(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068786
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】触媒の処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20240514BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240514BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240514BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20240514BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240514BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B7/00 B
C22B3/06
C22B3/08
C22B3/22
C22B3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179374
(22)【出願日】2022-11-09
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】久保 裕也
(72)【発明者】
【氏名】村井 拓海
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA41
4K001BA22
4K001CA01
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB06
4K001DB07
4K001DB16
4K001DB26
(57)【要約】
【課題】簡易な方法により、廃触媒から白金族金属を効率的に回収することができる触媒の処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】触媒の粉砕物に反応剤である硫酸水素アンモニウムを混合して混合物を生成し、混合物を加熱処理して得られた反応物を溶解液により浸出することで、第1の浸出液と第1の固体残渣に分離する。さらに第1の固体残渣を酸溶液で浸出することで、第2の浸出液と第2の固体残渣に分離する。第1の浸出液、及び第2の浸出液には白金族金属成分が浸出されており、これらを溶媒抽出することで、触媒から白金族金属を回収することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリア、ジルコニア、並びにアルミナの少なくとも一つを含む酸化物、及び白金族金属を含有する触媒の粉砕物に、反応剤である所定量の硫酸水素アンモニウムを混合して混合物を生成し、該混合物を所定の加熱条件で加熱する工程と、
該加熱する工程で得られた反応物を所定の溶解液で浸出し、第1の固体残渣と第1の浸出液とを得る工程と、
前記第1の固体残渣を所定の酸溶液で浸出し、第2の固体残渣と第2の浸出液とを得る工程と、を備える
触媒の処理方法。
【請求項2】
前記硫酸水素アンモニウムは、前記粉砕物に対する重量比で2~30倍を混合する
請求項1に記載の触媒の処理方法。
【請求項3】
前記混合物を所定の加熱条件で加熱する工程は、前記混合物の温度が略150~520℃となる加熱条件で加熱する
請求項1または請求項2に記載の触媒の処理方法。
【請求項4】
前記溶解液は、純水、硝酸、塩酸、蒸留水、水道水、硫酸、イオン交換水のうちから選択される
請求項1または請求項2に記載の触媒の処理方法。
【請求項5】
前記酸溶液は、王水、塩素を含有する塩酸、及び過酸化水素を含有する塩酸から選択される
請求項1または請求項2に記載の触媒の処理方法。
【請求項6】
前記第1の浸出液、及び前記第2の浸出液を溶媒抽出して前記白金族金属を回収する工程をさらに備える
請求項1または請求項2に記載の触媒の処理方法。
【請求項7】
セリア、ジルコニア、並びにアルミナの少なくとも一つを含む酸化物、及び白金族金属を含有する触媒の粉砕物に、反応剤である所定量の硫酸水素アンモニウムを混合して混合物を生成し、該混合物を所定の加熱条件で加熱する工程と、
該加熱する工程で得られた反応物を所定の酸溶液で浸出し、浸出液と固体残渣とを得る工程と、を備える
触媒の処理方法。
【請求項8】
母材に白金族金属を担持しセリア、ジルコニア、並びにアルミナの少なくとも一つを含む酸化物を含有する触媒コート層が形成されたブロック体からなる触媒に、反応剤である所定量の硫酸水素アンモニウムを加えて所定の加熱条件で加熱する工程と、
該加熱する工程で得られた反応物を所定の溶解液で浸出し、前記白金族金属及び前記触媒コート層の金属成分を含むスラリー体を得る工程と、
前記スラリー体を固液分離し、第1の固体残渣と第1の浸出液とを得る工程と、
前記第1の固体残渣を所定の酸溶液で浸出し、第2の固体残渣と第2の浸出液とを得る工程と、を備える
触媒の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の処理方法に関する。詳しくは、簡易な方法により、廃触媒から白金族金属を効率的に回収することができる触媒の処理方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大半のガソリン自動車が、三元触媒コンバータ(以下、「触媒」という。)を使用した排ガス浄化システムを搭載している。この触媒は、一酸化炭素、窒素酸化物、未燃焼の炭化水素を、二酸化炭素、窒素、水に変換して、ガソリンエンジンの燃焼後の排ガスを浄化する機能を有するものである。
【0003】
触媒の基本構造は、主にセラミックを原材料とするハニカム構造の母材の表面に、セリア、ジルコニア、アルミナをはじめとする無機酸化物から構成された触媒コート層が形成され、この触媒コート層に白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などの白金族金属が担持されている。
【0004】
白金族金属は、自動車用触媒をはじめとして多くの工業製品に採用されている産業の必須元素であり、使用済みの触媒(以下、「廃触媒」という。)からの白金族金属の回収技術を確立することで、これら白金族金属の安定的な供給を図ることができる。また、白金族金属の単価は高いため、回収率が僅かに向上するだけでも収益に大きく貢献することができる。
【0005】
廃触媒から白金族金属を回収する方法としては、従来、乾式法と湿式法が用いられてきた。ここで、乾式法は、廃触媒に含まれる白金族金属、或いは金をコレクター金属(銅、ニッケル、鉛など)とともに加熱することで、白金族金属をコレクター金属中に合金として回収する方法であり、例えば特許文献1に開示の技術が知られている。一方、湿式法は、王水、又は塩酸等の酸に酸化剤である過酸化水素を加えた溶液で白金族金属を抽出する方法や、硫酸等を用いて触媒の担体材料を溶かして未溶解の白金族金属を分離する方法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した従来技術のうち、乾式法は、白金族金属の回収率は高いが、大型の設備投資が必要となるため、回収コストが高いという問題がある。一方、湿式法は、大型設備を必要としないが、白金族金属を担持する触媒コート層は酸に対して難溶解性であるため、白金族金属の溶解を阻害する結果、白金族金属の抽出率が悪く、さらに湿式法では大量の酸を必要とするため廃液処理も必要となるなど、コスト、及び回収率の点で問題が多い。
【0008】
以上のような課題について、本願の発明者らは鋭意研究した結果、硫酸水素アンモニウムを加熱して得られた溶融塩は、触媒コート層に含まれるセリア、ジルコニア、アルミナをはじめとする無機酸化物を短時間で溶解除去することを見出し、廃触媒から白金族金属を効率的に抽出できる手法を開発した。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、簡易な方法により、廃触媒から白金族金属を効率的に回収することができる触媒の処理方法に係るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明の触媒の処理方法は、セリア、ジルコニア、並びにアルミナの少なくとも一つを含む酸化物、及び白金族金属を含有する触媒の粉砕物に、反応剤である所定量の硫酸水素アンモニウムを混合して混合物を生成し、該混合物を所定の加熱条件で加熱する工程と、該加熱する工程で得られた反応物を所定の溶解液で浸出し、第1の固体残渣と第1の浸出液とを得る工程と、前記第1の固体残渣を所定の酸溶液で浸出し、第2の固体残渣と第2の浸出液とを得る工程とを備える。
【0011】
ここで、セリア、ジルコニア、並びにアルミナの少なくとも一つを含む酸化物、及び白金族金属を含有する触媒の粉砕物に、反応剤である所定量の硫酸水素アンモニウムを混合して混合物を生成し、混合物を所定の加熱条件で加熱する工程を備えることにより、粉砕物に反応剤である硫酸水素アンモニウムを混合して得られた混合物を所定の温度まで加熱することで、硫酸水素アンモニウムが溶融塩となり、該溶融塩により粉砕物に含まれる酸化物を溶解除去することができる。
【0012】
また、混合物を加熱処理して得られた反応物を所定の溶解液で浸出し、第1の固体残渣と第1の浸出液とを得る工程を備えることにより、反応物を主に白金族金属を含む第1の固体残渣と、主に酸化物を形成する金属成分を含む第1の浸出液とに分離することができる。
【0013】
また、第1の固体残渣を所定の酸溶液で浸出し、第2の固体残渣と第2の浸出液とを得る工程を備えることにより、第1の固体残渣のうち、酸溶液に対して易溶解性の白金族金属を主に含む第2の浸出液と、それ以外の残渣である第2の固体残渣とに分離することができる。以上の工程により、触媒の粉砕物から白金族金属を回収することができる。
【0014】
また、硫酸水素アンモニウムは、粉砕物に対する重量比で2~30倍を混合する場合には、混合物の反応が促進され、粉砕物から酸化物を短時間で溶解除去することができる。なお、粉砕物に対する硫酸水素アンモニウムが重量比で2倍未満の場合には、粉砕物との反応が促進されず、粉砕物から酸化物を効率的に溶解除去することができない。一方、粉砕物に対する硫酸水素アンモニウムが重量比で30倍を超えても反応時間に変化はないため、処理コストを考慮すると、硫酸水素アンモニウムの粉砕物に対する重量比の上限は30倍程度であることが好ましい。
【0015】
また、混合物を所定の温度で加熱する工程において、混合物の温度が150~520℃となる加熱条件で加熱する場合には、硫酸水素アンモニウムによる反応が促進され、効率的に粉砕物から酸化物を溶解除去することができる。なお、加熱条件として、混合物の温度が150℃未満である場合には、硫酸水素アンモニウムが溶融状態とならず、粉砕物から酸化物を完全に溶解除去することができないため白金族金属の回収率が悪化する。一方、硫酸水素アンモニウムは略520℃前後が沸点となるため、混合物の加熱条件としては、150℃~520℃であることが好ましい。
【0016】
また、溶解液は、純水、硝酸、塩酸、蒸留水、水道水、硫酸、イオン交換水のうちから選択される場合には、これら溶解液により混合物を第1の固体残渣と第1の浸出液とに分離することができる。
【0017】
また、酸溶液は、王水、塩素を含有する塩酸、及び過酸化水素を含有する塩酸から選択される場合には、これら酸溶液は強い酸化性を示すため、第1の固体残渣から白金族金属を効率的に浸出することができる。
【0018】
また、第1の浸出液、及び第2の浸出液を溶媒抽出して白金族金属を回収する工程をさらに備える場合には、第1の浸出液、及び第2の浸出液に含まれる白金族金属を各浸出液から溶媒抽出して回収することができる。
【0019】
前記の目的を達成するために、本発明の触媒の処理方法は、セリア、ジルコニア、並びにアルミナの少なくとも一つを含む酸化物、及び白金族金属を含有する触媒の粉砕物に、反応剤である所定量の硫酸水素アンモニウムを混合して混合物を生成し、該混合物を所定の加熱条件で加熱する工程と、該加熱する工程で得られた反応物を所定の酸溶液で浸出し、浸出液と固体残渣とを得る工程とを備える。
【0020】
ここで、セリア、ジルコニア、並びにアルミナの少なくとも一つを含む酸化物、及び白金族金属を含有する触媒の粉砕物に、反応剤である所定量の硫酸水素アンモニウムを混合して混合物を生成し、混合物を所定の加熱条件で加熱する工程を備えることにより、粉砕物に反応剤である硫酸水素アンモニウムを混合して得られた混合物を所定の温度まで加熱することで、硫酸水素アンモニウムが溶融塩となり、該溶融塩により粉砕物に含まれる酸化物を溶解除去することができる。
【0021】
そして、加熱する工程で得られた反応物を所定の酸溶液で浸出し、浸出液と固体残渣とを得る工程を備えることにより、反応物のうち、酸溶液に対して易溶解性の白金族金属を主に含む浸出液と、それ以外の残渣である固体残渣とに分離することができる。そして、浸出液を溶媒抽出することで、触媒の粉砕物から白金族金属を回収することができる。
【0022】
前記の目的を達成するために、本発明の触媒の処理方法は、母材に白金族金属を担持しセリア、ジルコニア、並びにアルミナの少なくとも一つを含む酸化物を含有する触媒コート層が形成されたブロック体からなる触媒に、反応剤である所定量の硫酸水素アンモニウムを加えて所定の加熱条件で加熱する工程と、該加熱する工程で得られた反応物を所定の溶解液で浸出し、前記白金族金属及び前記触媒コート層の金属成分を含むスラリー体を得る工程と、前記スラリー体を固液分離し、第1の固体残渣と第1の浸出液とを得る工程と、前記第1の固体残渣を所定の酸溶液で浸出し、第2の固体残渣と第2の浸出液とを得る工程とを備える。
【0023】
ここで、母材に白金族金属を担持しセリア、ジルコニア、並びにアルミナの少なくとも一つを含む酸化物を含有する触媒コート層が形成されたブロック体からなる触媒に、反応剤である所定量の硫酸水素アンモニウムを加えて所定の加熱条件で加熱する工程を備えることにより、硫酸水素アンモニウムが溶融塩となり、該溶融塩により母材から触媒コート層を剥離させることができる。
【0024】
そして、反応物を所定の溶解液で浸出することで、ブロック体からなる触媒を、白金族金属及び触媒コート層の金属成分からなるスラリー体と母材とに分離することができる。
【0025】
また、スラリー体を固液分離し、第1の固体残渣と第1の浸出液とを得る工程を備えることにより、スラリー体を、主に白金族金属を含む第1の固体残渣と、主に酸化物を形成する金属成分を含む第1の浸出液とに固液分離することができる。
【0026】
また、第1の固体残渣を所定の酸溶液で浸出し、第1の固体残渣のうち、酸溶液に対して易溶解性の白金族金属を主に含む第2の浸出液と、それ以外の残渣である第2の固体残渣とに分離することができる。以上の工程により、触媒の粉砕物から白金族金属を回収することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る触媒の処理方法は、簡易な方法により、廃触媒から白金族金属を効率的に回収することができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る触媒の処理方法の工程図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る触媒の処理方法の工程図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態に係る触媒の処理方法の工程図である。
【
図4】実施例において、硫酸水素アンモニウムを反応剤とした触媒の粉砕物の溶融塩処理の状態を示す外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る触媒の処理方法について図面等を用いて詳細に説明し、本発明の理解に供する。
【0030】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態に係る触媒の処理方法の工程図を示す。本実施形態に係る触媒の処理方法は、触媒の粉砕物に反応剤である硫酸水素アンモニウムを混合して混合物を生成し(工程1)、生成した混合物を加熱処理し(工程2)、工程2の加熱処理により得られた反応物を溶解液で水浸出し(工程3)、工程3の水浸出で得られた第1の固体残渣と第1の浸出液のうち、第1の固体残渣をさらに酸溶液で酸溶解して第2の固体残渣と第2の浸出液とを得る(工程4)、一連の工程から主に構成されている。
【0031】
工程1における触媒の粉砕物は、自動車の廃触媒(酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム等を原材料とするハニカム構造の母材の表面に、白金族金属が担持された触媒コート層が形成されたもの)を、事前に粉砕機により粉末状となるまで粉砕したものである。そして、この粉砕物に反応剤である硫酸水素アンモニウムを混合する。硫酸水素アンモニウムは、粉砕物の重量比で略2倍~30倍の量を目安として混合される。
【0032】
ここで、硫酸水素アンモニウムの混合量が粉砕物の重量比で略2倍未満の場合には、混合物を加熱処理した際に、硫酸水素アンモニウムの溶融塩に粉砕物が完全に浸漬されずに、粉砕物と硫酸水素アンモニウムとの反応が促進されず、粉砕物に含まれる酸化物(触媒コート層の成分であるセリア、ジルコニア、アルミナ)を粉砕物から完全に溶解除去することができない。
【0033】
一方、硫酸水素アンモニウムの混合量が粉砕物の重量比で略30倍を超えても、酸化物を溶解除去するための反応時間に大きな変化は見られない。そのため、処理コストを考慮すると、硫酸水素アンモニウムの粉砕物に対する重量比の上限は略30倍程度であることが好ましい。
【0034】
工程2における加熱条件としては、硫酸水素アンモニウムが溶融塩となる150℃以上となるように調整する。硫酸水素アンモニウムが溶融塩となることにより、粉砕物に含まれる触媒コート層を構成する酸化物が溶解しはじめるため、後記する工程3の水浸出により、粉砕物から触媒コート層を浸出することができる。
【0035】
ここで加熱条件として、混合物の温度が150℃未満である場合には、硫酸水素アンモニウムが完全な溶融状態とならないため、粉砕物との反応が促進されない。従って、粉砕物から酸化物が完全に溶解することができないため、粉砕物からの白金族金属の回収率が悪化する。なお、加熱温度の上限値としては硫酸水素アンモニウムの沸点付近(略520℃前後)に設定することができる。
【0036】
工程3では、工程2で得られた反応物を所定の溶解液により浸出して第1の固体残渣と第1の浸出液とに分離する。なお、溶解液浸出において使用する溶解液としては特に限定されるものではないが、例えば水道水、蒸留水、イオン交換水、純水、或いは薄い酸(塩酸、硝酸、硫酸)等から適宜選択することができるものとする。
【0037】
粉砕物と硫酸水素アンモニウムとの混合物を加熱処理すると、前記した通り、粉砕物に含まれる成分のうち、酸化物を溶融塩により溶融させることができる。そして、反応物を溶解液で水浸出し、得られたスラリー体を固液分離することで、主に酸化物を形成する金属成分含む第1の浸出液と白金族金属を含む第1の固体残渣とに分離することができる。
【0038】
また、工程4では第1の固体残渣をさらに酸溶液で浸出し、得られたスラリー体を固液分離することで、第1の固体残渣のうち酸に対して易溶解性である白金族金属を第2の浸出液として浸出させ、その他の成分は第2の固体残渣として分離することができる。
【0039】
工程4で得られた第2の浸出液をさらに溶媒抽出することで、白金族金属であるPt、Pd、Rhを回収することができる。なお、白金族金属のうち一部の成分(例えばPt、Pd)が第1の浸出液に含まれる場合もある。そのため、第1の浸出液についても溶媒抽出することで、白金族金属の回収率をさらに高めることができる。
【0040】
[第2の実施形態]
次に本発明の第2の実施形態について
図2の工程図に基づいて説明する。なお、以下の説明では、第1の実施形態と重複する説明については省略する。
【0041】
第2の実施形態においては、第1の実施形態と同様に、触媒の粉砕物に反応剤である硫酸水素アンモニウムを混合して混合物を生成し(工程1)、この混合物を加熱処理することで反応物を得る(工程2)。そして、第2の実施形態においては、第1の実施形態のように溶解液による水浸出の工程を経ることなく、工程2で得られた反応物を酸溶液で浸出して浸出液と固体残渣とを得る(工程3)、一連の工程から構成されている。
【0042】
以上の工程において、まず、工程1、及び工程2で粉砕物に反応剤である硫酸水素アンモニウムを混合して得られた混合物を所定の温度まで加熱することで反応物を得ることができる。この反応物は、前記した通り、硫酸水素アンモニウムが溶融塩となり、該溶融塩により粉砕物に含まれる酸化物が溶解除去された状態となっている。
【0043】
そして、工程3で反応物を酸溶液により浸出し、得られたスラリー体を固液分離すると、酸溶液に対して易溶解性の白金族金属を主に含む浸出液と、酸化物を主に含む固体残渣とに分離することができる。そして、浸出液を溶媒抽出することにより、白金族金属を回収することができる。
【0044】
以上のように、第2の実施形態においては、第1の実施形態に比べて処理方法をより簡素化することができるため、処理コストを抑制することができる。
【0045】
[第3の実施形態]
次に本発明の第3の実施形態について
図3に基づいて説明する。なお、以下の説明では、第1の実施形態、及び第2の実施形態と重複する説明については省略する。
【0046】
第1の実施形態、及び第2の実施形態では触媒の粉砕物を被処理物とした処理方法を説明したが、第3の実施形態では粉砕前のブロック体(母材に白金族金属を担持しセリア、ジルコニア、並びにアルミナの少なくとも一つを含む酸化物を含有する触媒コート層が形成された触媒)からなる触媒を被処理物とする処理方法である。
【0047】
そして、第3の実施形態に係る処理方法は、ブロック体からなる触媒に反応剤である硫酸水素アンモニウムを加えて(工程1)、さらに加熱処理し(工程2)、工程2の加熱処理により得られた反応物を溶解液で水浸出し(工程3)、工程3の水浸出で得られたスラリー体を固液分離することで第1の固体残渣と第1の浸出液とに分離し(工程4)、さらに工程4で得られた第1の固体残渣を酸溶液で酸溶解して第2の固体残渣と第2の浸出液とを得る(工程5)、一連の工程から主に構成されている。
【0048】
まず、工程1、工程2においてブロック体の触媒に硫酸水素アンモニウムを加えたうえで、所定の加熱条件で加熱することにより、白金族金属が担持された触媒コート層を母材から剥離させることができる。そして、工程3で溶解液により水浸出することで、ブロック体からなる触媒は、母材と、白金族金属及び触媒コート層の金属成分からなるスラリー体とに分離することができる。なお、分離された母材はそのまま廃棄、或いはリサイクルされる。
【0049】
一方、工程3で得られたスラリー体は、硫酸水素アンモニウムとの反応により、触媒コート層に含まれる酸化物が溶融塩により溶解除去された状態となっているため、工程4でスラリー体を固液分離することにより、酸化物を形成する金属成分からなる第1の浸出液と、酸に対して易溶解性を示す白金族金属を含む第1の固体残渣とに分離することができる。
【0050】
そして、工程5では第1の固体残渣をさらに酸溶液で浸出することで、第1の固体残渣のうち酸に対して易溶解性である白金族金属を第2の浸出液として浸出させ、その他の成分は第2の固体残渣として分離することができる。
【0051】
工程5で得られた第2の浸出液を溶媒抽出することで白金族金属であるPt、Pd、Rhを回収することができる。なお、第1の浸出液にも白金族金属のうち一部の成分(例えばPt、Pd)が含まれる場合もある。そのため、第1の浸出液についても溶媒抽出することで、白金族金属の回収率をさらに高めることができる。
【0052】
以上のように、第3の実施形態においては、ブロック体からなる触媒をそのまま処理することができるため、第1の実施形態や第2の実施形態のように、触媒の粉砕処理を行う必要がないため、処理コストを抑制することができる。
【0053】
次に、本発明の実施例について説明する。
<溶融塩処理>
実施例では触媒の粉砕物0.5gと反応剤である硫酸水素アンモニウム5.0gを準備し、それぞれ混合した状態(以下、触媒の粉砕物と硫酸水素アンモニウムとを混合したものを「混合物」という。)で試験管に投入し、約20分程度、バーナーにより試験管の底部を加熱した。
【0054】
図4は、試験管の加熱を開始してから5分毎の試験管内の様子を示す外観写真である。
図4(b)に示すように、加熱開始から5分後には硫酸水素アンモニウムは溶融した液体状(溶融塩)となり、この溶融塩に触媒が次第に浸漬されて反応が進む様子が確認できる。そして
図4(d)に示すように、加熱開始から15分後には、混合物は白濁の懸濁液からなる反応物が生成された。
【0055】
<溶解液浸出>
その後、試験管を室温まで放冷し、溶解液(イオン交換水)を投入して、固化した溶融塩がなくなるまでボルテックスミキサーを用いて水浸出を行った。水浸出により得られたスラリー体をろ過することにより、濾液(第1の浸出液)と残渣(第1の固体残渣)とに分離した。
【0056】
<酸溶解>
さらに、第1の固体残渣を王水で約2時間撹拌浸出させた。放冷後、浸出液をろ過することにより濾液(第2の浸出液)と残渣(第2の固体残渣)とに分離した。
【0057】
溶解液浸出により得られた第1の浸出液と、王水により得られた第2の浸出液のそれぞれについてICP発光分光装置により白金族金属成分(Pt、Pd、Rh)の濃度を測定した結果を表1に示す。なお、表1には比較例として、硫酸水素アンモニウムによる溶解塩処理を行わなかった場合の結果も示す。
【0058】
【0059】
表1に示す通り、硫酸水素アンモニウムによる溶融塩処理を行った場合の白金族金属の回収率は各成分ともに99.9%以上となるのに対して、同処理を行わなかった場合の白金族金属の回収率はPdの回収率が95.9%で最も高く、Ptが90.6%、Rhについては53.5%に留まる結果となった。
【0060】
以上の結果より、触媒を硫酸水素アンモニウムによる溶融塩処理を行うことで、白金族金属の回収率を大幅に高めることが確認できた。そして、第1の浸出液、及び第2の浸出液に対して、例えば溶媒抽出により白金族金属成分だけを抽出することで、触媒から白金族金属を回収することができる。
【0061】
以上、本発明に係る触媒の処理方法は、簡易な方法により、廃触媒から白金族金属を効率的に回収することができる。