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特開2024-68967アレイアンテナシステム、非線形歪み抑制方法、及び無線装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068967
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】アレイアンテナシステム、非線形歪み抑制方法、及び無線装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/24 20060101AFI20240514BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20240514BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20240514BHJP
   H04B 7/06 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
H03F3/24
H03F1/32
H03F1/32 141
H04B1/04 R
H04B7/06 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179683
(22)【出願日】2022-11-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、「5G基地局共用技術に関する研究開発」研究開発委託契約に基づく開発項目「5G基地局の共用を実現する広帯域な無線通信システム構成技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロズキン アレクサンダー ニコラビッチ
(72)【発明者】
【氏名】大田 智也
(72)【発明者】
【氏名】大橋 洋二
【テーマコード(参考)】
5J500
5K060
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA21
5J500AA41
5J500AC21
5J500AC33
5J500AC36
5J500AF08
5J500AF15
5J500AF19
5J500AK16
5J500AQ04
5J500AS14
5J500AT01
5J500AT05
5J500AT07
5J500NG02
5J500NG03
5J500NH13
5K060BB07
5K060CC04
5K060CC19
5K060HH06
5K060HH37
(57)【要約】
【課題】広帯域での非線形歪みを抑制できる。
【解決手段】アレイアンテナシステムは、送信信号の帯域に隣接する第1の帯域内の第1の非線形歪みを抑制するDPDと、第1のアンテナ素子及び第2のアンテナ素子を含む複数のアンテナ素子と、送信信号及び、帯域から離れ、かつ、第1の帯域に隣接する第2の帯域内の第2の非線形歪みに、ウエイトを付与して所定方向に指向する送信信号及び第2の非線形歪みを形成する、複数のアンテナ素子のそれぞれに対応する複数の位相シフタと、第1のアンテナ素子に対応した第1の位相シフタから出力された、所定方向に指向する送信信号及び第2の非線形歪みである第1の歪みを増幅する第1のアンプと、第2のアンテナ素子に対応する第2の位相シフタから出力された、所定方向に指向する送信信号及び、第2の非線形歪みである、第1の歪みと逆相の第2の歪みを増幅する第2のアンプと、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号の帯域に隣接する第1の帯域内の第1の非線形歪みを抑制するDPD(Digital Predistortion)と、
第1のアンテナ素子と第2のアンテナ素子と、を含む複数のアンテナ素子と、
前記送信信号及び、前記帯域から離れ、かつ、前記第1の帯域に隣接する第2の帯域内の第2の非線形歪みに、ウエイトを付与して所定方向に指向する前記送信信号及び前記第2の非線形歪みを形成する、前記複数のアンテナ素子のそれぞれに対応する複数の位相シフタと、
前記第1のアンテナ素子に対応した第1の位相シフタから出力された、前記所定方向に指向する送信信号及び前記第2の非線形歪みである第1の歪みを増幅する第1のアンプと、
前記第2のアンテナ素子に対応する第2の位相シフタから出力された、前記所定方向に指向する前記送信信号及び、前記第2の非線形歪みである、前記第1の歪みと逆相の第2の歪みを増幅する第2のアンプと、
を有することを特徴とするアレイアンテナシステム。
【請求項2】
前記第2のアンプは、
前記第1のアンテナ素子から出力する前記送信信号及び前記第2の非線形歪みを受信する受信器側で前記第2の非線形歪みが小さくなるように前記第2の歪みを増幅して前記第2のアンテナ素子から出力することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナシステム。
【請求項3】
前記第2のアンプは、
前記第1のアンテナ素子から出力する前記送信信号及び前記第2の非線形歪みを受信する受信器側で前記第2の非線形歪みが打ち消すように前記第2の歪みを増幅して前記第2のアンテナ素子から出力することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナシステム。
【請求項4】
前記第1のアンプは、
所定電流に応じて、前記所定方向に指向する前記送信信号及び前記第1の歪みを増幅して出力する第1の負荷インピーダンスを有する第1の負荷を有し、
前記第2のアンプは、
前記所定電流に応じて、前記所定方向に指向する前記送信信号及び前記第2の歪みを増幅して出力する、前記第1の負荷インピーダンスと異なる第2の負荷インピーダンスを有する第2の負荷を有することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナシステム。
【請求項5】
前記第1の負荷は、
前記所定電流に応じた前記第1の負荷インピーダンスを有する配線パターンを有し、
前記第2の負荷は、
前記配線パターンと、前記配線パターンと接続するスタブとを有し、前記所定電流に応じた前記第2の負荷インピーダンスを有することを特徴とする請求項4に記載のアレイアンテナシステム。
【請求項6】
前記第1のアンプは、
所定電流に応じて、前記所定方向に指向する前記送信信号及び前記第1の歪みを増幅して前記第1のアンテナ素子から出力する第1の反射係数を有する第1の負荷を有し、
前記第2のアンプは、
前記所定電流に応じて、前記所定方向に指向する前記送信信号及び前記第2の歪みを増幅して前記第2のアンテナ素子から出力する、前記第1の反射係数と異なる第2の反射係数を有する第2の負荷を有することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナシステム。
【請求項7】
送信信号の帯域に隣接する第1の帯域内の第1の非線形歪みを抑制するDPD(Digital Predistortion)と、第1のアンテナ素子と第2のアンテナ素子とを含む複数のアンテナ素子と、前記送信信号及び、前記帯域から離れ、かつ、前記第1の帯域に隣接する第2の帯域内の第2の非線形歪みに、ウエイトを付与して所定方向に指向する前記送信信号及び前記第2の非線形歪みを形成する、前記複数のアンテナ素子のそれぞれに対応する複数の位相シフタと、第1のアンプと、第2のアンプとを有するアレイアンテナシステムにおける前記第2の非線形歪みを抑制する非線形歪み抑制方法であって、
前記第1のアンプは、
前記第1のアンテナ素子に対応する第1の位相シフタから出力された、前記所定方向に指向する前記送信信号及び前記第2の非線形歪みである第1の歪みを増幅して前記第1のアンテナ素子に出力し、
前記第2のアンプは、
前記第2のアンテナ素子に対応する第2の位相シフタから出力された、前記所定方向に指向する前記送信信号及び、前記第2の非線形歪みであり、前記第1の歪みと逆相の第2の歪みを増幅して前記第2のアンテナ素子に出力する、
処理を実行することを特徴とする非線形歪み抑制方法。
【請求項8】
送信信号の帯域に隣接する第1の帯域内の第1の非線形歪みを抑制するDPD(Digital Predistortion)と、
第1のアンテナ素子と第2のアンテナ素子と、を含む複数のアンテナ素子と、
前記送信信号及び、前記帯域から離れ、かつ、前記第1の帯域に隣接する第2の帯域内の第2の非線形歪みに、ウエイトを付与して所定方向に指向する前記送信信号及び前記第2の非線形歪みを形成する、前記複数のアンテナ素子のそれぞれに対応する複数の位相シフタと、
前記第1のアンテナ素子に対応した第1の位相シフタから出力された、前記所定方向に指向する送信信号及び前記第2の非線形歪みである第1の歪みを増幅する第1のアンプと、
前記第2のアンテナ素子に対応した第2の位相シフタから出力された、前記所定方向に指向する前記送信信号及び、前記第2の非線形歪みである、前記第1の歪みと逆相の第2の歪みを増幅する第2のアンプと、
を含むことを特徴とする無線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイアンテナシステム、非線形歪み抑制方法、及び無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アレイアンテナは、5G(5th Generation)ミリ波の周波数帯域(例えば、28GHz帯)の高いデータレートを実現するための主要な技術である。5Gミリ波周波数帯の無線システム内の基地局では、例えば、使用可能な数百MHzのスペクトルの高周波帯域を利用して数百個のアンテナ装置を配備している。
【0003】
無線システム内の、例えば、RU(Radio Unit)に配置されるアレイアンテナは、複数のアンテナ素子を平面上に複数配列して各アンテナ素子の位相を電子的に制御するアンテナ素子の集合体である。アレイアンテナは、各アンテナ素子の放射パターンが隣接するアンテナ素子の放射パターンと強め合うことでメインローブと呼ばれる効果的な放射パターンが形成される。例えば、Tx(Transmitter)アレイアンテナは、アンテナ素子毎に、PA(Power Amplifier)及び位相シフタを備えている。
【0004】
Txアレイアンテナのビームフォーミングは、Tx信号を送信する際に無線チャネルを介して特定のUE(User Equipment)に向かって電波エネルギーを送る技術である。アンテナ素子の出力におけるTx信号の位相及び振幅を調整することで、UE側で受信するTx信号を強め合うコヒーレント合成が行われる。その結果、UEではスループットが高くなる。Txアレイアンテナは、主ビームで放射されるエネルギーを最大化する一方で、サイドローブで放射されるエネルギーを許容可能なレベルまで低減させるものである。
【0005】
Txアレイアンテナ内のPAは、RUの中で最も電力を消費する装置であるため、電力効率が高い方が好ましい。RU内の終段に配置されるPAは、RF(Radio Frequency)信号の増幅効率が高くなると、飽和状態に近い非線形領域で動作することが多くなる。その結果、RF信号がPAの非線形領域を通過する際にTx信号の隣接チャネル漏洩電力比(Adjacent Channel Leakage Ratio; ACLR)やEVM(Error Vector Magnitude)が劣化してしまう。そこで、PAでは、十分な帯域幅でアンテナ素子に電力を供給して高い線形性を確保することで、EVM及びACLRの両方を最小限に抑制できることが求められている。
【0006】
しかしながら、PAの非線形性によって5Gミリ波周波数帯域の帯域内(In-Band)及び帯域外(Out of Band)に非線形歪み、例えば、IMD(相互変調歪み:Intermodulation Distortions)が生じる。帯域内はTx信号の帯域、帯域外はTx信号の帯域に隣接する隣接帯域である。帯域外のIMDは、広帯域である。例えば、帯域外のIMDは、Tx信号の帯域幅に対して帯域の7倍~9倍の周波数帯域である隣接帯域に発生する。そのため、帯域外のIMDは、隣接帯域に割り当てられている他のキャリア事業者の基本周波数のTx信号に干渉してしまう。その結果、帯域外のIMDが複数のキャリア事業者で使用するTx信号に干渉して無線システム全体のスループットが低下してしまうことになる。
【0007】
そこで、DPD(Digital Predistortion)は、アレイアンテナのPAの線形化、EVMの改善、及び隣接帯域での干渉レベルの改善をするためにアレイアンテナシステムの技術分野で幅広く採用されている。DPDは、IMDを補償してPAの増幅効率を高める技術である。
【0008】
しかしながら、5Gミリ波の周波数帯域において広帯域の信号を線形化する場合に、DPDの内、高速クロックで動作する広帯域DPDが必要となる。5Gミリ波の周波数帯域は、Tx信号の帯域内の周波数帯域である帯域と、帯域と隣接する第1の帯域と、帯域と離れ、かつ、第1の帯域と隣接する第2の帯域とを有する。第1の帯域は、帯域の3倍未満の周波数帯域である。第2の帯域は、帯域の3倍の周波数帯域から帯域の7倍又は9倍の周波数帯域までの周波数帯域である。広帯域は、例えば、第2の帯域である。広帯域DPDでは、第1の帯域内のIMD成分である第1のIMD成分は勿論のこと、第2の帯域でのIMD成分である第2のIMD成分として7次IMD又は9次IMDを許容レベルまで抑制できる。尚、許容レベルは、抑制対象のIMD成分がTx信号や他のキャリア事業者のTx信号に影響を与えない程度のレベルである。
【0009】
図12は、広帯域DPD使用時のOFDM信号の周波数帯域毎のPSD(Power Spectrum Density)の関係の一例を示す説明図である。OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)信号は5Gミリ波の周波数帯域で使用する信号である。図12に示す横軸はOFDM信号の周波数帯域、縦軸はPSDである。図12に示す帯域の帯域幅400MHzのTx信号は、中心周波数が、例えば、28GHzのOFDM信号である。Tx信号の帯域は、例えば、27.8GHz~28.2GHzの周波数帯であって400MHzの帯域幅である。第1の帯域(BW2)は、例えば、27.6GHz~27.8GHz、28.2GHz~28.4GHzの周波数帯である。また、第2の帯域は、例えば、27.3GHz~27.6GHz、28.4GHz~28.7GHzの周波数帯である。PAで発生するIMD成分W1を含むTx信号は、図12中の点線で示す成分である。IMD成分は27.3GHzから28.7GHzまでの広帯域幅に含まれている。
【0010】
そこで、広帯域DPDを採用した場合、帯域外である第1の帯域及び第2の帯域のIMD成分W2を図12中の一点鎖線で示すように(約10dB)抑制できる。その結果、広帯域DPDを採用した場合には、例えば、27.3GHz~28.7GHzの周波数帯域全体でIMD成分を許容レベルまで抑制できる。
【0011】
しかしながら、広帯域DPDでは、5Gミリ波の周波数帯域における広帯域信号を線形化する際に高速クロックで動作することになるため、消費電力が大きくなる。そこで、近年、消費電力の大きい広帯域DPDの代替手段として消費電力の小さい狭帯域DPDが提案されている。狭帯域DPDは、低速クロックで動作することになるため、広帯域DPDに比較して消費電力が小さくて済む。
【0012】
図13は、従来のアレイアンテナシステム100の一例を示す説明図である。アレイアンテナシステム100は、5Gミリ周波帯の無線システム内のRUに内蔵されているものとする。図13に示すアレイアンテナシステム100は、S(Serial)/P(Parallel)変換部111と、狭帯域DPD112と、IDFT(Inverse Discrete Fourier Transform)部113と、CP(Cyclic Prefix)挿入部114と、を有する。アレイアンテナシステム100は、アップコンバータ115と、複数の位相シフタ116と、複数のHPA(High Power Amplifier)117と、複数のアンテナ素子118とを有する。アレイアンテナシステム100は、結合部121と、ダウンコンバータ122と、S/P変換部123と、DFT(Discrete Fourier Transform)部124と、更新部125とを有する。HPA117はN個(Nは整数)、位相シフタ116はN個、アンテナ素子118はN個とする。
【0013】
S/P変換部111は、送信データの各ビットをサブキャリアにマッピングするために、シリアルの送信データをパラレルの送信データに変換する。狭帯域DPD112は、S/P変換部111にてマッピングされたパラレルの送信データの各ビットに基づき、Tx信号の帯域に隣接する第1の帯域内の第1のIMD成分を抑制するDPDである。
【0014】
IDFT部113は、第1の帯域内の第1のIMD成分を抑制した後、第1の帯域内の第1のIMD成分の抑制後の周波数領域のTx信号の各ビットをOFDMシンボルのTx信号に変換する。CP挿入部114は、IDFT部113にて変換後のOFDMシンボルのTx信号の後部をコピーしてOFDMシンボルの前にCPを挿入する。
【0015】
アップコンバータ115は、CP挿入後のOFDMシンボルのTx信号を高周波のTx信号にアップコンバートするコンバータである。位相シフタ116は、アンテナ素子118毎に備え、アップコンバート処理後の高周波のTx信号にアンテナ素子118毎のウエイトを付与して所定方向に指向するTx信号を形成する。HPA117は、アンテナ素子118毎に備え、HPA117に対応した位相シフタ116から所定方向に指向するTx信号を増幅するアンプである。アンテナ素子118は、HPA117で増幅した所定方向に指向するTx信号をアンテナ出力する。
【0016】
結合部121は、複数のアンテナ素子118で受信した高周波のRx信号、又はHPA17の出力段からの高周波のフィードバックTx信号を得る。ダウンコンバータ122は、結合部121で得た高周波のRx信号又はフィードバックTx信号をダウンコンバートする。S/P変換部123は、ダウンコンバート処理後のシリアルのRx信号又はフィードバックTx信号をパラレル変換する。DFT部124は、パラレル変換後のOFDMシンボルのRx信号又はフィードバックTx信号から周波数領域のRx信号又はフィードバックTx信号に変換する。更新部125は、変換後のRx信号又はフィードバックTx信号に基づき、第1の帯域内の第1のIMD成分が許容レベルまで抑制するように狭帯域DPD112を制御する。
【0017】
図14は、HPA117におけるTx信号及び第2のIMD成分(第3のIMD成分)の一例を示す説明図である。図14に示すN=“1”のHPA117は、2本のトーン信号で構成するTx信号Fと、2本のトーン信号に隣接する2本の第2のIMD成分AとをN=“1”のアンテナ素子118で出力する。尚、2本の第2のIMD成分Aは第2の帯域で生じるIMD成分である。N=“2”のHPA117は、2本のTx信号Fと、2本の第2のIMD成分AとをN=“2”のアンテナ素子118で出力する。尚、2本の第2のIMD成分Aは第2の帯域で生じるIMD成分である。N=“N”のHPA117は、2本のTx信号Fと、2本の第2のIMD成分AとをN=“N”のアンテナ素子118で出力する。尚、2本の第2のIMD成分Aは第2の帯域で生じるIMD成分である。アンテナ素子118毎に出力する各第2のIMD成分は同一レベルである。
【0018】
更に、RUから到来するTx信号を受信するUEは、RU内の各アンテナ素子118からの信号の内、Tx信号F、F、…Fを受信し、各Tx信号F、F、…Fをコヒーレント合成することで、Tx信号のレベルが強くなる。更に、UEは、各アンテナ素子118からの“1”~“N”の第2のIMD成分A~Aを受信し、A+A+…A、例えばA×N個の第2のIMD成分を受信する。その結果、UEでは、受信する有益なTx信号の強度が強くなることは勿論であるが、受信する所望しない第2のIMD成分の強度も強くなってしまう。
【0019】
つまり、狭帯域DPD112では、第1の帯域内の第1のIMD成分を許容レベルまで抑制できるものの、第2の帯域内の第2のIMD成分を許容レベルまで抑制できない。従って、狭帯域DPD112でIMD成分を抑制できる帯域幅が広帯域DPDに比較して狭くなる。つまり、狭帯域DPD112でIMD成分を抑制できる帯域幅は、3次IMD等の第1のIMDが発生する帯域の3倍を超えない第1の帯域である。
【0020】
図15は、狭帯域DPD使用時のOFDM信号の周波数帯域毎のPSDの関係の一例を示す説明図である。HPA117で発生するIMD成分W1を含むTx信号は図15中の点線で示す成分である。IMD成分は27.3GHzから28.7GHzまでの広帯域幅に含まれている。
【0021】
そこで、狭帯域DPD112を使用した場合、第1の帯域の第1のIMD成分W3が図15中の一点鎖線で示すように許容レベルまで抑制されることになる。しかしながら、狭帯域DPD112では、第2の帯域の第2のIMD成分を許容レベルまで抑制できない。このように抑制されなかった第2の帯域BW3の第2のIMD成分のレベルは、比較的高く、Tx信号の中心周波数(28GHz)のPSDと-30dBcと同等である。従って、第2の帯域での第2のIMD成分が他のキャリア事業者のTx信号にレベル干渉する。その結果、無線システム全体のスループットが低下してしまう。
【0022】
そこで、狭帯域DPD112を使用したアレイアンテナシステム100では、BPF(Band Pass Filter)を使用して第2の帯域での第2のIMD成分を許容レベルまで抑制する方法が提案されている。BPFは、第2の帯域内の5次以上の高次IMD成分である第2のIMD成分(すなわち、従来の狭帯域DPD112では抑制することができないIMD成分)を許容レベルまで抑制できる。
【0023】
図16は、Tx信号の周波数帯域毎のBPFの挿入損失の一例を示す説明図である。図16に示す横軸はTx信号の周波数帯域、縦軸は狭帯域DPD112にBPFを実装した場合の挿入損失である。5Gミリ波帯域向けのBPFは大型である上に挿入損失も大きい。図16においてFR2の28GHz帯域の挿入損失は、m1及びm2のマーカが示す位置でも、通常3dB以上ため、Tx信号の周波数帯域から遠く離れた周波数帯域でIMD成分を抑制するBPFを実装するのが現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0067259号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0369333号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2017/0371102号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
狭帯域DPD112のアレイアンテナシステム100に高い挿入損失のBPFを実装した場合、例えば、PA効率が2倍に低下してしまうため、ほとんどの実用的ケースでは採用できない。また、狭帯域DPD112のアレイアンテナシステム100にBPFを実装した場合、アレイアンテナにおけるHPA117毎にBPFを備える必要がある。5Gミリ波のマッシブMIMOアレイアンテナシステムのPCB(Printed Circuit Board)では、例えば、HPA117の数が128個を超えるため、HPA117毎にBPFを配置するためのスペースを確保するのは困難である。しかも、PCBの表面の配線にBPFを配置することになるが、マイクロストリップ損失はマイクロストリップの長さに比例するため、PCBのスペースを増やすと合計の接続損失も増える。従って、高次IMD成分の抑制について、新たな解決策が求められている。
【0026】
そのため、例えば、第2の帯域で発生する第2のIMD成分を許容レベルまで抑制できる技術が求められているのが実情である。例えば、BPFを使用せずに、第2の帯域で発生する第2のIMD成分を許容レベルまで抑制できる技術が要求される。
【0027】
一つの側面では、広帯域のIMD成分(非線形歪み)を抑制できるアレイアンテナシステム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
一つの態様のアレイアンテナシステムは、送信信号の帯域に隣接する第1の帯域内の第1の非線形歪みを抑制するDPDと、第1のアンテナ素子と第2のアンテナ素子と、を含む複数のアンテナ素子と、を有する。アレイアンテナシステムは、送信信号及び、帯域から離れ、かつ、第1の帯域に隣接する第2の帯域内の第2の非線形歪みに、ウエイトを付与して所定方向に指向する送信信号及び第2の非線形歪みを形成する、複数のアンテナ素子のそれぞれに対応する複数の位相シフタを有する。アレイアンテナシステムは、第1のアンテナ素子に対応した第1の位相シフタから出力された、所定方向に指向する送信信号及び第2の非線形歪みである第1の歪みを増幅する第1のアンプを有する。アレイアンテナシステムは、第2のアンテナ素子に対応する第2の位相シフタから出力された、所定方向に指向する送信信号及び、第2の非線形歪みである、第1の歪みと逆相の第2の歪みを増幅する第2のアンプを有する。
【発明の効果】
【0029】
一つの側面によれば、広帯域での非線形歪みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本実施例の無線システムの一例を示す説明図である。
図2図2は、本実施例のRU内のアレイアンテナシステムの一例を示す説明図である。
図3図3は、HPAの配線構成の一例を示す説明図である。
図4図4は、HPAにおけるTx信号及び第2のIMD成分(第3のIMD成分)の一例を示す説明図である。
図5図5は、本実施例のOFDM信号の周波数帯域毎のPSDの関係の一例を示す説明図である。
図6図6は、Tx信号周波数での負荷インピーダンスを選択するロードプル時の第1のHPAの等価回路の一例を示す図である。
図7図7は、Tx信号周波数での負荷インピーダンスを選択する際のロードプルの一例を示すスミスチャートである。
図8図8は、IMD周波数での負荷インピーダンスを選択するロードプル時の第2のHPAの等価回路の一例を示す図である。
図9図9は、IMD周波数での負荷インピーダンスを選択する際のロードプルの一例を示すスミスチャートである。
図10図10は、IMD周波数でのロードプル等高線及び各第2のHPAのIMD周波数での負荷インピーダンスの一例を示すスミスチャートである。
図11図11は、選択手順の一例を示すフローチャートである。
図12図12は、広帯域DPD使用時のOFDM信号の周波数帯域毎のPSDの一例を示す説明図である。
図13図13は、従来のアレイアンテナシステムの一例を示す説明図である。
図14図14は、HPAにおけるTx信号及び第2のIMD成分(第3のIMD成分)の一例を示す説明図である。
図15図15は、狭帯域DPD使用時のOFDM信号の周波数帯域毎のPSDの一例を示す説明図である。
図16図16は、Tx信号の周波数帯域毎のBPFの挿入損失の一例を示す説明図である。
図17図17は、RUのハードウェア構成の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいて、本願の開示するアレイアンテナシステム等の実施例を詳細に説明する。尚、本実施例により、開示技術が限定されるものではない。また、以下に示す各実施例は、矛盾を起こさない範囲で適宜組み合わせても良い。
【0032】
図1は、本実施例の無線システムの一例を示す説明図である。図1に示す無線システム1は、例えば、ミリ周波数帯の無線システムである。無線システム1は、CU(Centralized Unit)/DU(Distributed Unit)2と、RU(Radio Unit)3と、UE(User Equipment)4と、を有する。RU3とUE4との間のRAN(Radio Access Network)インタフェースは、複数のキャリア事業者にわたって相互運用されることになる。RU3は、無線装置の一例である。なお、CU/DU2とRU3をまとめて、1つの無線装置と表現しても良い。
【0033】
CU/DU2は、図示しないコアネットワークに接続し、UE4へ送信されるデータやUE4から受信されるデータに対してベースバンドの処理を実行する。CU/DU2は、RU3を経由して各UE4と通信する。尚、データは、それぞれ異なるCU/DU2から送信される異なるキャリア事業者のデータであっても良いし、1つのCU/DU2から送信される同一キャリア事業者のデータであっても良い。また、CU/DU2は、CUとDUが一体化されて1つの装置から構成されても良いし、CUとDUが別体として設けられて複数の装置から構成されても良い。CU/DU2及びRU3は、無線システムの基地局装置として機能する。
【0034】
RU3は、UE4へ送信されるデータやUE4から受信されるデータに対してRFの処理を実行する。具体的には、RU3は、周波数帯域が異なる帯域データをCU/DU2から受信し、帯域データに対してRF処理を実行しUE4へ送信する。
【0035】
RU3は、複数のアンテナ素子からなるアレイアンテナシステムを有し、帯域データに対応するビームを形成してUE4との間で無線通信を実行する。このとき、RU3は、帯域データのIMD成分を抑制する歪み補償を実行する。すなわち、RU3は、帯域データの信号帯域内におけるIMD成分を抑制する歪み補償を実行すると共に、帯域データの信号帯域外におけるIMD成分を抑制する歪み補償を実行する。RU3の内部構成については、後に詳述する。UE4は、RU3との間で無線通信を実行する端末装置である。すなわち、UE4は、RU3からTx信号を受信したり、RU3へのRx信号を送信したりする。
【0036】
図2は、本実施例のRU3内のアレイアンテナシステム3Aの一例を示す説明図である。図2に示すアレイアンテナシステム3Aは、S(Serial)/P(Parallel)変換部11と、狭帯域DPD12と、IDFT(Inverse Discrete Fourier Transform)部13と、CP(Cyclic Prefix)挿入部14と、を有する。アレイアンテナシステム3Aは、アップコンバータ15と、複数の位相シフタ16と、複数のHPA(High Power Amplifier)17と、複数のアンテナ素子18とを有する。アレイアンテナシステム3Aは、結合部21と、ダウンコンバータ22と、S/P変換部23と、DFT(Discrete Fourier Transform)部24と、更新部25とを有する。HPA17はN個(Nは整数)、位相シフタ16はN個、アンテナ素子18はN個である。
【0037】
S/P変換部11は、送信データの各ビットをサブキャリアにマッピングするために、シリアルの送信データをパラレルの送信データに変換する。狭帯域DPD12は、S/P変換部11にてマッピングされたパラレルの送信データの各ビットに基づき、Tx信号の帯域に隣接する第1の帯域内の第1のIMD成分を抑制するDPDである。尚、狭帯域DPD12では、第1の帯域内の第1のIMD成分の他に、第2の帯域内の第2のIMD成分を若干抑制できる。しかしながら、狭帯域DPD12では、第2のIMD成分が許容レベルまで抑制できるものではない。なお、帯域は、所定の帯域幅を有する。また、第1の帯域は、第1の帯域幅を有する。また、第2の帯域は、第2の帯域幅を有する。
【0038】
IDFT部13は、第1の帯域内の第1のIMD成分を抑制した後、第1のIMD成分抑制後の周波数領域のTx信号の各ビットをOFDMシンボルのTx信号に変換する。CP挿入部14は、IDFT部13にて変換後のOFDMシンボルのTx信号の後部をコピーしてOFDMシンボルの前にCPを挿入する。
【0039】
アップコンバータ15は、CP挿入後のOFDMシンボルのTx信号を高周波のTx信号にアップコンバートするコンバータである。位相シフタ16は、アンテナ素子18毎に備え、アップコンバート処理後の高周波のTx信号にアンテナ素子18毎のウエイトを付与して所定方向に指向するTx信号を形成する。HPA17は、アンテナ素子18毎に備え、HPA17に対応した位相シフタ16から出力された所定方向に指向するTx信号を増幅するアンプである。アンテナ素子18は、HPA17で増幅した所定方向に指向するTx信号をアンテナ出力する。
【0040】
位相シフタ16は、Tx信号及び、帯域と離れ、かつ、第1の帯域に隣接する第2の帯域(BW3)内の第2のIMD成分に、アンテナ素子18毎のウエイトを付与して所定方向に指向するTx信号及び第2のIMD成分を形成する。アンテナ素子18は、N個の第1のアンテナ素子18Aと、N個の第2のアンテナ素子18Bとを有する。HPA17は、N/2個の第1のHPA17Aと、N/2個の第2のHPA17Bとを有する。
【0041】
第1のアンテナ素子18Aに対応した第1のHPA17Aは、第1のアンテナ素子18Aに対応する位相シフタ16から出力された所定方向に指向するTx信号及び第2の帯域BW3内の第2のIMD成分を増幅して第1のアンテナ素子18Aに出力する。第1のHPA17Aは、第1のアンプである。
【0042】
第2のアンテナ素子18Bに対応した第2のHPA17Bは、第2のアンテナ素子18Bに対応した位相シフタ16から出力された所定方向に指向するTx信号及び、第2のIMD成分と逆相の第3のIMD成分を増幅して第2のアンテナ素子18Bに出力する。第2のHPAは、第2のアンプである。
【0043】
つまり、第1のアンテナ素子18Aは、第1のHPA17Aが増幅した所定方向に指向するTx信号及び第2のIMD成分を出力する。第2のアンテナ素子18Bは、第2のHPA17Bが増幅した所定方向に指向するTx信号及び、逆相の第3のIMD成分を出力する。つまり、UE4は、RU3内の第1のアンテナ素子18Aからの所定方向に指向するTx信号及び第2のIMD成分と、第2のアンテナ素子18Bからの所定方向に指向するTx信号及び逆相の第3のIMD成分とを受信することになる。なお、第2のIMD成分は、第2の非線形歪みである第1の歪みの一例である。また、第3のIMD成分は、第2の非線形歪みである第2の歪みの一例である。
【0044】
そして、UE4は、第1のアンテナ素子18Aからの所定方向に指向するTx信号と、第2のアンテナ素子18Bからの所定方向に指向するTx信号とのベクトル和が最大になるようにコヒーレント合成することで高い強度でTx信号を受信することになる。これに対して、UE4は、第1のアンテナ素子18Aからの第2のIMD成分と、第2のアンテナ素子18Bからの逆相の第3のIMD成分とを合成して第2のIMD成分を第3のIMD成分で打ち消す。つまり、UE4は、第2のIMD成分と第3のIMD成分とのベクトル和が零になる。その結果、UE4は、受信するTx信号の強度を確保しながら、受信する第2のIMD成分を許容レベル、例えば、零レベルまで抑制できる。
【0045】
結合部21は、複数のアンテナ素子18で受信した高周波のRx信号、又はHPA17の出力段からの高周波のフィードバックTx信号を得る。ダウンコンバータ22は、結合部21で得た高周波のRx信号又はフィードバックTx信号をダウンコバートする。S/P変換部23は、ダウンコンバート処理後のシリアルのRx信号又はフィードバックTx信号をパラレル変換する。DFT部24は、パラレル変換後のOFDMシンボルのRx信号又はフィードバックTx信号から周波数領域のRx信号又はフィードバックTx信号に変換する。更新部25は、変換後のRx信号又はフィードバックTx信号に基づき、第1の帯域BW2内の第1のIMD成分が許容レベルまで抑制するように狭帯域DPD12を制御する。
【0046】
図3は、HPA17の配線構成の一例を示す説明図である。HPA17は、N/2個の第1のHPA17Aと、N/2個の第2のHPA17Bとを有する。Tx信号毎に第1のHPA17A及び第2のHPA17Bを備えているものとする。第1のHPA17Aは、配線パターン171Aで構成する第1の負荷171を有する。第1のHPA17Aは、所定電流の供給に応じた第1の負荷171の第1の負荷インピーダンスに応じて2本のTx信号及び2本の第2のIMD成分を第1のアンテナ素子18Aに出力する。
【0047】
これに対して、第2のHPA17Bは、配線パターン171Aと、配線パターン171Aに接続するスタブ172Aと有する第2の負荷172を有する。第2のHPA17Bは、第1の負荷171である配線パターン171Aが共通であるため、スタブ172Aの負荷量を調整することで、所定電流の供給に応じた第2の負荷172の第2の負荷インピーダンスを調整する。そして、第2のHPA17Bは、所定電流の供給に応じた第2の負荷172の第2の負荷インピーダンスに応じて2本のTx信号及び2本の第3のIMD成分を第2のアンテナ素子18Bに出力する。尚、第3のIMD成分は、第2のIMD成分と逆相のIMD成分である。
【0048】
図4は、HPA17におけるTx信号及び第2のIMD成分(第3のIMD成分)の一例を示す説明図である。第1のHPA17Aは、所定電流の供給に応じた第1の負荷171の第1の負荷インピーダンスに応じて2本のTx信号F及び2本の第2のIMD成分Aを第1のアンテナ素子18Aに出力する。第1のHPA17Aに対応する第2のHPA17Bは、所定電流の供給に応じた第2の負荷172の第2の負荷インピーダンスに応じて2本のTx信号(F/2)+1及び2本の第3のIMD成分(A/2)+1を第2のアンテナ素子18Bに出力する。そして、受信側のUE4は、第1のアンテナ素子18AからのTx信号F及び第2のIMD成分Aを受信すると共に、第2のアンテナ素子18BからのTx信号(F/2)+1及び第3のIMD成分(A/2)+1を受信する。第1のHPA17Aから出力するTx信号Fと第2のHPA17Bから出力するTx信号(F/2)+1とは同相関係にある。従って、UE4では、第1のHPA17Aに対応するアンテナ素子18Aから出力するTx信号Fと第2のHPA17Bに対応するアンテナ素子18Bから出力するTx信号(F/2)+1とのベクトル和が最大となるTx信号を受信することになる。
【0049】
これに対して、第1のHPA17Aから出力する第2のIMD成分Aと第2のHPA17Bから出力する第3のIMD成分(A/2)+1とは逆相関係にある。従って、UE4では、第1のHPA17Aから出力する第2のIMD成分Aと第2のHPA17Bから出力する第3のIMD成分(A/2)+1とのベクトル和が零となる。つまり、UE4は、第2のIMD成分Aを第3のIMD成分(A/2)+1で打ち消すことになる。
【0050】
個々の第1のHPA17Aの第2のIMD成分Aの位相は、個々の第2のHPA17Bの第3のIMD成分(A/2)+1の位相と逆相の関係にある。UE4では、N/2個の第1のHPA17Aの第2のIMD成分とN/2個の第2のHPA17Bの第3のIMD成分とでN/2個の第1のHPA17Aからの第2のIMD成分とN/2個の第2のHPA17Bの第3のIMD成分との合計ベクトル和が零となる。
【0051】
第1のHPA17Aと第2のHPA17Bとの間で第2のIMD成分(第3のIMD成分)の位相を調整する方法としては、Φ*(N/2+n)=Φ(n+π)である(ここで、n=1,…,N/2)。第3のIMD成分の位相を調整することで、UE4側で対応する第1のHPA17Aの第2のIMD成分と第2のHPA17Bの逆相の第3のIMD成分とを合成し、第2のIMD成分を打ち消す。
【0052】
OFDM信号の周波数帯域は、Tx信号の帯域内の帯域と、帯域と隣接する第1の帯域と、帯域と離れ、かつ、第1の帯域と隣接する第2の帯域とを有する。第1の帯域は、帯域の3倍未満の周波数帯域である。第2の帯域は、帯域の3倍の周波数帯域から帯域の7倍又は9倍の周波数帯域までの広帯域である。
【0053】
図5は、本実施例のOFDM信号の周波数帯域毎のPSDの関係の一例を示す説明図である。OFDM信号は5Gミリ波の周波数帯域で使用する信号である。横軸はOFDM信号の周波数帯域、縦軸はPSD(Power Spectrum Density)である。図5に示す帯域BW1の帯域幅400MHzのTx信号は、例えば、中心周波数が28GHzのOFDM信号である。Tx信号の帯域BW1は、例えば、27.8GHz~28.2GHzの周波数帯であって400MHzの帯域幅である。第1の帯域BW2は、例えば、27.6GHz~27.8GHz、28.2GHz~28.4GHzの周波数帯である。また、第2の帯域BW3は、例えば、27.3GHz~27.6GHz、28.4GHz~28.7GHzの周波数帯である。IMD成分は27.3GHzから28.7GHzまでの広帯域幅に含まれている。
【0054】
狭帯域DPD12では、第1の帯域BW2内の第1のIMD成分を許容レベルまで抑制できるものの、第2の帯域BW3内の第2のIMD成分を許容レベルまで抑制できない。そこで、第2のHPA17Bでは、第3のIMD成分を出力することで、受信側のUE4で受信した第2のIMD成分を第3のIMD成分で打ち消すことで、第2の帯域BW3内の第2のIMD成分を許容レベル、例えば零レベルまで抑制できる。その結果、例えば、27.3GHz~28.7GHzのOFDM信号の周波数帯域全体でIMD成分を許容レベルまで抑制できる。
【0055】
UE4は、IMD周波数fIMDの第2のIMD成分(すなわち、第2の帯域BW3内の第2のIMD成分)のみを打ち消しながら、Tx信号周波数f0のスペクトル成分を残すことになる。つまり、UE4は、第1のHPA17Aから出力する第2のIMD成分を第2のHPA17Bから出力する第3のIMD成分で打ち消すことで、第2のIMD成分を許容レベルまで抑制できる。第2のIMD成分は、Tx信号周波数f0とは異なるIMD周波数fIMDを有しているため、IMD周波数fIMDにおける第2のHPA17Bの第2の負荷172の第2の負荷インピーダンスを変えることで逆相の第3のIMD成分を出力する。その結果、UE4は、第2の負荷172に応じた第3のIMD成分を用いて第1のHPA17Aの第1の負荷171に応じた第2のIMD成分を許容レベルまで抑制できる。
【0056】
次に各HPA17の第2のIMD成分(第3のIMD成分)の位相を調整する方法について詳細に説明する。第2のIMD成分の位相調整は、ロードプル(load pulling)を使用して所定のIMD周波数fIMDにおける負荷インピーダンスZ@(fIMD)を変化させることで実現する。UE4は、第1のHPA17A及び第2のHPA17Bの出力のTx信号周波数f0のTx信号を強め合う必要がある。そこで、Tx信号周波数f0における負荷インピーダンスZ@(f0)は第1のHPA17Aの第1の負荷171と第2のHPA17Bの第2の負荷172とでほぼ同じにしておく必要がある。
【0057】
図6は、Tx信号周波数での負荷インピーダンスを選択するロードプル時の第1のHPA17Aの等価回路の一例を示す図である。図7は、Tx信号周波数での負荷インピーダンスを選択する際のロードプルの一例を示すスミスチャートである。図6に記載の通り、第1のHPA17Aの等価回路は、電界効果トランジスタと、可変負荷と、50Ωの抵抗とで表現できる。なお、Tx信号周波数f0のロードプルを実行することで、図7に示すように第1のHPA17A内の第1の負荷インピーダンスZ@(f0)を得る。つまり、ロードプルのデータ結果に基づき、Tx信号周波数f0での所定レベルのTx信号及び第2のIMD成分を出力するための第1のHPA17A内の第1の負荷インピーダンスZ@(f0)を決定する。尚、所定レベルとは、例えば、供給電力及びPAEを最大にするレベルである。そして、第1のHPA17Aは、所定電流に応じて第1の負荷インピーダンスZ@(f0)を発生する第1の負荷171を選択する。
【0058】
図8は、IMD周波数での負荷インピーダンスを選択するロードプル時の第2のHPA17Bの等価回路の一例を示す図である。図9は、IMD周波数での負荷インピーダンスを選択する際のロードプルの一例を示すスミスチャートである。図8に記載の通り、第2のHPA17Bの等価回路は、電界効果トランジスタと、可変負荷と、50Ωの抵抗とで表現できる。IMD周波数fIMDのロードプルを実行することで、図9に示すように第2のHPA17B内の第2の負荷インピーダンスZ@(fIMD)を得る。つまり、ロードプルのデータ結果に基づき、IMD周波数fIMDでの所定レベルの第2のIMD成分を出力するIMD周波数fIMDのロードプル等高線を得る。
【0059】
図10は、IMD周波数でのロードプル等高線及び各第2のHPA17BのIMD周波数での負荷インピーダンスの一例を示すスミスチャートである。図10に示すIMD周波数fIMDのロードプル等高線にN個の等間隔の点(星印)を配置することで、IMD周波数fIMDのN個の第2の負荷インピーダンスZ@(fIMD)を選択する。尚、@はNである。IMD周波数fIMDのN個の第2の負荷インピーダンスZ@(fIMD)を考慮した場合、IMD周波数fIMDの位相Φnは、n(2π/N)となる。その結果、第1のHPA17Aから出力される所定レベルの第2のIMD成分の逆相となる第3のIMD成分を得るための第2のHPA17Bの第2の負荷インピーダンスZ@(fIMD)を決定する。第2のHPA17Bは、所定電流に応じた第2の負荷インピーダンスZ@(fIMD)を発生する第2の負荷172を選択する。
【0060】
図11は、選択手順の一例を示すフローチャートである。図11に示す選択手順は、各HPA17に使用する第1の負荷171及び第2の負荷172を選択する手順である。選択手順として、Tx信号周波数f0でのロードプルを実行する(ステップS11)。選択手順として、Tx信号周波数f0でのロードプルを実行した後、Tx信号周波数f0でのロードプルのデータ結果に基づき、図7に示すように、所定電流に応じたTx信号周波数f0の第1の負荷インピーダンスを選択する(ステップS12)。その結果、Tx信号周波数f0の第1の負荷インピーダンスに応じた第1の負荷171を選択する。尚、第1の負荷171は、各HPA17で共通する負荷である。
【0061】
更に、選択手順としては、IMD周波数fIMDでのロードプルを実行する(ステップS13)。選択手順としては、IMD周波数fIMDでのロードプルを実行した後、IMD周波数fIMDでのロードプルのデータ結果に基づき、図9に示すようにIMD周波数fIMDのロードプル等高線を得る(ステップS14)。更に、選択手順としては、IMD周波数fIMDのロードプル等高線上からN個の等間隔の第2の負荷インピーダンスを選択する(ステップS15)。
【0062】
更に、選択手順としては、図10に示すようにN個の等間隔の第2の負荷インピーダンスからN個のIMD周波数fIMDの位相を得る(ステップS16)。つまり、第2のIMD成分のIMD周波数fIMDに応じた第2の負荷インピーダンスや、第2のIMD成分と逆相の第3のIMD成分のIMD周波数fIMDに応じた第2の負荷インピーダンスを決定する。更に、選択手順としては、Tx信号周波数f0の負荷インピーダンス及びIMD周波数fIMDの負荷インピーダンスに基づき、HPA17毎の負荷インピーダンスを決定する(ステップS17)。
【0063】
そして、選択手順としては、HPA17毎の負荷インピーダンスに応じた配線パターン171A及びスタブ172Aを決定し(ステップS18)、この手順を終了する。その結果、第2のIMD成分及び、Tx信号周波数f0を得るための第1の負荷インピーダンスに応じた第1の負荷171を有する第1のHPA17Aを準備する。更に、第2のIMD成分を打ち消す逆相の第3のIMD成分及び、Tx信号周波数f0を得るための第2の負荷インピーダンスに応じた第2の負荷172を有する第2のHPA17Bを準備する。
【0064】
その結果、第1のHPA17Aは、Tx信号及び第2のIMD成分を第1のアンテナ素子18Aから出力する。更に、第2のHPA17Bは、第1のHPA17Aと同相のTx信号及び、第1のHPA17Aから出力する第2のIMD成分と逆相の第3のIMD成分を第2のアンテナ素子18Bから出力する。
【0065】
本実施例のアレイアンテナシステム3Aでは、狭帯域DPD12を使用して第1の帯域BW2内の第1のIMD成分を許容レベルまで抑制し、HPA17を使用して第2の帯域BW3内の第2のIMD成分を許容レベルまで抑制できる。しかも、従来の広帯域DPDを採用した場合に比較して、本実施例のアレイアンテナシステム3Aでは、消費電力を大幅に削減できる。また、本実施例のアレイアンテナシステム3Aでは、BPFを使用しなくても第2の帯域BW3内の第2のIMD成分を許容レベルまで抑制できる。
【0066】
しかも、第1のHPA17Aは、Tx信号及び第2のIMD成分を第1のアンテナ素子18Aから出力すると共に、第2のHPA17Bは、Tx信号及び第3のIMD成分を第2のアンテナ素子18Bから出力する。そして、UE4は、第1のアンテナ素子18AからのTx信号及び第2のアンテナ素子18BからのTx信号を受信し、受信したTx信号をコヒーレント合成することで、有益なTx信号の強度を高めることができる。UE4は、第1のアンテナ素子18Aからの第2のIMD成分及び第2のアンテナ素子18Bからの第3のIMD成分を受信し、受信した第2のIMD成分を第3のIMD成分で打ち消す。その結果、広帯域の第2のIMD成分を抑制することで、第2のIMD成分による他のキャリア事業者のTx信号へのレベル干渉を回避することで、無線システム1全体のスループットの向上を図ることができる。
【0067】
第1のHPA17Aは、所定電流に応じて、所定方向に指向するTx信号及び第2のIMD成分を増幅して出力する第1の負荷インピーダンスを有する第1の負荷171を有する。第2のHPA17Bは、所定電流に応じて、所定方向に指向するTx信号及び第3のIMD成分を増幅して出力する、第1の負荷インピーダンスと異なる第2の負荷インピーダンスを有する第2の負荷172を有する。その結果、負荷インピーダンスを変えることで、逆相の第3のIMD成分を出力できる。
【0068】
第1の負荷171は、所定電流に応じた第1の負荷インピーダンスを有する配線パターン171Aを有する。第2の負荷172は、配線パターン171Aと、配線パターン171Aと接続するスタブ172Aとを有し、所定電流に応じて第2の負荷インピーダンスを有する。その結果、配線パターン171Aに接続するスタブ172Aを調整することで、逆相の第3のIMD成分を出力できる。
【0069】
尚、第2のHPA17Bは、UE4側で第1のHPA17Aが出力する第2のIMD成分を打ち消すべく、逆相の第3のIMD成分を出力する負荷インピーダンスを得るように通常の配線パターン171Aに接続するスタブ172Aを調整する場合を例示した。しかしながら、第2のIMD成分を完全に打ち消さなくても良く、UE4側で、許容レベルまで第2のIMD成分が小さくなる第3のIMD成分が発生する負荷インピーダンスとなる第2の負荷172であればよく、適宜変更可能である。
【0070】
第1の負荷171は、所定レベルの第2のIMD成分を出力し、第2の負荷172は第2のIMD成分をUE4側で打ち消す逆相の第3のIMD成分が出力するように負荷インピーダンスを調整する場合を例示した。しかしながら、負荷インピーダンスの調整に限定されるものではなく、反射係数を調整しても良く、適宜変更可能である。例えば、第1の負荷171は、所定方向に指向するTx信号のベクトル和が最大になる第1の反射係数を有すると共に、第2の負荷172は、第2の帯域BW3のIMD成分のベクトル和が小さくなる第2の反射係数を有するようにしても良い。反射係数Γは、例えば、(Z-Z)/(Z+Z)で表現できる。ZはHPA17の負荷インピーダンス、Zは目標インピーダンス50Ω、例えば、(50+j・0)Ωである。
【0071】
第1のHPA17Aは、第1の反射係数を有する第1の負荷171を使用することで、Tx信号及び第2のIMD成分を第1のアンテナ素子18Aから出力する。更に、第2の反射係数を有する第2の負荷172を使用することで、第2のHPA17Bは、Tx信号及び第3のIMD成分を第2のアンテナ素子18Bから出力する。そして、UE4は、第1のアンテナ素子18AからのTx信号及び第2のアンテナ素子18BからのTx信号を受信し、受信したTx信号をコヒーレント合成することで、有益なTx信号の強度を高めることができる。UE4は、第1のアンテナ素子18Aからの第2のIMD成分及び第2のアンテナ素子18Bからの第3のIMD成分を受信し、受信した第2のIMD成分を第3のIMD成分で打ち消す。その結果、第3のIMD成分を使用して広帯域の第2のIMD成分を抑制することで、第2のIMD成分による他のキャリア事業者のTx信号へのレベル干渉を回避することで、無線システム1全体のスループットの向上を図ることができる。
【0072】
また、図示した各部の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各部の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0073】
本実施例を採用するRU3のハードウェア構成について説明する。図17は、RU3のハードウェア構成の一例を示す説明図である。図17に示すように、RU3は、ハードウェアの構成要素として、例えば、アンテナ200を備えるRF(Radio Frequency)回路210と、CPU(Central Processing Unit)220と、DSP(Digital Signal Processor)230と、メモリ240と、ネットワークIF(Interface)250とを有する。CPU220は、バス260を介して各種信号やデータ信号の入出力が可能なように接続されている。メモリ240は、例えば、SDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)等のRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びフラッシュメモリの少なくともいずれかを含み、RU3の処理を制御するプログラム等を格納する。
【0074】
なお、図2に示すアレイアンテナシステム3Aは、例えば、アンテナ200、RF回路210、CPU220、及びDSP230によって実現される。例えば、アレイアンテナシステム3Aにおいて、デジタル処理の部分をDSP230で実現され、無線信号の処理に関しては、RF回路210で実現される。また、例えば、CPU220の制御に応じて、アレイアンテナシステム3Aの動作が制御される。
【0075】
また、ネットワークIF250は、例えば、CU/DU2からの信号等を送受信するために用いられる。
【符号の説明】
【0076】
3A アレイアンテナシステム
4 UE
12 狭帯域DPD
16 位相シフタ
18 アンテナ素子
17 HPA
17A 第1のHPA
17B 第2のHPA
18A 第1のアンテナ素子
18B 第2のアンテナ素子
171 第1の負荷
172 第2の負荷
BW1 帯域
BW2 第1の帯域
BW3 第2の帯域
図1
図2
図3
図4
図5
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