(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068693
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】風力発電設備のブレードのリーディングエッジの補修方法
(51)【国際特許分類】
B05D 7/00 20060101AFI20240514BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240514BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20240514BHJP
F03D 80/50 20160101ALI20240514BHJP
【FI】
B05D7/00 L
B05D7/24 302S
B05D7/24 302T
B05D1/02 Z
F03D80/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179224
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】520352193
【氏名又は名称】ライトウエイ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391016554
【氏名又は名称】株式会社キグチテクニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 正和
(72)【発明者】
【氏名】辻 勝功
(72)【発明者】
【氏名】宮本 伸樹
【テーマコード(参考)】
3H178
4D075
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB35
3H178BB79
3H178CC02
3H178DD70X
4D075AA01
4D075AE03
4D075BB04X
4D075BB62X
4D075BB92Y
4D075CA48
4D075DA23
4D075DA27
4D075DC05
4D075EA41
4D075EA43
4D075EB07
4D075EB14
4D075EB15
4D075EB16
4D075EB19
4D075EB22
4D075EB32
4D075EB33
4D075EB35
4D075EB36
4D075EB38
(57)【要約】
【課題】低気温環境下でも施工可能で、単位時間当たりの補修面積が従来よりも広く、ブレードリーディングエッジのエロージョンなどの損傷が抑制可能な風力発電設備のブレードのリーディングエッジの補修方法を提供する。
【解決手段】風力発電設備のブレードのリーディングエッジの補修方法は、前記リーディングエッジの損傷部分にポリウレタン樹脂原料またはポリウレア樹脂原料をスプレー塗布して樹脂層を形成する第1工程を有することを特徴とする。前記樹脂層の厚みは0.3mm以上1.2mm以下の範囲であるのが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電設備のブレードのリーディングエッジの補修方法であって、
前記リーディングエッジの損傷部分にポリウレタン樹脂原料またはポリウレア樹脂原料をスプレー塗布して樹脂層を形成する第1工程を有することを特徴とする風力発電設備のブレードリーディングエッジの補修方法。
【請求項2】
前記樹脂層の厚みが0.3mm以上1.2mm以下の範囲である請求項1記載のブレードリーディングエッジの補修方法。
【請求項3】
第1工程の前に前記リーディングエッジの損傷部分をサンディングする第2工程をさらに有する請求項1又は2記載のブレードリーディングエッジの補修方法。
【請求項4】
第2工程と第1工程との間に、前記サンディングされた部分の表面にプライマー層を形成する第3工程をさらに有する請求項3記載のブレードリーディングエッジの補修方法。
【請求項5】
第3工程と第1工程との間に、前記リーディングエッジの損傷部分をポリウレタン樹脂またはポリウレア樹脂で平滑化する第4工程をさらに有する請求項4記載のブレードリーディングエッジの補修方法。
【請求項6】
前記樹脂層の外側にトップコート層を形成する第5工程をさらに有する請求項1又は2記載のブレードリーディングエッジの補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電設備のブレードのリーディングエッジの補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
国際的な紛争は後を絶たず、紛争による化石由来のエネルギー供給環境は不安定さが益々増大し、化石由来の燃料からの脱却、また、自給率の向上が必須となっており、風力発電の重要性が更に高まると共に風力発電設備の単体出力は年々大出力化が進み7MWクラスも出現している。
【0003】
このような大出力の風力発電設備ではブレードの長さは80mを超え、幅も5mを超える。ブレードの回転は一見ゆっくりと回転しているように見えるが、半径方向先端の回転速度は新幹線並みの250km/時間以上となる。このためブレードの回転方向前側縁すなわちリーデイングエッジ(以下、「LE」と記すことがある。)では、雨滴、砂、枝葉、鳥などの様々な飛翔物の衝突による浸食(エロージョン)などの損傷が発生する。LEの損傷を放置すると,発電効率の低下を招くだけでなく,ブレードの致命的な損壊につながるおそれもある。設置環境によるが、LEでのエロージョンは短期間で発現する。このためブレードの点検周期は1年とされており、早期の補修が必要とされている。
【0004】
これまで、ブレードのLEの補修は、エポキシ樹脂などの硬化樹脂の塗布あるいは耐久性を有するプロテックションテープの貼着などによって行っていた(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-73998号公報
【特許文献2】特開2021-179188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エポキシ樹脂などの硬化樹脂の塗布による補修では、気温5℃以下では樹脂が硬化しないという問題がある。また樹脂の硬化時間が、気温15℃~20℃で4時間~6時間と長時間であるという問題もある。更に、塗布の厚みを均一化するために、粗刷毛塗り及び仕上刷毛塗りで、縦と横に4回~5回引き伸ばし塗布する必要があるという問題もある。このため硬化樹脂の塗布による単位時間当たりの補修面積は、一般に、0.38m2/h(0.0063m2/min)程度であった。
【0007】
またプロテックションテープの貼着による補修では、補修期間の短縮化が可能になるとは考えられるが、ブレードが回転したときに、テープの厚み段差に起因して乱流が発生し、雨や砂、雹などの微小な飛翔物がテープの厚み段差の境界部に進入しテープの剥離が起こるおそれがある。このようなテープの剥離を抑制するにはテープの厚みを数百μm程度に抑えることも考えられるが、テープを薄くすると飛翔物の衝撃吸収性が低下してLEが損傷し易くなるおそれがある。
【0008】
そこで本発明の目的は、低気温環境下でも施工可能で、単位時間当たりの補修面積が従来よりも広く、ブレードのLEのエロージョンなどの損傷が抑制可能な補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成する本発明の実施形態に係る風力発電設備のブレードのLEの補修方法は、前記リーディングエッジの損傷部分にポリウレタン樹脂原料またはポリウレア樹脂原料をスプレー塗布して樹脂層を形成する第1工程を有することを特徴とする。
【0010】
前記構成のLEの補修方法において、前記樹脂層の厚みは0.3mm以上1.2mm以下の範囲であるのが好ましい。
【0011】
また前記構成のLEの補修方法において、第1工程の前に前記リーディングエッジの損傷部分をサンディングする第2工程をさらに有する構成としてもよい。
【0012】
また前記構成のLEの補修方法において、第2工程と第1工程との間に、前記サンディングされた部分の表面にプライマー層を形成する第3工程をさらに有する構成としてもよい。
【0013】
また前記構成のLEの補修方法において、第3工程と第1工程との間に、前記リーディングエッジの損傷部分をポリウレタン樹脂またはポリウレア樹脂で平滑化する第4工程をさらに有する構成としてもよい。
【0014】
また前記構成のLEの補修方法において、前記樹脂層の外側にトップコート層を形成する第5工程をさらに有する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るブレードのLEの補修方法によれば、低気温環境下でも施工可能となり、また単位時間当たりの補修面積が従来よりも広くすることが可能となる。また、LEのエロージョンなどの損傷抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る補修方法のフローチャートである。
【
図2】風力発電設備のブレードの一例を示す正面図である。
【
図3】エロージョンが発生したブレードのLEの部分拡大した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るブレードのLEの補修方法について説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0018】
図2に風力発電設備のブレード1の正面図を示す。ブレード1の回転方向前側縁であるLE11では、雨滴、砂、枝葉、鳥などの様々な飛翔物の衝突によってエロージョンなどの損傷が発生しやすい。特にブレード1の半径方向先端部は回転速度が高速になるためエロージョンがより発生しやすい。
【0019】
図3に、実際にエロージョンが発生したLE11の部分拡大した写真を示す。
図3(a)はLE11の損傷が比較的軽度の場合であり、
図3(b)はLE11の損傷が比較的重度の場合である。
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る補修方法について説明する。
図1に、補修方法のフローチャートを示す。
【0021】
(サンディング(第2工程))
まず、LEの損傷部分をサンディングする。具体的には、LEの表層の汚れや傷の凹凸をサンドペーパーで滑らかにする。サンドペーパーは#150から#400の中研ぎを好適に用いる。
【0022】
(プライマー層の形成(第3工程))
サンディングされたLEの補修部分の全体にプライマー剤を塗布しプライマー層を形成する。プライマー剤としては、樹脂成分を溶剤に分散させたものを用いることができる。樹脂成分としては、例えば、アクリル-ウレタン系樹脂、アクリル-スチレン共重合樹脂、ウレタン-セルロース系樹脂等が挙げられる。プライマー層の乾燥後の厚みは特に限定されないが、通常、0.1mm~0.3mmが好ましく、より好ましくは0.15mm~0.20mmの範囲である。
【0023】
(平滑化(第4工程))
LEの表層が削られて損傷部分が深い場合(例えば
図3(b))など、必要により、後工程の樹脂層の形成で用いる樹脂と同じポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂で損傷部分を平滑に埋める。具体的には、ポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂を鏝板の上に吹付素早くパテベラですくい取り損傷部分を平滑に埋めていく。ポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂は約20秒で指触硬化するので、前記時間内に損傷部分を埋めていく。ポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂で損傷部分を埋め終わるまでこの作業を繰り返し行う。
【0024】
従来行われていた損傷部分のパテ埋めでは、通常、エポキシパテやポリエステルパテが用いられたが、これらのパテ材の密着性を確保するにはパテ材が硬化するまで6時間以上待つ必要があった。これに対して、本発明では、ポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂をパテ材として用いるので従来のようなパテ材の硬化待ちは不要となる。また、後工程の樹脂層の形成で用いる樹脂と同じポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂を用いるので樹脂層との強固な密着性が得られる。
【0025】
(樹脂層の形成(第1工程))
プライマー層またはパテ材の表面にポリウレタン樹脂原料またはポリウレア樹脂原料をスプレー塗布して樹脂層を形成する。ポリウレタン樹脂およびポリウレア樹脂は、優れた耐摩耗性を有し、衝撃にも強いので、ブレードの損傷を効果的に抑えることができる。またポリウレタン樹脂およびポリウレア樹脂はスプレー塗布が可能である。具体的には、イソシアネートとポリオールとの2液またはイソシアネートとアミンとの2液をスプレーガンで衝突混合させてLEの損傷部分に塗布する。スプレー塗布が可能であるであることで作業労力の軽減および作業時間の短縮化が図れる。
【0026】
後述の実験結果によれば、従来のエポキシ樹脂の刷毛塗りによる補修の場合には、樹脂塗布に40分、樹脂硬化に240分(気温15℃)を要したのに対して、ポリウレア樹脂のスプレー塗布の場合には、硬化時間の20秒を含めて4分を要したにすぎなかった。これを単位時間当たりの補修面積に換算すると従来の刷毛塗りによる補修の場合は0.006m2/minであるのに対して、スプレー塗布による補修の場合は0.44m2/minとなり、硬化時間まで含めると従来の刷毛塗りよりも約70倍補修効率が向上する。
【0027】
また本出願人が行った実験によれば、気温-5℃の環境下であっても、吹き付けられたポリウレア樹脂層は15秒~20秒程度で硬化した。
【0028】
イソシアネートとアミンとの2液を用いてスプレー塗布する場合には、例えば
図4に示すスプレー塗布装置SPを用いるのが好ましい。
図4に示すスプレー塗布装置SPでは、ドラム缶61とドラム缶62からイソシアネートとアミンとがそれぞれ装置本体60に供給され、装置本体60において所定圧力に調整されたイソシアネートとアミンは加熱ホース63を介してスプレーガンGに供給される。そして、スプレーガンGにおいてイソシアネートとアミンとが混合されてLEの損傷部分に噴霧されポリウレア樹脂層が形成される。例えば、噴霧する際のスプレー塗布装置SPの装置本体60からの吐出圧力は14MPa~24MPa程度で、液圧温度は60℃~85℃程度である。このようなスプレー塗布装置SPとしては、例えば、GRACO社製「H-XP3リアクター」が好適に使用される。加熱ホース63の長さは130m程度まで延長できるので、ブレードをハブから取り外して地上で作業する場合のみならず、ブレードをハブに取り付けたままでロープワークやゴンドラ作業の場合でもスプレー塗布装置SPは用いることができる。なお、原料液としてイソシアネートとポリオールとの2液を用いれば同様の作業でポリウレタン樹脂層が形成される。
【0029】
LEの損傷程度が軽い場合や損傷面積が小さい場合には、例えば
図5に示すハンドガンスプレー塗布装置(以下、「ハンドガン」と記すことがある。)HGを用いて樹脂層を形成してもよい。ハンドガンHGには主剤と硬化剤の2つのカートリッジ71,72が取り付けられる。ハンドガンHGに圧力0.5MPa~0.7MPaの高圧エアーが供給されると、2つのカートリッジ71,72内の主剤と硬化剤とがミキシングチューブ73内で衝突混合しスプレーノズル74からLEの損傷部分に噴霧され樹脂層が形成される。主剤と硬化剤のカートリッジ71,72の充填容量は、通常、600mL程度であり、補修膜厚が1mmの場合1.2m
2の施工ができる。
【0030】
樹脂層の厚みは、本発明の効果を奏する限りにおいて特に限定はないが、通常、0.3mm以上1.2mm以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.5mm~0.7mmの範囲である。樹脂層の厚みが薄すぎるとエロージョンなどの損傷の抑制が図れないおそれがある一方、樹脂層が厚すぎると原料費用が高くなって経済的でない。
【0031】
樹脂層の厚みの制御は、例えば、原料液の加熱温度、スプレーガンSPまたはハンドガンHGへの供給圧力、スプレーガンSPまたはハンドガンHGと被塗布面との距離、スプレーガンSPまたはハンドガンHGの移動速度などによって制御することができる。
【0032】
(トップコート層の形成(第5工程))
樹脂層の外側にトップコート層(表面保護層)を形成する。トップコート層はトップコート組成物を塗布し、必要により、乾燥および加熱させることにより形成される。トップコート層によって、例えば樹脂層の耐候性、耐光性、耐水性、耐汚染性などの向上が図られる。トップコート組成物の種類は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルブチラール樹脂、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂塗料であってもよく、ボイル油や乾性油、油ワニスなどを主成分とした油性塗料や、ニトロセルロース(硝化綿)を主成分としたセルロース塗料等を用いることができる。これらのトップコート組成物は、例えば、強溶剤形、弱溶剤形、及び水系形等であってもよい。
【0033】
トップコート組成物には添加物として、紫外線吸収材、光安定材、遮光材、造膜助剤、耐汚染親水性付与材などが添加されていてもよい。また、補修部分の色調を揃えるために顔料がトップコート組成物に混合されていてもよい。
【0034】
トップコート層の厚みは特に限定されないが、通常、0.15mm~0.2mmの範囲が好ましい。
【0035】
(その他)
以上説明したブレードのLEの補修方法では、樹脂層の形成工程の前に、損傷部分のサンディング、プライマー層の形成、パテ材による平滑化などの前処理工程、また樹脂層の形成工程の後に、トップコート層の形成といって後処理工程を設けていたが、LEの損傷状態や風力発電設備の設置環境などによってはこれらの前処理工程や後処理工程は必ずしも必要ではなく、これらの工程の1つまたは2つ以上を省略しても構わない。また、逆に
図1に示した補修工程に加えて、必要により他の施工工程を付け加えても勿論構わない。
【実施例0036】
風力発電設備の実使用ブレードに試験補修を行って、本発明の補修方法と従来の補修方法との施工時間を差を計測した。
プレードのLEにおける補修面積は1.75m2(軸方向長さ7m、幅0.25m)とし、樹脂層の層厚は0.6mmとした。
【0037】
(実施例)
ブレードのLEの補修を下記手順で行った。
「損傷部分のサンディング」-「プライマー層の形成」-「平滑化」-「ポリウレア樹脂層」-「トップコート層の形成」
【0038】
「損傷部分のサンディング」は比較例の従来の補修方法と共通するので、「プライマー層の形成」から「トップコート層の形成」までの施工時間を計測したところ約17分であった。
【0039】
(比較例)
ブレードのLEの補修を下記手順で行った。
「損傷部分のサンディング」-「パテ埋め」-「サンディング」-「エポキシ樹脂の混合」-「塗膜の刷毛塗り」-「仕上刷毛塗り」-「硬化確認」
【0040】
「損傷部分のサンディング」は実施例の補修方法と共通するので、「パテ埋め」から「硬化確認」までの施工時間を計測したところ約280分であった。
本発明に係るブレードのLEの補修方法によれば、低気温環境下でも施工可能となり、また単位時間当たりの補修面積が従来よりも広くすることが可能となる。また、LEのエロージョンなどの損傷抑制が可能となる。