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特開2024-6870亜鉛2次電池の正極活物質、亜鉛2次電池、および、亜鉛2次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006870
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】亜鉛2次電池の正極活物質、亜鉛2次電池、および、亜鉛2次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240110BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240110BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240110BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20240110BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240110BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/42
H01M4/48
H01M10/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166070
(22)【出願日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2022104370
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「電気自動車用革新型蓄電池開発/フッ化物電池の研究開発、亜鉛負極電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】門間 聰之
(72)【発明者】
【氏名】三栗谷 仁
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 剛太
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL11
5H029CJ16
5H050AA07
5H050BA08
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB11
5H050GA18
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】 安定した充放電が可能な亜鉛2次電池の正極活物質22を提供する。
【解決手段】 正極活物質22は、層状構造、スピネル構造、および、オリビン構造の少なくともいずれの構造を有するリチウム金属酸化物を含み、前記リチウム金属酸化物のリチウムの一部が亜鉛で置換されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造、スピネル構造、および、オリビン構造の少なくともいずれの構造を有するリチウム金属酸化物を含み、前記リチウム金属酸化物のリチウムの一部が亜鉛で置換されていることを特徴とする亜鉛2次電池の正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム金属酸化物は、ニッケル、マンガン、および、コバルトを含み、層状岩塩型構造を有することを特徴とする請求項1に記載の亜鉛2次電池の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム金属酸化物のリチウムの含有率(モル%)が亜鉛の含有率(モル%)よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の亜鉛2次電池の正極活物質。
【請求項4】
層状構造、スピネル構造、および、オリビン構造の少なくともいずれの構造を有するリチウム金属酸化物を含み、前記リチウム金属酸化物のリチウムの一部が亜鉛で置換されている正極活物質を含む正極と、
亜鉛を含む負極と、
水系電解質と、を具備することを特徴とする亜鉛2次電池。
【請求項5】
層状構造、スピネル構造、および、オリビン構造の少なくともいずれの構造を有するリチウム金属酸化物を含む正極活物質を有する仮正極と、仮負極と、電解質と、を有する仮電池セルを作製する工程と、
前記仮電池セルの充電を行い、前記リチウム金属酸化物のリチウムの一部を脱離する工程と、
前記仮電池セルを分解する工程と、
前記リチウム金属酸化物のリチウムの一部が脱離した正極活物質を含む正極と、亜鉛を含む負極と、水系電解質とを、有する亜鉛電池を作製する工程と、を具備することを特徴とする亜鉛2次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、亜鉛2次電池の正極活物質、亜鉛2次電池、および、亜鉛2次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末の普及、環境問題に対応した電気自動車の開発加速に伴い、高容量の二次電池が要望されている。
【0003】
日本国特開2013-197091号公報には、高容量の二次電池であるリチウムイオン電池が開示されている。
【0004】
リチウムイオン電池は、可燃性の有機溶剤を溶媒とする非水系である。このため、リチウムイオン電池は、発火などに対する安全対策が厳しく求められる。また、リチウムは高価であり、かつ、産出地が限られているため、地政学的リスクが指摘されている。
【0005】
これに対して、亜鉛二次電池は、水を溶媒とする水系電池であることから、高い安全性を有する、また、亜鉛は安価であり、入手も容易である。さらに、亜鉛二次電池は、鉛、カドミウム等を使用しないことから、環境負荷が小さいという利点を有する。
【0006】
リチウムイオン電池においては、正極活物質は、内部抵抗の低減による高出力化の重要要因であるため、広く研究が進んでいる。これに対して、亜鉛電池においては、負極のデンドライド抑制が研究の中心であり、正極については殆ど研究されていなかった。
【0007】
国際公開第2018/150898号には、ニッケルおよび遷移金属を構成元素として含有する層状腹水酸化物(LDH)を用いた亜鉛電池が開示されている。この亜鉛電池は、亜鉛電池のセパレータとして知られているLDHを、正極に用いることによって、容量が増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-197091号公報
【特許文献2】国際公開第2018/150898号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態は、安定した充放電が可能な亜鉛2次電池の正極活物質、安定した充放電が可能な亜鉛2次電池、および、安定した充放電が可能な亜鉛2次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態の亜鉛2次電池の正極活物質は、層状構造、スピネル構造、および、オリビン構造の少なくともいずれの構造を有するリチウム金属酸化物を含み、前記リチウム金属酸化物のリチウムの一部が亜鉛で置換されている。
【0011】
本発明の実施形態の亜鉛2次電池は、層状構造、スピネル構造、および、オリビン構造の少なくともいずれの構造を有するリチウム金属酸化物を含み、前記リチウム金属酸化物のリチウムの一部が亜鉛で置換されている正極活物質を含む正極と、亜鉛を含む負極と、水系電解質と、を具備する。
【0012】
本発明の実施形態の亜鉛2次電池の製造方法は、層状構造、スピネル構造、および、オリビン構造の少なくともいずれの構造を有するリチウム金属酸化物を含む正極活物質を有する仮正極と、仮負極と、電解質と、を有する仮電池セルを作製する工程と、前記仮電池セルの充電を行い、前記リチウム金属酸化物のリチウムの一部を脱離する工程と、前記仮電池セルを分解する工程と、前記リチウム金属酸化物のリチウムの一部が脱離した正極活物質を含む正極と、亜鉛を含む負極と、水系電解質とを、有する亜鉛電池を作製する工程と、を具備する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、安定した充放電が可能な亜鉛2次電池の正極活物質、安定した充放電が可能な亜鉛2次電池、および、安定した充放電が可能な亜鉛2次電池の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の二次電池の構成模式図である。
図2】正極活物質の充放電によるリチウム金属酸化物の構造変化を示す図である。
図3】本実施形態の二次電池の製造方法のフローチャートである。
図4】本実施形態の二次電池の充放電サイクル特性を示す図である。
図5】本実施形態の二次電池の充放電サイクル特性を示す図である。
図6】本実施形態の二次電池の正極の充放電サイクル特性を示す図である。
図7】本実施形態の変形例の二次電池の充放電サイクル特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
【0016】
実施形態に基づく図面は、模式的なものである。図面の各部分の厚みと幅との関係、夫々の部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる。図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。一部の構成要素の図示、符号の付与を省略する。
【0017】
<電池の構成>
図1に示すように、本実施形態の亜鉛二次電池10(以下、「電池10」ともいう。)は、正極20と、セパレータ30と、負極40と、を主要構成要素として具備する。電池10は、コインセルケース51/ガスケット52/負極40/電解質を含むセパレータ30/正極20/スペーサ53/スプリングワッシャー54/上蓋55が、順に配置されている。
【0018】
正極20は、多孔金属板である集電体21と、集電体21の内部空孔に配設されている正極活物質22と、を有する。
【0019】
後述するように、正極活物質22は、ニッケル、マンガン、および、コバルトを含む3元系リチウム金属酸化物であり、リチウム金属酸化物のリチウムの一部が亜鉛で置換されている。
【0020】
電池10のリチウム金属酸化物は、非水系リチウム電池で広く使用されている、いわゆる、111NMCである。111NMCは、3元系リチウム遷移金属複合酸化物、Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)Oである。図2に示すように、111NMCは、層状岩塩型構造を有する。リチウムイオンは、充放電によって、結晶格子内にインターカレーション/デインターカレーションする。なお、全てのリチウムが、移動するわけでなない。
【0021】
後述するように、正極活物質22は、リチウム金属酸化物を含む仮正極と、仮負極と、電解質と、を有する仮電池セルの充電を行い、リチウム金属酸化物のリチウムの一部を脱離することによって作製される。
【0022】
実施形態の電池10では、正極活物質22のリチウムの脱離した結晶格子内には、亜鉛イオンが配置され、充放電によって亜鉛はインターカレーション/デインターカレーションする。すなわち、正極活物質22は、図2において、リチウムの一部を亜鉛で置換した構造を有する。
【0023】
なお、結晶格子内の亜鉛イオンは、亜鉛単体イオン、または、OH基により修飾された亜鉛イオンである。すなわち、正極20において、亜鉛は、イオンとして安定に存在している。
【0024】
電池10は、水系電解質を有する亜鉛電池であるが、充放電には、正極活物質22における亜鉛のインターカレーション/デインターカレーションを用いているため、安定した充放電を実現できる。
【0025】
<電池の製造方法>
以下、図3のフローチャートにそって、電池の製造方法を説明する。
【0026】
<ステップS10>Li脱離用正極(仮正極)作製工程
仮正極の正極活物質は、111NMC(日本化学工業社製、製品名:セルシードNMC111である。111NMCと、導電剤であるアセチレンブラック(AB)と、結着剤であるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)とに、適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて混錬して活物質スラリーを作製した。活物質スラリーの重量比は、(111NMC/AB/PVDF=87/8/5)である。
【0027】
集電体21は、発泡ニッケル板であるセルメット(登録商標)を芯材とし、150μmのニッケル板を溶着した。このセルメットは、気孔率98%、比表面積8500m/m、孔径0.45mm、厚さ1.3mmである。
【0028】
集電体21の表面に活物質スラリーを滴下すると、活物質スラリーは多孔体である集電体21の内部の空間に吸い込まれていく。適量のスラリーを滴下後に、60℃にて24時間の乾燥処理を行い、Li脱離用正極(仮正極)を作製した。
【0029】
<ステップS20>Li脱離用電池セル(仮電池セル)作製工程
Li脱離用電池セル(仮電池セル)は、公知のリチウムイオン電池セルと略同じ構成である。仮負極は、厚さ8μmの銅板を芯材とし、60μmの金属リチウム板を有する。仮電解液は、1Mの六フッ化リン酸リチウム(LiPf6)を電解質とし、溶媒は、50体積%エチレンカーボネート(EC)と、50体積%のジエチルカーボネート(DEC)である。仮電解液は、非水系である。仮セパレータは、ポリエチレン(PE)をポリプロピレン(PP)で積層した20μmの微多孔膜である。
【0030】
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、仮正極に仮電解液を滴下してから、仮セパレータ、仮負極が配設された。
【0031】
<ステップS30>Li脱離処理(充電)工程
仮正極の正極活物質のリチウムを脱離するため、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、Li脱離用電池セルの充電処理を行った。充電条件は、充電速度が、0.1C、電池電圧が、4.2V、温度が、常温(20℃)である。
【0032】
なお、仮電池セル(Li脱離用電池セル)の仮電解液の電解質は、水系でもよい。例えば、仮電解液として、1MのKOH水溶液を用いることができる。水系仮電池セルの正極活物質のリチウムを脱離する充電処理は、例えば、充電速度、0.1Cにおいて、10時間~15時間行われる。
【0033】
<ステップS40>Li脱離用電池セル(仮電池セル)分解工程
Li脱離処理後のLi脱離用電池セルを分解し、仮正極を取り出した。通常の湿度(例えば、60%)の大気中で、仮正極を溶剤(50体積%EC、50体積%のDEC)にて洗浄し、乾燥した。その後、仮正極をプレス装置(圧力:90kN)によって圧縮した。1mm厚の厚さの仮正極は、0.4mm厚の正極20に圧縮された。圧縮条件は、厚さが75%以下となることが好ましく、50%以下が特に好ましい。
【0034】
<ステップS50>亜鉛電池作製工程
錫めっきした銅エキスパンドメタル(日建ラス工業社製)を、亜鉛電池10の負極40の集電体とした。エキスパンドメタルは、銅板に千鳥状に切れ目を入れ、押し広げることによって、開口を菱形に加工することで作製される。負極40の銅エキスパンドメタルは、厚さ200μmで空孔率は70%である。
【0035】
酸化亜鉛(ZnO)、金属亜鉛(Zn)、導電剤、バインダー、および適量の水を所定量秤量した後に混錬することによって負極ペーストを作製した。導電剤は、アセチレンブラック(AB)である。バインダーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体(AFLAS(登録商標)、旭硝子株式会社製)である。
【0036】
負極ペーストの重量比は、(ZnO/Zn/AB/Bi/SBR/PTFE/AFLAS)=(65/25/1/5/1/2/1)である。負極ペーストの水分量は、負極ペーストの全質量基準で32.5重量%に調整した。負極ペーストを負極集電体に塗布した後、40℃で30分真空乾燥した。その後、ロールプレスにて加圧成形し、負極40とした。
【0037】
電解液は、8M-KOH、0.5M-LiOH、1M-NaOH、飽和量ZnOの水溶液である。セパレータ30は、100μm厚のポリプロピレン(PP)不織布である。
【0038】
なお、正極および負極の集電板は同じでもよいし、亜鉛電池用として公知の各種の集電板を用いてもよい。また、実施形態の亜鉛電池の負極、水系電解液、および、セパレータ等も、亜鉛電池用として公知の各種の構成を用いてもよい。
【0039】
正極20の上のセパレータ30に負極40を配設し、さらに電解液を注入した後、2032型のコインセルケース51(SUS304製、厚さ3.2mm)に収容した。セパレータ30の上にスプリングワッシャー54を配置した。スプリングワッシャー54の上から上蓋55でコインセルケース51を封止し、図1に示す構造の亜鉛電池10を作製した。なお、コインセルケース51の側壁にはガスケット52が介装されている。
【0040】
<電池の特性>
上記方法で作製した実施形態の電池10の充放電サイクル特性を評価した。
【0041】
充放電サイクル評価の条件は、カットオフ電位が、-0.8V-0.3V(vs.Ag/AgCL)、充放電速度が、10mV/s、電流密度が200mA/cm、温度が常温(20℃)である。
【0042】
図4および図5に示すように、1サイクルにおける放電容量は、40mAH/g-NMCであった。これから、Li脱離処理(ステップS30)によって、24モル%のリチウムが亜鉛に置換されていることが判明した。
【0043】
さらに、5サイクルまで容量は増加した。これは、脱離されていなかった正極活物質22のリチウムの一部が充電反応において脱離し、亜鉛に置換されたためと考えられる。5サイクルにおける容量は、120mAH/g-NMCに達した。5サイクルの充放電によって、正極活物質22は、70モル%のリチウムが亜鉛に置換されていることが判明した。すなわち、Li脱離処理(ステップS30)の充電条件では、正極活物質22のLiの亜鉛への置換は充分ではなかったと推定される。しかし、電池10の充放電でも正極活物質22のLiの亜鉛への置換が進行することが確認された。
【0044】
電池10は、正極活物質のリチウムの含有率(モル%)が亜鉛の含有率(モル%)よりも小さければ、効率的に充放電が可能である。すなわち、電池10は、実使用前(製品出荷前)に適切なサイクル数の充放電処理を行い、正極活物質の50モル%超のリチウムが亜鉛に置換されていることが好ましい。前記範囲超のリチウムが、亜鉛に置換されている正極活物質を有する電池は大きな容量を実現できる。
【0045】
なお、図4および図5に示すように、容量は10サイクルでは、95mAH/g-NMCに減少した。この原因を解明するため、正極20のサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。
【0046】
図6に、正極20のサイクリックボルタンメトリー(CV)測定の結果を示す。サイクリックボルタンメトリー測定では、陰極にPtを用い、電解液は、電池10と同じである。なお、セパレータは使用していない。測定条件は、カットオフ電位が、-0.8V-0.3V(vs.Ag/AgCL)、走査速度が10mV/s、温度が常温(20℃)である。
【0047】
図6に示すように、正極20のサイクリックボルタンメトリー測定では、100サイクルにおいても、大きな変化は見られない。すなわち、100サイクルにおいても、正極活物質は、劣化していないため、安定した充放電を実現している。
【0048】
上記結果から、電池10の充放電サイクル特性が5ターン超において容量減少した原因は、正極20ではなく、負極40と推定される。負極40の適正化によって、電池10は、100サイクル以上の充放電後も、高い容量を維持し、安定した充放電ができると推定される。
【0049】
<変形例>
変形例の電池10Aは、電池10と類似し同じ効果を有するため、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0050】
電池10Aは、Li脱離処理を行わない仮正極を、プレス装置によって圧縮して正極20Aとした。電池10Aは、正極20A以外の構成は。電池10の構成と同じである。
【0051】
図7に、電池10Aの充放電サイクル特性を示す。充放電サイクル評価の条件は、電池10と同じである。
【0052】
電池10Aは、電池10と比較すると、容量は大きくはない。しかし、電池10Aは、50サイクルにおいても、電池として機能している。すなわち、Li脱離処理を行わない正極活物質を亜鉛電池の正極活物質として用いることができる。
【0053】
電池10Aでは、初期サイクルの充電によって、正極活物質の結晶格子からリチウムの一部が脱離(デインターカレーション)し、放電によって亜鉛が結晶格子内に置換(インターカレーション)しているとみられる。
【0054】
電池10Aでも、充放電サイクルの増加によって、容量は増加している。このため、より多くの充放電を繰り返すことで、正極活物質のリチウムの亜鉛への置換が進むと推定される。
【0055】
しかし、電池10Aは、電池10に比べると、置換速度は遅い。これは、水溶液中でのリチウムの脱離が、非水溶液中での脱離に比べて遅いためと考えられる。このため、電池10のように、予め非水溶媒中(仮電池セル)において、正極活物質のリチウムを脱離しておくことが好ましい。
【0056】
具体的には、ステップS30での充電において、正極活物質は、10モル%超のリチウムが脱離されていることが好ましく、20モル%超のリチウムが脱離されていることが特に好ましい。前記範囲超のリチウムが。非水電解液中ですでに脱離されている正極活物質を有する電池は、大きな容量を実現することが容易である。
【0057】
正極活物質は、リチウムの可逆的な挿入及び脱離が可能な化合物(リチエイテッドインターカレーション化合物)であれば、その構造は、層状構造に限定されず、層状構造スピネル構造、および、オリビン構造の少なくともいずれの構造を有するリチウム金属酸化物を用いてもよい。なお、上記各構造のリチウム金属酸化物は、リチウムイオン電池に用いられている周知の正極活物質から選択できる。さらに、正極活物質に2種以上のリチウム金属酸化物が含まれていてもよい。
【0058】
正極活物質としては層状構造の、LiNiCoMn(0.1≦a≦0.8、0.1≦b≦0.5、0.1≦c≦0.4、a+b+c=1)が好ましい。
【0059】
リチウム金属酸化物は、上記組成の遷移金属(Ni+Mn+Co)中における、Ni原子の割合が60モル%以上であることが、より好ましい。これにより、正極活物質を高容量化することができることは、リチウムイオン電池において周知である。Ni原子の割合が60モル%以上の正極活物質としては、例えば、NMC622(Li(Ni0.6/Co0.2/Mn0.2)O)、NMC811(Li(Ni0.8/Co0.1/Mn0.1)O)が挙げられる。
【0060】
以上の説明では、コインセル構造の電池10、10Aについて説明した。しかし、正極と負極とを含む積層体の両面をラミネートしたラミネート(パウチ)構造の電池、または、積層構造の電池セルを巻回してケースに収容した構造の電池等であってもよい。また、電池10の電解質は、水溶液に限られるものではなく、水系であれば、ゲル電解質または固体電解質であってもよい。
【0061】
すなわち、本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではない。本発明は、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更、組み合わせ、および応用が可能である。
【符号の説明】
【0062】
10、10A…亜鉛二次電池
20、20A…正極
21…集電体
22…正極活物質
30…セパレータ
40…負極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7