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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068746
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】軟弱地盤の補強装置及びその補強方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/18 20060101AFI20240514BHJP
   E02D 3/10 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
E02D17/18 A
E02D3/10 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179312
(22)【出願日】2022-11-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 一般社団法人日本CLT協会 CLT土木開発・利用委員会 令和2年度木材製品の消費拡大対策のうちCLT建築実証支援事業 CLT等木質建築部材技術開発・普及事業 低コストCLTと土木用利用技術の開発 スライド6、7枚目 オンライン開催 2022年2月25日開催 〔刊行物等〕一般社団法人日本CLT協会 令和2年度 木材製品の消費拡大対策のうちCLT建築実証支援事業のうちCLT等木質建築部材技術開発・普及事業 低コストCLTと土木利用技術の開発 事業報告書p.4~p.5、p.108~p.131 2022年4月6日発行
(71)【出願人】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221615
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】沼田 淳紀
(72)【発明者】
【氏名】村田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】西岡 英俊
【テーマコード(参考)】
2D043
2D044
【Fターム(参考)】
2D043CA08
2D043EA01
2D043EA02
2D043EB06
2D044CA03
2D044CA10
(57)【要約】
【課題】本発明は、木材を使用することで固化までの養生期間を必要とせず、そのため施工が速く、該施工後の盛土などの構造体を直ちに使用することができ、軽量であるため軟弱地盤の変形や沈下を促進することなく、前記構造体が不要となったときに容易に撤去することができ、さらには、補強材が軽量であるため大量の材料を一度に運搬可能とし、もって運搬コストの削減を図り、施工時の密着性や平坦性を高めつつ、設計が容易にできる軟弱地盤の補強装置及びその補強方法を提供する。
【解決手段】本発明は、軟弱地盤2上に同方向に向けて配置された複数の第1基礎板材6につき任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設し形成した第1構造体4と、前記第1基礎板材6の長手方向と略直交させ、かつ任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設した複数の第2基礎板材8で第2構造体5を形成し、形成した第2構造体5を第1構造体4上に積み重ねたことを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟弱地盤上に敷設される補強装置であって、
前記補強装置は、
前記軟弱地盤上に、同方向に向けて配置された複数の第1基礎板材につき任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設し形成した第1構造体と、前記第1基礎板材の長手方向と略直交させ、かつ任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設した複数の第2基礎板材で第2構造体を形成し、形成した第2構造体を第1構造体上に積み重ねた、
ことを特徴とする補強装置。
【請求項2】
前記積み重ねは、前記第1構造体と前記第2構造体とを、交互に三段以上積み重ねた、
ことを特徴とする請求項1記載の補強装置。
【請求項3】
前記第1基礎板材及び第2基礎板材は、複数の板材ユニットを該板材ユニットの長手方向に連続して継ぎ合わせてなる、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の補強装置。
【請求項4】
前記複数の第1基礎板材における長手方向の継ぎ部の状態は、該第1基礎板材の継ぎ部と隣接する第1基礎板材の継ぎ部とが同一直線上に並ばないよう配置され、
前記複数の第2基礎板材における長手方向の継ぎ部の状態は、該第2基礎板材の継ぎ部と隣接するした第2基礎板材の継ぎ部とが同一直線上に並ばないよう配置された、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の補強装置。
【請求項5】
軟弱地盤上に、同方向に向けて配置された複数の第1基礎板材につき任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設し形成した第1構造体と、前記第1基礎板材の長手方向と略直交させ、かつ任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設した複数の第2基礎板材で第2構造体を形成し、形成した第2構造体を第1構造体上に積み重ねた補強装置を使用した軟弱地盤の補強方法であって、
前記第1構造体を前記軟弱地盤上に配置し、前記第1構造体を形成する第1基礎板材と第1基礎板材との間に砂や礫材を埋設し、該埋設した砂や礫材を締め固めて平滑面とした第1基礎体を形成し、
前記第1基礎体上に前第1基礎体記第1基礎板材の長手方向と略直交させて前記第2構造体を敷設し、前記軟弱地盤を補強する、
ことを特徴とする軟弱地盤の補強方法。
【請求項6】
軟弱地盤上に、同方向に向けて配置された複数の第1基礎板材につき任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設し形成した第1構造体と、前記第1基礎板材の長手方向と略直交させ、かつ任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設した複数の第2基礎板材で第2構造体を形成し、形成した第2構造体を第1構造体上に積み重ねた補強装置を使用した軟弱地盤の補強方法であって、
前記第1構造体を前記軟弱地盤上に配置し、前記第1構造体を形成する第1基礎板材と第1基礎板材との間に砂や礫材を埋設し、該埋設した砂や礫材を締め固めて平滑面とした第1基礎体を形成し、
前記第1基礎体上に前第1基礎体記第1基礎板材の長手方向と略直交させて前記第2構造体を敷設し、前記第2構造体を形成する第2基礎板材と第2基礎板材との間に砂や礫材を埋設し、該埋設した砂や礫材を締め固めて平滑面とした第2基礎体を形成し、
前記軟弱地盤の地下水面から地下水が、前記埋設した砂や礫材の間隙を毛管現象で上昇し、該上昇した地下水により前記補強装置が地下水位以深となることで前記軟弱地盤を補強する、
ことを特徴とする軟弱地盤の補強方法。
【請求項7】
前記第1基礎体及び第2基礎体は交互に三段以上積み重ねて形成された、
ことを特徴とする請求項5または請求項6記載の軟弱地盤の補強方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、道路、駐車場、グラウンド、歩道、避難通路、線路や路面電車などの構造物を施工する際の液状化対策、軟弱粘性土地盤対策に用いられる軟弱地盤の補強装置及びその補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建設事業を推進しながら地中に森をつくり、温室効果ガスを減少させ気候変動緩和に貢献しようとする取り組みがなされている(カーボンストック技術)。ここで、樹木は光合成によって、大気中の二酸化炭素を吸収し、酸素と炭素を生成している。そして、生成した酸素は大気中に放出し、炭素は取り込み蓄えることで、樹木が生長する。このように森は、温暖化の主な原因である二酸化炭素を減らし、大気に放たず固定するという役割を担っている。
【0003】
カーボンストック技術は、木材を大量かつ長期間使用する地盤改良技術により、液状化対策や軟弱粘性土地盤対策といった建設事業を行いながら同時に、木材を利用による材料代替省エネルギー効果や炭素貯蔵効果により温室効果ガスを削減し、気候変動緩和・森林林業再生・安全安心社会の構築を行うことを特徴としている。
【0004】
従来の液状化対策や軟弱粘性土地盤対策は、地盤の改良深度がGL-2m程度の中層までの場合、セメントなどのセメント系固化材を用いて固化改良する工法が用いられていた。また、仮設的には、敷き鉄板などを敷き詰める場合や、ジオテキスタイルなどで地盤の変形を抑制する工法もあった。さらに、荷重を低減するために、発泡スチロール(EPS)を敷き詰める場合や、丸太を縦横に筏上に敷き詰め、外部に丸太を打設する方法が用いられる場合(特許第3939320号公報)などがあった。
【0005】
しかしながら、セメント系固化材を用いる場合は、(1)固化までの養生期間が必要になる、(2)六価クロムや地盤がアルカリ質となり地下水位を汚染する、(3)固化体自身が質量を増すので沈下を促進する、(4)セメント製造時に温室効果ガスを発生する、(5)不要となったときに撤去できない、といった課題があった。
【0006】
また、敷き鉄板などを敷き詰める場合は、(1)あくまでも仮設的な利用である、(2)重いので取り回しが悪く大量運搬もできない、(3)自身が重いので沈下を促進する、(4)敷き鉄板製造時に温室効果ガスを発生する、といった課題があった。
【0007】
ジオテキスタイルなどで地盤の変形を抑制する場合は、(1)ジオテキスタイル自体が変形するのである程度の変形を許容せざるを得ない、(2)製造時に化石燃料を多く使用するので環境負荷が大きい、(3)材料が高価である、といった課題があった。
【0008】
発泡スチロール(EPS)を敷き詰める場合は、(1)EPSを互いに固定しにくい、(2)軽量なため洪水時に浮き上がる、(3)化石燃料を多く使い環境負荷が大きい、(4)製造時エネルギーが大きくEPSがマイクロプラスチックとなり環境負荷が大きい、(5)材料が高価である、といった課題があった。
【0009】
丸太を筏上に敷き詰める場合は、(1)形状の不安定な丸太を並べるので設計通りの形状を構築するが難しい、(2)丸太を敷き詰めるので時間を要する、(3)丸太と丸太の間に隙間ができ腐朽の弱点になりやすい、(4)鉛直に打設した杭への係止とタイロッドが必要で高価となる、といった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3939320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
かくして、本発明は前記従来の課題に対処すべく創案されたものであって、板材に木材を使用することで固化までの養生期間を必要とせず、そのため施工が速く、直にトラフィカビリティを確保でき、該施工後の盛土などの構造体を直ちに使用することができ、地下水を汚染することなく、軽量であるため軟弱地盤の変形や沈下を促進することなく、また、板材の製造時に温室効果ガスを発生することもなく、前記構造体が不要となったときに容易に撤去することができ、さらには、補強材が軽量であるため大量の材料を一度に運搬可能とし、もって運搬コストの削減を図り、環境負荷を最小限に抑えるとともに、木材に固定された炭素を長期間地中に貯蔵でき、従来の材料費より格段に経費を抑えることができ、施工時の密着性や平坦性を高めつつ、凍結にも強く、設計が容易にできる軟弱地盤の補強装置及びその補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
軟弱地盤上に敷設される補強装置であって、
前記補強装置は、
前記軟弱地盤上に、同方向に向けて配置された複数の第1基礎板材につき任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設し形成した第1構造体と、前記第1基礎板材の長手方向と略直交させ、かつ任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設した複数の第2基礎板材で第2構造体を形成し、形成した第2構造体を第1構造体上に積み重ねた、
ことを特徴とし、
または、
前記積み重ねは、前記第1構造体と前記第2構造体とを、交互に三段以上積み重ねた、
ことを特徴とし、
または、
前記第1基礎板材及び第2基礎板材は、複数の板材ユニットを該板材ユニットの長手方向に連続して継ぎ合わせてなる、
ことを特徴とし、
または、
前記複数の第1基礎板材における長手方向の継ぎ部の状態は、該第1基礎板材の継ぎ部と隣接する第1基礎板材の継ぎ部とが同一直線上に並ばないよう配置され、
前記複数の第2基礎板材における長手方向の継ぎ部の状態は、該第2基礎板材の継ぎ部と隣接するした第2基礎板材の継ぎ部とが同一直線上に並ばないよう配置された、
ことを特徴とし、
または、
軟弱地盤上に、同方向に向けて配置された複数の第1基礎板材につき任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設し形成した第1構造体と、前記第1基礎板材の長手方向と略直交させ、かつ任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設した複数の第2基礎板材で第2構造体を形成し、形成した第2構造体を第1構造体上に積み重ねた補強装置を使用した軟弱地盤の補強方法であって、
前記第1構造体を前記軟弱地盤上に配置し、前記第1構造体を形成する第1基礎板材と第1基礎板材との間に砂や礫材を埋設し、該埋設した砂や礫材を締め固めて平滑面とした第1基礎体を形成し、
前記第1基礎体上に前第1基礎体記第1基礎板材の長手方向と略直交させて前記第2構造体を敷設し、前記軟弱地盤を補強する、
ことを特徴とし、
または、
軟弱地盤上に、同方向に向けて配置された複数の第1基礎板材につき任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設し形成した第1構造体と、前記第1基礎板材の長手方向と略直交させ、かつ任意の間隔(間隔≧0)を有して敷設した複数の第2基礎板材で第2構造体を形成し、形成した第2構造体を第1構造体上に積み重ねた補強装置を使用した軟弱地盤の補強方法であって、
前記第1構造体を前記軟弱地盤上に配置し、前記第1構造体を形成する第1基礎板材と第1基礎板材との間に砂や礫材を埋設し、該埋設した砂や礫材を締め固めて平滑面とした第1基礎体を形成し、
前記第1基礎体上に前第1基礎体記第1基礎板材の長手方向と略直交させて前記第2構造体を敷設し、前記第2構造体を形成する第2基礎板材と第2基礎板材との間に砂や礫材を埋設し、該埋設した砂や礫材を締め固めて平滑面とした第2基礎体を形成し、
前記軟弱地盤の地下水面から地下水が、前記埋設した砂や礫材の間隙を毛管現象で上昇し、該上昇した地下水により前記補強装置が地下水位以深となることで前記軟弱地盤を補強する、
ことを特徴とし、
または、
前記第1基礎体及び第2基礎体は交互に三段以上積み重ねて形成された、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、板材に木材を使用することで固化までの養生期間を必要とせず、そのため施工が速く、直にトラフィカビリティを確保でき、該施工後の盛土などの構造体を直ちに使用することができ、地下水を汚染することなく、軽量であるため軟弱地盤の変形や沈下を促進することなく、また、板材の製造時に温室効果ガスを発生することもなく、前記構造体が不要となったときに容易に撤去することができ、さらには、補強材が軽量であるため大量の材料を一度に運搬可能とし、もって運搬コストの削減を図り、環境負荷を最小限に抑えるとともに、木材に固定された炭素を長期間地中に貯蔵でき、従来の材料費より格段に経費を抑えることができ、施工時の密着性や平坦性を高めつつ、凍結にも強く、設計が容易にできるとの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の補強装置の概略構成を説明した説明図(1)である。
図2】本発明の補強装置の概略構成を説明した説明図(2)である。
図3】すべり安全率を算出する計算式を説明する説明図である。
図4】本発明の補強装置を使用した軟弱地盤の補強方法を説明した説明図(1)である。
図5】本発明の補強装置を使用した軟弱地盤の補強方法を説明した説明図(2)である。
図6】本発明の補強装置を使用した軟弱地盤の補強方法を説明した説明図(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図に示す実施例に基づき説明する。
図1及び図2は、本発明の補強装置1の概略構成を示した図である。前記補強装置1は、図1及び図2の断面図から明らかなように、軟弱地盤2と例えば盛土3などの構造物との間に敷設されるものである。
【0016】
本発明の補強装置1は、軟弱地盤2上に敷設される第1構造体4を一段目とし、該第1構造体4の上に敷設される第2構造体5を二段目として構成することを基本的な構成としている。なお、前記第1構造体4と軟弱地盤2との間には砂や礫材10を敷設し、該砂や礫材10の上に第1構造体4を設置してもよい。
【0017】
図1から理解されるとおり、前記第1構造体4は複数の第1基礎板材6から構成されている。そして、前記第1基礎板材6は、複数の板材ユニット7を該板材ユニット7の長手方向に連続して継ぎ合わせて形成されている。なお、該板材ユニット7と板材ユニット7との継ぎ合わせ部分が継ぎ部9となる。
【0018】
そして、前記第1構造体4と同様に、前記第2構造体5は、複数の第2基礎板材8から構成されており、前記第2基礎板材8は、複数の板材ユニット7を該板材ユニット7の長手方向に連続して継ぎ合わせて形成されている。ここでも、該板材ユニット7と板材ユニット7との継ぎ合わせ部分が継ぎ部9となる。
【0019】
ここで、板材ユニット7は、例えば、長手方向の長さが2m程度以上を有しており、かつ厚み及び横幅の長さが揃った木材あるいは木質材が使用される。前記板材ユニット7の厚みは数cm~20cm程度が用いられ、本実施例では板材ユニット7の厚みは、9cm程度を用いている。
【0020】
そのため、施工現場の規模に応じて、複数の前記板材ユニット7を継ぎ合わせて、長手方向の長さや短手方向の長さを調整することとなる。施工時には、木材あるいは木質材の厚さが揃った長い板状の材料を用いることで、施工時の取り回しがよく、板材同士の密着性を高めつつ、平坦性を高めることができ、また設計を容易にし、大量の運搬が可能で、現場加工も容易となり、さらには二酸化炭素の排出が少なく、炭素貯蔵ができるのである。
【0021】
さらに、前記板材ユニット7は、該板材ユニット7を敷設した状態で鉛直荷重に対する曲げ剛性とせん断抵抗を確保できる厚さのある1枚ものであって、面積が大きいものを使用することがより好ましい。例えば、丸太を板状に挽いた板材、CLT(直交集成材)などが挙げられる。
【0022】
次に、図1に基づき本発明の補強装置1に関する実施例を説明する。
複数の第1基礎板材6を同方向に向けて配置し、所定の間隔、例えば等間隔を有して敷設することで前記第1構造体4を構成している。なお、前記複数の第1基礎板材6の敷設は、例えば該第1基礎板材6を等間隔に複数敷設することも考えられるが、必ずしも等間隔に敷設する必要はなく、すべり安定性を設計上確保できる任意の間隔(間隔>0)で敷設されることとなる。図1の実施例においても、前記第1基礎板材6を横方向に配置し、該第1基礎板材6と第1基礎板材6との間は設計ですべり安定性を確保できる間隔で敷設されている。
【0023】
そして、前記第2構造体5は、前記第1構造体4を構成する前記第1基礎板材6の長手方向と略直交させ、かつ所定の間隔、例えば等間隔を有して、複数の第2基礎板材8が敷設されている。なお、上記同様に、前記複数の第2基礎板材8の敷設は、例えば該第2基礎板材8を等間隔に複数敷設することも考えられるが、必ずしも等間隔に敷設する必要はなく、すべり安定性を設計上確保できる任意の間隔(間隔>0)で敷設されることとなる。図1の実施例においても、前記第1基礎板材6と略直交する方向、すなわち縦方向に前記第2基礎板材8を配置し、該複数の第2基礎板材8は設計ですべり安定性を確保できる任意の間隔(間隔>0)で敷設されている。
【0024】
前記第1構造体4と第2構造体5との重ね合わせた状態が略井桁状となるよう形成される。この際、前記第1基礎板材6の継ぎ部9に前記第2基礎板材8の継ぎ部9が重ならないよう敷設することが好ましい。すなわち、第1構造体4を構成する第1基礎板材6の継ぎ部9に、前記第2基礎板材8の敷設平面を上方から重ねることを基本とする。ただし、設計上余裕がある場合は、この限りではない。
【0025】
このように重ね合わせることで、補強構造としての強度を保ちつつ、一方の継ぎ部9に他方の板材平面を重ねることとなり、継ぎ部9で段差が生じにくい構造となるのである。
【0026】
次に、図2に基づき本発明の補強装置1に関する実施例を説明する。図2は設計により板材の間隔が最も短く(任意の間隔=0)となった状態である。
図2の実施例では、複数の第1基礎板材6を幅方向に当接させて敷設し、一段目の第1構造体4を形成している。この際、前記複数の第1基礎板材6における幅方向の当接状態は、該第1基礎板材6の継ぎ部9と当接した第1基礎板材6の継ぎ部9とが同一直線上に並ばないよう配置されることが好ましい。これにより、強度と剛性を高めつつ、板材同士の密着性を高めることにつながるためである。
【0027】
そして、前記第1構造体4上に前記第1基礎板材6の長手方向と略直交させて複数の第2基礎板材8を敷設する。この敷設する際、前記複数の第2基礎板材8を幅方向に当接させて敷設し、第2構造体5を形成する。この場合も、前記複数の第2基礎板材8における幅方向の当接状態は、該第2基礎板材8の継ぎ部9と当接した第2基礎板材8の継ぎ部9とが同一直線上に並ばないよう配置されることが好ましい。
【0028】
図1の実施例と同様に、上記のとおり第1構造体4を形成し、該形成した第1構造体4上に二段目となる第2構造体5を積み重ねる際には、前記第1基礎板材6の継ぎ部9に前記第2基礎板材8の継ぎ部9が重ならないよう敷設する。これにより、補強構造としての強度を保ちつつ、一方の継ぎ部9に他方の板材平面を重ねるので、他方の継ぎ部9で段差が生じにくい構造となることは既に説明したとおりである。
【0029】
図2の実施例は、図1の実施例と比べて、軟弱地盤2の敷設面全面に前記第1基礎板材6を敷き詰めて第1構造体4を形成し、次いで、前記第2基礎板材8を前記第1構造体4の敷設面全面に敷き詰めて第2構造体5を形成することとなる。そのため、図1の実施例のように補強装置1を略井桁状に配置した場合より、より強度が高くなることから、施工現場に応じて前記第1構造体4及び第2構造体5の組み方は適宜判断されるものとなる。
【0030】
ところで、本発明の補強装置1は、該補強装置1の浮力により該補強装置1が浮き上がらないように設計されるとともに、前記補強装置1上に設けた構造物がすべり破壊を起こさないように設計されていることも、本発明の特徴の一つである。
【0031】
本発明の補強装置1は木材あるいは木質材を用いて、前記第1構造体4及び第2構造体5を組み合わせた構造となっている。そのため、木材の浮力を鉛直1次元(深度方向)で考慮し、[軟弱地盤の飽和質量-補強装置1の乾燥質量]を浮力として、この浮力以上の上載荷重、すなわち構造物を載荷するように設計を行う必要がある。ここで、補強装置1の乾燥質量を用いるのは、最も危険な状態を想定して設計を行うからである。
【0032】
ここで、すべり安全率を算出するにあたり、図3に基づき説明する。
本実施例では、土(本件の場合は盛土)の粘着力cを、板材のせん断抵抗、すなわち本発明に用いられる板材(板材ユニット7)の厚さと置き換えて算出する。盛土に想定されるすべり破壊と、該すべり破壊された部分と並行する方向の板材のみが盛土中に存在するものとし、該盛土中に存在する板材が前記土の粘着力cに影響するものと仮定して、すべり安全率を算出する。この算出方法を利用して、所定のすべり安全率を満足させるように補強装置1を設計することとなる。
【0033】
ところで、本発明の補強装置1は主材料として木材(あるいは木質材)を板材として使用しており、該木材を使用することで、上述した通り、前記補強装置1が軽量となるばかりでなく、炭素貯蔵も可能で、さらには現場加工が容易となる。これらは木材を主材料として使用することで得られる効果であるが、この場合、木材の腐朽や虫害が問題となる。
【0034】
この問題に対して発明者らは、毛管水頭による木材の腐朽防止方法を発明し、特許を取得している(特許第5261839号)。この腐朽防止方法によれば、虫害の防止にもつながる。かかる方法は本発明にも応用されており、木材である板材を地下水位以深にすることで板材の腐朽を防止することができる。
【0035】
ここで、本発明における毛管水頭による木材の腐朽防止方法を簡単に説明する。
あらかじめ軟弱地盤2の地下水面から地盤表面までの深さを、例えば地盤のボーリングなどによって測定する。そして、砂や礫材10からなる盛土材の体積含水率が飽和状態における地下水面からの高さを毛管水頭の高さとして測定する。なお、地下水面とは、地盤中にボーリングなどによって孔を形成した時に現れる大気と地下水が接する面をいう。
【0036】
そして測定結果から、本発明の補強装置1を軟弱地盤2に敷設し、該補強装置1が敷設された地盤表面に盛土材が積み上げられた場合に、地下水面から前記補強装置1の上端までの高さが、前記盛土材の体積含水率が飽和状態における毛管水頭の高さよりも小さくなるようにする。これは、地下水が盛土材の間隙を毛管現象で上昇し、前記毛管水頭の高さまで毛管水で満たされることを利用したものである。これにより、本発明の補強装置1が地下水位以深となり、木材からなる板材の腐朽を防止することができるのである。
【0037】
さらに、本発明の補強装置1を構成する第1構造体4と軟弱地盤2との間に、砂や礫材10が敷設される場合があることは既に説明したとおりであるが、該敷設した砂や礫材10によっても、地下水位を上昇させることができる。これは、砂や礫材10が軟弱地盤2の地下水面に接すると、該砂や礫材10の間隙を地下水が毛管現象により上昇するためである。そして、上記同様に盛土材が積み上げられた場合に、上昇した地下水が盛土材の間隙を毛管現象でさらに上昇し、本発明の補強装置1が地下水位以深となり、木材からなる板材の腐朽を防止する。
【0038】
次に、本発明の補強装置1を使用した軟弱地盤2の補強方法につき、図4乃至図6に基づき説明する。
まず、軟弱地盤2上に第1基礎板材6を敷設し、該敷設した箇所から所定の間隔を空けて第1基礎板材6を敷設する。このように地盤を補強したい範囲に、前記第1基礎板材6を所定の間隔、例えば等間隔に複数枚敷設し、第1構造体4を構成する(図4(a)、(b)参照)。
【0039】
そして、前記第1基礎板材6を所定の間隔、例えば等間隔に複数枚敷設し、第1構造体4を構成した後、該敷設した第1基礎板材6と第1基礎板材6との間に、砂や礫材10を投入し充填する(図4(b)参照)。なお、前記砂や礫材10は盛土材などである。
【0040】
次いで、前記充填した砂や礫材10をタンパーなどの締固め用機械を用いて締固めを行う(図5(a)参照)。この際、前記第1構造体4の上端面と、前記充填し、締固めた砂や礫材10の上端面とが平滑となるように仕上げると良い。
【0041】
そして、砂や礫材10の締固めにより、前記第1構造体4の上端面と弊滑面となった上に第2基礎板材8を敷設する。この場合、前記第1基礎板材6の長手方向と略直交させて配置する(図5(b)参照)。所定の間隔を空けて複数の第2基礎板材8を敷設し、第2構造体5を構成する。
【0042】
この際、前記第2基礎板材8が前記第1基礎板材6と接触する部分は、前記第2基礎板材8と前記第1基礎板材6とが密着するように敷設する。これにより、前記第1基礎板材6の継ぎ部9を第2基礎板材8の敷設面で上方から重ねることとなり、前記継ぎ部9で段差が生じにくい構造となる他、後述する第2構造体5を第1構造体4にしっかり固定することができるためである。
【0043】
ここで、前記第1基礎板材6及び第2基礎板材8は、施工現場に応じて長手方向の長さや、短手方向の長さを適宜調整することができる。その際、第1基礎板材6及び第2基礎板材8を形成する板材ユニット7の継ぎ合わせを工夫することで各長さを容易に調整可能となっている。前記板材ユニット7は木材や木質材が用いられているため、加工が容易で、凍結に強い特徴も有している。
【0044】
なお、板材ユニット7の継ぎ合わせは、例えば製造現場などで事前に前記第1基礎板材6及び第2基礎板材8を形成し、該形成した第1基礎板材6及び第2基礎板材8を運搬用トラックなどで施工現場に運搬することが考えられる。
【0045】
この場合においても、前記第1基礎板材6及び第2基礎板材8は、木材や木質材で形成されているため、軽量であり、一度に大量に運搬が可能となる。そのため、運搬にかかるコストを抑えることができ、省エネルギー効果も期待できるのである。
【0046】
上記手順で第1構造体4と第2構造体5とを略井桁状に組んだ後、前記第1構造体4を構成する第1基礎板材6と、前記第2構造体5を構成する第2基礎板材8との交点(接触面)をラグスクリューなどのボルトを使用して仮止めする(図6(a)参照)。その後、前記交点にドリル等で貫通孔を空け、該貫通孔に丸鋼や木製丸棒などのピンをハンマーで打ち込みピン止めする。
【0047】
これにより、第1構造体4と第2構造体5とがしっかり固定され、本発明の補強装置1が構成される。なお、該固定方法は、第1構造体4と第2構造体5とがズレ動くことがなければ上記ピン止め方法に限定されない。
【0048】
ところで、軟弱地盤2の状況によっては、二段目となる第2構造体5上に、新たに第1構造体4を形成し、三段目として敷設することもある。この場合は、前記第2構造体5の上端面と、前記充填し締固めた砂や礫材10の上端面とが平滑となるように仕上げる必要がある。
【0049】
そして、砂や礫材10の締固めにより前記第2構造体5の上端面と弊滑面になった上に第1基礎板材6を敷設する。この場合も、前記第2基礎板材8の長手方向と略直交させ、等間隔に第1基礎板材6を複数枚配置し、上述の方法で該第1基礎板材6を固定する。これにより、三段目となる第1構造体4を構成する。
【0050】
このように、前記第1構造体4と前記第2構造体5とを、交互に四段目、五段目・・・と複数段積み重ねることで軟弱地盤2の状況に応じて補強装置1を構成することとなる。
【0051】
本発明の補強装置1は、軽量な木質材を用いるため盛土荷重を低減する効果があり、従来技術のセメント系固化材やジオテキスタイル材のように地下水を汚染することもなく、大量の炭素を地中に固定する効果も期待できるものである。また、上載荷重を分散して軟弱地盤2に伝達し、該軟弱地盤2の変形を均等化することができ、不同沈下を抑制する効果も有する。特に、盛土などの構造物の厚さが薄い時に有効である。
【0052】
また、第1基礎板材6や第2基礎板材8を敷き詰めて、第1構造体4や第2構造体5を形成する方法のため施工が速く、養生を必要としないので、補強装置1を施工後、直ちに盛土などの構造物を使用できることも特徴の一つである。
【0053】
さらに、従来技術の例えば、セメント系固化材を用いた地盤補強などとは異なり、確実に強度と剛性のあるもの用いて構成されているので、原材料の配合試験など予備試験が不要であり、確実な性能を得られるものである。そして、木材や木質材からなる板材を組み合わせて構成されているため、仮設の盛土などにも使用でき、不要となった場合は補強装置1の撤去が可能という優れた効果を有している。
【符号の説明】
【0054】
1 補強装置
2 軟弱地盤
3 盛土
4 第1構造体
5 第2構造体
6 第1基礎板材
7 板材ユニット
8 第2基礎板材
9 継ぎ部
10 砂や礫材

図1
図2
図3
図4
図5
図6