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特開2024-68689内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068689
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 17/00 20060101AFI20240514BHJP
   F01L 1/344 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
F02D17/00 H
F01L1/344
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179211
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】山下 晋平
(72)【発明者】
【氏名】前原 創
【テーマコード(参考)】
3G018
3G092
【Fターム(参考)】
3G018AB11
3G018AB16
3G018GA03
3G092AC08
3G092DA06
3G092EA11
3G092FA44
(57)【要約】
【課題】可変動弁機構の故障診断の精度向上を図る。
【解決手段】内燃機関10は、バルブタイミングを可変可能な油圧駆動方式の吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42を有する。内燃機関10は、バルブタイミングを保持する際には作動油の油圧を所定の第1圧力P1に制御し、バルブタイミングを変更する際には作動油の油圧を第1圧力P1よりも高い所定の第2圧力に制御する。作動油の油圧が第1圧力P1よりも高い所定の第3圧力まで上昇するとバルブタイミングの変更を許可する。これにより、過渡時において、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42が油圧の応答遅れにより動き出さないことを故障と誤診断することを抑制でき、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の故障診断の精度を向上させることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関弁のバルブタイミングを可変可能な油圧駆動方式の可変動弁機構を有する内燃機関の制御方法において、
上記機関弁のバルブタイミングを保持する際には上記可変動弁機構に供給される作動油の油圧を所定の第1圧力に制御し、
上記機関弁のバルブタイミングを変更する際には上記作動油の油圧を上記第1圧力よりも高い所定の第2圧力に制御し、
上記作動油の油圧が上記第1圧力よりも高い所定の第3圧力まで上昇すると上記可変動弁機構による上記機関弁のバルブタイミングの変更を許可することを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項2】
上記第3圧力は、上記第2圧力よりも低くなることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項3】
上記第3圧力は、上記作動油の油圧と、上記機関弁のバルブタイミングを可変する際に可動する上記可変動弁機構の可動部分の可動量と、を学習することによって補正することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項4】
内燃機関は、搭載される車両の駆動源となる電動機に供給される電力を発電するモータジェネレータを駆動する発電専用であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の内燃機関の制御方法。
【請求項5】
内燃機関の機関弁のバルブタイミングを可変可能な油圧駆動方式の可変動弁機構と、
上記機関弁のバルブタイミングを保持する際には上記可変動弁機構に供給される作動油の油圧を所定の第1圧力に制御し、上記機関弁のバルブタイミングを変更する際には上記作動油の油圧を上記第1圧力よりも高い所定の第2圧力に制御する油圧制御部と、
上記過渡時に上記作動油の油圧が上記第1圧力よりも高い所定の第3圧力まで上昇すると上記可変動弁機構による上記機関弁のバルブタイミング(開閉時期)の変更を許可する可変動弁制御部と、を有することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、出力特性の異なる低速カムと高速カムを油圧アクチュエータにより切り替え、これらのカムの運動を吸気弁または排気弁の少なくとも一方に伝達するカム切換機構が開示されている。
【0003】
特許文献1においては、カム切換時にオイルポンプから供給される油を蓄えるアキュームレータの目標圧を高く設定している。特許文献1において、アキュームレータは、油圧アクチュエータに油圧切換弁を介して油を供給可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-195735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、アキュームレータの目標圧の設定を高くした後、直ちにカム切換機構のカム切り換えを実施しようとすれば、アキュームレータの圧力が目標圧まで上昇していない場合がある。
【0006】
そのため、特許文献1においては、可変動弁機構であるカム切換機構のカム切り換え時に、油圧の応答遅れによりカム切換機構が動作しないことに起因して、カム切換機構が故障していると誤診断される虞がある。
【0007】
すなわち、油圧駆動の可変動弁機構を有する内燃機関においては、可変動弁機構の故障診断の精度向上を図るために、可変動弁機構の機関弁の開閉時期を変更する際の制御に関して更なる改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内燃機関は、機関弁のバルブタイミングを可変可能な油圧駆動方式の可変動弁機構を有するものであって、バルブタイミングを保持する際には上記可変動弁機構に供給される作動油の油圧を所定の第1圧力に制御し、バルブタイミングを変更する際には上記作動油の油圧を上記第1圧力よりも高い所定の第2圧力に制御し、上記作動油の油圧が上記第1圧力よりも高い所定の第3圧力まで上昇すると上記可変動弁機構による上記機関弁のバルブタイミングの変更を許可することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機関弁のバルブタイミングが切り替わる際に、可変動弁機構が油圧の応答遅れにより動き出さないことを故障と誤診断することを抑制でき、可変動弁機構の故障診断の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明が適用される内燃機関が搭載される車両の駆動システムの概略を模式的に示した説明図。
図2】本発明が適用される内燃機関のシステム構成を模式的に示した説明図。
図3】可変動弁機構に供給される作動油の油圧制御マップ。
図4】バルブタイミングを変更する際に可変動弁機構に供給される作動油の油圧と、バルブタイミングを保持する際に可変動弁機構に供給される作動油の油圧との大小関係を模式的に示した説明図。
図5】可変動弁機構のバルブタイミングを変更する際の状況の一例を示したタイミングチャート。
図6】可変動弁機構の応答速度と可変動弁機構に供給される作動油の油圧の相関関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明が適用される内燃機関10が搭載される車両1の駆動システムの概略を模式的に示した説明図である。車両1は、駆動輪2を駆動する駆動ユニット3と、駆動輪2を駆動するための電力を発電する発電ユニット4と、を有している。
【0013】
駆動ユニット3は、駆動輪2を回転駆動する第2電動機としての駆動用モータ5と、駆動用モータ5の駆動力を駆動輪2に伝達する第1ギヤトレーン6及びディファレンシャルギヤ7と、を有している。駆動用モータ5には、発電ユニット4で発電された電力等が充電されたバッテリ8から電力が供給される。
【0014】
発電ユニット4は、駆動用モータ5に供給する電力を発電するモータジェネレータ(第1電動機)としての発電機9と、発電機9を駆動可能な内燃機関10と、内燃機関10の回転を発電機9に伝達する第2ギヤトレーン11と、を有している。
【0015】
車両1は、内燃機関10により駆動される発電機9からの電力及びバッテリ8からの電力により駆動用モータ5を駆動して走行するものであり、内燃機関10を駆動源として直接的には使用しないいわゆるシリーズハイブリッド車両である。
【0016】
車両1は、例えば、バッテリ8のバッテリ残量が少なくなると、バッテリ8を充電するために内燃機関10を駆動して発電機9で発電する。
【0017】
駆動用モータ5は、車両1の直接的な駆動源であり、例えばバッテリ8からの交流電力により駆動する。また、駆動用モータ5は、車両1の減速時に発電機として機能する。
【0018】
発電機9は、内燃機関10に発生した回転エネルギーを電気エネルギーに変換し、例えばバッテリ8を充電する。また、発電機9は、内燃機関10を駆動する電動機としての機能も有しており、内燃機関10のモータリングが可能となっている。発電機9は、内燃機関10のスタータモータとして機能させてもよい。なお、発電機9で発電した電力は、運転状態に応じて、例えばバッテリ8に充電するのではなく駆動用モータ5に直接供給するようにしてもよい。
【0019】
図2は、内燃機関10のシステム構成を模式的に示した説明図である。
【0020】
内燃機関10は、ピストン20の往復直線運動をクランクシャフト21の回転運動に変換して動力として取り出すいわゆるレシプロ式の内燃機関である。内燃機関10は、吸気通路22と排気通路23とを有している。吸気通路22は、機関弁としての吸気弁24を介して燃焼室25に接続されている。排気通路23は、機関弁としての排気弁26を介して燃焼室25に接続されている。内燃機関10は、燃焼室25内に燃料(例えばガソリン)を直接噴射する燃料噴射弁27を有している。燃料噴射弁27から噴射された燃料は、燃焼室25内で点火プラグ28により点火される。なお、内燃機関10は、各気筒の吸気ポートに燃料を噴射するものであってもよい。
【0021】
吸気通路22には、後述するコントロールユニット51からの制御信号によって開度が制御される電動のスロットル弁31が設けられている。
【0022】
排気通路23には、例えば三元触媒等からなる排気浄化用の触媒32が設けられている。
【0023】
なお、図1中の符号33は、吸気通路22のコレクタ部である。吸気通路22は、内燃機関10が多気筒内燃機関であれば、コレクタ部33よりも下流側が吸気マニホールドとして気筒毎に分岐する。
【0024】
内燃機関10は、吸気弁24の動弁機構として、吸気弁24のバルブタイミング(バルブリフト特性)を切り替える油圧駆動方式の吸気可変動弁機構41を有している。
【0025】
吸気可変動弁機構41は、クランクシャフト21の基準回転角度位置に対する吸気カムシャフトの基準回転角度位置の変化量に相当する変位角を変化させることで、吸気弁24のリフト中心角の位相を遅進させるものである。換言すると、吸気可変動弁機構41は、吸気弁24を駆動する吸気カムシャフト(図示せず)のクランクシャフト21に対する回転位相を変化させることで、吸気弁24の中心角(吸気弁24が最大リフトを迎えるクランク角度位置)の位相を連続的に進角又は遅角させて、バルブタイミングとして吸気弁24の開閉時期を可変する公知の位相可変機構(VTC)である。
【0026】
内燃機関10は、排気弁26の動弁機構として、排気弁26のバルブタイミング(バルブリフト特性)を切り替える油圧駆動方式の排気可変動弁機構42を有している。
【0027】
排気可変動弁機構42は、クランクシャフト21の基準回転角度位置に対する排気カムシャフトの基準回転角度位置の変化量に相当する変位角を変化させることで、排気弁26のリフト中心角の位相を遅進させるものである。
【0028】
換言すると、排気可変動弁機構42は、排気弁26を駆動する排気カムシャフト(図示せず)のクランクシャフト21に対する回転位相を変化させることで、排気弁26の中心角(排気弁26が最大リフトを迎えるクランク角度位置)の位相を連続的に進角又は遅角させて、バルブタイミングとして排気弁26の開閉時期を可変する公知の位相可変機構(VTC)である。
【0029】
位相可変機構(VTC)は、例えば、特開2002-89303号公報等によって既に公知となっているものである。
【0030】
コントロールユニット51は、CPU、ROM、RAM及び入出力インターフェースを備えた周知のデジタルコンピュータである。
【0031】
コントロールユニット51には、吸気通路22の吸入空気量を検出するエアフローメータ52の検出信号、クランクシャフト21のクランク角を検出するクランク角センサ53、アクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ54、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧を検出する油圧センサ55、吸気カムシャフトの回転角を検出する吸気カム角センサ56、排気カムシャフトの回転角を検出する排気カム角センサ57等の各種センサ類の検出信号が入力されている。
【0032】
エアフローメータ52は、スロットル弁31の上流側に配置されている。クランク角センサ53は、内燃機関10のクランクシャフト21のクランク角を検出する。なお、クランク角センサ53によって検出された単位クランク角信号または基準クランク角信号は、単位時間当たりの内燃機関10の機関回転数に換算できる。つまり、クランク角センサ53は、内燃機関10の機関回転数を検出可能なものである。アクセル開度センサ54は、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度のほか、アクセルペダルの操作速度であるアクセル変化速度を検出可能なものである。油圧センサ55は、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧を検出可能なものである。吸気カム角センサ56は、吸気弁24を開閉駆動する吸気カムシャフトのカム角を検出可能なものである。排気カム角センサ57は、排気弁26を開閉駆動する排気カムシャフトのカム角を検出可能なものである。
【0033】
そして、コントロールユニット51は、各種センサ類の検出信号等に基づいて、燃料噴射弁27から噴射される燃料の噴射量や噴射時期、内燃機関10(点火プラグ28)の点火時期、吸入空気量、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42等を最適に制御する。
【0034】
また、コントロールユニット51は、内燃機関10によって駆動されるオイルポンプ61の吐出量を制御して吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42へ供給される作動油の油圧を制御可能となっている。
【0035】
オイルポンプ61は、例えば、吐出量を変更可能な可変容量型のポンプであり、内燃機関10のクランクシャフト21と同期回転するものである。
【0036】
図3は、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧制御マップを示している。
【0037】
吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧は、機関回転数が低いLow領域、機関回転数が中程度のMiddle領域、及び機関回転数が高いHigh領域の3つの領域に応じた圧力で制御される。
【0038】
内燃機関10は、発電機9の駆動源となり発電専用なので、基本的に機関回転数の低い運転点で運転される。内燃機関10の機関回転数が低い場合、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧は、図3におけるLow領域に対応した油圧で制御される。
【0039】
Low領域において供給される作動油の油圧は、Middle領域において供給される作動油の油圧に比べて低く設定される。High領域において供給される作動油の油圧は、Middle領域において供給される作動油の油圧に比べて高く設定される。
【0040】
ここで、車両1が内燃機関10の回転を車両1の駆動輪2に駆動力として伝達する内燃機関駆動車両の場合には、車両の運転性能を悪化させないために、吸気可変動弁機構41や排気可変動弁機構42によるバルブタイミングの変更の応答性を担保する必要がある。
【0041】
一方、内燃機関10は、発電機9を駆動するための発電用である。そのため、内燃機関10は、例えば、上述したLow領域であれば冷機始動時用の運転点または燃費重視用の運転点のいずれかで運転され、基本的に所定の運転点で定点運転を行うことになる。そのため、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42は、例えば上述したLow領域においてバルブタイミングを常に応答性良く変更できるように準備しておく必要性がない。従って、例えば上述したLow領域において、定点運転中に吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42供給される作動油の油圧は、定点運転中のバルブタイミングを維持できる程度の油圧であれば良く、バルブタイミングを変更する際の応答性を満足するような高い油圧に常時保持しておく必要性はない。
【0042】
また、内燃機関10は、吸気弁24や排気弁26のバルブタイミングの変更時の応答性が車両の運転性能へ及ぼす影響が上記内燃機関駆動車両に搭載された内燃機関に比べて相対的に低いものとなる。つまり、内燃機関10は、吸気弁24や排気弁26のバルブタイミングを変更する際の応答性能の要求レベルは高くない。そのため、内燃機関10は、吸気弁24や排気弁26のバルブタイミングの変更に備えて吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧を常に応答性を満足する油圧に維持しておく必要がない。
【0043】
なお、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42において、バルブタイミングの保持に必要な作動油の油圧は、バルブタイミングを変更する際の応答性を担保する油圧よりも低いものとなる。
【0044】
そこで、内燃機関10は、例えば上述したLow領域において、図4に示すように、吸気弁24や排気弁26のバルブタイミングを保持する通常時の作動油の油圧を所定の第1圧力P1(例えば160kPa)に制御し、吸気弁24や排気弁26のバルブタイミングを変更する過渡時の作動油の油圧を所定の第2圧力P2(例えば195kPa)に制御する。
【0045】
図4は、上述したLow領域において、バルブタイミングを変更する際に吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧と、バルブタイミングを保持する際に可変動弁機構に供給される作動油の油圧との大小関係を模式的に示した説明図である。
【0046】
内燃機関10は、上述したLow領域における上記過渡時に、作動油の油圧が第1圧力P1よりも高く、かつ第2圧力P2よりも低い所定の第3圧力P3(例えば170kPa)まで上昇すると、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42のバルブタイミングの変更を許可する。
【0047】
つまり、油圧制御部としてのコントロールユニット51は、上述したLow領域における通常時に吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧を第1圧力P1に制御し、上述したLow領域における過渡時に吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧を第2圧力P2に制御する。また、可変動弁制御部としてのコントロールユニット51は、上述したLow領域における過渡時に吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧が第3圧力P3まで上昇すると吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42による吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミング(開閉時期)の変更を許可する。
【0048】
第1圧力P1は、上述したLow領域において吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングを保持するには十分な油圧であるが、上述したLow領域において吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングの変更を開始する際の油圧としては不十分であり、吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングが変更を開始できない虞がある値である。
【0049】
第3圧力P3は、上述したLow領域において吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングが動き始める大きさの油圧であり、上述したLow領域において吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42が保持していたバルブタイミングを動かし始めることが可能となる油圧である。つまり、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42は、上述したLow領域における通常時の油圧から上述したLow領域における過渡時の油圧に向けて作動油の油圧が上昇して第3圧力P3に達すると、バルブタイミングの変更が許可されてバルブタイミングが動き始める。但し、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42は、作動油の油圧が第3圧力P3では、上述したLow領域において応答性良くバルブタイミングを変更することはできない。
【0050】
なお、第1圧力P1は、上述したLow領域において吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42のバルブタイミングを保持する際に必要な最低限の油圧である所定の第4圧力P4(例えば120kPa)よりも高くなるよう設定される。第2圧力P2は、上述したLow領域において吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42のバルブタイミングを応答性よく変更する際に必要な所定の第5圧力P5(例えば190kPa)よりも高くなるよう設定される。つまり、第5圧力P5は、バルブタイミングの変更の応答性を担保するような圧力である。また、第1~第5圧力の実際の値は、実機に応じて変動するものである。
【0051】
図5は、上述したLow領域において吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42のバルブタイミングを変更する際の状況の一例を示したタイミングチャートである。
【0052】
時刻t0は、内燃機関10の吸入空気量のトルクの目標値が変化したタイミングである。具体的には、時刻t0は、冷機始動した内燃機関10の目標とする運転点が冷機始動用の運転点から暖気終了により低回転低燃費の運転点に切り替わったタイミングである。
【0053】
時刻t0において、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の変位角の目標値が破線で示すように変化する。
【0054】
時刻t1は、時刻t0から所定時間経過したタイミングであって、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の作動油の油圧の目標値が通常時の目標値である第1圧力P1から過渡時の目標値である第2圧力P2に切り替わるタイミングである。つまり、時刻t1は、吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングの切り替え要求がコントロールユニット51で成立したタイミングである。内燃機関10の機関回転数は、時刻t1のタイミングから低回転低燃費運転点の回転数に向かって増加し始める。第1回転数R1(例えば1500rpm)は、冷機始動用の運転点における機関回転数であり、第2回転数R2(例えば2000rpm)は、低回転低燃費用の運転点における機関回転数である。吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧は、時刻t1のタイミングから目標値である第2圧力P2へ向かって増加し始める。
【0055】
時刻t2は、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧(実油圧)が上昇して第3圧力P3に到達したタイミングである。吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42による吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミング(開閉時期)の変更は、時刻t2のタイミングで許可される。つまり、時刻t2は、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の駆動が許可されるタイミングである。吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングは、時刻t2のタイミングから変化し始める。吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の変位角は、時刻t2のタイミングから変位角の目標値に向けて増加し始める。
【0056】
時刻t3は、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧(実油圧)が第2圧力P2に到達したタイミングである。
【0057】
時刻t4は、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の変位角が目標値に到達したタイミングである。
【0058】
時刻t5は、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の変位角が目標値に到達してから予め設定された所定時間経過したタイミングである。つまり、時刻t5は、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42のバルブタイミングが低回転低燃費の運転点用となってからある程度安定したタイミングである。
【0059】
吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の作動油の油圧の目標値は、時刻t5において過渡時の目標値である第2圧力P2から通常時の目標値である第1圧力P1に切り替わる。
【0060】
時刻t6は、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧(実油圧)が低下して第3圧力P3に到達したタイミングである。吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42による吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミング(開閉時期)の変更は、時刻t6のタイミングで不許可とされる。
【0061】
上述した実施例の内燃機関10は、上述したLow領域で吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングを変更する過渡時において、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧(実油圧)が第1圧力P1から第3油圧に上昇するのを待って吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の駆動が許可される。
【0062】
そのため、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42は、駆動が許可されたタイミングの直後から変位角が変化し始めることになる。つまり、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42は、上述したLow領域において、駆動が許可されると直ちに変位角が目標値に向かって変化し始めるため、油圧の応答遅れにより変位角が変化しないといった事態を回避できる。
【0063】
すなわち、内燃機関10は、吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングの変更時に吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の作動油の油圧をある程度上昇した状態にできるので、吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングの切り替えを開始すると、吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングが目標に向かって直ちに(遅滞なく)切り替わり始め、油圧の応答遅れにより吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングが変化しないといった事態を回避できる。
【0064】
そのため、内燃機関10は、上述したLow領域で吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングが切り替わる過渡時において、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42が油圧の応答遅れにより動き出さないことを故障と誤診断することを抑制でき、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の故障診断の精度を向上させることができる。
【0065】
内燃機関10は、上述したLow領域において、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧が第2油圧よりも低い第3油圧になると吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングの変更を許可している。
【0066】
内燃機関10は、上述したLow領域において、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧が第2圧力P2に到達していなくても最低限動作可能な油圧である第3圧力P3に到達したら吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングの変更を許可することで、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の応答性を確保することができる。
【0067】
また、内燃機関10は、駆動用モータ5に供給される電力を発電する発電機9を駆動する発電専用である。そのため、内燃機関10は、上述したように、吸気弁24や排気弁26のバルブタイミングの変更に備えて、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧を常に応答性を満足する油圧に維持しておく必要がない。
【0068】
そのため、内燃機関10は、上述したLow領域において、吸気弁24及び排気弁26のバルブタイミングを保持する通常時の作動油の油圧である第1圧力P1を低くすることで、通常時のポンプ損失を低減することが可能となり、総じて燃費を向上させることができる。また、内燃機関10は、運転点が限定されるので、制御構成を簡略化することができる。
【0069】
また、内燃機関10は、油圧センサ55で検出された作動油の油圧と、作動油の油圧が検出された際の応答速度を学習することで、第3圧力P3を補正するようにしてもよい。
【0070】
吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の応答性能は、図6に示すように、供給される作動油の油圧が高くなるほど高くなる。図6は、可変動弁機構の応答速度と可変動弁機構に供給される作動油の油圧の相関関係を示す説明図である。
【0071】
吸気可変動弁機構41の第3圧力P3は、作動油の油圧と、吸気弁24のバルブタイミング(開閉時期)を可変する際に可動する吸気可変動弁機構41の可動部分の可動量と、を学習することによって補正する。ここで、吸気可変動弁機構41の可動部分の可動量とは、吸気カムシャフトの変位角(VTC変位角)であり、吸気カムシャフト(図示せず)のクランクシャフト21に対する回転位相の変化量である。
【0072】
排気可変動弁機構42の第3圧力P3は、作動油の油圧と、排気弁26のバルブタイミング(開閉時期)を可変する際に可動する排気可変動弁機構42の可動部分の可動量と、を学習することによって補正する。ここで、排気可変動弁機構42の可動部分の可動量とは、排気カムシャフトの変位角(VTC変位角)であり、排気カムシャフト(図示せず)のクランクシャフト21に対する回転位相の変化量である。
【0073】
内燃機関10は、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42の応答速度の実値であるそれぞれの可動部分の可動量と、そのときの油圧値である作動油の油圧と、をモニター(検出)し、応答性能に対する必要な油圧を学習する。
【0074】
これによって、内燃機関10は、個体差によるばらつきを吸収(補正)でき、より一層のフリクション低減が可能となる。
【0075】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0076】
例えば、本発明は、吸気可変動弁機構41と排気可変動弁機構42のいずれか一方のみも具備する内燃機関に対しても適用可能である。
【0077】
例えば、内燃機関10は、図3のMiddle領域、High領域においても、図3のLow領域と同様に、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42に供給される作動油の油圧を制御してもよい。
【0078】
すなわち、内燃機関10は、図3のMiddle領域、High領域において、吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42のバルブタイミングを変更する際の作動油の油圧(第2油圧)を吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42のバルブタイミングを保持する際の作動油の油圧(第1油圧)よりも高くなるよう制御し、作動油の油圧が吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42のバルブタイミングを保持する際の作動油の油圧(第1油圧)まで上昇すると吸気可変動弁機構41及び排気可変動弁機構42による吸排気弁の変更を許可するようにしてもよい。
【0079】
なお、このとき、上述した図3のMiddle領域で設定される作動油の各種目標圧(第1~第5圧力)は、上述した図3のLow領域の対応する各種目標圧(設定圧)に比べて高く設定されることになる。また、このとき、上述した図3のHigh領域で設定される作動油の各種目標圧(第1~第5圧力)は、上述した図3のLow領域及びMiddle領域の対応する各種目標圧(設定圧)に比べて高く設定されることになる。つまり、第1~第5圧力の実際の値は、図3のLow領域、Middle領域、High領域毎に適宜設定してもよい。
【0080】
上述した実施例は、内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置に関するものである。
【符号の説明】
【0081】
1…車両
10…内燃機関
24…吸気弁
26…排気弁
41…吸気可変動弁機構
42…排気可変動弁機構
51…コントロールユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6