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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006889
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240110BHJP
   A61P 1/08 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 31/5415 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P1/08
A61P25/18
A61K31/454
A61K31/5415
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187080
(22)【出願日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2022104886
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前川 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 永理
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 陽一郎
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA17
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA18
4C084ZA71
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC39
4C086DA26
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA18
4C086ZA71
(57)【要約】
【課題】痛みを軽減・緩和しつつ、薬物動態を向上できる医薬組成物を提供する。
【解決手段】logP値が3.0以上である薬剤を含む、前記薬剤の最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を短縮するための医薬組成物であって、前記薬剤は皮内投与される医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
logP値が3.0以上である薬剤を含む、前記薬剤の最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を短縮するための医薬組成物であって、
前記薬剤は皮内投与される医薬組成物。
【請求項2】
前記薬剤は、突出長が0.9mm以上1.4mm以下である針管を備える注射針を介して皮内投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記薬剤は、logP値が3.1以上である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記薬剤は、制吐剤または抗精神病薬である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記薬剤は、ドンペリドンまたはクロルプロマジン塩酸塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省の発表によると、がんは、日本において昭和56年より日本人の死因の第1位であり、近年では、年間30万人以上の国民が、がんで亡くなっている。また、生涯のうちにがんにかかる可能性は、男性の2人に1人、女性の3人に1人であると推測されている。しかし、その一方で、日本でのがん治療は進歩しており、多くの部位で5年生存率は上昇傾向にある。がん治療には、外科手術および薬物療法(抗がん剤治療)がある。このうち、薬物療法の中には、催吐性リスクの高い抗がん剤治療がある。このような治療では、突出性悪心等の悪心や嘔吐が高い頻度で見受けられる。このため、突出性悪心または嘔吐を軽減または緩和するために、予防目的で制吐剤が投与される(予防投与)。しかし、そのような処置によっても、症状が緩和されない場合がある。その際には、予防投与時とは作用機序の異なる制吐剤が追加投与される。制吐剤は、通常、経口薬または注射薬(静脈注射薬、筋肉注射薬)である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本癌治療学会 がん診療ガイドライン<URL: http://www.jsco-cpg.jp/guideline/29.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この追加投与は、がん性疼痛の突出痛のように、血中濃度の立ち上がりが速い(=tmaxが速い)ことが有効であると推測される。しかしながら、経口薬では、服用してから効果が出るまでに時間を要するといった課題がある。また、経口薬は、悪心・嘔吐時には飲みにくい、また、そもそも気持ちが悪い状態で制吐剤を服用しても、嘔吐してしまうといった課題もある。注射薬では、静脈注射の場合は短時間で効果がでる。しかしながら、外来治療の場合には患者が自宅で対応する必要があり、静脈注射は医師や看護師等の医療従事者が行う必要があるため、自宅での対応ができない。また、筋肉注射の場合は効果が出る時間は早いものの、血管や神経を障害するリスクがあり、痛みや恐怖心も伴う。このため、痛みは抑えつつ投与後迅速に薬効が発揮する薬剤に対する要望がある。
【0005】
ところで、自宅で実施可能性がある投与方法として、近年投与手技が容易な皮内投与用の医療器具が開発されている。しかしながら、皮内より薬剤を投与する場合、他の投与方法と比べてtmaxの短縮が十分認めらないケースがあることを本発明者らは確認しており、追加投与に適した投与法とは必ずしも言えない。
【0006】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、痛みを軽減・緩和しつつ、薬物動態を向上できる医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、特定の疎水性度を有する薬剤を皮内投与することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、上記目的は、(1)logP値が3.0以上である薬剤を含む、前記薬剤の最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を短縮するための医薬組成物であって、前記薬剤は皮内投与される医薬組成物によって達成できる。
【0009】
ここで、本発明の実施形態では、
(2)上記薬剤は、突出長が0.9mm以上1.4mm以下である針管を備える注射針を介して皮内投与される、上記(1)に記載の医薬組成物であることが好ましい。
【0010】
(3)上記薬剤は、logP値が3.1以上である、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物であることが好ましい。
【0011】
(4)上記薬剤は、制吐剤または抗精神病薬である、上記(1)から(3)のいずれかに記載の医薬組成物であることが好ましい。
【0012】
(5)上記薬剤は、ドンペリドンまたはクロルプロマジン塩酸塩である、上記(1)から(4)のいずれかに記載の医薬組成物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、痛みを軽減・緩和しつつ、薬物動態を向上できる(血中濃度の立ち上がりが速い)医薬組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る投与デバイスの斜視図である。
図2】実施形態に係る針ハブの分解図である。
図3】実施形態に係る針ハブ及びシリンジの部分断面図である。
図4】実施形態に係る針ハブの斜視図である。
図5】実施形態に係る針ハブの拡大断面図である。
図6】実施形態に係る注射針の刃面の拡大平面図である。
図7】実施形態に係る注射針の刃面の拡大斜視図である。
図8図8(A)は図6に示す矢印8A方向から見た注射針の刃面の側面図であり、図8(B)は図7に示す矢印8B方向から見た注射針の刃面の斜視側面図である。
図9図9(A)は図6に示す矢印9A方向から見た注射針の刃面の側面図であり、図9(B)は図7に示す矢印9B方向から見た注射針の刃面の斜視側面図である。
図10】投与デバイスの使用例を模式的に示す断面図である。
図11図10に示す破線部11Aを拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、logP値が3.0以上である薬剤を含む、前記薬剤の最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を短縮するための医薬組成物であって、前記薬剤は皮内投与される医薬組成物を提供する。当該構成によると、薬剤の最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を(特に皮下投与に比して)短縮できる。このように、投与後血中濃度が素早く立ち上がり、薬物動態を向上できるため、被験体(患者)の生活の質(QOL)を向上できる。また、皮下組織に比べて皮内組織では神経が少ないため、投与時の痛みを軽減・緩和できる。ゆえに、本発明の医薬組成物によれば、痛みを軽減・緩和しつつ、薬物動態を向上できる(血中濃度の立ち上がりが速い)。また、本発明の医薬組成物によれば、自宅での投与が可能である。
【0016】
本明細書において、薬剤の最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を、単に「tmax」とも称する。また、logP値が3.0以上である薬剤を、単に「疎水性薬剤」または「本発明に係る疎水性薬剤」とも称する。
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
本明細書に記載される実施の形態は、任意に組み合わせることにより、他の実施の形態とすることができる。
【0019】
また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%の条件で行う。
【0020】
[薬剤(疎水性薬剤)]
抗がん剤治療の副作用として現れる悪心や嘔吐を軽減または緩和するために上述したように予防投与用の制吐剤が処方され、突出性悪心・嘔吐が発生した場合には追加投与用の
制吐剤が処方される。現在処方されている追加投与用の制吐剤は自宅で服用するために経口薬であることが多く、通常、作用機序の異なる錠剤形やカプセル剤形の制吐剤が複数種類処方されている。しかし、経口薬は、悪心・嘔吐時には飲みにくい、また、そもそも気持ちが悪い状態で制吐剤を服用しても、嘔吐してしまう、服用してから効果がでるまでに時間をかなり要する(血中濃度の立ち上がりが遅い、すなわち、tmaxが長い)という課題がある。また、片頭痛の治療薬(例えば、スマトリプタン)の使用においては、早く効かせるためには注射薬が最も望ましいものの、注射に抵抗を示す患者が多い。このため、注射以外の投与方法として、経口薬や点鼻薬を選択する患者もいる。しかし、上述したように、経口薬は服用してから効果がでるまでに時間をかなり要する。点鼻薬は経口薬よりも効果が出るのは早いものの、使用方法による効果のばらつきという課題がある。このため、経口投与以外の投与形態で、患者が抵抗を示すことなく、かつ効果が速攻性である(血中濃度の立ち上がりが速い、すなわち、tmaxが短い)投与方法が強く求められている。
【0021】
上記課題を鋭意検討した結果、本発明者らは皮内投与においてtmaxの延長が認められなかった薬剤が特定のlogP値以上であったことを突き止め、特定のlogP値(疎水性度)を有する薬剤を皮内投与することによって上記課題(経口投与以外の投与形態でtmaxを短縮できる)を解決できることを見出した。
【0022】
本開示において、薬剤(疎水性薬剤)は、3.0以上のlogP値を有する。logP値が3.0未満の薬剤では、投与後血中濃度の立ち上がりが遅く、皮内投与時の薬剤の最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を他の投与経路(例えば、経口投与、皮下投与、特に皮下投与)に比して十分短縮できない。本発明による効果(特にtmaxのさらなる短縮)の観点から、薬剤のlogP値は、好ましくは3.1以上であり、より好ましくは3.5を超え、より好ましくは3.9以上である。なお、薬剤のlogP値の上限は、例えば、7.5以下であり、好ましくは6.0未満であり、より好ましくは5.5未満である。すなわち、本発明の一実施形態では、薬剤のlogP値は、3.1以上7.5以下である。本発明の一実施形態では、薬剤のlogP値は、3.5を超え6.0未満である。本発明の一実施形態では、薬剤のlogP値は、は3.9以上5.5未満である。
【0023】
logP値は、薬剤の疎水性の指標となる数値であり、水と1-オクタノールとに対する有機化合物の親和性を示す係数(1-オクタノール/水分配係数)である。logP値(1-オクタノール/水分配係数)は、1-オクタノールと水の2液相平衡系における、それぞれの溶媒中における化合物の平衡濃度の比の常用対数値(=log10/C;上記式において、Cは1-オクタノール相中の化合物の平衡濃度であり、Cは水相中の化合物の平衡濃度である)で示される。logP値は、構造をフラグメント(原子/官能基)に分け、各原子団の値を合計して(構造補正係数を用いる場合もある)推定値を算出する「フラグメント定数」法によって求められる。本明細書では、米国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency(EPA))から入手できる化学物質の物性推算ソフトウェアの1つであるEPI SuiteTM version 4.11を用いて算出されたlogKow値(実測値)を採用する。なお、当該ソフトウェアで算出できない場合には、OECD Test Guideline(OECD理事会決定「C(81)30最終別添1」)107(OECD Guideline for the testing of chemicals 107, Partition coefficient (n-octanol/water) : Shake flask method)または日本工業規格Z7260-107(2000)「分配係数(1-オクタノール/水)の測定-フラスコ振とう法」に従って測定された値を採用する。上記OECD Test Guidelineおよび日本工業規格(JIS)Z7260-107の開示内容は、参照され、全体として、本明細書に組み入れられている。本明細書では、EPI SuiteTM version 4.11を用いて算出されたlogKow値(実測値)または上記OECD Test Guidelineもしくは日本工業規格Z7260-107に従って測定された値が小数点第2位以下である場合には、小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで求めた値をlogP値として採用する。
【0024】
本開示で使用できる薬剤は、logP値が3.0以上であるものであれば特に制限されず、所望の用途に応じて適宜選択される。例えば、片頭痛治療剤、制吐剤、抗精神病薬、双極性障害治療薬、抗ヒスタミン剤、消化管運動改善剤などが挙げられる。ここで、催吐性リスクが高い抗がん剤治療などの場合には、素早い制吐効果が希求される。また、片頭痛など、被験体に苦痛が伴う場合にも、素早い鎮痛効果が希求される。このため、被験体の生活の質(QOL)の向上の観点から、薬剤は、片頭痛治療剤、制吐剤または抗精神病薬であることが好ましく、制吐剤または抗精神病薬であることがより好ましく、ドンペリドンまたはクロルプロマジン塩酸塩であることがさらに好ましい。具体的には、オランザピン(logP値:3.0)、クロルフェニラミンマレイン酸塩(logP値:3.4(クロルフェニラミン))、ドンペリドン(logP値:3.9)、ハロペリドール(logP値:4.3)、プロクロルペラジンマレイン酸塩(logP値:4.9(プロクロルペラジン))、クロルプロマジン塩酸塩(logP値:5.4(クロルプロマジン))などが挙げられる。
【0025】
薬剤の投与量は、治療上有効な量を考慮して決定されるが、被験体(投与対象)の病気や副作用の性質(例えば、悪心、嘔吐の程度、片頭痛の度合);被験体のサイズ、体重、表面積、年齢および性別;投与される他の薬剤;ならびに主治医の判断などによって異なる。様々な利用できる薬剤の異なる有効性を考慮すると、必要な投与量は広範に変化しうると予想される。これらの投与量レベルの変動は、当該分野において既知の最適に関する標準的な経験上の手順を用いて調節できる。また、上記投与量は、1日1回または複数回に分けてもよい。または、場合によっては、より低い頻度(例えば、週もしくは月単位)で投与されてよい。加えて、同一の被験体であっても、被験体の症状、重篤度、治療の性質などに応じて、投与量は変化しうる。
【0026】
本明細書において、「治療上有効な量」とは、いずれの医療にも適用可能な妥当な便益/リスク比で、何らかの所望の抑制効果を生じるのに有効な有効成分または医薬組成物の量を意味する。例えば、本発明に係る医薬組成物の投与量は、対象疾患、投与対象などにより差異はある。用量は対象となるものの体重等の条件によって容易に変動しうるため、当業者によって適宜選択されうる。また、最終的には、主治医が被験体の症状や重篤度などを考慮して、適切に選択する。
【0027】
本発明に係る医薬組成物は、皮内投与剤である。このため、医薬組成物は、一般的に、薬剤に加えて、溶剤(例えば、滅菌水、生理食塩水、PBS、酢酸、中鎖脂肪酸トリグリセリド)を含む。溶剤の含有量は、特に制限されず、投与量などに応じて適切に選択される。
【0028】
また、医薬組成物は、薬剤および溶剤に加えて、安定化剤、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液、トリス塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液)、溶解補助剤(例えば、酢酸)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム)、pH調整剤(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの塩基、硫酸、塩酸、リン酸などの酸)、無痛化剤、還元剤、酸化防止剤、可溶化剤(例えば、ポリソルベート80)などの他の添加成分を含んでもよい。上記他の添加成分は、1種単独で使用されてもまたは2種以上を併用して使用されてもよい。また、医薬組成物が他の添加成分を含む場合の、含有量は、特に制限されず、公知と同様の量が適用される。
【0029】
[被験体(患者)]
本発明に係る医薬組成物が投与される被験体(患者)は、ヒトまたは非ヒト動物であり
うる。非ヒト動物としては、マウス、ラット、ハムスター等の実験動物;イヌ、ネコ、ウサギ等のペット;ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ニワトリ等の家畜類や家禽類が例示できるがこれらに限定されない。好ましくは、被験体は、ヒトである。
【0030】
[皮内投与]
本開示において、医薬組成物は注射針を介して皮内投与される。ここで、注射針は、被験体に応じて適切に選択される。例えば、投与対象(被験体)がヒトである場合には、皮膚は、皮膚表面から50μm~200μm厚の「表皮層」、表皮層から続く0.5~3.5mm厚の「真皮層」、および真皮層より深部の「皮下組織層」で構成される。また、例えば、ヒト三角筋の表皮層及び真皮層からなる皮膚上層部の厚さは、一般的に約2mm程度である。このため、投与対象(被験体)がヒトである場合には、注射針は、突出長が0.9mm以上1.4mm以下である針管を備えることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、logP値が3.0以上である薬剤を含む、前記薬剤の最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を短縮するための医薬組成物であって、前記薬剤は、突出長が0.9mm以上1.4mm以下ある針管を備える注射針を介して皮内投与される医薬組成物が提供される。本発明のより好ましい形態では、logP値が3.0以上である薬剤を含む、前記薬剤の最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を短縮するための医薬組成物であって、前記薬剤は、突出長が0.9mm以上1.4mm以下ある針管を備える注射針を介してヒトに皮内投与される医薬組成物が提供される。ここで、突出長が0.9mm未満であるまたは1.4mmを超えると、確実に皮内投与することが困難になる(皮内投与成功率が低下する)可能性がある。本発明による効果(特に皮内投与成功率のさらなる向上)などの観点から、本形態での注射針の突出長は、好ましくは1.0mm以上1.3mm以下である。または、投与対象(被験体)が齧歯動物(ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ハムスターなど)などの非ヒト小型動物である場合には、注射針は、突出長が0.1mm以上0.6mm以下である針管を備えることが好ましく、突出長が0.45mm以上0.50mm以下である針管を備えることがより好ましい。
【0031】
なお、ヒトの表皮層は薄く、かつヒトの表皮層の厚みは被験体(投与対象)の年齢差、男女差、個人差、病歴・治療歴等に依存する。そのため、従来の皮下投与に使用される注射針を備える薬剤投与デバイスを使用して皮内投与を試みる場合、真皮層内の表皮寄りの投与部位の深さを一義的に定めることができず、注射針の針先の位置を真皮層内に適切に位置決めすることが容易ではない。このため、皮内投与成功率をさらに向上できるなどの観点から、(投与対象がヒトの場合には、突出長を0.9mm以上1.4mm以下とした)特表2012-503995号公報(WO 2010/038879)や特開2010-172603号公報などに記載の組立体または装置が好ましく使用される。
【0032】
以下では、針管を備える注射針を有する投与デバイス10および針組立体100の好ましい形態を説明する。なお、本発明は、下記形態に限定されない。各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0033】
[投与デバイス]
図1は、投与デバイス10の全体構成を概略的に示す斜視図である。
【0034】
投与デバイス10は、図10及び図11に示すように、被験体の真皮層s2に薬剤を投与(皮内投与)するために使用される。
【0035】
図10及び図11には、薬剤の投与対象となる被験体の表皮層s1、真皮層s2、皮下組織層s3を模式的な断面図で示している。本明細書では、表皮層s1及び真皮層s2を合わせて皮膚上層部s4とする。
【0036】
図1に示すように、投与デバイス10は、注射針110が保持された針ハブ120を備える針組立体100と、針組立体100と接続可能なシリンジ200と、を備える。
【0037】
図3に示すように、シリンジ200の内部には、薬剤(薬液)を収容可能な液室240が設けられている。シリンジ200の液室240には、液室240から注射針110の針管111の内腔111aに薬剤を送液する押子300が挿入されている。
【0038】
本実施形態では、注射針110の延在方向及びシリンジ200の延在方向を「軸方向」とも称する。注射針110の針先112側を「先端側」とし、先端側の反対の端部側を「基端側」とする。
【0039】
被験体や術者等(以下、「使用者」とも称する)は、注射針110の針先112を真皮層s2内に配置した状態で押子300をシリンジ200の先端側へ向けて移動させることにより、針先112に形成された先端開口部112aを介して薬剤を被験体に皮内投与することができる(図11を参照)。このように注射針110の針先112を目的とする投与部位に配置して薬剤を注入するという簡単な操作で、確実に皮内投与することができる。また、針先112はガイド部123内にあり、操作中、使用者には見えない構造となっている。このため、注射に対して恐怖心を抱いている被験体であっても、少ない抵抗でまたは抵抗なく自宅で投与操作を行うことが可能である。
【0040】
投与デバイス10は、例えば、皮内投与に際して液室240内に薬剤(薬液)を充填し、充填した薬剤を投与するごとに廃棄するディスポーザル型のデバイスとして構成することができる。なお、投与デバイス10は、皮内投与に先立って液室240内に薬剤が予め充填されたプレフィルド型のデバイスとして構成することも可能である。また、液室240に収容される薬剤(皮内投与される薬剤)は、logP値が3.0以上であれば特に制限はないが、具体的には、上記[薬剤]で説明したとおりである。
【0041】
図1に示すように、シリンジ200は、針ハブ120を接続可能なロック機構205(図3を参照)が先端側に配置された第1筒部210と、第1筒部210の基端側に配置された第2筒部220と、を備える。
【0042】
第1筒部210及び第2筒部220は、略円筒形状の外形を有する。第1筒部210の基端側に配置された第2筒部220は、第1筒部210よりも大きな外径を有する。
【0043】
使用者は、投与デバイス10を使用した皮内投与を実施する際、シリンジ200の基端側に位置する第2筒部220を把持することができる。第2筒部220は第1筒部210よりも大径であるため、使用者は第2筒部220を把持し易く、また把持した際のグリップ力も高められる。そのため、使用者が投与デバイス10を使用して皮内投与を実施する際、投与デバイス10の先端側へ突出した注射針110の針先112を表皮層s1に対してしっかりと刺入させることが可能になる。
【0044】
図3に示すロック機構205は、例えば、内面にネジ溝が設けられた部材で構成することができる。本実施形態では、針ハブ120の第2部材127の基端部には、ロック機構205のネジ溝に螺合可能な接続部128を設けている。使用者は、ロック機構205の内側に針ハブ120の基端部を挿入した状態で、針ハブ120を回転させて螺合させることにより、シリンジ200に対して針ハブ120を着脱可能に接続することができる。
【0045】
例えば、ロック機構205に設けられるネジ溝は雌ネジで構成することができ、針ハブ120に設けられる接続部128は雄ネジで構成することができる。ただし、ロック機構205側のネジ溝を雄ネジで構成し、接続部128側のネジ溝を雌ネジで構成してもよい。また、針ハブ120とシリンジ200を接続するための具体的な機構について特に制限はなく、例えば、針ハブ120の基端部の内側にシリンジ200の先端部を挿入して両者を嵌合させるような機構を採用することも可能である。また、針ハブ120は、接着剤等を使用してシリンジ200に対して分離できないように固定されていてもよい。
【0046】
図3に示すように、シリンジ200の液室240は、針ハブ120とシリンジ200を接続した状態において、注射針110の内腔111a(図6を参照)に連通される。後述するように、注射針110は、接着剤126により針ハブ120の内部に固定されている。
【0047】
[針組立体]
図1図2図3に示すように、針組立体100は、注射針110と、注射針110が保持された針ハブ120と、を有する。
【0048】
図2には、針組立体100の分解図を示す。
【0049】
針ハブ120は、図3に示すように、針ハブ120の先端側に配置される第1部材121と、第1部材121の基端側に配置される第2部材127と、を有する。
【0050】
注射針110は、第1部材121の内部に充填された接着剤126により、第1部材121に対して固定されている。第1部材121の基端部と第2部材127の先端部の間には弾性部材125が配置されている。注射針110は、注射針110の基端部115が液室240の先端に位置合わせされた状態で、針ハブ120の内部に配置されている。
【0051】
図3図4図5に示すように、針ハブ120の第1部材121は、注射針110の針管111の針先112から基端側に向かう一定の範囲を露出させることにより、針管111の突出長L1を調整する調整部122と、調整部122及び針管111において調整部122から露出した部分の周囲を囲むとともに、調整部122及び針管111との間に空間122aを空けて配置されたガイド部123と、を有する。
【0052】
調整部122は、針ハブ120の面方向の略中心位置に設けられている。調整部122は、注射針110の針先112側の一部を露出させる中空状の部分で構成されている。注射針110は、図5に示すように、針先112側の一部が調整部122から先端側に向けて所定の長さL1で露出した状態で前述した接着剤126により針ハブ120に対して固定されている。したがって、針ハブ120は、投与デバイス10を使用した皮内投与を実施する際に注射針110の針先112が被験体の表皮層s1に押し付けられるのに伴って注射針110が基端側へ移動して突出長L1が変化することを防止できる。
【0053】
ガイド部123は、調整部122と同心円状に配置されている。そのため、図4に示すように、調整部122の周囲には、調整部122を中心にした円状の空間122aが形成されている。
【0054】
図3図4に示すように、ガイド部123のさらに外周側の位置には、平面状に延びるフランジ部124が配置されている。フランジ部124は、ガイド部123と同様に、調整部122と同心円状に配置されている。フランジ部124は、ガイド部123の基端付近から外周方向へ延びている。
【0055】
注射針110の基端部115付近に配置された弾性部材125は、シリンジ200の液室240と針ハブ120の接続部における液密性を高める。これにより、液室240から注射針110の内腔111aへ薬剤を送液した際に、注射針110の基端部付近で薬剤が
漏洩することを防止できる。
【0056】
投与デバイス10は、図2に示すキャップ部材130を備えていてもよい。キャップ部材130は、針ハブ120の第1部材121に接続可能に構成される。キャップ部材130は、針ハブ120に接続された状態において、針ハブ120の先端側から注射針110の針先112を覆うように配置される。使用者は、針ハブ120にキャップ部材130を取り付けることにより、注射針110の針先112が誤穿刺されることを防止できる。
【0057】
図5に示す針ハブ120の各部は、例えば、下記の寸法例で形成することができる。ただし、下記に示す寸法例に限定されることはない。
【0058】
調整部122の外周縁からガイド部123の内周縁までの距離T1(空間122aの水平方向の幅に相当)は、例えば、4.9mm以上5.3mm以下に形成することができる。
【0059】
ガイド部123の外周縁からフランジ部124の外周縁までの距離T2は、例えば、2.9mm以上3.1mm以下に形成することができる。
【0060】
注射針110の突出方向における調整部122とガイド部123との間の寸法差Hgは、例えば、0.2mm以上0.4mm以下に形成することができる。
【0061】
針ハブ120及びシリンジ200の各部は、例えば、公知の樹脂材料や公知の金属材料で構成することができる。一例として、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂や、ステンレス、アルミ等の金属を用いることができる。
【0062】
図10図11には、注射針110で使用者に対して皮内投与を実施する際の模式的な断面図を示している。
【0063】
図10に示すように、注射針110を表皮層s1に対して垂直穿刺する際、調整部122が表皮層s1に接触し、表皮層s1を注射針110の周囲に押し広げる。この際、表皮層s1は、調整部122とガイド部123の間に設けられた空間122a内で平坦をなすように押し広げられる。使用者は、フランジ部124が表皮層s1に接触するまで調整部122を押し付けることにより、調整部122及び針管111が表皮層s1を押圧する力を所定値以上に確保することができる。使用者は、調整部122及びフランジ部124を表皮層s1に押し付けた状態で、所定の突出長L1を保つように配置された注射針110を表皮層s1側から刺入することにより、被験体の表皮層s1の状態のばらつきに依存することなく、注射針110の針先112を適切に真皮層s2内に案内することができる。
【0064】
なお、本実施形態に係る投与デバイス10及び注射針110を使用した皮内投与方法の具体的な手順は、後述する実施例を通じてより詳細に説明する。
【0065】
図6図9には、本実施形態に係る注射針110の先端側(刃面113側)の一部を拡大して示している。
【0066】
図6は注射針110の先端開口部112aを正面に見た平面図であり、図7は注射針110の斜視図である。図8(A)は、図6に示す矢印8A方向から注射針の側面図(左側面図)、図8(B)は、図7に示す矢印8B方向から見た注射針110の斜視側面図である。図9(A)は、図6に示す矢印9A方向から注射針の側面図(右側面図)、図9(B)は、図7に示す矢印9B方向から見た注射針110の斜視側面図である。
【0067】
図6に示すように、本実施形態に係る注射針110は、針先112に刃面113が形成された針管111を備える。
【0068】
図6図9に示す直線O1は、注射針110(針管111)の延在方向に沿う中心軸線を示す。
【0069】
針管111の内部には、皮内投与される薬剤が流通可能な内腔111aが形成されている。針先112の最先端には内腔111aに連通する先端開口部112aが形成されている。
【0070】
前述した投与デバイス10において、注射針110は、注射針110の基端側の一定の範囲が針ハブ120の内部(第1部材121及び第2部材127の内部)に収容された状態で配置される。注射針110の先端側の一部は、針ハブ120の調整部122よりも先端側に突出するように配置される。
【0071】
注射針110の刃面113が形成された部分よりも針管111の基端側の部分であって、調整部122から露出した部分は、針胴部114を構成する。
【0072】
注射針110は、例えば、「ランセット針」や「セミランセット針」で構成することができる。ただし、注射針110の具体的な形状や構造については特に制限はない。例えば、注射針110は、ストレート針だけでなく、少なくとも一部がテーパ状となっているテーパ針で構成されていても、または、針管111の径方向の断面形状が三角形等の多角形で構成されていてもよい。
【0073】
注射針110は、例えば、金属を構成材料とする金属針で構成することができる。注射針110を構成する金属としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。
【0074】
図6図7に示すように、刃面113は、針管111の基端側に位置する第1刃面113aと、第1刃面113aよりも針先112側(先端側)に位置する境目116で稜線をなす第2刃面113b及び第3刃面113cと、を有する。
【0075】
第2刃面113bと第3刃面113cは、図6に示す平面図において、境目116を基準にして左右対称に形成されている。そのため、後述する第2刃面角θ2と第3刃面角θ3は略同一であり、第2刃面113bの刃面長L22と第3刃面113cの刃面長L23も略同一である。なお、第2刃面113bと第3刃面113cは互いに異なる形状(例えば、第2刃面角θ2と第3刃面角θ3及び/又は第2刃面113bの刃面長L22と第3刃面113cの刃面長L23が異なる形状)で形成されていてもよい。
【0076】
図8(A)及び図9(A)に示す第1刃面角θ1は、針管111の中心軸線O1と第1刃面113aとが成す角度である。図8(A)及び図8(B)に示す直線H1は、第1刃面113aに沿う仮想直線である。つまり、第1刃面角θ1は、中心軸線O1と直線H1が成す角度である。
【0077】
図9(B)に示す第2刃面角θ2は、針管111の中心軸線O1と第2刃面113bとが成す角度である。図9(B)に示す直線H2は、第2刃面113bに沿う仮想直線である。つまり、第2刃面角θ2は、中心軸線O1と直線H2が成す角度である。
【0078】
図8(B)に示す第3刃面角θ3は、針管111の中心軸線O1と第3刃面113cとが成す角度である。図8(B)に示す直線H3は、第3刃面113cに沿う仮想直線であ
る。つまり、第3刃面角θ3は、中心軸線O1と直線H3が成す角度である。
【0079】
図8(A)及び図9(A)に示す稜線角α1は、中心軸線O1と境目116に形成された稜線とが成す角度である。図8(A)及び図8(B)に示す直線B1は、稜線に沿う仮想直線である。つまり、稜線角α1は、中心軸線O1と直線B1が成す角度である。
【0080】
第1刃面角θ1及び稜線角α1は、例えば、鋭角に形成することができる。また、第1刃面角θ1は、稜線角α1に比べて、鋭角の度合いが大きくなるように形成することができる。なお、「鋭角の度合いが大きい」とは、鋭角の範囲において、角度がより小さいことを意味する。
【0081】
第2刃面角θ2及び第3刃面角θ3は、例えば、鋭角に形成することができる。また、第1刃面角θ1は、第2刃面角θ2及び第3刃面角θ3の各々と比べて、鋭角の度合いが大きくなるように形成することができる。
【0082】
注射針110は、上記のように各刃面角θ1、θ2、θ3及び稜線角α1の関係が規定されることにより、比較的短い刃面長L2で形成される場合においても、針先112の表皮層s1に対する刺入性が向上したものとなる。
【0083】
次に、図6図9を参照して、本実施形態に係る注射針110の各部の好適な寸法例について説明する。
【0084】
図6に示す針管111の外径D1は、0.1mm以上0.2mm以下で形成することができる。また、針管111の外径D1は、被験体の皮内投与をより確実かつ簡単に実施可能とする観点より、0.130mm以上0.1845mm以下であることがより好ましい。
【0085】
図6に示す針管111の内径Φ1は、0.07mm以上0.1mm以下で形成することができる。
【0086】
図6に示す針管111の突出長L1は、0.9mm以上1.4mm以下である。
【0087】
図6に示す針管111の突出長L1は、医薬組成物を皮内投与するのに適する長さであり、投与対象に応じて適切に背タンクされる。例えば、投与対象(被験体)がヒトである場合には、針管111の突出長L1は0.9mm以上1.4mm以下であることが好ましい。被験体の皮内投与をより確実かつ簡単に実施可能とする観点より、針管111の突出長L1は、より好ましくは1.0mm以上1.3mm以下である。また、例えば、投与対象(被験体)が齧歯動物(ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ハムスターなど)などの非ヒト小型動物である場合には、針管111の突出長L1は0.1mm以上0.6mm以下であることが好ましく、被験体の皮内投与をより確実かつ簡単に実施可能とする観点より、針管111の突出長L1は、0.45mm以上0.5mm以下である針管を備えることがより好ましい。
【0088】
図6に示す針管111の延在方向(中心軸線O1と平行な方向)に沿う刃面113の長さ(刃面長)L2は、0.3mm未満で形成することができる。また、刃面113の長さL2は、被験体の表皮層s1の貫通性を高める観点より、0.15mm以上0.2mm以下であることがより好ましい。
【0089】
なお、刃面長L2は、第1刃面113aの刃面長L21と第2刃面113bの刃面長L22の合計値、もしくは第1刃面113aの刃面長L21と第3刃面113cの刃面長L
23の合計値である。
【0090】
図6に示す針胴長L3は、0.05mm以上0.5mm以下で形成することができる。針胴長L3は、被験体の皮内投与をより確実かつ簡単に実施可能とする観点より、0.3mm以上0.35mm以下であることがより好ましい。
【0091】
図6に示す針管111の肉厚t1は、0.01mm以上0.06mm以下で形成することができる。針管111の肉厚t1は、針管111の外径D1及び針管111の内径Φ1との兼ね合いで注射針110による薬剤の注入圧を適切な値とする観点より、0.0215mm以上0.0505mm以下であることがより好ましい。
【0092】
図6に示す刃面113の全長L2に対して第2刃面113bの刃面長L22及び第3刃面113cの刃面長L23が占める割合(L2/L22及びL2/L23)は40%以上60%以下に形成することができる。上記割合は、被験体の表皮層s1の刺入性を高める観点より、47%以上56%以下であることがより好ましい。
【0093】
なお、刃面長L2を0.15mm以上0.2mm以下で形成する場合において、上記割合を47%以上56%以下とする場合、第2刃面113bの刃面長L22及び第3刃面113cの刃面長L23は、例えば、0.05mm以上0.09mm以下で形成することができる。この場合、第1刃面113aの刃面長L21は、例えば、0.09mm以上0.17mm以下で形成することができる。
【0094】
図8(A)及び図9(A)に示す第1刃面角θ1は、10°以上65°以下に形成することができる。第1刃面角θ1は、針先112の表皮層s1に対する刺入性を高める観点より、23°以上40°以下であることがより好ましい。
【0095】
図8(B)及び図9(B)に示す第2刃面角θ2及び第3刃面角θ3は、20°以上85°以下に形成することができる。第2刃面角θ2及び第3刃面角θ3は、針先112の表皮層s1に対する刺入性を高める観点より、21°以上45°以下であることがより好ましい。
【0096】
図8(A)及び図9(A)に示す稜線角α1は、15°以上70°以下に形成することができる。稜線角α1は、針先112の表皮層s1に対する刺入性を高める観点より、28°以上44°以下であることがより好ましい。
【0097】
[皮内投与方法]
次に、本実施形態に係る皮内投与方法を説明する。すなわち、本発明は、logP値が3.0以上である薬剤を注射針を介して皮内投与する方法を提供する。また、本発明の一実施形態では、logP値が3.0以上である薬剤を、突出長が0.9mm以上1.4mm以下である針管を備える注射針を介してヒトに皮内投与する方法を提供する。または、本発明は、logP値が3.0以上である薬剤を注射針を介して皮内投与することを有する、最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を短縮する方法を提供する。また、本発明の一実施形態では、logP値が3.0以上である薬剤を、突出長が0.9mm以上1.4mm以下である針管を備える注射針を介してヒトに皮内投与することを有する、最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を短縮する方法を提供する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0098】
前述したように、本実施形態に係る注射針110及び投与デバイス10は、被験体への皮内投与に好適な構成を有する。
【0099】
したがって、本実施形態では、突出長が0.9mm以上1.4mm以下である針管を備える注射針と、前記注射針を保持する針ハブと、を備える針組立体であって、前記針ハブは、前記針管の針先から基端側に向かう一定の範囲を露出させることにより、前記針管の突出長を調整する調整部と、前記調整部及び前記針管において前記調整部から露出した部分の周囲を囲むとともに、前記調整部及び前記針管との間に空間を空けて配置されたガイド部と、を有する針組立体、または前記針組立体と、前記針ハブに接続されたシリンジと、を備える投与デバイスであって、前記シリンジは、前記針ハブの基端側に配置される第1筒部と、前記第1筒部の基端側に配置され、前記第1筒部よりも大きな外径を備える第2筒部と、を有する、投与デバイスを用いて、被験体への薬剤の皮内投与方法であって、前記薬剤のlogP値は3.0以上であり、前記被験体の前記薬剤を投与すべき部位に注射針が保持された針ハブのガイド部を押し付けた後、前記注射針を介して、前記薬剤を前記投与部位に垂直穿刺で皮内投与することを有する、被験体(特にヒト)への皮内投与方法が提供される。
【0100】
また、本実施形態では、突出長が0.9mm以上1.4mm以下である針管を備える注射針と、前記注射針を保持する針ハブと、を備える針組立体であって、前記針ハブは、前記針管の針先から基端側に向かう一定の範囲を露出させることにより、前記針管の突出長を調整する調整部と、前記調整部及び前記針管において前記調整部から露出した部分の周囲を囲むとともに、前記調整部及び前記針管との間に空間を空けて配置されたガイド部と、を有する針組立体、または前記針組立体と、前記針ハブに接続されたシリンジと、を備える投与デバイスであって、前記シリンジは、前記針ハブの基端側に配置される第1筒部と、前記第1筒部の基端側に配置され、前記第1筒部よりも大きな外径を備える第2筒部と、を有する、投与デバイスを用いて、被験体(特にヒト)に薬剤を皮内投与することを有し、前記薬剤のlogP値は3.0以上であり、前記被験体の前記薬剤を投与すべき部位に、注射針が保持された針ハブのガイド部を押し付けた後、前記注射針を介して、前記薬剤を前記投与部位に垂直穿刺で皮内投与することを有する、前記薬剤の最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を短縮する方法が提供される。
【0101】
本発明の一実施形態では、投与部位は、厚さが3.0mm未満(好ましくは、2.0mm未満)の真皮層s2を有する皮膚上層部s4である。また、本実施形態において、投与部位の厚さは、超音波画像診断装置によって測定される。
【0102】
また、皮内投与に使用される注射針110の突出長L1は、被験体の皮膚上層部s4の厚さに対する当該注射針110の突出長L1の割合が、0.9未満であることが好ましく、0.8未満であることがより好ましく、0.7以下であることが特に好ましい。これにより、針管111をより確実に皮膚上層部s4に配置でき、皮内投与成功率をさらに向上できる。
【0103】
上記に代えて、又は上記に加えて、皮内注射を実施する際、注射針110の刃面113全体が被験体の皮膚上層部s4に埋まることが好ましい。これにより、針管111から薬剤が漏れることを抑制できる。
【0104】
具体的には、刃面長L2は、被験体の皮膚上層部s4の厚さよりも小さく、かつ、被験体の皮膚上層部s4の厚さに対する注射針110の刃面長L2の割合が、0.60未満であることが好ましく、0.56未満であることがより好ましく、0.50未満であることがさらに好ましく、0.35未満であることが特に好ましい。これにより、薬剤全量をより確実に皮膚上層部s4に注入でき、皮内投与成功率をさらに向上できる。
【0105】
皮内投与方法では、まず被験体の投与部位を確認する。なお、被験体の投与部位の下側(注射針110の刺入方向と反対側に位置する表皮層側)に、垂直穿刺を安定化させるための支持部材(以下、単に「支持部材」とも称する)を配置してもよい。この際、支持部
材は、シリコーン樹脂などから形成されることが好ましい。このような支持部材は適度な硬度を有するため、投与部位を安定して固定できる。
【0106】
また、被験体の皮膚上層部s4の任意の部位を平坦になるように伸ばして、投与部位としてもよい。この際、針ハブ120が備えるガイド部123を投与部位に押し付けた後、この投与部位からガイド部123を所定の距離だけ離間させてもよい(表皮層s1から持ち上げる方向に移動させる)。これにより、薬剤(薬液)の注入圧が下がり、良好に皮内投与を行うことができる。この場合のガイド部123の離間距離は、薬剤の注入圧を十分下げる程度であることが好ましい。具体的には、投与時の注入圧力が5~20Nとなるような距離であることが好ましく、投与時の注入圧力が10~15Nとなるような距離であることがより好ましい。なお、上記「注入圧力」は、被験体に投与した際の手の感覚をもとにして、同程度の力でデジタルフォースゲージを押したときの圧力を測定し、この圧力を注入圧力とするによって、測定される。
【0107】
上記皮内投与方法および注射針の穿刺抵抗により、薬剤を確実にかつ正確に被験体の皮内(皮膚上層部s4)に送達することができる。
【0108】
従来、被験体の真皮層s2内への薬剤の投与方法としては、マントー法がよく知られている。マントー法は、真皮層s2を有する皮膚上層部s4に対して斜め方向に注射針110を穿刺する方法である。ここで、皮膚は、前述したように、表皮層s1及び真皮層s2からなる皮膚上層部s4、ならびに皮下組織層s3から構成される。ヒト三角筋の皮膚上層部の厚さは、一般的に約2mmと薄い。このため、皮膚上層部s4への皮内投与方法は難しく、手技や使用する注射針径によっては皮下組織層s3中や皮膚表面に薬剤が漏れる可能性がある。また、皮内投与が成功するか否かは注射を行う術者の技量によりばらつきが生じうる。これに対して、本実施形態に係る皮内投与方法(特に本開示の投与デバイスを用いた皮内投与方法)によれば、薬剤を所定量確実に皮内投与することができる。また、垂直穿刺によるため、手技が容易であり、また、術者によるばらつきを抑えることができる。さらに、薬剤の漏れを抑制できる。ゆえに、本実施形態の皮内投与方法によれば、所定量の薬剤を確実にかつ正確に被験体の皮内に送達することができる。さらに、特定の疎水性度(logP値)を有する薬剤を皮内投与するため、他の投与経路(特に皮下投与)に比して短期間で薬効を発揮することができる(薬物動態を向上できる)。このため、従来より少ない量の薬剤であっても、投与薬剤による効果を発揮することが期待できる。また、皮下組織に比べて皮内組織では神経が少ないため、投与時の痛みを軽減・緩和できる。
【実施例0109】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0110】
実施例1
(注射液の調製)
ジプレキサ筋注用10mg(日本イーライリリー株式会社)を開封し、注射用水0.525mLを加えて溶解させることにより、オランザピン注射液(20mg/mL、オランザピンのLogP値=3.0)を調製した。なお、ジプレキサ筋注用10mgは、有効成分として、1バイアル中にオランザピン11.0mgを含むが、これは溶解した薬液の吸引時及び投与時の損失を考慮し、1バイアルから10mgを注射可能な量として確保するために過量充填されている。
【0111】
(投与デバイスの作製)
注射針(針管の外径:0.1845mm(34G)、突出長:0.5mm、刃面長:0.2mm、針先形状:セミランセット)を備えた図3に示す針組立体100(ガイド部123の外径=13.1mm)及び図1に示す投与デバイス10を作製した。投与デバイス10は、針組立体100にシリンジ200を接続した構造を有する。なお、使用するラットの表皮層および真皮層からなる皮膚上層部の厚さは一般的に0.4~0.8mm程度である。このため、ラット皮内投与デバイスでは、針管の突出長を0.5mmとした。
【0112】
(使用動物)
雄性ラット(Crl:CD(SD)、7週齢、ジャクソン・ラボラトリー・ジャパン株式会社(旧日本チャールス・リバー株式会社)より購入)3匹に対し、7日間の検疫・馴化期間を設け、全個体健康状態に異常がなく体重減少を認めないことを確認して、試験に供した。ラットには、12時間照明、温度20~26℃、湿度30~70%の飼育環境で、餌及び水を自由摂取させた。実験はテルモ株式会社における動物実験に関する指針に従って実施した。
【0113】
(投与)
上記にて調製したオランザピン注射液を、ラットへのオランザピンの投与用量が2.5mg/kg 体重となるような量、針管111を介してシリンジ200内に注入した。なお、個体あたりの投与量(μL)は、投与日の体重を基に以下に示す式(A)により小数点以下第2位を四捨五入し、小数点以下第1位まで求めた値とする。
【0114】
【数1】
【0115】
各ラットを、イソフルラン(イソフルラン吸入麻酔液「ファイザー」、製造:マイラン製薬株式会社、販売:ファイザー株式会社)で麻酔した(濃度設定:2%)。次に、麻酔下で、上記ラットの背部をバリカンで毛狩りして投与部位を作製した後、横臥させた。この投与部位に、ガイド部123を押し付けた後、注射針110を介して、オランザピン注射液を背部皮内に投与した(ラットへの投与用量:2.5mg/kg 体重)。
【0116】
各ラットの皮内投与部位を目視により確認した。その結果、すべてのラットで、注射液の漏れが確認されず、膨疹径(直径)が3mm以上でありかつ膨疹の色が周囲の皮膚より白かったため、「皮内投与成功」と判断した。なお、膨疹径(直径)に関しては、米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)ガイドラインによると、ヒトの場合、100μLの薬液を投与した際に6mm以上の径の膨疹が形成された場合に「皮内投与成功」と判断しており、本例でのラットの場合は投与液量が半量の50μL以下であることから、膨疹径が3mm以上の場合に皮内投与成功とした。また、膨疹の色に関しては、ラットの場合皮膚がヒトより柔らかいため皮下投与の場合も膨疹のようなものが見られる場合があることから、皮下投与と区別するために基準に加えた。
【0117】
(tmaxの測定)
下記方法に従って、オランザピン注射液の投与前、ならびにオランザピン注射液の投与後5、10、15、30、45、60および120分の計8時点における血漿中薬物濃度を測定し、最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)(分)を求めた。
【0118】
23G針(NN02325R、テルモ株式会社)を装着した抗凝固剤入りの1mLシリンジ(SS-01P、テルモ株式会社)(ヘパリンナトリウム(ヘパリンNa注1万単位/10mL「モチダ」、持田製薬株式会社)3μLを充填)を準備した(抗凝固剤入りシリンジ)。
【0119】
各時点で、各ラットの頸部(採血部位)をバリカンで毛刈りした後、保定し、抗凝固剤入りシリンジを用いて頚静脈から0.3mL採血した。採取した血液は、直ちに1.5mL容ポリプロピレン製チューブ(1-1600-01、アズワン株式会社)に移し、タッピングにより血液と抗凝固剤とをよく混合した後、遠心分離して、血漿を分離した。
【0120】
各血漿10μLに、内部標準物質(I.S.)10μL(0.4μg/mL、Olanzapine-d8(CAYMAN CHEMICAL))及びエタノール10μLを加えて攪拌した。次いで、10mM ギ酸アンモニウム100μLを加えて攪拌後、t-ブチルメチルエーテル600μLを加えて攪拌した。10,000×gで5分間遠心分離した後、上部の有機層を除去し、窒素気流下で乾固させた。残渣にメタノール200μLを加えて攪拌後、水200μLを加えて攪拌し(前処理)、測定試料とした。上記にて得られた測定試料について、下記条件にて、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)に従って、血漿中薬物濃度を測定した。各時点の血漿中薬物濃度を比較し、最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を求めたところ、オランザピン注射液皮内投与時のtmaxは25.7分(3匹の平均値)であった。
【0121】
(LC設定条件)
・HPLCシステム: Nexeraシステム(株式会社島津製作所)
・分析カラム: SUMIPAX(登録商標) ODS Z-CLUE,
2.0mm I.D.×50mm L., 3μm(株式会社住化分析センター)
・カラム温度: 40℃
・溶離液: A 10mmoL/L ギ酸アンモニウム、
B メタノール
・流量: 0.35mL/min
・グラジエント条件: 下記表1のとおり
【0122】
【表1】
【0123】
(MS/MS設定条件)
・タンデム質量分析計:API5000(AB Sciex Pte. Ltd.)
・インターフェース:Turbo-V spray
・イオン化法:Electrospray ionization(ESI), positive ion mode
・スキャンモード:Multiple reaction monitoring(MRM) mode
・ヒーターガス温度:600℃
・イオンスプレー電圧(IS):5500V
・ネブライザーガス(GS1):60psi,air(1psi=6.895kPa)
・ヒーターガス(GS2):60psi,air
・カーテンガス:設定値15,nitrogen
・コリジョンガス:設定値10,nitrogen
・モニターイオン及びコリジョンエネルギー
オランザピン:m/z 313→m/z 256, 30 eV、I.S.:m/z 358 → m/z 198, 53 eV
実施例2
(注射液の調製)
0.1mol/L酢酸緩衝液(pH 5.0、20℃)0.5mLに、注射用水4.5mLを加え、0.01mol/L酢酸緩衝液を調製した。別途、ドンペリドン(logP値=3.9)7.53mgを秤量し、酢酸9μLを加えて溶解した後、上記にて調製した0.01mol/L酢酸緩衝液738μLおよび10mol/L水酸化ナトリウム溶液5μLを添加することにより、ドンペリドン注射液(10mg/mL)を調製した。なお、溶解した薬液の吸引時及び投与時の損失を考慮し、ドンペリドン7.52mgを注射可能な量として確保するために過量秤量している。
【0124】
(投与デバイスの作製)
実施例1と同様にして、投与デバイス10を作製した。
【0125】
(使用動物)
実施例1と同様にして、ラット3匹を試験に供した。
【0126】
(投与)
上記にて調製したドンペリドン注射液を、ラットへのドンペリドンの投与量が1.4mg/kg 体重となるような量、針管111を介してシリンジ200内に注入した。なお、個体あたりの投与量(μL)は、実施例1と同様にして求めた。
【0127】
各ラットを、イソフルラン(イソフルラン吸入麻酔液「ファイザー」、製造:マイラン製薬株式会社、販売:ファイザー株式会社)で麻酔した(濃度設定:2%)。次に、麻酔下で、上記ラットの背部をバリカンで毛狩りして投与部位を作製した後、横臥させた。この投与部位に、ガイド部123を押し付けた後、注射針110を介して、ドンペリドン注射液を背部皮内に投与した(ラットへの投与用量:1.4mg/kg 体重)。
【0128】
実施例1と同様にして、各ラットの皮内投与部位を目視により確認した。その結果、すべてのラットで、注射液の漏れが確認されず、膨疹径(直径)が3mm以上でありかつ膨疹の色が周囲の皮膚より白かったため、「皮内投与成功」と判断した。
【0129】
(tmaxの測定)
実施例1において、前処理で各血漿に添加する溶媒をメタノールにおよびI.S.をDomperidone-d6(Toronto Research Chemicals)にそれぞれ変更し、(LC設定条件)の流量およびグラジエント条件をそれぞれ0.3mL/minおよび下記表2に記載の条件に変更し、(MS/MS設定条件)のモニターイオン及びコリジョンエネルギーをm/z 426→m/z 147,56eV(ドンペリドン)、m/z 432→m/z 181,40eV(I.S.)に変更した以外は、実施例1と同様の方法に従って、ドンペリドン注射液の投与前、ならびにドンペリドン注射液の投与後5、10、15、30、45、60および120分の計8時点における血漿中薬物濃度の測定を行った。各時点の血漿中薬物濃度を比較し、最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を求めたところ、ドンペリドン注射液皮内投与時のtmaxは10.0分(3匹の平均値)であった。
【0130】
【表2】
【0131】
実施例3
(注射液の調製)
コントミン筋注用50mg(クロルプロマジン塩酸塩 50.0mg/5mLを含む)を、クロルプロマジン注射液(9mg/mL、クロルプロマジンのlogP値=5.4)として用意した。
【0132】
(投与デバイスの作製)
実施例1と同様にして、投与デバイス10を作製した。
【0133】
(使用動物)
実施例1と同様にして、ラット3匹を試験に供した。
【0134】
(投与)
上記にて調製したクロルプロマジン注射液を、ラットへのクロルプロマジンの投与量が1.2mg/kg 体重となるような量、針管111を介してシリンジ200内に注入した。なお、個体あたりの投与量(μL)は、実施例1と同様にして求めた。
【0135】
各ラットを、イソフルラン(イソフルラン吸入麻酔液「ファイザー」、製造:マイラン製薬株式会社、販売:ファイザー株式会社)で麻酔した(濃度設定:2%)。次に、麻酔下で、上記ラットの背部をバリカンで毛狩りして投与部位を作製した後、横臥させた。この投与部位に、ガイド部123を押し付けた後、注射針110を介して、クロルプロマジン注射液を背部皮内に投与した(ラットへの投与用量:1.2mg/kg 体重)。
【0136】
実施例1と同様にして、各ラットの皮内投与部位を目視により確認した。その結果、すべてのラットで、注射液の漏れが確認されず、膨疹径(直径)が3mm以上でありかつ膨疹の色が周囲の皮膚より白かったため、「皮内投与成功」と判断した。
【0137】
(tmaxの測定)
実施例1において、前処理で各血漿に添加する溶媒をメタノールに、およびI.S.を0.05μg/mL、Chlorpromazine-d6 Hydrochloride(Toronto Research Chemicals)にそれぞれ変更し、次いで添加する溶媒をほう酸塩pH標準液(pH 9.18)100μLおよびジエチルエーテル700μLに変更し、残渣に加える溶媒をメタノール100μLおよび10mmoL/L ギ酸アンモニウム/ギ酸(1000:1,v/v)250μLに変更し、また、(LC設定条件)において、HPLCシステムをLC-20Aシステム(株式会社島津製作所)に変更し、溶離液をA 10mmoL/L ギ酸アンモニウム/ギ酸(1000:1,v/v)、B アセトニトリルに変更し、流量を0.4mL/minに変更し、およびグラジエント条件を下記表3に記載の条件に変更し、さらに、(MS/MS設定条件)において、ネブライザーガス(GS1)を50psi,airに変更し、カーテンガスを設定値20,nitrogenに変更し、モニターイオン及びコリジョンエネルギーをm/z 319→m/z 86,30eV(クロルプロマジン)、m/z 325→m/z 92,30eV(I.S.)に変更した以外は、実施例1と同様の方法に従って、クロルプロマジン注射液の投与前、ならびにクロルプロマジン注射液の投与後5、10、15、30、45、60、120、180、240、300、360、1440および2880分の計14時点における血漿中薬物濃度をLC-MS/MSで測定した。各時点の血漿中薬物濃度を比較し、最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を求めたところ、クロルプロマジン注射液皮内投与時のtmaxは5.0分(3匹の平均値)であり、オランザピン注射液皮内投与時のtmaxより短かった。
【0138】
【表3】
【0139】
比較例1~3
(注射液の調製)
実施例1と同様にして、オランザピン注射液(20mg/mL)を調製した。
【0140】
実施例2と同様にして、ドンペリドン注射液(10mg/mL)を調製した。
【0141】
実施例3と同様にして、クロルプロマジン注射液(9mg/mL)を調製した。
【0142】
(投与デバイスの作製)
25G固定針付マイクロシリンジ(標準型マイクロシリンジ、004000、トレイジャンサイエンティフィックジャパン株式会社)(固定針タイプ、容量:50μL、コード:50F、針管の外径:0.5mm(25G)、針長さ:50mm、針先形状:ベベル、刃面角:20°)を準備した。
【0143】
(使用動物)
実施例1と同様にして、ラット3匹/群(計9匹)を試験に供した。
【0144】
(投与)
上記にて調製したオランザピン注射液、ドンペリドン注射液およびクロルプロマジン注射液を、ラットへの投与量が2.5mg/kg 体重、1.4mg/kg 体重および1.2mg/kg 体重となるような量、それぞれ、シリンジ内に注入した。なお、個体あたりの投与量(μL)は、実施例1と同様にして求めた。
【0145】
各ラットを、イソフルラン(イソフルラン吸入麻酔液「ファイザー」、製造:マイラン製薬株式会社、販売:ファイザー株式会社)で麻酔した(濃度設定:2%)。次に、麻酔下で、上記ラットの背部をバリカンで毛狩りして投与部位を作製した後、横臥させた。この投与部位をつまんだ状態で、体軸に沿って注射針を30mmほど挿入し、針先が容易に動き、皮下に挿入されていることを確認した後、注射針を介して、各注射液を背部皮下に投与した。投与後は静かに針を抜き、注射部位をしばらく押さえ、投与液が漏出しないことを確認した。なお、上記操作でのオランザピン注射液、ドンペリドン注射液およびクロルプロマジン注射液のラットへの投与用量は、それぞれ、2.5mg/kg 体重、1.4mg/kg 体重および1.2mg/kg 体重であった。
【0146】
(tmaxの測定)
実施例1(オランザピン)、実施例2(ドンペリドン)および実施例3(クロルプロマジン)と同様の方法に従って、各注射液の投与前、ならびに各注射液の投与後5、10、15、30、45、60および120分の計8時点(ただし、クロルプロマジンは投与後5、10、15、30、45、60、120、180、240、300、360、1440および2880分の計14時点)における血漿中薬物濃度を、それぞれ、LC-MS/MSで測定した。各時点の血漿中薬物濃度を比較し、最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)を求めた。その結果、オランザピン注射液皮下投与でのtmaxは28.3分(3匹の平均値)であり、オランザピン注射液皮内投与の場合(tmax=25.7分)に比して、やや長かった。ドンペリドン注射液皮下投与でのtmaxは45.7分(3匹の平均値)であり、ドンペリドン注射液皮内投与の場合(tmax=10.0分)に比して、かなり長かった。クロルプロマジン注射液皮下投与でのtmaxは31.6分(3匹の平均値)であり、クロルプロマジン注射液皮内投与の場合(tmax=5.0分)に比して長かった。
【0147】
以上の結果から、疎水性薬剤の中でも疎水性度(logP値)が3.0以上の薬剤においては、皮内投与は皮下投与よりもtmaxが短く、制吐剤などのレスキュー薬に有用である可能性が期待される。なお、上記効果はラットでの効果であるが、ヒトへの皮内投与の場合も同様の効果が認められると考えられる。また、上記効果は、制吐剤で確認したが、同様の疎水性度(logP値)を有するものであれば、同様の効果が観察されると考えられる。
【0148】
以上、本発明を実施形態及び実施例に基づいて説明したが、本発明は、本明細書内において説明された内容に限定されず、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜改変を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0149】
10 投与デバイス
100 針組立体
110 注射針
111 針管
111a 針管の内腔
112 針先
112a 先端開口部
113 刃面
113a 第1刃面
113b 第2刃面
113c 第3刃面
114 針胴部
115 基端部
116 境目
120 針ハブ
121 第1部材
122 調整部
122a 空間
123 ガイド部
124 フランジ部
127 第2部材
130 キャップ部材
200 シリンジ
210 第1筒部
220 第2筒部
240 液室
D1 針管の外径
Hg 調整部とガイド部の突出方向の寸法差
L1 針管の突出長
L2 刃面の全長
L21 第1刃面の刃面長
L22 第2刃面の刃面長
L23 第3刃面の刃面長
L3 針胴長
O1 針管の中心軸線
T1 調整部とガイド部との間の距離
T2 ガイド部とフランジ部との間の距離
s1 表皮層
s2 真皮層
s3 皮下組織層
s4 皮膚上層部
t1 針管の肉厚
Φ1 針管の内径
α1 稜線角
θ1 第1刃面角
θ2 第2刃面角
θ3 第3刃面角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11