IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気硝子株式会社の特許一覧

特開2024-68628ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置
<>
  • 特開-ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置 図1
  • 特開-ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置 図2
  • 特開-ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置 図3
  • 特開-ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置 図4
  • 特開-ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置 図5
  • 特開-ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068628
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/00 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
C03B19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023155475
(22)【出願日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022178659
(32)【優先日】2022-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 朋子
(72)【発明者】
【氏名】古山 忠仁
(57)【要約】
【課題】無容器浮遊法において得られるガラス材の失透を抑制することができる、ガラス材の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス原料塊を浮遊させた状態で加熱することにより、ガラス原料塊を加熱融解させた溶融ガラスを得る工程と、溶融ガラスを冷却してガラス材を得る工程とを備え、ガラス原料塊を加熱する工程において、ガスを噴出させながらガラス原料塊を浮遊させた状態で加熱し、溶融ガラスを冷却する工程において、振動付与手段により冷却中の溶融ガラスに振動を与える、ガラス材の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料塊を浮遊させた状態で加熱することにより、前記ガラス原料塊を加熱融解させた溶融ガラスを得る工程と、
前記溶融ガラスを冷却してガラス材を得る工程と、
を備え、
前記ガラス原料塊を加熱する工程において、ガスを噴出させながら前記ガラス原料塊を浮遊させた状態で加熱し、
前記溶融ガラスを冷却する工程において、振動付与手段により冷却中の前記溶融ガラスに振動を与える、ガラス材の製造方法。
【請求項2】
前記振動付与手段の振動数が、1Hz以上、100Hz未満である、請求項1に記載のガラス材の製造方法。
【請求項3】
前記振動付与手段が、ガスを間欠的に噴出させることにより冷却中の前記溶融ガラスに振動を与える手段である、請求項1又は2に記載のガラス材の製造方法。
【請求項4】
前記ガスを間欠的に噴出させるに際し、前記ガスを間欠的に通過させる電磁弁を通して、前記ガスを間欠的に噴出させる、請求項3に記載のガラス材の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス原料塊を加熱するに際し、前記ガラス原料塊にレーザー光を照射することにより、前記ガラス原料塊を加熱する、請求項1又は2に記載のガラス材の製造方法。
【請求項6】
ガラス原料塊をガスにより浮遊させた状態で加熱することにより、前記ガラス原料塊を加熱融解させた溶融ガラスを得た後、当該溶融ガラスを冷却してガラス材を製造する装置であって、
前記ガラス原料塊をガスにより浮遊させるための複数のガス噴出孔が形成された成形面を有する成形型と、
前記ガス噴出孔にガスを供給するガス供給機構と、
前記ガラス原料塊を加熱する加熱手段と、
冷却中の前記溶融ガラスに振動を与える振動付与手段と、
を備える、ガラス材の製造装置。
【請求項7】
前記振動付与手段が、電磁弁である、請求項6に記載のガラス材の製造装置。
【請求項8】
前記加熱手段が、レーザー光照射装置である、請求項6又は7に記載のガラス材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無容器浮遊法によるガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス材の製造方法として、無容器浮遊法に関する研究がなされている。例えば、特許文献1には、ガス浮遊炉で浮遊させたバリウムチタン系強誘電体の試料にレーザー光を照射して加熱溶融した後に、冷却することにより、バリウムチタン系強誘電体の試料をガラス化させる方法が記載されている。このように、無容器浮遊法では、容器の壁面との接触に起因する結晶化の進行を抑制できるため、従来の容器を用いた製造方法ではガラス化させることができなかった材料であってもガラス化し得る場合がある。従って、無容器浮遊法は、新規な組成を有するガラス材を製造し得る方法として注目に値すべき方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-248801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような無容器浮遊法では、ガラス原料塊を加熱融解させて得られた溶融ガラスの冷却工程において、冷却中の溶融ガラスが製造装置の成形面に接触することがある。このように、冷却中の溶融ガラスが成形面に接触すると、その部分において結晶化が進行し、得られるガラス材が失透することがある。
【0005】
本発明の目的は、無容器浮遊法において得られるガラス材の失透を抑制することができる、ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置の各態様について説明する。
【0007】
本発明の態様1に係るガラス材の製造方法は、ガラス原料塊を浮遊させた状態で加熱することにより、前記ガラス原料塊を加熱融解させた溶融ガラスを得る工程と、前記溶融ガラスを冷却してガラス材を得る工程とを備え、前記ガラス原料塊を加熱する工程において、ガスを噴出させながら前記ガラス原料塊を浮遊させた状態で加熱し、前記溶融ガラスを冷却する工程において、振動付与手段により冷却中の前記溶融ガラスに振動を与えることを特徴としている。
【0008】
態様2のガラス材の製造方法は、態様1において、前記振動付与手段の振動数が、1Hz以上、100Hz未満であることが好ましい。
【0009】
態様3のガラス材の製造方法は、態様1又は態様2において、前記振動付与手段が、ガスを間欠的に噴出させることにより冷却中の前記溶融ガラスに振動を与える手段であることが好ましい。
【0010】
態様4のガラス材の製造方法は、態様3において、前記ガスを間欠的に噴出させるに際し、前記ガスを間欠的に通過させる電磁弁を通して、前記ガスを間欠的に噴出させることが好ましい。
【0011】
態様5のガラス材の製造方法は、態様1~態様4のいずれかにおいて、前記ガラス原料塊を加熱するに際し、前記ガラス原料塊にレーザー光を照射することにより、前記ガラス原料塊を加熱することが好ましい。
【0012】
本発明の態様6に係るガラス材の製造装置は、ガラス原料塊をガスにより浮遊させた状態で加熱することにより、前記ガラス原料塊を加熱融解させた溶融ガラスを得た後、当該溶融ガラスを冷却してガラス材を製造する装置であって、前記ガラス原料塊をガスにより浮遊させるための複数のガス噴出孔が形成された成形面を有する成形型と、前記ガス噴出孔にガスを供給するガス供給機構と、前記ガラス原料塊を加熱する加熱手段と、冷却中の前記溶融ガラスに振動を与える振動付与手段とを備えることを特徴としている。
【0013】
態様7のガラス材の製造装置は、態様6において、前記振動付与手段が、電磁弁であることが好ましい。
【0014】
態様8のガラス材の製造装置は、態様6又は態様7において、前記加熱手段が、レーザー光照射装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無容器浮遊法において得られるガラス材の失透を抑制することができる、ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るガラス材の製造方法で用いられるガラス材の製造装置を示す模式的断面図である。
図2図2は、図1のガラス材の製造装置における成形面の一部分の略図的平面図である。
図3図3(a)は、電磁弁が開かれている状態を示す模式的断面図であり、図3(b)は、電磁弁が開閉されている状態を示す模式的断面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係るガラス材の製造方法におけるガスの流量のタイムチャートの第1の例を示す図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係るガラス材の製造方法におけるガスの流量のタイムチャートの第2の例を示す図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係るガラス材の製造方法におけるガスの流量のタイムチャートの第3の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0018】
本発明に係るガラス材の製造方法は、無容器浮遊法によりガラス材を製造する方法である。無容器浮遊法では、例えば、容器を用いた溶融法によってはガラス化しない組成を有するガラス材であっても製造することができる。
【0019】
具体的には、無容器浮遊法では、チタン酸バリウム系ガラス材、ランタン-ニオブ複合酸化物系ガラス材、ランタン-タングステン複合酸化物系ガラス材、ランタン-チタン複合酸化物系ガラス材、ランタン-タンタル複合酸化物系ガラス材、ランタン-ガリウム複合酸化物系ガラス材、ランタン-アルミニウム複合酸化物系ガラス材、ランタン-ホウ素複合酸化物系ガラス材、テルビウム-ホウ素複合酸化物系ガラス材、ユーロピウム-ホウ素複合酸化物系ガラス材、アルミニウム-ケイ素複合酸化物系ガラス材、タンタル-アルミニウム複合酸化物系ガラス材等であっても好適に製造することができる。
【0020】
以下、まず、本発明のガラス材の製造方法で用いる製造装置の一例について説明する。
【0021】
(ガラス材の製造装置)
図1は、本発明の一実施形態に係るガラス材の製造方法で用いられるガラス材の製造装置を示す模式的断面図である。ガラス材の製造装置1は、ガラス原料塊をガスにより浮遊させた状態で加熱することにより、ガラス原料塊を加熱融解させた溶融ガラスを得た後、当該溶融ガラスを冷却してガラス材を製造する装置であって、浮遊対象物4としてのガラス原料塊をガスにより浮遊させるための複数のガス噴出孔2bが形成された成形面2aを有する成形型2と、ガス噴出孔2bにガスを供給するガス供給機構3と、ガラス原料塊を加熱する加熱手段と、冷却中の溶融ガラスに振動を与える振動付与手段とを備える。
【0022】
図1に示すように、ガラス材の製造装置1は、成形型2を有する。成形型2は、成形面2aと、成形面2aに開口している複数のガス噴出孔2bとを有する。成形面2aは、曲面である。具体的には、成形面2aは、球面状である。
【0023】
成形面2aの曲率半径は、目標とするガラスのサイズに合わせて調整することが好ましい。具体的には、目標とするガラス材の直径をx(mm)とし、成形面2aの曲率半径をy(mm)とするとき、x<y<5xであることが好ましく、1.5x<y<4xであることがより好ましい。言い換えると、成形面2aの曲率半径yは、ガラス材の直径xの1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、5倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましい。
【0024】
成形型2は、成形面2aに開口しているガス噴出孔2bを有する。図2に示すように、ガラス材の製造装置1では、ガス噴出孔2bが複数設けられている。具体的には、複数のガス噴出孔2bは、成形面2aの中心から放射状に配列されている。
【0025】
なお、成形型2は、連続気孔を有する多孔質体により構成されていてもよい。この場合、ガス噴出孔2bは、連続気孔により構成される。
【0026】
ガス噴出孔2bは、ガスボンベなどのガス供給機構3に接続されている。このガス供給機構3からガス噴出孔2bを経由して、成形面2aにガスが供給される。これにより、ガラス原料塊などの浮遊対象物4を浮遊させることができる。
【0027】
ガスの種類は、特に限定されない。ガスは、例えば、空気や酸素であってもよいし、窒素・水素混合ガス等の還元性ガスや、窒素ガス、アルゴンガス、あるいはヘリウムガス等の不活性ガスであってもよい。
【0028】
冷却中の溶融ガラスに振動を与える振動付与手段は、電磁弁であることが好ましい。本実施形態のガラス材の製造装置1では、図1に示すように、ガス供給機構3とガス噴出孔2bとの間に、電磁弁10が設けられている。また、電磁弁10には、パルス信号を送るためのパルス発生装置6が接続されている。
【0029】
パルス発生装置6のスイッチがオフであるとき、電磁弁10は開かれている。従って、この場合、ガス供給機構3から供給されたガスは、そのまま電磁弁10を通過し、設定した流量でガス噴出孔2bから噴出される。
【0030】
一方、パルス発生装置6のスイッチがオンであるとき、電磁弁10にパルス信号が送られ、電磁弁10が開閉される。この電磁弁10の開閉により、ガス供給機構3から供給されたガスは、電磁弁10を間欠的に通過する。それによって、電磁弁10を通過したガスを、ガス噴出孔2bから間欠的に噴出させることができる。
【0031】
次に、ガラス材の製造装置1を用いたガラス材の製造方法の一例について説明する。
【0032】
(ガラス材の製造方法)
まず、成形型2の成形面2aに開口するガス噴出孔2bからガスを噴出させることにより、浮遊対象物4としてのガラス原料塊を成形面2a上で浮遊させる。すなわち、浮遊対象物4としてのガラス原料塊が成形面2aに接触していない状態で、ガラス原料塊を保持する。なお、本明細書において、浮遊対象物4とは、ガラス原料塊以外に、ガラス原料塊を加熱融解させた溶融ガラス等のことをいう場合もあるものとする。
【0033】
ガラス原料塊としては、例えば、ガラス材の原料粉末をプレス成形等により一体化したもの、ガラス材の原料粉末をプレス成形等により一体化した後に焼結させた焼結体、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。また、本実施形態において、ガラス原料塊の形状は、特に限定されず、例えば、レンズ状、球状、円柱状、多角柱状、直方体状、楕円体状等とすることができる。
【0034】
次に、浮遊対象物4としてのガラス原料塊を浮遊させた状態で、加熱手段を用いてガラス原料塊を加熱する。加熱手段は、レーザー光照射装置5であることが好ましい。すなわち、レーザー光照射装置5からレーザー光を照射することにより、ガラス原料塊を加熱することが好ましい。これにより、ガラス原料塊を加熱融解させて溶融ガラス(融液)を得る。
【0035】
なお、ガラス原料塊を浮上させてから溶融ガラスを得るまでの間は、パルス発生装置6をオフにして、電磁弁10が開かれた状態にしておくものとする。すなわち、ガラス原料塊を浮上させてから溶融ガラスを得るまでの間は、ガスを連続的に噴出させながら浮遊させた状態でガラス原料塊を加熱するものとする。なお、後述するガスの流量のタイムチャートで説明するように、ガスを連続的に噴出させる際に、ガスの流量自体は変化させてもよいものとする。
【0036】
次に、溶融ガラスを浮遊させた状態で冷却することにより、ガラス材を得る。この溶融ガラスを冷却する工程においては、パルス発生装置6のスイッチをオンにして、電磁弁10にパルス信号を送り、電磁弁10を開閉させる。この電磁弁10の開閉により、ガス供給機構3から供給されたガスは、電磁弁10を間欠的に通過する。これにより、電磁弁10を通過したガスを、ガス噴出孔2bから間欠的に噴出させることができ、冷却中の溶融ガラスに振動を与えることができる。なお、本明細書において、「冷却中の溶融ガラス」とは、結晶化温度よりも高いガラスもしくはガラス融液(融液ガラス)のことをいうものとする。
【0037】
本実施形態のガラス材の製造方法では、冷却工程において、冷却中の溶融ガラスに振動を与えることができるので、冷却中の溶融ガラスが成形面2aに接触したとしても、すぐに取り外すことができる。従って、溶融ガラスの成形面2aへの接触時間を短くすることができ、その部分において結晶化が進行することを抑制することができる。よって、本実施形態のガラス材の製造方法によれば、得られるガラス材の失透を抑制することができる。
【0038】
なお、本実施形態において、ガスの間欠的な噴出は、冷却工程のみで行うものとする。加熱工程においても、ガスを間欠的に噴出させながらガラス原料塊を加熱する場合、融液ガラスの浮遊が不安定になりやすく、ガラス材を安定して製造することが難しくなる。これに対して、本実施形態では、上述したように、ガスを連続的に噴出させながら浮遊させた状態でガラス原料塊を加熱するため、融液ガラスの浮遊を安定させることができ、ガラス材をより安定して製造することができる。
【0039】
次に、本実施形態で用いる電磁弁10の詳細について説明する。
【0040】
図3(a)は、電磁弁が開かれている状態を示す模式的断面図であり、図3(b)は、電磁弁が開閉されている状態を示す模式的断面図である。
【0041】
図3(a)及び図3(b)に示すように、電磁弁10は、ポペット型の弁である。電磁弁10は、弁体11と、弁座12とを備える。この電磁弁10では、弁体11が弁座12に対して直角方向に駆動することにより、ガス流路を開閉することができる。
【0042】
図3(a)に示すように、電磁弁10が開かれた状態であるとき、ガス供給機構3から供給されたガスは、電磁弁10を通過し、設定した流量でガス噴出孔2bから噴出される。一方、図3(b)に示すように、電磁弁10にパルスの信号が送られると、弁体11が上下に作動し、電磁弁10が開閉する。これにより、電磁弁10を通過するガスを、ガス噴出孔2bから間欠的に噴出させることができる。
【0043】
このように、電磁弁10の開閉によりガスを間欠的に噴出させる場合、電磁弁10が閉じられていたときに溜まっていたガスが、電磁弁10が開かれるときに強く噴出される。そのため、ガスを間欠的に通過させる電磁弁10を通して、ガスを間欠的に噴出させる方法によれば、冷却中の溶融ガラスが成形面2aに接触したとしても、電磁弁10が開かれるときに強く噴出されたガスにより確実に取り外すことができ、得られるガラス材の失透をより確実に抑制することができる。
【0044】
電磁弁10を開閉するに際し、電磁弁10が開かれている時間間隔と、電磁弁10が閉じられている時間間隔とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。もっとも、より簡便に電磁弁10を開閉させる観点からは、電磁弁10が開かれている時間間隔と、電磁弁10が閉じられている時間間隔とが、同じであることが望ましい。例えば、電磁弁10が開かれている時間間隔を0.05秒とし、電磁弁10が閉じられている時間間隔を0.05秒とすることが好ましい。
【0045】
また、電磁弁10が閉じられている時間が短い場合(すなわち、パルスの振動数が大きい場合)、電磁弁10とガス噴出孔2bとの接続部(例えば、ガスパイプ)内のすべてのガスがガス噴出孔2bから噴出する前に電磁弁10が開き、次のガスがガス供給機構3から供給される。すなわち、ガス噴出孔2bから噴出するガス流量が0になる前に次のガスが供給されることになるため、ガス流量に強弱を有するガスがガス噴出孔2bから噴出することになる。よって、冷却中の溶融ガラスをより確実に浮遊させ続けることができる。あるいは、ガス流量が0にならないように、電磁弁10が完全に閉まらない構造となるように設計してもよい。
【0046】
電磁弁10を開閉させるに際し、パルスの振動数は、好ましくは1Hz以上、より好ましくは10Hz以上、さらに好ましくは25Hz以上、特に好ましくは40Hz以上であり、好ましくは100Hz未満、より好ましくは80Hz以下、さらに好ましくは70Hz以下、特に好ましくは60Hz以下である。パルスの振動数が上記下限値以上である場合、冷却中の溶融ガラスの成形面2aへの接触をより生じ難くすることができる。また、冷却中の溶融ガラスが成形面2aに接触したとしても、より確実に取り外すことができ、得られるガラス材の失透をより確実に抑制することができる。また、パルスの振動数が上記上限値以上又は上記上限値を超える場合、ガス流量の強弱が小さくなり過ぎて、冷却中の溶融ガラスに十分な振動を与えられない場合がある。従って、パルスの振動数を上記上限値以下又は上記上限値未満とすることにより、冷却中の溶融ガラスが成形面2aに接触したとしても、より確実に取り外すことができ、得られるガラス材の失透をより確実に抑制することができる。
【0047】
なお、電磁弁10としては、ポペット型の弁以外の弁を用いてもよく、特に限定はされない。
【0048】
以下、図4図6を参照して、本発明のガラス材の製造方法におけるガスの流量のタイムチャートの第1~第3の例について説明する。第1~第3の例では、まず、パルス発生装置6のスイッチをオフにし、電磁弁10が開かれた状態にしておく。この状態で、ガス供給機構3から供給されたガスを、ガス噴出孔2bから噴出させることにより、ガラス原料塊を成形面2a上で浮遊させる。次に、ガラス原料塊を浮遊させた状態で、レーザー光照射装置5からレーザー光を照射する。これにより、ガラス原料塊を加熱融解させて溶融ガラス(融液)を得る。次に、溶融ガラスを浮遊させた状態で、レーザー光の照射を停止して冷却することにより、ガラス材を得る。
【0049】
第1の例では、図4に示すように、レーザー光の照射を開始(レーザーON)してから溶融ガラスを得るまでの間、ガスの流量を一定にしながら連続的にガスを噴出させる。また、第1の例では、レーザー光の照射を停止(レーザーOFF)するとともに、パルス発生装置6のスイッチをオンにして、電磁弁10にパルス信号を送り、電磁弁10を開閉させる。このとき、図4に示すように、電磁弁10の開閉により周期的にガスの流量を増減させる。例えば、ガスの設定流量を「10」とすると、ガスの流量を、電磁弁10が閉じているときに「8」となり、電磁弁10が開いているときに「12」となるように増減させ、これを周期的に繰り返すように増減させる。これにより、冷却中の溶融ガラスの成形面2aへの接触をより生じ難くするとともに、冷却中の溶融ガラスが成形面2aに接触したとしても、より確実に取り外すことができる。従って、得られるガラス材の失透をより確実に抑制することができる。
【0050】
ガスの設定流量は、ガラス原料塊の種類や大きさにもよるが、例えば、5L/分以上、20L/分以下とすることができる。また、電磁弁10が閉じられているときのガスの流量の最小値は、例えば、設定流量の0.8倍~0.95倍とすることができる。また、電磁弁10が開かれているときのガスの流量の最大値は、例えば、設定流量の1.05倍~1.2倍とすることができる。
【0051】
第2の例では、図5に示すように、レーザー光の照射を停止(レーザーOFF)して一定時間経過するまでの間、設定した流量でガスを供給した後、パルス発生装置6のスイッチをオンにし、ガスを間欠的に噴出させる。その他の点は、第1の例と同じである。第2の例のように、レーザー光の照射を停止することにより溶融ガラスを冷却させるに際し、ガラスの結晶化温度以上の温度であれば、溶融ガラスが冷却により固化し始めた後、ガスを間欠的に噴出させてもよい。
【0052】
第3の例では、図6に示すように、レーザー光の照射を開始(レーザーON)した後、ガラス原料塊の加熱融解が始まるまでの間、ガスの流量を徐々に大きくする。そして、ガラス原料塊の加熱融解が始まった後、ガラス原料塊が加熱融解された溶融ガラスを得るまでの間、ガスの流量を一定にしながら連続的にガスを噴出させる。その他の点は、第1の例と同様である。第3の例のように、ガラス原料塊を加熱する工程においては、ガスを連続的に噴出させながらガラス原料塊を浮遊させていればよく、ガスの流量自体は変化させてもよい。
【0053】
なお、上記実施形態では、電磁弁10の開閉によりガスを間欠的に噴出させることによって、冷却中の溶融ガラスに振動を与えていたが、本発明においては、他の振動付与手段により、冷却中の溶融ガラスに振動を与えてもよく、特に限定はされない。
【0054】
振動付与手段は、例えば、回転ドラムを用いてガスを間欠的に噴出させることにより、冷却中の溶融ガラスに振動を与える方法であってもよい。回転ドラムとしては、例えば、複数のガス流路が形成されており、回転ドラムが回転するときに、複数のガス流路のうち1つのガス流路と、ガス流入孔及びガス流出孔が連結される状態と、連結されない状態とが繰り返されるように、複数のガス流路、ガス流入孔及びガス流出孔が配置されているものを使用することができる。回転ドラムをこのような構造とすることにより、ガスを間欠的に噴出させることができる。
【0055】
また、振動付与手段は、ガスを噴出させる成形型に超音波を印加させることにより、冷却中の溶融ガラスに振動を与える方法であってもよく、エアーまたはモータによるバイブレータで成形型自体に振動を与える方法であってもよい。
【0056】
振動付与手段の振動数は、好ましくは1Hz以上、より好ましくは10Hz以上、さらに好ましくは25Hz以上、特に好ましくは40Hz以上であり、好ましくは100Hz未満、より好ましくは80Hz以下、さらに好ましくは70Hz以下、特に好ましくは60Hz以下である。振動付与手段の振動数が上記下限値以上である場合、冷却中の溶融ガラスの成形面2aへの接触をより生じ難くすることができる。また、冷却中の溶融ガラスが成形面2aに接触したとしても、より確実に取り外すことができ、得られるガラス材の失透をより確実に抑制することができる。また、振動付与手段の振動数が上記上限値以上又は上記上限値を超える場合、連続波に近い状態となり、冷却中の溶融ガラスに十分な振動を与えられない場合がある。従って、振動付与手段の振動数を上記上限値以下又は上記上限値未満とすることにより、冷却中の溶融ガラスが成形面2aに接触したとしても、より確実に取り外すことができ、得られるガラス材の失透をより確実に抑制することができる。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
表1は本発明の実施例1~3及び比較例1~3を示している。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1~3は以下のように作製した。はじめに、表1に示すガラス組成となるよう原料を調合した。次に、調合した原料0.3g~0.6gをプレス成形して、900℃~1100℃で3時間~12時間焼結することによりガラス原料塊を作製した。
【0061】
次に、得られたガラス原料塊を用いて、図1に準じたガラス材の製造装置1を用いた無容器浮遊法によって直径約5mm~7mmの略球形状のガラス材を作製した。熱源には100W COレーザー発振器を1台~4台用いた。ガス流量は1L/分~15L/分の範囲とした。具体的には、図4に示すように、レーザー光の照射を開始してから溶融ガラスを得るまでの間は、ガスの流量を8L/分~12L/分で一定にしながら連続的にガスを噴出させた。次に、レーザー光の照射を停止して冷却を行い、ガラス材を得た。このとき、レーザー光の照射を停止するとともにパルス発生装置6のスイッチをオンにして、電磁弁10に50Hzのパルス信号を送り、電磁弁10を開閉させた。このように、実施例1~3では、ガスを間欠的に噴出させる振動付与手段により冷却中の溶融ガラスに振動を与えた。
【0062】
上記製造方法において、同一組成で10ロットのガラス材を作製し、ガラス化率を確認した。10ロット中、ガラス化率が90%以上であった場合をA、ガラス化率が70%以上~90%未満であった場合をB、ガラス化率が70%未満であった場合をCとした。
【0063】
比較例1~3は、振動付与手段を用いなかったこと以外は実施例1~3と同様にガラス材を作製した。
【0064】
表1に示すように、実施例1~3のガラス材はガラス化率が90%以上であった。一方、比較例1~3のガラス材はガラス化率が90%未満となった。
【符号の説明】
【0065】
1…ガラス材の製造装置
2…成形型
2a…成形面
2b…ガス噴出孔
3…ガス供給機構
4…浮遊対象物
5…レーザー光照射装置
6…パルス発生装置
10…電磁弁
11…弁体
12…弁座
図1
図2
図3
図4
図5
図6