(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068715
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ポリケトン層を有するチューブ
(51)【国際特許分類】
F16L 11/08 20060101AFI20240514BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20240514BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
F16L11/08 B
B32B1/08
B32B27/32 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179261
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000129529
【氏名又は名称】株式会社クラベ
(72)【発明者】
【氏名】渥美 貴之
【テーマコード(参考)】
3H111
4F100
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA15
3H111CB06
3H111CB14
3H111CC03
3H111CC07
3H111DA20
3H111DB10
3H111EA04
4F100AK03
4F100AK03B
4F100AK46
4F100AK46C
4F100AK48
4F100AK48C
4F100AK56
4F100AK56A
4F100AL07
4F100AL07B
4F100BA03
4F100BA07
4F100GB51
4F100JB07
4F100JD03
4F100JK04
4F100JK17
(57)【要約】
【課題】優れたバリア性、柔軟性及び耐屈曲性を有するチューブを提供すること。
【解決手段】少なくとも3層以上の複数層からなり、少なくとも、ポリケトンからなる層と、脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層とを有し、上記ポリケトンからなる層と上記脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層が隣接しているチューブ。最内層が、ポリケトン、脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなり、最外層が酸変性ポリオレフィンからなるチューブ。少なくとも、ポリケトンからなる層と、脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層とを有し、上記ポリケトンからなる層と上記脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層が隣接するようにして、各層を共押出成形によって形成し、それぞれ重なり合う層同士を互いに接着させるチューブの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3層以上の複数層からなるチューブであって、
少なくとも、ポリケトンからなる層と、
脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層とを有し、
上記ポリケトンからなる層と上記脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層が隣接しているチューブ。
【請求項2】
最内層が、ポリケトン、脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる請求項1記載のチューブ
【請求項3】
上記脂肪族ポリアミドが、ナイロン11又はナイロン12である請求項1記載のチューブ。
【請求項4】
最外層が酸変性ポリオレフィンからなる請求項1記載のチューブ。
【請求項5】
複数層からなるチューブの製造方法であって、少なくとも、ポリケトンからなる層と、脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層とを有し、上記ポリケトンからなる層と上記脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層が隣接するようにして、各層を共押出成形によって形成し、それぞれ重なり合う層同士を互いに接着させるチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の移送に好適に使用されるチューブ、特にインクジェットプリンタのインク供給用インクチューブとして好適に使用されるチューブに係り、特に、優れたバリア性、柔軟性及び耐屈曲性を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタにおいては、インクタンクからインクチューブを用いてインクジェットヘッドへインクを供給している。ここで、インクチューブ内には、印刷を停止しているときにもインクが残留し、この残留したインクから溶媒や水分が蒸発すると、インク濃度が濃くなり、粘性が高くなるためインクの詰まりを生ずることがある。また、酸素がインクチューブを透過してインクチューブ内に入ると、インク内で酸素が気泡となり、吐出ムラが発生する恐れがあるとともに、酸素によりインクが変質してノズル詰まりが発生するおそれがある。そのため、インクチューブには、酸素、溶媒、水分等が透過しにくいバリア性が要求される。
【0003】
優れたバリア性を有する材料として、例えば、エチレンビニルアルコールがよく知られており、インクチューブにも使用されている(例えば、特許文献1参照)。また、他の材料として、シクロオレフィンポリマーを使用したもの(例えば、特許文献2参照)や、ポリケトンを使用したもの(例えば、特許文献3参照)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-062881公報:八興
【特許文献2】特開2014-59054公報:クラベ
【特許文献3】国際公開第2020/190018:HYOSUNG CHEMICAL
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような材料は、何れもバリア性に優れており、チューブが固定される形態においては問題なく使用がなされている。しかしながら、インクジェットヘッドが印刷時等に動作するような形態であると、インクタンクとインクジェットヘッドを繋ぐチューブには、繰り返しの屈曲や摩擦が加わることとなる。上記特許文献1のようなエチレンビニルアルコールは、繰り返し屈曲されることによりクラックを生じ、そのクラックからバリア性の低下やチューブの断裂を引き起こしてしまう可能性があった。また、上記特許文献2のようなシクロオレフィンポリマーは、硬く曲がり難い材料であるため、インクジェットヘッドを駆動するモータへの負荷が高くなるという問題があった。また、上記特許文献3のようなポリケトンは、インクによる変性にやや課題があるものである。そのため、インクチューブに使用する場合は、他の材料による層と組合せることが必要になるが、ポリケトンは他の材料との接着が困難である。各層で十分な接着がなされていないと、繰り返しの屈曲により層間にズレが生じ、それが基となって、チューブがインクタンクやインクジェットヘッドから抜けてしまう恐れがある。また、層間が接着されていないと、屈曲により座屈しやすくなってしまう。
【0006】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、優れたバリア性、柔軟性及び耐屈曲性を有するチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するべく、本発明によるチューブは、少なくとも3層以上の複数層からなるチューブであって、少なくとも、ポリケトンからなる層と、脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層とを有し、上記ポリケトンからなる層と上記脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層が隣接しているものである。
また、最内層が、ポリケトン、脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなることが考えられる。
また、上記脂肪族ポリアミドが、ナイロン11又はナイロン12であることが考えられる。
また、最外層が酸変性ポリオレフィンからなることが考えられる。
また、本発明によるチューブの製造方法は、複数層からなるチューブの製造方法であって、少なくとも、ポリケトンからなる層と、脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層とを有し、上記ポリケトンからなる層と上記脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層が隣接するようにして、各層を共押出成形によって形成し、それぞれ重なり合う層同士を互いに接着させるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、柔軟性が高く屈曲性に優れた材料を使用しているため、チューブとしても柔軟性と耐屈曲性に優れたものとなる。また、耐薬品性の高い脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンを使用するとともに、バリア性が高いポリケトンの層を有しているため、バリア性の高いチューブとすることができる。また、ポリケトンからなる層と脂肪族ポリアミドからなる層または酸変性ポリオレフィンからなる層が隣接していることにより各層の接着が図られ、屈曲した際にも座屈し難いものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明によるチューブの構成を示す一部切欠斜視図である。
【
図2】本発明によるチューブを多連にした形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によるチューブは、複数層を有するものであり、少なくとも、ポリケトンからなる層と、脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層と、を有するものである。
【0011】
脂肪族ポリアミドは、全芳香族ポリアミドを除くポリアミドであり、ナイロンと称されるもので、ωアミノ酸の重縮合反応で合成されるn-ナイロンと、ジアミンとジカルボン酸の共縮重合反応で合成されるn,m-ナイロンとがある。n-ナイロンとしては、ナイロン6(ε-カプロラクタム重縮合)、ナイロン11(ウンデカンラプタム重縮合)、ナイロン12(ラウリルラクタム重縮合)等が挙げられ、n,m-ナイロンとしては、ナイロン66(ヘキサメチレンジアミン-アジピン酸共縮重合)、ナイロン610(ヘキサメチレンジアミン-セバシン酸共縮重合)、ナイロン6I(ヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸共縮重合)、ナイロン6T(ヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸共縮重合)、ナイロン9T(ノナンジアミン-テレフタル酸共縮重合)、ナイロンM5T(メチルペンタジアミン-テレフタル酸共縮重合)、ナイロンMXD6(m-キシレンジアミン-アジピン酸共縮重合)、ナイロンXD10(キシレンジアミン-セバシン酸共縮重合)等が挙げられる。また、ポリアミドを含む熱可塑性エラストマーであるポリアミド系熱可塑性エラストマーも使用することができる。ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ポリアミドをハードセグメント、ポリエーテルをソフトセグメントとしたブロック共重合体が知られている。ハードセグメントとして使用されるポリアミドとしては、例えば、上記した脂肪族ポリアミドの他、パラ系アラミドやメタ系アラミドのような芳香族ポリアミドなど、種々のものが考えられる。ソフトセグメントとして使用されるポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-又は1,3-)プロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等のポリアルキレンエーテルグリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロック又はランダム共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとのブロック又はランダム共重合体等、ビスフェノールA、ヒドロキノン等の2価フェノールを含有したものなど、種々のものが考えられる。これらの中でも、成形性に優れ、インクに含有される溶剤に対するバリア性が高いナイロン11及びナイロン12が特に好ましい。
【0012】
酸変性ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、エチレンアクリル酸エステル共重合体(EMA)、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体などに、不飽和カルボン酸やその誘導体を反応させて変性させたものを使用することができる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などが挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などが挙げられる。
【0013】
ポリケトンは、主鎖にケトン基を有するポリマーであり、一酸化炭素とオレフィンを共重合した脂肪族ポリケトンがよく知られている。ポリケトンには、オレフィンの種類や組合せ、分子量等によって種々のグレードが存在するが、一般的な一酸化炭素、エチレン及びプロピレンを共重合したものが使用できる。
【0014】
本発明においては、ポリケトンからなる層及び脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層の更に外周側に、最外層が形成されることが好ましい。最外層を構成する材料としては、種々の材料が使用でき、例えば、ポリオレフィン系樹脂(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体)、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、脂肪族ポリアミド系樹脂、塩化ビニル樹脂、変性ノリル樹脂(ポリフェニレンオキサイド樹脂)、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、フッ素ゴム、シリコーンゴム、合成ゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等、が挙げられる。また、最外層として、ポリケトンからなる層及び脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層としてもよい。最外層を構成する材料は、耐摩耗性に優れたものとすることが好ましい。また、その内側の層との接着性に優れた材料を選択することが好ましく、例えば、酸変性ポリオレフィンが好ましい。また、最外層としては、例えば、軟質ステンレス線や硬質ステンレス線などの金属細線を引き揃え、編組したり、横巻きすることにより形成したものや、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維を用い、これを編組したり、横巻きすることにより形成した補強層とすることもできる。
【0015】
上記したポリケトンからなる層は、最内層、中間層、最外層など、何れの位置に形成しても良い。但し、最外層にポリケトンからなる層を形成した場合は、他の位置にもポリケトンからなる層を形成することが好ましい。同様に、脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層は、最内層、中間層、最外層など、何れの位置に形成しても良い。但し、最外層に脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層を形成した場合は、他の位置にも脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層を形成することが好ましい。使用状況やチューブの寸法等に応じて、適宜、これらの層の順序や各層の厚さ等を設計すればよい。例えば、チューブとして柔軟性を高める場合は、ポリケトンからなる層を最内層に形成することが考えられる。チューブ内を通過する液体が溶剤である場合は、耐溶剤性が高い脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層を最内層に形成することが考えられる。また、周囲で溶剤が使用される環境である場合は、耐溶剤性が高い脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層を最外層に形成することが考えられる。また、バリア性を特に向上させたい場合は、ポリケトンからなる層の厚さを厚くすることが考えられる。また、ポリケトンと脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンとは、相互の接着性が高いので、ポリケトンからなる層と脂肪族ポリアミドまたは酸変性ポリオレフィンからなる層を隣接させることで、チューブを構成する各層の接着をより強固なものとすることができる。
【0016】
より具体的な例として、最内層に酸変性ポリオレフィンからなる層を形成し、その外周にナイロン11からなる層を形成し、その外周にポリケトンからなる層を形成し、その外周にナイロン11からなる層を形成し、その外周に最外層として酸変性ポリオレフィンからなる層を形成した5層のチューブが考えられる。また、最内層にポリケトンからなる層を形成し、その外周にナイロン11からなる層を形成し、その外周に最外層として酸変性ポリオレフィンからなる層を形成した3層のチューブが考えられる。また、最内層にナイロン11からなる層を形成し、その外周にポリケトンからなる層を形成し、その外周にナイロン11からなる層を形成し、その外周に最外層として酸変性ポリオレフィンからなる層を形成した4層のチューブが考えられる。また、最内層にナイロンXD10からなる層を形成し、その外周にポリケトンからなる層を形成し、その外周にナイロンXD10からなる層を形成し、その外周に最外層として酸変性ポリオレフィンからなる層を形成した4層のチューブが考えられる。
【0017】
本発明は上記の例に限定されず、例えば、他の材料からなる層や補強層を更に加えたものも考えられる。また、各層を強固に接着するため、適宜層間に接着層を形成しても良い。
【0018】
また、上記した各層の材料には、適宜種々の材料を混合して使用しても良い。また、各種特性を損なわない範囲内で一般的に使用される各種の添加剤、例えば、老化防止剤、金属不活性化剤、滑剤、充填剤等を適宜添加することができる。
【0019】
本発明においては、各層が相互に接着していることが好ましい。接着した状態とは、外周側の層の伸びに内側の層が追従するような接着強度を有していることを言う。例えば、各層を剥離させた際、界面剥離ではなく、材料破壊するような接着の状態であれば、充分に接着していると言えるが、ここまでの強固な接着は要求されない。
【0020】
上記各層の構成材料は、例えば押出成型などの公知の成型方法により成型することで、本発明のチューブを得ることができる。特に、各層を同時に成形する共押出成形の手法により形成することが好ましい。共押出成形によりチューブを形成することで、各層が相溶することになり、より強固に接着することとなる。共押出成形をする場合は、各層の材料について、成形温度が同程度のものを使用することが好ましい。また、例えば、一部の層を共押出成形によって形成した後に、その外周に他の層を押出成形するなど、部分的に共押出成形することも考えられる。
【0021】
また、上記のチューブについて、少なくとも2本以上を並行に連設して、
図2に示すような多連化したチューブ(以下、多連チューブと記すことがある)とすることも考えられる。例えば、カラーインクジェットプリンタでは、各色でインクタンクとインクチューブとインクジェットヘッドとを備えている。このとき、複数のインクチューブがそれぞれ独立した動作をすると、インクチューブ同士が擦れて磨耗したり、絡んでしまったりする可能性がある。そのため、複数のチューブ10を一体化した多連チューブ20とすることが好ましい。並列に連設する方法としては、例えば、チューブ10の最外層を構成する材料の軟化点温度以上に設定した加熱炉中に並行に配したチューブ10を通過させ、チューブ10同士を熱融着する方法、チューブ10を並行に配してこれらチューブ1同士が接触する箇所に熱風を吹き付けて、チューブ10同士を熱融着する方法などが考えられる。また、最初から多連チューブ20の形状になるように押出成形等をすることも考えられる。また、多連チューブの形態としては、
図2に示すようなものに限定されず、複数列を積層したような形態も考えられる
【0022】
このようにして得られたチューブは、例えば、インクジェットプリンタのインクチューブとして使用することができる。インクジェットプリンタは、インクが充填されたインクタンクと、このインクを印刷物に吐出するインクジェットヘッドを有している。インクタンクとインクジェットヘッドが本発明のチューブで接続される。そして、インクタンクに充填されたインクがチューブ内を通じて上記インクジェットヘッドに供給されることになる。ここで、インクジェットプリンタにおいて、インクタンクは固定された部品であるのに対し、インクヘッドは印刷時に動作する場合がある。そのため、それらを繋ぐインクチューブは、インクヘッドの動作を妨げないよう、柔軟で且つ座屈しにくいものであることが好ましい。また、例えば、廃液チューブ、循環用チューブなど、稼動部に接続しないチューブであれば、柔軟性や耐キンク性に劣るものであっても使用することが可能である。
【実施例0023】
以下に、
図1を参照しながら本発明の実施例を説明する。本実施の形態によるチューブおいては、
図1に示すように、最も内側に位置する第一層1と、第一層1の外周に位置するとともに第一層1と接着されている第二層2と、第二層2の外周に位置するとともに第二層2と接着されている第三層3と、第三層3の外周に位置するとともに第三層3と接着されている第四層4と、第四層4の外周に位置するとともに第四層4と接着されている第五層5と、を有しており、第五層5が最外層となっている。各層を構成する材料は以下の通りである。また、併せて比較例1~3についても同様に記載する。
[実施例1]
第一層:酸変性ポリオレフィン樹脂/プロピレン系コポリマー=80/20(重量比) 厚さ0.05mm
第二層:ナイロン11 厚さ0.05mm
第三層:脂肪族ポリケトン 厚さ0.10mm
第四層:ナイロン11 厚さ0.05mm
第五層:酸変性ポリオレフィン樹脂/プロピレン系コポリマー=80/20(重量比) 厚さ0.25mm
[比較例1]
第一層:脂肪族ポリケトン 厚さ0.10mm
第二層:イミン変性ポリオレフィン 厚さ0.10mm
第三層:メタロセン系ポリオレフィン熱可塑性エラストマー 厚さ0.30mm
[比較例2]
第一層:酸変性ポリオレフィン樹脂(三井化学株式会社製)/プロピレン系コポリマー(三井化学株式会社製)=100/7(重量比) 厚さ0.18mm
第二層:エチレン-ビニルアルコール共重合体(重量比) 厚さ0.03mm
第三層:酸変性ポリオレフィン樹脂/プロピレン系コポリマー=100/7(重量比) 厚さ0.29mm
[比較例3]
第一層:エチレンテトラフルオロエチレン 厚さ0.25mm
第二層:ポリアミド系熱可塑性エラストマー 厚さ0.10mm
第三層:ポリウレタン系熱可塑性エラストマー 厚さ0.65mm
【0024】
この実施例1及び比較例1~3によるチューブをサンプルとして、溶剤バリア性(溶剤透過試験)、酸素バリア性(酸素透過試験)、柔軟性(曲げ反力測定)、耐座屈性(座屈半径測定)および耐屈曲性(屈曲試験)の試験を行った。これらの試験結果を表1に示す。
【0025】
(溶剤バリア性:溶剤透過試験)
サンプルの中空部にジエチレングリコールジエチルエーテルを注入し、両末端を封止する。これを温度60℃の雰囲気下に168hr放置し、放置前後の重さを測定する。放置前後の重さの差により揮発量を算出し、以下の式から透過係数を求める。
透過係数(g・cm/cm2・24h)=[揮発量(g)×チューブ肉厚(cm)×24]/[チューブ有効表面積(cm2)×放置時間(h)]
チューブ有効表面積(cm2)=(チューブ内径+チューブ肉厚)×π×チューブ長さ
透過係数の値として、4.0×10-5(g・cm/cm2・24h)未満のものを「合格:○」とし、4.0×10-5(g・cm/cm2・24h)以上のものを「不合格:×」とした。
(酸素バリア性:酸素透過試験)
まず、脱気したインクの初期の溶存酸素量(mg/l)を測定する。次にそのインクを長さ500mmのチューブ内に封入し、両末端に栓をして密封した後、室温で3日間放置した。そのインクを抜き取り、溶存酸素量を測定する。上記の溶存酸素量の測定は、溶存酸素測定器(株式会社東興化学研究所 微量溶存酸素計TD-51)を用いた。
初期の溶存酸素量からの、1日間放置後のインクの溶存酸素量の変化量が3.0mg/l未満のものを「合格:〇」とし、3.0mg/l以上のものを「不合格:×」として判定した。
(柔軟性:曲げ反力測定)
温度20±5℃の雰囲気下、300mmのサンプルの片端を固定し、U字に曲げ、その状態で反対側の端をチューブが半径40mmになるまで押し込んでいき、その時の荷重を測定する。
曲げ反力は2.0N以下のものを「合格:〇」とし、2.0Nを超えるものを「不合格:×」として判定した。
(耐座屈性:座屈半径測定)
チューブをU字に曲げ、徐々に曲げ半径を小さくし、チューブが座屈(キンク)したときの直径を測定する。座屈半径は以下の式より表される。式中、Dは座屈したときの直径を示す。
座屈半径(mm)=D/2
座屈半径は、30mm以下のものを「合格:〇」とし、30mmを超えるものを「不合格:×」として判定した。
(耐屈曲性:屈曲試験)
チューブをU字(180°)に曲げて試験装置にセットする。このときのチューブ内側の間隔が曲げ半径40mmになるように設定し、往復移動距離330mm、試験速度630mm/secで180°曲げを保った状態で片端を移動させることによりチューブを屈曲させる。屈曲回数100万回時点でチューブ全体を目視にて観察してクラックの発生数を確認する。
屈曲試験は、クラックが発生しなかったものを「合格:〇」とし、1つでもクラックが発生したものを「不合格:×」として判定した。
【0026】
【0027】
表1から明らかなように、比較例1のチューブは、脂肪族ポリアミドからなる層も酸変性ポリオレフィンからなる層も有していないため、溶剤バリア性に劣るものであった。比較例2のチューブは、ポリケトンからなる層ではなくエチレン-ビニルアルコール共重合体からなる層であったため、耐屈曲性に劣るものであった。比較例3のチューブは、ポリケトンからなる層、脂肪族ポリアミドからなる層、酸変性ポリオレフィンからなる層の何れも有していないため、溶剤バリア性、酸素バリア性に劣るものであった。一方で実施例1のチューブは、溶剤バリア性、酸素バリア性、耐屈曲性、柔軟性等の諸物性が良好である。これらの結果から、本発明のインク供給チューブは、優れたバリア性及び耐屈曲性を有するために、長期にわたりインクの品質を維持できる優れたインクジェット用のインク供給用チューブであることが確認された。
以上説明したとおり、本発明によるチューブは、特に、優れたバリア性、柔軟性、耐屈曲性を有しているものである。従って、特に、インクジェットプリンタのインク供給用インクチューブとして好適に使用することができる。また、その他にも、例えば、自動車分野、医薬・医療分野、食品分野、土木・建築分野などの導水・導液・導気管として幅広い用途で好適に使用することができる。また、チューブやホースなどの管に限定されることなく、エルボ、ニップル、チーズなどの継手及びその構成部材、ポンプの構成部材、弁、パッキン、グロメット、など種々の送液部材として使用することも考えられる。