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特開2024-68860金型焼付き予測方法、金型焼付き予測装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068860
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】金型焼付き予測方法、金型焼付き予測装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B22D 46/00 20060101AFI20240514BHJP
   B22C 9/00 20060101ALI20240514BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B22D46/00
B22C9/00 E
B22C9/00 Z
B22D21/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179479
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】高坂 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 直嗣
(57)【要約】
【課題】流路が狭くなるところで発生し得る金型の焼付きを正確に予測できる金型焼付き予測方法を提供する。
【解決手段】金型焼付き予測方法は、アルミ溶湯を用いたアルミ鋳造における金型の焼付きを予測する方法である。この方法は、流動前に金型に蓄積されている蓄積エネルギーを、それが金型の温度に比例することを利用して算出し(S1)、アルミ溶湯の流動によって生じる熱移動エネルギーを、それが金型の温度の流動前から流動後への変化値に比例することを利用して算出し(S2)、アルミ溶湯が金型に衝突する衝突エネルギーを、それが金型の表面付近の法線方向速度の二乗に比例することを利用して算出し(S3)、算出した3つのエネルギーの和を利用して判定対象エネルギーを算出し(S4)、判定対象エネルギーがアルミ付着発生臨界値より大きい場合(S5でYESの場合)に、流速過熱によるアルミの付着が発生すると判定する(S6)。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ溶湯を用いたアルミ鋳造における金型の焼付きを予測する金型焼付き予測方法であって、
前記アルミ溶湯の流動前に前記金型に蓄積されている蓄積エネルギーを、前記蓄積エネルギーが前記金型の温度に比例することを利用して算出し、
前記アルミ溶湯の流動によって生じる熱移動によるエネルギーである熱移動エネルギーを、前記熱移動エネルギーが流動前の前記金型の温度から流動後の前記金型の温度への変化値に比例することを利用して算出し、
前記アルミ溶湯が前記金型に衝突する衝突エネルギーを、前記衝突エネルギーが前記金型の表面付近の法線方向速度の二乗に比例することを利用して算出し、
判定対象エネルギーを、前記蓄積エネルギーと前記熱移動エネルギーと前記衝突エネルギーとの和を利用して算出し、
前記判定対象エネルギーがアルミ付着発生臨界値より大きい場合に、流速過熱によるアルミの付着が発生すると判定する、
金型焼付き予測方法。
【請求項2】
前記アルミ付着発生臨界値は、前記アルミ溶湯の流速を変化させて、実際に前記金型にアルミが付着するか否かを実験した結果に基づき設定された値である、
請求項1に記載の金型焼付き予測方法。
【請求項3】
アルミ溶湯を用いたアルミ鋳造における金型の焼付きを予測する金型焼付き予測装置であって、
前記アルミ溶湯の流動前に前記金型に蓄積されている蓄積エネルギーを、前記蓄積エネルギーが前記金型の温度に比例することを利用して算出する第1算出部と、
前記アルミ溶湯の流動によって生じる熱移動によるエネルギーである熱移動エネルギーを、前記熱移動エネルギーが流動前の前記金型の温度から流動後の前記金型の温度への変化値に比例することを利用して算出する第2算出部と、
前記アルミ溶湯が前記金型に衝突する衝突エネルギーを、前記衝突エネルギーが前記金型の表面付近の法線方向速度の二乗に比例することを利用して算出する第3算出部と、
判定対象エネルギーを、前記蓄積エネルギーと前記熱移動エネルギーと前記衝突エネルギーとの和を利用して算出する第4算出部と、
前記判定対象エネルギーがアルミ付着発生臨界値より大きい場合に、流速過熱によるアルミの付着が発生すると判定する判定部と、
を備えた、金型焼付き予測装置。
【請求項4】
コンピュータに、アルミ溶湯を用いたアルミ鋳造における金型の焼付きを予測する金型焼付き予測処理を実行させるためのプログラムであって、
前記金型焼付き予測処理は、
前記アルミ溶湯の流動前に前記金型に蓄積されている蓄積エネルギーを、前記蓄積エネルギーが前記金型の温度に比例することを利用して算出し、
前記アルミ溶湯の流動によって生じる熱移動によるエネルギーである熱移動エネルギーを、前記熱移動エネルギーが流動前の前記金型の温度から流動後の前記金型の温度への変化値に比例することを利用して算出し、
前記アルミ溶湯が前記金型に衝突する衝突エネルギーを、前記衝突エネルギーが前記金型の表面付近の法線方向速度の二乗に比例することを利用して算出し、
判定対象エネルギーを、前記蓄積エネルギーと前記熱移動エネルギーと前記衝突エネルギーとの和を利用して算出し、
前記判定対象エネルギーがアルミ付着発生臨界値より大きい場合に、流速過熱によるアルミの付着が発生すると判定する、
処理を含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金型焼付き予測方法、金型焼付き予測装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、拡散反応を起こす直接的な要因に着目することで精度良く金型の焼付きを予測することを目的とした、金型の焼付き予測方法が記載されている。特許文献1に記載の金型の焼付き予測方法は、鋳造工程中における金型の各部位の温度履歴を取得し、取得した温度履歴に基づいて、金型の各部位における金型材料の結晶格子から金型材料の原子が飛び出す1サイクル中におけるジャンプ頻度を算出し、算出した1サイクル中におけるジャンプ頻度に基づいて、金型の各部位における焼付きを予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-113608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、特許文献1に記載の方法では、金型温度の温度履歴取得が拡散反応を超える部分だけでの拡散頻度(ジャンプ頻度)を算出し、予測を行っている。しかしながら、アルミ鋳造においては、アルミ充填前の金型温度が高いところで流速過熱による金型へのアルミの付着(金型焼付き)が発生し、特流路が狭くなるところでも流速過熱によるアルミの付着が発生する。
【0005】
よって、特許文献1に記載の方法のように、1サイクルにおける金型温度が拡散反応を超える部分だけを考慮し、その部分だけの温度履歴から予測を行うことは、流路が狭くなるところである流速の早い部位における流速過熱によるアルミの付着を考慮しないことになる。そのため、特許文献1に記載の方法では、危険部位の順位が実際と異なる予測判定結果しか得られないことになる。
【0006】
本開示は、このような問題を解決するためになされたもので、その目的は、流路が狭くなるところで発生し得る金型の焼付きを正確に予測することが可能な金型焼付き予測方法、金型焼付き予測装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る金型焼付き予測方法は、アルミ溶湯を用いたアルミ鋳造における金型の焼付きを予測する金型焼付き予測方法であって、前記アルミ溶湯の流動前に前記金型に蓄積されている蓄積エネルギーを、前記蓄積エネルギーが前記金型の温度に比例することを利用して算出し、前記アルミ溶湯の流動によって生じる熱移動によるエネルギーである熱移動エネルギーを、前記熱移動エネルギーが流動前の前記金型の温度から流動後の前記金型の温度への変化値に比例することを利用して算出し、前記アルミ溶湯が前記金型に衝突する衝突エネルギーを、前記衝突エネルギーが前記金型の表面付近の法線方向速度の二乗に比例することを利用して算出し、判定対象エネルギーを、前記蓄積エネルギーと前記熱移動エネルギーと前記衝突エネルギーとの和を利用して算出し、前記判定対象エネルギーがアルミ付着発生臨界値より大きい場合に、流速過熱によるアルミの付着が発生すると判定する、ものである。前記金型焼付き予測方法は、このような処理により、流路が狭くなるところで発生し得る金型の焼付きを正確に予測することが可能になる。
【0008】
本開示に係る金型焼付き予測装置は、アルミ溶湯を用いたアルミ鋳造における金型の焼付きを予測する金型焼付き予測装置であって、前記アルミ溶湯の流動前に前記金型に蓄積されている蓄積エネルギーを、前記蓄積エネルギーが前記金型の温度に比例することを利用して算出する第1算出部と、前記アルミ溶湯の流動によって生じる熱移動によるエネルギーである熱移動エネルギーを、前記熱移動エネルギーが流動前の前記金型の温度から流動後の前記金型の温度への変化値に比例することを利用して算出する第2算出部と、前記アルミ溶湯が前記金型に衝突する衝突エネルギーを、前記衝突エネルギーが前記金型の表面付近の法線方向速度の二乗に比例することを利用して算出する第3算出部と、判定対象エネルギーを、前記蓄積エネルギーと前記熱移動エネルギーと前記衝突エネルギーとの和を利用して算出する第4算出部と、前記判定対象エネルギーがアルミ付着発生臨界値より大きい場合に、流速過熱によるアルミの付着が発生すると判定する判定部と、を備えた、ものである。前記金型焼付き予測装置は、このような構成により、流路が狭くなるところで発生し得る金型の焼付きを正確に予測することが可能になる。
【0009】
本開示に係るプログラムは、コンピュータに、アルミ溶湯を用いたアルミ鋳造における金型の焼付きを予測する金型焼付き予測処理を実行させるためのプログラムであって、前記金型焼付き予測処理は、前記アルミ溶湯の流動前に前記金型に蓄積されている蓄積エネルギーを、前記蓄積エネルギーが前記金型の温度に比例することを利用して算出し、前記アルミ溶湯の流動によって生じる熱移動によるエネルギーである熱移動エネルギーを、前記熱移動エネルギーが流動前の前記金型の温度から流動後の前記金型の温度への変化値に比例することを利用して算出し、前記アルミ溶湯が前記金型に衝突する衝突エネルギーを、前記衝突エネルギーが前記金型の表面付近の法線方向速度の二乗に比例することを利用して算出し、判定対象エネルギーを、前記蓄積エネルギーと前記熱移動エネルギーと前記衝突エネルギーとの和を利用して算出し、前記判定対象エネルギーがアルミ付着発生臨界値より大きい場合に、流速過熱によるアルミの付着が発生すると判定する、処理を含む、ものである。前記プログラムは、このような構成により、流路が狭くなるところで発生し得る金型の焼付きを正確に予測することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、流路が狭くなるところで発生し得る金型の焼付きを正確に予測することが可能な金型焼付き予測方法、金型焼付き予測装置、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る金型焼付き予測方法の一例を説明するためのフロー図である。
図2図1の金型焼付き予測方法を説明するための概念図である。
図3】実施の形態に係る金型焼付き予測装置の一構成例を示すブロック図である。
図4図1の金型焼付き予測方法での予測対象となる製品の一例を示す上面図である。
図5図4の製品における複数の位置についての、法線方向と湯流れ方向とがなす角度を示す表である。
図6図4の製品における図5で示す各位置でのエネルギーEを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施の形態に限定するものではない。また、実施の形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0013】
(実施の形態)
図1及び図2を参照しながら、本実施の形態に係る金型焼付き予測方法の一例について説明する。図1は、本実施の形態に係る金型焼付き予測方法の一例を説明するためのフロー図で、図2は、図1の金型焼付き予測方法を説明するための概念図である。
【0014】
本実施の形態に係る金型焼付き予測方法は、アルミ溶湯を用いたアルミ鋳造における金型の焼付きを予測する方法である。本実施の形態では、金型の焼付き(金型へのアルミ付着)が、アルミ充填前の金型温度が高いところ、アルミ流動時の流速が大きいところ、及びアルミ流動時にアルミが金型に衝突するところで発生し易いことに着目して、エネルギー的観点から金型の焼付きが発生するか否かを判定する。
【0015】
この判定について、簡易的に、図2に示したようなモデルを想定して説明する。図2では、アルミ21の充填前(金型20に到達する前)の速度、温度をそれぞれVi、Tiとして表し、アルミ21の充填後(金型20に衝突する時点)の速度、温度をそれぞれV、Tとして表している。
【0016】
本実施の形態に係る金型焼付き予測方法では、アルミ溶湯(図2では便宜上、アルミ21として図示)の流動前に金型20に蓄積されている蓄積エネルギーE1を考慮する。そのため、この金型焼付き予測方法は、蓄積エネルギーE1が金型20におけるアルミ充填前の温度Tiに比例すること、つまりE1=α・Tiの関係にあることを利用して、蓄積エネルギーE1を算出する(ステップS1)。ここで、αは比例定数(係数)である。なお、図2では便宜上、金型の一部のみを金型20として描いているに過ぎない。無論、蓄積エネルギーE1の算出には他のパラメータも考慮に入れることができる。
【0017】
蓄積エネルギーE1の具体的な算出方法は、E1=α・Tiの関係にあることを利用するものであれば、どのような方法であってもよい。蓄積エネルギーE1は、例えば金型の部位によって異なる温度分布をもつ場合には、その温度分布を利用して算出することができる。
【0018】
また、この金型焼付き予測方法では、アルミ溶湯(アルミ21)の流動によって生じる熱移動によるエネルギーである熱移動エネルギーE2を考慮する。そのため、この金型焼付き予測方法は、熱移動エネルギーE2がアルミ溶湯の流動前(つまり充填前)の金型20の温度Tiから流動後(つまり充填後)の金型20の温度Tへの温度変化値(T-Ti)に比例することを利用して算出する(ステップS2)。このときの比例係数もαとすることができる。このように、熱移動エネルギーE2は、(T-Ti)を用いて表現でき、特にα・(T-Ti)で表現することができる。但し、ステップS2における比例係数はαとは異なる値を用いることもできる。
【0019】
また、この金型焼付き予測方法では、アルミ溶湯(アルミ21)が金型20に衝突する衝突エネルギーE3を考慮する。そのため、この金型焼付き予測方法は、衝突エネルギーE3を算出する。具体的には、衝突エネルギーE3が金型20の表面付近の法線方向速度Vの二乗に比例すること、つまりE3=β・Vの関係にあることを利用して、衝突エネルギーE3を算出する(ステップS3)。ここで、βは比例定数(係数)である。無論、衝突エネルギーE3の算出には他のパラメータも考慮に入れることができる。このように、ステップS3では、アルミ21が金型20に衝突する衝突エネルギーE3を、金型表面の法線ベクトル方向の速度Vにより重み付けした値として算出している。
【0020】
衝突エネルギーE3の具体的な算出方法は、E3=β・Vの関係にあることを利用するものであれば、どのような方法であってもよい。特に、衝突エネルギーE3は、アルミ溶湯が金型20に接触している間の法線方向速度Vの二乗の総和を算出し、その総和に比例する値として算出することができる。つまり、衝突エネルギーE3は下式により算出されることができる。なお、ステップS1~S3の順序は問わない。
E3=β・∫(V)dt
【0021】
そして、この金型焼付き予測方法は、判定対象エネルギーEを、蓄積エネルギーE1と熱移動エネルギーE2と衝突エネルギーE3との和を利用して算出し(ステップS4)、判定対象エネルギーEがアルミ付着発生臨界値Elより大きいか否かを判定する(ステップS5)。ステップS4では、例えば、E=E1+E2+E3とすることができる。
【0022】
この金型焼付き予測方法は、ステップS5でYESの場合、流速過熱によるアルミの付着が発生すると判定する(ステップS6)。ステップS5でYESの場合(E>Elの場合)は、流速過熱によるアルミの付着が発生するような流路が狭くなるところであると判定されることになる。
【0023】
一方、この金型焼付き予測方法は、ステップS5でNOの場合、流速過熱によるアルミの付着が発生しないと判定する(ステップS7)。また、ステップS6での判定結果やステップS7での判定結果は、表示装置や音声出力装置などで出力されることができる(ステップS8)。
【0024】
以上のような処理は、設計した金型の3次元データ(3次元のメッシュモデル)について実行され、焼付きが発生すると判定された場合には設計を見直し、再度、上述のような処理により判定を行うことができる。そして、焼付きが発生しない金型になるまで、このような設計見直し、判定を繰り返すとよい。
【0025】
このように、本実施の形態では、材料であるアルミの充填時における流速過熱分である衝突エネルギーと、充填前に金型に蓄積されている蓄積エネルギーと、充填前から充填後の熱移動による熱移動エネルギーとを考慮し、焼付き予測をエネルギーの観点から法線方向の速度(流速)の二乗に比例した値と金型温度に比例した値と温度変化値に比例した値との和を用いる。そして、本実施の形態では、その和を利用して算出された判定対象エネルギー(その和そのものであってもよい)がアルミ付着発生臨界値より大きい場合に、流速過熱によるアルミの付着が発生すると判定している。
【0026】
比較例として、焼付き予測において、金型の各部位における金型材料の結晶格子から金型材料の原子が飛び出す1サイクルにおける金型温度が拡散反応を超える部分だけを考慮する例を挙げる。この比較例では、流速の1乗又は金型温度、もしくはその和を考慮し、焼付きを判定することができる。しかし、この比較例では、流路が狭くなるところ、つまり流速の早い部位の流速過熱が考慮されない予測判定となり、危険部位の順位が実際と異なる予測判定となる。つまり、比較例での焼付き予測では、流路が狭くなるところの焼付きが正確に予測できないことになる。
【0027】
これに対し、本実施の形態では、上述のように流速過熱分が考慮されるため、比較例の場合に見逃されることが多かった流路が狭くなるところでの金型の焼付き(流速過熱によるアルミの付着)が正確に予測されるようになる。このように、本実施の形態によれば、流路が狭くなるところで発生し得る金型の焼付きを正確に予測することが可能になる。
【0028】
図3は、本実施の形態に係る金型焼付き予測装置の一構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、本実施の形態に係る金型焼付き予測装置10は、第1算出部11、第2算出部12、第3算出部13、第4算出部14、及び判定部15を備えることができる。
【0029】
第1算出部11は、アルミ溶湯の流動前に金型に蓄積されている蓄積エネルギーE1を、蓄積エネルギーE1が金型の温度に比例すること、つまりE1=α・Tiの関係にあることを利用して、算出する。第2算出部12は、アルミ溶湯の流動によって生じる熱移動エネルギーE2を、熱移動エネルギーE2が流動前の金型の温度から流動後の金型の温度への変化値に比例することを利用して算出する。
【0030】
第3算出部13は、アルミ溶湯が金型に衝突する衝突エネルギーE3を、衝突エネルギーE3が金型の表面付近の法線方向速度Vの二乗に比例すること、つまりE3=β・Vの関係にあることを利用して、算出する。
【0031】
第4算出部14は、判定対象エネルギーEを、蓄積エネルギーE1と熱移動エネルギーE2と衝突エネルギーE3との和を利用して算出する。上述したように、例えば、E=E1+E2+E3とすることができる。判定部15は、第4算出部14で算出された判定対象エネルギーEがアルミ付着発生臨界値Elより大きい場合に、流速過熱によるアルミの付着が発生すると判定する。
【0032】
金型焼付き予測装置10は、各部11~15を制御部として備えることができる。この制御部は、例えば、集積回路(Integrated Circuit)によって実現されることができ、例えば、MPU(Micro Processor Unit)やCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、作業用メモリ、及び不揮発性の記憶装置などによって実現されることができる。この記憶装置にプロセッサによって実行される制御用のプログラムを格納しておき、プロセッサがそのプログラムを作業用メモリに読み出して実行することで、この各部11~15の機能を果たすことができる。
【0033】
金型焼付き予測装置10は、コンピュータで構成されることができ、上述の制御部の例から明らかなようにコンピュータを含んで構成されることもできる。よって、上記のプログラムは、コンピュータに、上記の金型焼付き予測方法で示した処理を実行させるためのプログラムであると言える。なお、金型焼付き予測装置10は、複数の装置に機能を分散して構成することもできる。
【0034】
次に、図4図6を参照しながら、金型でアルミ鋳造される製品の一例を挙げ、本実施の形態について説明する。図4は、図1の金型焼付き予測方法での予測対象となる製品の一例を示す上面図である。図5は、図4の製品における複数の位置についての、法線方向と湯流れ方向とがなす角度を示す表である。図6は、図4の製品における図5で示す各位置での判定対象エネルギーEを示すグラフである。
【0035】
図4では、製品30の一例を示しているが、無論、この形状はこの例に限ったものではなく、また製品30は固定側金型及び可動側金型の金型セットを用いてアルミ鋳造されるものであり、実際にはこの金型セットについて判定がなされることができる。図4に示す製品30における各位置P1~P9は、それらの一部を矢印で図示したように、図5に示すような法線方向と湯流れ方向とがなす角度をもつ。なお、この例では、金型セット内での湯流れ方向は、図4の下側から上側へ向かう方向としている。また、各位置P1~P9は製品30のアルミ鋳造に用いる金型セットの形状の特徴的な箇所を選んで設定されることができる。
【0036】
判定対象エネルギーEは、ポテンシャルエネルギーEp、熱移動によるエネルギー変化値Et、及び衝突によるエネルギー変化値Ekの和によって算出することができる。各値Ep、Et、Ek、Eについて、図2に示したモデルに基づき説明する。
【0037】
ポテンシャルエネルギーEpは、充填前の金型20の温度Tiに関連するエネルギーであり、α・Tiを用いて表現できる。つまり、ポテンシャルエネルギーEpは、上述した蓄積エネルギーE1の一例とすることができる。
【0038】
熱移動によるエネルギー変化値Etは、流動によって生じる熱移動によるエネルギーであり、温度変化値(T-Ti)に関連し、エネルギー変化値Etが温度変化値(T-Ti)に比例することを利用して算出されることができる。このときの比例係数はαとすることができる。このように、熱移動によるエネルギー変化値Etは、上述した熱移動エネルギーE2の一例とすることができる。
【0039】
衝突によるエネルギー変化値Ekは、速度の変化値(Vi-V)に関連する値であり、具体的には、(1/2)m・(Vi-V)に比例する値である。ここで、mはアルミの重量である。μを係数とし、V=μ・Viとすると、Ekは、(1/2)m・{(1-μ)・Vi}に比例する値と表現できる。μ≒0であるため、Ekは(1/2)m・Viに比例する値となる。
【0040】
このように、衝突によるエネルギー変化値Ekは、Viを用いて表現できる。上述した衝突エネルギーE3は、衝突によるエネルギー変化値Ekとすること、つまりViに比例する値として算出されることができる。
【0041】
そして、上述のように、E=Ep+Et+Ekであることから、判定対象エネルギーEは、Ti、(T-Ti)、及びViで表現できること、つまりTi、(T-Ti)、及びViに基づき算出できることになる。このように、本実施の形態では、判定対象エネルギーEを(Ep+Et+Ek)とすることができる。また、ポテンシャルエネルギーEp(=α・Ti)と熱移動によるエネルギー変化値Et(=α・(T-Ti))との和は、α・Tとなる。そして、本実施の形態では、上記アルミ付着発生臨界値Elを閾値として用い、E>Elの場合に流速過熱によるアルミ付着が発生すると判定することができる。
【0042】
例えば、図4の製品30の鋳造時の金型セットにおいて、各位置P1~P9に対応する位置における金型法線方向と湯流れ方向のなす角度をθ、アルミ溶湯の充填前の湯流れ方向の流速をviとすると、製品30の各位置P1~P9に対応する金型セットの位置における判定対象エネルギーEは、下式で表現できる。なお、以下では便宜上、各位置P1~P9に対応する金型のセットの各位置も同様の符号P1~P9を用いて説明を行う。下式では、流速の早い位置や流路によって流れが妨げられる位置(θが小さい位置)において、特に金型表面のなす角θにて流速viに大きな重み付けがなされ、衝突エネルギー分が考慮されているのが分かる。このことは、vi・cosθがViであることからも分かる。また、係数α、βの算出に関して詳述しないが、図4の製品30の例ではα=6.26、β=1を採用している。
E=α・T+β・(vi・cosθ)
【0043】
そして、各位置P1~P9での判定対象エネルギーEを試験結果に基づき算出したところ、図6に示すようになった。図6では、流速viが3.0m/sである場合と4.5m/sである場合とについて、判定対象エネルギーEの値を算出してプロットしている。なお、流速の違いによって判定対象エネルギーEの値が変わらない位置では、両者の値が重なってプロットされている。また、図6の例での判定対象エネルギーEの単位はJとする。
【0044】
また、ここでは、流速viが3.0m/s、4.5m/sである場合について試験を行い、算出を行ったが、実際の鋳造の歩留まり等を考慮して、判定対象エネルギーEを算出する際の流速viを、少なくとも流速過熱によるアルミの付着が発生しない場合と発生する場合とを含むように決めることができる。
【0045】
図6を確認すると、判定対象エネルギーEは、流速viを3.0m/sから4.5m/sへ上げた場合において、大きくなっているのが分かる。また、判定対象エネルギーEは、流速viを3.0m/sから4.5m/sへ上げた場合において、流路が狭くなるところである位置P1~P6において、流路が狭くならない位置P7~P9より大きく変化しているのが分かり、実際に金型セットへのアルミの付着は流速viが4.5m/sの場合における位置P1~P6のみで見られた。
【0046】
この試験結果を用いて、アルミ付着発生臨界値Elである臨界値E0は、予め設定されることができ、例えば875.6365Jとして予め設定されることができる。臨界値E0の決定の方法は問わない。例えば、臨界値E0は、流速viが3.0m/sと4.5m/sの場合において、アルミの付着が発生しない状態の判定対象エネルギーEと発生する状態の判定対象エネルギーEとの間の値として決定され、設定されることができる。この例では、臨界値E0は、アルミの付着があった流速4.5m/s、位置P1~P6のプロット値のうちの最小値より少し小さい値(875.6365J)として、設定されることができる。この例に限らず、臨界値E0は、流速viを3.0m/sから4.5m/sへ上げた場合においてアルミの付着が発生していない状態から発生する状態へ変化したことが確認された間に決定され、設定されることもできる。これらの例のように、臨界値E0は、アルミ溶湯の流速を変化させて、実際に金型にアルミが付着するか否かを試験(実験)した結果に基づき設定された値とすることができる。
【0047】
そして、本実施の形態では、例えば、製品30に対して上述のような形状の特徴的な位置について設定された臨界値E0を用いて、製品30の全てのメッシュ(セル)について、例えば一定間隔での全ての位置について、判定対象エネルギーEを算出することができる。次いで、本実施の形態では、算出した各判定対象エネルギーEについて、臨界値E0を用いた閾値処理により、アルミの付着が発生するか否かを判定することができる。また、設計変更等により製品30の形状を変更する場合にも、判定対象エネルギーEの算出及び臨界値E0での閾値処理を実行し、アルミの付着が発生するとの判定がでないようになるまで、製品30の形状の変更を行えばよい。本実施の形態では、このような判定により、流路が狭くなるところで発生し得る金型の焼付き(アルミの付着)を正確に予測することが可能になる。
【0048】
(代替例等)
上記実施の形態では、金型の形状について特に詳述しなかったがどのような形状の金型についても適用できる。また、上記実施の形態では、アルミ溶湯の成分や金型の材料に関するパラメータなど、様々な他のパラメータも併せて用いて、金型の焼付きを判定することもできる。
【0049】
上述したプログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、solid-state drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、digital versatile disc(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、又はその他の形式の伝搬信号を含む。
【0050】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 金型焼付き予測装置、11 第1算出部、12 第2算出部、13 第3算出部、14 第4算出部、15 判定部、20 金型、30 製品、21 アルミ
図1
図2
図3
図4
図5
図6