(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068961
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック組成物、硬化性組成物、エレクトロクロミック素子、エレクトロクロミック調光レンズ
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1516 20190101AFI20240514BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20240514BHJP
【FI】
G02F1/1516
G02F1/15 507
G02F1/15 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179669
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】プロヴァン クリストフ
【テーマコード(参考)】
2K101
【Fターム(参考)】
2K101AA22
2K101DA01
2K101DB03
2K101DB04
2K101DB05
2K101DB24
2K101DB33
2K101DC03
2K101DC13
2K101DC23
2K101DC42
2K101EH04
2K101EK04
(57)【要約】
【課題】 エレクトロクロミック層を有するエレクトロクロミック素子に対して、電気化学型酸化還元反応を行った際に、エレクトロクロミック素子の視感透過率の差が大きい、エレクトロクロミック層を形成できるエレクトロクロミック組成物、硬化性組成物、エレクトロクロミック素子及びエレクトロクロミック調光レンズの提供。
【解決手段】 トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びトリエチレングリコールモノエチルエーテルからなる群から選択される溶媒と、支持電解質と、重合体と、ロイコ染料と、電気化学型酸化還元反応に伴ってプロトンを授受する化合物Aとを含む、エレクトロクロミック組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びトリエチレングリコールモノエチルエーテルからなる群から選択される溶媒と、支持電解質と、重合体と、ロイコ染料と、電気化学型酸化還元反応に伴ってプロトンを授受する化合物Aとを含む、エレクトロクロミック組成物。
【請求項2】
前記支持電解質の質量に対する前記溶媒の質量の質量比が、2.0~4.0である、請求項1に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項3】
前記重合体の質量に対する、前記溶媒及び前記支持電解質の合計質量の質量比が、1.5~4.0である、請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項4】
前記ロイコ染料のモル量に対する前記化合物Aのモル量のモル比が、2.0~6.0である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項5】
前記重合体が、(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項6】
トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びトリエチレングリコールモノエチルエーテルからなる群から選択される溶媒と、支持電解質と、重合性化合物と、重合開始剤と、ロイコ染料と、電気化学型酸化還元反応に伴ってプロトンを授受する化合物Aとを含む、硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック組成物又は請求項6に記載の硬化性組成物を用いて形成される、エレクトロクロミック層を有する、エレクトロクロミック素子。
【請求項8】
請求項7に記載のエレクトロクロミック素子を有する、エレクトロクロミック調光レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレクトロクロミック組成物、硬化性組成物、エレクトロクロミック素子及びエレクトロクロミック調光レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気化学型酸化還元反応に伴って消発色する化合物と、支持電解質と、チキソトロピック剤と、溶媒と、絶縁性粒子とを含むことを特徴とするエレクトロクロミック組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示は、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びトリエチレングリコールモノエチルエーテルからなる群から選択される溶媒と、支持電解質と、重合体と、ロイコ染料と、電気化学型酸化還元反応に伴いプロトンの授受を行う化合物Aとを含む、エレクトロクロミック組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】エレクトロクロミック素子の一実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本開示のエレクトロクロミック組成物について詳述する。
本開示のエレクトロクロミック組成物を用いて形成されるエレクトロクロミック層を有するエレクトロクロミック素子に対して、電気化学型酸化還元反応を行った際に、エレクトロクロミック素子の視感透過率の差(ΔT)が大きい。
本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
以下、本開示の組成物が含み得る各種成分について詳述する。
【0007】
[エレクトロクロミック組成物]
<溶媒>
エレクトロクロミック組成物(以下、「EC組成物」ともいう。)は、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGBE)及びトリエチレングリコールモノエチルエーテル(TEGEE)からなる群から選択される溶媒(以下、「特定溶媒」ともいう。)を含む。
特定溶媒は、TEGBEであってもよいし、TEGEEであってもよいし、TEGBE及びTEGEEの両方で構成されていてもよい。特定溶媒は、TEGBEであることがより好ましい。
【0008】
特定溶媒は、1種単独又は2種以上で用いてもよい。
特定溶媒の含有量は、EC組成物の全質量に対して、10.0~90.0質量%が好ましく、30.0~70.0質量%がより好ましい。
【0009】
<支持電解質>
EC組成物は、支持電解質を含む。
支持電解質は、EC組成物の導電性を向上できる。
支持電解質としては、例えば、アルカリ金属塩化合物及びアルカリ土類金属塩化合物等の無機塩化合物、並びに、第4級アンモニウム塩化合物が挙げられる。
無機塩化合物としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム及びヨウ化カリウム等のアルカリ金属のハロゲン化物;過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ルビジウム及び過塩素酸セシウム等のアルカリ金属の過塩素酸塩;硝酸リチウム等のアルカリ金属の硝酸塩;硫酸リチウム等のアルカリ金属の硫酸塩;ホウフッ化リチウム等のアルカリ金属のテトラフルオロ硼酸塩;が挙げられる。
第4級アンモニウム塩化合物としては、例えば、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロミド、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム、ホウフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、及び、スピロ-(1,1’)-ビピロリジニウム・テトラフルオロボレート等のスピロ型のカチオンを有する第4級アンモニウム塩が挙げられる。
支持電解質としては、第4級アンモニウム塩化合物又はアルカリ金属塩化合物が好ましく、第4級アンモニウム塩化合物がより好ましく、テトラブチルアンモニウムブロミドが更に好ましい。
【0010】
支持電解質は、1種単独又は2種以上で用いてもよい。
支持電解質の含有量は、EC組成物の全質量に対して、1.0~50.0質量%が好ましく、10.0~20.0質量%がより好ましい。
【0011】
<重合体>
EC組成物は、重合体を含む。
重合体は、後述する硬化性組成物に含まれる重合性化合物を重合して得られる重合体であることが好ましい。
重合体としては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸とスチレンとの共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリエーテルサルフォン、ポリウレタン、セルロース及びその誘導体、並びに、アミロース及びアミロペクチンを含むデンプンが挙げられ、ポリ(メタ)アクリレートが好ましい。
また、重合体は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位を含むことが好ましい。
重合体は、1種単独又は2種以上で用いてもよい。
重合体の含有量は、EC組成物の全質量に対して、10.0~80.0質量%が好ましく、10.0~50.0質量%がより好ましい。
【0012】
<ロイコ染料>
EC組成物は、ロイコ染料を含む。
ロイコ染料としては、C.I.ベーシックブルー3、7、9、54、65、75、77、99及び129等の塩基性染料;C.I.アシッドブルー9及び74等の酸性染料;ディスパースブルー3、7及び377等の分散染料;スピロン染料;フタリド系染料、硫化系染料、シアニン系染料、インディゴ系染料、フタロシアニン系染料、アントラキノン系染料、メチン系染料、フルオラン系染料等のトリアリールメタン系染料、インダンスレン系染料、メチレンブルー等のフェノチアジン系染料、フェノキサジン等のオキサジン系染料、ジオキサジン系染料、アゾ系染料、並びに、キサンテン系染料が挙げられる。
ロイコ染料としては、具体的には、2’-アニリノ-6’-(ジブチルアミノ)-3’-メチルフルオラン、3-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヘキシルオキシフェニル]-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、9-(N-エチル-N-イソペンチルアミノ)スピロ[ベンゾ[a]キサンテン-12,3’-フタリド]、トリス(4-ジメチルアミノフェニル)メタン、トリス(4-ジエチルアミノフェニル)メタン、ビス(4-ジエチルアミノフェニル)-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)メタン、ビス(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-(4-ジエチルアミノフェニル)メタン、ビス(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-フェニルメタン、2-N-(3-トリフルオロメチルフェニル)-N-エチルアミノ-6-ジエチルアミノ-9-(2-メトキシカルボニルフェニル)キサンテン、2-(2-クロロフェニル)アミノ-6-ジブチルアミノ-9-(2-メトキシカルボニルフェニル)キサンテン、2-ジベンジルアミノ-6-ジエチルアミノ-9-(2-メトキシカルボニルフェニル)キサンテン、ベンゾ〔a〕-6-N,N-ジエチルアミノ-9,2-メトキシカルボニルフェニル)キサンテン、2-(2-クロロフェニル)-アミノ-6-ジブチルアミノ-9-(2-メチルフェニルカルボキシアミドフェニル)キサンテン、3,6-ジメトキシ-9-(2-メトキシカルボニル)-フェニルキサンテン、ベンゾイルロイコメチレンブルー、フェノキサジン及び3,7-ビス-ジエチルアミノフェノキサジンが挙げられる。
なかでも、ロイコ染料としては、2’-アニリノ-6’-(ジブチルアミノ)-3’-メチルフルオラン、3-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヘキシルオキシフェニル]-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド又は9-(N-エチル-N-イソペンチルアミノ)スピロ[ベンゾ[a]キサンテン-12,3’-フタリド]が好ましく、2’-アニリノ-6’-(ジブチルアミノ)-3’-メチルフルオランがより好ましい。
ロイコ染料の市販品としては、例えば、S-205、BLACK 305、BLACK 400、ETAC、RED 500、RED 520、BLUE 203及びATP(以上、山田化学工業社製)が挙げられる。
【0013】
ロイコ染料は、1種単独又は2種以上で用いてもよい。
ロイコ染料の含有量は、EC組成物の1L当たり、0.1~500.0mmol/Lが好ましく、0.1~220.0mmol/Lがより好ましく、10.0~200.0mmol/Lが更に好ましく、30.0~100.0mmol/Lが特に好ましい。
【0014】
<化合物A>
EC組成物は、化合物Aを含む。
化合物Aは、電気化学型酸化還元反応に伴ってプロトンを授受する化合物である。
化合物Aによって、ロイコ染料の酸化過電圧及び還元過電圧の絶対値よりも低い電圧において電気化学型酸化還元反応を行える。その電気化学型酸化還元反の際に、化合物Aがプロトンを授受して、そのプロトンによりロイコ染料の発色及び消色が間接的に行われるため、ロイコ染料の電気分解を防止できる。
化合物Aは、置換基を有していてもよいハイドロキノン構造を有する化合物が好ましく、アルキル基を有していてもよいハイドロキノン構造を有する化合物がより好ましい。
上記置換基としては、例えば、アルキル基、及び、塩素原子等のハロゲン原子が挙げられる。
上記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。
上記アルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~3がより好ましい。
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基又はブチル基が好ましい。
化合物Aとしては、例えば、2,3-ジメチルハイドロキノン、ハイドロキノン、クロロハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t-ブチル-ハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチル-ハイドロキノン、1-ナフトール、4,4’-ビフェノール及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル等のフェノール化合物;ジエチルアミン及びt-ブチルアミン等のアミン化合物;が挙げられ、2,3-ジメチルハイドロキノンが好ましい。
【0015】
EC組成物は、2種の化合物Aを含むことも好ましい。
EC組成物が2種の化合物A(例えば、化合物A1及び化合物A2)を含む場合、化合物A2は化合物A1の酸化還元反応を促進し、化合物A1が安定的なプロトンを授受することができる化合物が好ましい。例えば、化合物A1が陽極で酸化反応を行う化合物である場合、化合物A2は陰極で還元反応を行う化合物であることが好ましい。いわゆる、化合物A2は、化合物A1のレドックスペアであることが好ましい。
化合物A2としては、1,4-ベンゾキノン、1,4-ナフトキノン、p-トルキノン、メチルベンゾキノン、t-ブチル-1,4-ベンゾキノン又は2,5-ジ-t-ブチル-1,4-ベンゾキノンが好ましい。
【0016】
化合物Aは、1種単独又は2種以上で用いてもよい。
化合物Aの含有量は、EC組成物の1L当たり、0.6~250.0mmol/Lが好ましく、25.0~200.0mmol/Lがより好ましく、50.0~200.0mmol/Lが更に好ましく、150.0~200.0mmol/Lが特に好ましい。
また、EC組成物中、ロイコ染料の含有量がEC組成物の1L当たり1~100mmol/Lであり、かつ、化合物Aの含有量がEC組成物の1L当たり2~600mmol/L(好ましくは、4~400mmol/L)であることも好ましい。
【0017】
<紫外線吸収剤>
EC組成物は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物、安息香酸系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、サリチル酸系化合物及びけい皮酸系化合物が挙げられ、ベンゾフェノン系化合物が好ましい。
紫外線吸収剤は、1種単独又は2種以上で用いてもよい。
【0018】
<チキソトロピック剤>
EC組成物は、チキソトロピック剤を含んでいてもよい。
チキソトロピック剤は、チキソトロピー性を付与できる物であれば、特に限定されない。
チキソトロピック剤としては、例えば、有機チキソトロピック剤及び無機チキソトロピック剤が挙げられる。
有機チキソトロピック剤としては、ひまし油、硬化ひまし油、蜜ロウ及びカルナバワックス等の動植物系チキソトロピック剤;ステアリン酸アミド及びヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド等のアミド系チキソトロピック剤;変性ウレア及びウレア変性ウレタン等のウレア系チキソトロピック剤;が挙げられる。
無機チキソトロピック剤としては、例えば、微粉シリカ及びスメクタイトが挙げられる。
チキソトロピック剤としては、溶媒への溶解性の点、又は、透明性の点で、有機チキソトロピック剤が好ましく、ウレア構造を有するチキソトロピック剤がより好ましい。
チキソトロピック剤は、1種単独又は2種以上で用いてもよい。
【0019】
<その他成分>
EC組成物は、上記各種成分以外に、その他成分を含んでいてもよい。
その他成分としては、例えば、抗酸化剤及び接着剤が挙げられる。
その他成分として、上述した特定溶媒以外の、他の溶媒(例えば、アルコール溶媒、グリコールエーテル溶媒及びカーボネート溶媒)が挙げられる。
【0020】
<質量比>
支持電解質の質量に対する特定溶媒の質量の質量比(特定溶媒の質量/支持電解質の質量)が、2.0~4.0が好ましく、3.0~4.0がより好ましい。
重合体の質量に対する、特定溶媒及び支持電解質の合計質量の質量比(特定溶媒及び支持電解質の合計質量/重合体の質量)が、1.5~4.0が好ましく、1.8~3.5がより好ましい。
ロイコ染料のモル量に対する化合物Aのモル量のモル比(化合物Aのモル量/ロイコ染料のモル量)が、1.0~10.0が好ましく、2.0~6.0がより好ましく、3.0~6.0が更に好ましい。
【0021】
[硬化性組成物]
硬化性組成物は、特定溶媒と、支持電解質と、重合性化合物と、重合開始剤と、ロイコ染料と、電気化学型酸化還元反応に伴ってプロトンを授受する化合物Aとを含む。
硬化性組成物に対して露光処理(例えば、後述するEC素子の製造方法における塗膜を露光する工程)等を施して、硬化性組成物に含まれる重合性化合物を重合した場合、EC組成物が得られる。つまり、上記重合性化合物が重合され、上述したEC組成物に含まれる重合体が得られる。
硬化性組成物が含み得る重合性化合物以外の各種成分については、上述した通りである。
硬化性組成物中の特定溶媒の含有量は、硬化性組成物の全質量に対して、10.0~90.0質量%が好ましく、30.0~70.0質量%がより好ましい。
硬化性組成物中の支持電解質の含有量は、硬化性組成物の全質量に対して、1.0~50.0質量%が好ましく、10.0~20.0質量%がより好ましい。
硬化性組成物中のロイコ染料の含有量は、硬化性組成物の1L当たり、0.1~500.0mmol/Lが好ましく、0.1~220.0mmol/Lがより好ましく、10.0~200.0mmol/Lが更に好ましい。
硬化性組成物中の化合物Aの含有量は、硬化性組成物の1L当たり、0.6~250.0mmol/Lが好ましく、25.0~200.0mmol/Lがより好ましく、50.0~200.0mmol/Lが更に好ましく、150.0~200.0mmol/Lが特に好ましい。
硬化性組成物中、ロイコ染料の含有量が硬化性組成物の1L当たり1~100mmol/Lであり、かつ、化合物Aの含有量が硬化性組成物の1L当たり2~600mmol/L(好ましくは、4~400mmol/L)であることも好ましい。
【0022】
硬化性組成物中の支持電解質の質量に対する特定溶媒の質量の質量比(特定溶媒の質量/支持電解質の質量)が、2.0~4.0が好ましく、3.0~4.0がより好ましい。
硬化性組成物中の重合性化合物の質量に対する、特定溶媒及び支持電解質の合計質量の質量比(特定溶媒及び支持電解質の合計質量/重合性化合物の質量)が、1.5~4.0が好ましく、1.8~3.5がより好ましい。
硬化性組成物中のロイコ染料のモル量に対する化合物Aのモル量のモル比(化合物Aのモル量/ロイコ染料のモル量)が、1.0~10.0が好ましく、2.0~6.0がより好ましく、3.0~6.0が更に好ましい。
【0023】
<重合性化合物>
硬化性組成物は、重合性化合物を含む。
重合性化合物は、上記各種成分とは異なる化合物(例えば、溶媒等)である。
重合性化合物としては、例えば、上記EC組成物に含まれる重合体を合成できる重合性化合物が好ましい。
重合性化合物は、1以上の重合性基を有する化合物である。
重合性化合物の重合性基の数は、1以上であり、2以上であってもよい。上記重合性基の数は、1又は2が好ましい。換言すると、重合性化合物は、単官能の重合性化合物又は2官能の重合性化合物であることが好ましい。
上記重合性基としては、例えば、エチレン性不飽和基が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
重合性化合物は、重合性基以外にその他基を有していてもよい。上記その他基としては、例えば、水酸基、ポリオキシアルキレン基等のエーテル結合を含む基、エステル結合を含む基及び芳香環基が挙げられる。
また、重合性化合物としては、(メタ)アクリルエステル構造を有する化合物が好ましい。
【0024】
単官能の重合性化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、メタリル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、2-ブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート及びアダマンチル(メタ)アクリレートが挙げられ、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
2官能の重合性化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,3-アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2官能ウレタン(メタ)アクリレート、2官能エポキシ(メタ)アクリレート、2官能ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルのカプロラクトン変性ジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタンジ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸グリセリンモノ(メタ)アクリレート及び3-(メタ)アクリロイロキシグリセリンモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、ポリエチレングリコールジアクリレートが好ましい。
【0025】
重合性化合物は、1種単独又は2種以上で用いてもよく、2種で用いることが好ましい。
硬化性組成物が2種の重合性化合物を含む場合、重合性化合物は、水酸基を有する重合性化合物Xとポリオキシエチレン基を有する重合性化合物Yとを含むことが好ましく、水酸基を有し、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物Xと、ポリオキシエチレン基を有し、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物Yとを含むことがより好ましい。
重合性化合物Yの含有量に対する重合性化合物Xの含有量の質量比(重合性化合物Xの含有量/重合性化合物Yの含有量)は、1以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。上限は、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、50以下が更に好ましい。
重合性化合物の含有量は、硬化性組成物の全質量に対して、1.0~50.0質量%が好ましく、5.0~30.0質量%がより好ましい。
【0026】
<重合開始剤>
硬化性組成物は、重合開始剤を含む。
重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤及び熱重合開始剤が挙げられ、光重合開始剤が好ましい。
【0027】
光重合開始剤としては、オキシムエステル構造を有する光重合開始剤、α-アミノアルキルフェノン構造を有する光重合開始剤、α-ヒドロキシアルキルフェノン構造を有する光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド構造を有する光重合開始剤及びN-フェニルグリシン構造を有する光重合開始剤が挙げられ、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が好ましい。
【0028】
光重合開始剤としては、例えば、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-メチル-2-モルフォリノ(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン及び1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム等のアセトフェノン系又はケタール系光重合開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインエーテル系光重合開始剤;ベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、2-ベンゾイルナフタレン、4-ベンゾイルビフェニル、4-ベンゾイルフェニールエーテル、アクリル化ベンゾフェノン及び1,4-ベンゾイルベンゼン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン及び2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤が挙げられ、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドが好ましい。
【0029】
熱重合開始剤としては、例えば、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(パーオキシベンゾイル)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルペルオキサイド、t-ブチルヒドロペルオキサイド、クメンヒドロペルオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等の過酸化物系熱重合開始剤;アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスイソブチルアミジン塩酸塩及び4,4’-アゾビス-4-シアノ吉草酸等のアゾ系熱重合開始剤;が挙げられる。
【0030】
重合開始剤は、1種単独又は2種以上で用いてもよい。
重合開始剤の含有量は、硬化性組成物の全質量に対して、0.01~20.0質量%が好ましく、0.01~10.0質量%がより好ましい。
【0031】
[エレクトロクロミック素子]
エレクトロクロミック素子(以下、「EC素子」ともいう。)は、上記EC組成物から構成されるエレクトロクロミック層(以下、「EC層」ともいう。)を有する。
EC素子は、電極基材と電極とからなる基板を複数有することが好ましく、第1電極基材と、第1電極と、EC層と、第2電極と、第2電極基材とをこの順に有することがより好ましい。なお、第1電極と第2電極は、同一又は異なっていてもよい。第1電極基材と第2電極基材は、同一又は異なっていてもよい。
例えば、
図1に示すEC素子10は、電極基材12上に電極14を有する基板30と、電極基材22上に電極20を有する基板40とを有し、基板30と基板40との間に、EC層18及び絶縁層16を有する。絶縁層16は、EC層18の四方を囲うように配置されている。
なお、
図1に示すEC素子10は、EC層以外に電極基材12等を有しているが、そのような態様に限定されない。
【0032】
<電極基材>
EC素子は、電極基材を有することが好ましい。
【0033】
電極基材としては、例えば、ガラス基材及び樹脂フィルムが挙げられ、樹脂フィルムが好ましい。
電極基材の厚みは、1.0~500μmが好ましい。
【0034】
<電極>
EC素子は、電極を有することが好ましい。
電極としては、透明電極が好ましい。
透明電極としては、例えば、インジウムドープ酸化スズ(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)及びアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等の公知の透明電極が挙げられる。
電極は、透明電極以外のその他電極であってもよい。
その他電極としては、金属電極が挙げられ、金、銀、白金、コバルト又はパラジウムが好ましい。
【0035】
<EC層>
EC素子は、EC層を有する。
EC層は、上記EC組成物から構成される層である。
EC層に含まれる成分は、上記EC組成物が含み得る各種成分と同じであり、好適範囲も同じである。
EC層の厚みは、0.1~500μmが好ましく、10~250μmがより好ましい。
【0036】
<絶縁層>
EC素子は、絶縁層を有することが好ましい。
絶縁層は、絶縁性を有する物質を含む層であれば、特に制限されない。
EC素子が絶縁層を有し、絶縁層は電極同士を電気的に絶縁できる。
絶縁層を形成する方法としては、塗布法、焼結法及び相転換法等の公知の方法が挙げられる。
絶縁層を構成する物質としては、例えば、パラフィン樹脂、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂が挙げられる。
絶縁層の厚みは、1~500μmが好ましく、10~250μmがより好ましい。
絶縁層の配置は、特に制限されないが、EC層の四方を囲むように配置されることが好ましい。
【0037】
[EC素子の製造方法]
EC素子の製造方法は、上記EC組成物又は上記硬化性組成物を用いてEC層を形成する工程を含んでいれば、特に制限されない。
EC素子の製造方法は、第1電極基材と、第1電極基材上に配置される第1電極とからなる第1基板における第1電極上に、上記EC組成物又は上記硬化性組成物を塗布して塗膜を形成する工程と、
得られた塗膜に、第2電極基材と、第2電極基材上に配置される第2電極とからなる第2基板における第2電極の第2電極基材とは反対側の表面を貼合する工程とを含むことが好ましい。
また、硬化性組成物を用いる場合、EC素子の製造方法は、貼合する工程の前又は後に、更に上記塗膜を露光する工程を含むことが好ましく、貼合する工程後に上記塗膜を露光する工程を含むことがより好ましい。
【0038】
上記EC組成物又は上記硬化性組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法及びインクジェットプリント法が挙げられる。
上記塗布する工程は、2回以上実施してもよい。
また、必要に応じて塗膜を加熱又は乾燥してもよい。
【0039】
塗膜を露光する工程は、塗膜に対して光を照射する工程である。
例えば、上記工程によって硬化性組成物中の重合開始剤が感光し、重合性化合物の重合反応が進行して重合体が得られる。
露光光としては、重合開始剤が感光する波長であれば、特に制限されない。
露光光としては、例えば、可視光線、紫外線及び遠紫外線が挙げられ、可視光線が好ましく、波長300~500nmの範囲のいずれかの光がより好ましく、波長365nm及び/又は波長405nmの光が更に好ましい。
露光量は、1~100mJ/cm2が好ましい。
露光光源としては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、LED光源、レーザーダイオード及びレーザー光源が挙げられる。また、パンドパスフィルター又はカットオフフィルターを用いてもよい。
【0040】
EC素子の製造方法は、上記工程以外に、その他工程を含んでいてもよい。
その他工程としては、例えば、絶縁層を形成する工程が挙げられる。
【0041】
<印加方法>
EC素子は、電気化学型酸化還元反応によって視感透過率が変化する。
以下、EC素子の印加方法の一例について詳述する。
EC素子の2つの電極のうち一方の電極に直流安定化電源の第1端子を接続し、他方の電極に直流安定化電源の第2端子を接続する。そして、例えば、所定量のプラス電圧を印加した場合、EC素子が有するEC層に含まれる化合物Aが、第1端子を接続した電極側で電子を授与して同時にプロトン(H+)を発生し得る。ロイコ染料がBlack400(山田化学工業社製)である場合、そのプロトンによってそのBlack400におけるラクトン構造が開環することで発色(黒色に発色)して、EC素子の視感透過率が変化する。
一方で、上記と同様の接続方法で、直流安定化電源の第1端子及び第2端子をEC素子の電極に接続する。そして、例えば、所定量のマイナス電圧を印加した場合、第1端子を接続した電極側で上記機構と逆の反応が起きることで、ロイコ染料がBlack400(山田化学工業社製)である場合、そのBlack400の開環体が閉環することで消色して、EC素子の視感透過率が変化する。
本明細書において、プラス電圧とは、EC素子における2つの電極のうち、直流安定化電源の第1端子を接続した電極を電極Aとし、直流安定化電源の第2端子を接続した電極を電極Bとした際に、電極Bの電位を基準として電極Aの電位が高いことを意味する。
マイナス電圧とは、電極Bの電位を基準として電極Aの電位が低いことを意味する。
なお、上記は、プラス電圧をかけた場合に発色する機構について述べたが、使用するロイコ染料によってはマイナス電圧をかけた場合に発色する機構であってもよい。
EC素子に印加する電圧は、EC層に含まれる各種成分の種類及びその含有量等によって適宜調整できる。
プラス電圧は、1.0~3.0Vが好ましく、2.0~2.5Vがより好ましい。
プラス電圧の印加時間は、1~120秒が好ましく、10~100秒がより好ましい。
マイナス電圧は、-3.0~-1.0Vが好ましく、-2.5~-2.0Vがより好ましい。
マイナス電圧の印加時間は、1~120秒が好ましく、10~100秒がより好ましい。
【0042】
印加方法としては、例えば、以下の要件を満たすことが好ましい。なお、以下の各要件を満たす数が多いほど好ましい態様である。
要件1:EC素子の視感透過率が変化する電圧の最小絶対値をVmin(単位:V)とし、EC素子が正常に動作しなくなる電圧(過電圧)の最小絶対値をVmax(単位:V)とし、EC素子の視感透過率を増加させる際に印加する電圧をVb(単位:V)とした際に、式(1)で表される関係を満たす。
Vmin<Vb<Vmax 式(1)
Vminは、0~1.5Vが好ましい。Vminを印加する時間Tmは、1~60秒が好ましい。Vmaxは、2.4~2.5Vがより好ましい。Vbは、1.7~2.3Vが好ましい。Vbを印加する時間Tbは、1~60秒が好ましい。
【0043】
要件2:EC素子の視感透過率を増加させる際に印加する電圧をVb(単位:V)とし、EC素子の視感透過率を減少させる際に印加する電圧をVd(単位:V)とした際に、式(2)で表される関係を満たす。
Vb=Vd±0.6 式(2)
【0044】
要件3:EC素子の視感透過率を減少させる際に印加する電圧Vd(単位:V)で印加する時間をTd(単位:秒)とし、EC素子の視感透過率を増加させる際に印加する電圧Vb(単位:V)で印加する時間をTb(単位:秒)とした際に、式(3)で表される関係(好ましくは、式(31)で表される関係)を満たす。
Td/6<Tb<Td/2 式(3)
Td/4<Tb<5Td/12 式(31)
【0045】
要件4:EC素子の視感透過率が変化する電圧の最小絶対値をVmin(単位:V)とし、EC素子の視感透過率を増加させる際に印加する電圧Vb(単位:V)で印加した後に、更にEC素子の視感透過率を増加させる際に印加する電圧Vf(単位:V)とした際に、式(4)で表される関係を満たす。
0≦Vf≦Vmin 式(4)
Vfは、0~1.5Vが好ましく、0~0.4がより好ましい。Vfを印加する時間Tfは、1~5分が好ましい。
【0046】
[エレクトロクロミック調光レンズ]
エレクトロクロミック調光レンズは、上記EC素子を有するレンズであれば、特に制限されない。
【実施例0047】
以下、本開示のEC組成物に関して実施例及び比較例により更に詳しく説明するが、これらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0048】
[硬化性組成物の各種成分]
<溶媒>
・TEGBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
・DEGBE:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
【0049】
<支持電解質>
・TBABr:テトラブチルアンモニウムブロミド
【0050】
<重合性化合物>
・c1:2-ヒドロキシエチルメタクリレートとポリエチレングリコールジアクリレートとの混合物(2-ヒドロキシエチルメタクリレート:ポリエチレングリコールジアクリレート=30モル:1モル)
【0051】
<重合開始剤>
・Omn-TPO:Omnirad TPO H、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、IGM Resins B.V.社製
【0052】
<ロイコ染料>
・Black-400:2’-アニリノ-6’-(ジブチルアミノ)-3’-メチルフルオラン、山田化学工業社製
【0053】
<化合物A>
・DMHQ:2,3-ジメチルヒドロキノン
【0054】
[実施例1]
実施例1の硬化性組成物を以下の手順で調製した。
TEGBE(56.3質量部)とTBABr(18.7質量部)とを、70℃で1時間撹拌して混合物を得た。その混合物に、重合性化合物c1(2-ヒドロキシエチルメタクリレートとポリエチレングリコールジアクリレートとの混合物、24.0質量部)、及び、Omn-TPO(1.0質量部)を加えた後、Black-400(25mM)及びDMHQ(25mM)を更に加えた。得られた混合物を10~30秒間撹拌した後、超音波洗浄機を用いて1時間超音波を照射して、実施例1の硬化性組成物を得た。
【0055】
基板としてのITO(Indium Tin Oxide)電極付きポリエチレンテレフタラート(縦15mm×横25mm×厚み150μm、表面抵抗率:100Ohm/□)におけるITO電極上に、上記ITO電極の表面の中心部において縦10mm×横12mmの塗工領域の四方を囲むようにパラフィルム(厚み127μm)を配置した後、得られた硬化性組成物で塗工領域を満たした後に、アプリケータを用いて塗工して塗膜を形成した。
得られた塗膜(厚み127μm)に、更に、別のITO(Indium Tin Oxide)電極付きポリエチレンテレフタラート(縦15mm×横25mm×厚み150μm、表面抵抗率:100Ohm/□)のITO電極と接するように貼合した。次いで、得られた積層体における2つの電極基材の短辺の両端にそれぞれ銅極テープ(縦15mm×横5mm×厚み0.07mm)を対向するように貼合した。
その後、積層体における塗膜に対して、基板の一方の主面から、光源として発光ダイオードを用いて波長365nm及び波長405nmを120Wで4~6分間照射した。同様の手順で、基板の他方の主面に対しても露光してEC層を形成し、EC素子を得た。なお、EC層には、硬化性組成物に含まれる重合性化合物に由来する重合体((メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位を含む重合体)が含まれていた。
【0056】
[実施例2~8、比較例1]
実施例2~8及び比較例1は、表に示す各種成分及びその量に変更した以外は、実施例1と同様にして、各EC素子を作製して評価した。
【0057】
[評価]
<ΔT>
実施例1及び比較例1のEC素子に対しては、以下の手順でΔTを測定した。
得られたEC素子の2つの銅極のうち一方の銅極に直流安定化電源の第1端子を接続し、他方の銅極に第2端子を接続し、第2端子を接続した銅極に対して第1端子を接続した銅極が+2.5Vになるように60秒間印加してEC素子を着色(黒色)させた。印加後、直ぐにEC素子の波長380~780nmにおける透過率の平均値である視感透過率をスペクトロメーター(MMD、LEDスペクロトメーター)を用いて測定した。その後、直ちに着色時と同じ接続方法で、直流安定化電源の第1端子及び第2端子をEC素子の銅極に接続した。次いで、第2端子を接続した銅極に対して第1端子を接続した銅極が-1.3Vになるように5分間印加し、再度+2.5Vで60秒間を印加した後に、上記と同様に視感透過率を測定し、電圧を印加する前の視感透過率との差を求めた。その操作を繰り返し行い、視感透過率の差を5回分測定し、その平均値をΔTとした。
実施例2~8のEC素子に対しては、以下の手順でΔTを測定した。
得られたEC素子の2つの銅極のうち一方の銅極に直流安定化電源の第1端子を接続し、他方の銅極に第2端子を接続し、第2端子を接続した銅極に対して第1端子を接続した銅極が+2.3Vになるように60秒間印加してEC素子を着色させた。印加後、直ぐにEC素子の波長380~780nmにおける透過率の平均値である視感透過率をスペクトロメーター(MMD、LEDスペクロトメーター)を用いて測定した。その後、直ちに着色時と同じ接続方法で、直流安定化電源の第1端子及び第2端子をEC素子の銅極に接続した。次いで、第2端子を接続した銅極に対して第1端子を接続した銅極が-1.3Vになるように5分間印加し、再度+2.3Vで60秒間を印加した後に、上記と同様に視感透過率を測定し、電圧を印加する前の視感透過率との差を求めた。その操作を繰り返し行い、視感透過率の差を5回分測定し、その平均値をΔTとした。
なお、いずれの実施例におけるΔT評価前のEC素子の視感透過率は、80%以上であった。
【0058】
<結果>
以下、実施例及び比較例の評価結果を表2に示す。
表中、「a/b」欄は、支持電解質の質量に対する溶媒の質量の質量比を示す。
「(a+b)/c」欄は、重合性化合物(重合体)の質量に対する、溶媒及び支持電解質の合計質量の質量比を示す。
「f/e」欄は、ロイコ染料のモル量に対する化合物Aのモル量のモル比を示す。
【0059】
【0060】
本開示のEC組成物を用いて形成されるEC層を有するEC素子に対して、電気化学型酸化還元反応を行った際に、EC素子の視感透過率の差(ΔT)が大きいことが確認された。
ロイコ染料の含有量は、EC組成物の1L当たり、30.0~100.0mmol/Lである場合、ΔTがより大きくなることが確認された(実施例2~8)。