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特開2024-68884歩行状態評価システムおよびプログラム
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  • 特開-歩行状態評価システムおよびプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068884
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】歩行状態評価システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179532
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】清原 武彦
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 洋
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB14
4C038VB24
4C038VC01
4C038VC05
(57)【要約】
【課題】長期的な歩行状態の改善に適した歩行状態評価システムを提供する。
【解決手段】あらかじめ定められた複数種類の歩行パラメータそれぞれを座標軸として歩行状態を表現する状態空間に、被験者の歩行状態を示す前記歩行パラメータそれぞれでプロットされる被験者座標が、基準の歩行状態を示すものとして前記状態空間内に所定範囲で拡がる基準領域に対してどのような位置関係にあるかを評価する評価手段と、前記評価手段による評価結果として、前記状態空間における前記被験者座標の前記基準領域に対する位置関係を提示する提示手段と、被験者の歩行状態に関するパラメータとして、前記状態空間の座標軸それぞれに対応する前記歩行パラメータを収集する収集手段と、を備える歩行状態評価システム。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ定められた複数種類の歩行パラメータそれぞれを座標軸として歩行状態を表現する状態空間に、被験者の歩行状態を示す前記歩行パラメータそれぞれでプロットされる被験者座標が、基準の歩行状態を示すものとして前記状態空間内に所定範囲で拡がる基準領域に対してどのような位置関係にあるかを評価する評価手段と、
前記評価手段による評価結果として、前記状態空間における前記被験者座標の前記基準領域に対する位置関係を提示する提示手段と、
被験者の歩行状態に関するパラメータとして、前記状態空間の座標軸それぞれに対応する前記歩行パラメータを収集する収集手段と、を備え、
前記評価手段は、前記収集手段に収集された前記歩行パラメータそれぞれで前記状態空間にプロットされる座標を前記被験者座標として、前記被験者座標の前記基準領域に対する位置関係を評価する、
歩行状態評価システム。
【請求項2】
前記評価手段は、前記被験者座標が前記基準領域外に位置している場合、前記被験者座標を前記基準領域内に位置させるために必要な前記歩行パラメータそれぞれの変化方向および変化量を特定して、
前記提示手段は、前記評価手段により前記被験者座標が前記基準領域外に位置していると評価された場合、前記評価手段の評価結果として、前記被験者座標が前記基準領域外に位置していること、並びに、前記被験者座標を前記基準領域内に位置させるために必要な前記歩行パラメータそれぞれの変化方向および変化量、を提示する、
請求項1に記載の歩行状態評価システム。
【請求項3】
前記評価手段は、前記被験者座標が前記基準領域外に位置している場合、前記被験者座標において前記基準領域よりも小さい側に位置する前記歩行パラメータそれぞれを前記基準領域内に位置させるために必要な増加量を特定する、
請求項2に記載の歩行状態評価システム。
【請求項4】
前記基準領域は、前記歩行パラメータそれぞれが所定の下限から上限にわたっている直線状の領域であり、該領域に沿って前記歩行パラメータそれぞれが大きくなるほど良好な歩行状態を示すことが規定されており、
前記評価手段は、前記被験者座標が前記基準領域内に位置している場合、前記被験者座標を前記基準領域内でより良好な歩行状態を示す良好領域に位置させるために必要な前記歩行パラメータそれぞれの増加量を特定して、
前記提示手段は、前記評価手段により前記被験者座標が前記基準領域内に位置していると評価された場合、前記評価手段の評価結果として、前記被験者座標が前記基準領域内に位置していること、並びに、前記被験者座標を前記良好領域に位置させるために必要な前記歩行パラメータそれぞれの増加量、を提示する、
請求項2に記載の歩行状態評価システム。
【請求項5】
前記評価手段は、前記被験者座標が前記基準領域内に位置している場合、前記被験者座標よりも前記歩行パラメータそれぞれが所定の割合だけ大きくなる座標を前記良好領域とし、該良好領域に前記被験者座標を位置させるために必要な前記歩行パラメータそれぞれの増加量を特定する、
請求項4に記載の歩行状態評価システム。
【請求項6】
前記基準領域を規定する前記歩行パラメータそれぞれを記憶する記憶手段、を備え、
前記評価手段は、前記記憶手段に記憶された前記歩行パラメータそれぞれに基づいて前記基準領域を規定し、該基準領域に対する前記被験者座標の位置関係を評価する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の歩行状態評価システム。
【請求項7】
前記状態空間は、歩幅を身長で割った歩幅率と股関節角度との2種類を前記歩行パラメータとして、該歩行パラメータそれぞれを座標軸として歩行状態を表現しており、
前記収集手段は、被験者の歩幅率と股関節角度を前記歩行パラメータとして収集する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の歩行状態評価システム。
【請求項8】
コンピュータを請求項1に記載の各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の歩行状態を評価する歩行状態評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の歩行状態と健康状態との関係に注目が集まっており、歩行状態の改善を促すための技術が種々提案されている。具体的な例としては、被験者における足の動作を検知し、その検知結果に基づいて、より足を上げるべき、左右いずれかの足の接地時間を調整すべきなどといった改善動作を提示することが提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6737505号公報
【特許文献2】特許第6786137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただ、上述した技術は、基準の歩行状態との差分をなくすための直接的な改善動作を提示するものであり、必ずしも長期的な歩行状態の改善に適しているとはいえない。歩行状態の改善には、歩行状態をどのように改善させていくべきかといった長期的なプロセスの実行が望ましいところ、差分をなくすための直接的な改善動作を提示するだけでは、長期的なプロセスまでが想起されにくく、短期的には改善がみられたとしても、これを維持してさらに良好な歩行状態へと高めていくことは難しいためである。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、長期的な歩行状態の改善に適した歩行状態評価システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1局面は、あらかじめ定められた複数種類の歩行パラメータそれぞれを座標軸として歩行状態を表現する状態空間に、被験者の歩行状態を示す前記歩行パラメータそれぞれでプロットされる被験者座標が、基準の歩行状態を示すものとして前記状態空間内に所定範囲で拡がる基準領域に対してどのような位置関係にあるかを評価する評価手段と、前記評価手段による評価結果として、前記状態空間における前記被験者座標の前記基準領域に対する位置関係を提示する提示手段と、被験者の歩行状態に関するパラメータとして、前記状態空間の座標軸それぞれに対応する前記歩行パラメータを収集する収集手段と、を備え、前記評価手段は、前記収集手段に収集された前記歩行パラメータそれぞれで前記状態空間にプロットされる座標を前記被験者座標として、前記被験者座標の前記基準領域に対する位置関係を評価する、歩行状態評価システムである。
【0007】
この局面の歩行状態評価システムによれば、被験者の歩行状態を示す被験者座標が、基準の歩行状態を示す基準領域に対してどのような位置関係になっているかを提示することによって、歩行状態の長期的な改善プロセスの実行を促すことができる。それは、この提示が、被験者の歩行状態における改善点を、被験者座標と基準領域との歩行パラメータの違いに基づいて把握しやすく、どのように歩行パラメータを改善していけば基準の歩行状態に近づくか、といった長期的な改善プロセスまで容易に想起できるものとなっているためである。
【0008】
なお、本願出願人は、複数種類の歩行パラメータそれぞれを座標軸として歩行状態を表現する状態空間に、健康状態に問題がない被験者群および健康状態に何らかの問題を抱えている被験者群それぞれについて各歩行パラメータでプロットしたところ、それぞれの群で異なる傾向を示すことを見出している。この傾向を歩行状態の評価に用いるべく創意工夫を施した結果として上記局面に想到している。
【0009】
また、上記局面は以下に示す第2局面のようにしてもよい。第2局面の歩行状態評価システムにおいて、前記評価手段は、前記被験者座標が前記基準領域外に位置している場合、前記被験者座標を前記基準領域内に位置させるために必要な前記歩行パラメータそれぞれの変化方向および変化量を特定して、前記提示手段は、前記評価手段により前記被験者座標が前記基準領域外に位置していると評価された場合、前記評価手段の評価結果として、前記被験者座標が前記基準領域外に位置していること、並びに、前記被験者座標を前記基準領域内に位置させるために必要な前記歩行パラメータそれぞれの変化方向および変化量、を提示する。
【0010】
この局面の歩行状態評価システムでは、被験者座標が基準領域外に位置している場合に、この両者の位置関係に加え、被験者座標が基準領域内に位置するために必要な歩行パラメータの変化方向および変化量を提示する。これにより、基準となる歩行状態に近づけるための改善プロセスとして、歩行パラメータをどの程度変化させるべきかを容易に想起させ、その実行を促すことができる。
【0011】
また、この局面は以下に示す第3局面のようにしてもよい。第3局面の歩行状態評価システムにおいて、前記評価手段は、前記被験者座標が前記基準領域外に位置している場合、前記被験者座標において前記基準領域よりも小さい側に位置する前記歩行パラメータそれぞれを前記基準領域内に位置させるために必要な増加量を特定する。
【0012】
この局面の歩行状態評価システムでは、被験者座標において基準領域よりも小さい側に位置する歩行パラメータそれぞれを基準領域内に位置させるために必要な増加量(つまり変化方向および変化量)を提示する。これにより、基準となる歩行状態に近づけるための改善プロセスとして、どの歩行パラメータをどの程度増加させるべきかを容易に想起させ、その実行を促すことができる。
【0013】
また、上記各局面は以下に示す第4局面のようにしてもよい。第4局面の歩行状態評価システムにおいて、前記基準領域は、前記歩行パラメータそれぞれが所定の下限から上限にわたっている直線状の領域であり、該領域に沿って前記歩行パラメータそれぞれが大きくなるほど良好な歩行状態を示すことが規定されており、前記評価手段は、前記被験者座標が前記基準領域内に位置している場合、前記被験者座標を前記基準領域内でより良好な歩行状態を示す良好領域に位置させるために必要な前記歩行パラメータそれぞれの増加量を特定して、前記提示手段は、前記評価手段により前記被験者座標が前記基準領域内に位置していると評価された場合、前記評価手段の評価結果として、前記被験者座標が前記基準領域内に位置していること、並びに、前記被験者座標を前記良好領域に位置させるために必要な前記歩行パラメータそれぞれの増加量、を提示する。
【0014】
この局面の歩行状態評価システムでは、被験者座標が基準領域内に位置している場合に、この両者の位置関係に加え、被験者座標が良好領域に位置するために必要な歩行パラメータの増加量(つまり変化方向および変化量)を提示する。これにより、良好な歩行状態に近づけるための改善プロセスとして、どの歩行パラメータをどの程度増加させるべきかを容易に想起させ、その実行を促すことができる。
【0015】
このように、上記局面では、被験者座標の基準領域に対する位置関係に応じた改善プロセスを容易に想起させることができるため、被験者の歩行状態を継続的に評価し、都度改善プロセスの実行を促していくことによって、基準となる歩行状態へと改善させ、これを維持してさらに良好な歩行状態へと段階的に高めていくといったことも実現しやすい。
【0016】
また、この局面は以下に示す第5局面のようにしてもよい。第5局面の歩行状態評価システムにおいて、前記評価手段は、前記被験者座標が前記基準領域内に位置している場合、前記被験者座標よりも前記歩行パラメータそれぞれが所定の割合だけ大きくなる座標を前記良好領域とし、該良好領域に前記被験者座標を位置させるために必要な前記歩行パラメータそれぞれの増加量を特定する。
【0017】
この局面の歩行状態評価システムによれば、歩行パラメータそれぞれが被験者座標よりも所定割合だけ大きくなる座標を良好領域として、この良好領域に被験者座標を位置させるために必要な歩行パラメータの増加量を提示する。このとき、被験者座標に対する良好領域の割合を適切に設定することによって、良好な歩行状態に近づけるための改善プロセスとして、歩行パラメータの増加量を無理のない範囲で示すことができる。
【0018】
また、上記各局面は以下に示す第6局面のようにしてもよい。第6局面の歩行状態評価システムにおいては、前記基準領域を規定する前記歩行パラメータそれぞれを記憶する記憶手段、を備え、前記評価手段は、前記記憶手段に記憶された前記歩行パラメータそれぞれに基づいて前記基準領域を規定し、該基準領域に対する前記被験者座標の位置関係を評価する。
【0019】
本願出願人は、健康状態の悪化や老化および中高年において日々の生活での股関節の伸展を促す運動が乏しいことに起因して歩行する際の股関節角度が小さくなる傾向に着目し、この股関節角度またはこれに相当するパラメータを軸にどのような歩行パラメータで歩行状態を規定すべきか研究を進めた結果、股関節角度および歩幅(または歩幅を身長で割った歩幅率)で歩行状態を評価することの有用性を見出して創意工夫を施した結果として、上記各局面を以下に示す第7局面のようにすることを想到している。
【0020】
第7局面の歩行状態評価システムにおいて、前記状態空間は、歩幅を身長で割った歩幅率と股関節角度との2種類を前記歩行パラメータとして、該歩行パラメータそれぞれを座標軸として歩行状態を表現しており、前記収集手段は、被験者の歩幅率と股関節角度を前記歩行パラメータとして収集する。
【0021】
歩行状態は股関節角度や膝関節角度など多くのパラメータで規定し得るものである一方、パラメータが多くなることは評価に要する処理負荷などが大きくなるため、上記のように2種類のパラメータで歩行状態を規定して評価できることは、評価に要する処理負荷の低減という点でも好適である。
【0022】
よって、上記局面の歩行状態評価システムであれば、歩幅および股関節角度を含む歩行情報を被験者の歩行状態の情報として取得することにより、健康状態との関係での歩行状態としての評価を、その評価に要する処理負荷を抑えて効果的に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の一形態である歩行状態評価システムの構成を示すブロック図
図2】本開示の一形態においてカメラにより被験者を撮影する様子を示す模式図
図3】本開示の一形態における情報収集処理の手順を示すフローチャート
図4】本開示の一形態において画像に含まれる被験者を骨格モデル化した図
図5】本開示の一形態における状態空間を示すグラフ(1/3)
図6】本開示の一形態における状態評価処理の手順を示すフローチャート
図7】本開示の一形態における状態空間を示すグラフ(2/3)
図8】本開示の一形態における状態空間を示すグラフ(3/3)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
(1)全体構成
歩行状態評価システム1は、図1に示すように、被験者の歩行状態を示す歩行パラメータを収集する収集装置10と、被験者の歩行状態を評価する評価装置20と、を備える。
【0025】
収集装置10は、収集装置10全体の動作を制御する制御部11と、各種データを格納する記憶部13と、ユーザとのやりとりを行うユーザインタフェース(U/I)15と、評価装置20との通信を制御する通信部17と、被験者が歩行する様子を撮影するべく設置されるカメラ19と、を備える。
【0026】
これらのうち、カメラ19は、被験者100の股関節による伸展および屈曲の動作を観察すべく、図2に示すように、被験者100の歩行する様子をその側方から撮影可能な位置に設置され、その歩行の様子を撮影した画像データを生成する。この画像データは、時系列で連続する複数の画像それぞれを示すものである。
【0027】
評価装置20は、評価装置20全体の動作を制御する制御部21と、各種データを格納する記憶部23と、ユーザとのやりとりを行うユーザインタフェース(U/I)25と、収集装置10との通信を制御する通信部27と、を備える。
【0028】
なお、本実施形態では収集装置10と評価装置20とがインターネット200を介して通信可能に接続されるものを例示しているが、両者が直接通信可能に接続されていてもよい。また、両者が単一の装置として構成されていてもよい。
【0029】
(2)情報収集処理
続いて、収集装置10の制御部11が実行する情報収集処理の処理手順を図3に基づいて説明する。この情報収集処理は、記憶部13に格納されたプログラムに従って実行されるものであり、ユーザインタフェース15経由で所定の指令を受けた際に起動される。
【0030】
この情報収集処理では、まず、カメラ19から画像データが取得される(s110)。ここでは、カメラ19の撮影範囲を被験者が横切るタイミングに合わせ、制御部11からカメラ19へと撮影開始および撮影終了の指令が順になされ、この指令の間に時系列で撮影された連続する複数の画像を示す画像データが取得されて記憶部13に格納される。
【0031】
ここで、カメラ19への撮影開始および撮影終了の指令は、ユーザインタフェース15経由でユーザの指令を受けたタイミングで人為的になされるものであってもよく、撮影範囲における画像の変化や図示されないセンサの検出結果に基づいて自動的になされるものであってもよい。
【0032】
次に、上記s110において取得された画像データから特定の画像が抽出される(s120)。ここでは、画像データで示される各画像に映る被験者がそれぞれ骨格モデル化された後、この骨格モデルにおいて観察対象となる脚(画像において手前側の脚;以降「観察肢」ともいう)の踵の位置に基づき、ヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像が抽出される。
【0033】
この「ヒールオフ画像」とは、歩行中の被験者において伸展側にある観察肢の踵が地表面から離れるヒールオフ状態となった時点の画像であり、「ヒールコンタクト画像」とは、歩行中の被験者において屈曲側にある観察肢の踵が地表面に接触するヒールコンタクト状態となった時点の画像である。このs120で抽出される画像は、観察肢において時系列で相前後するヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像それぞれを示すいずれか一組の画像である。
【0034】
次に、上記s120で抽出された画像それぞれに基づき、被験者の歩行パラメータが収集される(s130)。ここでは、上記s120で抽出されたヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像それぞれから、図4に示すように、被験者の股関節角度θc、歩幅Lsおよび身長Ltなどが算出される。この図では、ヒールコンタクト状態の観察肢と、ヒールオフ状態の観察肢とを、股関節の回転中心が一致するように重ね合わせた状態を示すものである。
【0035】
ここで、股関節角度θcは、ヒールオフ画像においてヒールオフ状態となっている脚の股関節伸展角度θc1(股関節から伸展側にある脚の膝に至る軸線と鉛直方向とのなす角度)と、ヒールコンタクト画像においてヒールコンタクト状態となっている脚の股関節屈曲角度θc2(股関節から屈曲側にある脚の膝に至る軸線と鉛直方向とのなす角度)とを合計した角度(θc=θc1+θc2)として算出される。
【0036】
また、歩幅Lsは、被験者においてヒールオフ状態となっている足先(本実施形態ではつま先)の位置から進行方向前方に沿って股関節直下となる位置までのヒールオフ距離Ls1と、ヒールコンタクト状態となっている足先(同上)の位置から進行方向後方に沿って股関節直下となる位置までのヒールコンタクト距離Ls2とを合計した距離(Ls=Ls1+Ls2)として算出される。
【0037】
ここでは、観察肢において時系列で相前後するヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像、つまりヒールオフ状態となってからヒールコンタクト状態となった観察肢における各状態での足先となる位置に着目して歩幅Lsを算出しているが、観察肢の足先とその反対の足(以下「非観察肢」ともいう)における足先とに着目して歩幅Lsを算出することとしてもよい。具体的には、ヒールオフ状態およびヒールコンタクト状態のいずれか一方の状態となっている観察肢の足先と、この状態の画像と時系列で近接する画像においていずれか他方の状態となっている非観察肢の足先と、に基づいて上記と同様に算出することが考えられる。
【0038】
また、身長Ltは、ヒールオフ画像およびヒールコンタクト画像それぞれにおける被験者の各脚の長さを平均した距離Lt1と、各画像における被験者の股関節から頭頂部までの距離Lt2とを合計した距離(Lt=Lt1+Lt2)として算出される。
【0039】
こうして、画像データから、被験者の歩行状態を規定する複数種類の歩行パラメータとして、股関節角度θc、歩幅Lsおよび身長Ltなどの特徴量がそれぞれ収集される。
【0040】
次に、上記s130で収集された歩行パラメータ群が評価装置20へと送信される(s140)。評価装置20は、これら歩行パラメータを受けて後述する状態評価処理を実行し、各歩行パラメータで規定される歩行状態を評価するとともに、その結果を示す評価情報を送信してくるように構成されている。
【0041】
なお、このs140では、歩行パラメータのうち、身長および歩幅をそれぞれ個別のパラメータとして送信してもよいが、歩幅を身長で割った歩幅率を算出してこれを1つの歩行パラメータとして送信することとしてもよい。
【0042】
こうして、上記s140にて歩行パラメータ群が送信された後、評価装置20からの評価情報が送信されてくるまで待機状態となる(s150:NO)。そして、評価装置20からの評価情報が送信されてきたら(s150:YES)、この評価情報で示される評価結果が出力された後(s160)、本情報収集処理が終了する。
【0043】
このs160では、歩行パラメータそれぞれを座標軸として歩行状態を表現する状態空間に、上記s130で収集された歩行パラメータそれぞれでプロットされる被験者座標pが、基準の歩行状態を示すものとして状態空間内に所定範囲で拡がる基準領域Qに対してどのような位置関係にあるか、が評価結果として提示される。
【0044】
本実施形態においては、図5に示すように、歩幅率(歩幅を身長で割った値)、および、股関節角度(股関節作動角度ともいう)を座標軸とする二次元の座標空間が状態空間として用いられ、ここに被験者座標pがプロットされた状態を示すデータが生成される。状態空間は、その中に所定範囲で拡がる基準領域Qが規定されているため、被験者座標pの基準領域Qに対する位置関係が示されたものとなっている。
【0045】
ここで、基準領域Qは、歩行パラメータそれぞれが所定の下限から上限にわたっている直線状の領域であり、この領域に沿って歩行パラメータそれぞれが大きくなるほど良好な歩行状態を示すものとして定められている。具体的には、歩幅率として下限Sbから上限Suにわたる範囲、股関節角度として下限Cbから上限Cuにわたる範囲で規定された直線状の領域である(同図破線参照)。
【0046】
また、状態空間には、被験者座標pを基準領域Q内または後述する良好領域p’に位置させるために必要な歩行パラメータの変化方向および変化量も示されている。具体的には、被験者座標pから基準領域Qに向けて(つまり変化方向)、基準領域Qにまで到達する長さ(つまり変化量)の矢印が状態空間内に付されており(同図矢印参照)、この矢印により歩行パラメータの変化方向および変化量が示されている。
【0047】
そして、このs160では、状態空間内に示された被験者座標pの基準領域Qに対する位置関係と、状態空間内の矢印として示された歩行パラメータの変化方向および変化量と、が含まれたページデータが生成され、これがユーザインタフェース15経由で出力(例えば、ディスプレイに表示、紙媒体に印刷など)される。こうして評価結果の提示が行われる。
【0048】
(3)状態評価処理
続いて、評価装置20の制御部21が実行する状態評価処理の処理手順を図6に基づいて説明する。この状態評価処理は、評価装置20の起動後、記憶部23に格納されたプログラムに従って実行されるものである。
【0049】
この状態評価処理では、まず、収集装置10からの歩行パラメータ群が受信されるまで待機状態となる(s210:NO)。その後、歩行パラメータ群が受信されたら(s210:YES)、上述した基準領域を規定する歩行パラメータそれぞれが記憶部23から読み出される(s220)。
【0050】
本実施形態では、複数種類の歩行パラメータそれぞれが所定の下限から上限にわたっている直線状の基準領域Qが定められており、この歩行パラメータそれぞれの範囲を示す情報が記憶部23に格納されている。そのため、上記s220では、そうして記憶部23に格納されている情報が読み出される。
【0051】
なお、本願出願人は、状態空間に、健康状態に問題がない被験者群および健康状態に何らかの問題を抱えている被験者群それぞれについて各歩行パラメータでプロットしたところ、それぞれの群で異なる傾向を示すことを見出しており、この前者の被験者群についてプロットした座標が分布する範囲をベースとして基準領域Qを定めている。また、状態空間上では、歩行パラメータそれぞれが大きくなるほど歩行能力という側面からみて良好な歩行状態になることから、基準領域Q内でも歩行パラメータそれぞれが大きくなるほど良好な歩行状態を示すことが規定されている。
【0052】
次に、状態空間が設定される(s230)。ここでは、歩行パラメータ群に基づく歩幅率(歩幅を身長で割った値)と股関節角度とを座標軸として歩行状態を表現する座標空間が、状態空間として設定される。また、ここでは、状態空間上に被験者座標pおよび基準領域Qが設定される。被験者座標pは、収集装置10から受信された歩行パラメータそれぞれで状態空間にプロットされた座標であり、基準領域Qは、上記s220で読み出された歩行パラメータで規定される状態空間上の領域である。こうして、状態空間上で被験者座標pの基準領域Qに対する位置関係が特定可能な状態となる。
【0053】
次に、状態空間における被験者座標pの基準領域Qに対する位置関係がチェックされ(s240)、そのチェック結果に応じて被験者座標pを変化させるべき変化方向および変化量が特定される(s250)。
【0054】
ここで、上記s240で被験者座標pが基準領域Q外に位置していると評価された場合には、被験者座標pを基準領域Q内に位置させるために必要な歩行パラメータそれぞれの変化方向および変化量が特定される。具体的には、被験者座標pにおいて基準領域Qよりも小さい側に位置する歩行パラメータそれぞれにつき、その歩行パラメータを大きくして基準領域Q内に位置させるために必要な増加量(変化方向および変化量)が特定される。
【0055】
例えば、図7(a)に示すように、被験者座標pにおける股関節角度Cp0が、基準領域Qよりも小さい側(基準領域Qよりも股関節角度の軸に沿って原点側の領域)に位置している場合には、股関節角度を大きくして基準領域Q上の股関節角度Cp1に位置させるために必要な増加量として、両者の差分(Cp1-Cp0)が特定される。
【0056】
また、図7(b)に示すように、被験者座標pにおける歩幅率Sp0が、基準領域Qよりも小さい側(基準領域Qよりも歩幅率の軸に沿って原点側の領域)に位置している場合には、歩幅率を大きくして基準領域Q上の歩幅率Sp1に位置させるために必要な増加量として、両者の差分(Sp1-Sp0)が特定される。
【0057】
一方、上記s240で被験者座標pが基準領域Q内に位置していると評価された場合には、基準領域Qにおいてより良好な歩行状態を示す良好領域p’に被験者座標pを位置させるために必要な歩行パラメータそれぞれの変化方向および変化量が特定される。ここでは、被験者座標pにおける歩行パラメータそれぞれを大きくして良好領域p’内に位置させるために必要な増加量(変化方向および変化量)が特定される
【0058】
具体的には、図8に示すように、被験者座標pにおいて、股関節角度Cp0および歩幅率Sp0それぞれを所定の割合xだけ大きくした座標を良好領域p’[(1+x)・Cp0,(1+x)・Sp0]として定め、この良好領域p’に位置させるために必要な増加量として、被験者座標pと良好領域p’との差分[x・Cp0,x・Sp0]が特定される。なお、本実施形態において、良好領域p’とは、基準領域Q内において、被験者座標pよりも歩行パラメータそれぞれが所定の割合(例えば30%)だけ大きくなる座標として定められる。
【0059】
こうして上記s230で設定された状態空間、並びに、上記s250で特定された変化方向および変化量に基づき、歩行状態の評価結果を示す評価情報が生成される(s260)。この評価情報は、状態空間における被験者座標pと基準領域Qとの位置関係、被験者座標pの変化方向および変化量を特定可能な情報である。
【0060】
そして、この評価情報が収集装置10へと送信された後(s270)、本状態評価処理が終了する。この評価情報を受信した収集装置10は、上述したように、評価情報で示される評価結果を出力する。
【0061】
(4)変形例
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0062】
例えば、上記実施形態では、収集装置10側で画像データから歩行パラメータ群を収集するように構成されたものを例示した。しかし、歩行パラメータ群は、他の装置やシステムが生成したものを取得することとしてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、歩幅率および股関節角度が歩行パラメータとして用いられたものを例示した。しかし、歩行パラメータとしては、歩行状態を規定するものであればよく、これ以外の歩行パラメータを用いたものとしてもよい。具体的な例としては、股関節角度と同様の歩行パラメータとして、股関節から足先側(例えば膝)に向けて延びる軸線と上肢とのなす角度を用いることが考えられる。
【0064】
また、上記実施形態では、歩幅率と股関節角度を座標軸とする二次元の座標空間が状態空間として採用されている構成を例示した。しかし、状態空間としては、3種類以上の歩行パラメータそれぞれを座標軸とする複数次元の座標空間であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、情報収集処理側で生成された評価結果を出力するように構成されたものを例示した。しかし、この評価結果は、状態評価処理側で生成するように構成してもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、情報収集処理において生成される評価結果として、被験者座標pにおける歩行パラメータの変化方向および変化量が矢印で表現されるようになっている構成を例示した。しかし、この変化方向および変化量は矢印以外の方法により表現されるように構成してもよい。
【0067】
(5)作用効果
上記実施形態の歩行状態評価システム1によれば、被験者の歩行状態を示す被験者座標pが、基準の歩行状態を示す基準領域Qに対してどのような位置関係になっているかを提示することによって、歩行状態の長期的な改善プロセスの実行を促すことができる。それは、この提示が、被験者の歩行状態における改善点を、被験者座標pと基準領域Qとの歩行パラメータの違いに基づいて把握しやすく、どのように歩行パラメータを改善していけば基準の歩行状態に近づくか、といった長期的な改善プロセスまでを容易に想起できるものとなっているためである。
【0068】
また、上記実施形態の歩行状態評価システム1では、被験者座標pが基準領域Q外に位置している場合に、この両者の位置関係に加え、被験者座標pが基準領域Q内に位置するために必要な歩行パラメータの変化方向および変化量を提示する。これにより、基準となる歩行状態に近づけるための改善プロセスとして、歩行パラメータをどの程度変化させるべきかを容易に想起させ、その実行を促すことができる。
【0069】
また、上記実施形態の歩行状態評価システム1では、被験者座標pにおいて基準領域Qよりも小さい側に位置する歩行パラメータそれぞれを基準領域Q内に位置させるために必要な増加量を提示する。これにより、基準となる歩行状態に近づけるための改善プロセスとして、どの歩行パラメータをどの程度増加させるべきかを容易に想起させ、その実行を促すことができる。
【0070】
また、上記実施形態の歩行状態評価システム1では、被験者座標pが基準領域Q内に位置している場合に、この両者の位置関係に加え、被験者座標pが良好領域P’に位置するために必要な歩行パラメータの増加量を提示する。これにより、良好な歩行状態に近づけるための改善プロセスとして、どの歩行パラメータをどの程度増加させるべきかを容易に想起させ、その実行を促すことができる。
【0071】
このように、上記実施形態では、被験者座標pの基準領域Qに対する位置関係に応じた改善プロセスを容易に想起させることができるため、被験者の歩行状態を継続的に評価し、都度改善プロセスの実行を促していくことによって、基準となる歩行状態へと改善させ、これを維持してさらに良好な歩行状態へと段階的に高めていくといったことも実現しやすい。
【0072】
また、上記実施形態の歩行状態評価システム1によれば、歩行パラメータそれぞれが被験者座標pよりも所定割合だけ大きくなる座標を良好領域p’として、この良好領域P’に被験者座標pを位置させるために必要な歩行パラメータの増加量を提示する。このとき、被験者座標pに対する良好領域P’の割合を適切に設定することによって、良好な歩行状態に近づけるための改善プロセスとして、歩行パラメータの増加量を無理のない範囲で示すことができる。上記実施形態では、この点を踏まえた割合として、被験者座標pに対する良好領域P’の割合30%を選択している。
【0073】
また、本願出願人は、健康状態の悪化や老化および中高年において日々の生活での股関節の伸展を促す運動が乏しいことに起因して歩行する際の股関節角度が小さくなる傾向に着目し、この股関節角度またはこれに相当するパラメータを軸にどのような歩行パラメータで歩行状態を規定すべきか研究を進めた結果、股関節角度および歩幅(または歩幅を身長で割った歩幅率)で歩行状態を評価することの有用性を見出して創意工夫を施した結果として、この2種類の歩行パラメータを採用した構成に想到している。
【0074】
歩行状態は股関節角度や膝関節角度など多くのパラメータで規定し得るものである一方、パラメータが多くなることは評価に要する処理負荷などが大きくなるため、上記のように2種類のパラメータで歩行状態を規定して評価できることは、評価に要する処理負荷の低減という点でも好適である。
【0075】
よって、上記実施形態の歩行状態評価システム1であれば、歩幅および股関節角度を含む歩行情報を被験者の歩行状態の情報として取得することにより、健康状態との関係での歩行状態としての評価を、その評価に要する処理負荷を抑えて効果的に実現できる。
【0076】
(6)本発明との対応関係
上記実施形態では、状態評価処理のs220~s260が評価手段であり、情報収集処理のs150~s160が提示手段であり、同s110~s130が収集手段であり、記憶部23が記憶手段である。
【符号の説明】
【0077】
1…歩行状態評価システム、10…収集装置、11…制御部、13…記憶部、15…ユーザインタフェース、17…通信部、19…カメラ、20…評価装置、21…制御部、23…記憶部、25…ユーザインタフェース、27…通信部、100…被験者、200…インターネット。
図1
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図8