(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068960
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】入れ歯
(51)【国際特許分類】
A61C 13/007 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
A61C13/007
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179668
(22)【出願日】2022-11-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】513278655
【氏名又は名称】西端 英典
(74)【代理人】
【識別番号】100170025
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 一
(72)【発明者】
【氏名】西端 英典
(72)【発明者】
【氏名】佐賀野 克平
(57)【要約】 (修正有)
【課題】残存歯の位置や形状の変化に対応して、残存歯への固定を強固にし、咀嚼感を向上させることが可能な入れ歯を提供する。
【解決手段】固定義歯床部10は、残存歯2の背面と、欠損歯が存在した馬蹄状の顎堤の表面とを覆い、当該顎堤の表面に仮歯肉を形成させる。人工歯11は、仮歯肉の表面で、欠損歯の位置に設けられる。保護部12は、金属製の板で構成され、固定義歯床部10のうち、残存歯2の背面2aに対向する面に設けられる。凹凸部13は、金属製で構成され、保護部12のうち、残存歯2の背面2aに対向する面に設けられる。重合レジンRは、塗布後に重合が開始されて硬化する。入れ歯1は、重合レジンRを保護部12の凹凸部13と残存歯2の背面2aとの間に入れた状態で、当該重合レジンRを硬化させることで、保護部12を残存歯2の背面2aに固定させるとともに、固定義歯床部10を、残存歯2の背面2aと、顎堤の表面とに被覆させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
残存歯の背面と、欠損歯が存在した馬蹄状の顎堤の表面とを覆い、当該顎堤の表面に仮歯肉を形成させる固定義歯床部と、
前記仮歯肉の表面で、前記欠損歯の位置に設けられる人工歯と、
金属製の板で構成され、前記固定義歯床部のうち、前記残存歯の背面に対向する面に設けられる保護部と、
金属製で構成され、前記保護部のうち、前記残存歯の背面に対向する面に設けられる凹凸部と、
塗布後に重合が開始されて硬化する重合レジンと、
を備え、
前記重合レジンを前記保護部の凹凸部と前記残存歯の背面との間に入れた状態で、当該重合レジンを硬化させることで、前記保護部を前記残存歯の背面に固定させるとともに、前記固定義歯床部を、前記残存歯の背面と、前記顎堤の表面とに被覆させる、
入れ歯。
【請求項2】
前記凹凸部は、前記保護部の表面に対して金属製の球体又は金属製の棒体を溶着で固定することで設けられる、
請求項1に記載の入れ歯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入れ歯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、入れ歯に関する技術は、多数存在する。特開平10-99350号公報(特許文献1)には、歯の欠落により食物を噛み砕く機能が低下した際に欠落した歯の代わりに使用して食物を噛み砕く機能を向上させる入れ歯の間隔矯正具が開示されている。この入れ歯の間隔矯正具では、入れ歯の経年変化によって口内の上顎の粘膜と入れ歯間に間隙が発生した際に、この間隙を矯正して入れ歯を適正使用状態とすべく上顎の粘膜と入れ歯間に吸着機能を有する間隙矯正具を設ける。間隙矯正具を使用する際には、粘着部を入れ歯の板状基部に装着し、間隙矯正具を装着した入れ歯を口内に入れ、上顎の粘膜部分に接触させつつ押圧し、吸着具によって口内に入れ歯を固定させる。又、他の形態として、間隙矯正具の本体部を、可撓性を有する所定厚み、例えば、間隙に合致する厚みの材料により形成し、この本体部の表裏両面に、本体部の表裏面のいずれか一方に連通する穴部を設ける。このような構成を採用することで、経年変化によって発生した間隙を間隙矯正具によって矯正することができ、経年変化した入れ歯を適正使用状態として得て、入れ歯に裏うちをする方策や再度新しい入れ歯を作る方策が不要となり、経済的に及び実用上有利である。また、前記間隙矯正具は、入れ歯の取り外し時に、入れ歯と一緒に洗浄することが可能であることにより、間隙矯正具の継続使用が可能となり、経済的に有利であるとともに、間隙矯正具を清潔に維持することができ、衛生的にも有利であるとしている。
【0003】
一方、本出願人は、残存歯が数本存在する患者の入れ歯について発明し、特許化している。例えば、特開2015-109965号公報(特許文献2)には、残存歯が数本の患者の入れ歯であって、固定義歯床部と、人工歯と、可動義歯床部と、ヒンジ部と、着脱部とを備える。固定義歯床部は、残存歯の付根近傍の口腔内の背面を覆うとともに、当該残存歯の無い馬蹄状の顎堤の表面及びアンダーカットを覆い、当該顎堤の表面に仮歯肉を形成させる。人工歯は、仮歯肉の表面に設けられた、失った歯に対応する。可動義歯床部は、残存歯の付根近傍の口腔内の正面を覆う。ヒンジ部は、固定義歯床部に対して可動義歯床部を口腔内の正面側に回動可能とする。着脱部は、固定義歯床部に対して可動義歯床部を口腔内の正面側で着脱可能とする。これにより、装着に違和感無く、咀嚼感を十分に得ることが可能となるとしている。
【0004】
又、特開2020-130902号公報(特許文献3)には、可動義歯床部と、ヒンジ部と、凹部と、凸部と、溝部と、装着ピンと、弾性部材と、傾斜面と、突起部とを備える入れ歯を開示している。可動義歯床部は、ポリアミド樹脂から構成され、残存歯の付根近傍の正面を覆う。ヒンジ部は、固定義歯床部の左右方向の一方側に設けられる。凹部は、固定義歯床部の左右方向の他方側に設けられる。凸部は、可動義歯床部の左右方向の他方側に設けられる。溝部は、凸部の先端面と当接する凹部の当接面に、口腔内の左右方向の他方に沿って設けられる。装着ピンは、凸部の先端面から口腔内の左右方向に出入可能に設けられる。弾性部材は、装着ピンを口腔内の左右方向の他方側に押圧する。傾斜面は、凸部の先端面からの装着ピンの先端に形成される。突起部は、装着ピンを口腔内の左右方向にスライド可能に保持する。これにより、残存歯に馴染みやすく、且つ、ワンタッチで簡単に装着及び取り外しをすることが可能となるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-99350号公報
【特許文献2】特開2015-109965号公報
【特許文献3】特開2020-130902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、口腔内の歯は、残存歯を含めて微妙に動いている。そのため、残存歯に適合する入れ歯を設計する場合、入れ歯が、残存歯を固定するような形態であることが望まれる。又、残存歯を有する患者の多くが高齢者であることから、入れ歯には、高齢者でも簡単に装着及び取り外し出来る構成が求められている。
【0007】
ここで、特許文献1に記載の技術では、吸着具や穴部(吸盤)により入れ歯を顎堤に吸着させるため、吸着強度が弱く、且つ、残存歯のグラつきを防止することが出来ないという課題がある。
【0008】
又、特許文献2-3に記載の技術では、残存歯を可動義歯床部と固定義歯床部との間に挟み込むことで、残存歯を固定して、咀嚼感を十分に得ることが出来るものの、可動義歯床部と固定義歯床部とが残存歯を挟み込まない場合、固定義歯床部は、残存歯の背面とを覆って支持するだけであるため、固定義歯床部による残存歯の固定に限界があり、更なる固定方法が求められる。特に、残存歯は、経年的に移動、破砕、欠損等の色々な変化が生じることから、その都度、残存歯の位置や形状に対応した入れ歯が必要となる。
【0009】
そこで、本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、残存歯の位置や形状の変化に対応して、残存歯への固定を強固にし、咀嚼感を向上させることが可能な入れ歯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、本発明に係る新規な入れ歯を完成させた。即ち、本発明に係る入れ歯は、固定義歯床部と、人工歯と、保護部と、凹凸部と、重合レジンと、を備える。固定義歯床部は、残存歯の背面と、欠損歯が存在した馬蹄状の顎堤の表面とを覆い、当該顎堤の表面に仮歯肉を形成させる。人工歯は、前記仮歯肉の表面で、前記欠損歯の位置に設けられる。保護部は、金属製の板で構成され、前記固定義歯床部のうち、前記残存歯の背面に対向する面に設けられる。凹凸部は、金属製で構成され、前記保護部のうち、前記残存歯の背面に対向する面に設けられる。重合レジンは、塗布後に重合が開始されて硬化する。
【0011】
本発明に係る入れ歯は、前記重合レジンを前記保護部の凹凸部と前記残存歯の背面との間に入れた状態で、当該重合レジンを硬化させることで、前記保護部を前記残存歯の背面に固定させるとともに、前記固定義歯床部を、前記残存歯の背面と、前記顎堤の表面とに被覆させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る入れ歯によれば、残存歯の位置や形状の変化に対応して、残存歯への固定を強固にし、咀嚼感を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】残存歯を示す口腔内の下顎の正面斜視図と、入れ歯の右側面平面斜視図と、入れ歯の右側面底面斜視図と、である。
【
図2】重合レジンを用いた入れ歯の右側面平面斜視図と、残存歯の断面図と、である。
【
図3】保護部の凹凸部を重合レジンに入れた入れ歯の右側面平面斜視図と、残存歯の断面図と、である。
【
図4】可動義歯床部を固定義歯床部に装着した入れ歯の右側面平面斜視図と、残存歯の断面図と、である。
【
図5】残存歯を示す口腔内の下顎の正面斜視図と、入れ歯の右側面平面斜視図と、入れ歯の右側面底面斜視図と、である。
【
図6】重合レジンを用いた入れ歯の平面斜視図と、左側の残存歯の断面図と、である。
【
図7】左右側の保護部の凹凸部を重合レジンに入れた入れ歯の平面図と、左側の残存歯の断面図と、である。
【
図8】可動義歯床部を固定義歯床部に装着した入れ歯の平面斜視図と、右側の残存歯の断面図と、である。
【
図9】下顎の6本の前歯が残存歯の場合の入れ歯の平面写真と底面写真と拡大底面写真とである。
【
図10】下顎の6本の前歯が残存歯の場合の入れ歯の装着前後の正面写真と平面写真とである。
【
図11】上顎の5本の前歯が残存歯の場合の入れ歯の平面写真と底面写真と、重合レジンを設ける前後の拡大底面写真とである。
【
図12】上顎の5本の前歯が残存歯の場合の入れ歯の装着前後の平面写真と正面写真とである。
【
図13】上顎の3本の奥歯が残存歯の場合の入れ歯の平面写真と底面写真と拡大底面写真とである。
【
図14】上顎の3本の奥歯が残存歯の場合の入れ歯の装着前後の平面写真と正面写真とである。
【
図15】上顎の1本の奥歯が残存歯の場合の入れ歯の平面写真と底面写真と、重合レジンを設ける前後の拡大底面写真とである。
【
図16】上顎の1本の奥歯が残存歯の場合の入れ歯の装着前後の平面写真と正面写真とである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る入れ歯の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0015】
本発明の実施形態では、四つの残存歯を想定し、他の歯が全て欠損歯である場合の入れ歯を示す。残存歯2は、
図1に示すように、右側の第二小臼歯と、右側の第一大臼歯と、右側の第二大臼歯と、右側の第三大臼歯と、である。そして、欠損歯が存在した表面には、馬蹄状の顎堤3が設けられている。ここで、顎堤3とは、歯が無くなって歯肉だけになった部分を意味する。
【0016】
さて、本発明に係る入れ歯1(義歯)は、
図1に示すように、固定義歯床部10と、人工歯11と、保護部12と、凹凸部13と、重合レジンRと、を備える。固定義歯床部10は、残存歯2の背面と、欠損歯が存在した馬蹄状の顎堤3の表面とを覆い、当該顎堤3の表面に仮歯肉を形成させる。
【0017】
又、人工歯11は、仮歯肉(つまり、固定義歯床部10)の表面で、欠損歯の位置に設けられる。保護部12は、金属製の板で構成され、固定義歯床部10のうち、残存歯2の背面2aに対向する面に設けられる。ここで、
図1では、保護部12は、残存歯2の歯冠部から付根近傍の下方までの背面2aに対向している。
【0018】
そして、凹凸部13は、金属製で構成され、保護部12のうち、残存歯2の背面2aに対向する面に設けられる。ここでは、凹凸部13は、保護部12の表面に対して金属製の球体を溶着で固定することで設けられている。ここでは、凹凸部13は、残存歯2の歯冠部から付根近傍の下方までの背面2aに対向して設けられている。又、凹凸部13は、保護部12の全面に設けられている。又、重合レジンRは、塗布後に重合が開始されて硬化する樹脂(ポリマー)である。
【0019】
又、本発明に係る入れ歯1では、可動義歯床部14と、ヒンジ部15と、着脱部16と、を更に備えている。可動義歯床部14は、残存歯2の付根近傍の正面を覆う。ヒンジ部15は、固定義歯床部10の左右方向の一方側(ここでは、右側)に設けられ、可動義歯床部14を口腔内の正面側に回動可能とする。
【0020】
着脱部16は、固定義歯床部10に対して可動義歯床部14を口腔内の正面側で着脱可能とする。着脱部16は、例えば、雌型部と雄型部とのセットで構成され、雌型部は、固定義歯床部10の左右方向の他方側(ここでは、左側)に設けられ、凸部は、可動義歯床部14の左右方向の他方側(左側)に設けられ、凹部に装着される。
【0021】
さて、本発明に係る入れ歯1を装着する場合、
図2に示すように、先ず、入れ歯1では、可動義歯床部14を口腔内の正面側に回動させて、保護部10の凹凸部13を露出させておき、その露出された保護部12の凹凸部13に重合レジンRを塗布する。ここで、重合レジンRは、凹凸部13を含む保護部12の全体を覆うように塗布される。
【0022】
その後、
図3に示すように、当該重合レジンRを残存歯2の背面2aに被覆させて、当該重合レジンRを硬化させる。これにより、保護部12を残存歯2の背面2aに固定させるとともに、固定義歯床部10を、残存歯2の背面2aと、顎堤3の表面とに被覆させる。
【0023】
尚、本発明では、重合レジンRを保護部12の凹凸部13と残存歯2の背面2aとの間に入れた状態で、当該重合レジンRを硬化させれば良く、例えば、重合レジンRを残存歯2の背面2aに塗布した後に、保護部12の凹凸部13を重合レジンRに被覆させて、当該重合レジンRを硬化させても構わない。
【0024】
ここで、本発明に係る入れ歯1では、固定義歯床部10の保護部12と可動義歯床部14とで残存歯2を挟み込む構成であるため、
図4に示すように、ヒンジ部15を介して、可動義歯床部14を残存歯2の付根近傍の正面に回動して被せて、着脱部16で固定義歯床部10に装着させる。ここでは、可動義歯床部14の凸部を固定義歯床部10の凹部に装着することで、可動義歯床部14が固定義歯床部10に固定される。
【0025】
これにより、残存歯の位置や形状の変化に対応して、残存歯2への固定を強固にし、咀嚼感を向上させることが可能となる。即ち、本発明では、先ず、重合レジンRが残存歯2の背面2aに覆われて硬化されることで、その時点の残存歯2の位置や形状に合致した重合レジンRを硬化することが出来る。これにより、残存歯2の位置や形状がどのように変化したとしても、残存歯2に重合レジンRを合致させることで、残存歯2への適合を向上させることが出来る。
【0026】
次に、重合レジンRのうち、保護部12の凹凸部13に当接する面(側)では、重合レジンRを保護部12の凹凸部13に入り込ますことで、凹凸部13の凸部が重合レジンRに対してアンカーとして機能し、その状態で重合レジンRが硬化する。これにより、重合レジンRを保護部12に強固に固定することが出来る。
【0027】
特に、保護部12と凹凸部13とは、ともに金属製であることから、寸法安定性に優れ、多少のグラつきにも耐えることが出来る。そのため、入れ歯1が、重合レジンRを介して、残存歯2を強固の固定することが可能となり、患者が、入れ歯1を使って激しく咀嚼しても、残存歯2がグラついたり、入れ歯1が外れたりすることなく、十分な咀嚼感を得ることが可能となる。
【0028】
更に、本発明では、重合レジンRを残存歯2と保護部12との媒介として使用しているため、残存歯2の経時的な変化に対応していくことが出来る。例えば、患者が、本発明に係る入れ歯1を装着した後に、所定の期間が経過して、患者の残存歯2の位置や形状が変化し、その時の硬化した重合レジンRの形状と合致しない事態が生じた場合、既存の重合レジンRを除去して、再度、新たな重合レジンRを用いて、現時点の残存歯2の形状に合致させて硬化させる。これにより、再度、患者の残存歯2に合致した入れ歯1を製造することが出来るのである。本発明では、重合レジンRだけを入れ替える形態であるため、入れ歯1全体を作り直す必要が無く、患者にとっても歯科医師にとっても負担の掛からない構成となっているのである。
【0029】
又、上述では、更に、可動義歯床部14と固定義歯床部10の保護部12とが重合レジンRを介して残存歯2を挟み込むため、入れ歯1全体として残存歯2を更に強固に固定することが可能となる。
【0030】
ところで、本発明では、可動義歯床部14と固定義歯床部10の保護部12とが重合レジンRを介して残存歯2を挟み込む構成で無くても、作用効果を奏する。具体的には、次に、本発明の実施形態では、
図5に示すように、六つの残存歯を想定し、他の歯が全て欠損歯である場合の入れ歯を示す。残存歯2は、左側の第二小臼歯と、左側の第一大臼歯と、左側の第二大臼歯と、左側の第三大臼歯と、右側の犬歯と、右側の第一小臼歯と、である。そして、欠損歯が存在した表面に馬蹄状の顎堤3が設けられている。
【0031】
ここで、本発明に係る入れ歯1では、左側と右側のそれぞれに保護部12が設けられ、左側の四つの残存歯2に対して、凹凸部13を設けた保護部12が、左側の四つの残存歯2の背面2aを覆うように構成している。ここでは、保護部12は、四つの残存歯2の歯冠部から付根近傍の下方までの背面2aを覆うように構成している。一方、右側の二つの残存歯2に対して、凹凸部13を設けた保護部12が、右側の二つの残存歯2の背面2aを覆い、且つ、口腔内の正面側には、可動義歯床部14とヒンジ部15と着脱部16とを設けて、可動義歯床部14と固定義歯床部10の保護部12とが右側の二つの残存歯2を挟み込むように構成している。尚、右側の二つの残存歯2に対応する保護部12の凹凸部13は、保護部12の表面に対して金属製の球体や金属製の棒体を溶着で固定することで設けられている。
【0032】
さて、本発明に係る入れ歯1を装着する場合、
図6に示すように、先ず、左側の四つの残存歯2の背面2aに重合レジンRを被覆させる。又、右側の二つの残存歯2の背面2aについても、同様に、重合レジンRを被覆させる。そして、左側の四つの残存歯2の背面2aに左側の保護部12の凹凸部13を接近させる。
【0033】
その後、
図7に示すように、左側の保護部12の凹凸部13を重合レジンRに入り込ませるとともに、右側の保護部12の凹凸部13を重合レジンRに入り込ませて、重合レジンRを硬化させることで、保護部12を残存歯2の背面2aに固定させるとともに、固定義歯床部10を、残存歯2の背面2aと、顎堤3の表面とに被覆させる。これにより、重合レジンRが残存歯2の背面2aに対応した形状で硬化し、重合レジンRと残存歯2とがぴったり合致する。又、重合レジンRが、左側の保護部12の凹凸部13に入り込んで、左側の四つの残存歯2に強固に固定する。そのため、左側の四つの残存歯2の歯冠部の背面2aは、重合レジンRを介して、左側の保護部12の凹凸部13によって強固に支持されるため、入れ歯1が左側の四つの残存歯2を強固に支持することが可能となる。これにより、入れ歯1が落ちることが無く、十分に咀嚼することが出来る。
【0034】
ここで、右側の二つの残存歯2について、ヒンジ部15を介して、可動義歯床部14を右側の二つの残存歯2の付根近傍の正面に回動して被せて、着脱部16で固定義歯床部10に装着させると、
図8に示すように、可動義歯床部14が固定義歯床部10に固定される。これにより、右側の二つの残存歯2では、右側の保護部12と可動義歯床部14とが重合レジンRを介して右側の二つの残存歯2を挟み込むことで、右側の二つの残存歯2は更に強固に支持することが可能となる。
【0035】
ここで、残存歯2の本数に特に限定は無いが、例えば、1本から9本の範囲内であり、好ましくは、1本から5本の範囲内である。
【0036】
又、固定義歯床部10の構成に特に限定は無いが、例えば、固定義歯床部10は、馬蹄状の顎堤3に対応する馬蹄状の仮歯肉を形成し、当該形成した仮歯肉のうち、残存歯2及び残存歯2の付根近傍に対応する部分を開口し、当該開口した部分の口腔内の正面側を開口して、可動義歯床部12が、当該開口した部分の口腔内の正面側に被さるように構成される。
【0037】
又、固定義歯床部10における顎堤3の表面を覆う部分に特に限定は無いが、例えば、顎堤3の表面が構成する隆起面を膨出面として、当該膨出面に嵌り込む収縮面を有するよう構成される。又、固定義歯床部10の仮歯肉に特に限定は無いが、例えば、健常な歯肉の肉厚に対応する肉厚を有するよう構成される。又、固定義歯床部10が覆う対象に、更に、顎堤3のアンダーカットを含んでも良い。アンダーカットとは、歯や顎堤などの最大豊隆部よりも下方の陥没した部分を意味する。これにより、入れ歯1を強固に固定させることが出来る。
【0038】
又、
図1、
図5に示すように、固定義歯床部10の構成のうち、残存歯2の付根近傍の位置により、仮歯肉が分離する場合、例えば、残存歯2が前歯に集中し、仮歯肉が馬蹄状の奥歯の顎堤3の表面に対応して二つ設けられる場合に、各仮歯肉を連結する連結床17を更に設けても良い。ここで、連結床17は、例えば、金属等の寸法安定性に優れる素材が選択される。又、連結床17に、リテンションビーズ等の粒子を予め複数設けて、これらの粒子に侵入するように固定義歯床部10を溶融固化することで、固定義歯床部10の寸法安定性を付与するとともに、連結床17に対する固定義歯床部10の剥がれを防止することが可能となる。
【0039】
又、固定義歯床部10を構成する材質に特に限定は無いが、例えば、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン系樹脂等を採用することが出来る。又、樹脂の他に金属等を一部採用しても構わない。例えば、上述のように、連結床17を組み込む場合は、樹脂と金属との組み合わせから構成される。
【0040】
又、人工歯11の本数に特に限定は無いが、例えば、健常者が有する歯の本数に対応して、残存歯2の本数と人工歯11の本数との合計を14本となるように構成して、残存歯2以外の欠損歯を人工歯11にして全て備えるよう構成することが出来る。又、人工歯11の本数は、患者の装着感に応じて、例えば、最右側又は最左側の人工歯(第二大臼歯)を欠損させて、義歯床部を構成しても良い。又、人工歯11の材質に特に限定はないが、例えば、陶歯、樹脂歯、金属歯等を採用することが出来る。
【0041】
又、保護部12の構成に特に限定はないが、例えば、
図1、
図4に示すように、複数の残存歯2の歯冠部の背面2aを覆うように連続的な面として構成されても良いし、一つ一つの残存歯2の歯冠部の背面2aを覆うように単面として構成されても良い。又、保護部12は、残存歯2の歯冠部から付根近傍の下方までの背面2aを覆うように構成しても良いし、残存歯2の歯冠部の背面2aだけを覆っても良いし、残存歯2の歯冠部から付根近傍の上方までの背面2aを覆っても良いし、残存歯2の歯冠部から付根近傍までの背面2aを覆っても良い。保護部12の厚みに特に限定はないが、例えば、0.1mm~2.0mmの範囲内であると好ましい。
【0042】
又、凹凸部13の構成に特に限定はないが、例えば、
図1、
図4に示すように、保護部12の表面(外部に露出する面、残存歯2の歯冠部の背面2aに対向する面)に対して金属製の球体又は金属製の棒体を溶着で固定することで設けられても良いし、保護部12の板に対して凹凸を設ける打設処理を行うことで設けられても良い。凹凸部13の凸部のサイズに特に限定は無いが、例えば、縦横高さのそれぞれのサイズは、0.1mm~2.0mmの範囲内であると、残存歯2の変化に伴い、既存の重合レジンを除去し易くなる。又、凹凸部13は、保護部12の全面に設けられても良いし、保護部12の一部に設けられても良い。
【0043】
又、保護部12と凹凸部13の金属の種類に特に限定はないが、例えば、金-銀-パラジウム合金、コバルト-クロム合金、白金加金、チタン合金、白金加金等を採用することが出来る。
【0044】
又、重合レジンRの種類に特に限定はないが、例えば、常温で硬化する常温重合レジンや加熱で硬化する加熱重合レジン、直ぐに硬化する即時重合レジンを挙げることが出来る。重合レジンは、粉材と液材に化学重合開始剤を含む材料で構成され、粉材と液材を混和してペーストとした後、材料に応じた重合(加熱重合・化学重合・光重合等)を行うことで、硬化される。重合レジンRの構成に特に限定は無いが、例えば、メチルメタクリレートを主成分とする液剤と、ポリメチルメタクリレート若しくはポリメチル・エチルメタクリレートを主成分とする粉剤とを成分として構成され、液剤と粉剤とを接触させることによって、過酸化物などの重合開始剤と三級アミンなどの重合促進剤との間でラジカル重合反応を生じさせ、重合硬化させる構成を挙げることが出来る。
【0045】
又、可動義歯床部14の構成に特に限定は無いが、例えば、
図1、
図5に示すように、固定義歯床部10に対応して残存歯2の付根近傍を挟み込むよう構成される。ここで、可動義歯床部14が挟み込む残存歯2の付根近傍は、残存歯2の歯肉から歯頚部までの部分であっても、残存歯2の歯肉から歯冠の下方近傍までの部分であっても良い。固定義歯床部10と可動義歯床部14とが挟み込む残存歯2の付根近傍は、患者の残存歯2の状況、馬蹄状の額堤3の状況、残存歯2の動揺の程度等に応じて、適宜設計変更される。
【0046】
又、可動義歯床部14の数に特に限定は無いが、例えば、2つ以上の残存歯2が離れている場合には、残存歯2の数に対応する数としても良いし、2つ以上の残存歯2が集中している場合には、残存歯2の全ての数に対して一つの可動義歯床部14として、全ての残存歯2に跨るように一つの可動義歯床部14を設けても良い。
【0047】
又、可動義歯床部14の形態に特に限定は無いが、例えば、
図1、
図5に示すように、固定義歯床部10に対面する可動義歯床部14は、歯と歯肉との境界(例えば、残存歯2と歯肉との境界、人工歯11と仮歯肉との境界)、つまり、歯の歯頚部で形成される波形状に対応する波形状を有し、固定義歯床部10に装着されると、この可動義歯床部14の波形状が、口腔の残存歯2の歯頚部と、固定義歯床部10の人工歯11の歯頚部とで形成される波形状に一致するよう構成される。
【0048】
又、可動義歯床部14を構成する材質は、ポリアミド樹脂であれば、特に限定は無いが、例えば、ポリアミド樹脂として脂肪族ポリアミド樹脂又は半芳香族ポリアミド樹脂を挙げることが出来る。脂肪族ポリアミド樹脂は、例えば、ナイロン6(PA6)、ナイロン11(PA11)、ナイロン12(PA12)、ナイロン46(PA46)、ナイロン66(PA66)、ナイロン92(PA92)、ナイロン99(PA99)、ナイロン610(PA610)、ナイロン612(PA612)、ナイロン912(PA912)、ナイロン1010(PA1010)、ナイロン1012(PA1012)、ナイロン6とナイロン12との共重合体(PA6/12)、ナイロン6とナイロン66との共重合体(PA6/66)等を挙げることが出来る。半芳香族ポリアミド樹脂は、例えば、ナイロン4T(PA4T)、ナイロン6T(PA6T)、ナイロンMXD6(PAMXD6)、ナイロン9T(PA9T)、ナイロン10T(PA10T)、ナイロン11T(PA11T)、ナイロン12T(PA12T)、ナイロン13T(PA13T)等を挙げることが出来る。
【0049】
又、ヒンジ部15の構成に特に限定は無いが、例えば、固定義歯床部10の一方(右側)の位置が、可動義歯床部14の一端部(右側端部)に対応してくり貫かれて、そのくり貫かれた部分に可動義歯床部14の一端部が配置(装着)された場合に、ヒンジ部15は、固定義歯床部10の一方の位置と可動義歯床部14の一端部とを内部で挿通し、回動の中心軸となる回動ピンとして構成することが出来る。
【0050】
又、ヒンジ部15(回動ピン)の形状に特に限定は無いが、例えば、直線状であっても良いし、一方の先端が折れ曲ったL字状でも、両方の先端が折れ曲ったコの字状でも構わない。
【0051】
又、着脱部16の構成は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定は無く、上述のように、凸部と、当該凸部に嵌合可能な凹部とで構成しても良いし、他の着脱形態であっても構わない。
【実施例0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0053】
先ず、下顎の6本の前歯が残存歯として存在する患者について、本発明の入れ歯1を作成し、保護部12の凹凸部13に重合レジンRを塗布して患者の残存歯2の歯冠部の背面2aに当てて、重合レジンRを硬化させた。重合レジンRは、
図9に示すように、硬化することで、保護部12の凹凸部13と馴染んでいることが理解される。この入れ歯1を患者に装着すると、
図10に示すように、入れ歯1が6本の残存歯2を適切に固定出来ていることが理解される。患者からは、入れ歯1のずれが無く、十分に噛むことが出来ると高評価を頂いている。
【0054】
次に、上顎の5本の前歯が残存歯として存在する患者について、同様に、本発明の入れ歯1を作成し、保護部12の凹凸部13に重合レジンRを塗布して、患者の残存歯2の背面2aに当てて、重合レジンRを硬化させた。重合レジンRは、
図11に示すように、残存歯2の歯冠部の背面2aに対応する凹凸部13に塗布し、硬化させた。この入れ歯1を患者に装着すると、
図12に示すように、入れ歯1が5本の残存歯2を適切に固定出来ていることが理解される。患者からは、入れ歯1が落ちることなく、残存歯2を含めて、十分に噛むことが出来ると高評価を頂いている。
【0055】
又、上顎の3本の奥歯が残存歯として存在する患者について、同様に、本発明の入れ歯1を作成し、保護部12の凹凸部13に重合レジンRを塗布して、患者の残存歯2の背面2aに当てて、重合レジンRを硬化させた。重合レジンRは、
図13に示すように、残存歯2の歯冠部から付根近傍までの背面2aに対応する凹凸部13に塗布し、硬化させた。この入れ歯1を患者に装着すると、
図14に示すように、入れ歯1が3本の残存歯2を介して適切に固定出来ていることが理解される。患者からは、上述と同様に、入れ歯1が落ちることなく、十分に噛むことが出来ると高評価を頂いている。
【0056】
更に、上顎の1本の奥歯が残存歯として存在する患者について、同様に、本発明の入れ歯1を作成し、保護部12の凹凸部13に重合レジンRを塗布して、患者の残存歯2の背面2aに当てて、重合レジンRを硬化させた。重合レジンRは、
図15に示すように、残存歯2の歯冠部の背面2aに対応する凹凸部13に塗布し、硬化させた。この入れ歯1を患者に装着すると、
図16に示すように、1本しか残存歯2が無いにも関わらず、入れ歯1が残存歯2を介して適切に固定出来ていることが理解される。患者からは、上述と同様に、入れ歯1が落ちることなく、十分に噛むことが出来ると高評価を頂いている。
【0057】
又、彼らの入れ歯1についてのメンテナンスは、例えば、重合レジンRの入れ替えによって可能であり、残存歯2の位置や形状が変化したとしても、適合する入れ歯1を作り替えることが可能であった。そのため、再度、患者の残存歯2に合致した入れ歯1を簡単に製造することが出来た。又、彼らの入れ歯1は、重合レジンRだけを入れ替えるだけで、入れ歯1全体を作り直す必要が無く、患者にとっても歯科医師にとっても負担の掛からない構成であることが分かった。
以上のように、本発明に係る入れ歯は、高齢者はもちろん、残存歯が数本のどのような患者に採用する入れ歯として有用であり、残存歯の位置や形状の変化に対応して、残存歯への固定を強固にし、咀嚼感を向上させることが可能な入れ歯として有効である。