(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068647
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】フライングキャパシタマルチレベル整流器およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20240513BHJP
【FI】
H02M7/12 A
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023187048
(22)【出願日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】17/983,156
(32)【優先日】2022-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504162361
【氏名又は名称】台達電子工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】DELTA ELECTRONICS, INC.
【住所又は居所原語表記】186 Ruey Kuang Road, Neihu, Taipei 114, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】サティヤキ ムカルジー
(72)【発明者】
【氏名】張弛
(72)【発明者】
【氏名】ピーター マントヴァネッリ バルボサ
【テーマコード(参考)】
5H006
【Fターム(参考)】
5H006AA01
5H006CA02
5H006CB08
5H006CC02
5H006DA04
5H006DB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フライングキャパシタマルチレベル(FCML)整流器およびその制御方法を提供する。
【解決手段】FCML整流器は、入力電圧V
inで動作し、インダクタL、複数の上部スイッチS
1′...S
N′及び複数の下部スイッチS
1...S
Nを含み、上部スイッチと下部スイッチは電気的に直列に接続されている。インダクタは、入力電圧と、上部スイッチ及び下部スイッチの中間点との間に結合されている。臨界転換点では、第1、第2の変調方式の少なくとも一方が実行され、第1の変調方式では、何れか1つの下部スイッチの制御信号の立ち上がりエッジは、ゼロ電圧スイッチング(ZVS)を達成するために、少なくとも他の1つの下部スイッチの制御信号の立ち上がりエッジと同期するように制御される。第2の変調方式では、スイッチのZVSを最小導通損失で実現するために、制御信号の位相シフトとスイッチング周波数が制御される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧で動作するように構成されたフライングキャパシタマルチレベル整流器であって、
入力端子と、第1および第2の位相端子とを有するスイッチングコンバータ段と、
前記N個の上部スイッチおよび前記N個の下部スイッチを操作するための制御信号を供給するように構成された制御回路と、を備え、
前記スイッチングコンバータ段は、
前記入力電圧と前記入力端子に結合されたインダクタと、
前記入力端子と前記第1の相端子との間に電気的に直列に接続され、同じデューティサイクルで動作するように構成されたN個の上部スイッチであって、第1および第N番目の上部スイッチがそれぞれ前記入力端子および前記第1の相端子に結合され、Nは1より大きい整数である、N個の上部スイッチと、
前記入力端子と前記第2の相端子との間に電気的に直列に接続され、それぞれN個の上部スイッチと相補的に動作するように構成されたN個の下部スイッチであって、第1および第N番目の下部スイッチがそれぞれ前記入力端子および前記第2の相端子に結合されている、N個の下部スイッチと、
N-1個のフライングキャパシタであって、第n番目のフライングキャパシタは、第n番目の上部スイッチと第(n+1)番目の上部スイッチとの間の共通ノードと、第n番目の下部スイッチと第(n+1)番目の下部スイッチとの間の共通ノードとの間に結合されており、nはNより小さい正の整数である、N-1個のフライングキャパシタと、
前記第1の相端子と前記第2の相端子の間に電気的に接続された出力キャパシタと、
を有し、
前記制御回路は、臨界転換点では、第1および第2の変調方式の少なくとも一方を実行するように構成されており、
前記第1の変調方式において、前記制御回路は、スイッチのZVSを実現するために、前記N個の下部スイッチのいずれか1つの制御信号の立ち上がりエッジを、前記N個の下部スイッチの少なくとも他の1つの制御信号の立ち上がりエッジと同期するように制御し、
前記第2の変調方式では、前記制御回路は、スイッチのZVSを最小の導通損失で実現するために、前記N個の下部スイッチの制御信号の立ち上がりエッジ間の位相シフトと前記スイッチのスイッチング周波数を制御する、フライングキャパシタマルチレベル整流器。
【請求項2】
請求項1に記載のフライングキャパシタマルチレベル整流器であって、前記第1の変調方式では、前記N個の下部スイッチの両端のスイッチングノード電圧は、前記臨界転換点の間、ゼロと前記フライングキャパシタマルチレベル整流器のバス電圧との間で切り替わる、フライングキャパシタマルチレベル整流器。
【請求項3】
請求項1に記載のフライングキャパシタマルチレベル整流器であって、前記第1の変調方式では、n*VBus/Nに等しい前記入力電圧を中心とする前記臨界転換点の間、前記N個の下部スイッチの両端のスイッチングノード電圧が第1の電圧と第2の電圧との間で切り替わり、ここで、VBusは前記フライングキャパシタマルチレベル整流器のバス電圧であり、前記第1の電圧は0とn*VBus/Nの間であり、前記第2の電圧はn*VBus/NとVBusの間である、フライングキャパシタマルチレベル整流器。
【請求項4】
請求項1に記載のフライングキャパシタマルチレベル整流器であって、前記第1の変調方式では、n*VBus/Nに等しい前記入力電圧を中心とする前記臨界転換点の間、N個の下部スイッチの両端のスイッチングノード電圧が(n-1)*VBus/Nと(n+1)*VBus/Nとの間で切り替わり、ここで、VBusは前記フライングキャパシタマルチレベル整流器のバス電圧である、フライングキャパシタマルチレベル整流器。
【請求項5】
請求項1に記載のフライングキャパシタマルチレベル整流器であって、前記第1の変調方式では、前記N-1個のフライングキャパシタのアンペア秒または電荷バランスを維持するために、すべてのスイッチが前記制御回路によって制御される、フライングキャパシタマルチレベル整流器。
【請求項6】
請求項1に記載のフライングキャパシタマルチレベル整流器であって、前記第2の変調方式では、前記制御回路は、前記フライングキャパシタマルチレベル整流器のバス電圧および前記N-1個のフライングキャパシタの電圧に基づいて、前記インダクタに電流リップルを発生させるように前記位相シフトおよび前記スイッチング周波数を制御する、フライングキャパシタマルチレベル整流器。
【請求項7】
請求項1に記載のフライングキャパシタマルチレベル整流器であって、前記第2の変調方式では、前記制御回路は、前記インダクタの電流リップルを平均インダクタ電流の2倍に実質的に等しくするために、前記入力電圧と前記フライングキャパシタマルチレベル整流器のバス電圧に応じて前記位相シフトと前記スイッチング周波数を制御する、フライングキャパシタマルチレベル整流器。
【請求項8】
請求項7に記載のフライングキャパシタマルチレベル整流器であって、前記第2の変調方式では、前記制御回路は、前記N-1個のフライングキャパシタの電荷バランスを維持するために、2つの連続するスイッチングサイクル間で立ち上がりエッジと立ち下がりエッジを回転させることによって前記位相シフトを生成する、フライングキャパシタマルチレベル整流器。
【請求項9】
請求項1に記載のフライングキャパシタマルチレベル整流器であって、M相のM個の入力電圧でそれぞれ動作し、前記インダクタを介して前記M個の入力電圧にそれぞれ結合されたM個のスイッチングコンバータステージを有し、Mは1より大きい整数である、フライングキャパシタマルチレベル整流器。
【請求項10】
フライングキャパシタマルチレベル整流器の制御方法であって、
前記フライングキャパシタマルチレベル整流器は、入力電圧で動作するように構成され、スイッチングコンバータ段を備え、
前記スイッチングコンバータ段は、入力端子、第1の相端子、第2の相端子、インダクタ、N個の上部スイッチ、N個の下部スイッチ、N-1個のフライングキャパシタ、および出力キャパシタを備え、Nは1より大きい整数であり、
前記N個の上部スイッチは、前記入力端子と前記第1の相端子との間に電気的に直列に接続され、同じデューティサイクルで動作し、第1および第N番目の上部スイッチは、それぞれ前記入力端子と前記第1の相端子とに結合され、
N個の下部スイッチは、前記入力端子と前記第2の相端子との間に電気的に直列に接続され、前記N個の上部スイッチとそれぞれ相補的に動作し、第1および第N番目の下部スイッチは、前記入力端子と前記第2の相端子とにそれぞれ結合され、
第n番目のフライングキャパシタは、第n番目の上部スイッチと第(n+1)番目の上部スイッチとの間の共通ノードと、第n番目の下部スイッチと第(n+1)番目の下部スイッチとの間の共通ノードとの間に結合され、nはNより小さい正の整数であり、前記出力キャパシタは、前記第1の相端子と前記第2の相端子との間に電気的に接続され、
前記制御方法は、
臨界転換点において、第1および第2の変調方式の少なくとも一方を実行する工程を含み、
前記第1の変調方式を実行するときは、スイッチのZVSを達成するために、前記N個の下部スイッチのうちのいずれか1つの制御信号の立ち上がりエッジが、前記N個の下部スイッチのうちの少なくとも他の1つの制御信号の立ち上がりエッジと同期するように制御し、
前記第2の変調方式を実行するときは、前記スイッチのZVSを最小導通損失で実現するために、前記N個の下部スイッチの制御信号の立ち上がりエッジと前記スイッチのスイッチング周波数との間の位相シフトを制御する、制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載の制御方法であって、前記第1の変調方式が実行されると、臨界転換点の間、前記N個の下部スイッチの両端のスイッチングノード電圧が、ゼロと前記フライングキャパシタマルチレベル整流器のバス電圧との間で切り替わる、制御方法。
【請求項12】
請求項10に記載の制御方法であって、前記第1の変調方式が実行されると、n*VBus/Nに等しい前記入力電圧を中心とする前記臨界転換点の間、前記N個の下部スイッチの両端のスイッチングノード電圧が第1の電圧と第2の電圧の間で切り替わり、ここで、VBusは前記フライングキャパシタマルチレベル整流器のバス電圧であり、前記第1の電圧は0とn*VBus/Nの間であり、前記第2の電圧はn*VBus/NとVBusの間である、制御方法。
【請求項13】
請求項10に記載の制御方法であって、前記第1の変調方式が実行されると、n*VBus/Nに等しい前記入力電圧を中心とする前記臨界転換点の間、前記N個の下部スイッチの両端のスイッチングノード電圧が、(n-1)*VBus/Nと(n+1)*VBus/Nの間で切り替わり、ここで、VBusは前記フライングキャパシタマルチレベル整流器のバス電圧である、制御方法。
【請求項14】
請求項10に記載の制御方法であって、前記第1の変調方式が実行されるときは、前記N-1個のフライングキャパシタのアンペア秒または電荷バランスを維持するために、すべてのスイッチが制御される、制御方法。
【請求項15】
請求項10に記載の制御方法であって、前記第2の変調方式が実行されるときは、前記フライングキャパシタマルチレベル整流器のバス電圧と前記N-1個のフライングキャパシタの電圧に基づいて、前記インダクタに電流リップルを発生させるように前記位相シフトと前記スイッチング周波数が制御される、制御方法。
【請求項16】
請求項10に記載の制御方法であって、前記第2の変調方式が実行される場合、前記インダクタの電流リップルを前記インダクタの平均電流の2倍に実質的に等しくするために、前記入力電圧および前記フライングキャパシタマルチレベル整流器のバス電圧に応じて、前記位相シフトおよび前記スイッチング周波数が制御される、制御方法。
【請求項17】
請求項16に記載の制御方法であって、前記第2の変調方式が実行される場合、前記N-1個のフライングキャパシタの電荷バランスを維持するために、連続する2つのスイッチングサイクル間で立ち上がりエッジと立ち下がりエッジを回転させることによって前記位相シフトが生成される、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライングキャパシタマルチレベル(FCML)整流器およびその制御方法に関し、より詳細には、全動作範囲にわたってスイッチのZVS(ゼロ電圧スイッチング)を実現できるFCML整流器およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昇圧インダクタやEMI(電磁干渉)フィルタなどの受動部品を小型化するため、AC-DC電源コンバータのスイッチング周波数が増加する傾向にある昨今、現在の高性能電源においてソフトスイッチングを実現する必要性がますます高まっている。例えば、以下の記事を参照。(i) "Z. Liu, F. C. Lee, Q. Li and Y. Yang, "Design of GaN-Based MHz Totem-Pole PFC Rectifier," in IEEE Journal of Emerging and Selected Topics in Power Electronics".
【0003】
図1Aは、三角導通モードまたは臨界導通モードで動作する従来のPFC(力率改善)昇圧整流器を示している。
図1Bは、臨界導通モードにおける
図1AのPFC昇圧整流器のインダクタ電流を概略的に示している。
図1Cは、
図1AのPFC昇圧整流器のスイッチングノード電圧とインダクタ電流の動作波形を、50Hzまたは60Hzのライン周波数動作で模式的に示している。この変調モードにより、能動的な制御を行うことなく入力電流を自動的に整形することができ、同時に、バレー電流スイッチングを使用することにより、すべての半導体のゼロ電圧ターンオンが保証される。もちろん、
図1Dに示すように、この変調により、ラインサイクルにわたってスイッチング周波数が可変となる。
【0004】
デバイスの電圧ストレスを低減し、同時に昇圧インダクタの実効周波数を高める有用な方法は、マルチレベルコンバータ回路の使用である。例えば、以下の記事を参照されたい。(i) "T. A. Meynard and H. Foch, "Multi-level conversion: high voltage choppers and voltage-source inverters," PESC '92 Record. 23rd Annual IEEE Power Electronics Specialists Conference」、(ii) 「Q. Huang, Q. Ma, P. Liu, A. Q. Huang and M. A. de Rooij, "99% Efficient 2.5-kW Four-Level Flying Capacitor Multilevel GaN Totem-Pole PFC," in IEEE Journal of Emerging and Selected Topics in Power Electronics」。
マルチレベル回路では、定格電圧の低い半導体デバイスを使用することができ、定格電圧の高い半導体デバイスと比較して、性能とコストが優れていることが多い。また、これらの回路は、標準的な2レベル回路に比べて受動部品の実効周波数が高くなり、受動部品の小型化に役立つ。しかし、多値回路でZVSを実現することはあまり検討されておらず、さらなる考慮が必要である。特に注目されるのはFCMLコンバータで、比較的小型のセラミックキャパシタを利用して半導体デバイス間の電圧をクランプする。
図2Aに3レベルFCML昇圧コンバータの例を示す。このコンバータでは、内側の2つのスイッチS
1とS
1′は相補的にゲートされ、同様に外側の2つのスイッチS
2とS
2′は時間多重ゲート信号を用いてゲートされる。
図2Bの例示的なゲート・パルスで示されるように、スイッチS1の立ち上がりエッジはスイッチS2の立ち上がりエッジと比較して180°位相がずれており、両方の立ち上がりエッジは、式(1)で示されるように、昇圧コンバータの入力-出力電圧関係によって支配される同じデューティサイクルを持つ。
【数1】
式中、V
Busはバス電圧(すなわち昇圧コンバータの出力電圧)、v
inは昇圧コンバータの入力電圧、Dはデューティサイクルである。
【0005】
この位相シフト変調方式は、
図2Cに示すように、バランスのとれたフライングキャパシタ電圧とスイッチングノードのdv/dtの低減をもたらし、FCMLコンバータに非常に広く採用されている。この変調方式を使用することにより、フライングキャパシタ電圧の定常値はV
Bus/2となり、各デバイスのブロッキング電圧もV
Bus/2となる。また、この変調方式では、
図2Bに示すように、インダクタの実効スイッチング周波数がデバイスのスイッチング周波数の2倍になる。
【0006】
しかし 「M. E. Blackwell, A. Stillwell and R. C. N. Pilawa-Podgurski, "Dynamic Level Selection for Full Range ZVS in Flying Capacitor Multi-Level Converters," 2018 IEEE 19th Workshop on Control and Modeling for Power Electronics (COMPEL), 2018 "に示されるように、
図3のラインサイクル動作に示されるように、インダクタ電流のリップルが特定の動作デューティサイクルで崩壊するため、位相シフトされたゲーティング信号を有するFCMLコンバータでは、ZVSの利用が困難になる。インダクタ電流のリップルは、v
in(t)=V
Bus/2となる動作点ではゼロとなることに留意されたい。
図3では、これらの動作点を囲んで強調し、分かりやすくするために拡大している。インダクタ電流リップルが崩壊する根本的な原因は、拡大したスイッチングノード電圧波形から明らかである。
【数2】
で増加または減少するラインサイクルの間、スイッチングノード電圧は0,V
Bus/2間のスイッチングから、V
Bus/2,V
Bus間のスイッチングになったり、またはその逆のスイッチングになったりする。入力電圧もV
Bus/2に非常に近いか等しいため、インダクタ電流は実質的にほとんど電圧秒が印加されない。この現象により、FCML PFCのZVSまたは境界伝導モード動作の実現は、標準的な位相シフト変調方式では困難となる。
【0007】
この現象は、3~6レベルのFCMLコンバータについて
図4でさらに実証されている。標準的な位相シフト変調方式で動作するこのようなマルチレベルコンバータにおいて、正規化されたインダクタ電流リップルが特定のデューティサイクルにおいてゼロになる様子が非常に明瞭に観察される。一般に、FCMLコンバータでは、昇圧段の入力電圧がフライングキャパシタ電圧のいずれかと等しくなると、インダクタのリップル電流はゼロになる。PFC昇圧コンバータでは、デューティサイクルを0から1まで変化させる必要があるため、インダクタ電流の実効リップルがゼロとなるこのような動作点は、より高レベルのFCML昇圧コンバータほど多く発生する。
【0008】
電圧ストレスの低減、動作範囲の大部分における低dv/dtといったFCMLコンバータの有望な特徴を犠牲にすることなく、FCMLコンバータでZVSを達成することは、「M. E. Blackwell, A. Stillwell and R. C. N. Pilawa-Podgurski, "Dynamic Level Selection for Full Range ZVS in Flying Capacitor Multi-Level Converters," 2018 IEEE 19th Workshop on Control and Modeling for Power Electronics (COMPEL), 2018」で取り上げられている。しかし、指定された変調方式では、フライングキャパシタ電圧を他の値にリバランスする必要があり、その結果、コンバータの動作に望ましくない過渡現象が発生する。PFCコンバータでは、このような過渡現象がラインサイクルごとに発生するため、コンバータの動作が著しく困難になる。
【0009】
したがって、先行技術から生じる欠点を解消するフライングキャパシタマルチレベル整流器およびその制御方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、全動作範囲にわたってスイッチのZVSを実現できるFCML整流器およびその制御方法を提供することにある。
【0011】
本開示の一側面に従って、入力電圧で動作するように構成されたFCML整流器が提供される。前記FCML整流器は、スイッチングコンバータ段と制御回路とを含む。前記スイッチングコンバータ段は、入力端子と、第1および第2の相端子とを有し、インダクタと、N個の上部スイッチと、N個の下部スイッチと、N-1個のフライングキャパシタと、出力キャパシタとを含み、Nは1以上の整数である。前記インダクタは、前記入力電圧および前記入力端子に結合される。N個の上部スイッチは、前記入力端子と前記第1の相端子との間に電気的に直列に接続され、同じデューティサイクルで動作する。第1および第Nの上部スイッチは、それぞれ前記入力端子と前記第1の相端子に結合されている。前記N個の下部スイッチは、前記入力端子と前記第2の相端子との間に電気的に直列に接続され、前記N個の上部スイッチとそれぞれ相補的に動作する。第1および第N番目の下部スイッチは、それぞれ前記入力端子および前記第2の相端子に結合されている。第n番目のフライングキャパシタは、第n番目の上部スイッチと第(n+1)番目の上部スイッチとの間の共通ノードと、第n番目の下部スイッチと第(n+1)番目の下部スイッチとの間の共通ノードとの間に結合され、nはNより小さい正の整数である。前記制御回路は、前記N個の上部スイッチと前記N個の下部スイッチを動作させる制御信号を供給するように構成されている。臨界転換点の間、前記制御回路は、第1および第2の変調方式の少なくとも一方を実行するように適合されている。前記第1の変調方式では、前記制御回路は、スイッチのZVSを達成するために、前記N個の下部スイッチのいずれか1つの制御信号の立ち上がりエッジを、N個の下部スイッチの他の少なくとも1つの制御信号の立ち上がりエッジと同期するように制御する。前記第2の変調方式では、前記制御回路は、最小の導通損失でスイッチのZVSを実現するために、前記N個の下部スイッチの制御信号の立ち上がりエッジと前記スイッチのスイッチング周波数との間の位相シフトを制御する。
【0012】
本開示の別の態様に従って、本開示のFCML整流器の制御方法が提供される。この制御方法は、臨界転換点中に第1および第2の変調方式の少なくとも一方を実行する工程を含む。前記第1の変調方式が実行されるとき、前記N個の下部スイッチのうちのいずれか1つの制御信号の立ち上がりエッジは、スイッチのZVSを達成するために、前記N個の下部スイッチのうちの他の少なくとも1つの制御信号の立ち上がりエッジと同期するように制御される。前記第2の変調方式が実行される場合、前記N個の下部スイッチの制御信号の立ち上がりエッジ間の位相シフトと前記スイッチのスイッチング周波数は、最小の導通損失でスイッチのZVSを達成するように制御される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【0014】
【
図1B】
図1Bは、臨界伝導モード下での
図1AのPFC昇圧整流器のインダクタ電流を概略的に示している。
【0015】
【
図1C】
図1Cは、
図1AのPFC昇圧整流器のスイッチングノード電圧とインダクタ電流の動作波形を概略的に示している。
【0016】
【
図1D】
図1Dは、
図1AのPFC昇圧整流器のスイッチング周波数のラインサイクルにわたる変化を示している。
【0017】
【
図2A】
図2Aは、従来の3レベルFCML昇圧コンバータを示している。
【0018】
【0019】
【
図3】
図3は、従来の3レベルFCML昇圧コンバータの全ラインサイクルにおけるスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を模式的に示している。
【0020】
【
図4】
図4は、従来の位相シフト変調方式を採用した2~6レベルFCML PFCコンバータにおいて、デューティサイクルの全範囲における昇圧インダクタの正規化電流リップルを示している。
【0021】
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態によるFCML整流器を示す概略回路図である。
【0022】
【
図6A-B】
図6Aは、臨界転換点におけるFCML整流器の従来の変調方式を模式的に示している。
【0023】
図6Bは、本開示の一実施形態による、臨界転換点におけるFCML整流器の第1の変調方式を概略的に示している。
【0024】
【
図7A-B】
図7Aは、臨界転換点における
図6Aの従来の変調方式を使用した場合のスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を概略的に示している。
【0025】
図7Bは、臨界転換点における
図6Bの第1の変調方式を使用中のスイッチングノード電圧およびインダクタ電流の波形を概略的に示す。
【0026】
【
図8】
図8は、3レベルFCML整流器の臨界転換点における冗長状態を持つ第1の変調方式を使用した場合の、全ラインサイクルにわたるスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を示している。
【0027】
【0028】
図9Bは、
図9Aの4レベルFCML整流器の入力電圧を全ラインサイクルにわたって概略的に示している。
【0029】
【
図10A-C】
図10A、
図10Bおよび
図10Cは、従来の変調方式と、v
in(t)=2V
Bus/3の臨界転換点における4レベルFCML整流器の冗長状態を利用した本開示の第1の変調方式の2つの変形例を概略的に示している。
【0030】
【
図10D-F】
図10D、
図10Eおよび
図10Fは、従来の変調方式と、v
in(t)=V
Bus/3;の臨界転換点における4レベルFCML整流器の冗長状態を利用した本開示の第1の変調方式の2つの変形例を概略的に示している。
【0031】
【
図11A-F】
図11A、11B、11C、11D、11Eおよび11Fは、v
in=2V
Bus/3近傍で動作する4レベルFCML整流器のスイッチング状態のシーケンスを概略的に示している。
【0032】
【
図12A】
図12Aは、3レベルFCML整流器の臨界転換点における冗長状態を持つ第1の変調方式を使用した場合の、全ラインサイクルにわたるインダクタ電流の波形を示している。
【0033】
【0034】
【
図13A】
図13Aは、本開示の第1の変調方式による臨界転換点における3レベルFCML整流器のスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を示す。
【0035】
【
図13B】
図13Bは、本開示の第2の変調方式による臨界転換点における3レベルFCML整流器のスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を示す。
【0036】
【
図13C】
図13Cは、3レベルFCML整流器の臨界転換点における第2の変調方式を使用した場合の、全ラインサイクルにわたるスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を示している。
【0037】
【0038】
【
図15A-B】
図15Aおよび
図15Bは、D>0.5の整流器の制御変数D
Φとf
sの2つの異なる選択について、同様のインダクタ電流リップルで境界導通モード動作を達成する同じ臨界転換点を示している。
【0039】
【
図15C-D】
図15Cおよび
図15Dは、D<0.5の整流器の制御変数D
Φとf
sの2つの異なる選択について、同様のインダクタ電流リップルで境界導通モード動作を達成する同じ臨界転換点を示している。
【0040】
【
図16】
図16は、実際の電流リップルを所望の電流リップルに等しくするために位相シフト変数D
Φとスイッチング周波数f
sを併用する例示的な制御戦略を示している
【0041】
【
図17】
図17は、制御変数D
Φに沿ったインダクタ電流とスイッチングノード電圧の波形を示している。
【0042】
【
図18A-B】
図18Aおよび
図18Bは、
図12Dの変調方式において位相シフト変数D
Φを使用することによる、2レベルスイッチングと3レベルスイッチングの間の遷移波形を示す。
【0043】
【
図19】
図19は、4レベルFCML整流器の臨界転換点における従来の変調方式を使用した場合の、全ラインサイクルにわたるスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を示している。
【0044】
【
図20A-B】
図20Aと
図20Bは、4レベルFCML整流器の臨界転換点における冗長状態を持つ第1の変調方式の2つの変形を使用した場合の、全ラインサイクルにわたるスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を示している。
【0045】
【
図21】
図21は、4レベルFCML整流器の臨界転換点における第2の変調方式を使用した場合の、全ラインサイクルにわたるスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を示している。
【0046】
【
図22】
図22は、一実施形態における
図9Aの4レベルFCML整流器のスイッチング周波数のラインサイクルにわたる変化を例示したものである。
【0047】
【
図23】
図23は、本開示の一実施形態による三相NレベルFCML整流器を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を以下の実施形態を参照してより具体的に説明する。本発明の好ましい実施形態に関する以下の説明は、例示および説明のみを目的として本明細書に提示されるものであり、網羅的であること、または開示された正確な形態に限定されることを意図するものではないことに留意されたい。例えば、以下の説明における、第2の特徴の上方または上に第1の特徴を形成することは、第1の特徴および第2の特徴が直接接触して形成される実施形態を含み得、また、第1の特徴および第2の特徴が直接接触しないように、第1の特徴および第2の特徴の間に追加の特徴が形成され得る実施形態を含み得る。さらに、本開示は、様々な例において参照数字および/または文字を繰り返すことがある。この繰り返しは、単純化および明瞭化を目的とするものであり、それ自体、議論される様々な実施形態および/または構成間の関係を指示するものではない。さらに、「下」、「下方」、「下部」、「上方」、「上部」等の空間的に相対的な用語は、図に例示されるように、1つの要素または特徴の別の要素(複数可)または特徴(複数可)に対する関係を説明するために、説明を容易にするために本明細書で使用され得る。空間的に相対的な用語は、図に描かれている向きに加えて、使用時または動作時の装置の異なる向きを包含することを意図している。本装置は、他の向き(90度回転した向き、または他の向き)であってもよく、本明細書で使用される空間的に相対的な記述語も同様に、それに応じて解釈され得る。ある要素が他の要素に「接続」または「結合」されていると称される場合、その要素は他の要素に直接接続または結合されていてもよいし、介在する要素が存在してもよい。本開示の広い数値範囲およびパラメータは近似値であるが、数値は可能な限り正確に具体例に記載されている。さらに、特許請求の範囲における「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、様々な要素を説明するために使用されることが理解され得るが、これらの要素は、これらの用語によって限定されるべきではなく、これらの要素は、それぞれの実施形態において、異なる参照数字を表現するために使用されるが、これらの用語は、1つの要素を別の要素と区別するために使用されるに過ぎない。例えば、例示的な実施形態の範囲から逸脱することなく、第1の要素を第2の要素と呼ぶことができ、同様に、第2の要素を第1の要素と呼ぶことができる。さらに、本明細書では、「および/または」などは、関連するリスト項目の1つまたは複数の任意のまたはすべての組み合わせを含むために使用され得る。本発明の広い範囲に関して記載される数値範囲およびパラメータは近似値であるが、特定の実施例で報告される数値は可能な限り正確に記載される。ただし、あらゆる数値には本質的に特定の誤差が含まれており、必然的にそれぞれのテスト測定で見つかった標準偏差が引き起こされる。また、本明細書で使用される「約」という用語は、一般に、所定の値、または10%、5%、1%もしくは0.5%の範囲から離れていることを意味する。あるいは、「約」という言葉は、当技術分野で認められた平均における通常の技術の許容可能な標準誤差内を意味する。操作/実施例に加えて、または特に別段の記載がない限り、すべての場合において、本明細書に開示されている材料の数、継続時間、温度、操作条件、量の比率などの数値範囲、量、数値およびパーセンテージのすべては、「約」で修飾された言葉として理解されるべきである。したがって、別段の指示がない限り、本発明の数値パラメータおよび提案される特許請求の範囲は、所望の近似値の変化に従うものとする。少なくとも、各数値パラメータの有効桁数を報告し、従来の端数を丸める手法を適用して説明する必要がある。ここでは、一方の端点から他方の端点まで、または両方の端点までの範囲として表すことができる。別段の指定がない限り、本明細書に開示されるすべての範囲は包括的である。
【0049】
図5は、本発明の一実施形態によるFCML整流器を示す概略回路図である。
図5に示されるように、FCML整流器は、入力電圧V
inで動作するように構成され、FCML整流器は、スイッチングコンバータ段および制御回路(図示せず)を含む。スイッチングコンバータ段には、入力端子、第1の相端子、第2の相端子があり、S
N′インダクタL、N個の上部スイッチS
1′...S
N′、N個の下部スイッチS
1...S
N、N-1個のフライングキャパシタC
1...C
N-1、および出力キャパシタC
outが含まれる。ここで、Nは1より大きい整数である。
図5に示すFCML整流器は(N+1)レベル整流器である。インダクタLは、入力電圧V
inおよび入力端子に結合される。N個の上部スイッチS
1′...S
N′は、入力端子と第1の相端子との間に電気的に直列に接続され、第1の上部スイッチS
1′と第Nの上部スイッチS
N′はそれぞれ入力端子と第1の相端子に結合される。N個の上部スイッチS
1′...S
N′は同じデューティサイクルで動作する。N個の下部スイッチS
1...S
Nは、入力端子と第2の相端子との間に電気的に直列に接続され、第1の下部スイッチS
1と第Nの下部スイッチS
Nはそれぞれ入力端子と第2の相端子に結合される。N個の下部スイッチS
1...S
Nは、それぞれN個の上部スイッチS
1′...S
N′と相補的に動作する。第n番目のフライングキャパシタC
nは、第n番目と第(n+1)番目の上部スイッチS
n′およびS
n+1′の間の共通ノードと、第n番目と第(n+1)番目の下部スイッチS
nおよびS
n+1の間の共通ノードとの間に結合される。ここで、nはNより小さい正の整数である。出力キャパシタC
outは、第1の相端子と第2の相端子との間に電気的に接続される。制御回路は、N個の上部スイッチS
1′...S
N′とN個の下部スイッチS
1...S
Nを動作させるための制御信号を提供するように構成される。臨界転換点の間、制御回路は、第1および第2の変調方式のうちの少なくとも1つを実行するように構成される。第1の変調方式では、制御回路は、スイッチのZVSを実現するために、N個の下部スイッチS
1...S
Nのうちのいずれか1つの制御信号の立ち上がりエッジを、N個の下部スイッチS
1...S
Nのうちの少なくとも他の1つのスイッチの制御信号の立ち上がりエッジと同期するように制御する。第2の変調方式では、制御回路は、最小の導通損失でスイッチのZVSを達成するために、スイッチの位相シフトおよびスイッチング周波数を制御する。第1および第2の変調方式については、以下に詳細に説明する。
【0050】
図5のNが2となる場合のFCML整流器を例とすると、
図6Aは、臨界転換点におけるFCML整流器の従来の変調方式を概略的に示しており、
図6Bは、本開示の一実施形態による臨界転換点におけるFCML整流器の第1の変調方式を概略的に示している。FCML整流器における臨界転換点(v
in(t)=V
Bus/2の近傍)におけるZVSの損失に関連する問題を回避するために、
図6Bでは、新しい変調方式が導入されている。
図6Bに示す第1の変調方式では、下部スイッチS
1およびS
2の制御信号の立ち上がりエッジ間の位相シフトは180°からゼロに減少し、これによりスイッチングノード電圧V
swが0とV
Busの間で切り替わり、スイッチは冗長スイッチングとなる。スイッチのデューティサイクルは依然として入力電圧と出力電圧の間の昇圧関係によって決定されるが、冗長スイッチング状態を使用する結果として、インダクタLの両端に印加されるボルト秒がはるかに大きくなることに注意されたい。インダクタLに対する周波数逓倍効果はもう維持されないことにも注意されたい。冗長スイッチング状態を使用すると、インダクタLのリップル周波数はスイッチのスイッチング周波数と同じになる。しかしながら、本実施形態では、この変調方式はラインサイクルの狭い範囲にのみ使用されるため、この変調方式は、インダクタ電流i
Lを負にし、FCML整流器の臨界転換点にわたってZVSを達成するのに役立つ。従来の変調方式と本実施形態で提案される第1の変調方式との間の重要な違いは、
図6Aおよび
図6Bに示される。
【0051】
図7Aは、臨界転換点の間、
図6Aの従来の変調方式を使用したときのスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を概略的に示す。
図7Bは、臨界転換点の間、
図6Bの第1の変調方式を使用したときのスイッチングノード電圧とインダクタ電流の波形を概略的に示す。
図7Aおよび
図7Bに示すように、スイッチングノードにおける電圧の増加が、どのようにインダクタ電流リップルを増加させるのかが明白である。また、インダクタLに印加される電圧が増加するため、従来の変調と比較して、スイッチのスイッチング周波数がはるかに高い場合でも、インダクタのリップルが比較的高くなることに注意されたい。ただし、ZVSが実現されるため、高周波スイッチングによる損失は、比較的小さく抑えることができる。
【0052】
図8は、一実施形態としての3レベルFCML整流器の臨界転換点中に、冗長状態の第1の変調方式を使用したときの、ラインサイクル全体にわたるスイッチングノード電圧およびインダクタ電流の波形を示す。
図3とは顕著に対照的に、この実施形態では、インダクタ電流が常に負の値に触れており、これにより本質的にスイッチのZVSがラインサイクル全体にわたって達成可能になることに留意されたい。これらの波形は、
図3で使用されたものと同じ値の電力段インダクタンスを用いて得られる。しかし、同時に、臨界転換点近傍では、インダクタ電流リップルがZVSを達成するために必要な値よりも明らかに高くなる。この過剰な電流リップルは、3レベルFCML整流器で利用可能なスイッチング状態(および冗長状態)が少ないことの結果である。より高いレベルのコンバータの場合、インダクタLの過剰電流リップルを低減するために、他のスイッチング状態を賢く利用することができる。
【0053】
より多くの利用可能なスイッチング状態の例として、
図9Aは、4レベルのFCML整流器(すなわち、Nが3となった
図5のFCML整流器)を示す。
図9Bは、ラインサイクル全体にわたる4レベルFCML整流器の入力電圧を概略的に示す。
図9Bに示すように、4レベルFCML整流器は、v
in(t)=V
Bus/3およびv
in(t)=2V
Bus/3の近傍に、2つの臨界転換点を有する。ただし、4レベル回路では、3レベル回路に比べて、利用可能なスイッチング状態がより多くあるため、スイッチのZVSを可能にするために必要となる値までインダクタ電流リップルを減らすために、追加のスイッチング状態を賢く利用することができる。
【0054】
例示的なスイッチング波形を、v
in(t)=2V
Bus/3近傍について
図10A~10Cに示し、v
in(t)=V
Bus/3近傍について
図10D~10Fに示す。
図10Bおよび10Eの提案された変調方式1、および
図10Cおよび10Fの提案された変調方式2は、本開示の第1の変調方式の異なるバリエーションである。提案された変調方式1は、両方の場合(
図10Bおよび
図10E)において、(0、V
Bus)冗長スイッチング状態が入力電圧を合成するために使用されるシナリオを示す。インダクタLの電流リップルの実効周波数を同じに保つために、この変調には3f
0のデバイススイッチング周波数が必要となる。ここで、f
0は、
図10Aおよび
図10Dに示す標準的な従来の変調方式のスイッチのスイッチング周波数である。しかしながら、
図10Cおよび
図10Fは、提案された変調方式2を示しており、インダクタ電流リップルを低減するために、スイッチングノードで合成する必要がある平均電圧のすぐ近くの冗長状態が使用される。これらの冗長状態(v
in(t)=2V
Bus/3の場合は(V
Bus/3,V
Bus)、v
in(t)=V
Bus/3の場合は(0,2V
Bus/3)を利用すると、スイッチの低減されたスイッチング周波数(ここでは、2f
0)を提供できるだけではなく、提案された変調方式1と比較して、インダクタ電流リップルを低減させることにも役立つ。さらに、適切な冗長状態の使用により、スイッチングノードでのdv/dtも制限されるため、他のスイッチング状態を利用した変調方式と比較して、EMI性能が向上する。その結果、提案された変調方式2は、スイッチのZVSを可能にし、同時に、臨界転換点における追加的なインダクタ電流リップルを低減する。
【0055】
一実施形態では、第1の変調方式において、N個の下部スイッチの両端のスイッチングノード電圧は、n*VBus/Nに等しい入力電圧の近傍の臨界転換点中に、第1の電圧と第2の電圧との間で切り替わることができる。ここで、第1の電圧は0とn*VBus/Nの間であり、第2の電圧はn*VBus/NとVBusの間である。例えば、第1の電圧は(n-1)*VBus/Nであり、第2の電圧は(n+1)*VBus/Nであってもよい。
【0056】
スイッチング状態を合成するために使用されるスイッチングの組み合わせは、フライングキャパシタの電荷バランスを維持するために慎重に選択されるべきである。
図11A-11Fに示すように、v
in=2V
Bus/3近傍で動作する4レベルFCML整流器(すなわち、Nが3となる
図5のFCML整流器)について、本実施形態では、スイッチング状態の正しいシーケンスは、電圧バランシングを容易にするために、スイッチングサイクルにおけるフライングキャパシタの充電と放電の両方を保証するべきである。
図11A-11Fは、フライングキャパシタ電圧の充放電経路とともに、v
sw=V
Bus/3およびv
sw=V
Busの状態を切り替えて利用する正しい遷移を示している。スイッチングサイクルはスイッチS
1、S
2、S
3′がオンである
図11Aから始まる。これにより、スイッチングノードの電圧がV
Bus/3となる。電流の流れの方向は図に示されている。この間、フライングキャパシタC
2が放電する。
図11Bでは、スイッチングノードの電圧をV
Busにするために、すべての上部スイッチS
1′、S
2′、S
3′がオンになる。この状態では、フライングキャパシタC
1とC
2は両方とも非アクティブになる。スイッチペアS
1,S
1′およびS
2,S
2′は両方とも、この間に状態が変化する。次に、
図11Cに、スイッチペアS
2,S
2′およびS
3,S
3′の状態が変化する次のスイッチング状態を示す。この状態の間、フライングキャパシタC
1は電流の流れる方向に従って充電され、印加されるスイッチングノード電圧はV
Bus/3になる。
図11Dに示す次の状態の間、スイッチペアS
2,S
2′およびS
3,S
3′の転流により、再びすべての上部スイッチS
1′、S
2′、S
3′がオンになる。印加されるスイッチングノード電圧はV
Busとなり、フライングキャパシタC
1、C
2はいずれも電流経路に関与しない。
図11Eでは、スイッチペアS
1,S
1′およびS
3,S
3′が転流して、スイッチングノード電圧がV
Bus/3になる。この状態では、フライングキャパシタC
1が放電され、フライングキャパシタC
2が充電されていることが電流経路からわかる。最後に、
図11Fに示すように、スイッチングサイクルは、スイッチペアS
1,S
1′およびS
3,S
3′の転流によって完了する。この期間では、印加されるスイッチングノード電圧は再びV
Busとなり、フライングキャパシタC
1、C
2はいずれも充放電されない。この後、FCML整流器は、スイッチペアS
1,S
1′およびS
2,S
2′の転流によって
図11Aに示す状態に戻る。
【0057】
図12Aは、3レベルFCML整流器(すなわち、Nが2となる
図5のFCML整流器)に対して提案された第1の変調方式の問題をさらに強調している。一実施形態の3レベルFCML整流器の場合、スイッチングノード電圧の利用可能な状態は、0、V
Bus/2、およびV
Busである。ラインサイクル中のスイッチング波形に見られるように、冗長スイッチング状態を使用する提案された第1の変調方式がv
in(t)=V
Bus/2近傍で有効になると、インダクタLに印加される余分なボルト秒により、電流リップルが必要以上に大きくなる。この特徴は、スイッチS
1とS
2の制御信号の立ち上がりエッジ間の位相シフトが180°からゼロに急激に減少し、その結果非常に大きな電流リップルが発生するという事実に起因する。
図12Bおよび
図12Cでは、2つの極端なケースがグラフで示されており、インダクタLの両端に印加されるボルト秒は、それぞれ180°位相シフトおよび0位相シフトの下で非常に小さく、高くなっている。妥協策として、0~180°の間で位相シフトを行うことにより、インダクタLに印加される制御されたボルト秒が得られる。制御可能なパラメータは、D
ΦT
s=Φ/(360°)T
sで示される。ここで、Φは位相シフトである。インダクタLの電流リップル(すなわち、インダクタ電流リップル)は、変数D
Φとスイッチング周波数f
s=1/T
s D≦0.5およびD≧D
Φの場合:を使用して制御可能である。
【数2】
ここで、Δi
Lはインダクタ電流リップルである。
同様に、D≧0.5 および D≧D
Φの場合:
【数3】
【0058】
デューティサイクルDは依然として出力電圧制御(つまり、D=1-v
in(t)/V
Bus)によって支配され、境界導通モード動作を可能にする必要なインダクタ電流リップルΔi
Lは平均インダクタ電流の約2倍である(Δi
L=2〈i
L〉)。式(2)と(3)を使用して、位相シフトΦとスイッチング周波数f
sを併せて最適に選択し、ZVSを達成するという目的を達成すると同時に、システムにおける追加の伝導損失を低減することができる。この変調方式は、
図12Dにおいて最小RMS電流変調として示されており、この変調方式は、上述の本開示の第2の変調方式である。
【0059】
図13Aは、D
Φ=0、f
s=f
s、maxを有する第1の変調方式の下での臨界転換点近傍の拡大波形を示す。
図13Bは、最小の導通損失(すなわち、最小のRMS電流ストレス)でZVSを実現するためにD
Φとf
sが選択される、第2の変調方式の下での臨界転換点近傍の拡大波形を示す。3レベルFCML整流器のこの第2の変調方式(すなわち、最小実効値電流変調)を示す例示的な線周期波形を
図13Cに示す。
図12Aとは対照的に、v
in(t)=V
Bus/2である臨界転換点中に、インダクタ電流リップルが、境界導通モード動作を可能にするのに十分な高さに保たれていることが明確に観察される。
【0060】
本実施形態では、位相シフト変調中にフライングキャパシタ電圧がV
Bus/2のままであることを保証するために、
図14に示すように周期倍増変調を有効にする必要がある。スイッチS
1およびS
2の制御信号が2つの連続するスイッチング周期でどのように切り替わるかに注目すべきである。最初の期間では、スイッチS
1がスイッチS
2より先にゲートされ、次の期間では、スイッチS
2がスイッチS
1より早くゲートされる。この戦略は、「2020 IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC), 2020」に示されているように、フライングキャパシタの電圧のバランスを取るのに役立つ。
【0061】
D
Φとf
sの多くの可能な組み合わせにより、式(2)と(3)から同じインダクタ電流リップルが可能になることにも注意されたい。一例として、
図15Aおよび
図15Bは、2つの異なる制御変数D
Φとf
sの選択に対して、同様のインダクタ電流リップルで境界導通モード動作を達成する同じ臨界転換点を示している。この場合、デューティサイクルDは0.5より大きくなる。同様に、
図15Cおよび
図15Dでは、同様のインダクタ電流リップルを達成するために、D
Φとf
sの2つの異なる組み合わせが使用されている。この場合の主な違いは、デューティサイクルDが0.5未満であることである。いくつかの実施形態では、これらの異なる動作の選択肢から、スイッチング周波数および位相シフトが実際的な考慮事項に基づいて選択される。たとえば、スイッチング周波数f
sには最大制限が必要であり、フライングキャパシタ電圧とインダクタ電流の望ましくない過渡現象を軽減するために、位相シフトの急激な変化も避けなければならない。
【0062】
図16は、位相シフト変数D
Φとスイッチング周波数f
sを併用して、実際の電流リップルを所望の電流リップルに等しくする例示的な制御戦略を示しており、これにより、実効電流ストレスとZVSの達成の観点から、第2の変調方式が最適になる。ここで、位相シフト変数D
Φが、v
in(t)=V
Bus/2である臨界転換点近傍でどのように線形に変化するかに注目されたい。D
Φの線形プロファイルの場合、スイッチング周波数f
sは、デューティサイクルDに応じて式(2)または(3)を使用して計算できる。
【0063】
いくつかの実施形態では、変数が滑らかに変化されるため、フライングキャパシタ電圧およびインダクタ電流には、この変調方式から生じる突然の過渡現象が見られないことを示すことが重要である。また、いくつかの実施形態では、ラインサイクル動作全体の間、スイッチング周波数は常に、整流器のインダクタ設計によって決定されるある最大許容限界値未満にクランプされ得る。この影響により、実際の電流リップルプロファイルからわかるように、インダクタ電流リップルが所望の値よりも高くなる場合がある。
【0064】
一実施形態では、
図17は、スイッチング波形(すなわち、インダクタ電流およびスイッチングノード電圧の波形)を制御変数D
Φとともに示す。
図17は、
図16に示されるように実装された
図12Dの変調方式を使用することにより、インダクタ電流リップルが必要な量のみに良好に低減される様子を明確に示している。ZVSを確保するために第2の変調方式が採用されている場合、インダクタ電流に重大なオーバーシュートがないことが観察できる。全体的に、インダクタ電流は滑らかに見える。この波形と
図12Aに示した波形とのシャープなコントラストを囲んでおり、本実施形態の提案する変調方式を用いることにより、実効値電流がどのように制御されるかを示している。
【0065】
さらに、
図18Aおよび
図18Bは、
図12Dの実施形態の提案された変調方式における位相シフト変数D
Φを使用することによる、2レベルスイッチングと3レベルスイッチングとの間の遷移波形を示す。特に、
図18Aは、2レベルスイッチングから3レベルスイッチングへの滑らかな遷移を示し、
図18Bは、3レベルスイッチングから2レベルスイッチングへの逆の滑らかな遷移を示す。これらの遷移は、FCML整流器が第2の変調方式を使用して、キャパシタ電圧やインダクタ電流に急激な変化を起こすことなくZVSを達成できるようにするために重要である。どちらの遷移も正常に見え、インダクタ電流やキャパシタ電圧に望ましくない影響を引き起こすことはない。
【0066】
本開示の提案された変調方式は、M相NレベルFCML整流器に拡張することができる。一例として、まず、
図19は、4レベルFCML整流器の臨界転換点中において従来の変調方式を使用した場合の、ラインサイクル全体にわたるスイッチングノード電圧およびインダクタ電流の波形を示す。
図9Aに示すように、この回路には2つのフライングキャパシタがあるため、ラインサイクルに4つの臨界点が存在することを容易に観察できる。本開示の第1の変調方式を使用すると、すべてのスイッチのZVSを達成することができる。ただし、4レベルFCML整流器ではさらに多くの状態が利用できるため、ZVSを達成するための第1の変調方式には2つの可能なアプローチが存在する。
図20Aは、臨界転換点中に最大電圧および最小電圧、すなわち(0、V
Bus)がスイッチングノードに印加される第1の戦略を示す。これにより、
図10Bおよび
図10Eに示すように追加の電流が生じる。
図10Cおよび
図10Fに示すような、電圧振幅を低減する第2の戦略では、
図20Bに示すように、電流ピークを低減することができる。最後に、
図21は、4レベルFCML整流器の臨界転換点中に第2の変調方式を使用したときの、ラインサイクル全体にわたるスイッチングノード電圧およびインダクタ電流の波形を示す。3レベルコンバータについて前述したように、ここでも位相シフトと周波数の多くの可能な組み合わせによって、目的のリップル電流を実現できる。周波数プロファイルの一例を
図22に示す。この周波数プロファイルと、
図9Aに示した4レベルFCML整流器のゲート信号間の制御された位相シフトとの組み合わせにより、
図21に示すように、全ラインサイクルを通じて最小循環電流でシームレスなZVSが得られる。
【0067】
M相NレベルFCML整流器の場合、FCML整流器はM相のM個の入力電圧でそれぞれ動作する。さらに、FCML整流器は、M個の入力電圧に結合されたM個のスイッチングコンバータ段を含み、各スイッチングコンバータ段は、そのインダクタLを介して対応する入力電圧に結合される。
図23は、本開示の一実施形態による三相NレベルFCML整流器を概略的に示す。
図23に示される実施形態では、FCML整流器は、3つの入力電圧V
AN、V
BN、およびV
CNにそれぞれ接続された3つのスイッチングコンバータ段を含む。この場合、各相脚は単相FCML AC-DC昇圧コンバータのように変調できる。本開示の提案された変調方式を使用すると、最小の循環電流でラインサイクル全体を通じてZVSを維持することができる。
【0068】
以上の説明から、本発明は、全動作範囲にわたってスイッチのZVSを実現できるFCML整流器およびその制御方法を提供する。本開示の第1の変調方式によれば、ZVSは、スイッチの制御信号の立ち上がりエッジ間の位相シフトを単純に調整することによって実現される。本開示の第2の変調方式によれば、ZVSを実現し、同時に追加の伝導損失を低減するために、スイッチの位相シフトとスイッチング周波数が併せて選択される。
【0069】
本発明は、現時点で最も実用的で好ましい実施形態と考えられるものに関して説明されているが、本発明は開示された実施形態に限定される必要はないことを理解されたい。
【外国語明細書】