1触媒も製造し、グラインディング前に炭素層が除去された場合にどうなるかを観察した。この場合、予想通りSCR活性の低下が再び観察され、これはVWTi+Y-5.1の観察と同様である。これは、酸化後にゼオライトに残るシラン基がVOxとAl種との間の機械的化学的相互作用を妨げることができないことを示す。すなわち、グラインディング工程中にVとゼオライトとの直接接触を防止する薄い炭素層がゼオライト表面に存在しなければならない。
【0043】
図15は触媒にABSを形成し、44時間不活性化の間、220℃でのNH
3-SCR反応におけるNOx転換率を示す。触媒は運転中22時間から24時間の間に2時間350℃で再生した。反応供給物は、N
2(他の反応供給物を除く残り)、NO(500ppm)、NH
3(600ppm)、O
2(10%)、CO
2(5%)、H
2O(10%)、およびSO
2(100ppm)を含み、前記反応供給物のGHSVは150,000mL/g・hである。
図16はVWTi触媒およびVWTi+OTSY-5.1触媒にABSを形成し、44時間不活性化の間、180℃でのNH
3-SCR反応におけるNOx転換率を示す。不活性化過程をモニタリングするために、触媒を22時間および48時間後に220℃に加熱した。VWTi+ゼオライト触媒におけるVWTi対ゼオライトの質量比は2:1である。
【0044】
図15を参照すると、VWTi+OTSY-5.1触媒は、EFAl種で発生する化学的不活性化なしに初期触媒活性を維持しながら、44時間運転中にABSによる物理的不活性化なしに高いSO
2抵抗を首尾よく維持した。この性能は従来のVWTiおよびMn系触媒と比較して優れており、硫黄含有排ガスのある燃焼施設に活用することができる。
【0045】
図16を参照すると、低温(200℃未満)はABSの不活性化をさらに加速することができる。なぜなら、ABSの蒸気圧が、温度が低下するにつれて大きく低下するからである。したがって、触媒ははるかに低い温度(180℃)でも試験され、触媒細孔内のABSの凝縮がより容易に起こった。従来のVWTi触媒はこの条件下で5時間で活性を急速に失い、凝縮したABSはこの温度で分解しにくいため、温度が220℃に上昇したときに活性が依然低かった(20%未満)。対照的に、VWTi+OTSY-5.1触媒は、22時間にわたってほとんど不活性化なしに活性を維持し、温度が220℃に回復したときに活性が依然として高かった(約60%)。また、44時間の間より低い温度に暴露しても触媒が完全に不活性化されないことが確認された。これは実際のSCR動作中に発生する低温イベントを防ぐことができることを示す。
【0046】
バルク炭素が有機シランで製造された薄い炭素層と同様の効果を有するかどうかを確認するためにシランを使用する代わりに、ゼオライト粒子に水溶液であるコロイド澱粉であるバルク炭素化合物を蒸着し、VWTi触媒と混合した。この場合、ABS不活性化が起こった。これはゼオライトの外面のみを覆うOTS層とは異なり、長いコロイド澱粉リガンドがゼオライト凝集を誘導し、ABSトラッピングのための十分なVWTi-ゼオライト接触を抑制するためである。これは炭素層が効率的なABSトラッピングのためにVWTiとゼオライトとの間の必須的な接触を妨げないように導入されるべきであることを示す。
【0047】
以上、本発明の具体的な実施例について考察した。本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で変形した形態で具現できることを理解することができるであろう。したがって、開示された実施例は限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されるべきである。本発明の範囲は前述した説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、それと同等の範囲内にあるすべての差異点は本発明に含まれるものと解釈されるべきである。
【外国語明細書】