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特開2024-68936ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法
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  • 特開-ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法 図1
  • 特開-ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法 図2
  • 特開-ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法 図3A
  • 特開-ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法 図3B
  • 特開-ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法 図3C
  • 特開-ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法 図4
  • 特開-ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法 図5A
  • 特開-ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法 図5B
  • 特開-ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068936
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 66/02 20060101AFI20240514BHJP
   H02K 7/102 20060101ALI20240514BHJP
   B29C 45/03 20060101ALI20240514BHJP
   B29C 45/84 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
F16D66/02 F
H02K7/102
B29C45/03
B29C45/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179624
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 健吾
【テーマコード(参考)】
3J058
4F206
5H607
【Fターム(参考)】
3J058AA47
3J058AA57
3J058AA78
3J058AA79
3J058AA88
3J058BA60
3J058BA61
3J058CC07
3J058CC72
3J058CC77
3J058DB02
3J058DB06
3J058DB20
3J058DB29
3J058FA32
3J058FA42
4F206AP04
4F206AP08
4F206AR04
4F206AR09
4F206JA07
4F206JC08
4F206JL02
4F206JM02
4F206JM06
4F206JN32
4F206JN35
4F206JP05
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP15
4F206JQ83
4F206JQ88
4F206JQ90
4F206JT12
5H607BB01
5H607BB14
5H607BB25
5H607CC03
5H607CC07
5H607DD15
5H607EE07
(57)【要約】
【課題】ブレーキ装置の摩耗をコストが抑えられた方法で検知する。
【解決手段】回転軸33と、回転軸33を駆動する駆動装置16と、回転軸33に沿って移動可能で、且つ回転軸33とともに回転可能なブレーキパッド43と、ブレーキパッド43と対向して、回転軸33に沿って移動可能に設けられ、磁性体を含む制動板44と、制動板44にブレーキパッド43から離れる方向の磁力を及ぼす電磁石46と、電磁石46の非通電時に制動板44をブレーキパッド43に圧着可能な押し付け力を発生する弾性体45と、を有するブレーキ装置40のブレーキパッド43の摩耗検知装置23は制御部19と判定器20とを備える。制御部19は駆動装置16を起動させ、電磁石46に通電し、判定器20は特定の期間における駆動装置16の駆動トルクT1に基づき、ブレーキパッド43の摩耗を判定する。
【選択図】図5B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸を駆動する駆動装置と、
前記回転軸に沿って移動可能で、且つ前記回転軸とともに回転可能なプレーキパッドと、
前記ブレーキパッドと対向して、前記回転軸に沿って移動可能に設けられ、磁性体を含む制動板と、
前記制動板に前記ブレーキパッドから離れる方向の磁力を及ぼす電磁石と、
前記電磁石の非通電時に前記制動板を前記ブレーキパッドに圧着可能な押し付け力を発生する弾性体と、
を有するブレーキ装置の前記ブレーキパッドの摩耗検知装置であって、
制御部と判定器とを備え、
前記制御部は、前記駆動装置を起動させ、前記電磁石に通電し、
前記判定器は、特定の期間における前記駆動装置の駆動トルクT1に基づき、前記ブレーキパッドの摩耗を判定する、摩耗検知装置。
【請求項2】
前記判定器は、前記駆動トルクT1>駆動トルクTsであるときに前記ブレーキパッドの摩耗量が閾値Msを上回ったと判定する(ただし、Tsは前記ブレーキパッドの摩耗量が前記閾値Msのときの駆動トルク)、請求項1に記載の摩耗検知装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記駆動装置を起動させるのと同時に、前記電磁石に通電する、請求項1または2に記載の摩耗検知装置。
【請求項4】
前記制御部と前記判定器は前記ブレーキ装置の通常モードとは別の摩耗判定モードで作動する、請求項1または2に記載の摩耗検知装置。
【請求項5】
前記駆動トルクは、増加区間と、前記増加区間に続く減少区間と、前記減少区間に続く再増加区間と、前記再増加区間に続く定常区間と、を有し、前記特定の期間は、前記減少区間と前記再増加区間の、前記定常区間より前記駆動トルクの低い区間に設定される、請求項1または2に記載の摩耗検知装置。
【請求項6】
前記特定の期間は、前記減少区間と前記再増加区間との間の極小点の近傍に設定される、請求項5に記載の摩耗検知装置。
【請求項7】
前記駆動装置はモータである、請求項1または2に記載の摩耗検知装置。
【請求項8】
前記特定の期間の前後で前記モータの回転数を監視する監視装置を有し、
前記判定器は、前記回転数が単調増加しているか否かを前記ブレーキパッドの摩耗判定に用いる、請求項7に記載の摩耗検知装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の摩耗検知装置と、前記ブレーキ装置と、を有する射出成形機。
【請求項10】
前記ブレーキ装置は射出成形機の可動盤のブレーキ装置である、請求項9に記載の射出成形機。
【請求項11】
前記特定の期間の前後で前記可動盤の移動速度を監視する監視装置を有し、
前記判定器は、前記移動速度が単調増加しているか否かを前記ブレーキパッドの摩耗判定に用いる、請求項10に記載の射出成形機。
【請求項12】
前記射出成形機は竪型である、請求項9に記載の射出成形機。
【請求項13】
回転軸と、
前記回転軸を駆動する駆動装置と、
前記回転軸に沿って移動可能で、且つ前記回転軸とともに回転可能なプレーキパッドと、
前記ブレーキパッドと対向して、前記回転軸に沿って移動可能に設けられ、磁性体を含む制動板と、
前記制動板に前記ブレーキパッドから離れる方向の磁力を及ぼす電磁石と、
前記電磁石の非通電時に前記制動板を前記ブレーキパッドに圧着可能な押し付け力を発生する弾性体と、
を有するブレーキ装置の前記ブレーキパッドの、以下の工程を有する摩耗検知方法:
(a)前記駆動装置を起動すること
(b)前記電磁石に通電すること
(c)特定の期間における前記駆動装置の駆動トルクT1に基づき、前記ブレーキパッドの摩耗を判定すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブレーキ装置の摩耗検知装置とこれを用いた射出成形機、及び摩耗検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転体の回転を制動するためのブレーキ装置は様々な分野に使用されている。特許文献1には、射出成形機の型開閉用モータに用いられるブレーキ装置が開示されている。ブレーキ装置は、回転するブレーキパッドに鉄製の制動板を押しつけることによって作動する。ブレーキを解除する際は制動板と対向配置されたコイルに通電し、制動板を電磁力によってブレーキパッドから引き離す。ブレーキパッドの摩耗はコイルのインダクタンスを検出することで検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6775904号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたブレーキ装置の摩耗を検知する方法では、コイルのインダクタンスを検出するための回路が必要である。本開示はコストがより抑えられたブレーキ装置の摩耗検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、ブレーキ装置は、駆動装置によって駆動される回転軸と、回転軸とともに回転可能なブレーキパッドと、ブレーキパッドの制動板にブレーキパッドから離れる方向の磁力を及ぼす電磁石と、を有する。摩耗検知装置は制御部と判定器とを備える。制御部は、回転軸の駆動装置を起動させ、電磁石に通電し、判定器は特定の期間における駆動装置の駆動トルクに基づき、ブレーキパッドの摩耗を判定する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、コストがより抑えられたブレーキ装置の摩耗検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】竪型射出成形機の概略構成図である。
図2】型開閉用モータの概略構成図である。
図3A】無励磁時のブレーキ装置の作動を示す図2の部分拡大図である。
図3B】励磁時のブレーキ装置の作動を示す図2の部分拡大図である。
図3C】無励磁時のブレーキ装置(ブレーキパッドの摩耗進展時)の作動を示す図2の部分拡大図である。
図4】本実施形態のブレーキ装置の摩耗検知方法の概略工程を示すフロー図である。
図5A】可動盤の速度指令と実速度及び開閉用モータの回転数の時間変化を示す概念図である。
図5B】開閉用モータの駆動トルクの時間変化を示す概念図である。
図6】コイルの通電量と型開閉用モータの駆動トルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(竪型射出成形機1の概略構成)
まず、本発明のブレーキ装置の摩耗検知方法が適用される設備の一例として、竪型射出成形機について説明する。図1は例示的な竪型射出成形機1の概略構成を示している。竪型射出成形機1は、固定型2が設けられた固定盤3と、可動型4が設けられた上可動盤5Aと、下可動盤5Bと、を有している。上可動盤5Aと下可動盤5Bをまとめて可動盤5という場合がある。上可動盤5Aの上方に射出装置7が設けられている。固定盤3は竪型射出成形機1の筐体8に固定されている。複数のタイバー9が固定盤3をスライド可能に鉛直方向に貫通している。上可動盤5Aは複数のタイバー9の上端部の近傍に固定され、下可動盤5Bは複数のタイバー9の下端部の近傍に固定されている。従って、可動盤5は、固定盤3に対して鉛直方向に一体で上下動する。
【0009】
上可動盤5Aと下可動盤5Bの間にトグル機構10が設けられている。トグル機構10はボールネジ機構11によって駆動される。ボールネジ機構11のボールナット12がトグル機構10のクロスヘッド13に固定され、ボールネジ14がこのボールナット12に噛み合っている。ボールネジ14は下可動盤5Bを貫通し、その下端部が下可動盤5Bの下面側に設けられている大プーリ15に固着されている。大プーリ15を回転するとボールネジ14が回転する。下可動盤5Bの側方に型開閉用モータ16が設けられ、型開閉用モータ16の出力軸に駆動プーリ17が設けられている。駆動プーリ17と大プーリ15の間にタイミングベルト18が巻き掛けられている。
【0010】
型開閉用モータ16を駆動すると、駆動プーリ17、タイミングベルト18を介して大プーリ15とボールネジ14が回転する。ボールネジ14の回転によってボールナット12とクロスヘッド13が上下する。このようにしてトグル機構10が駆動され、可動盤5が鉛直方向に移動し、型が開閉される。
【0011】
(型開閉用モータ16の概略構成)
図2に型開閉用モータ16の概略構成を示す。型開閉用モータ16はロータ31と、コイルからなるステータ32と、ロータ31に連結された回転軸33と、有している。回転軸33の軸方向Xは鉛直方向に一致しており、図2の上方向が鉛直方向上方向、下方向が鉛直方向下方向である。
【0012】
ロータ31とステータ32は筐体34に収容されている。ロータ31とステータ32との間にはギャップが設けられている。仕切部材35が筐体34に固定され、回転軸33は軸受36,37を介し、筐体34と仕切部材35に回転可能に支持されている。回転軸33の下端に、型開閉用モータ16の内部を冷却するためのファン38が設けられている。型開閉用モータ16は可動盤5の駆動装置の例であり、モータ以外の駆動装置(例えば油圧装置)を用いることもできる。
【0013】
(ブレーキ装置40の概略構成)
型開閉用モータ16の内部に、竪型射出成形機1の可動盤5の鉛直方向の動きを規制するブレーキ装置40が設けられている。すなわち、型開閉用モータ16はいわゆるブレーキ付きモータである。ブレーキ装置40は、型開閉用モータ16の回転を規制し、可動盤5の落下を防止する。ブレーキ装置40は、固定板41と、スペーサ42と、ブレーキパッド43と、制動板44と、複数のバネ45(図2には一つのバネ46だけが示されている)と、コイル46と、を有している。
【0014】
固定板41はスペーサ42に固定された円盤状の部材である。スペーサ42は仕切部材35に固定された円筒状の部材である。従って、固定板41は仕切部材35から離間して、仕切部材35に対して固定されている。
【0015】
回転軸33にボス47が固定されている。ボス47の外周部にスプライン48が形成され、ブレーキパッド43はスプライン48に装着されている。従って、ブレーキパッド43は回転軸33に沿って移動可能で、且つ回転軸33とともに回転可能である。ブレーキパッド43は、支持部材43Aと、支持部材43Aの両面に固定された摺動部43B,43Cと、を有している。支持部材43Aを省略して全体を摺動部とすることも可能である。以下の説明では、摺動部43B,43Cをブレーキパッド43と称する場合がある。
【0016】
制動板44は、回転軸33の軸方向Xに関し、仕切部材35とブレーキパッド43との間に設けられている。制動板44は鉄製の円盤であり、ブレーキパッド43と対向して、回転軸33に沿って移動可能に設けられている。後述するように、制動板44はバネ45の弾性力とコイル46の電磁力で鉛直方向に支持されている。制動板44の半径方向の移動は適宜の方法で規制され、制動板44は回転軸33と同心の位置関係を保ちながら上下移動する。制動板44は鉄製に限定されず、磁性体を含む任意の材料で形成することができる。
【0017】
複数のバネ45は仕切部材35に周方向に均等な間隔で埋め込まれている。バネ45はコイルバネであるが、板バネなど他の形式のバネでもよく、より一般的には弾性反発力を生じる任意の弾性体であればよい。バネ45はブレーキパッド43に鉛直方向下方への押し付け力を加える。
【0018】
コイル46は仕切部材35に埋め込まれている。コイル46は直流電流が供給されることによって磁界を発生する。コイル46は電磁石の一例であり、他の構成の電磁石を用いることもできる。コイル46は制動板44に、ブレーキパッド43から離れる方向(鉛直方向上方向)の磁力を及ぼす。コイル46は円環形状を有し、その中心は制動板44の中心とほぼ一致している。
【0019】
(ブレーキ装置40の作動方法)
図3A,3Bはブレーキ装置40の作動を示す、図2の部分拡大図である。ブレーキ装置40は無励磁作動ブレーキと呼ばれるもので、コイル46への非通電時(無励磁時)にブレーキが作動し、コイル46への通電時(励磁時)にブレーキが解除される。図3Aはコイル46の無励磁時、図3Bはコイル46の励磁時のブレーキ装置40を示している。
【0020】
図3Aを参照すると、コイル46は非通電(無励磁)であるので、コイル46の電磁力は発生していない。バネ45はコイル46の非通電時に制動板44をブレーキパッド43に圧着可能な押し付け力を発生する。従って、ブレーキパッド43はバネ45によって固定板41に押し付けられる。ブレーキパッド43はバネ45の押し付け力によって固定板41と制動板44の両者から押され、摩擦により回転が規制される。すなわちブレーキがかかって型開閉用モータ16は回転できない。
【0021】
図3Bを参照すると、コイル46は通電(励磁)されることで電磁力を発生する。コイル46の発生する電磁力により制動板44がコイル46に引き付けられ、ブレーキパッド43は固定板41及び制動板44と非接触状態になる。ブレーキパッド43は固定板41にわずかな隙間を介して対向する。ブレーキが解除され型開閉用モータ16は回転することができる。
【0022】
(摩耗検知方法の原理)
図3Cに示すように、ブレーキパッド43は長期間の使用により摩耗してその厚さが減少する。図3Cに示すブレーキパッド43の厚さt2は図3Aに示すブレーキパッド43の厚さt1より小さくなっている。ブレーキパッド43の厚さが減少してもバネ45は制動板44をブレーキパッド43に圧着可能な押し付け力を発生するので、ブレーキ性能に大きな影響はないが、交換の時期が近づいている。
【0023】
一方、ブレーキパッド43の厚さが減少すると、ブレーキが掛かっている状態で(つまり、制動板44がブレーキパッド43を押しつけている状態で)制動板44とコイル46との距離が増加する。このため、制動板44の位置でのコイル46から印加される磁場の強度が減少する。制動板44を引き付ける力が低下し、制動板44がブレーキパッド43から離れるまでの時間が伸びるため、ブレーキ解除動作のレスポンスが悪化する。本実施形態ではこの原理を用いてブレーキ装置40の摩耗を検知する。
【0024】
(摩耗検知方法の工程1)
図4を参照し、本実施形態のブレーキ装置40の摩耗検知方法の工程を説明する。なお、以下の摩耗検知方法の工程の説明では、図2についても適宜参照する。ここでは閉じている型を開く際の工程を説明するが、開いている型を閉じる際の工程も同様に行うことができる。工程の開始時点でブレーキ装置40は図3Aの状態にある。すなわち、型開閉用モータ16は停止しており、コイル46は非通電状態(ブレーキがかかっている状態)にある。
【0025】
以下の工程は、型開閉用モータ16の駆動とコイル46の通電を制御する制御部19と、ブレーキパッド43の摩耗を判定する判定器20とによって行われる。以下の工程では、可動盤5の型開閉用モータ16(駆動装置)の駆動トルクの測定装置21と、型開閉用モータ16の回転数を監視する監視装置22も使用される。制御部19と判定器20と測定装置21と監視装置22は摩耗検知装置23を構成する。制御部19と判定器20の機能は、予めプロブラムされた手順に従いコンピュータによって自動で実行される。測定装置21と監視装置22は制御部19及び判定器20と接続され、測定装置21と監視装置22の出力は測定装置21と監視装置22に送信される。測定装置21と監視装置22の作動は制御部19で制御される。以下の工程はオペレータが手動で実行してもよい。
【0026】
図5Aは、新品と摩耗品のブレーキパッド43を用いたときの、可動盤5の速度指令と実際の速度の時間変化を示している。同図には、型開閉用モータ16の回転数の時間変化も示している。図5Bは、型開閉用モータ16の駆動トルクの時間変化を示している。図5A図5Bの横軸(時間軸)は同じである。
【0027】
まず、制御部19は駆動装置である型開閉用モータ16に速度指令を送る(ステップS1)。速度指令は、ブレーキが開放状態のときの可動盤5の速度変化を規定したもので、本例では、一定の増加率で増加した後一定速度となっている。ただし、速度指令のプロファイルは何ら限定されるものではない。型開閉用モータ16はこの速度指令によって起動、制御される。速度指令は新品と摩耗品のブレーキパッド43で共通である。
【0028】
(摩耗検知方法の工程2)
型開閉用モータ16を起動するのと同時にコイル46に通電する(ステップS2)。この工程は制御部19によって行われる。ブレーキパッド43は制動板44と固定板41に押し付けられており、制動板44及び固定板41との間の生じる摩擦力によって回転を規制されている。型開閉用モータ16はブレーキパッド43を回転させるための駆動トルクを掛け続ける。駆動トルクは速度指令に応じて、図5Bに示すように増加していく。図5A図5BのA点に達すると、駆動トルクが摩擦力に打ち勝ち、ブレーキパッド43は回転を始める(制動板44に対して滑り始める)。従って、コイル46に通電してからブレーキパッド43が回転を始めるまで(あるいは、可動盤5が移動を始まるまで)には多少のタイムラグがある。
【0029】
このタイムラグは型開閉用モータ16の駆動トルクと摩擦力との関係で決まる。摩擦力はバネ45の弾性力に比例する。図3A,3Cに示すように、バネ45の伸縮量は、新品のブレーキパッド43と摩耗品のブレーキパッド43とで異なるが、弾性力はバネ45の伸縮量に依存せずほぼ一定である。従って、タイムラグは新品のブレーキパッド43と摩耗品のブレーキパッド43とで大きな差はない(図5AのA点)。同様の理由から、ブレーキパッド43が回転を始めるときの型開閉用モータ16の摩擦トルクも、新品と摩耗品のブレーキパッド43で大きな差はない(図5BのC点)。
【0030】
一旦ブレーキパッド43が回転を始めると、摩擦力が静摩擦力から動摩擦力に変わるため、駆動トルクは減少を始める。その後、ブレーキパッド43が制動板44から完全に離れると摩擦力が失われるため、駆動トルクはさらに減少する。新品のブレーキパッド43では、制動板44とコイル46との間隔が小さいため、制動板44に掛かる電磁力が大きい。このため制動板44は速やかにコイル46に引き付けられ、ブレーキパッド43は回転開始後、短時間で制動板44から完全に離れる。これによって駆動トルクが急激に減少するため、図5Bに示すように、B点で一旦極小値まで下がり、その後上昇して定常レベルに移行する。
【0031】
つまり、図5Bに示すように、型開閉用モータ16の駆動トルクは、増加区間K1と、増加区間K1に続く減少区間K2と、減少区間K2に続く再増加区間K3と、再増加区間K3に続く定常区間K4と、を有する。
【0032】
これに対し、摩耗品のブレーキパッド43では、制動板44とコイル46との間隔が大きいため、制動板44に掛かる電磁力が小さい。このため制動板44は緩やかにコイル46に引き付けられ、ブレーキパッド43が制動板44から完全に離れるまでの時間も、新品のブレーキパッド43と比べて長くなる。新品のブレーキパッド43で見られたような駆動トルクの落ち込み(極小点)ないし再増加区間K3は生じない。つまり、駆動トルクは緩やかに減少する。
【0033】
従って、新品のブレーキパッド43と摩耗品のブレーキパッド43では、B点の付近で駆動トルクに大きな差が生じる。B点の付近での駆動トルクを測定することで、ブレーキパッド43の摩耗の程度を評価することができる。型開閉用モータ16の駆動トルクの測定は、制御部19の制御によって測定装置21で行われる。
【0034】
(摩耗検知方法の工程3)
そこで、判定器20は、
T1:摩耗判定対象のブレーキパッド43の特定の期間における駆動トルク
Ms:ブレーキパッド43の摩耗量の閾値(許容値)
Ts:閾値Msのときの駆動トルク
としたときに、駆動トルクT1>駆動トルクTsであるときにブレーキパッド43の摩耗量が閾値Msを上回ったと判定する(ステップS3)。ここで、閾値Msはブレーキパッド43の交換を必要とする目安であり、ブレーキパッド43の種類毎に予め設定される。閾値Msと駆動トルクTsとの関係は予め測定される。
【0035】
駆動トルクT1>駆動トルクTsである場合は、判定器20はアラームを発信し(ステップS4)、オペレータにブレーキパッド43の点検または交換を促す。駆動トルクT1≦駆動トルクTsである場合は、判定器20はブレーキパッド43の摩耗量が閾値Ms以下である旨のメッセージを発信する。
【0036】
特定の期間は、原理的には、新品のブレーキパッド43と摩耗品のブレーキパッド43の駆動トルクの差が最大となる期間とすればよいが、摩耗品のブレーキパッド43の駆動トルクT1は予め予想することができない。このため、現実的には、新品のブレーキパッド43の駆動トルクが極小となるB点の付近、または、極小点の近傍であって定常区間K4より駆動トルクが低くなる範囲を特定の期間とすることが好ましい。具体的には、特定の期間は、減少区間K2と再増加区間K3の、定常区間K4より駆動トルクの低い区間D、より好ましくは減少区間K2と再増加区間K3との間の極小点(B点)の近傍に設定される。
【0037】
(その他の摩耗検知方法)
図5Aを参照すると、可動盤5の速度指令が一定速度になる前の期間において、可動盤5の実際の移動速度は新品のブレーキパッド43では一旦増加した後減少し、その後定常状態に至っている。これに対し摩耗品のブレーキパッド43では、可動盤5の速度指令が一定速度になる前の期間において、可動盤5の実際の移動速度は単調増加している。これは図5Bに示す型開閉用モータ16の駆動トルクの時間変化と同一の理由に基づくものと考えられる。従って、可動盤5の速度指令が一定速度になる前の期間において、可動盤5の実際の移動速度が単調増加しているか否かを、ブレーキパッド43の摩耗の判定に用いることができる。
【0038】
具体的には、速度センサ24(図1参照)が、特定の期間の前後で可動盤5の実際の移動速度を監視する。速度センサ24は摩耗検知装置23の一部を構成する。判定器20は可動盤5の実際の移動速度が単調増加していれば、ステップS3で、ブレーキパッド43が許容値を超えて摩耗している可能性が高いと判定することができる。アラームは、駆動トルクT1>駆動トルクTs(条件1)と可動盤5の実際の移動速度が単調増加すること(条件2)が同時に満たされたときに発信してもよいし、いずれかが満たされたときに発信してもよい。この判定には可動盤5の速度センサ24が必要であるため、この判定方法の採用は任意であるが、採用することでブレーキパッド43の摩耗判定の精度を高めることができる。
【0039】
同様に、図5Aを参照すると、型開閉用モータ16の回転数も可動盤5の実際の移動速度とほぼ同様の傾向を示している。従って、可動盤5の型開閉用モータ16の回転数が単調増加しているか否かを、ブレーキパッド43の摩耗の判定に用いることができる。具体的には、可動盤5の速度指令が一定速度になる前の期間において、特定の期間の前後で型開閉用モータ16の回転数を監視する。判定器20は、型開閉用モータ16の回転数が単調増加していれば、ステップS3で、ブレーキパッド43が許容値を超えて摩耗している可能性が高いと判定することができる。型開閉用モータ16の回転数の監視は、制御部19の制御によって監視装置22で行われる。
【0040】
(摩耗検知方法の動作モード)
上述の工程はブレーキ装置40の通常モード、すなわち竪型射出成形機1の通常運転とは別の摩耗判定モードで行われることが好ましい。換言すれば、制御部19と判定器20は、ブレーキ装置40の通常モードとは別の摩耗判定モードでのみ作動することが好ましい。これによってブレーキパッド43の無用な摩耗を避けることができる。上述の工程をブレーキ装置40の通常モードで行う場合は、過度な頻度とならないよう、間隔をあけて行うことが好ましい。
【0041】
上述の実施形態では、型開閉用モータ16を起動するタイミングと電磁石に通電するタイミングは一致しているが、異なっていてもよい。例えば、型開閉用モータ16を起動した後に電磁石に通電する場合、ブレーキパッド43が制動板44から完全に離れるまでの時間が遅れる。従ってこの場合は、摩耗品のブレーキパッド43と同様の傾向となるが、図5Bに示すのと同様の関係が得られれば摩耗検知は可能である。逆に、型開閉用モータ16を起動する前に電磁石に通電する場合、ブレーキパッド43が制動板44から完全に離れるまでの時間が早まる。この場合も、図5Bに示すのと同様の関係が得られれば摩耗検知は可能である。
【0042】
(摩耗検知方法の検証例)
摩耗量が同じブレーキパッド43を用い、コイル46の通電量を変えて同じタイミング(B点)での型開閉用モータ16の駆動トルクを測定した。図6にコイル46の通電量と型開閉用モータ16の駆動トルクとの関係を示す。上述のように、ブレーキパッド43が摩耗すると制動板44に印加される磁界の強度が低下する。従って、大きな電流は摩耗量が小さい状態を、小さな電流は摩耗量が大きい状態を模擬している。コイル46の通電量、すなわちブレーキパッド43の摩耗量に応じて型開閉用モータ16の駆動トルクが変化することが確認された。閾値Tsは竪型射出成形機1の性能要求に応じて適宜決定される。図示した閾値Tsは一例であり、これに限定されないことは勿論である。
【0043】
(竪型射出成形機以外の機械への適用)
以上、竪型射出成形機1の場合について、ブレーキ装置40の摩耗検知方法及び摩耗検知装置の実施形態を説明したが、本発明は竪型射出成形機1に限定されない。本発明は横型の射出成形機のブレーキ装置の摩耗検知にも適用できる。ただし、竪型射出成形機1ではコイル46の非通電(無励磁)時に可動盤5をバネ45の押し付け力で保持しているため、バネ45の弾性力が大きく、ブレーキパッド43に掛かる摩擦力も大きい。このため、ブレーキパッド43の摩耗が進行しやすく、本発明を竪型射出成形機1に適用する効果は大きい。また、本発明は射出成形機以外の機械のブレーキ装置にも適用可能である。
【0044】
(付記)本明細書は以下の開示を含む。
[構成1]
回転軸と、
前記回転軸を駆動する駆動装置と、
前記回転軸に沿って移動可能で、且つ前記回転軸とともに回転可能なプレーキパッドと、
前記ブレーキパッドと対向して、前記回転軸に沿って移動可能に設けられ、磁性体を含む制動板と、
前記制動板に前記ブレーキパッドから離れる方向の磁力を及ぼす電磁石と、
前記電磁石の非通電時に前記制動板を前記ブレーキパッドに圧着可能な押し付け力を発生する弾性体と、
を有するブレーキ装置の前記ブレーキパッドの摩耗検知装置であって、
制御部と判定器とを備え、
前記制御部は、前記駆動装置を起動させ、前記電磁石に通電し、
前記判定器は、特定の期間における前記駆動装置の駆動トルクT1に基づき、前記ブレーキパッドの摩耗を判定する、摩耗検知装置。
[構成2]
前記判定器は、前記駆動トルクT1>駆動トルクTsであるときに前記ブレーキパッドの摩耗量が閾値Msを上回ったと判定する(ただし、Tsは前記ブレーキパッドの摩耗量が前記閾値Msのときの駆動トルク)、構成1に記載の摩耗検知装置。
[構成3]
前記制御部は、前記駆動装置を起動させるのと同時に、前記電磁石に通電する、構成1または2に記載の摩耗検知装置。
[構成4]
前記制御部と前記判定器は前記ブレーキ装置の通常モードとは別の摩耗判定モードで作動する、構成1から3のいずれか1項に記載の摩耗検知装置。
[構成5]
前記駆動トルクは、増加区間と、前記増加区間に続く減少区間と、前記減少区間に続く再増加区間と、前記再増加区間に続く定常区間と、を有し、前記特定の期間は、前記減少区間と前記再増加区間の、前記定常区間より前記駆動トルクの低い区間に設定される、構成1から4のいずれか1項に記載の摩耗検知装置。
[構成6]
前記特定の期間は、前記減少区間と前記再増加区間との間の極小点の近傍に設定される、構成5に記載の摩耗検知装置。
[構成7]
前記駆動装置はモータである、構成1から6のいずれか1項に記載の摩耗検知装置。
[構成8]
前記特定の期間の前後で前記モータの回転数を監視する監視装置を有し、
前記判定器は、前記回転数が単調増加しているか否かを前記ブレーキパッドの摩耗判定に用いる、構成7に記載の摩耗検知装置。
[構成9]
構成1から8のいずれか1項に記載の摩耗検知装置と、前記ブレーキ装置と、を有する射出成形機。
[構成10]
前記ブレーキ装置は射出成形機の可動盤のブレーキ装置である、構成9に記載の射出成形機。
[構成11]
前記特定の期間の前後で前記可動盤の移動速度を監視する監視装置を有し、
前記判定器は、前記移動速度が単調増加しているか否かを前記ブレーキパッドの摩耗判定に用いる、構成10に記載の射出成形機。
[構成12]
前記射出成形機は竪型である、構成9から11のいずれか1項に記載の射出成形機。
[方法1]
回転軸と、
前記回転軸を駆動する駆動装置と、
前記回転軸に沿って移動可能で、且つ前記回転軸とともに回転可能なプレーキパッドと、
前記ブレーキパッドと対向して、前記回転軸に沿って移動可能に設けられ、磁性体を含む制動板と、
前記制動板に前記ブレーキパッドから離れる方向の磁力を及ぼす電磁石と、
前記電磁石の非通電時に前記制動板を前記ブレーキパッドに圧着可能な押し付け力を発生する弾性体と、
を有するブレーキ装置の前記ブレーキパッドの、以下の工程を有する摩耗検知方法:
(a)前記駆動装置を起動すること
(b)前記電磁石に通電すること
(c)特定の期間における前記駆動装置の駆動トルクT1に基づき、前記ブレーキパッドの摩耗を判定すること。
【符号の説明】
【0045】
1 竪型射出成形機
5 可動盤
16 型開閉用モータ(駆動装置の一例)
19 制御部
20 判定器
23 摩耗検知装置
33 回転軸
40 ブレーキ装置
43 ブレーキパッド
44 制動板
45 バネ(弾性体の一例)
46 コイル(電磁石の一例)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6