(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068733
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】モータ制御装置、および、電気車
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20240514BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240514BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240514BHJP
【FI】
H02P27/08
B60L9/18 J
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179289
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷口 峻
(72)【発明者】
【氏名】松尾 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】原 崇文
(72)【発明者】
【氏名】安島 俊幸
【テーマコード(参考)】
5H125
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB02
5H125EE02
5H125EE08
5H125EE15
5H505AA16
5H505AA19
5H505BB04
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD05
5H505DD08
5H505DD11
5H505EE41
5H505EE50
5H505GG04
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ29
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL44
5H505LL58
5H505MM06
5H505MM07
5H505PP01
5H770AA02
5H770AA07
5H770BA01
5H770DA03
5H770EA02
5H770HA02Y
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】 複数のキャリア周波数候補をランダムに選択して高調波成分を分散するモータ制御装置であって、インバータのスイッチング素子の発熱量を抑制しつつ、高調波成分の分散を広くして電磁騒音を抑制することができるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】 交流モータに交流電力を供給するインバータを制御するモータ制御装置であって、複数のキャリア周波数候補の夫々を乱数に基づいて所定の比率で選択しキャリア周波数として出力するキャリア周波数生成部と、選択したキャリア周波数に基づいてキャリア波を生成するキャリア波生成部と、前記キャリア波に基づくPWM信号をインバータに出力するPWM制御器と、を備え、前記所定の比率は、前記複数のキャリア周波数候補の周波数と所定の最大平均スイッチング周波数に基づいて決定されることを特徴とするモータ制御装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流モータに交流電力を供給するインバータを制御するモータ制御装置であって、
複数のキャリア周波数候補の夫々を乱数に基づいて所定の比率で選択しキャリア周波数として出力するキャリア周波数生成部と、
選択したキャリア周波数に基づいてキャリア波を生成するキャリア波生成部と、
前記キャリア波に基づくPWM信号をインバータに出力するPWM制御器と、を備え、
前記所定の比率は、前記複数のキャリア周波数候補の周波数と所定の最大平均スイッチング周波数に基づいて決定されることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ制御装置において、
前記キャリア周波数生成部は、前記選択の更新周期をランダムに決定する更新周期決定部を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ制御装置において、
前記キャリア周波数候補は2値であることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ制御装置において、
前記所定の比率は次式で算出されることを特徴とするモータ制御装置。
【数1】
ただし、f
1は第1周波数、f
2はf
1より小さい第2周波数、r
1は第1周波数の選択比率、f
ave_maxは最大平均スイッチング周波数。
【請求項5】
請求項1または2に記載のモータ制御装置において、
前記キャリア周波数生成部は、前記交流モータの回転速度、電流値、または、前記インバータの素子温度に基づき、前記最大平均スイッチング周波数を決定する最大平均スイッチング周波数決定部を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
交流モータとインバータとモータ制御装置を搭載した電気車であって、
前記交流モータは、トランスミッションとデファレンシャルギアとドライブシャフトとを介して車輪を駆動するモータであり、
前記モータ制御装置は、請求項1または2に記載のモータ制御装置であることを特徴とする電気車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動用インバータで発生する電磁騒音や高調波を抑制するモータ制御装置、および、そのモータ制御装置を搭載した電気車に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ駆動用インバータで発生する電磁騒音や高調波を、キャリア周波数を分散させることで抑制する従来技術として、特許文献1のPWM波形生成装置が知られている。例えば、特許文献1の要約書には、課題として「空気調和機に搭載されるPWM制御インバータ装置において、キャリア周波数を極端に高めることなく、特に耳障りなキャリア音(出願人註:同文献の段落0009等によれば「電磁騒音」と同義)を抑制でき、等価的に空気調和機を低騒音化できるPWM波形生成装置を提供する」と記載されている。
【0003】
また、同文献の請求項5には、「第2のキャリア周波数切り換え手段は、キャリア周波数設定手段の複数のキャリア周波数に係る選択順序をランダムに設定するランダム順序設定手段と、前記キャリア周波数設定手段の複数のキャリア周波数の内から、前記ランダム順序設定手段により設定されたランダムな選択順序に従って、キャリア周波数を適宜のタイミングで選択し切り換える第5のキャリア周波数切り換え手段とからなることを特徴とする請求項第2項記載のPWM波形生成装置。」と記載されている。
【0004】
このように、特許文献1では、ランダムなタイミングでランダムな順序で重みづけされた選択頻度にしたがって、複数のキャリア周波数候補のなかから一つを順次選択することで高調波成分を分散させ、電磁騒音を低減するPWM波形生成方式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インバータのスイッチング素子は、キャリア周波数の時間的な平均値faveに応じて大凡の発熱量が定まるが、特許文献1では、平均値faveの大きさを制御することでスイッチング素子の発熱量を抑制する技術思想について一切言及がない。そのため、特許文献1のキャリア周波数分散の結果、スイッチング素子の発熱量抑制の観点では不適切なモータ制御になることも考えられ、そのような場合には、スイッチング素子の過剰発熱によってインバータの故障を招く可能性を排除できなかった。
【0007】
また、複数のキャリア周波数候補が存在するという条件下で、スイッチング素子の発熱量を抑制する方法としては、各キャリア周波数候補の周波数を一律に低減する方法も考えられる。しかしながら、
図1に示す制約下で各キャリア周波数候補を設定する必要があるため、各キャリア周波数候補の周波数を一律に低減することは困難であった。すなわち、キャリア周波数の最大値f
maxはモータ制御装置(特に内蔵マイコン)の処理性能に応じて上限が定まり、キャリア周波数の最小値f
minはモータ制御装置に求められる仕様上の応答速度に応じて下限が定まるため、各キャリア周波数候補は、最小値f
minから最大値f
maxの範囲内で設定する必要がある。従って、スイッチング素子の発熱量に影響するキャリア周波数の平均値f
aveを低減するには、キャリア周波数の最小値f
minの近傍に各キャリア周波数候補を集中して配置するのが有効であるが、その場合は、高調波成分の分散が不十分となり、電磁騒音が増大する可能性があった。
【0008】
そこで、本発明は、複数のキャリア周波数候補をランダムに選択して高調波成分を分散するモータ制御装置であって、インバータのスイッチング素子の発熱量を抑制しつつ、高調波成分の分散を広くして電磁騒音を抑制することができるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
交流モータに交流電力を供給するインバータを制御するモータ制御装置であって、複数のキャリア周波数候補の夫々を乱数に基づいて所定の比率で選択しキャリア周波数として出力するキャリア周波数生成部と、選択したキャリア周波数に基づいてキャリア波を生成するキャリア波生成部と、前記キャリア波に基づくPWM信号をインバータに出力するPWM制御器と、を備え、前記所定の比率は、前記複数のキャリア周波数候補の周波数と所定の最大平均スイッチング周波数に基づいて決定されるモータ制御装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のモータ制御装置によれば、インバータのスイッチング素子の発熱量を抑制しつつ、高調波成分の分散を広くして電磁騒音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施例1のモータ駆動システムの全体構成を表す機能ブロック図。
【
図3】実施例1のキャリア周波数生成部の構成を表す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて、本発明のモータ駆動装置の実施例を説明する。
【実施例0013】
まず、
図2と
図3を用いて、本発明の実施例1に係るモータ制御装置1について説明する。
【0014】
図2は、本実施例のモータ駆動システム100の全体構成を表す機能ブロック図である。ここに示すように、モータ駆動システム100は、モータ制御装置1、モータ2、インバータ3、直流電源4、直流電圧検出器5、相電流検出器6、磁極位置検出器7を備えている。以下では、モータ駆動システム100の構成のうちモータ制御装置1以外の構成を順次概説した後、モータ制御装置1について詳細に説明する。
【0015】
モータ2は、交流電力によって駆動される、永久磁石同期モータ(Permanent Magnet Synchronous Motor;PMSM)である。なお、永久磁石同期モータに代え、シンクロリラクタンスモータ、永久磁石同期発電機、巻線型同期機、誘導モータ、誘導発電機などの交流機を用いる場合も、後述する本発明の効果を得ることができる。
【0016】
インバータ3は、モータ制御装置1からのゲート信号(PWM信号)に従って直流電力を交流電力に変換し、モータ2に供給する電力変換装置である。このインバータ3は、直流電力を交流電力に変換するために、複数の半導体スイッチング素子(IGBT、MOSFET等)を用いるものであり、その際、各半導体スイッチング素子の温度が上昇する。なお、図示を省略しているが、各半導体スイッチング素子には温度センサが設けられており、各温度センサで検出した素子温度もモータ制御装置1に入力される。
【0017】
直流電源4は、インバータ3に直流電力を供給する電源である。この直流電源4は、バッテリであっても良いし、商用交流電力を整流・平滑した直流電力を出力する電源であっても良い。
【0018】
直流電圧検出器5は、直流電源4の出力電圧を検出し、直流電圧情報Vdcとしてモータ制御装置1に出力するセンサである。
【0019】
相電流検出器6は、ホールCT(Current Transformer)等から成り、インバータ3からモータ2に供給されるU相、V相、W相の3相の電流Iu、Iv、Iwを検出し、電流波形Iuc、Ivc、Iwcとしてモータ制御装置1に出力するセンサである。
【0020】
磁極位置検出器7は、レゾルバ等から成り、モータ2の磁極位置を検出し、磁極位置情報θとしてモータ制御装置1に出力するセンサである。
【0021】
<モータ制御装置1の詳細>
本実施例のモータ制御装置1は、
図2に示すように、周波数演算部11、座標変換部12、電流制御部13、座標変換部14、キャリア周波数生成部15、キャリア波生成部16、PWM制御器17を備えている。以下、各部を順次説明する。なお、モータ制御装置1は、具体的には、CPU等の演算装置、半導体メモリ等の記憶装置、および、通信装置などのハードウェアを備えたコンピュータである。そして、演算装置が所望のプログラムを実行することで、上記した各機能部を実現するが、以下では、このような周知技術を適宜省略しながら説明する。
【0022】
周波数演算部11は、磁極位置検出器7で検出した磁極位置情報θから速度情報ω1を演算して出力する。なお、ここでの演算には、例えば微分演算を用いることができる。
【0023】
座標変換部12は、相電流検出器6で検出した電流波形Iuc、Ivc、Iwcを、磁極位置検出器7で検出した磁極位置情報θで座標変換して、dq軸電流検出値Idc、Iqcを出力する。
【0024】
電流制御部13は、上位装置などから入力されたdq軸電流指令値Id*、Iq*と、座標変換部12から入力されるdq軸電流検出値Idc、Iqcが一致するように、適切なdq軸電圧指令値Vd*、Vq*を演算して出力する。
【0025】
座標変換部14は、電流制御部13から入力されるdq軸電圧指令値Vd*、Vq*を、磁極位置検出器7で検出した磁極位置情報θで座標変換して、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を出力する。
【0026】
キャリア周波数生成部15は、インバータ3で発生する熱と電磁騒音を抑制するうえで有効なキャリア周波数fcを出力する。ここで生成されるキャリア周波数fcの詳細は後述する。
【0027】
キャリア波生成部16は、キャリア周波数生成部15が出力したキャリア周波数fcに基づいて、三角波やのこぎり波などのキャリア波を生成する。
【0028】
PWM制御器17は、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と直流電圧情報VdcからDuty信号を演算し、キャリア波と比較して各相のゲート信号(PWM信号)を出力する。そして、このゲート信号(PWM信号)に応じてインバータ3のスイッチング素子がPWM制御されることで、モータ2は上位装置などからの指令に応じた所望の回転速度で回転制御されることになる。
【0029】
<<キャリア周波数生成部15の詳細>>
以下、本発明の要諦となる、キャリア周波数生成部15の詳細、および、本発明の原理と効果を説明する。
【0030】
図3は、本実施例のキャリア周波数生成部15の機能ブロックの一例である。ここに示すように、キャリア周波数生成部15は、第一乱数発生部15a、呼出周期決定部15b、最大平均スイッチング周波数決定部15c、選択比率決定部15d、キャリア周波数決定部15eを備えている。以下、各部を順次説明する。
【0031】
第一乱数発生部15aは、自然数である乱数RN1を発生させる。この乱数RN1は、例えば1から8の何れかの自然数であり、マップ参照や線形合同法を用いて発生させた疑似乱数であっても良い。
【0032】
呼出周期決定部15bは、後述するキャリア周波数決定部15eを呼び出すタイミング(以下、「呼出周期」と称する)を、第一乱数発生部15aで発生した乱数RN1に基づいてランダムに決定する。この呼出周期は、例えば、現状のキャリア周波数fcの半周期(fc/2)をn倍化した周期であり(nは自然数)、第一乱数発生部15aで発生した乱数RN1が3であれば3fc/2が呼出周期として決定され、乱数RN1が8であれば4fcが呼出周期として決定される。なお、後述するキャリア周波数決定部15eでは、前回と同じキャリア周波数fcを連続して選択することも許容されるので、呼出周期決定部15bで決定した呼出周期と同期して、常にキャリア周波数fcが更新されるわけではない。
【0033】
最大平均スイッチング周波数決定部15cは、モータ速度ω、モータ電流I=√(Id2+Iq2)、素子温度等に基づいて、インバータ3の故障を惹起しない程度にスイッチング素子の発熱量を抑制できるよう、平均スイッチング周波数の最大値を決定する。
【0034】
ここでは、次のように最大平均スイッチング周波数fave_maxを決定する。例えば、モータ速度ωが小さく、モータ電流Iが大きい領域では、スイッチング素子の温度上昇が大きくなる傾向があるため、最大平均スイッチング周波数fave_maxを平常時のものより低く設定する。あるいは、スイッチング素子の温度が所定値を超えた場合には、最大平均スイッチング周波数fave_maxを平常時のものより低く設定する。
【0035】
選択比率決定部15dは、複数用意されたキャリア周波数fcの夫々の選択比率を、最大平均スイッチング周波数fave_maxに基づいて決定する。例えば、キャリア周波数fcの候補として第1周波数f1と第2周波数f2(ただし、f1>f2)の2種類が用意されている場合であれば、選択比率決定部15dは、スイッチング素子の発熱量がより大きくなる第1周波数f1の選択比率r1を、式1に従って制限する。なお、式1に従って第1周波数f1の選択比率r1を制限することの効果は後述する。
【0036】
【0037】
キャリア周波数決定部15eは、呼出周期決定部15bで決定した呼出周期になったときに呼び出され、選択比率決定部15dが決定した選択比率の許容範囲内で、複数用意されたキャリア周波数候補の何れかを選択し、キャリア周波数fcとして出力する。この機能を実現するため、キャリア周波数決定部15eは、第二乱数発生部15e1と、周波数選択部15e2を備えている。
【0038】
第二乱数発生部15e1は、自然数である乱数RN2を発生させる。この乱数RN2は、例えば1から100の何れかの自然数であり、マップ参照や線形合同法を用いて発生させた疑似乱数であっても良い。
【0039】
周波数選択部15e2は、第二乱数発生部15e1で発生した乱数RN2と、選択比率決定部15dで決定した選択比率r1を基に、第1周波数f1または第2周波数f2の一方をキャリア周波数fcとして選択する。例えば、乱数RN2を100で割り算した演算値を選択比率r1と比較し、その演算値が選択比率r1以下であれば、第1周波数f1をキャリア周波数fcとして選択し、その演算値が選択比率r1より大きければ、第2周波数f2をキャリア周波数fcとして選択する。乱数RN2はランダムな数であるため、この手法によるキャリア周波数選択を継続することで、第1周波数f1の選択比率が所望の選択比率r1に漸近することになる。
【0040】
<式1の効果>
以下、式1によって平均スイッチング周波数faveが、所望の最大平均スイッチング周波数fave_max以下となる理由を説明する。
【0041】
キャリア周波数が選択される時間はキャリア周波数の逆数に比例するので、式2が成り立つ。
【0042】
【0043】
式2を選択比率r1について解くと式3となる。
【0044】
【0045】
ここで、平均スイッチング周波数faveが最大平均スイッチング周波数fave_max以下になるようにすると式1が得られる。したがって、式1のように第1周波数f1の選択比率r1を決定すれば最大平均スイッチング周波数fave_max以下を実現することができる。これにより、スイッチング素子の発熱量が想定の値よりも大きくなるのを防ぐことができる。
【0046】
また、選択比率を変える場合、選択するキャリア周波数は変わらないので、発熱量を抑制するために選択するキャリア周波数自体を変更せずにその選択比率のみを変更する。これにより周波数の選択範囲を狭める必要がないので、高調波の分散効果の低減度合いが小さい。したがって、平均スイッチング周波数を小さくする際に、第1周波数f1と第2周波数f2を一律に下げる方策に比べて、高調波の分散効果を高くすることが可能になる。
【0047】
本実施例では式1によって選択比率r1を制限する方法を述べたが、式1の代わりに式4としても良い。
【0048】
【0049】
式4はキャリア周波数が出力される時間が周波数によって変わることは考慮されておらず、選択されたキャリア周波数が周波数に依らずに継続時間が変わらないことを前提にしている。こちらの方が演算は簡単になるので、第1周波数f1と第2周波数f2の差が小さい場合には式4で演算しても式1とほぼ同等の結果が得られる。
【0050】
本実施例では最大平均スイッチング周波数が速度、電流、インバータ3の半導体スイッチング素子の温度によって変化数する例を示したが(
図3における入力信号を参照)、ワーストケースを想定して最大平均スイッチング周波数を固定値で設定しても良い。あるいは選択比率自体も第1周波数f
1、第2周波数f
2と固定した最大平均スイッチング周波数から演算して固定値で設定しても良い。
【0051】
また、本実施例では呼出周期がランダムの例を示したが、呼出周期が所定の規則下で変化する場合でも、規則的なキャリア周波数の切り替えによる高調波成分が発生する可能性があるものの同様の効果を得ることができる。
【0052】
以上で説明したように、本実施例のモータ制御装置によれば、インバータのスイッチング素子の発熱量を抑制しつつ、高調波成分の分散を広くして電磁騒音を抑制することができる。
【0053】
<変形例>
以上では、キャリア周波数fcの候補が2値の場合を示したが、候補が3値や4値であっても同様に選択比率を考慮することでインバータ3での発熱量を抑えることが可能である。以下では、キャリア周波数候補が3値の場合を例に、周波数比率の選択方法を説明する。
【0054】
キャリア周波数fcの候補である第1周波数f1の選択比率をr1、第2周波数f2(ただし、f1>f2)の選択比率をr2、第3周波数f3(ただし、f2>f3)の選択比率をr3(ただし、r3=1-r1-r2)とすると、キャリア周波数fcが選択される時間はキャリア周波数の逆数に比例するので、式5が成り立つ。
【0055】
【0056】
式5を周波数比率r1について解くと式6となる。
【0057】
【0058】
以上から、選択比率決定部15dでは式7にしたがって第1周波数f1の選択比率r1を制限する。なお、式6と式7の関係は、キャリア周波数fcの候補が2値の場合における、式3と式1の関係に相当するものである。
【0059】
【0060】
ここで、3つの周波数候補のうち中央の第2周波数f2の選択比率r2は分散の効果を考えると小さい値の方が良いので、例えば0.1で固定して、式7の演算に用いる。あるいは、電磁騒音の測定結果を参考にして選択比率r2を条件に応じて変更しても良い。いずれにしても、式7によって選択比率r1を制限すれば、周波数候補が3値の場合でも発熱量を抑えることができる。なお、周波数候補が3値の場合も、式7の代わりに式8としても良い。
【0061】
【0062】
式8はキャリア周波数が出力される時間が周波数によって変わることは考慮されておらず、選択されたキャリア周波数が周波数に依らずに継続時間が変わらないことを前提にしている。こちらの方が演算は簡単になるので、f1、f2、f3の差が小さい場合には式8で演算しても式7とほぼ同等の結果が得られる。
モータ2はトランスミッション21に接続される。トランスミッション21はデファレンシャルギア22を介してドライブシャフト23に接続され車輪24に動力を供給する。なお、トランスミッション21が無くデファレンシャルギア22に直接接続される構成や、前輪、後輪それぞれにモータ2およびインバータ3が適用される構成でもよい。
自動車ではモータ騒音に対する要求が厳しく、また応答に対する要求からキャリア周波数を低く設定できないアプリケーションであるので、他のアプリケーションよりも本発明の効果が顕著に現れるアプリケーションであると言える。同様に、鉄道においても自動車と同じくモータ騒音に対する要求が厳しく本発明の効果が表れやすいアプリケーションである。
本発明を適用することで、自動車、鉄道ではインバータ3の半導体スイッチング素子の発熱の制限が所定以下になるように制約しつつランダムPWMによって高調波の分散効果を得ることができる。これにより、運転者あるいは乗客の乗り心地向上につながる。