(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068948
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 15/10 20060101AFI20240514BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240514BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20240514BHJP
B25J 5/00 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
B25J15/10
C12M1/00 Z
C12M1/26
B25J5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179647
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 千智
(72)【発明者】
【氏名】林 剣之介
(72)【発明者】
【氏名】鍋藤 実里
(72)【発明者】
【氏名】柴田 義也
(72)【発明者】
【氏名】沖 賢太朗
(72)【発明者】
【氏名】阿部 将佳
(72)【発明者】
【氏名】杉原 知道
【テーマコード(参考)】
3C707
4B029
【Fターム(参考)】
3C707AS09
3C707BS12
3C707BS26
3C707CS08
3C707DS01
3C707ES03
3C707ES04
3C707HS27
3C707JS02
3C707JU02
3C707KS01
3C707KS13
3C707KT01
3C707KT03
3C707KT05
3C707KT06
3C707LV02
3C707WA16
4B029AA09
4B029BB01
4B029CC01
4B029CC02
4B029DG06
4B029GA02
4B029GB04
4B029HA09
(57)【要約】
【課題】1種類のハンドで行うことができる作業の種類をより多くする。
【解決手段】ロボットシステム100は、ワークベンチ上で物体に対する操作を行うマニピュレータを備えたワークベンチロボット20と、ワークベンチロボット20の動作を制御するコントローラ30とを含み、マニピュレータは、多関節のアームと、アームの先端に位置し、関節を有する複数の指を備えたハンドとを含み、ハンドは、第1指を含む指の第1グループと、第2指及び第3指を含む指の第2グループとが互いに対向して間に物体を把持する構造であり、コントローラ30は、ハンドに、アスピレータを把持させて液体を吸引、電動ピペッターを把持させて液体を吸引及び吐出、電動マイクロピペットを把持させて液体を吸引及び吐出、並びに、薬さじを把持させて粉体をすくい移す処理のうちの少なくとも2種類の処理をワークベンチロボット20に実行させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークベンチ上で物体に対する操作を行うマニピュレータを備えたワークベンチロボットと、前記ワークベンチロボットの動作を制御するコントローラとを含むロボットシステムであって、
前記マニピュレータは、多関節のアームと、前記アームの先端に位置し、関節を有する複数の指を備えたハンドとを含み、
前記ハンドは、第1指を含む指の第1グループと、第2指及び第3指を含む指の第2グループとが互いに対向して間に物体を把持する構造であり、
前記コントローラは、
前記ハンドにアスピレータを把持させて液体を吸引させる処理、
前記ハンドに電動ピペッターを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理、
前記ハンドに電動マイクロピペットを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理、並びに、
前記ハンドに薬さじを把持させて粉体をすくい移す処理
のうちの少なくとも2種類の処理を前記ワークベンチロボットに実行させる、
ロボットシステム。
【請求項2】
前記コントローラは、少なくとも、
前記ハンドにアスピレータを把持させて液体を吸引させる処理、
前記ハンドに電動ピペッターを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理、並びに、
前記ハンドに電動マイクロピペットを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理を前記ワークベンチロボットに実行させる、
請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記ハンドにアスピレータを把持させ液体を吸引させる処理を前記ワークベンチロボットに実行させる場合、前記アスピレータの先端の近傍を前記第1グループと前記第2グループとの間に、前記第2指及び第3指の両方が前記アスピレータに接触するように把持させる請求項1又は請求項2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記ハンドは、前記第1指、前記第2指及び前記第3指のそれぞれの基部が接続するハンド本体を備え、
前記電動ピペッターは、メスピペットの装着部と把持部とを備え、前記把持部には、押されることによって前記メスピペットへの液体の吸引動作の実行が指示される吸引ボタン及び押されることによって前記メスピペットからの液体の吐出動作の実行が指示される吐出ボタンを備え、
前記コントローラは、前記ハンドに電動ピペッターを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理を前記ワークベンチロボットに実行させる場合、前記電動ピペッターの前記把持部を前記第1指及び前記ハンド本体に挟んで把持させ、前記液体を吸引させる処理を実行させる場合には、前記第2指及び前記第3指の一方に前記吸引ボタンを押させ、前記液体を吐出させる処理を実行させる場合には、前記第2指及び前記第3指の他方に前記吐出ボタンを押させる、
請求項1又は請求項2に記載のロボットシステム。
【請求項5】
前記コントローラは、前記ハンドに電動マイクロピペットを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理を前記ワークベンチロボットに実行させる場合、前記電動マイクロピペットを前記第1グループと前記第2グループとの間に、前記第2指及び第3指の両方が前記電動マイクロピペットに接触するように把持させる請求項1又は請求項2に記載のロボットシステム。
【請求項6】
前記コントローラは、前記ハンドに薬さじを把持させて粉体をすくい移す処理を前記ワークベンチロボットに実行させる場合、前記薬さじの柄部を前記第1グループと前記第2グループとの間に、前記第2指及び第3指の両方が前記薬さじの柄部に接触するように把持させる請求項1に記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞等の生体試料を扱う実験の自動化を行うに際して、従来は研究員が使用していたのと同種の道具をロボットに扱わせる試みが種々行われている。
【0003】
例えば、電動ピペットをロボットに扱わせる技術(特許文献1)や、各種の容器をロボットに扱わせる技術(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許公報第6735475号
【特許文献2】特許公報第5776772号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のロボットのハンドは、特許文献1の
図2に示されるように、爪部と称する棒状の2本の指で構成されており、特許文献1の
図3に示されるピペット装置を2つの爪部で把持する。また、特許文献1に記載のロボットは、特許文献1の
図18のメスピペット用のピペット装置も扱うかのように説明されている。
【0006】
しかし、特許文献1に開示されているハンドでメスピペット用のピペット装置を把持しながら吸引ボタン及び吐出ボタンを押す操作ができないことは明らかであるので、メスピペット用のピペット装置を扱うというのは単に願望が述べられているにすぎない。
【0007】
また、特許文献2に記載のロボットのハンドは、ビットと称する板状の2本の指で構成されている。取り扱うことを想定する数種類の容器の具体的形状に適合するように、ビットにはいくつかの窪みや板面から垂直に突出するピン(把持部材73)が設けられている。このように、操作対象が単純な形状の指では扱えない場合には、指の形状を操作対象に合わせて特殊化することが行われていた。
【0008】
しかし、操作対象に応じてハンドを特殊化していたのでは、操作対象が変わる度にハンドの交換が必要になる。例えば、特定の容器の把持に特殊化された特許文献2に記載のハンドがピペット装置の把持に適していないことは明らかである。ロボットが細胞等の生体試料を扱う実験を研究員と同様の手順で行おうとすれば、1つのワークベンチ上で複数種類の道具を順次使いながら一連の作業を行うことが求められるところ、途中でハンドの交換を要することは実験の自動化の妨げとなる。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、細胞等の生体試料を扱う実験の分野で使用される、複数の種類の道具を扱うことを要するワークベンチ上の一連の作業を行うロボットシステムにおいて、1種類のハンドで行うことができる作業の種類をより多くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るロボットシステムは、ワークベンチ上で物体に対する操作を行うマニピュレータを備えたワークベンチロボットと、前記ワークベンチロボットの動作を制御するコントローラとを含むロボットシステムであって、前記マニピュレータは、多関節のアームと、前記アームの先端に位置し、関節を有する複数の指を備えたハンドとを含み、前記ハンドは、第1指を含む指の第1グループと、第2指及び第3指を含む指の第2グループとが互いに対向して間に物体を把持する構造であり、前記コントローラは、前記ハンドにアスピレータを把持させて液体を吸引させる処理、前記ハンドに電動ピペッターを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理、前記ハンドに電動マイクロピペットを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理、並びに、前記ハンドに薬さじを把持させて粉体をすくい移す処理のうちの少なくとも2種類の処理を前記ワークベンチロボットに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るロボットシステムによれば、細胞等の生体試料を扱う実験の分野で使用される、複数の種類の道具を扱うことを要するワークベンチ上の一連の作業を行うロボットシステムにおいて、1種類のハンドで行うことができる作業の種類をより多くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係るロボットシステムが稼働する実験環境の一例を示す概略平面図である。
【
図2】本実施形態に係るロボットシステムの概略構成を示すブロック図である。
【
図3】モバイルマニピュレータの外観斜視図である。
【
図5】統括コントローラのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図6】制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】継代処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】第1容器内の培地の除去を説明するための図である。
【
図9】第1容器内への細胞分散酵素液の添加を説明するための図である。
【
図10】第1容器内の混合物の、遠心分離用容器への移し替えを説明するための図である。
【
図11】遠心分離用容器内の細胞の一部の、試料ホルダへの載置を説明するための図である。
【
図12】第2容器への細胞の播種を説明するための図である。
【
図15】薬さじの把持方法の他の例を説明するための図である。
【
図16】コントローラの構成の他の例を説明するための図である。
【
図17】コントローラの構成の他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一又は等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法及び比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
研究員が利用する実験環境の典型例としては、継代作業の多くの部分を行うワークベンチが設置されると共に、細胞観察装置、細胞計測装置、遠心分離機等が、ワークベンチから離れた場所に設置されている環境が挙げられる。研究員が継代作業を行う場合、研究員は、継代作業をワークベンチで行う一方、継代作業の途中で必要に応じて、ワークベンチと細胞観察装置、細胞計測装置、又は遠心分離機との間を、試料容器を持って歩いて移動して、それらの装置を使用する。
【0015】
本実施形態に係るロボットシステムは、上記の、研究員が利用する実験環境の典型例と同様の環境において稼働する。
図1は、本実施形態に係るロボットシステムが稼働する実験環境の一例を示す概略平面図である。
図1の例では、上述した細胞観察装置、細胞計測装置、遠心分離機、ワークベンチに加え、薬品棚、インキュベータ、冷蔵庫、消耗品棚、充電ステーション、流し、椅子等の実験設備が実験環境に含まれている。なお、
図1における顕微鏡は、上述した細胞観察装置及び細胞計測装置の一例である。
【0016】
図2に示すように、本実施形態に係るロボットシステム100は、モバイルマニピュレータ10と、ワークベンチロボット20と、統括コントローラ30とを含む。なお、
図2の例では、モバイルマニピュレータ10が2台、ワークベンチロボット20が2台の例を示しているが、これに限定されない。モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20は、それぞれ1台でもよいし、3台以上であってもよい。
【0017】
モバイルマニピュレータ10は、ローカルコントローラ21と、床上を移動するための移動機構と、物体を把持するための把持機構とを備える。
図3に、モバイルマニピュレータ10の外観斜視図を示す。
図3に示すように、モバイルマニピュレータ10は、台車12と、ロボットアーム13とを備える。
【0018】
台車12は、移動機構の一例であり、ローカルコントローラ11による制御で駆動される2つの駆動輪12Aを有する。さらに、台車12は、
図3で手前側の底面に方向の自在に変わるキャスターを有する。2つの駆動輪12Aは互いに独立に駆動されるため、台車12は、研究員と同様に床上を自由に移動することができる。駆動機構は、2つの独立駆動輪に限らず、床上を移動することができる任意の機構であってよく、旋回を含む移動の態様についての制約が少ない機構であることが好ましい。ロボットアーム13は、把持機構の一例であり、台車12上に搭載されている。ロボットアーム13は、アーム13Aと、アーム13Aの先端に取り付けられたハンド13Bとを有する。アーム13Aは、3次元空間において、ハンド13Bの位置及び姿勢を、例えば6自由度で変位させるための構成を備えた垂直多関節型のアームとしてよい。ハンド13Bは、容器等を把持可能な、例えば2指のロボットハンドである。なお、
図3では、モバイルマニピュレータ10は、1つのロボットアーム13を備える例を示しているが、ロボットアーム13を2本備えた双腕としてもよい。
【0019】
モバイルマニピュレータ10は、アーム13Aのハンド13Bに近い箇所に図示しないビジョンセンサを有する。ビジョンセンサは、モバイルマニピュレータ10周辺の物体、及びハンド13Bで把持する容器等の把持対象物を認識するためのセンサである。ビジョンセンサは、カメラ及び画像処理装置を含んで構成され、カメラにより撮影した画像を画像処理装置で画像処理することにより、周辺の物体及び把持対象物を認識する。これによりモバイルマニピュレータ10の自律的な移動が可能となる。なお、周辺の物体及び把持対象物を認識するためのセンサはビジョンセンサに限定されず、周辺の各点の3次元位置を計測可能なレーザレーダ等を用いてもよい。また、周辺の物体を認識するためのセンサは、台車12に搭載されてもよい。
【0020】
ローカルコントローラ11は、統括コントローラ30の指示を実現できるように、モバイルマニピュレータ10の各モータの動作を制御する。具体的には、ローカルコントローラ11は、ビジョンセンサ14から出力される認識結果、統括コントローラ30からの指示等に基づいて、モバイルマニピュレータ10の動作を制御する。より具体的には、ローカルコントローラ11は、ハンド13Bで容器等の把持対象物を把持し、把持した把持対象物をワークベンチ等の所定位置へ搬送するように、モバイルマニピュレータ10の動作を制御する。
【0021】
ワークベンチロボット20は、ワークベンチに対して固定されており、ローカルコントローラ21と、ワークベンチ上の物体を把持するための把持機構とを備える。ワークベンチロボット20による把持対象物は、容器の他に、容器内の細胞等の吸引、及び容器内への細胞等の吐出を行うためのアスピレータ、電動ピペッター、電動マイクロピペット等を含む。
図4に、ワークベンチロボット20の外観斜視図を示す。
図4に示すように、ワークベンチロボット20は、2本のロボットアーム22と、ビジョンセンサ23とを備える。
【0022】
ロボットアーム22は、把持機構の一例であり、アーム22Aと、アーム22Aの先端に取り付けられたハンド22Bとを有する。アーム22Aは、3次元空間において、ハンド22Bの位置及び姿勢を、例えば6自由度で変位させるための構成を備えた垂直多関節型のアームとしてよい。ハンド22Bは、容器等を把持可能な、例えば、各指が関節を有する3指のロボットハンドである。
【0023】
図4の下部に、ハンド22Bを拡大した概略図を示す。この概略図では、ハンド22Bの各指の関節の図示を省略すると共に、各指の形状及び配置を簡略化して図示している。ハンド22Bは、第1指22B1を含む指の第1グループと、第2指22B2及び第3指22B3を含む指の第2グループと、第1指22B1、第2指22B2及び第3指22B3のそれぞれの基部が接続するハンド本体22B0を備える。ハンド22Bにおいて、第1グループと第2グループとは互いに対向して間に物体を把持できる構造である。人の指との対応としては、第1指22B1は親指、第2指22B2は人差し指、第3指22B3は中指の働きをする。なお、ハンド22Bは、4指以上のロボットハンドでもよい。すなわち、第1グループは第1指22B1以外の指を含んでもよく、第2グループは第2指22B2及び第3指22B3以外の指を含んでもよい。また、ハンド22Bの各指は、途中に2つの関節を有することが好ましい。これにより、物体の外形を包むような安定した把持が可能となり、また、実験器具のボタンを押す等の細かな操作も容易になる。
【0024】
以下では、2本のロボットアーム22のハンド22Bについて、左手と右手とを区別して説明する場合には、左手をハンド22BL、右手をハンド22BRと表記する。ハンド22Bの指についても同様に、左手のハンド22BLの指を第1指22B1L、第2指22B2L、第3指22B3L、右手のハンド22BRの指を第1指22B1R、第2指22B2R、第3指22B3Rと表記する。ハンド本体22B0についても同様に、左手のハンド本体22B0L、右手のハンド本体22B0Rと表記する。
【0025】
ビジョンセンサ23は、パンチルト台に搭載されており、ワークベンチ上に配置された容器等の把持対象物を認識するためのセンサである。
【0026】
ローカルコントローラ21は、統括コントローラ30の指示を実現できるように、ワークベンチロボット20の各モータの動作を制御する。具体的には、ローカルコントローラ21は、ビジョンセンサ23から出力される認識結果、統括コントローラ30からの指示等に基づいて、ワークベンチロボット20の動作を制御する。より具体的には、ローカルコントローラ21は、2本のロボットアーム22が協調して細胞の継代処理を実行するように、ワークベンチロボット20の動作を制御する。例えば、ローカルコントローラ21は、一方のロボットアーム22のハンド22Bで容器を把持し、他方のロボットアーム22のハンド22Bでピペットを把持して、容器内の液体を吸引する等の処理を実行するように、ワークベンチロボット20の動作を制御する。
【0027】
なお、
図4では、ワークベンチロボット20が直接ワークベンチに固定されている例を示しているが、ワークベンチロボット20は、ワークベンチとの相対位置関係が固定されていればよく、例えば、床、壁、天井等に固定されていてもよい。
【0028】
統括コントローラ30は、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11、及びワークベンチロボット20のローカルコントローラ21と連携して、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20の各々の動作を制御する。具体的には、統括コントローラ30は、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20に、ワークベンチと他の実験設備との間における、細胞を収めた容器の搬送及び設置を含む細胞の継代処理を実行させる。
【0029】
モバイルマニピュレータ10による把持動作、実験設備に対する操作は、ローカルコントローラ11が、予めティーチングされた動作計画を、ビジョンセンサから出力される認識結果に基づいてモバイルマニピュレータ10に実行させることにより実現される。ワークベンチロボット20による把持動作、実験設備に対する操作についても同様である。
【0030】
また、モバイルマニピュレータ10の移動は、ローカルコントローラ11が、予め保持する実験環境のレイアウト図に基づいて、統括コントローラ30から指示された実験設備の位置へモバイルマニピュレータ10を移動させることにより実現される。なお、ローカルコントローラ11は、ビジョンセンサ14から出力される認識結果に基づいて、障害物を回避しながら目的の位置へ移動するように、モバイルマニピュレータ10を移動させる。
【0031】
図5は、統括コントローラ30のハードウェア構成を示すブロック図である。
図5に示すように、統括コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)31、メモリ32、記憶装置33、入力装置34、出力装置35、記憶媒体読取装置36、及び通信I/F(Interface)37を有する。各構成は、バス38を介して相互に通信可能に接続されている。
【0032】
記憶装置33には、後述する制御処理を実行するためのプログラムが格納されている。CPU31は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各構成を制御したりする。すなわち、CPU31は、記憶装置33からプログラムを読み出し、メモリ32を作業領域としてプログラムを実行する。CPU31は、記憶装置33に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
【0033】
メモリ32は、RAM(Random Access Memory)により構成され、作業領域として一時的にプログラム及びデータを記憶する。記憶装置33は、ROM(Read Only Memory)、及びHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0034】
入力装置34は、例えば、キーボードやマウス等の、各種の入力を行うための装置である。出力装置35は、例えば、ディスプレイやプリンタ等の、各種の情報を出力するための装置である。出力装置35として、タッチパネルディスプレイを採用することにより、入力装置34として機能させてもよい。
【0035】
記憶媒体読取装置36は、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、ブルーレイディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の各種記憶媒体に記憶されたデータの読み込みや、記憶媒体に対するデータの書き込み等を行う。通信I/F37は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。なお、他の機器には、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21、細胞観察装置、細胞計測装置、遠心分離機等が含まれる。本実施形態では、これらの他の機器についても通信機能を備えるものとする。
【0036】
なお、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11、及びワークベンチロボット20のローカルコントローラ21のハードウェア構成は、概ね統括コントローラ30のハードウェア構成と同様であるため、説明を省略する。
【0037】
次に、本実施形態に係るロボットシステム100の作用について説明する。
【0038】
図6は、統括コントローラ30のCPU31により実行される制御処理の流れを示すフローチャートである。以下では、接着培養の例について説明する。
【0039】
ステップS10で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10に、継代処理の準備処理として、培養中の細胞を収めた第1容器を、第1インキュベータから取り出させ、ワークベンチの上まで搬送させる。第1容器は、例えば、角型フラスコ等である。
【0040】
具体的には、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に準備処理を指示する。準備処理の指示を受けたローカルコントローラ11の制御により、モバイルマニピュレータ10が、第1インキュベータの位置まで移動し、第1インキュベータの扉を開け、ハンド13Bで第1容器を把持する。そして、モバイルマニピュレータ10が、第1容器を把持した状態でワークベンチまで移動し、ワークベンチ上に第1容器を配置する。
【0041】
次に、ステップS20で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20に、継代処理を実行させる。ここで、
図7を参照して、継代処理について説明する。
【0042】
ステップS21で、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、第1容器からの培地の除去を指示する。指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、
図8に示すように、ハンド22BLで第1容器を把持し、ハンド22BRでアスピレータを把持し、アスピレータを操作して、第1容器内の培地を吸引除去するように、ワークベンチロボット20を制御する。より具体的には、ローカルコントローラ21は、ハンド22BLの第1指22B1Lと、第2指22B2L及び第3指22B3Lとが互いに対向して間に第1容器を把持するように、ワークベンチロボット20を制御する。
【0043】
また、ローカルコントローラ21は、ハンド22BRの第1指22B1R(第1グループ)と、第2指22B2R及び第3指22B3R(第2グループ)とが互いに対向して間にアスピレータを把持するように、ワークベンチロボット20を制御する。この際、ローカルコントローラ21は、アスピレータの先端の近傍を第1グループと第2グループとの間に、第2指22B2R及び第3指22B3Rの両方がアスピレータに接触するように把持させる。これにより、2本の指だけで把持する場合よりも、アスピレータを安定して把持することができる。2本の指だけで把持する場合には、アスピレータの先端や根本側に外力が加わった場合に、把持された部分を支点としてアスピレータがすべり回転を起こし易い。上記のように、本実施形態では、3本の指で把持することにより、アスピレータに外力が加わった場合でもアスピレータの把持姿勢を維持し易くなる。
【0044】
また、ローカルコントローラ21は、さらに、ハンド本体22B0もアスピレータに接触するようにしてアスピレータを把持させてもよい。これにより、アスピレータの把持姿勢がより安定する。
【0045】
なお、アスピレータは、先端まで柔軟なチューブとなっているものでもよく、柔軟なチューブの先に例えばメスピペットのような硬質のパイプ部が設けられたものでもよい。硬質のパイプ部が設けられている場合は、硬質のパイプ部の全体が「アスピレータの先端の近傍」に該当する。
【0046】
以下の各ステップにおける、ハンド22Bの各指による各種容器の把持方法については、本ステップの把持方法と概ね同様であるため、説明を省略する。
【0047】
次に、ステップS22で、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、第1容器への細胞分散酵素液の添加を指示する。細胞分散酵素液は、細胞分散試薬の一例であり、例えば、トリプシンである。指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、
図9に示すように、ハンド22BRで電動ピペッターを把持し、電動ピペッターを操作して、第1容器内に細胞分散酵素液を添加するように、ワークベンチロボット20を制御する。
【0048】
また、電動ピペッターは、メスピペットの装着部と把持部とを備え、把持部は、吸引ボタン及び吐出ボタンを備える。吸引ボタンは、押されることによってメスピペットへの液体の吸引動作の実行が指示されるボタンであり、吐出ボタンは、押されることによってメスピペットからの液体の吐出動作の実行が指示されるボタンである。したがって、上記電動ピペッターの操作として、ローカルコントローラ21は、電動ピペッターの把持部を第1指22B1R及びハンド本体22B0Rに挟んで把持させる。なお、第2指22B2R及び第3指22B3Rの先端付近以外の部分も用いて電動ピペッターの把持部を把持するようにしてもよい。そして、ローカルコントローラ21は、第2指22B2R及び第3指22B3Rのいずれか(
図9の例では、第3指22B3R)に吐出ボタンを押させる。これにより、2指ハンドでは扱うことが不可能な電動ピペッターを操作することができる。
【0049】
次に、ステップS23で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に、第1容器を細胞観察装置まで搬送させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ11は、ワークベンチ上の、細胞分散酵素液が添加された第1容器を、例えば、コンピュータ制御により観察対象物の拡大画像取得及び画像分析を行う光学顕微鏡等の細胞観察装置へ搬送し、細胞観察装置の所定位置に配置するように、モバイルマニピュレータ10を制御する。細胞観察装置としては、第1容器の透明な壁面を通して細胞を観察することができるだけの対物距離の長い装置が用いられる。
【0050】
次に、ステップS24で、統括コントローラ30が、細胞観察装置による観察結果に基づいて、継代処理が続行可能か否かを判定する。例えば、統括コントローラ30は、細胞観察装置から、観察結果として第1容器内の細胞の画像又は画像分析結果を取得し、細胞が容器壁から十分に剥離して浮遊状態となっている場合に、継代処理を続行可能であると判定する。なお、細胞観察装置による細胞の剥離度合いの観察は、細胞観察装置又は統括コントローラ30における画像処理を用いて自動で行われてもよいし、人手を介入させて行われてもよい。継代処理が続行可能な場合には、ステップS25へ移行し、続行不可の場合には、ステップS33へ移行する。なお、ステップS33へ移行する代わりに、数分間待ってから再度細胞観察装置による観察を試みてもよい。時間の経過と共に細胞の容器壁からの剥離が進行することが期待できる場合があるからである。
【0051】
ステップS25では、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に、第1容器をワークベンチの上まで搬送させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ11は、細胞観察装置から第1容器を取り出して把持し、ワークベンチまで搬送して、ワークベンチ上に配置させるように、モバイルマニピュレータ10を制御する。以上説明したステップS23からステップS25までは、細胞観察装置で確認するまでもなく、細胞の容器壁からの剥離が十分にできていると推定できる場合には省略してもよい。例えば、同種の細胞を同様の条件で培養し、同様の条件で細胞の容器壁からの剥離に成功してきた実績がある場合である。
【0052】
次に、ステップS26で、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、第1容器に酵素反応停止液及び新しい培地の少なくとも一方である添加物を添加させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、
図9に示すように、ハンド22BLに第1容器を把持させ、ハンド22BRに電動ピペッターを把持させ、第1容器内に添加物を添加するように、ワークベンチロボット20を制御する。以下では、細胞と添加物との混合物が収められた第1容器、又はその第1容器の内容物が移された第3容器を遠心分離用容器という。
【0053】
なお、細胞と添加物との混合物を第3容器に移す場合、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、その旨を指示する。指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、
図10の上図に示すように、電動ピペッターを操作して、混合物を第1容器から吸引するように、ワークベンチロボット20を制御する。具体的には、ローカルコントローラ21は、電動ピペッターの把持部を第1指22B1R及びハンド本体22B0Rに挟んで把持させる。そして、ローカルコントローラ21は、第2指22B2R及び第3指22B3Rのいずれか(
図10上図の例では、第2指22B2R)に吸引ボタンを押させる。これにより、2指ハンドでは扱うことが不可能な電動ピペッターを操作することができる。
【0054】
そして、ローカルコントローラ21は、
図10の下図に示すように、ハンド22BLで、例えば、コニカルチューブ等の遠心分離用容器に持ち替えるように、ワークベンチロボット20を制御する。さらに、ローカルコントローラ21は、電動ピペッターを操作して、吸引した混合物を遠心分離用容器に移し替えるように、ワークベンチロボット20を制御する。ここでの電動ピペッターの操作は、
図9の例と同様である。
【0055】
なお、第1容器をそのまま遠心分離用容器とする場合は、第1容器は角型フラスコではなく、当初よりコニカルチューブを使用する。
【0056】
次に、ステップS27で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に、遠心分離用容器を遠心分離機まで搬送させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ11は、ワークベンチ上の遠心分離用容器を遠心分離機へ搬送し、遠心分離機の所定位置(例えば、回転部)に設置するように、モバイルマニピュレータ10を制御する。その際、遠心分離機の仕様上必要であれば、ローカルコントローラ11は、遠心分離用容器が設置されるべき部材を遠心分離機内から取り出してから当該部材に遠心分離用容器を設置し、その後当該部材を遠心分離機内に戻すように、モバイルマニピュレータ10を制御する。さらに、ローカルコントローラ11は、遠心分離機のスタートボタンを押下させ、遠心分離機の運転を開始させるように、モバイルマニピュレータ10を制御してもよい。なお、遠心分離機の運転開始操作は、統括コントローラ30が遠心分離機に制御信号を送信して行ってもよい。
【0057】
次に、ステップS28で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に、遠心分離用容器をワークベンチの上まで搬送させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ11は、遠心分離機から遠心分離用容器を回収して把持し、ワークベンチまで搬送して、ワークベンチ上に配置させるように、モバイルマニピュレータ10を制御する。
【0058】
次に、ステップS29で、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、遠心分離用容器から細胞の一部を抽出し、試料ホルダに載置するよう指示する。試料ホルダは、細胞計測装置の仕様に合わせたものが用いられる。例えば、細胞計測装置が光学顕微鏡の場合には、試料ホルダはスライドガラスである。スライドガラスには試料を入れるくぼみがあってもよい。細胞計測装置の仕様によっては、試料ホルダとして何らかの容器が用いられる場合もある。
【0059】
指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、
図11の上図に示すように、電動マイクロピペットを操作して、遠心分離用容器から細胞の一部を吸引するように、ワークベンチロボット20を制御する。この際、ローカルコントローラ21は、電動マイクロピペットを第1グループ(第1指22B1R)と第2グループ(第2指22B2R及び第3指22B3R)との間に、第2指22B2R及び第3指22B3Rの両方が電動マイクロピペットに接触するように把持させる。これにより、2本の指だけで把持する場合より、電動マイクロピペットを安定して把持することができる。2本の指だけで把持する場合には、電動マイクロピペットの先端や根本側(例えばケーブル)に外力が加わった場合に、把持された部分を支点として電動マイクロピペットがすべり回転を起こし易い。上記のように、本実施形態では、3本の指で把持することにより、電動マイクロピペットに外力が加わった場合でも電動マイクロピペットの把持姿勢を維持し易い。
【0060】
また、ローカルコントローラ21は、ハンド本体22B0も電動マイクロピペットに接触するようにして電動マイクロピペットを把持させてもよい。これにより、電動マイクロピペットの把持姿勢がより安定する。
【0061】
ローカルコントローラ21は、
図11の下図に示すように、電動マイクロピペットを操作して、吸引した細胞を、例えば、細胞カウント用プレート等の試料ホルダのくぼみに吐出するように、ワークベンチロボット20を制御する。
【0062】
なお、電動マイクロピペットは、少量の細胞を吸引及び吐出可能な機器である。電動マイクロピペットの吸引及び吐出のオン及びオフの制御は、USBケーブル等を介した有線電子制御とし、ワークベンチロボット20のハンド22Bによるオン及びオフの操作は行わないようにしてもよい。統括コントローラ30は、細胞計測の前に、計測対象の細胞を染色する処理をワークベンチロボット20に実行させてもよい。
【0063】
次に、ステップS30で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に、試料ホルダを、細胞の数又は濃度を計測する細胞計測装置まで搬送させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ11は、ワークベンチ上の試料ホルダを、例えばコンピュータ制御により観察対象物の拡大画像取得及び画像分析を行う光学顕微鏡等の細胞計測装置へ搬送し、細胞計測装置の設置部に設置するように、モバイルマニピュレータ10を制御する。なお、ここでの「設置部」は、試料ホルダがそこに設置されれば、その後は細胞計測装置による計測が可能となる設置部位を指す。設置部に設置された試料ホルダが細胞計測装置の機能により計測場所まで移動させられてもよく、設置部に設置されたまま計測可能である必要はない。
【0064】
次に、ステップS31で、統括コントローラ30が、細胞計測装置による計測結果に基づいて、継代処理が続行可能か否かを判定する。例えば、統括コントローラ30は、細胞計測装置から、計測結果として、試料ホルダ内の細胞の数又は濃度を取得し、細胞の数又は濃度が予め定めた閾値以上の場合に、継代処理を続行可能であると判定する。なお、細胞計測装置による細胞の数又は濃度の計測は、画像処理を用いて自動で行われてもよいし、人手を介入させて行われてもよい。継代処理が続行可能な場合には、ステップS32へ移行し、続行不可の場合には、ステップS33へ移行する。
【0065】
ステップS32では、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、1又は複数の第2容器への細胞の播種を指示する。なお、第2容器は、第1容器と同様のものでもよい。第2容器は、容器数1のまま容器のサイズを大きくする場合と、容器の数を増やす場合とがある。複数のウェル(くぼみ)が設けられた容器については、それぞれのウェルを第2容器とみなす。
【0066】
指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、
図12の上図に示すように、電動マイクロピペットを操作して、遠心分離用容器から、第2容器に播種する量の細胞(培地も含む)を吸引するように、ワークベンチロボット20を制御する。そして、ローカルコントローラ21は、
図12の下図に示すように、電動マイクロピペットを操作して、吸引した細胞を、例えば、角型フラスコ等の第2容器に吐出するように、ワークベンチロボット20を制御する。ローカルコントローラ21は、この制御を、第2容器の数だけ繰り返す。また、必要に応じて、電動ピペッターを用いて、第2容器に培地を補充するようにしてもよい。そして、継代処理を終了し、
図6に戻って、ステップS40の片付け処理に進む。
【0067】
ステップS33では、統括コントローラ30が、継代処理が続行不可であることを出力装置35から出力し、継代処理及び制御処理を終了する。その際、続行不可である理由を示す情報を出力に含めてもよい。そうすることにより、出力を受ける人又は上位システムが継代処理の状況を把握して適切に対処することが容易になる。なお、第1インキュベータ内の次の第1容器を継代処理の対象として、制御処理を継続するようにしてもよい。この場合、ステップS33の後、制御処理のステップS10に戻るようにすればよい。
【0068】
次に、ステップS40で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10に、継代処理の片付け処理として、継代処理後の細胞が収められた第2容器を第2インキュベータに収納させる。第2インキュベータは、第1インキュベータと同一であってもよい。
【0069】
具体的には、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に片付け処理を指示する。片付け処理の指示を受けたローカルコントローラ11の制御により、モバイルマニピュレータ10が、ワークベンチ上の第2容器を把持し、第2インキュベータの位置まで移動し、第2インキュベータの扉を開け、第2インキュベータ内に第2容器を収納する。そして、制御処理は終了する。
【0070】
以上説明したように、ローカルコントローラ21は、ハンド22Bにアスピレータを把持させて液体を吸引させる処理、ハンド22Bに電動ピペッターを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理、並びに、ハンド22Bに電動マイクロピペットを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理をワークベンチロボット20に実行させる。これにより、1種類のハンド22Bでワークベンチにおける細胞継代処理に必要な一連の作業を実行できる。
【0071】
なお、ワークベンチロボット20は、粉体である薬品(溶液化前の薬品)の小分け作業、すなわち、元容器から移し先容器への薬品の移し替え作業に利用することもできる。薬品の小分け作業は、継代処理又はその他の処理のための準備作業として行われる場合がある。粉体の小分け作業をする場合、統括コントローラ30は、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、ハンド22Bに薬さじを把持させて粉体をすくい移す処理を、ワークベンチロボット20に実行させる。具体的には、ローカルコントローラ21は、
図13に示すように、薬さじの柄部を第1グループ(第1指22B1R)と第2グループ(第2指22B2R及び第3指22B3R)との間に、第2指22B2R及び第3指22B3Rの両方が薬さじの柄部に接触するように把持させる。これにより、2本の指だけで把持する場合より、薬さじを安定して把持することができる。2本の指だけで把持する場合には、薬さじの先端(すくう部分)に外力が加わった場合に、把持された部分を支点として薬さじがすべり回転を起こし易い。上記のように、本実施形態では、3本の指で把持することにより、薬さじに外力が加わった場合でも薬さじの把持姿勢を維持し易い。
【0072】
ローカルコントローラ21は、
図13に示すように、ワークベンチロボット20に、薬品(粉体)が入っている元容器に薬さじを入れて、薬さじにより薬品をすくい取らせる。そして、ローカルコントローラ21は、
図14に示すように、ワークベンチロボット20に、スタンド等に立てられて固定されている、コニカルチューブ等の移し先容器に、すくい取った薬品を落とさせる。これにより、小分け作業を含むワークベンチ上の作業の自動化をより促進することができる。
【0073】
なお、
図13及び
図14では、ハンド22Bで薬さじを上から掴むように把持させた例を示しているが、
図15に示すように、例えば人がペンを持つときのような状態で把持させてもよい。また、移し先容器がスタンド等に固定されていない場合には、ハンド22BLで元容器から移し先容器に持ち替えるようにしてもよい。また、ハンド本体22B0も薬さじの柄部に接触するようにして薬さじを把持させてもよい。また、薬さじの柄が板状である場合、柄の平面部分(表面及び裏面)を把持してもよく、柄の側面部分を把持してもよい。また、例えば薬さじのように軽量な把持対象物については、第1指22B1と第2指22B2との2本の指、又は第1指22B1と第3指22B3との2本の指で把持してもよい。
【0074】
コントローラ21は、ハンド22Bにアスピレータを把持させて液体を吸引させる処理、ハンド22Bに電動ピペッターを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理、ハンド22Bに電動マイクロピペットを把持させて液体を吸引させる処理及び吐出させる処理、並びに、ハンド22Bに薬さじを把持させて粉体をすくい移す処理のうちの少なくとも2種類の処理をワークベンチロボット20に実行させるようにしてよい。そうすると、操作対象物の形態別に適合するハンドを用意し、取り扱う操作対象物が変わるとそれに応じてハンドを交換する場合と比較して、細胞等の生体試料を扱う実験の分野で使用される、複数の種類の道具を扱うことを要するワークベンチ上の一連の作業を行うロボットシステムにおいて、1種類のハンドで行うことができる作業の種類をより多くすることができる。
【0075】
以下、細胞継代処理を例として、本実施形態に係るロボットシステムについて補足説明する。本実施形態に係るロボットシステムは、床上を移動するための機構及び物体を把持するための機構を備えたモバイルマニピュレータを備える。また、ロボットシステムは、ワークベンチに対して固定されており、ワークベンチ上の物体を把持するための機構を備えたワークベンチロボットを備える。さらに、ロボットシステムは、モバイルマニピュレータ及びワークベンチロボットの各々の動作を制御するコントローラを備える。そして、コントローラは、ワークベンチロボット及びモバイルマニピュレータに、ワークベンチと他の実験設備との間における、細胞を収めた容器の搬送及び設置を含む細胞の継代処理を実行させる。これにより、研究員が利用する実験環境に近い環境で稼働し、細胞継代処理を自動化することができる。
【0076】
具体的には、本実施形態に係るロボットシステムは、モバイルマニピュレータがインキュベータとワークベンチとの間で細胞容器の搬送をするだけでなく、ワークベンチにおける継代処理の途中でもモバイルマニピュレータが介入する。これにより、研究員が利用するのに近い実験環境で継代処理の自動化ができる。
【0077】
例えば、ワークベンチロボットは、研究員と同じように卓上作業を行える一方、研究員が継代処理を担当する場合に行う、容器を持って歩いて顕微鏡や遠心分離機の位置まで行く部分をモバイルマニピュレータが担う。これにより、ワークベンチロボットの手が届く範囲に必要な装置や器具を集めたロボット専用環境を作る必要がなくなり、ワークベンチの卓上だけをロボット専用環境にすれば済む。また、ワークベンチ自体を研究員と共用することも可能である。しかも、ワークベンチロボットはワークベンチの卓上サイズ程度の小型ロボットでありながら特定の作業に特化された専用装置ではなく1台で種々の作業をこなせるため、実験室に専用装置群や巨大な多機能装置を配備する必要性も少ない。
【0078】
なお、上記実施形態では、接着培養の場合について説明したが、本実施形態に係るロボットシステムは、浮遊培養の場合にも適用可能である。この場合、統括コントローラ30は、ワークベンチロボット20に、第1容器から細胞の一部を抽出させ、試料ホルダに載置させる。そして、統括コントローラ30は、モバイルマニピュレータ10に、細胞が載置された試料ホルダを細胞数又は細胞濃度の計測を行う細胞計測装置まで搬送させ、試料ホルダを細胞計測装置の設置部に設置させる。そして、統括コントローラ30は、細胞計測装置による計測結果が継代処理続行可能である場合に、ワークベンチロボットに、1又は複数の第2容器に細胞を播種させる。
【0079】
また、上記実施形態では、
図2に示すように、本発明のコントローラの一例として、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20とは独立した統括コントローラ30を用いる場合について説明したが、これに限定されない。例えば、
図16(A)に示すように、いずれかのワークベンチロボット20が統括コントローラ30を搭載するようにしてもよいし、
図16(B)に示すように、いずれかのモバイルマニピュレータ10が統括コントローラ30を搭載するようにしてもよい。
【0080】
また、
図17(A)及び(B)に示すように、本発明のコントローラを、複数の分散コントローラ40で構成するようにしてもよい。この場合、分散コントローラ同士で通信して、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20の各々が互いに連携して動作するように制御する。例えば、モバイルマニピュレータ10が容器をワークベンチ上まで搬送すると、モバイルマニピュレータ10の分散コントローラ40が、当該搬送の完了をワークベンチロボット20の分散コントローラ40に通知する。そして、通知を受けた分散コントローラ40により、ワークベンチロボット20が搬送された容器に対する処理を開始できるようにする。
【0081】
なお、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20の各々にローカルコントローラ11、21を設けず、統括コントローラ30又は分散コントローラ40がモバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20の各々の各モータの動作を制御してもよい。
【0082】
また、上記実施形態のモバイルマニピュレータ10は、上記の処理に加え、細胞の継代処理に使用する薬品の入った容器を冷蔵庫又は薬品棚からワークベンチ上に搬送する処理を行ってもよい。また、モバイルマニピュレータ10は、使い残した薬品の入った容器を冷蔵庫又は薬品棚に片付ける処理を行ってもよい。さらに、モバイルマニピュレータ10は、細胞の継代処理に使用するピペットのような道具、空の容器などを消耗品棚からワークベンチ上に搬送する処理を行ってもよい。また、モバイルマニピュレータ10は、充電すべきタイミングになったら、充電ステーションへ移動し、自装置の充電を行うようにしてもよい。
【0083】
また、上記実施形態において、統括コントローラ30は、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20の各々の稼働状況を確認し、空き状態のモバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20に上記処理を実行させるようにしてもよい。また、モバイルマニピュレータ10については、実験環境内での位置情報も取得し、空き状態であるモバイルマニピュレータ10のうち、最も効率良く指定の位置へ移動可能なモバイルマニピュレータ10を選択して、上記処理を実行させるようにしてもよい。
【0084】
ワークベンチロボット20については、そのワークベンチで処理している細胞が、例えば遠心分離機に持ち出されたとしても、遠心分離処理後にワークベンチ上の器具などを継続使用して、一連の処理を同じワークベンチロボット20が担当するようにしてよい。ただし、1つのワークベンチで用意した複数の容器についての遠心分離をまとめて行い、その後のアスピレーション(上澄み液の吸引除去)を素早く行うために、複数のワークベンチロボット20でアスピレーションを並行して行うようにしてもよい。このように、1つの容器でインキュベーションされていた細胞の継代処理に、複数のワークベンチロボット20を用いるようにしてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、細胞観察装置の一例として、光学顕微鏡を挙げたが、これに限定されず、レーザスキャン方式による観察装置等、目的に応じて細胞の状態を観察できる装置であればよく、観察の方式、原理を問わない。同様に、細胞計測装置も、レーザスキャン方式による計測装置等、目的に応じて細胞の数等を計測できる装置であればよく、計測の方式、原理を問わない。装置自身で計測を完結できることは必須ではなく、例えば、細胞計測装置としては顕微鏡であって、人が目視で細胞数の計数等を行う場合を含む。細胞観察装置と細胞計測装置とは、両者を兼ねた同一の装置であってもよいし、別々の装置であってもよい。
【0086】
なお、細胞観察装置は、典型的には、第1容器に入ったままの細胞を第1容器の壁面を通して観察し、観察された細胞はその後も培養対象となる。一方、細胞計測装置は、典型的には、微量抽出された細胞を計測し、計測された細胞は廃棄される。
【0087】
また、上記実施形態では、ワークベンチロボット20が固定されたワークベンチと、細胞観察装置、細胞計測装置等との間の容器の搬送を、モバイルマニピュレータ10が行う場合について説明したが、これに限定されない。例えば、ワークベンチロボット20が固定されたワークベンチ上、又はそのワークベンチに隣接する、ワークベンチロボット20のハンド22Bが届く範囲に細胞観察装置、細胞計測装置等が設置されている場合もある。この場合、ワークベンチロボット20が、細胞観察装置、細胞計測装置等への容器の配置及び回収を行ってもよい。
【0088】
また、上記実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行したロボットシステム処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、ロボットシステム処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0089】
また、上記実施形態では、ロボットシステムプログラムが記憶装置に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、ブルーレイディスク、USBメモリ等の記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0090】
100 ロボットシステム
10 モバイルマニピュレ
11 ローカルコントローラ
12 台車
12A 駆動輪
13 ロボットアーム
13A アーム
13B ハンド
20 ワークベンチロボット
21 ローカルコントローラ
22 ロボットアーム
22A アーム
22B、22BL、22BR ハンド
22B0、22B0L、22B0R ハンド本体
22B1、22B1L、22B1R 第1指
22B2、22B2L、22B2R 第2指
22B3、22B3L、22B3R 第3指
23 ビジョンセンサ
30 統括コントローラ
31 CPU
32 メモリ
33 記憶装置
34 入力装置
35 出力装置
36 記憶媒体読取装置
37 通信I/F
38 バス
40 分散コントローラ