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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068969
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】繊維強化セメント板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/52 20060101AFI20240514BHJP
   B28B 11/12 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B28B1/52
B28B11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179686
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000135335
【氏名又は名称】株式会社ノザワ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】紀国 友喜
【テーマコード(参考)】
4G052
4G055
【Fターム(参考)】
4G052GA02
4G052GA11
4G052GA23
4G052GB34
4G052GB42
4G052GB51
4G052GB53
4G052GB86
4G052GC02
4G055AA02
4G055AA10
4G055AB05
4G055AC01
4G055AC09
4G055BA01
4G055BA12
4G055BA32
4G055BA62
(57)【要約】
【課題】 繊維強化セメント板の表面に良好な意匠性および良好な質感の模様が得られる製造方法を提供する。
【解決手段】 セメントと骨材と補強繊維とを原料の主材とするセメントスラリーを抄き上げたセメントスラリー層をメーキングロールに積層して製造する繊維強化セメント板の製造方法であって、メーキングロールに抄き上げたセメントスラリー層を積層するにあたり、メーキングロールから展開した際に生板の表層となるセメントスラリー層の内面に着色部を設け、着色部を設けた表層とセメントスラリー層の基材層とを積層して生板を製造し、生板に所定の強度が付与された繊維強化セメント板の表層を所定の深さで研削して着色部の模様が表面に現れるように仕上げる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと骨材と補強繊維とを原料の主材とするセメントスラリーを抄き上げたセメントスラリー層をメーキングロールに積層して製造する繊維強化セメント板の製造方法であって、
前記メーキングロールに前記セメントスラリー層を積層するにあたり、該メーキングロールから展開した際に生板の表層となる前記セメントスラリー層の内面に着色部を設け、
前記着色部を設けた前記表層と前記セメントスラリー層の基材層とを積層して前記生板を製造し、
前記生板に所定の強度が付与された繊維強化セメント板の前記表層を所定の深さで研削して前記着色部の模様が表面に現れるように仕上げる、
繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項2】
前記セメントスラリーを抄造用フェルトで抄造し、
前記着色部は、前記抄造用フェルト上で前記セメントスラリー層に着色して設ける、
請求項1に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項3】
前記セメントスラリーを抄造する複数のシリンダを有し、
前記着色部は、前記シリンダの間において前記抄造用フェルト上に設ける、
請求項2に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項4】
前記表層の前記セメントスラリー層は、100乃至300ミクロンの厚みである、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項5】
前記着色部は、顔料と染料と塗料とのいずれかを単独で使用したもの、または顔料と染料と塗料とセメントとを混合したものである、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項6】
前記着色部は、スプレーガンまたはローラーもしくはフローコーターのいずれかで設ける、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、セメント系ボードなどの繊維強化セメント板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スレート板などの繊維強化セメント板の付加価値を高めるために、表面に塗装をしたり化粧シートを貼り付けて表面化粧をする場合がある。繊維強化セメント板の表面化粧においては、表面にポリエステル樹脂やジアリルフタレート(DAP)樹脂を加工したり、アクリルウレタン塗料等の塗料を塗装したりする場合がある。また、繊維強化セメント板の表面に、突き板シート、オレフィンシート、ウレタンコート紙等の化粧シートをエチレン酢酸ビニル系等の接着剤で貼り付けたりする場合もある。しかし、繊維強化セメント板は、単体では不燃性能を保有しているものの、表面に塗装を行ったり化粧シートを貼り付けたりした場合には、不燃性能を損なうおそれがある。
【0003】
また、建築材料に用いられる繊維強化セメント板は、セメントの素材感を生かした仕上げも好まれる傾向にあり、表面に塗装を行わない仕上げも行われている。しかし、繊維強化セメント板は素材がセメント色のグレーであることから、グレーの素材感しか得ることができず良好な意匠性を得るのは難しい。
【0004】
なお、この種の先行文献として、複数個のシリンダにて無機質スラリーを順次抄き上げて多層抄造するにあたり、最終段のシープシリンダにより着色した無機質スラリーを最表層に抄き上げるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、他の先行文献として、繊維(石綿)・セメント等の無機質材料を主体とする混合スラリーを抄造して無機質板を製造する工程において、フェルト上に形成された基板が未だ流動性を有する時点で、基板上に、基板と同質系材料を主体とし、これに所望の着色剤、添加剤を加えて調整した着色スラリーを吹き付けた後、過剰水を吸引脱水することによって基板表面に形成された着色模様を固定するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭53-121855号公報
【特許文献2】特開昭57-196761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の場合、着色した無機質スラリーを最表層に抄き上げることから、表面が均一な着色層となってしまい、セメント系の素材感が低下して良好な意匠性および良好な質感を得ることは難しい。
【0008】
また、上記特許文献2の場合、抄造によって積層する表層に着色スラリーを吹き付けて基板表面に自然石模様を得るための着色模様を固定しているので、セメント系の素材感で良好な意匠性および良好な質感を得ることは難しい。
【0009】
そこで、本出願は、繊維強化セメント板の表面に良好な意匠性および良好な質感の模様が得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願の一態様に係る繊維強化セメント板の製造方法は、セメントと骨材と補強繊維とを原料の主材とするセメントスラリーを抄き上げたセメントスラリー層をメーキングロールに積層して製造する繊維強化セメント板の製造方法であって、前記メーキングロールに抄き上げたセメントスラリー層を積層するにあたり、該メーキングロールから展開した際に生板の表層となる前記セメントスラリー層の内面に着色部を設け、前記着色部を設けた前記表層と前記セメントスラリー層の基材層とを積層して前記生板を製造し、前記生板に所定の強度が付与された繊維強化セメント板の前記表層を所定の深さで研削して前記着色部の模様が表面に現れるように仕上げる。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「生板」は、メーキングロールに巻き取られて所定の厚みに積層後に切断され、ボード状に展開された未硬化の状態の板材をいう。
【0011】
この構成により、セメントと骨材と補強繊維とを原料に含むセメントスラリーを抄造し、メーキングロールに積層するにあたり、表層のセメントスラリー層の内面に着色部を設けることができる。ここで、表層のセメントスラリー層の内面とは、表層と基材層が積層されたときに表層の基材層と接する側の面をいう。そして、表層を所定深さで研削することにより、繊維強化セメント板の表面を、セメントスラリー層と着色部とが融合した濃淡模様の表面とすることができる。表面の模様は、着色部がセメントスラリー層を透過する度合いが均一ではない濃淡模様にでき、均一な着色ではなく、セメントスラリー層と着色部が混ざり合った複合模様にできる。よって、繊維強化セメント板に、セメント系の素材感で良好な意匠性および良好な質感を持たせることができる。
【0012】
また、前記セメントスラリーを抄造用フェルトで抄造し、前記着色部は、前記抄造用フェルト上で前記セメントスラリー層に着色して設けるようにしてもよい。
【0013】
このように構成すれば、着色部を表層のセメントスラリー層の内面に設けることが、抄造用フェルト上において効率よくできる。
【0014】
また、前記セメントスラリーを抄造する複数のシリンダを有し、前記着色部は、前記シリンダの間において前記抄造用フェルト上に設けるようにしてもよい。
【0015】
このように構成すれば、着色部を表層のセメントスラリー層の内面に設けることが、抄造のシリンダ間において効率よくできる。
【0016】
また、前記表層の前記セメントスラリー層は、100乃至300ミクロンの厚みであってもよい。
【0017】
このように構成すれば、表層のセメントスラリー層の100乃至300ミクロンを任意の所定深さで研削することで、表面に現れる着色部の濃淡模様を表層の厚みで異ならせることができる。よって、繊維強化セメント板の表面に現れる濃淡模様のバリエーションを増やすことができる。
【0018】
また、前記着色部は、顔料と染料と塗料とのいずれかを単独で使用したもの、または顔料と染料と塗料とセメントとを混合したものであってもよい。
【0019】
このように構成すれば、着色部を、顔料と染料と塗料とのいずれか単独、またはこれらとセメントとを混合した様々な色とすることで、色のバリエーションを増やすことができる。
【0020】
また、前記着色部は、スプレーガンまたはローラーもしくはフローコーターのいずれかで設けてもよい。
【0021】
このように構成すれば、着色部を、スプレーガンまたはローラーもしくはフローコーターのいずれかで効率的に設けることができる。
【発明の効果】
【0022】
本出願によれば、繊維強化セメント板の表面に着色部によって生じる濃淡模様を形成することができ、良好な意匠性および良好な質感の繊維強化セメント板を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本出願の一実施形態に係る繊維強化セメント板の製造方法に用いる製造設備の概略構成を示す模式図である。
図2図2(A)、(B)は、図1に示す製造設備において繊維強化セメント板に着色部を設ける他の例を示す図面である。
図3図3は、図1に示す抄造装置で製造した繊維強化セメント板の断面図であり、(A)は第1例の着色部を示す断面図、(B)は第2例の着色部を示す断面図である。
図4図4は、図3(A)に示す繊維強化セメント板の表層を研削する状態を示す模式図であり、(A)は研削前の断面図、(B)は研削後の断面図である。
図5図5は、本出願に係る製造方法の第1条件で製造した繊維強化セメント板の表面に形成された濃淡模様を示す写真である。
図6図6は、本出願に係る製造方法の第2条件で製造した繊維強化セメント板の表面に形成された濃淡模様を示す写真である。
図7図7は、本出願に係る製造方法の第3条件で製造した繊維強化セメント板の表面に形成された濃淡模様を示す写真である。
図8図8は、従来の繊維強化セメント板の表面を示す写真である。
図9図9は、図8に示す従来の繊維強化セメント板の表面に着色部を直接設けた場合の繊維強化セメント板の表面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本出願に係る繊維強化セメント板80の製造方法の一実施形態について、図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、繊維強化セメント板80を3つのスラリー槽12に設けられたシリンダ13で抄造する製造設備1を例に説明する。製造設備1の構成は一例であり、この実施形態に限定されるものではない。
【0025】
<製造設備の構成>
図1は、一実施形態に係る繊維強化セメント板80の製造方法に用いる製造設備1の概略構成を示す模式図である。この実施形態の製造設備1は、抄造により繊維強化セメント板80の生板70を製造する抄造装置10を有する。抄造装置10は、抄造用フェルト11が矢印vで示すように「上流方向」から「下流方向」へ送られる。抄造装置10は、抄造用フェルト11をスラリー槽12に送り、スラリー槽12に溜められたセメントスラリー14を、シリンダ13を介して抄造用フェルト11に抄き上げる。抄造用フェルト11は、複数のスラリー槽12において複数回の抄き上げが行われ、表面に所定厚のセメントスラリー層が形成された後、メーキングロール15に巻き取られる。
【0026】
<着色部の設け方>
図1に示す抄造装置10において、着色部90の設け方について説明する。以下の説明における着色部90は、メーキングロール15に基材層81を積層した後に設ける例を主に説明する。この実施形態は、メーキングロール15での巻き終わりのセメントスラリー層に着色部90を設けて表層82として積層する例である。この場合、メーキングロール15の外周側に着色部90を設けたスラリー層が積層される。着色部90は、着色装置であるスプレーガン60で設ける例を説明する。着色部90は、繊維強化セメント板80の表層82となるセメントスラリー層の内面に設けられる。この実施形態の着色部90は、着色スラリー61で設ける例であり、抄造用フェルト11への着色スラリー61の吹き付けをスプレーガン60で行っている。すなわち、抄造用フェルト11によって抄造されたセメントスラリーによって基材層の部分をメーキングロール15に積層した後、抄造用フェルト11に向けてスプレーガン60で着色スラリー61が吹き付けられた表層部が積層される。着色スラリー61は、スプレーガン60によって、破線で示す着色部90のようにメーキングロール15の積層1周分の長さに渡って吹き付けられる。その後、着色部90を設けたセメントスラリー層がメーキングロール15に積層され、表層82が形成される。なお、表層82は、メーキングロール15での基材層81の積層が完了するのと同時に積層が始まるよう、表層82となるセメントスラリー層に着色部90を設けるタイミングを調整する。
【0027】
この例の場合、3台のシリンダ13の後流側に設けられたスプレーガン60で着色部90が設けられるため、3台分のシリンダ13で抄かれたセメントスラリー層に着色部90が設けられ、メーキングロール15に積層される。このため、着色部90の表面側に3層のセメントスラリー層が積層された表層82となる。繊維強化セメント板80は、表層82の部分を研削した後の厚みが製品の厚みとなるようにするため、表層82を研削する所定深さN1によって基材層81の厚みを変えてなければならない。このため、基材層81の厚みは、表層82を研削する所定深さN1により調整を行う。
【0028】
抄造におけるセメントスラリー層の1層の厚みは、抄造装置10のシリンダ13の数によっても変わるが、100乃至300ミクロン程度であり、表層82となるセメントスラリー層は100乃至300ミクロンとなるように積層するのが好ましい。表層82は、100ミクロンより薄いと、研削時にセメント層の研削によりセメント色が少なくなり、着色濃淡模様感が低下する。表層82は、300ミクロンより厚いとセメント素材感が多くなるとともに研削量が多くなり、研削に時間を要し、原料のロスも多くなる。
【0029】
この実施形態では、着色部90を設ける着色装置としてスプレーガン60を例にしているが、着色部90は、スプレーガン60以外にも、ローラーやフローコーターなどの着色装置を用いて設けることができる。着色部90は、着色部90の原料などに応じて効率の良い方法で行えばよい。
【0030】
このような抄造装置10は、抄造用フェルト11で抄き上げられたセメントスラリー層をメーキングロール15に複数回巻き取り、所定の厚みとなるまで巻き取る。所定の厚みとなったセメントスラリー層は、メーキングロール15に設けられた切断装置によって切断されて平板状に展開され、積層構造の生板70となる。生板70は、下流方向へ送られる。抄造装置10の下流方向には、プレス装置20、切断装置30、養生装置40、研削装置50が備えられている。以下、原料と各工程について説明する。
【0031】
<セメントスラリーの原料>
繊維強化セメント板80は、セメントと骨材と補強繊維と混和材などを配合した原料を用いることができる。原料は、抄造により繊維強化セメント板80を製造することができる原料であれば配合は限定されない。原料の例としては、セメント、けい砂、炭酸カルシウム、パルプ、ポリプロピレン繊維などを用いることができる。
【0032】
<着色部の原料>
着色部90に用いる着色スラリー61の素材としては、抄造する原料と同質のセメント系素材に顔料、染料、水性塗料を混ぜたもの、または顔料、染料、水性塗料或いは油性塗料をそのままで用いることができる。セメント系素材に顔料、染料、水性塗料を混合する場合は、セメントが20乃至50%、顔料など50乃至80%で配合し、この配合物を20乃至40%とし水を60乃至80%で配合して用いる。また、原料は、セメントの一部をけい砂など粒状物を配合したものとしてもよい。この場合、表層82を研削した後に粒状感が残り、平滑面とは異なった素材感を得ることができる。顔料は、ベンガラ、亜鉛華、群青、緑青、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラックを用いることができる。顔料は、単体またはセメントと混合して用いることができる。着色部90のセメントスラリー層への付着を考えた場合には、顔料などは単独ではなく、セメントなどの結合材と配合するのが望ましい。塗料は、基材層81の不燃性を損なわないセラミックやケイ素を主成分とした無機質系塗料を用いることができる。染料は、反応染料、硫化染料、バット染料、酸性染料などを用いることができる。
【0033】
<プレス工程>
プレス装置20は、抄造で製造された生板70を所定のプレス圧でプレスし、層間密着と密充填を変化させる。生板70は、抄造用フェルト11で抄きあげたセメントスラリー層をメーキングロールで複数回巻き取って積層しているので、プレス圧により層間密着と密充填を調整しやすい。プレスは行わなくても良いが、10乃至200kg/cmのプレス圧で行うことが望ましい。プレス圧は、200kg/cmを超えると水分が過剰に除去されて密充填が高くなり、表層82に残るセメントスラリー層の模様の違いが出にくくなる。プレス工程で生板70の水分が除去され、繊維強化セメント板80となる。プレス工程では、抄造時の積層厚の誤差によるバラツキにより繊維強化セメント板80内の層間密着と密充填に違いが生じ、着色部90の状態に違いが生じる。なお、密充填が違う状態は、繊維強化セメント板80の諸物性に影響を及ぼすものではない。
【0034】
<一次養生工程>
一次養生工程では、養生装置40により繊維強化セメント板80にハンドリング強度を付与するための常圧蒸気養生が行われる。一次養生工程では、繊維強化セメント板80に調整などは行われない。
【0035】
<切断工程>
切断工程では、ハンドリング強度が付与された繊維強化セメント板80が切断装置30によって規格寸法に切断される。切断工程は、ハンドリング強度が付与された繊維強化セメント板80を所定サイズの繊維強化セメント板80に切断するのみであり、調整などは行われない。
【0036】
<二次養生工程>
二次養生工程では、切断工程で所定サイズに切断された繊維強化セメント板80が養生装置40で養生される。二次養生工程は、自然養生またはオートクレーブ養生が選択される。二次養生の工程は、繊維強化セメント板80に用いる原料や配合により調整する。例えば、原料に耐熱性のない繊維(例えば、ビニロン)が含まれている場合は自然養生とする。また、原料にセメント、珪砂が配合され、オートクレーブにより反応させる場合にはオートクレーブ養生とする。オートクレーブ養生の場合は、配合する原料によっても異なるが、温度を110℃乃至181℃の間で調整するのが望ましい。温度が110℃よりも低い場合、繊維強化セメント板80としての強度などの物性が低下する。温度181℃よりも高い場合、過養生となり、養生が無駄になる。
【0037】
<研削工程>
研削工程では、繊維強化セメント板80の表面が研削装置50により研削され、繊維強化セメント板80の表面が平面状に仕上げられる(図4(B)の状態)。繊維強化セメント板80の表面を所定深さN1まで研削することで、着色部90による模様を表面に形成することができる。研削は、研削に用いるサンドペーパーの目の粗さの違い、研削する深さにより調整する。研削に使用するサンドペーパーの目の粗さは、#30乃至#120を用いる。#30より粗いと表面の平滑性が低下し、#120より細かいと研削に時間を要し、生産性が低下する。研削する所定深さN1は、表層82の厚みによっても異なるが、プレスを行う場合には、プレス前の表層82の厚みを基準として、プレスによる表層82の厚みの減少分と研削量を合わせた表層82の減少割合が30%乃至80%となるように調整すればよい。プレスを行わない場合は、表層82の研削量が30%乃至80%となるように調整すればよい。なお、研削工程では、例えばベルトサンダーを用いることができる。
【0038】
このような繊維強化セメント板80の製造方法によれば、繊維強化セメント板80の表面に着色部90による濃淡模様を形成することができる。すなわち、繊維強化セメント板80は、セメントと骨材と補強繊維などを原材料(主材)とするセメントスラリーを抄造し、メーキングロール15に積層するにあたり、基材層81を積層後、表層82の内面に着色部90を設けて積層している。そして、繊維強化セメント板80は、表層82側を所定深さまで研削することで着色部90の模様がセメント層から透けて見えるように仕上げることができる。よって、繊維強化セメント板80は、表面に着色部90による濃淡模様を形成され、良好な意匠性および良好な質感を持たせることができる。
【0039】
<着色部を設ける方法例>
図2(A)、(B)は、図1に示す製造設備1において繊維強化セメント板80に着色部90を設ける他の例を示す図面である。上記した図1に示す抄造装置10の場合、メーキングロール15に基材層81を積層し、外周部分に着色部90を設けた表層82を積層する例であり、この場合、図1に示す位置以外に図2(A)及び図2(B)の位置で着色部90を設けることができる。すなわち、この実施形態の抄造装置10はシリンダ13が3台であるため、基材層81を積層後に着色部90を設けた表層82を積層する場合、図1図2(A)、(B)の3箇所で着色部90を設けることができる。着色部90は、破線で示すようにメーキングロール15での積層1周分の長さで設けられる。
【0040】
図2(A)は、最下流のシリンダ13と中間のシリンダ13との間にスプレーガン60を設け、この位置で抄造用フェルト11に抄かれたセメントスラリー層に着色部90を設けている。この場合、スプレーガン60の上流方向に2台のシリンダ13があるため、着色部90の表面側に2層のセメントスラリー層が積層された表層82にできる。
【0041】
図2(B)は、中間のシリンダ13と最上流のシリンダ13との間にスプレーガン60を設け、この位置で抄造用フェルト11に抄かれたセメントスラリー層に着色部90を設けている。この場合、スプレーガン60の上流方向に1台のシリンダ13があるため、着色部90の表面側に1層のセメントスラリー層が積層された表層82にできる。
【0042】
なお、基材層81を積層後、着色部90を設ける場合、平板状の生板70に展開した場合は、表層82が下側となった積層状態で下流方向へ搬送される。この場合、繊維強化セメント板80は、研削工程で表層82を上向きにして研削される。
【0043】
このように、セメントスラリー層に着色部90を設ける位置は、抄造後のシリンダ13からメーキングロール15までの抄造用フェルト11上、または少なくとも1層を抄き上げた後のシリンダ13の間で行う。シリンダ13の間で着色する場合には、メーキングロール15で積層する前に既にセメントスラリー層間に着色部90が定着していることになり、着色部90をセメントスラリー層の間に確実に付着・固化できるという効果がある。
【0044】
<着色部を設ける位置>
着色部90は、基材層81をメーキングロール15へ巻き終わった後ではなく、メーキングロール15への巻き始めに設けることもできる。この場合、着色部90は、表層82となるセメントスラリー層に設け、表層82をメーキングロール15に積層した後、基材層81を積層する。
【0045】
着色部90を巻き始めに設ける場合、表層82側の積層数により、着色部90を設ける位置が変わる。表層82を3層とする場合は、表層82(シリンダ13の3台分・3層)をメーキングロール15で積層する長さを抄き上げた後、基材層(基材層の巻き始めから1周分の長さ)に、図1に示す最下流のシリンダ13よりも下流の位置でスプレーガン60によって着色部90を設ける。これにより、着色部90の表面側に3層が積層された表層82にできる。表層82を2層とする場合は、図2(B)に示す中間のシリンダ13と最上流のシリンダ13との間にスプレーガン60を設け、この位置で着色部90を設けることにより、下流側の2台のシリンダ13によって表面側に2層が積層された表層82にできる。表層82を1層とする場合は、図2(A)に示す最下流のシリンダ13と中間のシリンダ13との間にスプレーガン60を設け、この位置で着色部90を設けることにより、下流側の1台のシリンダ13によって表面側に1層が積層された表層82になる。
【0046】
それぞれの位置での着色部90の設け方は、メーキングロール15までの抄造用フェルト11の移動距離を考慮したうえで、抄造用フェルト11上の積層体(基材層81あるいは表層82)に着色部90を設ければよい。例えば、基材層81を積層した後に着色部90を設けた表層82を積層する場合、基材層81の積層が終わる時点で着色部90の積層が始まるように、上記したいずれかの位置でスプレーガン60によってセメントスラリー層へ着色スラリー61を吹き付ければよい。なお、表層82を積層後、着色部90を設ける場合、平板状の生板70に展開した後は、表層82が上側となった積層状態で下流方向へ搬送される。
【0047】
なお、着色装置がフローコーターの場合は、その装置の仕組み上、セメントスラリー層が抄造用フェルト11の上側となり、かつ抄造用フェルト11が水平となる範囲の間に装置を設けて着色部90を設ける。例えば、図1に二点鎖線で示すフローコーター65(着色装置)は、表層82となるセメントスラリー層に抄造用フェルト11の上側から着色部90を設ける例である。
【0048】
<着色部の例>
図3は、図1に示す抄造装置10で製造した繊維強化セメント板80の断面図であり、(A)は第1例の着色部90を示す断面図、(B)は第2例の着色部91を示す断面図である。図3は、繊維強化セメント板80を構成する各層の厚みや積層数は模式的に記載している。この例では、積層数を簡略化し、基材層81を5層で示し、着色部90,91を設けた表層82を1層で示している。
【0049】
図3(A)は、生板70の一部断面であるが、表層82の内面に設けられる着色部90として所定の厚みの着色スラリー61が吹き付けられた例であり、その表面側はセメントスラリーの表層82となっている。図3(B)は、生板70の一部断面であるが、表層82の内面に設けられる着色部91として塗料を塗った例であり、その表面側はセメントスラリーの表層82となっている。
【0050】
着色部91は、厚みについて限定されるものではない。繊維強化セメント板80の厚みの一例として、表層82は0.3mm(300ミクロン)、基材層81は使用目的等に応じた厚みにできる。
【0051】
<着色部による濃淡模様の原理>
図4は、図3(A)に示す例の繊維強化セメント板80の表面を研削する状態を示す模式図であり、(A)は研削工程前の断面図、(B)は研削工程後の断面図である。図4も、繊維強化セメント板80を構成する各層の厚みや積層数は模式的に記載している。
【0052】
図4(A)に示すように、繊維強化セメント板80は、表層82を研削する前は、繊維強化セメント板80の表面側に着色部90が設けられたセメントスラリーの表層82がある。繊維強化セメント板80は、製品厚さT1であり、表面側を研削する所定深さN1の厚さ分で厚く形成されている。
【0053】
図4(B)に示すように、図4(A)の繊維強化セメント板80は、研削工程において表層82の所定深さN1分が研削される。例えば、繊維強化セメント板80は、プレス前の表層82の厚みを基準として、プレスによる表層の厚みの減少分と研削量を合わせた表層の減少割合が30%乃至80%となるように調整される。これにより、表層82が薄くなり、表層82の内面に設けられている着色部90が表層82の表面側から透けて見えるようになる。また、着色部90の状態によっては、着色部90の一部が表面に現れる。着色部90は、透けて見える部分などが繊維強化セメント板80の表面に濃淡模様として現れる。この濃淡模様は、着色部90状態、表層82を研削する所定深さN1によって変化し、様々な模様として現れる。
【0054】
すなわち、この実施形態によれば、表層82は、着色部90を設けたセメントスラリー層の厚みを100乃至300ミクロンとして、メーキングロール15に積層するが、表層82のセメントスラリー層の厚みを変化させることで、研削時の濃淡模様の現れ方を変化させることができる。表層82を薄くした場合には、研削後の表層82の表面から見える着色部90の割合が高くなり、着色感が強くセメントの素材感が低い仕上げにできる。表層82を厚くした場合には、研削後の表層82の表面から見える着色部90の割合が低くなり、着色感が弱くセメントの素材感が高い仕上げにできる。
【0055】
また、表層82を研削する所定深さN1を異ならせることによっても、濃淡模様の現れ方を変化させることができる。所定深さN1を深くした場合には、研削後の表層82の表面から見える着色部90の割合が高くなり、着色感が強くセメントの素材感が低い仕上げにできる。研削する所定深さN1を浅くした場合には、研削後の表層82の表面から見える着色部90の割合が低くなり、着色感が弱くセメントの素材感が高い仕上げにできる。セメントスラリー層の厚み変化と、研削する所定深さN1の違いを組み合わせれば、多様な濃淡模様とすることができる。
【0056】
また、繊維強化セメント板80を抄造によって製造しているため、抄造の段階で着色部90の状態に差が生じ、繊維強化セメント板80を同様に製造して同様の所定深さN1まで研削したとしても、表面の濃淡模様は異なる模様となる。よって、多くの種類の繊維強化セメント板80を製造することが可能となる。
【0057】
<その他の変形例>
上記した実施形態は一例を示しており、抄造装置10は、抄造用フェルト11の送り方法、スラリー槽12およびシリンダ13の数、各部の構成などを簡略化して一例を示しており、上記した実施形態の構成に限定されるものではない。
【0058】
また、繊維強化セメント板80は、表面側にエンボス模様を施してもよい。この場合、エンボス模様とセメント色と着色部90の濃淡模様とが複合した表面仕上げとすることができる。
【0059】
さらに、上記した実施形態は一例を示しており、本出願の要旨を損なわない範囲での種々の構成を変更してもよく、本出願は上記した実施形態に限定されるものではない。
【実施例0060】
以下に、繊維強化セメント板80の製造方法について実施例を説明する。以下の実施例におけるセメントスラリー14は、セメント33.2%、けい砂41.8%、炭酸カルシウム16.1%、パルプ8.6%、ポリプロピレン繊維0.3%を配合したものである。セメントスラリー14は、抄造用フェルト11によって抄造され、メーキングロール15で基材層81となるセメントスラリー層(厚み6.9mm)を積層した。その後、表層82は、セメントスラリー層(厚み0.3mm)にスプレーガン60で着色部90となる着色スラリー61(配合:セメント7.5%、酸化鉄17.5%、水75%・セメントと顔料の割合は3:7)を吹き付けて基材層81に1層積層した。メーキングロール15から平板状に展開された生板70は、200kg/cmのプレス圧でプレスを行い、厚みを調整したのち、一次養生(60℃;50%)、オートクレーブ養生(155℃)を行い、着色部90を有する積層した繊維強化セメント板80とした。この繊維強化セメント板80は、表面側を#30のベルトサンダーで所定深さ(実施例によって異なる)まで研削して、厚み6mmの繊維強化セメント板80とした。表1に示す実施例は、基材層81の厚みと研削する所定深さN1とを異ならせた実施例1乃至3を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
<実施例の評価>
図5乃至図7は、表1に示す実施例1乃至実施例3の製造方法で製造した繊維強化セメント板80の表面に形成された濃淡模様を示す写真である。図5は、表1に示す実施例1の第1条件で製造した繊維強化セメント板80の表面に形成された濃淡模様を示す写真である。図6は、表1に示す実施例2の第2条件で製造した繊維強化セメント板80の表面に形成された濃淡模様を示す写真である。図7は、表1に示す実施例3の第3条件で製造した繊維強化セメント板80の表面に形成された濃淡模様を示す写真である。図8乃至図9は、表1の実施例と比較するために従来の製造方法で製造した繊維強化セメント板100,110の表面を示す写真である。図8は、従来の繊維強化セメント板100の表面を示す写真である。図9は、図8に示す従来の繊維強化セメント板100の表面に着色部111を直接設けた場合の繊維強化セメント板110の表面を示す写真である。
【0063】
<実施例1の評価>
表1に示す実施例1は、生板70の状態で基材層81の厚みが7.50mmで表層82の厚みが0.3mmの例である。生板70は、プレスして7.8mmの厚みを6.05mmの厚みに調整した。そして、繊維強化セメント板80は、各養生後、表層82を0.05mm研削し、製品厚さT1の厚みを6mmに調整した繊維強化セメント板80とした。実施例1の場合、プレスによって表層82の厚みが0.233mmとなっており、研削後に残る表層82の厚みは0.183mmとなる。実施例1は、プレスによる表層82の厚みの減少分と研削量を合わせた表層82の減少割合は39%となっている。図5に示すように、実施例1で製造した繊維強化セメント板80は、表面を研削することにより、酸化鉄とセメントスラリーの着色部90の黒色部分の中に、表層82のセメントスラリー層のグレー色部分が混ざった濃淡模様となる。すなわち、繊維強化セメント板80の表面を、着色部90の色とセメントスラリー層の表層82のグレー色とが不均一に混ざった濃淡模様とすることができる。
【0064】
<実施例2の評価>
表1に示す実施例2は、生板70の状態で基材層81の厚みが7.60mmで表層82の厚みが0.3mmの例である。生板70は、プレスして7.9mmの厚みを6.10mmの厚みに調整した。そして、繊維強化セメント板80は、各養生後、表層82を0.1mm研削し、製品厚さT1の厚みを6mmに調整した繊維強化セメント板80とした。実施例2の場合、プレスによって表層82の厚みが0.232mmとなっており、研削後に残る表層82の厚みは0.132mmとなる。実施例2は、プレスによる表層82の厚みの減少分と研削量を合わせた表層82の減少割合は56%となっている。図6に示すように、実施例2で製造した繊維強化セメント板80は、表面を研削することにより、酸化鉄とセメントスラリーの着色部90の黒色部分の中に、表層82のセメントスラリー層のグレー色部分が少し混ざった濃淡模様となる。すなわち、繊維強化セメント板80の表面を、着色部90の色とセメントスラリー層の表層82のグレー色とが不均一に混ざった濃淡模様とすることができる。
【0065】
<実施例3の評価>
表1に示す実施例3は、生板70の状態で基材層81の厚みが7.70mmで表層82の厚みが0.3mmの例である。生板70は、プレスして8.00mmの厚みを6.15mmの厚みに調整した。そして、繊維強化セメント板80は、各養生後、表層82を0.15mm研削し、製品厚さT1の厚みを6mmに調整した繊維強化セメント板80とした。実施例3の場合、プレスによって表層82の厚みが0.231mmとなっており、研削後に残る表層82の厚みは0.081mmとなる。実施例3は、プレスによる表層82の厚みの減少分と研削量を合わせた表層82の減少割合は73%となっている。図7に示すように、実施例3で製造した繊維強化セメント板80は、表面を研削することにより、酸化鉄とセメントスラリーの着色部90の黒色部分の中に、表層82のセメントスラリー層のグレー色部分が所々に混ざった濃淡模様となる。すなわち、繊維強化セメント板80の表面を、着色部90の色とセメントスラリーの表層82のグレー色とが不均一に混ざった濃淡模様とすることができる。
【0066】
このように、上記した製造方法で製造される繊維強化セメント板80は、表層82を所定深さN1で研削して表層82の表面から見える着色部90の状態は均一ではない。すなわち、表層82のセメントスラリー層が完全になくなった部分、一部セメントスラリー層が残った部分、セメントスラリー層が残った部分でもセメントスラリー層の残った厚みによって着色部90の見え方が異なるようになる。しかも、異なる条件で同一の板厚の繊維強化セメント板80を製造した場合でも、表層82のセメントスラリー層の部分と着色部90の部分との状態が異なるため、着色部90による模様がランダムに発生して一様ではないため、全ての繊維強化セメント板80において異なるような濃淡模様とすることができる。
【0067】
これは、抄造時の基材層81のセメントスラリー層及び表層82のセメントスラリー層の厚みは完全に均一な厚みではなく、数ミクロン程度の範囲でばらつきがあるため、それぞれのセメントスラリー層内で厚みの異なる部分が不均一に生じる。そして、それに伴い、1枚の繊維強化セメント板80の表面でも着色部90の見え方が異なるためである。すなわち、表層82の厚い部分は着色部90が表に現れにくく、表層82の薄い部分は着色部90が表に現れやすいため、この厚さのばらつきと、セメントスラリー層自体の水分量のばらつきが表面に模様となって現れる。
【0068】
また、表層82の研削量が多いほど、着色部90が多く現れ、黒っぽい濃淡模様となる。よって、研削する所定深さN1を変更することにより、異なる濃淡模様の繊維強化セメント板80を製造することができる。しかも、繊維強化セメント板80は、上記したように抄造による製造時に着色部90の厚さ、圧縮状態、水分状態などの微妙な差を生じている。このため、繊維強化セメント板80は、表層82を同様に研削したとしても微妙に異なる濃淡模様を生じる。よって、繊維強化セメント板80に、着色部90の色とセメントスラリー層のグレー色とが不均一に混ざった濃淡模様のセメント系素材感で良好な意匠性および良好な質感を持たせることが可能となる。
【0069】
<比較例1>
比較例1は、図8に示すように、通常のセメントスラリーのみを抄造して繊維強化セメント板100を製造した。この繊維強化セメント板100は、表面がセメント系のグレー色単体の表面となる。よって、上記した実施例のような良好な意匠性及び良好な質感を得ることができない。
【0070】
<比較例2>
比較例2は、図9に示すように、図8に示す従来の繊維強化セメント板100の抄造時に、表面に着色部111としての着色スラリー(酸化鉄とセメントとを混合したスラリー)を直接吹き付けて繊維強化セメント板110を製造した。この繊維強化セメント板110は、着色部111の表層側にセメントスラリー層は無く、表面も未研削である。比較例2から、繊維強化セメント板110の表面に着色部111のみを設けただけでは、表面が単一色となった繊維強化セメント板110となる。よって、上記した実施例のような良好な意匠性及び良好な質感を得ることができない。
【0071】
<まとめ>
以上のように、上記した繊維強化セメント板80の製造方法によれば、繊維強化セメント板80を塗装などせずにそのまま仕上げ材として用いる場合などでも、表面が単調なグレー色ではなく、着色部90の色とセメントスラリー層のグレー色とが混ざった濃淡模様の表面仕上げとすることができる。よって、良好な意匠性および良好な質感を有する繊維強化セメント板80を製造することが可能となる。
【0072】
しかも、着色部90と表層82との積層度合いや研削する所定深さN1などにより、同じ原料で異なる色合いや濃淡模様の繊維強化セメント板80を造り出すことができる。よって、製造工程における原料のセメントスラリー14を変化させずに複数の品種の繊維強化セメント板80を製造することが可能となり、原料の無駄がなく製造効率の高い繊維強化セメント板80の製造が可能となる。
【符号の説明】
【0073】
1 製造設備
10 抄造装置
11 抄造用フェルト
12 スラリー槽
13 シリンダ
14 セメントスラリー
15 メーキングロール
20 プレス装置
30 切断装置
40 養生装置
50 研削装置
60 スプレーガン(着色装置)
61 着色スラリー
70 生板
80 繊維強化セメント板
81 基材層
82 表層
90 着色部
91 着色部
N1 所定深さ
T1 製品厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9