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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068904
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】搬送装置及び熱成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/26 20060101AFI20240514BHJP
   B29C 51/08 20060101ALI20240514BHJP
   B65G 47/91 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B29C51/26
B29C51/08
B65G47/91 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179574
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一典
(72)【発明者】
【氏名】白井 武広
【テーマコード(参考)】
3F072
4F208
【Fターム(参考)】
3F072AA28
3F072GG06
3F072GG14
3F072KD03
3F072KD23
3F072KD26
3F072KE01
4F208AC03
4F208AD16
4F208MA05
4F208MB01
4F208MC03
4F208MG11
4F208MH06
4F208MJ11
4F208MJ14
4F208MJ15
4F208MJ23
(57)【要約】
【課題】加熱された不連続繊維シートSの搬送を可能とする搬送装置を提供する。
【解決手段】移動機構210を備えて加熱された不連続繊維シートSを吸着搬送する搬送装置100において、下面110aに複数形成された環状溝部115を備える下部プレート110と、環状溝部115の底部115aに開口された吸気口116と、環状溝部115の周囲を囲うように下部プレート110の下面110aに貼り付けられたシリコンスポンジ220と、吸気口116と接続して環状溝部115より空気を吸引する吸気装置220と不連続繊維シートSを加熱保温する保温ヒータ120と、を備え、加熱された不連続繊維シートSを下部プレート110によって吸着搬送する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動機構を備えて加熱された不連続繊維シートを吸着搬送する搬送装置において、
表面に形成された環状溝部を複数備える吸着プレートと、
前記環状溝部の底部に開口された連通孔と、
前記環状溝部の周囲を囲うように前記吸着プレートの前記表面に貼り付けられた弾性体と、
前記連通孔と接続して前記環状溝部より空気を吸引する吸気装置と、
前記不連続繊維シートを加熱保温する保温装置と、を備え、
加熱された前記不連続繊維シートを前記吸着プレートによって吸着搬送すること、
を特徴とする搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送装置において、
前記環状溝部とその周囲に設けられた前記弾性体によって囲まれた空間を備えることで、前記連通孔から吸気して前記空間を負圧にし、前記不連続繊維シートを僅かに変形させながら吸着搬送すること、
を特徴とする搬送装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の搬送装置において、
前記吸着プレートに複数のプッシャーを備え、該プッシャーは、前記吸着プレートの表面から突出することで、前記不連続繊維シートの前記弾性体と接触する側の上面を押す機能を有し、
前記不連続繊維シートを吸着搬送した後、所定の位置に配置する際に前記吸気装置の吸気を止めると同時に前記プッシャーを突出させること、
を特徴とする搬送装置。
【請求項4】
加熱された不連続繊維シートを吸着搬送する搬送装置と、前記不連続繊維シートを成形位置にて成形する金型とを備える熱成形装置において、
前記搬送装置には、
表面に形成された環状溝部を複数備える吸着プレートと、
前記環状溝部の底部に開口された連通孔と、
前記環状溝部の周囲を囲うように前記吸着プレートの前記表面に貼り付けられた弾性体と、
前記連通孔と接続して前記環状溝部より空気を吸引する吸気装置と、
前記不連続繊維シートを加熱保温する保温装置と、を備え、
加熱された前記不連続繊維シートを前記搬送装置によって前記金型まで吸着搬送し、前記金型によって成形すること、
を特徴とする熱成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不連続繊維シートを搬送する搬送装置或いはこれを用いた熱成形装置の技術に関し、具体的には不連続繊維シートを吸着搬送する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を母材として炭素繊維(カーボンファイバー)を強化材として加えたものをCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)といい、現在様々な分野での利用が行われている。通常の樹脂成形品に比べても、軽くて・強くて・腐食しないなどのメリットが得られるために、素材の比強度を高めるような用途で使われるシーンが多い。こうしたCFRPに用いる炭素繊維は連続繊維を織物状にして用いる場合や、細かく切断した繊維(短繊維、長繊維)を混合する場合の大きく分けて2タイプがあり、繊維形態(連続繊維、不連続繊維)によっても製造方法が異なることが知られている。
【0003】
炭素繊維は鉄の約10倍の強度を持ちながら、質量が1/4と軽量な高機能材料として知られており、炭素繊維を用いたCFRPは自動車車体の軽量化に貢献することが出来る。二酸化炭素排出量削減や燃費向上など環境対応が求められる自動車業界にとって、CFRPを用いた軽量化は注目の素材だが、成形に時間を要することが問題視されていた。しかしながら熱硬化性樹脂ではなく熱可塑性樹脂を母材に用いることで成形効率は大幅に向上している。
【0004】
特許文献1には、繊維強化プラスチック成形シートに関する技術が開示されている。特定方向の強度が十分に高められた繊維強化プラスチック成形体を形成し得る繊維強化プラスチック成形シートの厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメータ(fp)の絶対値が0.5~1.0であり、平面方向の繊維配向パラメータ(fp)の絶対値が0.25~1.0である。このような繊維強化プラスチック成形シートを用いることで、強度の高い成形品を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-210960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される技術には、繊維強化プラスチック成形シートの搬送方法については触れられていない。繊維強化プラスチック成形シートの一態様である熱可塑性樹脂を母材とする不連続繊維シートは、搬送し成形をするにあたって加熱装置で加熱して金型内に搬送し型を閉じて型締めを行う必要がある。しかし、搬送にあたって熱可塑性樹脂が流動する温度であって強化繊維が溶融しない温度帯まで不連続繊維シートを加熱すると、搬送中に変形するなどの問題が出てくる。搬送方法としては、例えば不連続繊維シートをチャックしたり針で刺したりして搬送するなどの方法が考えられるが、母材が流動する温度まで加熱されていると連続繊維シートを用いる場合に比べて不連続繊維シートは、形状が崩れたり大きく変形したりする可能性が高くなる。
【0007】
そこで、加熱された不連続繊維シートを大きく変形させることなく搬送可能な搬送装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による搬送装置は、以下のような特徴を有する。
【0009】
(1)移動機構を備えて加熱された不連続繊維シートを吸着搬送する搬送装置において、
表面に形成された環状溝部を複数備える吸着プレートと、
前記環状溝部の底部に開口された連通孔と、
前記環状溝部の周囲を囲うように前記吸着プレートの前記表面に貼り付けられた弾性体と、
前記連通孔と接続して前記環状溝部より空気を吸引する吸気装置と、
前記不連続繊維シートを加熱保温する保温装置と、を備え、
加熱された前記不連続繊維シートを前記吸着プレートによって吸着搬送すること、
を特徴とする。
【0010】
(2)(1)に記載の搬送装置において、
前記環状溝部とその周囲に設けられた前記弾性体によって囲まれた空間を備えることで、前記連通孔から吸気して前記空間を負圧にし、前記不連続繊維シートを僅かに変形させながら吸着搬送すること、
が好ましい。
【0011】
上記(1)に記載の態様により、不連続繊維シートを搬送装置によって搬送することが可能となる。これは、加熱装置で加熱された不連続繊維シートが、搬送されるにあたって環状溝部とその周囲を囲うように設けられるスポンジなどを含む所定の厚みを有する弾性体を備えることによって、吸気装置を作動させることで吸着し、保持することができる。つまり、(2)に記載の態様のように、環状溝部とその周囲を囲うように設けられた弾性体によって形成される空間の内部が、吸気装置を作動させることで吸引することで負圧となり、不連続繊維シートを吸引保持可能になるためである。
【0012】
この際に、弾性体の厚みが所定の厚みに設定されて、吸引することで不連続繊維シートが撓んでも、環状溝部の表面にくっつくようなことがない。加熱された不連続繊維シートは、母材に用いている樹脂が軟化するために、搬送時においてグリップすることが困難であるが、環状溝部とその周囲を囲うように設けられた弾性体によって形成される空間を負圧にし、かつ僅かに撓ませることで不連続繊維シートの位置ズレや形状の崩れなど防ぐ効果が期待出来る。
【0013】
(3)(1)又は(2)に記載の熱成形装置において、
前記吸着プレートに複数のプッシャーを備え、該プッシャーは、前記吸着プレートの表面から突出することで、前記不連続繊維シートの前記弾性体と接触する側の上面を押す機能を有し、
前記不連続繊維シートを吸着搬送した後、所定の位置に配置する際に前記吸気装置の吸気を止めると同時に前記プッシャーを突出させること、
が好ましい。
【0014】
上記(3)に記載の態様により、プッシャーを備えることで不連続繊維シートを搬送した位置に設置するにあたって、狙った位置に搬送可能となる。これは、加熱された不連続繊維シートの母材として使われる樹脂が軟化して吸着プレート側に付着するようなことがあった場合にも、複数のプッシャーを用いて均等に圧力を加えることで、付着力の影響を廃して所定の位置に不連続繊維シートの配置が可能である。更に、プッシャーによって不連続繊維シートを金型に対して押しつけることで、不連続繊維シートにシワがよったりすることで成形に影響が出ることを防ぐことが可能となる。
【0015】
また、前記目的を達成するために、本発明の別の態様による熱成形装置は、以下のような特徴を有する。
【0016】
(4)加熱された不連続繊維シートを吸着搬送する搬送装置と、前記不連続繊維シートを成形位置にて成形する金型とを備える熱成形装置において、
前記搬送装置には、
表面に形成された環状溝部を複数備える吸着プレートと、
前記環状溝部の底部に開口された連通孔と、
前記環状溝部の周囲を囲うように前記吸着プレートの前記表面に貼り付けられた弾性体と、
前記連通孔と接続して前記環状溝部より空気を吸引する吸気装置と、
前記不連続繊維シートを加熱保温する保温装置と、を備え、
加熱された前記不連続繊維シートを前記搬送装置によって前記金型まで吸着搬送し、前記金型によって成形すること、
を特徴とする。
【0017】
上記(4)に記載の態様により、(1)に記載の搬送装置を用いて、不連続繊維シートの熱成形を行うことができる。(1)に記載の態様の搬送装置を用いることで、不連続繊維シートの位置ズレを防ぐことが可能であり、形状精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の、熱成形機についての模式図である。
図2】本実施形態の、搬送装置の吸着側から見た平面図である。
図3】本実施形態の、搬送装置のプッシャー付近の断面図である。
図4】本実施形態の、搬送装置のノックアウト付近の断面図である。
図5】本実施形態の、搬送装置の吸気口付近の断面図である。
図6】本実施形態の、不連続繊維シートを搬送装置で吸着した様子の断面図である。
図7】本実施形態の、不連続繊維シートを搬送装置で移動した様子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明に係る本実施形態の熱成形装置10の構成の概略について説明をする。図1は、本実施形態の熱成形機について説明する説明図である。熱成形装置10に用いる不連続繊維シートSは、炭素繊維を強化材とし熱可塑性樹脂(本実施形態では熱可塑性エポキシ樹脂)を母材としたCFRPである。予め熱可塑性樹脂が含浸された炭素繊維を数cmの長さに切断してそれを積層して加熱・加圧することにより、賦形性に優れた等方性の高い性質を有している。不連続繊維シートSの厚みは本実施形態では数mm程度を想定しているが、成形する製品に応じて適宜選定される。
【0020】
熱成形装置10は、投入位置St1にて不連続繊維シートSを投入し、成形位置St2にて金型250によって不連続繊維シートSを真空成形または圧空成形する。搬送装置100は、図示しない移動機構210によって投入位置St1と成形位置St2の間を往復し、昇降する。移動機構210に関しては、モータとボールネジやベルトなどを組み合わせた直動機構や、シリンダなどの空圧機器または油圧機器を適宜選定しまたは組み合わせて用いる。ただし、多軸ロボットのような搬送手段を用いても良い。
【0021】
図2に、搬送装置の吸着側から見た平面図を示す。図3に、搬送装置のプッシャー付近の断面図を示す。図4に、搬送装置のノックアウト付近の断面図を示す。図5に、搬送装置の吸気口付近の断面図を示す。搬送装置100は、不連続繊維シートSに接するシリコンスポンジ220、環状溝部115が形成された下部プレート110、下部プレート110を加熱する保温ヒータ120、保温ヒータ120に接する断熱プレート130、プッシャー機構150等が備えられる上部プレート160よりなり、不連続繊維シートSを吸着搬送する機能を有する。
【0022】
下部プレート110はアルミニウム合金製の板材を用いて構成されており、複数の環状溝部115がその下面110a(吸着面側)に機械加工されて設けられている。環状溝部115は、概ね略田の字状、或いは略日の字状、部分的には略eの字状に、下部プレート110の下面110aから約2mm程度の深さを厚み方向に彫り込んで形成されている。環状溝部115の底部115aには、吸気口116が1箇所または複数箇所開口するよう設けられている。環状溝部115は、下部プレート110の下面110aに適度に分散するように配置されている。
【0023】
吸着プレートにあたる下部プレート110の下面110aには、弾性体に相当するシリコンスポンジ220が貼り付けられている。このシリコンスポンジ220は、厚みが2mm程度の独立気泡タイプのものを用いている。弾性体には耐熱性が高く適度に弾力があり、空気を通さないものを用いることが望ましい。また、シリコンスポンジ220には環状溝部115を避けるように開口220aが設けられているので、環状溝部115の溝の深さとシリコンスポンジ220の厚みによって後述する負圧用空間Aが形成される。なお、シリコンスポンジ220の厚みは、負圧用空間Aの必要とする容積とのバランスで所定の厚みに決定され、必要に応じて増減されることが望ましい。
【0024】
プッシャー機構150は、シリコンスポンジ220よりも下部に突出する押板151と上部プレート160に保持されるプッシャーシリンダ152よりなり、シリンダシャフト153の先端に円形平板状の押板151が中央で固定される。押板151の表面には、溶融した不連続繊維シートSの成分が付着しにくいようにフッ素樹脂系のコーティングがなされている。プッシャー機構150は、上部プレート160に複数配置されており、プッシャーシリンダ152を駆動させることで、押板151が下面110aに近接・離間する方向に移動する。
【0025】
図3では、プッシャーシリンダ152が前進端にある状態で説明されているが、後退端まで移動すると、シリコンスポンジ220の表面に接する位置までシリンダシャフト153が短くなる。なお、プッシャーシリンダ152のストロークは、後述するように必要に応じて適宜選定される。また、押板151によってシリコンスポンジ220の表面に接するように吸着搬送されている不連続繊維シートSを、下型250b側に押し付ける機能を押板151に持たせているため、押板151の形状及び配置は、下型250bの形状に配慮されて決定される。
【0026】
下部プレート110の加熱保温する保温装置にあたる保温ヒータ120は、下部プレート110の上面と、断熱プレート130と挟まれて保持されている。保温ヒータ120は不連続繊維シートSの温度低下を防ぐ目的で設けられている。なお、本実施形態では分割して複数設けてあるが、必要に応じて分割数を増減することを妨げない。また、前述したプッシャー機構150など、複数の構造体が下部プレート110と上部プレート160を貫通するように設けられるため、保温ヒータ120はこういった構造体を避けるように配置されている。
【0027】
投入位置St1にて別途設けられる図示しない加熱装置にて所定温度(熱可塑性樹脂が軟化する温度以上が好ましく、本実施形態において用いている熱可塑性エポキシ樹脂では200度以上)まで加熱された不連続繊維シートSは、投入位置St1から成形位置St2まで搬送する間に保温ヒータ120を用いて温度低下を防ぐように高温維持しながら搬送される。
【0028】
断熱プレート130は、断熱性の高い樹脂または鉱物系の断熱素材を用いて保温ヒータ120の熱を上部プレート160側に伝わることを抑制する機能を備えている。したがって、上部プレート160と保温ヒータ120の間に配置されて、数十mm程度の厚さのものが用いられている。断熱プレート130の厚みは、必要とされる断熱性能によって決定される。下部プレート110と上部プレート160は支持柱165で連結されて一体的な構造体となっており、断熱プレート130は保温ヒータ120の上に置かれて配置される。
【0029】
上部プレート160は、支持柱165で下部プレート110と連結する構造になっているが、断熱プレート130の上面から多少空間が空くような位置関係で支持されている。上部プレート160の上面には強度を上げるための複数のリブ161が固定されている。上部プレート160が搬送装置100の構造的な強度を支える機能を有していて、上述した移動機構210を取り付けるためのフランジなども固定される。
【0030】
また、図3に示すように上部プレート160には、プッシャーシリンダ152が複数固定されている。プッシャーシリンダ152の端部が上部プレート160の上面側に接するように固定され、上部プレート160、断熱プレート130、下部プレート110をそれぞれシリンダシャフト153が貫通するように配置される。
【0031】
ノックアウト機構170は、ノックアウトシリンダ171、シリンダシャフト173、ノックアウトヘッド172よりなり、ノックアウトヘッド172はシリンダシャフト173の先端に固定され、ノックアウトシリンダ171は、プッシャーシリンダ152と同様に上部プレート160に固定されている。図4に示すように、ノックアウトヘッド172が下部プレート110の下面110aより突出する形で前進・後退するように動作するため、吸着されている不連続繊維シートSをシリコンスポンジ220の表面から剥がす時に用いる事ができる。
【0032】
吸着機構180は、吸気管181、ノズル182、継手183、及びバネ184よりなる。ノズル182は下部プレート110の環状溝部115に開口する吸気口116より吸気できるように配置されている。継手183にはエアチューブ185が接続されている。吸着機構180も上部プレート160に固定され、環状溝部115の位置に合わせて配置されている。バネ184は、吸気口116にノズル182の先端部分が押し付けられた状態に維持するために設けられている。エアチューブ185は図示しない吸気装置220に接続され、ノズル182から吸気することで負圧用空間Aを陰圧にする機能を有している。
【0033】
搬送装置100は上記構成であるので、以下のような手順で運用される。
【0034】
まず、投入位置St1に不連続繊維シートSが投入され、ここで図示しない加熱装置によって、不連続繊維シートSが加熱される。不連続繊維シートSは、熱可塑性樹脂が母材とされているので、用いている熱可塑性樹脂が軟化する温度にまで加熱装置によって不連続繊維シートSを加熱する必要がある。
【0035】
次に、加熱の終わった不連続繊維シートSを投入位置St1より搬送装置100を用いて搬送する。図6に、不連続繊維シートを搬送装置で吸着した様子を断面図に示す。図7に、不連続繊維シートを搬送装置で移動した様子を断面図に示す。投入位置St1に搬送装置100を移動させ、加熱された不連続繊維シートSに対して下部プレート110を近接させる。そして、吸着機構180により下部プレート110に形成される負圧用空間Aを負圧にすることで、不連続繊維シートSを吸着する。この時、不連続繊維シートSはシリコンスポンジ220の環状溝部115に沿って形成された切り欠き部分に合わせて変形した変形部S1ができる。
【0036】
この状態で不連続繊維シートSを投入位置St1より搬送装置100によって持ち上げ、移動機構210によって成形位置St2まで搬送する。この時、搬送装置100に備える保温ヒータ120を用いることによって不連続繊維シートSの温度低下を防ぐ。高精度な成形を実現させるためには、搬送中に不連続繊維シートSの温度低下がないことが望ましい。本実施形態で用いている熱可塑性エポキシ樹脂では、不連続繊維シートSの成形温度を180度~200度程度に設定している。
【0037】
成形位置St2に移動された不連続繊維シートSは、過熱された状態で下型250bの上に配置される。搬送装置100に吸着されている不連続繊維シートSは、図示しない真空破壊弁を作動させることによって負圧用空間Aを大気圧に戻すとともに、プッシャー機構150とノックアウト機構170を両方作動させて、不連続繊維シートSをシリコンスポンジ220の表面から剥がす。そして、金型250(上型250a、下型250b)を用いて成形を行う。
【0038】
本実施形態の熱成形装置10は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0039】
まず、加熱された不連続繊維シートSの搬送が可能になる。これは、移動機構210を備えて加熱された不連続繊維シートSを吸着搬送する搬送装置100において、表面(下面110a)に複数形成された環状溝部115を備える吸着プレート(下部プレート110)と、環状溝部115の底部115aに開口された連通孔(吸気口116)と、環状溝部115の周囲を囲うように下部プレート110の下面110aに貼り付けられた弾性体(シリコンスポンジ220)と、吸気口116と接続して環状溝部115より空気を吸引する吸気装置220と不連続繊維シートSを加熱保温する保温装置(保温ヒータ120)と、を備え、加熱された不連続繊維シートSを下部プレート110によって吸着搬送するからである。
【0040】
すなわち、下部プレート110の下面110aにシリコンスポンジ220を設けてあることで、吸着搬送している不連続繊維シートSを脱落させず、かつ表面に跡を付けずに搬送可能である。不連続繊維シートSは、事前に図示しない加熱装置によって加熱され、更に保温ヒータ120によって加熱されながら搬送されることで、軟化している状態で搬送装置10に保持される。不連続繊維シートSをチャックで掴んだり、針などを刺したりして搬送する方法では、軟化している不連続繊維シートSを変形させかねないが、環状溝部115を用いて吸着搬送する手法をとることで、成形するにあたって問題となるような変形を避けることができる。
【0041】
また、不連続繊維シートSを搬送する際に、下面110aに不連続繊維シートSが直接触れている場合、不連続繊維シートSが軟化しているために不連続繊維シートSに環状溝部115の跡が付いてしまったり、下部プレート110の表面に不連続繊維シートSの母材に使われる樹脂が溶融して付着してしまったりする可能性があるが、シリコンスポンジ220を介して吸着していることでそのようなリスクを低減することが可能である。
【0042】
また、環状溝部115とその周囲に設けられたシリコンスポンジ220によって囲まれた負圧用空間Aを備えることで、吸気口116から吸気して負圧用空間Aを負圧にし、不連続繊維シートSわずかに変形させながら吸着搬送することで、負圧用空間A内の負圧を適切に保持して搬送することが可能である。
【0043】
また、搬送プレート(下部プレート110)に複数のプッシャー(プッシャー機構150)を備え、プッシャー機構150が下部プレート110の下面110aから突出することで、不連続繊維シートSがシリコンスポンジ220と接触する側の上面を押す機能を有し、不連続繊維シートSを吸着搬送した後、所定の位置に配置する際に吸気装置220の吸気を止めると同時にプッシャー機構150を突出させることで、不連続繊維シートSを狙った位置に搬送することが可能となる。
【0044】
これは、搬送装置100が成形位置St2の下型250bの上に移動した段階で、吸気装置220による吸気を停止すると共に、負圧用空間Aの真空破壊を行い、それと同時にプッシャー機構150の先端に備えられる押板151が、シリコンスポンジ220の表面に張り付くように吸着保持されている不連続繊維シートSを押すことで、不連続繊維シートSをシリコンスポンジ220の表面から剥がす為であり、部分的にはプッシャー機構150と同時に動作させるノックアウト機構170の作用もあって効果的に不連続繊維シートSがシリコンスポンジ220から離される。
【0045】
不連続繊維シートSは熱可塑性樹脂が流動性を有するまで加熱されているために、場合によってはシリコンスポンジ220の表面に粘着性を発揮して貼り付いてしまうことがある。このため、シリコンスポンジ220の表面から均一に、同時に不連続繊維シートSを剥がすことが出来ないと、不連続繊維シートSの位置ズレに繋がることが考えられる。しかしながら、プッシャー機構150とノックアウト機構170を備えることで、スムーズにシリコンスポンジ220の表面から不連続繊維シートSを離すことが出来ることで、不連続繊維シートSの位置ズレ要因を廃することができる。
【0046】
また、プッシャー機構150の押板151は、不連続繊維シートSが下型250bの上に接する(押し付ける)ところまで前進するようにプッシャーシリンダ152のストロークが設定されているため、不連続繊維シートSを確実に下型250bの上にまで配置することが可能となる。このことも不連続繊維シートSの位置ズレ要因を廃することに繋がる他、不連続繊維シートSに伸びにくく金型250に沿いにくいという特性があるものの、プッシャー機構150によって下型250bの上に不連続繊維シートSを押しつける機構を採用することで、その問題を解消することができる。
【0047】
以上、本発明に係る搬送装置100に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、搬送装置100に設けられる環状溝部115の配置や彫り込み深さなどは、搬送する不連続繊維シートSに合わせて決定されるべきである。また、プッシャー機構150が備える押板151の形状も、円盤に限定される必要は無い。
【0048】
また、搬送装置100に用いられる加熱装置や保温ヒータ120によって加熱される熱可塑性樹脂の温度は、本実施形態では熱可塑性エポキシ樹脂を母材としたCFPRを不連続繊維シートSとして採用しているため上記の設定としているが、用いられる熱可塑性樹脂の種類や配合する分量によっても温度特性は異なるために、適宜変更されることが好ましい。また、搬送装置100から搬送中の不連続繊維シートSを剥がす際に、本実施形態ではプッシャー機構150とノックアウト機構170の両方を用いているが、必要に応じて何れか片方だけを採用することを妨げない。例えば、不連続繊維シートSに用いられる熱可塑性樹脂がシリコンスポンジ220に対して粘着性を発揮しなければ、ノックアウト機構170を用いずに、プッシャー機構150のみで不連続繊維シートSをシリコンスポンジ220の表面から離すという構成を採用しても良い。
【符号の説明】
【0049】
S 不連続繊維シート
100 搬送装置
110 下部プレート
110a 底面
115 環状溝部
116 吸気口
120 保温ヒータ
図1
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図5
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図7