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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006891
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】磁気クランプ装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/02 20060101AFI20240110BHJP
   H01F 7/18 20060101ALI20240110BHJP
   H01F 13/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01F7/02 F
H01F7/18 B
H01F7/18 Q
H01F13/00 620
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188103
(22)【出願日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2022106966
(32)【優先日】2022-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391003989
【氏名又は名称】株式会社コスメック
(74)【代理人】
【識別番号】100091719
【弁理士】
【氏名又は名称】忰熊 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正和
(57)【要約】
【課題】
極性反転可能な磁石素材の着磁コイルの消費電力を削減した磁気クランプ装置を提供すること。
【解決手段】
磁気クランプ装置10は、ネオジム磁石18と着磁コイル17により極性が反転可能なアルニコ磁石16と、コントローラ7と、整流回路31と、第1の環流回路32とを具備している。整流回路31は、交流電源を半波整流し、コントローラ7により着磁コイル17の着磁が指示されると所定期間だけ正側のパルスを着磁コイル17に供給する。第1の環流回路32は、ダイオード34とスイッチ35とが直列に接続され、コントローラ7により着磁が指示された期間はスイッチ35をオンして着磁コイル17と閉回路を形成して逆起電力による電流を環流させ、コントローラ7により着磁コイル17の消磁が指示された期間はスイッチ35をオフする。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着磁状態のときに金型を磁気的にクランプする磁性体からなるプレートの表面に、反転不可能磁石と着磁コイルにより極性が反転可能な反転可能磁石とを有する複数のマグネットブロックが多数配置された磁気クランプ装置において、
コントローラと、
交流電源を半波整流し、前記コントローラにより前記着磁コイルの着磁が指示されると所定の期間だけ正側のパルスを前記反転可能磁石の着磁コイルに供給する整流回路と、
ダイオードとスイッチとが直列に接続され、前記コントローラにより前記着磁コイルの着磁が指示された期間は前記スイッチをオンして前記着磁コイルと閉回路を形成して前記着磁コイルが発生する逆起電力による電流を環流させ、前記コントローラにより前記着磁コイルの消磁が指示された期間は前記スイッチをオフする第1の環流回路とを有する磁気クランプ装置。
【請求項2】
請求項1の磁気クランプ装置において、前記整流回路が発生する正側のパルスの数は、前記負側のパルスの数よりも多いことを特徴とする磁気クランプ装置。
【請求項3】
請求項1の磁気クランプ装置において、ダイオードとスイッチとが直列に接続され、前記コントローラにより前記着磁コイルの消磁が指示された期間は前記スイッチをオンして前記着磁コイルと閉回路を形成して前記着磁コイルが発生する逆起電力による電流を環流させ、前記コントローラにより前記着磁コイルの着磁が指示された期間は前記スイッチをオフする第2の環流回路とを有し、前記第1の環流回路と第2の環流回路のダイオードの極性が互いに逆であることを特徴とする磁気クランプ装置。
【請求項4】
請求項1の磁気クランプ装置において、前記コントローラは、前記プレートの温度情報を取得し、前記プレートの温度情報に対応して前記所定の期間の長さを変更することを特徴とする磁気クランプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気吸着力を利用してクランプ/リリースを行う磁気クランプ装置に関する。
【0002】
磁石素材に着磁して磁石を生産する着磁器においては、コイルに電流を流して、コイル内側に磁界を発生させて、コイル内に磁石素材を供給することにより磁石素材を着磁する。磁界の向きはコイルに流れる電流の向きによって、磁界の強さはコイルに流れる電流の強さによって決まる。磁石素材を着磁する着磁器では、磁石素材が磁気を帯びる限界点「飽和点」まで着磁を行う「飽和着磁」が行われる。特許文献1には、このような着磁器の一例としてコンデンサ式着磁器が開示されている。
【0003】
特許文献1のコンデンサ式着磁器では、高周波トランスからの交流を両波整流して脈流とし、充電コンデンサを10mVずつ充電し、2.5kVに充電が達したら充電コンデンサの電流を流して着磁コイルを駆動する。着磁用スイッチング素子であるSCRと着磁コイルの直列回路が充電コンデンサに接続され、直列回路にフライホイールダイオードが並列接続されている。着磁コイルの中に磁石素材を挿入しSCRを点弧すると、着磁コイルへ例えば10kA程度の着磁電流が瞬間的に供給される。着磁コイルと充電コンデンサとの共振により、電流がピークに達した後は逆電圧によりSCRは消弧すると共に、フライホイールダイオードを通して放電が行われる。着磁コイルの中に磁石素材に順に搬送することにより、磁石素材に着磁して永久磁石の量産が行われる。
【0004】
磁石素材に着磁する装置として、コイルの中に磁石素材を通して磁石を生産する着磁器の他に、磁石素材にコイルを巻き、着磁/脱磁の切り替えを行う磁気クランプ装置が知られている。例えば、特許文献2に示される金型を磁気的に固定する磁気クランプ装置においては、極性反転不可能な磁石と極性反転可能な磁石素材(アルニコ磁石)とを有し、アルニコ磁石を周回する着磁コイルによりアルニコ磁石の磁気極性を制御することで、極性反転不可能な磁石と極性反転可能な磁石が直列に閉鎖した磁気回路を構成して金型を離すリリース状態と、極性反転不可能な磁石と極性反転可能な磁石が並列に接続され、金型に直列接続する磁気回路を構成し金型をクランプするロック状態との間で切り換え可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-230124号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2019/202957号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のコンデンサ式着磁器では、磁化されていない磁石素材を磁化するものであり、充電コンデンサに蓄えた電流を瞬間的に1回流して着磁している。これに対して、磁気クランプ装置では極性反転可能な磁石素材(アルニコ磁石)は、自らが保持した極性を逆転するだけではなく、近接した極性反転不可能な磁石から流れ込む磁束を打ち消す。そのために、アルニコ磁石に巻き付けられたコイルに対して、アルニコ磁石の磁極を反転させ磁束飽和させるまで十分な電流を流し続けなくてはならない。しかし、ある程度の時間間隔をもって直流値を保つことができる大直流電流源は高価である。
【0007】
このため、磁気クランプ装置では、交流電源の半波整流して、例えば上側の半正弦波をクランプ時に、下側の半正弦波をリリース時に夫々着磁コイルへ供給することにより電流の向きを変える制御を行い、電源のコスト低減を図っている。半正弦波は、交流電源を整流した正側若しくは負側のみの波形であって、半正弦波の一波(「パルス」と称する)は、10ms程度の長さである。これの多数個を着磁コイルへ与えて磁束を発生させる。発生した磁束に対して、アルニコ磁石が保持していた磁束と、極性反転不可能な磁石から流れ込む磁束とが足し合わされる。パルスを何回か与えることにより、アルニコ磁石の極性を徐々に反転させ、最終的に飽和磁束にまで到達させる。このため、磁束飽和させるまで与えたパルスの数だけ、電力が消費されることになる。
【0008】
本発明は、極性反転可能な磁石素材の着磁コイルに与えられるパルスの数を減らすことにより、消費電力を削減した磁気クランプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁気クランプ装置は、コントローラと、交流電源を半波整流し、前記コントローラにより着磁コイルの着磁が指示されると所定の期間だけ正側のパルスを反転可能磁石の着磁コイルに供給する整流回路と、ダイオードとスイッチとが直列に接続され、前記コントローラにより前記着磁コイルの着磁が指示された期間は前記スイッチをオンして前記着磁コイルと閉回路を形成して前記着磁コイルが発生する逆起電力による電流を環流させ、前記コントローラにより前記着磁コイルの消磁が指示された期間は前記スイッチをオフする第1の環流回路とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マグネットブロックの着磁力が弱まったとしても、金型がマグネットブロックに初期の位置状態のままクランプしていれば、金型を閉じて再着磁することにより、短時間に作業を復帰することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】射出成形機および磁気クランプ装置を説明する図である、図1Aは射出成形機の全体図、図1Bは磁気クランプ装置10を金型が取り付けられる面側から見た図、図1Cは磁気クランプ装置が脱磁状態のときの様子を示す図、図1Dは磁気クランプ装置が着磁状態のときの様子を示す図である。
図2】磁気クランプ装置の回路を説明する図である。図2Aは、着磁コイル用の電源30を示す図、図2B~2Dは波形を示す図である。
図3】磁束の変化を示す図であり、図3Aは比較例、図3Bは本実施態様による場合を示す図である。
図4】磁束の変化を示す図であり、図4Aは比較例、図4Bは本実施態様による場合を示す図である。
図5】磁束の変化を示す図である。
図6】磁気クランプ装置の応用例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の一例を説明する。以下の説明において、射出成形機1に取り付けられている磁気クランプ装置10、20を例として説明する。
【0013】
図1は、射出成形機1および磁気クランプ装置10、20を説明する図である。図1Aにおいて射出成形機1は、左右に対向したプラテン2、3と、左側のプラテン2を左右方向に前進・後退移動自在にガイド支持するガイドロッド9とを備えている。金型を磁気吸着する磁気クランプ装置10、20は、プラテン2、3に夫々取り付けられる。6は樹脂を射出するノズル、7は入力部及び液晶表示画面付きのコントローラであり、8は金型から射出成形物を押し出すエジェクタロッドである。コントローラ7は磁気クランプ装置10、20を制御する。
【0014】
図1Bは、金型が取り付けられる面側から磁気クランプ装置10を見た図である。磁気クランプ装置10の本体であるプレート4は強磁性体からなる。プレート4の表面側に、強磁性体からなる多数のマグネットブロック11が埋め込まれている。その他に、近接センサ12や磁束の変化を検出するコイル(図示せず)が配置される。貫通孔13には、エジェクタロッド8が挿入される。磁気クランプ装置20は磁気クランプ装置10とほぼ同じで有り説明を省略する。以下、同様である。
【0015】
図1Cは磁気クランプ装置10が脱磁状態のときの様子を示している。ネオジム磁石(反転不可能磁石)18はマグネットブロック11の外周を取り囲んでおり、マグネットブロック11側に向けて例えばS極、プレート4側に向けてN極である。アルニコ磁石(反転可能磁石)16は、磁気クランプ装置10の表面側(図面、上側)に向けてN極とし、裏面側に向けてS極とした永久磁石になっている。ネオジム磁石18、プレート4、アルニコ磁石16、マグネットブロック11で構成される磁気回路の中を磁束が通過する磁気クランプ装置10の表面には磁束は漏れ出さず、金型を吸着することは無い。
【0016】
図1Dは磁気クランプ装置10が着磁状態のときの様子を示している。着磁コイル17に正側の電流を流すことにより、アルニコ磁石16の磁極を反転させる。アルニコ磁石16を着磁し、磁気クランプ装置10の表面をS極とし、裏側をN極とした永久磁石とする。磁気クランプ装置10の表面側では、マグネットブロック11に対して、ネオジム磁石18とアルニコ磁石16の両方がS極として結合することになる。金型Mが磁気クランプ装置10の表面に押し付けられた状態では、これらの磁束は金型Mの中を通過する。その結果、ネオジム磁石18、マグネットブロック11、金型M、プレート4で構成される磁気回路と、アルニコ磁石16、マグネットブロック11、金型M、プレート4で構成される磁気回路とが形成される。一度この状態になると、着磁コイルの電流を切断しても、磁気回路は保持し続けられる。この状態から、磁気クランプ装置10を脱磁状態にするには、負側の電流を流すことにより、アルニコ磁石16を消磁する。
【0017】
図2は、磁気クランプ装置10の回路を説明する図である。図2Aは、着磁コイル用の電源30を示しており、電源30はコントローラ7の制御信号s0~s3により制御される。コントローラ7は、着磁コイル17の着磁を電源30に指示するときには制御信号s0、s2を発生し、着磁コイル17の消磁を電源30に指示するときには制御信号s1、s3を発生する。電源30は、工業用に供給される商用の交流電源PSに接続され、整流回路31、第1の環流回路32、第2の環流回路33を具備する。整流回路31は、交流を半波整流する回路であり、点弧回路38とサイリスタ39、40を具備する。点弧回路38は、制御信号s0により磁気クランプ装置10の着磁が指示された際には、サイリスタ39にトリガ信号を送る。点弧角は、交流電源PSからの電圧が0Vから正側に増加していく立ち上がりの期間に設定されており、正側の半正弦波のパルスを発生させる。この結果、制御信号s0が立ち上がっている間は、正側のパルスが連続して発生する。点弧回路38は、制御信号s1により磁気クランプ装置10の脱磁を指示された際には、サイリスタ40にトリガ信号を送る。点弧角は、交流電源PSからの電圧が0Vから負側に増加していく立ち下がりの期間に、負側の半正弦波のパルスを発生させる。この結果、制御信号s1が立ち上がっている間は、負側のパルスが連続して発生する。制御信号s0、1が立ち上がっている期間を制御することで、正側若しくは負側のパルスが連続する個数が制御される。
【0018】
整流回路31が発生させるパルスは、そのまま着磁コイル17に与えられる。コンデンサ式着磁器ではコンデンサに蓄積した後に着磁コイルに供給したが、本実施例では着磁コイル17に直接供給する点で相違する。着磁コイル17には、第1の環流回路32と第2の環流回路33が夫々並列に接続されている。第1の環流回路32はダイオード34とスイッチ35が直列に接続され、第2の環流回路33はダイオード36とスイッチ37が直列に接続されている。ダイオード34とダイオード36は、アノードとカソードの向きが互いに逆の逆極性になっている。また、ダイオード34とダイオード36として、ファーストリカバリダイオード(FRD)を用いている。スイッチ35、スイッチ37は、夫々制御信号S2、S3によりオン、オフ制御される。制御信号S2は、磁気クランプ装置10の着磁の際にスイッチ35をオンする。制御信号S3は、磁気クランプ装置10の脱磁の際にスイッチ37をオンする。スイッチ35、スイッチ37として、リレー回路を用いている。
【0019】
図2Bは着磁コイル17の着磁における着磁コイル17の両端電圧v、着磁コイル17を流れる電流i及び制御信号s0、s2の波形である。制御信号s2によりスイッチ35をオンする(スイッチ37はオフのまま)。制御信号s0により、整流回路31に正側のパルスv1を発生させる。制御信号s2により、第1の環流回路32と着磁コイル17とが閉回路を形成する。コントローラ7により着磁が指示される期間、各パルスv1の間の電圧が消失した期間においても、着磁コイルのインダクタンス成分の逆起電力により流し続けようとする電流i1は閉回路を環流し、着磁コイル17の抵抗成分で消費され減衰することになる。着磁コイル17のインダクタンス成分が大きければ電流i1の減衰はなだらかになり、パルスv1の電圧消失時においても、比較的大きな電流値を流し続けることができる。これは、着磁コイル17が発生する磁束が高いレベルで維持されることを意味する。
【0020】
図2Cは、着磁コイル17の消磁の波形を示している。コントローラ7により消磁が指示される期間は、制御信号s3によりスイッチ37をオンする(スイッチ35はオフのまま)とし、制御信号s1により、整流回路31に負側のパルスv2を発生させる。着磁コイル17の消磁の場合は、第2の環流回路33により着磁コイル17を閉塞する閉回路が形成され、着磁の場合とは逆方向に電流i2が流れる。
【0021】
図2Dは、第1の環流回路32と第2の環流回路33が存在しない場合における着磁の波形を示している。この場合、各パルスv1の間の電圧が消失した期間は着磁コイル17のインダクタンス成分の逆起電力により、一定の期間、電流i3が流れ続けようとし、負の電圧が現れる。しかしながら、この電流i3は整流回路31に浸入し、着磁コイル17を環流し磁束の発生を持続させることができない。
【0022】
尚、磁気クランプ装置10の着磁ではスイッチ37はオフであり、磁気クランプ装置10の脱磁(着磁コイル17の消磁)ではスイッチ35はオフであることは説明するまでもない。
【0023】
図3は、磁気クランプ装置10を金型が取り付けられる面において、テスラメーターにより計測した磁束密度を示す。着磁コイル17に流れる電流が消失した後に、残留する磁束密度が飽和磁束φsと計測されれば、磁気クランプ装置10が正常に着磁されたとみなす。
【0024】
[実験例1]
図3Aは第1の環流回路32と第2の環流回路33を設けない場合(比較例)である。図3Bは第1の環流回路32と第2の環流回路33を設けた場合(実施例)である。磁気クランプ装置10の着磁において、40個のパルスを着磁コイル17に供給した。どちらも、最終的に残留する飽和磁束φs(テスラメーター読みで0.05mT程度)は同じであるが、図3Bの方が磁束密度の増加の速度が速く、後半においてはほぼ上昇の上限に達している様子がわかる。とくに、最後のパルスが与えられてから、飽和磁束φsに到る迄の磁束密度の差分について、図3Bの差分d2は図3Aの差分d1に対して明らかに大きく、アルニコ磁石16に強い磁束が与えられていることが観測された。
【0025】
また、脱磁においては、40個のパルスを着磁コイル17に供給したが、両者において顕著な差はみられなかった。
【0026】
[実験例2]
図4Aは第1の環流回路32と第2の環流回路33を設けない場合(比較例)である。図4Bは第1の環流回路32と第2の環流回路33を設けた場合(実施例)である。30個のパルスを着磁コイル17に供給した。どちらも、残留した飽和磁束φsは同じであるが、差分d1、d2ともに減少しており、図4Aで観測された差分d1は、製品として十分な余裕ではない。
【0027】
また、脱磁においては、30個のパルスを着磁コイル17に供給したが、両者において顕著な差はみられなかった。
【0028】
[実験例3]
図5は、第1の環流回路32と第2の環流回路33を設けた場合(実施例)である。20個のパルスを着磁コイル17に供給した。残留した磁束密度は、実験例1、2の飽和磁束φsに達しなかった。
【0029】
また、20個のパルスでも脱磁することができた。図には示していないが、10個のパルスでも脱磁することも確認した。
【0030】
上記の実験例から、着磁においては、第1の環流回路32と第2の環流回路33を設けない場合には、40個のパルスを着磁コイル17に供給しておかないと余裕のある着磁ができないのに対して、第1の環流回路32と第2の環流回路33を設けた場合には、30個のパルスでも余裕のある着磁ができることがわかった。40個のパルスから30個のパルスへの減少は、消費電流の25%オフにつながる。
【0031】
一方、脱磁においては、第1の環流回路32と第2の環流回路33の有無に顕著な違いがみられなかった。
【0032】
よって、着磁コイル17の消費電力を抑えたい場合には、第1の環流回路32と第2の環流回路33のうち、少なくとも第1の環流回路32だけを設け、着磁時に第1の環流回路32のスイッチ35をオンし、脱磁時にオフすれば良い。又、これに加えて、脱磁時に着磁コイル17に供給するパルスの数を、着磁時のパルスの数よりも減らすようにしても良い。さらに、第2の環流回路33を付け加えても良い。尚、脱磁時及び脱磁時以外の期間においては、整流回路31はパルスを発生していないため、スイッチ35、スイッチ37は、オン/オフ何れの状態でも良い。
【0033】
本実施形態によれば、第1の環流回路32を、少なくとも着磁時の期間にオンし、少なくとも脱磁の期間をオフすることにより、着磁コイル17を含む閉回路を構成して、パルスが消失した期間に着磁コイル17の起電力を利用した電流を着磁コイル17に環流して流し続けることができるため、着磁のための磁束を高い状態で維持することができる。この結果、着磁時の消費電力を削減することができるという効果を奏する。
【0034】
また、脱磁時に着磁コイル17に供給するパルスの数を、着磁時のパルスの数よりも減らすことにより、消費電力を削減することができる。
【0035】
図6に、本実施形態の応用例を示した。磁気クランプ装置10、20に多数の着磁コイル17が配置され、1つの電源系統では電流をまかなえない場合の例である。整流回路31からの電源系統を4系統とした電源30を備えている。夫々の系統において電力が与えられる着磁コイル17には、第1の環流回路32、第2の環流回路33が直列に接続され、閉回路が形成できるようにしている。各系統の第1の環流回路32、第2の環流回路33は、夫々制御信号s1、s2により共通に制御されている。
【0036】
上記実施例においては、整流回路31内に点弧回路38を設けたが、コントローラ7が直接サイリスタ39、40にトリガ信号を与えて、正側若しくは負側のパルスの数を直接制御しても良い。また、整流回路31にはサイリスタ39、40を用いたが、他のスイッチング素子を用いても良い。
【0037】
本実施形態においては、アルニコ磁石を磁気反転させる着磁コイル17には銅巻線を使用することにより、アルニコ磁石の磁束反転するための飽和磁束以上の電磁束が発生できるように抵抗値を低くして、大電流を一定時間流すことで磁束反転を実現するのである。一方、銅等の導体の抵抗率は、温度変化により大きく変動することが知られており、高温時には常温時に比べ電流が流れにくくなり、アルニコ磁石に対して十分な磁束飽和を実行することが困難な場合がある。
【0038】
金型の使用温度は、ユーザーにより最大温度100℃まで、120℃まで又は150℃までと様々である。高温時に合わせて制御信号s0~s3を可変することにより、このような問題に対処することができる。プレート4の温度に応じて制御信号s0~s3を可変にするには、コントローラ7がマイクロプロセッサにより構成されている場合を例とすると、マイクロプロセッサの制御プログラムに予めプレート4の想定温度に応じた銅線抵抗値に対する制御信号s0~s3の時間をテーブルとして記憶する。さらに、プレート4に温度センサを取り付けてプレート4の温度を測定し、温度情報をコントローラ7のマイクロプロセッサへ入力する。コントローラ7の制御プログラムは、取得した温度情報に基づき、テーブルを検索して対応する制御信号s0~s3を取得し、第1の環流回路32と第2の環流回路33を制御する。
【0039】
着磁コイル17の導体の温度T及びそのときの抵抗値Rの関係は以下の式で表される。
=R{1+α(T-t)}
温度Tにおける抵抗値(Ω)
温度tにおける抵抗値(Ω)
α 温度tにおける抵抗温度係数(銅の場合、1/(234.5+t))
T、t 温度
【0040】
例えば、着磁コイル17の端子間抵抗が4Ω(常温25℃)の場合、100℃の場合の抵抗値RTは5.15Ωであり、抵抗値は28%上昇する。例えば、制御信号s0が常温時には30パルスを通過させる期間だけ立ち上がるものであるとすると、プレート4の温度の測定値が100℃のときには、28%増しの39パルスを通過させる期間だけ制御信号s0が立ち上がるという制御を行うのである。また、プレート4の温度測定値が150℃のときには、50%増しの45パルスを通過させる期間だけ制御信号s0が立ち上がるという制御を行う。なお、制御信号s0に応じて、パルスの間の電圧が消失した期間においても、着磁コイルのインダクタンス成分の逆起電力により流し続けようとする電流が環流するように制御信号s2も決められる。
【0041】
このように制御信号s0、s2が立ち上がる長さを変更することより、プレート4の温度変化に応じて、着磁・脱磁時間を能動的に変化させて制御することが可能になる。制御信号s1、s3についても同様にコントローラ7の制御プログラムにテーブルを設定して、同様の制御をしても良い。このように構成することで、最大温度100℃まで、120℃まで又は150℃のユーザーの使用環境にも耐えられるように予め磁気クランプ装置10を作り込むことが可能になる。
【0042】
プレート4の温度情報は、本体に温度センサを取り付けて取得しても良いが、着磁コイル17の抵抗を直接測定しても取得することができる。温度センサは、抵抗値の変化を利用して温度を測定する原理によるものが一般的である。よって、着磁コイル17自体の抵抗値を測定してプレート4の温度情報として、コントローラ7に入力しても良い。この場合、着磁コイル17に直流電流を流し、着磁コイル17の電圧値を測定する回路を別途設ければ良い。
【0043】
このようにすることにより、プレート4の温度が常温の場合には、ロック・リリース時間が短くなるため、永電磁クランプにかかる電力効率が上がる省エネ効果が得られる。一方、高温時には、着磁、脱磁の時間が長くなることで、磁束反転を十分に発生させることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 射出成形機
2、3 プラテン
4 プレート本体
7 コントローラ
8 エジェクタロッド
9 ガイドロッド
10、20 磁気クランプ装置
11 マグネットブロック
12 近接センサ
13 貫通孔
16 アルニコ磁石
17 着磁コイル
18 ネオジム磁石
30 電源
31 整流回路
32 第1の環流回路
33 第2の環流回路
34、36 ダイオード
35、37 スイッチ
38 点弧回路
39、40 サイリスタ

図1
図2
図3
図4
図5
図6