(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068901
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】配線の形成方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/10 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
H05K3/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179567
(22)【出願日】2022-11-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年11月11日から12日にオンラインで開催された薄膜材料デバイス研究会第18回研究集会のウェブサイト(https://jpn01.safelinks.protection.outlook.com/?url=http%3A%2F%2Fwww.tfmd.jp%2Fabstract%2FTFMD2021-AbstractBook.pdf&data=04%7C01%7Csehiga%40hiroshima-u.ac.jp%7C44f762abff894cfdd02208d9a29854de%7Cc40454ddb2634926868d8e12640d3750%7C1%7C1%7C637719597421843420%7CUnknown%7CTWFpbGZsb3d8eyJWIjoiMC4wLjAwMDAiLCJQIjoiV2luMzIiLCJBTiI6Ik1haWwiLCJXVCI6Mn0%3D%7C2000&sdata=DJIuTXyPCEllabWxN1TE98p5xbDTeRYtyHCfZanGXTg%3D&reserved=0)にて、令和3年11月11日に掲載 〔刊行物等〕 令和3年11月11日から12日にオンラインで開催された薄膜材料デバイス研究会第18回研究集会にて、令和3年11月12日に発表
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒池 耕平
【テーマコード(参考)】
5E343
【Fターム(参考)】
5E343AA02
5E343AA16
5E343AA17
5E343AA19
5E343BB23
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB28
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5E343BB43
5E343BB44
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5E343BB48
5E343BB49
5E343BB75
5E343BB76
5E343DD15
5E343ER45
5E343FF05
5E343GG11
(57)【要約】
【課題】基板に低抵抗な配線を短時間で形成する技術を提供する。
【解決手段】配線を形成する方法は、基板に配線を形成する方法であって、導電性物質を含む溶液の液滴を、基板に滴下する第1工程と、基板の側方から、基板に着弾した液滴にのみ、レーザ光を照射する第2工程と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に配線を形成する方法であって、
導電性物質を含む溶液の液滴を、前記基板に滴下する第1工程と、
前記基板の側方から、前記基板に着弾した前記液滴にのみ、レーザ光を照射する第2工程と、
を備えることを特徴とする配線を形成する方法。
【請求項2】
前記第2工程において、前記液滴が前記基板に着弾すると同時に、前記液滴に前記レーザ光を照射する、
請求項1に記載の配線を形成する方法。
【請求項3】
前記第2工程において、前記レーザ光の焦点が前記液滴の表面に位置するよう、レンズを用いて前記レーザ光を絞る、
請求項1に記載の配線を形成する方法。
【請求項4】
少なくとも前記第1工程を真空下で行う
請求項1に記載の配線を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット装置を用いて基板に配線を形成する技術が知られている。例えば、特許文献1には、金属ナノインクをインクジェットヘッドにより吐出し、基板に所定の配線を描画する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、フレキシブル・ストレッチャブルセンサのような次世代フレキシブルデバイスが注目されている。次世代フレキシブルデバイスは、基板に高性能センサや電子デバイスを実装したものである。次世代フレキシブルデバイスの開発において、高性能センサや電子デバイスを相互接続する低抵抗な配線を基板上に形成することが求められる。
【0005】
低抵抗な配線は、たとえば、基板に塗布した材料に対してアニール処理を施すことにより形成できる。アニール処理は、材料に熱を加えることにより、残留応力を取り除く処理である。
【0006】
ここで、特許文献1に記載の技術において、基板全体を加熱することで金属ナノインクにアニール処理を施し、低抵抗な配線を形成することができる。しかし、アニール処理に長時間を要するおそれがある。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、基板に低抵抗な配線を短時間で形成する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る配線を形成する方法は、基板に配線を形成する方法であって、導電性物質を含む溶液の液滴を、前記基板に滴下する第1工程と、前記基板の側方から、前記基板に着弾した前記液滴にのみ、レーザ光を照射する第2工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る配線を形成する方法によれば、基板に低抵抗な配線を短時間で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る配線を形成する方法で使用される配線形成装置の概念図である。
【
図2】本実施形態に係る配線を形成する方法の一例を示すステップチャートである。
【
図3】実施例1に係る実験結果を示すグラフであり、電気炉、及び、レーザ光によりアニール処理した場合の体積抵抗率を比較するグラフである。
【
図4】実施例1に係る実験結果を示すグラフであり、電気炉、及び、
図3とは異なる波長のレーザ光によりアニール処理した場合の体積抵抗率を比較するグラフである。
【
図5】実施例2に係る実験結果を示すグラフであり、異なる波長のレーザ光によりアニール処理した場合の体積抵抗率を、液滴の滴下周波数を変えて比較するグラフである。
【
図6】PET樹脂製の基板上の配線を光学顕微鏡で観察した写真であり、上段は、液滴へレーザ光を照射しないで配線を形成した場合の写真であり、下段は、液滴へレーザ光を照射して配線を形成した場合の写真である。
【
図7】液滴へのレーザ光の照射有無に応じた配線形成速度を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。
図2に示すように、重力方向を基準にZ方向を定義し、Z方向を上下方向とも呼ぶ。また、Z方向に対し垂直な方向を、それぞれX方向、Y方向と定義する。X方向とY方向は、互いに垂直となる方向である。X方向及びY方向により形成される面を、水平面とも呼ぶ。
【0012】
<配線形成装置10>
図1に示すように、配線形成装置10は、基台12と、インクジェット機器14と、レーザ照射機器16と、制御装置18と、を備える。
【0013】
<<基台12>>
基台12は、基板20(
図2)を保持する保持台12aと、保持台12aを移動させる駆動機構12bとを有する。
【0014】
保持台12aは、基板搬入出装置(図示せず)により搬入された基板20を保持する。駆動機構12bは、保持台12aを水平面内で移動させる。具体的には、駆動機構12bは、制御装置18からの指示を受け、保持台12aを水平面内で移動させる。基板20は、保持台12aとともに、水平面内で移動する。
【0015】
基板20は、高性能センサや電子デバイス、および配線が実装されるものである。基板20のサイズや形状は特に限定されるものではない。本実施形態に係る基板20は、熱可塑性プラスチック製である。より具体的に、基板20は、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポチプロピレン等の熱可塑性樹脂で形成されている。なお、後述する金属ナノインクの濡れ性を向上させるために、基板20の表面にアルミナなどによる表面処理が施されていてもよい。
【0016】
<<インクジェット機器14>>
インクジェット機器14は、溶液を収容するインク室14aと、溶液の液滴Q(
図2)を滴下させるヘッド14bと、インク室14aからヘッド14bへ溶液を供給するポンプ14cと、を有する。インクジェット機器14は、液滴Qを、大気圧下で滴下してもよいし、真空下で滴下してもよい。
【0017】
ポンプ14cは、制御装置18からの指示に基づいて、インク室14aから容液を吸込み、ヘッド14bへ供給する。ヘッド14bは、保持台12aの上方に、基板20と対向するよう配置される。ヘッド14bは、形成する配線Eの寸法(厚さや幅等)に応じ、1回で滴下させる液滴Qの量、及び、1秒間で液滴Qを滴下する回数(以下、周波数ともいう)を変更可能に構成されている。
【0018】
溶液とは、液体成分の溶媒と、固体等の成分である溶質と、から構成される。この例では、溶液として金属ナノインクを用いる。金属ナノインクは、溶媒としての分散液と、溶質としての金属ナノ粒子、有機添加物及び配位子を含む。
【0019】
金属ナノ粒子は導電性物質であり、その材料としては、金、銀、銅、白金、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、鉛、パラジウム、アルミニウム、及びこれらの合金などが用いられる。金属ナノ粒子の粒子径は1nm~1μmの範囲である。粒子径は、例えば、レーザ回折・散乱法(マイクロトラック法)などによって測定される。分散液における金属ナノ粒子の濃度は、1wt%以上60wt%以下であってよく、一例として、10wt%である。
【0020】
分散液は、少なくとも水を含有する。分散液は、水に加え、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類を含んでいてもよい。分散液における水の含有量は、一例として、60体積%以上である。
【0021】
有機添加物は、金属ナノインクの粘性を調整する。有機添加物は、一例として、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。配位子は、金属ナノ粒子を分散液に分散させる。配位子は、一例として、アルキル化合物、フタロシアニン、ポルフイリン等が挙げられる。
【0022】
<<レーザ照射機器16>>
レーザ照射機器16は、所定の波長のレーザ光Lを照射する光源16a、及び、レンズ30を有する。レーザ照射機器16は、光源16aから照射されるレーザ光Lの出力を変更可能に構成されている。光源16aは、制御装置18からの指示を受け、レーザ光Lを連続的に照射する。光源16aは、その種類に応じて、異なる波長のレーザ光を照射する。例示的に、光源16aは、GaAlAs(ガリウム/アルミニウム/ヒ素)から構成され、波長が804nmの近赤外線レーザ光を照射する。また、例示的に、光源16aは、GaN(窒化ガリウム)、InGaN(インジウム/ガリウム/窒素)等から構成され、波長が445nmのブルーレーザを照射する。
【0023】
レンズ30は、光源16aと液滴Qとの間に、設けられる。レンズ30は、光源16aから照射されたレーザ光Lを絞り、焦点Sを形成する(
図2)。レンズ30は、レーザ照射機器16とは別に設けられていてもよい(
図2)。
【0024】
<配線Eの形成方法>
図2に示すように、本実施形態に係る配線Eの形成方法は、滴下工程(第1工程)S1と、照射工程(第2工程)S2と、を有する。この例では、導電性物質である金属ナノ粒子を含む金属ナノインクを用いて基板20に配線Eを形成する。本実施形態では、滴下工程S1は、真空下で行われる。本実施形態では、制御装置18は、レーザ照射機器16に、滴下工程S1の前から、連続的に、レーザ光Lを照射させている。これにより、基板20の上面に液滴Qが着弾すると同時に、液滴Qにレーザ光Lが照射される。
【0025】
まず、基板20を保持台12aに設置する。その後、制御装置18は、駆動機構12bを制御して、保持台12aを水平面内で移動させ、基板20を、予め設定された位置に移動させる。これにより、基板20の位置決めが完了する。
【0026】
基板20の位置決めが完了すると、滴下工程S1が行われる。滴下工程S1において、制御装置18は、インクジェット機器14を制御し、金属ナノ粒子を含む金属ナノインクの液滴Qを、基板20に滴下させる。具体的には、制御装置18は、インクジェット機器14のヘッド14bを制御し、予め設定された1回あたり所定の量の液滴Qを、1秒間あたり所定の回数(例えば1秒間に50回~1000回)で、基板20の上面に滴下させる。基板20の上面に着弾した液滴Qは、所定の高さH1を有する。液滴Qの高さH1は、1回で滴下される液滴Qの量と、この液滴Qと基板20との濡れ性によって定まる。液滴Qの高さH1は、液滴Qが基板20に着弾した直後、最も高くなる(
図2の最上段)。
【0027】
照射工程(第2工程)S2において、制御装置18は、レーザ照射機器16、具体的には光源16aを制御し、基板20の側方から、基板20の上面に着弾した液滴Qにのみ、レーザ光Lを照射させる。また、制御装置18は、レーザ照射機器16に、基板20の上面に液滴Qが着弾すると同時に、液滴Qにレーザ光Lを照射させる。レーザ光Lは、レンズ30を用いて絞られる。レンズ30により、レーザ光Lの焦点Sが形成される。基板20に対する焦点Sの高さH3は、基板20に着弾した直後の液滴Qの高さH1よりも低い(
図2の最上段)。
【0028】
金属ナノインクの液滴Qにレーザ光Lが照射されると、金属ナノインク中の分散液が蒸発するとともに、金属ナノ粒子が加熱される。この結果、金属ナノ粒子には、アニール処理が施される。よって、金属ナノ粒子が互いに整列した状態で、配線Eが形成される。配線Eの高さH2は、焦点Sの高さH3よりも低い(
図2の最下段)。
【0029】
以上から明らかなように、本実施形態に係る熱可塑性プラスチック製の基板20に配線Eを形成する方法は、金属ナノ粒子を含む金属ナノインクの液滴Qを、基板20に滴下する滴下工程S1と、基板20の側方から、基板20に着弾した液滴Qにのみ、レーザ光Lを照射する照射工程S2と、を備える。
【0030】
このように、レーザ光Lは、液滴Qにのみ照射される。このため、液滴Qに十分な熱を瞬間的に加えることができ、低抵抗な配線Eを得ることができる。
【0031】
ここで、従来は、例えば液滴Qが金属ナノインクの場合、金属ナノインクを基板20へ滴下した後、1時間程度の後処理(アニール処理)が必要であった。これに対し、上述の通り、照射工程S2では、レーザ光Lは、液滴Qにのみ照射されるため、液滴Qが基板20へ着弾してから短時間で配線Eの形成が可能となる。これにより、配線Eの生産性の向上が可能となる。本明細書において、短時間とは、液滴Qが基板20へ着弾した時から所定時間という意味に加え、液滴Qが基板20へ着弾すると同時という意味を、含む。
【0032】
また、照射工程S2において、レーザ光Lが基板20に照射されないため、基板20を熱可塑性樹脂から形成した場合であっても、基板20の変形を回避することができる。
【0033】
また、照射工程S2では、液滴Qが基板20に着弾すると同時に、レーザ光Lを液滴Qに照射する。液滴Qが基板20へ着弾した直後、液滴Qの高さH1は、最も高くなる(
図2の最上段)。このように、液滴Qが基板20へ着弾した直後、レーザ光Lが照射される液滴Qの範囲は、最も広くなる。このため、液滴Qに対し、より的確に、レーザ光Lを照射することができる。
【0034】
また、照射工程S2において、レーザ光Lの焦点Sが液滴Qの表面に位置するよう、レンズ30を用いてレーザ光Lを絞る。レンズ30を用いてレーザ光Lを絞ることにより、レーザ光Lの焦点Sを液滴Qの表面に形成できる。このため、分散液が蒸発すると、焦点Sの高さH3より低い位置に配線Eが形成される(
図2の最下段)。従ってこれ以降は、形成された配線Eへのレーザ光Lの吸収はなく、基板20の温度上昇が自動で停止する。これにより、基板20の過剰な温度上昇による、基板20の変形を回避できる。
【0035】
また、レンズ30により、レーザ光Lのパワー密度を向上させることができ、分散液を短時間で蒸発することができる。このため、液滴Qから基板20へ伝達される熱を抑制できる。よって、基板20の過剰な温度上昇による、基板20の変形を抑制することができる。なお、パワー密度とは、単位面積当たりの光強度(W)を意味する。さらに、レーザ光Lのパワー密度を向上させることで、液滴Qが基板20へ着弾してから配線Eが形成されるまでの時間を、更に短くすることができる。このため、更なる生産性の向上が可能となる。
【0036】
また、滴下工程S1を真空下で行うことにより、インクジェット機器14から金属ナノインクの液滴Qを滴下する際、空気抵抗による液滴Qの変形及び液滴Qの軌道の変化を抑制することができる。よって、正確な位置に液滴Qを着弾させることができる。
【実施例0037】
次に、本発明者らが行った試験により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
実施例1では、基板を移動させずに、滴下された液滴にレーザ光を照射した。
【0039】
1.前提条件
<基板>
基板は、サンハヤト株式会社製のPF-3R-A4を用い、30mm×30mm角に切断したものを試験片とした。試験片の厚さは、135μmである。基板は、PET樹脂製である。
【0040】
<金属ナノインク>
金属ナノインクは、株式会社C-INK製のドライキュア Ag -J 0410Bを用いた。具体的には、固形分濃度が10wt%、密度が1.12g/cm3、粘度が3.9mPa・s、表面張力が31.4mN/mnの銀ナノインクを用いた。銀ナノインクは、金属ナノ粒子としての銀を分散液に溶解させてなる。銀粒子の粒子径は、直径約20nmである。金属ナノインクは、56~60wt%の水(H2O)、9~11wt%の銀(Ag)、20~24wt%のグリコール、8~12wt%のグリコール、0.1~1.0wt%のアルコール、0.01~0.1wt%のシリコーンから構成される。
【0041】
<インクジェット機器>
インクジェット機器は、クラスターテクノロジー株式会社製のものを用いた。ヘッドは、Pulse Injectorを用い、ドライバーは、Wave Builderを用いた。インクジェット機器は、大気圧下に配置した。インクジェット機器は、銀ナノインクの液滴が1秒間に1000回滴下するよう、設定されている。また、インクジェット機器は、空中での液滴Qの径が約60μmまでとなるよう、設定されている。
【0042】
<レーザ照射器>
レーザ照射機器は、近赤外線レーザ光用として、イエナオプティック社製のJOLD-45-CPXF-1Lを用い、ブルーレーザ光用として、Shenzhen Zhixinjie Technology Co., Ltd.社製のNEJE N40630 CW Laser Moduleを用いた。近赤外線レーザ光の場合、光源は、GaAlAs(ガリウム/アルミニウム/ヒ素)を用い、レーザ出力を、10W、20W、30W、47Wとした。また、ブルーレーザ光の場合、光源は、GaN(窒化ガリウム)を用い、レーザ出力を、1W、2.5W、3.2W、5Wとした。
【0043】
<電気炉>
電気炉は、株式会社日立製作所のHMO-F100を用いた。電気炉は、加熱温度を、80℃、100℃、120℃とした。電気炉での加熱時間は、30分とした。
【0044】
2.実験手順
<滴下工程>
インクジェット機器に印加する電圧を調整し、全部で500個の液滴を滴下した。
【0045】
<照射工程>
レーザ照射装置は、基板に着弾した液滴に対し、波長が804nmの近赤外線レーザ光(
図3)、及び、波長が445nmのブルーレーザ光(
図4)を照射した。また、レーザ照射装置は、レンズを用いてレーザ光を絞ることで、レーザ光の焦点を液滴の表面に位置付け、液滴が基板に着弾すると同時に、レーザ光を液滴に照射した。
【0046】
<比較用:電気炉による加熱>
比較用として、滴下工程で銀ナノインクの液滴が滴下されたPET樹脂製の基板を、電気炉で加熱した。照射工程は行っていない。
【0047】
3.評価
実験結果の評価方法は、「Rv=R×t×F」の式で計算される体積抵抗率(Rv)を採用した。ここで、Rは、4探針測定による抵抗値であり、tは、レーザ変位計により測定された膜厚であり、Fは、JISK7194に準拠し、サンプルごとに算出した補正係数である。
【0048】
4.結果
図3及び
図4に破線で示すように、比較用として電気炉を用いて配線を形成した場合、120℃の加熱温度で、配線の体積抵抗率が最も低くなり、このときの体積抵抗率は73.2μΩ・cmであった。
【0049】
これに対し、
図3に実線で示すように、実施例1の配線(波長が804nmの近赤外線レーザ光を照射した場合)では、47Wのレーザ出力で、配線の体積抵抗率が最も低くなり、このときの体積抵抗率は29.2μΩ・cmであった。
【0050】
同様に、
図4に実線で示すように、実施例1の配線(波長が445nmのブルーレーザ光を照射した場合)では、5Wのレーザ出力で、配線の体積抵抗率が最も低くなり、このときの体積抵抗率は23.1μΩ・cmであった。
【0051】
5.考察
図3及び
図4から明らかなように、実施例1で形成された配線は、ともに、比較用として形成された配線よりも、低抵抗な配線となることが確認できた。これは、銀ナノインクに十分な熱を瞬間的に加えること(急速熱処理)ができたためと考察される。
【0052】
これに対し、比較用の配線を形成する際、PET樹脂製の基板に滴下された銀ナノインクの液滴を、当該基板の耐熱温度より低い温度で加熱しなければならなかった。その加熱温度は120℃であった。このため、銀ナノインクを十分に加熱することができず、実施例1と比較して、体積抵抗率の高い配線が形成されたと考察される。
【0053】
また、
図3及び
図4に実線で示すように、実施例1では、レーザ出力が上昇するに伴い、体積抵抗率の低い、即ち低抵抗な配線が形成されることが確認された。これは、レーザ出力の上昇、すわなち、瞬間的により多くの熱を加えることにより、銀ナノインクから、より多くの分散液を蒸発させることができ、この結果、体積抵抗率が低下したものと考察される。
【0054】
(実施例2)
実施例2では、基板を移動させながら、滴下された液滴にレーザ光を照射した。
【0055】
1.前提条件
基板、銀ナノインク、インクジェット機器、レーザ照射器は、実施例1と同じものを用いた。
【0056】
<基台>
基台において、駆動機構は、オリエンタルモーターのEASM4LNXD010AZACを用いた。駆動機構は、保持台を、1mm/s~800mm/sの走査速度で移動させる能力を有する。走査速度とは、ヘッド14bに対する保持台の相対移動速度である。
【0057】
2.実験手順
<滴下工程>
液滴の滴下数は、実施例1と同じである。実施例2では、ヘッドが液滴を滴下するのに対応して、制御装置が、駆動機構を制御する。駆動機構は、保持台を、Y方向に1mm/sの走査速度で移動させる。
【0058】
<照射工程>
レーザ照射装置は、基板に着弾した液滴に対し、波長が804nmの近赤外線のレーザ光Lを、47Wのレーザ出力で照射した。また、レーザ照射装置は、基板に着弾した液滴に対し、波長が445nmのブルーレーザ光Lを、5Wのレーザ出力で照射した。レーザ照射装置が、レンズを用いてレーザ光を絞る点は、実施例1と同じである。
【0059】
<比較用>
比較用として、滴下工程で銀ナノインクの液滴Qが滴下されたPET樹脂製の基板を準備した。照射工程は行っていない。
【0060】
3.評価
実験結果の評価方法は、実施例1と同じである。
【0061】
4.結果
図5に破線で示すように、波長が445nmのブルーレーザ光を用いた場合、800Hzの周波数で、配線の体積抵抗率が最も低くなり、このときの体積抵抗率は47.5μΩ・cmであった。
【0062】
これに対し、
図5に実線で示すように、波長が804nmの近赤外線レーザ光を用いた場合、1000Hzの周波数で、配線の体積抵抗率が最も低くなり、このときの体積抵抗率は25.5μΩ・cmであった。
【0063】
5.考察
基板を移動させた場合であっても、低抵抗な配線を形成できることが確認できた。
【0064】
図5の実線及び破線の両方で示すように、周波数が高くなるに伴い、体積抵抗率の低い配線が形成されることが確認された。周波数が高くなり、液滴の滴下回数が増えることによって、基板に着弾した液滴Qの体積が増える。この結果、液滴がレーザ光をより多く吸収することで、瞬間的により多くの熱が加えられ、銀ナノインクから、より多くの分散液を蒸発させることができ、この結果、体積抵抗率が低下したものと考察される。
【0065】
図6の上段には、実施例2の比較用として、基板に着弾した液滴にレーザ光を照射しない状態の写真が示される。また、
図6の下段には、実施例2(波長が445nmのブルーレーザ光を用いた場合)に基づいて、基板に配線を形成した状態の写真が示される。
図6の写真から明らかなように、液滴にレーザ光を照射して配線を形成する場合、液滴にレーザ光を照射しないで配線を形成する場合と比較して、連続的な配線が形成されると確認できた。これは、液滴にレーザ光が照射された際の熱により、銀ナノインクの銀ナノ粒子が、整列したためと考察される。
【0066】
(実施例3)
実施例3では、液滴へのレーザ光の照射有無に応じた配線形成速度を比較する。
【0067】
1.前提条件
基板、銀ナノインク、レーザ照射器は、実施例1と同じものを用いた。
【0068】
<インクジェット機器>
インクジェット機器は、銀ナノインクの液滴が1秒間に10000回滴下するよう、設定されている。インクジェット機器14のそれ以外の条件は、実施例1と同じである。
【0069】
<電極、及び電気回路の準備>
実施例3では、基板の上面にアルミニウムからなる2つの電極を取付け、両電極間に、1mmの隙間を設けた(以下、ギャップ電極と称す。)。ギャップ電極は、導線により電気的に接続される。当該導線には、10kΩの抵抗器と、5Vの電源と、オシロスコープ(OSC)が介在される。オシロスコープは、抵抗器に対し並列に接続されている。これにより、電気回路が完成する。
【0070】
2.実験手順
<滴下工程>
インクジェット機器に印加する電圧を調整し、全部で1000個の液滴を滴下し、両電極間に設けた隙間(ギャップ電極間)に着弾させた。
【0071】
<照射工程>
レーザ照射装置は、基板に着弾した液滴Qに対し、波長が804nmの近赤外線レーザ光を照射した。レーザ出力を47Wとした。レーザ照射装置が、レンズを用いてレーザ光を絞る点は、実施例1と同じである。
【0072】
<比較用>
実施例3の比較用として、ギャップ電極間に設けた隙間に着弾した銀ナノインクの液滴に対し、レーザ光を照射せずに形成した配線を準備した。
【0073】
3.評価
実験結果の評価方法は、実施例1と同じである。
【0074】
4.結果、及び考察
図7の濃線で示すように、レーザ光を照射した場合、所定の時間で、電圧が急上昇していることが確認された。これは、液滴にレーザ光を照射することで分散液が蒸発し、ギャップ電極が配線を介して導通したため、と考察される。5Vに到達するまでの電圧上昇時間は約50msであり、これは基板に液滴が着弾してから、配線が形成されるまでの時間が約50msであることを示している。なお、レーザの出力を上昇させることで、更なる短時間での配線形成が可能となる。
【0075】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上記の実施形態及び実施例に係る配線の形成方法に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせても良い。例えば、上記実施形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的態様によって適宜変更され得る。
【0076】
上記実施形態では、インク材料として金属ナノインクを用いたが、インク材料は金属ナノインクに限定されるわけではない。例えば、インク材料として加熱により絶縁膜(SiO2)にシリカ転化するポリシラザンを用いても良い。ポリシラザンは、Si-N-Si結合を有する高分子化合物である。詳細には、ポリシラザンは、式:-[Si(R1)(R2)-N(R3)]-を繰り返し単位とするポリマーであり、鎖状ポリシラサン、分岐鎖状ポリシラサン、環状ポリシラザン等がある。
【0077】
上記実施形態では、基板20が、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂で形成される場合を説明した。しかし、基板20の材料は、熱可塑性樹脂に限定されるものではなく、例えば、紙フェノール、紙エポキシ、ガラスエポキシ等、その他の材料から形成されてもよい。
【0078】
上記実施形態では、金属ナノインクの分散液が、少なくとも水を含有する場合を説明した。しかし、金属ナノインクの分散液は、水を含まずに構成されてもよい。
【0079】
上記実施形態では、レーザ照射機器16が、X方向から、基板20に着弾した液滴Qに対し、レーザ光Lを照射する場合を説明した。しかし、レーザ照射機器16が、Y方向から、基板20に着弾した液滴Qに対し、レーザ光Lを照射してもよい。
【0080】
上記実施形態では、レーザ照射機器16が、連続的に、レーザ光Lを照射する場合を説明した。しかし、レーザ照射機器16は、間欠的に、レーザ光Lを照射する、いわゆるパルスレーザ光を照射してもよい。この場合、制御装置18は、インクジェット機器14のヘッド14bから基板20までの距離、及び、液滴Qの落下速度に基づいて、パルスレーザ光を照射するタイミングを計算する。レーザ照射機器16は、制御装置18からの指示を受けて、パルスレーザ光を照射する。パルスレーザ光は、液滴Qが基板20に着弾した後、液滴Qに照射されてもよい。
【0081】
上記実施形態では、配線Eを形成するために、インクジェット機器14及びレーザ照射機器16の位置を固定し、保持台12aを駆動機構12bによって動かす場合を説明した。しかし、配線Eを形成するため、保持台12aの位置を固定し、インクジェット機器14及びレーザ照射機器16を動かすように構成してもよい。
【0082】
上記実施形態では、レンズ30を用いて、レーザ光Lを液滴Qにのみ照射する場合を説明した。しかし、レンズ30を用いずに、レーザ照射機器16と基板20(即ち保持台12a)との位置関係を調整することで、レーザ光Lを液滴Qにのみ照射してもよい。