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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068956
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ガラス被覆製品
(51)【国際特許分類】
   B32B 17/10 20060101AFI20240514BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B32B17/10
B32B27/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179662
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岡井 光信
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AG00B
4F100AK17D
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100EJ65C
4F100JN01B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】被覆層とガラス層との間での剥離を抑制可能なガラス被覆製品を提供すること。
【解決手段】
母材と、該母材に積層されたガラス層と、該ガラス層に積層された被覆層とを備えたガラス被覆製品であって、前記被覆層が、フッ素樹脂とプライマーとを含み、前記プライマーは、前記ガラス層に接するように前記被覆層に含まれており、前記ガラス層が低アルカリガラス層で、1mm厚さでの光透過率が30%以下であるガラス被覆製品を提供する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、該母材に積層されたガラス層と、該ガラス層に積層された被覆層とを備えたガラス被覆製品であって、前記被覆層が、フッ素樹脂とプライマーとを含み、前記プライマーは、前記ガラス層に接するように前記被覆層に含まれており、
前記ガラス層は、単位面積当たりのアルカリ金属イオンの溶出量が12(mg/m)以下で、1mm厚さ換算での光透過率が30%以下であるガラス被覆製品。
【請求項2】
前記ガラス層の平均厚さが、0.5mm以上5mm以下である請求項1記載のガラス被覆製品。
【請求項3】
前記被覆層がポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)を含む請求項1又は2記載のガラス被覆製品。
【請求項4】
前記被覆層の平均厚さが0.1mmを超え4mm以下である請求項1又は2記載のガラス被覆製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス被覆製品に関し、より詳しくは、母材と、該母材に積層されたガラス層と、該ガラス層に積層された被覆層とを備えたガラス被覆製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造業などにおいて利用される貯槽や配管類などの多くは、鉄鋼などの金属材料で構成されている。貯槽などに収容される被収容物や配管などを通じて搬送される被搬送物が金属イオンの混入を嫌うものであったり、腐蝕性のものであったりする場合、貯槽や配管類には、金属製の貯槽や配管を母材とし、該母材にガラス層を積層したグラスライニング製品が用いられている。
【0003】
グラスライニング製品と同様に母材にガラス層を積層したガラス被覆製品としては、琺瑯製品が知られている。グラスライニング製品は、琺瑯製品に比べて比較的重厚な作りのものが多く、琺瑯製品でのガラス層の厚さが0.1mm~0.3mmと比較的薄いのに対して当該グラスライニング製品でのガラス層の一般な厚さは0.5mm以上となっている。
【0004】
この種のガラス被覆製品でのガラス層は、ガラス粉末を母材に吹き付けて一定厚さに堆積させた後に高温に加熱してガラス粉末を溶かして母材に焼き付ける方法によって形成されている。そのため、ガラス被覆製品でのガラス層には、気泡やピンホールなどが生じてしまう場合がある。
【0005】
ところでガラス被覆製品としては、母材に積層されたガラス層に更に被覆層を積層したものが知られている(下記特許文献1、2参照)。この種のガラス被覆製品での被覆層は、下記特許文献1に示すようにポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂で構成されたものや、下記特許文献2に示すようにフッ素樹脂とプライマーとを含むものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-197252号公報
【特許文献2】特開昭58-101770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献2に記載されているようにガラス層に直接的にフッ素樹脂コートを設けても十分な接着力が得られ難く、ガラス層に対する被覆層の接着力を向上させるためにプライマーが用いられたりしている。そして、プライマーを用いる場合でもフッ素樹脂を含む被覆層の剥離が十分に抑制されているとはいえないような場合があり、フッ素樹脂とプライマーとを含む被覆層の剥離をこれまで以上に抑制することが求められているもののそのような検討は十分にはなされていない。被覆層及びガラス層が透明性に優れるガラス被覆製品では、被覆層がはく離してガラス層との間に空気層が形成されると、そのことが視覚的に把握されやすい。一方で、被覆層やガラス層の透明性が低いガラス被覆製品については、剥離に気が付きにくいため、被覆層とガラス層との剥離を抑制することがより強く要望される。そこで本発明は、そのようなガラス被覆製品における被覆層の剥離をさらに抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明は、
母材と、該母材に積層されたガラス層と、該ガラス層に積層された被覆層とを備えたガラス被覆製品であって、前記被覆層が、フッ素樹脂とプライマーとを含み、前記プライマーは、前記ガラス層に接するように前記被覆層に含まれており、
前記ガラス層は、単位面積当たりのアルカリ金属イオンの溶出量が12(mg/m)以下で、1mm厚さ換算での光透過率が30%以下であるガラス被覆製品、を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば被覆層とガラス層との剥離がより一層抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態のガラス被覆製品を備えた収容装置を示した概略図である。
図2図2は、ガラス被覆製品である槽本体の内壁の断面構造を示した概略断面図である。
図3図3は、槽本体のガラス層の欠陥を修復する様子を示した概略断面図である。
図4図4は、槽本体における被覆層の検査方法を表した概略図である。
図5図5は、図4とは別の方法で被覆層の検査を行う様子を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施の形態について、ガラス被覆製品の具体的な例として被収容物を収容する収容装置を例に説明する。また、以下においてはガラス被覆製品が、グラスライニング製品である場合を主たる例として説明する。しかしながら、本発明のガラス被覆製品は、以下の例示に何等限定されるものではない。
【0012】
本実施形態の収容装置は、例えば、単なる保管のための収容のみならず、被収容物に対して、化学プロセスを行うために用いられ得る。収容装置は、例えば、被収容物に化学的変化や物理的変化をもたらすために、ろ過、乾燥、蒸留、加熱、冷却、他の物質と混合・反応などが行われる装置としても利用され得る。
【0013】
図1に示すように本実施形態の収容装置1は、被収容物を収容する収容槽10と、該収容槽10に収容された被収容物を攪拌するための攪拌装置20と、該攪拌装置20での攪拌によって前記収容槽10の内部に形成される前記被収容物の流れを乱して攪拌性能の向上を図るためのバッフル30とを備えている。
【0014】
前記収容槽10は、被収容物を収容槽10内に導入するための開口部111を上部に備えた槽本体11と、該槽本体11の前記開口部111を開閉するための蓋体12とを備える。前記槽本体11は、被収容物に接する内面11aを構成する内壁112と、該内壁112を外側から覆う外壁113とを備えており、該内壁112と外壁113との間に熱媒を流通可能な空間部11cを備えている。即ち、本実施形態の槽本体11にはジャケット構造が備えられていて、前記空間部11cに温熱や冷熱を伝達するための熱媒を流通させて被収容物の冷却や加熱を行い得るようになっている。
【0015】
前記槽本体11は、被収容物を外部に排出するための開口部(排出口114)を底部に有している。本実施形態の収容槽10は、この排出口114を開閉する開閉弁13を有し、該開閉弁13は、弁体131と、弁座132とによって構成されている。
【0016】
本実施形態の前記攪拌装置20は、前記槽本体11内で前記被収容物を攪拌するための攪拌翼21を有している。前記攪拌翼21は、槽本体11の収容空間において上下方向に延びるように設けられているとともに軸周りに回転される回転軸21aと、該回転軸21aに固定されて回転軸とともに回転する攪拌羽根21bとを備えている。
【0017】
本実施形態では、前記槽本体11、前記蓋体12、前記攪拌翼21、及び、バッフル30などが金属製(例えば、鉄鋼製や鉄基金属製)の母材と、その表面に積層されたガラス層とを備えたガラス被覆製品(グラスライニング製品)となっている。
【0018】
以下、被覆層を備えたガラス被覆製品である前記槽本体11について詳細に説明する。本実施形態でのガラス被覆製品である前記槽本体11は、金属製の母材と該母材に被覆されたガラス層とを備えた製品本体と、該製品本体のガラス層に被覆された被覆層とを備える。本実施形態でのガラス層や被覆層は、接着剤などを介することなく直接積層されている。より詳しくは、本実施形態でのガラス層は、母材に焼き付けられて備えられている。本実施形態の被覆層は、ガラス層に熱融着されて備えられている。
【0019】
図2に示すように、前記槽本体11の前記内壁112は、厚さ方向に複数の層が積層された積層構造を有する。前記内壁112は、前記空間部11cの側に母材で構成された基体層BLを有する。前記内壁112は、複数の層の内、槽本体11の外側に前記基体層BLを有する。前記内壁112には、前記基体層BLから前記槽本体11の内面11aに向けて、ガラス層GL、被覆層CLが、順に設けられている。
【0020】
本実施形態の被覆層CLは、フッ素樹脂とプライマーとを含んでいる。図2に示すように本実施形態の被覆層CLは、プライマーによって構成されたプライマーコートPLとフッ素樹脂によって構成されたフッ素樹脂コートFLとが重なり合った構造を有する。本実施形態のプライマーコートPLは、ガラス層GLに接するように設けられている。一方でフッ素樹脂コートFLは、該プライマーコートPLをガラス層GLとは反対側から覆うように設けられている。即ち、被覆層CLは、ガラス層GLに接する背面がプライマーで構成されている。該背面とは反対側となる表面は、被収容物に接する面であり、本実施形態の被覆層CLでは上記の通りフッ素樹脂で構成されている。本実施形態の被覆層CLは、表面が本実施形態の前記槽本体11の内面11aの一部又は全部となるように設けられている。
【0021】
本実施形態では、前記内壁112を構成する各層のそれぞれは、それ自身が単層であっても、複数の層に分かれていてもよい。本実施形態のガラス層GLや被覆層CLは、それぞれに複数の層を設け、異なる材料で一面側と他面側とを構成すると、それぞれの面に求められる特性を発揮し易くなる。一面側と他面側とを異なる構成材料とする場合、一面側から他面側に(厚さ方向に)向かう途中の特定の位置で構成材料を切り替えて境界を比較的明確にしてもよく、構成材料を徐々に切り替えて境界を明確にしないようにしてもよい。即ち、ガラス層GLや被覆層CLのそれぞれは、第1構成材料と第2構成材料とを含む複数の材料で構成され、両面の内の一面側が前記第1構成材料で構成され、一面側とは反対側となる他面側が前記第2構成材料で構成され、前記一面側から前記他面側に向けた厚さ方向での途中において前記第1構成材料と前記第2構成材料との両方を含み、前記厚さ方向に向けて第1構成材料の濃度が連続的に低下して第1構成材料と第2構成材料とが切り替わる遷移領域が一定以上の厚さとなるように形成されていてもよい。
【0022】
遷移領域は、例えば、その平均厚さがガラス層GLや被覆層CLの全体厚さの1/100以上となるように形成することができる。遷移領域の平均厚さは、ガラス層GLや被覆層CLの全体厚さの1/50以上であってもよく、1/10以上であってもよい。遷移領域の平均厚さは、例えば、ガラス層GLや被覆層CLの全体厚さの1/2以下とすることができる。
【0023】
本実施形態での前記ガラス層GLは、前記基体層BLに接する第1層(以下「下引きガラス層GLL」ともいう)と、該下引きガラス層GLLに前記基体層BLとは逆側から接する第2層(以下「上引きガラス層GLU」ともいう)との2層構造を有している。前記ガラス層GLは、3層以上の積層構造を有していてもよいが、本実施形態では上引きガラス層GLUがガラス層GLでの最表層に設けられており、上引きガラス層GLUがガラス層GLの表面を構成している。
【0024】
本実施形態のガラス層GLは、後段において詳述するように、被覆層CLに接する側の表面からのアルカリ金属イオンの溶出量の低減化が図られた低アルカリガラス層となっている。本実施形態のガラス層GLは、含有するアルカリ金属イオンの一部が表層部より取り除かれることでアルカリ金属イオンの溶出量の低減化が図られている。即ち、本実施形態の前記上引きガラス層GLUは、前記下引きガラス層GLLに接している背面でのアルカリ金属イオン濃度よりもその反対側の被覆層CLに接する表面でのアルカリ金属イオン濃度の方が低い。
【0025】
本実施形態のガラス層GLは、ピンホールなどの欠陥が形成されることを完全になくしてしまうことは難しいものの多層構造であることで、1つの層のピンホールと他の層のピンホールとが重なり合う可能性が低く、厚さ方向に貫通するようなピンホールが形成され難い。従って、本実施形態では、実質的に問題となる欠陥が生じ難く、信頼性に優れたガラス被覆製品が提供され得る。
【0026】
本実施形態のガラス層GLは、光透過率の小さなガラスで構成されている。ガラス層GLを構成するガラスを透過する光の透過率は、例えば、1mm厚さ換算で30%以下とされる。ガラス層GLを構成するガラスの1mm厚さでの光の透過率は、25%以下であってもよく、20%以下であってもよい。ガラス層GLが光透過率の小さなガラスで構成されると、ガラス層GLに存在するピンホールなどが視覚的に把握し易くなる。
【0027】
1mm厚さでの光の透過率は、紫外・可視・近赤外分光光度計を用いて測定することができ、例えば、株式会社島津製作所の「SolidSpec-3700」などを用いて測定することができる。光の透過率は、例えば、ガラス層GLの形成に用いられているガラス組成物のフリットを用いて測定することができ、該フリットの中から板状の試料を採取して測定することができる。光の透過率は、1mm前後の厚さを有する板状の試料を用い、この試料における400nm~700nmの可視光の透過率の積分値の比(何もない状態を100%とする)を測定することで求めることができる。より詳しくは、1mm厚さでの光の透過率は、下記の要領で求めることができる。
【0028】
<光透過率測定法>
まず、ガラス試料の厚さ(t(mm))を測定する。
紫外・可視・近赤外分光光度計を用い、ガラス試料の光透過率(T(=100(%)×(I/I)、I:透過光強度、I:入射光強度))を求め、次式により吸光度(A(-))を求める。

A = -log10(T/100)

次いで、得られたガラス試料の吸光度(A(-))と、ガラス試料の厚さ(t(mm))とにより、1mm換算での吸光度(A’(-/mm)(=A/t))を算出する。
そして、単位厚さ当りの光透過率(X(%/mm))と単位厚さ当りの光吸収率(Y(%/mm))とを次式により算出する。

単位厚さ当りの光透過率 X = 100(%) × 1/10A’
単位厚さ当りの光吸収率 Y = 100(%) - X
【0029】
本実施形態においては、前記ガラス層GLに含まれるアルカリ金属イオンによって被覆層CLが剥離し易い状態になってしまうことを防止するために前記ガラス層GLとしてアルカリ金属イオンの溶出量が少ない低アルカリガラス層を採用することが好ましい。低アルカリガラス層とは、低アルカリガラスを含むガラス層であり、アルカリ金属イオンの溶出量が少ないガラス層である。
【0030】
前記低アルカリガラス層は、単位面積当たりのアルカリ金属イオンの溶出量が、例えば、12(mg/m)以下であることが好ましい。アルカリ金属イオンの溶出量は、50℃の温度条件下で純水をガラス層GLの表面に120時間接触させた時の溶出量を測定して求めることができる。前記ガラス層GLの表面の内、アルカリ金属イオンを溶出させるために前記純水を接触させる部分の面積を「S(cm)」とした場合、前記純水の量は、この面積(S(cm))の5倍(5×S(mL))とすることができる。即ち、溶出量は、前記表面の面積を「S(cm)」、前記純水の量を「V(mL)」として両者の比率が「5」となる条件(V/S=5)で行うことができる。前記ガラス層GLが上記のような好ましい要件を満たしているかどうかは、前記ガラス層GLの前記表面に前記純水を接触させてアルカリ金属イオンの合計溶出量「X(mg)」を求め、該合計溶出量(X)を前記面積(S)で除して単位面積当たりのアルカリ金属イオンの前記純水へ溶出量「E(mg/m)」(=X/S×10,000)を求めることで判断できる。
【0031】
アルカリ金属イオンの合計溶出量「X(mg)」については、ルビジウムやセシウムなどは、ガラスの成分として利用されるケースが少なく、仮にこれらを含んでいてもイオン半径が大きくてこれらの溶出は通常考えられず、それらの溶出が見られたとしても極めて微量で無視できる程度にとどまると見られることから、リチウムイオンの溶出量「XLi(mg)」、ナトリウムイオンの溶出量「XNa(mg)」及びカリウムイオンの溶出量「XK(mg)」をそれぞれ求めてそれらを合計することで算出することができる。尚、アルカリ金属イオンの溶出は、超純水(例えば、比抵抗が18MΩ・cm以上の水)を用いることができる。リチウムイオンの溶出量「XLi(mg)」、ナトリウムイオンの溶出量「XNa(mg)」及びカリウムイオンの溶出量「XK(mg)」のそれぞれは、ICP(誘導結合プラズマ質量分析法)によって求めることができる。
【0032】
尚、実際の槽本体11を使ってアルカリ金属イオンの溶出量を測定することが困難な場合、代わりとなる試験体を作製して測定を行ってもよい。試験体としては、例えば、13mmφ×80mm長さの鋼製丸棒(低炭素鋼)の全面に槽本体11と同様の厚さでガラス層を形成させたものを用いることができる。試験は、例えば、PTFE製容器に超純水を入れ、該超純水に浸漬させた試験体をPTFE製容器ごと120時間、50℃温度で加熱することで実施できる。このとき、ガラス層を形成した後の試験体の太さが、例えば、直径16mmであった場合、試験体の両端面の合計面積は、概ね[0.8cm×0.8cm×π×2]となり、約4cmとなる。また、試験体の側面の面積は、概ね、[1.6cm×π×8cm]となり、約40cmとなる。従って、このような場合は、PTFE製容器へは、約220mL(S≒44cm、V/S=5)の超純水を収容して試験を行うこととなる。また、PTFE製容器の加熱は温水バスなどを用いて実施することができる。
【0033】
ガラス層GLの表面に移行したアルカリ金属イオンは、当該表面におけるpH値を上昇させてガラスを侵食するおそれがある他に、被覆層CLとガラスとの化学的な結合を破壊したり、被覆層CLに含まれるポリマーを分解したりするおそれがある。そのため、50℃の純水を使った120時間での前記溶出量(E)は、11(mg/m)以下であることが好ましく、10(mg/m)以下であることがより好ましく、9(mg/m)以下であることがさらに好ましく、8(mg/m)以下であることがとりわけ好ましい。
【0034】
アルカリ金属イオンのなかでもナトリウムイオンは溶出し易い点でその影響が大きく現れ得る。したがって、ナトリウムイオンの単位面積当たりの溶出量「ENa(mg/m)」(=XNa/S×10,000)は、6(mg/m)以下であることが好ましく、5(mg/m)以下であることがより好ましく、4(mg/m)以下であることがさらに好ましく、3(mg/m)以下であることがとりわけ好ましい。
【0035】
ガラス層GLを上記のような低アルカリガラス層とするには、当該ガラス層GLをアルカリ金属イオンの含有量が少ないガラス組成物で構成すればよい。しかしながら、ナトリウムは、ガラス層GLの線膨張係数を調整するのに有用な成分である。即ち、線膨張係数を母材に近付けるという意味では、少なくとも下引きガラス層GLLにはある程度アルカリ金属イオンを含有させることが望ましい。そこで、本実施形態においては、上引きガラス層GLUと下引きガラス層GLLとで用いるガラス組成物を異ならせ、上引きガラス層GLUを構成するガラス組成物(以下「上引き用ガラス組成物」ともいう)を下引きガラス層GLLを構成するガラス組成物(以下「下引き用ガラス組成物」ともいう)に対して相対的にアルカリ金属イオンの含有量が低いものであってもよい。すなわち、アルカリ金属イオンの溶出量が12(mg/m)以下となる低アルカリガラスは、前記フッ素樹脂コートFLの積層される表面のみを構成するように用いられてもよい。少なくとも表層部が低アルカリガラスで構成され、プライマーが表面にコーティングされているガラス層GLは、フッ素樹脂コートFLとの接着性に優れる。
【0036】
前記下引き用ガラス組成物としては、例えば、58モル%~70モル%のSiO、3モル%~8モル%のAl、13モル%~17モル%のB、12モル%~18モル%のNaO、2モル%~7モル%のKO、1モル%~7モル%のCaFを必須成分として含み、さらに、任意成分として0モル%~3モル%のCaO、0モル%~0.5モル%のCoO、0モル%~0.7モル%のMnO、0モル%~0.8モル%のNiOを含むものが用いられ得る。
【0037】
前記上引き用ガラス組成物としては、例えば、60モル%~75モル%のSiO、2モル%~10モル%のZrO、10モル%~22モル%のRO(ただし、「R」はLi、K、Na、Csを示す)、及び、2モル%~12モル%のR’O(ただし、R’はMg、Ca、Sr、Baを示す)を含むものが挙げられる。該上引き用ガラス組成物は、例えば、TiO、Al、La、B及びZnOからなる群から選ばれる1種以上をさらに含有してもよい。より具体的には、上引き用ガラス組成物は、TiOの含有量が0.1モル%~4モル%、Alの含有量が0.1モル%~4モル%、Laの含有量が0.1モル%~4モル%、Bの含有量が0.1モル%~4モル%、ZnOの含有量が0.1モル%~4モル%の範囲内で含まれ、且つ、これらの合計含有量が5モル%以下となるように含まれていてもよい。なお、上引き用ガラス組成物は、アルカリ成分としてNaを実質的に含まないものであってもよい。
【0038】
ガラス層GL全体でのアルカリ金属イオンの含有量を少なくするという意味では、前記下引きガラス層GLLの厚さを上引きガラス層GLUよりも薄くしてもよい。前記下引きガラス層GLLの厚さは、例えば、上引きガラス層GLUの厚さの2/3以下であってもよく、1/2以下であってもよい。前記下引きガラス層GLLの厚さは、例えば、上引きガラス層GLUの厚さの1/10以上とすることができる。
【0039】
本実施形態でのガラス層GLの全体厚さ(下引きガラス層GLLの厚さと上引きガラス層GLUの厚さとの合計厚さ)は、例えば、0.5mm以上5mm以下とされる。ガラス層GLの全体厚さは、0.7mm以上であってもよく、1.0mm以上であってもよく、1.2mm以上であってもよい。
【0040】
本実施形態におけるガラス層GLの各層の厚さや被覆層CLなどの厚さについては、数か所(例えば、10箇所)で求めた厚さを平均して算出することができる。
【0041】
本実施形態においては、上引き用ガラス組成物としてナトリウムなどのアルカリ金属を含有するものを採用し、例えば、被覆層CLを積層する前にアルカリ金属を含むガラス組成物で構成されたガラス層を有する製品本体を形成させ、該製品本体のガラス層の表面に前記アルカリ金属と塩を形成可能な脱アルカリ剤を当接させてアルカリ金属イオンをガラス層GLから抽出して除去したり、アルカリ金属イオンを取り込み可能な液をガラス層GLの表面に接触させて電気泳動によりアルカリ金属イオンを抽出したりするような処理を施すなどしてガラス層の低アルカリ化を図ってもよい。また、低アルカリ化においてはガラス層の表面を酸で洗浄してもよい。このような方法では、母材上に設けられた時点でのガラス層(以下「未処理ガラス層」ともいう)を焼き付けに適したナトリウム含有量とすることができるためガラス層に欠陥が生じることを抑制することができる。また、このような方法であっても、アルカリ抽出処理後のガラス層GLが低アルカリガラス層とされることで前記被覆層CLとの良好な接着性が長期持続的に発揮され得る。
【0042】
上記のような低アルカリ化の処理は、例えば、単位面積当たりのアルカリ金属イオンの溶出量が、未処理ガラス層での溶出量に比べて1/2以下となるように実施される。低アルカリ化の処理は、未処理ガラス層での溶出量に比べて1/3以下の溶出量となるように実施されてもよく、1/4以下の溶出量となるように実施されてもよく、1/5以下の溶出量となるように実施されてもよい。
【0043】
ガラス層GLからのアルカリ金属イオンの溶出量を前記のような範囲内に低減させる方法としては、下記のような方法であってもよい。
・無機ポリシラザンをガラス層の上に塗布し、200℃以上の温度で焼成することによりガラス保護膜を製造する方法。
・ガラス層にSiO、ZrO、Crを硫酸アンモニウム水溶液でペースト状としたものを塗布し、300℃~600℃で熱処理することにより、GL層中のアルカリ金属を熱拡散除去する方法。
・ガラス層を脱アルカリ処理した後、ゾルゲル法によりシリカコーティング処理する方法。
・SiO、ZrO等をベースとしたペースト(スラリー)をガラス層に塗布し、300℃~600℃で加熱処理する方法。
即ち、低アルカリガラス層は、上引きガラス層GLUの表面に上記のようにアルカリ金属イオンをバリアするバリアガラス層を備えさせることでも形成できる。
【0044】
本実施形態での前記被覆層CLは、前記上引きガラス層GLUの表面側に接するように積層されており、前記下引きガラス層GLLとは逆側から前記上引きガラス層GLUに接するように設けられている。
【0045】
本実施形態の被覆層CLは、着色されている。本実施形態の被覆層CLは、着色されていることでピンホール等の欠陥を視覚的に把握し易い。着色は、赤や青などの有彩色であっても白や黒などの無彩色であってもよい。着色は、被覆層CLが不透明となるようにされていてもよい。
被覆層CLを不透明な状態にしてピンホール等の欠陥を視覚的に把握し易くする上で、被覆層CLは、JIS K-7375に基づいて測定される全光透過率が20%以下となるように形成されてもよい。被覆層CLの全光透過率は、10%以下であってもよく、5%以下であってもよく、1%以下であってもよく、0.1%以下であってもよい。
【0046】
被覆層CLの全光透過率は、例えば、カミソリやカッターナイフなどの刃物の刃先をガラス層GLと被覆層CLとの界面に沿って移動させて被覆層CLをガラス層GLから剥離し、この剥離した被覆層CLを試料に用いて測定することができる。試料は、ガラス被覆製品において無作為に選択した複数箇所(例えば、10箇所)から採取することができ、被覆層CLの全光透過率は、この複数の試料の測定値の算術平均値として求めることができる。
【0047】
被覆層CLを着色する場合、厚さ方向での全域を着色された領域とする必要はなく、例えば、被覆層CLを厚さ方向に2つの層が重なる積層構造とする場合、両方の層に着色を施してもよく、一方の層にのみ着色を施して被覆層CLを着色状態にしてもよい。また、被覆層CLを不透明な状態にする場合も、一方の層のみを不透明としてもよく、両方の層を不透明にしてもよい。前記のように遷移領域を設けて第1構成材料と第2構成材料との2種類の材料で一面側と他面側とを構成させる場合、第1構成材料と第2構成材料との一方のみを着色材料や不透明材料としてもよく、両方を着色材料や不透明材料としてもよい。
【0048】
本実施形態の被覆層CLは、ガラス層GLと異なる色に着色されていてもよい。尚、一般には、JIS Z8730:2009の7.1.1項に規定の色差(ΔEab)の値が0.5以上であると異なる色として認識されるとされている。したがって、前記被覆層CLと前記ガラス層GLとは色差計によって色差を測定した際に、0.5以上の色差を有することが好ましい。これらの色差は、1.0以上であってもよく、3.0以上であってもよく、5.0以上であってもよく、10以上であってもよい。
【0049】
被覆層CLが着色されているかどうかについても色差計によって色差を測定して確かめることができる。例えば、被覆層CLに含まれる樹脂のナチュラルカラーと被覆層CLとの間に0.5以上の色差が認められれば着色が施されていると判断することができる。色差は、被覆層CLに含まれる樹脂成分によって板状試料を作製して当該板状試料と被覆層とを対象に測定することができる。この被覆層の着色の程度については、板状試料との色差が1.0以上、3.0以上、5.0以上、或いは、10以上となるように調整されてもよい。板状試料との色差を確認する比較対象は、ガラス被覆製品を構成した状態のままの被覆層であってもよく、全光透過率の測定試料のようにガラス層の表面から剥離されたものであってもよい。
【0050】
前記被覆層CLは、黒色に着色されていることが好ましい。被覆層CLが黒色であることは、被覆層CLの表面(ガラス層GLへの当接面とは反対側の面)から当該被覆層CLを観察した時にマンセル値で明度が3以下で彩度が6以下に該当することで確認できる。被覆層CLのマンセル値の明度は、2以下であってもよく、1以下であってもよい。被覆層CLのマンセル値の彩度は、5以下であってもよく、4以下であってもよく、3以下であってもよい。また、被覆層CLの黒色の程度は、JIS Z8781-4に規定の表色系(L,a,b)においてL値が40以下でクロマ値(Cab)が20以下となる程度であることが好ましい。L値は、30以下であってもよく、20以下であってもよい。クロマ値(Cab)は、15以下であってもよく、10以下であってもよい。
【0051】
前記被覆層CLを黒色などに着色するには、顔料や染料などといった被覆層CLを所望の色合いに発色可能な物質を被覆層CLの形成材料に含ませるようにすればよい。黒色顔料として利用可能な黒色物質としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン、黒鉛などの炭素物質;グラファイト;ペリレン系顔料;ラクタム系顔料;チタンブラック;銅、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ニッケル、亜鉛、カルシウム、銀等の金属の酸化物;複合酸化物;金属硫化物;金属硫酸塩;金属炭酸塩等が挙げられる。
【0052】
前記被覆層CLを黒色などに着色する場合の黒色物質としては、炭素物質が好ましく、カーボンブラックかカーボンナノチューブかの何れかであることが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック、ボーンブラック等を用いることができる。カーボンナノチューブは、シングルウォールカーボンナノチューブであってもマルチウォールカーボンナノチューブであってもよく、カーボンナノホーンと称されるようなものであってもよい。
【0053】
顔料は、モノアゾ系顔料、ジアゾ系顔料、縮合ジアゾ系顔料等のアゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、キナクリドン系顔料、インディゴ系顔料、チオインディゴ系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料等の多環系顔料などの有機顔料であってもよい。
【0054】
前記被覆層CLを黒色以外の色合いに着色する場合も、上記と同様に無機顔料や有機顔料を利用することができる。
【0055】
本実施形態の被覆層CLは、導電性物質を含んでいてもよい。被覆層CLは、本実施形態ではガラス被覆製品の表面を構成している。そのため、被覆層CLが導電性物質を含むことで、局所的な静電気の蓄積を防ぐことができる。また、後述するように被覆層CLが導電性物質を含むことで被覆層CLやガラス層GLに対して電気的な検査を行ったりすることが可能となる。
【0056】
導電性物質としては、金属や導電性ポリマーの粒子や繊維などが挙げられる。黒色物質について例示した炭素物質(カーボンブラック、カーボンナノチューブなど)も導電性物質として利用可能である。
【0057】
本実施形態の被覆層CLは、前述の通りガラス層GLを覆うプライマーコートPLと、該プライマーコートPLをガラス層GLとは反対側から覆うフッ素樹脂コートFLとを備えている。本実施形態では、フッ素樹脂コートFLがガラス被覆製品の表面を構成している。プライマーコートPLやフッ素樹脂コートFLは、ガラス層GLの全部を覆ってなくともよく、一部のみを覆っていてもよい。プライマーコートPLとフッ素樹脂コートFLとは、ガラス層GLの補修材として利用されてもよい。例えば、前記槽本体11の内面11aを構成するガラス層GLの一部にクラックや欠けが生じ、被収容物が液状物で当該液状物がガラス層GLを通り抜けて母材にまで到達するおそれが生じたような場合に、プライマーコートPLとフッ素樹脂コートFLとを設けてそのようなおそれを回避するようにしてもよい。
【0058】
プライマーコートPLとフッ素樹脂コートFLとを補修材として利用する場合、図3に示すように、ガラス層GLの欠陥箇所GLxを削り取るなどして母材(基体層BLの表面)を露出させ、この母材露出面と周囲のガラス層GLとを覆うようにプライマーコートPLとフッ素樹脂コートFLとを含む被覆層CLを形成させるようにしてもよい。このような場合においては、被覆層CLの欠陥の有無を判別し易いことがより重要な意味を持つ。
【0059】
プライマーコートPLとフッ素樹脂コートFLとは、それらの境界が明確な状態で設けられていてもよく、境界が明確でなく遷移領域を設けて重なっていてもよい。図2に示す例では、前記プライマーコートPLは、前記ガラス層GL(上引きガラス層GLU)に接するように設けられている。また、フッ素樹脂コートFLは、プライマーコートPLを介してガラス層GLに積層されている。即ち、図2に示す例では、ガラス層側から、プライマーコートPL、フッ素樹脂コートFLの順にそれぞれが積層されている。
【0060】
本実施形態での前記プライマーコートPLを構成するプライマーは、クロム酸やリン酸、及び、それらの塩を含む無機系プライマー;有機チタネート化合物、有機シリケート化合物のようなカップリング剤系プライマー;などといった非樹脂系プライマー、並びに、官能基を有するフッ素樹脂やフッ素樹脂と他の樹脂とを含むようなフッ素樹脂系プライマーなどにより構成され得る。本実施形態での前記プライマーコートPLを構成するプライマーは、フッ素樹脂系プライマーである。プライマーは、非樹脂系プライマーとフッ素樹脂系プライマーとの混合物で構成されてもよい。
【0061】
前記無機系プライマーとしては、クロム酸、クロム酸塩、リン酸、リン酸クロムなどが挙げられる。前記有機チタネート化合物としては、Ti(IV)又はTi(III)と、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基もしくはカルボキシ基を有する化合物とによって形成されるTi-O-C結合を含む構造を備えたアルコキシチタン、チタンアシレート、チタンキレート、ポリマーチタンなどが挙げられる。アルコキシチタンとしては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタンなどが挙げられる。チタンアシレートとしては、例えば、トリノルマルブトキシチタンモノステアレート、チタンステアレート、ジイソプロポキシチタンジステアレートなどが挙げられる。チタンキレートとしては、例えば、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトナト)、ジノルマルブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、チタンイソプロポキシオクチレングリコレート、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタンアンモニウム塩、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタン、プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)などが挙げられる。ポリマーチタンとしては、例えば、テトラノルマルブトキシチタン重合体、テトライソプロポキシチタン重合体などが挙げられる。
【0062】
前記有機シリケート化合物としては、いわゆるシランカップリング剤を用いることができる。前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤、スチリルシランカップリング剤、メタクリロキシシランカップリング剤、アクリロキシシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、ウレイドシランカップリング剤、クロロプロピルシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤、スルファイドシランカップリング剤、イソシアネートシランカップリング剤などが挙げられる。
【0063】
前記フッ素樹脂系プライマーには、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)などのフッ素樹脂が含まれ得る。該フッ素樹脂は、主鎖や側鎖の炭素原子に結合しているフッ素原子の一部が、反応性官能基に置換されたものであってもよい。
【0064】
反応性官能基としては、例えば、-COOR(Rは-H、-CH、-C、-C、-C、又は-C11を表す)、-CHCOOR(Rは-H、-CH、-C、-C、-C、又は-C11を表す)、-COF、-CONH、-CHOH、-OH、-CN、-CHO(CO)NH、-CHOCN、-CHOP(O)(OH)、CHP(O)Cl、-SOH、-SOH、-SOFなどが挙げられる。
【0065】
前記フッ素樹脂系プライマーには、例えば、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、芳香族ポリエステル樹脂(PET,PEN・・・)、ポリアリレンサルファイド樹脂(PAS)、エポキシ樹脂などのフッ素樹脂以外の樹脂を含有することができる。中でも、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)などのイミド結合を有するポリイミド系樹脂は、フッ素樹脂とともにプライマーに含有させる成分として好適である。
【0066】
ポリイミド系樹脂は、脱水縮合してイミド結合となる下記(x)に示すようなアミド酸モノマーを構成単位として含んだ前駆体樹脂の脱水縮合物であることが好ましい。尚、下記の式(x)における「Ar」とは「アリール基」を表している。このような前駆体樹脂は、アミド酸を分子構造中に含むために親水性に優れ、水溶性ポリイミド系樹脂などとも称されている。前駆体樹脂は、水溶性ポリアミドイミド樹脂か水溶性ポリイミド樹脂かの何れかであることが好ましく、水溶性ポリアミドイミド樹脂であることが特に好ましい。即ち、プライマーコートPLに含まれているポリイミド系樹脂は、水溶性ポリアミドイミド樹脂由来のものであったり水溶性ポリイミド樹脂由来のものであったりすることが好ましい。
【0067】
【化1】
【0068】
水溶性ポリアミドイミド樹脂や水溶性ポリイミド樹脂としては、例えば、酸価が10mgKOH/g以上のものを採用することができる。水溶性ポリアミドイミド樹脂や水溶性ポリイミド樹脂の酸価は、20mgKOH/g以上であってもよく、30mgKOH/g以上であってもよい。水溶性ポリアミドイミド樹脂や水溶性ポリイミド樹脂の酸価は、120mgKOH/g以下であってもよく、100mgKOH/g以下であってもよい。
【0069】
このような前駆体樹脂を用いる事で、プライマーコートPLを形成する際には、フッ素樹脂粒子と前駆体樹脂と水性分散媒(水、アルコール、水/NMP・・など)とを含む水性ディスパージョンをプライマー用組成物として調製して当該水性ディスパージョンをガラス層GLの表面に塗布してウェット塗膜を形成した後に、当該塗膜を乾燥して乾燥皮膜とし、更に加熱処理して乾燥皮膜において脱水縮合反応を生じさせることで硬化皮膜を簡単に作製することができる。本実施形態においては、このようなプライマー用組成物の硬化物によってプライマーコートPLを構成することが好ましい。
【0070】
本実施形態では、先述のようにガラス層GLの表層部からアルカリ金属イオンが除去されているため、ガラス層GLの表面には水酸基が多く存在する。そこで、低アルカリガラス層の表面に水性ディスパージョンを塗布して水溶性ポリアミドイミド樹脂などのイミド化を実施すると一部のカルボキシ基がガラス層GLの表面の水酸基との間で縮合することも期待でき、プライマーコートPLとガラス層GLとの間に強固な接着力が発揮され得る。このような作用を期待することができるのはプライマーに含まれるのが水溶性ポリアミドイミド樹脂である場合に限らず水溶性ポリイミド樹脂であっても同じである。
【0071】
縮合樹脂は、アルカリ雰囲気下での加水分解によって特性低下するおそれがあるが、本実施形態においては、ガラス層GLからアルカリ金属イオンが除去されていることからプライマーに含まれるポリイミド系樹脂がそのような形で特性低下することが抑制され得る。また、プライマー用組成物にカーボンブラックやカーボンナノチューブなどの炭素物質を含有させるとプライマーコートPLの疎水性を高めることもでき、プライマーコートPLとガラス層GLの界面部に水が進入して該界面部がアルカリ雰囲気になることも抑制される。
【0072】
プライマー用組成物(水性ディスパージョン)に水溶性ポリアミドイミド樹脂や水溶性ポリイミド樹脂とともにフッ素樹脂を含有させると、ガラス層GLの表面に硬化皮膜(プライマーコート)を形成させるのに際してガラス層GLとは反対側となる表層部にフッ素樹脂を移動させて当該表層部でのフッ素樹脂濃度を高めることができる。ガラス層GLに接する背面でのポリイミド系樹脂の濃度がフッ素樹脂コートFLに接する表面側に比べて高く、当該表面側でのフッ素樹脂濃度が背面側よりも高いプライマーコートPLは、ガラス層GLとの間に強力な接着力を発揮させることができるだけでなくフッ素樹脂コートFLとの間にも強力な接着力を発揮させることができる。
【0073】
以上のようなことから、本実施形態でのプライマー用組成物には、ポリイミド系樹脂と炭素物質とフッ素樹脂とを含有させることが好ましい。
【0074】
プライマー用組成物やプライマーコートPLに含まれるフッ素樹脂とポリイミド系樹脂との質量比率(フッ素樹脂:ポリイミド系樹脂)は、例えば、60:40~80:20とすることができる。上記の質量比率(フッ素樹脂:ポリイミド系樹脂)は、70:30~80:20であってもよく、70:30~75:25であってもよい。
【0075】
本実施形態でのプライマーコートPLは、フッ素樹脂コートFLよりも厚さが薄くなるように形成され得る。プライマーコートPLの形成途中(ウェット塗膜や乾燥皮膜の時点)で掠れやピンホールなどの欠陥を見出し易くする上で、プライマーコートPLが着色されていることが好ましく、プライマーが黒色物質を含むことがより好ましい。
【0076】
前記プライマーコートPLは、例えば、1μm以上250μm以下の厚さとなるように形成される。プライマーコートPLの厚さは、5μm以上であってもよく、10μm以上であってもよく、20μm以上であってもよい。
【0077】
前記プライマーが前記導電性物質を含み、しかも、母材が金属製などで導電性を有する場合、図4に示すような方法で被覆層CLのピンホール検査を行うことが可能となる。図4に示す方法では、プライマーコートPLと母材(基体層BL)とを何れも接地された状態にし、電圧の印加された金属ブラシの毛先を被覆層CLの表面(槽本体11の内面11a)に接触させ、毛先を接触させた状態のまま金属ブラシを被覆層CLの表面に移動させるようにすれば、被覆層CLにピンホールやボイドなどがあるところで放電を生じさせることができ、欠陥の存在を電気的に確認することができる。
【0078】
このような電気的な検査を容易に実施する上で、プライマーコートPLは、1×1010Ω・cm以下の体積抵抗率となるように導電性物質を含んでいることが好ましい。プライマーコートPLの体積抵抗率は、1×10Ω・cm以下であってもよく、1×10Ω・cm以下であってもよい。
【0079】
同様に金属箔などを被覆層CLの表面に密着させて電極とし、当該電極を使ってプライマーコートPLとの間に電圧を印加して部分放電を測定すればボイドの大きさや数などを推認する手がかりなどにもなり得る。
【0080】
このような電気的な検査においては、プライマーコートPLの厚さが薄いと確実に電気的な接続をすることが難しい。一方で、図3(下図)に示すような形で母材の一部がプライマーコートPLに接していると母材とプライマーコートPLとの間を電気的に接続するのに特段の工夫を要しない。これは、プライマーが明確な層を構成していない場合も同じである。なお、プライマーコートPLと母材を接触させるには、ガラス被覆製品の端部などにおいて母材が露出する箇所を利用してもよい。例えば、図1に破線Vで示したようなフランジ部の端部においては、図5に示すように、ガラス層GLが母材の端縁まで設けられておらず、母材の表面がガラス層GLに覆われずにガラス層GLよりも外側に延出する箇所が設けられているようなことがある。その場合、ガラス層GLの端縁よりも外側に延出した母材の露出面に及ぶようにプライマーコートPLを設けると、母材とプライマーコートPLとが直に接する箇所を設けることができ、図4に示した例と同様に電気的検査を行うことができる。
【0081】
該プライマーコートPLの上に重なるフッ素樹脂コートFLは、フッ素樹脂を含む樹脂組成物(フッ素樹脂組成物)によって形成され得る。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)などのフッ素樹脂が含まれ得る。本実施形態では、プライマーコートPLの上に複数のフッ素樹脂コートFLを設ける形で被覆層CLを形成してもよい。その場合、一つのフッ素樹脂コートFLと別のフッ素樹脂コートFLとは、共通するフッ素樹脂を用いてもよく、異なるフッ素樹脂を用いてもよい。
【0082】
該フッ素樹脂組成物には、1又は複数種類のフッ素樹脂とともに無機フィラーなどが含まれ得る。また、フッ素樹脂組成物には、フッ素樹脂以外の樹脂を少量含ませてもよい。フッ素樹脂組成物における全ての樹脂に占めるフッ素樹脂以外の樹脂の割合は、10質量%以下であることが好ましい。該割合は、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。フッ素樹脂組成物での樹脂成分は、実質的にフッ素樹脂のみによって構成されてもよい。
【0083】
フッ素樹脂組成物での無機フィラーの含有量は、例えば、それぞれ40質量%以下とされる。該無機フィラーの含有量は、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよい。該無機フィラーの含有量は、10質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよい。
【0084】
前記フッ素樹脂コートFLや前記被覆層CLは、一定以上の厚さを有することで良好なガスバリア性を発揮する。本実施形態では、ガラス層GLの表面からのアルカリ金属イオンの溶出量の低減化が図られているだけでなく、前記フッ素樹脂コートFLや前記被覆層CLが一定以上を一定以上の厚さにすることで水蒸気などに対する遮蔽効果も期待でき、ガラス層GLの表面が高いpH値となることが更に抑制され得る。一方で前記フッ素樹脂コートFLや前記被覆層CLは、良好な熱伝導性を発揮する上では一定以下の厚さであることが好ましい。ガラス層GLに積層されている前記フッ素樹脂コートFLや前記被覆層CLの厚さは、例えば、超音波厚さ計などによって測定することができ、無作為に選択した複数箇所(例えば10箇所以上)の測定値の算術平均値として求めることができる。プライマーコートPLやフッ素樹脂コートFLの個々の厚さを超音波厚さ計で測定することが困難な場合は、画像解析装置付き顕微などによって断面を観察して実測してもよい。
【0085】
フッ素樹脂コートFLの厚さは、例えば、0.1mmを超え3mm以下とすることができる。フッ素樹脂コートFLの厚さは、0.12mm以上であってもよく、0.15mm以上であってもよく、0.2mm以上であってもよく、0.3mm以上であってもよい。フッ素樹脂コートFLの厚さは、0.4mm以上であってもよく、0.5mm以上であってもよい。フッ素樹脂コートFLの厚さは、例えば、3mm以下とすることができる。フッ素樹脂コートFLの厚さは2mm以下であってもよく、1mm以下であってもよく、0.5mm以下であってもよい。プライマーコートPLとフッ素樹脂コートFLとの境界部に比較的大きな遷移領域が存在してそれぞれの厚さを個々に特定し難い場合、該遷移領域の中間点をもってそれぞれの厚さを求めることができる。
【0086】
前記プライマーコートPLと該フッ素樹脂コートFLを含む被覆層CLの厚さは、例えば、0.1mmを超え、4mm以下とすることができる。被覆層CLの厚さは、0.12mm以上であってもよく、0.15mm以上であってもよく、0.2mm以上であってもよく、0.3mm以上であってもよい。被覆層CLの厚さは、0.4mm以上であってもよく、0.5mm以上であってもよい。被覆層CLの厚さは、例えば、4mm以下とすることができる。被覆層CLの厚さは、3.5mm以下であってもよく、3mm以下であってもよい。被覆層CLの厚さは2mm以下であってもよく、1mm以下であってもよく、0.5mm以下であってもよい。
【0087】
プライマー用組成物やフッ素樹脂組成物には、上記に例示している以外の構成材料も適宜含有させることができる。また、プライマーコートPLやフッ素樹脂コートFLの形成方法なども特に上記例示に限定されない。上記においてはガラス被覆製品(グラスライニング製品)として収容装置1の槽本体11を主たる例にしているが、蓋体12、攪拌翼21、バッフル30などについても上記と同様の材料にて構成され得る。
【0088】
上記例示のガラス被覆製品は、例えば、次のようにして製造することができる。
(STP1)
母材となる金属製品を用意し、母材上にガラスを焼き付けてガラス層を形成させて製品本体を作製する施釉工程。
(STP2)
母材上に形成されたガラス層の表面からアルカリ金属を抽出し、抽出前のガラス層(未処理ガラス層)よりもアルカリ金属イオンの溶出量の少ないガラス層を形成するアルカリ抽出工程。
(STP3)
アルカリ金属イオンの抽出されたガラス層の表面上にプライマーとフッ素樹脂とを含む着色された被覆層を形成させる被覆工程。
【0089】
前記施釉工程(STP1)としては、前記金属製品の表面にガラス粉末を所定の厚さで堆積した後に加熱炉で焼き付ける方法を採用することができる。
【0090】
前記アルカリ抽出工程(STP2)としては、アルカリ金属を含むガラス組成物で構成された未処理ガラス層を有する製品本体を用い、該未処理ガラス層の表面に前記アルカリ金属と塩を形成可能な脱アルカリ剤を当接させて前記未処理ガラス層から少なくとも一部の前記アルカリ金属を除去して前記未処理ガラス層を前記低アルカリガラス層とする方法などを採用することができる。
【0091】
前記被覆工程(STP3)としては、
(STP3a)
前記ガラス層の上にプライマーを被覆してプライマーコートを形成させるプライマー被覆工程と、
(STP3b)
前記プライマーコートの上にフッ素樹脂を被覆してフッ素樹脂コートを形成させるフッ素樹脂被覆工程と、
を順に実施するような方法を採用することができる。
【0092】
前記プライマー被覆工程(STP3a)としては、
(STP3a-1)
前記の水性ディスパージョンのような液状のプライマー用組成物を調製する塗工液調製工程と、
(STP3a-2)
プライマー用組成物をガラス層の表面に塗布するプライマー用組成物塗布工程と、
(STP3a-3)
塗布されたプライマー用組成物を加熱して硬化皮膜(プライマーコート)をガラス層の上に形成させる熱処理工程(以下「第1熱処理工程」ともいう)と、
を順に実施するような方法を採用することができる。
【0093】
前記フッ素樹脂被覆工程(STP3b)としては、
(STP3b-1)
例えば粉末状のフッ素樹脂組成物をスプレー塗布や静電塗布するなどしてプライマーコートの上に所定厚さに堆積させるフッ素樹脂組成物塗布工程と、
(STP3b-2)
塗布されたフッ素樹脂組成物を、含有するフッ素樹脂の溶融温度以上に加熱してフッ素樹脂コートをプライマーコート上に設ける熱処理工程(以下「第2熱処理工程」ともいう)と、
を順に実施するような方法を採用することができる。
【0094】
前記塗工液調製工程(STP3a-1)は、一般的なミキサーなどを用いて行うことができる。このとき黒色物質であり導電性物質でもある炭素物質を含む塗工液を調製することが好ましい。
前記塗布工程(STP3a-2)は、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗りなどの一般的な方法で行うことができる。
【0095】
前記第1熱処理工程(STP3a-3)は、塗布されたプライマー用組成物の表面温度が、例えば、150℃以上となる温度条件で実施することができる。該第1熱処理工程(STP3a-3)は、前記表面温度が170℃以上となる条件で実施されてもよく、190℃以上となる条件で実施されてもよく、210℃以上となる条件で実施されてもよい。該第1熱処理工程(STP3a-3)は、塗布されたプライマー用組成物の表面の最高到達温度が、例えば、350℃以下となる温度条件で実施することができる。該第1熱処理工程(STP3a-3)は、前記最高到達温度が330℃以下となる条件で実施されてもよく、310℃以下となる条件で実施されてもよい。プライマー用組成物の表面の温度は、例えば、放射温度計などによって測定することができる。
【0096】
水溶性ポリイミド樹脂や水溶性ポリアミドイミド樹脂は、水酸基やカルボキシ基などを多く含み、これらの官能基が加熱によってガラス表面の官能基と反応して化学結合を形成することが期待できる。特に、ガラス表面に水酸基などが存在し、加熱によって脱水縮合反応が生じるとプライマー用組成物が硬化した硬化皮膜(プライマーコート)とガラス層GLとの間に強い接着力が発揮され得る。
【0097】
前記第1熱処理工程(STP3a-3)は、上記のような縮合反応を伴う場合、該縮合反応が完了するように実施してもよく、縮合反応可能な官能基が一部残存するような条件で実施してもよい。
当該工程では縮合反応可能な官能基を残存させて硬化皮膜(プライマーコート)を形成させ、続く、フッ素樹脂被覆工程(STP3b)の第2熱処理工程での加熱によって縮合反応を更に進行させることでプライマーコートとフッ素樹脂コートとの間に高い接着力が発揮され得る。
縮合反応可能な官能基が残存していることは、FT-IR(ATR法)などによる測定で確かめることができ、前述の式(X)で表される構成単位に由来する吸収ピークが検出されるかどうかによって縮合反応可能な官能基が残存していることを確かめることができる。
前記フッ素樹脂被覆工程(STP3b-1)での硬化皮膜へのフッ素樹脂組成物の堆積は、一般的な粉末塗装機や静電塗装機などを用いて実施することができる。また、プライマーコート上に堆積したフッ素樹脂組成物の第2熱処理工程(STP3b-2)での熱溶融には一般的な加熱装置を用いることができる。
【0098】
前記塗布工程(STP3a-2)の後や前記熱処理工程(第1熱処理工程:STP3a-3)の後には、塗膜に掠れやピンホールなどの被覆層にとって欠陥になる箇所が形成されていないかを視覚的に検査する視覚的検査工程を行ってもよい。
また、前記フッ素樹脂被覆工程(STP3-4)では、粉末状のフッ素樹脂組成物をプライマーコート上に堆積した後(加熱溶融前)の状態を視覚的に検査する視覚的検査工程を行ってもよい。
この視覚的検査の方法は、例えば、観察箇所に光を当てて欠陥が存在していないかどうかを観察する方法、検査対象範囲を照明付きの拡大鏡などで観察する方法、検査対象範囲の画像を動画や静止画として撮影して撮影した画像をパソコンのモニターで観察する方法、前記画像を画像解析装置にかけて欠陥を自動検出させる方法などで実施することができる。観察箇所に光を当てる場合、検査に用いる光以外に周囲から光が差し込むのを遮って検査対象範囲を暗くして検査を実施してもよい。このとき照射する光をLEDやレーザー光源から照射される特定の波長の光とすることで吸収・反射の違いによって欠陥の発見が容易となり得る。観察箇所に対する光の照射は、スポット照射であってもよく、ライン照射であってもよい。
【0099】
前記フッ素樹脂被覆工程(STP3b)の後は、先述のようにフッ素樹脂コートとプライマーコートとの間で電圧を生じさせてフッ素樹脂コートのピンホールなどを検査する電気的検査工程を実施してもよい。
【0100】
尚、本実施形態では、視覚的検査方法と電気的検査方法との両方を実施して被覆層CLの欠陥の検出を実施してもよく、何れか一方のみを実施してもよい。視覚的検査方法と電気的検査方法とのそれぞれは、複数回実施してもよい。例えば、視覚的検査方法を具体的な方法を変えて複数回実施してもよく、電気的検査方法を電圧などの測定条件を変更して複数回実施してもよい。また、視覚的検査方法と電気的検査方法とのそれぞれは、被覆層を形成し終えてから実施してもよく、被覆層の形成途中で実施してもよい。例えば、視覚的検査は、プライマーコートの形成後フッ素樹脂コートの形成前と、フッ素樹脂コートの形成後(被覆層完成後)との何れにおいて実施してもよく、両方で実施してもよい。また、電気的検査は、例えば、第1フッソ樹脂コートと第2フッ素樹脂コートとを含む複数のフッ素樹脂コートがプライマーコートよりも表面側に積層され、第1フッソ樹脂コートの方が第2フッ素樹脂コートよりもプライマーコートに近い位置に設けられている被覆層を形成するような場合、第1フッ素樹脂コートの形成後且つ第2フッ素樹脂コートの形成前に実施してもよく、全てのフッ素樹脂コート形成後(被覆層完成後)に実施してもよい。
【0101】
本実施形態のガラス被覆製品は、既存のガラス被覆製品に対して補修を施して作製することもでき、補修によって上記のような被覆層を設けることで作製することもできる。以下、ガラス被覆製品の補修方法について説明する。
【0102】
補修対象は、被覆層を有しているガラス被覆製品であってもよく、被覆層を有しておらず母材にガラス層が被覆された製品本体のみを有するガラス被覆製品であってもよい。本実施形態のガラス被覆製品の補修方法では、母材と、該母材に積層されたガラス層とを備えた製品本体に被覆層を形成することを含む。従って、既に何等かの被覆層を有しているガラス被覆製品については、補修対象となる箇所において既存の被覆層を予め除去する前処理が行われる。また、前処理では、ガラス被覆製品での補修対象となる箇所において必要に応じて一部のガラス層を削除して母材を露出させてもよい。ガラス層の削除は、グラインダーなどの切削装置によって実施することができる。
【0103】
新たに設ける被覆層は、補修対象となる箇所において前記ガラス層を覆うように形成される。したがって、ガラス層を削除して母材を露出させた場合は、この母材が露出している範囲を超えて被覆層を形成する。即ち、本実施形態の補修方法では、被覆層は、母材の露出している領域のみならずその周囲にガラス層が存在している範囲にまで及ぶように形成される。この場合、ガラス層の削除によって新たに表出されることになったガラス層の表面(切削加工面)に対して改めてアルカリ金属を抽出することを実施してもよい。そして、被覆層にはフッ素樹脂とプライマーとを含有させ、前記プライマーが前記ガラス層に接するように前記被覆層が形成される。
【0104】
本実施形態では、補修においても前記のようなプライマー用組成物を用いると、ガラス層のみならず金属製の母材などにも高い接着性を示すプライマーコートが形成される。また、このときに新たに形成する被覆層を着色されたものにすると新たに被覆層を設けた範囲を把握し易くなる。そして、着色された被覆層を設けることで補修箇所に対して適正な範囲で被覆層を形成し易くなる。さらに、ピンホールなどが視認し易くなることや、プライマーに導電性物質を含有させることでフッ素樹脂コートの電気的検査が行えるようになる点についてはこの補修に際しても同じである。
【0105】
上記の通り、ガラス被覆製品の補修方法であって、母材と、該母材に積層されたガラス層とを備えた製品本体に被覆層を形成することを含み、前記被覆層は、補修対象となる箇所において前記ガラス層を覆うように形成し、該被覆層には、フッ素樹脂とプライマーとを含有させ、前記プライマーが前記ガラス層に接するように前記被覆層を形成し、前記被覆層を所定の状態となるように形成するガラス被覆製品の補修方法においては、種々の効果が発揮され得る。
【0106】
尚、本発明のガラス被覆製品は、上記例示の製法などで得られるものに限定されるわけではなく、本発明は上記例示に何等限定されるものではない。
【0107】
本発明は、上記のようにして被覆層とガラス層との間に高い接着性が発揮されるため、グラスライニング製品のように高い信頼性が求められるものにおいて特に有効ではあるもののグラスライニング製品と同様に母材上に焼き付けられたガラス層を備える琺瑯製品や、その他のガラス被覆製品においても広く効果が発揮されるものである。
【0108】
上記の通り本明細書には以下の開示を含む。
(1)
母材と、該母材に積層されたガラス層と、該ガラス層に積層された被覆層とを備えたガラス被覆製品であって、前記被覆層が、フッ素樹脂とプライマーとを含み、前記プライマーは、前記ガラス層に接するように前記被覆層に含まれており、
前記ガラス層は、単位面積当たりのアルカリ金属イオンの溶出量が12(mg/m)以下で、1mm厚さ換算での光透過率が30%以下であるガラス被覆製品。
【0109】
(2)
前記ガラス層の平均厚さが、0.5mm以上5mm以下である(1)記載のガラス被覆製品。
【0110】
(3)
前記被覆層がポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)を含む(1)又(2)記載のガラス被覆製品。
【0111】
(4)
前記被覆層の平均厚さが0.1mmを超え4mm以下である(1)乃至(3)の何れかに記載のガラス被覆製品。
【符号の説明】
【0112】
1:収容装置、10:収容槽、11:槽本体、11a:内面、11c:空間部、12:蓋体、13:開閉弁、20:攪拌装置、21:攪拌翼、21a:回転軸、21b:攪拌羽根、30:バッフル、111:開口部、112:内壁、113:外壁、114:排出口、131:弁体、132:弁座、BL:基体層、CL:被覆層、FL:フッ素樹脂コート、GL:ガラス層、GLL:下引きガラス層、GLU:上引きガラス層、PL:プライマーコート
図1
図2
図3
図4
図5