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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068934
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】保持部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/28 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
F01N3/28 311P
F01N3/28 311N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179621
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大野 正雄
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AB01
3G091BA10
3G091BA39
3G091CA03
3G091GB02W
3G091GB03W
3G091GB06W
3G091GB07W
3G091GB16X
3G091GB17X
3G091HA27
3G091HA28
3G091HA29
(57)【要約】
【課題】 保持対象物を高温環境下で保持するために充分な圧縮復元特性を備え、かつ所定の形状を有する保持部材を製造することができる、保持部材の製造方法を提供する。
【解決手段】 無機繊維からなるシートの一部を切削加工する工程を含むことを特徴とする保持部材の製造方法。
【選択図】 図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維からなるシートの一部を切削加工する工程を含むことを特徴とする、保持部材の製造方法。
【請求項2】
前記切削加工がフライス加工又はエンドミル加工である請求項1に記載の保持部材の製造方法。
【請求項3】
前記保持部材がリング状のガスケットである請求項1又は2に記載の保持部材の製造方法。
【請求項4】
前記切削加工は、リングの内周に溝を形成する加工である請求項3に記載の保持部材の製造方法。
【請求項5】
前記無機繊維からなるシートは、無機繊維を含むスラリーを抄造法により成形し、加圧乾燥して製造された抄造マットである請求項1又は2に記載の保持部材の製造方法。
【請求項6】
前記無機繊維からなるシートは、ニードリング法により製造されたニードルマットである請求項1又は2に記載の保持部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気管内に配置する部材を保持するために、無機繊維製の保持部材が使用されることがある。自動車の排気管内は高温になるため、保持部材には形状保持性に加えて耐久性が要求される。
このような用途に使用される技術として、特許文献1には、無機繊維で構成された耐熱ガスケットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-60412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のガスケットは、無機繊維を含む水分散スラリーを調製し、これを抄造機により抄造して得られる。この抄造工程によりガスケットとしての所定の形状への成形がなされる。
しかしながら、特許文献1で製造されたガスケットは、圧縮復元特性が得られにくいものであり、自動車の排気管内等の高温環境下で使用される場合に、ガスケットから保持対象物が外れる可能性があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされた発明であり、保持対象物を高温環境下で保持するために充分な圧縮復元特性を備え、かつ所定の形状を有する保持部材を製造することができる、保持部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の保持部材の製造方法は、無機繊維からなるシートの一部を切削加工する工程を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の保持部材の製造方法では、無機繊維からなるシートの一部を切削加工することによって所定の形状を有する保持部材とする。
無機繊維からなるシートとして充分な圧縮復元特性を備えるシートを準備し、このシートを切削加工により所定の形状に成形することにより、保持対象物を高温環境下で保持するために充分な圧縮復元特性を備え、かつ所定の形状を有する保持部材を製造することができる。
また、切削加工されている個所にて、無機繊維の粗密が生じるため、ヒータープレート等の保持対象物が加熱された際の熱膨張に追従しやすく、保持対象物の変形を抑制する効果が見込まれる。
また、切削加工時に生じる無機繊維の破砕物は取り除いても良いが、無機繊維の破砕物の一部が加工面や加工面の内部の無機繊維表面に付着していると、保持対象物と無機繊維、及び無機繊維同士の摩擦抵抗を高め、より残存面圧を向上させることができる。
【0008】
本発明の保持部材の製造方法では、上記切削加工がフライス加工又はエンドミル加工であることが好ましい。
切削加工の方法がフライス加工又はエンドミル加工であると、保持部材の圧縮復元特性を低下させることなく、保持部材を所定の形状に成形することができる。
【0009】
本発明の保持部材の製造方法では、上記保持部材がリング状のガスケットであることが好ましい。
また、上記切削加工は、リングの内周に溝を形成する加工であることが好ましい。
【0010】
本発明の保持部材の製造方法は、切削加工により無機繊維からなるシートをリング状に加工することができるので、保持部材としてのリング状のガスケットを製造する方法として適している。
また、本発明の保持部材の製造方法では、切削加工によりリングの内周に溝を成形することもできるので、リングの内周に溝を有するリング状のガスケットを製造する方法としても適している。
【0011】
本発明の保持部材の製造方法では、上記無機繊維からなるシートは、無機繊維を含むスラリーを抄造法により成形し、加圧乾燥して製造された抄造マットであることが好ましい。
無機繊維からなるシートが、無機繊維を含むスラリーを抄造法により成形し、加圧乾燥して製造された抄造マットであると、抄造マットの残存面圧が高いので、残存面圧の高い保持部材を製造することができる。
【0012】
本発明の保持部材の製造方法では、上記無機繊維からなるシートは、ニードリング法により製造されたニードルマットであることが好ましい。
無機繊維からなるシートが、ニードリング法により製造されたニードルマットであると、ニードルマットの残存面圧が高いので、残存面圧の高い保持部材を製造することができる。
【0013】
ニードルマットにおいては、マット表面から反対面にニードリングにより無機繊維が絡み合ったニードル束が形成されるが、切削加工された加工面においてはニードル束が加工面から突出することになる。加工面からニードル束が突出することにより保持対象物と加工面の摩擦抵抗を高め、保持対象物がずれることを抑制する効果が得られる。
尚、ニードル束の突出長さは、ニードル針の形状を変更することにより、ニードル束の繊維密度を増減させ、調整することが可能である。
ニードル束の突出長さは0.01mmから0.5mmであることが好ましい。0.01mmより小さいと、ニードル束の突出により摩擦抵抗を高める効果が充分に得られず、0.5mmより大きいと加工面と保持対象物との間に隙間を生じることになり摩擦抵抗を高める効果が充分に得られない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ガスケットの一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、無機繊維からなるシート及び打ち抜き加工の位置を模式的に示す上面図である。
図3図3は、リング状のガスケットに溝を形成する切削加工の一例を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、ガスケットを排ガス浄化装置内で使用した例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0016】
[保持部材の製造方法]
本発明の保持部材の製造方法について説明する。
本発明の保持部材の製造方法は、無機繊維からなるシートの一部を切削加工する工程を含むことを特徴とする。
【0017】
[無機繊維からなるシート]
無機繊維からなるシートを構成する無機繊維としては、特に限定されないが、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、ムライト繊維、生体溶解性繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種から構成されていることが望ましい。
無機繊維が、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、及び、ムライト繊維の少なくとも1種である場合には、耐熱性に優れているので、保持部材が充分な高温に晒された場合であっても、変質等が発生することはなく、保持部材としての機能を充分に維持することができる。また、無機繊維が生体溶解性繊維である場合には、保持部材を用いて排ガス浄化装置を作製する際に、飛散した無機繊維を吸入等しても、生体内で溶解するため、作業員の健康に害を及ぼすことがない。
【0018】
アルミナ繊維には、アルミナ以外に、例えば、カルシア、マグネシア、ジルコニア等の添加剤が含まれていてもよい。
アルミナシリカ繊維の組成比としては、重量比でAl:SiO=60:40~80:20であることが好ましく、Al:SiO=70:30~74:26であることがより好ましい。
【0019】
無機繊維の平均繊維径及び平均繊維長は特に限定されないが、無機繊維からなるシートが後述する抄造マットから得られたものである場合は、平均繊維径が2.0~15.0μmであることが好ましく、平均繊維長が0.05~3.0mmであることが好ましい。
無機繊維からなるシートが後述するニードルマットから得られたものである場合は、平均繊維径が3.0~10.0μmであることが好ましく、平均繊維長が1.0~150mmであることが好ましい。
【0020】
無機繊維からなるシートは、残存面圧が120kPa以上であることが好ましい。
無機繊維からなるシートの残存面圧は、高温下での2500回の圧縮と開放を繰り返した後に残存する面圧値であり、その測定は以下のように行うことができる。
無機繊維からなるシートをGBD(繊維重量換算での嵩密度)=0.550g/cmで10分間圧縮した後、上下のプレートを95℃/分で950℃まで昇温し、GBD=0.529g/cm(開放側)からGBD=0.550g/cm(圧縮側)まで圧縮することを2500回繰り返して、2500回目のGBD=0.529g/cm(開放側)での面圧値を残存面圧とする。
【0021】
また、無機繊維からなるシートの嵩密度は0.050~0.300g/cmであることが好ましい。無機繊維からなるシートの嵩密度が0.050g/cm未満であると、無機繊維のからみ合いが弱く、無機繊維が剥離しやすいため、無機繊維からなるシートの形状を所定の形状に保ちにくくなる。一方、無機繊維からなるシートの嵩密度が0.300g/cmを超えると、無機繊維からなるシートが硬くなり、装着対象となる部材への装着性が低下し、無機繊維からなるシートの裂けが発生しやすくなる。
【0022】
無機繊維からなるシートは、無機繊維を含むスラリーを抄造法により成形し、加圧乾燥して製造された抄造マットであることが好ましい。
無機繊維からなるシートが、無機繊維を含むスラリーを抄造法により成形し、加圧乾燥して製造された抄造マットであると、抄造マットの残存面圧が高いので、残存面圧の高い保持部材を製造することができる。
【0023】
抄造マットは例えば以下の手順で製造することができる。
(1)抄造法による抄造マットの製造方法
(1-1)混合液調製工程
アクリル系樹脂等の有機バインダと、無機バインダを水に溶解させバインダ溶液を作製する。
次に、無機繊維と、バインダ溶液と水とを混合して攪拌機で撹拌することにより混合液を調製する。混合液には、必要に応じて、分散剤、凝集剤等を混合液に加えてもよい。
また、無機繊維をパルパーにより破砕して短繊維化することで、解繊された無機繊維を含む溶液を得てもよい。
【0024】
(1-2)脱水工程
次に、底面にろ過用のメッシュが形成された成形器に混合液を流し込んだ後に、混合液中の水を、メッシュを介して脱水することにより原料シートを作製する。
【0025】
(1-3)加圧乾燥工程
次に、原料シートを加圧乾燥し、抄造マットを作製する。
乾燥する際に、乾燥温度は100~250℃であることが好ましい。
また、原料シートの加圧はプレス機等を使用して行うことができる。
加圧の圧力は、得られる抄造マットの嵩密度が所定の値になるように定める。例えば、加圧乾燥後の抄造マットの嵩密度の狙いが0.161g/cmである場合、加圧時の嵩密度が0.214g/cmとなるように圧縮する。加圧を解放すると繊維の反発力に起因して原料マットが膨らむため、嵩密度が低下(厚さが増加)して、結果的に狙いの嵩密度(0.161g/cm程度)の抄造マットが得られる。
また、プレス機のプレス板を熱板として熱板の温度を高温(例えば100~250℃)にすることにより加圧と合わせて乾燥を行ってもよい。この場合は加圧時に系内を高温にする必要はなく、加熱プレスにより加圧乾燥工程を行うことができる。
【0026】
加圧乾燥工程を行うことにより、抄造マットの残存面圧を高くすることができる。
【0027】
以上の工程を経て抄造マットを製造することができる。
なお、上記方法では、混合液調製工程において、バインダ溶液を混合液に加えていたが、「(1-1)混合液調製工程」においてバインダ溶液を用いず、「(1-3)加圧乾燥工程」後の抄造マットに、バインダ溶液を付着させ、その後乾燥させることにより、抄造マットの無機繊維にアクリル系樹脂と結晶水を含む無機バインダとを付着させてもよい。
【0028】
また、無機繊維からなるシートは、ニードリング法により製造されたニードルマットであることが好ましい。
無機繊維からなるシートが、ニードリング法により製造されたニードルマットであると、ニードルマットの残存面圧が高いので、残存面圧の高い保持部材を製造することができる。
【0029】
ニードルマットは例えば以下の手順で製造することができる。
(2)ニードリング法によるニードルマットの製造方法
(2-1)無機繊維前駆体作製工程
アルミナ、シリカ等の無機繊維となる原料を含む紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して無機繊維前駆体を作製する。
【0030】
(2-2)焼成工程
続いて、上記無機繊維前駆体を圧縮して所定の大きさの連続したシート状物を作製し、これにニードルパンチング処理を施し、その後、焼成処理を施すことにより無機繊維からなる無機繊維集合体を準備する。
ニードルパンチングの密度は、0.1~30個/cmであることが好ましい。
【0031】
(2-3)バインダ付与工程
次に、アクリル系樹脂等の有機バインダと、無機バインダを水に溶解させバインダ溶液を作製する。バインダ溶液の調製は抄造マットの製造方法において説明した方法と同様にすることができる。
そして、無機繊維集合体にバインダ溶液を付着させ、その後乾燥させる。
以上の工程を経て、ニードルマットを製造することができる。
【0032】
本発明の保持部材の製造方法では、ここまでに説明した無機繊維からなるシートの一部を切削加工して、保持部材を製造する。
無機繊維からなるシートを切削加工して得られる保持部材の一例として、ガスケットについて説明する。
【0033】
[ガスケット]
図1は、ガスケットの一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すガスケット1は、無機繊維からなる。
ガスケット1の形状はリング状である。リングの形状は円環、楕円環、多角形の環等が挙げられるが、円環であることが好ましい。
ガスケットが円環である場合の外径(図1に両矢印R1で示す)は、75~230mmであることが好ましい。また、ガスケットが円環である場合の内径(図1に両矢印R2で示す)は70~90mmであることが好ましい。また、ガスケットが円環である場合の外径に対する内径の比(R2/R1)は0.4~0.9であることが好ましい。
【0034】
ガスケットの環の幅(図1に両矢印W1で示す)は、4~69mmであることが好ましい。
ガスケットの厚さ(図1に両矢印T1で示す)は、6~20mmであることが好ましい。
【0035】
ガスケットは、リングの内周に溝を有することが好ましい。
ガスケットがリングの内周に溝を有すると、溝にヒータープレート等の保持対象物を嵌め込んで保持することができるので、保持対象物がずれることが防止されて保持力が向上する。
【0036】
図1に示すガスケット1は、リングの内周に溝10を有している。
溝10の幅(図1に両矢印W2で示す)は、1~55mmであることが好ましい。また、ガスケットの環の幅に対する溝の幅の比(W2/W1)が0.2~0.8であることが好ましい。
溝10の深さ(図1に両矢印T2で示す)は、0.6~10.0mmであることが好ましい。また、ガスケットの環の厚さに対する溝の深さの比(T2/T1)が0.1~0.5であることが好ましい。
【0037】
溝10の形状は、リングの内周に沿った形状であり、円形の溝であることが好ましい。また、円の一部が溝となっていなくてもよく、円の一部の形状である溝であってもよい。
【0038】
ガスケットにおいては、溝が切削加工により形成されており、表面が切削加工された加工面と、表面が切削加工されていない非加工面とを有することが好ましい。
切削加工の方法としてはフライス加工、エンドミル加工等の機械工具による加工が挙げられる。切削加工はNC(Numerical Control)制御を行う加工装置により行われることが好ましい。
【0039】
図1に示すガスケット1は、表面が切削加工された加工面20と、表面が切削加工されていない非加工面30を有する。溝10の表面が加工面20であり、溝10以外の部分の表面が非加工面30である。
加工面には切削加工の工具が接触した跡が残っており、非加工面には切削加工の工具が接触した跡が残っていないので、加工面と非加工面は目視で区別できる。
ガスケットが表面が切削された加工面と表面が切削加工されていない非加工面とを有すると、加工面においては、表面の無機繊維が切削加工により破砕され不安定な状態になるが、加工面は保持対象物と接触するため、外気により無機繊維が風蝕される問題はなく、むしろ、破砕された微小無機繊維により加工面と保持対象物との摩擦抵抗が高まるため残存面圧を向上させることとなる。一方、非加工面では無機繊維が安定した状態が維持されるため、保持対象物と当接される必要はなく外気に曝させた状態でも表面状態を維持可能である。
【0040】
また、ガスケットには、リングの内周に沿った形状の溝以外の部分において切削加工された部分があってもよい。例えば、リングの内周に沿った形状の溝からリングの外周につながる溝を有していてもよい。このような形状の溝は、後述するヒーターリングをガスケットに嵌めこんだ際にヒーターリングに通電するための配線を通す部位として使用することができる。
【0041】
[ガスケットを製造するための切削加工]
続いて、無機繊維からなるシートを切削加工してガスケットを作製する。
図2は、無機繊維からなるシート及び打ち抜き加工の位置を模式的に示す上面図である。
図2には、無機繊維からなるシート40を示している。無機繊維からなるシート40から、リング状の打ち抜き刃を用いて、図2にリング状の線で示すような位置での打ち抜き加工を行い、リング状のガスケット50を得る。
リング状の打ち抜き刃としてはトムソン刃等を使用することができる。
【0042】
打ち抜き加工は機械加工ではあるが、切削加工ではない。打ち抜き加工によりリング状のガスケットを得て、切削加工を行わずにガスケットの製造工程を終了する場合は、当該ガスケットの製造方法は本発明の保持部材の製造方法には包含されない。
【0043】
このリング状のガスケット50に対して、リングの内周に切削加工により溝を形成することにより、本発明の保持部材の製造方法が実施されて、本発明の保持部材の製造方法で製造する対象の保持部材が得られる。
切削加工としてはフライス加工又はエンドミル加工等の機械工具による加工を用いることができる。
【0044】
図3は、リング状のガスケットに溝を形成する切削加工の一例を模式的に示す斜視図である。図3には、リング状のガスケット50の内周に切削加工具60を用いて切削加工を行う様子を示している。切削加工具60の回転を切削加工具60の周りの矢印で示しており、切削加工具60が移動する方向をガスケット50の内周に沿った向きの矢印で示している。
切削加工によりガスケット50に溝10が形成され、溝10がガスケット50の内周に沿って1周形成されたのちに、図1に示すガスケット1となる。
【0045】
溝を形成するための切削加工の条件の例としては、切削加工具としてエンドミルを使用する場合を例として、エンドミルの回転数1000~5000rpm、送り速度50~300mm/minとすることができる。
また、切削加工に用いる工具の材質は、炭素鋼、合金工具鋼、調質鋼、アルミニウム合金等を使用することができる。
上記の工程により、本発明の保持部材の製造方法により、保持部材としてのガスケットを製造することができる。
【0046】
なお、無機繊維からなるシート40に対してリング状の打ち抜き刃を用いるのではなく、フライス加工やエンドミル加工といった切削加工によって、無機繊維からなるシートを加工してリング状のガスケットを得てもよい。このようにしてリング状のガスケットを得た場合は、リング状のガスケットに対して溝を形成する加工を行っていなくても、無機繊維からなるシートに対して切削加工が行われているので、当該ガスケットの製造方法は本発明の保持部材の製造方法には包含される。
【0047】
[保持部材としてのガスケットの使用例]
本発明の保持部材の製造方法により製造されたガスケットは、排ガス浄化装置内において、ヒータープレートの保持に使用することができる。
以下に図面を参照してガスケットの使用例について説明する。
図4は、ガスケットを排ガス浄化装置内で使用した例を模式的に示す断面図である。
図4に示す排ガス浄化装置100は、排ガス処理体120を備えており、排ガス処理体120に保持シール材130が巻き付けられてケーシング140に収容されている。
排ガス浄化装置100には、内燃機関から排出された排ガス(図4中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)が流入する。
【0048】
排ガス処理体120に対して排ガスの流れる方向の上流側には、ヒータープレート110が設けられており、ヒータープレート110が2つのガスケット1に挟まれて保持されることによりケーシング140に収容されている。
すなわち、ガスケット1は排ガス浄化装置100内においてヒータープレート110を保持するために用いられている。
また、ガスケット1に隣接して、断面L字型の溶接部材150が設けられており、溶接部材150はケーシング140と溶接されて、ガスケット1を挟む位置で固定されている。
【0049】
ヒータープレート110の形状は円盤形状であり、ガスケット1が有する溝10にヒータープレート110が嵌めこまれている。溝10にヒータープレート110が嵌めこまれることにより、ヒータープレート110がずれることが防止され、排ガス浄化装置100内にヒータープレート110が良好に保持される。
【0050】
ヒータープレート110は、通電加熱により発熱する発熱体であり、その内部を排ガスが通過できるようになっている。発熱したヒータープレートの内部を排ガスが通ることにより排ガスの温度が高くなり、下流に位置する排ガス処理体120に高温の排ガスが流入する。排ガス処理体120には排ガス浄化用の触媒が担持されており、排ガス処理体120の温度が高くなることにより触媒の活性が向上するので、排ガス処理体120の温度を高くすることが好ましい。以上のことから、排ガス処理体120の温度を高くするためにヒータープレート110が排ガス浄化装置100内に設けられる。
【0051】
排ガス処理体120は、一方の端面に開口したセルから排ガスが流入し、セル内に担持された触媒により排ガスが浄化されて他方の端面から流出するようになっている。
排ガス処理体は、炭化珪素や窒化珪素などの非酸化物多孔質セラミックからなっていてもよく、アルミナ、コージェライト、ムライト等の酸化物多孔質セラミックからなっていてもよい。
【0052】
排ガス処理体120に担持させる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属が好ましく、この中では、白金がより好ましい。また、その他の触媒として、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属を用いることもできる。これらの触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
これら触媒が担持されていると、PMを燃焼除去しやすくなり、有毒な排ガスの浄化も可能になる。
【0053】
ケーシング140の形状は、略円筒形である。その材質は、特に限定されないが、ステンレス鋼からなることが好ましい。
【0054】
[ガスケット以外の保持部材]
本発明の保持部材の製造方法により製造される保持部材は、上述したガスケットに限定されない。ガスケット以外の保持部材としては、排ガス処理体を保持するための保持シール材が挙げられる。排ガス処理体を保持するための保持シール材としては図4において排ガス処理体120を保持するための保持シール材130として図示されるものが挙げられる。保持シール材130は円柱状の排ガス処理体120の周囲に巻きつけられてケーシング140内に収容される。
本発明の保持部材の製造方法で製造する対象の保持シール材130は無機繊維からなるシートからフライス加工やエンドミル加工といった切削加工によって所定形状に切り出すことにより得ることができる。また、無機繊維からなるシートを打ち抜き加工により打ち抜いて所定形状のマット材としたのちに、当該マット材の表面に溝を形成する等の切削加工を行うことにより、本発明の保持部材の製造方法で製造する対象の保持シール材を得ることもできる。
【0055】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0056】
本開示(1)は、無機繊維からなるシートの一部を切削加工する工程を含むことを特徴とする、保持部材の製造方法である。
【0057】
本開示(2)は、前記切削加工がフライス加工又はエンドミル加工である本開示(1)に記載の保持部材の製造方法である。
【0058】
本開示(3)は、前記保持部材がリング状のガスケットである本開示(1)又は(2)に記載の保持部材の製造方法である。
【0059】
本開示(4)は、前記切削加工は、リングの内周に溝を形成する加工である本開示(3)に記載の保持部材の製造方法である。
【0060】
本開示(5)は、前記無機繊維からなるシートは、無機繊維を含むスラリーを抄造法により成形し、加圧乾燥して製造された抄造マットである本開示(1)~(4)のいずれかに記載の保持部材の製造方法である。
【0061】
本開示(6)は、前記無機繊維からなるシートは、ニードリング法により製造されたニードルマットである本開示(1)~(4)のいずれかに記載の保持部材の製造方法である。
【符号の説明】
【0062】
1 ガスケット
10 溝
20 加工面
30 非加工面
40 無機繊維からなるシート
50 リング状のガスケット
60 切削加工具
100 排ガス浄化装置
110 ヒータープレート
120 排ガス処理体
130 保持シール材
140 ケーシング
150 溶接部材
G 排ガス

図1
図2
図3
図4