(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068917
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】動吸振器
(51)【国際特許分類】
F16F 15/126 20060101AFI20240514BHJP
F16F 15/12 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
F16F15/126 B
F16F15/12 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179599
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 信彦
(72)【発明者】
【氏名】塩沼 幸己
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 泰邦
(57)【要約】
【課題】捩じり振動を抑制しつつ騒音を抑制すると共に、高速回転する環境下でも好適に利用可能な動吸振器を提供する。
【解決手段】仮にクランクシャフト50に動吸振器10が取り付けられない場合における捩じり振動の仮振動ピークが、動吸振器10が取り付けられることで低減して、前記仮振動ピークよりも低周波数側に発生する捩じり振動の振動ピークを第1振動ピークとし、前記仮振動ピークよりも高周波数側に発生する捩じり振動の振動ピークを第2振動ピークとした場合に、第2振動リング400における軸方向共振周波数が、第1振動ピークが発生する周波数の2/3以下に設定されていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒部と、前記内筒部の端部に設けられる外向きフランジ部と、前記外向きフランジ部の径方向外側の端部に設けられる外筒部と、を有し、前記内筒部がクランクシャフトに固定されるハブと、
前記外筒部の径方向外側に設けられる第1振動リングと、
前記外筒部の径方向内側に設けられる第2振動リングと、
前記外筒部と第1振動リングとの間に設けられる第1環状弾性体と、
前記外筒部と第2振動リングとの間に設けられる第2環状弾性体と、
を備える動吸振器であって、
仮に前記動吸振器が取り付けられない場合における前記クランクシャフトの捩じり振動の仮振動ピークが、前記動吸振器が取り付けられることで低減して、前記仮振動ピークよりも低周波数側に発生する捩じり振動の振動ピークを第1振動ピークとし、前記仮振動ピークよりも高周波数側に発生する捩じり振動の振動ピークを第2振動ピークとした場合に、
第1振動リング及び第2振動リングのうちの一方の軸方向共振周波数が、前記クランクシャフトの捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定され、他方の軸方向共振周波数が、第1振動ピークが発生する周波数の2/3以下に設定されていることを特徴とする動吸振器。
【請求項2】
第2振動リングは、前記外向きフランジ部に対してエンジン内部側に配されることを特徴的な構成を請求項1に記載の動吸振器。
【請求項3】
第2振動リングは、前記外向きフランジ部に対してエンジン内部とは反対側に配されることを特徴的な構成を請求項1に記載の動吸振器。
【請求項4】
内筒部と、前記内筒部の端部に設けられる外向きフランジ部と、前記外向きフランジ部の径方向外側の端部に設けられる外筒部と、を有し、前記内筒部がクランクシャフトに固定されるハブと、
前記外筒部の径方向内側に設けられる振動リングと、
前記外筒部と前記振動リングとの間に設けられる環状弾性体と、
を備える動吸振器であって、
前記振動リングの軸方向共振周波数が、前記クランクシャフトの捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定されていることを特徴とする動吸振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動吸振器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン等に設けられるクランクシャフトにおいては、捩じり振動を低減するために動吸振器(トーショナルダンパー)が取り付けられるのが一般的である。このような動吸振器においては、クランクシャフトにおける捩じり振動の共振周波数で、振動リングなどの質量体が共振することでクランクシャフトの共振を抑制できるように、質量体の固有振動数が設定される。また、特許文献1には、捩じり振動を抑制するだけでなく、騒音を抑制する機能も兼ね備える技術が開示されている。この技術によれば、マス部と蛇腹構造とを有する防音カバーを設けることで、捩じり振動を抑制しつつ、騒音を抑制することができる。
【0003】
しかしながら、この技術の場合には、クランクシャフトと共に動吸振器が高速回転する環境下においては、マス部が遠心力によって大きく振れ回ることになる。この場合、自動車の各種振動や衝撃と相まって、マス部を有する防音カバーが外れてしまうことが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、捩じり振動を抑制しつつ騒音を抑制すると共に、高速回転する環境下でも好適に利用可能な動吸振器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
本発明の動吸振器は、
内筒部と、前記内筒部の端部に設けられる外向きフランジ部と、前記外向きフランジ部の径方向外側の端部に設けられる外筒部と、を有し、前記内筒部がクランクシャフトに固定されるハブと、
前記外筒部の径方向外側に設けられる第1振動リングと、
前記外筒部の径方向内側に設けられる第2振動リングと、
前記外筒部と第1振動リングとの間に設けられる第1環状弾性体と、
前記外筒部と第2振動リングとの間に設けられる第2環状弾性体と、
を備える動吸振器であって、
仮に前記動吸振器が取り付けられない場合における前記クランクシャフトの捩じり振動の仮振動ピークが、前記動吸振器が取り付けられることで低減して、前記仮振動ピークよりも低周波数側に発生する捩じり振動の振動ピークを第1振動ピークとし、前記仮振動ピークよりも高周波数側に発生する捩じり振動の振動ピークを第2振動ピークとした場合に、
第1振動リング及び第2振動リングのうちの一方の軸方向共振周波数が、前記クランクシャフトの捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定され、他方の軸方向共振周波数が、第1振動ピークが発生する周波数の2/3以下に設定されていることを特
徴とする。
【0008】
本発明によれば、第1振動リング及び第2振動リングによって、クランクシャフトの捩じり振動を抑制することができる。また、第1振動リング及び第2振動リングのうちの一方の軸方向共振周波数が、クランクシャフトの捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定されている。そのため、クランクシャフトの捩じり振動に伴って連成するクランクシャフトの軸方向振動も小さくなり、振動リングの軸方向共振も小さくなる。従って、振動リングの放射音を低減させることができる。また、第1振動リング及び第2振動リングのうちの他方の軸方向共振周波数が、第1振動ピークが発生する周波数の2/3以下に設定されることで、クランクシャフトの捩じり振動も小さくなり、より一層騒音を抑制することができる。更に、第1振動リングはハブにおける外筒部の径方向外側で第1環状弾性体を介して設けられ、第2振動リングはハブにおける外筒部の径方向内側で第2環状弾性体を介して設けられる構成が採用されている。従って、クランクシャフトが高速回転しても、従来技術のようにマス部が蛇腹構造部を介して設けられる場合のように、第1振動リング及び第2振動リングが大きく振れ回ってしまうこともない。
【0009】
第2振動リングは、前記外向きフランジ部に対してエンジン内部側に配される構成を採用してもよいし、前記外向きフランジ部に対してエンジン内部とは反対側に配される構成を採用することもできる。
【0010】
また、本発明の動吸振器は、
内筒部と、前記内筒部の端部に設けられる外向きフランジ部と、前記外向きフランジ部の径方向外側の端部に設けられる外筒部と、を有し、前記内筒部がクランクシャフトに固定されるハブと、
前記外筒部の径方向内側に設けられる振動リングと、
前記外筒部と前記振動リングとの間に設けられる環状弾性体と、
を備える動吸振器であって、
前記振動リングの軸方向共振周波数が、前記クランクシャフトの捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、振動リングによって、クランクシャフトの捩じり振動を抑制することができる。また、振動リングの軸方向共振周波数が、クランクシャフトの捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定されているため、クランクシャフトの捩じり振動に伴って連成するクランクシャフトの軸方向振動も小さくなる。従って、振動リングの軸方向共振も小さくなり、振動リングの放射音を低減させることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、捩じり振動を抑制しつつ騒音を抑制すると共に、高速回転する環境下でも好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明の実施例1に係る動吸振器の外観図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例1に係る動吸振器の模式的断面図である。
【
図3】
図3は捩じり振動に関する周波数と振動伝達率との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は軸方向振動に関する周波数と振動伝達率との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は軸方向振動に関する周波数と振動伝達率との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は軸方向振動に関する周波数と振動伝達率との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は本発明の実施例2に係る動吸振器の模式的断面図である。
【
図8】
図8は本発明の実施例3に係る動吸振器の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0015】
(実施例1)
図1~
図6を参照して、本発明の実施例1に係る動吸振器について説明する。
図1は本発明の実施例1に係る動吸振器の外観図であり、同図(a)は正面図であり、同図(b)は背面図である。
図2は本発明の実施例1に係る動吸振器の模式的断面図であり、
図1(a)中のAA断面図、同図(b)中のBB断面図に相当する。
図3は捩じり振動に関する周波数と振動伝達率との関係を示すグラフであり、本実施例に係る動吸振器を用いた場合のグラフを示している。
図4~
図6は軸方向振動に関する周波数と振動伝達率との関係を示すグラフであり、
図4は本実施例に係る動吸振器を適用する場合のグラフであり、
図5及び
図6は比較例に係るグラフである。
【0016】
<動吸振器(トーショナルダンパー)の構成>
図1及び
図2を参照して、本実施例に係る動吸振器の構成について説明する。本実施例に係る動吸振器10は、クランクシャフト50に取り付けられるハブ100と、ハブ100と同心的に設けられる第1振動リング200及び第2振動リング400とを備えている。これらハブ100、第1振動リング200及び第2振動リング400は、金属により構成される。なお、本実施例においては、第1振動リング200の外周面には、補機などを駆動するためのベルト(不図示)が巻かれる位置に複数の環状の凹凸210が形成されている。
【0017】
ハブ100は、内筒部110と、内筒部110の端部に設けられる外向きフランジ部120と、外向きフランジ部120の径方向外側の端部に設けられる外筒部130とを一体に備えている。内筒部110が、クランクシャフト50に対してボルト70により固定されることで、クランクシャフト50に動吸振器10が取り付けられる。なお、クランクシャフト50の外周面と内筒部110の内周面にそれぞれ設けられたキー溝51,111にキー60が差し込まれることによって、クランクシャフト50に対して動吸振器10が相対的に回転することが防止される。なお、
図2においては、クランクシャフト50、キー60及びボルト70について、その外形の位置を点線にて示している。
【0018】
また、動吸振器10においては、ハブ100の外筒部130と第1振動リング200との間に、第1環状弾性体300がハブ100と同心的に設けられている。この第1環状弾性体300は、ダンパー材料として優れたEPDMなどのゴム材料を好適に適用することができる。また、第1環状弾性体300は、例えば、加硫接着によって、外筒部130と第1振動リング200に固定することができる。また、動吸振器10においては、ハブ100の外筒部130と第2振動リング400との間に、第2環状弾性体500がハブ100と同心的に設けられている。この第2環状弾性体500は、ダンパー材料として優れたEPDMなどのゴム材料を好適に適用することができる。また、第2環状弾性体500は、例えば、加硫接着によって、外筒部130と第2振動リング400に固定することができる。
【0019】
本実施例においては、第2振動リング400は、外向きフランジ部120に対してエン
ジン内部側(
図2中、右側)に配されている。
【0020】
<固有振動数(共振周波数)の設定>
本実施例に係る動吸振器10においては、クランクシャフト50が捩じり方向(回転方向)に共振する周波数の振動が伝わると、第1振動リング200及び第2振動リング400が振動することによって、クランクシャフト50の共振が抑制される。すなわち、本実施例に係る動吸振器10においては、クランクシャフト50における捩じり方向の振動に対して、クランクシャフト50の共振を抑制するように、第1振動リング200及び第2振動リング400は設計されている(固有振動数が設定されている)。
【0021】
図3中の点線にて示すグラフは、動吸振器10が取り付けられない場合におけるクランクシャフト50の捩じり方向の振動特性(周波数(Hz)と振動伝達率との関係)を示している。この例においては、周波数が300Hzの付近で、共振により振動のピークが発生することが分かる。このように、仮に動吸振器10が取り付けられない場合におけるクランクシャフト50の捩じり振動の振動ピークを仮振動ピークと称する。
【0022】
そして、上記のように構成される動吸振器10をクランクシャフト50に取り付けることによって、クランクシャフト50の共振を抑制することができる。
図3中の実線にて示すグラフは、動吸振器10が取り付けられた場合におけるクランクシャフト50の捩じり方向の振動特性を示している。一般的に、仮振動ピークが発生する周波数X0(この例では約300Hz)においては、動吸振器10が取り付けられることで、振動伝達率を1/10以下に低減することができる。
【0023】
このグラフから分かるように、動吸振器10が取り付けられた場合には、仮振動ピークよりも低周波数側と高周波数側に、それぞれ振動ピークが発生する。以下、仮振動ピークよりも低周波数側に発生する捩じり振動の振動ピークを第1振動ピークと称し、仮振動ピークよりも高周波数側に発生する捩じり振動の振動ピークを第2振動ピークと称する。この例の場合、第1振動ピークが発生する周波数X1は約190Hzであり、第2振動ピークが発生する周波数X2は約360Hzである。なお、一般的に、これら第1振動ピーク及び第2振動ピークの振動伝達率は、仮振動ピークの振動伝達率の1/3以下にすることができる。
【0024】
ここで、クランクシャフト50においては、クランク部の形状により、クランクシャフト50の全体が捩じれることで、軸方向に縮む挙動が生じる。そのため、クランクシャフト50に捩じり振動が発生すると、軸方向への振動連成が生じる。従って、クランクシャフト50が捩じり方向に共振する場合には、軸方向振動も同時に発生し、クランクシャフト50の先端に大きな軸方向振動が生じる。しかしながら、上記のように動吸振器10が取り付けられることで、仮振動ピークが発生する周波数X0においては、軸方向についても、振動伝達率を1/10以下に低減することができる。
【0025】
動吸振器10に備えられる第1環状弾性体300及び第2環状弾性体500に用いられるゴム材料においては、一般的に共振倍率(振動リングなどのダンパが共振する際の振動伝達率)は5倍(1の振動入力が5倍の振動に拡大される)以下である。従って、例えば、第2振動リング400の軸方向の共振周波数(固有振動数)を、仮振動ピークが発生する周波数X0に設定した場合には、この周波数における第2振動リング400の軸方向の振動は、(1/10)×5=0.5(倍)となる。つまり、動吸振器10が取り付けられることで、動吸振器10が取り付けられない場合に比べて、半分程度まで低減させることができる。これに対し、第2振動リング400の軸方向の共振周波数を、第1振動ピークや第2振動ピークが発生する周波数X1,X2に設定した場合には、これらの周波数における第2振動リング400の軸方向の振動は、(1/3)×5=1.6666・・・(倍
)となる。つまり、第2振動リング400の振動はより大きくなってしまう。第1振動リング200の軸方向の共振周波数(固有振動数)を上記のように設定した場合においても同様である。
【0026】
そこで、本実施例においては、第1振動リング200及び第2振動リング400のうちの一方の軸方向共振周波数を、クランクシャフト50の捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定する構成が採用されている。これにより、クランクシャフト50の捩じりに伴って連成するクランクシャフト50の軸方向振動も小さくなり、振動リングの軸方向共振も、必然的に小さくなる。従って、振動リングの放射音も小さくなる。
【0027】
また、本実施例においては、第1振動リング200及び第2振動リング400のうちの他方の軸方向共振周波数を、第1振動ピークが発生する周波数の2/3以下に設定する構成が採用されている。これにより、騒音を抑制することができる。以下、その理由について説明する。以下、第1振動リング200及び第2振動リング400のうち軸方向共振周波数を第1振動ピークが発生する周波数の2/3以下に設定された振動リングを、単に「振動リング」と称する。
【0028】
例えば、本実施例の場合、第1振動ピークが発生する周波数X1は、約190Hzであり、190×(2/3)=126.666・・・である。
図4においては、振動リングにおける軸方向共振周波数を、第1振動ピークが発生する周波数の2/3以下である120Hzに設定した場合の軸方向の振動特性(周波数(Hz)と振動伝達率との関係)が示されている。このグラフから、170Hz以上の周波数領域で、入力振動に対して、振動リングの軸方向の振動伝達率は1を下回ることが分かる。また、第1振動ピークが発生する周波数X1(約190Hz)での振動リングの軸方向の振動伝達率は約0.67であることが分かる。
【0029】
つまり、第1振動ピークが発生していても、振動リングは静止状態に近いため、エンジン内部からの放射音を振動リングによって効果的に遮音することができる。また、周波数が120Hz付近においては、振動リングは軸方向に振動するものの、低周波域においては、人の聴感の観点から気づきにくいため、騒音としては問題にならない。そして、人の聴感の観点から騒音となる高周波域においては、振動リングは殆ど静止するため、遮音効果が十分に発揮される。
【0030】
図5においては、振動リングにおける軸方向共振周波数を、第1振動ピークが発生する周波数X1の3/4(142.5)以下、かつ2/3以上である140Hzに設定した場合の軸方向の振動特性が示されている。
【0031】
この場合、第1振動ピークが発生する周波数X1(約190Hz)での振動リングの軸方向の振動伝達率は約1.2であり、軸方向に振動してしまい、遮音効果が適切に発揮されないことが分かる。
【0032】
図6においては、振動リングにおける軸方向共振周波数を、第1振動ピークが発生する周波数X1付近の190Hzに設定した場合の軸方向の振動特性が示されている。
【0033】
この場合、第1振動ピークが発生する周波数X1(約190Hz)での振動リングの軸方向の振動伝達率は約5であり、軸方向に大きく振動してしまい、遮音効果は発揮されないことが分かる。
【0034】
<本実施例に係る動吸振器の優れた点>
本実施例に係る動吸振器10によれば、第1振動リング200及び第2振動リング40
0によって、クランクシャフト50の捩じり振動を抑制することができる。また、本実施例では、第1振動リング200及び第2振動リング400のうちの一方の軸方向共振周波数が、クランクシャフト50の捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定されている。そのため、クランクシャフト50の捩じり振動に伴って連成するクランクシャフト50の軸方向振動も小さくなり、振動リングの軸方向共振も小さくなる。従って、振動リングの放射音を低減させることができる。また、本実施例においては、第1振動リング200及び第2振動リング400のうちの他方の軸方向共振周波数が、第1振動ピークが発生する周波数X1の2/3以下に設定されている。そのため、クランクシャフト50の捩じり振動も小さくなり、より一層騒音を抑制することができる。更に、第1振動リング200はハブ100における外筒部130の径方向外側で第1環状弾性体300を介して設けられている。また、第2振動リング400はハブ100における外筒部130の径方向内側で第2環状弾性体500を介して設けられている。従って、クランクシャフト50が高速回転しても、従来技術のようにマス部が蛇腹構造部を介して設けられる場合のように、第1振動リング200及び第2振動リング400が大きく振れ回ってしまうこともない。そのため、第1振動リング200や第2振動リング400が脱落したり破損したりするおそれも少ない。仮に、第2振動リング400に何らかの破損が生じても、外周側がハブ100の外筒部130で覆われているので、高速回転中の遠心力によって径方向に飛び散ってしまうこともない。
【0035】
以上のように、本実施例に係る動吸振器10を採用することで、クランクシャフト50の捩じり振動を抑制しつつ騒音を抑制すると共に、高速回転する環境下でも好適に利用することができる。
【0036】
(実施例2)
図7には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、ハブと第2振動リング等の配置構成が実施例1とは異なる場合の構成が示されている。
図7は本発明の実施例2に係る動吸振器の模式的断面図であり、実施例1における
図2に示す断面図と同様の位置で動吸振器を切断した断面図である。
【0037】
本実施例に係る動吸振器10Aは、実施例1と同様に、クランクシャフトに取り付けられるハブ100Aと、ハブ100Aと同心的に設けられる第1振動リング200A及び第2振動リング400Aとを備えている。これらハブ100A、第1振動リング200A及び第2振動リング400Aは、金属により構成される。なお、本実施例においても、第1振動リング200Aの外周面には、補機などを駆動するためのベルト(不図示)が巻かれる位置に複数の環状の凹凸210Aが形成されている。
【0038】
ハブ100Aは、内筒部110Aと、内筒部110Aの端部に設けられる外向きフランジ部120Aと、外向きフランジ部120Aの径方向外側の端部に設けられる外筒部130Aとを一体に備えている。内筒部110Aが、クランクシャフトに対してボルトにより固定されることで、クランクシャフトに動吸振器10Aが取り付けられる。なお、内筒部110Aの内周面には、実施例1と同様にキー溝111Aが設けられている。
【0039】
また、動吸振器10Aにおいては、ハブ100Aの外筒部130Aと第1振動リング200Aとの間に、第1環状弾性体300Aがハブ100Aと同心的に設けられている。この第1環状弾性体300Aは、ダンパー材料として優れたEPDMなどのゴム材料を好適に適用することができる。また、第1環状弾性体300Aは、例えば、加硫接着によって、外筒部130Aと第1振動リング200Aに固定することができる。また、動吸振器10Aにおいては、ハブ100Aの外筒部130Aと第2振動リング400Aとの間に、第2環状弾性体500Aがハブ100Aと同心的に設けられている。この第2環状弾性体500Aは、ダンパー材料として優れたEPDMなどのゴム材料を好適に適用することがで
きる。また、第2環状弾性体500Aは、例えば、加硫接着によって、外筒部130Aと第2振動リング400Aに固定することができる。
【0040】
本実施例においては、第2振動リング400Aは、外向きフランジ部120Aに対してエンジン内部とは反対側(
図7中、左側)に配されている。
【0041】
<固有振動数(共振周波数)の設定>
固有振動数(共振周波数)の設定については、実施例1と同様である。すなわち、本実施例に係る動吸振器10Aにおいても、クランクシャフトにおける捩じり方向の振動に対して、クランクシャフトの共振を抑制するように、第1振動リング200A及び第2振動リング400Aは設計されている(固有振動数が設定されている)。また、第1振動リング200A及び第2振動リング400Aのうちの一方の軸方向共振周波数が、クランクシャフトの捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定され、他方の軸方向共振周波数が、第1振動ピークが発生する周波数の2/3以下に設定されている。
【0042】
以上のように構成される本実施例に係る動吸振器10Aにおいても、上記実施例1と同様の効果を得ることができる。また、本実施例の場合には、第2振動リング400Aが、外向きフランジ部120Aに対してエンジン内部とは反対側に配されているため、ハブ100Aからの放射音も効果的に遮音することができる。
【0043】
(実施例3)
図8には、本発明の実施例3が示されている。本実施例においては、第1振動リングと第1環状弾性体を備えていない点が実施例1とは異なる場合の構成が示されている。
図8は本発明の実施例3に係る動吸振器の模式的断面図であり、実施例1における
図2に示す断面図と同様の位置で動吸振器を切断した断面図である。
【0044】
本実施例に係る動吸振器10Bは、実施例1と同様に、クランクシャフトに取り付けられるハブ100と、ハブ100と同心的に設けられる振動リング400Bとを備えている。これらハブ100及び振動リング400Bは、金属により構成される。なお、振動リング400Bは実施例1における第2振動リング400に相当し、本実施例では、第1振動リング200を備えていない。
【0045】
ハブ100は、実施例1で説明した通り、内筒部110と、内筒部110の端部に設けられる外向きフランジ部120と、外向きフランジ部120の径方向外側の端部に設けられる外筒部130とを一体に備えている。そして、内筒部110が、クランクシャフト50に対してボルト70により固定されることで、クランクシャフト50に動吸振器10Bが取り付けられる。なお、クランクシャフト50の外周面と内筒部110の内周面にそれぞれ設けられたキー溝51,111にキー60が差し込まれることによって、クランクシャフト50に対して動吸振器10Bが相対的に回転することが防止される。
【0046】
また、動吸振器10Bにおいては、ハブ100の外筒部130と振動リング400Bとの間に、環状弾性体500Bがハブ100と同心的に設けられている。この環状弾性体500Bは、ダンパー材料として優れたEPDMなどのゴム材料を好適に適用することができる。また、環状弾性体500Bは、例えば、加硫接着によって、外筒部130と振動リング400Bに固定することができる。環状弾性体500Bは実施例1における第2環状弾性体500に相当し、本実施例では、第1環状弾性体300を備えていない。
【0047】
<固有振動数(共振周波数)の設定>
本実施例に係る動吸振器10Bにおいても、クランクシャフトにおける捩じり方向の振動に対して、クランクシャフトの共振を抑制するように、振動リング400Bは設計され
ている(固有振動数が設定されている)。また、本実施例においては、振動リング400Bの軸方向共振周波数が、クランクシャフトの捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定されている。
【0048】
以上のように構成される本実施例に係る動吸振器10Bによれば、振動リング400Bによって、クランクシャフト50の捩じり振動を抑制することができる。また、本実施例では、振動リング400Bの軸方向共振周波数が、クランクシャフト50の捩じり方向共振周波数の0.8倍以上1.2倍以下に設定されている。そのため、クランクシャフト50の捩じり振動に伴って連成するクランクシャフト50の軸方向振動も小さくなり、振動リングの軸方向共振も小さくなる。従って、振動リングの放射音を低減させることができる。
【0049】
なお、上記実施例2においても、本実施例と同様に、第1振動リング200Aと第1環状弾性体300Aを備えていない構成を採用することができる。
【0050】
(その他)
上記実施例1の中で、
図4~
図6を参照して、振動リングにおける軸方向共振周波数を、第1振動ピークが発生する周波数の2/3以下に設定することで、効果的に騒音を抑制できる旨を説明した。実施例の中では、クランクシャフト50に動吸振器10が取り付けられない場合の振動ピークが発生する周波数が300Hz(つまり、共振周波数が300Hz)で、第1振動ピークが発生する周波数X1が約190Hzとなる場合を例にして説明した。
【0051】
しかしながら、動吸振器が取り付けられない場合のクランクシャフトの共振周波数に関係なく、振動リングにおける軸方向共振周波数を、第1振動ピークが発生する周波数の2/3以下に設定することで、効果的に騒音を抑制することができる。すなわち、
図3~
図6では、横軸が周波数[Hz]のグラフを示したが、横軸を振動数比(=加振周波数[Hz]÷クランクシャフトの共振周波数[Hz])とした場合でも、機械力学的に同様のグラフとなる。なお、
図3においては、横軸が振動数比の場合の数値も参考として示している。従って、例えば、動吸振器が取り付けられない場合のクランクシャフトの共振周波数が600Hzの場合には、第1振動ピークが発生する周波数は約380Hzとなるので、その2/3の約253Hz以下となるように、振動リングにおける軸方向共振周波数を設定すればよい。
【符号の説明】
【0052】
10,10A,10B:動吸振器
50:クランクシャフト
51:キー溝
60:キー
70:ボルト
100,100A:ハブ
110,110A:内筒部
111,111A:キー溝
120,120A:外向きフランジ部
130,130A:外筒部
200,200A:第1振動リング
200B:振動リング
210,210A:凹凸
300,300A:第1環状弾性体
400,400A:第2振動リング
500,500A:第2環状弾性体
500B:環状弾性体