(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068655
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】固体電解質用補強シート
(51)【国際特許分類】
H01M 50/44 20210101AFI20240513BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20240513BHJP
D04H 1/732 20120101ALI20240513BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20240513BHJP
D21H 15/10 20060101ALI20240513BHJP
D21H 13/24 20060101ALI20240513BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240513BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240513BHJP
H01M 50/463 20210101ALI20240513BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240513BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20240513BHJP
H01M 50/494 20210101ALI20240513BHJP
【FI】
H01M50/44
D01F8/14 B
D04H1/732
D21H15/02
D21H15/10
D21H13/24
H01M10/0562
H01M50/489
H01M50/463 A
H01M50/414
H01M50/491
H01M50/494
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023189805
(22)【出願日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2022178594
(32)【優先日】2022-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】大森 平
(72)【発明者】
【氏名】石川 達也
(72)【発明者】
【氏名】増田 正人
(72)【発明者】
【氏名】松浦 知彦
【テーマコード(参考)】
4L041
4L047
4L055
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
4L041AA07
4L041BA04
4L041BA05
4L041BA26
4L041BA32
4L041BD11
4L041CA06
4L041CA11
4L041EE06
4L047AA21
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4L047AA28
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4L055AF33
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4L055GA01
5H021CC02
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5H021HH01
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5H029AJ06
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5H029AJ14
5H029AM12
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5H029DJ15
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ09
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】 固体電解質に自立性と可撓性を付与する固体電解質用補強シートであって、薄膜であり、固体電解質を担持し、その連続性を維持するための高い空隙率を有し、かつ、高い表面平滑性を有することにより固体電解質層をイオン伝導性に優れるものとすることができ、さらに生産性にも優れた固体電解質用補強シートを提供することを課題とする。
【解決手段】 少なくとも、繊維横断面の長軸の長さを短軸の長さで除した値である扁平度が5以上であり、短軸の長さの平均が2000nm以下である短繊維を含み、かつ、厚みが3μm以上50μm以下である湿式不織布からなることを特徴とする固体電解質用補強シートである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維横断面の長軸の長さを短軸の長さで除した値である扁平度が5以上であり、短軸の長さの平均が2000nm以下である短繊維を少なくとも含み、かつ、厚みが3μm以上50μm以下である湿式不織布からなることを特徴とする固体電解質用補強シート。
【請求項2】
前記湿式不織布の厚みが5μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解質用補強シート。
【請求項3】
前記短繊維の繊維横断面の短軸の長さのバラツキ(CV値)が10%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解質用補強用シート。
【請求項4】
前記短繊維の横断面における凹凸度が20%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の固体電解質用補強シート。
【請求項5】
前記短繊維が短繊維Aであり、前記湿式不織布が前記短繊維Aを10~75質量%含み、さらに、前記短繊維Aとは異なる短繊維Bを含み、前記短繊維Bが芯鞘型複合短繊維であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の固体電解質用補強シート。
【請求項6】
前記短繊維が短繊維Aであり、前記湿式不織布が前記短繊維Aを10~75質量%含み、さらに、前記短繊維Aとは異なる短繊維Cを含み、前記短繊維Cの平均繊維直径が1μm以上10μm以下であり、かつ、前記短繊維Aおよび前記短繊維Cの融点が200℃以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の固体電解質用補強シート。
【請求項7】
前記湿式不織布の通気度が100cm3/cm2/s以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の固体電解質用補強シート。
【請求項8】
前記短繊維A、前記短繊維B、および前記短繊維Cがポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の固体電解質用補強シート。
【請求項9】
前記湿式不織布の空隙率が65%以上95%以下であり、かつ、引張強度が0.5N/15mm以上であることを特徴とする請求項1~8いずれかに記載の固体電解質用補強シート。
【請求項10】
前記湿式不織布の表面粗さRaが5μm以下であることを特徴とする請求項1~9いずれかに記載の固体電解質用補強シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質用補強シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パーソナルコンピューター(PC)、デジタルカメラ等の家電製品や、スマートフォン、タブレット等の携帯型電子機器の電源として、エネルギー密度が高く、長寿命なリチウムイオン二次電池が使用されている。また、近年では、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等にもリチウムイオン二次電池が搭載されており電池の大型化に加え、より一層の安全性と信頼性の向上が望まれている。
【0003】
上述した背景から、リチウムイオン二次電池の電解質層を可燃性の有機溶剤を含む液体電解質から不燃性の固体電解質に変更することにより、電解質の液漏れ、発火等を防止し、安全性と信頼性の向上を図った全固体電池の検討が行われている。全固体電池は電解質の種類によって、硫化物系、酸化物系、高分子系に大別されるが、特に導電率(イオン伝導度)に優れた硫化物系全固体電池の実用化に向けた検討が盛んに進められている。
【0004】
硫化物系全固体電池は、正極(+)と負極(-)の異なる活物質間に粉末状の硫化物系電解質(以下、固体電解質と称することがある)を挟持した構成であるため、粉末状の固体電解質に自立性と可撓性を付与しシート化することが実用化、つまりは電池の大型化に向けた課題の一つとなっている。
【0005】
上述した課題、すなわち粉末状の固体電解質に自立性と可撓性を付与する手段として、熱可塑性樹脂と固体電解質を混合し加熱プレスすることにより、熱可塑性樹脂をバインダとして固体電解質を一体化する試みや、無機/有機繊維を織物状または不織布状に加工したシート(以下、固体電解質用補強シートと称する)に固体電解質を含侵させ一体化する試みがなされている。これら固体電解質用補強シートには、固体電解質層のイオン伝導を優れたものとするとの観点から薄膜、高空隙であることが必要であり、生産性の観点から機械強度が高いことが必要となる。
【0006】
ここで、特許文献1には、熱可塑性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂と電解質を混合、加熱プレスすることにより固体電解質をシート化する方法が提案されている。また、特許文献2には、ガラス繊維織物からなる固体電解質用補強シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-133209号公報
【特許文献2】特開2013-127982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に開示された方法においては、固体電解質に自立性と可撓性を付与できるものの、絶縁性のポリビニルアセタール樹脂をバインダとして粉末状の固体電解質を一体化しているため、溶融した樹脂によって固体電解質が分断され易く、イオン伝導性に劣る可能性がある。また、ポリビニルアセタール樹脂と固体電解質を混合、加熱プレスし延伸する方法であるため生産性に劣る傾向にある。
【0009】
一方、特許文献2に開示された固体電解質用補強シートにおいては、固体電解質に自立性を付与できるものの、ガラス繊維の織物から構成された比較的厚膜のシートであるため可撓性が低下することに加え、イオン伝導性の点に課題がある。さらに、マルチフィラメントをタテ糸/ヨコ糸に用いた織物であるため、タテ糸とヨコ糸の重なる部分に段差が生じ易く、本シートを用いた固体電解質層は正極、負極と接する表面の平滑性に劣る傾向にあり、この点でもイオン伝導性に劣る傾向がある。
【0010】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑み、固体電解質に自立性と可撓性を付与する固体電解質用補強シートであって、薄膜であり、固体電解質を担持し、その連続性を維持するための高い空隙率を有し、かつ、高い表面平滑性を有することにより固体電解質層をイオン伝導性に優れるものとすることができ、さらに生産性にも優れた固体電解質用補強シートを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するため、次のような構成を採用した固体電解質用補強シートである。すなわち、
(1)繊維横断面の長軸の長さを短軸の長さで除した値である扁平度が5以上であり、短軸の長さの平均が2000nm以下である短繊維を少なくとも含み、かつ、厚みが3μm以上50μm以下である湿式不織布からなる固体電解質用補強シート、
(2)前記湿式不織布の厚みが5μm以上50μm以下である(1)の固体電解質用補強シート、
(3)前記短繊維の繊維横断面の短軸の長さのバラツキ(CV値)が10%以上である(1)または(2)の固体電解質用補強用シート、
(4)前記短繊維の横断面における凹凸度が20%以上である(1)~(3)いずれかの固体電解質用補強シート、
(5)前記短繊維が短繊維Aであり、前記湿式不織布が前記短繊維Aを10~75質量%含み、さらに、前記短繊維Aとは異なる短繊維Bを含み、前記短繊維Bが芯鞘型複合短繊維である(1)~(4)いずれかの固体電解質用補強シート、
(6)前記短繊維が短繊維Aであり、前記湿式不織布が前記短繊維Aを10~75質量%含み、さらに、前記短繊維Aとは異なる短繊維Cを含み、前記短繊維Cの平均繊維直径が1μm以上10μm以下であり、かつ、前記短繊維Aおよび前記短繊維Cの融点が200℃以上である(1)~(4)いずれかの固体電解質用補強シート、
(7)前記湿式不織布の通気度が100cm3/cm2/s以上である(1)~(6)いずれかの固体電解質用補強シート、
(8)前記短繊維A、前記短繊維B、および前記短繊維Cがポリエステルである(1)~(7)いずれかの固体電解質用補強シート、
(9)前記湿式不織布の空隙率が65%以上95%以下であり、かつ、引張強度が0.5N/15mm以上である(1)~(8)いずれかの固体電解質用補強シート、
(10)前記湿式不織布の表面粗さRaが5μm以下である(1)~(9)いずれかの固体電解質用補強シートである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄膜、高空隙であり、かつ、高い表面平滑性を有することにより、固体電解質層のイオン伝導性を優れたものすることができ、さらに生産性にも優れた固体電解質用補強シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の短繊維の横断面構造の一例の概略図である。
【
図2】本発明の短繊維の凹凸度を説明するための横断面構造の概略図である。
【
図3】本発明の短繊維の原料として用いる多層積層繊維の横断面構造の一例の概略図である。
【
図4】多層積層繊維の製造方法の一例を説明するための横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の固体電解質用補強シートは、固体電解質を担持する固体電解質用補強シートである。また、前記固体電解質用補強シートは、湿式不織布からなり、この湿式不織布は、繊維横断面の長軸の長さを短軸の長さで除した値である扁平度が5以上であり、短軸の長さの平均が2000nm以下である短繊維を少なくとも含み、かつ、厚みが3μm以上50μm以下である。
【0015】
本発明の固体電解質用補強シートは、固体電解質を担持し、固体電解質に自立性と可撓性を付与するものであり、抄紙法により製布した湿式不織布から構成されることにより、固体電解質を担持するための高い空隙率を有しつつ、さらに、生産に耐えうる機械強度を有する。また、繊維横断面の長軸の長さを短軸の長さで除した値である扁平度が5以上であり、短軸の長さの平均が2000nm以下である短繊維を使用することにより、湿式不織布表面の平滑性が優れたものとなる。また、湿式不織布の厚みを上述した範囲に調整することにより、イオン伝導性の低下を抑制可能な固体電解質用補強シートとすることができる。
【0016】
以下、本発明の詳細について順に説明する。
【0017】
<短繊維>
(1)扁平度
本発明の固体電解質用補強シートが有する短繊維について説明する。上記の短繊維は、湿式抄紙にて本発明の固体電解質用補強シートを構成する湿式不織布を製造することを想定した場合、水等の液体媒体中への分散性に優れたものであり、繊維の長手方向に沿って所望の長さにカットされた繊維であり、繊維長さが100mm未満であることが好ましい。
【0018】
また、上記の短繊維は、繊維横断面の長軸の長さを短軸の長さで除した値である扁平度が5以上であることが必須である。短繊維の扁平度を5以上とすることにより、短繊維表面の平滑性が向上し、短繊維を含む湿式不織布からなる固体電解質用補強シート表面の平滑性も向上する。また、扁平度を上述した範囲とすることにより、丸断面糸対比で単糸同士の接触面積が増加し機械強度が向上する傾向にあるため、湿式不織布の構成繊維本数を削減することが可能となり、薄膜、軽量な固体電解質用補強シートを得ることができる。
【0019】
なお、この扁平度は、繊維横断面における長軸の長さ(nm)/短軸の長さ(nm)で求めることができる(
図1参照)。
【0020】
ここで、長軸の長さ、短軸の長さの測定方法について記載する。短繊維からなる繊維束、または、短繊維を含む湿式不織布をエポキシ樹脂等の包埋剤で包埋し、ダイヤモンドナイフを装着したミクロトームで繊維横断面を切削して削り出し、この横断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等で断面を識別できる倍率で撮影する。撮影した画像に存在する繊維1本の横断面について、画像解析ソフトを用いて断面の最大長を測定し、この値を繊維1本の長軸の長さとしてnm単位の整数で小数点以下を四捨五入して表す。続いて、この最大長の中間点で最大長の線分と直交する線分が繊維断面と交わる長さを測定し、この値を繊維1本の短軸の長さとしてnm単位の整数で小数点以下を四捨五入して表す。この長軸の長さと短軸の長さを用いて、上述した式で算出する。本測定を100本の繊維について実施して各繊維の扁平度を算出し、これらの算術平均を本発明の扁平度とする。
【0021】
さらに、本発明の固体電解質用補強シートが有する短繊維の扁平度が5以上であることにより、断面の形状異方性に由来して短軸方向と長軸方向の曲げ剛性が著しく異なることとなり、水等の液体媒体中へ分散した場合に短繊維の曲げ方向が短軸方向に制限されることとなる。このような変形方向の制限に由来して、液体媒体中で短繊維どうしが接触した場合であっても、短繊維どうしが折れ曲がって複雑に絡み合った塊状の分散不良となることがなく、優れた分散性を発揮するのである。そして、上記のとおり、優れた分散性によっても、湿式不織布からなる固体電解質用補強シート表面の平滑性は向上することになる。
【0022】
このように本発明の固体電解質用補強シートが有する短繊維は、断面の形状異方性を利用して曲げ方向を制限することにより、液体媒体中で短繊維どうしが絡み合いづらいものであり、この技術思想に基づけば、断面の扁平度が高いほど短軸方向と長軸方向の曲げ剛性の差が拡大し、液体媒体中で強固に曲げ方向が短軸方向に制限されることとなる。すなわち、扁平度が15以上であれば、断面の短軸方向と長軸方向で曲げ剛性が200倍以上に異なることとなり、液体媒体中での短繊維の曲げ方向は実質短軸方向のみに制限されることとなる。このように曲げ方向が短軸方向に強固に制限されることで、高速で攪拌した場合であっても、液体媒体中で短繊維どうしが絡み合いづらく、優れた分散性を示すため、扁平度は15以上であることが好ましい。
【0023】
さらに、扁平度が30以上であれば、分子間力等の凝集力により凝集した短繊維束を解繊するような高せん断力が加わる高速攪拌条件下であっても、断面の形状異方性に由来する曲げ方向の制限から、解繊後の短繊維どうしが絡み合いづらくなる。解繊等も含めた幅広い攪拌条件において優れた分散性を得るという観点では、扁平度は30以上であることがより好ましい。
【0024】
また、扁平度が50以上であれば、その際だった形状異方性により、液体媒体中で攪拌を加えた場合に、分散液中の流速差により短繊維横断面の短軸方向が揃った流動状態を取りやすくなる。このような流動状態では、短軸方向が揃っているために短繊維どうしの接触自体が起こりづらくなり、均質な分散状態を取りやすくなることから、扁平度は50以上であることが特に好ましい。
【0025】
一方、断面の扁平度が高くなるにつれて、攪拌工程等で外力が加わった場合に断面の長軸方向に割れを生じやすくなる傾向にあるが、扁平度が800未満であれば実使用に問題なく、本発明の目的を達成することができる。
【0026】
上述した扁平度の短繊維を抄紙法で湿式不織布とすることにより、その優れた分散性により、湿式不織布は空隙が均一に分散した構造となる。
【0027】
(2)比表面積
上記の短繊維は上述したとおり、高い扁平度を有するため比表面積も高いものとなる。短繊維の比表面積が高いことにより、湿式不織布とし、固体電解質用補強シートとした際、固体電解質との接触面積が増加し、密着性に優れたものとなるため、固体電解質の欠け、割れ等を抑制することが可能となる。
【0028】
上述した観点から、短繊維の比表面積は0.0010nm-1以上であることが好ましく、0.0040nm-1以上であることがより好ましく、0.0080nm-1であることがさらに好ましい。比表面積が0.0010nm-1以上であれば、繊維径が数μmの極細繊維相当の比表面積となり、比表面積が0.0040nm-1以上であれば、繊維径が数百nmのナノファイバー相当の比表面積となり、比表面積が0.0080nm-1であればそれ以上の比表面積となるため、本短繊維を含む湿式不織布からなる固体電解質用補強シートは固体電解質との密着性に優れたものとなる。
【0029】
以上のように、本発明の短繊維はその断面の高い形状異方性(扁平度)により、従来の丸断面繊維と比較して、分散液中での曲げ方向が360°全方向から短軸方向のみへと制限されることとなり、短繊維どうしが複雑に絡み合った塊状の分散不良を形成し難く、空隙が均一に分散した湿式不織布を得られるとともに、高比表面積の短繊維であるため固体電解質との密着性に優れたものである。
【0030】
(3)短軸の長さ
湿式不織布の均一性に寄与する短繊維の分散性は、繊維断面の扁平度だけでなく、繊維断面形状の影響を受ける。低速から高速までの幅広い攪拌条件下において、断面形状に由来する分散性向上を十分なものとするためには繊維径が重要な要件となる。この繊維径の指標として、上記の短繊維では、短軸の長さの平均が2000nm以下であることが必須である。ここで言う短軸の長さの平均とは、上記で測定した100本の繊維の短軸の長さの算術平均をnm単位の整数で小数点以下を四捨五入することで求めるものである。
【0031】
上記の短繊維において、短軸の長さの平均が2000nm以下であれば、液体媒体中での繊維の沈降速度が十分に遅くなり、繊維の分散状態が均一に維持されることとなる。この技術思想に基づくと、短軸の長さが短いほど繊維の沈降速度が遅くなり、経時で繊維が沈降しにくくなることから、本発明の短繊維においては、短軸の長さの平均が1000nm以下であることが好ましく、係る範囲であれば、弱い力で攪拌した場合であっても、繊維が沈降することがなく、均一な分散状態を維持することができる。また、抄紙工程での輸液工程等で攪拌力が短時間作用しない場合であっても、短軸の長さの平均が500nm以下であれば、繊維が沈降することはなく、本発明において、より好ましい範囲として挙げることができる。さらに、短軸の長さの平均が250nm以下であることがさらに好ましく、係る範囲であれば、繊維分散液を貯留して長時攪拌力が長時間作用しない場合であっても、繊維が沈降しづらく均一な分散状態が維持されることとなる。
【0032】
なお、短繊維の分散状態が、より長く維持されることで、塊状の分散不良の発生を抑制でき、湿式不織布からなる固体電解質用補強シートは空隙が均一に分散した構造を有し、さらに表面の平滑性はより向上することになる。
【0033】
一方で、短軸の長さの下限は20nm以上であることが好ましい。短軸の長さを20nm以上とすることにより、攪拌工程等で外力が加わった場合に破断しにくい。
【0034】
本発明の短繊維は、繊維横断面において、その短軸に対して長軸が極めて長大な超扁平断面とすることで、短繊維自体の屈曲する方向等が制限され、水等の液体媒体中に分散させた場合に、高せん断から低せん断まで攪拌条件を幅広くとれる等、均一な分散状態を維持できる条件範囲が従来技術に比べ、格段に広いものとなる。この特徴的な繊維横断面において、隣り合う繊維どうしの絡み合いや接着を抑制し、経時的な分散性を確保するという観点では、繊維横断面の形状がある範囲内で分布を持った状態が好適であり、本発明の短繊維においては、短軸の長さにバラツキがあることが良い。
【0035】
本発明における短軸の長さのバラツキ(CV値)とは、上記で測定した100本の繊維の短軸の長さを用いて算術平均と標準偏差を算出し、標準偏差を算術平均で除することで得られる変動係数を%単位の整数で小数点以下を四捨五入することで求めるものである。
【0036】
短軸の長さが適度な分布を持って存在することにより、繊維横断面の形状が一致しないことで接合しにくいことに加えて、せん断等の外力が加わった場合には、それぞれの短繊維が異なる動きをすることとなり、例えば、液体媒体中で短繊維どうしが接触して折れ曲がる際の座屈挙動に差が生まれ、短繊維どうしが絡み合い等を起こさず、経時的にも均質な状態を維持することができる。以上の観点から、本発明の短繊維においては、短軸の長さのバラツキ(CV値)が10%以上であることが好ましく、係る範囲とすることにより、繊維どうしが接触しやすい短繊維が高濃度に添加された液体媒体中においても、屈曲挙動等がそれぞれの繊維で異なるため、絡み合いなどを起こさず、均一な分散状態を確保することができる。そして、均一な分散状体が確保されることで、湿式不織布からなる固体電解質用補強シート表面の平滑性はより向上することになる。
【0037】
また、短軸の長さのバラツキ(CV値)が20%以上になると、液体媒体に対して短繊維が極めて高濃度に含まれる粘土状態の液体媒体中においても、短繊維が絡み合いを起こしにくく、液体で希釈等することにより再度優れた分散性となることから、本発明におけるより好ましい範囲として挙げることができる。
【0038】
さらに、本発明においては、短軸の長さのバラツキ(CV値)が30%以上であることが特に好ましく、係る範囲であれば、凝集した短繊維束や繊維集合体から短繊維を液体媒体中に分散させる場合であっても、外力により各短繊維が異なる挙動を示してばらけることで凝集状態が解消され、短時間の攪拌で容易に分散させることが可能になる。
【0039】
この観点を推し進めると、短軸の長さのバラツキ(CV値)が大きいほど、液体媒体中での分散性は向上することとなるが、攪拌工程等で外力が加わった場合に、分散性に斑ができたり、短軸の長さが短すぎることにより短繊維が破断するなどするため、該短軸の長さのバラツキ(CV値)が50%以下であることが好ましく、本発明における実質的な上限値となる。
【0040】
(4)凹凸度
本発明の固体電解質用補強シートに含まれる短繊維においては、短繊維毎の繊維横断面差による絡まり抑制に加えて、扁平断面において、外周に凹凸があることで、立体障害により短繊維間での接着や絡み合いを抑制することができ、短繊維の横断面における凹凸度(以下、凹凸度と称することがある)が20%以上であることが好ましい。
【0041】
本発明で言う凹凸度とは、撮影した繊維断面の画像を用いて、断面の最大長を10等分した点で最大長の線分と直交する線分が繊維断面と交わる長さをそれぞれ測定し、これら10箇所の長さの算術平均と標準偏差を算出して、標準偏差を算術平均で除してパーセント単位で少数点以下を四捨五入した値を単繊維の凹凸度とする(
図2参照)。同様の測定を10本の繊維断面について行い、算出した10本の繊維の凹凸度の算術平均をここで言う凹凸度とする。この凹凸度が20%以上あることにより、繊維間の微小な空隙を起点として短繊維が分散しやすく、短時間で均一に分散させることができる。そして、短時間で均一に分散させることができると、湿式不織布からなる固体電解質用補強シートの生産性を優れたものとすることができる。
【0042】
また、短繊維の表面に微小な凹凸を有することにより、固体電解質用補強シートと固体電解質との接着性に優れたものとなる。
【0043】
一方、凹凸度の上限は50%以下であることが好ましい。凹凸度の上限を50%以下とすることで、短繊維断面の一部に負荷が集中し、繊維の割れを抑制することができる。
【0044】
(5)ポリマー
本発明の固体電解質用補強シートに含まれる短繊維を構成するポリマーは、本発明の目的効果や、固体電解質用補強シートとしての実用性を踏まえると、耐熱性や耐薬品性に優れたポリマーであることが好適である。すなわち、短繊維を構成するポリマーがポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、およびポリオレフィンの群から選ばれる少なくとも1種のポリマーからなることが好ましい。上述した利点に加えて、これらのポリマーは熱可塑性であるため、本発明の短繊維を生産性の高い溶融紡糸法により製造できるだけでなく、延伸工程で高度に配向結晶化させる等、力学特性等の調整という観点で好適である。
【0045】
特に、短繊維の分散性を確保するという観点では、本発明の短繊維はポリエステルやポリフェニレンスルフィドなどの弾性率の高いポリマーから構成されることがより好ましく、外力が加えられた際の繊維の屈曲を抑制することができ、短繊維の分散工程において、繊維どうしが絡み合った分散不良の発生を効果的に抑制できる。また、ポリエステルをはじめとするカルボキシル末端基などの電気的反発力が働く官能基を有するポリマーを選択することにより、繊維間で反発力が働いて凝集することがなく、均質な分散状態が達成されやすくなる。
【0046】
(6)製造方法
次に本発明で用いる短繊維の製造方法について説明する。本発明の短繊維の製造方法は、本発明の特徴的な断面形態を有した長繊維を所望の長さにカットすることで製造することができ、具体的には、長繊維を数十本~数万本束ねたトウにして、ギロチンカッターやスライスマシン、クライオスタットなどの切断機などを使用して所望の繊維長にカット加工を施すことで製造する。ここで言う長繊維においては、単独のポリマーからなる繊維を製糸することも良いが、本発明の特徴である2000nm以下の短軸の長さを有した短繊維を従来技術で操業性に問題なく製糸することは、製糸条件での制約が生まれる場合がある。そのため、例えば、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーから構成された多層積層繊維(
図3参照)から易溶解性ポリマーを除去することで製造可能な扁平状の繊維断面を有した繊維から発生させる方法が好適に採用される。
【0047】
上記の多層積層繊維とは、2種類以上のポリマーが、交互、同順あるいは順不同に積層された多層積層構造の繊維断面を有した繊維を意味し、この積層構造の形態としては、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーが、一方向に交互積層されたものだけでなく、繊維中心から外層に向けて放射状に積層されたものや、繊維断面において、不規則に積層されたもの、または、これらを組み合わせたものであってもよい。本発明の多層積層繊維の製糸方法は、所有する製造プロセスや使用するポリマーに応じて、適宜選択するものであるが、生産性に優れるという観点から、溶融紡糸法を採用することができる。
【0048】
溶融紡糸法による多層積層繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレートあるいはその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタンなどの溶融成形可能なポリマーで製糸することができる。また、これらのポリマーは、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。また、これらの添加剤を含むポリマーを選択した場合には、添加剤である微粒子の粒径に対応して多層積層繊維の各層に凹凸が生じることとなり、これを元に発生させる繊維に任意の凹凸を付与することができる。
【0049】
上記したポリマーの中から2種類以上のポリマーを選択し、製糸することで多層積層繊維が製造されるが、安定な積層構造を形成するという観点では、ポリマーの組み合わせも重要である。すなわち、組み合わせるポリマーの溶解度パラメーター(SP値)差が小さいほど、層間で合流などがない良好な積層構造が形成されることとなり、界面を形成する2種類のポリマーの溶解度パラメーター差が3.0以下となるようポリマーを選択するとことが好ましい。
【0050】
なお、本発明の溶解度パラメーター(SP値)とは、(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメーターを意味し、例えば「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載の値から算出でき、一方の成分の溶解度パラメーターからもう一方の成分の溶解度パラメーターを減じた値の絶対値が本発明で言う溶解度パラメーター差を意味する。
【0051】
また、溶解性の異なるポリマーを用いることによって、多層積層繊維の易溶解性ポリマーを除去し、難溶解性ポリマーからなる短繊維を効率良く発生させることができる。例えば、多層積層繊維を構成するポリマーをアルカリ易溶解性ポリエステルとアルカリ難溶解性ポリエステル、あるいは、アルカリ易溶解性ポリエステルとポリフィニレンスルフィド(アルカリ難溶解性)、あるいは、アルカリ易溶解性ポリエステルとポリアミド(アルカリ難溶解性)とすれば、アルカリ減量処理により、アルカリ難溶解性ポリマーからなる短繊維が良好に発生することとなる。特に、易溶解性ポリエステルとしては、ポリエチレングリコール、ナトリウムスルホイソフタル酸が単独、あるいは組み合わされて共重合したポリエステルを用いることが、紡糸性および低濃度の水系溶剤に簡単に溶解するという観点から好ましい。多層積層繊維から短繊維を発生させるのに好適なポリマーの組合せの例として、融点の関係から易溶解成分に5-ナトリウムスルホイソフタル酸が5mol%~15mol%共重合されたポリエチレンテレフタレートおよびに前述した5-ナトリウムスルホイソフタル酸に加えて重量平均分子量500~3000のポリエチレングリコールが5wt%~15wt%共重合されたポリエチレンテレフタレート、難溶解成分にポリエチレンテレフタレート、あるいは、ポリフィニレンスルフィド、あるいは、ポリアミド-6を用いることが挙げられる。
【0052】
多層積層繊維を紡糸する際の紡糸温度は、2種類以上のポリマーのうち、主に高融点ポリマーや高粘度ポリマーが流動性を示す温度とする。この流動性を示す温度としては、分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点から融点+60℃以下で設定するとよい。これ以下であれば、紡糸ヘッドあるいは紡糸パック内でポリマーが熱分解等することなく、分子量低下が抑制されるため好ましい。多層積層繊維を紡糸する際の吐出量としては、0.1g/min・hole~20.0g/min・holeとすることで安定して製造することができる。また、A成分とB成分の比率は、吐出量を基準にA成分/B成分の重量比率で5/95~95/5の範囲で選択することができる。A成分として難溶解性ポリマー、B成分として易溶解性ポリマーを用いて、多層積層繊維から短繊維を発生させる場合、難溶解性ポリマー比率が高いほど扁平極細繊維の生産性の観点では好ましく、A成分/B成分比率が、50/50~90/10であれば、積層構造の一部が途切れることなく、安定して多層積層繊維が得られ、高い生産効率で短繊維を得ることができる。
【0053】
上記した紡糸温度で溶融し、流動性を持たせたポリマーは、紡糸口金に挿入することで、複合流を形成し、多層積層断面を有した繊維の製造が可能となる。ここで、用いる紡糸口金は、2種類以上のポリマーを複合化させる、従来公知の複合口金を応用して製糸することも可能であるが、特殊な多層積層断面を安定的に形成するには、下記する複合口金が好適に用いられる。
【0054】
本発明の固体電解質用補強シートが有する短繊維の製造工程で好適に用いられる複合口金は、例えば、
図4に示すような計量プレートD、複合プレートEおよび吐出プレートFの3種類の部材が積層された複合口金を用いることが好ましい。ちなみに、
図4は、A成分およびB成分といった2種類のポリマーを用いた例であり、必要であれば3種類以上のポリマーを用いて製糸してもよい。
【0055】
該複合口金では、計量プレートDにより、複合プレートEの各孔当たりのポリマー量を計量し、複合プレートEにより計量された異なる種類のポリマー流を合流させて複合流とし、これを分割・再合流することで複合流を構成する層数を倍増させ、吐出プレートFによって複合プレートEで形成された複合流を圧縮して吐出するという役割を担っている。なお、ここで言う複合流とは、流動方向に垂直な断面が2種類以上のポリマーによって構成された流体を意味する。
【0056】
複合プレートEの微細流路は、流路内における流れの乱れを極小化するような流路構成とすることで、多層積層繊維の製造を可能としたものである。ちなみに、上述した微細流路は、流路内で流体を合流または分割するという点においては、従来の静止型混合器(スタティックミキサー)と同様の特徴を有していると言えるが、一般的な静止型混合器は2種類のポリマーを混合することを目的とした流路設計となっており、積層した複合流の界面に乱れが生じやすく、上記したような複合口金を用いる方法が好適に採用される。
【0057】
なお、複合口金の説明が錯綜するのを避けるために、図示されていないが、計量プレートDよりも上に積み重ねられる部材に関しては、紡糸機および紡糸パックに合わせて、流路を形成する部材を用いればよい。計量プレートDを既存の流路部材に合わせて設計することで、既存の紡糸パックおよびその部材をそのまま活用することができる。このため、特に該口金のために紡糸機を専有化する必要はない。
【0058】
また、実際には、流路-計量プレートD間、あるいは計量プレートD-複合プレートE間に複数枚の流路プレートを積み重ねるとよい。これは、口金断面方向および単繊維の断面方向に効率的にポリマーが移送される流路を設け、複合プレートEに導入される構成とすることが目的である。
【0059】
吐出プレートFより吐出された複合流は、冷却固化されて、油剤を付与されて周速が規定されたローラーによって引き取られて複合繊維となる。この引取速度は、吐出量および目的とする繊維径から決定すればよいが、本発明に用いる複合繊維を安定に製造するには、100~7000m/minの範囲とすることが好ましい。なお、この多層積層繊維を高配向とし力学特性を向上させるという観点から、延伸を行ってもよいし、低配向としバインダ繊維としての機能を持たせる観点からは未延伸糸として巻き取ってもよい(詳細は後述)。なお、上述した延伸は、紡糸工程にて一旦巻き取られた後で行うことも良いし、一旦、巻き取ることなく、引き続き延伸を行うこともよい。この延伸条件としては、例えば、一対以上のローラーからなる延伸機において、一般に溶融紡糸可能な熱可塑性を示すポリマーからなる繊維であれば、ガラス転移温度以上融点以下温度に設定された第1ローラーと結晶化温度相当とした第2ローラーの周速比によって、繊維軸方向に無理なく引き伸ばされ、且つ熱セットされて巻き取られ、
図3のような複合断面を有する複合繊維を得ることができる。第1ローラーの温度の上限としては、予熱過程で繊維の糸道乱れが発生しない温度とすることが好ましく、例えば、ガラス転移温度が70℃付近に存在するポリエチレンテレフタレートの場合には、通常この予熱温度は80~95℃程度で設定される。
【0060】
上述した製造方法は、溶融紡糸法を採用した事例になるが、上記した複合口金を使用すれば、溶液紡糸のような溶媒を使用する紡糸方法でも、本発明に用いる多層積層繊維を製造することが可能なことは言うまでもない。得られた多層積層繊維を数十本~数万本束ねたトウにして、所望の繊維長にカット加工を施し、易溶解性ポリマーを除去することによって本発明の短繊維が発生する。
【0061】
<湿式不織布>
次に本発明の固体電解質用補強シートを構成する湿式不織布について説明する。この湿式不織布は、上述した短繊維を含むものであり、抄紙法により不織布化したものである。また、上述した短繊維、すなわち、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン等からなる短繊維を1種、または2種以上組み合わせて使用しても良い。また、これら短繊維に加え、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂単成分からなる丸断面の繊維を含んでいても良いし、2種類以上の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を含んでいても良い。本発明の短繊維、および上述した丸断面の繊維、複合繊維などの配合比率を適宜設計、厚み、坪量、空隙率、表面平滑性、機械強度などを調整することにより、固体電解質層に自立性と可撓性を付与でき、イオン伝導性、生産性に優れ固体電解質用補強シートに適した湿式不織布とすれば良い。以下、順に説明する。
【0062】
(1)厚み
本発明の湿式不織布の厚みの下限は3μm以上であることが必須であり、5μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましい。厚みの下限が3μmを下回ると固体電解質を担持させ電池とした際に電極間の短絡が生じる可能性があることに加え、湿式不織布の生産性、固体電解質層の生産性に必要となる機械強度(詳細は後述)が不足する。厚みを5μm以上とすることで、より短絡が生じにくく機械強度に優れたものとなり、厚みが8μm以上であることで上記の効果はさらに顕著なものとなる。一方、厚みの上限は50μm以下であることが必須であり、30μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。厚みの上限が50μmを上回ると電池とした場合の抵抗が増加し、イオン伝導性が低下する。厚みの上限30μm以下、15μm以下とすることでこの効果は顕著なものとなる。
【0063】
(2)繊維構成
本発明の湿式不織布は、上述した短繊維(以下、他の短繊維と区別するため短繊維Aと称することがある)を含むことが必須であるが、他の短繊維を含んでいても良い。
【0064】
第1の実施形態として、短繊維Aを10~75質量%含み、さらに、前記短繊維Aとは異なる短繊維Bを含み、前記短繊維Bが芯鞘型複合短繊維であるものである。
【0065】
本構成においては、短繊維Aが湿式不織布の骨格となる繊維の役割を果たし、短繊維Bである芯鞘型複合短繊維がバインダ繊維の役割を果たすことにより、湿式不織布の機械強度が固体電解質用補強シートとして十分なものとなる。また、本湿式不織布を固体電解質用補強シートとして固体電解質と複合化した際、短繊維Aは、高い扁平度を有し比表面積が高いため固体電解質との密着性に優れ、芯鞘型複合短繊維である短繊維Bは、固体電解質との複合化工程で鞘成分が溶融し、溶融した鞘成分がアンカー効果により固体電解質と強固に密着する。つまり、短繊維A、および短繊維Bである芯鞘型複合短繊維双方の効果により、固体電解質との密着性に優れたものとなり、固体電解質の欠け、割れ等を抑制することが可能となる。
【0066】
上述した短繊維Bである芯鞘型複合短繊維として、鞘部を構成する樹脂が芯部を構成する樹脂対比で融点が低い樹脂の組み合わせであれば特に限定されることはない。芯部/鞘部を構成する樹脂の組み合わせとして、例えば、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエステル/ポリエチレン、ポリエステル/ポリエステル共重合体などの組み合わせを挙げることができる。
【0067】
本湿式不織布における短繊維Aの配合比は10質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。短軸の長さが短い、つまり厚みが薄い短繊維Aの配合比を10質量%以上とすることで、より薄膜な湿式不織布を得ることができ、固体電解質用補強シートとした場合にイオン伝導性の低下を抑制することが可能となる。本効果は短繊維Aの配合比を25質量%以上とすることでより顕著なものとなる。一方、短繊維Aの配合比の上限は75質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好まし
い。扁平度が高い短繊維Aの配合比を75質量%以下とすることで、固体電解質用補強シートとした場合に、固体電解質が内部まで充填し易い湿式不織布となる。本効果は短繊維Aの配合比を50質量%以下とすることでより顕著なものとなる。なお、本実施形態で用いる短繊維Aは、湿式不織布の骨格となる繊維の役割を果たすことから、高配向で力学特性に優れる延伸糸を使用することが好ましい。
【0068】
本湿式不織布における短繊維Bである芯鞘型複合短繊維の配合比は特に限定されるものではないが、バインダ繊維として機能し、厚みが薄い湿式不織布の機械強度をより強固なものとするとの観点から25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。一方、上限は、より薄膜な湿式不織布を得るとの観点から90質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。一般的な芯鞘型複合短繊維の繊維径は10μm程度であるため、芯鞘型複合短繊維の配合比を上述した上限とすることで、より薄膜な湿式不織布を得ることができる。
【0069】
第2の実施形態として、短繊維Aを10~75質量%含み、さらに、前記短繊維Aとは異なる短繊維Cを含み、前記短繊維Cの平均繊維直径が1μm以上10μm以下であり、かつ、前記短繊維Aおよび短繊維Cの融点が200℃以上であるものである。
【0070】
本構成においては、短繊維Cが湿式不織布の骨格となる繊維の役割を果たし、短繊維Aがバインダ繊維の役割を果たすことにより、湿式不織布の機械強度が固体電解質用補強シートとして十分なものとなる。
【0071】
また、本湿式不織布を固体電解質用補強シートとして固体電解質と複合化した際、短繊維Aは、高い扁平度を有し比表面積が高いため固体電解質との密着性に優れ、短繊維Cは繊維径が細く比表面積が高いため、固体電解質との接触面積が増加し、密着性に優れたものとなる。つまり、短繊維A、および短繊維C双方の効果により、固体電解質との密着性に優れたものとなり、固体電解質の欠け、割れ等を抑制することが可能となる。
【0072】
本実施形態で用いる短繊維Aは、第1の実施形態で用いた短繊維Aと同様の
扁平度、短軸長さの平均値、CV値、凹凸度を有するものであるが、カレンダー加工等の熱処理で軟化、流動し易く、バインダ繊維としての機能に優れるとの観点から、結晶化度が低いものを用いることが好ましい。なお、カレンダー加工後の湿式不織布に含まれる短繊維Aは結晶化が進み、実質的に第1の実施形態の短繊維Aと同一となる。
【0073】
本湿式不織布における短繊維Aの配合比は10質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。短軸の長さが短い、つまり厚みが薄い短繊維Aの配合比を10質量%以上とすることで、より薄膜な湿式不織布を得ることができ、固体電解質用補強シートとした場合にイオン伝導性の低下を抑制することが可能となる。本効果は短繊維Aの配合比を25質量%以上とすることでより顕著なものとなる。なお、本実施形態における短繊維Aはバインダ繊維として役割を担うものであるが、扁平度と比表面積が高いため、少量の配合であっても効果を有する。
【0074】
一方、短繊維Aの配合比の上限は75質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。扁平度が高い短繊維Aの配合比を75質量%以下とすることで、固体電解質用補強シートとした場合に、固体電解質が内部まで充填し易い湿式不織布となる。本効果は短繊維Aの配合比を50質量%以下とすることでより顕著なものとなる。なお、本実施形態で用いる短繊維Aは、バインダ繊維の役割を果たすことから、低配向な未延伸糸を使用することが好ましい。
【0075】
本湿式不織布における短繊維Cは、平均繊維直径が1μm以上10μm以下であることが好ましい。平均繊維直径が1μmを下回ると繊維の比表面積は増加するものの湿式不織布の空隙率が低下する傾向にある。また、平均繊維直径が10μmを上回ると湿式不織布の厚みが厚くなる傾向にある。
【0076】
短繊維Cを構成する樹脂は、特に限定されるものではないがポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0077】
本湿式不織布における短繊維Cの配合比は特に限定されるものではないが、湿式不織布の骨格として役割を果たすとの観点から25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。一方、上限は、短繊維Cに対するバインダ繊維である短繊維Aの相対的な量を十分なもとのとし、機械強度に優れた湿式不織布を得るとの観点から、90質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。
【0078】
また、第2の実施形態で用いる短繊維A、および短繊維Cの融点を200℃以上とすることで固体電解質用補強シートとして用いる際、製造工程で加わる熱エネルギーで機械特性が低下し難くなる。
【0079】
さらに、第1の実施形態、および第2の実施形態で使用する短繊維A、短繊維B、および短繊維Cはポリエステル繊維であることが好ましい。それぞれの実施形態で使用する短繊維A、短繊維B、および短繊維Cに同一樹脂で構成される繊維を使用することにより、バインダ繊維が骨格となる繊維になじみやすく、より強固な湿式不織布を得ることが可能となる。
【0080】
(3)坪量
上記の湿式不織布の坪量の上限は10g/m2以下であることが好ましく、8g/m2であることがより好ましく、5g/m2以下であることがさらに好ましい。坪量を10g/m2以下とすることで、本湿式不織布からなる固体電解質用補強シートを組み込んだ電池の軽量化が可能となる。坪量の上限を8g/m2以下、さらに5g/m2以下とすることでこの効果は顕著なものとなる。一方、坪量の下限に特に制限は無いが、湿式不織布の生産性に必要となる機械強度を維持する観点から3g/m2以上であることが好ましい。
【0081】
(4)空隙率
上記の湿式不織布における空隙率は、固体電解質用補強シートとした場合の固体電解質を担持する空孔の比率を示すものであり、イオン伝導性が良好なものとなる量の固体電解質を担持し、機械強度を維持するとの観点から、65%以上95%以下であることが好ましく、70%以上90%以下であることがより好ましい。空隙率を上述した範囲とすることにより、充分な量の固体電解質を担持しつつ、機械強度に優れた湿式不織布となる。
【0082】
(5)機械強度
上記の湿式不織布において、上述した厚み、坪量、空隙率とすることにより、この湿式不織布は生産性が良好な機械強度を有するものとなり、湿式不織布からなる固体電解質用補強シートも生産性が良好な機械強度を有するものとなる。
【0083】
この湿式不織布の機械強度としては、引張強度が0.5N/15mm以上であることが好ましい。引張強度を0.5N/15mm以上とすることで、機械強度に優れ、破損し難い湿式不織布となり生産性が向上する。
【0084】
(6)表面平滑性
上記の湿式不織布は、表面平滑性と分散性に優れる短繊維を含むことにより表面平滑性に優れたものとなり、湿式不織布からなる固体電解質用補強シートも表面平滑性に優れたものとなる。よって、固体電解質を担持させた際、正極、負極と接する固体電解質表面も平滑性に優れたものとなり、電極との密着性が向上しイオン伝導性に優れたものとなる。本湿式不織布の表面平滑性として、表面粗さRaが5μm以下であることが好ましい。表面粗さRaを5μm以下とすることで上述した効果が顕著なものとなる。
(7)通気度
上記湿式不織布の通気度は100cm3/cm2/s以上であることが好ましく、200cm3/cm2/s以上であることがより好ましい。通気度とは空気の通り易さの指標であり、湿式不織布中の連続空隙と相関のある数値である。つまり、通気度が高い湿式不織布ほど連続空隙が多く、固体電解質用補強シートとして用いた場合に固体電解質が充填され易い湿式不織布となる。本通気度を100cm3/cm2/s以上とすることで固体電解質がより充填され易い不織布となり、固体電解質シートとした場合にイオン伝導性に優れたものとなる。通気度を200cm3/cm2/s以上とすることで上述した効果はより顕著なものとなる。
【0085】
<湿式不織布の製造方法>
上記の湿式不織布の製造方法について説明する。この湿式不織布の製造方法は、水中に分散させた短繊維(必要に応じて他の繊維、分散剤等を含む)を丸網抄紙機、短網抄紙機、長網抄紙機で抄紙する。
【0086】
本発明で用いる抄紙法は、組成の異なる繊維同士、繊維径の異なる繊維同士等を複合した不織布を生産することが可能であり、面内の性能バラツキが少なく品質にも優れる。
【0087】
また、表面粗さRaを小さくし、表面平滑性をさらに向上するためカレンダー装置やプレス装置により圧密化することが好ましい。この際、温度をかけ、短繊維または他の熱可塑性繊維を融着させることにより、機械特性が向上するため好ましい。
【実施例0088】
以下に本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本実施例中に示す特性値の測定方法は次のとおりである。
【0089】
<短繊維>
A.ポリマーの溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、東洋精機製キャピログラフ1Bによって、歪速度1216s-1の溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様にし、実施例あるいは比較例には、1216s-1の溶融粘度を記載している。なお、加熱炉にサンプルを投入してから測定開始までを5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0090】
B.ポリマーの融点
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって水分率200ppm以下とし、約5mgを秤量し、TAインスツルメント社製示差走査熱量計(DSC)Q2000型を用いて、0℃から300℃まで昇温速度16℃/分で昇温後、300℃で5分間保持してDSC測定を行った。昇温過程中に観測された融解ピークより融点を算出した。測定は1試料につき3回行い、その平均値を融点とした。なお、融解ピークが複数観測された場合には、最も高温側の融解ピークトップを融点とした。
【0091】
C.溶解度パラメーター差
溶解度パラメーター(SP値)は、(蒸発エネルギー/モル容積)の平方根で定義される物質の凝集力を反映するパラメーターであり、種々の溶剤にポリマーを浸漬させ、膨潤の圧が極大となる溶剤の(蒸発エネルギー/モル容積)の値を該ポリマーの(蒸発エネルギー/モル容積)とすることにより求めることができる。このようにして求められたSP値は、例えば「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載されており、この値を用いた。また、組み合わせるポリマーの溶解度パラメーター差は、(A成分のSP値-B成分のSP値)の絶対値として算出した。
【0092】
D.繊度
複合繊維の100mの重量を測定し、その値を100倍した値を算出した。この測定を10回繰り返し、その平均値を繊度(dtex)とした。また上記の繊度をフィラメント数で割った値を単繊維繊度(dtex)とした。
【0093】
E.比表面積
短繊維からなる繊維束をエポキシ樹脂などの包埋剤で包埋し、Reichert社製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert-Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した後、その切削面を(株)日立製作所製 H-7100FA型透過型電子顕微鏡(TEM)にて断面を認識できる倍率にして画像を撮影した。画像解析ソフト(WINROOF)を用いて、断面外周部の任意の位置を測定開始点に定め、測定開始点から外周部を一連の画像でたどり、再び測定開始点に戻るまでの長さを測定した。この値を繊維1本の外周長とし、nm単位の整数(小数点以下を四捨五入)で表した。また、この外周長に囲われた内側の部分の面積を画像解析ソフトで測定し、この値を繊維1本の断面積とし、nm2単位の整数(小数点以下を四捨五入)で表した。この外周長と断面積を用いて、下式により小数点第5位を四捨五入して繊維1本の比表面積を算出した。比表面積(nm-1)=外周長(nm)/断面積(nm2)上記の測定を100本の繊維について実施して各繊維の比表面積を算出し、これらの算術平均を本発明の比表面積とした。
【0094】
F.扁平度
上記で撮影した繊維横断面について、画像解析ソフト(WINROOF)を用いて、単繊維の横断面の最大長を測定し、この値を単繊維の長軸の長さとしてnm単位の整数(小数点以下を四捨五入)で求めた。次に、最大長の中間点で最大長の線分と直交する線分が繊維断面と交わる長さを測定し、この値を単繊維の短軸の長さとしてnm単位の整数(小数点以下を四捨五入)で求めた。この長軸の長さと短軸の長さを用いて、下式により単繊維の扁平度を算出した。扁平度=長軸方向の長さ(nm)/短軸方向の長さ(nm)上記の測定を100本の繊維について実施して各繊維の扁平度を算出し、これらの算術平均の小数点以下を四捨五入して扁平度を算出した。
【0095】
G.短軸の長さの平均
上記で測定した100本の繊維の短軸の長さの算術平均をnm単位の整数(小数点以下を四捨五入)で短軸の平均長さを算出した。
【0096】
H.短軸の長さのバラツキ(CV値)
上記で測定した100本の繊維の短軸の長さを用いて算術平均と標準偏差を算出し、標準偏差を算術平均で除することで得られる変動係数を%単位の整数で小数点以下を四捨五入して短軸の長さのバラツキを算出した。
【0097】
I.短繊維の横断面における凹凸度
上記で撮影した繊維断面の画像を用いて、断面の最大長を10等分した点で最大長の線分と直交する線分が繊維断面と交わる長さをそれぞれ測定し、これら10箇所の長さの算術平均と標準偏差を算出して、標準偏差を算術平均で除してパーセント単位で少数点以下を四捨五入した値を単繊維の凹凸度として算出した(
図2参照)。同様の測定を10本の繊維断面について行い、算出した10本の単繊維の凹凸度の算術平均を凹凸度として算出した。
【0098】
<湿式不織布>
A.坪量
(1)引用規格
JIS P8124:1998
(2)測定方法
質量(g)を測定し、1m2あたりの質量(g/m2)に換算した。
(3)測定条件
・サイズ : 100mm×100mm
・n数 : 5 。
【0099】
B.厚み
(1)測定方法
デジタルシックネスゲージ「SMD-565J-L(株式会社テクロック社製)を用い測定した。
(2)測定条件
・測定子 : φ10mmセラミック
・n数 : 5 。
【0100】
C.空隙率
(1)測定方法
質量(g)、体積(cm3)を測定し、次式により見かけ密度(g/cm3)、を算出した後、空隙率(%)を算出した。なお、実施例で用いたポリエステルの真密度は1.38g/cm3を用いた。
(2)測定式
見かけ密度=質量(g)/体積(cm3)
空隙率=(1-見かけ密度/真密度)×100(%)
D.引張強度
(1)引用規格
JIS P8113:2006
(2)測定方法
試験体の引張強さを「オートグラフAGS-J(株式会社島津製作所製)」を
用い測定した。
(3)測定条件
・サイズ : 150mm×15mm
・つかみ間隔: 50mm
・引張速度 : 20mm/min
・n数 : タテ5、ヨコ5 。
【0101】
E.表面平滑性(表面粗さRa)
(1)測定方法
試験体の表面平滑性として、表面粗さ(Ra)を「レーザーマイクロスコープVK-X100(株式会社キーエンス社製)」を用い測定した。
(2)測定条件
・対物レンズ: 10倍
・n数 : 3 。
【0102】
F.通気度
(1)引用規格
JIS L1096:1999(フラジール法)
(2)測定方法
試験体の通気度を「通気性テスターFX3300(テクステスト社製)」を用
い測定した。
(3)測定条件
・サイズ : 200mm×200mm
・圧力 : 125Pa
・測定面積 : φ38mm
・n数 : 5 。
【0103】
次に本発明の湿式不織布が有する短繊維Aの製造方法について説明する。
【0104】
<短繊維Aの製造方法:延伸糸>
A成分として、ポリエチレンテレフタレート(PET、溶融粘度:120Pa・s、融点:254℃、SP値:21.4MPa1/2)と、B成分として、5-ナトリウムスルホイソフタル酸8.0モル%、ポリエチレングリコールを9wt%共重合したポリエチレンテレフタレート(SSIA-PEG共重合PET、溶融粘度:95Pa・s、融点:233℃、SP値:22.9MPa
1/2)を準備した。なお、これらのポリマーの溶解度パラメーター差は1.5MPa1/2となる。
【0105】
A成分およびB成分を290℃で別々に溶融後、A/B成分の複合比率を80/20として、
図4に例示した複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させ、吐出孔から複合ポリマー流を吐出した。なお、複合プレートには両成分を交互に32層に積層できる微細流路Gを用い、
図3に示すような2種類のポリマーが一方向に交互に多層積層された複合形態となるように吐出した。吐出された複合ポリマー流を冷却固化させた後、油剤を付与し、紡糸速度1000m/minで巻取り、100dtex-24フィラメント(総吐出量10g/min)の未延伸糸を採取した。巻き取った未延伸糸を90℃と130℃に加熱したローラー間で3.6倍延伸を行い、28dtex-24フィラメントの延伸糸を得た。
【0106】
得られた多層積層繊維を繊維長が0.6mm(または3.0mm)となるようにカット加工し、カットした多層積層繊維を90℃に加熱した1重量%の水酸化ナトリウム水溶液(浴比1/100)に30分間浸漬することで、易溶解性ポリマーのSSIA-PEG共重合PETを99%以上溶解除去して
図1に示すような横断面が扁平形状の短繊維を得た。
【0107】
得られた短繊維の横断面から比表面積を測定したところ、比表面積は0.0040nm-1と極めて大きなものであった。断面形態は、長軸と短軸の長さが著しく異なったリボン状の断面となっており、扁平度は20で、短軸の長さの平均は502nmであった。また、断面の短軸の長さのバラツキ(CV値)は37%、横断面における凹凸度は25%であり、適度に短軸の長さにバラツキを有し、かつ表面に適度に凹凸が存在するものであった。
【0108】
<短繊維Aの製造方法:未延伸糸>
延伸工程を実施しないことを除き、上述した延伸糸と同一の方法で100dtex-24フィラメントを得た。
【0109】
得られた多層積層繊維を繊維長が6.0mmとなるようにカット加工し、カットした多層積層繊維を70℃に加熱した1重量%の水酸化ナトリウム水溶液(浴比1/50)に60分間浸漬することで、易溶解性ポリマーのSSIA-PEG共重合PETを99%以上溶解除去して
図1に示すような横断面が扁平形状の短繊維を得た。
【0110】
得られた短繊維の横断面から比表面積を測定したところ、比表面積は0.0041nm-1と極めて大きなものであった。断面形態は、長軸と短軸の長さが著しく異なったリボン状の断面となっており、扁平度は20で、短軸の長さの平均は800nmであった。また、断面の短軸の長さのバラツキ(CV値)は32%、横断面における凹凸度は21%であり、適度に短軸の長さにバラツキを有し、かつ表面に適度に凹凸が存在するものであった。また、結晶化度は6%であり非晶状態を維持していた。
【0111】
[実施例1]
短繊維Aである短繊維90質量%と短繊維Bである芯部を構成する樹脂がポリエステル、鞘部を構成する樹脂が共重合PETからなる芯鞘型複合短繊維(平均繊維径:1.1dtex、繊維長:5mm)10質量%を水中で攪拌し、抄紙した後、線圧80kg、80℃でカレンダー加工し、厚み:10μm、坪量:3.4g/m2の湿式不織布を得た。なお、本実施例で用いた短繊維Aは延伸糸、カット長0.6mmを用いた。
【0112】
[実施例2]
短繊維Aである短繊維を70質量%、短繊維Bである芯鞘型複合短繊維を30質量%としたことを除き、実施例1と同一の方法で、厚み:10μm、坪量:3.0g/m2の湿式不織布を得た。
【0113】
[実施例3]
短繊維Aである短繊維を50質量%、短繊維Bである芯鞘型複合短繊維を50質量%としたことを除き、実施例1と同一の方法で、厚み:10μm、坪量:3.2g/m2の湿式不織布を得た。
【0114】
[実施例4]
短繊維Aである短繊維を25質量%、短繊維Bである芯鞘型複合短繊維を75質量%としたことを除き、実施例1と同一の方法で、厚み:11μm、坪量:3.2g/m2の湿式不織布を得た。
【0115】
[実施例5]
短繊維Aである短繊維を10質量%、短繊維Bである芯鞘型複合短繊維を90質量%としたことを除き、実施例1と同一の方法で、厚み:12m、坪量:3.4g/m2の湿式不織布を得た。
【0116】
[実施例6]
短繊維Aである短繊維のカット長を3mmに変更したことを除き、実施例3と同一の方法で、厚み:9μm、坪量:3.0g/m2の湿式不織布を得た。
【0117】
[実施例7]
短繊維Aである短繊維のカット長を3mmに変更したことを除き、実施例4と同一の方法で、厚み:10μm、坪量:3.1g/m2の湿式不織布を得た。
【0118】
[実施例8]
短繊維Aである短繊維のカット長を3mmに変更したことを除き、実施例5と同一の方法で、厚み:11μm、坪量:3.3g/m2の湿式不織布を得た。
【0119】
[実施例9]
カレンダー加工を実施しないことを除き、実施例6と同一の方法で、厚み:16μm、坪量:3.1g/m2の湿式不織布を得た。
【0120】
[実施例10]
カレンダー加工を実施しないことを除き、実施例7と同一の方法で、厚み:17μm、坪量:3.2g/m2の湿式不織布を得た。
【0121】
[実施例11]
短繊維Aである短繊維と短繊維Bである短繊維の配合量を調整したことを除き、実施例6と同一の方法で、厚み:7μm、坪量:2.2g/m2の湿式不織布を得た。
【0122】
[実施例12]
短繊維Aである短繊維50質量%と短繊維Cであるポリエステル短繊維(平均繊維直径:4μm、繊維長3mm)50質量%を水中で攪拌し、抄紙した後、線圧80kg、160℃でカレンダー加工し、厚み:5μm、坪量:2.8g/m2の湿式不織布を得た。なお、本実施例で用いた短繊維Aは未延伸糸、カット長3mmを用いた。
【0123】
[実施例13]
短繊維Aである短繊維を25質量%と短繊維Cであるポリエステル短繊維(平均繊維直径:4μm、繊維長3mm)を75質量%としたことを除き、実施例12と同一の方法で、厚み:5μm、坪量:3.3g/m2の湿式不織布を得た。
【0124】
[実施例14]
短繊維Aである短繊維を10質量%と短繊維Cであるポリエステル短繊維(平均繊維直径:4μm、繊維長3mm)を90質量%としたことを除き、実施例12と同一の方法で、厚み:5μm、坪量:3.2g/m2の湿式不織布を得た。実施例1~14の各固体電解質用補強シート(湿式不織布)について、上述した測定方法を用い、各特性値を評価した結果を表1~3に示す。
【0125】
短繊維Aである短繊維(延伸糸):短繊維Bである芯鞘型複合短繊維の配合比を90:10とした実施例1、70:30とした実施例2、50:50とした実施例3、25:75とした実施例4、10:90とした実施例5は、厚み10~12μm、表面粗さ(Ra)5~10μmであり、短繊維Aの配合比が高いほど薄膜で表面平滑性に優れている湿式不織布であった。また、空隙率はいずれも70%以上であり、湿式不織布中の連続空隙の指標である通気度は短繊維Aの配合比が低いほど高い結果であり、固体電解質層のイオン伝導性を優れたものとすることが可能な湿式不織布であった。また、0.5N/15mm以上の引張強度を有しており、生産性にも優れた湿式不織布であった。
【0126】
次に、短繊維Aである短繊維(延伸糸)のカット長を0.6から3mmに変更した実施例6~8は、実施例3~5と比較し、繊維長が長くなることによって、引張強度が高く生産性に優れた湿式不織布であった。また、通気性にも優れ、固体電解質層のイオン伝導性を優れたものとすることが可能な湿式不織布であった。
【0127】
カレンダー加工を実施していない実施例9、10については、実施例6、7と比較し、厚みが16、17μmと厚膜ではあるものの、空隙率と通気性が高く、固体電解質層が入り易く、固体電解質層のイオン伝導性を優れたものとすることが可能な湿式不織布であった。
【0128】
さらに配合量を調整し、坪量2.2g/m2とした実施例11は、引張強度が低下する傾向にあるものの、厚みが7μmであり、固体電解質層のイオン伝導性を優れたものとすることが可能な湿式不織布であった。 また、短繊維Aである短繊維(未延伸糸):短繊維Cであるポリエステル短繊維を50:50、25:75、10:90とした実施例12~14は、実施例6~8と比較し、厚みが5μmと薄膜であるにも関わらず、高い引張強度を有しており、生産性に優れる湿式不織布であった。また、通気度も高く、固体電解質層のイオン伝導性を優れたものとすることが可能な湿式不織布であった。
【0129】
なお、いずれの実施例でも短繊維の水への分散性は良好であった。
【0130】
【0131】
【0132】
本発明の湿式不織布は、薄膜、高空隙であり、かつ、高い表面平滑性を有することにより、固体電解質層のイオン伝導性を優れたものすることができ、さらに生産性にも優れたているため固体電解質用補強シートに好適に使用することができる。